大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 平成20年(わ)89号 判決 2008年8月07日

主文

被告人を無期懲役に処する。

未決勾留日数中60日をその刑に算入する。

押収してある包丁の刃及び柄各1本(平成20年押第25号符号1,2)並びにペティナイフ1本(同押号符号3)を没収する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は,

第1平成20年1月28日午前7時30分ころ,仙台市泉区内の被告人方において,妻A(当時45歳)に対し,殺意をもって,背後から同人の頸部にネクタイを巻きつけて締めつけるなどし,よって,そのころ,同所において,同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した

第2同日午前7時40分ころ,前記被告人方において,二女B(当時14歳)に対し,殺意をもって,正面から同人の頸部にネクタイを巻きつけて締めつけるなどし,よって,そのころ,同所において,同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害した

第3同日午前8時5分ころ,前記被告人方において,長男C(当時21歳)に対し,殺意をもって,同人の顔面,頸部,左胸部,背部等を牛刀(刃体の長さ約18センチメートル。平成20年押第25号符号1,2)及びペティナイフ(刃体の長さ約13センチメートル。同押号符号3)で数回突き刺すなどしたが,同人に抵抗され,逃げられたため,同人に全治約2週間を要する顔面切創,頸部刺創,左側胸部刺創,右背部刺創等の傷害を負わせたに止まり,殺害の目的を遂げなかった

第4同日午前8時10分ころ,前記被告人方2階の4.5畳洋室において,長女D(当時22歳)に対し,殺意をもって,同人の胴体を第3記載のペティナイフで突き刺したが,同人に抵抗され,同ナイフを奪われた上,同人が同室腰高窓から1階屋根に出て地上に転落し,逃げたため,同人に全治約1年を要する右踵骨骨折,左臀部刺創,腰椎圧迫骨折の傷害を負わせたに止まり,殺害の目的を遂げなかった

第5前記第1記載の場所に所在する被告人所有の木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建家屋(総床面積約118.50平方メートル)に,Dらと居住していたものであるが,同家屋に火を放って同家屋を焼損するとともに自殺しようと企て,前記日時ころ,同家屋1階に灯油を撒き,更に1階茶の間で燃焼中の反射式石油ストーブに灯油を散布して放火し,その火を同茶の間の床面,天井等に燃え移らせ,よって,Dらが現に住居に使用する同家屋のうち茶の間床面及び天井等合計約23.45平方メートルを焼損した

ものである。

(事実認定の補足説明)

弁護人は,被告人が,本件犯行当時,鬱病に罹患し,心神耗弱の状態にあり,責任能力が限定的であったと主張しているので,以下,被告人に完全責任能力を認めた理由を補足して説明する。

1  弁護人は,被告人が,失業後再就職していないことを隠すために約1年余りの間,信販会社やいわゆる町金から借金を重ね,それらを給料として妻に渡していたが,平成19年暮れにはそれも限界に達して強度のストレスを感じるようになり,その事実が家族らに発覚すれば,被告人が懸命に守ってきた幸せな家庭が崩壊し自宅も失ってしまうと考え,問題逃避のために自殺を考えるようになったが,生命共済は掛金を滞納しているので,自殺しても共済金での清算は困難であると誤解し,自殺しただけでは家族に様々な苦難が振りかかると考え,塗炭の苦しみを味わった自らの苦しい幼少時代を重ね合わせ,そのような境遇に家族を残すよりは,皆で天国に行った方が幸せであると考え,本件犯行に及んだものであるところ,被告人は,平成19年暮れ以降本件犯行時まで,不眠,食欲不振,抑鬱気分等の症状を伴いながらそのような考えに取りつかれて正常な判断ができなくなっていたもので,これはまさに鬱病の典型的な症状であると主張している。

