大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 平成19年(ワ)1199号 判決 2008年10月29日

主文

1  被告らは,連帯して,原告らに対し,それぞれ3850万4207円及びこれに対する平成16年2月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

2  原告らのそのほかの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  この判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告らが,原告らに対し,それぞれ2700万円の担保を提供したときは,その原告からの執行を免れることができる。

事実及び理由

第1請求

被告らは,連帯して,原告らに対し,それぞれ4150万4207円及びこれに対する平成16年2月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

第2事案の概要

1  本件は,カラオケ店内で,ナイフで刺されて死亡した被害者の両親である原告らが,被告らに対し,民法719条,709条,710条,711条に基づいて,そのことにより生じた損害の賠償を求めた事案である。

2  前提事実(認定に用いた証拠などは末尾に掲げる。)

(1)  本件加害行為(甲13,15,16,18,19,22,25〜27,30)

ア A(1987年2月14日生まれの男性)は,平成16年2月1日当時,B高校の2年生であった。同日午前1時ころから,この高校の同級生,下級生ら10名と一緒に,仙台市太白区西多賀a丁目b番c号にあるカラオケ店(以下「本件カラオケ店」という。)の107号室で,カラオケをして遊んでいた。

被告らも,自動車を乗り回して,山形県内で遊んだ後,同日午前2時ころから,仙台市内で知り合った女性2人と一緒に,本件カラオケ店の132号室で,カラオケなどをして遊んでいた。

イ 被告Cは,同日午前3時ころ,本件カラオケ店のトイレで,この女性と肉体関係を持とうとしていると,Aと一緒に来ていたHにからかわれた。

ウ 被告Cからこのことを聞かされた被告Dは,からかったことを謝らせようと,被告Cと一緒に,107号室に行き,高校生が歌っている最中だったのに演奏を止めたり,高校生たちの胸ぐらをつかんだ。

ところが,被告Dは,高校生たちから,暴行を受け,顔が腫れたり,そのときに割れたグラスで指を切るなどの傷害を負った。

エ 高校生たちは,このことをきっかけに,本件カラオケ店を出ることにして,料金を支払うため,待合室に向かった。

被告Dは,高校生たちを追いかけ,本件カラオケ店の待合室で,高校生たちを帰らせないようにしていた。

被告Cは,132号室に戻って,被告E,被告Fに対し,被告Dが暴行を受けていると知らせた後,高校生たちを追いかけ,待合室で,高校生たちを帰らせないようにしていた。この際,本件カラオケ店に来てもらうために,友人たちに携帯電話をかけているが,いずれの友人からもすぐに来るとの返事はもらえなかった。

被告Eは,知らせを聞くと,女性2人を連れて,乗ってきた自動車に戻した。その後,また,この自動車に戻り,バットと木刀を持ち出して,本件カラオケ店の風除室で,これらを持って,高校生たちを帰らせないようにしていた。

被告Fは,知らせを聞くと,乗ってきた自動車に戻り,この自動車から果物ナイフを持ち出した。その後,本件カラオケ店に戻り,待合室で,高校生たちを帰らせないようにしていた。

オ 高校生たちは,被告らによって,待合室にとどめさせられていたが,そのうちのGが,被告Dに体当たりをしてから,3人の高校生と一緒に,被告Eの脇をすり抜けて,本件カラオケ店から出て行った。

被告Cは,待合室で,Hの襟首をつかんで,後ろに引きずったところ,Hを助けようとしたAに飛びかかられ,Aともみ合いになった。

被告Fは,果物ナイフを持って,Aに近づいた。

カ 被告Fは,同日午前3時35分ころ,待合室で,Aに果物ナイフを2回突き刺すなどした(以下「本件加害行為」という。)。

このとき,被告Eは,バットと木刀を持ったまま,自分の脇をすり抜けて,本件カラオケ店を出て行った高校生たちを追いかけていた。被告C,被告Dも,本件カラオケ店を出て,別の高校生たちを追いかけていた。

キ Aは,本件加害行為によって胸部刺創の傷害を負い,同日午前4時14分ころ,搬送先の病院で死亡した。

(2)  相続

原告らは,Aの両親であり,2分の1ずつの割合で,その権利義務を相続した。   (甲1〜3)

(3)  刑事事件

仙台地方検察庁検察官は,本件加害行為に関し,被告Fについては殺人の公訴事実で,被告C,被告E,被告Dについては傷害致死の共謀共同正犯の公訴事実で,仙台地方裁判所に対して公訴を提起した(当庁平成16年(わ)第75号事件)。

仙台地方裁判所は,平成16年7月13日,本件加害行為に関し,傷害致死の共謀共同正犯の事実を認定して,被告Dに対し,懲役4年の有罪判決を宣告した。この判決はそのころ確定した。

仙台地方裁判所は,平成17年11月1日,本件加害行為に関し,被告Fについては殺人の事実,被告C,被告Eについては傷害致死の共謀共同正犯の事実を認定して,被告Fに対しては懲役10年,被告Cに対しては懲役3年6か月,被告Eに対しては懲役2年6か月の有罪判決を宣告した。被告F,被告Eは,仙台高等裁判所に対し,控訴を申し立てたが(同庁平成17年(う)第259号事件),平成18年6月8日,控訴を棄却する判決を宣告された。被告Eは,さらに,最高裁判所に対し,上告を申し立てたが(同庁平成18年(あ)第1412号事件),平成19年1月24日,上告を棄却する決定を受けた。   (甲4〜7,9)

