仙台地方裁判所 平成19年(行ウ)15号 判決 2008年12月18日
主文
1 被告は,補助参加人F,同G,同H及び同Iに対し,連帯して,12万8400円を支払うように請求せよ。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は,原告と被告との間に生じたものは,これを10分し,その9を原告の負担とし,その余を被告の負担とし,参加により生じた費用は,原告に生じた費用の8分の1と補助参加人F,同G,同H及び同Iに生じた費用の5分の1を同補助参加人らの負担とし,その余を原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告は,補助参加人Aに対し,99万9100円を支払うように請求せよ。
2 被告は,補助参加人Bに対し,99万9100円を支払うように請求せよ。
3 被告は,補助参加人Cに対し,99万9100円を支払うように請求せよ。
4 被告は,補助参加人Dに対し,99万9100円を支払うように請求せよ。
5 被告は,補助参加人Eに対し,99万9100円を支払うように請求せよ。
6 被告は,補助参加人Fに対し,99万9840円を支払うように請求せよ。
7 被告は,補助参加人Gに対し,99万9840円を支払うように請求せよ。
8 被告は,補助参加人Hに対し,99万9840円を支払うように請求せよ。
9 被告は,補助参加人Iに対し,99万9840円を支払うように請求せよ。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は,仙台市の住民で組織する原告が,仙台市議会の議員(以下,「市議」という。)である各補助参加人が平成18年に行った各海外行政視察はいずれも観光目的の旅行であるから,その旅費のための公金の支出は違法であるなどと主張して,地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの。以下,特段の記載がない限り平成20年法律第69号による改正前の地方自治法を「法」という。)242条の2第1項4号本文に基づき,被告に対し,海外視察に参加した当時市議であった補助参加人ら9名に対し,不法行為に基づく損害賠償請求権ないし不当利得返還請求権に基づき,旅費などとして支出された公金相当額について,返還請求をすることを求めた事案である。
2 前提事実
争いのない事実のほか,証拠(事実ごとに後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。なお,平成18年の事実については,年の表記を省略する。
(1) 当事者(争いない)
ア 原告は,国及び地方公共団体などの不正,不当な行為を監視し,これを是正することを目的とする権利能力なき社団である。
イ 被告は,法242条の2第1項4号の執行機関としての仙台市長である。
ウ 補助参加人A,同B,同C,同D及び同E(以下,補助参加人Aから同Eまでを併せて,「補助参加人Aら」という。)は,5月当時,市議であった者である。
エ 補助参加人F,同G,同H及び同I(以下,補助参加人Fから同Iまでを併せて,「補助参加人Fら」という。)は,10月当時,市議であった者である。
(2) 海外視察
ア イスタンブール市・カイロ市・アテネ市
(ア) 補助参加人Aらは,Aが代表となって,3月6日,海外出張基本計画書及び海外出張実施計画書を議長に提出した。海外出張基本計画書には視察目的及び視察先等が,海外出張実施計画書には調査事項及び調査先並びに視察日程等が,おおむね以下のように記載されている(乙A4の1,2)。
a 視察目的(以下「視察目的1」という。)
歴史ある都市の都市計画,文化行政,義務教育の実態
b 視察先
イスタンブール市,カイロ市,アテネ市
c 調査事項及び調査先
調査事項
調査先
地下鉄建設(日本の企業が工事中)
イルコグレティム・オクル小学校
アヤソフィア博物館
イスタンブール市内
アズハルパーク(ゴミ埋め立て地の公園化)
国立考古学博物館
カイロ市内
アテネ国立考古学博物館
アテネ市立アテネ中学校
アテネ市内
d 視察日程
5月2日から同月10日(9日間)
(イ) 上記計画に基づく議員の派遣は,3月9日,各派代表者会議における協議により承認が得られ,同月17日,仙台市議会平成18年第1回定例会に付議され,可決された(乙A4の4,5,丙A1)。
(ウ) 上記各派代表者会議の承認を受けて,補助参加人Aらは,3月9日付で海外出張願書を提出の上,4月28日,それぞれ旅費9万9100円(日当3万8700円,支度料5万9290円及び交通費1110円の合計)を請求し,仙台市議会(事務局)は,5月1日,旅費合計49万5500円を支出した(乙A4の3,乙A6の7)。
(エ) 仙台市議会(事務局)は,4月28日,名鉄観光サービス株式会社との間で,旅行手配業務について,450万円の業務委託契約を締結した(乙A6の4)。
(オ) 補助参加人Aらは,5月2日から同月10日までの9日間,別紙2記載の日程で海外視察を実施した(以下「本件海外視察1」という。乙A4の6)。
(カ) 仙台市議会(事務局)は,5月24日,名鉄観光サービス株式会社に対し,委託料450万円を支払った(乙A6の10)。
(キ) 補助参加人Aらは,5月30日,海外出張報告書を議長に提出した(乙A4の6)。
イ ジェノバ市,ローマ市
(ア) 補助参加人Fらは,Fが代表となって,9月19日海外出張基本計画書を,10月2日海外出張実施計画書をそれぞれ議長に提出した。海外出張基本計画書には視察目的及び視察先等が,海外出張実施計画書には調査事項及び調査先並びに視察日程等が,おおむね以下のように記載されている(乙A5の1,2)。なお,当初は,J議員も視察者の1人であったが,途中で出張取りやめとなった(乙A5の1,2,乙A7の2)。
a 視察目的(以下「視察目的2」という。)
歴史的国際交流について,バチカン市国との交流窓口調査について,仙台カップへのイタリアチーム派遣要請,イタリアサッカー協会訪問,2002ワールドカップ来仙イタリア選手の足型取りの依頼
b 視察先
ジェノバ,ローマ
c 調査事項及び調査先
調査事項
調査先
歴史的国際交流について
ジェノバ市
バチカン市国との交流窓口調査
バチカン市国
仙台カップへのイタリアチーム派遣要請
イタリアサッカー協会訪問
2002ワールドカップ来仙イタリア選手の足型取りの依頼
イタリアサッカー協会
d 視察日程
10月24日から同月31日(8日間)
(イ) 上記計画に基づく議員の派遣は,10月4日,各派代表者会議における協議により承認が得られ,翌5日,仙台市議会平成18年第3回定例会に付議され,可決された(乙A5の4,5)。
(ウ) 議会における決議等を受けて,補助参加人Fらは,10月5日付で海外出張願書を提出の上,同月23日,それぞれ旅費15万0840円(日当6万2850円,支度料5万9290円,食卓料2万8500円,交通費200円の合計)を請求し,仙台市議会(事務局)は,翌24日,旅費合計60万3360円を支出した(乙A5の3,乙A7の9)。
(エ) 仙台市議会(事務局)は,10月23日,近畿日本ツーリスト株式会社との間で,旅行手配業務について,339万6000円の業務委託契約を締結した(乙A7の6)。
(オ) 補助参加人Fらは,10月24日から同月31日までの8日間,別紙3記載の日程で海外視察を実施した(以下「本件海外視察2」という。乙A5の6)。
(カ) 仙台市議会(事務局)は,12月27日,近畿日本ツーリスト株式会社に対し,委託料339万6000円を支払った(乙A7の13)。
(キ) 補助参加人Fらは,平成19年1月19日,海外出張報告書を議長に提出した(乙A5の6)。
(3) 関係法令の定め(関係する部分のみ抜粋)
ア 法
2条14項
地方公共団体は,その事務を処理するに当つては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。
100条12項
議会は,議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のため,その他議会において必要があると認めるときは,会議規則の定めるところにより,議員を派遣することができる。
イ 仙台市議会会議規則(昭和34年3月26日仙台市議会規則第1号,以下,「本件規則」という。)111条1項は,法100条12項の規定により議員を派遣しようとするときは,議会の議決でこれを決定する旨を定め,同条2項は,議員の派遣を決定するに当たっては,派遣の目的,場所,期間その他必要な事項を明らかにしなければならない旨を定めている(乙A1)。