2  確かに,被告人の当公判廷における供述や,被告人の姉Eの当公判廷における証言によれば,被告人は,平成17年11月に仕事を辞め,本件犯行時までの2年余りの期間仕事もせず,借金を重ね,全く働くことなくそれを家族に打ち明けられずに深く悩んでおり,平成19年の暮れには,姉Eに対し,食欲がないことや眠れないと訴えていたことが認められ,本件犯行直前ころには,抑うつされた気分で,元気がなく,自殺を考えることもあったことが窺われる。しかしながら,被告人には精神科への通院歴が全くなく,本件当時も,医師の診察を受けたり,他者に悩み事の相談をしたことがない上,被告人と同居していたCやDの検察官に対する各供述(甲54,102)によれば,本件直前まで被告人に特に変わった様子は見られなかったというのであり,実際にも被告人は,本件犯行の前日ころ,高校受験を間近に控えた二女と志望校の下見に行くなど通常の生活を送っていたもので,精神障害を疑わせるような異常な言動は見受けられない。被告人が姉に話した食欲不振や不眠等の症状は,当時被告人が抱えていた多額の借金や仕事がない状況に照らせば当然ともいえるものであって,精神障害に起因する状況とはいえない。そうすると,被告人が,本件当時,鬱病を含め病的な精神障害を抱えていたとは認められない。

そして,被告人の責任能力の程度について検討すると,借金等で思い悩み,短慮にも一家心中を選択し,家族4人を次々と殺害し又は殺害しようとしたことは異常ではあるものの,被告人が精神障害を抱えていたとは認められない上,被告人の自尊心の強さ等に照らすと,自分が仕事をせずに借金していたことが家族に知られるのは耐えられないということも,犯行動機としてはそれなりに了解できるものであること,被告人は,犯行の直前に,起床順に妻,二女の順序で殺そうとか,妻や二女は首を絞めて殺害できるが,長男や長女は激しい抵抗が予想されるので刃物を使って殺害しようなどと考え,実際の犯行に際しても,合目的的に行動し,計画通りに実行していること,犯行当時,意識は清明で,周囲の状況認識も的確にできており,犯行前後の言動に特段異常な点は窺われないこと,犯行時の記憶も十分に保持されていることなどに照らせば,被告人について,是非善悪の判断能力や行動を制御する能力が著しく低下していたことを疑わせる事情は認められず,本件犯行当時,被告人は,完全な責任能力を有していたものと認められる。

(量刑の理由)

第1本件事案の概要

本件は,長期間仕事をしていないのにしているように装って,家族に給料を渡すために金融機関から借金を重ねてきた被告人が,家族に事実が露見することをおそれて一家心中を企て,妻及び二女を絞殺し,次いで長男及び長女を刃物で刺殺しようとしたが,抵抗されて未遂に止まり,その後,自宅に灯油を撒いて放火した事案である。

第2極刑も考慮される量刑事情

1  犯行の経緯に酌量の余地はなく,動機は身勝手極まりない。

(1) 被告人は,妻A(以下「妻」という。)と昭和58年に結婚し,同人との間に,長女D(以下「長女」という。),長男C(以下「長男」という。)及び二女B(以下「二女」という。)の3人の子供をもうけ,空調ダクト職人として働きながら家族5人で生活してきた。被告人は,平成17年11月,勤めていた職場を些細な人間関係が原因で辞めた後,2か月間は後払いの給料が入ってくると考えて趣味のパチンコに興じて過ごし,その後1か月ほど求職活動をしたものの再就職口が見つからず,パチンコで稼いで生活できないかなどと考え,平成18年1月ころ,妻には再就職先が見つかったと嘘をついた。被告人は,その後約2年間にわたり働かずにパチンコに明け暮れる生活を送り,その間消費者金融会社から借り入れた金を給料と称して妻に渡していたが,消費者金融会社からの借入ができなくなるや,自宅土地建物を担保に入れていわゆる町金融から借金を重ねた挙げ句,妻子に嘘が露呈することをおそれて,本件犯行に及んだものである。被告人は,家族の生活を守るべき立場にありながら遊興に耽り,生活の本拠である自宅を担保に入れて,返すあてのない借金を重ねたもので,誠に無責任であり,さらに,土地建物を取られたくないとか,家族離れ離れになりたくないので,一家心中しようと考えた動機は,甚だ身勝手かつ思慮浅薄であるとしか言いようがない。

