仙台地方裁判所 平成18年(行ウ)4号 判決 2008年3月24日
主文
1 被告は,補助参加人民主フォーラムに対し,279万5860円を請求せよ。
2 被告は,補助参加人グローバルネット仙台に対し,196万4631円を請求せよ。
3 被告は,補助参加人無所属に対し,1万3054円を請求せよ。
4 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は,原告と被告との間に生じたものは,これを5分し,その4を原告の負担とし,その余を被告の負担とし,参加により生じた費用は,原告に生じた費用の8分の2と補助参加人民主フォーラムに生じた費用の5分の4を同補助参加人の負担とし,原告に生じた費用の8分の2と補助参加人グローバルネット仙台に生じた費用を同補助参加人の負担とし,原告に生じた費用の8分の1と補助参加人無所属に生じた費用の5分の1を同補助参加人の負担とし,その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告は,補助参加人みらい仙台に対し,285万4298円を請求せよ。
2 被告は,補助参加人民主フォーラムに対し,302万9376円を請求せよ。
3 被告は,補助参加人自由民主党・市民会議に対し,166万2823円を請求せよ。
4 被告は,補助参加人公明党に対し,162万9998円を請求せよ。
5 被告は,補助参加人社会民主党仙台市議団に対し,82万5229円を請求せよ。
6 被告は,補助参加人グローバルネット仙台に対し,196万4631円を請求せよ。
7 被告は,補助参加人無所属に対し,18万3323円を請求せよ。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は,仙台市(以下,「市」という。)の住民により構成された権利能力なき社団である原告が,市議会内の会派である各補助参加人が,市から交付された政務調査費を,市の条例等に規定される使途基準等に反して選挙活動等の使途に充てたのであるから,被告は,当該政務調査費につき各補助参加人に対して不当利得返還請求権を行使すべきであるにもかかわらずこれを怠っているとして,被告に対し,地方自治法(以下,「法」という。)242条の2第1項4号本文に基づき各補助参加人に対し返還請求をすることを求めた事案である。
2 争いがない事実
証拠(事実ごとに後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 当事者等
ア 原告は,地方行財政の不正を監視,是正すること等を目的として結成された権利能力なき社団であり,市の住民により構成されている(前段は争いなし,後段は弁論の全趣旨)。
イ 被告は,仙台市の市長である。
ウ 各補助参加人は,市議会議員によって構成される市議会内の会派である(争いなし)。
なお,補助参加人無所属は,政務調査費交付制度との関係では,「無所属」との名称で届出された会派である(甲1の7,2の7)。
(2) 市における政務調査費交付制度の概要
ア 法100条
13項
普通地方公共団体は,条例の定めるところにより,その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として,その議会における会派又は議員に対し,政務調査費を交付することができる。この場合において,当該政務調査費の交付の対象,額及び交付の方法は,条例で定めなければならない。
14項
前項の政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費に係る収入及び支出の報告書を議長に提出するものとする。
イ 仙台市政務調査費の交付に関する条例(平成13年仙台市条例第33号。以下,「本件条例」という。)は,法100条13項及び14項を受けて,以下のとおり規定する(甲3,乙A1)。
1条(趣旨)
この条例は,地方自治法第100条第13項及び第14項の規定に基づき,市議会議員の市政に関する調査研究に資するため必要な経費の一部として政務調査費を交付することに関し必要な事項を定めるものとする。
2条(交付対象)
政務調査費は,市議会における会派(所属議員が1人の場合を含む。)に対して交付する。
3条(交付額及び交付の方法)
1項
政務調査費は,4月から起算する四半期ごとに交付するものとし,その額は,各四半期の初日における会派の所属議員数に38万円及び各四半期に属する月数を乗じて得た額とする。ただし,四半期の中途において議員の任期が満了するときは,任期の満了する日の属する月(その日が月の初日であるときは,その日の属する月の前月)までの月数分を交付する。
2項
政務調査費は,各四半期の初日の属する月の5日に交付する。
5条(使途基準)
会派は,規則で定める使途基準に従って政務調査費を支出するものとし,必要経費以外に充ててはならない。
8条(交付決定)
市長は,会派から交付申請書の提出(6条)を受けたときは,交付する政務調査費の額を決定し,当該会派の代表者に対し通知するものとする。
9条(収支状況報告書の提出)
3項
議員の任期が満了したときは,政務調査費の交付を受けた会派の経理責任者であった者は,当該議員の任期が満了した日の属する年度に交付を受けた政務調査費に係る収入額及び支出額を記載した報告書(以下,「収支状況報告書」という。)を作成しなければならない。
4項
前項の会派の代表者であった者は,収支状況報告書を議員の任期の満了した日の属する翌月(その日が月の初日であるときは,その日の属する月。次条第2項において同じ。)までに議長に提出しなければならない。
5項
議長は,提出された収支状況報告書の写しを市長に送付するものとする。
10条(政務調査費に残余がある場合の返還手続)
2項
議員の任期が満了したときは,政務調査費の交付を受けた会派の代表者であった者は,当該議員の任期が満了した日の属する年度において交付を受けた政務調査費の総額からその年度において必要経費として支出した額を控除して得た額に残余がある場合には,当該任期の満了した日の属する月の翌月の末日までに当該残余の額に相当する額を市長に返還しなければならない。
11条(収支状況報告書の保存)
議長は第9条4項の規定により提出された収支状況報告書を,これを提出すべき期限の翌日から起算して5年を経過する日まで保存しなければならない。
ウ 仙台市政務調査費の交付に関する条例施行規則(平成13年仙台市規則第32号。以下,「本件規則」という。甲4)
2条(政務調査費の使途基準,以下,「使途基準」という。)
条例第5条に規定する使途基準は,次の各号に定める項目ごとに当該各号に定めるところによる。
1 調査研究費 市の事務事業及び地方行財政に関する調査研究及び調査委託に要する経費
2 研修費 研修会,講演会等の実施に要する経費及び各種団体が開催する研修会,講演会等への所属議員等の参加に要する経費
3 各種会議に要する経費
4 資料作成費 議会審議に必要な資料の作成に要する経費
5 資料購入費 調査研究のために必要な図書,資料等の購入に要する経費
6 広報広聴費 議会活動及び市政に関する政策等の広報及び広聴活動に要する経費
7 人件費 調査研究を補助する者の雇用に要する経費
8 事務所費 調査研究のために必要な事務所の設置及び管理に要する経費
9 その他の経費 上記各項目に掲げるもののほか会派の行う調査研究に要する経費
エ 仙台市政務調査費の交付に関する要綱(平成13年3月27日議長決裁。以下,「本件要綱」という。甲5,乙A2)
2条(政務調査費の対象外の経費,以下,「対象外経費」という。)
政務調査費は,次の各号に掲げる経費に充ててはならない。
1 交際費的な経費
2 政党本来の活動に要する経費
3 会議に伴う食事以外の飲食及び遊興に要する経費
4 レクリエーション等の経費
5 選挙活動に要する経費
6 規則2条に規定する使途以外で議員個人に支給するもの
7 その他市政に関する調査研究の目的に合致しないもの
4条(経理責任者の担任事務等)
1項
会派の代表者は,経費の支出決定を行うとともに政務調査費の適正な執行に努めなければならない。
2項
経理責任者は,政務調査費の出納事務をつかさどり,帳簿書類,領収書等を管理しなければならない。
5条(支出手続)
1項
経理責任者は,当該会派の代表者の決定を経て経費を支出するものとし,支出に当たっては領収書を徴収しなければならない。
2項
経理責任者は,前項に規定する領収書を徴収することができないときは,当該会派の代表者の支払証明書が添付されなければ支出をすることができない。
6条(会派内における政務調査費の支出手続等)
1項
会派の代表者は,当該会派の所属議員が行う調査研究に関して,調査の目的,方法及び期間等を定めなければならない。
2項
調査研究を行った議員は,所属会派の代表者に対し調査研究期限後,速やかに,調査研究報告書により調査研究の内容及び経費の内訳を報告しなければならない。
4項
会派の代表者は,当該会派の所属議員を調査研究等のため市域外へ宿泊を伴う出張をさせる場合は,調査出張届出書を議長に提出しなければならない。
7条(執行状況の報告)
1項
政務調査費の交付を受けた会派の代表者は,収支状況報告書のほか,交付を受けた政務調査費の執行状況に関する報告書を,4月から9月まで及び10月から翌年3月までの各半期ごとに当該半期満了の日の翌日から45日以内に議長に提出するものとする。
2項
議長は,市長に対し,収支状況報告書を送付するときは,前項に規定する半期ごとの執行状況報告書の写しを添付するものとする。
8条(報告内容の検査及び修正)
1項
議長は,収支状況報告書の提出を受けたときは,その内容を検査し,必要があると認めるときは会派の代表者に対して証拠書類等の資料の提示を求めることができる。
2項
議長は,収支状況報告書の内容が不適正であると認めるときは,その修正を命ずることができる。
(3) 被告は,平成15年4月,各補助参加人に対し,四半期分(後記のとおり,同年5月1日に議員の任期が満了することから,本件条例3条1項ただし書きにより,乗ずる月数は1である。)の政務調査費を交付した(以下,「本件政務調査費」という。弁論の全趣旨)。
(4) 平成15年4月13日,市議会議員選挙の投票が行われた(以下,「本件選挙」という。争いなし)。
本件選挙当時において,市議会議員であった者の任期満了日は同年5月1日であった(弁論の全趣旨)。
(5) 本件政務調査費に関し,任期満了に伴って各補助参加人ごとに作成された平成15年度の政務調査費収支状況報告書に記載された支出科目,金額,支出の内訳等のうち,本件訴訟において原告が不適正な支出と主張する部分に関連するものは以下のとおりである(各括弧内は支出の内訳等を示す。なお,「本件政務調査費の支出」とは,各会派における具体的支出をいう。)。
ア 補助参加人みらい仙台
(ア) 調査研究費
