仙台地方裁判所 平成15年(行ウ)30号 判決 2007年11月13日
主文
1 被告は,補助参加人自由民主党・県民会議に対し,311万4239円の支払を請求せよ。
2 被告は,補助参加人みやぎニューウェーブに対し,75万8176円の支払を請求せよ。
3 被告は,補助参加人自民クラブに対し,86万3915円の支払を請求せよ。
4 被告は,補助参加人民主フォーラムに対し,56万7042円の支払を請求せよ。
5 被告は,補助参加人21世紀クラブ・公明に対し,96万6127円の支払を請求せよ。
6 被告は,補助参加人社会民主党宮城県議会議員会に対し,38万1891円の支払を請求せよ。
7 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
8 訴訟費用は,原告と被告との間に生じたものは,これを10分し,その2を原告の負担とし,その余を被告の負担とし,参加により生じた費用は,原告に生じた費用の15分の2と補助参加人自由民主党・県民会議に生じた費用の5分の4を同補助参加人の負担とし,原告に生じた費用の15分の2と補助参加人みやぎニューウェーブに生じた費用の5分の4を同補助参加人の負担とし,原告に生じた費用の15分の2と補助参加人自民クラブに生じた費用の5分の4を同補助参加人の負担とし,原告に生じた費用の15分の2と補助参加人民主フォーラムに生じた費用の5分の4を同補助参加人の負担とし,原告に生じた費用の15分の2と補助参加人21世紀クラブ・公明に生じた費用の5分の4を同補助参加人の負担とし,原告に生じた費用の15分の2と補助参加人社会民主党宮城県議会議員会に生じた費用の5分の4を同補助参加人の負担とし,その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求める裁判
1 請求の趣旨
(1) 被告は,補助参加人自由民主党・県民会議に対し,366万3810円の支払を請求せよ。
(2) 被告は,補助参加人みやぎニューウェーブに対し,97万2020円の支払を請求せよ。
(3) 被告は,補助参加人自民クラブに対し,109万8050円の支払を請求せよ。
(4) 被告は,補助参加人民主フォーラムに対し,66万5000円の支払を請求せよ。
(5) 被告は,補助参加人21世紀クラブ・公明に対し,113万6620円の支払を請求せよ。
(6) 被告は,補助参加人社会民主党宮城県議会議員会に対し,48万9604円の支払を請求せよ。
(7) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 請求の趣旨に対する答弁
(1) 本案前の答弁
ア 本件訴えを却下する。
イ 訴訟費用は原告の負担とする。
(2) 本案に対する答弁
ア 原告の請求をいずれも棄却する。
イ 訴訟費用は原告の負担とする。
第2事案の概要
1 本件は,宮城県(以下「県」ということがある。)の住民により構成される権利能力なき社団である原告が,県議会内の会派である各補助参加人の平成15年4月の政務調査費のうち調査研究費の支出に,県の条例等に規定される使途基準等に反する違法な支出が含まれているとして,被告に対し,地方自治法(以下「法」という。) 242条の2第1項4号本文に基づき,各補助参加人に返還請求をすることを求めた事案である。
2 争いのない事実等(証拠等を掲げたもののほかは,当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告は,地方行財政の不正を監視,是正すること等を目的として結成された権利能力なき社団であり,地方公共団体である県の住民により構成されているものである(弁論の全趣旨)。
イ 各補助参加人は,県議会(以下「議会」ということがある。)内で同一の行動をとるために県議会議員(以下「議員」ということがある。)によって構成される会派である。
ウ 被告は,宮城県知事である。
(2) 関係法令等の定め
ア 法100条
13項
普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができる。この場合において,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならない。
14項
前項の政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。
イ 宮城県議会における政務調査費の交付に関する条例(平成13年宮城県条例第3号。ただし,平成16年宮城県条例第38号(以下「改正後条例」という。)による改正前のもの。以下,改正後条例による改正前のものを「本件条例」という。甲1)は,法100条13項及び14項を受けて,以下のとおり規定する。
1条(趣旨)
この条例は,地方自治法第100条第12項及び 第13項(平成14年法律第4号による改正により1項ずつ繰り下げられる前の100条13項,14項)の規定に基づき,宮城県議会議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,宮城県議会における会派に対し,政務調査費を交付することに関し必要な事項を定めるものとする。
2条(政務調査費の交付対象)
政務調査費は,議会の会派(所属議員が一人の場合を含む。)に対し交付する。
3条(政務調査費の額等)
1項,2項
政務調査費は,月額35万円に当該会派の所属議員の数(月の初日における各会派の所属議員数による。)を乗じて得た額を会派に対し交付する。
6条(政務調査費の交付決定)
知事は,議長から会派結成届等の通知(5条)があった会派について,速やかに政務調査費の交付の決定を行い,会派の代表者に通知しなければならない。
7条(政務調査費の請求及び交付)
1項
会派の代表者は,前条の規定による通知を受けた後,上半期分については4月20日,下半期分については10月5日までに,別に定める様式により当該半期に属する月数分の政務調査費を請求するものとする。ただし,各半期の途中において議員の任期が満了する場合には,任期満了日が属する月までの月数分を請求するものとする。
3項
知事は,第1項の請求があったときは,速やかに政務調査費を交付するものとする。
8条(政務調査費の使途)
会派は,政務調査費を別に定める使途基準に従い,使用しなければならない。
9条(収支報告書)
1項
会派の代表者は,政務調査費に係る収入及び支出について,次に掲げる事項を記載した収支報告書を,年度終了日の翌日から起算して30日以内に議長に提出しなければならない。
1号 会派の名称
2号 当該年度に交付を受けた政務調査費の総額
3号 前条の規定による使途基準の項目毎の支出額及びその主な内訳
4号 前号の支出額の合計額
5号 2号の額から前号の額を控除して得られる残余の額
3項
収支報告書の提出は,政務調査の主な実績を記載した実績報告書を添えてしなければならない。
10条(議長の調査)
議長は,政務調査費の適正な運用を期すため,前条の規定により収支報告書が提出されたときは,必要に応じ調査を行うものとする。
11条(政務調査費の返還)
知事は,別に定めるところにより,会派がその年度において交付を受けた政務調査費の総額から,当該会派がその年度において行った政務調査費による支出(8条に規定する使途基準に従って行った支出をいう。)の総額を控除して残余がある場合,当該残余の額に相当する額の政務調査費の返還を命ずることができる。
12条
9条の規定により提出された収支報告書及び実績報告書(以下「収支報告書等」という。)は,これを受理した議長において,収支報告書を提出すべき期間の末日の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならず,県内に住所を有する者及び県内に事務所又は事業所を有する個人又は法人は,収支報告書等の閲覧を請求することができる。
ウ 県議会における政務調査費の交付に関する条例施行規程(平成13年宮城県議会訓令甲第7号。ただし,平成16年県議会訓令甲第3号(以下「改正後規程」という。)による改正前のもの。以下,改正後規程による改正前のものを「本件規程」という。甲2)
5条(政務調査費の使途基準)
本件条例8条の使途基準は,別表のとおりである。
(別表)
調査研究費 会派が行う県の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査委託に要する経費(調査委託費,交通費,宿泊費等)
以下省略
8条(証拠書類等の整理保管)
会派の政務調査費経理責任者は,政務調査費の支出について,会計帳簿を調製し,その内訳を明確にするとともに,証拠書類等を整理保管し,これらの書類を当該政務調査費の収支報告書の提出期間の末日の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならない。
エ なお,本件条例及び本件規程は,平成16年3月23日,全面改正され,同年4月1日から改正後条例及び改正後規程が施行された(乙8,弁論の全趣旨)。
改正後条例及び改正後規程においては,領収書その他の証拠書類の写しを収支報告書に添付することを義務づけ,また,政務調査費の交付対象を会派又は会派に所属しない議員(無会派議員)とするなどの改正がなされた(乙7,8,弁論の全趣旨)。
(3) 被告は,平成15年4月,各補助参加人に対し,同月分(1か月分)の政務調査費(以下「本件政務調査費」という。)として,次の金額を交付した。
ア 補助参加人自由民主党・県民会議 910万円
イ 補助参加人みやぎニューウェーブ 280万円
ウ 補助参加人自民クラブ 280万円
エ 補助参加人民主フォーラム 175万円
オ 補助参加人21世紀クラブ・公明 210万円
カ 補助参加人社会民主党宮城県議会議員会 175万円
(甲5の1・2,6の2,7の2,8の2,9の1・2,10の1・2)
(4) 各補助参加人は,本件政務調査費のうち,次の金額を同月分の調査研究費(以下「本件調査研究費」といい,本件調査研究費に係る調査研究を「本件調査研究」という。)として支出した。
ア 補助参加人自由民主党・県民会議 366万3810円
イ 補助参加人みやぎニューウェーブ 97万2020円
ウ 補助参加人自民クラブ 109万8050円
エ 補助参加人民主フォーラム 66万5000円
オ 補助参加人21世紀クラブ・公明 113万6620円
カ 補助参加人社会民主党宮城県議会議員会 48万9604円
(甲5ないし10の各1ないし3)
(5) 原告は,同年8月25日,県監査委員に対し,本件政務調査費の支出のうち本件調査研究費等の支出費目の支出の一部が違法,不当であるとして,監査請求をした(以下「本件監査請求」という。)ところ,県監査委員は,同年10月17日,監査の対象とすべき支出を特定認識できるように個別的,具体的に摘示していないだけでなく,どの支出が違法又は不当であるのかを明らかにしていないとして,本件監査請求を却下した(甲11,12)。
(6) 原告は,同年11月18日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。
3 争点
(1) 本件訴えの適法性
ア 本件監査請求の対象の特定の有無
イ 本件訴えの対象が,法242条の2第1項4号が規定する「怠る事実」に当たるか。
(2) 各補助参加人による本件調査研究費の支出が違法であるか。
(3) 被告が,各補助参加人に対して不当利得返還請求権の行使を怠っていることが違法か。
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)ア(本件監査請求の対象の特定の有無)について
ア 原告の主張
(ア) 地方公共団体の情報は十分に公開されていないため,住民にとって地方公共団体の活動,政策の詳細を知ることは非常に困難な状況であり,このような状況の下で,個々の財務会計上の行為の特定を求めることは,住民に住民監査請求を断念させることになる。他方,監査委員は監査の過程において,与えられた権限を行使して資料の提出を受けることにより,監査の対象を容易に特定し得るのであるから,住民監査請求制度の機能を実効性あるものとするためには,行為の時期,内容,態様,目的,金額,行為者等の事実のうちのいくつかによって対象事項が他の事項から区別して特定認識しうる程度に摘示されていれば足り,必ずしも当該行為の一つ一つについて全てが摘示されていなくとも,監査請求の対象事項の特定としては十分である。
(イ) 本件監査請求は,被告が各補助参加人に対し,本件政務調査費から必要経費として支出した額を控除した残額の返還を求めないという不作為を違法として,被告に対し,各補助参加人に対する不当利得返還請求をすることを求めるものであるから,本件監査請求の対象は,法242条1項所定の事項のうち,「違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」である。そうだとすると,監査対象の特定としては,当該怠る事実が他の怠る事実と区別して特定認識できれば足りる。
これを本件に照らしてみれば,まず,県における政務調査費は,その細目的な使途ごとに交付額を定めるようなことはせず,各会派に対し,不可分一体のものとして交付されており,本件政務調査費のうち,被告が返還請求を怠っている部分を特定すべき指標は存在しないから,結局,怠る事実の特定としては,原告が本件監査請求で特定した,各補助参加人の平成15年4月分の政務調査費(本件政務調査費)の支出のうち,調査研究費等の支出費目全部という程度のもので必要かつ十分であり,これ以上の特定は論理的に不可能である。
しかも,原告は,本件監査請求の時点において,上記怠る事実に係る違法事由を他の違法事由から区別して特定すべく,具体的に,平成15年4月は統一選挙が実施された月であり,現職で立候補した議員は少なくとも月の半分は選挙活動に専念したはずで,調査・研究は選挙のなかった年の24分の1程度であってしかるべきであると述べた上で,選挙のなかった平成14年度の支出状況と比較検討した資料を提出している。
(ウ) よって,原告が行った本件監査請求の対象の特定に欠けるところはない。
イ 被告,補助参加人21世紀クラブ・公明,補助参加人自民クラブ,補助参加人みやぎニューウェーブ,補助参加人社会民主党宮城県議会議員会の主張
(ア) 本件は住民訴訟であるから事前に適法な監査請求を経ていなければならないところ,本件監査請求は,本件政務調査費の支出のうち本件調査研究費等の支出費目の支出が平成14年度分の4.2パーセント程度であるべきだとして,費目ごとに「4.2パーセントを超えているので支出の中に違法・不当な支出が含まれている」又は「4.2パーセントを超える分は違法・不当な支出である」等として各補助参加人の本件政務調査費のうち本件調査研究費等の支出費目の支出全部の監査を求めるというもので,違法又は不当と主張する財務会計上の行為を他の事項から区別して特定認識できるように個別的,具体的に摘示されておらず,その対象が抽象的,包括的又は網羅的であり,監査請求の対象の特定を欠き不適法である。
(イ)a 原告の本件監査請求及び本件訴訟における従前の主張は,一貫して「違法不当な公金の支出による損害賠償請求権」の行使を求めるというものであり,平成17年11月21日付け準備書面において初めて「怠る事実に係る相手方に対する不当利得返還請求権」の行使を求めるという主張を行ったのであり,かかる新たな主張は,時機に後れているから却下されるべきである。
b 仮に原告の主張が時機に後れた主張に当たらないとしても,原告が問題としているのは,違法な公金の支出に基づいて発生する不当利得返還請求権の行使を怠る事実(いわゆる不真正怠る事実)に関するものである。本件監査請求の対象が「違法な公金の支出」であれば,その支出の特定が必要であるのと同様に,その違法な公金の支出に基づき発生する請求権の行使を「怠る事実」を監査請求の対象とする場合でも,やはり違法な公金の支出の特定が必要となる。
(2) 争点(1)イ(本件訴えの対象が,法242条の2第1項4号が規定する「怠る事実」に当たるか。)について
ア 原告の主張
本件訴えは,原告が,被告に対し,怠る事実に係る相手方である各補助参加人に対して被告が有する不当利得返還請求の行使を怠っているので,その請求権を行使すべきことを求めているのであるから,本件訴えの対象は,法242条の2第1項4号が規定する「怠る事実」に当たる。
