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仙台地方裁判所 平成19年(行ウ)16号 判決 2009年10月20日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告は,補助参加人Aに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

2  被告は,補助参加人Bに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

3  被告は,補助参加人Cに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

4  被告は,補助参加人Dに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

5  被告は,補助参加人Eに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

6  被告は,補助参加人Fに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

7  被告は,補助参加人Gに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

8  被告は,補助参加人Hに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

9  被告は,補助参加人Iに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

10  被告は,補助参加人Jに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

11  被告は,補助参加人Kに対し,金71万6022円を支払うよう請求せよ。

12  被告は,補助参加人Lに対し,金66万0406円を支払うよう請求せよ。

13  被告は,補助参加人Mに対し,金120万円を支払うよう請求せよ。

14  訴訟費用は,被告の負担とする。

第2事案の概要

1  本件は,宮城県(以下「県」という。)の住民により構成される権利能力なき社団である原告が,当時県議会議員(以下「県議」という。)であった補助参加人らが平成15年から平成18年の間に行った海外視察にかかる被告の旅費の支出行為及び補助参加人らによる旅費の使途が違法であるなどとして,地方自治法(平成20年法律第69号による改正前のもの。以下,特段の記載がない限り同改正前の地方自治法を「法」という。)242条の2第1項4号本文に基づき,被告に対し,海外視察費として支出した旅費相当額について,補助参加人らに対し,不法行為に基づく損害賠償請求や不当利得返還の請求をすることを求めた事案(住民訴訟)である。

2  前提事実

(1)  当事者

ア 原告は国及び地方公共団体などの不正,不当な行為を監視し,これを是正することを目的とする権利能力なき社団である。(弁論の全趣旨)

イ 被告は宮城県知事であり,法242条の2第1項4号の執行機関である。

ウ 補助参加人A,同B,同C及び同D(以下,補助参加人A,同B,同C及び同Dを併せて「補助参加人Aら」という。)はいずれも,平成15年8月,9月当時,県議であった者である。

エ 補助参加人E,同F,同G,同H,同I及び同J(以下,補助参加人E,同F,同G,同H,同I及び同Jを併せて「補助参加人Eら」という。)はいずれも,平成16年5月当時,県議であった者である。

オ 補助参加人K,同L,同M(以下,補助参加人K,同L及び同Mを併せて「補助参加人Kら」という。)はいずれも,平成18年10月当時,県議であった者である。

(2)  ルーマニア等海外視察(以下「本件海外視察1」という。)

ア 平成15年7月9日,県議会平成15年6月第297回定例会において,次の内容で本件海外視察1について承認の議決がされた。(丙B2)

(ア) 目的

ルーマニアにおける民主化調査,ギリシャの港湾視察調査,ローマ県知事及び議長へ表敬訪問,イタリアの地震対策調査,ローマの障害児教育及び家族的共同体調査,スイスの学校教育及び景観条例調査,EUにおけるLEADER事業の実態調査

(イ) 場所

ルーマニア,ギリシャ,イタリア,スイス

(ウ) 期間

平成15年8月26日から同年9月9日まで(15日間)

(エ) 構成議員

補助参加人Aら

イ 被告は,平成15年8月20日,補助参加人Aらに対し,本件海外視察1の旅費としてそれぞれ120万円を概算払の方法により支給した。(甲2の3)

ウ 補助参加人Aらは,本件海外視察1を実施した。

(3)  アメリカ合衆国等海外視察(以下「本件海外視察2」という。)

ア 平成16年3月16日,県議会平成16年2月第300回定例会において,次の内容で本件海外視察2について承認の議決がされた。(丙C2)

(ア) 目的

NPO企業調査,環境保護調査,農業技術調査,港湾商業開発調査

(イ) 場所

アメリカ合衆国,カナダ

(ウ) 期間

平成16年5月5日から同月15日まで(11日間)

(エ) 構成議員

補助参加人Eら

イ 被告は,平成16年4月30日,補助参加人Eらに対し,本件海外視察2の旅費としてそれぞれ120万円を概算払の方法により支給した。(甲3の3)

ウ 補助参加人Eらは,平成16年5月5日から同月15日までの11日間,本件海外視察2を実施した。

(4)  フランス海外視察(以下「本件海外視察3」といい,本件海外視察1及び同2と併せて「本件各海外視察」という。)

ア 平成18年10月5日,県議会平成18年9月第310回定例会において,次の内容で本件海外視察3について承認の議決がされた。(丙D2)

(ア) 目的

バイオマス活用(特にバイオ燃料)調査,公営カジノ調査,農業政策調査

(イ) 場所

フランス

(ウ) 期間

平成18年10月15日から同月19日まで(5日間)

(エ) 構成議員

補助参加人Kら

イ 被告は,平成18年10月12日,本件海外視察3の旅費として,補助参加人Lに対し66万0406円を,同Kに対し71万6022円を,同Mに対し120万円を概算払の方法により支給した。(甲4の3)

ウ 補助参加人Kらは,平成18年10月15日から同月19日までの5日間,本件海外視察3を実施した。

(5)  関係法令の定め

ア 法

(ア) 2条14項

地方公共団体は,その事務を処理するに当つては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。

(イ) 100条11項

議会は,議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会において必要があると認めるときは,会議規則の定めるところにより,議員を派遣することができる。

イ 宮城県議会会議規則(昭和50年宮城県議会規則。丙A1)

(ア) 122条1項

議案の審査又は県の事務に関する調査のためその他議会において必要があると認め,議員を派遣しようとするときは議会の議決でこれを決定する。ただし,緊急を要する場合は,議長において議員の派遣を決定することができる。

(イ) 同条2項

前項の規定により議員の派遣を決定するに当たっては,派遣の目的,場所,期間その他必要な事項を明らかにしなければならない。

ウ 宮城県議会議員の海外視察に関する取扱要領(以下「取扱要領」という。丙A2)

(ア) 第二(派遣費用)

議会は,議員を海外へ派遣するときは,あらかじめ定める予算の範囲内において行うことができる。

(イ) 第三(派遣基準)

前項の海外派遣は,次の基準により議長に申し出をし,かつ議会運営委員会の承認を得るものとする。

一 全国議長会の企画による視察

二 公的な機関等の企画による視察

三 議員三人以上の企画による視察

(ウ) 第四(視察報告)

海外視察終了後は,速やかに「海外視察報告書」を議長に提出するものとする。

(6)  監査請求

ア 原告は,平成19年3月8日,宮城県監査委員(以下「監査委員」という。)に対し,法242条1項により,本件海外視察1から3について,住民監査請求をした(以下「本件監査請求」という。)。監査委員は同年5月7日に,本件監査請求のうち本件海外視察1及び同2に関するものについては却下し,同3に関するものについては棄却した。(甲1)

イ 原告は,平成19年6月6日,本訴を提起した(顕著な事実)。

3  争点及び当事者の主張

(1)  本件の争点は,

① 争点1-本件海外視察1及び同2に関する請求について監査前置を経ているか,

② 争点2-補助参加人Aらが本件海外視察1の旅費を海外視察以外の目的に支出したか又は虚偽の精算行為を行ったか,

③ 争点3-補助参加人Eらが本件海外視察2の旅費を海外視察以外の目的に支出したか又は虚偽の精算行為を行ったか,

④ 争点4-県議会が補助参加人Kらを本件海外視察3に派遣したこと,又は本件海外視察3にかかる旅費の支出が違法か,である。

(2)  争点1について

ア 被告及び補助参加人らの主張

本件監査請求は,第1に,被告の本件各海外視察にかかる旅費の支出が違法無効であるとして,第2に,補助参加人らの旅費の使途が違法であり,その精算手続が違法であるとして,被告に対して,補助参加人らに対する旅費相当額の返還請求をすることを求めるものである。

そうすると,第1については,法242条2項所定の1年の監査期間が適用されるところ,本件監査請求が本件海外視察1及び同2の旅費の支出から1年を経過した後にされたことは明らかである。

また,第2については,原告が求める返還請求権は,精算確認手続と変更命令票の起票という財務会計上の手続を経て初めて発生するのであり,返還請求権の行使を怠る事実が存するか否かの前提として,必然的に精算確認行為の違法の有無を問題とせざるを得ないから,本件はいわゆる「不真正怠る事実」として,法242条2項の1年の監査期間が適用されるところ,本件監査請求が本件海外視察1及び同2の精算確認手続から1年を徒過してなされたことは明らかである。

したがって,原告の訴えのうち,本件海外視察1及び同2に関する訴えは監査前置を経ていない不適法なものである。

イ 原告の主張

原告は,本件海外視察1及び同2については,被告による本件各海外視察にかかる旅費の支出を問題とするのではなく,旅費の支出を受けた補助参加人らが,本来議決された海外視察の目的にしたがって使わなければならない旅費を目的外の観光のために使ったことや,高い航空運賃を支払ったことにして他に流用したことが違法であるとして,また,海外視察の目的にしたがって旅費を使用しなかったにもかかわらず,目的にしたがって使用したと故意に虚偽の精算を行ったことが違法であるとして,被告に対し,補助参加人らに対する不法行為に基づく損害賠償請求権及び不当利得返還請求権の行使を求めているものである。

そして,概算払の方法により旅費の支給を受けた者には当然に精算義務と過払分についての不当利得返還義務が発生するから,財務会計上の行為を経てはじめて返還義務が発生するとの被告の主張は誤りであるし,上記に述べた補助参加人らが旅費を目的外に使用したことなどの不法行為は,財務会計上の手続が違法かどうかとは無関係であるから,法242条2項の1年の監査期間は適用されない。

(3)  争点2について

ア 原告の主張

(ア) 海外視察の目的及び具体的調査対象事項の不存在

本件海外視察1は,ルーマニアにおける民主化調査,ギリシアの港湾調査,ローマ県知事及び議長への表敬訪問などについて,海外視察の目的や具体的な調査対象事項が曖昧であったり,存在しなかったりする。