ウ 仙台市議会議員海外出張要綱(平成3年7月1日議長決裁,以下,「本件要綱」という。乙A2)
1条(趣旨)
この要綱は,仙台市議会会議規則第111条の規定による議員の派遣のうち,議員の海外視察に関し必要な事項を定めるものとする。
2条(出張目的)
海外出張は,議員が海外における行政事情,その他市政に関する必要な事項の視察調査を行い,市政課題の解決に資するとともに,時代に即応した国際的な知識・資質を涵養し,海外諸都市との友好親善関係を促進することを通して,市政発展に寄与することを目的とする。
3条(出張の計画)
議会が会議規則第111条の規定により議員の海外出張を決定するに当たっては,議長は,あらかじめ,視察者,視察目的,視察先,視察期間等の計画について,各派代表者会議に諮るものとする。
5条(出張旅費等)
海外出張の旅費は,特別職の職員の給与,旅費,費用弁償の額並びにその支給方法に関する条例(昭和31年仙台市条例第35条)の定めるところによる。但し,任期中の総支給額は100万円を限度とする。
7条(報告)
出張者は,帰国後速やかに公務による海外出張の報告書(様式2)を作成し議長に提出しなければならない。
8条(実施細目)
この要綱に定めのあるもののほか,特に必要と認める事項は,議長が別に定める。
エ 海外出張要綱の運用方針(以下,「本件運用方針」という。乙A3)
1条(趣旨)
この運用方針は,本件要綱に基づく議員の海外出張に関し,本件要綱8条の議長が別に定める事項として定めるものとする。
2条(出張目的の明確化)
海外出張の実施に当たっては,視察目的を明確にするとともに,議員が自ら訪問先の選定,行程及び期間等の検討を行うなど,主体的に取り組むものとする。
3条(基本計画)
1項
海外出張をしようとする議員(海外出張議員)は,あらかじめ,本件要綱3条に定める計画(基本計画)を議長に提出しなければならない。
2項
基本計画書は,次に掲げる事項について定めるものとする。
ア 視察者 海外出張議員名
イ 視察目的 視察しようとする施策又は施設等
ウ 視察先 視察しようとする都市名
エ 視察期間 視察の時期
4条(実施計画)
1項
海外出張議員は,海外出張をする14日前までに,当該出張に係る実施計画を議長に提出しなければならない。
2項
議長は,当該海外出張が実施される前に,1項の実施計画について,各派代表者会議に諮るものとする。
3項
実施計画は,基本計画で定めたもののほか次に掲げる事項について定めるものとする。
ア 調査事項 調査先の名称及び調査事項
イ 視察日程 視察の日数及び期間中の行動予定等の詳細日程
ウ 旅費の見込 海外出張議員1人あたりの旅費の見込み
4項
実施計画を定めるにあたっては,視察のテーマ,行程及び経費節減に努めた資金計画も含めた内容について,十分に検討するものとする。なお,航空機による移動の際は,ファーストクラスを使用しないものとする。
5条(団の編成)
団の編成は,本件要綱4条に基づき原則として5名以上とするが,各派代表者会議の協議において認められた場合は,最低3名以上とすることができる。
6条(出張対象者及び出張回数)
1項
海外出張は,本件要綱5条の総支給額の範囲内において,任期中1人2回以内とする。
2項
海外出張は,目的に合致する専門家及び有識者の参加を得て実施することができるものとする。
この場合にあっては,費用は当該参加者の負担とする。
7条(報告書の提出)
本件要綱7条による報告書は,視察団のテーマの報告書と各議員の報告書の二つを提出するものとし,議会図書室及び市政情報センターで公開するものとする。
また,報告書の写しを市長に送付するとともに,必要に応じて関係機関との意見交換を実施するものとする。
(4) 原告は,平成19年3月8日,仙台市監査委員に対し,法242条第1項により本件海外視察1及び同2について住民監査請求をした。
監査委員は,同年5月7日,住民監査請求を棄却し,原告は,そのころ,その通知を受けた。(争いなし)
そこで,原告は,平成19年6月6日,本訴を提起した(顕著な事実)。
3 争点に対する当事者の主張
本件の争点は,本件海外視察1及び同2の適法性であり,当事者の主張は以下のとおりである。
(1) 原告の主張
ア(ア) 海外視察は,単に「時代に即応した国際的な知識・資質を涵養し,海外諸都市との友好親善関係を促進すること」を目的とするのであってはならず,「市政に関する必要な事項の視察調査を行い,市政課題の解決に資する」ものでなければならないとされているのである。
具体的にどのような場合に「議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のため必要があるとき」に該当するかについては,その必要性判断について議会に一定の裁量があることは否定できない。
しかし,その裁量は当該海外視察が「議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のため」であることを前提に,そのために海外視察の必要性があるかどうかという意味での裁量であって,「議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のため」以外の目的での海外視察を許容するものではない。
(イ) 海外視察が適法とされるためには,以下の要件(以下,「原告主張要件」という。)を全て満たす必要があり,これらのうちの1つでも満たさない場合には,その海外視察は違法となる。
a 海外視察は「議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のため」に認められるものである以上,具体的な審査すべき議案又は仙台市の事務に関して調査を要する事項(以下,両者を併せて「調査対象事項」という。)が存在しなければならない。
また,そもそも,一般的な行政課題と共通するから市議の海外視察の目的としてよいということにはならない。仙台市政において,当該行政課題が具体的にどのように存在するのか,それを解決するために当該地を視察することがどのように有益なのかがきちんと説明されなければならない。
b 多額の費用をかけてわざわざ海外まで視察に出かけるのであるから,調査対象事項について効果的な調査をなしうるよう,訪問先のアポイントメント(約束)をとることをはじめ十分な事前準備がなされる必要がある。
c 効果的な調査がなされたと言えるためには,現地において調査対象事項についての資料収集,関係者からの聞き取り,聞き取り結果の記録がなされなければならない。
d 調査は,正に仙台市が抱える市政の課題を解決するために行われるものであるから,調査結果については海外視察報告書に十分な記載がなされ,また市政への政策提言などに活用されなければならない。
e 法2条14項及び本件運用指針2条(出張目的の明確化)の観点からは,海外視察の費用が目的・効果との関係で著しく高額でないことが要求される。
f 海外視察の場合は海外にいるだけで多額の滞在経費がかかるという特殊性がある。そしてそもそも海外視察は調査対象事項についての調査のために認められるものであるから,移動日や視察先の都合の関係でどうしても空いてしまうという時間を除き観光が組み込まれてはならない。
イ 本件海外視察1について
(ア) 本件要綱違反
本件要綱では,視察目的のほかに調査事項として調査先の名称及び調査事項を必ず定めるものとされているが,本件海外視察1における海外出張実施計画書では,「調査事項」として調査先の施設名が記載され,「調査先」として都市名が記載されているのみである。
このような運用では,本件要綱を実質的に骨抜きにするものであって,要綱違反の誹りを免れない。
(イ) 各視察先における視察内容について
a ボスポラス海峡横断鉄道工事の視察(以下「海底トンネル視察」という。)
都市計画調査というのであれば,都市交通量の現状や全体的な都市交通計画の様相等が基本的な調査対象事項のはずである。ところが,海底トンネル視察では,どのような都市計画に基づいて地下トンネルが建設されているのかについて調査されていない。
結局,どのように仙台市政に役立つ調査であったのか不明である。
b イスタンブール市内にある小学校
教育制度の一般的な説明は,わざわざ現地に行かなくとも入手できるので,現地に行って実際に肌で感じることが,どのように役立つのかということが問題となる。この場合,議員の素養や自己研鑽に役立つことは当然認められるが,それが仙台市政にどのように役立てられるのかが有意義な調査であるか否かのメルクマールである。
ところが,仙台市の義務教育で現在何が問題となっているのか,それについてイスタンブール市内にある小学校調査によって何が参考として役立ったのかが不明である。