イ 被告の主張
公金の支出や契約の締結が違法無効であるときに,法242条の2第1項4号に基づき,相手方に対する不当利得返還請求権の行使を求める場合,公金の支出等の財務会計行為が違法,無効であることによって発生する不当利得返還請求権の行使という構成と,その財務会計行為によって発生する不当利得返還請求権の不行使状態を「財産の管理を怠る事実」ととらえる構成が可能であるところ,上記怠る事実の構成は,あくまでも財務会計行為によるものに限定されなければならない。
しかしながら,原告が主張する怠る事実に関する請求権の発生原因は,各補助参加人の所属議員による政務調査費の支出が違法であるというものであるところ,議員は財務会計上の権限を有する者ではないから,原告の主張する上記請求権は,財務会計行為によるものではない。
そうすると,原告の請求は,法が定める住民訴訟の類型に該当せず,不適法である。
(3) 争点(2)(各補助参加人による本件調査研究費の支出が違法であるか。)について
ア 原告の主張
(ア) 違法事由1
a 宮城県議会において,会計帳簿や証拠書類等は会派において保管することとなっており,原告が情報公開条例によってこれらの資料を入手することはできないことに照らすと,原告が,政務調査費が本件条例の定める使途基準に反して支出されたなどの事実を推認させる一般的,外形的な事実を主張立証した場合には,被告は,その推認を妨げるべく,本件条例の定める使途に政務調査費が使用されたことを具体的に明らかにする必要があり,具体的には,①当該議員が調査研究活動に資するために必要な費用として支出したことに関する資料を提出すること,②当該議員が調査研究活動に資するために必要な費用として支出したことを裏付ける具体的な説明を行うこと,③金額や使途等から見て資料の提出やこれを補足する説明を行うまでもなく調査研究費であろうと社会通念上推認されると主張するのであればその根拠を合理的に説明することが必要である。
各補助参加人の代表者は,平成15年4月の県議会議員選挙(以下「本件選挙」という。)期間中の政務調査費の使途を合理的に説明できていない。
また,同月は,本件選挙が実施されたことから,現職で立候補した議員は,少なくとも月の半分は政務調査費の支出が禁止されている選挙活動に専念したはずであるし,無投票当選の議員も,政党の一員としての政党活動や他の候補者の応援等の選挙活動に従事したはずである。選挙後も,同月中は選挙の後始末や市町村長選や市町村議選の応援などに追われ,本件調査研究費を使った調査研究を行う環境になかったことは明らかである。ところが,議員は本件選挙期間中は選挙活動に専念しているにもかかわらず,選挙のない年と同様の金額が政務調査費として支出されている。
原告は,上記のように政務調査費が本件条例の定める使途基準に反して支出されたなどの事実を推認させる一般的,外形的な事実を主張立証したにもかかわらず,各補助参加人は,以下のように,原告の資料提出要請や求釈明に対する回答を拒否し,裁判所の求釈明にも答えず,上記内容のなすべき主張立証をしていない以上,調査研究を行ったかどうかすら不明であるから,調査研究費の支出は全て違法と言うほかない。
b 補助参加人みやぎニューウェーブ
補助参加人みやぎニューウェーブは,全ての資料を提出することが可能であり,説明も可能であるにもかかわらず,丙A6及び7のみを提出した。
また,証人A(以下「A議員」という。)は,平成15年4月に自らが計上した調査研究費は丙4のみであると弁解しつつ,その余の議員のものについては提出する必要すらないと言い切っているが不自然な態度である。さらに,A議員は,丙A6及び7について尋ねられても,会計責任者であるB議員に面談する機会があったにもかかわらず,信頼関係を理由にその内容を確認せずに証人尋問に臨んだと証言し,しかも,平成15年4月の政務調査のテーマを記憶していなかった。
c 補助参加人自由民主党・県民会議
議員から会派に出されているのは政務調査費月別支出状況報告書1通(丙B1)であるから,実際に調査研究を行ったかどうかすら不明である。
d 補助参加人民主フォーラム
選挙期間が9日間あった平成15年4月の調査研究費は66万5000円,議員一人当たり13万3000円であったが,選挙のなかった平成16年4月の調査研究費は97万1750円,議員一人当たり13万8821円であり,調査研究費がほとんど変わらないのは不自然であるのに,この点について,補助参加人民主フォーラムは説得的な反証ができていないことに照らせば,選挙期間9日分の調査研究費は,本来の調査研究費とは異なった目的のために支出されていた可能性が高いといわざるを得ない。
e 補助参加人自民クラブ
補助参加人自民クラブは,原告の資料提出要請や求釈明を拒否し,裁判所に対する求釈明に対してもきちんと答えていない。
証人C(以下「C議員」という。)の尋問期日の直前に丙D1ないし7の資料を提出してきたが,これを見ても,各議員の行った調査研究について,それが何を目的にして行われ,各議員が誰と会い,どのような話をし,何を得てきたのか,それが県政にどのように反映されたのかを窺い知ることはできない。
また,C議員は,他の議員がどのような目的で,誰とどのくらいの時間会い,どのような話をし,何を得てきたのかという基本的な質問をされても,ほとんど証言することができなかった。
以上のことから,平成15年4月に実施された調査研究の詳細が不明であり,そもそも丙D1ないし7に記載された調査研究が実施されたのかさえ不明である。
f 補助参加人21世紀クラブ・公明
補助参加人21世紀クラブ・公明は,平成15年4月の調査活動について,D議員(以下「D議員」という。)の陳述書(丙E1)を提出しただけであり,その内容も,6人の所属議員のうち,D議員とE議員(以下「E議員」という。)の調査記録が記載されただけのものである。補助参加人21世紀クラブ・公明の報告書には,具体的な調査内容のみならず,移動距離や支出金額さえも記載されていないことから,補助参加人21世紀クラブ・公明としては,報告書を提出するだけでなく,個々の支出が政務調査活動に資するために必要な支出であったかを説明するべきであるが,D議員は,各議員が会派に提出した報告書の内容を,公にする必要のない文書であることを理由に明らかにせず,また,他の議員との信頼関係を理由に詳細について調査せず,証言しなかった。
(イ) 違法事由2
a 会派とは議員内に形成された議員の同士的集合体であり,議員は地方公共団体の議会の構成員であって,両者は別概念であるところ,本件条例は,政務調査費の交付対象を会派としているのであるから,調査・研究の主体は会派でなければならない。そして,会派が調査・研究を行ったと言えるためには,①当該調査と県政との関連性及び必要性について,会派として意思統一が図られ,調査・研究を担当する議員に対し,会派から指示が出されること,②調査・研究を担当した議員が会派に宛てて報告書を提出すること,③会派別に,分野別に報告書をまとめたファイルを備え置き,調査・研究によって得られた情報を内部蓄積して,会派内の同僚議員がそれを閲覧して活用でき,①の事前審査にも役立てられるような仕組みが作られていること,④調査・研究の結果が,会派としてのその後の活動に役立てられたことが必要である。
しかし,本件では,各補助参加人とも,以下のとおり,上記要件の全てを欠如している以上,全ての調査研究が会派としての調査研究に該当しないことは明らかであるから,調査研究費の支出は違法である。
b 補助参加人みやぎニューウェーブ
引退議員は,盛大に調査研究費を計上しているが,補助参加人みやぎニューウェーブは,選挙後に解散して別会派に分かれているばかりか,引退議員から調査結果を文書等できちんと引き継いだ者は誰もいなかった。
また,補助参加人みやぎニューウェーブにおいては,具体的な調査のテーマはほとんど議員各自に一任しており,会派がこれをコントロールして責任を持つ体制にはなかった。
c 補助参加人自由民主党・県民会議
会派としての意思統一の場がなく,会派から議員に対する指示が出されないまま,議員の意思イコール会派の意思という前提で,議員個人の判断により調査研究が行われており,しかも,それが会派内で共有されて次の調査に生かされることはなく,会派としての調査研究とはかけ離れた実態になっている。
d 補助参加人民主フォーラム
補助参加人民主フォーラムにおいては,政務調査の具体的なテーマは個々の議員の判断に委ねられており,各議員が提出する調査研究報告書には調査研究の全てを記載することになっておらず,議員総会においても調査研究の全てについて報告・意見交換を行っているわけでもなく,調査研究費の支出についても信頼関係を理由にほとんどチェックがなされていないのが実情であり,判断主体(議員)と責任主体(会派)が完全に分離している。
e 補助参加人自民クラブ
(a) 補助参加人自民クラブにおける調査研究活動についての多くは各自の自主的な判断のもとに行われており,当該調査と県政との関連性及び必要性について,会派として意思統一が図られ,会派から議員に対して指示が出されていたとは到底言えない。
(b) 各議員から会派代表者に提出される報告書は存在しない。「調査研究費の詳細記入用紙」等(丙D1ないし7)があるが,その内容を見ても,当該議員がどのような必要があって当該政務調査を行ったのか,誰とどこで会い,どのような話をし,何を得てきたのかを会派に所属する他の議員が読み取ることは不可能である。
(c) 当時大きな政治的課題となっていた郵政事業についてさえ,会派所属の他の議員がどのような調査研究をしているのかについて関心を持たず,各議員がバラバラに調査研究を行っていること,複数の議員が相互の役割分担もなくスポーツに関する調査研究を行っていること,平成15年4月の選挙で落選したF議員(以下「F議員」という。)からの調査研究の内容及び成果の引継ぎがないこと,2人の議員が同日に同じ調査を行っていることから,各議員が調査研究活動によってどのような成果を挙げたのかについて,会派所属議員間での情報共有が行われていないことが明らかであり,調査研究が会派としてのその後の活動に役立てられたとは言えない。
f 補助参加人21世紀クラブ・公明
補助参加人21世紀クラブ・公明では,会派としての抽象的主要テーマを決めるだけであり,各議員が調査をする具体的テーマは各議員の判断で決めていること,調査の成果を報告文書や議事録等の記録に残していないこと,引退議員が調査した内容の引継ぎはないこと,報告書には移動距離,支出金額を記載する欄はなく,各議員の合計額しか把握できないため,事後的なチェックを予定していないといえることから,判断主体と責任主体が分離しており,会派としての調査研究とはいえないことは明らかである。
g 補助参加人社会民主党宮城県議会議員会
補助参加人社会民主党宮城県議会議員会においては,事前に具体的にどのような政務調査をどのような手順で行うかについて,会派としての議論も意思決定もなく,各議員が調査した内容が報告書の形で提出されて会派として情報が共有されることもなく,会派として,調査内容について議論してその結果を議事録に残すこともせず,調査内容を踏まえた政策形成についての議論をしていないため,各議員の調査が,会派としての政策形成に結びついていない。
(ウ) 違法事由3
a 政務調査費は,議員の調査研究に資するために交付されるものであり,調査研究は会派が行う県の事務及び地方行財政に関するものに限定される。上記趣旨からすれば,調査研究費の支出が適法と言えるためには,①なぜそこに調査に行く必要があると判断したのかの判断過程を合理的に説明できること,②調査を担当した議員において,調査研究報告書を速やかに作成し提出するか,そうでない場合には調査内容及び経費の内訳を説明できること,③調査研究の実施事実,具体的内容,個別の経費を裏付ける資料を提出できること,④調査結果を県政に活用した事実を具体的に提示できることという要件を充たすことが必要であるが,各補助参加人の政務調査費の支出は,以下のとおり,上記要件を充たさず違法である。
b 補助参加人みやぎニューウェーブ
議員が日常的に自分の選挙区内の支援者等を訪ね歩く,いわゆるご用聞き等は,議員活動そのものであるところ,丙A6及び7記載の内容は,議員活動と区別することができない。
例えば,丙A6の平成15年4月2日の欄の「市町村合併問題現状調査」は,役場に挨拶回りをしたものと思われるし,同月11日の欄の「保育施設現状調査」は保育園の入園式の来賓として招かれたものと思われる。
c 補助参加人自由民主党・県民会議
(a) 各議員が丙B1に記載したとおりの調査・研究を行ったとしても,その内容は議員活動そのものである。
(b) G議員(以下「G議員」という。)の平成15年4月16日における高等職業訓練校への出席については,白石市建設職員組合職業訓練協会の役員として入学式に出席したものにほかならず,入学者数等の把握及び県連の代表者や役員との意見交換等は,式典に参加した付随的効果に過ぎないこと,県政に関連する問題点は何か,会派がその問題点についてどのような方針で調査・研究中であったのか,その問題点の解明にとって調査研究がいかなる意味で必要であるのかについての説明がないことから,県政との関連性,必要性のない違法な調査研究であることは明らかである。
(c) G議員の同月25日におけるエコーライン開通式への出席については,式典への参加が主たる目的であり,道路被害の確認,関係者との意見交換は式典の参加に付随する結果であり,県政との関連性,必要性のない調査である。
(d) G議員の同月18日及び同月28日における会派総会への出席については,民意や県内・議会内の現状といった抽象的な命題について理解を深めることを調査・研究とは言わないこと,調査結果を共有するための打合せが行われた事実はないことから,調査研究には該当せず,違法な支出である。
(e) 補助参加人自由民主党・県民会議には,調査研究を担当した議員が会派に宛てて報告書を提出することや調査研究によって得られた情報を内部蓄積し,会派内の同僚議員がそれを閲覧して活用できるシステムは存在しないから,3名の引退議員の調査研究については,会派のその後の活動に反映する余地はなく,違法な調査研究である。
d 補助参加人民主フォーラム
(a) 補助参加人民主フォーラムの調査研究書には,個々の調査における個別テーマを記載することにはなっておらず,また,調査研究の全てを報告書に記載することになっていないことから,調査研究の具体的内容及び成果を説明することができていない。
(b) 各議員は,以下のとおり,県政との関連性が認められないものにまで政務調査費を支出している。
H議員(以下「H議員」という。)の平成15年4月13日における気仙沼日曜朝市の調査及び気仙沼2000桜の会植樹事業は,いずれも気仙沼市政に関連するものである。
I議員と思われる議員は,自己の選挙区である仙台市b区における地元の課題を調査している。
J議員も,自己の選挙区である仙台市c区固有の問題を調査している。
K議員と思われる議員も,自己の選挙区である仙台市a区固有の問題を調査している。
(c) 議員報酬と政務調査費は明確に区別されなければならず,そのためには議員としての日常的一般的な活動と政務調査活動は明確に区別されなければならないが,補助参加人民主フォーラムにおいては,両者の区別は全くなされていない。
e 補助参加人自民クラブ
(a) 単なるご用聞きや陳情の挨拶回り等が「調査」と銘打たれているだけである。
例えば,平成15年4月8日の県立高校入学状況調査及び同月9日の町立中学校入学状況調査というのは,入学式に来賓として招かれただけであると思われるし,同月21日の戦没者追悼実態調査というのは地元での追悼式に招かれただけであると思われる。
(b) F議員が平成15年4月に行った調査研究に関する資料は一切提出されていないこと,同議員は平成15年4月の選挙で落選したにもかかわらず,政務調査の内容及び具体的な成果の引継ぎは全くなされていないことから,同議員の調査研究に関する支出は,前記aの全ての要件を充たさず違法である。
(c) L議員(以下「L議員」という。)が同月25日及び同月28日に行ったとされる会派における政策研究会について,同議員以外の6人の議員は調査研究活動として申告していないことから,上記研究会なるものは開催されなかったことが強く推認されるが,補助参加人自民クラブから上記研究会が開催されたことを示す具体的な資料は提出されていない。したがって,上記研究会は開催されなかったと認めるべきであり,これに対する調査研究費の支出は空支出であって,違法であることは明らかである。