特に,議会による承認後,当初のテーマがまったく関連性のないテーマに変更されていることからすれば,上記のことは明らかである。また,平成15年9月3日はフィレンツェのウフィッツィ美術館,ミケランジェロ広場を,同月4日はベネチアのモーゼプロジェクトを,同月7日はミラノのドゥオモ広場等を視察しているが,これらの視察に具体的な視察目的及び調査対象事項が存在しないことは明らかである。

(イ) 不十分な事前準備

本件海外視察1の事前準備は,ローマ県との交流について説明を受けたり,ルーマニア及びスイスからの東北大学留学生との懇談などが中心であり,十分なものとはいえない。

また,変更されたテーマについては,時間がなく,十分な準備を行っていないことが推認できる。

(ウ) 県政に活かされていない視察

a 本件海外視察1は,上記のとおり,目的設定も事前準備も不十分であり,県政に活かされる視察が行われたとは考えられない。

b また,ルーマニアにおける民主化調査もギリシアの港湾視察調査も,現地で県政に役立つ資料収集,聴取が十分に行われたものとは到底考えられず,ローマの県知事及び議長への表敬訪問も,昼食会のローマ側出席者は担当者1名に過ぎず,その目的に沿った視察内容であったことは到底うかがえない。

c さらに上記昼食会後の幼児・児童の養護施設の見学においては,補助参加人Aらが本件海外視察1の後に作成した海外視察報告書(以下「報告書1」という。)に「昼食会でローマ式の持て成しを受け,強い酒が入ったせいか,午後の福祉施設の視察では,ちょっと視察できない風体の者もあり」と記載されているなど,視察目的に沿った視察が行われなかったことも,十分な資料収集,聴取がなされなかったことも明らかである。

d 加えて,補助参加人Cのグリーンツーリズム調査は,視察目的に含まれていなかっただけでなく,単独で何らのアポイントもとらず,通訳も同行せずに観光案内所に赴いたものであり,報告書1に「私の英語力では十分に伝えることができなかった」と記載されるように,何ら視察の成果を得るものではなかった。

e また,報告書1の内容も,県政に活かされるものとは到底考えられない。報告書1は,本件海外視察1から約7か月後の平成16年4月13日に提出されたものであり,記憶を喚起したとしても,極めて不十分な報告になったことは明らかである。さらに,報告書1の内容からしても,本件海外視察1の結果が,帰国後の県政の政策提言等に活用されるものではないことは明らかである。補助参加人らは,当初から,本件海外視察1の結果として県政に活用され得る報告書1を作成する意図はなく,本件海外視察1のいわばアリバイとして,それぞれ分担し,興味を持った,もしくは報告書らしく記載できる視察日程を報告書としてまとめたに過ぎない。

(エ) 費用対効果

本件海外視察1の成果は具体性がなく抽象的なものであり,また,議員個人の研鑽を深めるにとどまる個人的な経験に過ぎないもの,別途問い合わせれば調査・確認できるものに過ぎない。120万円もの高額な公費を支出してわざわざ行くまでもないものと評価できる。

(オ) 観光旅行の要素

a 本件海外視察1のうち,特に,フィレンツェ,ベネチア,ミラノには,滞在する必然性さえも見出せず,観光目的で視察日程に各都市を組み入れたものと考えざるを得ない。

b 平成15年8月30日のアテネにおける視察は,観光,憩いのスペースを見てきただけであり,事前にアポイントをとったり,資料を収集したり,説明を受けたこともなく,報告書もないのであるから,実態は観光旅行と評価されるものに過ぎない。

c 同年9月3日のフィレンツェにおける視察は,フィレンツェの観光名所であるウフィッツイ美術館,ミケランジェロ広場を一般の観光客と同様の態様で見学したに過ぎず,報告書もないなど,観光視察に過ぎない。

d スイスの国連施設見学も観光に過ぎない。

e 同月7日のミラノにおける視察も,観光地であるドゥオモ広場,アーケード街ガレリア,最後の晩餐を一般の観光客と同じ立場で見学したに過ぎず,実態が観光旅行であることは明らかである。

(カ) 以上のことからすれば,補助参加人Aらは本件海外視察1の旅費を海外視察の目的以外に違法に支出したというべきである。

イ 補助参加人らの主張

(ア) 本件海外視察1の視察目的に沿った派遣先選定と事前準備

本件海外視察1の視察目的の決定及び視察先の選定に関し5回の詳細な打ち合わせを行っている。また,平成15年7月2日,ローマ県との交流について説明を受け,同月9日から同月31日まで3回にわたって視察先の国からの留学生と意見交換を行い,さらに同年8月8日と同月21日に視察先(ルーマニア,スイス)での調査項目について詳細な打ち合わせ等を行うなど必要と思われる事前準備を行っている。また,当初の視察テーマ及び視察先を変更しているが,これは以下(エ)に記載のとおり不可抗力である。これを受けて,従前の視察テーマに関連するテーマ,視察先を選定した。

(イ) 県政に活かされる視察が行われている

視察テーマはいずれも県政と関連性がある。原告は視察の結果が報告書1に反映されていないなどして,「視察の成果がない」と主張するが,報告書は視察の概要を議長に報告するものに過ぎず,規則等の上でそれ以上の役割は与えられていない。議員の活動は多岐にわたり,会派内及び各種会議・会合での報告や議論,政策提言など多様な活動を通して視察の成果が結実していくのが通常であるから,報告書1に詳細な記載がないこと,あるいは不記載をとらえての原告の主張は失当である。

(ウ) 観光旅行ではない

本件海外視察1において,補助参加人Aらは空き時間を利用して美術館や教会等を視察しているが,旅行会社で手配したガイドを同行しての視察であり,景観保全に関するガラッソ法の説明を受けたり,バリアフリーの観点からの視察を行うなど一般観光客と異なるそれぞれの観点からの視察が行われている。したがって,いわゆる観光地(観光資源)の視察においても,県政に反映させることのできる視察が行われている。

(エ) テーマ変更はやむを得ない事情に基づくものである

本件海外視察1においては,内諾を得ていた視察先に対し,議会の承認後正式な依頼を出したところ,拒絶されたことから,やむなく当初の視察目的に関連するテーマや視察先に変更している。視察先への正式な依頼は議会の承認後になること,視察先でも正式な決裁は正式な依頼を受けてからということになることから,このようなテーマ変更はままあることであり,補助参加人Aらは事前に議長に対し「変更されることがある」旨を申し出ていた。なお,変更後のテーマにはいずれも具体的な視察目的及び調査事項があった。

(オ) 公費に見合う成果を挙げている

本件海外視察1は半月をかけて,4か国を回り,20か所以上もの視察を行ったものであり,その成果は様々な形で県政に反映されている。公費に見合った,あるいはそれ以上の成果につながっている。

(カ) 以上のとおり,補助参加人Aらが本件海外視察1の旅費を海外視察の目的外に支出したことはないから,原告の主張は失当である。

(4)  争点3について

ア 原告の主張

(ア) 視察の名のもとの観光旅行である。

a 本件海外視察2の視察先であるニューヨーク,ワシントン,ナイアガラ,バンフ,サンフランシスコは世界的観光地である。

b こうした「観光名所」に,参加者6名例外なく支出上限の金120万円の公金支出を得て,いわゆるゴールデンウィークのハイシーズンに,何らの事前調査かつ目的設定なく来訪しており,補助参加人Eらが本件海外視察2の後に作成した海外行政視察報告書(以下「報告書2」という。)の記載からしても,公金を費消しての「観光旅行」であることは疑いない。

(イ) 事前準備の不存在

本件海外視察2にあたって,視察目的を達成するための十分な事前準備が行われなかったことは明白である。

(ウ) 費用対効果は認められない

本件海外視察2の観光旅行の実態からすれば,到底,費用対効果は認められない。

また,本件海外視察2は,個々の議員がそれぞれに関心のある箇所をまわったものであるから,6名もの集団で,11日間もかけ,ニューヨーク,ワシントン,ナイアガラ,バンフ,サンフランシスコを,1名120万円もの公金を支出して視察をする必要性は皆無であり,到底,費用対効果は認められない。

(エ) 具体的な視察目的及び調査対象事項は存しない

本件海外視察2では視察目的に含まれない視察が行われているし,具体的視察先について議決すら受けた証拠はなく,具体的な視察目的及び調査対象事項が存しなかったことは明白である。

(オ) 報告書2の記載は杜撰で,県政への活用も存しない

a 報告書2の内容は,まさに観光旅行記と呼ぶ他ない内容であり,県政への活用性は皆無である。

b 補助参加人Eらが成果として挙げる,「だめだっちゃ温暖化」宮城県民会議の設立,仙台空港の「送迎デッキ」の設置,国際スポーツ競技誘致後の施設保存管理状況調査等については,具体的調査事項との関係で現地調査・視察が必要不可欠であると判断した合理的根拠は皆無であり,報告書2にも上記に関する記載はないなど,こじつけであることが明白である。

c その他,補助参加人Eらが本件海外視察2の成果と主張する少人数学級についての質問と事業期間の延長,デラウェア州との交流,グリーンツーリズムの取組み,県の「水稲直播栽培」等も,視察先・調査対象事項の精査が何ら行われていなかったのであり,本件海外視察2との関連性は認められず,本件海外視察2の実態が「海外旅行」であったことを示すものばかりである。