c アヤソフィア博物館
視察した目的が不明であるばかりか,アポイントメントや一般観光客と異なる資料収集もされておらず,観光旅行と区別しがたい。
市政へ活用されたことも認められず,費用対効果も極めて疑わしい。
d アズハルパーク
ゴミ埋立地を利用した公園であるアズハルパークの視察がどのように仙台市政に役立つのか不明である。
C証人の供述によれば,同氏は公園にある野外レストランに関心を持っていたようであるが,仮にそうであるとすれば,有料となっている公園の経営状況について調査する必要があるし,仮に,ゴミ埋立地が公園とされたことを理由として視察されたとすれば,カイロ市における公園政策であるとか,公園化が実現するに至った経緯等が調査されるべきであるが,このような事項については,何ら調査されていない。
市政へ活用されたことも認められず,費用対効果も極めて疑わしい。
e ギザのピラミッド
アポイントメントや一般観光客と異なる資料収集もされておらず,観光旅行と区別しがたい
f 国立エジプト考古学博物館
この博物館への視察が,仙台市政にどのように役立つのか不明である。
アポイントメントや一般観光客と異なる資料収集もされておらず,議員の自己研鑽ともいうべきであって,観光旅行と区別しがたい。
市政へ活用されたことも認められず,費用対効果も極めて疑わしい。
g アテネ市内にある中学校
この中学校の視察と仙台市政との関連が明らかでない。
実際の調査内容や調査結果をみても,早期に英語教育を始めることの意義等に関しては,わざわざ公費で現地に行かなければ指摘できない内容であるとはいえない。
市政へ活用されたことも認められず,費用対効果も極めて疑わしい。
h アテネ考古学博物館
展示方法等の適否ないし改善点については,この博物館を視察するまでもなく,検討できることである。この博物館を視察したことが,仙台市政にどのように役立つのか不明である。
アポイントメントや一般観光客と異なる資料収集もされておらず,観光旅行と区別しがたい。
市政へ活用されたことも認められず,費用対効果も極めて疑わしい。
(ウ) その他共通して指摘できる事項
a 視察先の選定について
(a) 本件海外視察1では,アヤソフィア博物館,アズハルパーク,ギザのピラミッド,エジプト考古学博物館,アテネ考古学博物館を視察先としているところ,これらの視察先は,いわゆる観光地と称されるべき所である。
(b) また,本件海外視察1には,その他に単なる観光と評価されるべき行動も存在する。
① 補助参加人Aらは,5月3日午後にアヤソフィア博物館を視察した後,その付近に所在するトプカプ宮殿,ブルーモスク,グランバザールを訪れているが,これらの場所を訪問することは仙台市政との関連性がなく,単なる観光であったとの評価を免れない。
② 補助参加人Aらは,5月7日にアテネ空港からホテルに向かうまでの間にスニオン岬を訪れているが,この岬を訪問することは仙台市政との関連性がなく,単なる観光であったとの評価を免れない。
b 事前調査
補助参加人Aらによる事前調査は,ほとんどされていない。
c 海外視察報告書
海外視察報告書には,単に聴取内容が記載されたり,感想や独自の見解が披露されたりするにとどまり,視察結果のどこを仙台市政に役立てるのか,そのためにどうするのかについては何ら記載されていない。
加えて,ギザのピラミッド視察の事実については,隠蔽するかのごとく巧妙に省略されているし,他の行動についても記載されていないものがある。
(エ) 小括
以上より,本件海外視察1の実質が観光旅行であったことは明白であり,本視察に要した費用は全額違法支出である。
ウ 本件海外視察2について
(ア) 視察先と仙台市政との関連性がないこと
本件海外視察2は,全体として仙台市政の具体的課題との関連が明らかでない。
補助参加人Fらは,仙台市とのゆかりが深いことを理由として仙台市政との関連性を主張するが,海外視察には公金が投入されていることも考慮するならば,単にゆかりが深いという程度の目的では仙台市政との関連性があることにはならない。
また,補助参加人Fらは,ボルゲーゼ美術館の視察に関し,その保管展示等の手法を実地に学ぶことを目的としたと主張するが,仙台市博物館等の展示品の保管展示等の手法にどのような課題があり,それを解決するために当該美術館を視察することがどの程度有益であるのかが明らかではない。
結局,これらの目的は,議員個人の自己研鑽及び素養・資質の向上にとどまるものであり,およそ公費で負担すべきものではない。
(イ) 事前調査,アポイントメント
a 補助参加人Fらは事前調査を行っていない。
b 事前調整は,ほとんど行われていなかった。
王宮,サンピエトロ大聖堂,バチカン美術館,ボルゲーゼ美術館については,アポイントメントなしであり,一般の観光客と同様の見学をしただけである。
(ウ) 現地における視察資料収集,関係者からの聞き取り
王宮,サンピエトロ大聖堂,バチカン美術館,ボルゲーゼ美術館については,現地において,視察資料を収集した形跡が無く,関係者との意見交換もなされていない。
(エ) 海外視察報告書
海外視察報告書では,全般的に単に聴取内容を記載したり,感想や漠然とした課題を披露するなどにとどまっており,視察結果のどこを仙台市政に役立てるのか,そのためにどうするのかについて何らの言及はなく,中には訪問地の概要や特徴を観光パンフレットから引き写したと思われる記述が8頁余りある。
サンピエトロ大聖堂やバチカン美術館については,報告書への記載が省略されており,他の行動についても記載されていないものがある。
(オ) 仙台市政への貢献
本件海外視察2の結果は,現時点までに仙台市政に何ら役立っていない。
(カ) 視察先について
a 本件海外視察2では,ジェノバの旧市街地区(世界遺産),キヨッソーネ東洋美術館,王宮,カステル・ガンドルフォ城,サンピエトロ大聖堂,バチカン美術館,ボルゲーゼ美術館を視察先としているところ,これらの視察先は,いわゆる観光地と称されるべき所である。
b また,本件海外視察2には,その他に単なる観光と評価されるべき行動も存在する。
(a) 10月27日午後,翌28日午後,翌29日全日には,ローマ観光に終始している。
(b) なお,10月29日が日曜日(安息日)であるとしても,本件海外視察は議員自らが計画した上,多額の税金を投入しているのであるから,予定された視察が終了すれば速やかに帰国するのが相当であり,敢えて一日多く滞在する必要はない。
(キ) 費用について
a 本件海外視察2では,補助参加人Fら4名が,わざわざ現地を訪問するまでもなく,別途問い合わせ等の手法により,調査,確認できる事項が数多くある。
訪問の必要性をかろうじて見いだしうるのは,仙台ユースサッカーへのイタリアチーム派遣要請,足型取り要請,及び,「風の環」を仙台市民が見学できるようにすることだけであろうが,このような目的のためだけに議員4名が渡航する意義・費用対効果は不明である。
b ガイド等の費用
本件海外視察2で要したガイド・アシスタント費用は,79万6000円であり,通訳費用は,49万3200円であるところ,通訳費用の法外さは明らかである。通常の相場を超える部分は明らかに違法というべきである。
少なくとも,10月27日午後以降のガイド・アシスタント費用や通訳費用は,少なくとも税金をもってまかなわれる筋合いではない。
(ク) 以上より,本件海外視察2の主たる目的と実質は観光であり,「調査」ではないから,本視察に要した費用は全額違法支出である。
(2) 被告の主張
ア 市議の海外派遣に関わる制度が整備されていること
市議の海外派遣は,①法及び本件規則の明文上の根拠に基づいて派遣が議会の議決で決定されることとされており,②派遣の決定前において,海外出張議員から議長に基本計画書が提出され,当該基本計画が各派代表者会議に諮られることになっており,また,実施前において,海外出張議員から実施計画が議長に提出され,当該実施計画についても各派代表者会議に諮られることになっており,③実施後においても,出張者は,報告書(海外出張の視察団のテーマの報告書と各議員の報告書)を議長に提出し,提出された報告書は公開されるものとされているのであるから,制度が十分に整備されているものというべきである。
イ 議会の広範な裁量について
法,本件規則及び本件要綱によれば,文理上,仙台市議会による議員の海外派遣は,議会の広範な裁量に基づいてなされるべきものであり,議会の有する広範な裁量権の行使に逸脱又は濫用があるときに限り,議会による議員派遣の決定が違法となる場合があることになるにすぎないと解すべきことは明らかである。
