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仙台地方裁判所 平成18年(ワ)1243号 判決 2009年11月26日

主文

1  被告は,原告に対し,76万0142円及びこれに対する平成18年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,金2097万円及びこれに対する平成18年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は,原告が,被告に対し,被告との間で締結したフランチャイズ契約締結時における説明義務違反を理由とした債務不履行に基づく損害賠償及び同契約に関する契約書中の条項44条1項に基づく損害賠償を請求するとともに,上記各損害賠償請求に対する遅延損害金を請求した事案である。

2  前提事実(争いのない事実,明らかに争わない事実,後掲各証拠により容易に認定できる事実)

(1)  原告及び原告の妻である訴外A(以下「訴外A」という。)は,○○酒店の屋号で長年にわたって酒屋を営んでいた者である[争いがない]。

原告は,平成16年当時,コンビニエンス・ストアの開業を検討していたことから,訴外Aが,平成16年1月10日開催の被告加盟店候補者説明会に参加した[明らかに争わない事実]。

被告は,コンビニエンス・ストアのフランチャイザーとして,フランチャイジーであるコンビニエンス・ストア加盟店とともに,コンビニエンス・ストア事業を全国的に展開する企業である[甲2,乙15,弁論の全趣旨]。

被告の店舗数は,平成13年10月の時点でエリアフランチャイズを含めて3000店,平成14年7月の時点で6000店を超えており,平成16年には年間で約300店を新規に開店していた[乙15,証人C5頁]。

(2)  原告は,平成16年7月29日,被告との間で,原告を契約当事者,訴外B(以下「訴外B」という。)を共同契約履行者,訴外Aを保証人として,同日付けの「K・フランチャイズ・チェーン加盟店契約書」により,以下のとおり,フランチャイズ契約(以下「本件契約」という。)を締結した。なお,以下の条項は,上記契約書中の条項である。[甲2]

ア 契約の目的(1条)

本件契約は被告が独自に開発したコンビニエンス・ストア事業のための独特の経営ノウハウ(K・システム)を活用し,統一性のある事業イメージのもとに,被告・原告が協力してコンビニエンス・ストア事業を展開し,相互の繁栄をはかるとともに,地域住民の日常消費生活の利便を図り,その向上に寄与することを目的とする。

イ フランチャイジーの資格(4条(1))

K店のフランチャイジーとなる資格を認められるためには,別途定める研修(省略)の全課程を終了し,被告からK・フランチャイジーとして適格者である旨の認定を受けなければならない。

ウ 共同契約履行者(5条(2)本文)

共同契約履行者は,本件契約におけるK店の共同経営者であり,フランチャイジーの地位を共有し,本件契約上の原告の権利義務を連帯して有するものとする。

エ 被告の許諾事項(6条(1))

被告は,原告に対し,本件店舗の開店日に,以下の内容のフランチャイズ権を付与するとともに,店舗建物内に,被告が貸与し,設置した設備及び什器を使用してK店を経営することを許諾する。

(ア) 原告はフランチャイジーとして,K・システムの経営ノウハウ及び各種情報を継続して提供され,かつK・オペレーション・マニュアルその他の手引書・資料及びK・システムによる経営上の書式用紙を提供されて,使用すること。

(イ) Kの商標,サービス・マーク及びこれに関する意匠,著作物,看板,標章,ラベル,その他K店であることを示す営業シンボルを使用すること。

オ 原告の受ける研修(10条(1),(2))

原告及び共同契約履行者はK店経営の加盟資格を取得するため,被告が実施する研修を所定のカリキュラムに従い一定期間受け,かつ被告が定める一定水準の研修成績を修め適格者としての認定を受けなければならない。

研修を受けるものが3名を超えるとき,4人目からの人員に対し,原告は別途定める研修費用(省略)を負担しなければならない。

カ 被告の開業準備(11条)

被告は原告の開店に備え,店舗建物の建築ないしは改修工事をし,同時に設備機器を設置し,在庫品を品揃え,陳列をし,またその他開店のために必要な作業をし,あらかじめ定められた所定の日に開店営業ができるよう,原告のためにすべての準備を整え,開店直前に店舗とともに一括して原告に引き渡す。

キ 原告の投資(15条)

原告はK店の経営に必要な下記の投資をすることを承諾し,その調達の責を負う。

(ア) 本件契約時に被告に支払われる加盟金及び開業準備手数料

(イ) 販売する商品,カウンターフーズ用容器,原料の仕入原価相当額,及び被告の指定する消耗品,備品の代金

(ウ) キャッシュ・レジスター用の釣銭,両替金

ク 原告の支払資金(16条(1))

原告は,開店の日に被告が店舗建物内に準備した開店時在庫品及び消耗品,備品を一括で買い受けるものとし,被告は代金の受領と引換にこれを原告に引き渡す。

ケ 開店時在庫品及び在庫品の適正な維持管理(22条(1),(2))

原告は,開店の日に,開店時在庫品を被告の仕入原価相当額にて被告より買い取る。

原告は,開店時在庫品に引き続き,K店において販売するのに適合する種類・品質及び数量の商品仕入れと品揃えをするものとし,かつ欠品・品不足・鮮度及び品質の低下などのない在庫品管理によって,適正な在庫品の維持及び管理をしなければならない。

コ 被告の販売及び仕入協力(23条(1)①)

被告は,営業店舗に担当者を定期的に派遣して,その店舗の管理・品揃え・商品の陳列・発注・従業員の管理・販売の状況などを観察させ,必要な指導,助言を行い,また経営上生じた諸問題の解決に協力する。

サ 合意解約(39条)

被告及び原告は,開店日以降において,いつでも合意の上本件契約を終了させることができる。

シ 中途解約(40条(1),(2))

被告または原告は,やむを得ないと認められる特別な事情がある場合には,その相手方に対し,4か月以上前に,その旨,文書をもって通知し,本件契約を終了させることができる。この場合に,解約の申入れをした者は,相手方に対し,やむを得ない特別な事情について,詳細に説明し,かつ,終了までの間,誠実にK店の経営を行わなければならない。

やむを得ないと認められる特別な事情とは,経営者の病気,経営不振による債務の増加等,K店の経営の継続が困難と判断される場合をいう。

ス 解約と解約金支払(41条(1),(2))

被告又は原告が,やむを得ないと認められる特別な事情により中途解約した場合,それぞれ相手方に対して解約金を請求しないものとする。

被告又は原告が,やむを得ないと認められる特別な事情がないにもかかわらず,その都合で中途解約をしようとする場合は,6か月以上前に,文書をもって,その旨の通知をし,下記解約金を支払わなければならない。

(ア) 開店日以降5か年を経過しないうちは,過去12か月のK店経営の実績に基づいて支払われたKチャージの平均月額の4か月分相当額。

(イ) 開店日以降5か年を経過した以後においては,Kチャージの平均月額の2か月分相当額。

セ 原告の契約解除(43条(2)①,②)

本件契約に定められた以下の条項に関し,被告が重大な違背をした場合において,原告から10日間以上の期間をおいて,文書による催告を受けたにも関わらず,その期間経過後もなお,その違反を改めず,または義務を履行しないときは,本件契約を解除することができる。

(ア) 11条,16条(2)(省略),23条(一部省略),30条(省略),32条(1)(省略),34条(1)(省略)(但し正当な事由がある場合を除く。),36条(省略)の定めのうち一つでも違反したとき。

(イ) その他,原告に対する重大な不信行為があったとき。

ソ 解除による損害賠償(44条(1))

42条(省略),43条により,被告または原告から契約の解除がなされた場合には,その責を負うべき者は,相手方の蒙った損害に対する賠償として相手方に対し,41条(2)①に定めるKチャージの平均月額の12か月分相当額を支払わなければならない。

(3)  原告は,平成16年8月31日,仙台市○○区○○所在のK仙台五橋二丁目店(以下「本件店舗」という。)を開店した[甲2・36頁]。

本件店舗は,旧K五橋店(以下「旧店舗」という。)から直線距離で約30メートルの位置にある[争いがない]。

(4)  本件店舗の日販は,開店後,以下のように推移した(なお,いずれも概数である)[争いがない]。

平成16年 9月  27万円

10月  27万円

11月  27万円

12月  29万円

平成17年 1月  24万9000円

2月  25万5000円

(5)  原告は,平成17年2月28日,被告に対して本件店舗を明け渡し,本件契約は終了した[争いがない]。

3  争点

(1)  被告は,原告に対し,本件契約を締結する際,以下の各項目に関して,信義則上求められる説明義務を尽くしたといえるか。

ア 本件店舗の売上予測

イ 被告社員であるC(以下「訴外C」という。)の原告に対する説明内容及び方法

ウ 旧店舗の売上実績等の重要情報の開示

(2)  (1)の説明義務違反と相当因果関係がある損害及びその額

(3)  以下の各項目に関して,被告に,本件契約43条2項②に定める「重大な不信行為」が認められるか。

ア 売上の低迷及び日販の拡大についての対策

イ 本件店舗の開店から1か月後に発生した15万円の商品の欠損

ウ 店内監視用カメラのリース契約及び警備請負契約

エ 月次引出金及びオープンアカウント債務に関する説明

4  争点に対する当事者の主張

(1)  争点(1)(被告の説明義務違反の有無)

ア 争点(1)ア(売上予測の合理性)について

(ア) 原告の主張

リロケイト物件の売上予測においては,旧店舗の売上実績を前提として,リロケイト物件での改善点によって売り上げがアップすると考えることが合理的か否かが検討されるべきところ,本件店舗に関する被告の売上予測は,旧店舗の売上実績に全く言及していない。また,本件店舗は,旧店舗とは異なり,前面大通りの通行客を見込んでいたとしても,付近にはS仙台五橋2丁目店及びF仙台五橋通り店(以下,これらを総称して「本件各競合店」という。)があり,両店舗とも駐車場を有していることに加え,コンビニ業界においては各店舗の日販は本部の力量によって差が出るとされており,その順位はS,L,F,被告の順とされているところ,本件各競合店は被告よりも上位の本部に属する店舗であることに照らせば,前面大通りから予想通りの集客を得られなかったとしても,それは当然に予想すべき事態であった。さらに,本件店舗の売上予測における,旧店舗の顧客が100パーセント本件店舗に引き継がれるとの前提は,合理的根拠を欠いている。