(d) M議員(以下「M議員」という。)は,同月16日に,ボールパーク構想推進協議会調査,生涯スポーツに関する実態調査として2万0400円の支給を受けている。この金額の支払を受けるためには,1日の行程距離が180キロメートル以上であることを要するが,同じb区内を1日に180キロメートル以上も移動しなければならなかった理由は不明である上,証人のC議員によっても何ら説明がなされていない。したがって,上記調査に県政との関連性及び必要性があったとは言えず,上記支出は違法である。
f 補助参加人21世紀クラブ・公明
(a) D議員の調査は,テーマに沿った調査活動というよりは,議員に対する相談を契機になされたものに過ぎず,また,調査結果が県政に生かされたことは明らかではないから,県政との関連性,必要性の要件は充たされていない。
(b) E議員は,c区の社会教育の現状調査を平成15年4月5日及び同月14日に,c区の幹線道路網の整備に関する調査を同月10日及び同月29日に行っているが,短期間に2度の調査を行う合理的理由が明らかでない上,D議員は,その内容を把握しておらず,県政に活用した事実を提示できていないことから,県政との必要性・関連性には疑問を持たざるを得ない。このことは,他の議員についても同様と考えられる。
g 補助参加人社会民主党宮城県議会議員会
(a) N議員(以下「N議員」という。)は,議員として選挙区の有権者から陳情を受けるという活動そのものが政務調査活動に当たるという認識を有しており,実際,平成15年4月14日のスポーツ振興や同月3日の交通安全対策についての調査では,上記認識のとおりに政務調査費が支出されているが,住民・団体から要望・陳情を受けることは議員としての活動そのものであって,それは政務調査に当たらず,議員としての活動のために政務調査費を支出することは違法である。
(b) 平成16年度において,O議員(以下「O議員」という。),P議員(以下「P議員」という。)を含む補助参加人社会民主党宮城県議会議員会の議員は,政務調査費を違法に支出しており,このことから,平成15年4月においても違法な政務調査費の支出が多数含まれていると推認すべきである。
(エ) 違法事由4
a 政務調査費は,地方議会の議員の調査研究に資するため必要な経費でなければならないのであるから,その支出額は実費のみ認められるのが原則である。
各補助参加人は,県内旅費の支出に当たって,県議会議員の報酬等に関する条例(以下「報酬等条例」という。)6条5項別表3(以下「別表3」という。)を準用しているが,仮に事務処理手続上の煩という観点から,一定の定額支給が認められるとしても,別表3の規定は,自家用自動車を使用した場合の実費37円(同条例別表1の1参照)と比較して,平均して5倍も上乗せされており,これを基準として県内旅費を支出することは著しく不合理であって,議会・議員の裁量権の範囲を大きく逸脱している。
b 調査研究費の大部分は県内旅費であるところ,政務調査活動で自動車を使う際の費用は,純粋に実費としての交通費(ガソリン代,有料道路通行料,駐車料等)として考えるべきであり,その他自動車の維持管理に要する費用,日当,旅行雑費として支出することは許されないが,別表3には,交通費だけでなく,日当,宿泊料も含まれていることが明らかである。
c 補助参加人みやぎニューウェーブ
全ての支出について,計上額は実費から大きく水増しされている。
例えば,A議員が実施したe駅前の調査では,自宅から往復でも34キロメートルであり,この調査では駐車場や高速道路代は発生していないから,ガソリン代にすれば約500円程度のものであり,報酬等条例の1キロメートル37円を基準にしても1258円であるにもかかわらず,1万0800円もの金額が計上されている。
d 補助参加人民主フォーラム
甲48は,平成16年4月と平成17年4月の調査研究費の内訳と移動距離をまとめた表であるが,これによると,調査研究費の計上額は,報酬等条例で定める1キロ当たり37円の実に3.4ないし5.46倍となっており,このことは平成15年4月においても同様であり,ほとんどが旅費交通費である調査研究費の計上額が,実費から大幅に水増しされていることが明らかである。
e 補助参加人自民クラブ
補助参加人自民クラブは,別表3には区分がない,移動距離が25キロメートル未満という区分を設け,日額5400円としていたこと,1日に2か所回ったときは,半額の2700円ずつ計上していたと主張するが,実費より遙かに高い額の支給を受けていたことには何ら変わりはなく,支出が違法であることは明らかである。
f 補助参加人21世紀クラブ・公明
ガソリン代,オイル代等の実費を上回る費用が,その使途も明らかにできない状況で計上されており,支出が違法であることは明らかである。
g 補助参加人社会民主党宮城県議会議員会
自家用車で出張した場合,報酬等条例では1キロ当たり37円であるが,平成16年4月の政務調査費は,報酬等条例で計算した場合の5.4倍で,10万8043円も多く,平成17年4月の政務調査費は,5.8倍で,10万4429円も多く支給されていたことから,平成15年4月も,報酬等条例で計算するよりも10万円以上多く支給されており,実際にかかるガソリン代,オイル交換代,高速料金,駐車場代の合計額より多い交通費を支給されていたことは間違いない。そして,実費を超える金額の使途について説明はなされていないが,おそらく議員としての活動費に流用されている。
h 以上のように,各補助参加人は,交通費としての実費以上の多額の政務調査費の交付を受けており,実費と交付額との差額分が他の政務調査に支出された証拠もないことからすると,差額分は違法な支出である。
イ 被告の主張
政務調査活動を行う場合における旅費の算定方法については,各会派の意見交換を経て議会内の申合せとして,基本的には別表3を準用することとし,これにより算定した。この各会派の意見交換と議会内の申合せという方法は,実質的には各会派の総意により決められたものであるが,このような申合せについて,議会と独立対等の関係にある知事は,著しく合理性を欠く等の事由が見出せない限り,上記申合せを尊重し,これに従って処理をしても,違法となる余地はない。
そして,政務調査費の算出方法に関し,実額方式と定額方式のどちらを採用するかについては,議会の裁量判断に委ねられているというべきであるから,別表3を準用する方法による政務調査費の算出方法が,著しく合理性を欠くとは到底言えず,違法・無効と言えないことは明らかである。
ウ 補助参加人自由民主党・県民会議の主張
(ア) 補助参加人自由民主党・県民会議は,本件条例9条1項に基づき収支報告書を提出しているが,各議員から提出される月別収支状況の段階で,不適切な支出や誤解を招きかねない支出を認めていないから,政務調査費の支出の合理性は十分に担保されているというべきである。したがって,原告の主張によっても,補助参加人自由民主党・県民会議が違法に政務調査費を使用していることの一般的・外形的事実の立証すらできていないことは明白である。
(イ) 平成15年4月当時,補助参加人自由民主党・県民会議に所属していた県議会議員の総数は26名であり,そのうち選挙に立候補しなかった議員は3名,無投票で当選した議員は6名,立候補して選挙を行った議員は17名であった。
選挙があっても,選挙期間以外の20日間は政務調査活動を行うことが可能であったし,選挙期間中であっても,物理的制約はあるものの,政務調査活動を行うことは可能であった。また,無投票当選議員及び立候補しなかった議員は,同月の全て又はほとんどの期間,政務調査が可能であった。
(ウ) 政務調査費は,議会の構成員である各議員の不断の調査研究や研さんが要求されているために支給されているものであるから,調査研究の主体はあくまでも議員個人であって,会派ではない。
(エ) 政務調査活動は,地域住民の意思や意向の調査を行って問題点を抽出し,住民の意思を政策に反映させるために必要な各種の調査を行って,これを政策へ反映させるというものであるが,住民の意思を政策に反映させるという地方自治の本旨から言えば,地域住民の意思・意向の調査(公聴活動)が最も重要である。
地方議会の権能は広範に渡り,これを適正に行使するための各議員の調査研究活動も多岐に渡るものであり,さらに,法は執行機関等の干渉を排除し,議会にその権能を十分に行使させるべく自律権を認めている趣旨からすれば,その調査対象の選定や調査方法,内容については,議員としての調査研究の範囲を逸脱しない限り,議員の裁量に委ねられており,裁量の範囲を逸脱又は濫用したといった特段の事情がない限り,政務調査費の使用は適法というべきである。
(オ) G議員の平成15年4月の調査研究の目的,調査先等は丙B4記載のとおりであり,同年5月ころに月別収支状況を会派に提出し,尋問において,調査先,調査の必要性について明確に証言している。また,上記調査はいずれも県政と関連する事項である。会派総会における意見交換も,これにより問題点についての考えを深め,また,情報の共有を図っているのであるから調査研究に該当することは明らかであるし,仮に調査研究に当たらないとしても,会議費に当たるから結果としては適法である。したがって,上記調査が裁量の範囲を逸脱又は濫用していないことは明白である。
また,G議員以外の議員の政務調査費の支出についても,会派において支出の適法性を確認しているから,適法であったというべきである。
さらに,引退議員についても,会派の他の所属議員と意見交換する機会は多数あり,このような機会を通じて引退議員から引退後も調査の見識や蓄積された議員としての見識を引き継いでいくことは有益であるから,引退議員の調査・研究は違法ではない。
(カ) 政務調査は,通常の職務内容とは異なる職務であり,通常の職務に際しては必要とされない調査地での交通費等の費用がかかることから,平成13年の各会派の意見交換会以降,県議会の共産党を除く全会派が別表3を準用するようになったものであり,当時としては,別表3を準用することに合理性があったと考えるのが相当であって,議会ないし議員が裁量の範囲を逸脱又は濫用したということはできない。
エ 補助参加人みやぎニューウェーブの主張
(ア) 原告は,補助参加人みやぎニューウェーブが政務調査費の使途基準に反する違法な支出をしたことについて主張立証責任を負うものであり,全て法律上の原因がないことを主張立証する必要はないが,支出が具体的に使途基準に反している一般的,外形的事実を主張立証しなければならないというべきである。しかし,原告は,このような一般的,外形的事実を主張立証しておらず,補助参加人みやぎニューウェーブの政務調査費の支出が違法とされる言われはない。
また,議員の調査研究の内容について詳細に開示すると,議員の問題意識や政策立案の方向性などが明らかになり,執行機関や他の会派の議員等による干渉等によって政務調査活動が阻害されるおそれがあるし,調査研究に協力した第三者が推測されることによって,当該第三者に対する干渉や調査がなされ,将来における調査研究への協力が得られなくなるおそれ及び当該第三者のプライバシーが侵害されるおそれがある。その上で,補助参加人みやぎニューウェーブとしては,可能な限りの資料を提出し,その内容について証人尋問で明らかにしている。
(イ) 補助参加人みやぎニューウェーブには,平成15年4月の選挙当時,所属議員数8名中6名の立候補者がいたが,いずれも選挙期間中においては調査研究費を支出していないが,選挙後においては平常と変わらず調査研究を行い,調査研究費を支出した。他に,引退予定議員が2名いたが,選挙期間中もそれ以外の期間も最後まで調査研究活動を行った。
(ウ)a 県議会における会派は,会派ごとに会派内所属議員の結びつきのあり方や会派結成の動機・目的,政党との関係は一様ではなく,各議員が問題関心を有する分野も異なることから,政務調査の主体を会派のみに限定し,個々の議員の自主性を奪うことよりも,個々の議員が会派に拘束されずにそれぞれが問題意識を持つ県政に関わる問題点や課題について調査し,その成果を議員活動に反映することは,それ自体有意義であり,政務調査費の交付の趣旨に合致する。
また,法100条13項は,政務調査費を「議員の」調査研究に資するために交付するものと定めているし,これを受けて制定された本件条例1条においても「宮城県議会議員」の調査研究に資するために交付することとされており,「会派の」とはされていない。
さらに,本件条例2条が政務調査の交付の対象を会派としたのは,政務調査費の管理を会派に行わせることによって,会派の持つ自律性や自浄作用に期待し,また,交付手続や返還手続を簡便なものとし,もって政務調査費が適正かつ円滑に使用されることを確保しようとした趣旨と解すべきであって,調査研究を会派が行うものに限る趣旨ではない。
したがって,法及び本件条例は,政務調査費の支出対象となる調査研究の主体としては議員を想定しているというべきであり,調査研究は会派の行うものに限られているとは言えないから,判断主体と責任主体が分離していたとしても違法とは言えない。
b 引退議員は,選挙活動をしないために政務調査を行える日数も多かったから,政務調査費の計上が多いのは当然である。
また,政務調査の主体は議員なのであるから,調査研究の内容を会派に文書で引き継がなかったとしても違法とは言えないし,引退議員と現役議員とは,個人的に会合を持ったり電話で指導を仰ぐこともあるから,引退議員が行った調査研究は実質的にも無駄になっていない。
(エ)a 県政が問題とする領域は極めて広範なものであることから,施設・行事の視察や住民等からの聴取りを行ったとしても,それが県政の問題点や課題等を議員が認識する活動であれば,県政のために有益なものとして,調査研究として認められるべきである。そうだとすれば,議員には,政務調査に関して一定の裁量が認められるべきであり,明らかに政務調査とは言えない活動に支出された場合に限り,違法とされるべきである。
b 原告が違法とする平成15年4月2日の「市町村合併問題調査」は,ある町村の合併の可能性について,首長や担当課を訪ねて調査したものであり,同月11日の「保育施設現状調査」は,地域の児童館において就学前の子供達を預かり保育のようにしている現況について,運営面や施設面での調査を行ったものであって,いずれも県政と関連性を有する必要かつ相当な調査であるから,違法とは言えない。
(オ) 補助参加人みやぎニューウェーブは,各会派の政務調査経理責任者の意見交換の結果に従って,別表3により調査研究活動の旅費を支出した(ただし,1日の行程陸路が25キロメートル未満の場合は5400円に修正)のであり,上記経緯等に照らし,別表3によることに合理性がないわけではないこと,他の会派もほぼ同様の運用を行っていたことなどに照らし,違法と言うことはできない。
オ 補助参加人自民クラブの主張
(ア) 補助参加人自民クラブにおいては,政務調査費について,各議員が毎年末に集計し,その支出項目の明細を,例えば調査研究費であれば「調査研究費の詳細記入用紙」ないしはそれに準じた体裁の書面をもって,代表者に対し,翌月10日ころまでに報告することになっており,各議員から実際に提出された報告書が丙D1ないし7である。
このように,平成15年4月当時,速やかに上記報告書が提出されていたことからして,その調査項目記載の調査が現実に行われていたことは疑いがない。
(イ) 平成15年4月当時における補助参加人自民クラブの所属議員数は8名,立候補者数は8名であり,うち無投票当選者数は1名であった。
無投票当選議員は,選挙期間中も通常と同様に政務調査費の支出を行ったが,他の議員については,選挙期間中,2件の例外を除き,政務調査費を支出していない。
(ウ) 補助参加人自民クラブでは,月1回の定例の会派総会や臨時に開かれる会派総会などに際し,重点的に調査をすべき事項を話し合っていたほか,会派としての総意の下に,各議員が自主的に調査研究項目を定めてその調査活動を行うこととしていた。そして,解決すべき問題が生じた際には,お互いが会派の同僚議員に対して自己の得た知見を伝達するなどして,その成果を会派全体の共有財産とするよう務めてきたのであって,このような態様の調査研究も,当然に本件条例の予定する政務調査の在り方の一つである。
