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仙台地方裁判所 平成20年(ワ)1109号 判決 2008年11月25日

主文

1  原告は,被告の有する別紙1物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権について競売を申し立てることができる。

2  被告は,原告に対し,金180万7750円及びこれに対する平成20年3月28日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は,被告の負担とする。

4  この判決は第2項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

主文同旨

第2事案の概要

1  事案の概要

本件は,原告から,被告に対して,被告が建物区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)6条に反し,建物の管理又は使用に関して区分所有者の共同の利益に反する行為(その具体的態様は別紙2記載のとおり,以下「本件行為」という。)をし,かつ将来も同種の行為に及ぶ危険が高いとして,被告の有する別紙1物件目録記載の区分所有権及び敷地利用権(以下「本件区分所有権等」と総称する。)の競売を求めるとともに,別紙「管理費等・水道使用料一覧表(以下「別紙3」という。)」記載の金員が未払いであるとしてその支払いを求めているという事案である。

2  当事者間に争いがないか,証拠によって明らかな前提事実

(1)  原告は,平成19年12月19日,区分所有法47条に基づき設立された管理組合法人であり,別紙1物件目録記載の一棟の建物(以下「本件マンション」という。)の表示記載の区分所有建物及び敷地並びに附属施設の管理を行うための団体である(甲1,甲2等)。

(2)  被告は,本件区分所有権等を所有している者である。

3  争点に対する当事者の主張

(1)  原告

① 本件区分所有権等の競売請求について

ア 被告は,別紙2記載のとおり,本件マンションの管理又は使用に関して区分所有者の共同の利益に反する行為をした。被告は今後も同種の行為を行うおそれがある。

イ そのため,本件マンションの区分所有者の共同生活上の障害が著しく,これを除去して本件マンションの区分所有者らの共同生活を維持するためには本件区分所有権等に対する競売請求による以外に有効な方法はない。

ウ そこで,原告は,被告に対して弁明の機会を与えた上,平成20年6月8日開催の原告の臨時総会において,本件行為を事由として被告に対する本件区分所有権等の競売請求を行うことを特別決議により可決した。

② 管理費等の支払請求について

ア 原告の規約24条には,本件マンションの区分所有者は,管理費,修繕積立金,駐車場使用料を原告に対して納入しなければならず,前記金員を当月27日限り口座振替の方法により支払い,期限後は未納額について年5パーセントの遅延損害金を支払うことが定められている。

イ 本件マンションの管理費は月額1万円,修繕積立金月額3000円(但し,平成14年6月から同17年10月までの間は月額6000円),駐車場使用料1区画月額9000円,駐輪・バイク駐車場使用料年間1000円であり,そのほか平成11年12月及び同16年1月には各2500円を配水管洗浄代として支払うべきことが定められた。

ウ また,本件マンションでは,原告が区分所有者の専有部分で使用した水道料金を一括して水道事業者に支払い,各区分所有者はその利用状況に応じて,偶数月の27日に前回後の料金を原告に対して支払うこととされている。

エ 平成11年4月から同20年3月までの間の被告が負担すべき本件マンションの管理費,維持費,修繕積立金及び水道使用料等は,別紙3記載のとおりである。

(2)  被告

① 本件区分所有権等の競売請求について

別紙2の(1),(2)は否認する。同(3)ないし(6)は知らない。

競売請求を認めるわけにはいかない。

② 管理費等の支払請求について

否認もしくは争う。

管理費及び水道料については管理人に対して明細書の提出を求めたが,長年の間一度も支払いを請求されることがなかった。

第3争点に対する裁判所の判断

1  本件区分所有権の競売請求について

原告は,本件行為を原因として,本件区分所有権等の競売請求を求めている。

(1)  そこで,検討すると,本件証拠(甲3の1ないし3,4,12ないし14)及び証人Aの証言並びに弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