そもそも,旧店舗の近隣には,本部の力量において被告に優位する本件各競合店があったにも関わらず,本件店舗の売上予測では,競合店の存在が十分に考慮されていないことに加え,本件店舗の売上予測の前提となる競合店の日販がどのように算出されたのかが不明であり,客観的な根拠を欠いている。

さらに,本件店舗の売上予測では,本件店舗の後背商圏として高層マンション群と2つの大学が想定されているところ,この商圏はY五橋店によって奪われているにも関わらず,それを無視して本件店舗の商圏を設定していることに加え,旧店舗の商圏を奪ったY五橋店は,本件店舗の売上予測で前提とされる競合店として7番目に記載されているにとどまるなど,Y五橋店の影響が無視されている。

以上の各事情を総合すれば,被告が本件店舗の日販を43万円と予想したことについて合理性は認められない。

(イ) 被告の主張

被告は,本件店舗の賃借のため,本件店舗の貸主に対し,敷金・保証金1208万8850円を預託し,1か月67万3742円の賃料を支払っていることに加え,建物内外装設備費等として1538万6925円,諸設備リース料として1449万2184円を,それぞれ開店のために投資している。また,本件店舗から撤退した場合には,違約金,解約金,保証金等の没収等が発生する可能性がある。さらに,本件店舗の売上予測が大きく外れた場合には,本件契約36条所定の最低保証が発動されることになり,被告の売り上げであるロイヤリティ(Kチャージ)が減少する。以上のような多大な投資額に照らしても,被告が本件店舗の売上予測をいい加減に行うことはあり得ない。なお,後記(1)イ(イ)に記載のとおり,旧店舗の売上実績と,新店舗の売上予測の間には何ら関連性がない。

本件店舗の業績は,「親しみのあるフレンドリーな接客応対」「お店を清潔に保つクレンリネス基準」「商品の厳しい鮮度管理」「品切れのない商品管理」というK4原則をどれだけ達成しているかによって決まるのであって,本部の力量によって決まるものではない。なお,本件店舗の売上予測に当たっては,本部間の営業力の差異に基づいて調整がなされている。また,旧店舗の近隣にある本件各競合店の日販については,被告社員が本件各競合店に実際に臨み,午後0時から午後2時及び午後8時から午後10時の時間帯に,実際に入店した顧客数を数え上げ,その顧客数を基にして1日の客数を換算し,これに客単価を乗じた上,チェーン指数で調整して算定しているところ,このような算定方法は,どのチェーン本部でも採用している一般的な方法である。さらに,本件店舗の売上予測では,車客売上予測をゼロと設定しているのであるから,本件各競合店には駐車場がある一方で,本件店舗には駐車場が無いという事実は,売上予測において何ら関係のない事実である。加えて,本件各競合店は,本件店舗と一応は競合するとしても,距離的な利便性を比較した場合,本件店舗前の通行客が,あえて本件店舗を避けて本件各競合店に行く可能性はほとんどない。

Y五橋店は,本件店舗の売上予測の前提とされていることが明らかであり,被告は,Y五橋店の存在を踏まえ,以下のとおり,本件店舗の立地条件を旧店舗とは異なる新しい角度から判断したものである。すなわち,旧店舗の平均日販は低下しているものの,純利益額は日販の減少ほど大きな影響を受けていないことから,新店舗に移転しても,ある程度の純利益を確保することが期待できるとともに,旧店舗周辺の商圏はY五橋店の出店にも関わらず相当程度の購買力があると考えられたことから,国道○○線に面した場所に出店すれば,通行客を取り込むことで,相当額の売り上げを確保できると予測したものである。また,コンビニエンス・ストアに特有の利便性は,量販店にはないものであるから本件店舗とY五橋店は共存できると考えられる一方,量販店も競合店になることは否定できないことから,売上予測において7番目に挙げられているが,7番目に挙げられているからといって,その存在を無視ないし軽視しているものではない。

本件店舗の売上予測に用いられた日販予測法(以下「X方式」という。)は,被告の創業以来の歴史において蓄積された情報とノウハウの集積であって,3000店を超える店舗数に裏打ちされた比類ない合理性を具備したものである。被告は,X方式に基づき,歩行商圏世帯数,1世帯当たり人口数,半径400平方メートル内のコンビニエンス・ストア,マーケットストア,スーパーマーケット,大型店等の存在,競合するコンビニエンス・ストアの予測売上から見た競合度合,店舗前歩行通行量,導入性,視界性を調査し,かつ本件立地の特性(市営地下鉄○○駅から徒歩1分の距離にあること,国道○○線五橋交差点に位置していること等),市場性(後背商圏には高層マンション群と2校の大学等があること等),免許品取り扱いの有無,歩行者に対するアンケート調査等も踏まえ,かつ,顧客の買上単価,潜在需要,来店比率等に照らし,歩行商圏内日販予測(競合影響後),歩行客日販予測を立てて,本件店舗の売上予測を導いた。さらに,被告は,X方式による日販予測である45.7万円をそのまま採用せず,商圏の具体的状況や買物動向調査等の通常の裏付け調査を行い,旧店舗との比較を行って裏付け調査を完全なものとした上,慎重を期すために43万円に減額修正したものである。

以上の各事情を総合すれば,被告が本件店舗の日販を43万円と予想したことについて合理性が認められる。

イ 争点(1)イ(訴外Cの原告に対する説明方法等)

(ア) 原告の主張

訴外Cは,訴外Aに対し,本件店舗に関するカラー写真を見せながら「日販43万円は間違いありません」と話し,訴外Aがその理由を尋ねたところ,訴外Cは「実地で朝の通行客を確認したところ,相当の人通りがあり,43万円は確実である」と回答した。

また,原告は,上記の訴外Aが説明を受けてから数日後,訴外Cから,旧店舗の入店状況の調査結果(甲10)を示され,「これは,今般閉店をするK五橋店の実際の売り上げデーターですが,これでわかるとおり43万円は大丈夫です。」と説明を受けた。同調査結果は,旧店舗の「店舗客層実績グラフ」であり,原告が訴外Cから本件契約を締結するよう勧誘された際に渡されたものであることに照らせば,訴外Cが,旧店舗の売上実績に言及しながら原告を勧誘していたことは明らかである。

以上の各事情を総合すれば,訴外Cの説明は,原告に対し,本件店舗の日販が確実に43万円程度になると誤信させるような虚偽説明であったことが明らかである。

(イ) 被告の主張

コンビニエンス・ストアの売り上げは,多数の顧客の来店意思によって決定されるのであり,被告が完全にコントロールできないことは明らかであるから,被告は,各担当者に対し,説明の際に当該物件に関する売上予測は確実である,売り上げを保証する等の断定的な表現を用いることを禁止している。本件店舗に関しても,訴外Cは,日販予測の金額に関しては,○○地方で被告本部が開店を承認する予測日販の最低額が,43万円であることしか説明していない。したがって,訴外Cが,訴外Aに対し,「日販43万円は間違いありません」といった断定的表現を提供した事実はない。

また,訴外Cは,原告に対し,平成16年7月8日と同月12日の2回にわたって,本件店舗予定地において,商圏地図を示しながら,上記ア(イ)に記載された売上予測の方法や根拠について,十分な説明を行った。その際,訴外Cは,43万円という金額は,あくまで予測にすぎないものであるから,開店後の事情の変化や経営努力等によって,日販金額が変わりうることを説明した。また,訴外Cが,旧店舗の日販が43万円であったと説明したことはない。なお,訴外Cが,原告に対して示したグラフは,売り上げデータではなく店舗客層実績グラフであるところ,これは,時間帯別に,棒グラフによって当該店舗の来店客数を明らかにし,色分けによって来店客の性別や年齢別を明らかにしたものであるから,上記グラフによって,旧店舗の1日の売り上げを43万円であると判断することはできない。訴外Cは,時間帯別の来店客の数及び特性から品揃えの重要性を説明し,かつ,時間帯別の作業内容を説明するために上記グラフを示したのであって,このことは原告らも十分に理解していた。

そもそも,予測された日販を実現するためには,原告において,被告の行う経営指導・助言に従い,K基本4原則を守り,かつ,Kシステムの活用を図り,経営に専念する必要があることに加え,店舗純利益を確保するためには,人件費,不良品費等の発生をきちんとコントロールすることが必要とされるのであって,平均的なオペレーションを行うことで予測された日販が当然に達成されるものではない。さらに,訴外Aは,仙台市○○区で40年間酒屋を営んでおり,売り上げが予測しにくいことを十分に理解していた。したがって,コンビニエンス・ストアの売り上げを具体的な金額として確実に予測することが不可能であることは,当然に知識として知っていたはずであるから,訴外Aが本件店舗の日販が確実に43万円となると誤信することは考えられない。

ウ 争点(1)ウ(旧店舗の売上実績等の重要情報の開示)

(ア) 原告の主張

本件店舗は,旧店舗のリロケイト物件として,旧店舗から約30メートルという近い位置に開設されていることに鑑みれば,旧店舗は本件店舗と類似した環境にある被告の既存店舗と評価できることから,旧店舗の売上実績は,本件契約を締結するか否かを検討するに当たって重要な情報である。加えて,旧店舗は,Y五橋店が開店した影響で,平成15年2月から同年3月にかけて売り上げが急激に下がっているところ,店舗を開店するか否かを判断するに当たっては,売り上げが大きな関心事であることからすれば,旧店舗の日販が大幅に減少したまま回復しなかった事実は,本件契約を締結するか否かを検討するに当たって重要な情報である。

