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仙台地方裁判所 平成18年(ワ)59号 判決 2009年2月26日

主文

1  被告Oは,原告Aに対し,金40万円を支払え。

2  被告Oは,原告Bに対し,金40万円を支払え。

3  被告Oは,原告Cに対し,金40万円を支払え。

4  被告Oは,原告Dに対し,金46万1380円を支払え。

5  被告Oは,原告Eに対し,金150万円を支払え。

6  原告A,原告B,原告C,原告D及び原告Eの被告Oに対するその余の請求,同原告らの被告Rに対する請求,原告A,原告B,原告C,原告E及び原告Fの被告Pに対する請求並びに原告A及び原告Dの被告Qに対する請求を,いずれも棄却する。

7  訴訟費用は,原告Aと被告らとの間においては,原告Aに生じた費用の12分の1と被告Oに生じた費用の3分の1を被告Oの負担とし,原告A及び被告Oに生じたその余の費用と被告R,被告P及び被告Qに生じた費用を原告Aの負担とし,原告Bと被告O,被告R及び被告Pとの間においては,原告Bに生じた費用の9分の1と被告Oに生じた費用の3分の1を被告Oの負担とし,原告B及び被告Oに生じたその余の費用と被告R及び被告Pに生じた費用を原告Bの負担とし,原告Cと被告O,被告R及び被告Pとの間においては,原告Cに生じた費用の15分の2と被告Oに生じた費用の5分の2を被告Oの負担とし,原告C及び被告Oに生じたその余の費用と被告R及び被告Pに生じた費用を原告Cの負担とし,原告Dと被告O,被告R及び被告Qとの間においては,原告Dに生じた費用の6分の1と被告Oに生じた費用の2分の1を被告Oの負担とし,原告D及び被告Oに生じたその余の費用と被告R及び被告Qに生じた費用を原告Dの負担とし,原告Eと被告O,被告R及び被告Pとの間においては,原告Eに生じた費用の18分の1と被告Oに生じた費用の6分の1を被告Oの負担とし,原告E及び被告Oに生じたその余の費用と被告R及び被告Pに生じた費用を原告Eの負担とし,原告Fと被告Pとの間においては,原告Fの負担とする。

8  この判決は,第1項から第4項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  第1事件

(1)  原告Aと被告Pとの間で平成16年2月ころ締結した立替払契約に基づく原告Aの被告Pに対する金389万1600円の立替金支払債務が存在しないことを確認する。

(2)  原告Aと被告Qとの間で平成16年2月ころ締結した立替払契約に基づく原告Aの被告Qに対する金87万6300円の立替金支払債務が存在しないことを確認する。

(3)  原告Bと被告Pとの間で平成16年2月ころ締結した立替払契約に基づく原告Bの被告Pに対する金484万2105円の立替金支払債務が存在しないことを確認する。

(4)  原告Cと被告Pとの間で平成16年2月ころ締結した立替払契約に基づく原告Cの被告Pに対する金470万円の立替金支払債務が存在しないことを確認する。

(5)  原告Dと被告Qとの間で平成16年2月ころ締結した立替払契約に基づく原告Dの被告Qに対する金68万6226円の立替金支払債務が存在しないことを確認する。

(6)  被告R及び被告Oは,原告Aに対し,各自,金120万円を支払え。

(7)  被告R及び被告Oは,原告Bに対し,各自,金120万円を支払え。

(8)  被告R及び被告Oは,原告Cに対し,各自,金100万円を支払え。

(9)  被告R及び被告Oは,原告Dに対し,各自,金116万1380円を支払え。

2  第2事件

(1)  原告Eと被告Pとの間で,原告Eを購入者,被告Pを割賦販売斡旋業者として平成16年4月に締結した,原告Eが販売業者被告Rとの間で平成16年4月に締結したキャラバン・スーパーロングHRの売買契約の売買代金を目的とする立替払契約に基づく,原告Eの被告Pに対する金452万8000円の支払債務が存在しないことを確認する。

(2)  原告Fと被告Pとの間で平成16年4月に締結した連帯保証契約に基づく,原告Fの被告Pに対する金452万8000円の保証債務履行債務が存在しないことを確認する。

(3)  被告Rは,原告Eに対し,金835万5520円及びこれに対する平成18年4月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  第3事件

被告Oは,原告Eに対し,金835万5520円及びこれに対する平成18年1月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は,メロンパンの移動型パン販売業を開始するにあたり,被告Oとの間でフランチャイズ契約の一種である賛助会員契約を,被告Rとの間で販売業に使用する車両(以下「販売車両」という。)の購入契約を,被告Pないし被告Qとの間で販売車両の購入代金について立替払契約を,それぞれ締結した原告ら(原告Fを除く。)及び原告Eの被告Pに対する債務を保証した原告Fが,被告Oにおいて賛助会員契約に基づく債務の不履行があること,又は,販売車両の売買契約が錯誤無効ないし詐欺により取消し得べき契約であること,若しくは,賛助会員契約・販売車両の売買契約が特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)上の業務提供誘引販売取引に該当するとして同法上のクーリングオフないし取消権の行使が可能であること等を主張して,被告P及び被告Qに対しては,債務不存在の確認を求め,被告O及び被告Rに対しては,加盟金の返還ないし損害賠償の支払を求めた事案である。

2  前提事実

当事者間に争いのない事実のほか,証拠(事実ごとに後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  被告ら

ア 被告Oは,パンの製造販売等を目的として平成16年3月に設立された企業組合であり,Gはその代表理事である(争いなし)。

イ 被告Rは,自動車およびモーターボートの修理,販売等を目的とする株式会社であり,その本店所在地は,広島県福山市である(争いなし)。

ウ 被告Pは,割賦販売斡旋業等を目的とする株式会社である(争いなし)。

エ 被告Qは,割賦販売斡旋業等を目的とする株式会社であり,平成17年10月1日に,商号をS株式会社から現在の商号に変更した(争いなし)。

(2)  Gは,平成15年7月ころ,大阪で行われていた移動販売車によるメロンパン販売事業に関心を持ち,仙台において,メロンパン販売事業を展開することを考え,知人を介して,メロンパン販売の経営コンサルタントも行っていた訴外有限会社T(以下「訴外T」という。)に相談した。

当時,訴外Tは,被告Rを移動販売車両の販売元として,また,訴外U株式会社(以下「U」という。)をパン生地の販売元として,全国各地に,「メロンちゃん」の名称でパンの製造販売を行う企業組合を立ち上げる計画を進めていた。

Gは,訴外から,企業組合制度の説明を受けて,宮城県内で企業組合を立ち上げることを勧められ,企業組合を設立しメロンパンの販売事業をフランチャイズ展開することを決意した。

その後,Gは,訴外Tの協力を得ながら,被告Oを設立し,その代表者となった(以下,同代表者としてのGを「G」という。)(以上の事実についてG)

(3)  原告A,同B,同C,同D,同E(以下,「原告Aら」という。)は,それぞれ,別紙2「賛助会員規約」を内容として,別紙3「賛助会員契約一覧表」のうち「契約日」欄ないし「加盟金」欄記載の時期に,被告Oとの間で賛助会員契約を締結し,同被告に対し加盟金50万円を支払い,別紙4「販売車両の購入契約一覧表」のうち「契約日」欄記載の時期に,被告Rとの間で販売車両の購入契約を締結した(原告らと被告O及び被告Rとの間においては,争いがなく,原告らと被告P及び被告Qとの間においては,別紙3及び4の一覧表に掲記した各証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる。)。

原告Aらが購入した販売車両の購入代金については,別紙4「販売車両の購入契約一覧表」のうち「購入代金と内訳」欄記載のとおりであり,原告Aらは,購入代金の全部又は一部について,別紙5「立替払契約一覧表」のうち「信販会社」欄,「締結日」欄,「立替の対象」欄及び「支払条件」欄各記載のとおり,被告Pないし被告Qとの間で,立替払契約を締結した(争いがない)。

(4)  原告Aらは,それぞれ,別紙3「賛助会員契約一覧表」及び4「販売車両の購入契約一覧表」のうち「契約解消の意思表示」欄記載の日に,被告Oに対しては賛助会員契約を,被告Rに対しては販売車両の売買契約を,それぞれ解除ないし取り消すとの意思表示をした(争いがない)。

(5)  被告Pは,原告A,同B,同C,同E及び同Fに対し,また,被告Qは,原告A,同Dに対し,別紙5「立替払契約一覧表」記載の各立替払契約に基づいて,同別紙のうち「原告らの請求」欄に記載の額について,債権を有すると主張し,原告らは,これを争っている(顕著な事実)。

3  争点

(1)  被告Oには,原告Aらに対する賛助会員契約上の債務不履行があるか。

(2)  仮に(1)の債務不履行があるとした場合,原告Aらは,それに基づき被告Rとの間の売買契約を解除できるか。

(3)  原告Aらは,被告Rとの間の売買契約を詐欺を理由として取り消すことができるか。また,同契約について錯誤を理由とした無効を主張できるか。

(4)  賛助会員契約・販売車両の売買契約が,特商法上の業務提供誘引販売取引に該当するか。

(5)  法定追認の成否

(6)  原告らの被告P及び被告Qに対する債務の存否

(7)  本件賛助会員規約6条(配当又は繰越),7条(配当の方法),9条(脱会)について,規約と異なる扱いをする旨の合意があったか。

(8)  損害の発生とその数額

4  当事者の主張

(争点(1)-被告Oには,原告Aらに対する賛助会員契約上の債務不履行があるか-について)

(1)  原告らの主張

賛助会員規約3条によれば,被告Oは,原告Aらに対し,パンの販売に関する業務に関して,色々な側面で賛助組合員をサポートする義務(以下「サポート義務」という。)を負っているところ,以下のとおり,債務不履行の事実があり,原告Aらによる解除の意思表示は有効である。

ア 有力な販売先を開拓する義務の違反

(ア) 賛助会員規約3条によれば,被告Oは,サポート義務の一内容として,原告Aらに対し,有力な販売先を開拓する義務を負っている(以下「販売先開拓義務」という。)。

Gは,原告Aらに対し,それぞれ,各賛助会員契約の締結に際して,販売先については,被告Oの方で確保しており,今後も増やしていくので,心配いらないこと,賛助会員が自ら販売先を開拓することは構わないことを説明していた。

(イ) 被告Oは,原告Aらに対し,原告Aらがメロンパン販売事業を開始した平成16年3月ころは,販売先を提供していたが,平成16年5月ころ以降,「販売先は,賛助会員が開拓するのが基本姿勢です」「皆さん,甘えすぎです」等と規約に反する説明をし,販売先を増やすことはなく,原告Aらに対し,販売先を提供することを全くしなくなった。

イ 手作りパン生地を供給する義務の違反

(ア) 賛助会員規約3条によれば,被告Oは,サポート義務の一内容として,原告Aらに対し,パンの生地,包装資材等パンの販売経営に関して必要不可欠な商品ないし資材を全量供給し,商品の品質,商品の内容に関して,責任を負っている。特に,メロンパン生地に関しては,被告Oは,原告Aらとの合意により,広島にあるパン製造会社である株式会社V(以下「V」という。)が製造した手作りによるパン生地(以下,単に「Vの生地」という。)を供給すべき義務を負っている(以下「パン生地等の供給・品質保持義務」という。)。

(イ) 被告Oは,原告Aらの了解を得ることなく,パン生地の製造工程を手作りから機械生産に変え,パン生地の品質についても,平成16年5月ころまでは,Vの生地を供給していたが,同年6月ころからは,同生地の他に,それよりも品質の落ちるUの生地をも供給するようになり,同年11月ころには,更に品質の落ちた生地を供給するようになった。

原告Aらを始めとする賛助会員は,被告Oに対し,幾度となく,パン生地の品質に関するクレームを申し入れたが,一時的に品質が改善されることがあったものの,2週間程度もすればすぐにパン生地の品質が悪化するということの繰り返しであって,被告Oが依頼したという業者による対応は,全く不十分なものであった。

以上のとおり,被告Oは,手作りパン生地の供給を中止した上,メロンパン販売事業に適したパン生地を供給せず,パン生地の改良をUに申し入れたり,仕入先の変更を検討したりすることなく,漫然と,賛助会員からのクレーム対応をUに委ねただけであって,パン生地等の供給・品質保持義務を履行しなかった。

ウ 収益を確保させる義務の違反

(ア) Gは,原告Aらに対し,賛助会員の募集に際し,①売上については,1日700個から1000個,10万円前後の売上があること,②販売車両の購入ローンについては,6か月で支払が終わることを説明していた。

したがって,被告Oは,サポート義務の一内容として,原告Aらに対し,少なくとも,1日あたり10万円前後の売上が達成されるようにサポートする義務を負っている(以下「収益支援義務」という)。

(イ) 原告Aらは,実際には,1日あたり10万円前後の売上を確保することができず,原告Aらの収益は激減していた。しかるに,被告Oは,原告Aらの収益を増加させるための支援を何ら行わなかった。

