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仙台地方裁判所 平成21年(わ)540号 判決 2010年8月27日

主文

被告人を判示第1の罪について懲役15年に,判示第2及び第3の罪について無期懲役に処する。

理由

(犯罪事実)

【第1事件】

第1被告人は,A,B及びCと共謀の上,Dを殺害しようと計画し,平成11年1月31日午前9時過ぎころ,東京都中野区ab丁目c番d号所在のeハイツ302号室のD方居室内において,就寝中のDに対し,殺意をもって,AがDの顔面,頭部等を鉄パイプで多数回殴り,BがDの頸部をロープで絞め付け,よって,そのころ,その場で,Dを死因不詳により死亡させて殺害したが,平成21年6月5日,宮城県警察司法警察員Eに自首した。

【第2事件】

第2 被告人は,A,F,G,H及びIと共謀の上,Jを営利の目的で誘拐した上,逮捕監禁しようと計画し,

1  平成16年9月3日夕方ころ,東京都武蔵野市fg丁目所在の駐車場において,あらかじめけん銃の取引をするなどと偽って誘い出したJをその場に駐車中の普通乗用自動車(以下「本件車両」という。)に乗車させて発進させ,Jを誘拐し,

2  引き続き,その場から茨城県鉾田市hi番地j所在の別荘に向かい移動する間,本件車両内において,Jの身体を押さえ付け,その顔面にガムテープを巻き付けて目隠しし,両手に手錠をかけるなどして逮捕し,そのまま別荘内にJを連行した上,Jを同様に拘束したまま本件車両に再度乗車させて,仙台市k区l地内の山林(以下「本件山林」という。)まで連行し,同月4日午前11時30分ころ,その場で,本件車両から降車させるまでの間,その車内等から脱出することを不能にし,

もってJを営利の目的で誘拐した上,不法に逮捕監禁した。

第3 被告人は,A及びFと共謀の上,Jを殺害して金品を強取しようと計画し,平成16年9月4日午前11時30分ころ,本件山林内において,殺意をもって,Jの頸部をロープで絞め付け,頭部をバールで殴るなどし,そのころ,その場で,Jを死因不詳により死亡させて殺害し,同日夜から同月6日ころまでの間,同市m区no丁目p番q号所在のr802号のJ方において,その場に設置された金庫内からJ所有の現金約5千万円及び預金通帳数通を強取した。

(確定裁判)

1  事実(判示第1の罪につき)

平成13年2月22日鳥取地方裁判所米子支部宣告

覚せい剤取締法違反幇助,関税法違反幇助罪により懲役5年及び罰金30万円

平成13年2月28日確定

2  事実(判示第2及び第3の罪につき)

平成19年10月9日前橋地方裁判所宣告

住居侵入,強盗,強盗殺人未遂罪により懲役23年

平成19年10月24日確定

(争点及び争点に対する判断)

1  本件の争点は,第1事件について,被告人による自首が認められるか否かである。

2  自首の成立が否定されるためには,被告人が犯罪事実を申告する前に,捜査機関に犯罪事実が発覚している必要があるところ,証人Kの証言や捜査状況に関する統合捜査報告書によれば,捜査機関は,平成20年10月20日,被告人の実弟であるLから,被告人が自分の兄貴分を殺した旨の供述を得ていること,しかし,同供述によっても殺された人物がDであるとは特定されていないこと,また,上記供述の信用性を担保する客観的な証拠は被告人が自供する以前は存在していないこと,捜査機関も被告人の自供が得られるまで本件に関する捜査を進めておらず,被告人の自供によって捜査が大きく進展していることが認められる。

以上の事実からすれば,被告人が自供する以前は,被告人が被害者を殺害したことについては捜査機関の推測の域を出ない状況にあったと推認されるのであって,本件犯行が捜査機関に発覚していたということはできない。

3  以上より,第1事件については,被告人による自首が成立する。

(量刑の理由)

第1第1事件について

1  本件は,被告人が,暴力団における兄貴分であった被害者に恨みを抱き,所属する犯罪組織の構成員らと共謀の上,被害者の顔面や頭部を鉄パイプで多数回殴るとともに,ロープで首を絞め付けるなどして殺害したという殺人の事案である。