しかるに,訴外Aは,訴外Cに対し,旧店舗を閉店する理由を確認したところ,訴外Cは,「旧店舗の売り上げが下がった訳ではないが,道路が狭く,自転車を置くと交通の邪魔になることから,15年契約の満了時に契約更新しないこととなった。今回の場所は,前の店舗のすぐそばですが,大通りに面していて,交通量もあり,かつ自転車や自動車の駐車に困らない。是非やってみて下さい。」と回答し,旧店舗の売上実績が下がったことを伝えなかった。

さらに,被告は,訴外Aに対し,本件店舗のすぐ裏に,24時間営業の99円ショップやY五橋店があることを伝えなかった。

以上の事情に加え,被告は本件店舗を平成16年8月にオープンさせようと考えていたこと,本件店舗のオーナー候補者は原告しかいなかったこと等の各事情を併せ考えれば,被告が,原告が本件契約に応じない可能性を危惧して,旧店舗の売上実績等を示さなかった可能性が十分推認できる。

なお,被告は,旧店舗の売上実績は,個人情報保護の観点から開示することができないと主張するが,公正取引委員会が平成14年4月24日付けで出した「フランチャイズシステムに関する独占禁止法上の考え方」においては,類似した環境にある既存店舗の実績的根拠を示す必要がある旨が記載されていることに加え,訴外Cは,原告の長男で本件店舗の店長である訴外Bから,旧店舗の売上実績を示すように依頼された際,被告本部や上司に相談しないまま上記依頼を断っていることに照らせば,被告の上記主張には合理的理由がない。

以上の各事情を総合すれば,被告は,原告に対して,本件契約締結の際,旧店舗の売上実績等の重要情報を開示すべきであった。

(イ) 被告の主張

店舗のリロケイトは,既設の店舗を閉店し,集客力の高い店舗に,店舗そのものを移転させることを意味するのであって,旧店舗をそのまま改築等するものではないから,旧店舗の売上実績等は,本来,新店舗とは関係がない。また,旧店舗が閉店した平成16年7月30日には,開店から約11年が経過していたのであって,店舗建物や設備等も経年劣化していたことに加え,顧客の倦怠感が生じていた可能性もあることからすれば,閉店時の売り上げは,旧店舗の本来の実力ではないといえる。

したがって,新店舗の立地特性に応じた市場調査を行うことは当然であって,旧店舗に関する売り上げや閉店時の状況等は,新店舗の売上予測に関して大きな意味を持つものではない。

また,訴外Cは,平成16年7月上旬の説明の際,訴外Aに対して,旧店舗の店舗客層実績グラフを渡しているところ,同グラフによって容易に旧店舗の日販を算出することが可能であることに照らせば,訴外Cは,旧店舗の日販を開示していたと評価すべきであるし,少なくとも殊更に旧店舗の日販を秘匿する意思は有していなかった。

さらに,訴外Cは,平成16年7月上旬,訴外Aに対し,歩行通行量調査の結果,商圏地図の現物,旧店舗時間帯別売上グラフなどを示して,商圏の概要,歩行者の予測,旧店舗の売上実績との比較対象,Y五橋店を含む競合店の状況等について説明をした。なお,上記商圏地図には「店名Y五橋店,営業時間24時間」との記載があった。

以上の各事情を総合すれば,被告は,原告に対して,本件契約締結の際,旧店舗の売上実績等の情報を開示すべき義務に違反したとはいえない。

(2)  争点(2)(争点(1)の説明義務違反と相当因果関係のある損害及び額)

ア 原告の主張

加盟金   200万円

開業準備金 100万円

商品代   499万6000円

講習費   15万円

備品代   82万円

イ 被告の主張

全て否認ないし争う。

(3)  争点(3)(重大な不信行為の有無)

ア 争点(3)ア(売上の低迷及び日販の拡大についての対策)

(ア) 原告の主張

本件店舗の日販は,訴外Cが本件契約締結時に「43万円は間違いなく行く」と言ったにも関わらず,その6割程度にとどまった。

また,被告は,売上予測を大幅に下回っていたにも関わらず,日販の拡大に有効な対策を取らなかった。

なお,被告は,本件店舗が品揃えの不足した店舗であったと指摘するが,過大な発注を行うと廃棄ロスが生じ,売り上げの極端に少ない本件店舗においては,かえって経営を圧迫することになるから,原告の仕入れは適正なものであった。

(イ) 被告の主張

本件店舗の日販が,売上予測を下回った原因は,明らかな品揃えの不足,顧客の満足度を上げるための努力不足,認知度不足等にある。

本件店舗は,酒類及びたばこの販売が可能な店舗であり,通常であれば,営業が軌道に乗るまでの認知期間を経て,売り上げの伸びが期待できた店舗である。しかし,原告は,売れ筋商品の品揃えを行うために必要不可欠な最低限度の廃棄も恐がって出さないようにする等,消極的な営業姿勢を続けたため,顧客の支持を失っていった。

被告は,原告に対し,新店のための販売促進費を支給するなどの支援を行った。また,被告のスーパーバイザーである訴外Eは,原告に対し,クーポン券の配布等を提案したが,訴外Aが「必要がない」と言って反対したため,実施されなかった。

訴外Aは,本件店舗を経営する義務を負わない立場であり,被告が実施している加盟店研修を受けていなかったことに加え,オペレーションマニュアルやKトレーニングマニュアル等のマニュアル類についても一切目を通していなかったにも関わらず,店長である訴外Bの母親として,本件店舗の運営に深く介入しており,廃棄が必要以上に少なかったのも訴外Aの強い意向であった。

イ 争点(3)イ(開店1か月後に生じた15万円の商品の欠損)

(ア) 原告の主張

被告は,本件店舗開店前において,原告や訴外Aに対し,仕入商品の納入に立ち会う機会を与えず,本件店舗開店後も,原告からの再三の要求にも関わらず,仕入の伝票を示さなかった。そのため,本件店舗が開店してからの1か月間で15万円の商品の欠損が生じた。

開店から1か月後に15万円もの商品の欠損が生じるとは考えにくいことから,そもそも商品の一部が納入されていなかった可能性がある。

(イ) 被告の主張

訴外Bは,本件店舗開店前において,仕入商品の納入に立ち会っている。

そもそも,商品の発注は原告が行うものであり,被告が代行して行うものではない。また,ベンダーから商品が納入される際,ベンダーから同時に交付される仕入伝票には仕入原価の記載があることに加え,被告は,原告に対し,毎月の全ての仕入伝票,返品伝票等に記載された金額が表示されている「日別仕入伝票明細」を作成し,交付していたのであるから,仕入原価は容易に確認できたはずである。

ウ 争点(3)ウ(店内監視用カメラのリース契約及び警備請負契約)

(ア) 原告の主張

原告は,本件契約時に防犯カメラを所有していたことから,警備会社に対し,店内監視用カメラのリース契約は必要ない旨を伝えていたところ,同警備会社の担当者も,原告が所有する防犯カメラは本件店舗でも使用できることを確認した。しかし,同担当者は,訴外Bに対し,強引に店内監視用カメラのリース契約書に署名捺印させた上,遠隔地画像システムについて警備請負契約を締結させた(以下,これらの警備契約を総称して「本件各警備契約」という。)。訴外Aは,訴外Bが強引に本件各警備契約を締結させられたことを知ったことから,被告本部に電話をして本件各警備契約が必要ないことを何度となく伝え,警備会社への取りなしを依頼したものの,被告本部は一切回答しなかった。

原告は,平成16年12月,警備会社から警備請負契約に関する総額約8万円の請求書が届いたため,被告本部の担当者である訴外D,被告本部のスーパーバイザーである訴外E及び警備会社の担当者を本件店舗に呼んで話し合いをした。その際,警備会社の担当者は「取り付けたものは取り外しできない」と回答した。原告は,本件店舗の日販が上がっていないことを理由に,収入が増えるまで警備請負契約を取り外すとともに,上記8万円の請求について毎月の分割払いを依頼したが,訴外Dは,警備会社の担当者と一緒になって支払いをするよう強く求めてきた上,原告に対し「そんなに利益がないなら解約しなさい」と言った。

本件契約23条1項①には,被告は「必要な指導助言を行い,また経営上生じた諸問題の解決に協力する」と定められているところ,上記の被告の対応や訴外Dの発言が,本件契約23条1項①に違反することは明らかである。

(イ) 被告の主張

原告が所有していた防犯カメラは老朽化しており,十分な機能を果たすものではなかった。

被告担当者は,十分な時間をかけて警備システムの内容,費用及び必要性を説明し,原告の了解を取っている。また,訴外Aが,本件各警備契約に関して,被告本部に電話をかけてきた際には,被告担当者と警備会社の担当者が,訴外Aと面談をして本件各警備契約について説明をしている。

原告は,被告担当者に対し,本件店舗の日販が上がるまで警備請負契約を取り外すよう頼んだと主張するが,これは契約の中途解約を意味するのであって,解約金の支払いを要するものである。被告担当者は,原告に対し,解約金が発生することを説明したところ,それ以降,原告からは何らの申入れもなされなくなった。

原告は,訴外Dが,原告に対し,「そんなに利益がないなら解約しなさい」と述べたと主張するが,事実に反する。本件店舗は,新規開店店舗であり,顧客の目的買いに対応し,リピーター客を増やすために,売れ筋商品の品揃えを強化する等,ボリューム感に溢れた売場作りが求められていたことから,被告本部は,品揃え強化をすることによって廃棄品が増えることに対する対策として,相当額の販売補填費を原告に対して支払っていた。ところが,原告は,これを活かすことなく商品発注を絞りすぎたため,品揃えの不十分な売場になった。このような状況において,訴外Dは,「利益が出ない」という原告に対し,「利益が出ないのではなく,店側で利益を出すような努力をしていないことに問題がある。本部は,新店販促費の補填など支援する態勢を取っているのに,店側でこれに応えようとしていない。きちんとした店経営を行う意思がないのであれば文書で解約申入れをしたらどうですか。」という趣旨の発言をしたものである。