(カ) 現地での資料収集,聴取も不十分極まりない

報告書2の記載をはじめ,現地での資料収集,聴取が十分行われたことを示す具体的資料は皆無である。

(キ) 以上のことからすれば,補助参加人Eらは本件海外視察2の旅費を海外視察の目的以外に違法に支出したというべきである。

イ 補助参加人らの主張

(ア) 観光旅行ではない

補助参加人Eらは,平成16年5月5日から同月15日まで11日間にわたり,20か所以上を視察しており,本件海外視察2が全体として観光旅行であるというような評価は不当である。確かに,中にいわゆる観光地と呼ばれる視察先もあったが,県の観光行政との関連で補助参加人Eらはそれぞれの観点から一般観光客と異なる観光資源の視察を行い,温暖化対策,世界遺産の登録の問題,利府の総合運動公園の利活用,ディスティネーションキャンペーンなど様々な政策提言に結びつけている。観光地と呼ばれる先の視察も,観光資源という観点からの視察であり,原告の主張するような観光旅行などではない。

(イ) 県政と関連する視察目的が存在し,十分な事前準備が行われていた

視察テーマは,主に①NPO企業調査、②環境保護調査、③農業技術調査、④港湾商業開発調査の4つであり,県政と十分な関連性を有する。会派での協議の外に13回にわたる勉強会や打ち合わせが行われており,十分な事前準備が行われている。原告は,上限120万円を支出していることを論難するが,本件海外視察2の旅程が長く,視察先も多数であったこと、120万を超える部分については議員個人が負担していることを考えれば,原告の批判はあたらない。

(ウ) 報告書2について

取扱要領に従い,報告書2が提出されている。原告はこの報告書2が稚拙であると批判するが,報告書2は従来から要点を簡潔にまとめ議長に対する報告となっていた。議員活動は多岐にわたり、議員は多様な活動を通して海外視察の成果を政策に反映させていくものであるから,報告書の内容が成果のすべてであるかの如き原告の主張は短絡的と言わざるを得ない。

(エ) 以上のとおり,補助参加人Eらが本件海外視察2の旅費を海外視察の目的外に支出したことはないから,原告の主張は失当である

(5)  争点4について

ア 原告の主張

(ア) 訪問先とのアポイントメントなど事前準備が不十分である。

本件海外視察3の目的は,フランスにおける①バイオマス活用(特にバイオ燃料)調査,②公営カジノ調査,③農業政策調査であった。いずれも視察前の準備活動が十分でなかったことがうかがえるが,特に①バイオマス活用(特にバイオ燃料)調査については,県議会の承認を得るために提出された視察日程表によれば,上記の調査として,10月16日午前は「テレオスバイオエタノール産業会社」の生産現場を訪問し,同日午後には「さとうきび農場」を訪問することになっていたが,これらは全て実現せず,日本大使館で書記官から「バイオエタノールについて」の説明をうけたに過ぎない。これらの視察については事前のアポイントをとらなかったと推認される。

議会の議決を経た視察内容が当の視察団の事前の準備不足から履行されなかったのであるから,本件海外視察3が違法なものであることは明瞭である。

また,本来予定されていた視察がなくなった場合には,視察目的に従った代替視察を行うべきであるのに,補助参加人Kらはフランスに着いた翌日の平成18年10月16日には朝からルーブル美術館に行っており,なぜか予定を変更して午後はカジノに行っている。

(イ) 費用対効果も疑問である。

本件海外視察3は,全体として海外まで費用をかけて視察に行く必要性の認められないものであったことは明白である。

(ウ) 単なる観光が組み込まれている。

本件海外視察3では,同年10月16日午前9時30分から午前11時までルーブル美術館に,同月17日午後3時から午後4時30分までノートルダム寺院に行っている。しかし,事前準備の形跡もなく,視察報告書も提出されておらず,その実質はフランスの定番の観光コースを回った観光旅行に過ぎない。

(エ) 県政へ活用されたかどうか疑問である。

補助参加人Kらが本件海外視察3の後に作成した海外行政視察報告書(以下「報告書3」という。)には,感想めいたものが記載されているだけで,県政にどのような政策提言を行うかについても全くふれられていない。この点からも本件海外視察3は不適正なものであったというべきである。

また,補助参加人Kらは,本件海外視察3の成果として,県議会内「ローカルエネルギー調査特別委員会」でまとめた報告書,県議会ないし委員会における質問,会派内での意見交換等を挙げているが,一般論を述べるものであったり,本件海外視察3での調査の結果をふまえていなかったり,同視察の結果が具体的な政策に結びつけられてはいなかったりしており,いずれも同視察の成果ということは到底できない。

(オ) 現地における交通手段として専用車を利用する必要性がないこと

本件海外視察3においては,平成18年10月15日から同月18日までの現地における交通手段としてバスを借上げ使用している。しかし,同月15日は合計4万5000円,同月16日,17日,18日はそれぞれ合計7万5000円の費用がかかっており,タクシーないし地下鉄を利用した場合と比較して,この専用車の使用はいずれも宮城県の職員等の旅費に関する条例(昭和32年10月10日宮城県条例第30号,以下「職員旅費条例」という。)7条1項本文で定める「最も経済的な通常の経路及び方法により旅行した場合」には該当しない。また,同項ただし書きで定める専用車の使用が例外的に許容されるような「公務上の必要又は天災その他やむを得ない事情」も認められない。以上より,少なくとも専用車代金として支払った金額とタクシーないし地下鉄を利用した場合にかかる金額との差額に相当する部分については,同条例7条に反する違法な支出である。

(カ) 不正流用

補助参加人Kらは,本件海外視察3にかかる旅費を,自由民主党県民会議による欧州フランス調査の旅費に違法に流用した。

(キ) ビジネスクラス利用の違法

ビジネスクラスを利用することは,最少の経費で最大の効果を上げるように使わなければならないという法2条14項に違反する違法な支出というべきである。

(ク) 以上のとおりであるから,県議会が補助参加人Kらを本件海外視察3に派遣し,旅費を支出したことは違法である。

イ 被告の主張

(ア) 本件海外視察3の概算払及び精算確認は,条例の規定に基づき適切に行われており,財務会計行為上違法又は不当な点はない。

(イ) 原告は不正流用があったと主張しているが,憶測の域を超えていないことは明らかである。

(ウ) 現地における交通手段としては,視察を実施する人数や,予定どおり日程を全うする上での効率性,現地での公共交通機関の状況,移動時間の有効な活用等を含めた上で経済的であるかどうかを総合的に判断すべきであって,機械的に路線バスや地下鉄利用のみを現地交通費として認め,専用車の利用を一律に排除するべきではない。

ウ 補助参加人らの主張

(ア) 十分な事前準備が行われている

補助参加人Kらは,バイオマス調査に関して研修会を開催し,山形県庄内町にある立川シーエスセンターを視察している。また,公営カジノ調査に関しても,勉強会,意見交換会を開催している。その他にも,7回にわたり会派内でテーマ等に関する議論が行われており,十分な事前準備が行われた。

(イ) 視察報告の内容も十分である

簡にして要を得た報告書3が議長に提出されている。原告の主張に対する反論は前記の本件海外視察2に関するのと同様である。

(ウ) 航空運賃及び宿泊費が著しく高額であるとはいえない。

航空運賃は旅行会社の請求に従い支払っており,また宿泊費についても規則等に従った支出がなされており,適法な支出である。

(エ) 海外視察の成果は県政に反映されている

海外視察後,補助参加人Kらは様々な活動を通してその成果を県政に反映している。したがって,費用対効果も十分である。

(オ) いわゆる観光地の視察も,議員にとっては観光資源の視察であり,単なる観光ではない

ルーブル美術館及びノートルダム寺院の視察は,旅行会社の手配によるコーディネーターの説明を受け,補助参加人Kらがそれぞれ渋滞対策等観光資源という視点からの視察を行っており,一般の観光とは異なる。

(カ) 専用車利用はその必要性があった

短い旅程の間に多人数が効率よく視察先を回るためには,参加者全員が一緒に移動し,車内でガイドの説明を受けたり,参加者の間でテーマについて議論を行う必要などがあった。そこで,専用車利用したものであり,専用車を利用する「公務上の必要」はあった。

(キ) 不正流用はない

本件海外視察3には,政務調査費を支出して同行した議員が4名存在したが,この4名と補助参加人ら3名との間に費用の混同,ましてや不正流用という事実はなかった。

(ク) ビジネスクラスの利用について

県の県議会議員の報酬等に関する条例(平成12年3月28日宮城県条例第95号,以下「議員報酬条例」という。)6条3項二ロに従い支出がなされたものであり,適法である。

(ケ) 以上のとおり,本件海外視察3について議会が裁量権の行使を逸脱ないし濫用した事実はないから,原告の本件海外視察3に関する主張はいずれも理由がない。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件海外視察1及び同2に関する請求について監査前置を経ているか)について

(1)  前記前提事実,証拠(甲9)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。

ア 原告の本件監査請求の趣旨は,要旨次のとおりであった。

①本件各海外視察を含む,平成15年度から18年度までの4年間に議員らが行った16回の海外視察には違法ないし不当な費用弁償があり,②仮に費用弁償に違法ないし不当がないとしても,海外視察の実態が単なる観光旅行に過ぎず,県政の課題の解決に資することがないことが明らかになった場合には,被告には議員らに対して不当利得分の返還を求める権利があり,③また,議員らの視察費用は高額に過ぎ,費用弁償された金員の一部はプールないし他に流用された疑いもあり,被告は議員らに対して不当利得分の返還を求める権利があるにも関わらず,これらの返還請求権等の行使を怠っているので,必要な措置をとるよう勧告することを求める。(甲9)

イ これに対して監査委員は,費用弁償は議員本人に支給された時点で公金ではなくなるという性質上,議員がどのような支出をしたかは,住民監査請求の対象とはならないとした上で,本請求は,被告が,違法又は不当な旅行に対して費用弁償を支出したことによる「違法又は不当な公金の支出」と,当該支出に係る公金について不当利得返還請求権を行使していないことによる「違法又は不当に財産の管理を怠る事実」に該当するものと解し,本件海外視察1及び2に関する請求については,本件監査請求があった日がこれらの旅行に係る支出のあった日から1年以上を経過しており,正当な理由があるとも認められないとして,不適法なものとして却下した。他方,本件海外視察3に関する請求については,受理した上で,棄却した。(甲9)

