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仙台地方裁判所 平成21年(行ウ)16号 判決 2012年6月26日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,宮城県選挙管理委員会の委員,宮城県教育委員会の委員,宮城県労働委員会の委員(ただし,特別調整委員及びあっせん委員を除く。)及び宮城県収用委員会の委員(ただし,予備委員,あっせん委員及び仲裁委員を除く。)に対し,別紙報酬額目録記載の月額報酬を支出してはならない。

第2事案の概要等

1  事案の概要

本件は,地方公務員法3条3項2号所定の特別職である宮城県選挙管理委員会(以下「県選挙管理委員会」という。),宮城県教育委員会(以下「県教育委員会」という。),宮城県労働委員会(以下「県労働委員会」という。)及び宮城県収用委員会(以下「県収用委員会」といい,上記各委員会を総称して「本件各委員会」という。)の各委員(ただし,県労働委員会の委員については,特別調整委員及びあっせん委員を除き,県収用委員会の委員については,予備委員,あっせん委員及び仲裁委員を除く。以下「本件各委員」という。)の報酬を月額で支払う旨を定めた宮城県の「特別職の職員の給与並びに旅費及び費用弁償に関する条例」(宮城県昭和26年条例第1号。以下「本件条例」という。)7条1項が地方自治法203条の2第2項に違反して無効であると主張して,同法242条の2第1項1号に基づき,原告が,被告に対し,本件各委員に対する本件条例に基づく月額報酬の支払を差し止めることを求めた住民訴訟である。

2  関係法令等の定め

(1)  地方自治法(以下「法」という。)

ア 執行機関として法律の定めるところにより普通地方公共団体に置かなければならない委員会及び委員は,以下のとおりである(法180条の5第1項)。

(ア) 教育委員会(1号)

(イ) 選挙管理委員会(2号)

(ウ) 人事委員会又は人事委員会を置かない普通地方公共団体にあっては公平委員会(3号)

(エ) 監査委員(4号)

イ 前項(上記ア)に掲げるもののほか,執行機関として法律の定めるところにより都道府県に置かなければならない委員会は,次のとおりである(法180条の5第2項)。

(ア) 公安委員会(1号)

(イ) 労働委員会(2号)

(ウ) 収用委員会(3号)

(エ) 海区漁業調整委員会(4号)

(オ) 内水面漁場管理委員会(5号)

ウ 普通地方公共団体の委員会の委員又は委員は,法律に特別の定めのあるものを除く外,非常勤とする(法180条5項)。

エ 普通地方公共団体は,その委員会の委員,非常勤の監査委員その他の委員,自治紛争処理委員,審査会,審議会及び調査会等の委員その他の構成員,専門委員,投票管理者,開票管理者,選挙長,投票立会人,開票立会人及び選挙立会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。)に対し,報酬を支給しなければならない(法203条の2第1項)。

オ 前項(上記エ)の職員に対する報酬は,その勤務日数に応じてこれを支給する。ただし,条例で特別の定めをした場合は,この限りでない(法203条の2第2項)。

カ 報酬及び費用弁償の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなければならない(法203条の2第4項)。

(2)  本件条例

ア 別表第1監査委員の項から内水面漁場管理委員会の項までに掲げる特別職の職員(識見を有する者のうちから選任された監査委員で常勤であるものを除く。以下「委員等」という。)の受ける報酬は,その者に対応する同表の給与額欄に掲げる額とする(本件条例7条1項)。

なお,本件に関係する別表第1の部分は以下のとおりである。

file_2.jpgHoo in TB E HE Woo oBH E SREH mt HS Woo oBH E HEeM% Woo oBH E HeeHm Woo oBH E Wess SuEae Woo Gwe E 4S Woo owBH E HE Woo Gwe E aaz Woo owBH E HE Woo Gwe Wate aaz KBoOGsイ 職員であって委員等になった者には,法令に別段の定めがない限り,報酬は支給しない(本件条例7条2項)。

ウ 委員等の報酬が月額をもって定められている場合は,新たに委員等になった者には,その日から報酬を支給し,退職,罷免又は死亡により委員等でなくなったときは,その日まで報酬を支給する(本件条例8条1項)。

エ 選挙管理委員が選挙管理委員会の委員長に就任し,又は委員長を退任する場合等の事由により報酬額に異動を生じた者は,その日から新たに定められた報酬を支給する(本件条例8条2項)。

オ 前2項(上記ウ及びエ)の規定により報酬を支給する場合であって,月の初日から支給するとき以外のとき又は月の末日まで支給するとき以外のときは,その報酬額は,その月の現日数から日曜日の日数を差し引いた日数を基礎として日割によって計算する(本件条例8条3項)。

カ 報酬額が月額をもって定められている委員等であって一月のうちに勤務した日がない場合には,当該月の報酬は支給しない(本件条例8条の2)。

キ 委員等の報酬額が月額をもって定められている場合の報酬の支給については,職員の給料支給の例による(本件条例9条)。

3  前提事実

以下の事実は,当事者間に争いがないか,括弧書きで摘示した証拠及び弁論の全趣旨により認めることができる。

(1)  当事者

ア 原告は,地方行財政の不正を監視,是正すること等を目的として結成され,宮城県民を構成員とした権利能力なき社団である(弁論の全趣旨)。

イ 被告は,宮城県の長(知事)であり,法242条の2第1項1号の執行機関である(争いがない。)。

ウ 本件各委員は,いずれも非常勤職員であり,地方公務員法3条3項2号が規定する特別職の地方公務員である(争いがない。)。

(2)  本件各委員会の委員等に対する報酬

被告は,法203条の2第2項ただし書の規定に基づいて本件条例を定めており,本件条例は,本件各委員の報酬について,上記2(2)アのとおり,月額をもって支給する旨の規定を定めている(以下「本件規定」という。)。

(3)  住民監査請求

ア 原告は,平成21年5月15日,宮城県監査委員に対し,法242条1項に基づき,県選挙管理委員会,宮城県公安委員会,県教育委員会,宮城県人事委員会,県労働委員会,県収用委員会,宮城県海区漁業調整委員会及び宮城県内水面漁場管理委員会の各委員に対する月額報酬の支払について,本件条例7条1項が法203条の2第2項に違反し,無効であるとして,本件各委員に対して月額で報酬を支払うことを止め,勤務日数に応じた報酬を支給することを被告に勧告することを求める住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)を行った(甲2)。

イ 宮城県監査委員は,平成21年6月19日,本件監査請求が,本件条例の改正を求めるものであり,監査委員にその監査実施権限はないとして,本件監査請求を却下する旨の決定をし,同決定の通知は,同日頃,原告に送達された(甲3)。