エ 付随的合意の違反

(ア) 被告Oは,原告Aらに対し,各賛助会員契約の締結の際,販売車両の台数に関し,「5,6台より増加させない」,「あなたが最後ですよ」と説明していた。

したがって,被告Oは,原告Aらに対し,原告Aらが賛助会員となった後は,他に賛助会員を増加させない義務を負っていた(以下「販売車両台数の調整義務」という。)。

(イ) それにもかかわらず,被告Oは,販売車両を増加させ,最多時においては,14台にまで増加させ,上記の販売車両台数の調整義務に違反した。

(2)  被告Oの主張

ア 販売先開拓義務について

(ア) Gは,原告Aらに対し,賛助会員契約を締結する際に,「販売先の開拓については,各賛助会員が行うのが基本である,最初は,賛助会員が独自に 探すのは大変だろうから,組合の方で場所を提供するが,ゆくゆくは,各賛助会員において,販売先を確保すべきであること」等を説明していた。

したがって,賛助会員規約3条に定めている,有力な販売先の開拓に関する被告Oの責任は,主として,各賛助会員がメロンパン販売事業を開始したころにおける援助を意味するものであって,その後も継続的に販売先を開拓する責任を負うことを意味するものではない。

(イ) 被告Oは,原告Aらに対し,メロンパン販売事業の開始当時には販売先を提供しており,それからしばらくすると,各自が販売先を確保するようになったため,被告Oから販売先を提供する回数を減らした。

(ウ) さらに,原告A,同B及び同Cは,自ら,福島県内に企業組合を立ち上げる計画を進めており,被告Oに対して,販売先は,自分たちで探すので提供してくれなくても良い旨を伝えた。

イ パン生地等の供給・品質保持義務について

(ア) Gは,原告Aらに対し,賛助会員契約を締結する際に,「パン生地は組合で作っているわけではなく,業者が作っており,出来上がって冷凍されたものを仕入れること」,「組合で作っているわけではないので,生地に何かあった場合でも,組合としてはどうすることもできないが,すぐに業者に連絡し対応させる」旨を説明した。

したがって,賛助会員規約3条に定めている,商品品質や商品の内容に関する被告Oの責任は,生地の品質に問題が発生したような場合には,パン生地の製造業者に対応させるという限度のものである。

また,今後も引き続きVの生地を仕入れることを約束したわけではない。被告Oの責任は,手作りのパン生地を使用する前提でパン生地を供給するとの内容ではなく,通常の品質を備えた生地を供給するという限度の内容である。

(イ) 被告Oが仕入れていたパン生地は,当初は,上生地及びパン生地の製造並びに成型の全てをVが行っていたが,その後,Uが,段階的に,成型を行うようになり,さらに上生地の製造をも行うようになり,最終的にはUが生地の製造の全工程を行うようになった。

このように,被告Oの仕入れる生地の製造が,VからUへと段階的に移行していったのは,全国的にメロンパンの売上数が伸びたことにより,規模が小さくかつ完全に手作業で製造するVでは需要に応じきれなくなってしまい,そのままでは賛助会員らの営業に支障をきたすおそれがあったからであった。

また,Vの生地は,手切りにより分割していたため,均一性が確保されにくいという問題もあった。

仕入れる生地の移行は,このような理由に基づいて行われたものであり,かかる移行は,賛助会員らの利益に適った合理的な理由に基づく変更であった。

(ウ) Uは,Vの生地と同程度の品質を保つため,Vの代表取締役であるHの指導監修の下,工場設備,製造ライン及び製造工程の設定を行ったほか,Vと同じ原材料の使用及び配合を行い,Hによる試食を経て生地を出荷していた。

原告Aらの売上が減少したのが事実であったとしても,その背後には,流行の陰りや競業他者の進出等,複雑な要因が絡み合っていたのであって,Uの生地の品質が悪いために原告Aらの売上が減少したわけではない。

(エ) 被告Oは,原告Aらを含む賛助会員から生地についてのクレームが出るようになってからは,合計約10回,Uの担当者3,4名を仙台に呼び,生地に関する説明を行ってもらったり,焼き方等の指導を行ってもらうように手配した。

ウ 収益支援義務について

(ア) Gは,原告Aらに対し,それぞれ,各賛助会員契約の締結に際して,売上及び収益に関する情報として,1日にメロンパンが700個売れたと仮定した場合のシミュレーションを説明した。当時Gは,メロンパンの売上は,天候や販売先によって異なり,また,たとえ同じ販売先であっても各賛助会員の販売力によって大きく異なることを認識していたので,原告Aらに対しては,このような認識も含めて説明した。

Gが,原告Aらに対し,「1日700個ないし1000個,1日10万円前後の売上がある」「6か月で,販売車両の購入代金に関するローンの支払が終わる」といった説明をしたことはなく,まして,売上及び収益を保証するような説明はしていない。

したがって,被告Oは,原告らが主張するような収益支援義務を負ってはいない。

(イ) 被告Oは,原告Aらが,メロンパン販売事業を開始するに際して,同人らに対し研修を行い,メロンパンの焼き方等に関する資料を配付したほか,被告Oの人間が数日間にわたって原告Aらと同じ販売車両に付き従い,メロンパンの焼き方等に関する指導を行っていた。

エ 付随的合意について

Gは,宮城県においてメロンパン販売事業を展開する場合,その人口数などを勘案して,販売車両の台数は10台から15台が限界であろうと考えていた。

そのため,メロンパン販売事業を希望する人に対しては,販売車両の台数については,10台から15台を考えている旨伝えていたのであって,「5,6台としてそれ以上増加させない」や「あなたで最後です」などといった説明をしたことはなかった。

したがって,被告Oは,原告Aらに対し,原告らが主張する販売車両台数の調整義務を負っていなかった。

オ 小括

よって,原告らの債務不履行を理由とする解除の主張については,解除の効力を争う。

(争点(2)-仮に(1)の債務不履行があるとした場合,原告Aらは,それに基づき被告Rとの間の売買契約を解除できるか-について)

(1)  原告らの主張

ア 被告Rが行った「メロンちゃん」の商標登録の内容や,被告Rのホームページにおける「メロンちゃん」の説明内容に照らせば,「メロンちゃん」とは,移動販売車によるメロンパン販売事業を意味するものと解釈できる。

すなわち,被告Rは,メロンパン販売事業に関して,単なる販売車両の販売業者である以上に,同事業を中核として統括する会社である。

イ 被告Rは,「メロンちゃん」との名称で販売車両によるメロンパン販売を全国的に展開している株式会社であり,被告Oは,仙台における「メロンちゃん」の販売拠点となっている企業組合である。

すなわち,被告Rは,販売車両によるメロンパン販売事業のトップ組織であり,被告O等を各地における営業拠点としており,その内実において営業支店と何ら異なるところはない。被告Oが被告Rの協力なくして事業運営できないという意味で,両者の間に支配関係が存したことは明らかである。

これらを,形式的に別人格として捉え,被告Oに債務不履行があったとしても,被告Rと原告Aらとの間の売買契約はその影響を受けないとすることは,原告らの合理的意思に反し,一方で原告らにとっては著しく不利益であり,他方で被告Rを不当に利するものであって,信義に反する。

被告Rと被告Oとの法人格を別個とみることは,明らかに法人格の濫用であって,両者は,いわゆる法人格否認の法理に基づき,同一の法人格を有するものである。

ウ 被告Rにおける「メロンちゃん」事業と被告Oにおけるメロンパン販売事業とは,ある統一された事業目標及び規律の下で展開されてきたはずであり,かかる意味において,被告Oは,被告Rの営業代理店であったと考えるべきである。

したがって,販売車両の売買契約の契約主体はもちろん,賛助会員契約の契約主体も被告Rであったというべきであって,被告O側に債務不履行があったということは,契約主体である被告Rの債務不履行を構成するというべきである。

エ 販売車両の売買契約と賛助会員契約とは,前者が後者を前提として成立しているという意味において,密接不可分な関係にあり,いずれかの債務が履行されるだけでは契約を締結した目的が全体としては達成されない関係にあるというべきである。

実際,原告Aらにとって,メロンパン販売事業を行うにあたり,被告Rから販売車両を購入するより他に術はなかった。

このような密接不可分な2つの契約については,一方に債務不履行を原因とする解除事由があれば,他方の契約も併せて解除できるというべきである。

(2)  被告R,被告P及び被告Qの主張

ア 被告Rの業務内容等

被告Rは,新車・中古車の販売を主軸にしながら,福祉車両等の各種特殊車両の製造・販売等も行う車両販売業者であり,事業内容は,車輌事業部,福祉車輌事業部,特販部,サービス事業部の4つからなる。

販売車両は,被告Rが市販車両にパン焼き設備等を登載する等して製造した移動販売車であり,通称「メロンちゃん」として被告Rが販売しているものである。被告Rでは,平成15年11月ころから,販売車両を販売しており,これまで累計150台以上の販売実績がある。

なお,被告Rが「メロンちゃん」を商標登録した経緯は,パンであれサンドイッチであれ,何らかの商品を「メロンちゃん」との名称で第三者が路上で販売すると,被告Rの「メロンちゃん」との呼称で販売している移動販売車で作られた商品であるとの誤解を受け,移動販売車自体のイメージが毀損するのを防ぐためであった。

また,被告Rのホームページは,あくまでも販売車両の購入者を募るためのものである。

イ 各企業組合と被告Rとの関係

販売車両を購入した各事業者(以下,メロンパン販売事業を営む者を総称して,「メロンパン販売事業者」という。)は,メロンパンの生地を仕入れ,仕入れたパン生地を乗せて,販売車両を人の集まりそうな場所へ移動させ,移動先でメロンパンを焼いて,不特定多数の顧客にメロンパンを販売する。

ここに,パン生地の仕入等はメロンパン販売事業者が個別に手配するよりも,組合を利用して一括手配する方が便宜でコストも抑えられる。また,集客の見込める場所に関する情報についても,メロンパン販売事業者が個別に開拓するだけでなく,組合によるサポートを得る方が効果的である。

このような理由から,全国でメロンパン販売事業者のための企業組合が組成されている。各企業組合は,それぞれ独立しており,組合規約等は各企業組合において個別に作成されている。

被告Rは,あくまでも,販売車両の製造・販売のみを行っているにすぎず,各企業組合における内部規律や活動内容等の詳細を知らない。

ウ 被告Rにおける販売車両の販売事務

被告Rと各企業組合との間で,販売車両の販売に関して,何らの協定や合意はない。

各企業組合から,販売車両の購入希望者の紹介を受ける場合でも,各企業組合からは,購入希望者の氏名,連絡先等を確認するのみで,購入希望者の購入動機や企業組合と購入希望者とのやりとり等を聞くことは一切ない。

被告Rが,購入希望者を紹介した各企業組合に対して名目のいかんを問わず,マージンを渡すことも一切ない。

エ 法人格否認について

被告Rは,被告Oの組合員でも理事その他の役職員でもなく,被告Rの役職員が被告Oの役職員を兼務していることもない。加えて,被告Rと被告Oとの間に何らの資本関係もないのであるから,両者の間に,およそ支配的地位は存しない。

また,被告Rにおける販売車両の売上高は,全体の約1割であり,残る9割のほとんどの業務は,被告Oと一切関係のないものである。

したがって,原告らの法人格否認に関する主張は争う。

オ 営業代理店について

原告Aらは,被告Oとの間で賛助会員契約を締結しており,同契約書上も,契約主体が被告Oであることが明示されており,被告Rが契約主体でないことは明らかである。

被告Rは,賛助会員契約の策定,締結に一切関与しておらず,被告Rと被告Oとは,販売店と営業代理店との関係ではない。

カ 契約の密接関連性について

販売車両の売買契約において,賛助会員契約の締結を予定した条項は存しない。また,賛助会員契約の締結と販売車両の売買契約とは,それぞれ,別個に締結できるものであって,独自に契約を締結したとしても,その目的は達成できる。

したがって,販売車両の売買契約と賛助会員契約とは密接不可分の関係にはない。

キ 以上より,被告Oの債務不履行を理由として,販売車両の売買契約を解除することはできない。

(3)  被告Oの主張

被告Rと被告Oとが不可分一体の関係にあるという原告の主張は争う。(争点(3)-原告Aらは,被告Rとの間の売買契約を詐欺を理由として取り消すことができるか,同契約について錯誤を理由とした無効を主張できるか-について)

(1)  原告らの主張

ア 販売車両の購入契約に関して,原告Aらは,車両本体価格が190万円であり,その余の330万円は,車の付属品とオプション,諸費用及び消費税であって,諸費用の内訳については,発酵棚やオーブン,冷蔵庫との説明を受けた。

ところが,実際には,諸費用の中には,発酵棚やオーブン,冷蔵庫の他に,ボンベ,水タンク,発電機などの備品の代金,更には商標登録された「メロンちゃん」に関する権利料,開発料,工事料,生地開発料,保健所の許可申請手続に関する被告Rの社員の交通費及び人件費までも含まれていた。

イ 原告Aらは,販売車両の売買契約締結に際し,売買代金の内訳として,権利料,開発料,更には被告R社員の交通費及び人件費まで含まれているとの説明を受けていれば,このような費用を負担してまで販売車両の売買契約を締結することはなかった。

すなわち,販売車両の売買契約には,売買目的物の価値に関して,被告Rによる欺罔行為があり,原告Aらは,これにより誤信して,各販売車両の売買契約を締結したものである。

