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仙台地方裁判所 平成17年(ワ)817号 判決 2009年2月24日

主文

1  被告は,別紙土地目録記載の土地にある別紙物件目録1記載の物件を搬出せよ。

2  被告は,原告に対し,平成16年4月8日から前項の物件搬出済みまで1か月あたり10万円の金員を支払え。

3  被告は,原告に対し,金5億1635万7801円及びこれに対する平成17年8月11日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

4  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5  訴訟費用はこれを6分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

6  この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  被告は,原告に対し,別紙土地目録記載の土地にある別紙物件目録2記載の物件を搬出せよ。

(2)  被告は,原告に対し,平成16年4月8日から前項の物件搬出済みまで1か月あたり10万円の金員を支払え。

(3)  被告は,原告に対し,31億6777万0325円及びこれに対する平成17年8月11日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。

(4)  訴訟費用は,被告の負担とする。

(5)  仮執行宣言

2  請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は,原告の負担とする。

第2事案の概要

本件は,被告との間の廃棄物処理契約に基づいて,被告から搬入された廃棄物を発酵堆肥化処理してコンポスト(以下「本件コンポスト」という。)を生成した原告が,上記契約上,被告には,本件コンポストを全量引き取る義務があるとして,また,被告は上記契約上,有害物質を搬入してはならないという不作為義務があったにもかかわらず,平成13年5月頃から重金属を含有する焼却灰を原告のプラント施設に搬入しており,この時期以降の搬入分については,上記不作為義務違反に基づく違反結果除去義務としての引取義務があるとして,さらに,廃棄物の処理及び清掃に関する法律(以下「廃掃法」という。)に基づく引取義務があるとして,被告に対して,上記各引取義務に基づいて,別紙土地目録記載の土地にある別紙物件目録2記載の物件を搬出することを求めるとともに,被告が上記各引取義務を履行しなかったこと,及び,被告が,上記契約上原告のプラントの安全性を確保すべき義務を負っていたにもかかわらず,平成13年5月頃から肥料取締法等に定める基準を大幅に上回る鉛,カドミウムを含有する廃棄物を原告のプラント施設に搬入したことによって,原告に被告や訴外宮城県下水道公社(以下「下水道公社」という。)との間の取引上の損害が生じたとして,被告に対し,債務不履行責任に基づき,平成16年4月8日から本件コンポスト搬出済みまで1か月あたり10万円,並びに,上記取引上の損害等合計48億0074万6060円の一部である31億6777万0325円及びこれに対する本訴状送達日の翌日である平成17年8月11日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

1  前提事実(証拠援用部分を除き,争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告は,昭和56年6月15日に設立された株式会社で,産業廃棄物及び一般廃棄物の収集運搬処理,堆肥の製造販売等を目的とし,肩書住所地に産業廃棄物の発酵堆肥化処理を行うプラント(以下「Aプラント」という。)を設置し,これを稼働させ産業廃棄物等の発酵堆肥化処理を行っているものである。

イ 被告は,昭和58年4月1日,栃木県B市,同C町,同D町,同E町,同F町,同G町によって,し尿処理に関する施設及びごみ処理に関する施設の建設・管理運営などを目的として設立された地方自治法上の一部事務組合である。

(2)  廃棄物処理契約等の締結(甲3)

原告と被告は,平成3年11月27日,同日付け「廃棄物処理契約書」(以下「本件契約書」という。)を作成して,被告の事業所で発生する廃棄物をAプラントで処理することを内容とする下記概要の廃棄物処理契約を締結した(以下「本件契約」という。)。

第4条(契約期間)

(1)  平成4年4月1日より平成19年3月31日までに至る満15年と定める。

(2)  万一途中解約の場合は,第5条の取り決めにもとづいて行うものとする。甲(原告,以下本件契約において同じなので省略する。)が途中解約する場合はその限りではない。

第6条(契約する廃棄物の種類)

乙(被告,以下本件契約において同じなので省略する。)の事業所において発生する廃棄物のうち,甲の所有するAプラントに搬入処理するものは焼却炉により発生した(含水率 %以下)のみとし,これ以外の廃棄物は甲のAプラントに搬入しないものとする。

第9条(安全性)

Aプラントは産業廃棄物の堆肥化処理により環境保全を高度な目標として開発運営されているリサイクルシステムである。このため,乙は取扱う廃棄物及びコンポストの安全性を守らなければならない。また,丙(収集運搬業者)に対しても同様の責務があるものとする。

第10条(検査義務)

甲は乙の搬入する廃棄物について毎月公的機関で検査を行い,甲,乙はその分析表を確認し,適切な処理をしなければならない。万一廃棄物の安全性に違反した場合は甲は直ちに契約違反として乙に通告する。

第15条(コンポストの所有権)

乙が搬入した廃棄物を発酵処理したコンポストはすべて甲の所有物となるが,乙に対して搬入された数量とほぼ同じ数量を無償で甲の処理場にて引渡し乙の所有物となる。

第16条(コンポストの使用)

乙は甲のAプラントで生産されたコンポストを乙の事業所あるいは乙の関連するところで使用する場合は甲と乙が協議のうえ使用するものとする。なお,乙が使用したコンポストについて一切の責任は乙が負担するものとする。

第17条(コンポストの販売)

乙が不特定の相手方にコンポストを販売する場合は別に定めるコンポスト販売契約書により,新たな契約を行うこととする。

(3)  平成4年4月から平成15年8月まで,本件契約に基づき,被告から原告に焼却灰の処理委託がなされ,その合計量は約6万4939.8m3である(以下,被告から原告に対して搬入された焼却灰を「本件焼却灰」という。)(なお,本件焼却灰の量については,原被告の主張及び証拠(甲20と29)の内容が相互に矛盾するが,本件焼却灰の搬入主体は被告であり,その被告自身が,本訴の提起にあたり,改めて事実を確認した上で作成した文書と認められる被告代理人作成の平成17年12月14日付け第2準備書面添付の別紙2「B広域保健衛生組合の焼却灰の搬出量」により認めるのが相当である。)。

(4)  被告は,本件契約に基づき,平成5年3月ころから平成6年6月ころまでにかけて,約431m3の本件コンポストを引き取った(甲62,弁論の全趣旨)。

(5)  平成15年8月15日付けで,農林水産省消費・安全局長から原告に対して,本件コンポストについて,公定規格に定める含有を許される最大量を超えてカドミウム及び鉛を含有するものがあることが判明したとして,指導がなされた(甲9)。

(6)  被告は,上記行政の指導などの事実を知り,平成15年8月21日付け文書で「現状を鑑みたときに,搬入を停止することが適切と考えます」として,そのころからAプラントに廃棄物の搬入をしなくなった(甲11)。

(7)  肥料取締法及び有機質肥料等推奨基準に係る認証要領(以下,「認証要領」といい,肥料取締法とあわせて「肥料取締法等」という。)の概要(乙50,51)

ア 平成3年当時,汚泥堆肥は特殊肥料として指定されており,乾物1kgあたりの含有量濃度について,ヒ素が50mg以下,カドミウムが5mg以下,水銀が2mg以下とされ,金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める総理府令(以下「総理府令」という。)の別表第2の基準(カドミウム又はその化合物:0.3mg/ℓ以下,鉛又はその化合物:3mg/ℓ,ヒ素又はその化合物:1.5mg/ℓ等)(以下「総理府令基準」という。)に適合するものとされていた。その後,平成7年4月施行の総理府令改正により,鉛又はその化合物:0.3mg/ℓ,ヒ素又はその化合物:0.3mg/ℓ等変更された。

平成12年10月1日施行の肥料取締法令改正により,汚泥発酵肥料は普通肥料としての規制を受けることとなった。含有を許される有害成分の最大量として,カドミウム0.0005パーセント,鉛0.01パーセント等が定められ,原料についても総理府令の別表第1の基準に適合するものという規制がなされた。

イ また,平成6年5月に,認証要領が作成され,特殊肥料について自主規制が定められた。その内容は,乾物当たりで銅:600ppm,亜鉛:1800ppmと規制値を定めたものである。

2  争点及び主張

(1)  被告の本件コンポストの引取義務

(原告の主張)

ア 本件契約に基づく引取義務

(ア) 被告は,本件契約15条に基づき,被告が搬入した廃棄物について原告が発酵処理した本件コンポストを,搬入量と同量をその都度搬出し,最終的には全量を引き取る義務がある。その理由は以下のとおりである。

a 被告は,被告を構成する自治体周辺では土壌を大量に搬出できるような山が少なく,発酵堆肥化した焼却灰が公共事業などで必要とされる土壌に利用できる一石二鳥の効果があると考えて本件契約締結に至ったものである。

b 被告の側で本件契約の締結を承認する際に作成された文書・記録には,いずれの文書にも「5 コンポストの利用 処理委託した焼却灰とほぼ同量のコンポストを無償にて譲り受ける」「5 コンポストの利用 原則として,処理した焼却灰と同量のコンポストを無償にて受ける」と記載されている。

c 原告は中間処理施設であるから,処理後に出てくる物質,コンポストの処理をどうするかということは,本件契約締結の際に,当然協議して取り決めがなされた。

d 本件契約第15条には,「乙が搬入した廃棄物を発酵処理したコンポストはすべて甲の所有物となるが,乙に対して搬入された数量とほぼ同じ数量を無償で甲の処理場にて引渡し乙の所有物となる」と規定されている。これは,当初,原告代表者H(以下「原告代表者」という。)が,被告が全量持ち帰る旨記載した文案を提案していたことに対して,議会への説明の便宜や原告が一部コンポストを戻し副資材として使用する便宜から婉曲な表現に訂正されたものにすぎず,被告が全量持ち帰るという申入れに変更はなかった。また,同条の文理解釈からも被告には搬入された数量とほぼ同量のコンポストの引取義務が定められていることが読みとれる。

e 本件契約後,被告は平成15年4月30日付け文書で,原告の苦情に対して「コンポスト持ち帰りにつきましても,ほとんど不履行のまま経過しておりますことも含めて,深く反省しているところでございます」と述べており,全量の引取義務があることを認識していた。