(4)  本件訴訟の提起

原告は,平成21年7月17日,仙台地方裁判所に対して,本件訴えを提起した(顕著な事実)。

4  争点

(1)  本案前の争点

ア 本件訴えが適法な監査請求を経ていないものとして不適法な訴えであるか(争点1)。

イ 本件訴えが住民訴訟の対象とならない事項を対象とするものとして不適法な訴えであるか(争点2)。

(2)  本案に係る争点

本件規定が,法203条の2第2項の趣旨に反するものであり,県議会の裁量権を逸脱・濫用したものとして違法,無効となるか(争点3)。

5  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(本件訴えが適法な監査請求を経ていないものとして不適法な訴えであるか)について

ア 原告の主張

本件監査請求は,宮城県の労働委員会,収用委員会,選挙管理委員会,公安委員会,教育委員会,人事委員会,海区漁業調整委員会及び内水面漁場管理委員会の各委員の勤務実態に照らして,上記各委員に対して勤務日数に応じた報酬制度によらず,月額をもって報酬を支給することが,法203条の2第2項に違背する違法な財務会計行為であるとして,その差止めを求めるものであるから,本件条例の改廃を求めるものではなく,監査請求は適法なものであった。

イ 被告の主張

本件監査請求は,本件条例の改廃を求めるものであって,県監査委員が監査対象とすることができないものを請求したものであるから,不適法な住民監査請求である。

したがって,本件訴えは,適法な住民監査請求を経たものということができず,本件訴えは不適法である。

(2)  争点2(本件訴えが住民訴訟の対象とならない事項を対象とするものとして不適法な訴えであるか)について

ア 原告の主張

本件訴えは,本件各委員の勤務実態に照らして,本件各委員に対する報酬を勤務日数に応じた報酬制度によらず,月額をもって支給することが,法203条の2第2項に違背する違法な財務会計行為であるとして,その差止めを求めるものであって,本件条例の改廃を求めるものではない。

したがって,本件訴えは,具体的な財務会計行為の差止めを求めるものであって,住民訴訟として適法な訴えである。

イ 被告の主張

住民訴訟は,違法な財務会計行為を対象として提起することができるものであり,財務会計行為及びその違法性が個別具体的に特定される必要がある。しかしながら,本件訴えは,本件各委員に対する報酬支給の差止めを求めるものではあるものの,原告が主張する事由は,本件条例が違法・無効であるというものであることからすれば,原告は,本件条例の改廃を求めて本件訴えを提起したものと同義である。

したがって,本件条例の改廃を求める本件訴えは,法242条の2第1項に規定する住民訴訟の対象とはならない事項を対象とするものとして不適法な訴えである。

(3)  争点3(本件規定が,法203条の2第2項の趣旨に反するものであり,県議会の裁量権を逸脱・濫用したものとして違法,無効となるか)について

ア 原告の主張

(ア) 法203条の2第2項の趣旨等

a 法203条の2第2項は,その本文において,非常勤の職員に対する報酬について,生活給としての性格を有せず,純然たる勤務に対する反対給付としての性格のみを有することから,勤務日数に応じて報酬を支給すべきであるとして勤務日数に応じて報酬を支給する制度を原則と捉え,それ以外の報酬制度を例外的な制度と捉えている。

上記法203条の2第2項の趣旨に照らせば,非常勤職員に対する報酬制度について,日額報酬制以外の例外的制度を採用することができる場合は,勤務実態がほとんど常勤職員と異ならないことから,常勤職員と同様に月額により報酬を支給することが合理的な場合に限られるというべきである。

b 仮に法203条の2第2項ただし書に基づいて,勤務日数によらないとの「特別の定め」をすることができる場合が,上記aに限られないとしても,非常勤の行政委員の報酬制度については,当該非常勤職員の職務の性質,内容,職責や勤務の態様,負担等の諸般の事情を総合考慮して,当該規定の内容が,法203条の2第2項の趣旨に照らし,合理性の観点から裁量権の逸脱・濫用の審査を行う必要がある。

そして,法203条の2第2項は,上述したとおり,日額報酬制を原則とし,それ以外の報酬制を例外的制度と捉えていること,同項に基づく報酬が勤務に対する反対給付としての性格のみを有していることに加え,法2条14項(地方公共団体は,その事務を処理するに当たっては,最少の経費で最大の効果を上げるようにしなければならない。)及び地方財政法4条1項(地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて,これを支出してはならない。)の趣旨にも照らせば,月額報酬制を採用する場合において,当該条例の裁量審査は厳格な基準により判断されることが要求されているというべきであって,本件各委員の勤務実態等が月額報酬制に見合うものでない場合には,月額報酬制は議会の裁量権を逸脱・濫用したものとして違法であるというべきである。

(イ) 本件各委員の勤務実態等

本件各委員の1か月の平均登庁日数は本件各委員会の委員長などの一部の委員を除けば概ね2日前後にすぎず,委員長についても5日前後にすぎない。また,本件各委員について,登庁日以外の負担(プライベートな時間を割いての会議資料の検討等)が大きいものであるとはいうことができず,こと報酬を決するという点においては,本件各委員の形式的な登庁日数のみをもってその勤務実質を評価することが十分に可能なものである。

本件各委員の上記勤務実態に照らせば,本件各委員の勤務実態は,およそ常勤職員と異ならない状況にあるとはいえない上,登庁日以外において会議資料の検討等を行っていることを考慮しても,月額報酬制に見合うものであるということはできない。

本件各委員の1日当たりの報酬額は,最も低い者で4万5905円(国の非常勤委員に対する報酬額の上限額〔3万5300円〕の約1.3倍)であり,最も高い者で20万2000円(国の非常勤委員に対する報酬額の上限額の約5.72倍)にも上っており,およそ現在の月額報酬制が合理的な制度であるということはできない。

さらに,宮城県の財政状況という点を見ても,宮城県の財政状況は平成16年度から危機的な状況にあり,職員の給与削減などの対応策が執られるなどしているものの,財政再建の抜本的解決はいまだ図られていない状況にある。これに加えて,平成23年3月11日に発生したいわゆる東日本大震災によって生じた甚大な被害に対する復興事業費にも多額の予算が必要となっているにもかかわらず,国からの財政支援は期待できない状態であり,公金の無駄な支出は一切許されない状況にある。

加えて,本件各委員について,人材確保の要請があるとしても,被告においては,人材確保の要請と報酬制度とは無関係なものであるから,報酬制度を考えるに当たってこれを考慮すべきではない。

以上に照らせば,本件規定は,法203条の2第2項の趣旨に照らして著しく不合理なものであって,この状態は少なくとも平成19年以降継続しているにもかかわらず,県議会において何ら改正に向けた検討がされておらず,上記違法状態の是正又はその検討に必要かつ相当な期間が既に経過したというべきである。

したがって,本件規定は,県議会の裁量権の範囲を逸脱・濫用するものとして,違法,無効である。

イ 被告の主張

(ア) 本件規定は,地方公共団体の自主的な判断として,条例制定に関して広範な裁量権を有する県民の代表である県議会において議決を受けて制定されたものである。そして,以下に述べる事情に照らせば,本件各委員の報酬について,月額をもって支給することは法203条の2第2項の趣旨に反するものではなく,本件規定は,県議会の裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであるということはできない。