(エ)a L議員が平成15年4月25日及び同月28日における調査項目に掲げた「会派における政策研究会」は,改選後に立ち上げた新会派である「フロンティアみやぎ」の経理局長としての立場において,新会派の基本的政策研究や方向性を協議するための会合であり,これが政務調査費の対象となるか否かは若干解釈の余地があるために,他の参加者は,政務調査費の請求対象に含めなかったものと思われる。
b M議員の同月16日の調査については,議員本人の記憶では,郡部の某町の文化会館での調査であり,記載の誤記と思われるとのことである。原告からの指摘を受け,裏付けとなる資料の収集に努めたが,年月が経過しているためにこれを収集,提示することはできない。
(オ) 別表3の準用の当否に関する主張は,他の補助参加人が主張するとおりである。ただし,補助参加人自民クラブでは,独自に「移動距離25キロメートル未満」という区分を設け,より妥当性を高める工夫を行っていた。
カ 補助参加人民主フォーラムの主張
(ア) 本件規程は,手続上必要な各種様式を定めるほか,政務調査費の適正な使用を確保するための使途基準の明示等を定めており,これに従った支出がなされていれば,その適法性は推定されるというべきである。
議員の調査研究について,いつ,どこで,誰と,何のために会ったかという事実を明らかにすることは,情報提供者との信頼関係を害し,将来における政務調査を著しく困難にすること,情報提供者のプライバシーの侵害になること,議会内多数派の少数派に対する横暴をもたらすことから,全てを明らかにする必要はない。
(イ) 平成15年4月当時の補助参加人民主フォーラム所属議員のうち,無投票当選議員は2名(J議員,Q議員),選挙を行った議員は3名(I議員,H議員,K議員)であった。
補助参加人民主フォーラムでは,無投票当選した場合を除き,選挙期間中の調査研究を認めていないが,平成15年4月においても,選挙期間前及び選挙期間後は,調査研究を行うことができた。
また,補助参加人民主フォーラムの議員は,お互いに他の議員の応援をすることはほとんどなく,無投票当選した議員は,選挙期間中でも調査研究は可能であった。
平成16年4月の政務調査費の支出額は,平成15年4月と比べて一人当たり5000円多くなっている。そもそも平成15年4月の選挙期間は9日間に過ぎず,これが金額を大きく変化させる必然性はないが,平成15年4月は議会がなく,議員が休みを多く取ったために,平成16年4月よりも政務調査の回数が減ったためである。
(ウ) 補助参加人民主フォーラムでは,毎年2月議会の閉会中に,全員でその年に自分が取り組みたいテーマを確認し合い,会派としてのテーマを決めており,平成15年度の場合は17項目であった。そして,実際の政務調査は,会派から委託を受けた各議員がテーマを選んで調査を行い,会派はその報告を受けて議会から受け取った金員を議員に交付している。
本件条例において,会派が政務調査費の交付主体とされたのは,個々の議員の支出請求をチェックすることで,違法・不当な支出を会派内で抑制しようとする趣旨に基づくものであり,決して会派が個別の議員の調査研究の選択・実行を全面的にコントロールすることを意図したものではない。したがって,全ての政務調査の設定・報告について,会派内での議論・評価決定を経なければならないということはなく,また,常に調査内容を詳細に会派で報告したり,全ての所属議員が他の議員の調査内容を把握しなければ,会派としての調査にならないとは言えない。
(エ) 議員としての活動に必要な調査研究は,必ずしも即効的な政策実現のためになされているわけではなく,県政にはどのような問題があるのかを調査することも政務調査として必要である。この場合に,全ての調査結果が会派としての活動に具体的に役立っていないとか,県政に具体的に生かされていないという評価によって,違法な調査研究費の支出であるということはできない。
陳情を受けることや選挙運動は政務調査とは言えないとしても,視察等の情報収集行為は,一見議員活動のように見えても政務調査に含まれ得る。議員としての活動と政務調査は,完全に無関係と言うことはなく,連続する場合がある。
県議会議員は,まず自分の選挙区内の県政に関する事情に通じなければ,議員内で,県民の代表として意見を表明することはできないから,選挙区内の県政に関する事情について聴取りを行い,調査をすることは政務調査の典型的事例というべきである。
(オ) 補助参加人民主フォーラムは,平成13年10月16日付け全国都道府県議会議長会作成の「政務調査費の使途の基本的な考え方について」を受け,県議会事務局の意見も参考にした上で,別表3の準用を決めた。実際に,車で調査研究に当たる場合,一日に様々な場所で調査研究をすることになるため,その距離及び消費するガソリンの量を毎日記録して実費精算を行うのは甚だしく煩雑であるから,別表3の準用は不合理とは言えない。
キ 補助参加人21世紀クラブ・公明の主張
(ア) 原告は,補助参加人21世紀クラブ・公明が支出した政務調査費が,本件条例が定める使途基準に反して支出されたなどの事実を推認させる一般的,外形的な事実を主張立証していないため,補助参加人21世紀クラブ・公明が説明を回避していることを理由に政務調査費の支出を違法とする主張は失当である。
また,補助参加人21世紀クラブ・公明は,原告の主張に対応して平成15年4月における政務調査活動の内容について,可能な範囲で説明を十分に行っているのであり,説明を回避しているものではない。それ以上に説明を行うことは,必要性がない上,かえって会派ないし所属議員の自律権を侵害するおそれがあり,協力者のプライバシーを侵害し,今後の調査活動に支障が生ずるおそれがある。
(イ) 平成15年4月当時における補助参加人21世紀クラブ・公明の所属議員6名のうち,無投票当選議員2名及び立候補しなかった引退予定の議員1名については,同月中,調査研究活動を行っている。また,立候補した議員3名については,選挙後においては,同月16日から30日までの間,通常どおり調査研究活動を行った。選挙活動期間中も,会派所属議員の全てが公聴活動を含めて調査活動を行っているが,議員間の申合せとして,調査研究費に計上しないことを取り決めていた。
(ウ)a 政務調査費について規定する法100条13項は「議会の議員の調査研究に資するため」と規定し,その交付先を「会派又は議員」としているに過ぎないし,本件条例1条でも「議員の調査研究に資するため」と定めており,会派のみが政務調査活動を行うことを予定したものではない。また,本件条例が政務調査費の交付先を会派とした趣旨は,会派単位で精算を一括することで,煩雑な作業を議員個人が負担することを軽減したに過ぎないのであり,調査活動の主体を会派に限るとの原告の主張は失当である。
b 補助参加人21世紀クラブ・公明では,前年度の2月から3月にかけての会派総会において,会派としてのテーマを決めている。そして,調査活動は,会派として行う場合もあるほか,個々の議員の判断で会派で取り決めたテーマに沿って行う場合もある。個々の議員が行った調査活動の内容については,会派総会において報告し合い,協議を重ねることで会派として情報を共有する。また,本件条例の施行に伴い,政務調査費に関する確認事項及び政務調査費支給基準を定め,各所属議員は,これらに基づいて政務調査費を使用し,会派の会長に収支報告,実績報告について報告することになっている。会派の会長は,各議員から提出された報告をまとめて会派の収支報告書と実績報告書を作成して議長に報告している。
また,引退したR議員については,会派総会ほか様々な意見交換を通じ,同議員の調査活動の内容や見識を受け継いでいる。
したがって,会派としての意思統一はあるし,調査活動が会派として行うものであるとの了承もある。
(エ)a 補助参加人21世紀クラブ・公明における政務調査のテーマは,総務企画行政,環境生活行政,保健福祉医療行政,産業経済行政,建設企画行政及び教育警察行政の6テーマであるが,いずれも県政に関連する重要なものである。
平成15年4月における各議員の政務調査は,いずれも上記テーマに関連するものであり,必要性を欠くものは存在しない。
b 調査活動は,最初から一定の調査活動をすることを取り決めて行う場合もあるが,相談を受けている間に県政に関わる重要な課題が持ち上がる場合もあり,これを契機として調査活動を開始することもあり,このような公聴活動は重要な調査活動である。
また,調査によって得られた内容については,全ての調査事項が直ちに結果として生かされるものではないが,会派総会において他の議員との間で十分意見交換をし,県議会の本会議や各種委員会の場で提案や質問を行う際に反映されている。
(オ) 補助参加人21世紀クラブ・公明は,調査研究活動の旅費の精算につき,別表3を準用しているが,議員の政務調査活動は,一日のうちに数度に渡り様々な場所で行われるものであるから,その度に車の移動距離を記録して実費精算することは事務手続が煩雑になる一方,定額方式には事務手続が簡便になるという利点があること,当時,県議会議員の大多数の会派が別表3の準用を認めていたこと,当時,在勤地における会議に出席した際には別表3に基づく金額が実際に支払われていたこと,報告書に記載したもの以外にも調査活動を行っているものもあり,平均化すれば別表3の金額は過大とはいえないことなどから,当時,別表3を準用したことには一定の合理性が存したと言い得る。
ク 補助参加人社会民主党宮城県議会議員会の主張
(ア) 政務調査活動の具体的な目的・内容や情報取得源を明らかにすることは,当該会派及び所属議員が自らの独立性・自主性を損なう自殺行為となるため,政務調査活動に関して開示し得る情報の範囲には自ずと限界があり,調査報告書とその添付書類に相当する文書を開示しないことは当然であり,また,これらの文書に記載されている情報を開示しないことは違法とするには当たらない。
(イ) 平成15年4月当時,補助参加人社会民主党宮城県議会議員会に属する議員は5名であり,そのうち2名は無投票当選を果たし,残り3名は選挙を行った。
無投票当選議員2名は,選挙運動に専念する必要がないため十二分に政務調査を行っている。
無投票当選ではない3名の議員も,選挙運動期間以外には政務調査活動を行っている。また,選挙期間前には住民や団体から相談を受ける機会が増加するために政務調査も増えるが,その多くは選挙期間後に取り組む宿題となる。当選後には,この宿題のほか,選挙区内を回った際に遭遇した政務調査の課題について,精力的に政務調査を行うことになる。したがって,選挙がない時期と比べて遜色のない政務調査活動を行っている。
(ウ) 補助参加人社会民主党宮城県議会議員会においては,毎年,会派総会においてテーマを決めており,かつ,制度の調査,政策立案,行政執行の実態把握及び行政チェック等に該当するものを調査の目的・対象(カテゴリー)としているのであって,会派としての事前の意思統一が図られている。
政務調査の端緒の多くは住民や団体の要望や相談であるが,これに対しては速やかな対応が求められる。要望や相談を受けてみなければ政務調査として位置づけられるものかどうか分からないのであるから,事前に会派としての了承を得た上で相談とこれに引き続く調査研究を行うことは,論理的にも実際的にも不可能である。
政務調査に該当する先行調査の報告は,月に2,3回の頻度で開催される会派総会の中で十分な時間をかけて行われており,これにより会派としての了承がなされたことになる。そして,会派として了承されたものだけが,政務調査費の受領の対象となっている。
会派総会で報告されたものの,ときには重要性が低いと思われて会派として取り上げないことになった場合や,継続調査は行わず,時期を見て取り上げることになった場合もあるが,重要性の判断は会派の裁量事項であり,上記場合であっても,当該調査活動が政務調査活動でなくなるわけではない。
(エ) 原告は,平成16年度のO議員,P議員の政務調査費の支出が違法であることから,平成15年4月の政務調査費の支出も違法と推認されると主張するが,O議員は平成15年4月当時は議員ではなかったのであるから,平成16年度の支出内容から本件政務調査費の支出内容を推認することはできない。また,P議員が平成16年度に行っていることは,いずれも政務調査活動の一環である。
(オ) 調査研究費の旅費の支給基準は,別表3を準用しているが,もととなる別表3の定額制は,県議会の自律的決定として十分尊重されなければならない。
そして,調査研究費の旅費の支給基準においても,交通費については移動距離を記録し,厳密に算出するのは煩雑であって,計算の簡便化を図り,事務の軽減を図る必要があること,日当ないし政務調査基本経費は実費を算出することが困難なものであるから,定額制を採用することには合理性が認められる。
また,調査研究費の旅費とは,車賃(交通費)のほかに,日当・宿泊料・食卓料ないし政務調査基本経費を含むものであり,宿泊を要する場合には,1万0800円以上の支出になることは明らかであるから,旅費を均一化することは合理的である。たしかに,1日の走行距離が25キロメートル未満には,交通費以外の費用がかかることは通常は考えられず,この場合に1万0800円の旅費を支給する点に不合理さは否めないため,補助参加人社会民主党宮城県議会議員会では,この場合には半額の5400円を支給することにしており,別表3を準用することの不合理さは解消されている。もっとも,地区内(選挙区内)を1日に数か所回る場合には,その走行距離が25キロメートルを超えると思われるときでも,5400円を申告しており,実態としては,定額制の方が過少申告となる場合が少なくない。
さらに,政務調査費の旅費については,会派が,毎月1回集計結果を領収書等をもとにチェックした上で過不足分を精算しているのであるから,流用の事実は全くない。
(4) 争点(3)(被告が,各補助参加人に対して不当利得返還請求権の行使を怠っていることが違法か。)について
ア 原告の主張
各補助参加人に使途基準に違反する違法な支出があれば,被告に各補助参加人に対する不当利得返還請求権が発生し,その請求を怠れば違法となるのは当然である。
イ 被告の主張
公金が,交付金,補助金又は出張旅費として支出された場合に,残余金が発生しても,歳出予算の執行という公金支出の性質上,交付を受けた者に対し,直ちに不当利得返還義務が発生するものではなく,公金支出の根拠法又は根拠条例によって発生する。そして,政務調査費の残余金の返還請求権については,本件条例11条による県知事の返還命令により発生するところ,平成15年4月分の政務調査費については県知事の返還命令が出されていないから,被告が各会派に対する不当利得返還請求権の行使を怠っている事実は存在せず,原告の主張は失当である。
第3争点に対する判断
1 争点(1)ア(本件監査請求の対象の特定の有無)について
(1) 当裁判所は,本件監査請求の対象の特定に欠けるところはなく,本件監査請求は適法と判断する。その理由は以下のとおりである。
(2) 前記争いのない事実等に,証拠(甲11)及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。
ア 本件監査請求の措置請求書における記載は,概要,各会派(各補助参加人及び日本共産党宮城県会議員団)が支出した本件政務調査費の各支出費目の金額のうち,選挙がなかった平成14年度における支出額の4.2パーセントを超えた部分には,使途基準に反した違法,不当な支出が含まれているため,監査委員に対し,違法,不当な政務調査費相当額について,県知事に対して各会派から県に返還を求めるなど必要な措置をとるよう勧告することを求めるというものである。
イ 本件監査請求の事実証明書として,各会派ごとの本件政務調査費の各支出費目等を,平成14年度の支出額と対比して表形式にしたものが提出されている。
ウ 本件監査請求に際し,上記ア,イ以外に,原告から県監査委員に対して提出された資料等は存しない。
(3) 法242条1項は,普通地方公共団体の住民は,当該普通地方公共団体の執行機関又は職員について,財務会計上の違法若しくは不当な行為又は怠る事実があると認めるときは,これらを証する書面を添え,監査委員に対し,監査を求め,必要な措置を講ずべきことを請求することができる旨規定しているところ,上記規定は,住民に対し,当該普通地方公共団体の執行機関又は職員による一定の具体的な財務会計上の行為又は怠る事実(以下,財務会計上の行為又は怠る事実を「当該行為等」という。)に限って,その監査と非違の防止,是正の措置とを監査委員に請求する権能を認めたものであって,それ以上に,一定の期間にわたる当該行為等を包括して,これを具体的に特定することなく,監査委員に監査を求めるなどの権能を認めたものではないと解するのが相当である。