(調査研究に要した経費 184万3751円)
(イ) 人件費
(臨時調査研究補助者 40万5650円)
(ウ) その他の経費
(通信費 51万2163円)
(雑費等 20万7734円)
イ 補助参加人民主フォーラム
広報広聴費 302万9376円
ウ 補助参加人自由民主党・市民会議
その他の経費
(備品購入・リースに要した経費 125万8391円)
(通信費 8万6177円)
(雑費等 31万8255円)
エ 補助参加人公明党
(ア) 調査研究費 79万7941円
(イ) 人件費
(臨時調査研究補助者 11万円)
(ウ) その他の経費
(備品購入・リースに要した経費 43万2020円)
(雑費等 31万8137円)
オ 補助参加人社会民主党仙台市議団
(ア) 人件費
(臨時調査研究補助者 31万6320円)
(イ) その他の経費
(備品購入・リースに要した経費 16万0771円)
(通信費 25万7046円)
(雑費等 9万1092円)
カ 補助参加人グローバルネット仙台
(ア) 調査研究費 155万5000円
(イ) その他の経費
(備品購入・リースに要した経費 6万8000円)
(通信費 16万7721円)
(雑費等 17万3910円)
キ 補助参加人無所属
(ア) 人件費
(常勤調査研究補助者 15万円)
(イ) その他の経費
(備品購入・リースに要した経費 10万8323円)
なお,この内訳は,以下のとおりである。
a 充電器代(平成15年4月21日購入) 2079円(乙H2の1)
b お茶代(同月22日購入) 2000円(乙H2の1)
c 茶器代(同月25日購入) 1万7850円(乙H2の3)
d 電気ポット代(同月30日購入) 6258円(乙H2の4)
e モバイルプリンター,充電器,インク代(同日購入) 8万0136円(乙H2の5)
(6) 各補助参加人が作成した平成14年度分の収支状況報告書のうち,(5)に摘示した支出科目,金額,支出の内訳等に相当する箇所の記載内容は以下のとおりである。
ア 補助参加人みらい仙台
(ア) 調査研究費
(調査研究に要した経費 2744万2595円)
(イ) 人件費
(臨時調査研究補助者 136万1000円)
(ウ) その他の経費
(通信費 162万1670円)
(雑費等 109万3333円)
イ 補助参加人民主フォーラム
広報広聴費 636万8631円
ウ 補助参加人自由民主党・市民会議
その他の経費
(備品購入・リースに要した経費 491万9599円)
(通信費 92万4882円)
(雑費等 74万3594円)
エ 補助参加人公明党
(ア) 調査研究費 1261万9943円
(イ) 人件費
(臨時調査研究補助者 137万4000円)
(ウ) その他の経費
(備品購入・リースに要した経費 266万6096円)
(雑費等 317万7703円)
オ 補助参加人社会民主党仙台市議団
(ア) 人件費
(臨時調査研究補助者 336万4038円)
(イ) その他の経費
(備品購入・リースに要した経費 125万8445円)
(通信費 150万3624円)
(雑費等 61万1783円)
カ 補助参加人グローバルネット仙台
(ア) 調査研究費 1707万5000円
(イ) その他の経費
(備品購入・リースに要した経費 18万円)
(通信費 249万6980円)
(雑費等 221万7410円)
キ 補助参加人無所属
(ア) 人件費
(常勤調査研究補助者 180万円)
(イ) その他の経費
(備品購入・リースに要した経費 38万7577円)
(7) 住民監査請求
原告は,平成15年8月25日,市監査委員に対し,本件政務調査費について,法242条1項の監査請求をした(以下,「本件監査請求」という。)が,市監査委員は,請求の対象の特定を欠いて不適法であるとして,同年9月19日付けでこれを却下した(甲9)。
(8) 原告は,平成15年10月17日,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。
3 争点
(1) 本件訴えの適法性について
(2) 本件政務調査費の支出に違法,不当な支出が含まれるか。
4 争点に対する当事者の主張
(争点(1)について)
(1) 補助参加人らの主張
原告は,被告の不作為の違法性を主張しているのであるから,その違法性を根拠づける事実を個別具体的に特定して主張すべきである。
しかるに,原告は,単に自らの疑念を表明しているか,あるいは憶測を述べているに過ぎず,請求原因を特定して主張していない。
したがって,原告の本訴請求は,特定を欠くものとして,却下されるべきである。
(2) 補助参加人みらい仙台の主張
本件監査請求に係る仙台市長措置請求書(以下,「本件措置請求書」という。)において,臨時調査研究補助者分が目的外支出である旨の具体的な記載はないから,原告の訴えは適法な監査請求を経ておらず,不適法である。
(3) 補助参加人公明党の主張
臨時調査研究補助者分の支出については,原告が住民監査請求を経ていないから,原告の訴えは不適法である。
(4) 原告の主張
ア 本訴請求は,法242条1項所定の事項のうち「違法若しくは不当に公金の賦課若しくは徴収若しくは財産の管理を怠る事実」(怠る事実)であるところ,不可分一体のものとして交付された政務調査費のうち被告が返還請求を怠っている部分を特定すべき指標は存在しないのであるから,原告の請求は,特定としては十分である。
イ 補助参加人みらい仙台及び同公明党は,臨時調査研究補助者分の支出については住民監査請求を経ていないと主張するが,いずれの費用についても住民監査請求の対象となっている。
(争点(2)について)
(1) 原告の主張
ア 政務調査費は,公益上必要がある場合にのみ支出されるべきものであり,また,「市議会議員の市政に関する調査研究に資するため」に交付されるものであるから,調査にあたっては,調査研究項目と市政との関連性が明確にされる必要があって,市政に関する調査研究に資するため必要な経費に充てられない場合には,政務調査費の支出が違法となる。なお,使途基準にいう「調査研究費 市の事務事業及び地方行財政に関する調査研究及び調査委託に要する経費」とは,調査研究に要する旅費及び委託に要した経費をいうと解すべきである。
イ(ア) 本件では,原告において,本件政務調査費の支出についてその具体的使途を特定して調査研究に資するため必要な経費に充てられなかったことを主張立証するまでの必要はなく,それを推認させる間接事実によって一応の推定に達した場合であれば,被告及び各補助参加人において,その推認を妨げるべく,市政に関する調査研究に資するため必要な経費に充てられたものと認めるに足りる具体的な使途を主張立証すべきである。
すなわち,被告及び各補助参加人において,①選挙期間外の政務調査活動に関する資料を書証として提出し,②これを補足する説明を具体的になし,③選挙期間中に政務調査をしなかったにもかかわらず選挙期間外の調査で政務調査費を全額費消した合理的事情を個別具体的に説明すべきである。そして,この説明については,当該調査報告書,帳簿書類,領収書,当時の手帳やメモを提出して立証すべきであり,きちんと調査研究をしてさえいれば,このような説明はいとも簡単なのである。
(イ) 本件選挙の投票日は平成15年4月13日であったから,現職候補として同選挙に立候補した市議会議員は,同月のうち少なくとも半分の期間は,選挙活動に専念したはずである。そして,選挙活動に要する経費は対象外経費であるから,各補助参加人における同月の政務調査費の支出は,いずれの科目も,原則として,選挙の実施されない年における年度支出額の24分の1(4.2%)程度であってしかるべきである。
したがって,本件政務調査費の支出額が,平成14年度の支出額と比較して,24分の1以上である場合には,本件政務調査費が調査研究に資するため必要な経費に充てられなかったことが推認される。
(ウ) 本件条例11条(収支状況報告書の保存),本件要綱8条(報告内容の検査及び修正)の定めによれば,議長は,収支状況報告書を保管している5年の間は,報告書の検査義務を負うとともに会派代表者に対し証拠書類等の資料の提示を求めることができ,その反面,会派代表者には,議長が収支状況報告書を保管している5年間は,議長から証拠書類等の資料の提示を求められた場合に備えて,証拠書類等の資料を保管する義務があると解することができる。会派代表者の証拠書類等の保存義務は明文で定められていないものの,議長の検査義務と会派代表者の証拠書類等の保存義務とは表裏の関係にあるのであるから,本件条例,本件要綱の定めから会派代表者の証拠書類等の保存義務を導き出すことは可能である。
そうすると,議長が収支状況報告書を保管している5年の間に,証拠書類等を廃棄し,又は各議員に返却する行為は,本件条例・本件要綱に明らかに違反するものであって,政務調査費に関して,証拠書類等の客観的資料に基づく説明を放棄する行為といえる。
したがって,証拠書類等を廃棄・返却した場合には,政務調査費の支出が違法であるとの推定を受けるべきである。
(エ) 仙台市においては,本件条例及び本件要綱によって政務調査費の使途基準の細目が定められ,収支状況報告書の整理・保管の義務づけがなされているうえ,帳簿書類,領収書等の管理義務が定められていることに鑑みれば,当該議員が政務調査研究活動に資するために必要な費用として支出したことについて資料を提出せず,これを補足する具体的な説明も行わない場合には,その金額や使途等からみて資料の提出やこれを補足する説明を行うまでもなく政務調査費であろうと社会通念上推認されるような支出を除き,これを正当な政務調査費の支出であると認めるべきではない(青森地裁平成18年10月20日判決(甲15)同旨)。
したがって,補助参加人らは,証拠書類等を保存している以上証拠として提出すべきであり,証拠書類等を提出しない場合は,それだけで違法支出の推定を受けるというべきである。
ウ 以上を前提とすると,本件政務調査費の支出には,以下の(ア)から(キ)までのとおり,違法,不当な支出が含まれている。
(ア) 補助参加人みらい仙台 合計285万4298円
a 各支出科目について,以下に述べるような不明な点がある。
(a) 調査研究に要した経費 172万8751円
本件政務調査費において,調査研究に要した経費は184万3751円とされるところ,平成15年4月における出張届は,H議員の釧路市出張(4月23日,24日)のみであって,その旅費及び経費(旅費の1割)は多くとも11万5000円である。
また,補助参加人みらい仙台は,証人Aの平成15年4月における政務調査活動について別紙2のように主張するが,証人Aの供述によれば,同人の2回の東京出張(18日,24日)及び補助者1回の東京出張(20日)の目的は,既に決算済みの国の予算がどこについたのかを確認するというものであり,「調査研究」の名に値しないことは明らかである。