(イ) 本件各委員会は,いずれも法に基づき執行機関として都道府県に設置しなければならない行政委員会であり,それぞれが独自の執行権限を有し,担当事務について自らの判断と責任において,誠実に管理し,執行する義務を負う。

そして,執行機関相互は,県知事も含め,その権限の範囲内において,それぞれ独立した関係にあるとされ,本件各委員会は,法律の定めるところにより,法令又は条例若しくは規則に違反しない限りにおいて,その権限に属する事務に関し規則そのほかの規程を定めることもできる。また,本件各委員は,普通地方公共団体の執行機関として,事務局に対する指揮を行うとともに,重要かつ多様な職務権限を有しているとともに,その任期中において,その職責や身分に伴う特別の制限を常に課されている。さらに,本件各委員には,高度な専門性が求められることから,各分野において培われてきた高い識見を有する者に対して就任を依頼しており,その選任手続は,県民の意思を反映した手続を経て選任されているものである。

加えて,本件各委員は行政委員としての職責を果たすために,委員会が開催される日以外のプライベートな時間においても時間的拘束がある。すなわち,本件各委員は,プライベートな時間を割いて事前・事後の調査・研究や,事務局との調整,日々の情報収集,自己研さんを行っているほか,行政委員の立場にある委員個人としても様々な活動を行っている。

(ウ) 上記各事情に照らすと,本件各委員について,形式的登庁日数のみをもっては正しくその勤務実態を評価することができないのであり,本件各委員の職務内容,職務上の義務及び地位等に照らせば,その職務及び責任に対する対価として,月額をもって報酬を支給することが不合理であるということはできない。

したがって,本件規定は,県議会の裁量の範囲を逸脱し,又は濫用するものであるということはできない。

第3当裁判所の判断

1  争点1(本件訴えが適法な監査請求を経ていない不適法な訴えであるか)について

(1)  証拠(甲2)によれば,原告は,本件監査請求において,要旨,「県選挙管理委員会等の給与について,月額をもって報酬を支給すると定めている本件規定は,法203条の2第2項に違反するものとして無効である。すなわち,非常勤職員に対する報酬については,生活給としての性格がなく,勤務に対する反対給付としての性格のみを有することから,法203条の2第2項は,その本文において,勤務量,具体的には勤務日数に応じてこれを支給すべきものと定めているのである。そして,同項ただし書は,勤務実態が常勤職員とほとんど異ならず,常勤職員と同様に報酬を月額又は年額をもって支給することが合理的である場合や,勤務日数の実態を把握することが困難であり,月額等による支給以外に方法がないなどの特別な場合についてのみ,条例の特別な定めにより,報酬を月額又は年額をもって支給することを可能としたものである。しかし,県選挙管理委員会等の委員の勤務実態に照らすと,およそ常勤職員とほとんど異ならない勤務実態があるといえる状況にはなく,むしろ著しく乖離している状態である。上記勤務実態に照らすと,本件規定は,上記法203条の2第2項の趣旨に違反するものとして無効であるというべきであり,本件規定に基づいて,上記委員に月額をもって報酬を支給することは,法203条の2第2項に違反するものとして違法である。」と主張して,県選挙管理委員会等の委員に対して,勤務日数に応じた報酬を支給することの勧告をすることを求めていたことが認められる。

(2)ア  上記事実に照らせば,本件監査請求は,本件規定が法203条の2第2項の趣旨に反する違法,無効なものであるとして,県選挙管理委員会等の委員に対する月額による報酬の支給行為という被告の財務会計上の行為が違法であるとして,監査請求を行ったものであるということができる。

そうすると,本件監査請求は,県選挙委員会等の委員に対する報酬支給行為という個別具体的な財務会計上の行為を対象とするものであって,その違法事由を具体的に指摘したものということができるから,住民監査請求として適法なものであると認められる。

イ  そして,監査委員が適法な住民監査請求を不適法であるとして却下した場合,当該請求をした住民は,適法な住民監査請求を経たものとして,直ちに住民訴訟を提起することができるのであり,その場合における出訴期間は,法242条の2第2項1号に準じ,当該監査請求の却下通知があった日から30日以内であると解するのが相当である(最高裁平成10年(行ツ)第68号平成10年12月18日第三小法廷判決・民集52巻9号2039頁)ところ,本件監査請求が適法なものであることは上述したとおりであり,原告は,本件監査請求の却下通知を受けてから30日以内に本件訴えを提起している(前記前提事実(3)イ,(4))のであるから,本件訴えは,適法な住民監査請求を経たものであるということができる。

ウ  したがって,本件訴えは,適法な住民監査請求を経た訴えである。これに反する被告の主張は採用の限りでない。

2  争点2(本件訴えが住民訴訟の対象とならない事項を対象とするものとして不適法な訴えであるか)について

本件訴えは,本件各委員に対する報酬について,月額報酬制を採用する本件規定が,法203条の2第2項の趣旨に反する違法,無効なものであるとして,被告による本件各委員に対する報酬支給行為の差止めを求めるものである。

とすると,本件訴えは,本件各委員に対する報酬支給という個別具体的な財務会計上の行為の差止めを求めているものであって,本件規定の改廃,すなわち,本件条例の改廃そのものを求めている訴えではない。

したがって,本件訴えは,法242条の2第1項に規定する住民訴訟の対象となるものであり,適法な訴えである。

これに反して被告は,原告が財務会計上の行為の違法を基礎づける事由として条例が法律に違反して無効であると主張することをもって,条例の改廃を求めることと同義であるから,財務会計上の行為を対象とするものではない旨主張する。しかし,原告の本件訴えが財務会計上の行為を対象とすることは明らかであって,むしろ被告の主張によれば,法律違反の条例に基づく客観的に違法な財務会計上の行為を是正することが一切できなくなるのであり,それは法242条の2第1項の趣旨に反するといえるから,採用の限りでない。

3  争点3(本件規定が,法203条の2第2項の趣旨に反するものであり,県議会の裁量権を逸脱・濫用したものとして違法,無効となるか)について

(1)ア  法203条の2第2項ただし書は,普通地方公共団体が条例で日額報酬制以外の報酬制度を定めることができる場合の実体的な要件について何ら規定をしていない。また,委員会の委員を含め,職務の性質,内容や勤務態様が多種多様である普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。以下「非常勤職員」という。)に関し,どのような報酬制度が当該非常勤職員に係る人材確保の必要性等を含む当該普通地方公共団体の実情等に適合するかについては,各普通地方公共団体ごとに,その財政の規模,状況等との権衡の観点を踏まえ,当該非常勤職員の職務の性質,内容,職責や勤務の態様,負担等の諸般の事情の総合考慮による政策的,技術的な見地からの判断を要するものということができる。

