仙台地方裁判所 平成17年(ワ)134号 判決 2007年5月08日
原告
株式会社 今野建設
同代表者代表取締役
今野幸衛
他3名
上記四名訴訟代理人弁護士
関葉子
同
関聡介
被告
村田町
同代表者町長
佐藤洋治
同訴訟代理人弁護士
村上敏郎
主文
一 被告は、原告株式会社今野建設に対し、六九八万五〇〇〇円及びこれに対する平成一七年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告は、原告株式会社小川組に対し、七〇七万四〇〇〇円及びこれに対する平成一七年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 被告は、原告大沼舗設株式会社に対し、三九〇万一〇〇〇円及びこれに対する平成一七年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 被告は、原告小山産業株式会社に対し、三六九万四〇〇〇円及びこれに対する平成一七年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
五 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
六 訴訟費用は、原告株式会社今野建設と被告との間に生じた費用の一〇分の八を原告株式会社今野建設の負担とし、原告株式会社小川組と被告との間に生じた費用の一〇分の六を原告株式会社小川組の負担とし、原告大沼舗設株式会社と被告との間に生じた費用の一〇分の七を原告大沼舗設株式会社の負担とし、原告小山産業株式会社と被告との間に生じた費用の一〇分の三を原告小山産業株式会社の負担とし、その余を被告の負担とする。
七 この裁判は、第一項ないし第四項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
(1) 被告は、原告株式会社今野建設に対し金二九八八万円及びこれに対する平成一七年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告株式会社小川組に対し金一六八九万円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告大沼舗設株式会社に対し金一三八三万円及びこれに対する同日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告小山産業株式会社に対し金五二〇万円及びこれに対する平成一七年三月二日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(1) 原告らの請求をいずれも棄却する。
(2) 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二事案の概要
本件は、被告が実施する指名競争入札の参加資格を有する建設業者である原告らが、被告から、平成一五年四月以降、恣意的に、町の発注する建設工事の指名を回避されたとして、被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、受注を受けていたならば得べかりし利益相当額の損害賠償及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
一 争いのない事実等(証拠等を掲げたもののほかは、当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告株式会社今野建設(以下「原告今野建設」という。)、原告株式会社小川組(以下「原告小川組」という。)、原告大沼舗設株式会社(以下「原告大沼舗設」という。)、原告小山産業株式会社「以下「原告小山産業」といい、上記原告四名を併せて「原告ら」という。)は、いずれも村田町内に本店を有する建設業者である。
イ 被告代表者町長である佐藤洋治(以下「佐藤町長」という。)は、平成一一年五月に行われた村田町町長選挙で初当選し、平成一五年四月に再選された。
(2) 指名競争入札に関する法令の定め等
ア 地方自治法(昭和二二年法律第六七号)
契約の締結(地方自治法二三四条)
(ア) 売買、賃貸、請負その他の契約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする(一項)。
(イ) 指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができる(二項)。
(ウ) 一般競争入札又は指名競争入札(以下、一般競争入札と指名競争入札を併せて「競争入札」という。)に加わろうとする者に必要な資格、競争入札における公告又は指名の方法、随意契約及びせり売りの手続その他契約の締結の方法に関し必要な事項は、政令でこれを定める(六項)。
イ 地方自治法施行令(昭和二二年政令第一六号)
(ア) 指名競争入札(一六七条)
地方自治法二三四条二項の規定により指名競争入札によることができる場合は、次に掲げる場合とする。
a 工事又は製造の請負、物件の売買その他の契約でその性質又は目的が一般競争入札に適しないものとするとき。
b その性質又は目的により競争に加わるべき者の数が一般競争入札に付する必要がないと認められる程度に少数である契約をするとき。
c 一般競争入札に付することが不利と認められるとき。
(イ) 一般競争入札の参加者の資格
a 普通公共団体は、特別の理由がある場合を除くほか、一般競争入札に当該入札に係る契約を締結する能力を有しない者及び破産者で復権を得ない者を参加させることができない(一六七条の四第一項)。
b 普通公共団体は、次の一に該当すると認められる者をその事実があった後二年間一般競争入札に参加させないことができる(同条二項)。
(a) 契約の履行に当たり、故意に工事若しくは製造を粗雑にし、又は物件の品質若しくは数量に関して不正の行為をした者
(b) 競争入札又はせり売りにおいて、その公正な執行を妨げた者又は公正な価格の成立を害し、若しくは不正の利益を得るために連合した者
(c) 落札者が契約を締結すること又は契約者が契約を履行することを妨げた者
(d) 地方自治法二三四の二第一項の規定による監督又は検査の実施に当たり職員の職務の執行を妨げた者
(e) 正当な理由がなくて契約を履行しなかった者
(f) (a)ないし(e)の一に該当する事実があった後二年を経過しない者を契約の履行に当たり代理人、支配人その他の使用人として使用した者
c 普通地方公共団体の長は、上記に定めるもののほか、必要があるときは、一般競争入札に参加する者に必要な資格として、あらかじめ、契約の種類及び金額に応じ、工事等の実績、従業員の数、資本の額その他経営の規模及び状況を要件とする資格を定めることができる(一六七条の五第一項)。
d 普通地方公共団体の長は、前項の規定により一般競争入札に参加する者に必要な資格を定めたときは、これを公示しなければならない(同条二項)。
(ウ) 指名競争入札の参加者の資格(一六七条の一一)
a 地方自治法施行令一六七条の四の規定は、指名競争入札の参加者の資格についてこれを準用する(一項)。
b 普通地方公共団体の長は、前項に定めるもののほか、指名競争入札に参加する者に必要な資格として、工事又は製造の請負、物件の買入れその他当該普通地方公共団体の長が定める契約について、あらかじめ、契約の種類及び金額に応じ、地方自治法施行令一六七条の五第一項に規定する事項を要件とする資格を定めなければならない(二項)。
c 一六七条の五第二項の規定は、前項の場合にこれを準用する。(三項)
(エ) 指名競争入札の参加者の指名等(一六七条の一二)
普通公共団体の長は、指名競争入札により契約を締結しようとするときは、当該入札に参加することができる資格を有する者のうちから、当該入札に参加させようとする者を指名しなければならない(一項)。
ウ 公共工事の入札及び適正化の促進に関する法律(平成一二年法律第一二七号)
地方公共団体の長は、政令で定めるところにより、入札の参加者の資格を定めた場合における当該資格、指名競争入札における指名した者の商号又は名称その他の政令で定める公共工事の入札及び契約の過程に関する事項を公表しなければならない(八条一号)。
エ 公共工事の入札及び適正化の促進に関する法律施行令(平成一三年政令第三四号)
地方公共団体の長は、地方自治法施行令一六七条の一一第二項に規定する指名競争入札に参加する者に必要な資格及び当該資格を有する者の名簿、指名競争入札に参加する者を指名する場合の基準を定め、又は作成したときは、遅滞なく、当該事項を公表しなければならない。これを変更したときも、同様とする。(七条一項二号、三号)
オ 村田町建設工事執行規則(平成八年一〇月二日村田町規則第一〇号)
(ア) 競争入札の参加者の資格(四条)
a 競争入札に参加しようとする者(以下「申込者」という。)は、地方自治法施行令第一六七条の四の規定に該当する者であってはならない(一項)。
b 町長は、前項に定めるもののほか、申込者に必要な資格として、あらかじめ、契約の種類及び金額に応じ、工事等の実績、従業員の数、資本の額その他経営の規模及び状況を要件とする資格の基準を別に定める(二項)。
(イ) 入札参加の申込み等(五条)
a 競争入札参加の申込みの受付は、隔年ごとに行う(一項)。
b 申込者は、建設工事参加資格審査申請書に、必要な添付書類を添えて町長に提出しなければならず(二項)、町長は、これを受理したときは、四条の規定に基づき審査し、適切と認めた場合は、参加資格を承認し、建設工事入札参加資格承認書を交付する(四項)。
c 上記承認を受けた者は、町長が指定した二会計年度に限り、競争入札に参加する資格を有する(五項)。
(ウ) 指名競争入札の指名等(七条)
工事執行者(町長又はその委任を受けて工事に関する契約を締結し、執行する者)は、指名競争入札による契約を締結しようとするときは、当該入札に参加することができる資格を有する者のうちから、原則として五人以上指名しなければならない(一項)。