その他に誰がどのような調査研究をしたのか不明である。
よって,調査研究に要したと主張する184万3751円と旅費及び経費として支出したうちの多くとも11万5000円との差額である上記金額は目的外支出である。
(b) 臨時調査研究補助者 40万5650円
平成14年度支出額(136万1000円)と比較するとその約3分の1弱であって,異常に高額であるにもかかわらず,各議員が誰を何のために雇って,補助者にどのような研究を補助させたのかに関する各議員毎の内訳が明らかになっておらず,実際に雇ったことやそれが調査・研究目的であったことを裏付ける資料も提出されていない。
(c) 通信費 51万2163円,雑費等 20万7734円
平成14年度支出額(通信費 162万1670円,雑費等 109万3333円)と比較すると,通信費はその約3分の1弱,雑費はその約5分の1弱であって,異常に高額であるにもかかわらず,実際に政務調査を目的とした雑費,あるいは通信費として支出されたことを裏付ける資料を提出していない。
b 補助参加人みらい仙台は,各議員から提出された調査研究報告書,領収書等を議長検査の1年後に各議員に返却したと主張する。
調査研究報告書は各議員の行った調査研究活動とそれに要した費用の支出を立証する書類であるから,本来会派において保管しておくべきものである。それにもかかわらず,それを議長検査の1年後に各議員に返還したということは,もともとそのような報告書等は提出させておらず,経費の金額のみを提出させ,それをまとめて収支状況報告書を作成していたことが暴露されることを恐れての虚偽主張か,さもなくば住民訴訟で証拠提出を迫られ,政務調査費が本来の性格を離れ,議員が自由に使える「第二の歳費」化している実態が明るみに出るのを恐れて,手元に置いておかないようにするための工作のどちらかである。
したがって,調査研究報告書等の返却行為は,証拠隠滅行為ともいうべきものであり,平成15年4月に行われたとされる政務調査は,全て違法であるとの推定を受けるというべきである。
c したがって,上記合計金額は,選挙に使われた疑いが濃厚であって,目的外支出として違法である。
(イ) 補助参加人民主フォーラム 302万9376円
a 広報広聴費としての上記支出額は,平成14年度支出額(636万8631円)と比較するとその約2分の1弱であって,異常に高額であるにもかかわらず,支出を裏付ける資料は全く存在しない。
補助参加人民主フォーラムは,平成15年4月分の広報広聴費は,選挙前に作成した民主フォーラムニュース2002年11月号(以下,「2002年11月号」という。)を選挙後に配布したこと及び選挙後に作成した民主フォーラムニュース2003年4月号(以下,「2003年4月号」という。)の印刷費用と配布したことに伴う支出であると主張する。
しかし,選挙5か月前に印刷した2002年11月号は選挙を意識して作成され,選挙期間開始前に配布し終わっているはずであり,また,2002年11月号には本件選挙の際に落選した議員の顔写真が掲載されているため,本件選挙終了後2002年11月号を配布するとは考えられないから,2002年11月号を選挙後にまとめて配布したとの主張は不自然・不合理である。
b 補助参加人民主フォーラムは,平成15年4月分の政務調査に関し,同年5月30日に収支状況報告書を提出し,収支状況報告書添付の領収書を同年6月までに廃棄している。
同補助参加人は,平成13年度,平成14年度の政務調査費の支出について,原告から,住民監査請求,住民訴訟(以下,「別件訴訟」という。)を提起され,平成15年4月28日付で訴訟告知を受けていたのであるから,平成15年6月末までに本件政務調査費にかかる収支状況報告書添付の領収書を廃棄するのは極めて不自然であり,同補助参加人による廃棄行為は証拠隠滅行為ともいうべきものである。
c したがって,平成15年4月分の広報広聴費は,選挙前に作成したニュースを選挙後に配布したこと及び選挙後に作成したニュースの印刷費用と配布したことに伴う支出ではなく,選挙活動用の広報費等に政務調査費を流用したと考えられ,その全額である上記金額が目的外支出である。
(ウ) 補助参加人自由民主党・市民会議 合計166万2823円
a(a) 平成14年度支出額(備品購入・リースに要した経費 491万9599円,通信費 92万4882円,雑費等 74万3594円)と比較すると,備品購入・リースに要した経費はその約4分の1強,通信費はその約11分の1強,雑費等はその約2分の1弱であって,異常に高額である。
(b) 補助参加人自由民主党・市民会議は,本件政務調査費の支出に関し,その使途を明らかにしうる証拠があり,かつ容易に提出しうるにもかかわらず,敢えて提出せず,その提出しないことについても実質的な理由を答えない。このような応訴姿勢は,自らの主張を裏付ける証拠が実際には存在しないか,あるいは当該領収書がその主張を裏付けるものとはなっていないことを推認させるものである。
また,平成15年4月当時に,どのような調査・研究のために購入する必要があったのか具体的説明もなされていない。
(c) したがって,同補助参加人の支出は,選挙に使われた疑いが濃厚であって,使途の裏付けもないから,全額違法支出と認定されるべきである。
b 補助参加人自由民主党・市民会議の本件政務調査費の支出は,以下に述べるように,市政に関する調査研究に資するための必要な経費に充てられていないから,違法なものである。
(a) 証人Cはデジタルカメラを複数保有しているが,その内の1台分を政務調査費で支出したとする。
しかし,デジタルカメラは1台あれば私用にも議員活動用にも政務調査活動用にも使えるのであって,コピー機などと異なり家に1台,事務所に1台別々に存在しなければ活動に支障が出るという性格のものではない。また,証人Cの供述からも,付加的機能が必要だから新型を買ったというような事情も窺われない。
したがって,デジタルカメラ1台を既に所有しているのに,新たに政務調査費で購入することは適正な使途とは言えない。
(b) I議員(以下,「I議員」という。)は事務所に備え置くためのBSチューナー,DVDデッキなどの購入費を全額政務調査費から支出している。
しかし,DVDデッキは自宅に1台あれば政務調査に必要な番組も留守録できるのであるから,そもそも事務所用にもう1台購入する必要などない。
仮に必要があったとしても議員は議員活動が主なのであって事務所で政務調査のためにしかBS放送を見ないとか,DVDデッキを使わないなどということは考えがたい。
したがって,少なくとも購入費の2分の1ないし4分の1程度に按分して支出すべきである。
(c) J議員(以下,「J議員」という。)は,コピー機のトナー代を全額政務調査費から支出している。
しかし,当該コピー機は個人所有とされており,政務調査活動以外の活動でコピー機を使用することはないという特段の事情が認められない以上,他の議員活動や私的活動にも使用されたと見るべきである。
したがって,少なくとも購入費の2分の1ないし4分の1程度に按分して支出すべきである。
(d) 会派の支出として,議会内会派控室で使用するパソコン3台,FAX代,電話代などの購入費が按分されずに全額政務調査費から支出されている。
しかし,議会内会派控室とは,正に議員が議員として活動するための拠点であるからその備品は主として議員としての活動に使用されるものである。
したがって,少なくとも購入費の4分の1程度に按分すべきであった。
(エ) 補助参加人公明党 合計162万9998円
a 各支出科目について,以下に述べるような不明な点がある。
(a) 調査研究費 76万9841円
本件政務調査費において,調査研究費として79万7941円が計上されているが,平成15年4月における出張届は,証人Dの遠野出張(4月22日,23日)のみであり,その旅費及び経費(旅費の1割)は多くとも2万8100円程度であり,その差額である上記76万9841円については,具体的な調査内容が不明である。
(b) 人件費 11万円
平成14年度支出額(137万4000円)と比較すると,その約12分の1弱であって,異常に高額である。
補助参加人公明党は,会派の広報誌「タウン杜」の作成を事務員に依頼した費用,及び会派議員が議員個人でレポートを作成する場合等に生じるアルバイト費用の合計であると主張するが,具体的な主張とはいえない。
(c) その他の経費 75万0157円
平成14年度支出額(備品購入・リースに要した経費 266万6096円 雑費等 317万7703円)と比較すると,備品購入・リースに要した経費はその約6分の1弱,雑費等はその約10分の1であって,異常に高額である。
b 補助参加人公明党は,所属の各議員が政務調査研究活動に資するために必要な費用として支出したことについて,主張を裏付ける資料を提出せず,これを補足する具体的な説明も行わない。
c したがって,上記合計金額は,選挙に使われた疑いが濃厚であって,目的外支出として違法である。
(オ) 補助参加人社会民主党仙台市議団 合計82万5229円
a 平成14年度支出額(臨時調査研究補助者 336万4038円,備品購入・リースに要した経費 125万8445円,通信費 150万3624円,雑費等 61万1783円)と比較すると,臨時調査研究補助者分はその約11分の1強,備品購入・リースに要した経費はその約8分の1強,通信費はその約6分の1,雑費等はその約7分の1強であって,異常に高額である。
b 補助参加人社会民主党仙台市議団は,人件費及びその他の経費として支出した金額のうち,それを裏付ける資料としての領収書が存在すると回答した分について,その領収書を証拠として提出することを頑なに拒んでいる。また,適正な政務調査費の支出であることを補足する具体的な説明も行っていない。
c 証人Eは,平成15年4月に,同月及び翌5月発送分の切手代購入のために合計16万円を支出したと供述しているが,かかる支出は,本件条例3条1項の定めに反する駆け込み的支出であって,証人Eが本件条例に反するような支出も許されるとの認識を持っていることを示す事実であり,同補助参加人の違法支出を強く裏付けている。
d 証人Eの証言態度には原告に対する強い敵愾心が如実に表れており,自らを反省するという謙虚な態度は皆無である。このような証言態度自体,同補助参加人の不正支出を裏付けている。
e したがって,上記合計金額は,選挙に使われた疑いが濃厚であって,目的外支出として違法である。
(カ) 補助参加人グローバルネット仙台 合計196万4631円
a 平成14年度支出額(調査研究費 1707万5000円,備品購入・リースに要した経費 18万円,通信費 249万6980円,雑費等 221万7410円)と比較すると,調査研究費はその約11分の1,備品購入・リースに要した経費はその約3分の1,通信費はその約15分の1,雑費等はその約13分の1であって,異常に高額である。