(2) 被告人は,幼少期に両親が別居,離婚して施設に預けられ,親兄姉と離れて暮らすなど貧しく寂しい思いをしたことから,自分が自殺することで家族に同じ苦しみを味わわせたくない,家族が離れ離れになるくらいなら皆で死んだほうが幸せだと考えて本件犯行に及んだ旨供述している。しかし,被告人の結婚後の生活状況をみると,幼少期の暗く貧しい生活が影を落としていたことは窺われないし,本件当時金融会社等から厳しい取立てを受けていたわけでもなく,被告人は,パチンコをしながら金を借り入れて妻に給料として渡す生活に行き詰まったに過ぎない。しかも,本件当時,被告人の妻はパートに出て働き,長男,長女も成人して仕事に就いていたことを勘案すると,家計を預かっていた妻に事情を打ち明けることもないまま,理不尽な一家心中に及んだのであるから,甚だ身勝手というほかない。

(3) また,被告人は,本件犯行に及んだ原因として,平成18年7月ころ,偶々,妻が管理する通帳を見たところ,被告人には覚えがない多額の入出金等が記録されており,妻が被告人に内緒で多額の借金をしている事実が窺われたことから,不信感を募らせ,勤労意欲が一層低下し,自暴自棄の状態となって更に借金を膨らませたことを挙げているところ,妻の管理する通帳に不審な多額の入出金があることは確かである。しかしながら,被告人は,自らは働きもせずに無断で借金を重ねていたため,妻に事情を問い質すことができなかったものであり,その後更に借金を膨らませたのも家族の責めによるものではないから,被告人が上記通帳の入出金記録で思い悩んだことがあったとしても,一家心中を決意した事情としては,酌量することができない。

2  計画的な犯行であり,殺害方法は非情,残虐である。

(1) 被告人は,平成20年1月25日に本件犯行を思いつき,実行に至るまでの3日間,殺害の順序や方法等について考えを巡らし,本件当日,実行を決意してからは,妻及び二女を絞殺するため,いずれも2本のネクタイを切れないように二重にし,手が滑らないように両端を固く結んで準備し,長男,長女を襲う際には,抵抗された場合に備えて刃物を2本所持するなどした上で犯行に及んでおり,極めて冷静で周到である。

(2) 被告人は,準備したネクタイを持って背後から妻に近づき,その首にネクタイを巻きつけて力を込めて締め上げ,妻がうめき声を上げ,もがき苦しんでも,手をゆるめることなく無言のまま締め続けて殺害し,妻が苦しみながら息絶えた姿を目の当たりにしても,息を吹き返さないようネクタイを固く縛りつけ,さらに,何らの躊躇もなく二女を呼び寄せ,同人と正対した状態でネクタイを首に巻きつけて強く締めつけ,同女が苦しみ,止めて欲しいと懇願するのを無視して妻と同様に殺害している。その犯行態様は冷酷,非情で,妻及び二女が息絶えるまでに感じた筈の肉体的苦痛,精神的衝撃,絶望感は察するに余りある。

(3) 被告人は,2人を殺害した後,なおも計画通りに残りの家族を殺害するため,刃の長さが約18センチメートルもの牛刀と刃の長さ約13センチメートルのペティナイフを持って長男の部屋に向かい,就寝中の長男に馬乗りに跨るなどして身体の枢要部を狙って攻撃を加え,長男が抵抗し,止めるように言っても全く意に介さずに無言で攻撃を続け,牛刀の刃が折れると今度はペティナイフを用いて執拗に攻撃を加えている。さらに,長男が逃走した後も,計画を諦めることなど全く考えず,長女の部屋に押し入り,同人が被告人に理由を問い,止めるように何度も懇願するのを無視し,同人にペティナイフを奪われるまで身体の枢要部を狙って攻撃し続けている。いずれも,殺傷能力の高い凶器で身体の枢要部を狙って攻撃し続けた,強固な殺意に基づく執拗かつ残虐な犯行であり,危険で悪質である。

弁護人は長女を殺害しようとした際には,確定的な故意は失われていたと主張するが,被告人は,長男に逃げられた後は長女を攻撃しようと長女の部屋に押し入って殺害行為に及んだもので,当初の計画通りに事を押し進める強い意図が窺われるし,殺意が失われていないことも明らかである。ただ,被告人は,長女の左太腿を刺し,長女からペティナイフを取り上げられた後は,特に攻撃を加えておらず,殺害の意欲が低下したと見る余地もないではないが,これは長女の抵抗に遭い,凶器を取り上げられた後のことであるから,犯情として重視することはできない。