エ 争点(3)エ(月次引出金及びオープンアカウント債務に関する説明)

(ア) 原告の主張

被告は,原告に対し,売り上げが伸びず,毎月の引出金に営業利益が及ばないことがあること,その場合には原告が被告に対して預託した金員から,引出金と営業利益の差額が差し引かれることを十分に説明しなかった。

(イ) 被告の主張

被告は,原告に対し,月次引出金及びオープンアカウント債務の意味と内容等について,加盟店説明会,本件契約締結前及び同契約締結時において,それぞれ十分に説明した。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)について

(1)  前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

ア 原告らの事業経験等

原告及び訴外Aは,過去40年間,酒屋を経営し,商品の仕入れ,配達,経理等を担当した経験から,売り上げには様々な要素が関係しており,売り上げを端的に予測することは困難であると認識していた。[甲17,証人A12頁,同19頁]

原告及び訴外Aの次男は,過去にコンビニエンス・ストア(S)の店舗を経営していた[証人B8頁]。

イ 本件契約の経緯

(ア) リロケイトの経緯

コンビニエンス・ストアの業界では,その開店から10年程度が経過した段階で営業上の活性化を行わないと売り上げが2割程度落ちるとされているところ,旧店舗は,平成16年当時,開店から10年以上が経過していた[証人C1頁]。

被告は,旧店舗のリロケイトを計画し,旧店舗のオーナーに対して本件店舗へのリロケイトを打診したが,旧店舗のオーナーは,平成16年当時,旧店舗の他にも被告チェーンの店舗を定禅寺通り付近で経営していたため,最終的には,同店舗に近い場所で新規開店することになった[証人C2頁]。

旧店舗の閉店は平成16年7月31日であったところ,被告は,同年8月中に本件店舗を開店させることで,できる限り客離れを回避したいと考えていた[証人C25頁]。

(イ) 本件契約に至るまでの経緯

原告及び訴外Aは,コンビニエンス・ストアを開業したいと考えていたことから,被告の他,MやF等にも,開業予定の店舗がないか問い合わせをしていた[甲16]。

原告は,平成16年6月頃,被告営業担当者である訴外Fから,被告五橋店を見に来ないかという連絡を受けた[争いがない]。

そこで,訴外Aは,平成16年7月中旬頃,改装前の本件店舗に赴き,訴外C及び訴外Fから,乙3号証を半畳程度の大きさに拡大した商圏地図(以下「本件商圏地図」という。)を示され,後記(ウ)のとおり,売上予測及び引出金についての説明を受けた(1回目の説明)。[証人A1ないし3頁(但し,上記認定に反する部分を除く。),証人C25頁,弁論の全趣旨]

訴外Aは,上記説明から数日後,本件店舗において再び訴外Cと会い,後記(エ)のとおり,旧店舗と新店舗の売り上げの違いについて説明を受けた(2回目の説明)[証人A7頁]。

訴外Bは,平成16年7月当時,運送の仕事をしていたため,訴外Aと相談をしながら本件契約の締結について話を進めていた[証人B13ないし14頁]。

なお,平成16年7月当時,原告らの他に,本件店舗に関して,開店を前提に被告から説明を受けている者はいなかった[証人C26頁]。

(ウ) 訴外Aに対する1回目の説明内容

訴外Cは,訴外Aに対し,本件商圏地図を示し,本件店舗の商圏について説明した。本件商圏地図には,Y五橋店,本件各競合店及び東北大学等,乙3号証に記載されている競合店や商圏がそのまま記載されていた[証人C15頁]。

本件商圏地図は,スケール1/1500の住宅地図を,1/2000に縮小した上で貼り合わせ,半畳程度の大きさにしたものである[証人C27頁]。

訴外Cは,訴外Aに対し,東北地方で新店舗を開店するための最低限の日販(承認日販)が43万円であること及び被告本部は本件店舗の売り上げが43万円に達すると考えている旨を伝えた[証人C31頁,弁論の全趣旨]。

訴外Cは,訴外Aに対し,月々の生活費としての引出金が45万円になると伝えた[証人A5頁,証人C41頁]。

(エ) 訴外Aに対する2回目の説明内容

訴外Cは,訴外Aに対し,旧店舗の入店状況の調査結果(甲10)を示し,旧店舗では昼間の売り上げが主であり,固定商圏の顧客が中心となっていることから,朝と晩の顧客を獲得できていなかったところ,本件店舗は,愛宕上杉通りに面しており,朝と晩の歩行通行量が多いことから,朝と晩の顧客を獲得することができると説明した[証人C8頁,同31頁,弁論の全趣旨]。

訴外Cは,訴外Aに対し,本件店舗のリロケイトの理由は,フランチャイズ契約が満期になったことにあると説明した[証人A9頁]。

(オ) 訴外Bに対する説明内容

訴外Bは,本件契約締結前,訴外Cから,本件商圏地図を示されながら,競合するコンビニエンス・ストアの場所及びそれらの店舗の売り上げが大まかに言って50万円程度であることについて説明を受けた。訴外Bは,訴外Cの説明に加えて,過去に運送業の仕事をしていた自己の経験から,Y五橋店が本件店舗の裏にあることを認識していた。[証人B13ないし15頁]

訴外Cは,本件契約締結前において,訴外Bから旧店舗の売上実績を見せて欲しい旨の申入れを受けた際,加盟者はあくまで個人事業主であり,旧店舗の売上実績は営業数値の全てが加盟者の個人情報に関わるものであることを理由に上記の申入れを断った。なお,訴外Cは,上記申入れの際,旧店舗の売上実績を訴外Bに開示してよいか否かを上司に相談をしていない。[証人C36頁,同46頁]

また,訴外Bは,本件契約の直前に,訴外CからY五橋店や本件各競合店の話を聞いていた。訴外Cは,訴外BからY五橋店が本件店舗に及ぼす影響について質問された際,旧店舗で既にY五橋店の影響が出ており,旧店舗以上に本件店舗に影響が出るとは考えられないのであって,本件店舗の売上予測を作成する際に,既にY五橋店の影響は折り込み済みであるとの発言をした。[証人B9頁,証人C37頁]

ウ 本件店舗と競合する店舗[乙2,乙3,乙4,弁論の全趣旨]

(ア) 本件店舗と競合するコンビニエンス・ストア

本件店舗から北西400メートル先の○○通沿いには,S仙台五橋2丁目店がある。

本件店舗から北西300メートル先の○○通沿いには,F仙台五橋通店がある。

本件店舗から○○通を挟んだ対面に,F仙台市立病院前店がある。

本件店舗から東230メートル先の県道○○線沿いには,S仙台荒町店がある。

本件店舗から東500メートル先の県道○○線沿いには,K荒町店がある。

本件店舗から南東500メートル先の○○通沿いには,S仙台土樋店がある。

(イ) 本件店舗と競合する大型店等

本件店舗から西250メートル先の○○通沿いには,Y五橋店(24時間営業)がある。なお,Y五橋店は,平成15年3月に開店した。

本件店舗から北西300メートル先の○○通沿いには,99円ショップ(24時間営業)がある。

エ 本件店舗の周辺施設等[乙2,乙3,乙4,弁論の全趣旨]

本件店舗は○○通に面しており,○○通と県道○○線との交差点(以下「○○交差点」という。)付近に位置している。本件店舗付近の○○通は片側4車線の大通りとなっており,歩道も自転車が2台並んで走行できる程度の広さがある。本件店舗前の歩道には樹木が植えられているものの,対面の歩道や○○交差点から本件店舗を明確に視認することが可能である。

本件店舗の西側には○○○○等の高層マンションが立ち並び,○○大学や○○○○大学のキャンパスが存在している。また,本件店舗の北側には○○○○プラザや仙台市立○○中学校が隣接し,○○通の北側同線上には市営地下鉄○○駅がある。

本件店舗から○○通を挟んだ対面には,○○○○病院や仙台市立○○小学校等の公共施設に加え,店舗やアパート等が立ち並んでいる。

オ X方式の概要

被告が独自に開発したコンピューターシステムである。X方式の計算は,歩行商圏内顧客及び歩行客の数を前提にして,半径400平方メートル内のコンビニエンス・ストア,マーケットストア,スーパーマーケット,大型店等の競合店舗の予測売上から見た競合の度合,導入性,視界性等の条件を加味して来店率を予測した上,酒と煙草の販売許可の有無に応じた客単価を乗じて,売上予測を算出するものである[明らかに争わない事実]。

X方式は,被告が創業して以来の日販予測の手法を蓄積したものであり,被告が新規出店する全ての店舗の基準とされている[証人C5頁,同6頁]。

カ X方式による本件店舗の売上予測[乙1の1]

被告は,X方式に,以下の情報を入力して本件店舗の売上予測を算出した。

(ア) 歩行商圏内世帯数

1250世帯

(イ) 1世帯当たり人口

1.94人

(ウ) 半径400メートル以内のコンビニエンス・ストア,マーケットストア,スーパーマーケット,大型店

① S五橋2丁目店

本件店舗から300メートル,調査日販61.5万円

② F仙台五橋通り店

本件店舗から300メートル,調査日販55.4万円

③ Y五橋店

本件店舗から230メートル,24時間営業

(エ) 歩行通行量

① 午前11時30分から午後1時30分までの歩行者,自転車の有効通行量

974人

② 午後8時から午後11時までの歩行者,自転車の有効通行量

1211人

(オ) 免許品

酒・煙草ともに無し

(カ) 営業時間

24時間

(キ) 売場坪数

31坪

(ク) 既存営業店時の1日の平均客数

0人

(ケ) 売上予測の結果

上記の情報を入力した結果,本件店舗の歩行商圏日販予測は28万7988円,歩行客日販予測は16万8615円となり,合計45.7万円であった。

キ X方式による売上予測の裏付・確認調査

(ア) 開発カウンセラーであった訴外Cの所感[乙1の3]