(イ) また,本件契約においては,発酵処理により本件コンポストを有価物とすることは契約の本旨となってはいない。本件契約に至る過程の文書,やりとりの中に有価物という文言は全く使用されておらず,全く念頭におかれていなかった。本件契約にいうコンポストは肥料ではなく,発酵処理されて生成される微生物を含む土壌であり,土壌改良剤として利用されるものである。

(ウ) さらに,本件コンポストは,強アルカリ性で植物の生育に適さずまた一般廃棄物として廃棄物処分場に埋立処分で廃棄するしかない焼却灰が,発酵処理により弱酸性となり大量の微生物を含むことによって植物の生育に適する良質な土壌に活用できる用途を具備したものであって,有価物である。現に発酵処理した本件コンポストは,被告の所有地に一部持ち帰られ,敷地に整地されて春にはポピー,秋にはコスモスが咲き,地域の話題になるような花畑の土壌として利用されている実態がある。

(エ) 宮城県仙南保健所長は本件コンポストを産業廃棄物であると認定したが,その判断根拠は,すべて被告の本件契約上の義務違反に起因するものである。それにもかかわらず,産業廃棄物に転化していることを理由に本件コンポストの引取りを拒否するのは著しく信義に反するものである。

(オ) そして,本件コンポストは,本件契約に基づき,Aプラントにおいて本件焼却灰を発酵処理した処理後物である。

これに対して,被告は本件コンポストには未処理の本件焼却灰が混在していると主張する。しかし,平成4年10月から平成15年までの焼却灰の処理可能量は,7万8600m3であり,被告搬入量の合計は6万4939.8m3であるから,十分に処理可能であるし,原告が本件コンポストに路盤補強材として敷いた本件焼却灰は全体としてごく一部の箇所にしか見られないもので,しかもその焼却灰は間隔をおいて段々模様に数段のみ見られるものにすぎない。アンモニア臭もごく一部に観察されたに過ぎない。

(カ) 本件契約には被告の本件コンポストの引取りの期限についての定めがないが,原告は既に何度も履行を催告しており,少なくとも任意に履行をした平成5年3月頃には履行義務の始期が到来した。また,原告は,被告を相手方として,発酵処理後の本件コンポストの引取義務の履行を求め,平成16年2月20日,仙台簡易裁判所に対して公害等調停事件を申し立て,遅くともその第1回期日である同年4月8日までには上記調停申立書が被告に送達されたことにより,被告に対し,本件コンポストの引取義務の履行を催告した。

イ 不作為義務違反に基づく引取義務

被告は平成13年5月頃から,肥料取締法等に定める基準を大幅に上回る鉛,カドミウムを含有した焼却灰を後記(2)で述べる本件契約に定める安全確保義務に違反して搬入した。被告の上記行為は,有害物質を搬入してはならないという不作為義務に違反するものであり,不作為義務違反に基づく違反結果除去義務としても本件コンポストを引き取る義務がある。

ウ 廃掃法に基づく引取義務

廃掃法4条1項は,「市町村は,その区域内における一般廃棄物の適正な処理に必要な措置を講ずるよう努める」と規定している。被告はこの法律上の責務によっても本件焼却灰の処理後の本件コンポストを引き取るべき義務があるというべきである。

エ 消滅時効

被告は平成15年4月30日に本件コンポストの引取義務の存在を認めてその不履行を陳謝している。これは債務の承認にあたり,時効の中断もしくは時効援用権の放棄に該当するし,消滅時効の主張は信義則違反にも該当する。

オ 以上のとおりであるから,被告には本件コンポストを全量引き取る義務があるというべきである。

カ 引取義務違反による債務不履行責任

また,上記のとおり,被告は本件コンポストを全量引き取る義務があるにもかかわらず,これに違反して本件コンポストを原告のプラント施設内の敷地に放置し,原告に大量のコンポストの保管を余儀なくさせている。よって,被告は,本件コンポスト引取義務違反の債務不履行責任として,原告に生じた(3)記載の損害を賠償すべき責任がある。

(被告の主張)

ア 本件契約に基づく引取義務

(ア) 本件契約15条は,被告が希望したときには,被告は原告から,権利として原告に搬入した一般廃棄物(焼却灰ないし脱水ケーキ)の量を上限として,コンポストの引渡しを受けることができるという権利を定めた条項である。もっとも,契約当事者間の実質的合意の一内容として,被告が本件コンポストの一部についてその引取りに努力することを定めた趣旨も含んだものでもある。そう解する理由は以下のとおりである。

a 本件契約15条の文言は,「乙が搬入した廃棄物を発酵処理したコンポストは,すべて乙の所有物となる。」とは規定されておらず,「乙に対して…甲の処分場にて引渡し乙の所有物となる」と規定し,被告に引き渡されたコンポストの所有権を被告に帰属させるという規定となっている。

b 本件契約16条及び17条では,被告に引き渡した場合のコンポストに対しての原告の拘束規定を定めている。

c 被告としては,焼却灰を実質的に最終処分してくれる施設を確保することが最大の目的であり,再生した製品を取得することには関心がなかった。

d 原告は中間処理業者であるから,できあがった製品の行く先が問題となるが,原告は既にAプラントから作られる堆肥を販売していたから,被告としては,できあがった製品は原告の方で流通させるものと認識していた。

e 原告は,本件コンポストを現に第三者に処分していた。

f 被告が本件焼却灰とほぼ同量のコンポストを引き取るというのであれば,その量は大量のものとなる。しかし,被告には,埋立造成や土地改良などのために,そのような大量のコンポストを引き取って使用するような需要はなかった。

g 本件契約当初も,被告担当者による年1回の原告施設に対する視察の際にも,本件契約締結の担当者であったIは,原告代表者から,本件コンポストについて,全量持ち帰ることを要求されてはいない。

h 現に,被告が本件コンポストを引き取った時期,回数,量は,平成4年:120t,平成5年:280t,平成6年:10tとわずかである。原告から本件コンポストの引取りを要求する文書が被告に提出されたのは,平成15年5月20日であり,原告は,被告の最後の引取りから9年間もの長期間にわたって正式な引取要求をしていない。

i 原告は,本件コンポストを長年にわたってストックヤードと称する場所に堆積あるいは埋立てしていたものであり,原告には被告に引き取らせる意図はなかった。

j 被告は,全量引取りを前提とした予算措置を講じておらず,1年の単年度ごとに年間10トン車10台分ほどの持ち帰り予算しか組んでいない。

(イ) 本件コンポスト全量がAプラントで本件焼却灰を発酵処理した後の生成物であることは否認する。原告の施設では,本件焼却灰・被告が搬入した脱水ケーキの全量を処理するだけの処理能力はなく,本件焼却灰のうち約56パーセント以上のものが処理されていなかった。また,原告は路盤補強のために,本件コンポストに相当程度の本件焼却灰を混在させている。しかも,本件コンポストと未処理の本件焼却灰との間を隔離する遮へい構造はとられていないから,未処理の本件焼却灰を本件コンポストと分離することは物理的に不可能であり,本件コンポストは全体として中間処理が完了したものとはいえない。

また,本件コンポストにはアンモニア臭があり,未処理の下水道公社汚泥ないし脱水ケーキが混在したままである。

(ウ) 本件契約では,原告が,Aプラントを用いて,被告の事務所で発生した一般廃棄物である焼却灰及び脱水ケーキを中間処理して有価物であるコンポストを再生する義務を負っている。

具体的には,本件契約におけるコンポストは,堆肥化処理された堆肥であり,汚泥発酵肥料に分類される肥料であるから,本件コンポストは肥料としても積極的要素を有していなければならないが,本件コンポストがこのような要素を有しているとは認められない。

また,本件契約におけるコンポストは肥料か少なくともこれに準ずるものであるから,肥料取締法及びその附属法規ないしその準則を基準にして,重金属などの有害物質を含有していないことが必要であるが,本件コンポストは本件契約当初から肥料取締法等の基準値を超過する有害物質の重金属ないしダイオキシン類を含んでおり,宮城県仙南保健所長によって産業廃棄物と認定されており,有価物であるとは認められないから,本件契約に基づく引取請求の対象物とはなりえないものである。

イ 不作為義務違反に基づく引取義務

(2)で述べるように,焼却灰搬入にあたって被告のなすべき義務は,総理府令基準を守ることに尽きるものであり,かつ,被告はその基準を守って本件焼却灰を搬入したものであるから,被告に上記義務違反による引取義務が生じることはない。

ウ 廃掃法に基づく引取義務

原告の主張は失当である。

エ 被告の主張

(ア) 原告の保管と称する生成物の現状は,廃棄物の埋立処分であって,原告の埋立処分により,引取義務の履行は取引通念上不可能となったから引取義務は消滅した。

(イ) 原告は,平成4年の本件焼却灰の搬入当初から,Aプラントにおいて処理能力を超える焼却灰を受け入れ,現実には約10年の長きにわたり未処理の焼却灰を混ぜて埋立処分してきたものであって,このように未処理の焼却灰と混ぜて埋立処分し,原告自らがもはや分離不可能な状況に置いたのであって,この引取りを求めることは信義則に反する。

(ウ) 平成11年2月20日以前に生成された本件コンポストに関する引取義務は,商事消滅時効期間の5年の経過により消滅した。

(2)  被告の搬入廃棄物の安全確保義務違反

(原告の主張)

ア 被告の義務

(ア) 本件契約9条において,被告の安全性確保義務について「Aプラントは産業廃棄物の堆肥化処理により環境保全を高度な目標として開発運営されているリサイクルシステムである。このため,乙は取扱う廃棄物及びコンポストの安全性を守らなければならない。」と約定されている。これにより,被告は,Aプラントに搬入する廃棄物の安全性を確保し,その中間処理後物であるコンポストの安全性を確保すべき義務を負っている。特にAプラントにおいて重金属類の分解はできないから,重金属類は有害物の典型例である。