b 補助参加人グローバルネット仙台は,平成15年4月分の政務調査に関し,収支状況報告書添付の領収書を同年7月上旬に廃棄した。同補助参加人は,他年度の政務調査費に関して,原告から,住民監査請求,住民訴訟を提起されていることを承知で,廃棄したのであるから,同補助参加人による廃棄行為は,証拠隠滅行為ともいうべきものである。
したがって,平成15年4月に行われたとされる政務調査は,全て違法であるとの推定を受けるというべきである。
c 平成15年4月における調査研究費は155万5000円であるところ,同月の調査研究費の支出は投票日後である同月14日以降のわずか2週間程度の間に行われ,1人当たりの金額も約25万9166円と多額であるにもかかわらず,その使途について,証人Fは分からない,記憶にない旨供述し,さらに,証人F自身の費消した調査研究費の金額及びその内訳についてさえも具体的な説明をしていない。
また,証人Fは,調査研究活動としてあすと長町のまちづくりを強調しているが,同証人は長町まちづくり市民懇話会の代表世話人であって,市民懇話会での活動が調査研究活動として政務調査費から支出されていた可能性も否定できない。
さらに,証人Fは,市民の声を聞くことを政務調査活動と位置付けているが,市民の声を聞くといった程度のことは議員として当然なすべきことであり,調査研究活動としてはより市政に関する具体的な課題についての詳細な「調査・研究」が求められているというべきであって,証人Fの認識は,結局のところ報酬の二重取りを許容するものである。
加えて,会派の議員同士での調査研究も実態のないものである。
d その他の経費として支出された40万9631円について,具体的かつ合理的な説明がされていない。
e したがって,上記合計金額は,選挙に使われた疑いが濃厚であって,目的外支出として違法である。
(キ) 補助参加人無所属 合計18万3323円
a 人件費 7万5000円
常勤調査研究補助者とは,証人Gの娘である訴外Lのことであって,平成15年4月中は,議会内の無所属会派証人Gの事務室(以下,「証人Gの事務室」という。)に専属して仕事をしていたところ,その仕事の内容は,専ら単なる議員活動のための事務員として電話番や連絡係をしていただけであり,政務調査活動とは何ら関連がない。
したがって,訴外Lの人件費を政務調査費から支出することは許されない。
b その他の経費 10万8323円
(a) お茶,コーヒー,湯沸かしポット,お茶の容器及び湯飲みは,証人Gの事務室で使用するために購入されたものであるところ,同事務室には,政務調査と関係のない者が訪問することもあるばかりか,証人G,訴外Lがお茶やコーヒーを飲むということもあるのであって,これらの支出が政務調査と何ら関係を有しないことは明らかである。なお,湯沸かしポット,お茶の容器及び湯飲みについては,清算月である平成15年4月に駆け込み的に購入されたものであるから,その支出は極めて悪質である。
(b) 携帯電話の簡易型充電器は,証人Gと訴外Lが所有する携帯電話機を充電する目的で購入されたところ,両氏が所有する携帯電話機は各1台であって,政務調査活動の他に議員活動や私生活上でも使用されているのであるから,この購入代金を政務調査費から支出するのは不当である。
(c) モバイルプリンター,充電器,インク代は,証人Gの事務室で使用される目的で購入されたところ,これらは,政務調査活動だけでなく議員活動にも使われているものであるから,これらの購入代金を政務調査費から支出するのは不当である。
(2) 被告の主張
ア 仙台市の政務調査費を用いてした調査研究費の支出が違法であるか否かは,仙台市の制度に則して判断することが必要であり,その際,①議会において独立性を有する団体として自主的に活動すべき会派及びそれに所属する議員の調査研究が執行機関,他の会派等の干渉等によって阻害されるおそれがあること,②調査研究に協力するなどした第三者の氏名,意見等が領収書等の証拠書類等の資料に記載されている場合には,これが開示されると,調査研究への協力が得られにくくなって以後の調査研究に支障が生じるばかりか,その第三者のプライバシーが侵害されるおそれがあることを考慮に入れる必要がある。
イ 仙台市の制度の概要
(ア) 本件要綱6条2項は,調査研究を行った議員は,所属会派の代表者に対し,調査研究報告書により,調査研究の内容及び経費の内訳を報告しなければならないと定めている。しかし,本件条例,本件要綱等には,市長及び議長が調査研究報告書の提出を求めることができる旨の規定はなく,調査研究報告書の様式についても定めがない。
(イ) 本件条例は,収支状況報告書の作成等について(9条),本件要綱は,議長の報告内容の検査及び修正(8条),執行状況の報告(7条)についてそれぞれ定めている。
ウ(ア) 本件条例11条と本件要綱8条は,議長において,収支状況報告書を5年間保存することを義務づけるとともに,提出を受けた収支状況報告書の内容を検査し,会派の代表者に対して証拠書類等の資料の提示を求めることができると定めるだけである。
したがって,両条項を総合しても,上記5年間にわたり,①議長が会派代表者に対して証拠書類等の資料の提示を求めることができると解すること及び②会派代表者が議長から提示を求められた場合に備えて証拠書類等の資料を保管する義務があると解することは,いずれも論理的に導出することはできないというべきものである。
(イ) 要綱8条の文理上,議長による収支状況報告書の内容の検査は,提出を受けた後遅滞なく行われるべきものと解され,かつ,実際の運用においても,提出を受けた後速やかに実施されて終了していることから,議長による検査が終了した以後において,会派又はその代表者に対して証拠書類等の資料の保存を義務づける理由は乏しい。
また,議長の収支状況報告書の保存期間についての規定が本件条例に置かれているのに対し,会派ないし会派代表者の証拠書類等の資料の保存期間を定めた規定が本件条例,本件規則及び本件要綱のいずれにも置かれていないことからすれば,仙台市の政務調査費の制度は,会派ないし会派代表者に長期間の証拠書類等の資料の保管を義務づけてはいないものと解される。
さらに,4年間の議員任期満了によって当然に消滅する会派ないしその代表者に対し,明文の規定がないにもかかわらず,5年間もの長期にわたり証拠書類等の資料の保存義務を課すことは,かなりの事実上の困難を伴う。
したがって,原告主張のような会派ないしその代表者による5年間もの保管義務は,本件条例,本件規則及び本件要綱を総合しても,これを肯定することはできないものといわざるを得ない。
(ウ) よって,議長による収支状況報告書の検査が終了したにもかかわらず,収支状況報告書の提出後5年間にわたり,会派ないし会派代表者の証拠書類等の資料の保管義務が存することを前提として,議長検査後において領収書等を廃棄又は返却したことにより政務調査費の支出について違法であるとの推定を受けるとの原告の主張は,その前提を欠いているものであって,失当であるというべきである。
エ 原告の援用に係る青森地裁平成18年10月20日判決の事案は,政務調査費の交付を受ける者が会派でなく議員であることを別としても,交付を受けた議員につき,弘前市議会政務調査費の交付に関する条例施行規則により会計帳簿及び領収書等の書類の整理・保管が義務づけられていることにおいて決定的に異なる。
したがって,青森地裁判決のように,「当該議員が政務調査研究活動に資するために必要な費用として支出したことについて資料を提出せず,これを補足する具体的な説明も行わない場合には,その金額や使途等からみて資料の提出やこれを補足する説明を行うまでもなく政務調査費であろうと社会通念上推認されるような支出を除き,これを正当な政務調査費の支出であると認めることはできない」(甲15の13頁)ということはできない。
オ 各補助参加人による本件政務調査費の支出が条例等に反する違法な支出であるとの原告の主張は争う。
(3) 補助参加人みらい仙台の主張
ア(ア) 平成15年4月は,選挙期間を含んだ月であったが,選挙期間明けの4月14日以降,任期満了までの限られた期間内に,集中的に政務調査活動を行い,適法に政務調査費を支出した。
なお,証人Aの平成15年4月における政務調査活動の概要は,別紙2のとおりである。
(イ) 各支出科目に関する支出の適法性
a 調査研究費の使途について,出張届が提出された出張の旅費及び経費(旅費の1割)に限定するとの原告主張には何ら客観的根拠がない。
b 臨時調査研究補助者分の人件費は,選挙期間中に十分な時間をとれなかった調査活動について,任期満了までの期間に多くの議員が通常より多くの臨時補助者を利用して調査を進めた結果として要したもので,人件費の支出は適法にされた。会派職員雇用費と比較して高額であるとする原告の主張には何ら根拠がない。
c その他の経費のうち,平成15年4月分については,「通信費」も「雑費等」も,約半月に集中して政務調査を行った結果要した費用が計上されており,選挙活動に使われた費用は含まれていない。なお,通信費のうちの2万2411円,雑費等のうちの2977円については,それぞれ,会派全員に共通の費用として別途計上している。
イ(ア) 仙台市の政務調査費を用いてした調査研究費の支出が違法であるか否かを仙台市の制度に則して判断することが必要であることについては,被告の上記主張と概ね同じ。
(イ) 調査研究の主体は各議員個人である以上,各議員作成の調査研究報告書は,会派代表者がこれを集計し議長検査が終われば,その目的を達し,代表から各議員に返還されてしかるべき文書である。
会派が調査研究報告書を所持し続けることを法的に義務づける根拠は存在せず,証人Aが議長検査終了後に同報告書を各議員に返還したとしても証拠隠滅行為にはあたらない。
(ウ) 証人Aは,自ら保管していた領収書から細かい金額を拾って支出内訳を明らかにしたのであるから,各支出の裏付け資料そのものを具体的に提出しないことをもって支出の適法性が欠けることにはならない。
ウ したがって,原告は,法律上の原因に基づかないという不当利得の要件について立証に失敗しており,本訴は棄却を免れない。
(4) 補助参加人民主フォーラムの主張
ア(ア) 市議会議員は,選挙期間中も,市民の陳情に対する対応,各種行事,会議への出席等,議員としての職務を行っているのであるから,原告の「選挙期間中は政務調査費の支出が不要である」旨の立論自体が誤りである。
また,議員の活動は,その時の必要性や状況等に応じて弾力的にされるものだから,その支出の内訳も月毎に変動をきたすものであり,かかる事情を全く捨象して,「平成15年4月の支出は選挙の実施されない年における支出額の24分の1程度であってしかるべきである」とする原告の主張は全く不合理である。
(イ) 仙台市の政務調査費を用いてした調査研究費の支出が違法であるか否かを仙台市の制度に則して判断することが必要であることについては,被告の上記主張と概ね同じ。