① 立地の特性

本件店舗は市営地下鉄○○駅(1日乗降客6000人)から徒歩1分の位置にある。

本件店舗の周囲300メートルには高層マンションが立ち並び,また,○○大学(学生数1万0616人,教授等1573人)や○○○○大学(学生数1万1367人,教授等310人)が隣接している。○○大学及び○○○○大学の学生の20パーセントは本件店舗前を通行している。

朝の通勤時間帯のピークは午前7時から午前9時までであり,時間平均1209人が本件店舗前を通行している。そのうち自転車での通行は80パーセントである。旧店舗では獲得できなかった新たな客数が見込める。

本件店舗に隣接して○○プラザがあり,年間16万人の利用がある。

② 競合店の状況

本件店舗の北側300メートルの位置にS仙台五橋2丁目店がある。駐車場は4台分,調査日販は61.5万円(酒・煙草の販売が可能)である。オペレーションは普通であり,昼食需要はF仙台五橋通り店と競合している。

本件店舗の北側同線上300メートルの位置にF仙台五橋通り店がある。駐車場は無く,調査日販は55.4万円(酒・煙草の販売が可能)である。オペレーションは劣であり,店頭にガードバーがあり導入性はよくない。

本件店舗の北側○○駅方向600メートル先にL五橋1丁目店がある。駐車場は無く,調査日販は48万円(酒・煙草の販売が可能)である。立地は完全にオフィス立地で,店頭に歩道橋が架かっており視界性が遮られている。

本件店舗の東側230メートルの位置にS仙台荒町店がある。調査日販は53万円(酒・煙草の販売が可能)である。オペレーションは普通である。

S仙台荒町店から500メートル先にK荒町店がある。調査日販は37.4万円(酒の販売が可能)である。

本件店舗の南側500メートルの位置にS仙台土樋店がある。駐車場は4台分,調査日販は49.9万円(酒・煙草の販売が可能)である。立地は住宅ロードで出口は一方通行の通りに接しており,三角立地である。また,導入性,転回性も悪い。

その他,本件店舗の西側にはY五橋店(24時間営業),99円ショップ(24時間営業)がある。

③ 市場性

後背商圏には高層マンション群(有効商圏1250世帯)があり,大学も2校ある。人通りも多いため,市場性がある。

旧店舗は酒・煙草の販売が可能であったものの,国道○○線より一つ入ったところに位置しており,また,同店舗前は国道○○線に出る車で渋滞しているため人通りがスムーズではなく,国道○○線の通行客を集客できていなかった。これに対し,本件店舗は,国道○○線に面しているため,視界性が確保できるとともに,国道○○線の通行客を集客することができる。また,自転車を店頭に駐輪することが可能なため,自転車利用客を客数として見込める。

本件店舗前を通行する朝,夕の通勤客が多いため,多くの客数が見込める。

本件店舗に隣接して○○プラザがあり,年間利用者は16万1538人である。特に,○○ホール,○○ホール,研修室で催し物がある場合には,利用者を客として見込める。

④ 訴外Cの上司であるリージョナルマネージャーの所感

本件店舗はリロケイト物件であるところ,旧店舗と比べて間口及び売場面積の改善ができた。また,店舗前の歩行者の割合は,本件店舗100人に対し,旧店舗9人であり,大幅に歩行者が取り込める可能性がある。さらに,近隣には大学,住宅,商業ビルがあり,人通りも多い上,国道からも目立つ店舗となった。

(イ) 歩行商圏調査[乙1の4]

地図上に競合店(大型店,スーパーマーケット,マーケットストア,コンビニエンス・ストア等)の営業時間,免許品,駐車場の停車可能台数を記入し,コンビニエンス・ストアについては予測日販を記入する。

店舗から歩いて300メートルを商圏(ハウスカウント)とし,その範囲を地図上に赤線で明示する。また,店舗近くの横断歩道,直近の酒販店及びタバコ店,駅及び集客施設からの距離を,それぞれ地図上に書き加える。さらに,アンケート調査により,顧客の買物動向,外出動向を記入する。

本件店舗のハウスカウント内の事業所・就業者カウントは一戸建てが49世帯,集合住宅が1187世帯,事業所が71箇所で世帯数は14世帯とみなす(なお1事業所あたり10人未満の場合は1世帯,1事業所あたり10人以上の場合は就業者×0.1=世帯数として扱う)。したがって,本件店舗のハウスカウント内の世帯数は1250世帯となる。

本件店舗の周辺地域である五橋2丁目及び土樋1丁目の人口は3373人,世帯数は1731世帯であり,1世帯当たりの人口は1.94人である。

なお,歩行商圏調査に際して利用した世帯人口推移は,統計上の資料から引用している[証人C12頁]。

(ウ) 歩行通行量調査

別紙1ないし3のとおりである[乙1の5ないし7]。

(エ) 競合店に関する調査[乙1の10]

新規店舗の開設に当たっては,最も競合する2店を調査する。

競合店との比較にあたっては,歩行商圏内の世帯数,店舗間口,歩行客からの視認性及び売場面積,営業時間,免許品の有無,店員の資質,クレンリネス,鮮度管理,品揃え,商品整理及びおにぎり等の在庫数について,それぞれ本件店舗と比較検討する。

また,日販予測については,午後0時から午後2時及び午後8時から午後10時の入店客を調査した上,1日当たりの来店客数を予測し,立地や本部チェーンの営業力によって,適宜,調整係数を乗じて日販予測を算出する。

具体的には,S仙台五橋2丁目店は,午後0時から午後2時の入店客数が186人,午後8時から午後10時の入店客数が72人であり,1日換算客数は1075人となる。これに客単価520円を乗じた上,Sのチェーン係数1.1を乗じた結果,推定日販は61.5万円となる。また,F仙台五橋通り店は,午後0時から午後2時の入店客数が200人,午後8時から午後10時の入店客数が56人であり,1日換算客数は1066人となる。これに客単価520円を乗じた結果,推定日販は55.4万円となる。

なお,競合の特記事項として,Y五橋店に関して,後背商圏の通常の買い物はY五橋店でなされているが,本件店舗のメイン客層は国道○○線であるから,Y五橋店の影響度は旧店舗ほど大きくないと見ている旨が記載されている。

(オ) 買物・外出動向に関する調査[乙1の11ないし12]

① 質問事項

代表的な取扱商品の主要購入先,コンビニエンス・ストアの週間利用頻度,コンビニエンス・ストアの利用状況,来街者・居住者・勤務者の区分及び外出時の主な利用駅又はバス停,Kの認知度について,各世代の男女に質問し,回答を得る。

② アンケート結果

詳細は別紙4のとおりである。

なお,上記アンケート結果はX方式の売上予測には直接反映されていないが,X方式に基づく売上予測の裏付・補足のために調査したものである[証人C13頁ないし14頁]。

(カ) 確認・裏付調査を踏まえた売上予測の修正

X方式による売上予測は,客観的な数字にあらわれたものしか反映しないため,被告は,X方式の予測45.7万円をそのまま採用することなく,上記の裏付・確認調査の結果を踏まえ,慎重を期して43万円に減額修正した[証人C13頁ないし14頁]。

ク 旧店舗の売上実績

旧店舗の売上実績は,別紙5のとおりである[明らかに争わない事実]。

被告は,旧店舗の売り上げが下がった原因はY五橋店が開店したことにあると考え,売り上げを回復するための方策を取ったものの,旧店舗はY五橋店の影響で売り上げが下がったまま閉店に至った[証人C24頁]。

ケ 本件店舗の開店に関する被告の負担

本件店舗の売上予測が大きく外れると,被告は,原告に対し,加盟店に対するセーフティネットとしての最低保証額をKチャージから支払わなければならないのであって,これは,被告本部の収入が減少することを意味する。また,本件店舗が撤退することになれば,店舗の保証金等の没収や,内装費やリース料の残存等が見込まれる。[証人C16頁]

被告は,本件店舗の賃借のため,本件店舗の貸主に対し,敷金・保証金1208万8850円を預託し,1か月67万3742円の賃料を支払っている。また,被告は,本件店舗の開店に当たり,建物内外装設備費等として1538万6925円を,諸設備リース料として1449万2184円を,修繕積立金補助金として8000円を,それぞれ投資している。[乙9,乙10,乙11,乙12]

(2)  検討

ア 総論

フランチャイズ契約とは,フランチャイズチェーンの本部機能を有している事業者(フランチャイザー)が,他の事業者(フランチャイジー)に対し,自己の商標,サービスマーク,トレードマーク等,営業の象徴となる標識及び経営のノウハウを用いて同一のイメージのもとに商品の販売その他の事業を行う権利を与え,フランチャイジーは,フランチャイザーに対し,その見返りとして一定の対価を支払い,フランチャイザーの指導援助の下,事業に必要な資金を投下して事業を行う継続的契約である。

一般に,契約を締結しようとする双方の当事者は,契約の締結を目的として準備交渉に入った段階で,社会的に密接な関係に至ったと評価されるべきであるから,相互に相手方の生命・身体や財産的利益を侵害しないように配慮すべき信義則上の保護義務を負うものと解される。

そして,フランチャイズ契約においては,フランチャイザーが経営のノウハウや知識,当該店舗の出店に関する情報及び経済的基盤を保有している一方で,通常,フランチャイジーになろうとする者は上記のような知識や経験が乏しいことに照らせば,フランチャイザーは,フランチャイズ契約の締結に向けた交渉に入った時点で,フランチャイジーになろうとする者に対し,フランチャイズ契約を締結するか否かを判断するために必要な情報を提供すべき信義則上の保護義務を負っているというべきである。

以下,本件で問題となっている各項目につき,上記の保護義務違反の有無を個別に検討する。

イ 売上予測について(争点(1)ア)

(ア) 総論

店舗の経営は,通常,金銭的利益を獲得するために行われることに照らせば,フランチャイジーになろうとする者にとっての最大の関心事は,契約締結後に,当該店舗の経営によって,どの程度の収益を確保することができるかという点にある。