そして,本件焼却灰および本件コンポストに重金属等の有害物が含まれないための安全性確保基準としては,肥料取締法等の基準を準用するのが相当であり,このことは本件契約において合意されている。その理由は,本件契約におけるコンポストは堆肥化され環境に負荷を与えないリサイクル可能なものであり,土壌改良剤として用いることのできる堆肥に準ずるものであることや,本件契約10条において,原告は被告の搬入する廃棄物を毎月検査するとされているところ,原告は肥料取締法に基づく含有試験を行う設備で検査を行っていること等にある。

ところで,肥料取締法等による有害物排除の含有量基準値(mg/kg)は次のとおりである。

600以下

亜鉛

1800以下

カドミウム

5以下

100以下

(イ) また,被告は,一般廃棄物の処理について統括的な責任を有するものとして,総理府令基準による安全性確保を遵守する義務があるところ,同基準においては,燃え殻・汚泥・鉱さい・ばいじん及びこれらを処理したものについて,「鉛又はその化合物」「カドミウム又はその化合物」の溶出量がいずれも0.3mg/ℓ以下であることが求められている。

(ウ) さらに本件コンポストは,そのリサイクル使用において,土壌改良剤として期待されていたものである。被告もそのことを認識し本件契約に臨んでいる。したがって,本件コンポストが土壌汚染対策法上の基準をクリアすることが,本件契約において含意されていたものと見るのが相当である。

土壌汚染対策法において排除される重金属の基準は次のとおりである。

カドミウム

溶出量基準0.01mg/ℓ以下,

含有量基準150mg/kg以下

溶出量基準0.01mg/ℓ以下,

含有量基準150mg/kg以下

イ 有害物の混入

(ア) 被告が本件焼却灰について鉛の分析試験を行った結果は以下のとおりである。

a 平成14年8月29日採取試料から260mg/kgが検出され,同年11月8日採取試料から480mg/kgが検出された。

b 同年11月7日採取試料の溶出試験において,0.86mg/ℓが検出された。

(イ) 原告が行った「重金属含有量分析」の結果によると,被告が搬入した焼却灰は,カドミウムについては平成14年6月3日及び同年7月17日採取試料が肥料取締法等による有害物排除の含有量基準値5mg/kgを大幅に上回るものであった。また,銅,亜鉛,鉛については,平成14年5月13日以降,いずれも肥料取締法等による有害物排除の含有量基準値を大幅に超える焼却灰が継続して搬入されていたし,鉛については土壌汚染対策法の含有量基準(150mg/kg以下)も大幅に上回るものであった。

(ウ) 独立行政法人肥飼料検査所仙台事務所の平成15年8月6日の立入検査の結果,本件コンポストからカドミウム9.2mg/kg,鉛559mg/kgが検出された。

ウ 以上のとおりであり,平成14年6月頃から平成15年8月頃までの間,被告は,総理府令基準,肥料取締法等及び土壌汚染対策法の基準に適合しない重金属を含む本件焼却灰を搬入しており,その結果,本件コンポストからも上記各法の基準を大幅に上回る重金属類を検出させたものである。

(被告の主張)

ア 被告の義務

本件契約に基づく被告の義務は,廃掃法の基準(総理府令基準)を遵守することである。

本件契約によって被告が原告に委託したのは,被告の事業所から発生する一般廃棄物である焼却灰の処理である。そもそも,地方自治体のごみ焼却場に搬入される可燃ゴミの中には,家庭あるいは事業者から排出される多種多様の物質が含まれており,焼却炉でそれらが焼却されると有機物は分解し無機物が濃縮されるので,焼却灰中の重金属の含有は避けられず,このことは,廃棄物処理の専門業者である原告にとって当然に承知していたことである。そのような性質を前提とする焼却灰の処理を委託したものである。また,本件契約に基づいて締結された被告,原告及び訴外有限会社J(以下「J」という。)との間の「廃棄物収集運搬委託契約」の第5条によれば,被告が原告に対して負う義務は,廃掃法ないしその附属法規の定めに違反するような焼却灰をAプラントに搬入しないという義務である。さらに,本件契約上の検査義務について,被告に課されている義務は廃掃法に基づく溶出試験であって,肥料取締法に基づく含有試験ではなかった。

以上のことからすれば,被告の方がやるべきことは,廃掃法の基準の遵守であり,産業廃棄物の最終処分の埋立基準であるところの総理府令基準を被告が守るべき原料規制基準として本件契約で合意したものである。

イ そして,被告は本件焼却灰をAプラントに搬入するにあたって上記義務を履行していたものである。

(3)  損害

(原告の主張)

ア 本件コンポスト保管の賃料相当損害金  1か月10万円

原告は,被告に対し,平成16年4月8日以前には本件コンポストの搬出を催告した。その後も原告は被告が引き取るべき本件コンポストを原告の所有地上に保管しており,その賃料相当損害金は次のとおり1か月あたり10万円を下回らない。これは被告の引取義務違反により生じた損害である。

村田町内での休耕田における資料置場の賃料額

100,000円/1反(1,000m2)/年×12,000m2×1/12=100,000円

イ 被告との取引上の損害  13億6585万5000円

本件契約の期間は平成4年4月1日から平成19年3月31日までの15年間とされていた。しかし,被告は,平成15年8月21日に一方的に原告との取引を停止した。これは,被告の安全確保義務違反行為により取引を継続することができなくなったものであるから,被告はこの取引停止による損害を賠償すべき責任がある。また,平成19年3月31日からの5年間は契約が更新延長された蓋然性が高い。

この取引停止による損害額は合計で13億6585万5000円となる。

ウ 下水道公社との取引上の損害  13億5940万7000円

原告は下水道公社から,平成3年4月10日からは廃棄物汚泥の処理委託を,平成7年4月1日からは廃棄物しさの処理委託を継続的に依頼されてきた。しかし,上記委託契約は,宮城県仙南保健所長から,下水道公社が原告に処理委託した汚泥の発酵処理後物が,委託契約では想定していなかった処分を要する産業廃棄物と認定され,かつその保管について改善命令が出されたこと,その後,この発酵処理物について廃掃法に基づく適正な処分がなされなかったことから,平成16年3月5日解除された。これは,被告の引取義務違反によるものであり,被告はこの取引停止による損害を賠償すべき責任がある。また,上記契約は平成24年3月31日まで少なくとも7年間は継続したはずである。

この取引停止による損害額は合計で13億5940万7000円となる。

エ 下水道公社に対する違約金  1704万8325円

原告は下水道公社に対し合計1704万8325円の違約金の支払を求められ,これを支払っているが,被告の引取義務違反がなければ,下水道公社が原告との契約解除することもなく,原告が違約金を支払うこともなかった。

オ 改善命令工事費  3848万0925円

(ア) 第1回改善命令作業費  3335万6925円

平成15年12月24日,原告は,宮城県仙南保健所長より,製品ストック場1に保管している本件コンポストについて改善命令をうけ,3335万6925円をかけて工事を行ったが,これは被告の債務不履行により受けた損害に該当する。

(イ) 第2回改善命令作業費  512万4000円

平成18年2月13日,原告は,宮城県仙南保健所長より,製品ストック場2に保管している本件コンポストについて改善命令をうけ,512万4000円をかけて工事を行ったが,これは被告の債務不履行により受けた損害に該当する。

カ 処理後物保管作業費  15億0832万5000円

原告が本件コンポストを保管するためには,発酵堆肥化プラントの出荷箇所から製品ストック場1及び製品ストック場2に本件コンポストを運搬する作業及び保管場所の整地作業が不可避であった。このための費用に15億0832万5000円を要した。これも被告の引取義務違反に基づいて原告が受けた損害に該当する。

キ 発酵槽入替作業  1億8359万2500円

被告の安全確保義務違反により原告の発酵堆肥化処理施設のレーンが有害な重金属で汚染されたため,全ての発酵槽の投入材の入替作業を行わざるを得なかった。その作業費用は1億8359万2500円であった。

ク 土壌回収作業  2803万7310円

原告は,宮城県仙南保健所長より,平成19年2月21日,鉛が検出された区域などのコンポストの回収撤去の要請を受け,機械及び手作業により土壌回収作業を行った。この費用には2803万7310円を要した。

この作業費も被告の債務不履行により原告が受けた損害である。

ケ 弁護士費用  3億円

本件訴訟は証拠も膨大であり争点も専門知識の裏付けを要するものであることなどから本人のみでの訴訟遂行は困難である等の事情からすれば,3億円の弁護士費用は上記債務不履行と相当因果関係のある損害である。

コ 総損害額

(ア) 平成16年4月8日から搬出済みまで1か月あたり10万円

(イ) 48億0074万6060円

サ 請求額

(ア) 平成16年4月8日から搬出済みまで1か月あたり10万円

(イ) 31億6777万0325円

(被告の主張)

原告の主張は否認ないし争う。

第3当裁判所の判断

1  前提事実,証拠(甲1,4の1ないし4,5,7の1ないし5,8,20,29,40の1ないし29,52の1・2,60の1ないし17,62,64の3,74の1ないし22,乙2の1・2,6の1ないし3,10,52,53,証人K,証人I,証人L,原告代表者本人(ただし下記認定と異なる部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。

(1)  Aプラント・コンポストについて

ア 本件契約前に原告が被告に対して送付したAプラントのパンフレットには,有機性排出物(有害物質を含まない)を発酵原料として受け入れることが出来ること,有機性排出物を搬入すると発酵等を経て完熟堆肥になるとの「Aプラント・フローチャート」,コンポストの特長として,水はけが良く,水持ちの良い完熟した堆肥であること等が記載されている。

イ Aプラントにおいて発酵処理されるのは有機物のみであり,無機物・重金属類は発酵処理されないため,Aプラントの発酵過程において焼却灰及びそこに含まれる重金属類はいずれも減量せず,本件コンポストに含有される重金属類の割合には当初の焼却灰に含まれる重金属類の割合が大きく反映する。

ウ Aプラントの生成物の重金属類の含有割合については,水分調整材として使用する焼却灰を2分の1に減量して,減量した分をバークやもみ殻などほかの水分調整材を使用することによって,減らすことが可能であり,ほかの多くの堆肥化処理場ではこのような手段をとる。