ウ 本件海外視察1については,平成15年9月10日に,本件海外視察2については,平成16年5月17日に,それぞれ精算確認が行われた。(弁論の全趣旨)

(2)ア  ところで,普通地方公共団体において違法に財産の管理を怠る事実があるとして法242条1項の規定による住民監査請求があった場合に,同監査請求が,当該普通地方公共団体の長その他の財務会計職員の特定の財務会計上の行為を違法であるとし,当該行為が違法,無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって財産の管理を怠る事実としているものであるときは,当該監査請求については,上記怠る事実に係る請求権の発生原因たる当該行為のあった日又は終わった日を基準として同条2項の規定を適用すべきものと解するのが相当である(最高裁昭和57年(行ツ)第164号同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁参照)。

イ  そこで,上記認定事実に基づいて検討するに,原告の本訴請求は,本件海外視察1及び同2にかかる怠る事実の内容として,被告による公金の支出行為ではなく,補助参加人らによる目的外支出やこれを前提とした虚偽の精算行為による不法行為に基づく損害賠償請求権等を主張するものであり,以下に説示することからすれば,適法な監査前置を経ているというべきである。

まず,本件監査請求が,議会による本件各海外視察への公金の支出のみならず,本件各海外視察の実態が観光旅行であること及び議員らが旅費の一部を流用した疑いがあることに基づく議員らに対する不当利得返還請求権をも問題とするものであることは前示のとおりであり,原告の本訴請求は,これを法律的側面から再構成したものであるか,又は,本件監査請求と密接に関連する行為を問題とするものであるから,原告の本訴請求の内容は,実質的には本件監査請求でも特定されていたと見るのが相当である。

また,これらの請求権はいずれも,その有無の判断にあたって,特定の財務会計上の行為が違法であるか否かを検討しなければならないものではないから,監査期間の制限は適用されない。そうであれば,監査委員は,本件監査請求を不適法なものとして却下すべきではなく,実体判断を行うべきであったというべきである。

ウ  これに対し,被告及び補助参加人は,原告の主張する返還請求権は,精算確認手続と変更命令票の起票という財務会計上の手続を経て初めて発生するから,この返還請求権を怠る事実が存するか否かの前提として,必然的に精算確認行為の違法の有無を問題とせざるを得ず,監査期間の制限が適用されるところ,本件監査請求は,本件海外視察1及び2については,精算確認行為のあった日から1年を経過した後になされたものであるから不適法である旨主張する。

(ア) そこで検討するに,議員報酬条例の規定によれば,議員の費用弁償の支給については,職員の旅費の例によるとされており(同条例6条4項),職員旅費条例の規定によれば,職員が出張し,又は赴任した場合には,当該職員に対し,旅費を支給するとされるが(職員旅費条例3条1項),この旅行は,旅行命令権者の発する旅行命令によって行わなければならず(同条例4条1項1号),旅行命令等に従わないで旅行したときは,当該旅行者は,旅行命令等に従った限度の旅行に対する旅費のみの支給を受けることができるとされているから(同条例5条3項),議員が旅費の支給を受けることができるのも,県議会の議決内容や旅行命令等に従った旅行をした場合に限られるというべきであるし,概算払の方法による場合も同様と解される。

(イ) また,概算払に係る旅費の支出を受けた旅行者には後日の精算が予定されているものの(職員旅費条例13条2項),旅行者が旅費の精算をしなかった場合であっても,概算払に係る旅費額に相当する金額を給与等から差し引くとされ(同条4項),精算手続を経なくとも返納請求権が発生することが予定されている。

(ウ) 以上のことからすれば,概算払の方法による場合であっても旅費の支出を受けた議員が県議会の議決内容又は旅行命令等に従わなかった場合には,議員には相当額の支給を受ける権利はなく,その時点で精算手続を経なくとも返納義務が生じるというべきであるから,精算手続等を経てはじめて返還請求権が発生するとの,被告及び補助参加人の主張は採用できない。

エ  したがって,原告の本訴請求は実質的には監査委員に棄却されたものとして,適法に監査前置を経たものというべきである。

2  争点2について(補助参加人Aらが本件海外視察1の旅費を海外視察以外の目的に支出したか又は虚偽の精算行為を行ったか)

(1)  原告の本件海外視察1にかかる請求は,被告に対して,補助参加人Aらが支給された旅費を海外視察以外の目的に支出したことやこれを前提に虚偽の精算行為をしたことが違法であるとして,県が補助参加人Aらに対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使または不当利得返還請求権の行使を求めるものであり,以下この請求の当否について検討する。

(2)  前記前提事実,証拠(甲1,2の1から4,乙3,丙B1,B5,証人C(ただし,下記認定と異なる部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。

ア 補助参加人Aらは,それぞれ調査目的等について提案をして,数回の打ち合わせを行った上で,本件海外視察1のテーマを,ルーマニアにおける民主化調査,ギリシャの港湾視察調査,ローマ県知事及び議長へ表敬訪問,イタリアの地震対策調査,ローマの障害児教育及び家族的共同体調査,スイスの学校教育及び景観条例調査,EUにおけるLEADER事業の実態調査と選定した。(丙B1,証人C)

イ 補助参加人Aらは,補助参加人Aが代表者となって,平成15年6月30日,海外行政視察申出書を宮城県議会議長に提出した。この申出書には目的,場所,期間及び構成議員について次のとおり記載されている。(甲2の1)

(ア) 目的

ルーマニアにおける民主化調査,ギリシャの港湾視察調査,ローマ県知事及び議長へ表敬訪問,イタリアの地震対策調査,ローマの障害児教育及び家族的共同体調査,スイスの学校教育及び景観条例調査,EUにおけるLEADER事業の実態調査

(イ) 場所

ルーマニア,ギリシャ,イタリア,スイス

(ウ) 期間

平成15年8月26日から同年9月9日まで(15日間)

(エ) 構成議員

補助参加人Aら

なお,上記申出書には視察日程が添付されていた。(乙3)

また,補助参加人Aは,海外行政視察申出書を提出するにあたって,日程,訪問国は決定しているが調査先等は予約の状況によって変更される旨申し出ていた。(甲2の1)

ウ 上記申出にかかる議員派遣については,平成15年7月9日,県議会平成15年6月第297回定例会において議題とされた上で,承認の議決がなされた。(前提事実)

エ 議長は,平成15年8月6日,補助参加人Aらに対し,要旨,次の内容の旅行命令を発した(括弧書きで補助参加人Aらの名を記載した部分を除き,同人らに共通の内容である。)。(甲2の3)

(ア) 旅行期間  平成15年8月26日から同年9月9日

(イ) 目的地

ルーマニア  ブカレスト

ギリシャ  アテネ

ピレウス

イタリア  ローマ

フィレンツェ

ヴェネツィア

スイス  ジュネーブ

イタリア  ミラノ

(ウ) 支給額  120万円

(エ) 旅費内訳

航空賃  80万円

現地交通費  13万4100円

国内交通費  3万0507円(補助参加人B)

3万0387円(同A)

3万0567円(同D)

3万3474円(同C)

日当宿泊料  36万9500円

支度料    8万6240円(補助参加人B,同D,同C)

0円(同A)

旅行雑費  1万5000円

計算額合計  143万5347円(補助参加人B)

134万8987円(同A)

143万5407円(同D)

143万8314円(同C)

オ 議長は,補助参加人Bに対し,次の内容の変更命令を発した。(甲2の3)

(ア) 旅行期間 平成15年8月26日から同年9月6日

(イ) 目的地

ルーマニア  ブカレスト

ギリシャ  アテネ

ピレウス

イタリア  ローマ

フィレンツェ

ヴェネツィア

ミラノ

(ウ) 支給額  120万円

(エ) 旅費内訳

航空賃  80万円

現地交通費  10万7400円

国内交通費  3万0507円

日当宿泊料  34万2200円

支度料  8万6240円

旅行雑費  1万5000円

計算額合計  138万1347円

カ この旅行命令における旅費は,株式会社N東北支店(以下「N社」という。)が平成15年8月6日付けで作成した「ご旅行代金見積書」及び議会事務局総務課の担当職員が本件海外視察1の日程及び現地交通費(実費)から現地交通費(支給)及び日当を計算した結果をもとに関係条例に基づいて算出された。(甲1,2の3,弁論の全趣旨)

キ 議会事務局総務課は,平成15年8月20日,補助参加人Aらに対し,概算払としてそれぞれ120万円を支給した。なお,県においては120万円を受給の限度額としていた。(甲2の3,弁論の全趣旨)

ク 補助参加人Aらは,N社に対し,本件海外視察1の旅費として概算払された480万円を支払い,私費で480万円を超過する部分を支払った。(弁論の全趣旨)

ケ 本件海外視察1を実施するに先立って,宮城県国際交流課を通して,イタリアに対し,地震対策調査,障害児教育及び家族的共同体調査,EUにおけるLEADER事業の実態調査をさせてもらうよう依頼をしており,旅行代理店を通して,スイスに対し,スイスの学校教育及び景観条例調査をさせてもらうよう依頼していたが,いずれも最終的には受入れができないということで断られた。(甲2の2,証人C)

そこで,補助参加人Aらは,それぞれのテーマを次のとおり変更した。(証人C,弁論の全趣旨)