したがって,住民監査請求においては,対象とする当該行為等を監査委員が行うべき監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく,当該行為等を他の事項から区別して特定認識できるように個別的,具体的に摘示することを要し,また,当該行為等が複数である場合には,当該行為等の性質,目的等に照らし,これらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き,各行為等を他の行為等と区別して特定認識できるように個別的,具体的に摘示することを要するが,上記摘示の特定性については,監査請求書及びこれに添付された事実を証する書面の各記載,監査請求人が提出したその他の資料等を総合して,住民監査請求の対象が特定の当該行為等であることを監査委員が認識することができる程度に摘示されているのであれば,これをもって足り,上記の程度を超えてまで当該行為等を個別的,具体的に摘示することを要するものではないというべきである。(最高裁平成2年6月5日第三小法廷判決・民集44巻4号719頁,同平成16年11月25日第一小法廷判決・民集58巻8号2297頁,同平成16年12月7日第三小法廷判決・集民215号871頁参照)
(4) 前記争いのない事実等及び前記(2)の事実によれば,本件訴えにおける原告の請求は,各補助参加人の支出の違法を理由にその支出先から各補助参加人への返還を求めるものではなく,被告が各補助参加人に対して本件調査研究費から必要経費として適法に支出した金額を控除した残額の返還を求めないという不作為を違法として,各補助参加人に対し,上記残額につき不当利得返還請求をすることを求めるものであって,法242条の2第1項4号所定の請求のうち,「怠る事実に係る相手方に…不当利得返還の請求をすることを当該普通地方公共団体の執行機関…に対して求める請求」に当たること,本件訴えの前提となる本件監査請求は,被告が各補助参加人を含む各会派に対して違法,不当な政務調査費相当額の返還を求めることを求めていることからすると,本件監査請求の対象は,法242条1項所定の事項のうち,「違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」であると解するのが相当である。そうすると,本件監査請求の対象の特定の有無を判断するにあたっては,当該怠る事実が他の怠る事実と区別して特定認識できるか否かという観点から判断すべきものと解するのが相当である。
そして,宮城県における政務調査費は,毎年上半期,下半期ごと(上半期分については4月20日,下半期分については10月5日までに)に一括して交付されることとされており,本件政務調査費については平成15年4月の1か月分が一括して支給されたことが認められるところ,このように不可分一体のものとして支給された政務調査費のうち被告が返還請求を怠っている部分をさらに細分化して特定すべき指標は存在しないというべきである。
もっとも,前記法の趣旨に照らせば,違法事由の特定を全くなさずになされる探索的な住民監査請求を行うことは許されないと解すべきであるから,怠る事実の違法を主張する場合には,監査委員が当該怠る事実に係る違法事由を他の違法事由から区別して特定認識できる程度に個別的,具体的に主張し,これを証する書面を添えて監査請求を行うことを要するものと解すべきであるが,本件監査請求において,原告は,選挙がなかった平成14年度における支出額と本件選挙があった平成15年4月における支出額を比較した上で,平成14年度の支出額の4.2パーセントを超えた部分に違法,不当な支出額が含まれていると主張して,当該怠る事実に係る違法事由を他の違法事由から区別して特定認識できるように個別的,具体的に主張し,これを証する書面を添えて本件監査請求を行っていることが認められる。
以上によれば,原告が行った本件監査請求は,対象の特定に欠けるところはないというべきである。
(5) 被告,補助参加人21世紀クラブ・公明,補助参加人自民クラブ,補助参加人みやぎニューウェーブ,補助参加人社会民主党宮城県議会議員会は,怠る事実に係る相手方に対する不当利得返還請求権の行使を求めるという原告の主張は時機に後れているとして,その却下を申し立てる。しかしながら,弁論の全趣旨によれば,原告は,本件訴状において,被告が怠る事実に係る相手方に対して有する請求権の行使を求めているところ,上記請求は,損害賠償請求としても不当利得返還請求としても構成し得るものであるが,訴状における記載からはいずれの構成によるものかは必ずしも判然としないものの,原告は,平成16年2月25日付け準備書面において,各補助参加人が使途基準に反して政務調査費を支出した場合,本件条例11条により,被告が各補助参加人に対して当該支出部分の返還を請求できる旨主張し,これを受けて,被告は,原告の請求が不当利得返還請求であると解釈し,これを前提としてその後の攻撃防御が行われてきたという経緯が認められる。加えて,被告らが時機に後れた主張と指摘するのは,平成17年9月6日に一旦弁論が終結された後,弁論が再開されてからなされた原告の同年11月21日付け準備書面における主張であるところ,本件訴訟においては,一旦は実体審理の必要性がないと判断されて上記のとおり弁論が終結されたものの,弁論終結後に言い渡された仙台高等裁判所同年10月12日判決(同年(行コ)第5号)の判断内容を踏まえ,やはり実体審理の必要があると判断された結果弁論が再開された経緯が存在する(弁論の全趣旨)ことをも考え併せると,原告の上記主張が時機に後れているとまでは言えないというべきであるから,上記申立ては採用できない。
また,被告,補助参加人21世紀クラブ・公明,補助参加人自民クラブ,補助参加人みやぎニューウェーブ,補助参加人社会民主党宮城県議会議員会は,原告の請求が,違法な公金の支出に基づいて発生する不当利得返還請求権の行使を怠る事実(不真正怠る事実)に関するものであることを前提に,違法な支出を個別に特定することが必要であると主張する。しかしながら,前記のとおり,原告の請求は,各補助参加人の支出の違法を理由にその支出先から各補助参加人への返還を求めるものではなく,被告が各補助参加人に対して本件政務調査費から必要経費として適法に支出した金額を控除した残額の返還を求めないという不作為を違法として,各補助参加人に対し,上記残額につき不当利得返還請求をすることを求めるものであるから,各補助参加人による個々の政務調査費の支出科目及び金額は,被告の上記怠る事実の違法事由を特定する一応の手がかりにはなり得るとしても,これをもって上記怠る事実自体の特定に必要な指標として機能することを期待することはできない。したがって,個々の政務調査費の支出科目及び金額による特定がないから特定不十分であるとする上記主張は採用できない。
2 争点(1)イ(本件訴えの対象が,法242条の2第1項4号が規定する「怠る事実」に当たるか。)について
前記1のとおり,原告の請求は,被告が各補助参加人に対して本件政務調査費から必要経費として適法に支出した金額を控除した残額の返還を求めないという不作為を違法として,各補助参加人に対し,上記残額につき不当利得返還請求をすることを求めるものであり,これが,法242条の2第1項4号所定の「怠る事実」に係る請求に当たることは明らかであるから,原告の請求が法が定める住民訴訟の類型に該当せず不適法であるとの被告の主張は失当である。
3 争点(2)(各補助参加人による本件調査研究費の支出が違法であるか。)について
(1) 当裁判所は,各補助参加人による本件調査研究費の支出のうち,主文記載の金額に相当する部分については,本件条例及び本件規程の使途基準に反し,違法であると判断する。その理由は以下のとおりである。
(2) 原告は,法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,各補助参加人に対する不当利得返還請求をすることを求めているものであるところ,原則としては,不当利得返還請求権の存在を主張する原告において,受益者である各補助参加人が,法律上の原因なく他人である県の財産によって利益を得,そのために県に損失を及ぼしたことを主張立証する責任を負うと解すべきである。
しかしながら,不当利得返還請求権の存在を主張する者は,およそ考えられる一切の法律上の原因の不存在を主張立証しなければならないものではなく,当該事案の類型,証拠との距離等を考慮しつつ,当該事案において通常考えられる財産移転を正当化する原因が存在しないことを主張立証した場合には,相手方の利得に法律上の原因がないことが事実上推認できるから,その場合には,法律上の原因の不存在を争う相手方において,上記推認を妨げる具体的事情について反証する必要が生ずるというべきであって,その反証が不奏功に終わった場合には,不当利得返還義務を免れないと解するのが相当である。
本件において,原告は,各補助参加人が議長に提出した本件政務調査費の総額及び使途基準の項目毎の支出額及びその主な内訳を記載した収支報告書及び本件政務調査費の主な実績を記載した実績報告書を入手し,書証として提出している(甲5の1ないし3,6の1ないし3,7の1ないし3,8の1ないし3,9の1ないし4,10の1ないし3)ものの,本件調査研究費の個々の支出科目及び金額が記載された会計帳簿や証拠書類等は各会派において保管することになっているため(本件規程8条),原告が情報公開請求によってこれらの資料を入手することはできない反面,上記会計帳簿や証拠書類等の資料は各補助参加人が所持しているものであるから,各補助参加人においてその内容を明らかにすることは容易である。
また,前記第2・2(2)のとおり,法100条14項は,政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出すると規定しているところ,その趣旨は,住民に対する説明責任及び財政の健全な運用を担保する観点から,公金の使途として許容される政務調査費の支出について,適正及び透明性を確保することにあると解される一方,上記会計帳簿や証拠書類等については,本件条例及び本件規程上議長に対して提出すべきものとされておらず,各会派内において保管すべき扱いとされているところ,その趣旨は,会派が,議会において独立性を有する団体として,自主的・自律的に活動すべき役割を期待されている点にあると解されるから,会派が有する自主性・自律性については,上記の法律上の原因の有無の判断に際しても一事情として考慮されるべきである。しかしながら,本件条例は,収支報告書等の提出を受けた議長に対し,政務調査費の適正な運用を期すために,必要に応じて個々の支出内容等について調査する権限を与えており(10条),このことから,政務調査費の支出の適否について疑義が生じた場合には,会派が有する自主性・自律性が一定限度で制約されることが許容されているものと解することができるし,会派がこの限度で個々の支出の内容を対外的に明らかにすることは,政務調査費の支出につき適正及び透明性を要請している法の趣旨にも合致するものというべきである。
上記事情を総合すると,本件においては,原告が,本件調査研究費の支出の一部又は全部が本件条例及び本件規程の定める使途基準に反して支出されたなどの事実を推認させる一般的,外形的な事実を主張立証した場合には,各補助参加人による当該調査研究費の支出が違法であることが事実上推認され,被告及び各補助参加人は,上記推認を妨げるべく,各補助参加人による当該調査研究費の支出が本件条例及び本件規程の定める使途基準に適合することを基礎づける具体的事実を主張立証する必要が生じるというべきであり,その立証が不奏功に終わった場合には,各補助参加人は違法とされた当該調査研究費の支出金額に相当する不当利得返還義務を免れないと解するのが相当である。
(3) 「会派が行う」との使途基準について
ア 法100条13項は,「普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができる」と規定しているところ,このような政務調査費の制度は,地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律の施行により,地方公共団体の自己決定権や自己責任が拡大し,その議会の担う役割がますます重要なものとなってきていることから,議会の審議能力を強化し,議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため,議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化したものであると解される。
そして,同項は,「政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならない」と規定しており,これを受けて,本件条例2条は,政務調査費の交付対象を会派と定め,本件条例8条は,会派は政務調査費を別に定める使途基準に従って使用しなければならないと定め,また,本件規程5条は,調査研究費の使途基準を「会派が行う」経費と規定している。これらの規定に照らすと,本件条例及び本件規程は,会派を政務調査費の交付対象とすることによって,会派を中心とした調査研究活動がなされることを予定し,各議員による政務調査費の支出が会派に報告されることなどを通じ,その適正が担保されることを期待しているものと解される。
しかしながら,議員の集まりである会派は,同じ意見・政策等を有する議員が結集することによって,個々の議員が政策を立案することに比して,より効率的かつ充実した政策立案及び行政機関に対する監視等の実現を可能とすべく結成されるものであるが,その究極の目的は,住民の意思によって直接選出された個々の議員の意思を集約することによって,議会を通じ,県政に民意を反映し易くすることにあると考えられる。また,会派に所属する議員全員が,県政上の問題について必ずしも共通した意見・政策等を共有しているとは限らないし,また,会派ごとに議員相互の結びつきの強さは異なると考えられるから,常に会派の統一した意思決定の下においてしか議員の調査研究活動を許さないものとすると,かえって個々の議員の政策立案及び行政機関に対する監視等の活動が阻害されることになりかねず,そのような事態を法,本件条例及び本件規程が許容しているとは解されない。そして,このように解することは,法及び本件条例1条における「議員の調査研究に資するために」政務調査費を交付するとの規定形式にも合致する。
上記事情を総合すると,政務調査費が会派の事前又は事後の承認の下に実施される調査研究活動に支出されたものと認められ,各議員による政務調査費の支出が事後的に会派に報告されることなどを通じてその適正執行が担保されていることが認められる限り,本件条例及び本件規程が定める「会派が行う」との使途基準に違反しているとは言えないというべきであって,会派に所属する議員の調査研究が,当該会派の事前又は事後の承認なく行われているか,あるいは各議員による政務調査費の支出について会派による適正執行の担保がないと認められる場合に限り,当該政務調査費の支出は「会派が行う」との使途基準に反するものとして違法となると解するのが相当である。
イ これを本件について見ると,証拠(丙A5,B1,D1ないし8,E1,F3・6・10,証人N,証人H,証人A,証人G,証人C,証人D)によれば,本件調査研究費の支出に係る各補助参加人の所属議員が行った調査研究活動については,いずれも各補助参加人の代表者及び経理担当者又はそのいずれかの者が事前又は事後に調査報告書,支出伝票等に基づきその支出項目,支出金額等を確認した上で当該調査研究費の支出を承認したことが認められるから,本件調査研究費の支出はいずれも会派が行う調査研究に当たるというべきである。したがって,本件条例が定める使途基準に反するとは認め難い。