エ 可燃ゴミや粗大ゴミ処理施設で破砕された可燃物の中にも重金属が含まれることがあり,焼却灰には重金属が含まれてしまう。そして,この重金属を取り除くことは現実的には困難であった。

オ Aプラントの1レーンの規格はコンクリート造(巾3m×深さ2m×長さ100m)であり,1レーンの最大処理量は1日あたり10m3である。

カ Aプラントは最初に使用する際には,発酵槽内を床材で満たすものとされる。また,固形原料と水分調整材との混合割合は原則1:1(豊浦町では1:1.2)であるが,含水比の関係で,水分調整材の割合も変わってくる。

また,原料内部において焼却灰と下水道汚泥の割合も,2対1から5対1まで日々の水分の量によって変わっており,実際の水分の量も相当程度変動していた。特に本件焼却灰は,温度を下げるために,水の処理をして搬入されることがあり,そのときは水分をとる作業をしなければならないほど含水量が多かった。

(2)  本件契約締結に至る経緯

ア 被告は,従前から,収集したゴミの焼却灰を福井県敦賀市にあるMに搬入し,最終処分を委託していたが,敦賀市において,住民の反対運動があり,搬入停止の強い要請を受けたため,平成3年の2月ないし3月ころ,Mへの搬入は平成4年3月31日で終了することなった。そこで,被告はこれまでMに搬入していた焼却灰の受入先を早急に探す必要が生じた。

イ 当時,Nという会社が最終処分場を草津に建設予定であったが,実際の稼働は平成4年夏ころ予定であったこと等から,受入先とはならなかった。また,遠方に最終処分場があったが非常に高額であった。そのような状況の中,平成3年5月ころ,B市内のごみ収集業者であるJのO社長から,被告に対し,最終処分ではなく堆肥として中間処分する業者として,原告を紹介された。

ウ 同年6月,原告代表者が被告が管理運営する中央清掃センター(以下「中央清掃センター」という。)に来所した。このとき,原告代表者がIに対して,中央清掃センターの焼却灰の成分について聞き,廃掃法に基づく溶出試験の結果を検討した。そして,総理府令基準を下回っていることを確認した上で,この数字ならできるとIに伝えた。また,原告代表者はIに対して,含有試験の分析結果があるか否かについて聞いたが,含有試験の分析結果はなかった。そこで,原告代表者は焼却灰のサンプルを持ち帰り,Pに依頼して肥料取締法に基づく含有試験を行い,基準の範囲内であることを確認した。

この来所のとき,原告代表者はIに対して,本件コンポストには,もう6年の実績がある,作った肥料は肥料会社に渡したり,近所の農家に配っている旨説明した。

エ 同月27日,被告の事務局長であったQがAプラントを訪問した。このとき原告代表者は,Aプラントで焼却灰を有機物と混ぜ合わせると,土壌微生物を多く含んだ肥沃な土壌ができる旨説明した。また,この生成物については,道路造るにしたって,公園造るにしたって,畑に戻すにしても,いろんなふうに役に立つ旨説明した。

オ 平成3年6月下旬から,同年11月25日までの間に,原告が作成した本件契約書とほぼ同内容の契約書原案が被告に送付された。

カ 本件契約締結前に作成された被告の内部文書である決定書(標題:焼却灰の処理委託の契約について(伺い))には,コンポストの利用として,処理委託した焼却灰とほぼ同量のコンポストを無償にて譲り受ける旨の記載があり,本件契約と同内容の廃棄物処理契約書(案)が添付されているところ,被告において,本件契約を締結することについて,平成3年11月27日,被告の管理者,副管理者,事務局長等の決裁がなされた。

キ 原告と被告は,同日,本件契約を締結した。

(3)  本件契約の条項に関して

ア 10条の関係

10条では,原告が被告から搬入された廃棄物について公的機関で検査を行う義務が定められていたが,原告は本件焼却灰について,肥料取締法に基づく有害物質の含有試験及び廃掃法に基づく溶出試験の2つの検査を行っていた。そして,平成7年に原告が研究所をつくるまでは,Pで上記検査を行い,研究所をつくってからは,研究所で自社分析を行っていた。また,本件コンポストについても同様に,含有試験及び溶出試験を実施していた。

イ 15条の関係

原告からの本件契約書の原案の15条には,「乙が搬入した廃棄物を発酵処理したコンポストはすべて甲の所有物となるが,乙に対して搬入された数量とほぼ同じ数量を無償で甲の処理場にて引渡し乙の所有物となる」旨記載されていた。これに対してIが,「原則として」という文言を入れてほしいと話したら,原告代表者は,一言一句変えられない,利用方法についてはお花畑とかおいおい考えてくれればよい旨回答した。また,契約を結ぶときに原告代表者からIに対して,被告の方でできあがったコンポストは引き取ってもらいたいという話がなされていた。

(4)  本件契約締結後の経緯

ア 平成4年4月1日,本件契約に関して,原告・被告・Jの三者の間で廃棄物収集運搬委託契約(以下「本件廃棄物収集運搬契約」という。)が締結された。本件廃棄物収集運搬契約の5条において,甲(被告)は自社事業所から排出する廃棄物について,事前に分析機関により分析を行い,乙(原告)に提出し,廃掃法の基準に適合するものについてのみ乙(原告)及び丙(J)に委託する旨規定されている。

イ 被告は,Jとの間で,平成6年4月1日から1年間,本件コンポストを中央清掃センターに運搬することを委託する契約(以下「本件コンポスト運搬契約」という。)を締結した。

この契約に関して被告は,トラック10台分程度の予算措置しか講じていなかった。

ウ 平成11年暮れ頃,原告の研究所長であったRから,被告に対して,重金属の量を下げられないか,分析表がほしいという要請があり,被告からは溶出試験の結果を送付したものの,下げることは難しい旨回答した。また,原告は含有試験の結果についても求めていたが,被告は含有試験結果は持っていなかった。その後も,複数回,Rから被告に対して,重金属を下げる処理をするのが大変なので,下げてもらえないかという話がなされたが,被告が下げるのは難しいと回答していた。このとき,Rから具体的な重金属の種類については言及がなかった。

エ 平成15年4月14日,被告から原告に対して,「焼却灰,脱水ケーキ処分委託契約に関する今後の対応について」と題する書面が,被告において決裁の上,送付された。この書面には,「基本となる『廃棄物処理契約書』の内容について,一部履行が不充分であった…」続けて「重金属類の低減化対策を進めてまいります。」「コンポストを持ち帰って,当組合で使用することにつきましては,過去に一度,組合内で花の栽培に使用しただけで,その後は持ち帰っておりませんでした。今後は,資源循環に努めてまいりたいと考えております。」等記載されている。

しかし,この書面については,具体的なことが書かれていないということで原告代表者から受領拒否された。

オ そこで,平成15年4月30日,被告から原告に対して,「焼却灰,脱水ケーキ処分委託契約に関する今後の対応について」と題する書面が,被告において決裁の上,送付された。同書面は,同月14日付け書面とほぼ同内容であるが,コンポストの使用に関する記載が「『廃棄物処理契約書』の契約事項に明記されておりますところの,コンポスト持ち帰りにつきましても,ほとんど不履行のまま経過しておりますことも含めて,深く反省しているところでございます。今後は,花の栽培などを中心に当組合で再利用をし,広く市町民へのPR等努力をして参りたいと考えております。その為の具体的な利用計画を立て,随時対応して行きたいと考えております。」との記載に変更されている。

(5)  本件焼却灰の処理

ア 未処理の本件焼却灰

(ア) 平成4年4月から平成15年8月までの間,被告が搬入した焼却灰の量は以下のとおりであった。

年度   搬入量(立方メートル)

平成4年  5420.5

平成5年  6797.5

平成6年  6857.1

平成7年  7123.0

平成8年  6705.2

平成9年  4555.1

平成10年  5333.6

平成11年  5269.2

平成12年  5057.8

平成13年  5304.2

平成14年  4646.6

平成15年  1870.0

(イ) 平成6年度から平成15年度10月までの間に,原告において処理した汚泥量,焼却灰の量,汚泥を混合した処理後物の保管量は以下のとおりである。

年度

処理した汚泥量(t)

焼却灰の量(m3)

汚泥を混合した

処理後物の保管量(m3)

平成6年度

11,366

6,857

6,857

平成7年度

12,537

7,123

7,123

平成8年度

13,126

6,705

6,705

平成9年度

13,126

4,555

4,555

平成10年度

13,126

5,333

5,333

平成11年度

13,077

5,269

5,269

平成12年度

13,014

5,057

5,057

平成13年度

11,998

5,304

5,304

平成14年度

11,304

4,646

4,646

平成15年度

6,919

1,870

1,870

(ウ) 原告は,平成4年10月から,第2処分場で被告の焼却灰の発酵処理を開始した。平成4年4月から9月までに,すでに搬入された焼却灰は,一時保管されていたが,この処理の際に,第2処理場のレーンの床材として使用された。平成4年10月以降,原告は,下記(エ)を除き,第2処分場以外のところで,被告の焼却灰を処理したり,又は処理しないままの状態で保管したりしたことはない。

(エ) 本件コンポストが貯まっていくと,雨や雪が降ったとき,ぬかるみになって,ダンプが出てこられなくなるため,第2ストック場においては,未処理の焼却灰を路盤補強材として敷いていた。その量は合計で約218m3である。

イ 分析結果

(ア) 本件コンポストの含有量試験の結果は別紙「本件コンポスト含有試験一覧表」のとおりである。

(イ) 本件焼却灰の含有量試験の結果は別紙「焼却灰含有試験一覧表」のとおりである。

(ウ) 本件焼却灰の溶出量試験の結果は別紙「焼却灰溶出試験一覧表」のとおりである。

2  争点1(被告の本件コンポストの引取義務)について

(1)  本件契約に基づく引取義務

ア 原告は,被告には本件契約の15条に基づいて,被告が搬入した廃棄物について原告が発酵処理したコンポストを搬入量と同量をその都度搬出し,最終的には全量を引き取る義務があると主張する。