(ア) 「イタリアの地震対策調査」→「農村地帯における観光資源の活用実態調査」

補助参加人Aらは,変更後のテーマはEUにおけるLEADER事業の実態調査の趣旨にかなうものとして採用した。

(イ) 「EUにおけるLEADER事業の実態調査」→「グリーンツーリズムの農村現場調査

なお,LEADER事業は農村振興策の事業である。

(ウ) 「ローマの障害児教育及び家族的共同体調査」→「幼児・児童の養護施設の見学」

(エ) 「スイスの学校教育及び景観条例調査」→「スイスの廃棄物リサイクル事業の実態調査と学校における環境教育の調査」

コ 補助参加人Aらは,本件海外視察1に関して6回の研修を行い,ルーマニアやスイスからの東北大学留学生と懇談するなどした。(証人C,弁論の全趣旨)

サ 本件海外視察1の日程及び補助参加人Aらの活動内容は次のとおりであった(以下,上記視察における年月日の表記については,特に記載しない限り,平成15年中の事柄については年の記載を省略する。)。(丙B5,証人C,弁論の全趣旨)

(ア) 8月26日(火)

仙台からブカレストに空路で移動した。

(イ) 8月27日(水)

午前9時から,ルーマニア国営テレビ局において,同局プロデューサーから,1989年の革命時におけるルーマニア国営テレビの役割について説明を受けたのち,午前11時から,民営化庁において,同庁の局長らから,ルーマニアの経済改革の中で最大の課題である民営化の現状と問題について説明を受けた。午後は,国立政治行政学院において,同学院副学長らから,ルーマニアの民主化後の現状と課題に関して説明を受けた。

(ウ) 8月28日(木)

午前8時30分から,ルーマニア国会のニコラエ・ヴァカロイウ上院議長を表敬訪問し,同国会内において,ルーマニアの政治情勢及び今後の課題について,同上院議長らと意見交換を行い,併せて,視察時には国会議事堂として使用されていた国民の館を見学した。その後,ブカレストからアテネに空路で移動した。

(エ) 8月29日(金)

午前中は,ホテルのロビーで持っていた資料を読むなどしており,午後1時から,ピレウス港湾局においてピレウス市の港湾行政及び観光行政について,港湾局長より説明を受け,同人らと意見交換を行った。

(オ) 8月30日(土)

ピレウス港の周辺の施設(ヨットハーバー,レストラン街,公園など)を見に行った。

(カ) 8月31日(日)

アテネからローマへ空路で移動した。

(キ) 9月1日(月)

ローマ県議会において県議会議長らを表敬訪問し,宮城県知事の親書及び宮城県議会議長の親書を渡し,宮城県側の交流推進の意思を伝えた。午後零時30分からは,レストランで招待昼食会が開催され,ローマ側は宮城県との交流の担当者及び通訳人が参加し,宮城県側は補助参加人Aら4名が参加した。ローマ側が乾杯酒としてワインを注文しており,ローマ側の参加者及び補助参加人Aらは乾杯のときにワインを飲んだ。補助参加人Aは,同人らのうちに,ワインを飲んだため,その後ちょっと視察できない風体となったものがいると感じていた。

午後3時からは,児童福祉施設(名称テッドアズーロ)において,同施設を見学し,担当者より同施設の運営について実情を聞き,意見交換を行った。

(ク) 9月2日(火)

古代都市パレストリーナにおいて,同市の市長から,古代遺跡を核とした農村振興の考えについて説明を受けたのち,ローマからフィレンツェに移動した。

(ケ) 9月3日(水)

ウフィッツィ美術館に行き,一般の観光客と同じ入口から入り,旅行会社から手配されたガイドの説明を聞きながら,ヴィーナスの誕生やボッティチェリの絵などを見たのち,ミケランジェロ広場に行き,同ガイドからガラッソ法の説明を受けた。その後,フィレンツェからヴェネツィアに移動した。

(コ) 9月4日(木)

ヴェネツィアのモーゼプロジェクト(高潮の被害による街の水没化を防止するための計画)実施事務所で,同事務所の所長からモーゼプロジェクトの概要について説明を受けたのち,ヴェネツィアからジュネーブに移動した。

(サ) 9月5日(金)

国連ヨーロッパ本部の施設を見学した。午後,環境公社において,同社の職員から,ジュネーブ州の環境政策と環境教育について説明を受けたあと,ジュネーブ州の観光案内所に行き,グリーンツーリズムのパンフレット等を手に入れた。

(シ) 9月6日(土)

パンフレットに載っているグリーンツーリズム受入れ農家に向かうため,ジュネーブから列車でレマン湖のほとりのニヨンという町へ行ったところ,ニヨンでは祭りが開催されていたため,その会場のひとつでヨットのアメリカズカップを見学した。その後,ニヨンからバスに乗って農村部に向かったが,農村地域に着いた時点で,農家まで訪問する時間的余裕がなかったため,再びバスに乗ってニヨンに戻った。その後ジュネーブからミラノに空路で移動した。

(ス) 9月7日(日)

ドゥオモ広場に行き,ドゥオモの内部を見学したのち,ガレリアというアーケード街に行き,その後,「最後の晩餐」のあるサンタ・マリア・デッレ・グラッツィエ教会を見学した。

(セ) 9月8日(月),9日(火)

ミラノから東京,仙台と移動し,解散した。

シ 本件海外視察1終了後の平成15年9月10日,本件海外視察1について精算確認が行われたが,補助参加人A,同C及び同Dについては支給額に変更が生じず,補助参加人Bについては,上記変更命令のとおり視察日程に変更があったことから再計算したところ,その費用は138万1347円であったが,既に上限額120万円が支給されていたため,追加支給や返還は生じなかった。(甲2の3,弁論の全趣旨)

ス 補助参加人Aが同人らの代表者となって,平成16年4月13日,県議会議長に対して,報告書1を提出した。

報告書1には,補助参加人Bが,「民主化後のルーマニアを訪ねて」と題して,ルーマニアでの視察の概要と感想などを,同Dが「ギリシャ共和国視察報告」と題して,ギリシャでの視察の概要と感想などを,「ヴェネツィア視察訪問報告書」と題してヴェネツィアでの視察の概要と感想などを,同Aが本件海外視察1の全般的な内容や感想を,同Cが「環境の時代を探る~スイス・ジュネーブにて~」や「ツーリズムを求めて」と題してスイスでの視察の概要と感想などを資料をもとにして報告している。(甲2の4)

(3)ア  以上に認定の事実によれば,補助参加人Aらは,旅行命令に沿った日程で目的地を訪問したことが認められ,また,同人らは視察先の留学生との懇談などそれなりの準備をした上で,当初のテーマである①「ルーマニアにおける民主化調査」,②「ギリシャの港湾視察調査」,③「ローマ県知事及び議長へ表敬訪問」については,それぞれ,①ルーマニア国営テレビ局,民営化庁,国立政治行政学院,ルーマニア国会でそれぞれ担当者から説明を受け,②ピレウス港湾局で港湾局長から説明を受け,③ローマ県議会議長らを表敬訪問するなどしており,変更後のテーマである④「農村地帯における観光資源の活用実態調査」,⑤「グリーンツーリズムの農村現場調査」,⑥「幼児・児童の養護施設の見学」,⑦「スイスの廃棄物リサイクル事業の実態調査と学校における環境教育の調査」については,それぞれ,④パレストリーナで市長から説明を受け,⑤パンフレットを元に農村地域まで訪問し,⑥テッドアズーロを見学し,担当者からの説明を受け,⑦ 環境公社で職員から説明を受けるなどしており,これにより補助参加人Aらが自らの知識・見聞を広めたこと,ひいては県政に資する面があったことは想像に難くないところであるから,議会で議決されたテーマについても一定の成果を挙げたものというべきである。

本件海外視察1のテーマは当初議会で承認を得たものから変更となっているが,補助参加人Aらが予約の状況によって調査先等が変更されることを議長に申し出ていたこと,当初のテーマについては宮城県国際交流課などを通して依頼をしていたが,相手国から受入れができないということで断られたことは前示のとおりであり,これに加えて,変更後のテーマが議会の承認を得たテーマと密接な関連性のあるものであるか,又は,近似するものであったことからすれば,テーマ変更にはやむを得ない面もあったというべきである。

イ  もっとも,先に認定した事実によれば,以下の事実も認められる。

(ア) 補助参加人Aらは,平成15年9月1日のローマ側担当者らとの昼食会でワインを飲んでおり,ちょっと視察できない風体のものがいると感じるような状況であったことからすれば,同日午後の児童福祉施設の視察では十分な資料収集,調査はされなかったのではないかとの疑いを抱かざるを得ない状況があったこと。

(イ) 9月3日のウフィッツィ美術館,ミケランジェロ広場への訪問,同月7日のドゥオモ広場,サンタ・マリア・デッレ・グラッツィ教会(最後の晩餐)の見学については,補助参加人Aらがどのような目的をもって見学等したのかはさておき,視察であることをうかがわせる特段のエピソードはうかがわれず(報告書1にはこれらの見学をしたことは記載されていない。),これらの場所が一般的には観光地として広く知れ渡っている場所であることからすれば,一般の観光旅行と必ずしも明確には区別し難く,誤解を招きやすい側面があること。

(ウ) 9月6日のグリーン・ツーリズムの農村現場調査は,事前のアポイントもなく,前日に観光案内所で手に入れたグリーン・ツーリズムのパンフレットを元に,受入れ農家に向かったものであり,途中の町でヨットのアメリカズカップを見学した挙げ句,受入れ農家のある農村地域に着いた時点で農家を訪問する時間がなくなるなど,事前の準備が十分ではなく,当日の行動にも計画性がうかがわれないこと。

