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仙台地方裁判所 平成21年(わ)789号 判決 2011年12月20日

主文

被告人を無期懲役に処する。

平成22年3月3日付け起訴状記載の公訴事実につき,被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

第1  被告人は,平成12年6月頃,HからPが同人の夫であるCの殺害を依頼したいと話していたと聞き,その後,Pから直接その依頼をされてこれを引き受けた。その後,被告人は,殺害を実行する仲間として,被告人及びHに加えてM及びGを引き入れ,被告人ら4名とPとの間で,被告人,H,M及びGがCを首吊り自殺したかのように見せかけて殺害し,Pが被保険者をC,受取人をPとする生命保険契約に基づく死亡保険金の支払を受け,被告人ら4名がPから報酬として3000万円を受け取るという計画を立ててその準備を進めた。そして,被告人は,P,H,M及びGと共謀の上,同年8月6日夜,宮城県s郡<以下省略>C方居宅内において,被告人,H,M及びGが,殺意をもって,先端に輪を作ったロープを台所ドアの上部にかけた上,就寝していたC(当時45歳)の身体を抱え上げて台所ドア近くまで運び,そのころ目を覚まして抵抗した同人を押さえ付けて,その首をロープの輪に通した上,その身体を押し下げて首を絞め,よって,そのころ,同所において,同人を窒息により死亡させて殺害した。

第2  被告人は,

1  D,J,K及びLが共謀の上,B(当時30歳位)から金品を得る目的でBを誘拐しようと計画し,平成16年9月3日夕方頃,東京都h市<以下省略>の駐車場において,あらかじめけん銃の取引をするなどと偽って誘い出したBを同所に駐車中の普通乗用自動車の後部座席に乗車させて同車を発進させ,もってBを営利の目的で誘拐し

2  D,J,K及びLが共謀の上,前記1記載の駐車場から茨城県i市<以下省略>所在の別荘家屋に向かい移動する間,前記1記載の車内において,Bの身体を押さえつけ,その顔面にガムテープを巻きつけて目隠しをするなどし,もってBを不法に逮捕し,引き続きBを別荘内に連行した上,Bを前同様に拘束したまま前記車両に再度乗車させて,仙台市d区<以下省略>地内の山林まで連行し,同月4日昼頃,同所において,前記車両から降車させるまでの間,同車内等から脱出することを不可能にし,もってBを不法に監禁し

3  D及びJが共謀の上,Bを殺害して金品を強取しようと計画し,同月4日昼頃,前記2記載の山林内において,殺意をもって,Bの頸部をロープで絞め付け,頭部をバールで殴り,そのころ同所において,Bを死因不詳により死亡させて殺害し,同日夜から同月6日頃までの間,仙台市j区<以下省略>kマンション▲号室B方において,同所に設置された金庫内からB所有の現金約4000万円及び預金通帳数通を強取し

た際,前記各犯行の計画を知りながら,Bにその事実を告げず,同月2日,当時仙台市内に在住していたBを東京に送り出し,Dらが前記各犯行に及んでいる間,Dと電話で連絡を取り合い,自己の乗車した車両で,仙台市j区<以下省略>l墓園から同区m丁目<以下省略>区画先交差点付近まで,Dら及び監禁されているBが乗車する車両を先導し,Bが殺害された旨Dから連絡を受けた後,同月4日夜から同月6日までの間,B方に設置された金庫内からB所有の現金約4000万円及び預金通帳数通を持ち出すなどし,もってDらの前記各犯行を容易にさせてこれらを幇助した(平成23年11月4日宣告の部分判決記載の「罪となるべき事実」と同一である。)。

(証拠の標目) 省略

(判示第2の事実認定に関する補足説明)

平成23年11月4日宣告の部分判決記載の「事実認定の補足説明」と同一であるから,これによる。

(一部無罪の理由)

平成23年10月6日宣告の部分判決記載の「理由」と同一であるから,これによる。

(確定裁判)

1  事実

平成18年12月27日仙台地方裁判所宣告

貸金業の規制等に関する法律違反,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律違反の罪により懲役2年及び罰金200万円(懲役刑につき4年間執行猶予)

平成19年1月11日確定

2  証拠

前科調書(乙6)

(法令の適用)