そこで検討するに,当裁判所は,前記前提事実及び上記1の事実を総合すると,被告には,本件契約に基づき,原告がAプラントで被告の焼却灰を発酵処理して生成したコンポストについて,有価物であるか否かを問わず,その全量を引き取る義務があったものと判断する。その理由は以下のとおりである。

(ア) 本件契約書には,15条(コンポストの所有権)として「乙(被告)が搬入した廃棄物を発酵処理したコンポストはすべて甲(原告)の所有物となるが,乙(被告)に対して搬入された数量とほぼ同じ数量を無償で甲(原告)の処理場にて引渡し乙(被告)の所有物となる。」と規定されているところ,この条項によれば,原告において発酵処理された被告の廃棄物は,原告がほぼ同量を被告に無償で引き渡すことになっていたことは読みとれるが,他方で,本件コンポストを引き受けることが被告に義務づけられていたか否かについては判然としない。

(イ) そこで,本件契約締結に至る過程について検討するに,被告が,Oから,最終処分業者ではなく,中間処分をして堆肥とする業者として,原告の紹介を受けたこと,被告担当者が原告を訪問した際に,Aプラントでは焼却灰が肥沃な土壌になる旨の説明を受けたこと,原告と被告の間では,原告がAプラントで生成したコンポストを肥料会社に渡したり,近所の農家に配るなどしており,有効利用できる実績があり,道路造るにしたって公園造るにしたって畑に戻すにしたって役に立つこと等,本件コンポストの利用方法についての話がなされたことからすれば,被告としては,本件契約交渉段階において,既に処理後物の処分について検討しなければならないことは十分認識していたというべきである。

そして,その後,原告代表者と被告担当者との間では,原告が被告に対して送付した本件契約書の15条と同じ内容の原案に関して交渉が行われたが,その交渉の中で,原告代表者から被告担当者に対して,できあがったコンポストは引き取ってもらいたい,利用方法についてはおいおい考えてくれればよい等の話しがなされており,本件契約は被告において本件コンポストを引き取るものであるということを被告担当者も十分認識した上で交渉が進められていたことが窺える。

その後,被告内部においては,平成3年11月27日,本件契約の締結について決裁がなされたが,その決裁書には,本件契約書の原案が添付されており,また,コンポストの利用として,処理委託した焼却灰とほぼ同量のコンポストを無償にて譲り受けるとの説明がなされている。

上記交渉経過にかんがみれば,被告は,発酵処理後に生成される本件コンポストの全量を被告において引き取る義務があることを前提として,本件契約の締結について決裁したものと認めるのが合理的である。

(ウ) また,本件契約締結後,被告は第三者との間で,本件コンポストについて運搬委託契約を締結しており,実際に本件コンポストの一部を引き取っていること,原告に対し,被告内部で決裁の上,コンポストの引取りを履行していないことを反省している旨の文書を送付していることの事実が認められ,これは,上記のとおり,本件契約においては,被告が本件コンポストを引き取る義務があることから,その一部を履行したものの,現実の受入れ態勢を整えていなかったことなどからその余の履行を怠り,そのことについて原告に対して反省の念を表したものと見るのが合理的である。

(エ) したがって,被告は,本件契約上,原告が処理したコンポストの引取義務を負うと認められる。

(オ) この点,本件契約において被告が引取義務を負うコンポストの内容については争いがあり,被告は,本件契約におけるコンポストは,汚泥発酵肥料に分類される肥料でなければならず,肥料取締法等の規制に適合したものでなければならない旨主張するので検討する。

a 上記のとおり,本件契約の交渉が始まった平成3年6月当時,被告は,従前焼却灰を搬入していたMへの焼却灰の搬入を平成4年3月31日で打ち切らざるを得ない状況となっており,別の搬入先を早急に決める必要があった。ところが,候補であったNの最終処分場は稼働時期の関係で利用できず,他の処分場も非常に高額であり,適当な処分場が見つからないという状況にあった。このような状況において,被告は,原告との間で,コンポストを引き取る義務を前提とした本件契約を締結した。このような,本件契約締結当時,被告が置かれていた客観的状況を総合すると,被告としては,被告の中央清掃センターにおいて生じる焼却灰の保管場所を早急に見つける必要に迫られていたものであり,被告の本件契約における主眼は,平成4年4月以降,被告の中央清掃センターにおいて生じる焼却灰を一時的であっても原告に受け入れてもらう点にあったということができる。そうであればこそ,被告は,発酵処理後に生成される本件コンポストの全量を被告において引き取る義務があることを前提とした本件契約の締結を決断したのであり,上記のとおり,本件契約には本件コンポストの引取義務の履行期が明確に定められておらず,原告代表者が本件コンポストの利用方法についてはおいおい考えてくれればよい旨Iに回答していたように,引取義務はあるものの,その履行は将来に先送りされているのであるから,焼却灰の保管場所を緊急に見つけ出す必要に迫られていた被告にとっても,十分メリットのある契約であったと言えるのである。

b 以上のような本件契約当時の被告の状況に照らすと,被告は,コンポストが肥料ないし有価物であることを念頭に置いてはいなかったと推認するのが合理的であって,本件契約において,コンポストが肥料ないし有価物でなければ被告は引き取らないなどという合意があったと見るのは不自然というべきである。したがって,本件契約においては,コンポストの性質にかかわらず被告がその全量を引き取る旨の合意があったと認めるのが合理的である。

(カ) 以上のとおりであるから,本件契約上,被告には本件コンポストが有価物か否かに関わらず引き取る義務があるというべきである。

イ 本件焼却灰の処理について

(ア) 上記認定事実によれば,原告は,平成4年10月から,第2処分場で被告の焼却灰の発酵処理を開始しているところ,平成4年4月から同年9月までにすでに搬入された本件焼却灰は,この処理の際に,第2処理場のレーンの床材として使用されていること,原告は平成6年度から平成15年度に至るまで,下記のとおり,道路の一部に路盤材として未処理の焼却灰を用いたほかは,被告から搬入された焼却灰を全量処理したこと,平成4年10月から平成5年度の分についても処理しないで放置したことはないことが認められ,原告は被告から搬入された焼却灰について,合計6万4939.8m3のうち約218m3を除いた全量を処理し,本件コンポストを生成したことが認められる。

(イ) これに対し,被告は,本件コンポストには未処理の廃棄物が混在しており,全体として中間処理が完成したものではないから,そもそも被告の引取義務は発生していないと主張し,その根拠として,①1レーン当たりの処理能力が1日20立方メートルであり,汚泥,焼却灰,戻し副資材の比率は3:1:6であるから,1レーンの1日当たりの焼却灰の処理量は2立方メートル(1か月当たりでは60立方メートル)となる,②平成4年4月から同年9月までは1レーンのみで処理していたから,その間の処理量は360立方メートルであったが,被告の搬入量は3694.5立方メートルであった,③同年10月以降は8レーンで処理していたから,年間処理量は5760立方メートルであったが,被告の搬入量はそれ以上であったことから,原告の施設では,そもそも被告搬入の焼却灰・脱水ケーキの全量を処理するだけの処理能力はなかったと主張する。

しかしながら,上記認定事実によれば,被告の計算の基本となる汚泥,焼却灰,戻し副資材の構成比率は常に一定ではなく,含水率等に応じて変動することがあったと認められるから,上記被告の主張は失当である。

(仮に1レーンの1日当たりの焼却灰の処理量が2.5立方メートルであったとすれば,8レーン合計での年間処理量は7200立方メートルを下らず,被告搬入量を全量処理することが十分可能であったと認められる。)

(ウ) また,被告は,未処理物があることの根拠として,原告が未処理の焼却灰が存在していることを自認していることを主張する。

しかしながら,原告は,道路の一部に路盤材として未処理の焼却灰を用いたものであり(そもそも当該部分は,原告が引取りを求める対象ではない。),その他の場所について未処理の焼却灰が埋め立てられていることを窺わせるに足りる証拠はなく,かえって,未処理の焼却灰が埋められていたのであれば,アルカリ質であるために植物等が育たないはずであるが,証拠(証人K)によれば,コンポストの埋立場所であるストック場には植物が生い茂っていることが認められるのであるから,被告の上記主張は採用できない。

(エ) さらに,被告は,未処理物があることの根拠として,コンポストは無臭であるはずなのに,宮城県仙南保健所の立入検査ではストック場1からの採取物にはアンモニア臭があったことが報告されていると主張する。

しかしながら,証拠(乙26の1)によれば,仙南保健福祉事務所の立入検査では,製品ストックヤードからの採取物からアンモニア臭が生じていたことが認められるものの,未処理の焼却灰であれば灰色であり,処理後物であれば黒色であると考えられるところ,証拠(乙26の1)によれば,アンモニア臭がした上記採取物は「黒色・土壌状」であること,処理後物であっても,原料の性状,気温等の要因によってはアンモニア臭が若干残存していることも考えられるから,アンモニア臭が若干残存しているからと言って,直ちに未処理であったと断定することはできない。そして,未処理物が大量に埋め立てられていたのであれば,埋立場所全体からアンモニア臭が強烈に発生するのが自然であるが,証拠(甲63)によれば,他の場所からアンモニア臭は確認されておらず,進行協議期日においてもそのような事実は認められなかったこと(顕著な事実)からすれば,原告が,被告から受け入れた焼却灰を未処理のまま埋め立てたとは認め難く,被告の上記主張は採用できない。