よって,原告らの詐欺を理由とする取消の意思表示は有効である。

ウ 原告Aらは,販売車両の売買契約の内容に関し,錯誤に陥っており,その錯誤がなければ,各販売車両の売買契約を締結していなかったし,そのような意思表示をしないことは一般取引通念に照らして相当と認められる。

よって,原告Aらによる各販売車両の購入の意思表示は,錯誤に基づいて無効である。

(2)  被告R,被告P及び被告Qの主張

ア 販売車両の購入代金額の内訳として,原告らが主張する権利料,開発料,人件費,交通費などは含まれていない。

イ 被告Rは,販売車両の購入希望者に対しては,車両の本体価格及びその他の改造費用等に関する詳細な内訳を示すため,必ず見積書を交付している。

本件においても,被告Rは,被告Oを通じて,原告Aらに対し,商品内容の詳細な内訳を示した見積書を交付し,売買対象となる商品内容の説明を行っている。同見積書によれば,ボンベ,水タンク,発電機等が内訳に含まれていたことは一目瞭然である。

したがって,被告Rが,商品内容に関して,原告Aらを欺罔したことはない。

ウ そもそも,原告らの主張は,それ自体失当である。

すなわち,原告らの主張によっても,原告Aらは,被告Rから,売買契約の対象物がメロンパンを焼く設備の付属された車であること,その商品代金総額が520万円であることの説明を受けており,少なくとも,車両本体と発酵棚,オーブン,冷蔵庫等の対価として520万円を支払うことに納得していた。むしろ,原告Aらは,車両本体に加えて,ボンベ,水タンク,発電機等の装置が付属されている旨の説明を受けていれば,より購入意思を強くしていたはずである。

売買契約において,売買代金の内訳を示す義務はなく,内訳を示さなかったことが黙示の詐欺になること自体ありえない。

したがって,被告Rが,ボンベ,水タンク,発電機等が付属しているとの説明を行わなかったことが欺罔行為にあたるとする原告らの主張は,それ自体失当である。

エ 仮に原告らの主張を前提としても,原告Aらは,メロンパン焼き設備が付属された車両を520万円で購入するとの認識を有していたものである。売買代金の内訳は,売買契約の要素ではない。

したがって,原告Aらには,何ら要素の錯誤はない。

仮に,原告Aらにとっては売買代金の内訳が契約の要素であり,原告Aらに要素の錯誤が認められるとしても,その動機は被告Rに表示されていない。

いずれにせよ,錯誤無効となる余地はない。

(争点(4)-賛助会員契約・販売車両の売買契約が,特商法上の業務提供誘引販売取引に該当するか-について)

(1)  原告らの主張

ア 原告Aらは,被告Oから,メロンパンの販売という業務に従事することにより一定の報酬が得られると勧誘され,その業務に従事するにあたって必要な商品として販売車両の購入を斡旋され,被告Rから販売車両を購入した。

賛助会員規約の内容からも明らかなように,メロンパン販売事業においては,必要不可欠な商品や資材については,被告Oから供給されるほか,販売先については,被告Oが指定し,有力な販売先を開拓することになっていたのであり,このような実態に鑑みれば,被告Oがあっせんした業務に従事することにより原告Aらが利益を得ることができるというシステムであったと評価すべきである。

すなわち,本件は,業務提供誘引販売業者である被告Oが,販売の目的物である車両を利用する業務に従事することにより得られる利益を収受しうることをもって原告Aらを勧誘し,原告Aらと販売車両の購入という特定負担を伴う,その商品のあっせんにかかる取引を行ったものである。

よって,本件は,特定商取引に関する法律(以下「特商法」という。)51条の業務提供誘引販売取引に該当する。

イ 業務提供誘引販売取引においては,契約書面を受領した日から20日間のクーリングオフが可能である。

ところで,本件では,原告Aらは,20日間をクーリングオフ期間とする旨を記載した契約書面の交付を受けていなかったのであるから,依然としてクーリングオフが可能であった。

よって,原告らの特商法58条に基づくクーリングオフの意思表示は有効である。

ウ 前記主張のとおり,被告Oは,原告Aらに対し,各賛助会員契約の締結に際して,有力な販売先を開拓すること,パン生地等の品質を保持すること,1日あたり10万円前後の収益があること,販売車両台数を増加させないこと等を説明していたところ,実際には,いずれの説明内容も事実に反する虚偽のものであった。

すなわち,被告Oは,原告Aらに対し,業務提供利益に関する事項について,不実の告知を行った。

よって,原告らの特商法58条の2に基づく取消の意思表示は有効である。

(2)  被告らの主張

ア 業務提供誘引販売取引への該当性について

(ア) 業務提供誘引販売取引とは,業務提供利益を収受しうることをもって顧客を誘引し,特定負担を伴う,商品の販売・あっせんまたは役務の提供・あっせんにかかる取引をいう(特商法51条1項)。

ここに,「業務提供利益」とは,「その商品又はその提供される役務を利用する業務(その商品の販売若しくはそのあっせん又はその役務の提供もしくはそのあっせんを行う者が自ら提供を行い,又はあっせんを行うものに限る。)に従事することにより得られる利益と定義されている。

すなわち,業務提供誘引販売業者が自ら提供又はあっせんする業務に従事することによって利益が得られるというシステムであることが要件となっている。これは,業務を提供またはあっせんすることにより,利益の収受が販売業者の影響下にあることとなり,「利益を収受しうる」という勧誘がそれだけ消費者に対する誘引力を高くするからである。

(イ) メロンパン販売事業においては,被告Oが,例えば「製造されたメロンパンは当組合で買い上げます」と自ら業務を提供することや,「製造されたメロンパンを購入するパン販売会社を紹介します」と業務のあっせんを行うことを説明していない。

したがって,販売車両の売買契約は,「業務提供利益を収受しうること」をもって顧客を誘引したものではない。

(ウ) よって,本件が,特商法51条に定める業務提供誘因取引に該当するとの主張は,争う。

イ 消費者保護規定の適用要件の欠如

(ア) 特商法が規定する消費者保護規定の適用要件として,「提供され又はあっせんされる業務を事業所その他これに類する施設によらないで行う個人」であることが必要である。

これは,事業所等に類する施設を設けて業務を行う場合は,たとえ業務提供誘引販売業者から提供される業務のみに従事する者であっても,消費者として保護する必要性が欠けるからである。

(イ) メロンパン販売事業においては,仮に原告らの主張を前提としても,移動式販売車両という施設を店舗さながらに路上に固定し,その施設の中でパンを製造して販売している。対顧客との関係でも,通常の店舗と同様に対面で販売している。

すなわち,メロンパン販売業務の主要部分は,販売車両の中で行われているのであり,販売車両は,実質的には,事業所ないし事業所に類する施設に該当する。

(ウ) したがって,本件においては,特商法による保護要件を欠いており,特商法の適用を前提とする原告らの主張は争う。

ウ 被告Rと「業務提供誘引販売業を行う者」

特商法58条及び同条の2が適用されるには,業務提供誘引販売業を行う者がその業務提供誘引販売業にかかる業務提供誘引販売契約を締結した場合であることが必要であるところ,被告Rは,業務提供誘引販売業を行う者には該当しない。

(3)  原告らの反論(消費者保護規定の適用要件の欠如について)

商取引に習熟した個人事業主と評価されるためには,外観(店舗,設備,一見の客が入れるか),実質(従事時間,仕入や受注の自由度,経営判断の独自性)等を総合判断すべきで,それまで素人であった者が,特に店舗や工場設備等を設けず(主に自宅で),特定の事業者からの業務の供給に依存して行うような場合は,業務提供誘引販売取引の保護を与えるべきである。

本件においても,原告Aらは,特に店舗や工場設備を設けず,被告Oからの業務の供給に依存して行っていたのであるから,業務提供誘引販売取引の適用を受けることは当然である。

(争点(5)-法定追認の成否-について)

(1)  被告R,被告P及び被告Qの主張

ア 本件車両の付属品等の内訳が「発酵棚やオーブン,冷蔵庫」だけでなく,「ボンベ,水タンク,発電機などの備品代」が含まれていることは,本件車両を一度でも利用すれば分かることである。

また,原告Aらは,平成16年5月ころには,被告Oによる販売先の開拓や提供がなされなくなったのを知っていたものである。

そうすると,遅くとも,平成16年5月以降には,「取消しの原因となっていた状況が消滅」しているのであるから,同月以降に立替払契約に基づく支払を行ったことは,債務の一部を履行したこととなり,原告Aらには,法定追認が成立する。

イ 原告Aは,被告Pに対し平成17年4月27日まで,被告Qに対し平成17年5月16日まで,原告Bは被告Pに対し同年5月27日まで,原告Cは被告Pに対し同年5月27日まで,原告Dは被告Qに対し同年8月29日まで,原告Eは被告Pに対し同年12月27日まで,それぞれ,立替払契約に基づく債務を支払っている。

ウ 以上により,原告Aらについては,法定追認が成立している。

(2)  原告らの主張

そもそも,特商法58条の2に基づく取消に関しては,法定追認の規定が適用されることが予定されていない。

また,原告らが欺罔されていることについて確信を抱いたのは,原告A,同C及び同Bにおいては,平成17年9月20日の直前ころ,原告Dにおいては,平成18年1月23日の直前ころ,原告Eにおいては,平成18年3月14日の直前ころである。

したがって,原告Aらにおいて,法定追認が成立するとの被告R,被告P及び被告Qの主張は争う。

(争点(6)-原告らの被告P及び被告Qに対する債務の存否-について)

(1)  原告らの主張

ア 抗弁事由の対抗

(ア) 原告らは,上記主張のとおり,それぞれ,販売車両の売買契約について,被告Rに対し,債務不履行に基づく解除,詐欺を理由とする取消,錯誤を理由とする無効,特商法に基づくクーリングオフないし取消という抗弁権を有している。

したがって,原告らは,割賦販売法30条の4に基づき,被告P及び被告Qに対し,これらの抗弁事由を対抗することができる。

(イ) なお,販売車両の売買契約は,販売車両・設備一式を対象とした1つの契約である。したがって,販売車両の購入代金の内訳に関する詐欺取消ないし錯誤無効の法律効果も契約全体に及ぶと考えるべきである。

したがって,被告Qと原告A及び原告Dとの関係でも,立替払契約書において,立替払契約の対象物が,「リンナイRCK30MA,サンデンSH-F40ジャスコ,改造取付工事他」と明示されていたとしても,販売車両の売買契約全体について,詐欺取消ないし錯誤無効の効果が生じている以上,上記抗弁権を対抗することができる。

イ 契約書の不備について

原告Aらと被告Pないし被告Qとの間の立替払契約書には,それぞれ,つぎのような著しい記載不備があり,被告Pないし被告Qにおいて割賦販売法に基づく義務を履行したとは到底認められない。このような結果,原告Aらは,契約内容について十分な認識のないまま契約締結に至り,販売車両の購入に関し,商品の内容や手数料について錯誤に陥った。

したがって,被告Pないし被告Qが,立替金残金全額の請求を求めることは著しく信義に反する。

(ア) 被告P

a 原告Aについて

立替払契約書には,支払総額の記載がなく,明らかに,割賦販売法30条の2第5項1号に違反している。

b 原告Cについて

立替払契約書には,支払総額の記載がなく,明らかに,割賦販売法30条の2第5項1号に違反している。

c 原告Bについて

立替払契約書には,支払総額の記載がなく,明らかに,割賦販売法30条の2第5項1号に違反している。

また,同契約書には,各回ごとの支払額及び支払の時期の記載がなく,明らかに,割賦販売法30条の2第5項2号に違反している。

さらに,同契約書には,契約商品名,契約商品の商標・型式の記載がなく,明らかに,割賦販売法30条の2第5項5号,割賦販売法施行規則13条の10第3号及び同第4号に違反している。

d 原告Eについて

立替払契約書には,支払総額の記載がなく,明らかに,割賦販売法30条の2第5項1号に違反している。

(イ) 被告Q

a 原告A

立替払契約書には,支払総額の記載がなく,明らかに,割賦販売法30条の2第5項1号に違反している。

b 原告D

立替払契約書には,支払総額の記載がなく,明らかに,割賦販売法30条の2第5項1号に違反している。

(2)  被告Pの主張

ア 抗弁事由の対抗について

原告らの,被告Rに対し抗弁権を有するとの主張は争う。

イ 契約書の不備について

立替払契約書に,原告らが主張するような記載がなかったことは認める。

しかし,原告らは,立替払契約を締結する前に,被告Rから,支払総額,分割払手数料,支払方法等について具体的な説明を受けたはずであり,原告らは,そのような説明内容に納得したからこそ,立替払契約を締結したはずである。

したがって,被告Pが,原告らに対し,立替払残金全額を請求することは,何ら信義則に違反しない。

(3)  被告Qの主張

ア 抗弁事由の対抗について

原告A及び原告Dは,販売車両の購入代金の内訳として,オーブン,冷蔵庫を明確に認識していたのであるから,少なくとも,被告Qの立替請求分について,詐欺を理由とする取消,錯誤を理由とする無効の主張は,その前提事実を欠いている。

イ 契約書の不備について

立替払契約書に,支払総額の記載がなかったことは認める。

しかし,契約締結の前には,原告A及び原告Dは,被告Qから,必ず支払総額の確認を受けており,また,契約締結後,支払開始する前には,両原告は,支払総額を明確に明示した書面を受領している。