ウ  上記イに認定の諸事実からすれば,補助参加人Aらが実施した本件海外視察1には,県議の海外視察としては事前準備,視察内容などに一部不適切又は不充分な面があることは否定できないところではあるものの,既に説示したとおり,補助参加人Aらが,議会で承認を得たテーマ及びやむなく変更した後のテーマについて,旅行命令に従った日程で各視察先で調査を行い,一定の成果を挙げたこともまた否定しがたいのであって,この事実に照らして考えると,補助参加人Aらが,支給された本件海外視察1に係る旅費を議会で承認された海外視察以外の観光目的で支出したものと断ずることまではできず,補助参加人Aらが精算手続において虚偽の精算を行った事実についてもその前提を欠き認められないというべきであり,本件記録を精査しても,他に原告の前記(1)の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

エ  以上のとおりであるから,争点2についての原告の主張は採用できない。

3  争点3について(補助参加人Eらが本件海外視察2の旅費を海外視察以外の目的に支出したか又は虚偽の精算行為を行ったか)

(1)  原告の本件海外視察2にかかる請求は,被告に対して,補助参加人Eらが概算払金を海外視察以外の目的に支出したことやこれを前提に虚偽の精算行為をしたことが違法であるとして,県が補助参加人Eらに対して有する不法行為に基づく損害賠償請求権の行使または不当利得返還請求権の行使を求めるものであり,以下この請求の当否について検討する。

(2)  前記前提事実,証拠(甲1,3の1・3・4,乙2の1,丙C8,証人E(ただし,下記認定と異なる部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。

ア 補助参加人Eらは,平成15年6月定例会以降,会派内で数回の議論を経た後,平成15年12月16日に行われた打ち合わせにおいて,本件海外視察2の主な目的をNPO企業調査,環境保護調査,農業技術調査,港湾商業開発調査の4つとすることを決定した。(証人E,弁論の全趣旨)

イ 補助参加人Eらは,平成15年当時,県ではNPOとの協働が議題となっていたことから,NPOの発祥の地であるアメリカに視察に行くことを決めた。もっとも,同人らは,アメリカ以外の候補地は検討しなかった。(証人E)

ウ 補助参加人Eらは,補助参加人Eを代表者として,平成16年2月26日,次の内容の海外行政視察申出書を県議会議長に提出した。(甲3の1)

(ア) 目的

NPO企業調査,環境保護調査,農業技術調査,港湾商業開発調査

(イ) 場所

アメリカ合衆国,カナダ

(ウ) 期間

平成16年5月5日から同月15日まで(11日間)

(エ) 構成議員

補助参加人Eら

また,上記申出書には視察日程が添付されていた。(乙2の1)

エ 上記申出にかかる議員派遣については,平成16年3月16日,県議会平成16年2月第300回定例会において議題とされた上で,承認の議決がなされた。(前提事実)

オ 議長は,平成16年4月21日,補助参加人Eらに対し,要旨,次の内容の旅行命令を発した(括弧書きで補助参加人Eらの名を記載した部分を除き共通の内容である。)。(甲3の3)

(ア) 旅行期間 平成16年5月5日から同月15日

(イ) 目的地  相ノ釜(仙台空港)

韓国  ソウル仁川

アメリカ  ニューヨーク

ウィルミントン

ワシントン

カナダ  ナイアガラ

バンフ

ジャスパー

アメリカ  サンフランシスコ

サクラメント

相ノ釜(仙台空港)

(ウ) 支給額  120万円

(エ) 旅費内訳  航空賃  81万4780円

現地交通費  9万5925円

国内交通費  4253円(補助参加人E)

2554円(同F)

799円(同G)

4814円(同H)

1940円(同I)

3874円(同J)

日当宿泊料  30万0500円

支度料  8万6240円(補助参加人E,同F,同H,同I,同J)

0円(同G)

旅行雑費  1万6495円

計算額合計  131万8193円(補助参加人E)

131万6494円(同F)

122万8499円(同G)

131万8754円(同H)

131万5880円(同I)

131万7814円(同J)

カ この旅行命令における旅費は,O株式会社仙台旅行支店(以下「O社」という。)が平成16年4月20日付けで作成した企画手配旅行御見積書及び議会事務局総務課の担当職員が本件海外視察2の日程及び現地交通費(実費)から現地交通費(支給)及び日当を計算した結果をもとに関係条例に基づいて算出されたものである。(甲1,3の3,弁論の全趣旨)

キ 県議会事務局総務課は,平成16年4月30日,補助参加人Eらに対し,概算払としてそれぞれ120万円を支給した。(甲3の3)

ク 補助参加人Eらは,O社に対し,本件海外視察2の旅費としてそれぞれ112万8200円を支払った。(弁論の全趣旨)

ケ 補助参加人Eらは,7,8回程度,O社と調査先との接触について打ち合わせをしたり,会派内で日程や視察先との調査について協議したりした。(証人E)

コ 本件海外視察2の日程及び補助参加人Eらの活動内容は次のとおりであった。(以下,上記視察において,特に記載しない限り,平成16年中の事柄については年の記載を省略する。)(丙C8,証人E,弁論の全趣旨)

(ア) 5月5日(水)

仙台空港からソウルの仁川空港に空路で移動した。なお,仁川空港を経由したのは,航空運賃を安くするためであった。そして,ニューヨーク行きの便に乗るまでの間,東アジアのハブ空港である仁川空港の運用時間や内部施設について担当者から説明を受けた。その後,ニューヨークに空路で移動した。

(イ) 5月6日(木)

PROFESSIONAL PERFORMING ARTSを訪問し,同校の校長ら4名から,同校における中高一貫教育,少人数学級の実情についての説明を受けた。その後,ニューヨークからデラウェア州ウィルミントン市に移動し,午後4時30分から午後6時まで,元デュポン社の役員で現ピープルTOピープルインターナショナル会長のカールヒュター氏らと会談し,デラウェア州の政治情勢や今後の姉妹県州の交流などについて意見交換を行ったのち,チェリー州経済開発局長以下6名と交歓会を行い,席上で宮城県知事からの親書をミナー知事代理の同局長に手渡し,デラウェア州の概要や今後の交流などについて意見交換を行った。

(ウ) 5月7日(金)

シルバータウンであるウィルミントン高齢者・退職者集合住宅を視察した。ワシントンに移動し,世界自然保護基金アメリカ本部(以下「WWF」という。)を訪問して,同本部の担当者からWWFの概要について説明を受けたのち,日本大使館を訪問した。

(エ) 5月8日(土)

ジョージタウン地域(古い街並みが残っている地域)とタイソンズ・コーナーズ・センター(大型商業施設の一大集約地域)に行き,他にもペンタゴンやスミソニアン博物館などに行った。

(オ) 5月9日(日)

ワシントンからトロントへ空路で移動し,ナイアガラ瀑布施設に行った。同施設に行ったのは,日曜日ということで受け入れてくれる公的機関がなく,翌日のナイアガラオンザレイク市視察の事前調査を兼ねてのことであった。一般の観光客と同じ遊覧船に乗ってナイアガラの滝を見たり,ナイアガラの滝周辺の安全柵や案内表示等を見たりした。

(カ) 5月10日(月)

ナイアガラオンザレイク市役所を訪問し,ブロー市長らから市の観光政策,農業政策,特にアイスワインについて説明を受け,意見交換をした。その後,補助参加人Eらはパークウェイの途中でワイナリーを見学し,それぞれアイスワインのハーフボトル等を買った。

その後トロントからカルガリーに空路で移動し,カルガリー冬季オリンピック会場を訪れ,カルガリーオリンピックの選手村が現在は民間の住宅地に転用されている実情などを見学した。なお,補助参加人Eらは,事前に選手村がその後どのように利用されているかについては調査していなかった。

(キ) 5月11日(火)

バンフ国立公園に行き,一般の観光客と一緒に,氷河に土等を入れないための専用バスに乗り,氷河を見に行った。補助参加人Eは,温暖化の影響で,氷河が毎年100メートル以上後退している実態をみて,大変な事態が進んでいることを感じた。また,ジャスパー国立公園,レイクルイーズスキー場に行ったのち,公園管理事務所を訪問した。

(ク) 5月12日(水)

カルガリーからサンフランシスコに空路で移動し,在サンフランシスコ日本総領事館を訪問し,同領事館の領事らから,カリフォルニア州の経済情勢等についての説明を受けた。

その後,港湾商業施設であるフィッシャーマンズワーフやピア39を見学した。

(ケ) 5月13日(木)

カリフォルニア州サクラメント市の「サラダコスモUSA」を訪問した後,同市のスパングラー氏の農場を訪問し,アメリカ式直播稲作農業の実態を見学し,同氏らから説明を受けた。

(コ) 5月14日(金),15日(土)