ウ 本件コンポストの引取時期について

本件コンポストの引取りの時期に関しては,原告代表者が被告に対して,利用方法についてはおいおい考えてくれればよいと話した事実があるものの,それ以外に引取時期を猶予する旨の合意をうかがわせる事情はないのであるから,焼却灰がコンポストに生成されてから相当期間経過後には引取義務が発生するものと認めるのが相当であるところ,前記前提事実のとおり,被告は,本件契約に基づき,平成5年3月ころから平成6年6月ころまでにかけて,約431m3の本件コンポストを引き取ったこと,その後被告による本件コンポストの引取が中断されたことから,原告は複数回にわたり被告に対し口頭で本件コンポストの引取を求めたが,その履行はなされなかったこと(甲62),その結果,平成15年4月14日付けで,被告事務局長名で,「コンポストを持ち帰って,当組合で使用することにつきましては,過去に一度,組合内で花の栽培に使用しただけで,その後は持ち帰っておりませんでした。今後は,資源循環に努めてまいりたいと考えております。」と記載された文書が原告宛交付され(甲5),さらに,同月30日付けで,同事務局長名で,「『廃棄物処理契約書』の契約条項に明記されておりますところの,コンポスト持ち帰りにつきましても,ほとんど不履行のまま経過しておりますことも含めて,深く反省をしているところでございます。」と記載された文書が原告宛交付されていること(甲8)を総合すれば,遅くとも同日までには,原告は,被告に対し,本件コンポストの引取義務の履行を催告したことが認められる。

したがって,本件契約に基づく被告の本件コンポストの引取義務は,平成15年5月1日以降履行遅滞に陥ったというべきである。

エ 以上のとおりであるから,被告には本件契約に基づき本件コンポストを引き取る義務があり,被告は,同義務について,平成15年5月1日以降履行遅滞の責任を負っていた。

オ また,上記認定事実によれば,本件焼却灰はその量をほとんど変えずに本件コンポストに生成されたことが認められるのであるから,原告の生成した本件コンポストの量は,本件焼却灰の総量6万4939.8m3から未処理で使用した約218m3を除いた6万4721.8m3であると認められる。そして,証拠(甲48の1ないし5)によれば,本件コンポスト6万4721.8m3のうち,被告が引き取った約431m3を除いた6万4290.8m3が別紙「製品ストック場求積図」の製品ストック場1及び製品ストック場2で保管されているものと認められる。

(2)  不作為義務違反に基づく引取義務

後述するように,被告が本件契約上負っていた安全確保義務は,廃掃法の基準(総理府令基準)に適合した焼却灰を搬入するものであるところ,本件焼却灰のうち,平成14年11月7日に採取された試料からは,総理府令基準の0.3mg/ℓを上回る0.86mg/ℓの溶出量が検出されており,被告が有害物質を搬入してはならないという不作為義務に違反したことは認められる。

もっとも,他の試料において総理府令基準を上回る溶出量が検出されたことはなく,焼却灰はほぼ毎日Aプラントに搬入されていたのであるから,そのうちの1日分の焼却灰から基準値を上回る溶出量が検出されたとしても,本件コンポスト全体の重金属溶出量を高めたものとは認められないし,生成されたコンポストのどの部分が当該焼却灰の生成物か特定することは不可能であるから,本件コンポスト全体についても部分的にも引取義務を認めることは困難であり,原告の主張は認められない。

(3)  廃掃法に基づく引取義務

原告の主張は独自の解釈に基づくものであり,採用の限りではない。

(4)  被告の主張について

ア 以上の認定・判断に照らすと,原告の埋立処分により,引取義務の履行が取引通念上不可能となった事実,引取義務を求めることが信義則に反する事実はいずれも証拠上認め難く,上記事実にかかる被告の抗弁は採用できない。

イ 上記1のとおり,被告は,平成15年4月14日及び同月30日に,コンポストの引取義務を承認していると認められるから,被告の消滅時効の抗弁は採用できない。

(5)  以上のとおりであり,被告には,本件契約に基づいて,別紙土地目録記載の土地にある別紙物件目録1記載の本件コンポストを引き取る義務があると認められる。

(6)  また,被告は,上記のとおり本件コンポストを引き取る義務を負っているにもかかわらず,原告が平成4年から平成15年までの間に被告が搬入した焼却灰を生成した本件コンポスト合計6万4721.8m3について,一部分(約431m3)を除いたほぼ全量を引き取っておらず,全証拠に照らしてもそのことについて故意・過失がないことを窺わせる事情もないのであるから,被告は原告に対して,本件コンポストを引き取らなかったことによる債務不履行責任を負う。

3  争点2(被告の搬入廃棄物の安全確保義務違反)について

(1)  前記前提事実及び上記1の認定事実によれば,本件契約の9条には「Aプラントは産業廃棄物の堆肥化処理により環境保全を高度な目標として開発運営されているリサイクルシステムである。このため,乙は取扱う廃棄物及びコンポストの安全性を守らなければならない」と規定されており,被告が廃棄物及び本件コンポストの安全性を確保する義務を負うものと認められる。

(2)  この被告が負う安全確保義務に関して,原告は,被告には肥料取締法等の基準,総理府令基準,土壌汚染対策法の基準を超える重金属類が本件焼却灰に含まれないようにすべき義務があった旨主張する。これに対して,被告は,総理府令基準を超える重金属類が本件焼却灰に含まれないようにする義務があるに過ぎない旨主張する。そこで検討するに,当裁判所は,前記前提事実及び上記1の認定事実を総合すると,本件契約においては,被告には,廃掃法の基準(総理府令基準)を超える重金属類が本件焼却灰に含まれないようにする義務はあったものの,肥料取締法等,土壌汚染対策法の基準を超える重金属類が本件焼却灰に含まれないようにすべき義務があったとまで認めることは困難であると判断する。その理由は,以下のとおりである。

ア Aプラントで生成されるコンポストの重金属量には,原料となる焼却灰の重金属量が大きく反映されることから,原告代表者は本件契約締結にあたって被告の中央清掃センターを訪れ,搬入される焼却灰の重金属溶出量・含有量を調査しており,また,本件契約締結後も,本件焼却灰について,肥料取締法に基づく含有試験及び廃掃法に基づく溶出試験を行っていたのであるから,原告代表者は本件焼却灰に含まれる重金属が廃掃法の溶出基準のみならず肥料取締法等の含有基準に適合しているか否かについても大きな関心があったものと認められる。このような原告代表者の関心の高さにかんがみれば,原告代表者は被告に対して,本件契約の交渉段階において焼却灰について一定の重金属量を遵守することを求めたものとうかがわれる。

イ もっとも,原告代表者が,被告の中央清掃センターを訪れた際,焼却灰の溶出試験の結果のみを検討して,この数字ならできると被告担当者に話していたこと,本件契約締結後,被告は本件焼却灰について,溶出試験のみを実施し,含有試験は実施せずに原告に搬出しているが,原告がこれについて異議を述べていないこと,むしろ原告の方で溶出試験に加えて含有試験を実施していたこと,本件契約の9条によれば,被告は原告と収集運搬業者(Jを指す。)に対して同内容の安全性確保義務を負うとされているところ,被告は,本件廃棄物収集運搬契約上,原告及びJに対して,廃掃法基準に適合する焼却灰を委託する義務を負うとされているに過ぎないこと,焼却灰には重金属が含まれざるを得ず,これを取り除くことは現実的には困難であるから,被告が焼却灰に含まれる重金属類について肥料取締法等に適合することを約したということは想定し難いこと等の事情からすれば,被告が本件焼却灰の重金属量について,廃掃法の基準(総理府令基準)に加えて,肥料取締法等,土壌汚染対策法の基準にも適合させることを約したと認めることは困難である。

ウ また,平成15年4月30日に,被告が原告に対して送付した書面には,一部履行が不充分であったとして,重金属の低減化対策を進める旨の記載があるものの,具体的にいかなる基準に違反して履行が不十分であったのか,どの程度まで重金属を低減化するのかについては明示されておらず,これをもって,被告に肥料取締法等の基準を適合した焼却灰を搬入する義務があったと認めることは困難である。

(3)  以上のとおりであり,本件契約上,被告が負う義務は廃掃法(総理府令)に適合した焼却灰を搬入することにとどまるというべきである。

(4)  もっとも,被告が搬入した焼却灰について,平成14年11月7日に採取した試料から,総理府令の0.3mg/ℓを上回る0.86mg/ℓの鉛の溶出量が検出されており,この点において,被告には安全確保義務違反が認められる。

4  争点3(損害)について

(1)  賃料相当損害金について

上記のとおり,被告は,平成15年5月1日以降,本件契約に基づく本件コンポストの引取義務について履行遅滞に陥ったというべきところ,この義務違反により本件コンポストは遅くとも平成16年4月8日以降は,原告の所有する敷地に残置されているのであるから,本件コンポストが残置されている敷地の賃料相当分については被告の上記義務違反と相当因果関係の認められる損害というべきである。そして,本件コンポストが保管されている敷地は,村田町大字足立字稲荷山に位置しており,ストック場1が6258m2,ストック場2が6838m2であるところ,証拠(甲94)によれば,この土地の1か月の地代は10万円を下らないものと認められる。

また,これまで長期間にわたり本件コンポストの引取義務を履行してこなかった被告の態度に鑑みれば,原告があらかじめ上記損害を請求する必要もあるというべきである。

したがって,原告は,被告に対し,債務不履行責任に基づき,平成16年4月8日から本件コンポスト搬出済みまで1か月あたり10万円の支払を求める請求権を有するというべきである。

(2)  被告との取引上の損害について

上記のとおり,被告には安全確保義務違反が認められるが,毎日搬入される焼却灰のうち1日分の試料について違反が認められたに過ぎず,これを原因として被告との取引が停止したものと認めることは困難というべきである。

したがって,この点に関する原告の主張には理由がない。

(3)  下水道公社との取引上の損害について

ア 前提事実,証拠(甲9,12,14の1・2,15の1・2,23ないし26,43,53,58,66,証人L)及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。

(ア) 原告は,平成3年4月10日から,下水道公社より,廃棄物汚泥の処理委託を継続的に依頼されており,平成15年3月31日には,履行期間を平成15年4月1日から平成16年3月31日までとする委託契約が締結されていた(以下「汚泥処理委託契約」という。)。

上記契約の15条には,甲(下水道公社)の解除権として,原告が契約に違反し,その違反により契約の目的を達することができないと認められるときには契約を解除することができるとされ,この場合,原告は下水道公社に対して,委託金額の10分の1に相当する金額を違約金として支払う旨規定されている。