3  殺人,同未遂の犯行の結果は極めて重大である。

(1) 妻は,結婚以来約25年間,被告人が多額の借金をつくったり,職を失ったりしても,責めることなく被告人を支え続け,被告人や家族のために尽くしてきたのに,信頼していた夫に突然襲われ,その理由も分からないまま耐え難い肉体的苦痛と混乱の中で絶命したものと思われ,その衝撃や精神的苦痛は想像を絶するものがある。家族や職場の人たちに好かれ,3人の子供の将来を楽しみにしながら,平穏に生きていた妻が,愛する子供たちに別れの言葉を告げる暇もなく,突然夫から命を奪われてしまった無念さは察するに余りある。

二女は,春からの高校生活を楽しみにし,様々な夢を抱いて一生懸命生きていたのに,慕っていた父親から突然襲われ,懇願も聞き入れられない絶望と恐怖の中,15年に満たない短い生涯を閉じたものである。同女が感じたであろう肉体的,精神的苦痛はあまりにも大きく,これから成長して大人になり,人生の様々な喜びを体験することができたはずであるのに,突然全ての未来を絶たれた無念さは察するに余りあり,不憫としか言いようがない。

(2) 長男は,顔面,背部や脇腹など数カ所を刺され,全治2週間の怪我を負わされているが,背部の刺創は深さ約5センチメートルと胸腔に達するほどのものであり,脇腹の傷も同様に深い。長女は,左臀部に縫合手術を要する刺創を負ったのみならず,被告人からナイフを奪った後も恐怖心から,屋根伝いに逃げることを余儀なくされて転落し,全治約1年を要する踵骨骨折の傷害を負っている。いずれの結果も重大で,被った肉体的苦痛は大きい。

父親から襲われる理由も分からず,死への恐怖と直面しながら必死に抵抗した長男,父親が弟を襲っているという信じ難い光景に衝撃を受け,その後すぐに自身も襲われ,被告人に対し何度懇願しても聞き入れられず,刺された痛みも感じないほどの恐怖と混乱を味わった長女の精神的苦痛はいずれも想像を絶するものがある。

長男は,頼るべきはずだった父親が,母親と妹を殺してしまい,こんなに悲しくて寂しいことはない,優しくて大好きだった母親にもっと恩返しがしたかった,もっと母親の作った料理が食べたかった,妹のことも無条件で可愛くて大好きだったなどと述べて母親と妹を失った悲しみを吐露し,母親と妹を守ってやれなかったとの自責の念に苛まれている。長女も,大好きで慕っていた母親に,これから教えて貰いたいこと,話したいことが沢山あったのに,それが叶わず,朝起きれば当然会えると思っていた母親に突然会えなくなってしまった悲しみ,仲が良く,その成長を楽しみにしていた妹が突然いなくなってしまった喪失感を吐露している。温かく,幸せだった家族との生活が突如として奪われた長男,長女の悲しみはあまりにも深く,生涯癒えることがないものであり,しかも,同人らは,加害者が父親であるという事実に遣り場のない葛藤を感じ,多くの不安と苦悩を抱えながら生きていくことを余儀なくされており,本件犯行の結果はこの点においても重大である。

(3) また,無二の存在を失った他の遺族の悲しみも深い。被告人の妻の両親は,焼けただれて顔も判別できないほどに変わり果てた娘や孫と対面した衝撃,妻として被告人を盛り立て,悪口ひとつ言わず,生活費を工面するために借金を申し込むなどして被告人に尽くしてきた娘が,被告人によって殺された理不尽さからの怒り,いつか娘や孫と一緒に暮らすのを楽しみにしていたのにそれが叶わなくなった悲しみなど,悲痛な心情を吐露し,被告人を憎んでも憎み切れないなどと述べ,被告人の妻の妹と共に極刑を望んでいる。