3  争点及び主張

(1)  被告らには,民法719条に基づいて,Aが本件加害行為によって被った損害を賠償する責任があるのか。

(原告らの主張)

ア 被告Dは,高校生たちから暴行を受け,けがをしたことで,激こうし,高校生たちに暴行をして,仕返しをしようと考えた。被告Cも,からかわれただけでなく,自分のために,被告Dがけがをしたことで,激こうし,高校生たちに暴行をして,仕返しをしようと考えた。そして,被告Cから,被告Dが暴行を受けたことを知らされた被告E,被告Fも,被告D,被告Cの仕返しに加勢しようと考えた。被告らが,高校生たちに暴行するつもりであったことは,検察官に対し,高校生たちに暴行するつもりであったと述べて,そのとおりの供述調書が作成されていることからも明らかである。

被告Dは,待合室で,本件カラオケ店の従業員に向かって,警察官の臨場を求めないよう強いたり,高校生たちに向かって,ボコボコにしてやるなどと怒鳴っていた。被告Cは,被告Fに頼まれて,携帯電話をかけ,本件カラオケ店に来てもらおうとして,後から来てもらう約束を受けていた。被告Eは,連れて来た女性たちを自動車に戻している。被告Fは果物ナイフ,被告Eはバット,木刀を持ち出している。被告C,被告E,被告Dは,被告Fが,自動車に,果物ナイフを持ち込んでいることを知っていたのに,本件加害行為までに,果物ナイフを持ち出さないよう指示したり,持ち出していないか確認していない。被告らは,待合室,風徐室で立ちはだかり,高校生たちを本件カラオケ店から帰らせないようにしていた。被告C,被告E,被告Dは,本件カラオケ店から出て行った高校生たちを追いかけていた。追いかけるとき,被告Eは,バット,木刀を持っていた。被告C,被告F,被告Dは,Aを含む高校生たちに対し,暴行をしている。そして,被告Fは,本件加害行為をした。

このような経過からすると,被告らは,遅くとも,被告Fが果物ナイフを持って,本件カラオケ店の待合室に戻ったときまでに,このカラオケ店から出て行こうとする高校生たちに対して暴行を加えるとの共謀をしたとみるべきである。また,このときから本件加害行為のときまでの被告らの一連の行為は,高校生たちを帰らせないための,社会的にみて1個の行為とみるのが相当である。被告らの各行為は,主観的にも,客観的にも関連共同している。

高校生たちは11名であり,人数だけみれば,被告らよりも多かったが,被告らと争いを起こすことなく,本件カラオケボックス店を出ようとしていたし,待合室でも自分たちからけんかをしようとしていなかったし,凶器になるようなものも持っていなかったのだから,凶器を持っていた被告らが,高校生たちを,反撃とか「ボコボコ」にできる相手ではないとみていたわけがない。また,被告らは,高校生たちが107号室を出てから,本件加害行為のときまで,高校生たちに対し,謝罪や治療費の支払を求めていない。謝罪や治療費の支払を求めたくても,話し合いができない状況であったのであれば,警察官に臨場してもらって,仲裁をしてもらおうとしたはずだが,臨場を求めてもいない。かえって,被告Dは,本件カラオケ店の従業員に対し,警察官の臨場を求めないよう強いている。暴行を加えるとの共謀はしていない,高校生たちに謝罪させ,被告Dに対する治療費の支払を約束してもらうつもりしかなかったとの被告C,被告Eの主張は自己保身に終始した弁解にすぎない。

イ 被告C,被告Eは,被告Fが,乗り回していた自動車に,果物ナイフを持ち込んでいることを知っていた。本件加害行為のときまでに,被告Fに対し,果物ナイフを持ち出さないよう指示したり,持ち出していないか確認していない。被告C,被告Eには,被告Fが,果物ナイフを使って,本件加害行為をすることを予見できたはずであるから,Aが死亡したことは被告C,被告Eの各行為により生じたものである。

ウ 以上のとおり,被告C,被告Eには,民法719条1項本文に基づいて,Aが本件加害行為によって被った損害を賠償する責任がある。

(被告C,被告Eの主張)

ア 被告らは4名だけで,高校生たちは11名である。しかも,被告Dに対して,激しい暴行を加えている。強がっているだけで,被告らからみて,高校生たちは,反撃とか「ボコボコ」にできる相手ではなかった。

被告C,被告E,被告Dは,被告Fが果物ナイフを持ち出していることに気づいていなかった。被告Cは,本件カラオケ店に来てもらうために,友人たちに携帯電話をかけているが,いずれの友人からも断られたのに,それきりにしている。被告Eは,バット,木刀を持ち出しているが,これらで暴行をするつもりはなかったし,実際に暴行をしていない。

被告らは,Gが被告Dに体当たりをするまで,高校生たちに暴行をしていない。被告CがAともみ合ったのは,Aから飛び膝蹴りをされたからであって,それまで自分から暴行をしていない。

本件加害行為のときには,被告C,被告Eは,本件カラオケ店を出て,高校生たちを追いかけはしたが,そのまま逃げてくれればいいと思っていた。実際に追いついていない。被告F,被告Dも,このときまでに,高校生たちによって,個々に切り離されて,囲まれており,完全に制圧されていた。被告らは,このときには,互いに助けることはできる状況ではなかった。