(イ) 原告は,平成7年4月1日から,下水道公社より,廃棄物しさの処理委託を継続的に依頼されており,平成15年3月31日には,履行期間を平成15年4月1日から平成16年3月31日までとする委託契約が締結されていた(以下「しさ処理委託契約」といい,汚泥処理委託契約とあわせて「下水道公社契約」という。)。

しさ処理委託契約においても,汚泥処理委託契約と同じ内容の解除に関する規定が存在する。

(ウ) 独立行政法人肥飼料検査所が実施した立入検査において,平成15年8月6日にAプラントから収集した本件コンポストの試料から,肥料取締法等の許容基準を超えるカドミウム(9.2ppm)及び鉛(559ppm)が検出された。

(エ) 平成15年8月15日,農林水産省消費・安全局長から原告に対して,原告生産の汚泥発酵肥料から肥料取締法の基準を超えるカドミウム及び鉛が検出されたとして,①本件コンポストの出荷停止と流通段階での回収,②販売先の農家への連絡,③相談窓口の設置の指導がなされた。

(オ) 平成15年12月24日,宮城県仙南保健所長から原告に対して,廃掃法19条の3の規定により,原告の製品ストックヤードの一部に野積みしている本件コンポスト(産業廃棄物とされている)について,囲いなどの施設を設けずに大量に野積み状態で長期間保管している行為は,廃掃法施行規則8条の規定に適合せず,廃掃法12条2項に違反するとして,①周囲に囲いを設ける,②産業廃棄物の保管場所である旨の掲示板を設ける,③飛散,流出,地下へ浸透しないよう必要な措置を講じる等の改善命令がなされた(以下「第1改善命令」という。)。

(カ) 宮城県仙南保健所長が本件コンポストを産業廃棄物と認定した根拠は以下のとおりである。

a 本件保管物は一般廃棄物である燃え殻と産業廃棄物である下水道汚泥を混合処理したものであり,次の理由から廃棄物(一般廃棄物と産業廃棄物の混合物)と認定され,廃掃法施行令2条13号に規定する産業廃棄物に該当する。

(a) 物の性状について

本件保管物について,平成16年11月に宮城県が実施した収去検査の結果,北東側保管物については,鉛が「金属等を含む産業廃棄物に係る判定基準を定める省令」(昭和48年総理府令第5号)の基準を超過しており,さらに,当該物は,肥料として利用するための客観的な基準としての肥料取締法に規定する汚泥発酵肥料の公定規格と比較した場合にも,同規格を超える鉛,カドミウムが含有されており,肥料あるいは肥料相当の物として,利用できる性状のものではない。

(b) 排出の状況について

本件保管物について,実際に搬出された実績はほとんど確認されておらず,需要に沿って計画的に排出されたものとは判断できない。

また,野積み状態で保管しているなど,適切に保管し,品質管理を行っているとは言い難く,排出の状況から見ても有価物とは認められない。

(c) 通常の取扱い形態

本件保管物は登録を受けておらず,肥料,あるいは肥料相当の物とは言い難く,事実,当該物を計画的に受け入れる者はなく有価物として取り扱われる物ではない。

(d) 取引価格の有無

本件処理後物が有償譲渡された実績は確認されておらず,野積み状態で保管されているものがほとんどであって,当該物に経済的合理性がある取引を生じさせる価値はないと判断される。

(e) 占有者の意思

上記(a)~(d)からすれば,占有者である原告において適切に利用し又は他人に有償譲渡できる物との認識があるものとは認められない。

b 以上のことから,本件保管物は仮に原告がコンポスト等の有用物を製造することを目的として製造したものであったとしても、結果的に処理された後の物は,占有者が自ら利用し,又は他人に有償で譲渡することができないために不要となったものであるため,廃棄物に該当する。

(キ) 平成16年1月26日,下水道公社から原告に対して,第1改善命令の対象となった産業廃棄物には,汚泥処理委託契約で処理された発酵処理後物を含んでいることから,汚泥処理委託契約3条2項の「法令に基づき適正に処理する責任」を果たしていないとして,本件コンポストについて,①発酵堆肥化処分,もしくは②廃掃法に基づく適正な処分をするよう求め,平成16年3月1日までに履行がない場合は,契約を解除する旨通知された。また,平成16年2月5日,しさ処理委託契約についても,同様の通知がなされた。

(ク) 平成16年3月5日,下水道公社から原告に対して,汚泥処理委託契約及びしさ処理委託契約を解除する旨,汚泥処理委託契約について同契約15条3項に基づいて1658万2312円を請求する旨,しさ処理委託契約について同契約15条3項に基づいて46万6013円を請求する旨通知された。そして,原告は下水道公社に対して,上記各金額を支払った。

(ケ) 平成18年2月13日,宮城県仙南保健所長から原告に対して,廃掃法19条の3の規定により,第1改善命令の対象区域を除く原告の製品ストックヤードに野積みしている本件コンポスト(産業廃棄物とされている)について,①周囲に囲いを設ける,②産業廃棄物の保管場所である旨の掲示板を設ける,③飛散,流出,地下へ浸透しないよう必要な措置を講じる等の改善命令(以下「第2改善命令」という。)がなされた。

(コ) 焼却灰の使用量を減らし,重金属が含まれている量が少ないバーク・もみ殻を代わりに水分調整材として使用することによって,生成されるコンポストの重金属含有量を減らすことが可能であり,多くの堆肥化処理場ではこの方法を採っている。

(サ) 本件コンポストには平成14年4月ころから,亜鉛,カドミウム,鉛等の含有量が増加している傾向が見られるが,これは,同月以降の本件焼却灰のAプラントへの投入割合の増加によるものである。

イ 上記認定事実によれば,宮城県仙南保健所長が第1改善命令を出した理由は,本件コンポストからは総理府令基準及び肥料取締法の基準を超える重金属が検出されており,実際に搬出された形跡もなくこれから搬出される見込みもないこと等から,本件コンポストを不要物(産業廃棄物)と捉えた上で,原告が本件コンポスト(産業廃棄物)を,囲いなどの施設を設けずに大量に野積み状態で長期間保管していたことが廃掃法12条2項に違反すると判断した点にある。そうであれば,被告の引取義務違反によって原告の敷地から本件コンポストが搬出されていなかったことが,本件コンポストが不要物と認定されたことに影響を与えたというべきであるし,原告が本件コンポストを大量に野積み状態で長期間保管していたのは,被告が引取義務を履行しないことに原因があるのであるから,被告の引取義務違反と,原告の本件コンポスト保管行為が廃掃法12条2項に違反するとされ,第1改善命令が出されたこととの間には密接な関係があるというべきである。また,上記認定事実によれば,下水道公社が下水道公社契約を解除するに至った理由は,原告が第1改善命令を受けたことから,下水道公社契約上の産業廃棄物について「法令に基づき適正に処理する責任」を果たしていないと認められたこと,その後の下水道公社の要求にもかかわらず,原告が上記処理後物について発酵堆肥化処分ないし廃掃法に基づく処分をしなかったことにある。そして,上記のとおり第1改善命令を受けたことは被告の引取義務違反と密接な関係があるし,被告が引取義務を履行すれば,原告が廃掃法等に基づく処分をしなかったものとはされなかったのであるから,被告の引取義務違反と下水道公社による下水道公社契約解除との間には密接な関係が認められる。以上のことからすれば,被告の引取義務違反と下水道公社による上記契約の解除との間には相当因果関係が認められるというべきである。

そこで下水道公社契約の解除によって原告に生じた損害を検討するに,平成15年3月31日に原告と下水道公社との間で締結された下水道公社契約は,履行期間が平成15年4月1日から平成16年3月31日までとされており,原告と下水道公社との間の契約は1年を期間として締結されているものと認められる。もっとも,原告と下水道公社は平成3年4月10日から汚泥処理委託契約を,平成7年4月1日からしさ処理委託契約を締結しており,それぞれ平成15年に至るまで継続して更新されてきているのであるから,本件の解除がなければ,原告と下水道公社との契約は,少なくとも平成16年4月1日から5年間は継続したものと見るのが相当である。

これを前提に損害額を検討するに,証拠(甲31)によれば,下水道公社契約による原告の売上げは,平成13年度において1億9307万4621円,平成14年度において1億8731万9916円,平成15年度において2億0572万1022円であり,その平均は1億9537万1000円(1000円未満切捨)となる。そして,これらの売上げが年度によって大きな変動がないことからすれば,平成16年度以降においても上記平均額の売上げがあると考えるのが相当である。もっとも,下水道公社契約による原告における純利益の額は,全証拠に照らしても判然としないが,民事訴訟法248条の趣旨に照らし,少なくとも売上げの20パーセント程度はあったものと認めるのが相当である。なお,平成16年度においては,既に1528万1885円の売上げがあった。したがって,平成16年度から平成21年度までの5年間の損害額は,

1億9537万1000円×0.2×4.3294(5年間のライプニッツ係数)-1528万1885円×0.2=1億6611万1464円となる。

もっとも,上記認定事実によれば,上記の下水道公社契約解除に至る一連の経過は,平成15年8月6日に本件コンポストから,肥料取締法等の許容基準を超えるカドミウム及び鉛が検出されたことが発端であり,本件コンポストが不要物と認定された根拠としても,本件コンポストから総理府令及び肥料取締法の基準を超える重金属が検出されたことが挙げられているのであるから,第1改善命令及び第2改善命令が出されたこと及び下水道公社契約解除には,本件コンポストから基準値を超える重金属が検出されたことも相当程度寄与しているというべきである。そして,被告には安全確保義務に違反する総理府令の基準を超える焼却灰の搬入行為が一度あったが,毎日搬入される焼却灰のうち1日分の試料について違反が認められたに過ぎないのであるから,これが本件コンポストから基準値を超える重金属が検出された原因とは認められない。むしろ,平成14年4月以降,本件コンポストの重金属含有量が増加したのは,Aプラントに投入される焼却灰の割合が増えたことに原因があるのであるし,原告においては,焼却灰の投入割合を減らすことによって本件コンポストの重金属含有量を減らすことができたのであるから,被告が総理府令の基準に適合した焼却灰を搬入した以上,本件コンポストから基準値を超える重金属が検出されたことについては原告に責任があるというべきである。以上のことからすれば,下水道公社契約解除による損害をすべて被告に負担させるのは損害の公平な分担の見地から相当ではなく,30パーセントについては過失相殺により減額すべきである。