ウ これに対し,原告は,会派が調査研究を行ったと言えるためには,①当該調査と県政との関連性及び必要性について,会派として意思統一が図られ,調査・研究を担当する議員に対し,会派から指示が出されること,②調査研究を担当した議員が会派に宛てて報告書を提出すること,③会派別に,分野別に報告書をまとめたファイルを備え置き,調査・研究によって得られた情報を内部蓄積して,会派内の同僚議員がそれを閲覧して活用でき,①の事前審査にも役立てられるような仕組みが作られていること,④調査研究の結果が,会派としてのその後の活動に役立てられたことが必要であると主張するが,上記のとおり,会派を中心として調査研究を行う場合において,会派がいかなる限度で個々の調査研究の内容を決定し,個々の議員を拘束するか,調査研究の結果について,いかなる内容の報告を求めるか,個々の議員の調査研究が会派としてのその後の活動に実際に役立てられたか否かは,いずれも本件調査研究費の支出の妥当性如何に関わる問題であって,議員としての政治責任や監査請求の対象事項となることはあっても,その法的責任を直接基礎づける事情とはならないと解すべきであるから,原告の上記主張は採用できない。
(4) 「県の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査委託に要する経費」との使途基準について
ア 証拠(丙A5ないし7,B1ないし4,C3,D1ないし8,E1,F10,証人N,証人H,証人A,証人G,証人C,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,各補助参加人が行った本件調査研究の内容,本件調査研究費の金額等は,概ね別紙1ないし6のとおりであったと認められ,これに反する,本件調査研究が実際に行われたか否かにつき疑問を差し挟むべき一般的,外形的事実は,後記イ(オ)aを除き,証拠上認め難い。
これに対し,原告は,平成15年4月は本件選挙が実施されたことから,現職で立候補した議員は選挙活動に専念したはずであるし,無投票当選の議員も政党の一員としての政党活動や他の候補者の応援等の選挙活動に従事したはずであり,選挙後も本件調査研究費を使った調査研究を行う環境になかったにもかかわらず,選挙のない年と同様の金額が政務調査費として支出されていることから,本件調査研究費には,使途基準に反する違法な支出(架空の支出又は目的外支出をいうものと解される。)が含まれていると主張する。
しかしながら,原告の上記主張は採用することができない。その理由は以下のとおりである。
(ア) 証拠(乙4の1ないし6,丙A5,D8,E1,証人N,証人H,証人A,証人C,証人D)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
a 本件選挙は,平成15年4月4日に告示され,同月13日が投票日であり,選挙期間は,同月4日から同月12日までの9日間であった。
また,本件選挙当時において県議会議員であった者の任期満了日は,同月29日であった
b 本件選挙当時における補助参加人自由民主党・県民会議の所属議員は26名であり,うち立候補して選挙を行った議員は17名,選挙に立候補したが無投票で当選した議員は6名,選挙に立候補しなかった議員は3名であった。
c 本件選挙当時における補助参加人みやぎニューウェーブの所属議員は8名であり,うち立候補して選挙を行った議員は6名であり,残り2名の議員については引退予定であるために立候補しなかった。
d 本件選挙当時における補助参加人自民クラブの所属議員は8名であり,いずれの議員も立候補したが,うち1名については無投票で当選した。なお,本件選挙の結果,7名は議席を確保したが,1名が落選した。
e 本件選挙当時における補助参加人民主フォーラムの所属議員は5名であり,うち立候補して選挙を行った議員は3名であり,立候補したが無投票で当選した議員は2名であった。
f 本件選挙当時における補助参加人21世紀クラブ・公明の所属議員は6名であり,うち立候補して選挙を行った議員は3名,立候補したが無投票で当選した議員は2名,引退予定であるために立候補しなかった議員は1名であった。
g 本件選挙当時における補助参加人社会民主党宮城県議会議員会の所属議員は5名であり,うち立候補して選挙を行った議員は3名,立候補したが無投票で当選した議員は2名であった。
(イ) 上記aないしgの事実によれば,本件選挙に立候補したが無投票で当選した議員及び同月で引退予定であるために立候補しなかった議員については,本件選挙期間中も選挙運動を行う必要がなかったために通常どおり調査研究を行うことが可能であったと考えられる。さらに,立候補して選挙を行った議員についても,選挙期間中も調査研究を行うことが法律上許されないものではないし(本件選挙期間中に本件調査研究費の支出が少ないのは,各補助参加人の所属議員が,選挙運動に対して調査研究費を目的外使用したとの誤解を生むおそれがあることから,調査研究自体又は調査研究費の計上を自粛していたことによると認められる(証人N,証人H,証人G)。),同月中の選挙期間を除く21日間は,選挙による影響を受けることなく通常どおりに調査研究を行うことが可能であった上,選挙期間中には県政に関する問題を新たに見聞きする機会も多いため,選挙期間終了後の調査研究の頻度は,選挙がない月よりも増えること(証人N,証人G)も十分考え得る。
そうすると,選挙があった月には選挙がなかった月と比べて調査研究費の支出が少なくなるとは必ずしも言い難いから,平成15年4月における本件調査研究費の支出金額が,選挙のなかった年の調査研究費の支出金額と同程度であったことをもって,本件調査研究費には,一般的,外形的に見て,使途基準に反する違法な支出が含まれているとはおよそ認め難い。
イ 上記アを前提に,各補助参加人による本件調査研究費の個々の支出が使途基準に反する違法なものと認められるか否かについて,以下検討する。
(ア) 本件規程5条は,政務調査費のうち調査研究費の使途基準につき,「県の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査委託に要する経費」と規定しているところ,議員が行う調査研究は,県政全体に関する問題に広く及ぶものであって,それを議会における政策立案等につなげる方法にも多種多様なものが考えられる上,その調査研究の対象及び方法の選択にあたっては,会派及び議員の自主性及び自律性を尊重すべき要請も存在することから,いかなる対象について,いかなる方法によって調査研究を行うかについては,原則として,県政に関する諸事情及びその時々の情勢に対応した会派及び議員の裁量的判断に委ねられているものと解するのが相当である。他方,政務調査費は,県民から徴収された公金によって賄われているものであるから,政務調査費の交付を受けた会派又は議員としては,県民に対し,その交付の前記趣旨に則り,できるだけ効率的に県政に係る調査研究を遂げて政策立案及び行政機関に対する監視等の議員活動に生かすべき責務を負っていると解されることは言うまでもない。もっとも,上記のような議員の調査研究の対象及び方法の多様性等を考慮すれば,その支出内容のすべてが使途基準との関係で司法的判断の対象となると解するのは相当ではなく,原則としては,調査研究費の個々の支出内容の妥当性如何に関わる問題として,議員の政治責任を問われたり監査請求の対象事項とされることになるのであって,個々の調査研究費の支出が上記使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱していると認められる場合に限り,違法となると解するのが相当である。
(イ) 補助参加人自由民主党・県民会議(別紙2参照)
a 原告は,G議員の平成15年4月16日における白石市高等職業訓練校の入校式への出席は,県政との関連性,必要性のない違法な調査研究であると主張する。
しかしながら,証拠(証人G)によれば,上記活動は,職業訓練校に対する県費の補助に関し,過去に不正な水増し請求があった経緯から,白石市高等職業訓練校の入校式へ出席した際に,上記補助金に関する予算執行の実態を把握すべく,生徒数等の実態把握及び関係者との意見交換を行ったものと認められる。学校教育に関する補助金の支出が適切になされているか否かは,県政に関連する問題であり,そのために実際に現場を訪れて実態把握及び関係者との意見交換を行うことが,本件条例及び本件規程が定める調査研究費の使途基準に照らし,明らかに必要性,合理性を欠いているとは認め難い。
b 原告は,G議員の同月25日におけるエコーライン開通式への出席は,県政との関連性,必要性のない違法な調査研究であると主張する。
しかしながら,証拠(証人G)によれば,上記活動は,エコーライン開通式に出席した際に,冬期間に路床が凍って起こる凍創害による道路の被害状況を把握し,また,式典に参加した道路行政,観光行政の関係者との意見交換を行ったものであることが認められる。
道路事業等は県政に関連するものであり,上記活動に係る調査研究費の支出が本件条例及び本件規程が定める調査研究費の使途基準に照らし,明らかに必要性,合理性を欠いているとは認め難い。
c 原告は,G議員の同月18日及び同月28日における会派総会への出席については,調査研究には該当せず,違法な支出であると主張する。
しかしながら,証拠(証人G)によれば,上記各活動は,通常の会派総会とは異なり,本件選挙に伴う会派の改変,運営等議会運営に関する議論等がなされたものと認められるが,議員の活動場所である議会の運営の在り方を議論し,必要な調査を行って研究することによって,議会全体の機能,役割の発展,向上を期待することができるから,上記活動に対して調査研究費を支出することが,本件条例及び本件規程が定める調査研究費の使途基準に照らし,明らかに必要性,合理性を欠いているとは認め難い。
d そして,補助参加人自由民主党・県民会議による上記以外の本件調査研究費の支出について,本件条例及び本件規程が定める調査研究費の使途基準に照らし,明らかに必要性,合理性を欠いていることを認めるに足りる証拠はない。
e 原告は,議員が自らの選挙区内の支援者等を訪ね歩く「ご用聞き」は議員活動に当たるものであって,調査研究には当たらないところ,各議員の活動は,議員活動そのものであって,これに係る調査研究費の支出は違法である旨主張する。
しかしながら,議員が住民から陳情を受けた結果,県政に関する問題点を認識し,当該問題点について情報収集等の調査を行うことは十分想定しうる。この場合には,速やかに必要な調査を行うことが機動的,効率的な調査研究に資するというべきであるから,事前に調査研究の内容や調査の方法が具体的に定まっていなかったとしても,実際に県政に関する問題についての情報収集等の何らかの調査研究が行われ,これが本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠くと認められない場合には,本件条例及び本件規程の使途基準に反する調査研究に当たるとは認め難い。
そして,本件では,補助参加人自由民主党・県民会議による本件調査研究費の支出に係るいずれの調査研究についても,実際に調査研究が行われていなかったことを推認し得る一般的,外形的事実が主張,立証されているとは認め難く,上記各支出が本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠くとは認め難いことは前記説示のとおりであるから,原告の上記主張は採用できない。
f 原告は,引退議員の調査研究については,会派のその後の活動に反映されていないから,違法な調査研究であると主張する。
しかしながら,本件条例8条は,政務調査費を使途基準に従って使用しなければならないと規定し,これを受けて本件規程は政務調査費の使途基準を定めていることからすれば,個々の調査研究が違法となるか否かは,本件規程が定める使途基準に違反するか否かによって判断されるべきものであって,これは引退議員であっても同様というべきである。引退した議員が行った調査研究を会派としての活動に実際に反映したか否かは,支出内容の妥当性如何に関わる問題として,政治責任の範疇に属するものというべきであって,これが法的責任の原因になると解することは困難である。したがって,原告の上記主張は採用できない。
(ウ) 補助参加人みやぎニューウェーブ(別紙1参照)
原告は,平成15年4月2日の市町村合併問題現状調査及び同月11日の保育施設現状調査を例に挙げて,補助参加人みやぎニューウェーブによる本件調査研究は,いずれも議員活動そのものであるから違法であると主張する。
しかしながら,前記(イ)eのとおり,実際に情報収集等の何らかの調査研究が行われ,これが本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠くと認められない場合には,本件条例及び本件規程の使途基準に反する調査研究に当たるとは認め難いところ,補助参加人みやぎニューウェーブによる本件調査研究費の支出に係るいずれの調査研究についても,実際に調査研究が行われていなかったことを推認し得る一般的,外形的事実が主張,立証されているとは認め難く,また,上記各支出が本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いていると認めるに足りる証拠はない。
(エ) 補助参加人民主フォーラム(別紙3参照)
a 原告は,補助参加人民主フォーラム所属の議員は,自己の選挙区固有の問題を調査しており,このような調査は県政との関連性のない違法な調査であると主張する。
しかしながら,県政が扱う問題は広汎に及ぶものであるところ,特定の地域の問題についても,当初から県政全体に関連する問題として取り扱う場合も考えられるし,調査研究の過程を通じて広く県政全体の問題として取り扱うことになる場合もあり得ることであるから,調査研究の対象が自己の選挙区に関する問題であることをもって,県政との関連性を否定することはできない。
そして,補助参加人民主フォーラムによる本件調査研究費の各支出について,本件条例及び本件規程が定める調査研究費の使途基準に照らし,明らかに必要性,合理性を欠いていることを認めるに足りる証拠はない。
b また,原告は,補助参加人民主フォーラム所属議員の調査研究は,議員活動と区別できないものであると主張するが,前記(イ)eのとおり,実際に情報収集等の何らかの調査研究が行われ,これが本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠くと認められない場合には,本件条例及び本件規程の使途基準に反する調査研究に当たるとは認め難いところ,補助参加人民主フォーラムによる本件調査研究費の支出に係るいずれの調査研究についても,実際に調査研究が行われていなかったことを推認し得る一般的,外形的事実が主張,立証されているとは認め難く,また,上記各支出が本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いていると認めるに足りる証拠はない。
(オ) 補助参加人自民クラブ(別紙4参照)
a 原告は,L議員が同月25日及び同月28日に行ったとされる会派の政策研究会について,同議員以外の6人の議員は調査研究活動として申告していないことから,上記研究会なるものは開催されておらず,これに対する調査研究費の支出は空支出であって,違法であると主張する。
確かに,会派の政策研究会が行われていたのであれば,複数の議員が出席し,これに関する調査研究費の支出がなされているのが自然であるが,L議員以外の補助参加人自民クラブ所属議員は,いずれも上記政策研究会について,調査研究費の支出対象として報告していないこと(別紙4参照)からすれば,上記各日程に政策研究会が実際に開催されたのかについては疑問を差し挟まざるを得ない。
これに対し,補助参加人自民クラブは,上記政策研究会が政務調査費の対象になるか否かは解釈の余地があるために,他の参加議員は政務調査費の請求対象に含めなかったと主張するが,かかる主張に係る事実を裏付ける証拠は一切提出されていない。
このように,原告において,補助参加人自民クラブが主張する調査研究が実際に行われていないことを推認し得る一般的,外形的事実を主張,立証を行ったのにもかかわらず,被告及び補助参加人自民クラブにおいて,上記調査研究に係る調査研究費の支出が本件条例及び本件規程の定める使途基準に適合することを基礎づける具体的事実を立証していないことからすれば,上記調査研究は存在しなかったと認めるのが相当であり,これに係る調査研究費の支出は,本件条例及び本件規定の使途基準に照らし,明らかに必要性,合理性を欠くものであって違法といわざるを得ない。