2  検察官が主張するとおり,本件犯行は組織的かつ計画的なものであり,被告人は,自らが中心となって,共犯者に具体的な計画を立てさせるなどして,本件犯行を実行させている。被告人は本件犯行の首謀者であり,その責任は重大である。また,被告人は,個人的な恨みを晴らすために,無関係であった犯罪組織の構成員を引き込み,とりわけ未成年者までも殺人という重大犯罪に巻き込んでおり,この点も大きく非難されるべきである。

また,被告人らは,検察官が主張するように,就寝中の被害者の顔面を鉄パイプで強打し,ロープで首を絞め上げた上,執拗に顔面や頭部等を多数回にわたって殴打し続け,被害者が動かなくなった後も殴打し続けている。その犯行態様は極めて残虐であり,凶悪である。なお,被告人自身は,直接暴行を加えていないものの,制止をしていないこと,自らも暴行を加えるつもりであったことからすれば,被告人が暴行に加わっていないことは,被告人の刑には影響しないというべきである。

このように,本件犯行が組織的かつ計画的になされたものであることや,犯行態様が極めて残虐かつ凶悪であり,被告人が首謀者であることは,被告人の刑を決める上で最も重視すべき事情であるといえる。

なお,弁護人が指摘するように,被害者の被告人に対する言動が本件犯行に至る原因となったことには理解できる部分があるものの,被告人が自ら加入した暴力団組織での上下関係に伴って発生した面もあることや,被告人が暴力団組織から逃げるという選択肢を有していながら,あえて殺害を決意していることからすれば,本件犯行の動機に同情できる面があるとまではいえない。

3  被害者が,苦しみながら殺害されたことや,被害者の遺体が,10年以上もの間,山林に埋められたままで,発見時には白骨化していたことも,検察官の主張するとおりである。この点で,被害者の母親が,被告人に対し,厳しい処罰感情を述べているが,こうした処罰感情は,本件犯行の態様や結果を反映したものであり,これらは既に量刑上重視しているから,刑を決める上で改めて重視することは相当でない。

4  他方,弁護人が主張するように,被告人は,極刑になることも覚悟して事件内容を捜査機関に話し,本件では自首が成立する上,被告人の自供によりその後の捜査が大きく進展している。このように被告人が本件の全容解明に大きく貢献したことは被告人に有利な事情として考慮すべきである。

5  検察官が主張するように,被告人は,本件犯行後も凶悪犯罪を繰り返し,犯罪傾向が進んでいるが,他方,弁護人が主張するように,被告人は,被害者の遺族に対しては謝罪の気持ちを有しており,被害者に対しても,遺棄現場において線香や花を手向けるなど冥福を祈る態度を示していることは,被告人が公判廷において極刑をも受け入れると述べ,また,犯行当時を振り返り,今から思えばばかだったと思うと述べていることとも考え併せると,被告人は本件を後悔していると認められるのであって,更生の可能性もないとはいえない。

6  以上の事情,特に本件犯行が組織的かつ計画的であることやその犯行態様が極めて残虐であり,凶悪であることからすれば,本件犯行は,殺人罪の中でも重大な事案というべきであり,かつ,先に述べた被害結果の重大さや被告人の首謀者としての役割の大きさも考慮すると,被告人に対しては,刑種の選択において,無期懲役刑を選択することとするが,なお,被告人の自首が本件の全容解明に大きく貢献していることに鑑みると,選択した無期懲役刑を減軽して,有期懲役刑の上限である懲役15年に処すことが相当である。

よって,判示第1の罪については,主文の刑に処すこととした。

第2第2事件について

1  本件は,被告人が,所属する犯罪組織の構成員や暴力団組員らと共謀の上,犯罪組織のトップであった被害者を殺して恨みを晴らし,多額の現金や利権を手に入れるため,被害者を誘拐して逮捕監禁した後,殺害して現金や通帳を奪ったという営利誘拐,逮捕監禁,強盗殺人の事案である。