イ  このことに加え,証拠(乙1,2)及び弁論の全趣旨によれば,昭和31年法律第147号による改正(以下「昭和31年改正」という。)前の法は,普通地方公共団体の議会の議員,委員会の委員等の普通地方公共団体の非常勤の職員に対しては報酬及び費用弁償を支給し(同法203条1項,2項),普通地方公共団体の常勤の職員に対しては給料及び旅費を支給し(同法204条1項),これらの額及び支給方法については条例で定めることとしていたところ(同法203条3項,204条1項),昭和31年改正において,当初閣議決定を経て国会に提出された法律案(以下「政府案」という。)では,同改正前の法203条1項の次に2項として,単に「前項の職員中議会の議員以外の者に対する報酬は,その勤務日数に応じてこれを支給する。」との規定を新設するというものであったが,衆議院地方行政委員会における政府案についての審議において,いわゆる行政委員会の委員を念頭において上記規定を設けることに反対する趣旨の質問が複数の議員からされるなどし,上記規定に,「但し,条例で特別の定をした場合は,この限りでない。」とのただし書を加える修正案が議員により提出され,上記修正を加えた内容で法の一部を改正する法律案が可決されて成立したこと,その後上記修正後の同条2項の規定は,平成20年法律第69号による改正により,法203条の2第2項として規定されることとなったとの経緯が認められる。

上記昭和31年改正の経緯も併せ考慮すれば,法203条の2第2項は,普通地方公共団体の委員会の委員等の非常勤職員について,その報酬を原則として勤務日数に応じて日額で支給するとする一方で,条例で定めることによりそれ以外の方法もとり得ることとし,その方法及び金額を含む内容に関しては,前記のような事柄について最もよく知り得る立場にある当該普通地方公共団体の議決機関である議会において決定することとして,その決定をこのような議会による前記の諸般の事情を踏まえた政策的,技術的な見地からの裁量権に基づく判断に委ねたものと解するのが相当である。

ウ  したがって,普通地方公共団体の委員会の委員を含む非常勤職員について月額報酬制その他の日額報酬制以外の報酬制度をとる条例の規定が法203条の2第2項に違反し違法,無効となるか否かについては,上記のような議会の裁量権の性質に鑑みると,当該非常勤職員の職務の性質,内容,職責や勤務の態様,負担等の諸般の事情を総合考慮して,当該規定の内容が同項の趣旨に照らした合理性の観点から上記裁量権の範囲を越え又はこれを濫用するものであるか否かによって判断すべきものと解するのが相当である(最高裁平成22年(行ツ)第300号,同年(行ツ)第301号,同年(行ヒ)第308号平成23年12月15日第一小法廷判決・裁判所時報1546号13頁参照)。

エ  これに対して,原告は,法203条の2第2項ただし書は,勤務の実態が常勤職員とほとんど異ならず,常勤職員と同様に報酬を月額ないし年額をもって支給することが合理的である場合や,勤務日数の実態を把握することが困難であり,月額をもって報酬を支給する以外に方法がない場合などの特別な場合に限って,条例により,月額又は年額による報酬支給を可能にしたものであると解すべきである旨主張する。しかし,法203条の3第2項ただし書により日額報酬制と異なる報酬制を条例で定められる場合について,上記の場合に限定されるものと解することができないことは上記アないしウに述べたとおりであり,原告の上記主張は採用の限りでない。

(2)  上記解釈を前提に,本件各委員の職務内容,職責,勤務の実情,負担等について検討する。

ア 県選挙委員の職務の内容及び勤務の実情

前記前提事実,証拠(乙5の1~乙7の12,書面尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 県選挙管理委員会の組織及び委員の職務内容等について

a 選挙管理委員会は,法律又はこれに基づく政令の定めるところにより,当該普通地方公共団体が処理する選挙に関する事務及びこれに関係のある事務を管理する機関である(法186条)。

選挙管理委員会は,民主主義の基盤となる選挙の管理執行について地方公共団体の長から独立した行政委員会たる執行機関として置かれ,委員はその事務を,自らの判断と責任において誠実に管理し,執行する義務を負う(法138条の2)。

b 選挙管理委員会は4名の選挙管理委員によって組織され(法181条2項),その委員の中から1名が選挙により委員長に選出される(法187条1項)。委員長は委員会に関する事務を処理し,委員会を代表する(同条2項)。

委員は,選挙権を有する者で,人格が高潔で,政治及び選挙に関し公正な識見を有するもののうちから,普通地方公共団体の議会による選挙により選任され(法182条1項),その任期は4年である(法183条1項本文)。

なお,委員には,職務の公正な執行を確保するために,同一の政党その他の政治団体に属する者が同時になり得ないという政党制限があるとともに(法182条5項),兼職禁止義務(法182条7項,法193条・141条1項・166条1項),在職中及び退職後の秘密保持義務(法185条の2)が課されており,選挙権を有しなくなった場合などには失職するとされ(法184条1項),委員が職務上の義務等に違反した場合には,当該地方公共団体の議会の議決により罷免されることがある(法184条の2第1項)。

c 県選挙管理委員会が行う職務内容は,衆議院(小選挙区選出)議員,参議院(選挙区選出)議員,都道府県の議会の議員又は都道府県知事の選挙の管理(公職選挙法5条),選挙に関する啓発,周知(同法6条1項),選挙の効力等に関する異議の申出に係る業務(同法202条),条例の制定又は改廃,議会の解散及び長の解職に係る業務(法74条,76条,81条)である。選挙の管理に係る業務としては,主として立候補届出の受理,開票,当選人の決定等に係る各種事務のほか,法令によってその権限とされたその他の選挙に関する事務(海区漁業調整委員会の委員の選挙に関する事務〔漁業法88条〕等)及びこれに関係する事務を管理している。また,選挙管理委員会は,地方公務員法6条1項に基づき,その職員の任命等を行う権限を有している。さらに,選挙管理委員会は,選挙管理委員会の処分又は裁決に係る普通地方公共団体を被告とする訴訟について,普通地方公共団体を代表する(法192条)。

そして,選挙管理委員会は,上記職務を遂行するため,概ね月1回の定例会を開催するほか,必要に応じて臨時会を開催する。

d 県選挙管理委員会には,法に基づき書記長,書記その他の職員が置かれ,それぞれ選挙管理委員会に関する事務に従事している(法191条1項,3項)。

(イ) 勤務の実情等

a 委員は,概ね月1回開催される定例会に出席し,選挙や政治団体等に関連する事項について議決,協議等を行っているほか(乙5の1~乙7の12。なお,委員会は3人以上の委員が出席しなければ開くことができない(法189条1項)),選挙関係業務として,投開票,立候補届出受理,当選証書付与などの業務を行っている(なお,平成19年度には参議院議員選挙が行われている。)。また,定例会以外にも,年1回開催されている都道府県選挙管理委員会連合会北海道・東北地区支会総会にも出席をしている。

委員長は,上記に加えて,県議会,県議会議員選挙委員長・書記長会議への出席があるほか,都道府県選挙管理委員会連合会役員会議,同連合会総会などの全国会議等への出席もある。また,委員長は,海区漁業調整委員会委員選挙の当選証書付与式の開催等も行っている。さらに,啓発関係業務として,明るい選挙推進協議会総会,明るい選挙推進大会,新有権者中央講座への出席や,啓発誌の作成業務などを行っている。