原告は,法100条12項の「その他議会において必要があると認めるとき」について,「議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査に準じたものでなければならない」などと制限的に解すべきであると主張するが,そのように解すべき法上の根拠がないことは明白である。
ウ 観光地を訪れた場合
派遣された議員が観光地を訪れた場合においても,訪問国の歴史,文化,市民生活等に直接触れることが,視察目的である当該訪問国の諸行政等の背景を理解する上で有益となる側面があることも一概に否定できず,広範な権能を有している地方公共団体の議会において,その権能を適切に発揮するためには,諸外国の歴史,文化,市民生活等を実地に見聞し,幅広い見識と国際的な視野を養い,それを立法政策に反映させる必要性も否定できないことなのであるから,その一事をもって,当該海外派遣について一概に裁量権の行使の逸脱又は濫用が成立するとはいえないものというべきである。
エ 本件海外視察1及び同2について
本件海外視察1及び同2は,法,本件規則,本件要綱及び本件運用方針に適合しているというべきであり,裁量権の行使の逸脱又は濫用が成立する余地はなく,また,特に個別の支出が違法と評価されるべきものも存在しない。
(3) 補助参加人Aらの主張
ア 視察目的1は,いずれも仙台市政に関連する重要な課題であり,市議としての活動に密接に関連するものである以上,正当な視察目的であることは明らかである。
また,補助参加人Aらが行った海外視察の日程や派遣計画の点においても,専ら視察目的とおよそ無関係な観光目的のみの行程などない点で,派遣計画の相当性も有することは言うまでもないところである。
イ 本件海外視察1は,本件要綱,本件運用指針等の規定に従い,二度の代表者会議を経て,本会議においても了承されており,適正に行われたものである。
なお,「海外出張実施計画書」における「調査事項」欄には,視察目的を具体化したものを記載することを要求されているところ,視察目的と関連する調査対象となる施設名を記載している点で,自ずから調査対象は明らかとなっており,また,「調査先」欄に都市名の記載をしたのも,既に「調査対象」欄に調査の対象となる施設名を記載したため,その重複を避けるため記載しなかったからにすぎない。
ウ 原告主張要件について
原告主張要件は,いずれも多義的であり,また,解釈ないし裁量の幅が極めて大きいものであり,およそ要件たり得る性格を有していないと言わざるを得ない。
(ア) 視察先と仙台市政との関連性について
a 仙台市政との関連性について
上記のとおり,視察目的1は,いずれも仙台市政に関連する重要な課題として,関連性を有している。
b 観光地と称すべき所との主張について
原告は,アズハルパークを観光地であると主張するが,観光地とは一般的に「名勝や史跡,温泉などに恵まれ,多くの観光客が集まる土地」と定義されており,アズハルパークは観光地にはあたらない。
原告は,観光地における視察が観光旅行となると主張するようであるが,かかる主張については争う。
c 単なる観光と評価されるべきとの主張について
補助参加人Aらは,5月3日午後にアヤソフィア博物館を視察した後,トプカプ宮殿,ブルーモスク,グランバザールを訪れているが,これらの場所は,いずれもアヤソフィア博物館から徒歩で行ける距離に存在しているものであり,これらの場所を訪れていることが違法と評価されることにはならない。
また,補助参加人Aらは,5月5日,アズハルパークを視察した後,ギザのピラミッド,スフィンクス及び博物館の見学を行っているが,その見学費用は各自の私費で賄うとともに,その見学時間も2時間程度であってその余の視察先における調査と比較して過大な時間を割いているわけではないこと等を考慮すれば,これらの場所を訪れたことをもって,本件海外視察1が観光旅行と評価すべきではない。
さらに,補助参加人Aらは,5月7日にアテネ空港からホテルに向かうまでの間にスニオン岬を訪れているが,同日は休日(日曜日)であったため,視察を行うことができないという事情が存在したのであり,スニオン岬を訪れていることが違法と評価されることにはならない。
(イ) 事前調査・アポイントメント
a 事前調査
原告が主張する事前調査の具体的内容が明らかではない。
b アポイントメント
アポイントメントが少なすぎるとの評価については否認ないし争う。
アヤソフィア博物館,ギザのピラミッド,エジプト考古学博物館,アテネ考古学博物館では,現地における専門のガイドを伴っていたのであって,一般の見学態様とは異なっていた。
(ウ) 視察の実態が存すること
補助参加人Aらは,自らが海外視察の目的を達成するために選定した視察先について海底トンネル視察,アズハルパーク,イスタンブールの小学校とアテネ市内の中学校に対し,事前に視察を行う旨をアポイントを取り,その視察先の状況について説明を受けるとともに,関係者と懇談し,適宜質疑応答を繰り返す中で視察調査を行っている。
a 海底トンネル視察
補助参加人Aらは,5月3日,工事を担当している大成建設の担当者から工事の状況等の説明を受けながら視察を行っている。
補助参加人Aらは,2時間程度の調査を行ったが,ボスポラス海峡においては3つの橋が架けられている関係で,イスタンブール市民の足となっているとともに,海峡により都市が分断されているため,仙台市においてもJR仙台駅において鉄道の線路により東西に分断されている関係で,仙台市の今後の都市計画を考える意味で,この工事現場を視察することに意義のある調査をできたものである。
b 教育調査
補助参加人Aらは,5月4日,イスタンブール市内にある小学校を,同月8日,アテネ市内にある中学校を視察に訪れている。
補助参加人Aらは,日本において取られたゆとり教育の是非について参考にするべく調査を行っていたが,視察団のCは,この他いじめ問題にも関心をもって視察し,さらに,視察の結果,英語教育の必要性についても認識した。
c アズハルパーク
補助参加人Aらは,事前に手配をしていた職員と車で移動しながら説明を受けつつ,視察を行った。
d 各博物館
補助参加人Aらは,専門的知識を有するガイドを手配し,ガイドを伴って適宜説明を受けながら視察を行うとともに,仙台市の観光行政に資するべく,博物館の設置状況や展示品の展示の仕方,説明文の配置等に気を配って視察を行った。
(エ) 海外視察報告書
海外視察報告書の記載内容が希薄であるとの主張については,否認ないし争う。また,この報告書には,ギザのピラミッド視察の事実が記載されていないが,それは,ピラミッド視察の事実を隠蔽するために省略したわけではない。
エ 原告は,海外視察の仙台市政との関連性を全く評価することなく,かえって明確な定義の設定もないまま,観光ないし観光旅行と決めつけて違法視するものであり,原告の主張自体失当と言わざるを得ない。
(4) 補助参加人Fらの主張
補助参加人Fらは,仙台市にゆかりの深い都市との国際交流をテーマとして調査を重ねて視察先を選定し,予め関係機関との面接交流の日程も調整して視察と国際交流の実をあげたのであって,決して物見遊山的観光の類ではない。
ア 視察目的2は,それ自体,法100条12項や本件要綱に適合するものである。
(ア) ジェノバ市は,旧伊達藩士支倉常長が慶長遣欧使節としてイタリア最初に上陸した土地であるとともに,同市に所在するキヨッソーネ東洋美術館には,紙幣発行の特殊印刷技能者として明治政府に招請されたイタリア人キヨッソーネが収集した浮世絵などが所蔵されているほか,ジェノバ市ではウォーターフロント再開発事業が実施されている等,視察と親善交流の価値の大きい市である。
補助参加人Fらは,上記の特質に着目して,仙台市とジェノバ市との姉妹都市関係創設の布石も含めて,仙台市長によるジェノバ市長宛の親書を持参して,視察と親善交流の目的を具体化した。
(イ) カステル・ガンドルフォ城内の法王が出入りする庭園には,仙台出身の彫刻家である武藤順九の作品「風の環」が献納され,その台座には仙台市の青葉城の岩石が用いられ,仙台市出身の作家である井上ひさしの碑文が刻まれている。
補助参加人Fらは,カステル・ガンドルフォ城の所在する市には上記のようなゆかりがあることに着目し,仙台市との親善交流先として,また,仙台市民が上記庭園に入ることができるようにするための布石として,カステル・ガンドルフォ市を視察先とした。
(ウ) イタリアサッカー協会へは,平成14年に開催されたサッカーワールドカップに際し,イタリアチームが仙台市にキャンプインし,記念に選手らの足型を取り,展示していることで縁がある。
ところで,来仙した選手のうち未だ4名の選手の足型を取り損ねているため,これらの選手の足型を補完する必要がある。また,世界の若者による「仙台ユースサッカー」にイタリアチームが参加していないため,同大会が今後更に盛り上がるためには,同大会にイタリアチームが参加することが望ましい。