以上のとおり,被告らは,このカラオケ店から出て行こうとする高校生たちに対して暴行を加えるとの共謀はしていない。被告らは,高校生たちに謝罪させ,被告Dに対する治療費の支払を約束してもらうことを考えていただけである。被告C,被告Eは,検察官に対し,高校生たちに暴行するつもりであったと述べたことはないし,そう述べたとされる供述調書には任意性はない。また,本件加害行為までの一連の行為は,被告らごとにばらばらであり,社会的にみて1個の行為とみることもできない。被告らの各行為は,主観的にも客観的にも関連共同していない。

イ 前記のとおり,被告C,被告Eは,被告Fが果物ナイフを持ち出していることに気づいていなかった。本件加害行為のときは,本件カラオケ店を出て,高校生たちを追いかけていた。被告C,被告Eには,被告Fが,果物ナイフを使って,本件加害行為をすることを予見することはできなかったから,Aが死亡したことは被告C,被告Eの各行為により生じたものではない。

ウ 以上のとおり,被告C,被告Eには,民法719条1項本文に基づいて,Aが本件加害行為によって被った損害を賠償する責任はない。

(2)  損害の有無・額

(原告らの主張)

ア 逸失利益   4550万8415円

Aは,本件加害行為の当時,16歳の男子高校生であり,67歳まで就労して収入を得られたはずなのに,本件加害行為により死亡したことで,その収入を得ることができなくなった。

その金額は,以下の計算式のとおり,4550万8415円である。

(計算式)

552万3000円(賃金センサス平成17年第1巻第1表産業計男性労働者学歴計の年収額)×(1−0.5〔生活費控除割合〕)×16.4796(67歳までの就労可能期間に対応するライプニッツ係数)=4550万8415円(1円未満切捨て)

イ 死亡慰謝料   3000万0000円

Aは,本件加害行為に遭って,死亡させられたことで,精神的な苦痛を被った。その苦痛を慰謝するための慰謝料は3000万円を下回らない。

ウ 相続   各3775万4207円

原告らは,Aの両親であり,それぞれAの被告らに対する損害賠償請求権の2分の1ずつ3775万4207円(1円未満切捨て)を相続した。

エ 葬儀関連費用   各75万0000円

原告らは,費用を負担して,Aの葬儀を執り行った。本件加害行為により生じたものとして被告らに負担させるべき費用は各75万円を下回らない。

オ 固有の慰謝料   各300万0000円

原告らは,Aが本件加害行為に遭って死亡させられたことで,精神的な苦痛を被った。その苦痛を慰謝するための慰謝料はそれぞれ300万円を下回らない。

カ 前記合計額   各4150万4207円

(被告C,被告Eの主張)

争う。

(3)  過失相殺による賠償額の減額

(被告C,被告Eの主張)

本件加害行為は,高校生たちが107号室で被告Dに対して激しい暴行を加えたこと,被告らが暴行をしていないのに,Gが被告Dに体当たりしてきたこと,その後,ほかの高校生たちが被告C,被告Dに対して暴行をしてきたこと,Aも被告Cに対して飛び膝蹴りをしたことをきっかけに引き起こされている。Aを含む高校生たちが,早いうちに警察官の臨場を求めたり,被告らに対する暴行を控えていれば,本件加害行為が発生せず,あるいは発生してもその結果が小さく済んだ可能性がある。

そうすると,仮に,被告C,被告Eに,民法719条1項本文に基づいて,Aが本件加害行為によって被った損害を賠償する責任があるとしても,損害賠償の額を決めるときには,その損害額の80パーセント(被告C),90パーセント(被告E)を控除すべきである。

(原告らの主張)

Aは,ほかの高校生たちと一緒に,本件カラオケ店で,カラオケをして遊んでいただけである。高校生たちが107号室で被告Dに対して暴行を加えたのは,被告Dが演奏を止めたり,高校生たちの胸ぐらをつかんだことに対抗するためである。被告Dが,107号室にやってきたのは,Hが女性と肉体関係を持とうとした被告Cをからかったことがきっかけになっているが,軽い悪ふざけ程度のことである。

ところが,被告らは,高校生たちが,被告らと争いを起こすことなく,本件カラオケボックス店を出ようとしていたし,待合室でも自分たちからけんかをしようとしていなかったし,凶器になるようなものも持っていなかったのに,高校生たちに対して暴行を加えるため,バット,木刀,果物ナイフを持ち出したり,自分たちの仲間に携帯電話をかけて助けを求めたり,待合室,風徐室で立ちはだかったり,本店カラオケ店を出て行った高校生たちを追いかけたりして,高校生たちを帰らせないようにしていた。このことが本件加害行為の原因であって,その落ち度は被告らにある。Gが被告Dに体当たりしたり,その後,ほかの高校生たちが被告C,被告Dに対して暴行をしたり,Aも被告Cに対して飛び膝蹴りをしたのは,被告らから逃げるためのやむを得ないものであるし,警察官の臨場を求めなかったからといって,ほかの高校生たちの行為を含めてみても,Aには賠償をされる損害の額を控除されなければならないほどの落ち度はない。

(4)  寄与度による賠償額の減額

(被告Eの主張)