イ(ア) 平成15年4月分の広報広聴費は,選挙前に作成した2002年11月号を選挙後に配布したことに伴う費用及び選挙後に作成した2003年4月号の印刷費用と配布に伴う費用として適法に支出したものであって,選挙活動に流用したとの事実は一切ない。
(イ) 原告は,本件選挙後に,選挙で落選した議員の顔写真が掲載されている2002年11月号を配布したとの説明は,不自然・不合理である旨主張する。
しかし,平成15年4月の選挙で落選した議員についても,同年5月1日までは議員としての任期が残っているのであり,その議員の顔写真が掲載されているニュースを,任期中である4月中に配布することは,何ら不自然・不合理なものとはいえない。
(ウ) 2002年11月号を平成15年4月にまとめて配布したことについては,①平成15年1月から4月の選挙終了時までの間は選挙違反という誤解を招かないように配布を自粛していたという事情の他,②平成15年5月1日で議員の任期が終了し会派も消滅してしまうため,同年4月中に配布を終了しておく必要があったこと,③落選議員の顔写真が掲載されているため,落選議員の任期中である同年4月中に配布を終了しておく必要があったという事情もあった。
(エ) そもそも,民主フォーラムニュースは,毎年,会派の基本政策が定まる10月ないし12月ころに,原則年1回,選挙の有無にかかわらず,発行しているものであり,選挙を意識して作成したものではない。
2002年11月号は,民主フォーラムが年1回,定例的に発行しているものであり,当年度の会派の基本政策を記載している。これに対し,2003年4月号は,平成15年3月ころに市当局から会派の要望に対する回答があった際,会派内よりそれを配布したらよいのではないか,との要望があったため,それを受けて1000部という少数部発行した,いわば「臨時増刊号」的なものである。このように両者間ではその発行の趣旨は全く異なるものである。
(オ) したがって,原告の主張は,いずれも何らの根拠もない邪推にすぎない。
(5) 補助参加人自由民主党・市民会議の主張
ア 補助参加人民主フォーラムの上記主張アと概ね同じ。
イ(ア) その他の経費の内訳は,別紙3「平成15年4月分「その他の経費」内訳一覧表」記載のとおりであって,選挙活動等の目的外の経費に充てられた事実はない。
(イ) 補助参加人自由民主党・市民会議が手元に存在する領収書を提出しないのは,原告の請求が疑念や推測に基づく理由のないものであるか,あるいは特定の政治的意図をもって訴訟を提起しているものと判断せざるをえないと考えており,このような訴えに対して,いちいち領収書を提出してまで説明する必要がないと判断したことによるものである。本件条例などでは,会派の自主性,独立性の点から領収書は会派にのみ提出し,議長に対しては収支状況報告書を提出することになっている。
ウ 本件規則2条8号の「その他」の経費とは,同条1号ないし7号に該当しないものであって,議員の政務調査費に資する支出全般をいい,その中には,政務調査を行う場所である事務所及びこれに関する費用も広く含まれると解すべきである。
そして,支出については,議会及び会派,議員の自主・独立性の観点から議会,会派,議員にそれぞれ広く裁量権が認められるべきであり,その逸脱や濫用のない限り,適法というべきである。
(ア) 会派の支出について
議会内に保有する会派控室において,各議員が行った調査の結果を報告し,会派としての意見形成を行っている。
PC・FAX・電話・インターネットは資料の収集や編集,情報の収集に必要なものであり,会派事務所の機能を果たすためにはなくてはならないものである。
ケーブルテレビも各種情報の収集,調査の端緒のためになくてはならないものである。
(イ) 証人Cの支出について
PC・プリンター・デジタルカメラは資料の収集,整理,編集のためのものである。デジタルカメラは,問題となっている現場を撮影する等かなりの頻度で使用しており,その結果行政に善処を要請したり,問題の重要性によっては会派で問題を提起し政策形成に役立てている。
1台で家庭や事務所,政務調査活動を兼用することは極めて不便かつ非効率的であるため,個人的に使用するPC等は別に所有しており,完全に使い分けている。
(ウ) I議員の支出について
BSチューナー・BSアンテナの購入及び取付費用,DVDデッキの購入費用であり,これらを事務所に設置して,タイムリーに情報を取得するための一助としている。I議員は,政務調査費の支出の適正を確保する観点から,個人使用のものと明確に区別して使用しているから,その購入費を按分する必要はない。
切手代は,広報等の通信費として支出したものである。
(エ) J議員の支出について
電話機の付属品・PCソフト・コピートナーは,情報の収集・編集等に必要なものとして購入した。J議員は,コピー機に関する多額の支出を全額個人負担とし,より安いトナー代は政務調査費として支出しているのであるから,適正な支出である。
印刷代は,未就学児童に関する調査書類の印刷代であり,これも政務調査の結果をまとめたものである。
(オ) K議員(以下,「K議員」という。)の支出について
PCとFAXの購入・設置費用である。いずれも私的な使用はしていない。
(6) 補助参加人公明党の主張
ア 補助参加人民主フォーラムの上記主張アと概ね同じ。
原告は,補助参加人公明党の調査研究費等の支出について,市政に関する調査研究に資するため必要な経費に充てられたものとはいえないことを推認させる一般的・外形的な事実すら主張立証していないのであって,原告の主張はそれ自体失当であると言わざるを得ない。
イ 補助参加人公明党においては,選挙準備の関係上,選挙活動に必要な費用は,ほとんど選挙前に支出しているから,選挙期間中に,議員が選挙費用を支出することはほとんど無い。
平成15年4月当時の公明党所属議員のうち,選挙に出馬せず引退した2名については,例年と同様に政務調査活動を行った。また,選挙に出馬した議員についても,選挙後は,選挙期間中に十分対応できなかった分を取り返すべく,通常よりも精力的,積極的に政務調査活動を行った。
したがって,平成15年4月に,例年どおりの調査研究費が支出されていたとしても,何ら不合理ではない。
ウ 調査研究費について
出張届を要するのは宿泊を伴う出張のみであるところ,原告の主張においては,宿泊を伴わない出張のことが全く考慮に入っていない。また,旅費のほかに,宿泊費,日当及び食卓料,タクシー代,ガソリン代,駐車場料金,有料道路料金,レンタカー利用料,バス借上料,通信費,宅配便費用,報告書等製本代,手数料,施設視察使用料,写真代,茶菓子代等の食糧費的経費,参考図書,コピー代,広聴費など広範なものが含まれるところ,原告の主張ではそうしたものも全く考慮されていない。
調査研究費としての支出費目に,特段,違法・不当を疑わせるような点は存在せず,証人Dは,会派の代表者として収支状況報告書を提出し,議長の検査も経ている。
したがって,補助参加人公明党の調査研究費の支出に違法・不正な点がないことは明らかである。
エ 人件費について
人件費は,会派の広報誌「タウン杜」の作成を事務員に依頼した費用,及び会派議員が議員個人でレポートを作成する場合等に生じるアルバイト費用の合計であって,これらの支出費目に,違法・不当な支出はなく,目的外の支出がないことは明らかである。
オ その他の経費について
備品購入費や雑費に違法不当な支出を伺わせる事情は何ら存在せず,支出額が異常に高額であるとする原告主張には,何ら合理的根拠がない。
(7) 補助参加人社会民主党仙台市議団の主張
ア 本件条例,本件要綱の各規定によれば,領収書等の証拠書類等の資料は,議長が会派から提出を受けた収支状況報告書の内容を検査するために必要と認めた場合,会派の代表者が議長に提示するとされているのみであって,領収書等の資料を議長もしくは市長に提出する文書とはされていない。すなわち,領収書等は議長の求めに従って,議長に対する限りで開示することと定められている。
したがって,補助参加人社会民主党仙台市議団が領収書等を本件訴訟において提出する必要がないのは当然であって,領収書等の不提出がそれだけで違法支出を推定するとの主張は,本件条例,本件要綱の規定に反する。
イ 人件費について
人件費の支出内容は,別紙4の1「人件費の内容」のとおりである。
市議会議員は,選挙期間中であっても,各種行事や会議の出席,市政要望への対応等の議員活動を行っており,そのための補助者人件費は当然必要である。
証人Eが議会活動報告を発送したのは平成15年4月30日ころであり,補助者であるアルバイトが議会活動報告の封書詰め,宛名書をしたのはその直前である。4月13日投票日の選挙活動とは時期も相違し,選挙活動に対する支払いであるとの原告の主張は邪推というしかない。
平成15年4月のうち半分の期間は選挙活動に専念していたとの一方的断定を前提とし,その間の支出が不要となるとの原告主張は誤りである。
ウ その他の経費について
その他の経費の支出内容は,別紙4の2「その他の経費」のとおりである。
4月は年度当初であるため,少し多めの支出になっているだけのことであって,「異常に高額」ということはないし,選挙活動の経費に充てられた事実もない。
エ 証人Eは,人件費について,各議員ごとに,臨時調査研究補助者名,人件費の支払日と金額,領収書等の存否,各議員の議会活動報告や資料作成等の政務調査の内容に関する具体的説明,補助者の作業の内容等を説明し,その他の経費について,議員ごとに,金額,使途を説明した。原告は,証人Eが具体的な説明を拒否したと主張しているが,かかる主張は不当である。
オ 議員が政務調査のため使用する切手を毎月,当月使用分のみ購入すべきであるとする根拠はなく,翌月もしくは翌々月にしようすることが決まっている切手を予め購入することに何ら問題はない。
原告は,「駆け込み的支出」と主張するが,落選した議員であれば別として,証人Eは既に当選し,継続して議員活動をする立場にあったのであり,決して駆け込み的に支出したのではない。
カ 原告は,証人Eが原告に対し敵愾心を抱いていると主張するが,かかる主張は原告の一方的な思い込みにすぎない。
(8) 補助参加人グローバルネット仙台の主張
ア 補助参加人民主フォーラムの上記主張アと概ね同じ。
イ 証人Fは,グローバルネット仙台の代表として同会派の従来の慣例に従って報告書等を廃棄したに過ぎない。
よって,廃棄行為は本件条例・本件要綱違反行為ではなく,支出について違法性の推定を受けるものではない。
ウ 証人Fが平成15年4月における調査研究費について,その支出日,支出金額等を明らかにすることができなかったのは,当時の報告書,領収書等が存在しないことから確認できなかったことが原因であって,違法支出をしていたからではない。
証人Fの供述は何ら不合理ではない。
(9) 補助参加人無所属の主張