平成19年度及び平成20年度の会議等の開催状況及び各委員の会議等への出席状況は,別紙1-①及び別紙1-②の各出勤日数欄記載のとおりであり,委員長の月平均登庁日数は約4.54日(小数点第3位四捨五入)であり,委員長以外の委員の月平均登庁日数は約1.31(小数点第3位四捨五入)である。

b 委員は,その職務を果たすために,定例会出席に当たっては,事務局より配布された事前資料の検討のほか,公職選挙法令集,宮城県公職選挙関係例規集などの文献の検討を行っており,選挙関連の新聞記事等の朗読・ファイリングなどを行っている委員もいる。また,定例会後には,定例会において審議・報告された内容の整理,確認等を行っている委員もいる。さらに,委員は,県外で開催されるような会議への出席に際しても,会議資料の検討,会議における議題内容・協議内容の検討等を行っている。

また,委員長は,上記に加えて,県議会に出席しているところ,県議会出席に際しては,基本的な法令,選挙を取り巻く情勢などについて確認・勉強を行っているほか,事務局作成の想定問答集の検討を行っている。

さらに,委員としての職責を果たすために,選挙関連の法律(公職選挙法,政治資金規正法等)の勉強,啓発業務の基本的事項の理解や基礎的知識の習得などのための文献等の調査・検討を行っている委員がいる。

イ 県教育委員の職務の内容及び勤務の実情

前記前提事実,証拠(乙8の1~乙9の13,乙31,書面尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 県教育委員会の組織及び委員の職務内容等について

a 教育委員会は,法180条の5第1項1号,地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。)2条に基づき設置される機関である。

教育委員会は,学校その他の教育機関を管理し,学校の組織編成,教育課程,教科書その他の教材の取扱及び教育職員の身分取扱に関する事務を行い,社会教育その他教育,学術及び文化に関する事務を管理し及びこれを執行する機関であり(法180条の8),地方公共団体の長から独立した行政委員会たる執行機関として置かれ,広く教育行政一般にわたり中立的な立場から意思決定を行い,委員はその事務を,自らの判断と責任において,誠実に管理し,執行する義務を負う(法138条の2)。

b 県教育委員会は6名の委員で組織されており(地教行法3条ただし書,教育委員会の委員の定数を定める条例〔宮城県平成12年条例第1号〕),その委員のうちから委員長が1名選任される(地教行法12条1項)。

委員は,当該地方公共団体の長の被選挙権を有する者で,人格が高潔で,教育,学術及び文化に関し識見を有するものののうちから,地方公共団体の長が,議会の同意を得て,任命され(同法4条1項),その任期は4年間である(同法5条1項)。

なお,委員は,その職務の遂行に当たっては,自らが当該地方公共団体の教育行政の運営について負う重要な責任を自覚するとともに,地教行法1条の2に規定する基本理念に則して当該地方公共団体の教育行政の運営が行われるよう意を用いらなければならないとされ(同法11条6項),在職中及び退職後の秘密保持義務(同条1項),政治運動の禁止義務(同条5項),兼職禁止義務(同法6条)を課され,委員が職務上の義務等に違反した場合には,当該地方公共団体の議会の同意を得て罷免されることがある(同法7条1項)。

c 教育委員会は,その所管に属する学校その他の教育機関の設置,管理及び廃止に関する事項(地教行法23条1号),学校その他の教育機関の用に供する財産の管理に関する事項(同条2号),教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関する事項(同条3号),学齢生徒及び学齢児童の就学並びに生徒,児童及び幼児の入学,転学及び退学に関する事項(同条4号),学校の組織編成・教育課程・学習指導・生徒指導及び職業指導に関する事項(同条5号),教科書その他の教材の取扱いに関する事項(同条6号)など地教行法23条1号ないし19号各所定の事務の管理及び執行を行う。また,教育委員会は,点検,評価事務,教育財産の管理(同法27条,28条)等も行うものとされている。さらに,県教育委員会は,市町村立学校職員給与負担法1条及び2条に規定する職員の任命権を有しており(地教行法37条),市町村に対し,市町村の教育に関する事務の適正な処理を図るため,必要な指導,助言又は援助を行うこともできる(同法48条1項,2項)。加えて,教育委員会は,教育委員会若しくはその権限に属する事務の委任を受けた行政庁の処分若しくは裁決又は教育委員会の所管に属する学校その他教育機関の職員の処分若しくは裁決に係る地方公共団体を被告とする抗告訴訟等において,被告を代表する(同法56条)。

そして,教育委員会は,上記職務を遂行するため,定例会を開催しているほか,必要に応じて臨時会を開催する。

d 教育委員会は,その権限に属する事務を処理させるため事務局を置いている(地教行法18条1項)。

(イ) 勤務の実情等

a 委員は,概ね月1回開催される定例会に出席し,職員の人事等教育に関する事項について決議等を行っているほか(乙8の1~乙9の13。なお,委員会は委員長及び在任委員の過半数が出席しなければ開くことができない(地教行法13条2項)),臨時会が開催される場合は,その臨時会に出席している。また,委員は,非公開で行われる教育委員協議会に出席し,教育における問題等について協議を行っており,教育長と課室長及び地方公所長会議等の会議への出席もある。さらに,委員の業務としては,北部ブロック教育委員会協議会,十四都道府県教育委員会協議会などの全国会議等(なお,新選任の委員については,全国都道府県・指定都市新任教育委員研究協議会への出席がある。),教育功績者表彰式,永年勤続者表彰式など各種式典への出席もある。なお,県教育委員会の事務局が,各委員の勤務先等に赴いて,その場所で委員と打合せを行うこともある。

委員長は,上記内容に加えて,県議会への出席,全国都道府県教育委員連合委員長協議会総会,保護司選考委員会,辞令交付式等の会議や式典への出席などがある。

平成19年度及び平成20年度の会議等の開催状況及び各委員の会議等への出席状況は,別紙2-①及び別紙2-②記載のとおりであり,委員長の月平均登庁日数は約5.38日(小数点第3位四捨五入)であり,委員長以外の委員の月平均登庁日数は約1.92日(小数点第3位四捨五入)である。

b 委員は,定例会の出席に際して,事前に事務局から配布された会議資料の分析,検討を行い,不明点等がある場合には事務局への問合せを行ったり,教育関係の資料や文献,新聞等による情報収集,前回議事録の確認等を行っている。また,定例会後に,会議資料を持ち帰り,審議内容の確認・論点整理等を行い,必要に応じて事務局への問い合わせを行っている委員もいる。また,委員は,北部ブロック道県教育委員協議会等の全国会議等への出席に当たっても,会議資料の検討,事務局との打合せ,資料等の収集・検討などを行っている。さらに,委員は,各種式典出席に際しても,事務局との打合せ,あいさつ文作成等の準備をしている。