したがって,被告Qが,両原告に対し,立替払残金全額を請求することは,何ら信義則に違反しない。

(4)  被告Rの主張(クレジット手数料について)

被告Rは,毎回の支払額と支払回数,支払総額を説明している。また,原告らが所持していた立替払契約書には,各回の分割支払額及び支払回数が明記されており,分割支払額と支払回数を乗じれば支払総額が約650万円であることは容易に分かるはずである。

(争点(7)-本件賛助会員規約6条(配当又は繰越),7条(配当の方法),9条(脱会)について,規約と異なる扱いをする旨の合意があったか-について)

(1)  原告らの主張

ア 被告Oに対する請求

(ア) 賛助会員規約9条によれば,被告Oは,原告Aらに対し,脱会した場合,加盟金を全額返還すべき義務を負っている。

原告A,同B,同C及び同Dは,平成17年2月ころ,原告Eは,同年11月ころ,それぞれ,賛助会員規約に基づいて,被告Oから脱会した。また,被告Oと原告Aらとの間の各賛助会員契約は,上記主張の通り,有効に,解除ないし取り消されている。

よって,被告Oは,原告Aらに対し,それぞれ,加盟金を全額返還すべきである。

a 原告A,原告B,原告C,原告D

上記4名の原告らは,被告Oから,加盟金の返還として,15万円を受領した。

したがって,被告Oは,上記4名の原告らに対し,それぞれ,35万円を返還すべきである。

b 原告E

被告Oは,原告Eに対し,50万円を返還すべきである。

(イ) 原告Aらは,被告Oに対し,賛助会員契約締結後,組合費として,月々10万円を支払っていた。

しかし,賛助会員契約が被告Oによる債務不履行に基づいて解除された以上,被告Oは,原告Aらに対し,原状回復義務として,それぞれ,原告Aらが支払った組合費を返還すべきである。

a 原告A,原告B

上記2名の原告らは,被告Oに対し,組合費として,それぞれ,合計85万円を支払った。

したがって,被告Oは,上記2名の原告らに対し,それぞれ,85万円を返還すべきである。

b 原告C

原告Cは,被告Oに対し,組合費として,合計65万円を支払った。

したがって,被告Oは,原告Cに対し,65万円を返還すべきである。

c 原告D

原告Dは,被告Oに対し,組合費として,合計81万1380円を支払った。

したがって,被告Oは,原告Dに対し,81万1380円を返還すべきである。

d 原告E

原告Eは,被告Oに対し,組合費として,合計50万円を支払った。

したがって,被告Oは,原告Eに対し,50万円を返還すべきである。

(ウ) 賛助会員規約6条,7条によれば,被告Oは,原告Eに対し,毎事業年度末に決算利息余剰金を配当すべき義務を負っている。

しかるに,被告Oは,原告Eやその他の賛助会員からの再三にわたる決算書開示の要求に応ぜず,決算利息余剰金の配当も行っていない。

したがって,被告Oは,原告Eに対し,平成16年度の決算利息余剰金の配当として,賛助会員規約7条所定の加盟金に対する変動上限年率10%の割合による配当金5万円を支払う義務がある。

イ 被告Rに対する請求

上記主張のとおり,被告Rと被告Oとは,実質的に不可分一体の関係にあるのであるから,被告Oによる債務不履行は,被告Rの債務不履行というべきである。

したがって,被告Rは,原告Aらに対し,被告Oによる債務不履行に基づき,原告Aらが加盟金及び組合費として支払った額について,原告Eに対しては,それらの額に加えて平成16年度の決算利息余剰金に相当する額について,返還義務ないし損害賠償義務を負う。

(2)  被告Oの主張

ア 加盟金の返還について

Gは,原告Aらに対し,それぞれ,各賛助会員契約の締結に際して,加盟金の50万円に関し,内訳として,35万円については契約金として被告Oが収受し,15万円について,脱会する際に返還すると説明し,原告Aらも,了承していた。

イ 組合費について

Gは,原告Aらに対し,それぞれ,各賛助会員契約の締結に際して,毎月初めに,組合費として10万円を納めていただく旨を説明し,原告Aらも,了承していた。

徴収された組合費は,被告Oが販売場所を探す際における交通費等の経費や,メロンパン生地を保管するための倉庫代,組合事務所の賃料,組合職員の給与など,原告Aらを含む賛助会員の営業利益のために費やされたのであるから,原告Aらに返還されるべき金員ではないというべきである。

契約自体が解除等により消滅した以上,被告Oが組合費の返還義務を負うとの主張は,争う。

ウ 決算利息余剰金の配当について

Gは,原告Aらに対し,それぞれ,各賛助会員契約の締結に際して,被告Oにおいては,決算利息余剰金の配当を一切行わないと説明し,原告Aらも,了承していた。

(3)  被告Rの主張

被告Rは,賛助会員契約の当事者でもなく,被告Oと不可分一体でもない。被告Rが,賛助会員契約の債務不履行に基づく損害賠償義務を負うことはありえない。

(4)  原告らの反論-被告Oの主張に対し

加盟金の返還額や決算利息余剰金の配当に関し,被告Oが主張するような説明がGからなされたことはなかった。

(争点(8)-損害の発生とその数額-について)

(1)  原告Eの主張

ア 被告Oに対する請求

(ア) 上記主張のとおり,被告Oは,原告Eに対し,賛助会員契約に基づくサポート義務,販売先開拓義務,パン生地等の供給・品質保持義務,収益支援義務のいずれについても,その履行を怠った。

特に,パン生地等の供給・品質保持義務との関係では,被告Oは,平成17年5月ころ,原告Eに対し,賞味期限の過ぎたメロンパン生地を供給したこともあった。

(イ) 被告Oによる債務不履行の結果,原告Eのメロンパン販売事業における売上は,大幅に減少し,平成16年12月以降は,1日あたり,160個から200個の売上しかあげられなくなった。そのため,毎月多額の赤字が発生する状態となり,立替払契約の支払や被告Oに対するパン生地代の支払などのため,クレジット会社などから多額の借金をせざるを得ない状態に追い込まれた。

被告Oが,上記義務を履行していたならば,原告Eは,平成16年12月以降も,月間純利益として68万7000円を得ていたはずである。原告Eは,平成17年11月7日ころをもって,被告Oから脱会し,メロンパン販売事業を辞めた。

したがって,上記月間純利益の11か月分である755万7000円は,被告Oによる債務不履行の結果,原告Eが被った損害額である。

(ウ) よって,被告Oは,原告Eに対し,債務不履行に基づく損害賠償義務として,755万7000円を支払う義務を負う。

(エ) なお,原告Eは,被告Oから,平成17年11月,パン生地代金等の未払金合計25万1480円の支払を求められたので,同月26日,被告Oに対し,上記加盟金支払請求権及び決算利息余剰金の配当請求権並びに損害賠償債権と未払金債務とを対当額で相殺するとの意思表示をした。

よって,原告Eが本訴において被告Oに対して支払を求める額は,合計835万5520円となる。

イ 被告Rに対する請求

上記主張のとおり,被告Rと被告Oとは,実質的に不可分一体の関係にあるのであるから,被告Oによる債務不履行は,被告Rの債務不履行というべきである。

したがって,被告Rは,原告Eに対し,被告Oの債務不履行に基づき,同被告と同額の損害賠償義務を負う。

(2)  被告Oの主張

争う。

(3)  被告Rの主張

被告Rは,賛助会員契約の当事者でもなく,被告Oと不可分一体でもない。被告Rが,賛助会員契約の債務不履行に基づく損害賠償義務を負うことはありえない。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前記の前提事実のほかに,証拠(事実ごとに後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)  メロンパン販売事業の概要

ア 有限会社T

Tは,広島県福山市に本店を置き,フランチャイズビジネスのコンサルティング業務を行っている。もともと,Tないしその代表取締役であるIは,被告Rの顧客であったこともあり,被告Rに対し,メロンパン販売事業用の販売車両を製造するように依頼した。

Tは,当初から,メロンパン販売事業を全国的にフランチャイズ展開することを検討していた。そこで,被告Rに対しても,量販可能なものを念頭に置いて製造するように依頼するとともに,全国に,生地の仕入や販売場所の開拓を主たる業務とする企業組合を設立するため,各地における企業組合の代表理事となるべき人物に対し,組合設立の仕方,規約,会員とするメロンパン販売事業者の数などについて,指導していた。最終的に,全国には,約30の企業組合が立ち上げられており,そのうち,約24,5の組合が,稼働していた。

また,Tは,全国にある企業組合へのメロンパン生地の生産・供給の調整についても取り仕切っていた。(甲A2,13,G53頁,J18頁,K17ないし19頁,22頁,40頁)。

イ(ア) 被告Rの概要等被告Rの事業内容は,大きく,車両事業部,福祉車両部,特販部,サービス事業部とに分かれており,販売車両の製造,販売は,特販部が担当していた。特販部には,3人の従業員が所属しており,Kが部長を務めていた。Kが賛助会員に対して渡した名刺には,特販部の統括営業部長という肩書が記載されている。被告Rは,Tにおけるメロンパン販売事業の展望等を参考として,販売車両の販促計画について,おおむね2年半から3年がピークになると予想していた(甲A5・3枚目,甲B7の4,K1頁ないし3頁,40頁,52頁)。

(イ) 「メロンちゃん」の商標,ユニフォーム

a 商標

被告Rは,Iから,メロンパン販売事業のロゴマークを考えるように示唆された。そこで,Kは,知人のデザイン会社に依頼して,「メロンちゃん」というロゴを作成させ,被告Rが,平成16年12月ころに,このロゴについて,商標登録の出願をした。商標登録は,同業他社が同じようなロゴマークについて商標登録をし,全国のメロンパン販売事業者による営業継続が困難となることを防止する目的であった。

全国の企業組合の中には,被告Rが商標登録したロゴを自らのホームページに用いている組合もあるが,被告Rは,このような企業組合から,ロゴの使用料を徴収していなかった。登録された商標の商品区分及び指定商品としては,菓子及びパン,サンドイッチ,アイスクリームなどの食料品が列挙されている。(甲A4,K6頁)

b ユニフォーム

被告Rは,Iから,メロンパン販売事業者が着用するためのユニフォームを製作するように示唆され,「メロンちゃん」のロゴが入ったTシャツ,トレーナー,パーカーを製作した。もっとも,これらのユニフォームを利用するメロンパン販売事業者は,それほど多くはなかった(甲B5,K7頁,26頁)。

(ウ) 被告Rのホームページ

被告Rのホームページには,メロンパン販売事業の概要が載っており,「店長募集中」,「お問合せはこちら」等の文字が書かれている。また,ホームページ上では,メロンちゃんは,焼きたてのメロンパンを実演販売する移動型パン販売であると紹介されている。ホームページ上の問合せ先電話番号は,被告Rの特販部に通じるものであり,問い合わせを受けた被告Rの社員は,その者の住居地を確認し,購入希望者の近くにある企業組合を紹介することとしていた(甲A5,K21頁)。

(エ) 販売車両の売却状況等

被告Rは,平成19年11月ころまでに,販売車両を150台以上売っており,その売上は,おおむね,全体に対し,約1割を占めていた。被告Rは,各企業組合からの紹介により販売車両を売却した場合であっても,各企業組合に対し,紹介料等の名目で,金員を支払うことはなかった(G21頁,K1頁,3頁)。

ウ パン生地

メロンパン生地は,平成15年秋ころにおいては,Vが,上生地,パン生地,成型の全てを行い,Uが卸会社として全国の企業組合に供給していた。ところが,Vにおける製造・供給が,各地の企業組合からの需要に追いつかなくなったこと等がきっかけとなり,平成15年11月ころから,Uにおいても,メロンパン生地の製造を一部行うような検討が始められた。

Uは,平成15年12月ころから,メロンパン生地のテスト製造を開始し,平成16年2月ころに,本格的にメロンパン生地の製造を営業として取り組むことを決断し,同年4月末ころに,製造設備を導入した。その後,メロンパン生地の製造工程のうち,順次,成型・上生地・パン生地がUへと移行した。なお,移行期間中は,品質にぶれが生じたこともあった。Vもメロンパン生地の製造を継続していたが,最終的に,平成16年冬ころには,Uが各地の企業組合へ卸すメロンパン生地のほとんどを製造するようになった。Uは,平成18年2月ないし同年3月ころまで企業組合に向けて,メロンパン生地の生産・販売を行っていた。

Uは,メロンパン生地の製造を開始するに際しては,製造設備やパン生地について,Hに指導,監修を受け,メロンパン生地の原材料や成分の配合について,Vにおけるものとほぼ同じものを用いることとした。なお,遅くとも平成16年12月ころまでには,原材料に「香料,膨張剤」を加えた。

Uは,パン生地の製造を開始した当初は,ほぼ毎日,Hを工場に呼び,製造工程を確認させるとともに,Vへ検査サンプルを提出し,同社の確認を受けていた。

Vにおける製造工程とUにおける製造工程とでは,生地を練る段階で,前者は横型のミキサーを用い,後者は縦型のミキサーを用いていること,生地を分割する段階で,前者は人の手によっており,後者は機械を用いたことの点で異なっていた。また,Vの生地とUの生地とでは,ビス生地の厚さが異なっており,食感に差異があった。(甲A15・1,2,乙D3,調査嘱託の結果,G14頁,J1頁ないし5頁,7頁)