そこで,足型の補完と「仙台ユースサッカー」へのイタリアチームの参加を要請することを目的として,イタリアサッカー協会を視察先とした。
(エ) バチカン市国は,支倉常長が法王に謁見した歴史的土地であることに加え,ボルゲーゼ美術館は,支倉常長の歓迎昼食会が開催された場所であるとともに,支倉常長をモデルとした日本武士像が保管されている美術館である。
補助参加人Fらは,バチカン市国も含め,ボルゲーゼ美術館における美術品の保管・展示等の手法を実地に学ぶことを目的として,バチカン市国及びボルゲーゼ美術館を視察先とした。
イ 視察内容について
(ア) 本件海外視察2は,平成18年10月24日から同月31日までの期間内に行われたものであるところ,そのうち,24日,30日及び31日は往復の機中滞在に当てられている。
(イ) 本件海外視察2の視察内容は,24日の港町ジェノバ市視察と25日以降の近郊を含むローマ市の視察に尽きるが,その中身は,いずれも事前調査と現実のアポイントメントによるヒアリングや意見交換を兼ねた視察と国際交流が行われ,仙台の支倉常長以来の歴史的国際交流の実を挙げたことは確かである。
視察の成果は,市議会の本会議定例会における補助参加人Gの政見演説や提言等からも十分窺えるところである。
(ウ) 10月27日午後は,補助参加人Fらが,それまでの視察による成果を自由に意見交換するとともに,長距離旅行と過密スケジュールにより蓄積した疲労を回復するための休息に充てた。
同月28日午後は,ローマ市内の街並を視察した後,ボルゲーゼ公園とボルゲーゼ美術館を視察した。
同月29日は,日曜日(安息日)のため公式日程はなく,各自の自主研修日とした。補助参加人Gは,自費でローマ市内をめぐり,古代以来の都市計画とゴミ問題も含む現在の都市問題の現況を確認した。他の補助参加人らは,自費でポンペイ遺跡などを訪問し,遺跡の保存と展示,観光資源としての活用のあり方とその整合性等を調査した。
(エ) 以上より,本件海外視察2の視察内容は,その視察目的を優に充足するものである。
ウ ガイド・アシスタント費用等について
旅行会社が手配する旅行契約では,日本語を話す必要から現地在住の日本人を依頼するが,現地(イタリア)の法律では,現地人ガイドが必ず同行しなければならない旨定められており,結果として,日本人ガイドと現地人ガイドの双方がつくことになり,二重に費用がかかる。
本件海外視察2のために支出された費用は,旅行会社の見積と請求に基づいてなされたものであり,通訳費用が高額であったとしても,何ら違法ではない。
エ 原告は,原告主張要件を基準として,本件海外視察2の違法性を主張しているが,本件では,視察目的の存在とこれに見合う期間と場所における実態を伴った視察が行われたことが確かである以上,何ら違法との評価を受けない。
第3当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実のほか,証拠(事実ごとに後掲)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件海外視察1について
ア 補助参加人Aらは,視察前に,視察先の都市について,それぞれの視察目的や場所などに関する情報を,インターネットなどを利用して収集し,打合せを行った(証人C3頁,5頁)。
イ 視察内容など(乙A4の6,丙A1,証人C,弁論の全趣旨)
(ア) 5月3日
a 海底トンネル視察
補助参加人Aらは,午前10時ころから正午ころまでの間,ボスポラス海峡横断鉄道トンネル工事を請け負っている大成建設の現地事務所を視察した。
事務所においては,5名ほどの担当者から,トンネル工事の概要,工事の計画,工事の進捗状況等について説明を受けた。補助参加人Aらは,視察にあたって,大成建設に対し,視察する旨を事前に伝えていた。
b アヤソフィア博物館
補助参加人Aらは,午後2時ころから午後3時ころまでの間,アヤソフィア博物館を見学した。
博物館内では,予め手配した専門的な知識のある通訳を伴い,通訳人から説明を受けながら,博物館の展示品を見学した。
c その他
補助参加人Aらは,午後3時半ころから午後4時半ころまでの間トプカプ宮殿を,午後4時半ころから午後5時20分ころまでの間ブルーモスクを,午後6時ころから午後6時40分ころまでの間グランバザールをそれぞれ見学した。
(イ) 5月4日
補助参加人Aらは,午前10時ころから正午過ぎころまでの間,イスマル・タルマン・イルコグレチム・オクル小学校を訪問した。
最初に,校長からトルコにおける小学校教育について説明を受けた後,教室に入り授業の様子を視察した。その後,約30分ほどの間,15名の教職員とトルコにおける教育制度,教育環境,教育方針ないし教育内容などについて懇談した。補助参加人Aらは,視察にあたって,この小学校に対し,視察する旨を事前に伝えていた。
(ウ) 5月5日
a アズハルパーク
補助参加人Aらは,午前11時ころから午後1時ころまでの間,アズハルパークを視察した。なお,アズハルパークは,補助参加人Aらが宿泊していたホテルから,車で1時間程度の位置であった。
補助参加人Aらは,公園の整備状況,管理状況,利用状況を視察した後,公園の管理者や通訳人と,カイロでの生活,婚約と結婚,宗教などについて懇談した。補助参加人Aらは,視察にあたって,アズハルパークに対し,視察する旨を事前に伝えていた。
b ギザ
補助参加人Aらは,午後2時ころから午後4時30分ころまでの間,ギザのピラミッド,スフィンクス,博物館を見学した。
博物館内では,予め手配した専門的知識を有するガイド兼通訳人(地元の大学の助教授であり,日本語が堪能であった。)を通じて説明や案内を受けながら,展示品を見学した。
(エ) 5月6日
a 国立エジプト考古学博物館
補助参加人Aらは,午前10時ころから12時ころまでの間,国立エジプト考古学博物館を見学した。
考古学博物館では,前日と同一のガイド兼通訳人を通じて説明や案内を受けながら,展示品を見学した。
b 午後
補助参加人Aらは,土曜日であり,視察の対象となる官公庁等も休みであったこともあり,午後を休息に充てた。
(オ) 5月7日
補助参加人Aらは,午後1時35分ころにアテネ空港に到着し,出国手続を済ませた後,アテネ空港から車で約1時間ほどのところにあるスニオン岬に赴き,約1時間見学した。
(カ) 5月8日
a ピラマチコ・ジムナシオ・アシノン中学校
補助参加人Aらは,午前10時30分ころから正午ころまでの間,ピラマチコ・ジムナシオ・アシノン中学校を視察した。
最初に,教頭から学校に関する説明などを聞いた後,中学3年生の英語の授業を視察した。補助参加人Aらは,視察にあたって,この中学校に対し,視察する旨を事前に伝えていた。
b アテネ考古学博物館
補助参加人Aらは,午後1時30分ころから午後3時ころまでの間,アテネ考古学博物館を見学した。
博物館内では,現地の学芸員をガイド兼通訳人として伴い,展示品を見学した。
c アクロポリス
補助参加人Aらは,午後4時ころから午後5時30分ころまでの間,アクロポリスを見学した。
ウ 本件海外視察1に要した費用(450万円)の内訳は,別紙4「旅行代金精算書」記載のとおりである(乙A6の9)。
なお,補助参加人Aらは,視察先への土産代,食事の際の酒代,調査項目から外れた施設への入場料などに充てる目的で,視察前に,1人あたり10万円を集めており,実際に,平均して1人当たり約5万5000円分が費消された(証人C11頁)。
(2) 本件海外視察2について
ア 補助参加人Fらは,5回の勉強会を開催し,訪問先の都市における歴史,文化,行政,仙台市との関わりなどについて調査を重ねるとともに,具体的な視察先との日程調整などを行った(丙B2の1,丙B4)。
イ 視察内容など(甲15,乙A5の6,丙B1,2の1,丙B3,証人F,弁論の全趣旨)
(ア) 10月25日
a ジェノバ市内
補助参加人Fらは,午前9時ころホテルを出発し,ジェノバ市内の旧市街地区の街並みを視察した。
b ウォーターフロント再開発地区現地事務所
補助参加人Fらは,ウォーターフロント再開発地区を視察し,その後午後3時ころまでの間,再開発責任者Kの事務所を訪問した。
Kは,ジェノバ市との契約でウォーターフロント再開発計画のプロジェクト担当責任者を務めており,補助参加人Fらは,Kから,同計画の概要や市の歴史などについて説明を受けるなどした。
c ジェノバ市役所
補助参加人Fらは,午後3時ころから午後4時ころまでの間,ジェノバ市役所を視察した。