被告C,被告E,被告Dには,高校生たちを死なせるつもりはなかった。本件加害行為は,ひとり殺意を持った被告Fが,突発的に,引き起こしたものである。被告Eは,高校生たちに暴行をしていないし,風徐室に立ったり,高校生たちを追いかけていただけである。被告Eの本件加害行為での関わりの程度はわずかである。本件加害行為をした被告Fは刑務所に収容されているし,被告Dにも資力はない。被告Eが,Aが本件加害行為によって被った損害のすべてを賠償を余儀なくされると,わずかな関わりしかしていないのに,無資力の危険を負担させられることになり,不公平である。

そうすると,仮に,被告Eに,民法719条1項本文に基づいて,Aが本件加害行為によって被った損害を賠償する責任があるとしても,損害賠償の額を決めるときには,その損害額の90パーセント以上を控除すべきである。

(原告らの主張)

本件加害行為は,共同不法行為に当たるのであるから,共同不法行為者である被告らは,被害者であるAが被った損害の全額について連帯責任を負うべきものであり,結果発生に対する寄与の割合をもって,被害者の被った損害額を按分し,責任を負うべき損害額を限定することはできない。

そもそも,本件加害行為のような集団的加害行為では,直接的に結果を生じさせたのが,ほかの共同不法行為者であっても,各共同不法行為者の行為が互いに影響し合って,1個の結果を発生させるのであるから,各共同不法行為者ごとの寄与度は明確に分けられない。

ましてや,被告Eの主張が容れられるのであれば,被害者が無資力の危険を負担させられることになり,それこそ不公平である。

第3被告C,被告Eに対する請求についての判断

1  認定事実

前提事実,関係証拠(甲4,15〜19,21,22,24〜27,29,30,乙A1〜5,乙B1〜5,被告C,被告E〔枝番を含む。認定と異なる部分を除く。〕)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。

(1)ア  被告E,被告Fは,いずれも暴走族の総長,被告Cは,被告Fが所属していた暴走族の副総長,被告Dは,被告Fの友人が所属する暴力団の組員であった。被告C,被告E,被告Fは同じ学年,被告Dはその2学年後輩である。被告らは,被告Fが刑務所を出所した平成15年12月以降,一緒に遊ぶようになった。

イ  被告らは,平成16年1月31日午後10時ころ,女性をナンパするため,自動車で,山形県内まで行った。

このとき,被告Cと被告Dが,女性に声をかけていると,居合わせた男性たちに邪魔をされたり,じろじろみられたと感じることがあった。

被告Cと被告Dは,このことに腹を立て,男性たちに,因縁を付け,詫びを入れさせるか,けんかして痛めつけようと考えた。自動車に戻った2人から,男性たちのことを知らされた被告E,被告Fも,被告Cと被告Dの因縁付けに加勢しようと考えた。

被告C,被告Dは,自動車を降り,男性たちに因縁を付けたが,素直に謝る様子ではなかった。そこで,被告C,被告Eが自動車に積んであったバット,木刀を持ち出して,男性たちの近くに立ち,被告Fが近くのコンビニエンスストアで買った果物ナイフを男性たちに突きつけて,脅しつけた。男性たちは,この様子をみて,態度を変え,土下座をして,1万円程度の紙幣を差し出した。被告らは,そのことで気が済んだので,紙幣を受け取って,自動車に戻った。

被告C,被告E,被告Dは,自動車に戻ったとき,被告Fが,果物ナイフで,男性たちを脅しつけていたこと,その果物ナイフをそのまま自動車に持ち込んでいることは分かっていた。

(2)  被告らは,自動車で,仙台市内に戻り,同日午前2時ころから,仙台市内で知り合った女性2人と一緒に,本件カラオケ店の132号室で,カラオケなどをして遊んでいた。被告Cは,同日午前3時ころ,本件カラオケ店のトイレで,この女性と肉体関係を持とうとしていると,Aと一緒に来ていたHにからかわれた。

被告Cは,そのために肉体関係を持つことができなくなったこともあって,からかわれたことに腹を立てた。トイレの近くに居合わせて,被告Cからこのことを知らされた被告Dも,自分よりも年下の高校生が,自分の先輩である被告Cをからかったことに腹を立てた。被告Cと被告Dは,Hに,からかったことを謝らせようと考えた。

(3)  被告Cと被告Dは,Hが本件カラオケ店の107号室にいることを知り,この部屋に入った。

被告Dは,高校生が歌っている最中だったのに演奏を止めてから,高校生たちの胸ぐらをつかみ,謝るよう求めたが,ちゃんと謝っているように感じられなかったことから,別の高校生たちの胸ぐらをつかんで怒鳴っていると,後ろからGが被告Dを突き飛ばしたのをきっかけに,ほかの高校生たちから,こぶしで,顔面,頭部を,20回程度,殴られる暴行を受けた。

被告Dは,この暴行で,顔が腫れたり,そのときに割れたグラスで指を切るなどの傷害を負った。

被告Cは,被告Dが暴行を受けている様子をみて,自分だけでは助けることはできないと考え,被告E,被告Fに助けを求めるため,132号室に向かった。

(4)  高校生たちは,同日午前零時ころから,本件カラオケ店で,酒を飲んだり,たばこを吸いながら,カラオケをして遊んでいた。被告Dとのもめ事がきっかけになって,本件カラオケ店で遊んでいたことがB高校に知られることを恐れ(実際に,高校生たちは,本件加害行為があった後,停学処分を受けている。),本件カラオケ店を出ることにして,被告Dに暴行を加えるのを止め,料金を支払うため待合室に向かった。

