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仙台地方裁判所 平成19年(む)401号 決定 2007年11月16日

主文

本件請求を棄却する。

理由

第1本件請求の趣旨及び理由は,弁護人ら作成の裁定申立書に記載のとおりであるから,これを引用する。その要旨は,(1)弁護人らは,強盗致傷被告事件に関し,検察官請求の捜査報告書(甲56。立証趣旨は「犯行現場付近の防犯カメラに被告人3名が映っていること」)の信用性を判断するため,防犯ビデオの設置状況に関する報告書の開示を求めたところ,検察官は,「存在しない」として開示しなかったが,防犯カメラの位置や撮影時間間隔の捜査が行われないとは考えられないから,調査の上開示を命ずるよう求める,(2)弁護人らは,被告人の取調べに関する取調べ状況報告書等合計13通(以下「本件各報告書」という。)中の不開示希望調書の有無や通数に関する部分の記載について開示を求めたところ,検察官は,「相当性の要件を満たさない」として開示しなかったが,この程度の説明では足りず,被告人の供述調書(乙24ないし32)の証明力の判断は,全ての部分の開示を受けて初めてなし得るものであるから,不開示部分を含め本件各報告書の全部の開示を命ずるよう求めるというにある。

第2当裁判所の判断

1  まず,上記(1)の請求について検討するに,そもそも当該請求書面が刑事訴訟法316条の15第1項6号に該当する証拠であるかどうか十分に明らかにされているとはいえない。そして,この点は措くとしても,防犯カメラの映像について,弁護人主張の捜査が常になされるとはいえないし,本件強盗致傷事件において,被告人が犯行現場付近にいたことは争いが少ないと窺われることに照らすと,弁護人請求の証拠が存在しなくても不自然ではないし,その存在を窺わせる事情も認められない。

2  次に,上記(2)の請求について検討するに,検察官が不開示としたのは,司法警察員作成の取調べ状況報告書のうち「逮捕又は勾留の理由となっている犯罪事実に係る不開示希望被疑者供述調書作成事実」の有無及び通数欄,司法警察員作成の余罪関係報告書のうち「不開示希望被疑者供述調書作成事実」の有無及び通数欄及び検察官作成の取調べ状況等報告書のうち「被疑者等がその存在及び内容の開示を希望しない旨の意思を表明した被疑者供述調書等」の有無及び通数欄(以下まとめて「本件不開示欄」という。)であることが認められる。

本件各報告書自体は,被告人に対する取調べの年月日,時間,場所その他取調べの状況を記録した書面(刑訴法316条の15第1項8号)であり,その性質上,検察官が証拠請求している被告人の検察官及び司法警察員に対する各供述調書の証明力を判断する上で重要であることは当然である。

しかしながら,本件では,本件不開示欄以外の本件各報告書は全て開示されているから,弁護人らが,本件不開示欄の記載内容について,被告人自身から聴取して確認することは十分可能である。他方,弁護人らは,被告人の供述調書の証明力を判断するには本件各報告書全部の開示が必要であると抽象的に主張するだけで,本件不開示欄の記載が被告人の供述調書の証明力を判断する上で重要であり,防御の準備のために必要であるという具体的な事情を主張していない。

加えて,不開示欄の開示によって弊害を生じるおそれも否定できないから,弁護人らにおいて開示の重要性・必要性について明らかにしない本件不開示欄について開示を命ずることは相当でない。

3  よって,本件請求は理由がないから,主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山内昭善 裁判官 小池健治 裁判官 佐藤彩香)

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