サンフランシスコからソウル,仙台空港と空路で移動し,解散した。

(サ) 補助参加人Eが同人らの代表者となって,平成16年9月6日,県議会議長に対して,報告書2を提出した。(甲3の4)

a 報告書2には,表紙,目次,補助参加人Eらの団員名簿,本件海外視察2の日程表に続いて,補助参加人Eら各人の本件海外視察2の報告が記載されている。

b 補助参加人Eが,「アメリカ合衆国・カナダ地域振興等行政調査を終えて」と題して,視察の総論を,「姉妹県州,デラウェア州を訪問して」と題して,デラウェア州との交流の概要を,同Gが「ハブ空港としての国際空港のあり方について」や「WWF-US世界自然保護基金」,「ウィルミントン高齢者・退職者集合住宅」と題して,仁川空港やWWF,ウィルミントン高齢者・退職者集合住宅の視察の概要,感想などを,同Iが「大都市(ニューヨーク)における教育事情調査」や「アメリカ式直播稲作農業調査」と題して,PROFESSIONAL PERFORMINFG ARTSやスパングラー氏の農場の視察の概要を,同Hが「ワシントンD.C」や「ナイアガラ瀑布の施設とソフトについて」と題して,ペンタゴンやスミソニアン博物館,ナイアガラ瀑布の視察の概要を,同Jが「ナイアガラオンザレイク市役所訪問」や「カルガリー冬季五輪会場訪問」,「バンフ国立公園訪問」と題して,それぞれの訪問先の視察の概要を,同Fが「シュワ知事の赤字対策可決,橋の通行料1ドル値上げへ」や「カルフォルニア州経済(2004年5月)」と題してカリフォルニア州の情勢を報告している。

c この報告書の「ナイアガラ瀑布の施設とソフトについて」と題する部分には,「遊覧船であるカナダ滝の滝壺すぐ近くまで果敢にビニールカッパを着用の上,突っ込む。大きな音と,水煙に乗客は頭から水かぶり,ハクリョクにただただ感動の様子であった」,「ナイアガラオンザレイク市役所訪問」と題する部分には,「私たちは「霧の乙女号」という遊覧船にビニールのカッパを着て乗船,アメリカの滝のそばを通り,カナダ滝の渦巻く滝壺のすぐ近くまで行き,バケツで水をかぶったような状況の中で,その迫力を満喫」,「バンフ国立公園訪問」には,レイク・ルイーズに関して,「『ロッキーの宝石』と称せられる美しい湖であり,神秘的なブルー,そして白い氷河をいだたい山々のパノラマは絶景」などの感想が記載されている。また,「カルガリー冬季五輪会場訪問」と題する部分は,かつて選手村として存在していた建物が現在は住宅地として転用されているとの説明を受けたことのほかは,県政との関連性をうかがわせるような記述はなく,分量も景色などの写真を除けばA4用紙に半分程度のものであった。

(3)ア  以上に認定の事実,ことに,他の選択肢を検討せずにアメリカとカナダを視察先と決めた経緯,本件海外視察2の訪問先にスミソニアン博物館,ナイアガラ瀑布,バンフ国立公園,フィッシャーマンズワーフなどのいわゆる世界的観光地が多く含まれていること,報告書2の記載内容等からすれば,本件海外視察2は当初からアメリカの観光目的で企図されたものであるかのような誤解を与えかねないものであって,特にナイアガラ瀑布における視察は,補助参加人Eらの内心はともかく,その外形的態様は一般の観光客と大きく異なるものではなく,報告書2の内容も,単なる観光の感想にとどまり,県政との関連性が必ずしも明確とはいい難い上,県議の報告書としては不充分な部分が見受けられ,一般の観光旅行と異ならないとの批判を受けてもやむを得ない面があったほか,5月10日のカルガリー冬季五輪会場の訪問についても,補助参加人Eらが行った事前準備の程度,報告書2に記載された成果内容からすれば,わざわざ現地に行って視察する必要性や意義がなかったのではないかとの疑いを払拭しえない面があったものというべきである。

イ  もっとも,県は観光立県を目指しており,蔵王,松島などの国内でも著名な自然観光地等を多数有することからすれば,県政において観光政策は重要な施策の1つであり,県議として諸外国の観光都市における観光客誘致のための施策等を見聞することが県政に資する面があることもあながち否定できないところであり,視察先がいわゆる世界的観光地であることの一事をもって,本件海外視察2がもっぱら観光目的の視察であったと断ずることはできないのみならず,ナイアガラ瀑布の訪問も,当日は日曜日ということで受け入れてくれる公的機関がなかったこと,翌日にはナイアガラオンザレイク市役所の訪問を控えており,同市の中心的観光名所であるナイアガラ瀑布を見学することは,同市の観光政策を調査するに際して有意義な面がまったくなかったわけではないことなどからすれば,上記に説示したような内容の視察となったことにもやむを得ない事情もあったというべきである。

これに加えて,前示のとおり,補助参加人Eらは,本件海外視察2についてそれなりの打ち合わせなどをしたうえで,旅行命令に沿った日程,訪問先で,議会の承認を受けた本件海外視察2のテーマである①「NPO企業調査」,②「環境保護調査」,③「農業技術調査」,④「港湾商業開発調査」について,それぞれ,①WWFアメリカ本部で担当者から説明を受け,②バンフ国立公園で氷河を見て温暖化の影響を実感した上で公園管理事務所を訪問し,③サラダコスモUSAやスパングラー氏の農場を訪問し,④フィッシャーマンズワーフを見学するなどしており,それなりに知識を高め,あるいは見聞を広めたことがうかがわれないではなく,そのことが県政に資する可能性も否定し難く,一定の成果をあげたといえないこともないから,補助参加人Eらが支給された本件海外視察2に係る旅費を議会で承認された海外視察以外の観光目的で支出したものとまでは直ちには断定し難く,また,これを前提とした虚偽精算の事実も認められないというべきであり,本件記録を精査しても,他に原告の前記(1)の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

ウ  以上に述べたことからすれば,争点3についての原告の主張は採用できない。

4  争点4について(県議会が補助参加人Kらを本件海外視察3に派遣したこと,又は本件海外視察3にかかる旅費の支出が違法か)

(1)  前記前提事実,証拠(甲1,4の1・3・4,乙1,丙D3から5,10,13,14,証人M(ただし,下記認定と異なる部分を除く。))及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められ,この認定を覆すに足りる証拠はない。

ア 補助参加人Kらは,会派総会で,本件海外視察3のテーマを,会派が共通課題としていたバイオマス活用(特にバイオ燃料),公営カジノ,農業政策とすることを決定した。

バイオマスの利活用については,平成14年12月に「バイオマス・ニッポン総合戦略」が閣議決定されて以降,各地域において取組みが行われているところであり,県においてもバイオマスに関するマスター・プランが策定されていた。公営カジノについては,平成18年ころ,国において,観光特別委員会カジノ・エンターテイメント検討小委員会が,議論を経た上で「我が国におけるカジノ・エンターテインメント導入に関する基本方針」を決定するなど,カジノに関する法整備が進められていたところであった。農業政策については,平成19年度から,日本における農業政策が,これまでの全ての農家を対象とした施策体系から,施策の対象となる担い手を明確化し,その経営を安定させる施策体系に変わることが予定されていた(経営所得安定対策の導入)。

そこで,補助参加人Kらは,先んじてバイオマスに取り組んでおり,100年の公営カジノの歴史があり,ヨーロッパ最大の農業国として,農家に対する直接支払の制度や,条件不利地域支払・農業環境支払の制度等を取り入れているフランスを視察先として選定した。(丙D5,10,13,証人M)

イ 補助参加人Kらは,会派内の自然エネルギー議員連盟で勉強会をしたり,バイオマス施設の現地視察にいったり,カジノについて講演を聞いたりするなど,複数回事前準備を行った。(丙D3,4,証人M)

ウ 補助参加人Kらは,平成18年9月20日,補助参加人Lを代表者として,次の内容の海外行政視察申出書を県議会議長に提出した。(甲4の1)

(ア) 目的

バイオマス活用(特にバイオ燃料)調査,公営カジノ調査,農業政策調査

(イ) 場所

フランス

(ウ) 期間

平成18年10月15日から同月19日まで(5日間)

(エ) 構成議員

補助参加人Kら上記申出書には視察日程が添付されていた。(甲4の1)

エ 上記申出にかかる議員派遣については,平成18年9月第310回定例会において議題とされた上で,承認の議決がされた。(前提事実)

オ 議長は,平成18年9月27日,補助参加人Kらに対し,要旨,次の内容の旅行命令を発した(括弧書きで補助参加人Kらを記載した部分を除き,共通の内容である)。(甲4の3)

(ア) 旅行期間  平成18年10月15日から同月19日

(イ) 目的地

フランス  パリ

サンベネト

パリ

アンギャンレバン

パリ

(ウ) 支給額  66万0406円(補助参加人L)

71万6022円(同K)

120万円(同M)

(エ) 旅費内訳

航空賃  93万3800円

現地交通費  9万円

国内交通費  3万0674円(補助参加人L)

3万1878円(同K)

3万1054円(同M)

日当宿泊料  11万5400円

支度料  0円(補助参加人L,同K)

8万6240円(同M)

旅行雑費  6870円

計算額合計  117万6744円(補助参加人L)

117万7948円(同K)

126万3364円(同M)

カ この旅行命令における旅費は,O社が平成18年9月27日付けで作成したお見積書及び議会事務局総務課の担当職員が本件海外視察3の日程及び現地交通費(実費)から現地交通費(支給)及び日当を計算した結果をもとに関係条例に基づいて算出されたものである。(甲1,4の3,弁論の全趣旨)

キ 議会事務局総務課は平成18年10月12日,概算払として,補助参加人Lに対しては66万0406円,同Kに対しては71万6022円,同Mに対しては120万円を支給した。(甲4の3)

ク 本件海外視察3の日程及び補助参加人Kらの活動内容は次のとおりであった(以下,この項において,特に記載しない限り,平成18年のこととする。)(甲4の4,丙D14,証人M,弁論の全趣旨)。

(ア) 10月15日(日)

仙台空港から成田空港,同空港からパリへそれぞれ空路で移動した。

(イ) 10月16日(月)

午前中は視察予定がなかったため,午前9時30分から11時まで,ルーブル美術館を見学した。その見学状況は客観的には一般の観光客と変わらないものであった。その後昼食をとり,移動して,午後2時からは,アンギャンレバン市にある公設カジノ場を訪問し,同市の観光担当局長,カジノ運営会社ルシエン・バリエグループの担当者からカジノに関連する法律の概略,犯罪対策などについて説明を受けた。このとき,補助参加人Kらはカジノはしなかった。

なお,午前中は視察先と訪問日程を調整する中で空き時間ができたため,年間数百万人が訪れる大きな観光資源であるルーブル美術館を訪問することとした(ただし,報告書3には,美術館訪問の記載はない。)。

(ウ) 10月17日(火)