被告C,被告Cから被告Dが暴行を受けていると知らされた被告E,被告Fは,132号室から107号室に向かうと,顔が腫れたり,指から血を流している様子で,この部屋から出てきた被告Dと,この部屋を出ようとしていた高校生たちと鉢合わせになった。

(5)ア  被告Dは,被告Cがからかわれただけでなく,自分も暴行を受け,けがをさせられたことで,激こうし,高校生たちを帰らせないでおいて,知り合いの暴力団組員に来てもらってから,高校生たちに暴行をして,仕返しをしようと考えた。

そう考えた被告Dは,知り合いの暴力団組員に携帯電話をかけ,本件カラオケ店に来てもらうように頼みながら,高校生たちを追って待合室に向かった。待合室で,本件カラオケ店の従業員に対し,警察官の臨場を求めないよう怒鳴ったり,高校生たちに対し,帰らせない,1人ずつぶっ飛ばしてやるなどと怒鳴ったり,高校生たちの胸ぐらをつかんだりして,高校生たちを帰らせないようにしていた。

被告Dは,本件加害行為のときまで,高校生たちに対し,謝罪や治療費の支払を求めていない。警察官の臨場を求めてもいない。

イ  被告Cも,けがをして,激こうした様子の被告Dをみて,高校生たちに暴行をして,仕返しをしようと考えていることを知るとともに,自分をからかっただけでなく,自分のために謝らせようとした被告Dに暴行をして,けがをさせたことに激こうし,自分も高校生たちに暴行をして,仕返しをしようと考えた。

そう考えた被告Cは,高校生たちを追って,待合室に行き,高校生たちをにらみつけたりして,高校生たちを帰らせないようにしていた。

被告Cは,待合室で,被告Fが,知り合いの暴力団組員に携帯電話をかけ,本件カラオケ店に来てもらうように頼んでいる様子をみていた。被告Fから,本件カラオケ店に来てもらうため,別の暴力団組員にも携帯電話をかけるよう頼まれ,かけてみたが,つながらなかった。後輩の暴力団組員にかけて,本件カラオケ店に来るよう頼むと,折り返し連絡するとの返事を受けた。また,被告Eに頼まれて,自動車の鍵を貸したとき,被告Eが,高校生たちとけんかになったとき,連れていた女性たちを巻き込んではならないと考え,乗ってきた自動車に戻すつもりであることを知った。また,被告Eが,自動車に戻り,バットと木刀を持ち出していたことを知っていた。

被告Cも,本件加害行為のときまで,携帯電話をかけるなどして,警察官に臨場を求めていない。高校生たちに対し,謝罪や治療費の支払を求めていない。

ウ  被告Cから,被告Dが暴行を受けたことを知らされた被告Eも,けがをして,激こうした様子で,高校生たちを追いかけ,高校生たちに対して怒鳴っている被告Dをみて,高校生たちに暴行をして,仕返しをしようと考えていることを知り,被告Dとはそれほど親しくはなかったが,その仕返しに加勢しようと考えた。

そう考えた被告Eは,高校生たちを追って,待合室に行き,風徐室付近で立ちはだかって,高校生たちを帰らせないようにしていた。しかし,高校生たちの数が自分たちよりも多く,しかもその高校生たちが,けんかっ早いと思っていたB高校の高校生たちと知り,高校生たちとけんかになったとき,連れていた女性たちを巻き込んではならないと考え,被告Cから鍵を借りてから,女性たちを連れて,乗ってきた自動車に戻し,また風徐室付近で立ちはだかった。

被告Eは,戻ってきたとき,被告Fが,携帯電話をかけて,本件カラオケ店に来てもらうように頼んでいる様子はみたが,このころには,高校生たちが10名ぐらいであることを知り,被告Fが頼んでいる相手が来るまでに,高校生たちとけんかになったとき,素手ではかなわないと感じた。そこで,凶器となるようなものを持ち出すために,被告Fと一緒に,自動車に戻り,バットと木刀を持ち出した。このとき,けんかで負けたときに高校生たちに奪われないように,財布と携帯電話を自動車に置いておいた。また,このとき,一緒に来た被告Fが,自動車から,果物ナイフを持ち出しただろうと感じていた。

被告Eも,本件加害行為のときまで,携帯電話をかけるなどして,警察官に臨場を求めていない。高校生たちに対し,謝罪や治療費の支払を求めていない。

エ  被告Cから,被告Dが暴行を受けたことを知らされた被告Fも,けがをして,激こうした様子で,知り合いの暴力団組員に携帯電話をかけ,本件カラオケ店に来てもらうように頼んでいる被告Dをみて,知り合いの暴力団組員に来てもらってから,高校生たちに暴行をして,仕返しをしようと考えていることを知り,その仕返しに加勢しようと考えた。

そう考えた被告Fは,高校生たちを追って,待合室に行き,そこで,自分も,その暴力団組員に携帯電話をかけ,本件カラオケ店に来てもらうように頼み,すぐに来るとの返事をもらった(実際に,この暴力団組員は,本件加害行為の直後に,本件カラオケ店に来ている。)。また,本件カラオケ店に来てもらうため,被告Cに対し,別の暴力団組員にも携帯電話をかけるよう頼んだ。

被告Fは,待合室で,風徐室に向かおうとしていた高校生たちを押し戻したりして,高校生たちを帰らせないようにしていた。しかし,被告らは4名だけで,高校生たちは11名であるので,暴力団組員が来るまでに,高校生たちとけんかになったとき,素手ではかなわないと感じた。そこで,凶器となるようなものを持ち出すために,女性たちを自動車に戻して,風徐室に戻っていた被告Eと一緒に,自動車に戻り,果物ナイフを持ち出した。