罰条

判示第1の行為 刑法60条,平成16年法律第156号による改正前の刑法199条(行為時においては同条に,裁判時においてはその改正後の刑法199条に該当するが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による(ただし,刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)。)

判示第2の行為のうち

営利誘拐の幇助の点 刑法62条1項,225条

逮捕監禁の幇助の点 包括して刑法62条1項,平成17年法律第66号附則10条により同法による改正前の刑法220条

強盗殺人の幇助の点 刑法62条1項,240条後段

科刑上一罪の処理 判示第2の各罪につき刑法54条1項前段,10条(これらは包括して1個と認められる行為が3個の罪名に触れる場合であるから,1罪として最も重い強盗殺人の幇助の罪の刑で処断)

刑種の選択

判示第1の罪 無期懲役刑

判示第2の罪 無期懲役刑

法律上の減軽

判示第2の罪 刑法63条,68条2号(ただし,刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においては刑法14条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)

併合罪の処理 刑法45条後段,50条,45条前段,46条2項本文(判示第1の罪の無期懲役刑で処断し,他の刑を科さない。)

訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)

1  殺人(判示第1)について

(1)  本件は,被告人が,被害者の妻及び当時被告人と行動を共にするなどしていた仲間(なお,仲間内ではこの仲間を指して「□□」という名称が用いられていた事実は認められるが,検察官が指摘するように犯罪グループというべき実態を有していたとまでは認められない。)に属する3名と共謀の上,生命保険金を得る目的で,被害者を首吊り自殺に見せかけて殺害したという事案である。

(2)  保険金殺人は現金を得るために人の生命を奪うという利欲性の高い犯罪であり,現実に得る利益も多額であって,かつ,計画性を伴うのが通常であることから,殺人罪の中でも類型的にみて強盗殺人罪に匹敵する悪質な犯罪といえる。

(3)  これを前提に本件殺人の具体的な情状についてみると,被告人らは,被害者を確実に殺害し,かつ,犯行が発覚しないよう,綿密に計画を立て,実行犯らにおいて練習を重ねた上で犯行に及んでおり,本件の2週間前に1度犯行を失敗したにもかかわらず再度実行していることや,実行の際には被害者の激しい抵抗に遭いながらも最後まで犯行を遂行したことを併せ考えると,被告人らは本件殺人の遂行への強い意欲を有していたといえる。そして,被告人らは被害者が首吊り自殺したように見せかけるために,4人がかりで自宅で寝ていた同人を襲い,激しく抵抗する同人を押さえ付けつつ,生きたまま首をロープに吊して同人を殺害したのであり,犯行態様は残酷というほかない。この点に照らすと,被害者の妹が被告人の極刑を望むのも当然といえる。

(4)  また,P(以下「P」という。)を除く被告人ら4名は,被害者とは何の関係もなく,かつ,被害者には殺害されるような落ち度もないのに,専ら巨額の報酬を得る目的で被害者を殺害しているのであって,犯行は極めて利欲的である。そして,被告人は現に報酬3000万円のうち少なくとも500万円という多額の利益を得ている。

(5)  さらに,次の各事情からすれば,実行犯4名の中では被告人が犯行を主導したと評価できる。

ア 被告人は,HからPが被害者の殺害を依頼したいと話していると伝えられると,G及びMに対して,自ら実行グループに加わるよう求めたのみならず,更にGに対しては,前記「□□」と称する仲間のトップであったBから同人も同様の意向である旨を示してもらうなどして積極的な働きかけを行いつつ,両名を本件犯行に引き入れて実行グループを形成している。

イ 被告人はPとの間で実行グループの報酬を3000万円と決定したり,実行グループで話し合った殺害方法の内容をPに伝えて,Pとの間で首吊り自殺したように偽装して被害者を殺害することを決定したり,Pの協力を得て被害者方を下見し,カメラで室内等を撮影し,台所ドアで被害者を殺害することを決めるなど実行グループとPとの間の合意形成を一手に引き受けている。また,被告人は,被害者の首にロープをかけるという失敗の許されない重要な役割を担当していることから,積極性をもって自己の役割を引き受けたと認められるし,本件の2週間前に一度犯行を失敗した際,中止を決定したのも被告人である。これらの事情からすれば,被告人が中心となって犯行を計画立案し,準備がなされたといえる。