カ 建設工事指名競争入札参加者指名基準(平成八年一〇月二日村田町告示第三五号、以下「被告指名基準」という。)
(ア) 指名の基準(二条)
入札参加者の指名は、発注工事の種類ごとに格付基準(工事種類ごとに、町内業者と町外業者とに分けて、当該業者に付された点数に応じ、等級をA又はBと定めるもの。)及び発注標準設計額(等級Aの業者は二〇〇〇万円以上、等級Bの業者は二〇〇〇万円未満の設計額とする。)の等級に属する有資格者の中から行う。指名の数は、設計額に応じ、一〇〇〇万円未満の場合はおおむね五業者、一〇〇〇万円以上三〇〇〇万円未満の場合はおおむね六業者、三〇〇〇万円以上一億円未満の場合はおおむね七業者、一億円以上の場合はおおむね一〇業者とする(一項)。
(イ) 入札参加者の指名(三条一項、二項)
a 次に該当する場合は、指名する要件として考慮する。
(a) 工事成績が特に優秀であると認められるとき。
(b) 安全管理及び労働福祉の状況が優秀と認められるとき。
b 次に該当する場合は、指名しない要件として考慮する。
(a) 不誠実な行為が認められるとき。
(b) 経営状況が不健全と認められるとき。
(c) 安全管理及び労働福祉の状況が不適切と認められるとき。
c 以上の他、過去の工事実績等、手持ち工事及び技術者の適正配置並びに当該工事に対する地域特性及び技術的特性を総合的に勘案する。
(ウ) 建設工事指名競争入札参加者指名基準三条一項及び二項の運用基準(以下、「被告運用基準」という。)
a 「工事成績が特に優秀であると認められるとき」について
町発注工事に関し、過去二年以内において工事成績調書による点数が平均八〇点以上であること等、工事成績が特に優良である場合は、これを十分尊重すること。
b 「安全管理及び労働福祉の状況が優秀と認められるとき」について
建設業労働災害防止協会等に加入しており、安全管理及び労働福祉に対する取組みが特に優秀と認められるとき。
c 「不誠実な行為が認められるとき」について
(a) 工事請負契約書に基づいての工事関係者に対する措置要求に従わない状態が継続しているとき。
(b) 一括下請・下請代金の支払遅延・特定資材等の購入強制等について、関係行政機関の情報により請負者の下請契約が不適切であることが明白であること。
(c) 警察当局から町長に対し、暴力団員が実質的に経営を支配する建設業者又はこれに準ずるものとして、公共工事からの排除要請があり、当該状態が継続している場合等明らかに請負者として不適当であると認められること。
d 「経営状況が不健全と認められるとき」について
手形交換所による取引停止処分、主要取引先からの取引停止等の事実があり、経営状態が著しく不健全であること。
e 「安全管理及び労働福祉の状況が不適切と認められるとき」について
(a) 町内の工事について、安全管理の改善に関し労働基準監督署からの指導があり、これに対する改善を行わない状態が継続しているとき。
(b) 賃金不払について、労働基準監督署からの通報があり、当該状態が継続しているとき。
f 「過去の工事実績等」について
町発注工事に係る過去の工事実績及び指名等を総合的に勘案する。
g 「手持工事及び技術者の適正配置」について
当該地域における工事の手持ち状況から見て、有資格技術者の適正配置等、当該工事を施工する能力があるかどうかを総合的に勘案する。
h 「当該工事に対する地域特性及び技術的特性」について
(a) 本店・支店等の所在地及び当該地域での工事実績から見て、当該地域における工事の施工特性に精通し、工種及び工事規模等に応じて当該工事を確実かつ円滑に実施できる体制が確保できるかどうかを勘案する。
(b) 同種工事及び地形・地質等同種の条件下での工事の施工実績の有無等、当該発注工事に対する技術的特性について勘案する。
キ 村田町契約業者指名委員会規則(昭和五一年八月二〇日村田町訓令第五号)
(ア) 被告が施行する契約を指名競争入札によろうとする場合の業者の指名等に関する事項等を審議するために、村田町契約業者指名委員会(以下「指名委員会」という。)を置く(一条、四条(2))。
(イ) 指名委員会の委員長は、助役をもってこれに充て、委員(以下「指名委員」という。)は、総務課長、企画財政課長、建設課長、農林振興課長、管財課長及び水道事業課長をこれに充てる(二条、三条)。
(ウ) 契約要求主管課長は、当該契約が指名競争入札による場合は、一般競争入札参加資格者名簿を検討の上、指名業者内申書及び契約の概要を明記した契約概要調書を総務課長に提出した上で、指名委員会の会議に出席し、内申の内容を説明する(六条、七条)。議事は出席した委員の過半数をもって決する(五条四項)。
(3) 原告らは、平成一五年度及び平成一六年度において、被告が実施する競争入札の参加資格の承認を得ていたが、指名委員会は、平成一五年四月から平成一七年一月までの期間に実施した指名競争入札において、原告らを指名しなかった(以下「本件指名回避」という。)。
二 争点
(1) 本件指名回避の違法性の有無
(2) 原告らの損害額
三 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(本件指名回避の違法性の有無)について
ア 原告らの主張
(ア) 原告らは、いずれも昭和四〇年代又は五〇年代から、町内建設業者として被告の指名を受けて入札に参加する資格を認められ、被告が発注する多くの建設工事を受注、施工してきたが、平成一一年五月に佐藤町長が被告町長に就任するや、同年四月の町長選挙で佐藤町長を応援した業者と応援しなかった業者との差別がされ、応援しなかった原告らに対する指名回避が行われるようになった。そして、原告らに対する差別は年を追うごとに大きくなった。平成一五年四月の町長選挙では、原告らは表向きの活動を控えたが、原告らは、平成一五年四月から平成一七年一月までの一年一〇か月の間、誰もが嫌がる委託業務である除雪作業の他には、どの工事に対する入札参加の指名もされなかった。
(イ) 原告らに対する本件指名回避に当たり、告知、聴聞、弁明の機会の付与といった正式な手続は一切履践されていない。
(ウ) 原告らに対する本件指名回避の実質的な理由は、原告らが平成一四年九月吉日付けで村田町議会議員宛に村田町の指名業者の選定が不公正であることを批判した内容の文書(乙七。以下「本件文書」という。)を送付したことにある。被告が主張する他の理由は後付けで考えたとしか認められない。もっとも、本件文書は、客観的に見て誹謗中傷文書とはいえないし、仮に誹謗中傷性があることを前提にしても、被告指名基準及び被告運用基準に該当する記載部分はなく、指名回避の根拠にはなり得ない。
(エ) 原告今野建設らによる固定資産税の納税拒否は、以下に述べるように、本件指名回避の合理的根拠にはならない。
原告今野建設と今野幸衛は、平成一〇年九月一〇日、町道高田関場線改良に伴い、被告に所有地を売却したが、被告は、上記売買代金の一部しか支払わなかった。
また、平成五年九月、今野幸衛は、被告の要請により、雇用促進住宅用地にするため、原告今野建設の関連会社である株式会社今野興業(以下「今野興業」という。)が住宅地として開発し分譲する予定地の一部を被告に売却し、その際、被告との間で、上記開発予定地が袋地にならないように、被告が必要な道路を開発・整備すること等を約束する内容の覚書を締結したが、被告は、覚書の履行を故意に遅らせたため、今野興業では開発した宅地の販売ができず、約四〇〇〇万円の損害を被った。加えて、上記土地開発によって作られた道路や公園の土地の所有権は、契約上、被告に帰属することになっており、今野興業は、所有権移転のための手続を取ろうとしたが、被告は必要な書類を発行せず約一年間放置し続けたため、今野興業は、払わなくてよいはずの固定資産税を不当に課税された。
原告今野建設、今野興業及び今野幸衛は、被告による上記不当な作為、不作為に対する抗議のため、平成一四年五月以来、固定資産税の納税を一時的に拒絶した。もっとも、原告今野建設は、平成一四年分の固定資産税の一部の納税を最大六か月弱の間見合わせたに止まる。また、今野興業及び代表者今野幸衛の租税滞納を指名回避の理由とすることにはより慎重な検討が必要であるところ、そのような検討がなされた気配は全くない。さらに、原告今野建設らが納税を一部見合わせるに至った理由には相応の合理的理由が認められる。
(オ) 被告は、原告今野建設及び原告大沼舗設が談合を自認したことを本件指名回避の理由とするが、このような事実は認められず、上記事実は指名回避の合理的根拠にはなり得ない。
(カ) 被告が主張する原告小山産業が入札を辞退したことは事実であるが、指名されても入札をすることは義務ではない。原告小山産業が入札を辞退したのは被告が一度に二二件もの指名を入れたことによるのであり、責任を持って対応できる件数に絞って入札するのはむしろ誠実な対応である。原告小山産業が入札を辞退するに当たっても、所定の文書で辞退届を提出しており、上記入札辞退をもって本件指名回避の根拠とすることは許されない。
(キ) 被告が主張する、原告小川組が、カケストヤ線の道路法面のコンクリートブロック積工事において、被告の指示により修正工事をしたことは事実であるが、その修正内容は、ブロック表面の化粧直しに限られるものであって、ブロック積みの構造や性能にかかる問題ではないから、施工不良というべきものではなく、本件指名回避の合理的根拠にはならない。
また、被告小川組が、介護予防施設の工事において、契約の工期内に施工完了できなかったことは事実であるが、施設の特殊性もあり、また、被告の了承の上で工期を延長しているのであって、被告に具体的損害は生じておらず、本件指名回避の合理的根拠にはならない。
(ク) 以上のように、原告らを指名回避する正当な理由がなく、かつ、指名回避することの理由を説明せず、指名回避の通知すら行っていないこと、平成一五年四月から平成一七年一月までの一年一〇か月の期間、原告らに対する指名がなされていないという極端な差別の実態からすると、被告の本件指名回避行為が裁量権の範囲の踰越又は濫用に該当し、違法であることは明らかである。