① 被告は,ベランダから瓶等を投下したのを本件マンションの他の居住者らに目撃されているほか,平成14年頃からは夜間に他の区分所有者らの玄関ドアを多数回に渡って蹴飛ばしたり,チャイムを鳴らし続けたり,罵声を張り上げたりしたことがあり,本件マンションの管理人はその都度現場に出向いて制止したり注意したりしたが,被告の行動は止まなかった。本件マンションの管理人には,本件マンションの住人のみならず近隣のマンションの住人からも,被告の前記のような行為に対する苦情が複数回にわたって寄せられている。

② 平成15年7月中旬頃,被告方の玄関先で被告と被告方への訪問者との間で騒動となり警察が呼ばれる騒ぎになったが,その後被告方には暴力団関係者と思しき人物が訪れ,怒声を張り上げたり,ドアを激しく殴打するなどしたことがあった。

③ 被告は,平成11年4月以降本件マンションの管理費等を支払っておらず,督促にもかかわらず,その後も管理費等の支払いをしていない。

④ 被告は,平成18年10月中旬,本件マンションの玄関ロビー(エントランスホール)に管理者に無断で絵画を展示し,これを注意したAに対し,同人の首を突く等の暴力を加えて加療約1週間を要する右頸部挫傷の傷害を負わせたほか,同じ頃,本件マンションの被告方に女性を連れ込み,同女に対し「殺してやるよ」などと脅迫してわいせつ行為を行い,その際全治約1週間を要する頸部挫傷の障害を負わせたため,傷害罪及び強制わいせつ致傷の罪でB地方裁判所に起訴され,同19年6月18日懲役3年6か月に処する旨の刑の宣告を受けた。

その後,被告はC刑務所に収容されて服役中である。

⑤ 上記のような経緯から,本件マンションの区分所有者とその家族には被告に対する畏怖困惑を訴える者が増えた。そのような経緯から,原告は,平成20年4月22日付けご通知(ご弁明催告のお知らせ)により,C刑務所で受刑中の被告に対し,区分所有法59条に基づく競売請求を行うことにしたので同年5月12日までに弁明を書面で提出して欲しい旨を通知しようとしたが,被告は同通知の受領を拒絶した。

⑥ 平成20年6月8日,原告の総会において,本件区分所有権等の競売請求を申し立てることが特別決議により可決された。

(2)  これらによれば,被告は,本件マンション内の玄関ロビーでAに対して暴力を振るって怪我をさせたり,本件マンション内の自室に女性を連れ込んで強制わいせつ行為をして負傷させるなどの犯罪行為を犯したばかりか,他の区分所有者らに対して夜間に大声を張り上げるなどの威嚇的行為に出たり,ベランダから瓶等を投下する等の危険行為をしたり,他の区分所有者やその家族らの平穏な生活を妨害する種々の行為に及んでいたものであることが認められる。

これら被告の行為は,他の区分所有者やその家族らの平穏な生活を妨害して生活上著しい障害を及ぼしたものと評価せざるを得ない。また,被告の行為は本件マンションの価値,評判をも低減せしめる危険のある行為であると解されるところ,被告のこれまでの対応等から窺う限り,被告には,自己の行為を真摯に反省したり問題解決のために原告と話し合おうとする姿勢があるとは考えられず,被告が将来同種のトラブルを引き起こす可能性は決してないとはいえない。

しかるところ,区分所有法59条に基づく競売請求を認めることは義務違反者の区分所有権の剥奪という厳しい効果をもたらすものであることに鑑みると,その判断は十分慎重になされるべきであるとしても,本件事情の下では共同生活上の障害を回避するために他に相当な方法があるとは解されないから,競売請求を認めることもやむを得ないものというべきである。

2  管理費等の支払い請求について

甲2(D管理規約及び使用細則24条,57条所定),10,14及び弁論の全趣旨によれば,被告は別紙2記載の管理費等を原告に対して支払わなければならないにもかかわらず,これを履行していないものであることが認められる。したがって,別紙3記載の管理費等の支払請求には,理由がある。

第4結論

以上によれば,原告の請求はいずれも理由があるので認容することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 伊澤文子)

(別紙1及び3は省略)

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