委員長については,県議会への出席をする場合があるが,その場合には,事前に事務局から配付された回答案に目を通した上で,内容を検討し,回答案と意見が異なるところについては適宜修正を行っている。また,県議会出席後,県議会で取り上げられた事項について,その後の取組などの報告を受け,自宅で検討を行う場合もある。なお,事務局からの委員長に対する議会情報は,土日に連絡がくる場合もある。

ウ 県労働委員会の委員の職務の内容等

前記前提事実,証拠(乙10~乙14の2,32,35,36,書面尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 県労働委員会の組織及び委員の職務内容等について

a 労働委員会は,労働組合法(以下「労組法」という。)19条の12第1項,法180条の5第2項に基づいて設置される機関であり,法律の定めるところにより,労働組合の資格の立証を受け及び証明を行い,並びに不当労働行為に関し調査し,審問し,命令を発し及び和解を勧め,労働争議のあっせん,調停及び仲裁を行い,その他労働関係に関する事務を執行する(法202条の2第3項)。

労働委員会は,地方公共団体の長から独立した行政委員会たる執行機関として置かれ,労組法及び労働関係調整法(以下「労調法」という。)に規定する権限を独立して行使し(労働組合法施行令(以下「労組令」という。)16条),委員はその事務を,自らの判断と責任において,誠実に管理し,執行する義務を負う(法138条の2)。

b 労働委員会は,使用者を代表する者(以下「使用者委員」という。),労働者を代表する者(以下「労働者委員」という。)及び公益を代表する者(以下「公益委員」という。)各同数をもって組織され(労組法19条1項),各委員の数は,宮城県においては,それぞれ5名である(労組法19条の12第2項,労組令25条の2)。

使用者委員は使用者団体の推薦に基づいて,労働者委員は労働組合の推薦に基づいて,公益委員は使用者委員及び労働者委員の同意を得て,それぞれ都道府県知事が任命することとされ(労組法19条の12第3項),その任期は2年間である(同法19条の12第6項,19条の5第1項)。

なお,委員は,禁錮以上の刑に処せられ,その執行を終わるまで,又は執行を受けることがなくなるまでの者に該当するに至った場合は,失職し(同法19条の12第6項,19条の7第1項前段),職務上の義務違反等があった場合には罷免されることがある(同法19条の12第6項,19条の7第2項)。また,委員は,在職中及び退職後の秘密保持義務(同法23条)を負う。

c 労働委員会は,不当労働行為(労組法7条)事件の審査等(同法27条以下)を行い,また,労働争議のあっせん,調停及び仲裁を行う(同法20条)ほか,労働組合の資格審査(同法5条1項),労働協約の拡張適用の決議(同法18条),公益事業等における争議予告の受理(労調法37条),争議行為の発生した旨の届出の受理(労調法9条),公共職業安定所に対する争議の状況の通報(職業安定法20条),地方公営企業に勤務する職員のうち労組法2条1号に規定するものの範囲の認定及び告示(地方公営企業等の労働関係に関する法律5条2項)などの職務を行う。さらに,都道府県労働委員会は,その処分に係る都道府県を被告とする訴訟について,当該都道府県を代表する(労組法27条の23第1項)。

労働委員会は,上記職務を遂行するために,定例総会,公益委員会議等を開催している。

d 労働委員会は,その事務を整理するために事務局を設定し,事務局に会長の同意を得て都道府県知事が任命する事務局長及び必要な職員を置いている(労組法19条の12第6項,19条の11第1項)。

(イ) 勤務の実情等

a 委員は,各自が担当する不当労働行為救済申立事件の調査,審問等を行っているとともに,毎月第1水曜日及び第3木曜日に開催される定例総会に出席し,労働委員会の運営に関する事項について決議を行い,公益委員会議の決定事項について報告を受けるなどしている(乙13の1及び2。なお,労働委員会は,使用者委員,労働者委員及び公益委員の各過半数が出席しなければ会議を開くことができない(労働委員会規則6条1項)。)。

また,公益委員については,公益委員会議に出席し,労働組合の資格審査(労組法5条1項),不当労働行為の調査,審問(同法7条,27条)などについて協議,決議を行っており,公益委員会議は,平成19年度には11回,平成20年度には4回開催されている(乙14の1及び2)。なお,使用者委員及び労働者委員が,担当参与委員として公益委員会議に出席することもある。

上記に加え,委員は,北海道及び東北六県労働委員会連絡協議会春季総会,北海道・東北ブロック労働者委員連絡協議会総会・研究会,北海道及び東北六県労働委員会連絡協議会会長連絡会議(会長のみ)などの全国規模で開催される会議等にも出席している。

平成19年度及び平成20年度の会議等の開催状況及び各委員の会議等への出席状況は,別紙3-①及び別紙3-②記載のとおりであり,委員の月平均登庁日数は約2.38日(小数点第3位四捨五入)である(なお,公益委員の月平均登庁日数は2.91日,労働者委員の月平均登庁日数は2.14日,使用者委員の月平均登庁日数は2.08日(いずれも小数点第3位四捨五入)である。)。

b 委員は,定例総会,北海道及び東北六県労働委員会連絡協議会春季総会など会議への出席に際して,総会資料の検討,協議・議題の検討,事務局との打合せ,他の委員との意見交換,疑問点等の事務局への問合せ,文献・裁判例等の調査・検討等を行っている。また,公益委員は,公益委員会への出席に際して,労働関係の文献の研究,判例・命令集の調査研究,事務局との打合せ,会議内容の確認等の準備を行っており,使用者委員や労働者委員の者も,公益委員会議に出席する際は,準備書面等の資料の読み込み,事務局との打合せ等を行っている。

また,委員は,不当労働行為救済申立事件の処理に当たって,事件記録の精査を行うことはもちろんのこと,関連する文献・裁判例・命令例の調査・研究,事務局・申立人側・各委員間での打合せ等を行っている。

さらに,委員の中には,あっせん委員として事務局との打合せ等を行っている者や,他県の労働委員会による実情調査がある場合には,その対応等を行っている者もいる。なお,弁護士資格を有する委員について,行政訴訟関係業務を担当していた者もおり,期日ごとに相当の時間をかけている。

エ 県収用委員会の委員の職務の内容等

前記前提事実,証拠(乙15~乙20の2,33,書面尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 県収用委員会の組織及び委員の職務内容等について

a 収用委員会は,土地収用法(以下「収用法」という。)51条1項,法180条の5第2項に基づいて設置される機関であり,地方公共団体の長から独立した行政委員会たる執行機関として置かれ,法律の定めるところにより,土地の収用に関する裁決その他の事務を行い(法202条の2第5項),独立してその職権を行う(収用法51条2項)。

収用委員会は,中立的立場から意思決定を行い,委員はその事務を,自らの判断と責任において,誠実に管理し,執行する義務を負う(法138条の2)。

b 収用委員会は,7名の委員により構成され(収用法52条1項),その委員は,法律,経済又は行政に関してすぐれた経験と知識を有し,公共の福祉に関し公正な判断をすることができる者のうちから,都道府県の議会の同意を得て,都道府県知事により任命され(同法52条3項),その任期は3年である(同法53条1項)。