エ 被告O

被告Oは,賛助会員がメロンパン販売事業を開始すると,毎月初めに,組合費として,各賛助会員から,10万円を徴収した。また,パン1個(120円)の売上に対し10円分のロイヤルティーを徴収していた。これらの金員の一部は,被告Oにおける開拓先の開発やメロンパン生地を保管しておく倉庫の経費に充てられていた。

被告Rの役員や従業員が,全国にある企業組合の理事や従業員を兼務していることはない。(G10頁,34頁,42頁,46頁,52頁,54頁,K3頁)

(2)  原告Aらにおける各賛助会員契約の締結に至る経緯

ア 全体的な流れ(原告Aら,G,K)

(ア) Gは,ラジオなどのメディアを活用して賛助会員を募集し,応募のあった人の中から面接を行い,メロンパン販売事業について説明した。

最終的には,おおむね100人の募集があり,50人の賛助会員希望者と面接した。Gの説明内容は,賛助会員希望者ごとに異なっているものの,おおむね,被告Oがメロンパン販売事業をバックアップするという趣旨のものであり,その具体的な項目に関しては,以下のとおりである。

a 販売先について

Gは,販売先に関して,組合が複数の場所を確保していること,各賛助会員が販売先を開拓することは自由であり,メロンパン販売事業が軌道に乗ってきた時には,各賛助会員においても積極的に開拓して欲しい旨説明した。

b メロンパン生地について

Gは,メロンパン生地に関して,Vから仕入れる予定であること,Vの生地は評判が良く,量販できるものであること,パン生地についてトラブルが生じた時には,速やかに担当業者と連絡をとり,対応することを説明した。

c 1日あたりの売上について

Gは,1日あたり700個から1000個の売上がある見込みであると説明した。Gは,当時の他の地域における販売状況を参考にして,これらの数字を算出していた。

Gの説明を受けた賛助会員希望者らは,Gの強い口調から,今後もそのような売上が続いていくものとの印象を受けた。

なお,Gは,売上が販売場所,天候ないし気温,季節,賛助会員の販売力等によって左右されることもあると説明する時もあったが,全ての面接において説明したわけではなかった。

また,Gは,損益分岐点としては,300個から350個くらいであるとも説明した。

d 販売車両の購入について

(a) Gは,メロンパン販売事業を開始するには,被告Rから販売車両を総額520万円ないし525万円で購入する必要があることを説明した。

また,Gは,購入代金に関しては,信販会社を利用して,ローンを組むことが可能であること,ローンの支払に関しては,月々約10万円であり,これまでにメロンパン販売事業に従事した人の中には,6か月で支払を終えた人がいることを説明した。

Gの説明を受けた賛助会員希望者らは,Gの強い口調と,販売先の確保(上記a)や1日あたりの売上に関する説明(上記c)とが相乗し,ローンの支払が6か月で終わる見込みが高いとの印象を受けた。

(b) なお,原告らは,GないしKから,賛助会員がメロンパン販売事業を辞める際には,被告Rが販売車両を回収し,ローンの整理も行う旨説明されたと主張し,原告A及び原告Cがこれに沿う供述をしている。

しかし,被告Oや被告Rが,是が非でも,販売車両を原告Aらに売却しなければならないほどの切迫した経営状況にあったことを窺わせる事情は認められないことや,販売車両の購入契約と立替払契約とが当事者を異にする契約であることなどからすれば,GやKにおいて,メロンパン販売事業を辞める際,被告Rが販売車両を引き取り,ローンの整理を行う旨の説明をしたものとは認められない。

e 販売車両の台数について

Gは,販売車両の台数に関して,賛助会員希望者ごとに,「5,6台が限界」,「15台くらいが限界」,「あなたが最後」などと異なった説明をしていた。Gがこのような説明をした原因は,販売車両の台数に関する情報が,被告Oの事業計画を説明する目的で伝えられたものではなく,当該希望者に対し,賛助会員契約を締結するための動機付けを与えることが目的で伝えられたことにあった。

f 加盟金,決算利息余剰金の配当について

被告Oは,賛助会員希望者に対し,賛助会員規約の条項を1つずつ確認しつつ,加盟金50万円のうち15万円のみを返還することになること,決算利息余剰金の配当は行わないことを説明したと主張し,Gもこれにそう供述をする。

しかし,Gによる説明の内容は,上記aないしeにおいて認定したとおり,主として,販売するメロンパン生地やメロンパン販売事業による収益,販売車両の購入に関する事情等に主眼をおいていたものであり,その説明内容や態様が賛助会員希望者ごとに異なっていたことも考慮すると,Gが,賛助会員規約の条項を1つずつ読み上げ,確認したとは認められず,加盟金や決算利息余剰金の配当の定めに関しても,全ての賛助会員希望者に対し,その条項を指摘して,条項の内容とは異なる取扱いをする旨説明していたものと認めることはできない。

そして,原告Aらの供述によれば,同人らが,賛助会員規約書への署名を行う際,Gから,加盟金や決算利息余剰金の配当の定めに関し,条項の内容とは異なる取扱いをする旨の説明を受けたことを窺わせる事情は認められない。

したがって,Gが,原告Aらに対し,加盟金の返還及び決算利息余剰金の配当に関し,条項とは異なる取扱いをする旨の説明をしたと認めることはできない。

(イ) 販売車両代金の内訳など

Kないし被告Rの担当者は,販売車両の見積書をGに預け,Gから各賛助会員希望者に交付することを予定していた。しかし,実際に,Gから賛助会員希望者に見積書が交付されたことはほとんど無かった。被告Rは,賛助会員希望者から直接見積書の交付を依頼された場合には,同書類を送付していたが,原告Aらのうち,Kに対し直接見積書の送付を依頼した者はいなかった。

Kは,被告Oから紹介を受けた販売車両の購入希望者に対し,車両の仕様確認として,手動式のテントを装備しておくことを勧めた。

原告Eが本訴を提起する前に被告Rから取り寄せた見積書(甲A12の2)と被告Rが本訴において書証として提出した見積書(乙C1)とでは,移動式発電機の台数が異なっていたり,改造申請許認可に要する費用が異なっていたりするなど若干の相違点があるものの,車両本体価格,冷凍庫,オーブンであるコンベック等主要な器材については,ほぼ同一内容となっている。また,いずれの見積書の中にも,「メロンちゃん」に関する権利料,開発料,工事料,生地開発料,保健所の許可申請手続きに関する費用という費目は記載されていない。(乙C1,K5頁,7頁,8頁,27頁から34頁,50頁,51頁)。

(ウ) 立替払契約を締結する流れ

a 各賛助会員希望者が,立替払契約書のうち,左側にある申込者名,勤め先,電話番号等の各欄を記入し,その後,Gが,その内容を被告R宛てにファックス送信した。この段階では,購入する商品に関する事項や支払条件に関する事項は記載されておらず,Gが各賛助会員希望者に対して同事項につき細かい説明をしたこともほとんど無かった。Kは,Gからの上記ファックスを受信すると,賛助会員希望者に電話により,販売車両全体の価格を確認した(G23頁,25頁,K9頁)。

b Kは,ファックスで送信された契約書の写しに,販売車両の価格総額や分割支払条件に関する事項を記入し,各信販会社宛てにファックス送信し,同社に対し,与信審査を行うよう依頼した。

被告Rから上記ファックスを受信した信販会社では,担当者が,パソコンを用いて所定事項を入力し,従前の当該信販会社の利用状況や外部情報を付加して,記録を印字した。

信販会社の担当者は,被告Rに対し,与信審査の結果を連絡し,与信に支障がある者について,与信審査を通すため,頭金を入れることや保証人をつけることなどを提案した。保証人を付すことが必要となった場合には,被告Rないし被告Oが賛助会員希望者に連絡し,再度,賛助会員希望者に保証人をつけさせ,被告Rが信販会社宛に,保証人欄が記入された契約書の内容をファックス送信した。

信販会社の担当者は,最終的に,与信審査に合格できると判断した場合には,申込者に対し,電話にて,商品購入の意思確認,支払意思確認,住所確認を行った。支払意思確認の具体的な内容としては,立替払する金額,手数料,支払総額,分割支払額の確認があった。(狭間1頁,3頁,4頁,9頁,K9頁,10頁,35頁)

c Kは,信販会社から与信審査を通過したとの連絡が入ると,賛助会員希望者に連絡を取り,与信審査の結果を伝え,その後,分割回数,支払額,総支払額を確認し,その結果を信販会社に連絡した(K10頁)。

d その後,Kは,賛助会員希望者に対し,申込者と保証人の各欄に捺印するように指示し,両名の押印がそろった段階で,立替払契約書の原本を被告Rに郵送するように指示した。郵送される段階では,契約書の右側にある購入車の内容や金額を記載する欄は,白紙の状態であった。Kは,郵送された契約書に,購入車の内容や金額,分割の支払条件などを,賛助会員希望者と確認を取りながら記入した。これらの記入が済むと,Kは,契約書の原本を信販会社に郵送した。(K11頁,12頁)。

(エ) 被告Rは,被告O管内では,平成15年秋ころから平成16年ころまでの間,販売車両を合計16台売却した(甲A18,K17頁)。

イ 原告A(甲B8,原告A)

原告Aは,平成15年12月末に,ラジオ番組の情報でメロンパン販売事業を知り,平成16年1月22日,JR仙台駅の建物の地階に所在する飲食店で,知人のYとともに,Gと面会した。Gからの説明内容は,おおむね,前記(2)ア(ア)に記載したとおりであった。販売台数に関しては,「5台から6台が限界である」と伝えられた。

原告Aは,同月29日,Gから,賛助会員規約書並びに被告P及び被告Qとの間の立替払契約書を手渡された。原告Aは,Gに対し,販売車両の見積書を示すように求めたが,結局,Gから,そのような見積書を示されることはなかった。

その後,同年2月1日,被告Pから確認の電話を受け(乙A2),同月2日,賛助会員規約書及び被告Pとの立替払契約書に捺印した。その後,原告Aの元に被告P分の契約書の控えが郵送されたが,その控えには,分割手数料の記載がなかった(甲B1)。

原告Aは,平成16年3月10日から,メロンパン販売事業を開始した。

ウ 原告B(甲C5,原告B)

原告Bは,平成16年1月ころ,Gから,メロンパン販売事業を誘われ,同事業の内容について説明を受けるとともに,某料亭において,被告Rの代表取締役であったI,K,Uで取締役営業部長を務めていたJと会食した(J16頁,K39頁)。Gからの説明内容は,おおむね,前記(2)ア(ア)に記載したとおりであり,原告Bは,Gからの説明をもとに,月間純利益の試算や返済計画を含む事業計画書を作成した(甲C3)。

その後,原告Bは,被告P及び被告Qとの間の立替払契約書を手渡された。原告Bは,同契約書の商品や支払に関する事項が記入されていなかったので,一度は,署名を躊躇したが,Gから大丈夫ですと促され,署名した。

原告Bは,平成16年1月22日,被告Pの担当者から,電話にて立替払契約の確認を受け(乙A3),その後,原告Bの元に被告P分の契約書の控えが郵送されたが,その控えには,商品に関する事項,分割払手数料,分割支払合計,分割金額などの分割支払条件に関する事項は,全く記載されていなかった(甲C1)。

原告Bの元へは,平成16年3月10日,販売車両が納入され,原告Bは,同年4月4日から,メロンパン販売事業を開始した。

エ 原告C(甲D3,原告C)

原告Cは,原告Bの紹介で,平成16年2月ころ,Gと会い,Gからメロンパン販売事業の説明を受けた。Gの説明内容は,おおむね,前記(2)ア(ア)に記載したとおりであり,販売車両の台数に関しては,仙台では5台が限度であると考えるが,原告Cが原告Bの紹介ということもあり,特別に枠を増やすなどと説明された。

原告Cは,Gから,被告P及び被告Qとの間の立替払契約書を手渡され,約1週間後に,署名したものをGに預けた。

原告Cは,平成16年2月24日,被告Pの担当者から,電話にて,立替払契約の確認を受け(乙A4),その後,原告Cの元に郵送された被告P分の契約書の控えが郵送されたが,その控えには,分割手数料,支払総額に関する事項が記載されていなかった(甲D1)。

原告Cは,平成16年5月1日からメロンパン販売事業を開始した。

オ 原告D(甲E4,原告D)

原告Dは,平成16年1月ころ,Gからメロンパン販売事業の説明を受けた。Gの説明内容は,おおむね,前記(2)ア(ア)に記載したとおりであった。原告Dは,Gに対して,販売車両を自分で用意する旨述べたが,Gは,販売車両も含めて,全部一式を被告Rから購入しなければならないとして,原告Dの申し出を認めなかった。

原告Dは,Gから,被告P及び被告Qとの間の立替払契約書を手渡され,署名した上で,自ら被告Rにファックス送信した。

原告Dは,平成16年1月16日ころ,被告Qの担当者から,電話にて,立替払契約の確認を受け(乙B2の1・2),その後,原告Dの元に被告Qの契約書の控えが郵送されたが,その控えには,分割手数料,支払総額に関する事項が記載されていなかった(甲E1)。