4  放火の態様も悪く,結果は重大である。

(1) 被告人は,妻と二女を殺め,長男,長女を襲ったのみならず,その計画にしたがって,自宅に放火しているが,多量の灯油を木造住宅である自宅1階の床面や階段上に撒き,最後にはストーブの火に直接灯油を掛けて引火させており,短時間で自宅が全焼する危険が高かったものである。本件現場が住宅密集地にあり,隣家との距離は7メートル程度しかないから,隣家に延焼する危険も相当高かったもので,その点でも悪質である。

(2) 本件犯行により,自宅は約23平方メートルにわたって焼損し,長男や長女が生活の基盤を失うに至っている。また,迅速な消火活動が効を奏し,幸いにして延焼は免れたものの,近隣住民を多大の恐怖と不安に陥らせており,結果は重大である。

(3) 近隣住民は,平穏な日常の朝,突然炎と煙を目の当たりにし,自宅を失ったり,巻き込まれて家族が怪我をするのではないかとの恐怖に怯えるなどの精神的苦痛を受けるなど深刻な影響を受けていて,被告人に対し,一様に厳しい処罰を望んでいる。

5  以上のとおり,本件は,被告人が長期間仕事もせずに借金を重ねた挙げ句,そのことが家族に露見するのをおそれたという身勝手かつ自己中心的な動機に基づき,安易に一家心中及び放火を思いついたもので経緯に酌むべき事情がないこと,計画通りに次々と家族を襲い,放火にまで及んだ凄惨なものであり,妻や未だ14歳の愛娘をネクタイで絞殺し,更に長男や長女を刃物で殺害しようとして何度も突き刺した犯行態様は非情,残虐で,何の罪もない2人の命を奪い,2人の子供に重傷を負わせた結果は誠に重大であり,亡くなった妻と二女の無念さ,残された家族の悲しみ,苦悩,妻の両親らが峻烈な処罰感情を示していること,その上放火にも及んで近隣住民にも衝撃を与えたことなどの事情に鑑みると,家庭内の殺傷事件としても類稀な悪質事犯であり,極刑をもって臨むことも考慮される事案である。

第3無期懲役刑を相当とする量刑事情

そこで,さらに,他の事情について考察する。

1  被告人は,犯行前には自堕落に借金を重ねる生活をしていたものの,家族から敬愛され,粗暴な態度行動をとっていたとは窺われないから,本件は被告人が一時的に思い詰めて行った犯行と認められる。

2  被告人は,前科前歴が全くなく,これまでの経歴や生活態度を見ても,犯罪を繰り返すような顕著な反社会性は認められない。

3  幸い,長男及び長女に対する殺害は未遂に止まっており,両名の負傷被害に対する補償として,共済保険から共済金の給付が見込まれる状況にある。

4  長女は入院当初から被告人の姉家族の支援を受け,現在では一人で歩けるまでに回復し,生活保護を受けて一人暮らしを始めており,今後とも,長女に対する被告人の姉らによる支援が期待できる。

5  被告人の長男が,「私は,父を憎んでいるのかどうか自分でも分かりません。こんな事件を起こしてしまっても私のお父さんに変わりはないからであります。」と供述し,被告人の長女は,懊悩し,葛藤しながらも出廷し,「これ以上,私の家族が一人でも欠けてしまうのは耐えられません。これ以上の苦しみを味わいたいとは思っておりません。父には,生きて罪を償ってほしいと強く思います。」などと述べているところ,残された姉弟が父親までも失うことになれば,同人らの心に一層深く大きな傷を増やすことになりかねない。

6  現在,被告人は,自らの生活や考えが間違っていたことを認識し,妻及び二女の冥福を祈り,長男及び長女に与えた衝撃の大きさを悔やみ反省する日々を送っている。

7  被告人の姉らは,被告人の血縁者としての責任を感じて,本件後,葬儀等に赴くなどして,亡くなった2人を弔っている。

8  以上の事情を総合すると,被告人に対しては,無期懲役刑に処して浅慮で身勝手な考えにより短絡的に敢行した罪の重大性,その罪がもたらした悲惨な結果に真正面から向かい合わせ,終生に亘って妻及び二女の冥福を祈らせ,贖罪に努めさせるのが相当であると思料する。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑 無期懲役,牛刀の刃及び柄,ペティナイフ没収)

(裁判長裁判官 山内昭善 裁判官 小池健治 裁判官 佐藤彩香)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例