仙台地方裁判所 平成16年(わ)664号 判決 2005年9月06日
主文
被告人を懲役17年に処する。
未決勾留日数中280日をその刑に算入する。
理由
(犯行に至る経緯)
被告人は,両親の離婚後,母親と妹の三人で生活していたが,平成11年9月,母親が,子どもを自宅で出産しようとして,その後,容態が悪化して死亡したことから,母親を嬰児に殺されたとの気持ちを抱き,子どもに対し憎しみを感じるようになった。
被告人は母親の死後,一時は伯母に引き取られたものの,職を転々としながら一人暮らしをし,やがて,友人宅を泊まり歩く住居不定の状態となり,平成14年4月ころから無職であった。
被告人は,平成14年5月末ころ,Aと知り合って,直ぐにAの居住するアパートで同棲するようになり,当初は美容師見習いをしていたAの収入で生活していたが,平成15年4月30日長男Bを出産したことから結婚した。しかし,被告人は,上記のとおり子供に対する嫌悪感から,出生後間もないBを平手で叩くなどしたため,Aは,Bを実家に預け,都合のつかない時だけ,自宅に連れてくるようにし,同年8月ころ,Aの実家にAの実母らと住むようになってからも,Bの世話をAの実母らに任せて,被告人は夜間勤務の仕事に就いていると嘘をつき,夫婦共々仕事もせずに実家の世話になり,遊び暮らしていた。
平成16年1月ころ,Aが第二子を妊娠し既に堕胎もできない状態であることを知るや,被告人は,Aの賛同を得て,気詰まりな実家を出て家族4人で生活することとし,第二子の妊娠をAの両親らに秘匿したまま,同年5月21日,Aに二男Cを出産させ,退院後,AにCを友人や保育園に預けさせて引っ越し先を探させ,同年6月10日,一家で肩書住居地に転居した。しかし,転居のため借金して得た資金や出産祝い金も直ぐに少なくなり,転居後間もなくの同年6月13日ころから被告人は,BとCの泣き声などの些細なことで苛立ちを募らせて,毎日のようにBとCを叩くようになった。被告人は,Cがぐずると苛立ち,何で自分は嫌いな子供の面倒を見ているのか,泣けば何とかなると思っているのかとCに対する憎しみを募らせていたが,殺害自体は我慢して手加減してCを殴打していた。
平成16年6月21日,被告人は,Cの泣き声を聞き,Cの顔面を平手で叩いたところ,Cが大声で泣き始めたことからさらに苛立ち,これまで手加減をしてきたことに我慢できず,本気で叩いてCを殺害することを決意した。
(罪となるべき事実)
被告人は
第1 上記経緯により,平成16年6月21日ころ,宮城県a市b町所在の被告人方居宅において,C(当時1ヶ月)に対して,殺意をもって,その顔面を平手で数回殴打し,よって,そのころ,同所において,Cを頭蓋内損傷又は頚髄損傷により死亡させて殺害し
第2 上記犯行を隠蔽するため,Aと共謀の上,同月25日ころ,同県志田郡c町所在のD方敷地内において,Cの死体を焼却炉で焼損させた上,土中に埋没させ,もって死体を損壊・遺棄し
第3 第1の犯行後も,子どもに対する嫌悪感に加え,金銭に困窮していたことによる苛立ちなどから,日常的にBに対し,食事の回数を減らしたり,顔面を殴打するなどの暴行を加えたりして折檻を繰り返していたが,同年7月27日午後3時ころ,Bの態度に激昂し,上記被告人方居宅において,殺意をもって,B(当時1歳3ヶ月)に対し,その顔面及び頭部を手拳で殴打するなどし,よって,そのころ,同所において,Bを頭蓋内損傷又は頚髄損傷により死亡させて殺害し
第4 前記第3の犯行を隠蔽するため,Aと共謀の上,同日,前記被告人方居宅において,Bの死体をプラスチック製衣装ケースに入れて同居宅西側押入れに隠し,もって死体を遺棄し
たものである。
(法令の適用 省略)
(量刑の理由)
本件は,被告人が,生後間もないCに対し,殺意をもってその顔面を平手で殴打する暴行を加えて殺害し(判示第1),妻と共謀してその死体を焼損して土中に埋め(判示第2),その約1ヶ月後に,殺意をもって1歳のBの頭部や顔面を手拳で殴打するなどしてBを殺害し(判示第3),妻と共謀して死体を遺棄した(判示第4)という,殺人2件と死体損壊・遺棄2件の事案である。
被告人は,無為徒食の生活を送っていたところ,妻と知り合うや同棲し,妻の収入で生活し,自ら真剣に求職もせず,B誕生後はその養育を妻の母親に任せきりにし,妻の実家の世話になって遊び暮らし,妻の親族との同居生活にストレスを募らせて転居し,C誕生後も妻に借金をさせて生活しながら,その生活資金が少なくなるや,被害児の泣き声等に苛立ちを募らせて,わずか生後1ヶ月のCに対して,日常的に平手打ちなどの暴行を加え,1歳のBに対しては,暴行を加えていただけではなく,食事を減らしたり,暑い日にB一人を家に残したまま外出するなどの折檻を繰り返した挙げ句,殺害するという本件各犯行に及んだもので,本来被告人は父親として被害者2名を慈しみ,保護すべき立場にあるのに,気ままに暮らしたいという我がままな欲求のために我が子を邪魔者扱いにするという被告人の各犯行は,極めて非人間的で自己中心的なものとして厳しく非難されなければならない。
本件各犯行の態様をみても,殺人については,確実に死に至るとの認識を持ちながら,全く抵抗することのできない両名に対し,Cに対しては,力を込めて顔面に掌を打ち当て,Bに対しては,頭部や顔面,こめかみを手拳で強打し,頭蓋内又は頚髄に甚大な傷害を負わせて死亡させたものであり,いずれの殴打行為も,乳幼児である被害児らに大きな衝撃と苦痛をもたらす悪質な行為といわざるを得ない。そして,被害児らに対する死体の遺棄も,それぞれの遺体を生前の姿を忍ばせるものがないほど,焼損させ,もしくは腐敗するまで放置したもので,およそ人に対する尊厳の念や両名に対する愛情は感じられない。
その結果,二人の乳幼児の尊い生命が奪われたことが重大であることはいうまでもない。Cは,生後わずか1ヶ月で,日々虐待を受け,一方的に暴行を受けてこの世を去り,無限の将来を奪われ,Bは,被告人の転居前は,祖母らの愛情を受け,健やかに成長していたのに,一転していわれのない折檻に日々苦しめられ,飢えや苦痛の中でその短い一生を終えたのであり,その一生は誠に哀れであって結果は極めて重大である。したがって,Bに対して深い愛情を注いでいた祖母らが,被告人に対して厳罰を望んでいるのは至極当然である。
以上の事情によれば,被告人の刑事責任は極めて重い。
一方,被告人が,子どもを嫌悪するに至ったのは,特異な生育歴に基づくものであること,現在では,被害児らに対して悪いことをしたと思っていると述べるなど,徐々にではあるが,反省の情を示しつつあること,被告人が若年であり,前科前歴がないことなど被告人に有利に斟酌すべき事情も認められる。
よって,以上の諸般の事情を総合して,被告人を主文のとおりの刑に処することとした。
(求刑―懲役20年)
(裁判長裁判官 卯木誠 裁判官 鈴木信行 裁判官 大木美結己)