人件費は,市議会無所属会派室専属常勤職員の給料の半分である。
その他の経費は,選挙終了後の当選確定により連続的に市議会議員を務めるために購入した代金であり,選挙運動期間中の目的外支出ではない。
第3当裁判所の判断
1 争点(1)(訴えの適法性)について
(1) 補助参加人らは,原告の本訴請求は,特定を欠くものとして,却下されるべきであると主張する。
原告は,本件政務調査費のうち,第1の請求欄に摘示した各金額を特定したうえ,その金額について,法及びこれに基づく条例等の定める目的外支出であるか選挙活動費用として使用された旨主張するとともに,これを特定するため,選挙がなかった平成14年度の収支状況報告書を提出しているのであるから,原告の本訴請求は,請求の特定において,欠けるところがないというべきであり,各補助参加人の主張を採用することはできない。
(2) 補助参加人みらい仙台と補助参加人公明党は,それぞれ,臨時調査研究補助者分の支出については,住民監査請求を経ていないから,その分については適法な監査請求を経ていないものとして却下されるべきであると主張する。
しかし,甲8によれば,本件政務調査費の支出について,いずれの補助参加人についても,臨時調査研究補助者分の支出が住民監査請求の対象とされていたことは明らかであり,補助参加人みらい仙台,補助参加人公明党の主張を採用することはできない。
2 争点(2)(本件政務調査費の支出の違法性,不当性)について
(1)ア(ア) 政務調査費の交付制度は,地方分権一括法(地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律)の施行により地方公共団体の自己決定権,自己責任が拡大し,地方議会が担う役割が一層重要となり,これに伴い地方議会の活性化を図るとともに議員の調査研究活動の基盤を強化するため,会派又は議員に対する調査研究に必要な経費を助成するために設けられたものである(法100条13項)。
(イ) ところで,地方議会の議員は市政等の向上と発展を模索するために日常的に調査研究活動が期待されており,調査研究の対象は広範囲に及び,また,調査方法も多様であるから,調査研究活動に伴う経費としての支出の適合性に関する判断については議員の良識に委ねられ,支出主体である会派あるいは議員の裁量が認められるものと解することができる。しかし,政務調査費の財源は,市民の経済的負担に依拠しているものであるから,政務調査費として無制約の支出が認められているものではなく,仙台市においては,本件条例5条において使途基準の定めを規則に委任し,同委任を受けた本件規則2条で使途基準が定められており,「市の事務事業及び地方行財政に関する調査研究及び調査委託に関する経費」,「研修会,講演会等の実施に要する経費及び各種団体が開催する研修会,講演会等への所属議員等の参加に要する経費」,「会派における調査研究に関する経費」等が対象とされている一方,「交際費的な経費」,「政党本来の活動に要する費用」,「市政に関する調査研究の目的に合致しないもの」等は除外されている。政務調査費はこの使途基準に適合する支出であることが必要であり,使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱していると認められる場合には,政務調査費としての支出ということはできないから,当該支出額について不当利得を構成することになる。
そして,政務調査費としての支出の適合性の判断は,調査目的と市政の関連性,調査活動と支出経費との相当性,調査結果の保存の有無等を総合的に考察してなすべきである。また,ある支出が政務調査活動のためでもあるし,他の目的のためでもあるという場合に,その全額を政務調査費とするのは相当でないことは明らかであるから,条理上,按分した額をもって政務調査費とすべきであり,特段の資料がない限り,例えば政務調査活動とそれ以外の二つの目的のために支出した場合には2分の1とするなど,社会通念に従った相当な割合をもって政務調査費を確定すべきである。
(ウ) なお,原告は,使途基準のうち調査研究費について,調査研究に要する旅費及び委託に要した経費をいうと主張するが,そのように限定すべき根拠は見当たらず,原告の主張を採用することはできない。
イ(ア) 本件訴訟は,原告が,法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,各補助参加人に対する不当利得返還請求をすることを求めているものであるから,原則として,不当利得返還請求権の存在を主張する原告において,受益者である各補助参加人が,政務調査費を使途基準に照らして明らかに必要性,合理性等を欠いて支出した等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱した支出によって各補助参加人が利益を得,そのために仙台市に損失を及ぼしたことを主張立証する責任を負うと解すべきである。
(イ)a しかしながら,不当利得返還請求権の存在を主張する者は,およそ考えられる一切の法律上の原因の不存在を主張立証しなければならないものではなく,当該事案の類型,証拠との距離等を考慮しつつ,当該事案において通常考えられる財産移転を正当化する原因が存在しないことを主張立証した場合には,相手方の利得に法律上の原因がないことが事実上推認できるから,その場合には,法律上の原因の不存在を争う相手方において,上記推認を妨げる具体的事情について反証する必要が生ずるというべきであって,その反証が不奏功に終わった場合には,不当利得返還義務を免れないと解するのが相当である。
b 本件において,原告は,各補助参加人が議長に提出した本件政務調査費の総額,使途基準の項目毎の支出額及びその主な内訳を記載した収支状況報告書を入手し,書証として提出している(甲1の1ないし甲1の7)ものの,本件政務調査費の個々の支出科目及び金額が記載された帳簿書類,領収書等は各会派において管理することになっているため(本件要綱4条),原告が情報公開請求によってこれらの資料を入手することはできない反面,上記帳簿書類や領収書等の資料を各補助参加人が所持している場合には,各補助参加人においてその内容を明らかにすることは容易である。
また,法100条14項は,政務調査費の交付を受けた会派又は議員は,条例の定めるところにより,当該政務調査費にかかる収入及び支出の報告書を議長に提出すると規定している。その趣旨は,住民に対する説明責任及び財政の健全な運用を担保する観点から,公金の使途として許容される政務調査費の支出について,適正及び透明性を確保することにあると解される。一方,上記帳簿書類や領収書等については,本件条例,本件規則及び本件要綱上議長に対して提出すべきものとされておらず,各会派内において管理すべき扱いとされている。その趣旨は,会派が,議会において独立性を有する団体として,会派及びそれに所属する議員の調査研究が執行機関,他の会派等の干渉等によって阻害されるおそれを解消し,自主的・自律的に活動すべき役割を期待されている点にあると解される。会派が有する自主性・自律性については,上記使途基準の適合性の判断に際しても一事情として考慮されるべきである。しかしながら,仙台市における政務調査費制度は,本件要綱4条(経理責任者の担任事務等),同6条(会派内における政務調査費の支出手続等),同8条(報告内容の検査及び修正)等に鑑みると,会派の有する自主性・自律性を尊重しつつ,政務調査費の適正な運用を期すために,会派代表者が会派内における政務調査の計画,実施及び費用の支出を総括し,議長が各会派における政務調査費の支出を監査・是正することが期待されていると解されることから,政務調査費の支出の適否について疑義が生じた場合には,会派が有する自主性・自律性も一定限度で制約されることが許容されているものと解することができるし,会派がこの限度で個々の支出の内容を対外的に明らかにすることは,政務調査費の支出につき適正及び透明性を要請している法の趣旨にも合致するというべきである。
c 上記事情を総合すると,本件においては,本政務調査費の支出の一部又は全部が本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱して支出されたなどの事実を推認させる一般的,外形的な事実が立証された場合には,各補助参加人による当該政務調査費の支出が違法であることが事実上推認され,他方,各補助参加人による当該調査研究費の支出が本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に適合することを基礎づける具体的事実が立証された場合には上記推認が妨げられると解するのが相当であって,その判断に際しては,上記事情に照らし,領収書等の証拠資料等の存否及び不存在であることの理由の合理性,証拠資料等の提出の有無及び不提出の理由の合理性,会派代表者又は代表者であった者による会派内における政務調査費の支出の総括の程度並びに本件政務調査費を支出したとする時期及び金額の合理性等の事情を総合的に考慮すべきである。
(ウ) 原告は,平成15年4月は本件選挙が実施され,現職候補として同選挙に立候補した市議会議員は,同月のうち少なくとも半分の期間は,選挙活動に専念したはずであるから,本件政務調査費の支出額が,平成14年度の支出額と比較して,24分の1以上である場合には,本件政務調査費が調査研究に資するため必要な経費に充てられなかったことが推認されると主張する。
しかし,平成15年4月分の支出額と前年度支出額との比較や割合の摘示は,単に当該支出額が前年度と比較して相対的に大きいことを示すにすぎず,使途基準に列記されている支出科目によっては年度の変わり目でもある4月の支出が相対的に大きくなることもあり得ることであるから,本件政務調査費の支出額が,平成14年度の支出額と比較して,24分の1以上であることのみをもって,本件政務調査費が調査研究に資するため必要な経費に充てられなかったことを推認することはできない。
(エ) 原告は,本件条例,本件要綱の規定によれば,会派代表者には5年間の証拠書類等の保存義務が認められ,証拠書類等を廃棄・返却した場合には,それだけで政務調査費の支出が違法であると推定されると主張する。
確かに,本件条例11条(収支状況報告書の保存)は,後日政務調査費の支出について疑義が生じた場合に,保存された収支状況報告書が確認資料となることをも想定しており,その際に会派が管理する帳簿書類,領収書等の証拠資料等が必要となる可能性は否定できず,また,一般的には帳簿書類,領収書等が議長による検査等の監査終了後直ちに廃棄されるとは考えがたい。
しかし,本件条例,本件規則及び本件要綱上,会派に帳簿書類や領収書等を管理する旨の定めがある(本件要綱4条)にとどまり,年数を区切った保存義務の定めはないことに照らせば,証拠書類等の保存・廃棄については,各会派の自主性・自律性を尊重して,その合理的な判断に委ねていると解される。