イ 被告の主張
(ア) 原告らに平成一五年四月から平成一七年一月までの間の指名がない理由
a 原告今野建設
平成一四年八月二八日付けの河北新報において、被告の公共工事の談合疑惑が報道されたことを受け、被告は、村田町公正入札調査委員会(以下「調査委員会」という。)による調査を行ったが、原告今野建設は、同委員会による事情聴取において、過去に談合の経験があったことを自認するとともに、上記談合疑惑への関与を示唆した。
また、原告今野建設は、平成一四年九月、他の原告らと連名で、被告町議会議員全員に対し、いわゆる官製談合があったかのような内容を記載し、町長及び指名委員長である助役を誹謗中傷する本件文書を送付した。
さらに、原告今野建設は、平成一四年度中、法人固定資産税を三期連続して延納しており、原告今野建設代表者である今野幸衛及び同人が代表者を務める今野興業も平成一四年度以降の固定資産税を滞納し、これらの滞納総額は二〇〇〇万円を超えるが、被告の再三の督促にも応じない。
b 原告小川組
原告小川組は、前記のとおり、他の原告らとともに、被告の町政を誹謗中傷する本件文書を配布した。
また、原告小川組は、平成一三年度に被告から受注した道路災害復旧工事が粗悪工事であったため、被告から手直し工事を命じられており、加えて、平成一四年一二月完成期限の介護予防拠点施設建設工事について、履行を遅滞した。
なお、原告小川組は、平成一三年度から経営事項審査点数がBランクに降格しており、基本的に二〇〇〇万円以上の工事は指名対象外となったことも受注額減少の理由である。
c 原告大沼舗設
原告大沼舗設は、前記談合疑惑の調査委員会において、過去に談合を行った事実を認めた。
また、原告大沼舗設は、前記のとおり、他の原告らとともに、被告の町政を誹謗中傷する本件文書を配布した。
d 原告小山産業
原告小山産業は、前記談合疑惑の調査委員会において、過去に談合をしていたことを認めた。
また、原告小山産業は、前記のとおり、他の原告らとともに、被告の町政を誹謗中傷する本件文書を配布した。
さらに、原告小山産業は、平成一五年一月二九日ないし三〇日の入札に当たり、二二件の指名を受けたにもかかわらず、一二件もの入札を辞退した。
(イ) 原告らの上記行為は、被告指名基準三条一項にいう指名しない要件として考慮事項である「不誠実な行為が認められるとき」に該当するから、これらを原告らを指名しない要件として考慮したものであって、本件指名回避には正当な理由があるから、裁量権の濫用は認められない。
(2) 争点(2)(原告らの損害額)について
ア 原告らの主張
(ア) 原告今野建設の損害
原告今野建設が、佐藤町長の前町長である櫻中良壽町長(以下「櫻中町長」という。)の時代である平成五年度から平成一〇年度までの六年間に被告から受注した工事高は一六億二九三〇万円であり、この期間における被告の発注総額の約二二パーセントを占める。被告の平成一五年度発注総額八億五四八九万円のうち、町内業者の受注総額八億二五二九万円をもとに、上記割合で平成一五年度における原告今野建設の想定受注額を算出すると、一億八一五六万三八〇〇円となる。
そして、平成五年度から一〇年度までの六年間の原告今野建設の平均利益率(完成工事高/売上総利益)は一一・四パーセントであるから、この割合で平成一五年度の被告からの上記想定受注分の総利益を算出すると、約二〇六九万円となる。
同様の方法で、平成一六年度の総利益を計算すると、約九一九万円となる。
したがって、平成一五年度及び平成一六年度における原告今野建設の逸失利益の喪失額は、二九八八万円となる。
(イ) 原告小川組の損害
原告小川組が、平成五年度から平成一〇年度までの六年間に被告から受注した工事高は六億一〇八三万円であり、この期間における被告の発注総額の約八・二パーセントを占める。被告の平成一五年度発注総額八億五四八九万円のうち、町内業者の受注総額八億二五二九万円をもとに、上記割合で平成一五年度における原告小川組の想定受注額を算出すると、六七六七万三七八〇円となる。
そして、平成五年度から一〇年度までの六年間の原告小川組の平均利益率(完成工事高/売上総利益)は一七・三パーセントであるから、この割合で平成一五年度の被告からの上記想定受注分の総利益を算出すると、約一一七〇万円となる。
同様の方法で、平成一六年度の総利益を計算すると、約五一九万円となる。
したがって、平成一五年度及び平成一六年度における原告小川組の逸失利益の喪失額は、一六八九万円となる。
(ウ) 原告大沼舗設の損害
原告大沼舗設が、平成五年度から平成一〇年度までの六年間に被告から受注した工事高は五億五〇五三万円であり、この期間における被告の発注総額の約七・四パーセントを占める。被告の平成一五年度発注総額八億五四八九万円のうち、町内業者の受注総額八億二五二九万円をもとに、上記割合で平成一五年度における原告大沼舗設の想定受注額を算出すると、六一〇七万一四六〇円となる。
そして、平成五年度から一〇年度までの六年間の原告大沼舗設の平均利益率(完成工事高/売上総利益)は、一五・七パーセントであるから、この割合で平成一五年度の被告からの上記想定受注分の総利益を算出すると、約九五八万円となる。
同様の方法で、平成一六年度の総利益を計算すると、約四二五万円となる。
したがって、平成一五年度及び平成一六年度における原告大沼舗設の逸失利益の喪失額は、一三八三万円となる。
(エ) 原告小山産業
原告小山産業が、平成五年度から平成一〇年度までの六年間に被告から受注した工事高は一億七七〇〇万円であり、この期間における被告の発注総額の約二・四パーセントを占める。被告の平成一五年度発注総額八億五四八九万円のうち、町内業者の受注総額八億二五二九万円をもとに、上記割合で平成一五年度における原告小山産業の想定受注額を算出すると、一九八〇万六九六〇円となる。
そして、平成五年度から一〇年度までの六年間の原告小山産業の平均利益率(完成工事高/売上総利益)は一八・二パーセントであるから、この割合で平成一五年度の被告からの上記想定受注分の総利益を算出すると、約三六〇万円となる。
同様の方法で、平成一六年度の総利益を計算すると、約一六〇万円となる。
したがって、平成一五年度及び平成一六年度における原告小山産業の逸失利益の喪失額は、五二〇万円となる。
(オ) 平成一一年に佐藤町長が就任してから、町長選挙に協力しなかった原告らは指名回避されることが多くなり、受注高は激減した。そのため原告らは、やむなく会社の存続をかけて利益の少ない遠方の事業を受注せざるを得ず、この間の利益率は低下していたのであるから、平成一一年以降の実績を基準に損害額の算定の基礎である平均利益率を算定することは誤りである。
イ 被告の主張
否認ないし争う。
平成五年四月以降における被告の発注総額及び原告らの各受注実績は、別紙「村田町総額発注高・業者別受注高推移」表の下段の数字のとおりであり、原告らの主張は事実と異なる。
また、原告らは、櫻中町長時代の工事受注率(平成五年度から平成一〇年度)を基礎に損害額を計算しているが、上記期間における原告らの工事受注率は、その前町長(大沼町長)の時代と比較してもなぜか際だって高くなっており、上記期間の受注割合を算定の基礎とすることには問題がある。
さらに、被告は、平成一一年度から公正な競争入札の促進を図り、入札談合の温床と指摘される地域優先発注を改善して、それまでは指名業者を町内業者にほぼ限定していたものを、近隣市町の建設業者も含めて指名選考している。また、財政危機に伴う政府の公業事業削減政策等によって被告の公共工事発注額は減少しており、これらが原告らの指名件数、受注率等の減少につながっている。したがって、平成五年度ないし一〇年度における原告らの受注率等を平成一一年度以降に適用することは誤りである。
第三争点に対する判断
一 争点(1)(本件指名回避の違法性の有無)について
当裁判所は、被告が原告らに対して行った本件指名回避は、指名競争入札における業者の指名に係る被告の裁量権の範囲を超え又はこれを濫用したものであって、いずれも違法であると判断する。理由は以下のとおりである。
(1) 前記争いのない事実等に、《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。
ア 被告が実施した指名競争入札における原告らの指名状況
(ア) 原告今野建設
原告今野建設は、昭和四三年に設立され、昭和四四年に法人化された被告町内の建設業者であり、平成五年以前から、被告が実施する指名競争入札において、参加資格の承認を得て、継続的に指名を受けてきた。
平成五年度から平成一六年度の間に、被告が指名競争入札の方式により実施した工事における、原告今野建設に対する指名の状況は、以下のとおりである。
対象工事件数 指名件数 指名件数率(%)
平成五年度 八一 五二 六四・二
平成六年度 一〇三 四一 三九・八
平成七年度 七七 三八 四九・四
平成八年度 七一 二九 四〇・八
平成九年度 五五 二九 五二・七
平成一〇年度 七三 三七 五〇・七
平成一一年度 六九 一九 二七・五
平成一二年度 六二 一七 二七・四
平成一三年度 八七 二七 三一・〇
平成一四年度 八七 二一 二四・一
平成一五年度 三五 〇 〇・〇
平成一六年度 二六 〇 〇・〇
(イ) 原告小川組
原告小川組は、昭和四〇年に設立され、昭和五二年に法人化された被告町内の建設業者であり、平成五年以前から、被告が実施する指名競争入札において、参加資格の承認を得て、継続的に指名を受けてきた。
平成五年度から平成一六年度の間に、被告が指名競争入札の方式により実施した工事における、原告小川組に対する指名の状況は、以下のとおりである。
対象工事件数 指名件数 指名件数率(%)
平成五年度 八一 四四 五四・三
平成六年度 一〇三 五四 五二・四
平成七年度 七七 四二 五四・五
平成八年度 七一 四四 六二・〇
平成九年度 五五 二九 五二・七
平成一〇年度 七三 四〇 五四・八
平成一一年度 六九 二〇 二九・〇
平成一二年度 六二 一八 二九・〇