被告Fも,本件加害行為のときまで,携帯電話をかけるなどして,警察官に臨場を求めていない。高校生たちに対し,謝罪や治療費の支払を求めていない。

(6)ア  高校生たちは,被告らによって,待合室にとどめさせられていたが,自分たちからけんかをしようとしていなかったし,凶器になるようなものも持っていなかった。

しかし,被告C,被告Fが,携帯電話をかけて,応援を求めたり,被告Eがバット,木刀を持ち出してきた様子をみて,怖くなったり,逃げ出そうとする者が出てきた。そのうちのGが,被告Dに体当たりをし,被告Dから,壁にぶつけられたが,3人の高校生と一緒に,被告Eの脇をすり抜けて,本件カラオケ店から出て行った。

イ  被告Eは,バットと木刀を持ったまま,この高校生たちを追いかけた。

ウ  被告Dは,Gが体当たりをしたのをきっかけに,風徐室の付近で,本件カラオケ店から出ようとする高校生たち2,3名と,もみ合いになった。

被告Dは,店内にとどめようとしたが,4,5名の高校生たちが,その脇をすり抜け,出て行ったので,本件カラオケ店を出て,この高校生たちを追いかけた。

エ  被告Cは,Gを助けようとしたHの襟首をつかんで,後ろに引きずったところ,Hを助けようとしたAから飛び膝蹴りを入れられ,顔面や胸ぐらをつかみ合ったり,被告CがAを殴るなどのもみ合いになった。

被告Cは,被告Fが近づいてきたので,一緒に,Aに暴行をしようとしたが,2,3名の高校生たちが本件カラオケ店を出て行っているのに気づき,被告F,Aを残して,本件カラオケ店を出て,この高校生たちを追いかけた。

オ  被告Fは,Gが被告Dに体当たりをしたのをきっかけに,2,3名の高校生たちから,こぶしで,顔面を,5,6回,殴られる暴行を受けたが,この高校生たちはいなくなった(本件カラオケ店から出て行ったと思われる。)。

その後,Aともみ合っている被告Cのところに近づくと,今度はAから殴られる暴行を受けた。

被告Fは,被告Cが本件カラオケ店を出て行った後,脅かすつもりで果物ナイフを示したが,Aがひるまないで,殴りかかってきたことに,激こうし,同日午前3時35分ころ,待合室で,殺意を持って,その胸部に,果物ナイフを,2回,深く突き刺した(本件加害行為)。

2  争点(1)についての検討

(1)ア  前記認定のとおり,被告C,被告Dは,被告Cをからかい,被告Dにけがをさせた高校生たちに暴行をして,仕返しをしようと考えていた。被告E,被告Fも,けがをして,激こうしている被告Dの様子をみて,被告C,被告Dの考えを知り,仕返しに加勢しようと考えていた。

被告らは,待合室,風徐室で立ちはだかり,出て行こうとする高校生たちを壁にぶつけたり,もみ合ったり,追いかけたりして,高校生たちを本件カラオケ店にとどめようとしている。被告Eは,バット,木刀を持ったまま,追いかけてもいる。

被告C,被告F,被告Dは,携帯電話をかけ,知り合いの暴力団組員に来てもらおうとしていた。被告Eは,バット,木刀を持ち出すまでには,このことを知っていた。

被告らは,携帯電話をかけるなどして,警察官の臨場を求めていない。被告Dは,本件カラオケ店の従業員に対し,警察官を呼ばないよう強いている。

被告Eは,けんかになったときに備えて,連れて来た女性たちを自動車に戻すとともに,財布,携帯電話を自動車に置いておいた。被告Cは,女性たちを戻したことを知っていた。

被告E,被告Fは,応援が来るまでに,高校生たちとけんかになったとき,素手ではかなわないと感じ,凶器となるようなものを持ち出すために,一緒に,自動車に戻り,被告Eはバットと木刀,被告Fは果物ナイフを持ち出した。被告Eは,被告Fが果物ナイフを持ち出しただろうと思っていた。

被告C,被告F,被告Dは,Gが被告Dに体当たりをしたのをきっかけに,まだ応援が来ていなかったのに,Aを含む高校生たちに対し,壁にぶつけたり,襟首をつかんだり,顔面を殴るなどの暴行をしている。その挙げ句に,被告Fは,本件加害行為をした。

イ  このような経過からすると,被告らは,遅くとも,被告Fが果物ナイフを持って,本件カラオケ店の待合室に戻ったときまでに,応援が来ているかどうかに関わりなく,このカラオケ店から出て行こうとする高校生たちに対して暴行を加えるとの共謀をしたとみるのが相当である。また,このときから本件加害行為のときまでの被告らの一連の行為は,高校生たちを帰らせないための,社会的にみて1個の行為とみるのが相当である。

(2)ア  被告C,被告Eは,「被告らには,高校生たちを暴行するつもりはなかった。高校生たちに謝罪させ,被告Dに対する治療費の支払を約束してもらうことを考えていただけである。このカラオケ店から出て行こうとする高校生たちに対して暴行を加えるとの共謀はしていない。」と主張する。