そして,上記のように,フランチャイザーが経営のノウハウや知識等を有している一方で,フランチャイジーになろうとする者にはそのようなノウハウや知識が乏しいことに鑑みれば,フランチャイジーになろうとする者は,フランチャイザーが作成・提示した当該店舗の売上予測を信頼するのが通常であると考えられる。そうであれば,フランチャイジーになろうとする者が契約を締結するか否かを判断するためには,フランチャイザーが作成・提示する当該売上予測が,客観的に見て合理性を有するものである必要がある。

もっとも,売上予測の手法については,科学的な手法が確立されているわけではないから,その手法にフランチャイザーの主観的判断が伴うことは避けられない。また,売上予測は,フランチャイザーに蓄積された経験やノウハウに依る部分が大きいことからすれば,第一次的にはフランチャイザーの裁量を尊重する必要性も否定できない。

以上の検討を踏まえれば,フランチャイザーが作成・提示した売上予測は,売上予測の手法それ自体が虚偽ないし人為的操作が加わった不合理なものであったり,売上予測の手法それ自体は合理的であったとしても,売上予測の前提とされた情報が虚偽ないし著しく不合理であるといえる場合に,客観的に見て合理性を有する情報ではないと判断されるべきである。

(イ) 売上予測の手法

上記(1)オで認定のとおり,X方式は,被告が出店する全ての店舗で用いられる日販予測システムであるところ,仮に,X方式が合理的な売上予測を立てられないシステムであったとすれば,前提事実2(1)で認定のとおり,被告が,平成14年7月の時点で6000店を超える店舗を有し,平成16年に年間で約300店を出店するといった積極的な経営を維持することは困難であったと考えられる。

また,上記(1)キ(カ)で認定のとおり,被告は,X方式が客観的データに基づき売上予測を機械的に算出するシステムであることを考慮して,X方式での売上予測に加え,被告担当者が確認・裏付調査を行った上で適宜,売上予測の修正を行うといった手法を採用しているところ,これにより,客観的なデータでは表現できない感覚的な事情や具体的な状況を踏まえた,柔軟な売上予測が可能になるものと評価すべきである。

さらに,上記(1)ケで認定のとおり,被告は本件店舗の出店に当たって多額の支出をしており,本件店舗の売上予測が達成できなかった場合には損害を被る可能性があることからすれば,被告が,あえて本件店舗に限って,X方式に虚偽ないし人為的操作を加えることは想定しがたい。

以上の事情を総合考慮すれば,X方式で算出された売上予測を前提に,被告担当者の確認・裏付調査により適宜修正を行うという手法それ自体は,合理的な手法であると認められる。

(ウ) 売上予測の前提とされた情報

① 旧店舗の売上実績

本件店舗の売上予測において,X方式に入力された情報は上記(1)カで認定のとおりであるところ,既存店舗の平均客数が0人と入力されていることからすれば,被告は,旧店舗から引き継がれた顧客がいないものとして,売上予測を行ったものと認められる。すなわち,被告は,本件店舗が,旧店舗とは無関係に,現在置かれている状況の中でどれだけの売り上げを出せるかという観点から予測を行ったのであるから,旧店舗の売上実績がX方式に入力されていなかったとしても,直ちに売上予測が不合理であるとはいえない。

もっとも,旧店舗と本件店舗の距離は直線距離にして約30メートルしか離れていなかったことからすれば,旧店舗の売り上げは,本件店舗の売上予測に当たって重要な考慮要素の一つであると考えられるところ,上記(1)キ(ア)で認定のとおり,被告担当者は,本件店舗は旧店舗では取り込めなかった国道○○線の歩行客を期待できる上,本件店舗のメイン客層としては国道○○線の歩行客を想定しており,Y五橋店の影響は旧店舗ほどには大きくないと考えていたのであって,本件全証拠によっても,このような考え方が不合理であったとは断定できない。そうであれば,Y五橋店が開店した影響により,旧店舗の売り上げが下がっていたとしても,被告が,上記のような考え方を前提にして,本件店舗の売り上げは旧店舗よりも改善すると判断したことが,不合理であるとまではいえない。

② 本部の営業力の差異,競合店の状況等

上記(1)キ(エ)で認定のとおり,本件各競合店の日販を予測するに際して,本部の営業力の差異に応じた調整を図るためにチェーン係数を乗じているところ,本件ではS仙台五橋2丁目店の調査日販にチェーン係数1.1を乗じている。そして,本部の営業力によって売り上げに差異が生じることは,一般的経験則として十分に是認しうることからすれば,上記のような調整を行うことは合理的であるといえる。

また,上記(1)カ,(1)キ(ア)②,(1)キ(エ)で認定のとおり,被告は,本件店舗の売上予測に当たって,競合店の立地状況,オペレーション,駐車場の有無及び予想日販等を調査しているところ,本件記録を精査しても,各調査方法や内容が不合理であることを示す証拠はない。

③ Y五橋店の影響

上記(1)キ(ア)②及び(1)キ(エ)で認定のとおり,本件店舗の売上予測に際して,後背商圏での通常の買い物はY五橋店でなされていることが前提にされていることからすれば,Y五橋店の影響が全く無視されているとはいえない。そして,被告が,Y五橋店の影響を考慮したとしてもなお本件店舗の売り上げが改善されると判断したことが,不合理であるとはいえないことについては,上記①で説示したとおりである。

なお,被告担当者の所感では,Y五橋店が競合店の中で7番目に記載されているが,上記所感において競合店の記載順序がどのような意味を持つのかは本件記録から明らかではないから,Y五橋店の記載順序が7番目であるからY五橋店の影響が軽視されていたという原告の主張には理由がない。

④ 小括

以上の事情を総合考慮すれば,本件店舗の売上予測に際し,前提とされた情報が,虚偽ないし著しく不合理であったとはいえない。

(エ) 総括

よって,被告が作成・提示した売上予測は,客観的に見て合理性を有する情報であると評価できるのであるから,売上予測に関する保護義務違反は認められない。

ウ 訴外Cの説明方法等について(争点(1)イ)

(ア) 総論

フランチャイザーは,フランチャイズ契約の締結に際し,上記ア記載の信義則上の保護義務の一内容として,フランチャイジーに対し,虚偽情報を提供しない義務及び相手方に誤解が生じている場合にはその誤解を解消するべく努力する義務を負っているものと解される。

一般に,契約締結の際,相手方当事者に対し,自己の商品やサービスの内容等について一定の誇張表現をすることも,セールストークの一環として許容される場合があることは否定できない。

しかし,フランチャイジーになろうとする者の中には,過去に全く事業経験がない者も多数含まれていることに照らせば,事業経験のない者を対象としたフランチャイズ契約の締結においては,一般の事業経験者間では許容されるセールストークであったとしても,虚偽の情報ないし誤認を生じさせるような情報を与え,もって信義則上の保護義務に違反したと評価される余地があるというべきである。

そこで,フランチャイザーの説明内容や説明方法が,虚偽の情報ないし誤認を生じさせるような情報を与えるものであったか否かは,当該説明内容や説明の状況等に加え,フランチャイジーになろうとする者のこれまでの事業経験や経営に関する知識の有無等も併せ考慮した上で,個別具体的に判断するのが相当である。

(イ) 検討

上記(1)イ(ウ)で認定のとおり,訴外Cは,訴外Aに対し,東北地方での承認日販が43万円であること,本件店舗の売り上げは43万円に達すると考えていることを伝えている。しかし,訴外Cが,説明の際に43万円の売り上げは間違いないなどといった断定的な表現を用いた事実は,本件全証拠によっても認定することができない。

もっとも,承認日販が43万円であり,かつ,被告本部が本件店舗の売り上げは承認日販を超えると考えていると伝えられれば,本件店舗の売り上げは確実に43万円を超えるであろうと考えることも,あながち不自然なことではないから,フランチャイジーとなろうとする者が,店舗経営に関して全くの素人であるような場合には,被告が十分な説明を尽くして,上記のような誤解を積極的に解消すべき場合もあると考えられる。

しかしながら,訴外Aは,上記(1)アで認定のとおり,40年間という長期にわたって酒屋を経営しており,店舗の売り上げを予測することは困難であると十分に認識していた。そうであれば,訴外Aが,本件店舗の売り上げが確実に43万円を超えると誤信することは,通常考えられない。また,訴外Cとしても,上記説明によって,訴外Aが上記のような誤信を抱くことは通常予期しえないのであるから,訴外Aの誤信を積極的に解消すべき立場にあるとはいえない。

以上の事情を総合考慮すれば,訴外Cの説明が,虚偽の情報ないし誤認を生じさせるような情報を与えるものであったと評価することはできない。

なお,原告は,訴外Cが,甲10号証を示しながら旧店舗の売上実績が43万円であると説明して,訴外Aを勧誘したと主張するが,上記(1)イ(エ)で認定のとおり,甲10号証は,旧店舗の時間帯別の来店客数を示したものであって,売上実績とは直接的には関係がないものであるから,原告の上記主張を採用することはできない。

エ 旧店舗の売上実績等の重要情報の開示について(争点(1)ウ)

(ア) 総論

フランチャイザーが,リロケイト物件に関して勧誘を行う場合,フランチャイジーになろうとする者からすれば,新店舗からわずかな距離しか離れていない旧店舗の売上実績は,新店舗が開店した後の売り上げと強い関連性を有すると考えるのが通常であることに照らせば,フランチャイザーは,フランチャイジーになろうとする者に対し,旧店舗の売上実績や,旧店舗と比較して新店舗の売り上げが改善すると判断した理由等,新店舗の売上予測が旧店舗の売上実績を踏まえてもなお合理的なものであるか否かを判断するための情報を提供すべきである。

また,旧店舗から新店舗へのリロケイトは,通常,何らかの理由や原因があって行われると考えられることからすれば,リロケイトが行われた理由それ自体が,フランチャイズ契約を締結するか否かを判断するに当たって重要な情報であると考えられる。