平成一三年度 八七 二七 三一・〇
平成一四年度 八七 二六 二九・九
平成一五年度 三五 〇 〇・〇
平成一六年度 二六 〇 〇・〇
(ウ) 原告大沼舗設
原告大沼舗設は、昭和四九年に設立され、昭和五七年に法人化された被告町内の建設業者であり、平成五年以前から、被告が実施する指名競争入札において、参加資格の承認を得て、継続的に指名を受けてきた。
平成五年度から平成一六年度の間に、被告が指名競争入札の方式により実施した工事における、原告大沼舗設に対する指名の状況は、以下のとおりである。
対象工事件数 指名件数 指名件数率(%)
平成五年度 八一 三八 四六・九
平成六年度 一〇三 五二 五〇・五
平成七年度 七七 三七 四八・一
平成八年度 七一 三二 四五・一
平成九年度 五五 二二 四〇・〇
平成一〇年度 七三 三四 四六・六
平成一一年度 六九 二四 三四・八
平成一二年度 六二 一四 二二・六
平成一三年度 八七 二四 二七・六
平成一四年度 八七 二三 二六・四
平成一五年度 三五 〇 〇・〇
平成一六年度 二六 〇 〇・〇
(エ) 原告小山産業
原告小山産業は、昭和四四年に設立され、昭和六〇年に法人化された被告町内の建設業者であり、平成五年以前から、被告が実施する指名競争入札において、参加資格の承認を得て、継続的に指名を受けてきた。
平成五年度から平成一六年度の間に、被告が指名競争入札の方式により実施した工事における、原告小山産業に対する指名の状況は、以下のとおりである。
対象工事件数 指名件数 指名件数率(%)
平成五年度 八一 三五 四三・二
平成六年度 一〇三 四七 四五・六
平成七年度 七七 二五 三二・五
平成八年度 七一 一九 二六・八
平成九年度 五五 二八 五〇・九
平成一〇年度 七三 三〇 四一・一
平成一一年度 六九 二九 四二・〇
平成一二年度 六二 一四 二二・六
平成一三年度 八七 一四 一六・一
平成一四年度 八七 六 六・九
平成一五年度 三五 〇 〇・〇
平成一六年度 二六 〇 〇・〇
イ 事実経過
(ア) 原告今野建設による固定資産税納税拒否
a 平成五年九月ころ、原告今野建設代表者今野幸衛は、被告から、村田町が経営する雇用促進住宅の建設用地とするため、柴田郡村田町大字村田地区に所在する今野幸衛及び原告今野建設の所有地を宮城県土地開発公社に譲渡して欲しい旨の要請を受けた。上記土地は、原告今野建設の関連会社である今野興業(代表者は今野幸衛の妻であるが、実質的なオーナーは今野幸衛である。)が住宅地として開発・分譲する予定地の一部であった。今野幸衛は、上記土地を売却すると、今野興業が住宅団地として造成予定の残地が公道(主要地方道亘理大河原川崎線)に接しなくなってしまうという問題が生じることから、被告と協議を行い、同月二一日、被告櫻中町長との間で、同町長が、雇用促進住宅進入路を車道として公道(塩内線)まで延長すること等を今野幸衛に約束することを内容とした「村田雇用促進住宅建設用地売買契約に関する覚書」(以下「本件覚書」という。)を締結した。本件覚書の締結を受けて、今野幸衛及び原告今野建設は、平成六年一月一〇日、宮城県土地開発公社に対し、上記所有地を売却した。
平成一二年六月六日、今野幸衛は、被告に対し、本件覚書記載の約定の履行を求めたところ、被告から、履行できない旨の回答がなされた。これに対し、今野幸衛は、被告に抗議し、被告との間で協議が行われ、その結果、同年九月四日、被告との間で、被告が既存の雇用促進住宅東側の道路を公道として認知すること、そのための手続を速やかに完了させることなどを内容とする合意を行った。
今野興業は、平成一三年一二月三一日までに、上記分譲住宅団地の造成工事を完成し、上記工事に関し、平成一四年三月一四日、宮城県大河原土木事務所長の検査を受け、同月一八日付けで、開発行為に関する工事の検査済証の交付を受けた。
被告は、同月二六日、上記分譲住宅団地から主要地方道亘理大河原川崎線までの道路(雇用促進住宅東側の道路に当たる。)につき、金谷塩内一号線として町道認定、区域決定、供用開始を行い、その旨告示した。
被告は、平成一五年三月末ころまでに、上記分譲住宅団地から主要地方道亘理大河原川崎線までの道路の改良整備工事を完成させた。
b 被告は、平成一四年二月六日付けで、今野興業に対し、同会社の所有地となっていた上記分譲住宅団地の一部(分譲地内の道路用地部分及び公園用地部分)につき、雑種地として固定資産税を賦課する旨の通知をした。これに対し、今野興業は、同年六月から七月にかけて、被告に対し、上記課税に係る土地部分が、本件覚書上、今野興業による上記造成工事完成後に被告が譲り受けることになっていたにもかかわらず、被告がその譲受手続を怠っていること、上記公園用地部分が崖の法面を構成していることから、上記土地部分に対して雑種地として今野興業に固定資産税を賦課するのは不当であるとの抗議を行い、固定資産税賦課の見直しを申し立てた。
被告は、平成一五年一一月二六日、今野興業に対し、上記課税に係る土地部分につき、道路用地部分については町道認定済み(平成一四年三月二六日、被告が金谷塩内二号線及び三号線として町道認定、区域決定、供用開始を行い、その旨告示した。)につき非課税とすること及び公園用地部分については崖地補正を適用して減額することを理由として、固定資産税の賦課額を減額変更する旨を通知した。
上記経過に鑑みると、上記減額変更は、今野興業による上記申立ての内容をほぼ認めたものと理解できる。
c 原告今野建設及び今野幸衛は、平成一〇年九月一〇日、被告が施工する町道高田関場線改良工事に供するため、仙南土地開発公社(実際には、被告が交渉の窓口となった。)に対し、柴田郡村田町大字小泉字高田所在の所有地を代金(補償金)合計一六三七万三〇六五円で売却した。
仙南土地開発公社は、同月二九日、原告今野建設及び今野幸衛に対し、上記補償金合計額の約七割に相当する一一四六万一〇〇〇円を支払ったが、その余の残金四九一万二〇六五円については、上記土地に設定されていた株式会社七十七銀行及び宮城県信用保証協会を権利者とする根抵当権設定登記及び抵当権設定登記が抹消され、かつ、上記土地の仙南土地開発公社に対する所有権移転登記が完了した後に請求できる旨が合意されていた。ただし、上記所有権移転登記手続に必要な書類は、原告今野建設及び今野幸衛から土地売買契約の交渉窓口となった被告に対してすべて交付済みであり、また、上記根抵当権設定登記及び抵当権設定登記の抹消登記手続は、被告側が、金融機関に対して担保解除依頼書を送付し、上記金融機関からその旨の承諾書と印鑑登録証明書の交付を受けて履行することが、原告今野建設及び今野幸衛と被告及び仙南土地開発公社との間で約束されていた(以下「本件担保解除約束」という。)。原告今野建設及び今野幸衛は、本件担保解除約束に基づき、同年九月ころ、株式会社七十七銀行及び宮城県信用保証協会から上記担保解除について了解を取り付けた。被告も、本件担保解除約束に基づき、平成一一年一〇月二二日付け書面により株式会社七十七銀行に対し、同年一二月三日付け書面により宮城県信用保証協会に対し、それぞれ担保解除の依頼を一旦行った。しかし、上記土地の一部に国土調査が行われ、その土地の面積が変更されることとなったことから、被告は、金融機関に対する上記担保解除依頼を撤回した。
その後、今野幸衛の問い合わせにもかかわらず、上記土地に関する担保解除及び所有権移転登記手続は、その後に実行されるはずの補償金残金の支払も含め、保留されたまま経過したところ、平成一四年二月二八日、仙南土地開発公社は、原告今野建設及び今野幸衛に何らの通知をすることなく、担保解除に先行して、上記土地の所有権移転登記を経由し、同日、仙南土地開発公社から被告に対し、同月八日付け売買を原因として所有権移転登記がなされた。平成一五年八月に至って上記移転登記経由の事実を知った原告今野建設及び今野幸衛は、仙南土地開発公社及び被告に対し、補償金残金の精算前に何の事前連絡もなく移転登記手続を進めたことに抗議した。被告は、平成一六年五月二〇日付けで、一旦撤回した後保留されたままになっていた担保解除依頼を、再度、株式会社七十七銀行と宮城県信用保証協会宛に送付したが、担保が解除されていない以上補償金残金は支払えない旨の被告側の説明に納得できない原告今野建設及び今野幸衛は、上記売買契約を白紙に戻すことを要求して対立が続いた。
結局、被告は、平成一八年四月一四日付けで、原告今野建設及び今野幸衛に対し、佐藤町長名で、事前に連絡せずに一方的に上記所有権移転登記手続を進めたことをお詫びする旨が記載された文書を交付した。そして、平成一八年中に、原告今野建設及び今野幸衛の同意の下、上記根抵当権設定登記及び抵当権設定登記の抹消登記手続が進められ、仙南土地開発公社は、原告今野建設及び今野幸衛に上記補償金残金を完済した。
上記経過に鑑みると、原告今野建設及び今野幸衛に対する上記補償金残金の支払が遅れたのは、被告が、金融機関に対する担保解除依頼を一旦撤回した後、本件担保解除約束に反して担保解除依頼の再履行を怠りこれを放置したためであることが窺われる。
d 原告今野建設は、被告の前記aないしcの対応に抗議するため、平成一四年五月三一日納期限の固定資産税七三万八四〇〇円及び同年七月三一日納期限の固定資産税七三万七〇〇〇円を同年一一月二〇日まで滞納し、同年一二月二日納期限の固定資産税を平成一五年一月三一日まで滞納した。
また、原告今野建設代表者今野幸衛及び今野興業は、平成一四年度以降の固定資産税合計二〇〇〇万円以上を滞納したが、平成一七年七月二二日、滞納していた固定資産本税及び督促手数料を自主的に納付した(ただし、延滞金については未だに支払を拒絶している。)。
(イ) 原告小川組による手直し工事及び工事の延期
a 原告小川組は、被告との間で、平成一四年二月四日、町道カケストヤ線の災害復旧工事(以下「カケストヤ線復旧工事」という。)の請負契約を締結した。カケストヤ線復旧工事の内容は、崩壊した町道カケストヤ線の法面部について、道路の法線に合わせて曲線的にコンクリートブロックを積むというものであった。