午前10時30分から午後零時まで,在フランス日本大使館を訪問し,P書記官からフランスのバイオエネルギーの現状,農業問題,エナという国会議員を多く輩出する大学院などについて話を聞いたのち,午後零時30分から同2時30分まで,市内レストランで昼食をとりながら翌日の研修に向けて,上記大使館での説明をふまえて質問事項の打ち合わせを行った。その後空き時間があったため,午後3時から午後4時30分までノートルダム寺院を訪問したが,そこでの見学状況は客観的には一般の観光客と変わらないものであった。また,報告書3には,同寺院訪問の記載もない。

なお,上記空き時間は,バイオディーゼルフイエル生産工場訪問を予定しており,事前に打診をして旅行会社を通じて内諾を得ていたが,議会の承認を得た後に外務省を通じて正式な依頼をしたところ,本件海外視察3に出発した後になって,企業秘密の関係で視察を拒否する旨回答されたため,生じたものである。

(エ) 10月18日(水)

午前9時から午前11時まで,フランスの農漁業省において,担当者からフランスの農業情勢やバイオエタノールについての説明を受けたのち,午後零時30分から午後2時30分まで,ミセスレクラート氏の農場を訪問し,同人らからフランス農業の実情について話を聞いた。

午後8時にパリを出発し,翌日午後7時15分,仙台空港に到着し,解散した。

(オ) 本件海外視察3の現地における移動には専用バスが利用されていた。

ケ 本件海外視察3終了後の平成18年10月23日,本件海外視察3について精算確認が行われたが,その後,補助参加人K,同L及び同Mからの申立てにより,平成19年6月8日,各人に対して旅行命令の変更が行われた。具体的には,補助参加人Kの条例に基づく再計算額は92万7998円,支給額は83万3242円とされ,同人に追加として11万7220円が支給され,補助参加人Lの条例に基づく再計算額は92万6794円と,支給額は66万0406円,補助参加人Mの条例に基づく再計算額は101万3414円,支給額は103万3414円とされ,同人から18万6586円が返還された。(乙1,弁論の全趣旨)

コ 補助参加人Lが同Kらの代表者となって,平成18年11月30日,県議会議長に対し,報告書3を提出した。(丙D14)

この報告書には,日程に続いて,「フランス公設カジノ 研修報告」と題して,アンギャンレバン市の観光担当局長による説明の概要,感想などが,「在仏日本大使館 研修報告」と題して,在フランス大使館のP書記官によるバイオエネルギーについての説明の概要,感想などが,「フランス農漁業省 研修報告」と題して,担当者らからのフランスの農業状勢などについての説明の概要,感想などが,「フランス農家 研修報告」と題して,地元の農家の人からの説明の概要,それに対する感想などがそれぞれ報告されている。

(2)  ところで,議会は,議案の審査又は当該普通地方公共団体の事務に関する調査のためその他議会において必要があると認めるときは,議員を派遣することができるが(法100条12項参照),その趣旨は,議会が普通地方公共団体の議事機関として,その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し,合理的な必要性があるときはその裁量により議員を国内や海外に派遣することができるとする点にあると解される。もとより,このような議会の権能も絶対無制約なものではなく,派遣の目的・内容などに照らして,合理的な必要性がないにもかからわず所属議員を海外に派遣したり,視察の名のもとに観光をさせることを容認して派遣するなどの場合には,裁量権行使の逸脱又は濫用として,右派遣に要した費用の支出が違法となるというべきである。

(3)ア  そこで上記に認定した事実に基づいて本件海外視察3の目的や内容について検討するに,10月16日にアンギャンレバン市にある公設カジノ場を訪問したことは,国においてカジノの法整備化の議論がなされている状況を踏まえて,将来的に県の観光資源としてカジノを導入するか否かの検討にあたって参考となる資料を調査することに主眼があると考えられるから,議会で承認した公営カジノ調査という目的に沿ったものということができないわけではなく,補助参加人Kらは同市の観光担当者やカジノ運営会社の担当者から説明を受け,同人らが公営カジノに関する知識を高め,見識を広げたことは想像に難くなく,将来における県の観光政策に資するという面で一定の成果を挙げたことがうかがわれる。

もっとも,補助参加人Kらは,同日の午前中にルーブル美術館を見学しているところ,同美術館が世界有数の観光名所であり,その見学状況や報告書にもふれられていないこと等からすれば,同人らの主観はともかく,外形的には,観光目的の見学と区別し難い面があるといわざるを得ない。また,この見学が本件海外視察3の最初の視察時間に行われており,この見学の時間を除くなど,視察日程の調整によっては旅費の節約も可能であった余地もないではない。しかしながら,この空き時間は視察先と訪問日程を調整する中で生じたものであることは前示のとおりであって,上記のような視察内容となったことには酌むべきところもあるというべきである。

以上に説示したところを総合すれば,10月16日の視察は,補助参加人Kらもそれなりの成果を挙げたものであるから,合理的な必要性がないとまで断ずることはできず,本件記録を精査しても,他に観光をさせることを容認して派遣したとの原告の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

イ(ア)  もっとも,10月17日に在フランス日本大使館を訪問したことは,県がマスター・プランを策定するなど積極的に取り組んでいたバイオマスの活用について調査することに主眼があったと考えられ,県議会で承認したバイオマス活用調査という目的に沿ったものというべきであり,フランスのバイオマス活用に関する一般的な知識や見聞を広めるという効果は否定できないにしても,その内容はP書記官から話を聞いたものに過ぎないものであって,それ自体としては補助参加人Kらをフランスに派遣してまで調査させる合理的必要性に疑念を生じさせるものといわざるを得ない。

また,同日午後零時30分からの前記打ち合わせは,視察の事前準備の不充分さを露呈するものということもできるほか,ノートルダム寺院訪問についても,同寺院が世界的観光地であること,その見学状況及び前記報告書に報告がないこと等からすれば,同人らの主観はともかく,外形的には単なる観光目的の見学と紛らわしい面があるといわざるを得ない。

以上に説示したところからすれば,10月17日に補助参加人Kらが実施した視察はそれなりの成果があったことは否定できないものの,同人らをフランスに派遣して調査・見学させる必要性については,疑問をさし挟む余地があるといわざるを得ない。

(イ)  他方,この日の視察が上記のようなものとなった一因として,事前に旅行会社を通じて調査先から内諾を得ていたにもかかわらず,出国後に視察を拒否されたことが挙げられる上,現地で代替調査先を選定することが時間的にも困難であったことがうかがわれ,これらの事情に照らすと,補助参加人Kらの事前準備,行動計画,日程調整又は調査内容には不充分な点を指摘しうるものの,上記のような調査を余儀なくされた面があることは否定できないというべきである。

(ウ)  以上に説示したところを総合考慮すれば,10月17日の視察は,その成果については必ずしも十分なものとはいい難いものの,まったく合理的な必要性のないものであったとまでは断じ難く,本件記録を精査しても,他に観光をさせることを容認して派遣したとの原告の主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

ウ  10月18日の農漁業省又は農家訪問は,バイオマス活用の目的に沿ったものであるのみならず,県の農業政策として予定されている経営所得安定対策の導入との関連において,各種制度を導入しているフランスの農業政策の実情調査に主眼があったものであって,県議会で承認した農業政策調査の目的にも沿ったものということができる。また,農漁業省の担当者や農家からの補助参加人Kらに対する説明が,同人らの農業政策についての知識を高め,見聞を広げたことがうかがわれ,それが経営所得安定対策を踏まえての県の農業政策やバイオマス活用に資するものであったということもできる。

したがって,10月18日の視察については合理的な必要性の存在を肯定しうるというべきである。

エ  以上によれば,県議会が補助参加人Kらを本件海外視察3に派遣したことについて裁量権の逸脱又は濫用は認められず,原告の前記主張は採用できない。

(4)  そのほか,原告は,補助参加人Kらがビジネスクラスを利用したことが違法であると主張するが,ビジネスクラスの利用の一事をもって違法であるということはいえず,上記利用は議員報酬条例6条3項二ロに従い支出されたものであって,違法であるとは認められず,本件記録を精査しても,他に原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。

(5)  また,原告は,補助参加人Kらが,本件海外視察3にかかる旅費を政務調査費で同視察に参加していた自民党宮城県議団の旅費に流用した旨主張するところ,証拠(甲31,丙D19,証人C)によれば,被告は,補助参加人Kらに対し,本件海外視察3にかかる旅費として257万6428円を支給し,同人らは視察前に上記支給額から現金支給分及び手数料を差し引いた256万1448円をO社に振り込んだが,上記払込金については,補助参加人Kら3名のみならず,自民党宮城県議団4名の旅費も含めた7名分の旅費の前受金として処理されていることは認められるものの,この事実のみでは,補助参加人Kらが,支給された旅費を自民党宮城県議団の旅費に流用することを企図してO社に支払ったとの事実は認められず,本件記録を精査しても,他に原告主張の流用の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。したがって,原告の主張は採用できない。

(6)  さらに,原告は,本件海外視察3の現地における交通手段として専用車利用分の旅費を支出したことは,タクシーなどその他の交通手段を利用した場合に比べて著しく多額であり,職員旅費条例7条1項に反する違法なものである旨主張する。しかし,前示のとおり,本件海外視察3の現地での移動人数は少なくとも7名であることに加えて,専用車を利用することにより移動時間の節約が見込まれ,移動中にも打ち合わせや議論を行うことが可能となること等の事情も併せて考慮すると,専用バスの利用には,「公務上の必要」があったということができ,仮に専用車の利用費用がその他の交通手段の利用費用に比べて著しく多額であったとしても,そのことのみでは上記専用車の利用が直ちに違法であるということはできず,本件記録を精査しても,他に専用車の利用に係る原告の上記主張を認めるに足りる的確な証拠はない。

したがって,原告の上記主張は採用することができない。

5  以上のとおりであるから,原告の本訴請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 足立謙三 裁判官 近藤幸康 裁判官 髙橋幸大)

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