以上を踏まえれば,フランチャイザーが,リロケイト物件に関してフランチャイズ契約の締結を勧誘する際には,フランチャイジーになろうとする者に対し,リロケイトの理由,旧店舗の売上実績,新店舗の売上予測と旧店舗の売上実績の関係等の重要情報を説明すべきである。

(イ) 検討

上記(1)イ(オ)で認定のとおり,訴外Bは,本件契約締結前,訴外Cから本件商圏地図を示されながら競合するコンビニエンス・ストアやY五橋店の場所等についての説明を受けたのであるから,競合店についての説明がなかったとする原告の主張には理由がない(なお,訴外Aは本件店舗の保証人にすぎないのであるから,被告は,訴外Bに対して競合店に関する説明を行った上で,さらに訴外Aに対して重ねて説明しなければならない義務を負うものではなく,訴外Aが説明を受けていないという原告の主張は失当である。)。

しかしながら,上記(1)イ(エ)で認定のとおり,訴外Cは,訴外Aに対し,リロケイトの理由はフランチャイズ契約が満了したことにあると説明しているところ,上記(1)イ(ア)で認定したリロケイトの経緯に照らせば,上記説明が虚偽であるとまでは認定できないものの,上記(1)クで認定のとおり,旧店舗の売上実績は,Y五橋店の開店以降,減少していたことからすれば,本件店舗のリロケイトには,Y五橋店の開店によって旧店舗の売り上げが減少したまま回復しなかったことが少なからず影響を与えていると推認される。そうであれば,上記説明は,旧店舗の売り上げがY五橋店の開店の影響によって減少したことについて全く言及しなかった点において,不十分であったとのそしりを免れない。

また,前提事実(3)で認定のとおり,本件店舗は,旧店舗からわずか30メートル程しか離れていない場所に位置するリロケイト物件であることからすれば,被告は,原告に対し,本件店舗の開店を勧誘するに際して,旧店舗の売上実績を開示すべきであるところ,本件全証拠によっても,被告が,原告に対し,旧店舗の売上実績を開示した事実を認定することはできない。むしろ,上記(1)イ(オ)の認定事実に照らせば,旧店舗の売上実績の開示を避けようとしていた訴外Cの説明態度が窺われるところである。

以上の事情を総合考慮すれば,旧店舗の売上実績等の重要情報を開示しなかったことについて,被告の保護義務違反が認められる。

なお,被告は,甲10号証を訴外Aに交付したことをもって,旧店舗の売上実績を開示していると主張するが,甲10号証は旧店舗の時間帯別の来店客数を示したものであることに加え,専らグラフを中心としたものであるから,何も説明がないまま甲10号証から旧店舗の売上実績までも計算することは困難であるといえる。したがって,被告の主張を採用することはできない。

また,被告は,旧店舗の売上実績は旧店舗のオーナーの個人情報に属するものであるから,これを原告に開示することはできないと主張するが,訴外Cは被告本部との間で旧店舗の売上実績の開示について何ら議論や相談等をしていないことに照らせば,上記被告の主張が,本件契約当時における被告本部の方針であったか否かは疑わしい。加えて,フランチャイザーとフランチャイジーが相互に共存を図るという本件契約の趣旨目的に照らせば,旧店舗の売上実績は被告に属する情報とも評価しうるのであって,専ら旧店舗のオーナーに帰属する個人情報であることを前提にした被告の主張は容易に採用できない(なお,被告は甲10号証の交付をもって旧店舗の売上実績を開示したとも主張しており,この主張が個人情報を開示したとの上記主張と符合するか否かという点については,いささか疑問があるといわざるを得ない。)。

(3)  総括

以上の検討によれば,被告が,原告に対し,旧店舗の売上実績等の重要情報を開示しなかったことについて,被告の保護義務違反が認められる。

2  争点(2)について

(1)  前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

ア 原告は,被告に対し,本件契約の締結に際し,加盟金として200万円を支払った[争いがない]。

イ 原告は,被告に対し,本件契約の締結に際し,開業準備手数料として105万円を支払った[甲18の2]。

ウ 原告は,被告に対し,本件店舗開店時の商品代金として499万6000円,契約手数料として4000円を支払った[甲18の1及び3,乙8・6頁]。

なお,本件店舗開店時における商品代金(商品仕入高)は367万4858円であるから,原告が支払った上記499万6000円と367万4858円の差額である132万1142円は,本部預け金として扱われる[甲9の1,乙6・13-9頁,乙8・6頁]。

エ 原告は,被告に対し,本件店舗開店時の備品代として82万円を支払った[証人A11頁]。

(2)  検討

信義則上の保護義務違反は契約法的責任であることに照らせば,上記義務違反と相当因果関係のある損害が賠償の対象となると解される(民法416条)ところ,被告の上記保護義務違反がなければ,原告は,本件契約を締結し,本件店舗を開店することはなかったと考えられるのであるから,本件契約を締結し,本件店舗を開業したこと自体を損害と評価すべきである。したがって,本件店舗を開業するために要した費用が損害賠償の対象となる。

そして,上記アないしエの支出は,本件店舗を開業するために支出されたものであり,原告が本件店舗を開業しなければ支出することはなかったことは明らかである。したがって,後記(4)で説示するとおり損益相殺による調整があることは格別,被告の保護義務違反と相当因果関係のある損害額は,上記(1)アないしエの合計額である887万円となる。

なお,原告は,被告に対し,講習費15万円を支払ったと主張する。しかし,前提事実2(2)オで認定のとおり,本件契約10条によれば講習費は原則として被告が負担すべきものと解されることから,原告の上記主張は容易に採用できない。その他,本件全証拠によっても,上記講習費に関する主張を認めるに足りない。

(3)  過失相殺

上記1(1)アで認定のとおり,原告及び訴外Aは40年間という長期にわたって酒屋を経営していたこと及び原告と訴外Aの次男が過去にコンビニエンス・ストアを経営していたことの各事情に照らせば,原告らは,コンビニエンス・ストアの経営について,一般的なフランチャイジーと比較して多くの知識や経験を有していたものと認められる。また,上記1イ(イ)で認定のとおり,原告及び訴外Aは,被告との交渉を進める前に,他の複数のコンビニエンス・ストアに対しても,開店予定の店舗についての問い合わせをしているのであるから,コンビニエンス・ストアの経営について強い関心を抱いていたことが推認できる。

さらに,上記1イ(オ)で認定のとおり,訴外Bは,本件各競合店やY五橋店の存在を意識していたことに照らせば,本件店舗を開店したとしても,訴外Cが説明した商圏の顧客を容易に全て取り込めるものではないこと及び上記の各競合店等の影響により本件店舗の売り上げが伸びない可能性があることを十分に予想することができたと考えられる。

そもそも,フランチャイジーは,単なる消費者とは異なり,自己の経営責任の下に事業による利潤の追求を企図するものであることに照らせば,最終的には自己の判断と責任において契約の締結を決断すべき立場にあるといえる。

以上の検討に加え,本件記録に表れた一切の事情を併せ考慮すれば,過失相殺により,上記(2)で認定した損害額の5割を減額するのが相当である。

(4)  損益相殺

上記(1)ウで認定のとおり,原告は,本件店舗開店時における商品代金を支払ったものの,その対価として367万4858円分の商品を取得したことが認められるから,商品相当額を損害と評価することは相当でない。

したがって,商品相当額367万4858円を損害額から控除するのが相当である。

(5)  総括

以上によれば,本件における損害額は76万0142円であると認められる。

3  争点(3)について

(1)  前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の各事実が認められる。

ア 本件店舗の開店後の状況

(ア) 本件店舗の品揃え状況[乙16]

① 平成16年9月27日午後5時17分から午後6時23分

パン,サンドイッチ及び弁当については,商品がほとんどない棚もあり,商品がある棚も置かれている商品の個数が少ないため,全体的に品薄感がある。

飲み物は概ね充実しているが,デザートについては,商品がほとんどない棚があるため,全体的に品薄感がある。また,アイスについても同様に商品がほとんどないボックス内の仕分けがあるため,全体的に品薄感がある。

② 平成16年10月18日午後4時56分から午後5時38分

弁当,パスタ及びデザートについては,商品がほとんどない状態の棚もあり,商品がある棚も置かれている商品の個数が少ないため,全体的に品薄感がある。

パン,サンドイッチ及びおにぎりについては,商品がない棚が目立っており品薄感が強い。特に,パンは,棚の下半分に商品がない状態である。

③ 平成16年10月21日午後4時23分から午後4時24分

パン,サンドイッチ及びおにぎりについては,商品がほとんどない状態の棚もあり,商品がある棚も置かれている商品の個数が少ないため,全体的に品薄感がある。

パン,パスタ及びデザートについては,商品がない棚が目立っており,商品がある棚も置かれている商品の個数が少ないため品薄感が強い。

プリン,ヨーグルト及び飲み物については,概ね充実している。

④ 平成16年10月25日午前11時27分から午前11時28分

パン,サンドイッチ及びおにぎりについては,ところどころに商品の欠損が見られるものの,概ね充実している。

弁当については,商品は一応陳列されているものの,商品の欠損が目立ち,品薄感がある。

⑤ 平成16年11月15日午後5時50分から午後5時53分

アイスについては,商品がほとんどないボックス内の仕分けがあるため,全体的に品薄感がある。

パンについては,商品は一応陳列されているものの,商品の欠損が目立ち,品薄感がある。

⑥ 平成16年12月18日午後5時12分から午後5時13分

弁当については,商品は一応陳列されているものの,商品の欠損が目立ち,品薄感がある。

サンドイッチ及びおにぎりについては,商品の個数が少ないため品薄感がある。

サラダ及びパスタについては,ところどころに商品の欠損が見られるものの,概ね充実している。

(イ) 本件店舗の経営方針等

訴外Aは,被告本部が加盟者に対して用意したオペレーションマニュアル(乙6)及びKトレーニングマニュアル(乙7)に一切目を通しておらず,これまでの自己の経験に基づいて,本件店舗の経営につき,訴外Bに対して,意見ないしアドバイスをしていた[証人A21頁,同23頁,弁論の全趣旨]。