原告小川組は、同年二月四日に工事に着手し、同年六月三〇日までにカケストヤ線復旧工事を終えた。同年四月一日、同年五月一日、同年六月一〇日には、被告による段階検査が実施されたが、いずれの検査においても手直しは命じられず、合格と判断された。しかし、その後、被告は、原告小川組に対し、コンクリートブロック表面(目地面)の見栄えを良くするための手直し工事を命じたため、原告小川組は、同工事を実施し、同年八月二〇日までに上記手直し工事を完成させた。
以上に対し、被告は、原告小川組による当初の工事が粗悪工事であったために、手直し工事を命じたものであると主張し、証人草川道孝は、コンクリートブロックの積み方に力学的な問題点があったために手直し工事が行われたと証言する。しかしながら、実際に実施された手直し工事は、ブロック表面の目地面を削ってモルタルを補填し、ブロックとブロックとの隙間を小さく見せるという単純なものに過ぎない(力学的に問題があるのであれば、この程度の補修工事では不十分と考えられる。)のであって、工期も実質四日程度と短いものであったことも考え合わせると、証人草川道孝の上記証言は採用できず、被告の上記主張は理由がない。
b 原告小川組は、被告との間で、平成一四年八月三〇日、介護予防拠点施設建設工事の請負契約を締結した。
被告が、当初の契約上の工事完成期限である同年一二月一三日に建築確認申請上の工事完了検査を実施したところ、上記工事が未完成であることが判明したため、同月一八日に再度の検査を実施したが、なおも上記工事は完成していなかった。そこで、被告担当者は、原告小川組に対し、佐藤町長宛の正式な工期延長願を提出するよう指示し、これに応じて、同月二四日、原告小川組は、被告に対し、工程管理上の調整不足から工期内の完成ができなくなったことを理由に工期の延長を請求する旨の文書を被告宛に作成・提出した(ただし、その文書の作成日付は、当初契約の工期内に延長申請がなされたこととするために、同月一三日付けとされた。)。その結果、上記工事の工期は、平成一五年一月一四日までの三二日間延長された。
被告担当職員らが、同日、工事完了の有無の確認を行ったところ、手すりがぐらつく等の工事不良箇所が見られたため、原告小川組に対し、追加工事を指示した。その結果、上記不良箇所について原告小川組による補修工事が施工され、同月二三日に実施された工事完成検査の結果、合格と判定された。
(ウ) 原告小山産業による入札の辞退
被告は、平成一五年一月二九日及び三〇日に、災害復旧工事等を中心とする六一件の指名競争入札を実施した。原告小山産業は、このうち二二件の工事の入札に指名されたが、人員不足により入札執行の際に提出が義務づけられている工事内訳書、積算書等の作成が困難であることを理由に、一二件の入札を辞退し、残りの一〇件にのみ応札した。
(エ) 調査委員会による原告今野建設、原告大沼舗設、原告小山産業に対する事情聴取
平成一四年八月二八日付け及び同年九月一日付けの河北新報において、被告が平成一三年及び一四年に発注した公共工事における談合疑惑が報道された。
被告は、平成一四年八月二八日、上記新聞報道を受けて、調査委員会を設置し、対象業者三七社に対する事情聴取等の調査を行った。原告今野建設代表者今野幸衛は、調査委員会が同年九月九日に行った事情聴取において、工事の入札に先立ち談合がなされた事実はあるかとの質問に対し、「我が社は関わっていないが他社はやっている。九〇パーセント以上で落札したものは全て談合である。」などと答えた。そして、今野幸衛は、被告町長に宛てて、原告今野建設は、上記報道がなされた工事の入札に当たり、談合等を禁止する法令等に違反する行為は行っていないこと、今後とも上記法令を遵守することを内容とする誓約書を提出するとともに、上記新聞において報道されたとおりの談合がなされたことは事実であろうという意見を表明する意見書を提出した。
原告大沼舗設代表者大沼勝一は、調査委員会が同日に行った事情聴取において、工事の入札に先立ち談合がなされた事実はあるかとの質問に対し、「以前(五・六年前)はそのような事が多かった。ここ三・四年は談合に係る札をもらったことはない。我等が指名されない場合、談合しているのではないかと想定される。」などと答えた。そして、大沼勝一は、被告町長に宛てて上記と同内容の誓約書を提出するとともに、上記新聞において報道されたとおりの談合がなされたことは事実であろうという意見を記載した書面を提出した。
原告小山産業代表者小山一男は、調査委員会が同日に行った事情聴取において、工事の入札に先立ち談合がなされた事実はあるかとの質問に対し、「全く見覚えも心当たりもない。」などと答え、上記と同内容の誓約書を提出するとともに、原告小山産業は談合に参加していない、上記新聞で報道された談合は談合札が存在しているために事実と考えられる、以前はこのような方法で談合をしていたとの意見を記載した書面を提出した。
調査委員会による調査の結論は、現段階では談合の可能性を否定できないものの、談合の事実を断定するには至らないというものであった。
なお、調査委員会の委員は、被告町長に代わって指名競争入札における業者の指名権限を有する指名委員とほぼ同一であった。
(オ) 原告らによる本件文書の配布
原告らは、平成一四年九月、被告町議会議員に宛てて、原告ら及び各代表者名で、概略、平成一一年に佐藤町長が就任した後、反町長派の業者が指名競争入札における指名の対象から外されていること、指名競争入札が行われる際に、被告と業者との間の談合によって落札者、最低落札価格が決められており、自由競争原理が働いていないために、特定の業者が優遇される一方、原告らは指名の対象にならないか、指名の対象になっても落札が困難であること、このような問題は、被告の指名基準の内容ないし運用の仕方に問題があることが原因であること、原告らは、指名委員長である斎藤助役に対し、公平に入札参加できるようにお願いしたが、嘘をついたり、とぼけた答弁を行ったこと、このような助役が談合問題に関する村田町公正入札委員会委員長として何ができるか疑問であること、被告の行政の改革、改善を進めて欲しいことを内容とする本件文書(乙七)を送付した。
また、原告らは、本件文書を送付する以前に、被告に対し、上記文書と同様の内容の文書を送付した。
(カ) 指名委員による非公式協議
平成一四年九月ころ、指名委員である総務課長上田万作一及び建設課長柴崎弘等は、非公式の協議の場において、本件文書が被告を誹謗中傷する内容であることを主な理由として、以後、指名競争入札における指名の前提となる主管課長による内申において、原告らを指名することは遠慮するしかないとの結論を申し合わせた。そして、そのころ、指名委員全員の間において、指名委員会における指名に際しては、原告らを指名回避することが、暗黙のうちに合意された。
被告は、原告らに対する本件指名回避の理由について、上記理由の他にも複数の理由を挙げているが、本件指名回避が行われることが実質的に決定された上記非公式協議は、原告らが本件文書を送付した直後に行われていることが窺われること、本件文書を送付した原告らがいずれも本件指名回避の対象とされていること、後記のとおり、本件文書の送付以外の理由のうち、原告らが過去に談合を行ったことを自認したとの理由については、上記非公式協議の場において特に話題とされていなかったこと、その他の理由は、そのことのみで指名回避という重大な措置が採られることに合理性を認め難いものであることからすれば、被告の主張する本件文書の送付以外の本件指名回避の理由は、上記非公式協議が行われた当時は、本件指名回避の理由とされていなかったか、理由とされていたとしても、さほど重視されていなかったと見るのが自然である。
(2) 前記争いのない事実等によれば、地方公共団体が契約を締結する場合、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法によることとされ(地方自治法二三四条一項)、そのうち、指名競争入札、随意契約又はせり売りは、政令で定める場合に該当するときに限り、これによることができるものとされ(同条二項)、指名競争入札については、契約の性質又は目的が一般競争入札に適しない場合に限り、これによることができるものとされている(地方自治法施行令一六七条)。このように地方自治法及び同法施行令は、普通地方公共団体の締結する契約については、その経費が住民の税金で賄われていること等に鑑み、機会均等の理念に最も適合して公正であり、かつ、価格の有利性を確保し得るという観点から、一般競争入札の方法によるべきことを原則とし、それ以外の方法を例外的なものとして位置付けているものと解される。他方で、地方自治法は、普通地方公共団体の長は、指名競争入札により契約を締結しようとするときは、当該入札に参加させようとする者を指名しなければならない(同法施行令一六七条の一二)と定めるだけで、具体的な指名の基準等を定めていないことから、いかなる者を指名競争入札に参加させるのが相当であるかの判断を、契約担当者である地方公共団体の長又はこれに代わって当該権限を有する者の裁量に委ねているものと解される。もっとも、公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律は、公共工事の入札等については、入札の過程の透明性が確保されること、入札に参加しようとする者の間の公正な競争が促進されること等によりその適正化が図られなければならないものと規定し(三条)、指名競争入札の参加者の資格や参加者を指名する場合の基準の公表を義務付けている(同法八条一号、同法施行令七条一項二号、三号)。
このような地方自治法等の法令の規定の仕方に照らすと、普通地方公共団体が締結する公共工事等の契約に関する入札については、機会均等、公正性、透明性及び経済性(価格の有利性)の確保が要請されているものと解されるのであって、指名競争入札における参加業者の指名の判断に際しては、上記のように地方公共団体の長又はこれに代わって権限を有する者の裁量に委ねられてはいるものの、その恣意を許すものではなく、その権限の行使が実現されるべき上記諸要素に照らして極めて不合理であり、社会通念上著しく妥当性を欠くと認められる場合には、その裁量権を逸脱又は濫用したものとして、国家賠償法上、違法との評価を免れないと解すべきである。
