仙台地方裁判所 平成17年(ワ)266号 判決 2005年12月20日
主文
1 被告らは、原告に対し、別紙物件目録2記載の建物を収去し、同目録1記載の土地を明け渡せ。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件は、原告が、別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という。)の所有権に基づいて、本件土地上に存在する被告ら所有の別紙物件目録2記載の建物(以下「本件建物」という。)を収去して本件土地を明け渡すよう求め、被告らが法定地上権成立による占有権原の存在を主張した事案である。
1 争いのない事実
(1) もと所有
昭和44年5月29日当時、被告Y1は本件土地を、亡Aは本件土地上に本件建物をそれぞれ所有していた。
(2) 抵当権設定等
ア 昭和44年5月29日、亡Aの宮城第一信用金庫に対する債務を担保するため、本件土地及び本件建物について、共同根抵当権が設定され、同月30日、その旨の登記がなされた(以下「本件一番抵当権」という。)。
イ 亡Aは昭和53年9月26日に死亡し、配偶者ないし子である被告らが、本件建物を共同相続した(被告Y1の持分11分の3、その余の被告らの持分各11分の2)。
ウ 平成4年10月12日、株式会社フジ活性油の朝銀宮城信用組合に対する債務を担保するため、本件土地について共同根抵当権が設定され、同月15日、その旨の登記がなされた(以下「本件二番抵当権」という。)。
エ 本件一番抵当権は、平成4年10月30日に解除され、同年11月4日、抹消登記がなされた。
(3) 原告の所有権取得
原告は、本件二番抵当権に基づく競売によって、平成16年7月2日、本件土地の所有権を取得した。
2 争点
本件建物について、法定地上権が成立するか。
(原告の主張)
本件一番抵当権設定当時、本件土地は被告Y1、本件建物は亡Aがそれぞれ所有者であり、同一の所有者ではないから、法定地上権は成立しない。
(被告の主張)
本件一番抵当権は解除されており、法定地上権の成立の有無には関係がない。
本件二番抵当権設定当時、本件土地は被告Y1が所有者であり、本件建物はY1を含む被告らの共有であったので、同一の所有者であったといえるから、法定地上権は成立する。
第3 争点に対する判断
1 原告の所有権取得の原因となった本件二番抵当権設定当時、先順位抵当権として、本件一番抵当権が設定されていた。かかる本件一番抵当権設定当時、本件土地は被告Y1、本件建物は亡Aがそれぞれ所有者であったので、本件一番抵当権設定当時を基準とした場合は法定地上権の成立要件(民法388条)を充足しない。
これに対し、本件二番抵当権設定当時、本件土地は被告Y1、本件土地は被告Y1を含む被告らが所有者であったところ、建物共有者の一人が土地を単独所有している場合であっても法定地上権の成立が認められる(最判昭和46年12月21日民集25巻9号1610頁)ことからすれば、本件二番抵当権設定当時を基準とした場合は法定地上権の成立要件を充足する。
2 そして、同一土地上に複数の抵当権が設定された場合において、先順位抵当権設定当時は土地所有者と建物所有者が異なっていたが、後順位抵当権設定当時は同一人の所有に帰していた場合、抵当権の実行により先順位抵当権が消滅するときには、法定地上権の成立は認められない(最判平成2年1月22日民集44巻1号314頁)。先順位抵当権設定後に法定地上権の成立要件を満たした場合に、後順位抵当権の設定によって法定地上権の成立を認めると、先順位抵当権者が把握した法定地上権の負担がない土地としての担保価値を損なうことになるからである。
このことは、後順位抵当権の設定後に先順位抵当権が解除された場合においても同様であると解すべきである。すなわち、先順位抵当権設定当時を基準にすれば法定地上権の成立が認められない場合には、後順位抵当権者は、前記平成2年最判に照らし、法定地上権の負担のない土地としての担保価値を把握することが期待できる地位にあった。それが、先順位抵当権が解除されたとして法定地上権の成立を認めると、後順位抵当権者のかかる期待を損なうことになるからである。
実質的にみても、もともと先順位抵当権を基準にすれば法定地上権の成立は認められないのであるから、土地及び建物を所有することになった者としては、建物については従前設定されていた土地利用権しか存在しないことを甘受すべき地位にあったものである。それが、たまたま先順位抵当権が後に解除されたからといって、法定地上権の負担がないものとして担保価値を把握していた後順位抵当権者の期待を害してまで、法定地上権の成立という利益を与えられる必要性はない。
3 これを本件についてみると、本件二番抵当権設定当時、本件一番抵当権が有効に存在し、その時点では本件建物について法定地上権は成立していなかったのであるから、その後に本件一番抵当権が解除されたとしても、法定地上権の成立要件が満たされることにはならず、結局、本件において法定地上権は成立しないものというべきである。
4 したがって、他に原告に対抗しうる土地利用権の存在について主張・立証のない本件においては、本件土地の所有権に基づき、本件建物を収去して本件土地の明渡しを求める原告の請求は理由がある。なお、仮執行宣言の申立てについては相当でないから、これを付さない。
(別紙)
物件目録1
1 所在 仙台市<以下省略>
地番 <省略>
地目 宅地
地積 469.85平方メートル
2 所在 仙台市<以下省略>
地番 <省略>
地目 宅地
地積 74.64平方メートル
以上
(別紙)
物件目録2
所在 仙台市<以下省略>
家屋番号 <省略>
種類 居宅
構造 コンクリートブロック造陸屋根2階建
床面積 1階 82.36平方メートル
2階 74.71平方メートル
以上