ウ 被告人はPから報酬3000万円を受け取って被告人方で保管し,他の実行犯らに報酬を小出しにして分配しており,自身が得た利益は少なくともGやMよりも大きい。また,被告人がBに対して報酬の中から1000万円を渡したことも,もともと被告人が報酬を管理できる立場にあったことを示す事情といえる。

エ なお,弁護人は,被告人がBの了承と指示の下行動していた旨主張する。しかしながら,被告人自身も否定するように,被告人がBに指示されるがままその指示に服従して犯行に及んだという事情は認められないのであり,あえて言うならば,Bの存在は犯行を実現させることへの被告人の意欲を強めさせる要素となったにとどまるといえる。本件にBの関与があったとしても,被告人が犯行を主導したとの評価が変わるものではない。

(6)  以上の事情からすれば,本件殺人は正に典型的な保険金殺人の事案であってその悪質性は高く,態様の残酷さや被告人が実行犯らを主導したことなどを考慮すると,本件殺人についての被告人の刑事責任は極めて重大である。

2  強盗殺人等の幇助(判示第2)について

判示第2の事実及び平成23年11月4日宣告の部分判決記載の「罪となるべき事実に関連する情状に関する事実」を前提として,次のとおり判断する。

(1)  本件は,Dが暴力団関係者その他の共犯者らと共謀の上,被害者を東京に誘い出して営利の目的で誘拐して逮捕監禁し,殺害して現金4000万円等を奪った際,被告人がその犯行計画を知りながら同人にその事実を告げずに同人を東京に送り出し,同人方から現金等を持ち出すなどしてこれらを幇助したという営利誘拐,逮捕監禁,強盗殺人の各幇助の事案である。

(2)  まず,正犯者らによる犯行は周到な計画や役割分担の下に遂行された計画的な犯行といえ,被害者を誘拐して長時間拘束し,木刀で殴って現金の保管場所を話させた後,最終的に首をロープで絞め,頭部をバールで殴って殺害するという犯行態様は極めて冷酷であり残虐である上,被害者の所有する巨額の現金等を奪ったものであるから,その結果も重大である。これらの事情からすれば,正犯者らによる犯行は強盗殺人罪の中でも悪質な方に属するといえる。

(3)  次に,被告人の果たした役割についてみると,まず,正犯者らの犯行計画を知りながら被害者にその事実を告げずに同人を東京に送り出した点は,被告人が正犯者らの犯行を未然に防止できたにもかかわらずあえてそれをしなかったと評価できるものであるから,消極的な不作為というものにとどまらないというべきである。また,他の幇助行為についてみると,いずれもそれ自体をみると正犯者らの犯行に不可欠な行為とまではいえないものの,被告人の行為によって正犯者らの犯行が円滑に行われたことは確かであり,とりわけ現金等の奪取の点については,被告人は形式的には実行行為の一部を分担したともいえるのであるから,重要な役割を果たしたと評価される。そして,被告人は正犯者らの犯行について,その前後を通じて全般的に関わっており,被告人の幇助行為を全体としてみると,正犯者らの犯行を容易にした程度は高いといえる。

したがって,本件は従犯の中では責任の重い方に属するといえるのであり,前記のとおり正犯者らの犯行が強盗殺人罪の中でも悪質な方に属することからすれば,本件強盗殺人等の幇助についての被告人の刑事責任は重い。

3  併合事件全体に関する情状について

併合事件全体に関する情状としては,被告人が過去に仲間らとともに本件の2件を含む様々な犯罪行為をくり返してきたことを考慮した。なお,被告人は公判廷で反省の言葉を述べているものの,真摯に反省していることをうかがわせるような具体的な事情は見当たらないことから,この点は量刑上考慮しなかった。

4  結論

以上の事情を総合的に考慮すると,被告人の刑事責任は,殺人罪のみでも無期懲役刑に相当し,一方,強盗殺人等の幇助罪については,正犯の責任との関係に照らすとそれ自体は有期懲役刑に相当するといえるから,本件全体としては被告人を無期懲役に処するのが相当であると判断する。

(検察官保坂直樹,同鴫谷学,同福岡文恵,主任弁護人杉山茂雅,弁護人小幡佳緒里,同高橋善由記各出席)

(求刑―無期懲役)

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