以上によれば,原告は被告に対して,引取義務の債務不履行に基づいて1億1627万8024円の損害賠償を請求できる。

(4)  下水道公社に対する違約金

上記認定事実に基づいて検討するに,下水道公社契約上,下水道公社は,原告が契約に違反し,その違反により契約の目的を達することができないと認められるときには契約を解除することができるとされ,この場合,原告は下水道公社に対して,委託金額の10分の1に相当する金額を違約金として支払う旨規定されているところ,下水道公社は,原告が廃掃法12条2項に違反するとして第1改善命令を受け,下水道公社契約3条2項の産業廃棄物を「法令に基づき適正に処理する責任」に違反したことから,同契約を解除したものであるから,原告には下水道公社に対して,違約金として,汚泥処理委託契約に関しては1658万2312円を支払う義務があり,しさ処理委託契約に関しては46万6013円を支払う義務があると認められる。そこで,原告は下水道公社に対して上記金額を支払ったものである。

そして,上記に検討したことからすれば,被告の引取義務違反と,原告の本件コンポスト保管行為が廃掃法12条2項に違反し,第1改善命令が出されたこととの間には,密接な関係があるというべきであるから,被告の引取義務違反と,原告が下水道公社から,下水道公社契約3条2項に違反したとして同契約を解除され,同契約に基づいて違約金を支払うこととなったこととの間には相当因果関係が認められるというべきである。

したがって,被告の引取義務違反によって原告には上記違約金相当の1704万8325円の損害が生じたものと認められる。

もっとも,上記のとおり,下水道公社契約が解除されたことについては,本件コンポストから基準を超える重金属が検出されたことも影響しているというべきであるから,30パーセントについては損害の公平な分担の見地より過失相殺により減額すべきである。

以上によれば,原告は被告に対して,引取義務の債務不履行に基づいて1193万3827円の損害賠償を請求できる。

(5)  処理後物保管作業費

ア 証拠(甲76,証人K)によれば,被告が本件コンポストの引取義務を履行しないことから,本件コンポストを原告の敷地に仮保管する必要があり,本件コンポストを保管する場所の整地作業や,Aプラントから保管場所への運搬作業が必要となったこと,そのために,平成4年11月から平成15年8月までの間,Aプラントが稼働する25日間毎日作業員5名が,整地のために0.9m3バックホー1台,0.45m3バックホー1台,D40ブルドーザーが,運搬のために10tトラックが,積込みのためにタイヤショベルがそれぞれ必要となったことが認められる。

イ そこでこれらの費用について検討するに,証人Kは,それぞれの費用について,作業員1名について原告における平均作業員費と諸経費を足したものは月3万円,0.9m3バックホー1台の購入費用,修繕費,燃料費等が月100万円,0.45m3バックホー1台の同費用が月40万円,D40ブルドーザー1台の同費用が月100万円,10tトラック1台の同費用が月120万円,タイヤショベル1台の同費用が月120万円として計算した旨証言するものの,ほかにこの計算を裏付ける資料はなく,具体的な金額についてはなお判然としないといわざるを得ない。もっとも,作業員費及び上記重機の購入費用,修繕費,燃料費等には相当の費用を要することも容易に推認できること,証人Kによる計算には根拠が挙げられており,一定の合理性が窺われることからすれば,民事訴訟法248条の趣旨に照らし,少なくとも作業員費については,作業員1名につき日1万円,0.9m3バックホー1台の費用につき月30万円,0.45m3バックホー1台の費用につき月10万円,D40ブルドーザー1台の費用につき月30万円,10tトラック1台の費用につき月40万円,タイヤショベル1台の費用につき月40万円の経費がかかったと見るのが相当である。

そこで,これを計算するに,

作業員費  1万円×5(名)×25(日)×130(月)=1億6250万円

重機  (30万+10万+30万+40万+40万)×130(月)=1億9500万円

となり,原告が本件コンポストを保管するためにかかった作業費は合計3億5750万円となる。

ウ したがって,原告は被告に対して,引取義務違反の債務不履行責任に基づき,3億5750万円の損害賠償を請求することができる。

エ なお,原告の主張する作業員による得べかりし利益(1人につき日2万円)については,作業員費と重複する損害であり,これと別個の損害が生じているものとは認められない。

(6)  改善命令工事費

ア 第1改善命令

(ア) 上記(4)で検討したとおり,被告の引取義務違反と第1改善命令との間には密接な関係があり,相当因果関係が認められるというべきである。

(イ) そこで,第1改善命令による損害について検討するに,証拠(甲77の1ないし16,証人K)によれば,第1改善命令を受けて,原告は本件コンポストの周りをブロックで囲んだり,表面をシートで覆ったりするなど,廃掃法の保管基準に適合させるための作業を行ったこと,この作業に関して,ブロック積み,ブロック運搬,整地,シート張りのために201名分の作業員労務費がかかったこと,0.9m3バックホーを3.5か月にわたり使用したこと,0.45m3バックホーを3か月にわたり使用したこと,D40Pブルトーザーを0.5か月にわたり使用したこと,10tトラック2台を3.5か月にわたり使用したこと,材料費として,ブロックに276万1000円,ブルーシート,土のう等に120万6500円,L型擁壁に95万1000円がかかったことが認められる。

そこで,上記で検討した経費に基づいて,これを計算するに,

作業員費  1万円×201=201万円

重機  30万円×3.5+10万円×3+30万円×0.5+40万円×2×3.5=430万円

材料費  276万1000円+120万6500円+95万1000円=491万8500円

合計  201万円+430万円+491万8500円=1122万8500円

となり,原告が第1改善命令を実行するためにかかった費用は1122万8500円となる。

(ウ) もっとも,上記のとおり,第1改善命令が出されたことについては,本件コンポストから基準を超える重金属が検出されたことも影響しているというべきであるから,30パーセントについては損害の公平な分担の見地より過失相殺により減額すべきである。

(エ) したがって,原告は被告に対して,引取義務違反の債務不履行責任に基づき,785万9950円の損害賠償を請求することができる。

(オ) なお,原告の主張する作業員による得べかりし利益については,(5)d同様認められない。

イ 第2改善命令

(ア) 上記認定事実によれば,第2改善命令は,第1改善命令の対象とならなかった本件コンポストの残りについて第1改善命令と同趣旨の命令を出したものであるから,第1改善命令と同様に,被告の引取義務違反と第2改善命令との間には相当因果関係は認められるというべきである。

(イ) そこで,第2改善命令による損害について検討するに,証拠(甲80の1ないし4,82,証人K)によれば,第2改善命令を受けて,原告は第1改善命令の際と同様の作業を行ったこと,これに加えて,宮城県仙南保健所長からの指示により,地盤が不浸透性の地盤かどうかについて調査するため,ボーリング調査をしたこと,これらの作業のために1日×27名分の作業員労務費がかかったこと,機械の費用として2月分で16万円かかったこと,ボーリング調査代に355万円かかったことが認められる。

そこで,第2改善命令による損害額を計算するに,

作業員費  1万円×27=27万円

機械  16万円

ボーリング調査  355万円

合計  27万円+16万円+355万円=398万円

となり,原告が第2改善命令を実行するためにかかった費用は398万円となる。

(ウ) もっとも,上記のとおり,第2改善命令が出されたことについては,本件コンポストから基準を超える重金属が検出されたことも影響しているというべきであるから,30パーセントについては損害の公平な分担の見地より過失相殺により減額すべきである。

(エ) したがって,原告は被告に対して,引取義務違反の債務不履行責任に基づき,278万6000円の損害賠償を請求することができる。

(オ) なお,原告の主張する作業員による得べかりし利益については,(5)d同様認められない。

(7)  発酵槽入替作業

上記(2)で述べたことからすれば,被告の安全確保義務違反によって,発酵槽の入替作業が必要になったと認めることは困難である。したがって,この点に関する原告の主張には理由がない。

(8)  土壌回収作業

上記(2)で述べたことからすれば,被告の安全確保義務違反によって,土壌回収作業が必要になったと認めることは困難である。したがって,この点に関する原告の主張には理由がない。

(9)  弁護士費用

原告は,被告の債務の現実的履行とその債務不履行によって被った損害の回復を図るため,本訴の提起を余儀なくされ,弁護士に本訴の提起と追行を委任し,相当額の弁護士費用を負担したことが認められるところ(弁論の全趣旨),本件訴訟の専門性,複雑困難性に照らし,弁護士によって本件訴訟の提起及び追行を図ったことはやむを得なかったと認められるから,原告の負担した弁護士費用のうち2000万円については被告の債務不履行と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

したがって,原告は,被告に対し,引取義務違反の債務不履行責任に基づき,2000万円の損害賠償を請求することができる。

(10)  したがって,原告は被告に対し,引取義務違反の債務不履行責任に基づき,平成16年4月8日から本件コンポスト搬出済みまで1か月あたり10万円の支払,並びに,上記(3)(4)(5)(6)(9)の損害額を合計した5億1635万7801円及びこれに対する平成17年8月11日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を請求できる。

5  以上のとおりであるから,原告の請求は,被告に対して,別紙土地目録記載の土地にある別紙物件目録1記載の物件を搬出すること,上記4(10)記載の金員の支払を求める限度においていずれも理由があるから認容し,その余についてはいずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して(相当でないから,訴訟費用の負担を求める部分の仮執行の宣言は付さない。),主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 潮見直之 裁判官 近藤幸康 裁判官 高橋幸大)

(別紙土地目録は省略)

file_2.jpg別紙1

file_3.jpg別紙2

file_4.jpg別紙3

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