(3) 争いのない事実等及び前記(1)の事実によれば、原告らは、平成一四年度まで、被告が実施する指名競争入札において、継続的に指名を受けていたにもかかわらず、平成一五年四月から平成一七年一月までの期間に実施された指名競争入札においては一件も指名されなかったこと(本件指名回避)、本件指名回避がなされるに至った原因は、平成一四年九月に指名委員の一部によって行われた非公式協議において原告らを主管課長による指名の内申から外すことが申し合わされ、その申し合わせが指名委員全員の暗黙の合意となったことにあることが認められる。そこで、かかる本件指名回避が、指名競争入札における業者の指名に係る被告の裁量権の範囲の逸脱又は濫用に該当し、国家賠償法上違法と評価し得るか否かについて、以下検討する。
ア 原告今野建設に対する本件指名回避の違法性について
(ア) 被告は、本件指名回避の理由について、①原告今野建設が、調査委員会による調査において、過去に談合を行ったことを自認したこと、②原告今野建設が、町政を誹謗中傷する本件文書を配布したこと、③原告今野建設、同代表者今野幸衛及び今野興業が固定資産税を滞納したことが、被告指名基準及び被告運用基準にいう「不誠実な行為が認められるとき」に当たると主張する。
(イ) そこで検討するに、前記(1)の事実によれば、調査委員会による事情聴取は、平成一四年八月二八日付け及び九月一日付けで新聞報道がなされた平成一三年及び平成一四年に行われた公共工事における談合疑惑の調査を行うことを目的としたものであるところ、原告今野建設の調査委員会に対する答弁内容は、上記公共工事に際し、自らは談合を行っていないが、他社による談合があった旨の意見を述べたものであり、自らの談合を認めたものでないと解されること、調査委員会による結論は、原告今野建設も含め、談合がなされた事実を断定するには至らないというものであったことからすると、原告今野建設が過去に談合を行ったとの具体的事実を認めることは困難であり、本件指名回避の理由のうち上記①は、基礎となる事実を欠くものであって、原告今野建設につき「不誠実な行為」があったということはできない。したがって、上記事実が存在したことを前提とする指名委員会の判断は、その判断の前提となる事実を誤認したものであって、合理性を欠くものといわざるを得ない。
(ウ) 次に、原告今野建設が、他の原告らとともに本件文書及びこれと同内容の文書を配布したこと(上記②)が合理的な指名回避の理由に当たるかについて、以下検討する。
被告指名基準及び被告運用基準にいう「不誠実な行為」とは、その規定の内容に照らすと、請負業者が、請負工事を誠実に履行しない場合や、違法ないし社会秩序に反する契約、経営を行っていること等の理由から請負業者としての基本的姿勢に問題があると考えられる場合をいうものと解される。本件において原告らが送付した上記文書は、被告町内の業者として指名競争入札に参加している原告らが、一部の業者と被告との間で談合が行われているとの問題点を指摘して、原告らの名前を明示しつつ、被告議会の議員に対し、上記問題点の改善を進めるよう求める内容のものであって、町政に関する政治的意見の表明ないし批判を目的とするものということができる。本件文書中には、佐藤町長及び被告の助役の名前が特定明記された上で、談合に関する具体的事実を摘示しつつ同人らを批判する記述が含まれており、その内容は、直接的には被告の機関としての適格性を批判するものではあるが、同人ら個人の名誉を毀損しかねない記述が含まれている点において、正当な表現活動として許容されるものといえるかどうかについては疑問がなくはない。
しかし、仮に、本件文書が佐藤町長及び助役の名誉を毀損する内容を含むものであったとしても、これに対する名誉の回復は、原告らに対する損害賠償又は謝罪広告の請求を内容とする民事訴訟の提起等の法律上許容された手段によってなされるべきであって、適正・公平に町政を執行すべき立場にある佐藤町長や助役が、上記名誉毀損に対する報復の手段として本件指名回避を実行することが許されないことはいうまでもない。上記のとおり、本件指名回避は、指名委員の一部が、本件文書において名前を特定明記された佐藤町長や助役の受けた不快感を忖度し、主管課長による指名の内申から原告らを外す旨の申し合わせをした結果、指名委員会の暗黙の合意として実行されたものと認められるところ、普通地方公共団体の執行機関や職員が、常に住民からの批判にさらされることはやむを得ないことであって、その批判の内容が気に入らない(談合の排除をいう原告らの本件文書による意見表明自体は、普通地方公共団体が締結する公共工事等の契約に関する入札のあり方についての法令の趣旨に添うものである。)からといって、機会均等、公正性、透明性及び経済性(価格の有利性)の確保が要請されている指名競争入札における業者の指名に係る被告の裁量権の行使に当たり、考慮すべきではない上記不快感を決定的な考慮要素とし、他に考慮すべき事項を十分考慮することなく、本件指名回避を実行した(上記(1)イ(カ)及び後記(エ))ことは、極めて不合理であり、社会通念上著しく妥当性を欠くものといわざるを得ない。したがって、原告らによる本件文書の配布は、被告指名基準及び被告運用基準にいう「不誠実な行為」に当たるとは認め難い上、他の指名基準等に照らしても、本件指名回避の合理性を認めることは困難というべきである。
なお、契約要求主管課長が指名委員会に対して内申する指名対象業者を選考するに際しては、平成八年一〇月二日付け「指名業者内申にあたっての具体的内容」に記載された基準(以下「内申基準」という。)によっていたことが認められ、本件では、原告らの本件文書の配布行為が「行政への協力姿勢」に欠けるものと判断されていたこと、指名委員会による指名に際しても内申基準が参考にされていたことが認められる。しかしながら、内申基準にいう「行政への協力姿勢」とは「災害時等の積極的対応と協力等を含む日常の姿勢」を意味するものと定められていることから、原告らの本件文書配布行為がこれに当たるとの判断にはそれ自体問題があるといわざるを得ない上、前記争いのない事実等及び前記(1)の事実によれば、指名基準を定めた場合には、法令上公表が義務づけられているところ、かかる法の趣旨は、指名競争入札において、指名権者による恣意を排除し、公正性を担保することにあるものと解されるから、指名回避を行うか否かは、公表された基準によって判断すべきであり、本件指名回避の違法性の有無を判断するに際しても、内申基準を参照することは不相当というべきである。
(エ) さらに、上記理由③について検討する。
固定資産税を滞納したからといって、直ちに請負業者としての基本的姿勢に問題があると即断することはできない。固定資産税を滞納していることが、当該普通地方公共団体が締結する公共工事等の契約に係る工事の施工における不誠実な対応に結びつくことが明らかに推知される等の特段の事情が認められる場合に限り、被告指名基準及び被告運用基準にいう「不誠実な行為が認められるとき」に該当すると解するのが相当である。
本件においては、原告今野建設が延滞した固定資産税は、その企業規模に照らし少額ともいえる税金を最高約六か月程度延滞したにとどまること、今野幸衛及び今野興業の固定資産税の滞納額及び滞納期間は相当多額かつ相当長期間であるというべきであるが、原告今野建設とは別個の個人又は法人であること、原告今野建設、今野幸衛及び今野興業が上記納税拒否に及んだのは、上記(1)イ(ア)のとおり、被告との間の複数の紛争における被告の対応に抗議する目的からであるところ、固定資産税の過重賦課の問題(上記(1)イ(ア)b)及び町道高田関場線改良工事の問題(上記(1)イ(ア)c)に関しては、今野興業、原告今野建設及び今野幸衛の言い分にも相応の理由があり、被告に対する不当な言いがかりとは認められない(ただし、だからといって固定資産税の上記納税拒否が正当化できるものではないことはもちろんである。)ことに照らすと、原告今野建設、今野幸衛及び今野興業の上記滞納の事実は、いずれも原告今野建設の施工する公共工事等の施工における不誠実な対応に直ちに結びつくとは考え難いというべきである。また、原告今野建設は、被告から委託された採算性の乏しい除雪作業に従事しており、また、本件指名回避がなされる直前まで被告から指名競争入札又は随意契約の方法により公共工事を受注していた(原告今野建設代表者)が、かかる作業や工事の履行過程において、原告今野建設が実際に不誠実な対応を行った事実は証拠上認められない。これらの事情を総合考慮すると、原告今野建設、今野幸衛及び今野興業が固定資産税を滞納したことをもって「不誠実な行為が認められるとき」に当たるということはできない。
(オ) 以上のとおり、被告が主張する原告今野建設に対する本件指名回避の理由は、いずれも被告指名基準及び被告運用基準に定める指名回避事由に該当するとは認め難いこと、上記(1)イ(カ)のとおり、指名委員会が原告今野建設に対して本件指名回避を行うことを決定した当時は、原告今野建設らが本件文書を送付したことが本件指名回避を行う主たる理由とされていたのであり、他の理由は考慮されていなかったか、考慮されていたとしても本件指名回避を行うか否かの判断に重要な影響を与えていなかったと認められるところ、本件文書の送付をもって指名回避理由とすることは許されないこと、他に本件指名回避の合理性を裏付けるに足りる事情は見当たらないことを総合すると、被告が原告今野建設に対して行った本件指名回避は、指名競争入札の実施に当たって要請される機会均等、公正性、透明性及び経済性(価格の有利性)の確保の諸要素に照らして極めて不合理であり、社会通念上著しく妥当性を欠くと認められ、指名委員会の裁量権を逸脱又は濫用したものとして、国家賠償法上、違法との評価を免れないというべきである。
イ 原告小川組に対する本件指名回避の違法性について