2  検察官が主張するとおり,被告人は,所属する犯罪組織や暴力団の構成員らと共謀して,被害者を殺害してその財産や利権をすべて奪い取るために,あらかじめ綿密に計画を立て,各自の役割分担を決めた上で一連の犯行に及んでおり,本件各犯行は組織的かつ計画的である。また,被告人は,被害者の殺害を最初に発案し,犯罪組織の構成員や暴力団組員らを犯行に誘い込むなどして,自らが中心となって犯行実行へと進んでおり,本件各犯行の首謀者といえる。

被告人らは,検察官の主張するように,被害者に目隠しして身体を拘束し,全裸の状態にして暴行を加えて財産の隠し場所を白状させている。さらに,被告人らは,殺害の場面においても,泣きながら命乞いをする被害者の首にロープをかけて絞め付け,頭部をバールで殴った後,倒れて動かなくなった被害者の首を引き続きロープで絞めながら,再びバールで頭部を殴り付けている。本件各犯行の犯行態様は極めて冷酷であり,かつ残虐である。特に,被告人は,高校の同級生であった被害者を躊躇することなく殺害している。殺害行為の冷酷さは,際立っているといえる。

このように本件各犯行が組織的かつ計画的であること,中でも強盗殺人が極めて冷酷かつ残虐な態様で行われていることからすれば,本件は,同じ犯罪類型の中でも責任の重い事案ということができ,この点は被告人の刑を決めるにあたって最も重視されるべきである。

他方,弁護人の指摘するように,被告人が被害者の言動に対し怒りの感情を抱くに至った経緯には理解できるところもあり,また,被告人が他の構成員らのために犯行を決意した面があったことも認められるが,本件各犯行が被告人の個人的な恨みを晴らし,被害者の財産や利権を奪うという目的でなされたものであることからすれば,結局,上記の経緯等は犯罪組織内部の軋轢の問題にすぎないといえるのであって,上記の経緯等を理由にして犯行動機に同情すべき部分があると考えることはできない。

3  次に,検察官が主張するとおり,被害者は若くして殺害されており,また,殺害されるまで長時間にわたり目隠しをされたまま死の恐怖にさらされたことを考えると,悲痛というほかない。被害者は,5千万円という多額の現金等を奪われた上,現在まで遺体が発見されていない。この点で,被害者の母親が,「犯人に対しては,叶うものなら,息子がうけたと同じ苦しみを味わって死んでもらいたい」と述べ,極刑を求める心情も理解できるが,第1事件で述べたのと同様に,このような処罰感情を改めて重視することはできない。

4  以上の事情,特に本件各犯行の組織性,計画性や強盗殺人の態様の冷酷さ,残虐さからすれば,被告人の刑事責任は極めて重大というべきである。

5  他方,弁護人が主張するように,被告人の自供は,結果として犯罪組織による一連の事件の全容解明に役立っている。また,本件各犯行の計画,実行に当たっては他の共犯者らもそれなりの役割を果たしている。

被告人が被害者の遺族に対しては謝罪の気持ちを述べ,被害者に対しても殺害現場において線香や花を手向けていること,被告人が,公判廷で第1事件で述べたのと同様の言動を取っていることを併せ考えれば,被告人は第1事件と同様,本件各犯行についても後悔していると認められる。そうすると,被告人が本件各犯行の前後にも凶悪犯罪を繰り返すなど犯罪傾向が進んでいることは検察官が主張するとおりであり,被告人がいまだに本件各犯行を正当化するかのような発言をしていることも認められるが,被告人には,自らの犯した罪に向き合い,反省の意味を模索していると評価できる面があり,被告人に更生の余地がないとまではいえない。

そうすると,被告人に対し,究極の刑罰である死刑を選択することには躊躇せざるを得ず,被告人については,刑務所での服役を通じて,被害者への冥福を祈らせるとともに,反省を深めさせることが相当であると考え,判示第2及び第3の罪については主文の刑に処すこととした。

よって,主文のとおり判決する。

(求刑―判示第1の罪について懲役15年,判示第2及び第3の罪について無期懲役)

(裁判長裁判官 鈴木信行 裁判官 宮田祥次 裁判官 吉賀朝哉)

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