また,収用委員のうちから互選により会長が選任され(同法56条2項),会長は,収用委員会を代表し,議事その他の会務を総理する(同条3項)。

なお,委員は,収用法55条1項各号に該当する事由がなければ,その意に反して罷免されることはない(同条1項柱書)ものの,上記各号に該当するときは,都道府県知事により罷免されるほか(収用法55条2項),上記各号に該当するに至った場合には当然失職する(同条3項)。また,委員は,兼職禁止義務(同法52条4項),在職中及び退職後の秘密保持義務(同法137条)を負っている。

c 収用委員会は,公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関し,起業者からの申請に基づき権利取得裁決,明渡裁決を行うほか(同法39条以下),あっせん委員の推薦(同法15条の3),仲裁委員の推薦(同法15条の8),測量,事業の廃止等により生ずる損失の補償に関する裁決(同法94条),協議の確認及び確認の拒否(同法116条以下),非常災害の際の土地の使用による補償に関する裁決(同法124条)などの職務を行う。

また,収用委員会は,収用委員会の処分又は収用法64条の規定により会長若しくは同法60条の2第2項に規定する指名委員がする処分に係る都道府県を被告とする抗告訴訟等において,当該都道府県を代表する(同法58条の2)。

そして,収用委員会は,その職務を遂行するために収用委員会の会議を開催している(なお,会長及び3人以上の委員が出席しなければ会議を開き,又は議決をすることができない(同法60条2項)。)。

d 収用委員会は,事務の整理をさせるため,必要な職員を置くとされており(収用法58条1項),県収用委員会においても,事務局が設置されている。

(イ) 勤務の実情等

a 収用委員会の会議は,平成19年度及び平成20年度に各21回開催されており,委員は,同会議に出席し,収用事件の審理,東北・北海道ブロック会議の研究議題の協議等を行っているほか(乙16の1及び2,乙20の1及び2),全国収用委員会連絡協議会定例総会(乙17の1及び2),全国土地収用研究会(乙18の1~4),全国収用委員会連絡協議会東北・北海道ブロック会議(乙19の1及び2)に出席している。

平成19年度及び平成20年度における会議等の開催状況及び各委員の会議等への出席状況は,別紙4-①及び4-②各記載のとおりであり,平成19年度及び平成20年度の委員の月平均勤務日数は1.74日(小数点第3位四捨五入)である。

収用事件数については,平成19年度には収用裁決申請事件及び明渡裁決申請件数が各1件あり,平成20年度には収用裁決申請事件及び明渡裁決申請件数が各2件(ただし,裁決手続において,それぞれ1件に併合)ある。

b 委員は,委員としての職務を果たすために,委員会ごとに,事務局が作成した会議資料の検討,記録文書,収用法関連の文献,関連法令・裁判例等の調査・検討などを行っている。また,委員会後に会議資料の整理等を行っている委員もいる。

また,全国土地収用研究会等の全国会議に出席するに際しても,委員は,会議資料,収用法関係の文献・裁判例の検討のほか,用地補償事例集の検討などを行い,会議後は,収用委員会への報告のための報告書作成等を行っている。これに加えて,会議出席に際して,事前に事務局との打合せを行っている者もいる。

オ 宮城県の財政状況等

証拠(甲8,18~25,32~34)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(ア) 宮城県の平成23年度一般会計予算について,当初予算は約8400億円とされていたものの,平成23年3月11日に発生した東日本大震災による復興等の予算として,仮設住宅などの災害救助経費として国庫支出金が大幅に増加し,災害復旧事業のために県債も大幅に増加したことから,同年9月の現計においては1兆8515億円となっている(甲33)。宮城県の県債残高は,平成22年度時点において,1兆5012億円(うち約3000億円が臨時財政対策債である。)である(甲33)。

(イ) 宮城県は,平成11年の財政危機宣言以降,厳しい財政運営を強いられており,平成21年度までにおいても,事務事業の見直し,人件費削減(給与削減,職員数の削減,給与構造改革)等の取組を行ってきた(甲18~23,32)。

(ウ) 平成22年2月の段階において,平成22年度から平成25年度までの4年間に800億円から1300億円もの財源不足の発生が見込まれたことから,宮城県は,第3期財政再建推進プログラムを策定し,歳入確保対策(県債の活用,各種基金の活用,県有資産の有効活用,他会計資金の活用,受益者負担の見直し)・歳出抑制対策(人件費総額の抑制,事務事業の見直し,特別会計繰出金の見直し,公債費負担の平準化,将来的な財政負担の縮減)に取り組むこととし,これにより平成25年度までの4年間で約1300億円の財源不足を埋めることができる見通しとされていた(なお,他方で上記プログラム実施後も平成25年に約130億円の財源不足の発生が見込まれている。甲32,33)。

しかし,平成23年3月11日に発生したいわゆる東日本大震災による甚大な被害が発生したことにより,上記プログラムの前提が大きく変動したことから,復旧・復興事業費の精査,国の財政支援措置状況を見極めるなど早急の見通しを立てる必要性に迫られている状況にある。東日本大震災による被害の復興事業費としては,合計約13兆円が見込まれており,上記事業費のうち,宮城県が実質的に負担する額は2.1兆円(県債1.6兆円,一般財源0.5兆円程度)が見込まれ,各年に約1500億円の県債発行を行うことが想定されている(甲33)。

(3)  以上に認定した本件各委員の職務の性質,内容,勤務の負担・実情のほか,宮城県の財政状況等に照らし,本件条例7条1項の本件規定が,議会の裁量権を逸脱・濫用するものとして違法無効となるかどうかについて検討する。

ア まず,県選挙管理委員会,県教育委員会,県労働委員会及び県収用委員会のいわゆる行政委員会は,いずれも独自の執行権限を有し,その担任する事務の管理及び執行に当たって自ら判断・決定し,これを表示・執行し得る執行機関であり(法138条の3,138条の4,180条の5第1項・2項),その業務に則した公正中立性,専門性等の要請から,普通地方公共団体の長から独立して,その事務を自らの判断と責任において管理し執行する立場にあり(法138条の2),その担任する事務について訴訟が提起された場合には,その長に代わって普通地方公共団体を代表して訴訟追行をする権限を有する(法192条,地教行法56条,労組法27条の23第1項,収用法58条の2)など,その事務について最終的な責任を負う立場にある。