(ア) 被告は、原告小川組に対する本件指名辞退の理由として、①他の原告らとともに町政を誹謗中傷する本件文書を配布したこと、②被告から受注した工事が粗悪であったこと及び工事の履行を遅滞したことが被告指名基準及び被告運用基準にいう「不誠実な行為が認められるとき」に当たると主張する。
(イ) そこで検討するに、原告小川組が、他の原告らとともに本件文書及びこれと同内容の文書を配布したことが「不誠実な行為が認められるとき」に当たらないことは前記ア(ウ)のとおりである。
(ウ) 次に、上記理由②について検討するに、前記のように「不誠実な行為が認められるとき」とは、請負工事を誠実に履行しないなどの理由から、請負業者としての基本的姿勢に問題があると考えられる場合をいうものであって、工事の結果に瑕疵があることや工期内に工事が完成しなかったことなど工事の内容に問題がある場合はこれに含まれないものと解される(工事の内容は、被告指名基準においては「過去の工事実績」として考慮されるものと解される。)。前記(1)のとおり、原告小川組は、カケストヤ線復旧工事においては、被告から手直し工事の指示を受けて、これを速やかに実施していること、介護予防施設の建設工事においても、工期の延長に際し、被告との間で特に問題が生じたとの事実は証拠上認められないことからすれば、被告が指摘する、原告小川組が手直し工事を実施したこと及び工期を延長したことは「不誠実な行為が認められるとき」に当たらないというべきである。
(エ) 以上の事実に加えて、カケストヤ線復旧工事における手直し工事は、コンクリートブロック表面の見栄えを良くするための簡易なものに過ぎないこと、被告が問題にしている工期の延長は、一件の工事のみに関するものであって、期間も一か月程度に過ぎず、工期の延長によって何らかの具体的な問題が発生したとの事実は証拠上認められないこと、指名委員会は、上記原告らによる本件文書の配布を主たる理由として本件指名回避を行ったものであり、上記手直し工事及び工期の延長の問題は、当時、さほど重視していなかったこと、他に本件指名回避の合理性を認めるに足りる事情は見当たらないことをも総合すれば、被告が原告小川組に対して行った本件指名回避は、指名委員会の裁量権を逸脱又は濫用したものとして、国家賠償法上、違法との評価を免れないというべきである。
ウ 原告大沼舗設に対する本件指名回避の違法性について
(ア) 被告は、本件指名回避の理由について、①原告大沼舗設が、調査委員会による調査において、過去に談合を行ったことを自認したこと、②町政を誹謗中傷する本件文書を配布したことが、被告指名基準及び被告運用基準にいう「不誠実な行為」に当たると主張する。
(イ) そこで検討するに、前記(1)の事実によれば、原告大沼舗設は、調査委員会による調査に際し、自らは談合を行っていないが、他社による談合があったとの意見を述べたに過ぎないと認められるのであって、前記ア(イ)で述べたのと同様に、原告大沼舗設が過去に談合を行ったとの具体的事実を認めることは困難であることからすれば、本件指名回避の理由のうち上記理由①について、原告大沼舗設に「不誠実な行為」があったということはできず、指名委員会の判断は、合理性を欠くものというべきである。
また、原告大沼舗設が、他の原告らとともに本件文書及びこれと同内容の文書を配布したこと(上記理由②)が「不誠実な行為が認められるとき」に当たらないことは前記ア(ウ)のとおりである。
(ウ) 以上のとおり、被告が主張する原告大沼舗設に対する本件指名回避の理由は、いずれも被告指名基準及び被告運用基準に該当するものではなく、合理性を有していないこと、前記(1)のとおり、本件指名回避理由のうち、原告大沼舗設が過去に談合を行ったと自認したこと(上記理由②)は、指名委員会により本件指名回避が行われることが決定された当時、明確に意識されていなかったと認められること、他に本件指名回避の合理性を認めるに足りる事情は見当たらないことをも総合すれば、被告が原告大沼舗設に対して行った本件指名回避は、指名委員会の裁量権を逸脱又は濫用したものとして、国家賠償法上、違法との評価を免れないというべきである。
エ 原告小山産業に対する本件指名回避の違法性について
(ア) 被告は、原告小山産業に対する本件指名辞退の理由として、①調査委員会による調査において、過去の談合を自認したこと、②他の原告らとともに町政を誹謗中傷する本件文書を配布したこと、③被告から指名を受けた入札を辞退したことが、被告指名基準及び被告運用基準にいう「不誠実な行為が認められるとき」に当たると主張する。
(イ) そこで検討するに、前記(1)の事実によれば、調査委員会による調査に際して、原告小山産業は談合をしていない旨明言しており、前記ア(イ)で述べたのと同様に、原告小山産業が過去に談合を行ったとの具体的事実を認めることは困難であることからすれば、本件指名回避の理由のうち上記①について、原告小山産業に「不誠実な行為」があったということはできず、指名委員会の判断は、合理性を欠くものというべきである。
また、原告小山産業が、他の原告らとともに本件文書及びこれと同内容の文書を配布したこと(上記理由②)が「不誠実な行為が認められるとき」に当たらないことは前記ア(ウ)のとおりである。
(ウ) 次に、上記理由③について検討するに、前記(1)の事実によれば、原告小山産業は、被告が平成一五年一月二九日及び三〇日に実施した指名競争入札において、二二件の工事の入札に指名されたものの、うち一二件の入札を辞退したことが認められる。しかしながら、指名競争入札における指名は、入札参加資格を有する者に対し、個々の入札に参加する機会を与えるものに過ぎないのであって、指名を受けたからといって、指名を受けた者と入札を実施した地方公共団体との間に具体的な権利義務関係が生じるものではないから、指名を受けた者は入札執行の完了に至るまでの間、いつでも入札を辞退することが許されているものというべきである。したがって、入札の指名を受けた者が入札を辞退したことが、その者の経営状況の悪化や工事施工能力に問題があることを推知させる一事情として考慮することは許されるものと解されるが、入札を辞退したことのみをもって、将来の指名を行うに際して不利益な取扱いをすることは基本的に許されないというべきである(村田町建設工事指名競争入札参加心得五条一項、三項参照。)。これを被告指名基準及び被告運用基準に照らすと、入札を辞退したことのみをもって、請負業者としての資質に問題があるとは言えないから、「不誠実な行為が認められるとき」に当たるということはできないものと解される。
前記(1)の事実によれば、原告小山産業が、指名を受けた工事の入札を辞退した理由は、二日間で二二件もの大量の指名がなされたために、工事施行可能な件数を超過していることを理由に一部の入札を辞退したというものであり、何ら請負業者として資質に問題があることを認め得る事情は認められないのであるから、入札を辞退したことをもって「不誠実な行為が認められるとき」には当たるとは認め難い。
(ウ) 以上のとおり、被告が主張する原告小山産業に対する本件指名回避の理由は、いずれも被告指名基準及び被告運用基準に該当するものではなく、合理性を有していないこと、前記(1)のとおり、指名委員会が原告小山産業に対する本件指名回避を行うことを決定した当時は、原告小山産業らが本件文書等の文書を送付したことが指名回避を行う主たる理由とされていたのであり、他の理由は考慮されていなかったか、考慮されていたとしても本件指名回避を行うか否かの判断に重要な影響を与えていなかったと認められること、他に本件指名回避の合理性を認めるに足りる事情は見当たらないことをも考慮すれば、被告が原告小山産業に対して行った本件指名回避は、指名委員会の裁量権を逸脱又は濫用したものとして、国家賠償法上、違法との評価を免れないというべきである。
(4) 以上に加え、原告らは、佐藤町長が被告町長に就任した平成一一年度以降、町長選挙で佐藤町長を応援しなかった原告らに対する指名回避が多くなったとして、このことも本件指名回避の違法性を基礎づける事情として主張するものと解されることから、検討するに、《証拠省略》並びに前記(1)の認定事実によれば、原告らは、いずれも平成一一年度に実施された被告町長選挙において、佐藤町長を応援せずに、対立候補者である櫻中町長を応援したこと、平成五年度から一〇年度までの指名件数率及び受注率(原告受注高/被告発注高)と比較すると、平成一二年度以降の指名件数率及び受注率は有意に減少していることが認められる。しかしながら、《証拠省略》によれば、被告は、平成一一年度以降、それまで町内業者を優先的に指名する政策を変更して、町外業者に対する指名を増加させる政策を実施しており、その結果、町内業者である原告らに対する指名件数、指名率は相対的に減少したものと考えられること、櫻中町長の前任である大沼町長が被告町長に就任していた平成二年度以前における原告らの受注率と平成一一年度以降における原告らの受注率を比べると、有意な差は認め難いことからすれば、平成一一年度以降、原告らに対する指名率が減少した原因が、原告らが佐藤町長を応援しなかったことにあるとまでは言い難く、これを被告指名委員会による本件指名回避の違法性を基礎づける事情として認めることは困難である。
三 争点(2)(原告らの損害額)について
(1) 原告らは、平成一一年に佐藤町長が就任してから、町長選挙に協力しなかったために指名回避されることが多くなり、受注高が低下したこと、そのため、原告らは、利益の少ない遠方の事業を受注せざるを得ず、この間の利益率は低下していたのであるから、平成一一年度以降の実績を基準に損害額の算定の基礎である平均利益率を算定することは誤りであると主張する。
しかしながら、前記二(4)で述べたとおり、平成一一年度以降、原告らに対する指名率が減少した原因が、原告らが佐藤町長を応援しなかったことにあるとまでは認め難いこと、被告は、平成一一年以降、町外業者に対する指名を増加させる政策を実施し、その結果、町内業者である原告らに対する指名率、ひいては受注率も相対的に減少したものと考えられ、したがって、平成一〇年度までの原告らの受注率と本件指名回避がなされた平成一五年度及び平成一六年度における受注率とは異なるものと考えられることからすれば、本件指名回避がなされたことにより原告らの被った損害を算出するに際しては、平成一一年度から本件指名回避がなされる前年度である平成一四年度までの原告らの受注率を基準にするのが相当である。