ジェノバ市側からは,観光部長,評議会観光担当長,同市役所の職員1名が参加し,都市計画や構想などについて,意見交換を行った。また,補助参加人Fらは,ジェノバ市側に対し,将来の友好都市としての市民交流を要請し,Fが,仙台市長からの「ジェノバ市と市民間交流を求める親書」を手渡した。
d キヨッソーネ東洋美術館
補助参加人Fらは,午後4時過ぎころから午後5時半ころまでの間,キヨッソーネ東洋美術館を見学した。
美術館長から,エドアルド・キヨッソーネの経歴,キヨッソーネ東洋美術館の沿革などの説明を受けた後,館内を見学した。
(イ) 10月26日
a カステル・ガンドルフォ城
補助参加人Fらは,午後3時ころから午後5時ころまでの間,カステル・ガンドルフォ城内の庭園にある「風の環」や美術館を視察した。
b カステル・ガンドルフォ市役所
補助参加人Fらは,午後5時ころから,カステル・ガンドルフォ市役所を訪問し,意見交換を行った。
カステル・ガンドルフォ市役所側からは,市長,観光部長が出席した。議題は,従前の仙台市とカステル・ガンドルフォ市との交流状況,今後の交流のあり方,仙台市の一般市民がカステル・ガンドルフォ城に献納された武藤順九氏の彫刻「PAX2000−風の環」と台座である仙台城の石垣を見学できるようにするための要請などであった。
(ウ) 10月27日
a イタリアサッカー協会
補助参加人Fらは,午前10時ころから正午ころまでの間,イタリアサッカー協会を訪問し,意見交換を行った。
協会側からは,副代表が出席した。補助参加人Fらが,協会側に対し,足型取りや仙台ユースカップへのイタリアチーム派遣などを要請し,仙台市議会議長からイタリアサッカー連盟・ナショナルチーム部の副代表に宛てた親書を手渡した。
b 自由視察
補助参加人Fらは,午後を各自の休息と議員相互間の視察成果の自由な意見交換に充て,大統領官邸,クィリナーレ宮,サンタンジェロ城などを訪問した。
(エ) 10月28日
a サンピエトロ大聖堂,バチカン美術館
補助参加人Fらは,午前中,サンピエトロ大聖堂及びバチカン美術館を見学した。
美術館内では,予め旅行業者の手配した美術に詳しいガイドから説明を受けながら,展示品を見学した。
b ローマ市内
補助参加人Fらは,午後1時半過ぎから午後4時前ころまでの間,ローマ市内の街並みを見学した。
c ボルゲーゼ公園,ボルゲーゼ美術館
補助参加人Fらは,午後4時ころから午後7時ころまでの間,ボルゲーゼ公園及びボルゲーゼ美術館を見学した。
(オ) 10月29日
日曜日であったため,補助参加人Gは,ローマ市内を視察し,補助参加人Gを除く3名は,ポンペイ遺跡などを訪問した。補助参加人Fらは,当日,基本的には自費で視察したものの,公金から,ガイド費用4万6000円が支出された。
ウ 本件海外視察2に要した費用の内訳は,別紙5「ご旅行精算書」に記載のとおりである。
なお,ガイドに関する費用については,往復送迎・観光時のガイド費用のほかに,イタリアにおける雇用政策により,イタリア人のライセンスガイドの同行が義務づけられており,ガイド・アシスタント費用が通常の2倍程度となる。また,通訳費用は,視察先各地におけるイタリア語に通じているAクラスの通訳人を依頼した場合の費用であり,ジェノバにおける通訳人については,市内に適当な通訳人がおらずミラノから呼び寄せたために,交通費・宿泊費及び拘束時間に応じた増加経費も含まれた。(甲27,乙A7の4,12)
2 検討
(1)ア 法100条12項は,議会制度を充実させ,地方分権を推進する一環として平成14年の法改正によりもうけられたものであるところ,その趣旨は,普通地方公共団体の議会が,当該普通地方公共団体の議決機関として,その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し,合理的な必要性があるときはその裁量により議員を国内や海外に派遣することができるとする点にあると解される。
もとより,このような議会の権能も絶対無制約なものではなく,合理的な必要性がないにもかかわらず所属議員を海外に派遣したり,研修や視察の名のもとに遊行を主目的とするようないわゆる観光旅行を実施するなどした場合には,裁量権行使の逸脱又は濫用として,右派遣に要した費用の支出が違法となる場合があるというべきである。
そして,裁量権行使の逸脱又は濫用の有無を判断するにあたっては,視察目的の合理性,視察先と視察目的との関連性,視察の必要性,視察内容,視察行程や費用の相当性などの事情を総合的に考慮する必要があると考える。
イ 本件規則,本件要綱,本件運用指針も,上記(1)アの観点から市議の派遣(海外視察)に関し,必要な事項を定めたものであり,その解釈・運用にあたっては,このような趣旨を踏まえる必要があると解される。
ウ 原告らは,原告主張要件を1つでも満たさない場合には,海外視察が違法になると主張するが,前記議会の有する裁量の性質やその幅の大きさに鑑みれば,原告らの主張を直ちに採用することはできなものの,原告らが主張する各要件が裁量権行使の逸脱又は濫用の有無を判断するに際しての一要素となりうるというべきである。
(2) 本件海外視察1について
ア 本件要綱,本件運用指針違反について
原告は,補助参加人Aらの提出した海外出張実施計画書には,具体的な調査事項が記載されていないとして,本件運用指針違反を主張するが,海外出張実施計画書の提出が求められる趣旨は,議会ないし各派代表者会議において,海外出張基本計画書などの他の資料とともに,海外視察の目的の合理性や視察の必要性などを判断するための資料とする点にあると解されるところ,補助参加人Aらが提出した海外出張実施計画書,海外出張基本計画書には視察目的1,視察都市名及び視察施設名が記載されており,議会ないし各派代表者会議において,記載内容を相互に関連づけて検討するならば,本件海外視察1の目的の合理性や視察の必要性などを判断するための資料として著しく不十分であったということはできず,本件運用指針違反をいう原告の主張は採用できない。
イ 視察目的について
視察目的1は,仙台市における歴史ある都市計画,文化・教育の育成方針などを幅広く扱う市議の活動に密接に関連し,あるいは将来関連性を持ち得る課題として,合理的な視察目的であるというべきである。
ウ 視察先と視察目的との関連性,視察の必要性など
(ア) 海底トンネル視察
a 地下にトンネルを通すことは,現代ないし将来の都市空間を構想し,交通,流通における地下構造物の意義,機能を検討し,展開するといった都市計画の一態様であるといえるから,海底トンネル視察が都市計画調査に資するものであると認められる。また,補助参加人Aらは,大成建設に対し視察する旨を事前に伝え,視察当日は,大成建設の担当者5名からトンネル工事の概要などについて説明を受け,工事現場を視察したというのであり,視察の実態も認められる。
b 原告は,補助参加人Aらが,海底トンネル視察において,都市交通量の現状や全体的な都市交通計画がどのようになっているのかといった事項を調査しておらず,単に工事現場を見て日本のトンネル技術に感心していただけであり,何ら仙台市政に具体的に反映できる調査をしていない旨主張するが,視察目的1のとおりの一定の関連性を有している限り,議会における政策決定と視察結果とが直ちに結びつかなければならないというものではないところ,JR仙台駅によって東西に分断されている仙台市の市政において,政策における位置付けの程度はあるにせよ,地下鉄などの地下構造物を築いて交通,流通の活性化を図るという計画が策定される可能性もないとはいえず,海底トンネル視察の必要性を否定することはできない。
(イ) アヤソフィア博物館
補助参加人Aらは,アヤソフィア博物館を見学するにあたり,予め手配した専門的知識を有する通訳からの説明を受けていることから,同見学と文化行政調査との関連性を否定しさることはできないものの,なおその関連性が明確であるとまではいえない。
(ウ) トプカプ宮殿など
補助参加人Aらは,アヤソフィア博物館を見学した後に,トプカプ宮殿,ブルーモスク,グランバザールを見学しているところ,文化行政調査との関連性が明確であるとまではいえない。
(エ) イスマル・タルマン・イルコグレチム・オクル小学校
a 補助参加人Aらは,小学校に対し,事前に視察する旨を伝え,視察当日は,校長からトルコにおける小学校教育に関する説明を受けた後,授業の様子を視察するなどしているところ,さまざまな国における義務教育の実態を視察することは,価値観の多様化するとともに国際化の著しい現代において,仙台市での教育のあり方を検討するにあたって参考になるものであり,補助参加人Aらが,実際に現地の教職員と直接に会話を交わしたことの有用性は否定できず,義務教育の実態調査に資するものであると認められる。