訴外Aは,本件店舗の売り上げが少ないまま30万ないし40万円の廃棄を出すことになれば,店舗経営が成り立たなくなると考え,被告本部との間で,経費は必要な点だけに絞りたいと何度も話し合いをした[証人A20頁]。

訴外Aは,訴外Bに対し,売り上げに見合った行動をしなければならないと説明した。訴外Bは,本件店舗における不良品の額を具体的に認識しておらず,実質的には訴外Aの意向で,平成16年9月には約59万円であった不良品の額が,平成16年10月以降は20万円台まで圧縮された。[甲9の2,甲9の3,証人A22頁,証人B11頁,弁論の全趣旨]

(ウ) 本件契約と関連する契約等

訴外Bは,平成16年8月26日,訴外○○警備保障株式会社との間で,遠隔地画像監視システム(非常通報システム)及び事故確認時における関係先への通報・連絡及び報告を内容とする警備請負契約を締結した。同契約の契約期間は平成16年8月31日から平成21年8月30日の5年間,請負代金は毎月1万5500円(別途消費税775円)である。[甲4]

訴外Bは,平成16年8月30日,訴外綜合警備保障株式会社を取扱店として,訴外○○株式会社との間で,カラーカメラ4台,○○カメラ2台,デジタルビデオ1台,4分割マルチユニット1台及び15型テレビデオ1台についてリース契約を締結し,上記各リース物件を本件店舗に設置した。上記リース契約のリース料は,毎月1万3000円である。[甲3,弁論の全趣旨]

イ 本件店舗に対する被告の援助

本件店舗は,開店から半年の間,不良品等の原価が20万円台であった[甲9の4,証人C22頁]。

コンビニエンス・ストアの経営においては,開店してから半年間は,顧客を定着させるために,不良品等を原価で40万円以上出す必要があるとされている。被告は,本件店舗の経営は,上記のように商品の廃棄を伴うことから,援助金として販売補填費を出しており,その合計は54万6113円である。[甲9の7,証人C23頁]

被告担当者は,訴外Bに対し,本件店舗の開店時から,商品をもっと発注するように繰り返し指導していた[証人B11頁]。

被告本部は,年4回の棚卸し費用を全額負担した[証人C23頁]。

ウ 本件契約が解約されるに至った経緯

被告担当者は,平成16年12月頃,原告に対し,本件店舗の売り上げが上がらない理由は,被告の支援にも関わらず,それに応えようとせず,利益を出すような努力をしていないことにあるのであって,きちんとした店経営を行う意思がないのであれば,文書で解約申入れをすべきであるといった趣旨の発言をした[弁論の全趣旨]。

原告,訴外A及び訴外Bは,平成17年2月12日,被告本部に対し,売り上げが伸びないにも関わらず被告本部からのアドバイスがないこと,今後も売り上げが改善する見通しが立たないこと等を理由にして,本件契約の解約を申し入れるとともに,1000万円の損害賠償を請求した[甲5]。

訴外Aは,上記解約の申入れから約10日後,被告本部に赴いたところ,訴外Cからフランチャイズ契約覚書を手渡された。同覚書には,原告が被告に対してKチャージの平均月額の4か月相当額を支払うこと,被告が本件店舗の営業終了後に在庫商品を適正額で買い受けること等の内容が記載されていた。[甲6,弁論の全趣旨]

原告,訴外A及び訴外Bは,平成17年2月26日,被告本部に対し,上記解約の申入れの白紙撤回を申し入れたが,被告本部は上記白紙撤回の申入れを受領しなかった[甲7,弁論の全趣旨]。

訴外Cは,訴外Bに対し,平成17年2月28日に棚卸しするように伝えた。訴外Bは,訴外Aに対し,同日に棚卸しを行うことを伝えたところ,訴外Aは,同日の棚卸しに立ち会った。[証人A24頁]

本件契約は,平成17年2月28日,訴外Bの申し入れにより終了した[乙14]。

被告は,平成17年5月6日,原告に対し,本件契約の終了に伴う清算金2万4116円を請求した[甲8]。

(2)  検討

ア 総論

原告は,本件契約43条(2)②に定める「重大な不信行為」が被告側にあったことを理由として本件契約の解除を主張し,本件契約44条(1)に基づき,Kチャージの平均月額の12か月分相当額についての支払いを請求している。

そこで,「重大な不信行為」の具体的な意義が問題になるところ,フランチャイズ契約が,当事者間の信頼関係を基礎とした継続的法律関係であることに照らせば,契約当事者間の信頼関係が破壊され,契約を今後継続していくことが困難である場合に,「重大な不信行為」があったと評価すべきである。

以下,本件で問題となっている各項目につき,上記「重大な不信行為」の有無を個別に検討する。

イ 売上の低迷及び日販の拡大についての対策(争点(3)ア)

上記(1)イで認定のとおり,被告は,本件店舗に対し,開店から半年間は顧客を定着させるために積極的な商品発注を行い,廃棄を多く出す必要があることから,販売補填費を援助していた。また,被告担当者も,訴外Bに対し,積極的に商品を発注するように繰り返し指示をしていた。

しかしながら,本件店舗は,上記(1)ア(ア)で認定のとおり,午前11時台や午後5時台といった最も食品類が売れると思われる時間帯であっても品薄感が目立つ状態であり,上記のような品薄感が原因となって顧客を獲得できなかった可能性が高い。そして,上記の品薄感を招いた原因は,上記(1)ア(イ)で認定のとおり,訴外Aの意向によって,廃棄品をできる限り少なくするような商品発注を行っていたことにあると考えられる。

以上の事情を総合考慮すれば,本件店舗の売り上げが,売上予測を大幅に下回った原因は,第一次的には,原告側の経営方針や商品発注に対する態度等にあるといえるのであって,被告に「重大な不信行為」があったとは認定できない。

なお,原告は,訴外Cが旧店舗の売上実績及び本件店舗の売上予測についての合理的な算定根拠を開示しなかったことに加え,実際の日販は20万円台にとどまったにも関わらず,訴外Cは本件契約締結時に日販43万円は間違いないと発言したことが,「重大な不信行為」に該当するとも主張する。しかし,本件契約43条(2)①に定められている解除事由は,いずれもフランチャイズ契約締結後に生じた事情であることに鑑みれば,同一条文に定められている「重大な不信行為」も,同契約締結後に生じた事情を指しているものと解すべきである。しかるに,原告の上記主張は,いずれも同契約締結前の事情を理由とするものであるから,主張自体失当と言わざるを得ない。

ウ 開店1か月後に生じた15万円の商品の欠損(争点(3)イ)

原告は,本件店舗が開店してからの1か月間で,15万円の商品の欠損が生じたところ,これはそもそも商品の一部が納入されていなかったことが原因であると主張するが,本件記録を精査しても,上記主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって,原告の主張には理由がない。

エ 店内監視用カメラのリース契約及び警備請負契約(争点(3)ウ)

原告は,本件店舗の売り上げが上がらないことから,本件各警備契約を解消してもらえるように,被告に取りなしを依頼したところ,被告はそれには応じず,むしろ,警備会社と一緒になって警備代金を請求するとともに,被告担当者が,利益が上がらないなら本件契約を解約しなさいと訴外Aに対して発言したことは,本件契約23条1項①に違反すると主張する。

しかしながら,上記(1)ア(ウ)で認定のとおり,訴外Bは,本件各警備契約を締結しているのであるから,警備会社に対してその代金を支払うことは当然である。また,被告担当者が,原告に対して,本件契約を解約しなさいと発言した趣旨には,原告が利益を出すような努力をしていないことに対しての指導的な意味合いも含まれていたと考えられるのであって,上記発言により,直ちに信頼関係が破壊され,契約を継続していくことが困難になるものではない。

以上の事情を総合考慮すれば,被告に「重大な不信行為」があったとは認定できない。

オ 月次引出金及びオープンアカウント債務に関する説明(争点(3)エ)

原告は,被告が十分に月次引出金及びオープンアカウント債務に関する説明をしなかったと主張するが,本件記録を精査しても,上記主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって,原告の主張には理由がない。

カ 総括

以上の検討によれば,被告に,本件契約43条(2)②に定める「重大な不信行為」があったとは認められない。したがって,本件契約43条(2)②に基づく解除は認められないことから,本件契約44条(1)に基づく損害賠償請求には理由がない。

なお,本件契約43条(2)②に基づく解除をするためには,文書による催告が必要とされているところ,本件記録を精査しても,原告は,文書による催告を主張していないから,この点からすれば,原告の主張は,主張自体失当であるといえる。もっとも,フランチャイズ契約が継続的法律関係であることに照らして,著しい信頼関係の破壊があったと認められる場合には,解釈上,無催告での本件契約43条(2)②に基づく解除が認められる余地がないではないが,本件については,原告が本件契約の解約申し入れを撤回しようとしたこと及び被告が本件店舗の運営に関して様々な指導及び援助をしていたことに加え,本件記録にあらわれた一切の事情を併せ考慮すれば,原告と被告の間に,著しい信頼関係の破壊があったとまでは認められない。

また,これまでの検討及び本件記録にあらわれた一切の事情を併せ考慮すれば,本件において,民法上の債務不履行に基づく解除ないし本件契約40条もしくは同43条(1)に基づく解除が認められないことは明らかである。

4  結論

以上検討したところによれば,原告の主張は,76万0142円及びこれに対する平成18年10月20日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由があるからこれを認容し,その余の請求については理由がないからこれを棄却し,訴訟費用の負担について民訴法64条本文,同法61条を各適用の上,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沼田寛 裁判官 安福達也 裁判官 佐藤雅浩)

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