したがって,会派が証拠書類等を廃棄し,所属議員に返却したことのみをもって,政務調査費の支出が違法であると推定することはできず,廃棄・返却をしたことについて合理性に欠ける事情等は,本政務調査費の支出の一部又は全部が本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱して支出されたなどの事実を推認させる一般的,外形的な事実にあたると解するのが相当である。
(オ) 原告は,領収書等の証拠資料を提出しない場合には,それだけで政務調査費の支出が違法であると推定されると主張する。
しかし,本件条例,本件規則及び本件要綱上,被告あるいは議長が会派に帳簿書類や領収書等の証拠資料の提出を求めることができるなどの提出義務を定めた規定はなく,また,かかる証拠資料等には調査研究に協力するなどした第三者の氏名等が記載されている可能性もあることに鑑みれば,仙台市における政務調査費制度の下では,帳簿書類や領収書等の証拠資料を提出するか否かについては,各会派の自主性・自律性を尊重して,その合理的な判断に委ねていると解される。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
(2) 各政務調査費の支出について
ア 補助参加人みらい仙台
(ア) 原告は,本件政務調査費の支出には,支出者,支出目的,平成14年度との支出比等の点において不明であり,その主たる原因は,会派として保管しておくべき調査研究報告書を各議員に返還したことにあるとして,合計285万4298円が違法支出であると主張する。
(イ) 証人Aは,みらい仙台の代表者として,所属議員から調査研究報告書等の報告書の提出を受け,その際に目を通して各所属議員の政務調査活動をチェックしていた,調査研究報告書等の報告書は,議長検査後1年たったものを各議員に返却したため,今現在,平成15年4月当時に,他の所属議員がどのような政務調査活動を行ったかを具体的に述べることができない,調査研究報告書の返却は,例年行っていることであると供述している。
(ウ) 後に認定するように,平成15年4月当時,既に,みらい仙台を含む会派にかかる平成13年度,14年度の政務調査費の支出についての別件訴訟が提起され,みらい仙台に対し,当該訴訟の告知がされていたこと(甲20の1ないし3)に鑑みれば,本件政務調査費にかかる調査研究報告書を所属議員に返却した行為には,本件政務調査費の支出内訳が不明瞭になる可能性があるという点において合理性が疑われることは否定できない。
しかし,証人Aは,政務調査費の支出について,会派代表者として,例年,各所属議員から提出を受けた報告書等をチェックして議長に報告し,議長検査終了後一定期間経過して各議員に返却していたというのであり,また,証人A自身の支出内訳(別紙2)を検討しても,支出日,支出目的及び目的と金額との整合性等において特段不自然な点は見当たらない。
原告は,証人Aの東京出張について,その目的からして「調査研究」に値しないと主張する。乙B1,証人Aによれば,Aは,既に決定した平成15年度予算の予算配分を確認するため東京に出張しているが,既に決定済みの国家予算であっても,その予算の決定に至る経緯や今後の予算の執行状況等を調査し,今後の予算獲得に活用する,国会議員に陳情するのに有益な情報を国会議員から直接聞き取ることなどは調査活動と評価をすることができるのであるから,原告の主張を採用することはできない。
(エ) その他に,補助参加人みらい仙台の本件政務調査費の支出の一部又は全部が本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱して支出されたなどの事実を推認させる一般的,外形的な事実を認めるに足りる証拠はない。
(オ) よって,補助参加人みらい仙台について,本件政務調査費の支出が違法であるとの原告の主張は理由がない。
イ 補助参加人民主フォーラム
(ア) 原告は,民主フォーラムニュースという2002年11月号の広報誌を本件選挙後に配布したとする補助参加人民主フォーラムの主張は不自然・不合理であり,また,領収書を廃棄したことは,その廃棄の経緯に照らし,証拠隠滅行為ともいうべきであるから,広報広聴費である302万9376円の支出が違法であると主張する。
(イ) 証人Bは,広報広聴費として支出した額についての領収書について,平成15年6月ころ,自らの判断で廃棄したと供述している。
しかし,証拠(事実ごとに掲記)によれば,原告が,民主フォーラムを含む6会派にかかる平成13年,14年の政務調査費について,平成15年1月14日付けで,住民監査請求を行い(甲19),同年4月7日,別件訴訟を提起し,その結果,民主フォーラムが,当該訴訟において,同月28日付けの訴訟告知をそのころ受けた(甲20の1ないし3)ことが認められるところ,前記証人Bが領収書を廃棄したという時期は,別件訴訟が提起された後わずか2か月後のことであるから,証人Bにとって,年度が異なるにしても,原告から政務調査費の支出の適正が問題とされていた時期であるといえる。
この点,証人Bによれば,別件訴訟に関しては,当時の会派所属議員が集まって対応策を検討したとのことであるから,政務調査費の支出が適正になされたか否かという点は,証人Bを含む会派全体の問題として扱われていたはずであり,領収書が,金員の支出を直截に証明する機能を有し,支出日,支出額,支出目的等の支出に関する事情を後日確認するためにも有益な資料であることに鑑みれば,証人Bは政務調査費の支出に関する領収書の扱いについて慎重に検討したものと推認することができる。
しかるに,証人Bは,領収書を廃棄した理由については,解散に伴って会派がなくなり議長による検査が終了したため自らの判断で平成15年6月ころに廃棄した,別件訴訟とは関係がないと考えていた旨供述するにとどまっている。係争中の政務調査費の使途を把握する上で領収書は重要な資料であり,別件訴訟の補助参加人としてその重要性を理解しながら領収書を廃棄したとの証人Bの供述は合理的でなく,採用することはできない。
したがって,領収書を廃棄したとの証人Bの前記供述は,領収書の内容が補助参加人民主フォーラムの主張を裏付けるものでなかったか領収書そのものが存在していなかったからであると考えられる。広報広聴費として支出したとの補助参加人民主フォーラムの主張を裏付けるような領収書は存在しなかったと解さざるを得ない。
(エ) 証人Bは,2002年11月号を平成15年4月の本件選挙後に配布したことについて,同年1月からは選挙違反との疑いを持たれないようにするために配布を自粛した,議員の任期が同年5月1日まであったのであるから,落選した議員の顔写真が載っているニュースを配布することにはなお意味があった等と供述する。
しかし,本件選挙後から任期終了までは約20日間しかないことは,2002年11月号を印刷した時点で既に判明していたのであって,本件選挙が施行されれば,顔写真を掲載している議員のうち落選する者も出る可能性があることは予測できたということができる。本件選挙の後から議員の任期終了までの20日という短期間のうちに落選する可能性のある議員の顔写真が掲載されることになるかもしれないことを予測しつつ,5万5400部のうち約3万6000部を配布するとした計画は極めて不合理であって,むしろ,自粛したとする平成15年1月までの時点で全部配布し終えたのではないかとの疑念を差し挟まざるをえない。また,落選した議員にとって,自己の顔写真が掲載されている2002年11月号を配布することは,一般市民に対するのみならず当該議員の後援者に対しても,選挙結果について誤解を与えかねず,かえって支持を失いかねないのであるから,この点でも証人Bの供述は不自然,不合理である。
(オ) 以上によれば,2002年11月号を本件選挙後に配布した費用として計上している279万5860円については,原告が主張する選挙活動用の広報費等目的外支出に流用したと推認するのが相当であり,その支出が本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている。
なお,証拠(乙C2ないし6)によれば,民主フォーラムは,平成12年から平成15年までの間,毎年10月から12月までのいずれかに,同会派の基本政策をまとめた民主フォーラムニュースを作成しており,会派の要望と当局の回答をまとめた2003年4月号(乙C1)と趣旨が異なっていることを認めることができ,2003年4月号が実際に印刷されたことは認めることができる。
したがって,2003年4月号に関する印刷費及び配布に伴う費用を違法支出であると認めることはできない。
ウ 補助参加人自由民主党・市民会議
(ア) 原告は,平成14年度との支出比,領収書の不提出等を理由として,その他の経費合計166万2823円が違法支出であると主張する。
(イ) 確かに平成14年度を参考に支出比を算出すると,本件政務調査費の支出割合は,年間の12分の1を上回る数字であるが,証人Cが供述する支出内訳(別紙3)では,購入品等の内訳に記載された品目は政務調査活動に用いることのできる品目が記載されており,各品目と支払金額との間に不整合な箇所は見当たらない。なお,I議員及びK議員の支払金額には端数がなく,また,備品購入・リースに要した経費と雑費等との振り分けがはっきりしない箇所もあるが,記載内容そのものの信用性を失わせるほどの不自然性はない。
証人Cは,領収書を提出しない理由について,補助参加人自由民主党・市民会議に所属する各議員が,政務調査費を本件条例,本件規則及び本件要綱に則って明確に処理しており,それ以上のものではないと考えているからであると供述しているところ,証人Cは,会派代表者として,各議員の政務調査活動について,具体的な内容についてまで踏み込まないにしても,その支出態様等の概略について,各期ごとに確認しているというのであるから,領収書を提出しなかったからといって,あながち不自然とまではいえない。
(ウ)a 原告は,証人Cがデジタルカメラ1台の購入費を政務調査費から支出したことは違法であると主張する。
しかし,証人Cは,自宅用と事務所用と別々に所有する必要から購入したと供述しているところ,かかる区別をすること自体は合理的であって何ら不自然ではない。
したがって,デジタルカメラ1台の購入費を政務調査費から支出したことが本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いているとまではいえない。
b 原告は,I議員が事務所に備え置くためのBSチューナー,DVDデッキなどの購入費を全額政務調査費から支出したことは違法であると主張する。
しかし,仮にこれらの機器がI議員の自宅に設置されていたとしても,事務所に備え置く必要性が全くないとはいえない。