しかし,前記認定のとおり,被告Dは,本件加害行為のときまで,高校生たちに対し,謝罪や治療費の支払を求めていない。被告らの間で,そのことについてのやり取りがされた様子もない。前記認定のとおり,高校生たちは,待合室では,自分たちから争ってこなかったのだから,年上である被告らから,謝罪や治療費の支払を求めて,話し合いを試みることはできたはずである。話し合いができない状況であったのであれば,警察官に臨場してもらって,仲裁をしてもらおうとしたはずだが,臨場を求めてもいない。

また,関係証拠(甲22,30)によると,被告C,Eは,検察官に対し,高校生たちに暴行するつもりであったと述べて,そのとおりの供述調書が作成されている。本件全証拠を検討しても,この調書とおりの供述をしていなかったとか,この供述は任意にされたものではないとみるべきほどの事情は見当たらない。

したがって,共謀をしていなかったとの被告C,被告Eの主張は採用できない。ほかに本件全証拠を検討しても,前記認定を覆すほどの事情は見当たらない。

イ  また,被告C,被告Eは,「被告らは,本件加害行為のときまでに,高校生たちによって,個々に切り離されて,囲まれており,完全に制圧されていた。被告らは,このときには,互いに助けることはできる状況ではなかった。本件加害行為までの一連の行為は,被告らごとにばらばらであり,社会的にみて1個の行為とみることもできない。」と主張する。

しかし,前記認定のとおり,被告らは,Gが被告Dに体当たりするまで,高校生たちを本件カラオケ店にとどめさせていた。

その後も,被告C,被告E,被告Dは,待合室,風徐室で立ちはだかり,出て行こうとする高校生たちを壁にぶつけたり,もみ合ったり,追いかけたりして,高校生たちを本件カラオケ店にとどめようとしている。被告Fは,2,3名の高校生たちから,暴行を受けているが,本件加害行為のときまでには,被告Cを助けに行くことはできていた。

このような経過からすると,本件加害行為のときには,被告らが,高校生たちによって,個々に切り離されて,囲まれており,完全に制圧されていたとか,互いに助けることはできる状況ではなかったとみることまではできない。

したがって,被告らの各行為が社会的にみて1個の行為であることを争う被告C,被告Eの主張は採用できない。ほかに本件全証拠を検討しても,前記認定を覆すほどの事情は見当たらない。

ウ  そして,被告C,被告Eは,「被告C,被告Eは,被告Fが果物ナイフを持ち出していることに気づいていなかった。本件加害行為のときは,本件カラオケ店を出て,高校生たちを追いかけていた。被告C,被告Eには,被告Fが,果物ナイフを使って,本件加害行為をすることを予見することはできなかったから,Aが死亡したことは被告C,被告Eの各行為により生じたものではない。」と主張する。

しかし,被告C,被告Eは,前記認定のとおり,被告Fが,果物ナイフで,男性たちを脅しつけていたこと,その果物ナイフをそのまま自動車に持ち込んでいることは分かっていた。

また,被告Eは,前記認定のとおり,凶器となるようなものを持ち出すために,被告Fと一緒に,自動車に戻ったとき,被告Fが,自動車から,果物ナイフを持ち出しただろうと感じていた。

そうすると,このような事情のほかに,被告C,被告Eが,本件加害行為のときまでに,被告Fに対し,果物ナイフを持ち出さないよう指示したり,持ち出していないか確認していないことも合わせて検討すると,被告C,被告Eには,被告Fが,果物ナイフを使って,本件加害行為をすることを予見できたとみるのが相当である。被告C,被告Eの主張は前提を欠いている。

(3)  以上のとおり,被告らには,民法719条1項本文に基づいて,Aが本件加害行為によって被った損害を賠償する責任がある。

3  争点(2)についての検討

(1)  逸失利益   4550万8415円

関係証拠(甲1,原告I本人),弁論の全趣旨によると,Aは,本件加害行為の当時,16歳の男子高校生であり,67歳まで就労して収入を得られたはずなのに,本件加害行為により死亡したことで,その収入を得ることができなくなった。

その金額は,以下の計算で算出された金額とみるのが相当である。

552万3000円(賃金センサス平成17年第1巻第1表産業計男性労働者学歴計の年収額)×(1−0.5〔生活費控除割合〕)×16.4796(67歳までの就労可能期間に対応するライプニッツ係数)=4550万8415円(1円未満切捨て)

(2)  死亡慰謝料   2500万0000円

Aは,まだ16歳の若さで,本件加害行為に遭って,死亡させられた。被告らによって,このような目に遭い,死亡するまでに味わった苦痛,無念さはとても短い言葉では表現できない。その苦痛を慰謝するための金銭は,2500万円とみるのが相当である。

(3)  相続   各3525万4207円

原告らは,Aの両親であり,それぞれAの被告らに対する損害賠償請求権の2分の1ずつ3525万4207円(1円未満切捨て)を相続した。

(4)  葬儀関連費用   各75万0000円

関係証拠(甲31),弁論の全趣旨によると,原告らは,費用を負担して,Aの葬儀を執り行ったことが認められる。本件加害行為により生じたものとして被告らに負担させるべき費用は各75万円とみるのが相当である。

(5)  固有の慰謝料   各250万0000円

本件加害行為の状況は,前記認定のとおりである。原告らが,大切に育ててきたAを,わずか16歳で,突然,失ってしまったことで,精神的な苦痛を被ったことは容易に推察されるし,被告らに対して厳しい感情を抱くのはもっともである。原告らが被った精神的苦痛を慰謝するための金銭は,各250万円とみるのが相当である。