b 原告は,M議員は,同月16日に,ボールパーク構想推進協議会調査,生涯スポーツに関する実態調査として1日の行程距離が180キロメートル以上に相当する2万0400円の支給を受けているが,b区内を180キロメートル以上移動する理由は不明であり,証人によっても説明がなされていないから,上記調査に県政との関連性及び必要性があったとは言えないと主張する。
しかしながら,原告が主張する上記調査研究については,支出金額の範囲が合理的であるか(量的問題)が問題になり得るものではあるが,このことをもって,調査研究自体の内容(質的問題)が県政との関連性,必要性がないことを一般的に推認し得るものとまでは認め難い。
c 原告は,F議員が本件選挙で落選したにもかかわらず,調査研究の内容及び成果が会派所属の他の議員に引き継がれていないから,同人が行った調査研究に係る調査研究費の支出は全て違法であると主張する。
しかしながら,個々の調査研究が違法となるか否かは,本件規程が定める使途基準に違反するか否かによって判断されるべきものである。落選した議員が行った調査研究を会派としての活動に実際に反映したか否かは,支出内容の妥当性如何に関わる問題として,政治責任の範疇に属するものというべきであって,これが法的責任の原因になると解することは困難である。したがって,原告の上記主張は採用できない。
d 原告は,平成15年4月8日の県立高校入学状況調査,同月9日の町立中学校入学状況調査及び同月21日の戦没者追悼実態調査を例に挙げて,補助参加人自民クラブの所属議員が行った活動は,議員活動としてご用聞き等であって,調査研究には当たらないと主張する。
しかしながら,前記(イ)eのとおり,実際に情報収集等の何らかの調査研究が行われ,これが本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠くと認められない場合には,本件条例及び本件規程の使途基準に反する調査研究に当たるとは認め難いところ,補助参加人自民クラブによる本件調査研究費の支出に係る各調査研究は,前記aの調査研究費の支出を除き,実際に調査研究が行われていなかったことを推認し得る一般的,外形的事実が主張,立証されているとは認め難く,また,上記各支出が本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いていると認めるに足りる証拠はない。
(カ) 補助参加人21世紀クラブ・公明(別紙5)
a 原告は,D議員の調査は議員に対する相談を契機になされたものであること,調査結果が県政に生かされたことは明らかでないことから,県政との関連性,必要性がないと主張する。
しかしながら,前記(イ)eのとおり,実際に情報収集等の何らかの調査研究が行われ,これが本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠くと認められない場合には,本件条例及び本件規程の使途基準に反する調査研究に当たるとは認め難いところ,D議員による本件調査研究費の支出に係る各調査研究については,いずれも実際に調査研究が行わなかったことを推認し得る一般的,外形的事実が主張,立証されているとは認め難く,上記各支出が本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いているとも認め難い。
また,議員が行った調査研究が県政に生かされたか否かは,支出内容の妥当性如何に関わる問題として,政治責任の範疇に属するものというべきであって,これが調査研究費の支出の違法事由になると解することは困難である。
したがって,原告の上記主張は採用できない。
b 原告は,E議員が,c区の社会教育の現状調査を平成15年4月5日及び同月14日に,c区の幹線道路網の整備に関する調査を同月10日及び同月29日に行っていることにつき,短期間に2度の調査を行う合理的理由が明らかでないこと,その内容が明らかにされていないこと,県政に活用した事実が提示されていないことから,県政との必要性・関連性がない旨主張する。
しかしながら,調査研究の対象の内容等により,調査研究が複数期日に渡ることは何ら不合理なものではないから,同内容の調査項目について,短期間に複数回の調査研究を行っていることをもって,一般的に,本件条例及び本件規程にいう使途基準に反した調査研究費が支出されたと推認することは困難である。
また,議員が行った調査研究が県政に生かされたか否かが,調査研究費の支出の違法事由になると解し難いことは,前記aと同様である。
c そして,補助参加人21世紀クラブ・公明による上記以外の本件調査研究費の支出について,本件条例及び本件規程が定める調査研究費の使途基準に照らし,明らかに必要性,合理性を欠いていることを認めるに足りる証拠はない。
(キ) 補助参加人社会民主党宮城県議会議員会(別紙6)
a 原告は,N議員が行った平成15年4月14日のスポーツ振興や同月3日の交通安全対策についての調査は,住民から要望,陳情を受けることを内容としているが,それは議員活動そのものであって,調査研究に当たらないと主張する。
しかしながら,前記(イ)eのとおり,実際に情報収集等の何らかの調査研究が行われ,これが本件条例及び本件規程の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠くと認められない場合には,本件条例及び本件規程の使途基準に反する調査研究に当たるとは認め難いというべきところ,住民を通じて県政の問題を把握し,その問題に関する情報を収集することは,その後の政策立案等に結実し得るものであるから,それが陳情,要望等の形式でなされたとしても,調査研究として明らかに必要性,合理性を欠いているとは認め難い。
これを本件についてみると,証拠(証人N)によれば,N議員の同月14日の活動は,N議員がミニテニスの総会に出席した際に,体育協会に加盟していない場合には県の施設の利用が困難であること等の相談を受けたものと認められるところ,N議員は,上記相談の内容によって県の施設利用上の問題点という県政に関する情報を収集したものであるから,上記活動に対して調査研究費を支出したことが,本件条例及び本件規程が定める調査研究費の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いているとは認め難い。
また,証拠(証人N)によれば,N議員の同月3日の活動は,N議員が,d区内において,住民から,橋の改修工事が完成したことにより交通量が増えたことに伴い,横断が困難になったことを理由に,信号機の設置の要望を受けたものであることが認められるところ,上記要望の内容によって県政上の交通政策の問題に関する情報を収集したものであるから,上記活動に対して調査研究費を支出したことが,本件条例及び本件規程が定める調査研究費の使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いているとは認め難い。
b そして,補助参加人社会民主党宮城県議会議員会による上記以外の本件調査研究費の支出について,本件条例及び本件規程が定める調査研究費の使途基準に照らし,明らかに必要性,合理性を欠いていることを認めるに足りる証拠はない。
c 原告は,O議員,P議員を含む補助参加人社会民主党宮城県議会議員会の議員が平成16年度に政務調査費を違法に支出していることから,平成15年4月においても違法な政務調査費の支出が多数含まれていると推認すべきであると主張する。
しかしながら,仮に平成16年度の政務調査費の支出に違法な支出が含まれていたとしても,これによって,全く異なる時期である平成15年4月当時における本件調査研究費の支出が違法であったとの一般的,外形的事実の主張,立証があったということは困難というべきであるから,原告の上記主張は採用できない。
ウ 別表3の準用について
(ア) 前記争いのない事実等に,証拠(甲43,59,乙9,12ないし31,丙A5,C1,D8,E1,F2,3,証人N,証人H,証人A,証人G,証人C,証人D)及び弁論の全趣旨を総合すると次の事実が認められる。
a 報酬等条例
県議会議員の受ける報酬,期末手当及び費用弁償の額並びにその支給方法を定めた報酬等条例は,平成12年4月1日に施行された。
同条例6条は,議長,副議長及び議員に対する費用弁償の支給について規定しており,同条3項1号は,鉄道賃,船賃及び内国旅行に係る航空賃について規定するほか,車賃,日当,宿泊料,食卓料,移転料,支度料及び死亡手当について,規定している。このうち,車賃については,1キロメートルにつき47円と定めるが,自家用自動車等を利用して旅行する場合には,1キロメートルにつき37円と定めている。
また,同条5項は,在勤地における会議に出席した場合は,費用弁償として,以下の内容のとおり,別表3に掲げる1日の行程陸路に応じた定額の日額を支給するものと定める。
50キロメートル未満 1万0800円
50キロメートル以上80キロメートル未満 1万2200円
80キロメートル以上120キロメートル未満 1万4100円
120キロメートル以上180キロメートル未満 1万6900円
180キロメートル以上 2万0200円
b 報酬等条例の施行に至る経緯
(a) 昭和26年3月28日公布の特別職の給与並びに旅費及び費用弁償に関する条例(昭和26年宮城県条例1号。以下「特別職給与等条例」という。)は,知事,副知事,議会の議員等の特別職の公務員が受ける給与,旅費及び費用弁償の額並びにその支給方法について定めていた。
そして,特別職給与等条例14条は,議会の議員等に支給する費用弁償については,一般職の職員の旅費支給の例によると規定していた。
(b) 特別職給与等条例は,その後に改正(昭和26年宮城県条例67号)されて,14条2項が追加された。同項では,招集地に住所を有する議員の費用弁償に関する各県の支給状況を考慮して,在勤地にその住所を有する議会の議員が在勤地における会議に出席した場合は,その費用弁償として前項の規定にかかわらず日額600円を支給すると定められた。その後,上記日額は順次引き上げられ,平成2年改正(同年宮城県条例17号)により,日額9700円とされた。
(c) 特別職給与等条例は,昭和28年に改正され(同年宮城県条例82号),11条及び12条が削除されたことにより,従前の14条が12条に繰り上げられた。
また,昭和32年の改正により,12条1項の後に,内国旅行の場合の旅費及び費用弁償(車賃・日当・宿泊料及び食卓料並びに移転料)及び外国旅行の場合の旅費及び費用弁償(車賃・日当・宿泊料及び食卓料並びに支度料及び死亡手当)等を定めた新設2項及び議会の議員等に対するその他の費用弁償の支給については,職員の旅費の例によることを定めた新設3項が加えられ,従前の同条2項は同条4項とされた。
(d) 特別職給与等条例は,昭和39年に改正され(同年宮城県条例49号),12条5項が追加された。同項は,在勤地外にその住所を有する議会の議員が議会閉会中において,在勤地における委員会に出席した場合には,その費用弁償として,第3項の規定にかかわらず,1日の行程陸路に応じて区分した日額を支給するものと規定された。
上記改正については,県議会において,仙台市以外に住所を有する議員が1日限りの議会閉会中の委員会等に出席した場合の費用弁償等について定めようとするものであるとの説明がなされた。
(e) 特別職給与等条例は,平成9年に改正され(同年宮城県条例8号),12条4項が,その対象を在勤地にその住所を有する議員に限定していた部分を削除するとともに,費用の算定方法について,一律定額支給の方法から,1日の行程陸路に応じて区分した日額定額支給の方法へと変更された。そして,これに伴い,同条5項が削除された。
なお,上記改正後における1日の行程陸路に応じた日額の区分は以下のとおりであった。
50キロメートル未満 1万0800円
50キロメートル以上80キロメートル未満 1万2200円
80キロメートル以上120キロメートル未満 1万4100円
120キロメートル以上180キロメートル未満 1万6900円
180キロメートル以上 2万0200円
(f) 特別職給与等条例は,平成12年に改正され(同年宮城県条例95号),同条例の適用対象から県議会議員が除かれるとともに,新たに県議会議員の受ける報酬,期末手当及び費用弁償の額並びにその支給方法を定めた報酬等条例が,同年4月1日から施行された。報酬等条例6条は,上記aのとおり,特別職給与等条例12条の定めていた議員に支給する費用弁償について,同条とは異なる定めを設けたが,在勤地における会議に出席した場合の費用弁償については,上記(e)の同条4項と同一の規定を置いた。これが別表3である(報酬等条例6条5項)。
c 平成13年10月16日付け全国都道府県議会議長会「政務調査費の使途の基本的な考え方について」は,政務調査費の法制化がなされた約半年後に,政務調査費の使途の透明性の確保を図ることが強く要求されていることを受け,平成12年度全国議長会理事県の事務局長で構成される検討委員会から委任を受けた総務担当課長会が,各都道府県議会から提出された具体的事例について検討した結果の報告書である。
上記報告書においては,調査研究費(交通費)の考え方が,以下のとおり記載されている。
「政務調査費による交通費の支出は,政務調査活動が自発的活動であることから,実費弁償が原則であると考える。
日当とは,旅行中の昼食費及びこれに伴う諸経費並びに目的地内を巡回等する場合の交通費等を賄うための旅費である。
本来,公務のための旅行に要する費用の弁償という旅費の考え方からすれば,こうした経費も実費支給とすべきであるが,個々の公務旅行により,その実費は異なり,個々の実費を確認して支給することは煩雑なので定額をもって支給することとされているものと考えられる。
一方,政務調査活動は,議員の自発的意思に基づき行うものであり,いわば旅行者自身が旅費の支給権者であることから,一定の基準に基づく支給を行う必要なく現に要した費用を充当する,いわゆる実費によるのが望ましい。
その場合,宿泊費,交通費その他雑費の額及び内容は,社会通念上許容される範囲のものである必要がある。
なお,自動車利用の場合,政務調査活動に使ったガソリン代を厳密に算出することは難しいこと,また目的地域内の交通費等少額の支出証明等が調整しにくい等もあり,これらについて旅費条例による定額旅費を支給する方式を採用することにも合理的理由がある,とする意見もあった。その場合には,定額部分に含まれる経費を明確にしておく必要があろう。」
d 日本共産党宮城県議員団を除く各会派(各補助参加人)は,政務調査費が法制度化された直後に前記cの見解も踏まえて協議した結果,政務調査費の支出の基準として別表3を準用して用いることとした。
もっとも,補助参加人みやぎニューウェーブ,補助参加人自民クラブ及び補助参加人社会民主党宮城県議会議員会は,内部基準として,1日の行程陸路が50キロメートル未満の区分をさらに細分化し,行程陸路が25キロメートル未満の場合には5400円を支出することとしていた。
そして,本件調査研究費の金額は,基本的に,上記根拠に基づいて算出された。
e 平成17年10月3日の各会派代表者会議において,別表3の日額の算定根拠は,以下のとおりと説明されている。
(a) 50キロメートル未満の日額1万0800円の算定根拠
日当3300円+宿泊料1万4900円×1/2=1万0750円
(b) 50キロメートル以上80キロメートル未満の日額1万2200円の算定根拠
1万0750円+(80-50)×車賃47円=1万2160円
(c) 80キロメートル以上120キロメートル未満の日額1万4100円の算定根拠
1万0750円+(120-50)×車賃47円=1万4040円
(d) 120キロメートル以上180キロメートル未満の日額1万6900円の算定根拠
1万0750円+(180-50)×車賃47円=1万6860円
(e) 180キロメートル以上の日額2万0200円の算定根拠
1万0750円+(250-50)×車賃47円=2万0150円
f 各補助参加人所属の各議員が調査研究を行う際の移動手段としては,基本的に自家用車が使用されており,調査研究を行う際に現実にかかる経費は,ほとんどの場合,交通費(ガソリン代,有料道路通行料,駐車料等)のみである。本件調査研究についても同様であった。