また,BSチューナー,DVDデッキは,主として,テレビ放送,DVD等を通じて情報を収集するために用いるものであるから,購入の主たる目的は政務調査活動であるということができ,その購入費を全額政務調査費から支出したとしても,本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いているとまではいえない。
c 原告は,J議員がコピー機のトナー代を全額政務調査費から支出したことは違法であると主張する。
確かに,コピー機自体は,政務調査活動以外にも使用することのできるものであるから,そのコピー機及びその付属備品の購入代金については按分したうえで政務調査費から支出すべきである。
ところで,J議員は,コピー機本体の購入代金を自己負担しているというのであるから,トナー代金の全額を政務調査費から支出することは,コピー機及びその付属備品全体の経費について按分したうえで政務調査費から支出したことと実質的に大差ないということができる。
したがって,コピー機のトナー代金を全額政務調査費から支出したとしても,本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いているとまではいえない。
d 原告は,議会内会派控室で使用するパソコン3台,FAX代,電話代などの費用が全額政務調査費から支出されていることは違法であると主張する。
しかし,パソコンは,主として,インターネット回線を介して情報を収集し,収集した情報を編集するために用いるものであり,FAXリース料,電話代,インターネット利用料は,まさに情報を収集し,又は発信するための設備であるから,その購入費,経費等を全額政務調査費から支出したとしても,本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いているとまではいえない。
エ 補助参加人公明党
(ア) 原告は,各支出科目についてその具体的内容が不明であり,また,領収書を提出していないことから,合計162万9998円の支出が違法であると主張する。
(イ) 証人Dは,証人自身の調査研究結果については,自己の記録として,フォーマットをつくり,記録していること,公明党においては,調査研究報告書には,市内の細々とした調査についてまで記載せず,調査研究項目を記載し,また,その費用については収支状況報告書により報告していた,本件政務調査費にかかる報告書,領収書等の証拠資料を保管しているが,最高裁平成17年11月10日の仙台市の政務調査費に関する文書提出命令についての決定に照らし,提出する義務がないと考えているので提出しないと供述している。
(ウ) 確かに,原告が指摘するように,調査研究費の細かな支出内容については不明確であるが,それは,当時の公明党の方針として市内の細々とした調査について一々報告しないこととなっていた結果であって,その方針自体が本件条例等の定めに明らかに反しているとまではいえない。そして,調査研究費の細かな支出内容について補助参加人公明党があえてこれを明らかにしないという姿勢をとっているわけではないこと,調査研究費の支出例として,証人D自身の調査研究活動を日付ごとに具体的に供述していること,領収書等の証拠資料を提出しないことについても,その理由が不合理とまではいえないことから,証人Dの供述を信用できないとはいえない。
(エ) また,人件費及びその他の経費についても,その支出内容に不合理な点はなく,支出目的と支出金額との間にも著しく不均衡な点は見当たらない。
(オ) したがって,補助参加人公明党の本件政務調査費の支出について,その支出の一部又は全部が本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱して支出されたなどの事実を推認させる一般的,外形的な事実を認めることはできない。
オ 補助参加人社会民主党仙台市議団
(ア) 原告は,各科目の支出額が平成14年度支出比からみて高額であること,各支出を裏付ける領収書を提出していないこと等を理由として,合計82万5229円の支出が違法であると主張する。
(イ) 証人Eは,人件費の内訳について別紙4の1,その他の経費について別紙4の2のとおりに支出したこと,別紙を作成するにあたっては,会派に所属する議員に確認していること,支出の一部については領収書や報告書を保管しているが,自分の判断で,出す必要がないと判断したと供述している。
(ウ) 人件費とその他の経費について,その支出内容に不合理な点はなく,支出目的と支出金額との間にも著しく不均衡な点は見当たらない。その他の経費としての支出内容は,月々によって多寡に変化があることも考慮すると,平成14年度支出比からみてやや高額であるとしても,著しく不合理な額であるとまではいえない。
(エ) 証人Eは,領収書等の資料を証拠として提出しないことについて,単にその必要がないと判断した旨述べるのみであるが,証拠資料を提出しないまでも,個々の支出内容について,会派所属の各議員に確認したうえ不合理とはいえない内容の説明をしているのであるから,証拠資料を提出しないことをもって,補助参加人社会民主党仙台市議団の支出が違法であることを推認させる一般的,外形的な事実ということはできない。
(オ) また,原告は,証人Eが切手代として16万円を計上していることについて,任期終了前の駆け込み的購入であると主張するが,切手代等の備品についてはまとめて購入することもあり得ることであり,政務調査活動のために多数の書類を郵便にて発送することもあることを考慮すると,原告の主張を採用することはできない。
(カ) なお,原告は,証人Eの原告に対する敵愾心を指摘するが,対立当事者の関係にある証人Eが原告に対し敵愾心を抱いたとしても不自然なことではなく,証人Eの証言態度から補助参加人社会民主党仙台市議団の支出が違法であることを推認させる一般的,外形的な事実を認めることはできない。
(キ) したがって,補助参加人社会民主党仙台市議団の本件政務調査費の支出について,その支出の一部又は全部が本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱して支出されたなどの事実を推認させる一般的,外形的な事実を認めることはできない。
カ 補助参加人グローバルネット仙台
(ア) 原告は,各科目の支出額が平成14年度支出比からみて高額であること,各科目の支出内容が不明確であること,各支出を裏付ける領収書を提出していないこと等を理由として,合計196万4631円の支出が違法であると主張する。
(イ) 証人Fは,本件政務調査費にかかる収支状況報告書は,会派所属の各議員から提出され,証人Fがその報告書に基づいて各議員から聞き取りを行って政務調査活動の内容を確認したこと,収支状況報告書については,議長検査が終了した後の平成15年7月ころに証人Fの自宅のシュレッダーを用いて廃棄したこと,報告書を廃棄することは会派の慣習であり代表者であった証人Fの判断で行ったこと,平成15年4月当時の日記帳や報告書がなかったために,記憶を思い起こしながら整理をして供述しているが,会派所属の他の議員についてはほとんど覚えていないことを供述する。
(ウ) 前記認定のとおり,平成15年7月ころは,原告が別件訴訟を提起した後であって,補助参加人グローバルネット仙台に対しても別件訴訟において訴訟告知がされていた(甲20の1ないし3)のであるから,収支状況報告書を廃棄した行為は,それまでの慣習に則ったとしても,極めて不自然な行為である。
また,会派代表者としては,会派内における政務調査費の支出内容の適正な執行に努める義務を負っていたのであるから,別件訴訟等により,政務調査費の支出が問題とされているならば,個々の政務調査活動の内容を把握するなどして政務調査活動の適正を弁明できるようにするのが合理的であるにもかかわらず,証人Fは,会派所属の他の議員の支出内容ばかりか自己の支出内容にいても,記憶にないために供述できないというのである。
したがって,証人Fの供述は極めて不自然,不合理な内容である。
(エ) 平成15年4月における上記調査研究費の金額は,1人当たりにすると約25万9166円であるところ,調査研究費は,市議会議員選挙の投票日後の同月14日以降に支出されており,また,同月は出張届を提出するような高額な支出を伴う調査研究がされたことも窺えないから,その支出態様も不自然である。
(オ) したがって,補助参加人グローバルネット仙台の本件政務調査費の支出は原告が主張する選挙活動用の広報費等目的外支出に流用したと推認するのが相当であり,その支出の一部又は全部が本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている。
キ 補助参加人無所属
(ア) 原告は,補助参加人無所属の支出は,政務調査活動との関連性がないか,他の活動のためにも使用されるものであるから,政務調査費として計上している18万3323円が違法支出であると主張する。
(イ) 証人Gの供述によれば,常勤調査研究補助者は,証人Gの事務室における電話番や連絡係のみならず,市民による市政に対する要望の聞き取り調査,市当局に対する陳情等の政務調査活動の補助も行っているのであるから,その補助者の給料の半額分を政務調査費から支出したとしても,本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱して支出したということはできない。
(ウ) お茶,コーヒー,湯沸かしポット,お茶の容器及び湯飲みについては,必ずしも政務調査活動の際にのみ使用するものとはいえず,他の活動をする際にも利用するものであり,購入の主たる目的が政務調査活動にあるということはできないから,その購入額の半額分については,本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱して支出したものということができる。
(エ) 携帯電話の簡易型充電器,モバイルプリンター,充電器,インク代については,情報収集機器である携帯電話,情報の整理・編集機器であるパソコン等の付属備品であるということができ,その購入の主たる目的が政務調査活動にあるということができるから,その購入額を政務調査費から支出したとしても,本件条例,本件規則及び本件要綱の定める使途基準に照らして明らかに必要性,合理性を欠いている等,会派及び議員の裁量的判断を著しく逸脱して支出したということはできない。
(オ) したがって,本件政務調査費の支出のうち,お茶,コーヒー,湯沸かしポット,お茶の容器及び湯飲みの購入代金の2分の1である1万3054円が違法支出である。
3 結論
以上検討したところによれば,原告の本訴請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 小野洋一 裁判官 伊澤文子 裁判官 小川貴紀)