b 原告は,補助参加人Aらが,小学校の視察において,単に英語教育の重要性などといったありきたりの感想を持ったのみであって,仙台市政に役立てうる調査をしていない旨主張するが,補助参加人Aらの視察態様と,上記aのような参考たり得る事項の存在に照らせば,小学校を視察したことの必要性を否定することはできない。
(オ) アズハルパーク
a 補助参加人Aらは,アズハルパークに対し,事前に視察する旨を伝え,視察当日は,アズハルパーク内の整備状況などを視察するほか,管理人と懇談するなどして視察団として待遇されているところ,現地における生活状況等の背景事情を踏まえて公園の意義,機能を調査することは,都市計画調査に資するものであると認められる。
b 原告は,補助参加人Aらが,アズハルパークを視察した目的が不明である上,カイロ市における公園政策や公園化に至る議論については調査されておらず,仙台市政へ活用されるべき調査をしていない旨主張するが,補助参加人Aらの視察態様に照らせば,アズハルパークを視察したことの必要性を否定することはできない。
(カ) ギザ
補助参加人Aらは,ギザのピラミッド,スフィンクス,博物館を見学しているところ,同見学と視察目的1とが直ちに結びつくものであるというには疑問の余地がなくはないものの,これらの遺跡は歴史の表徴ともいいうるもので遺跡と街との関わりに触れることが歴史ある都市の都市計画調査に資する側面もあり,見学にはガイド兼通訳人を伴っていたことも考慮すれば,ギザにおける見学と視察目的1との関連性や視察の必要性を否定しさることはできない。
(キ) 国立エジプト考古学博物館
補助参加人Aらは,ガイド兼通訳人を伴って,国立エジプト考古学博物館を見学しているところ,文化行政調査との関連性が明確であるとまではいえない。
(ク) スニオン岬
補助参加人Aらは,スニオン岬を見学しているところ,同見学と視察目的1とが関連性を有しているというには疑問が残る。
(ケ) ピラマチコ・ジムナシオ・アシノン中学校
補助参加人Aらは,中学校に対し,事前に視察する旨を伝え,視察当日は,教頭から学校に関する説明を受けるほか,実際の授業風景を視察したというのである。
原告は,仙台市政に活用されるべき調査をしていない旨主張するが,上記(エ)における説示と同様に,かかる視察は,仙台市での教育のあり方を検討するにあたって参考になるものであり,その視察態様も考慮すれば,義務教育の実態調査に資するものであると認められ,視察の必要性を否定することはできない。
(コ) アテネ考古学博物館
補助参加人Aらは,現地の学芸員をガイド兼通訳人として伴って博物館を見学しているところ,視察目的1との関連性が明確であるとまではいえない。
(サ) アクロポリス
補助参加人Aらは,アクロポリスを見学しているところ,同見学と視察目的1とが直ちに結びつくものであるというには疑問の余地がなくはないものの,この遺跡が古代よりアテネ市の中心部に位置し同市の発展において重要な意義を有しており,この遺跡を見学することが歴史ある都市の都市計画調査に資する側面もあるのであるから,同見学と視察目的1との関連性や視察の必要性を否定しさることはできない。
エ 視察行程や費用の相当性について
(ア) 次に,視察行程や費用の相当性について検討するが,上記(2)ウで検討したように,本件海外視察1には,そもそも,視察先の中には,視察目的1との関連性が明確であるとまではいえないもの等も含まれており,視察行程に相当性が欠ける側面があったのではないかとの疑問もなくはない。
しかし,訪問国の歴史,文化,市民生活などに直接触れることが,視察目的である当該訪問国の都市計画,文化行政,義務教育の実態などの背景を理解する上で有益となる側面があることも一概に否定できず,前記2(1)アのとおり,普通地方公共団体の議会は,当該普通地方公共団体の議決機関として,その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有していることや,その権能を適切に発揮するためには,諸外国の歴史,文化,市民生活などを実地に見聞し,幅広い見識と国際的な視野を養い,それを立法政策に反映させる必要性もあながち否定できないことなどを併せ考えると,視察目的との関連性が明確であるとまではいえない見学等が含まれていたとしても,そのような見学によって本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,視察に要する費用が著しく過大になるなどの事情がある場合でない限り,裁量権の行使を逸脱又は濫用したものと認めることはできないというべきである。
(イ)a 5月3日午後にアヤソフィア博物館,トプカプ宮殿等を見学したことについては,同日午前中の海底トンネル視察を終えた後に,翌4日に予定されていた小学校視察との日程調整の関係から視察予定の空いた午後の時間帯を利用したものであって,それらの施設等の位置関係が近く,アヤソフィア博物館においては専門的知識を有する通訳人を伴って見学し,グランバザールにおいては現地の生活状況を直に見ることができるなど訪問国の歴史,文化,市民生活などに直接触れるものであったということができるのであるから,本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,視察に要する費用が著しく過大になるなどの事情は認められない。
b 5月5日午後2時ころから午後4時30分ころまでの間,ギザを訪問したことについては,同日午前中のアズハルパークにおける視察を終えた後に約2時間半を費やして行ったものであること,場所的にもアズハルパークからの交通が比較的便利であったこと,また,翌日や翌々日(同月6日,7日)が休日となり休日の明けた同月8日の午前中にはアテネの市立中学校を視察したこと,ギザにおける見学に際しては専門的なガイド兼通訳人を伴っており,同見学の必要性などを否定しさることもできないこと等を考慮すると,本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,視察に要する費用が著しく過大になるなどの事情は認められない。
c 5月6日午前に国立エジプト考古学博物館を見学し,同月7日に約1時間を利用してスニオン岬を見学したことについては,両日が休日のために視察の対象となる官公庁などが休みとなり視察予定の空いた日程を利用し,見学に要した時間もいずれも相応なものであった。さらに,国立エジプト考古学博物館における視察態様は専門的なガイド兼通訳人を伴った見学をするなど訪問国の歴史,文化,市民生活などに直接触れるものであったということができる。たしかに,スニオン岬の見学と視察目的1との関連性に疑問が残っているものの,上記のような見学態様や前後の視察行程への影響が小さかったことを考慮すれば,その視察行程が若干増していたとしても,本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,視察に要する費用が著しく過大になるなどの事情は認められない。
d 5月8日午後にアテネ考古学博物館やアクロポリスを見学したことについては,同日午前中の中学校における視察を終えた後に,翌9日の出国予定との日程調整の関係から主だった視察行程が終了した午後の時間帯を利用して行われたものであり,博物館の視察に際しては学芸員のガイド兼通訳人を伴っており,アクロポリスを見学することの必要性などを否定しさることもできないこと等を考慮すると,本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,視察に要する費用が著しく過大になるなどの事情は認められない。
(ウ) 本件海外視察1に要された費用については,上記(イ)で検討したほか,著しく過大であるというべき事情は認められない。
オ 小括
以上の諸事情を総合的に考慮して検討すると,本件海外視察1について,仙台市議会が裁量権の行使を逸脱又は濫用したということはできず,そのために要した公金の支出が違法であると認めることはできない。
(3) 本件海外視察2について
ア 視察目的
視察目的2は,仙台市における国際交流などを幅広く扱う市議の活動に密接に関連し,あるいは将来関連性を持ち得る課題として,合理的な視察目的であるというべきである。
イ 視察先と視察目的との関連性,視察の必要性など
(ア) ジェノバ市
a ウォーターフロント再開発地区現地事務所
補助参加人Fらは,ウォーターフロント再開発地区現地事務所を視察しているところ,この再開発事業は視察都市であるジェノバ市が取り組んでいるプロジェクトであり,この視察がジェノバ市の歴史を知る上でも有益なものであるといえるから,歴史的国際交流という視察目的に資するものであると認められる。