また,その委員の資格についても,一定の水準の知識経験や資質等を確保するための法定の基準(法182条1項,地教行法4条1項,収用法52条3項)又は手続(法182条1項,地教行法4条1項,労組法19条の12第3項,収用法52条3項)が定められていることや,本件各委員の職責は,いずれも民主主義の基盤たる選挙制度や地方自治行政の公正かつ適正な運営・執行を支える重要なものであって,前記(2)アないしエに認定したとおり,各種の義務や制約を課される立場にあることに照らせば,その業務に堪え得る一定の水準の適性を備えた人材の一定数の確保が必要というべきであり,その報酬制度の内容いかんによっては,当該普通地方公共団体におけるその確保に相応の困難が生ずるという事情があることも否定し難いところである。そして,本件各員会の業務は,前記(2)アないしエに認定したとおり,県選挙管理委員会については,国会及び県議会の議員並びに県知事の選挙の管理等の業務,県教育委員会については,教育機関の設置,管理及び廃止等の業務,県労働委員会については,不当労働行為事件の審査等の業務,県収用委員会については,公共の利益となる事業に必要な土地等の収用又は使用に関する裁決等の業務といった,いずれも広範で多岐にわたる業務であり,公正中立性に加えて一定の専門性が求められるものということができる。

イ 次に,勤務の態様,負担等について,本件各委員は,概ね1か月に1日から5日程度登庁しているにとどまるものであることは前記(2)アないしエに認定したとおりであるものの,他方で,本件各委員が,いずれも定例会等の会議出席に際して,事前配布資料の検討,会議に関連する文献等の調査・検討,事務局との打合せ等を登庁日以外の日において行っていることは前記(2)アないしエに認定したとおりであり,本件各委員が,広範で多岐にわたる一連の業務について執行権者として決定をするために,各般の決裁文書や資料の検討等のため登庁日以外にも相応の実質的な勤務を行うことは,制度上予定されているものであるといえるとともに,実際にも本件各委員によって行われているところである。また,県選挙管理委員会においては,選挙期間中における緊急事態への対応に加えて,衆議院や県議会の解散等による不定期な選挙への対応も随時必要となり,県選挙管理委員会,県労働委員会及び県収用委員会においては,それぞれ選挙の効力に関する異議の申出,不当労働行為救済の申立て,権利取得裁決・明渡裁決の申立て等の審理や判断のための準備を行うために,登庁日以外の日にも事件関係の書類・資料の検討,準備,事務局との打合せ等のために相当の実質的な勤務が必要となるものといえ,前記(2)ウ及びエに認定したとおり,実際にも,事件の審理等に当たり,関係書類や資料の検討,参考文献・裁判例等の調査・検討,事務局との打合せ等を行っているところである。さらに,本件各委員の上記のような職務の性質及び専門性に鑑みると,その職務を遂行するに足りる高い識見の維持・向上はもとより,専門知識の習得,情報収集等が平素より求められているものというべきであり,本件各委員においても,実際にそのような努力が行われていることを併せ考慮すれば,本件各委員の業務については,形式的な登庁日数のみをもって,その勤務の実質が評価し尽くされるものということはできず,国における非常勤の職員の報酬との実質的な権衡の評価が可能になるものともいえない。なお,上記の争訟の裁定に係る業務について,一時期は申立て等が少ないとしても恒常的に相当数の申立てを迅速かつ適正に処理できる態勢を整備しておく必要のあることも否定し難いところである。

ウ 以上の本件各委員の職務の性質,内容,職責及び勤務の態様,負担等に加え,宮城県の財政状況について,平成11年の財政危機宣言以後,厳しい財政状況が続いていることは上記(2)オに認定したとおりであるものの,その一般会計予算規模の大きさや,第3期財政再建推進プログラムの実施により,一応の財源不足解消が図られることが見込まれていたなどの状況下においては,今後,東日本大震災による復興事業費を要することを考慮しても,本件各委員について月額報酬制を採用している本件規定の内容が,議会の裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして,直ちに法203条の2第2項の趣旨に照らして違法無効なものであると断ずることはできない。

(4)ア  これに対して,原告は,本件各委員の勤務実態からみて,本件各委員について,登庁日以外の負担(プライベートな時間を割いての会議資料の検討等)は大きいものとはいうことはできず,こと報酬を決するという点においては,本件各委員の形式的な登庁日数のみをもってその勤務実質を評価することが十分に可能なものであることから,本件各委員の報酬制度の裁量審査においては,形式的な登庁日数のみをもって判断すべき旨主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。

すなわち,本件各委員の業務については,形式的な登庁日数のみをもって,その勤務の実質が評価し尽くされるものということはできないことは,上記(3)イに述べたとおりである。また,これに加えて,会議資料等については,本件各委員の職務内容からして,高度の専門的知識や経験を有するものでなければ,検討し難いものがあるだけでなく,教育委員会の委員会資料についてみても,事前配布資料で最大80頁,90頁のものが配布され,当日配布資料としても最大290頁程度,平均しても100頁程度の大部にわたるものがあり(乙31),不当労働行為救済申立事件や,収用事件における資料については,合計1000頁を超える資料がある事件もある(乙10,15)など,これらの膨大な資料等について,比較的短時間で検討するには高い能力が必要であり,本件各委員の豊富な知識や経験,高い資質等による部分が大きいということができることに照らせば,本件各委員がプライベートな時間を割いて行っている準備等について,実質的な負担が大きくないとたやすくいうことはできず,形式的な登庁日数をもって評価し尽くすことができるとはいえない。

イ  また,原告は,本件各委員について,人材確保の要請があるとしても,被告においては,人材確保の要請と報酬制度とは無関係なものであるから,報酬制度を考えるに当たってこれを考慮すべきではない旨主張する。

しかし,原告の上記主張は採用の限りでない。

すなわち,一般的に優れた人材を確保するために相応の処遇が必要となる側面があることは否定し難いのであって,人材確保のために相応の報酬制度を採用する必要があることに有益な点があることは否定できないというべきである。

(5)  以上によれば,本件規定が宮城県議会の裁量権を逸脱し,濫用して定められたものであり,違法,無効であるということはできないから,原告の請求は理由がない。

なお,東日本大震災後,上記第3期財政推進プログラムの前提が大きく変動しており,復旧・復興事業費の精査,国の財政支援措置状況を見極めるなど早急の見通しを立てる必要性に迫られている状況にあり,復興事業費の財源についても,合計で現在の県債残高とほぼ同額の県債発行が見込まれているなど更なる財政悪化が懸念される状況にあり,実際,被告が平成24年2月に発表した中期的な財政見通しによっても,平成27年までに322億円の財源不足が生じ,財政調整関係基金の残高が零円になるとの見通しが示されているところであることに照らせば(甲34),宮城県においては,新たに財源不足対策等を行うことが予想される。これに加えて,全国の地方公共団体において,行政委員の報酬制度につき,月額報酬制の見直しを検討し,又は実際に日額報酬制へ移行した地方公共団体が相応数あること(甲4,5,弁論の全趣旨)などの事情に照らせば,今後,宮城県議会において,日額報酬制を採用するか否かはともかくとして,行政委員に対する報酬制度のあり方について,宮城県の上記財政状況との権衡の観点を踏まえて,相当期間内に改めて政策的,技術的見地からの判断を加えることが期待されているということができる。

第4結論

よって,原告の被告に対する請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 齊木教朗 裁判官 荒谷謙介 裁判官 市野井哲也)

<以下省略>

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