原告Dは,平成16年3月1日から,メロンパン販売事業を開始した。

カ 原告E(甲F20,原告E)

原告Eは,ホームページの情報からメロンパン販売事業に関心を持ち,Gと面接した。Gからの説明内容は,おおむね,前記(2)ア(ア)に記載したとおりであった。原告Eは,Gから,販売車両の台数について,15台が限度であり,原告Eが最後の1枠であると説明された。

原告Eは,平成16年4月21日,被告Pの担当者から,電話にて,立替払契約の確認を受け(乙A5),その後,原告Eの元に被告P分の契約書の控えが郵送されたが,その控えには,勤め先として被告Oが記入されていたほか,分割手数料や支払総額に関する事項は記載されていなかった(甲F1)。

原告Eは,平成16年6月2日から,メロンパン販売事業を開始した。

(3)  メロンパン販売事業の経過

ア 全体的な流れ

(ア) メロンパンの売上の推移(原告Aら,分離前相原告L8頁,G7頁,17頁)

宮城県内では,平成15年11月ころに,被告Oの第1号車がメロンパン販売事業を開始した。当初の売上は,平日において,1日あたり,800個ないし1000個を記録し,土日祝日において,1日あたり約1200個を記録したこともあった。

原告Aらにおいても,後に認定するように,メロンパン販売事業を開始したころは,1日あたり,800個ないし1000個の売上を記録したことがあったが,平成16年6月以降,メロンパンの売上が落ち始め,同年12月ころには,1日あたり300個に達しない売上が続くようになった。

(イ) 販売先の提供(原告Aら,G13頁,14頁)

被告Oは,賛助会員に対し,主に,泉中央のセルバ,長町のショッピングモール,中山のジャスコ等を販売先として,割り当てていた。被告Oでは,平成16年4月ころから,新しい賛助会員がメロンパン販売事業を開始した場合には,既に事業を開始していた賛助会員に対する販売先の提供を後回しとして,新しい賛助会員に優先的に販売場所を割り当てるようになり,その結果,販売先の提供を受けることができない賛助会員もいた。

また,泉中央のセルバでは,1日あたり800個ないし1000個の売上を記録していたが,被告Oが使用料の支払を滞ったため,遅くとも平成16年12月ころ以降は,賛助会員が同場所を利用することができなくなった。

被告Oは,新たな販売先の開拓として,インターネットを利用した募集や営業活動を行ったこともあったが,使用料等の点で折り合いが付かず,結局,新たな販売先を開拓することはほとんどなかった。

(ウ) 生地の品質と営業補償(原告Aら,L13頁,14頁,G15頁,J1頁,4頁,7頁,8頁,14頁,16頁)

平成16年4月ころ,被告Oでは,メロンパン生地の供給が不足し,商品の欠品という事態が生じた。その際,Jが,仙台に赴き,中華料理店・Wにおいて,賛助会員らに対し,供給が不足したことを陳謝した上,今後,Uによるメロンパン生地の製造が開始されること,Vの生地との相違点,今後は供給不足とならないようUからの供給も開始することを説明した。

平成16年5月ころから,被告Oの賛助会員から,Uの製造したメロンパン生地について,膨らみが足りないこと,ビス生地の香りが悪いことなどのクレームが出た。

そこで,Gは,Uの製造工場を訪れて調査し,また,Uでも,調査を行ったが,原因を特定することはできなかった。また,JやUの担当者が,平成16年7月や,同年10月ないし11月ころに,それぞれ1度仙台に赴き,現地で使用されている車を用いて,メロンパンの焼き方を実演したこともあった。

Uは,Gに対し,賛助会員らに対する営業補償として,平成16年4月,7月,12月ころ,それぞれ,金員を支払った。

(エ) メロンパン生地の供給方法(原告Aら,G,J)

平成16年11月ころまでの間,被告Oが仕入れるメロンパン生地には,Vが製造したものとUが製造したものとがあったところ,被告Oでは,Vが製造した生地を,メロンパン販売事業を開始して間がない会員とメロンパン生地に関するクレームを多く述べる会員に割り当て,他の会員に対しては,Uが製造した生地を割り当てていた。

メロンパン生地の発酵,焼き方に関しては,全国的な事情として,各メロンパン販売事業者において,各人各様のやり方となっていた。

(オ) 統轄本部の構築(甲A2,G22頁,23頁,K4頁)

平成16年10月下旬ころ,全国にある企業組合に向けて,統括本部の構築を呼びかける文書が配布された。この文書には,被告R,U,被告O,訴外Xの4社が,文責者として名前を連ねていたところ,被告Rが文責者として名前を載せていたのは,Gや他の企業組合の理事長らから,統括本部の構築に協力してほしい旨依頼されたことによるものであった。

上記文書が配布された後,全国の各企業組合の代表者による集会が開催され,Kもその集会に参加した。ところが,Kは,静岡にある企業組合の代表者から,被告Rは一業者であって,統括本部の構築という企画からは手を引くようにとの発言があったため,その後は,統括本部構築の計画については関与しなかった。

(カ) 羅漢果メロンパン(G40頁,K15頁,46頁,47頁,49頁,50頁)

平成16年には,羅漢果メロンパンの発売が提案されたところ,その発案は,Kが,被告Rの顧客関係者で,パン屋を営業しているキクチという人から,羅漢の実で作った商品の話を聞いたことがきっかけであった。その後,Uにおいて,羅漢果メロンパンを試作し,各賛助会員に試食させた。

実際に,羅漢果メロンパンの販売を開始した後,羅漢果メロンパンの売れ行きがあがらず,在庫が余ったこともあった。

そこで,集まった賛助会員らに対し,Jは,羅漢果メロンパンについて説明し,Jとともに仙台に赴いていたKも,羅漢について説明した。

その後,平成17年4月ころ,羅漢果メロンパンの改良が行われた。

(キ) 統一ユニフォーム

平成17年3月ころ,全国の企業組合に向けて,メロンちゃん本部準備室という文責名にて,全国ユニフォーム統一の追加事項と題された文書が配布された。被告Rは,この文書の作成には関与していなかった(甲B6,K7頁,25頁)。

(ク) 賛助会員らの会合(甲A16の1,2,原告Aら,G)

a 原告Aら及びその他の賛助会員らは,メロンパン生地の変更を踏まえて,Gに対し,賛助会員を集めて会議を開き,メロンパン生地の変更に関して,その経緯や今後の改善について説明するように求めた。

b 平成16年12月2日,原告A,原告B,原告D,原告Cほか4名の賛助会員と,被告Oの社員であるM及びUの社員であったJ,Nが集まって,パン生地の入庫状況及び今後の対応について,協議した。

賛助会員らの意見の大勢は,メロンパン生地を改善すべきであるというものであった。

J及びNは,賛助会員らに対し,会議の始めころにおいては,メロンパン生地の品質に違いはないと述べていたが,途中から,平成16年11月一杯でVからの仕入を止めて,機械生産に変わったことを述べた。

c 平成16年12月19日,原告D,原告A,原告Eほか3名の賛助会員と,G及びMが集まって,①メロンパン生地の改善点,②ラスクの販売方法,③売上増収のための方法,④同業他社との差別化について,協議した。

Gは,集まった賛助会員らに対し,メロンパン生地の改善策を検討すると回答した。

イ 原告A(甲B8,原告A)

(ア) 原告Aは,メロンパン販売事業を開始した平成16年3月ころは,被告Oから,メロンパンの販売場所として,中山のジャスコ,泉中央のセルバなどを提供され,Vの生地を供給されていた。

平成16年3月ころの売上は,1日あたり,平日で,800個ないし1000個であり,土・日には,約1200個であった。

(イ) 原告Aは,平成16年5月ころ以降,販売先の提供を受ける回数が減り,A自身で販売先を探し,事業を継続していた。

同月中旬ころには,供給されるメロンパン生地の大きさが変わり,メロンパン生地を梱包する段ボール箱の大きさも変わった。また,顧客からは,生地が変わったのではないかとの指摘を受けたり,安い材料を使っているのではないのかと批判を受けることがあった。

そのころの売上は,1日あたり,500個から600個であった。

(ウ) 平成16年11月ころ,供給されるメロンパン生地が更に変わり,売上は,1日あたり,100個から200個となった。

(エ) 原告Aは,平成17年2月21日,被告Oに対し,賛助会員契約の解約の申し入れを行った。

原告Aは,解約の申し入れをするに先立って,被告RのKと連絡をとり,メロンパン販売事業を辞めるので,販売車両を引き取って欲しい旨を伝えた。これに対し,Kは,原告Aに対し,販売車両を引き取ることはできない旨返答した(原告A24頁)。

ウ 原告B(甲C5,原告B)

(ア) 原告Bは,メロンパン販売事業を開始した平成16年4月ころは,被告Oから仙台ダイエー泉店などの販売先を提供されていたが,販売先の提供を受ける回数は,徐々に減少し,Gから,原告B自身で,販売先を開拓するように言われた。

原告Bは,平成16年5月の連休ころまでの間は,Vの生地を供給されていた。

平成16年4月ころの売上は,1日あたり,800個ないし1000個であった。

(イ) 平成16年5月の連休を過ぎたころから,供給されるメロンパン生地の色や大きさが変わった。また,売上は,平成16年5月中旬以降,1日あたり,500個前後であり,夏から秋にかけては,400個程度であった。

(ウ) 平成16年11月ころ,供給されるメロンパンの生地が更に変わり,売上は,1日あたり,多くても300個となった。

(エ) 平成17年1月ころ,原告Bは,J,Kと会ったうえ,両人に対し,メロンパン販売事業を辞めることを検討している旨伝えた。Kらが,原告Bに対し,その理由を確認したところ,原告Bは,メロンパン生地がスムーズに入らないこと等を答えた。これに対し,Kらは,関東における同業者から生地を仕入れることなどを提案した。しかし,原告Bは,最終的には,同月下旬,メロンパン販売事業を辞めた(甲C5・10頁,J17頁,K14頁,39頁)。

エ 原告C(甲D3,原告C)

(ア) 原告Cは,メロンパン販売事業を開始した平成16年5月中は,被告Oから,メロンパン販売場所として,長町のショッピングモールなどを提供されていた。

原告Cは,同月2週目ころまでは,Vの生地が供給されていた。

平成16年5月半ばころまでの売上は,1日あたり,約1000個であった。

(イ) 平成16年5月半ばを過ぎたころからは,供給されるメロンパン生地が変わり,顧客から,メロンパンが美味しくなくなった等と意見をもらったことがあった。

(ウ) 平成16年11月下旬ころ,供給されるメロンパン生地の大きさが変わり,また,梱包している段ボール箱の大きさも変わった。そのころの1日あたりの売上は,300個にまで達していなかった。

(エ) 原告Cは,平成17年1月末ころ,メロンパン販売事業を辞めた。

オ 原告D(甲E4,原告D)

(ア) 原告Dは,メロンパン販売事業を開始した平成16年3月ころ,被告Oから,販売場所として,長町のショッピングモールや泉中央のセルバなどを提供されていた。

原告Dは,平成16年6月ころまでの間は,Vの生地を供給されていた。

同月ころの売上は,1日あたり,約1000個であった。

(イ) 原告Dは,平成16年5月下旬ころから,長町のショッピングモールや泉中央のセルバを提供される回数が減ったため,自ら開拓した場所でも販売するようになり,組合に対し,自ら開拓した場所を紹介したこともあった。

原告Dは,平成16年7月ころ以降,Vの生地とは色や香りの点で異なる生地を供給されるようになり,顧客からも,メロンパンの味が変わったなどと指摘を受けたことがあった。そのころの売上は,1日あたり,約500個であった。

(ウ) 平成16年11月ころ,供給されるメロンパンの生地が更に変わった。

(エ) 原告Dは,平成17年2月ころ,メロンパン販売事業を辞めた。

カ 原告E(甲F20,原告E)

(ア) 原告Eは,平成16年6月,Mから,販売先について1か月分の割当表をもらい,それに従って販売事業を行った。販売先の中には,長町のショッピングモールなどがあった。

同月中には,1日あたりの売上が,1000個を超えた日が4日ほどあり,少なくとも700個を超えた日は,その他にも3,4日あった。

(イ) 原告Eは,平成16年7月ころになると,販売先を割り当てられる回数が減った。

同月ころ,Mからは,販売事業を開始して1か月が経過したので,少し難しい生地に変更になるといわれ,実際,供給されるメロンパン生地は,香り,食感,味の点で異なるものとなった。また,顧客からは,味が落ちたと指摘されたこともあった。

そのころの売上は,1日あたり約300個であった。

(ウ) 原告Eは,平成16年11月末ころ,被告Oの職員であるMから,同年12月からは,全てUの生地になるとの連絡を受け,実際,その後,供給されたメロンパン生地は,ビス生地の色が異なり,形状が平べったくなった。そのころから,1日あたりの売上は,多くて200個ほどであった。

(エ) 原告Eは,平成17年11月ころ,メロンパン販売事業を辞めた。

2  検討

(1)  被告Oと被告Rとの関係等について

ア 法人格否認の主張について

上記認定事実によれば,被告Rと被告Oとの間には,出資者や役職員の兼務が認められず,また,資本上の関連も認められないばかりか,両法人の設立経緯や業務目的も異なるのであるから,被告Rが被告Oを支配し,また,被告Rが被告Oの法人格を濫用する目的を有していたということはできず,被告Oの法人格を否認し,被告Rと被告Oとを一体のものと認めることはできない。

