仙台地方裁判所 平成2年(ワ)497号 判決
(抄録)
「二 請求原因二の事実について
<証拠>によれば、次の事実が認められる。
Xは、先物取引については知識も経験もない素人であったが、平成二年二月二一日、Y4から、Xの出身高校の同窓生からの紹介で金の話をしたいとの電話を受け、翌二二日、勤務先の中学校を訪れたY4と面会し、金の先物取引の勧誘を受けた。
Y4は、同月二三日の朝、再びXの勤務先中学校に電話をよこし、『今買えば絶対に儲かる。二一〇〇円を下回ったら買う。二一〇〇円を下回らなかったらなかったことにしてくれ』との話をしたが、Xは、授業時間に入っていたこともあり、急いでいる旨伝えて電話を切った。
Y4は、同日の午後、さらにXに電話を入れ、金三〇枚を買ったのでよろしくと述べたため、Xが注文をした覚えがないと抗議したところ、Y3とともにXの勤務先中学校を訪れ、午後三時半ころから六時過ぎまでXに金地金の先物取引の勧誘をしたが、このとき、主としてY3が、金は今儲かること、買ってしまったので契約して欲しいことなど何回も繰り返し話した。このため、Xは、資金がないこと、先物取引そのものに興味がないことなど話して抵抗したが、結局執拗なY3らの勧誘に、既に金地金三〇枚が建玉されている以上取引参入を拒否できないものと誤信したため、不安を感じながらも約諾書兼通知書(乙一)に署名押印し、委託証拠金三三三万円を同月二六日午後に支払うことをY3らに約束した。
Xは、当日、家族に事の次第を相談した結果、取引を断ることにし、同年二月二四日、Y1仙台支店に電話を入れてその旨伝えたが、応対にでたY3から、既に金を買っている以上契約を取り消すことはできず、三三三万円を月曜日までに用意して欲しいこと、学校に集金に行くことなどを話され、Y1の従業員らにつきまとわれたり、学校に集金に来られた場合の生徒達の反応などを考え、不安を感じた。右のような経緯から、Xは、X代理人に相談し、真実金地金が買われているのか確認するため、同月二六日朝、再びY1に電話を入れて、その旨確認したところ、Y3は、二月二三日に既に金三〇枚を買っているためいまさら止められない旨応答し、取引の継続と委託証拠金の支払を迫った。
右電話の直後にX代理人がY1に電話した際にも、Y3は同様の返答をしていたが、結局金地金三〇枚を建玉した事実がないことを認め、Y2において、何もなかったことで良いからX代理人からの書面など結構である旨話し、結局Xは、三三三万円の委託証拠金の支払を免れた。
三 請求原因三(Yらの責任)について
Y4およびY3は、Xに対し、金地金の先物取引が確実な利益を得る方法であるかのごとく述べ、さらに、Y1の受託契約準則九条二項によっていわゆる前証拠金の原則が明記されており(乙三)、現に金地金三〇枚は未だ建玉されていなかったにもかかわらず、既に建玉されている旨虚偽の事実を述べて、Xに取引参入を拒否できないものと誤信させ、委託証拠金三三三万円の支払を約束させ、その後、家族等の忠告により、取引を拒絶しようとしたXに対し、右虚偽の事実を前提に執拗に取引中止を思い止まるよう勧誘を続けたものであり、右一連の行為は全体としてXに対する不法行為を構成するものと解するのが相当である。
そして、Y3及びY4は、Y1の仙台支店の商品先物取引受託仲介業務に共同してあたっているものであり、同Yらの右不法行為は、右業務の一環として共同でなされたものと認められるので、同Yらにつき共同不法行為の成立を認めるのが相当である。
また、Y4及びY3がY1の従業員であることは当事者間に争いがなく、右Yらの一連の行為は、Y1の事業の執行につきなされたことが明らかであるので、Y1は民法七一五条により使用者責任を負うものと解すべきである。
なお、Xは、Y2についても不法行為責任を認めるべきであるとするが、Y2については、……X代理人との電話でのやり取りの事実があったことは当事者間に争いがないものの、他にY2が本件に何らかの関与をしていたことを認めるに足りる証拠はない。そして、右電話のやり取りが違法なものと解することはできず、支店長の立場から当然にY3及びY4との共同不法行為責任を認めることもできない。
四 請求原因四(損害)について
1 慰謝料
<証拠>によれば、前記認定のY3らの勧誘行為により、Xは勤務先の中学校での立場や今後もY3らの取引勧誘が続くことへの不安など精神的苦痛を蒙ったことが認められ、この事実に前記認定の事実、その他本件で認められる諸般の事情を考慮すれば、Xの受けた精神的苦痛を償うべき慰謝料の額は二〇万円と認めるのが相当である。
2 弁護士費用
Xは、本件紛争の解決のため、X代理人に委任したことが認められる。その費用のうち、本件訴訟提起・遂行に必要な費用として五万円を本件不法行為と相当因果関係にある損害として認めるのが相当である。
五 抗弁(相殺)について
Yらの相殺の主張は民法五〇九条から認めることはできず、主張自体失当である。
以上によれば、Xの請求は、Y1、Y3及びY4に対し二五万円の支払を求める限度で理由がある……。」