(イ) 法100条13項が,政務調査費は,議会の議員の調査研究に資するために必要な経費として位置づけており,これを受けて,本件条例及び本件規程は,調査研究費の使途基準を県の事務及び地方行財政に関する調査研究並びに調査委託に要する経費と定めていることからすると,調査研究費の費用弁償の方法は,原則として,調査研究を行う際に現実に要した実費相当の費用を計算した上で,これを支給する実額方式によってなされるべきであるから,実費相当額を超える支出がなされた場合には,当該超過部分の支出は,原則として,上記使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠き,違法との評価を免れないというべきである。
しかるに,上記(ア)の事実によれば,各補助参加人は,実額方式によることなく,定額方式である別表3を準用して本件調査研究費を算定した上,これを支出したのであるから,本件調査研究費のうち,実額相当額を超える部分については,上記使途基準に反し,原則として違法といわざるを得ない。
これに対し,被告及び各補助参加人は,別表3を準用したことは合理的であると主張する。
しかし,当裁判所は,被告及び各補助参加人の上記主張を採用することはできない。その理由は,以下のとおりである。
a 確かに,調査研究費に係る個々の支出のすべてについて,現実に要した実費相当の費用を厳密に算出することは,具体的な支出に係る費目の種類(例えば,自家用車によって移動した場合のガソリン代等)及び金額,支出の頻度等によっては事務処理手続が煩雑になり,その結果,機動的な費用の支出が困難になったり事務処理手続のために多大な時間的,経済的負担を余儀なくされるなどの支障を生ずるおそれがあると考えられる。
したがって,費用弁償については,あらかじめ上記のような支障を生ずるおそれのある費用弁償の費目や支給事由を定め,それに該当するときには,現実に要した実費の額の多寡にかかわらず,標準的な実費である一定額を支給する定額方式によることも許容されるべきであり,この場合,標準的な実費とされる一定の額をどのような基準で算定するかについては,政務調査費の交付を受けた会派又は議員の合理的な裁量判断に委ねられていると解するのが相当である(もっとも,この裁量も無制限なものではなく,現実に要する実費の額と比較して標準的な実費の額が著しく高額であるなど,当該標準的な実費の額を支給する定額方式によることが社会通念上合理性を欠くと認められる場合には,その裁量の範囲を逸脱したものであって,違法との評価を免れないというべきである。)。
b 各補助参加人が本件調査研究費を算定する際に準用した別表3は,上記(ア)のとおり,県議会の議員が在勤地における会議に出席した場合に支給される日額について定めたものである。その立法経緯等を考慮すると,議員が県議会の会議に出席した場合の費用弁償については,当初は一般の旅費支給の例に準じて支給されていたが,会議出席のための旅費は,目的地が仙台市内の県議会議事堂に特定されている上,会議が毎年必ず一定の時期に一定の期間にわたって開催される性質のものであることから,会議出席日の旅費をその都度積算して費用弁償額を算出するよりも,定額の日額支給による方が合理的であると考えられ,その日額支給の対象となる議員の範囲が拡大されてきた(当初は,旅費額が少額となる仙台市内に居住する議員に限り日額支給が行われてきたが,平成9年の改正により,居住地による区別を止め,目的地である県議会議事堂からの距離によって区別された日額支給制度が導入された。)ことが窺える。また,日額の算定根拠である経費は,会議出席中の昼食費及びこれに伴う諸経費並びに目的地である県議会議事堂まで往復等する場合の交通費等を賄うための旅費である日当及び宿泊料(ただし,1日の宿泊料の2分の1)からなるものと認められる。
これに対し,議員の調査研究の対象及び方法は,前記のとおり多種多様であって,その目的地や実施日も一定ではないことに照らすと,日額支給を前提とした別表3とは基礎的条件が異なり,これを準用する合理性に欠けているといわざるを得ない。また,調査研究を行う際の移動手段としては,基本的に自家用車が使用されており,調査研究を行う際に実際にかかる経費は,ほとんどの場合,交通費(ガソリン代,有料道路通行料,駐車料等)のみであって,宿泊を伴うことはまれである。そうすると,別表3の日額の算定根拠である経費の内容には一律に宿泊料が含まれているのに対し,現実の調査研究費の経費の内容には宿泊料が含まれないのが通常である点で,調査研究費の算定の根拠として別表3を準用した場合には,現実に要する実費の額と比較して標準的な実費の額が宿泊料の分だけ著しく高額とならざるを得ず,調査研究費の算定の根拠として別表3を準用することは,その金額の点でも合理性を欠くことが明らかである。
c 自家用自動車を利用して調査研究活動を行う場合,調査活動に使ったガソリン代を厳密に算出することは確かに煩雑であるが,出発時点と帰宅時点の走行キロ数をトリップメーター等でチェックし,その間の走行キロ数に一定の金額を乗ずることによって,その概算を把握することは可能であるし,煩雑であるとも言えない。報酬等条例6条3項1号別表1は,正にこの方式により旅費の算定基準を定めている。そして,現実の調査研究費の経費の内容に宿泊料が含まれないのが通常である以上,宿泊を伴う調査研究が実施された場合には,調査研究費の費用弁償の実額清算の原則に照らし,その都度その宿泊料を積算して経費に計上するのが合理的というべきである。
(ウ) 本件条例及び本件規程の使途基準に反する金額について
a 補助参加人民主フォーラムについて
補助参加人民主フォーラムが平成15年4月に行った調査研究における移動距離の合計は,2647.5キロメートルであり,上記調査研究にかかる調査研究費の支出金額の合計は,66万5000円である(別紙3参照)。また,上記調査研究に際して,交通費以外の費用を現実に要したこと,実際の移動距離が上記移動距離以上であったこと又は別紙3記載の調査研究のほかに調査研究が行われたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
上記を前提に,上記調査研究費のうち,実額相当額を超えるために違法と認められる金額について検討するに,本件調査研究における実額相当額,すなわち交通費がいくらであったかを本件において提出された証拠に基づき認定することは困難を伴うことから,民事訴訟法248条の趣旨に照らして検討する。
報酬等条例6条3項1号・別表1は,議員の内国旅行の費用弁償について規定したものであり,このうち自家用自動車等を利用して旅行する場合の車賃の額は,1キロメートルにつき37円とされている。上記基準は自家用自動車等を利用した場合に現実に要する実費(交通費)等を考慮して算出されたものと考えられ,合理性を有する金額と認められることから,これを基準に計算すると,上記補助参加人民主フォーラムが平成15年4月に行った調査研究における移動距離の合計である2647.5キロメートルに対応する交通費は,9万7958円(小数点以下,四捨五入)と認めるのが相当である。
そうすると,補助参加人民主フォーラムが平成15年4月に支出した調査研究費合計額66万5000円のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額は,上記交通費9万7958円を超える56万7042円(上記合計額に対する割合は約85パーセント)と認められる。
b 補助参加人自由民主党・県民会議
補助参加人自由民主党・県民会議が平成15年4月に行った調査研究にかかる調査研究費の支出金額の合計は366万3810円である(別紙2参照)。もっとも,上記調査研究にかかる移動距離については,補助参加人自由民主党・県民会議によって明らかにされていないために不明である。
そこで,民事訴訟法248条の趣旨に照らして検討するに,上記調査研究に際して交通費以外の費用を現実に要したこと又は別紙2記載の調査研究のほかに調査研究が行われたことを認めるに足りる的確な証拠はないこと,補助参加人民主フォーラムが平成15年4月に支出した調査研究費のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額の割合(前記a)等の事情を考慮すると,補助参加人自由民主党・県民会議が平成15年4月に支出した上記調査研究費合計額のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額は,上記合計金額の約85パーセントである311万4239円と認めるのが相当である。
c 補助参加人みやぎニューウェーブ
補助参加人みやぎニューウェーブが平成15年4月に行った調査研究にかかる調査研究費の支出金額の合計は97万2020円である(別紙1参照)。もっとも,上記調査研究にかかる移動距離については,補助参加人みやぎニューウェーブによって,一部しか明らかにされていないために,全体の合計は不明である。
そこで,民事訴訟法248条の趣旨に照らして検討するに,上記調査研究に際して交通費以外の費用を現実に要したこと又は別紙1記載の調査研究のほかに調査研究が行われたことを認めるに足りる的確な証拠はないこと,補助参加人民主フォーラムが平成15年4月に支出した調査研究費のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額の割合(前記a),補助参加人みやぎニューウェーブでは別表3における1日の行程陸路が50キロメートル未満の区分をさらに細分化し,行程陸路が25キロメートル未満の場合には5400円を支出することとして,別表3をそのまま用いる場合よりも一定程度実費に近づける運用(ただし,支出合計金額に占める割合は数パーセント程度と推測される。)を行っていたこと等の事情を考慮すると,補助参加人みやぎニューウェーブが平成15年4月に支出した上記調査研究費合計額のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額は,上記合計額の約78パーセントである75万8176円と認めるのが相当である。
d 補助参加人自民クラブ
補助参加人自民クラブが平成15年4月に行った調査研究にかかる調査研究費の支出金額の合計は109万8050円である(別紙4参照)ところ,このうち,L議員が同月25日及び同月28日に行った政策研究会に係る調査研究費の支出(各1万6900円,合計3万3800円)は,前記3(4)イ(オ)aのとおり,違法と認められる。
しかしながら,その余の調査研究(調査研究費合計106万4250円)に係る移動距離については,補助参加人自民クラブによって明らかにされていないために不明である。
そこで,民事訴訟法248条の趣旨に照らして検討するに,上記調査研究に際して交通費以外の費用を現実に要したこと又は別紙4記載の調査研究のほかに調査研究が行われたことを認めるに足りる的確な証拠はないこと,補助参加人民主フォーラムが平成15年4月に支出した調査研究費のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額の割合(前記a),補助参加人自民クラブでは別表3における1日の行程陸路が50キロメートル未満の区分をさらに細分化し,行程陸路が25キロメートル未満の場合には5400円を支出することとして,別表3をそのまま用いる場合よりも一定程度実費に近づける運用を行っていたこと等の事情を考慮すると,補助参加人自民クラブが平成15年4月に支出した上記調査研究費合計額から違法な支出と認められる3万3800円を除いた金額のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額は,上記合計額の約78パーセントである83万0115円と認めるのが相当である。
したがって,補助参加人自民クラブが平成15年4月に支出した調査研究費のうち,違法な支出と認められる金額の合計は,86万3915円と認められる。
e 補助参加人21世紀クラブ・公明
補助参加人21世紀クラブ・公明が平成15年4月に行った調査研究にかかる調査研究費の支出金額の合計は113万6620円である(別紙5参照)。もっとも,上記調査研究にかかる移動距離については,補助参加人21世紀クラブ・公明によってごく一部しか明らかにされていないために,全体の合計は不明である。
そこで,民事訴訟法248条の趣旨に照らして検討するに,上記調査研究に際して交通費以外の費用を現実に要したこと又は別紙5記載の調査研究のほかに調査研究が行われたことを認めるに足りる的確な証拠はないこと,補助参加人民主フォーラムが平成15年4月に支出した調査研究費のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額の割合(前記a)等の事情を考慮すると,補助参加人21世紀クラブ・公明が平成15年4月に支出した上記調査研究費合計額のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額は,上記合計金額の約85パーセントである96万6127円と認めるのが相当である。
f 補助参加人社会民主党宮城県議会議員会
補助参加人社会民主党宮城県議会議員会が平成15年4月に行った調査研究にかかる調査研究費の支出金額の合計は48万9604円である(別紙6参照)。もっとも,上記調査研究にかかる移動距離については,補助参加人社会民主党宮城県議会議員会によって明らかにされていないために不明である。
そこで,民事訴訟法248条の趣旨に照らして検討するに,上記調査研究に際して交通費以外の費用を現実に要したこと又は別紙6記載の調査研究のほかに調査研究が行われたことを認めるに足りる的確な証拠はないこと,補助参加人民主フォーラムが平成15年4月に支出した調査研究費のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額の割合(前記a),補助参加人社会民主党宮城県議会議員会では別表3における1日の行程陸路が50キロメートル未満の区分をさらに細分化し,行程陸路が25キロメートル未満の場合には5400円を支出することとして,別表3をそのまま用いる場合よりも一定程度実費に近づける運用を行っていたこと等の事情を考慮すると,補助参加人社会民主党宮城県議会議員会が平成15年4月に支出した上記調査研究費合計額のうち,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反する違法な支出金額は,上記合計額の約78パーセントである38万1891円と認めるのが相当である。
4 争点(3)(被告が,各補助参加人に対して不当利得返還請求権の行使を怠っていることが違法か。)について
前記3のとおり,各補助参加人が支出した本件調査研究費の一部については,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反し違法と認められるところ,本件条例11条は,被告である知事は,会派が交付を受けた政務調査費による支出の総額から使途基準に従って行った支出を控除した金額に相当する額について,返還を命じることができると定めている。本件条例及び本件規程は,政務調査費を使途基準に従って使用すべきことを定めていることからすると,会派は,交付を受けた政務調査費による支出の総額から使途基準に従って行った支出を控除した金額については,法律上の原因なく利得していることになるから,県に対し,上記控除後の金額相当額を不当利得として返還すべき義務を当然に有しているというべきであり,本件条例11条は,このような不当利得返還義務の存在を前提として,その返還の手続を定めた規定であると解される。
そして,会派に不当利得返還義務が生じている場合には,被告は,当該会派に対し,本件条例11条の規定に従って,不当利得返還義務のある金額の返還を命じることが求められているのであるから,本件において,被告が,各補助参加人に対し,本件条例及び本件規程が定める使途基準に反して違法と認められる金額に相当する額の返還命令を怠っていることは違法といわざるを得ない。
5 以上によれば,原告の請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 潮見直之 裁判官 近藤幸康 裁判官 千葉直人)
(別紙添付省略)