イ 営業代理店との主張について

被告Rと被告Oとが,その法人格を別にしている上,被告Rの主たる業務内容が車両の販売を中心としたものであるのに対し,被告Oの業務内容がメロンパン販売事業をフランチャイズ契約により展開するものであって,両業務の中核部分が内容を異にしていることや,被告Rが被告Oからメロンパン販売事業を継続的に展開することによって生ずる利益(例えば,ロイヤルティなど)を収受していたわけではないことを考慮すると,両者の間に,営業代理店などといった法律的,組織的な関係が存在するものと認めることはできない。

ウ 賛助会員契約と販売車両の売買契約との関係等について

販売車両は,主として,メロンパン販売事業を展開するために改造された車両であり,一般的に,販売車両を購入する者としては,メロンパン販売事業の展開を予定している者を念頭においており,その販促経路については,被告Oなどのメロンパン販売事業にかかるフランチャイザーを介することが想定されている。実際に,本件では,被告Rは,「メロンちゃん」を考案したことにより,原告Aらが,このロゴを用いてメロンパン販売事業を行うためには,被告Rから販売車両を購入しなければならないこととなり,原告Aらに対しては,被告Oを介して販売車両を売却していた。

さらに,被告Rが,ホームページを利用して,販売車両のみではなく,その車両を利用したメロンパン販売事業の広告をも行っていたこと,ユニホームの企画,制作,販売を行っていたこと等の事情を考慮すると,被告Rと被告Oとは,販売車両の販促を共同して行っていたものということができる。

このように,被告Rと被告Oとは,販売車両の販促を共同して行っていたものであり,原告Aらにとっては,被告Oとの間で賛助会員契約を締結することによって,被告Rから販売車両を購入し,「メロンちゃん」というロゴを用いたメロンパン販売事業を行うことができるという事実上の強い牽連性が存在していたことをも考慮すると,賛助会員契約と販売車両の売買契約との間には,契約の締結段階においては,相互に依存しており,密接な関連性があるということができる。

他方,販売車両の売買契約は,その性質上,あくまでも販売車両を購入することを主たる目的としているのに対し,賛助会員契約は,継続的にメロンパン販売事業を展開することに関して,被告Oと原告Aらとの間で一定の取り決めをすることを主たる目的としていることや,賛助会員契約において,同契約を解消した場合に関して,販売車両を被告Rないし被告Oに返還することは定められておらず,賛助会員が他のルートによりパン生地を仕入れ,販売車両を用いた移動販売業を行うことまでは禁止されていないことを考慮すると,メロンパン販売事業を展開する段階やその後の解消段階においては,両契約の間には,前記のような相互依存性は弱まり,密接な関連性があるとまでいうことはできない。

(2)  債務不履行を理由とする解除について

ア 原告らは,賛助会員契約に関する債務不履行に基づいて,販売車両の売買契約をも解除したと主張している。

イ 被告Oが負っていた債務の解釈について

被告Oと原告Aらとの間には,メロンパン販売事業に関するフランチャイズ契約を主たる内容とする賛助会員契約が締結されているところ,同契約に基づいて被告Oが原告Aらに対して負っている債務の内容については,やや判然としない面もあり,個々の債務の内容や程度について,検討することが必要となる。

その際には,賛助会員規約の条項を基礎として,その文言,メロンパン販売事業の性質,原告Aらが被告Oに対し支払っていたロイヤルティの額,Gによる前記1(2)ア(ア)に記載した説明内容などを勘案して当事者の合理的意思を解釈する必要があると考える。

ウ 販売先開拓義務について

(ア) 賛助会員規約第3条には,「パンの販売に関する業務に関して,本組合は色々な側面で賛助組合員をサポートする義務が有る。例えば,有力な販売先の開拓,賛助組合員がトラブルに巻き込まれたときの相談等」と記載されている。

この条項の文言によれば,被告Oの義務内容として,販売先を開拓し,賛助会員らに提供することが明示されているものといえる。

メロンパン販売事業は,販売車両を移動させてメロンパンを販売する事業であり,その収益を左右する要因として商品の品質及び販売先が大きな割合を占めるものというべきであり,被告Oが,各賛助会員から,月10万円の組合費のほかに,パン1個(120円)の売上に対し10円ものロイヤルティーを徴収していたことをも考慮すると,フランチャイザーとしての被告Oの責任は決して軽いものではなく,規約から解釈しうる合理的な意味内容は,Gによる一方的な説明やそれに対する原告Aらの無応答によっては変更されず,何らかの明示的な合意によってのみ変更されるべきものと解するのが相当である。

そして,販売先開拓義務に関するGの説明内容は,前記認定のとおりであるところ,Gによる説明の際に,原告Aらが,Gに対し,販売先は自主的に開拓するので,提供する必要がないと明示的に述べたことを認めるに足りる証拠はなく,結局,Gが原告Aらによる自主的な開拓を促していた趣旨は,営業活動に従事する者としての姿勢に言及したものといえるが,さらにすすんで被告Oが負っている有力な販売先を提供する義務までをも否定するものではないと解するのが相当である。

もとより,メロンパン販売事業者である原告Aらも,フランチャイジーとして,自ら経営責任を負っていることはいうまでもないが,メロンパン販売事業の性質や賛助会員規約における文言に照らせば,販売先開拓義務の内容を軽減することはできず,被告Oは,賛助会員からの求めに応じて随時に,また,いずれの賛助会員に対しても等しく,一定程度の集客が見込める場所を提供する義務を負っていたものであり,賛助会員数との兼ね合いも踏まえながら,そのような販売場所を量的にも,質的にも確保しておくことは,被告Oにおける販売先開拓義務の基本的な履行態様であったということができる。

(イ) そこで,被告Oによる債務の履行状況について検討する。

前記認定の事実によれば,被告Oにおいては,販売先として,泉中央のセルバ,長町のショッピングモール,中山のジャスコなどを有していたところ,これらの場所は,平成16年4月ころにおいて,1日あたり約800個ないし1000個の売上があったというのであり,有力な販売場所であったということができる。

しかるに,被告Oは,平成16年12月ころには,使用料の支払を怠ったために,メロンパンの販売先として確保していた泉中央のセルバを賛助会員らに提供することができなくなったのであるが,その際,他に同程度の集客が見込める販売先を確保することもできておらず,結果的に,賛助会員らに対し提供すべき有力な販売先の数を減らしていたものであり,その分,賛助会員らは,独自に,販売先を開拓せざるをえない機会が増加していた。被告Oは,原告Aら賛助会員から,毎月各10万円の組合費とパン1個の売上に対し10円ものロイヤルティーを徴収していたというのであるから,泉中央のセルバに対して使用料を支払うことは可能であったはずであり,被告Oによる使用料の不払いは,ひとえに同被告における怠慢であったといわざるをえない。平成16年12月という時期が,原告Aらにとって,メロンパン販売事業を開始してから未だ1年も経過していないころであり,原告Aらに対しては,特に,同人らの求めに応じて,随時にまた等しく,販売先を提供すべきであったことをも考慮すると,使用料の不払いにより,泉中央のセルバを販売先として失ったことは,被告Oにおいて,販売先開拓義務の基本的な履行態様すら怠っていたというべきである。

原告Aらの供述によれば,同人らは,被告Oにより販売先が提供されなくなったりしたことを踏まえて,自ら販売先を開拓せざるをえなくなったことを認めることができるのであって,決して,自ら被告Oに対し,販売先の提供を受けることを辞退したものと認めることはできない。福島県内において企業組合を立ち上げる計画があったとしても,被告Oに対し,販売先の提供を受けることを辞退する内容の意思表示があったものと認めることはできない。

以上によれば,被告Oは,販売先の提供を行っていなかったものというのが相当であり,原告Aらに対し,販売先開拓義務を履行したものとは認められない。

エ パン生地等の供給・品質保持義務

(ア) 賛助会員規約第3条には,「パンの販売に関しても必要な資材についても本組合から全量供給を行う」,「商品品質,商品の内容に関して,本組合が責任を享受する」と記載されている。

この条項の文言によれば,被告Oの義務内容として,供給するパン生地について,その供給量を確保するとともに,その品質についても責任を負うことが明記されているということができる。

メロンパン販売事業において,販売先に加え,販売するメロンパンの品質が,その事業の収益を左右する大きな要因であることは前記説示のとおりであり,被告Oにおける組合費等の徴収状況をも考慮すれば,被告Oは,賛助会員において一定程度の収益を上げることのできるメロンパン生地を供給すべき義務を負っていたものである。

もとより,被告Oは,フランチャイザーとして,メロンパン生地を供給する立場にあり,賛助会員規約上,供給すべき生地としてVの生地と限定すべき内容の条項は記載されていないのであるから,被告Oにおいて,製造元をVから他の業者へ変更することは可能であったということはできるものの,上記のように,被告Oは,賛助会員において一定程度の収益を上げることのできるメロンパン生地を供給すべき義務を負っていたのであり,Gが原告Aらに対し,Vの生地を供給する旨説明していたことをも考慮すると,製造元の変更によっても,同程度のメロンパン生地を供給できるように,パン生地の品質に関しては,慎重な管理を行うとともに,その品質変化を敏感に察知し,機敏に対応する義務を負っていたものというべきである。

(イ) そこで,被告Oによる債務の履行状況について検討する。

a 前記認定事実によれば,パン生地の製造元がVからUへと変わり,両社の製造する工程には,用いるミキサーのタイプや生地を分割する手法において差異が認められた。また,原材料の点からみても,平成16年12月ころには,Uが製造するパン生地には,「香料,膨張剤」が加えられるようになり,ビス生地の厚さの点でも,両社の製造する生地には違いが認められた。VからUへと移行する段階で,Hが,Uにおける製造工程を指導,監修していたことは前記認定のとおりであるが,そのような指導,監修を考慮しても,製造場所のみならず,製造工程そのものの変化により,製造されるメロンパン生地の味が変化したことは容易に推認できるところである。

このことは,被告Oが,Vの生地とUの生地とを仕入れていた頃,賛助会員のうち,メロンパン販売事業を開始して間がない会員とメロンパン生地に関するクレームを多く述べる会員にはVの生地を供給するように手配しており,被告O自身が,意識的に,Vの生地とUの生地とを区別していたことからも推認することができる。

b 原告Aらにおける1日あたりの売上は,それぞれ,メロンパン販売事業を開始したころには,800個から1000個であったものが,平成16年5月ないし6月ころからは徐々に減少し,平成16年11月ころ以降においては,多くても300個,平均するならば,約200個前後にまで減少していたところ,Vの生地からUの生地へと変わった平成16年5月ころ以降,原告A,同C,同Dといった複数の賛助会員において,顧客から,メロンパンの味が落ちたとの指摘を受けていたことや,原告Aらにおける焼き方・販売手法は,個々人の差があるにしても,おおむね同じ態様によるものであって,特別に売上を低下させるべき要因となっていたとは認められないことなどを考慮すると,メロンパン生地の味の変化は,売上を低下させた大きな要因であったということができる。

c Gは,平成16年夏ころや,同年10月ないし11月ころには,JやUの職員とともに,メロンパン生地の品質を検討し,あるいは,原告Aらを含む賛助会員に対し,メロンパンの焼き方を指導していたものであるが,このようなGによる対策によっても,原告Aらにおける売上が改善されたことはなかったのであって,メロンパン生地の味が変化したことによって売上が低下したことに対する充分な対策がなされていたものとはいえない。

d 以上によれば,上記のようなメロンパン生地の味の変化は,原告Aらにおけるメロンパン販売事業の売上推移に対し決定的な要因であったものであり,しかも,そのような味の変化は,原告Aらがメロンパン販売事業を開始して2,3か月しか経過していないころから始まっており,被告Oが対応策を講じても売上が低下し続け,平成16年11月以降は,売上が300個に達しない日が続いていたのであるから,被告Oは,賛助会員数が増加し,メロンパンの販売が伸展する過程において,供給するメロンパン生地の品質を維持するために尽くすべき義務を怠っていたというべきであり,同被告には,パン生地等の供給・品質保持義務の違反があったといわざるをえない。

オ 販売車両台数の調整義務について

原告らは,被告Oが,原告Aらに対し,他に賛助会員を増やさないような義務を負っていたと主張する。

しかしながら,賛助会員規約には,この車両台数に関する明確な条項はないうえ,前記認定事実によれば,Gによる説明において,販売車両の台数に関しては,原告Aらに対する賛助会員契約の締結への動機付けを企図したものとしてのニュアンスが強いのであり,また,賛助会員契約が一種のフランチャイズ契約であることをも考慮すると,被告Oは,原告Aら等の既会員らによるメロンパン販売事業に特段の支障を生じさせない限り,被告O自らの経営判断により,販売車両の台数を調整することができたものと解するのが相当である。

そして,被告Oでは,最終的に,販売車両を16台にまで増加させていたところ,かかる台数の増加が,抽象的には原告Aらの営業範囲を狭めていたということはできるものの,原告Aらによるメロンパン販売事業に対し,特段の支障を生じさせていたことを窺わせる事実は認められない。