b ジェノバ市役所
補助参加人Fらは,ジェノバ市観光部長などを交えて,約1時間にわたり,今後の仙台市との交流などについて意見交換し,仙台市長からの親書を手渡すなどしているのであって,歴史的国際交流という視察目的に資するものであると認められる。
c 原告は,補助参加人Fらが,単に,支倉常長の「ゆかり」を口実として,ジェノバ市を訪問しただけであり,具体的な調査事項や視察後の展望などがなく,仙台市政に活用されるべき調査をしていない旨主張するが,議会における政策決定と視察結果とが直ちに結びつかなければならないというものではないところ,視察目的2のとおりの一定の関連性を有している限り,都市交流のあり方における多様性や発展可能性を踏まえて補助参加人Fらによる上記のような視察態様を検討すれば,ジェノバ視察の必要性を否定することはできない。
(イ) キヨッソーネ東洋美術館
補助参加人Fらは,キヨッソーネ東洋美術館において,美術館長から説明を受けた後に館内を見学しているところ,同見学と視察目的2との関連性が明確であるとまではいえない。
(ウ) カステル・ガンドルフォ城,カステル・ガンドルフォ市役所
補助参加人Fらは,26日午後,カステル・ガンドルフォ城の庭園にある「風の環」などを視察した後,カステル・ガンドルフォ市役所において,意見交換を行っているところ,意見交換における主たる議題の1つである「風の環」の実物を見ることの意義を否定することはできず,また,意見交換における実際の議題内容も考慮すると,バチカン市国との交流窓口調査という視察目的に資するものであると認められる。
(エ) イタリアサッカー協会
補助参加人Fらは,イタリアサッカー協会を訪問し,副代表を交えた意見交換を行い,補助参加人Fらからの要請を伝え,仙台市議会議長からの親書を手渡すなどしたのであって,国際交流や2002年ワールドカップ来仙イタリア選手の足型取りなどの視察目的に資するものであると認められる。
(オ) 自由視察
補助参加人Fらは,10月27日午後を自由視察の時間に充て,大統領官邸,クィリナーレ宮,サンタンジェロ城などを見学しているところ,同見学と視察目的2との関連性が明確であるとまではいえない。
(カ) サン・ピエトロ大聖堂,バチカン美術館
補助参加人Fらは,10月28日午前,サン・ピエトロ大聖堂及びバチカン美術館を見学しているが,同見学と視察目的2との関連性が明確であるとまではいえない。
(キ) ボルゲーゼ美術館など
補助参加人Fらは,10月28日午後,ローマ市内を視察した後,ボルゲーゼ美術館及びボルゲーゼ公園を見学しているが,同見学と視察目的2との関連性が明確であるとまではいえない。
(ク) 10月29日
補助参加人Fらは,この日を自由視察日とし,補助参加人Gは,自費でローマ市内を視察し,補助参加人Gを除く3名は,自費でポンペイ遺跡などを訪問しているが,このような訪問と視察目的2とが関連性を有しているというには疑問が残る。
ウ 視察行程や費用の相当性について
(ア) 本件海外視察2についても,視察先の中には,視察目的2との関連性が明確であるとまではいえないもの等も含まれており,視察行程に相当性が欠ける側面があったのではないかとの疑問もなくはない。
そこで,上記(2)ウ(ア)における説示を踏まえ,本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,視察に要する費用が著しく過大になるなどの事情の有無について検討する。
(イ)a 10月25日午後4時過ぎころから午後5時半ころまでの間,キヨッソーネ東洋美術館を見学したことについては,ウォーターフロント再開発地区現地事務所やジェノバ市役所における視察を終えた後に,約1時間を費やして行われたものであって,その視察態様も,美術館長から美術館の沿革などの説明を受けるなどして,ジェノバにおける歴史,文化,市民生活などに直接触れるものであったということができるから,本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,視察に要する費用が著しく過大になるなどの事情は認められない。
b 補助参加人Fらが10月27日午後を各議員の休息,自由視察などに充てたことについては,同日午前中のイタリアサッカー協会での視察を終えた後に行われたものであり,ローマ市における歴史,文化,市民生活などに直接触れるものであったということができるから,本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,視察に要する費用が著しく過大になるなどの事情は認められない。
c 10月28日午前中にサン・ピエトロ大聖堂,バチカン美術館を見学し,同日午後にローマ市内やボルゲーゼ美術館などを見学したことについては,1日を費やしてローマ市やバチカン市国を観光したと評価する余地がなくはないが,カステル・ガンドルフォ市役所やイタリアサッカー協会における視察を終えた後に行っており,これらの施設の見学をとおして視察内容の理解が更に深まる側面も否定できず,バチカン美術館での見学に際しては美術に詳しいガイドから説明を受けるなどして,ローマ市やバチカン市国における歴史,文化,市民生活などに直接触れるものであっということができるから,本来の視察目的の調査が阻害されたり,視察行程が不当に延びたり,視察に要する費用が著しく過大になるなどの事情は認められない。
d 10月29日については,補助参加人Gが再度ローマ市内を視察したことや,他の補助参加人らがポンペイ遺跡を視察したことが,ローマ市などにおける歴史,文化,市民生活などに直接ふれるものであったということができるとしても,視察目的2との関連性に疑問が残っていることに加え,補助参加人Fらが,前々日の27日午後以降,自由視察に充てる時間の割合を多くしていること,同人らが翌30日には帰国の途に着いていること,同人らが29日に帰国することが困難であったことを窺わせる事情も認められないこと等をも考慮すると,29日の行程は,もはや補助参加人Fら個人の国際的な知識・資質を涵養するためだけのものであり,合理的な必要性を欠くものというべきであって,本件海外視察2の視察行程を不当に1日延ばしたものといえる。
e 以上によれば,補助参加人Fらが10月29日を自由視察に充てたことにより,本件海外視察2の視察行程が不当に1日延ばされたといえ,ローマにおける1泊分の宿泊費8万2400円及び29日分のガイド・アシスタント費用4万6000円が不必要に支出されたものといえる。
(ウ) その他費用に関する事情
a 本件海外視察2において,通訳費用として54万2400円(全体の約16%)を支出し,ガイド・アシスタント費用として71万6000円(全体の約21%)を支出しているところ,その全体額との割合や他の海外視察における支出額(他のローマ視察では,3日間に11万7000円のものもあった。甲27)を考慮すると,通訳費用やガイド・アシスタント費用が高額であることは否めないものの,前記1(2)ウで認定したようなイタリアにおける雇用政策や通訳人の確保などの諸事情も考慮すると,視察内容に比して著しく過大であったとまでいうことはできない。
b また,本件海外視察2には,補助参加人Fら4名が参加しているところ,視察に派遣する議員の数についても議会の裁量が認められるというべきであり,本件要綱5条によれば,原則として5名以上とし,各派代表者会議の協議において認められた場合は,最低3名以上とすることができるとされていることに照らすならば,視察目的2が正当性を有するものである以上,補助参加人Fら4名が参加したことについて不相当であるということはできない。
エ 小括
以上によれば,本件海外視察2において,10月29日分の宿泊費及びガイド・アシスタント費用の合計12万8400円が,単に補助参加人Fらの個人的な国際的知識・資質を涵養するためだけに支出されたものであり,その支出には合理的な必要性も認められないのであるから,その費用については,仙台市議会が裁量権の行使を逸脱又は濫用し,公金を違法に支出したものと認めることができる。
そして,補助参加人Fらが共同して本件海外視察2を行ったことや12万8400円が旅行手配業務の委託料として一括して支払われた公金の一部であることに鑑みれば,補助参加人Fらは,連帯して,上記違法に支出された12万8400円について返還義務を負うものと解する。
3 結論
以上検討したところによれば,原告の本訴請求は,主文の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 沼田寛 裁判官 伊澤文子 裁判官 小川貴紀)
file_2.jpg別紙