他方で、損害の基礎とすべき利益率について検討すると、本件指名回避がなされたことにより原告らが被った損害は、被告が発注した工事を受注していれば得べかりし利益をいうものであるから、被告が発注した工事における利益率を基準にするのが相当である。原告らは、平成一〇年度までは、被告が発注する公共工事の受注を中心としていたが、平成一一年以降は、宮城県及びその他の官公庁が発注する工事を一定程度の割合で受注するようになったこと、宮城県等が発注する工事においては、原告らの会社所在地から現場までの距離が遠いために経費が多くかかり、そのため被告が発注する工事に比較して利益率が相当低いこと(甲七三、証人小川光則、原告今野建設代表者、原告大沼舗設代表者、弁論の全趣旨)からすれば、本件指名回避により原告らが被った損害額を算定するに際しては、被告発注以外の工事における低い利益率が一定程度反映されている平成一一年度以降の利益率を算定の基準とするのは相当でなく、被告発注工事の受注が中心であった平成一〇年度までの利益率を算定の基準とするのが相当である。以上説示したところにしたがって、原告らの被った損害を個別に検討する(別紙損害計算表参照)。
(2) 原告今野建設の損害額について
ア 平均受注率
《証拠省略》によれば、平成一一年度から平成一四年度までに被告が発注した工事高(以下「被告発注高」という。)の合計額は、四七億七六八五万五〇〇〇円であり、上記期間において原告今野建設が被告から受注した工事高(以下、各原告が被告から受注した工事高を「受注高」という。)の合計額は、二億〇七一〇万円であることから、上記期間における原告今野建設が被告から受注した工事高(以下、被告発注高に占める受注高の割合を「平均受注率」という。)は、約四・三四パーセントと認められる。
イ 推定受注高
《証拠省略》によれば、平成一五年度における被告発注高は、九億七五八一万一〇〇〇円と認められるから、原告今野建設の平成一五年度における推定受注高は、同年度の受注高に上記平均受注率四・三四パーセントを乗じた額である四二三〇万六〇〇〇円と認めるのが相当である。同様に、平成一六年度における被告受注高は、四億九七二〇万三〇〇〇円であるから、原告今野建設の同年度における推定受注高は、これに四・三四パーセントを乗じた額である二一五五万六〇〇〇円と認めるのが相当である。
ウ 損害額
《証拠省略》によれば、平成五年度から平成一〇年度の間における原告今野建設の平均利益率は、上記期間における完成工事総利益の合計額を完成工事高で除した値である約一一・五九パーセントと認められるから、平成一五年度における原告今野建設の逸失利益は、平成一五年度の推定受注高である四二三〇万六〇〇〇円に、上記の平均利益率一一・五九パーセントを乗じた額である四九〇万三〇〇〇円と認められる。同様に、平成一六年度(ただし、本件指名回避の期間である平成一七年一月までの一〇か月間に限る。以下同じ。)における原告今野建設の逸失利益は、平成一六年度の推定受注高である二一五五万六〇〇〇円に、上記の平均利益率一一・五九パーセントを乗じ、さらに一二分の一〇を乗じた額である二〇八万二〇〇〇円と認められる。
したがって、本件指名回避によって原告今野建設が被った損害額は、上記平成一五年度及び平成一六年度における逸失利益の合計額である六九八万五〇〇〇円と認められる。
(3) 原告小川組の損害額について
ア 平均受注率
《証拠省略》によれば、平成一一年度から平成一四年度までの原告小川組の受注高の合計額一億四〇四七万八〇〇〇円と認められ、前記(2)のとおり、平成一一年度から平成一四年度までの被告発注高の合計額は、四七億七六八五万五〇〇〇円と認められることから、原告小川組の上記期間における平均受注率は、約二・九四パーセントと認められる。
イ 推定受注高
前記(2)のとおり、平成一五年度における被告発注高は、九億七五八一万一〇〇〇円と認められるから、本件指名回避がなされた平成一五年度における原告小川組の推定受注高は、同年度の受注高に上記平均受注率二・九四パーセントを乗じた額である二八六九万七〇〇〇円と認めるのが相当である。同様に、平成一六年度における被告受注高は、四億九七二〇万三〇〇〇円であるから、原告小川組の同年度における推定受注高は、これに二・九四パーセントを乗じた額である一四六二万二〇〇〇円と認めるのが相当である。
ウ 損害額
《証拠省略》によれば、平成五年度から平成一〇年度の間における原告小川組の平均利益率は、上記期間における完成工事総利益の合計額を完成工事高で除した値である約一七・三パーセントと認められるから、平成一五年度における原告小川組の逸失利益は、平成一五年度における推定受注高である二八六九万七〇〇〇円に、上記の平均利益率一七・三パーセントを乗じた額である四九六万六〇〇〇円と認められる。同様に、平成一六年度における原告今野建設の逸失利益は、平成一六年度の推定受注高である一四六二万二〇〇〇円に、上記の平均利益率一七・三パーセントを乗じ、さらに一二分の一〇を乗じた額である二一〇万八〇〇〇円と認められる。
したがって、本件指名回避によって原告小川組が被った損害額は、上記平成一五年度及び平成一六年度における逸失利益の合計額である七〇七万四〇〇〇円と認められる。
(4) 原告大沼舗設の損害額について
ア 平均受注率
《証拠省略》によれば、平成一一年度から平成一四年度までの原告大沼舗設の受注高の合計額八五六三万六〇〇〇円と認められ、前記(2)のとおり、平成一一年度から平成一四年度までの被告発注高の合計額は、四七億七六八五万五〇〇〇円と認められることから、原告大沼舗設の上記期間における平均受注率は、約一・七九パーセントと認められる。
イ 推定受注高
前記(2)のとおり、平成一五年度における被告発注高は、九億七五八一万一〇〇〇円と認められるから、本件指名回避がなされた平成一五年度における原告大沼舗設の推定受注高は、同年度の受注高に上記平均受注率一・七九パーセントを乗じた額である一七四九万四〇〇〇円と認めるのが相当である。同様に、平成一六年度における被告受注高は、四億九七二〇万三〇〇〇円であるから、原告大沼舗設の同年度における推定受注高は、これに一・七九パーセントを乗じた額である八九一万三〇〇〇円と認めるのが相当である。
ウ 損害額
《証拠省略》によれば、平成五年度から平成一〇年度の間における原告大沼舗設の平均利益率は、上記期間における完成工事総利益の合計額を完成工事高で除した値である約一五・六五パーセントと認められるから、平成一五年度における原告大沼舗設の逸失利益は、平成一五年度における推定受注高である一七四九万四〇〇〇円に、上記の平均利益率一五・六五パーセントを乗じた額である二七三万八〇〇〇円と認められる。同様に、平成一六年度における原告大沼舗設の逸失利益は、平成一六年度の推定受注高である八九一万三〇〇〇円に、上記の平均利益率一五・六五パーセントを乗じ、さらに一二分の一〇を乗じた額である一一六万三〇〇〇円と認められる。
したがって、本件指名回避によって原告大沼舗設が被った損害額は、上記平成一五年度及び平成一六年度における逸失利益の合計額である三九〇万一〇〇〇円と認められる。
(5) 原告小山産業の損害額について
ア 平均受注率
《証拠省略》によれば、平成一一年度から平成一四年度までの原告小山産業の受注高の合計額六九七一万七〇〇〇円と認められ、前記(2)のとおり、平成一一年度から平成一四年度までの被告発注高の合計額は、四七億七六八五万五〇〇〇円と認められることから、原告小山産業の上記期間における平均受注率は、約一・四六パーセントと認められる。
イ 推定受注高
前記(2)のとおり、平成一五年度における被告発注高は、九億七五八一万一〇〇〇円と認められるから、本件指名回避がなされた平成一五年度における原告小山産業の推定受注高は、同年度の受注高に上記平均受注率一・四六パーセントを乗じた額である一四二四万二〇〇〇円と認めるのが相当である。同様に、平成一六年度における被告受注高は、四億九七二〇万三〇〇〇円であるから、原告小山産業の同年度における推定受注高は、これに一・四六パーセントを乗じた額である七二五万七〇〇〇円と認めるのが相当である。
ウ 損害額
《証拠省略》によれば、平成五年度から平成一〇年度の間における原告小山産業の平均利益率は、上記期間における完成工事総利益の合計額を完成工事高で除した値である約一八・二一パーセントと認められるから、平成一五年度における原告小山産業の逸失利益は、平成一五年度における受注高である一四二四万二〇〇〇円に、上記の平均利益率一八・二一パーセントを乗じた額である二五九万三〇〇〇円と認められる。同様に、平成一六年度における原告小山産業の逸失利益は、平成一六年度の受注高である七二五万七〇〇〇円に、上記の平均利益率一八・二一パーセントを乗じ、さらに一二分の一〇を乗じた額である一一〇万一〇〇〇円と認められる。
したがって、本件指名回避によって原告小山産業が被った損害額は、上記平成一五年度及び平成一六年度における逸失利益の合計額である三六九万四〇〇〇円と認められる。
四 以上によれば、原告今野建設の請求は、被告に対し六九八万五〇〇〇円の支払を求める限度で、原告小川組の請求は、被告に対し七〇七万四〇〇〇円の支払を求める限度で、原告大沼舗設の請求は、被告に対し三九〇万一〇〇〇円の支払を求める限度で、原告小山産業の請求は、被告に対し三六九万四〇〇〇円の支払を求める限度で理由があるから認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 潮見直之 裁判官 千葉直人 裁判官岡田伸太は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 潮見直之)
<以下省略>