したがって,被告Oは,販売車両の台数に関し,原告Aらに対する債務不履行責任を負わない。

カ 収益支援義務について

原告らは,被告Oが,原告Aらに対し,1日の売り上げとして,700個ないし1000個が維持できるようにすべき義務を負っていたと主張する。

しかし,賛助会員規約には,具体的な数値を示した収益の維持に関する明確な条項はないうえ,メロンパン販売事業が,あくまでも不特定多数の顧客を相手として,世間的注目の強弱や季節,時間の変化といった多くの不確定要素を抱えながら展開されるべき業務であることに鑑みれば,前記認定のGによる説明内容は,やや偏って強調された面があるにせよ,依然として,収益の見込みを説明していた趣旨として解釈するのが相当であり,被告Oが,原告Aらに対し,原告ら主張のような高水準の収益を保証する内容の合意があったものと認めることはできない。

したがって,原告らが主張する収益支援義務の具体的な内容については,上記ウ及びエにおいて検討したとおり,原告Aらによるメロンパン販売事業が円滑に遂行されるように,販売先を提供し,良質なパン生地の供給を継続することを通じて履行される限度においての意味にとどまるものと解すべきである。

キ 検討

(ア) 以上によれば,被告Oは,原告Aらに対し,遅くとも平成16年12月の時点では,賛助会員契約に基づく上記販売先開拓義務及びパン生地等の供給・品質保持義務の履行を怠っていたものとして,債務不履行責任を負うというべきである。

よって,原告Aらによる被告Oに対する賛助会員契約に基づく債務不履行に基づいた解除の意思表示は有効なものというべきである。

(イ) そこで,賛助会員契約の解除の効力を販売車両の売買契約についても及ぼすことができるのかについて検討する。

上記(ア)において検討した被告Oの債務不履行は,賛助会員契約に基づいてメロンパン販売事業を展開する段階における債務に関するものということができるところ,既に説示したとおり,賛助会員契約と販売車両の売買契約とが,メロンパン販売事業を展開する段階や解消する段階において,密接な関連性を有しているとまではいえないことを考慮すると,被告Oによる債務不履行に基づく解除の効力は,被告Rが被告Oによる債務の履行を妨害した等の特段の事情のない限り,販売車両の売買契約には及ばないと解すべきである。

この点,前記認定事実によれば,被告Rにおいて,被告Oによる販売先開拓義務やパン生地等の供給・品質保持義務の各履行を妨害した等の事情を認めることはできない。

したがって,賛助会員契約の解除の効力は,販売車両の売買契約に及ばないというべきである。

ク 小括

以上によれば,販売車両の売買契約について,債務不履行を理由とする解除の主張には理由がない。

(3)  詐欺を理由とする取消,錯誤を理由とする無効について

ア 原告らは,販売車両の売買契約について,詐欺を理由とする取消や錯誤を理由とする無効を主張している。

イ 錯誤の内容について

(ア) 原告らは,原告Aらが,販売車両を購入する際に,その内訳などを明確に知らされることなく,G及び同人を介した被告Rによって,購入代金が不当に水増しされており,その結果,原告Aらが,購入する販売車両一式の価値を正しく把握しないまま売買契約を締結するに至った旨主張している。

(イ) ところで,前記認定事実によれば,原告Aらは,Gから,購入する販売車両一式の販売代金として総額520万円であることについては,知らされていたというのである。

この520万円について,原告らは,被告Rにおいて不当に水増ししていたのではないかと主張するが,かかる事実を裏付ける証拠はない。

原告らは,見積書(甲A12の2,乙C1)における記載内容の不整合を重視しているようであるが,被告Rにおいては,販売車両一式の価格として520万円ないし525万円を定め,その内訳については,各購入者ごとの希望や陸送費などの事情により,改定しているものである(K50頁)から,被告Rによる不当な水増しを認めるべきものとはいえない。

したがって,原告Aらが,販売車両の購入契約について,要素の錯誤に陥っていたとはいえず,また,その意思表示に瑕疵があったともいえない。

ウ 小括

以上によれば,原告らの詐欺を理由とする取消,錯誤を理由とする無効の主張には理由がない。

(4)  特商法に基づくクーリングオフないし取消について

ア 原告らは,賛助会員契約・販売車両の購入契約について,特商法が定める業務提供誘引販売取引に該当すると主張する。

イ 業務提供誘引販売取引とは,業務提供利益を収受しうることをもって顧客を誘引し,特定負担を伴う,商品の販売・あっせん又は役務の提供・あっせんにかかる取引をいい,業務提供誘引販売業者が自ら提供を行い,又はあっせんを行うものに限られることとされている。これは,業務を提供・あっせんすることにより,利益の収受が販売業者の影響下にあることとなり,利益を収受しうるという勧誘がそれだけ消費者に対する誘引力を高くするからと解される。

ウ 本件におけるメロンパン販売事業では,賛助会員契約の内容として,被告Oが,原告Aらに対し,有力な販売先を提供し,パン生地等を供給し,品質を保持する義務を負っていることは前記検討のとおりであるものの,他方で,賛助会員契約がフランチャイズ契約の一種であり,メロンパンの販売対象があくまでも不特定多数の者であることを考慮すれば,被告Oから提供された業務内容によっては,原告Aらに対し,賛助会員契約・販売車両の売買契約を締結することを強く誘引していたものとはいえないと言うべきである。

エ したがって,本件においては,賛助会員契約・販売車両の売買契約は,特商法が定める業務提供誘引取引には該当しない。

(5)  原告Aらの被告P及び被告Qに対する債務の存否について

ア 以上(1)から(4)までにおいて検討したとおり,販売車両の売買契約について,その効力の発生を障害し,又は効力を消滅させるべき原告らの主張は,いずれも理由がない。

したがって,原告Aらは,被告P及び被告Qに対して抗弁事由を有していない。

イ 原告らは,被告P及び被告Qにおいては,その立替払契約の締結において,契約書上,手数料や総支払額等を明記しておらず,不備が存在したのであるから,同被告らが,原告らに対し,債務の存在を主張するのは信義則に反すると主張する。

しかし,前記認定事実によれば,原告Aらは,被告Pないし被告Qの担当者から,立替払契約の内容に関し,商品購入の意思確認,支払の意思確認を受けていたのであり,原告Bを除く原告Aらにおいては,契約書の記載内容から,各月の支払合計額と支払回数とを掛け合わせることにより,その支払総額を確認することは可能であったのであり,原告Bにおいては,契約締結前に,その支払総額の説明を受けていたのであるから,いずれにしても,被告Pないし被告Qが原告らに対し,債務の存在を主張することが信義則に違反するというに足りる事実はない。

したがって,原告らの主張は理由がない。

ウ 小括

以上より,原告らの被告P及び被告Qに対する債務不存在請求に関しては,原告らの主張には,いずれも理由がない。

(6)  加盟金,組合費,決算利息余剰金の配当について

ア 加盟金について

前記認定事実によれば,Gが,原告Aらに対し,賛助会員規約の文言と異なる取扱いをする旨説明したことを認めることはできない。

よって,原告A,原告B,原告C及び原告Dは,被告Oに対し,加盟金の返還請求権に基づいて,各自,35万円の返還請求権を,原告Eは,同被告に対し,50万円の返還請求権を有している。

イ 組合費について

原告Aらは,組合費の返還を請求しているところ,組合費は,賛助会員契約に基づく被告Oからの債務の履行を受領することに対する対価としての性質を有するものであり,賛助会員契約が継続的契約の一種であることをも考慮すると,被告Oが,自らの債務を履行しなかった期間について,その返還義務を認めるのが相当であると解する。

前記認定事実及び検討によれば,遅くとも,平成16年12月以降については,被告Oは,自らの債務を履行していなかったものというべきである。

したがって,原告Aらは,被告Oに対し,同月以降に支払った組合費の返還請求権を有している。

そうすると,原告A,原告B及び原告Cは,平成17年2月に支払った5万円について,原告Dは,平成16年12月から平成17年3月までの間に支払った11万1380円について,それぞれ,被告Oに対して返還請求権を有している。

ウ 決算利息余剰金の配当について

賛助会員規約6条は,「毎事業年度の利益余剰金(毎事業年度末決算において総利益から総損金を控除した金額)に前期の繰越利益又は繰越損益失を加減したものから,総会の決議によりこれを組合員・賛助会員に配当致します。」と規定し,7条は,「毎事業年度末にそれぞれ加盟出資額に応じた(変動 上限年率10%)金額を決算利益余剰金として指定銀行口座に振込を致します。」と規定している。

前記認定事実のとおり,Gが,原告Eに対し,上記規約の文言と異なる取扱いをしている旨説明したことを認めることはできない。

そこで,上記規約に基づいて,配当されるべき決算利益余剰金の額について検討するところ,結局,平成16年度における被告Oの利益余剰金額を認めるに足りる証拠はない。

したがって,原告Eの主張には理由がない。

(8)  損害賠償義務の存否について

ア 被告O対する請求について

(ア) 原告Eは,被告Oに対し,賛助会員契約の債務不履行に基づいて,損害賠償として,平成16年12月から平成17年10月までの月間純利益相当分の支払を求めている。

(イ) 前記説示のとおり,被告Oは,平成16年12月ころ以降,賛助会員契約に基づく債務を履行しておらず,その結果,原告Eの売上も1日あたり平均して約200個に減少していたのであるから,自らの債務を履行していたならば原告Eが得られたであろう利益について,損害賠償義務を負うべきものである。

(ウ) そこで,原告Eに生じた損害額について検討する。

前記説示のとおり,メロンパンの売上が低下した要因として,被告Oが有力な販売先を提供しなかったことや,被告Oから供給されたメロンパン生地の品質が良好なものではなかったことが相応の要因を占めているものではあるが,他方で,世間的注目度の強弱や季節,時間の変遷などの諸事情も売上の高低に影響を与えるべき事情として考慮されるべきである。

ところで,メロンパン販売事業における損益分岐点について,証拠関係上,これを明確に認めることは困難であるが,1個あたりの純利益が30円前後であること,販売車両の購入代金が約520万円であり月々のローンの支払額が10万円前後であること,原告Bによる事業計画書の試算結果(甲C3)などを考慮すると,少なくとも,1日あたりの売上は,300個を満たす必要があると考えるのが相当である。

そこで,このような損益分岐点を基準としつつ,原告Eが,平成16年12月ころ以降もメロンパン販売事業を継続し,翌17年10月まで,1日あたりの売上が平均して約200個であったことや,1か月あたりの平均的な営業日数(20日前後)等本件にあらわれた諸般の事情を総合勘案するならば,損害額としては,民事訴訟法248条を適用して,100万円と認めるのが相当である。

(エ) 小括

以上より,原告Eは,被告Oに対し,賛助会員契約の債務不履行に基づいて,100万円の損害賠償請求権を有している。

イ 被告Rに対する請求について

(ア) 原告Eは,被告Rに対し,被告Oとの一体性ないし賛助会員契約と販売車両の売買契約との密接関連性を理由として,加盟金及び損害賠償額に相当する賠償の支払いを求めている。

(イ) 被告Rと被告Oとの関係については,前記説示のとおりであり,両者の間に,法律的な一体性を認めることはできない。

(ウ) 賛助会員契約と販売車両の売買契約との関係については,契約締結の段階においては,密接な関連性があるといえるところ,被告Rが,Gをいわば販売車両の販促に関して履行補助者として使用していたことをも考慮すると,被告Rは,原告Aらに対し,信義則上,Gによる販売車両の販促行為について,原告Aらが不測の損害を被らないように配慮する義務を負っていたということができる。

ところで,このような被告Rが負うべき信義則上の義務は,あくまでも,販売車両の販促行為に付随するものであるところ,販売車両が主としてメロンパン販売事業を展開するために改造された車両であり,一般的に,販売車両を購入する者としては,メロンパン販売事業の展開を予定する者を念頭においており,更に,販売車両の購入代金については,その高額性のゆえに,契約時に信販会社を利用するなどの借入を行い,メロンパン販売事業による収益から返済することが相当程度見込まれているのであるから,上記配慮義務の対象としては,商品である販売車両の品質や価格のみならず,信販会社を利用した場合の手数料,支払回数,支払額及び支払総額などの負債総額やメロンパン販売事業について収益を含めた展開見込みなども含まれると解されるが,他方,賛助会員契約に特有な加盟金の返還に関してまで及ぶものとはいえない。

したがって,加盟金の返還に関して,Gによる説明が不十分であったとしても,それに基づいて,加盟金に相当する額について,被告Rに対し,損害賠償の支払を求めることはできないというべきである。

(エ) 他方,メロンパン販売事業を展開し,解消する段階においては,両契約の間に密接な関連性を認めることはできないのであるから,賛助会員契約における債務不履行を理由として,販売車両の売買契約の相手方である被告Rに対する損害賠償の支払を求めることはできないというべきである。

(オ) 小括

以上より,原告Eの主張には理由がない。

3  結論

以上検討したところによれば,原告らの本訴請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 沼田寛 裁判官 伊澤文子 裁判官 小川貴紀)

(別紙1及び別紙2省略)

file_2.jpg別紙1

file_3.jpg別紙2

file_4.jpg別紙3

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