(6)  損害額の合計   各3850万4207円

4  争点(3)についての検討

被告C,被告Eは,「本件加害行為は,高校生たちが,107号室で,被告Dに対し,激しい暴行を加えたこと,被告らが暴行をしていないのに,Gが被告Dに体当たりしてきたこと,その後,ほかの高校生たちが被告C,被告Dに対して暴行をしてきたこと,Aも被告Cに対して飛び膝蹴りをしたことをきっかけに引き起こされている。Aを含む高校生たちが,早いうちに警察官の臨場を求めたり,被告らに対する暴行を控えていれば,本件加害行為が発生せず,あるいは発生してもその結果が小さく済んだ可能性がある。損害賠償の額を決めるときには,その損害額の80パーセント(被告C),90パーセント(被告E)を控除すべきである。」と主張する。

前記認定のとおり,高校生たちが,107号室で,被告Dに対し,暴行を加え,けがをさせたことは認められる。

しかし,高校生たちは,その後は,被告らと争いを起こすことなく,本件カラオケボックス店を出ようとしていた。待合室で,自分たちからけんかをしようとしていなかったし,凶器になるようなものも持っていなかった。ところが,被告らは,前記認定のとおり,謝罪や治療費の支払を求めて,話し合いを試みることも,警察官の臨場を求めることもなく,このカラオケ店から出て行こうとする高校生たちに対して暴行を加えるとの共謀をして,警察官の臨場を求めないよう強いたり,携帯電話をかけて,応援を求めたり,果物ナイフ,バット,木刀を持ち出して高校生たちを本件カラオケ店にとどめようとしている。Gが被告Dに体当たりしたり,その後,ほかの高校生たちが被告C,被告D,被告Fに対して暴行をしたり,Aも被告C,被告Fに対して暴行をしたのは,前記認定のとおり,被告らから逃げるためのやむを得ないものであったとみるのが相当である。

これらの事情のほか,Aは被告Cをからかっていないし,本件全証拠を検討しても,107号室で,被告Dに対して暴行をしたとまでは認められないし,からかったことや107号室での暴行を被害者側の事情とみても,本件加害行為の直接のきっかけでもないし,ほかの人も出入りする本件カラオケ店のトイレで,肉体関係を持とうとした被告C,107号室に入ったとたん,機械を止め,胸ぐらをつかみ始めた被告Dの分別のなさ,軽率さがその大きな原因になっていることも合わせて検討すると,本件加害行為が発生した原因はその大部分が被告らにあるというべきである。Aには,本件加害行為を発生させたり,その結果を大きくさせ,損害賠償の額を控除されなければならないほどの落ち度はないとみるのが相当である。ほかに本件全証拠を検討しても,前記判断を覆すほどの事情は見当たらない。

5  争点(4)についての検討

被告Eは,「被告Eの本件加害行為での関わりの程度はわずかである。被告Eが,Aが本件加害行為によって被った損害のすべてを賠償を余儀なくされると,わずかな関わりしかしていないのに,無資力の危険を負担させられることになり,不公平である。仮に,その損害を賠償する責任があるとしても,損害賠償の額を決めるときには,その損害額の90パーセント以上を控除すべきである。」と主張する。

しかし,前記判断のとおり,本件加害行為は共同不法行為に当たり,被告Eには,民法719条1項本文に基づいて,Aがこのことで被った損害を賠償する責任がある。共同不法行為者である被告らは,被害者であるAが被った損害の全額について連帯責任を負うべきものであり,結果発生に対する寄与の割合をもって,被害者の被った損害額を按分し,責任を負うべき損害額を限定することはできない(最高裁判所平成13年3月13日第二小法廷判決・民集55巻2号328ページ)。被告Eの主張は採用できない。

第4被告Fに対する請求についての判断

被告Fは,請求原因事実を争うことを明らかにしないので,これらの事実を自白したものとみなす。

被告Fは,答弁書で,高校生たちが,深夜になっても本件カラオケ店で遊んでいたり,女性と肉体関係を持とうとしていた被告Cをからかったり,107号室にやってきた被告Dに暴力を振るったりしたことや,本件カラオケ店が,深夜になっても高校生たちを遊ばせたり,警察官の臨場を求めなかったことにも問題があったとの主張をしている。しかし,これらの事情は,被告Fの責任を免れたり,軽くする理由にはならない。原告らに対する損害賠償の額を決めるときに,その損害額を控除する理由にもならないことは前記判断のとおりである。

したがって,被告Fには,原告らに対し,民法719条,709条,710条,711条に基づいて,本件加害行為により生じた損害(その額は第3で判断したとおりである。)を賠償する責任がある。

第5被告Dに対する請求についての判断

被告Dは,請求原因事実を争うことを明らかにしないので,これらの事実を自白したものとみなす。

したがって,被告Dには,原告らに対し,民法719条,709条,710条,711条に基づいて,本件加害行為により生じた損害(その額は第3で判断したとおりである。)を賠償する責任がある。

第6結論

以上によれば,原告らの請求は,それぞれ3850万4207円及びこれに対する本件加害行為の日である平成16年2月1日から支払済みまで民法で定める年5パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるから認容し,そのほかの部分は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法65条1項本文,64条ただし書,61条,仮執行の宣言について同法259条1項(相当ではないから,訴訟費用の負担を求める部分には,この宣言を付さない。),仮執行の免脱宣言について同条3項を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 近藤幸康)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例