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仙台地方裁判所 平成21年(行ウ)17号 判決 2011年1月31日

主文

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,被告補助参加人(以下「補助参加人」又は「国」と表記する。)に対し,1億5687万4536円の支払を請求せよ。

第2事案の概要

本件は,地方行財政の不正の監視,是正等を目的とする権利能力なき社団である原告が,国は法律上その機関の敷地取得費用につき地方公共団体に負担を求めることができないにもかかわらず,宮城県が国に対し納付した平成20年度の国直轄道路事業負担金及び国直轄河川事業負担金(以下,これらを総称して「国直轄事業負担金」という。)に国土交通省所轄の仙台河川国道事務所(以下「仙台河川国道事務所」という。)の敷地取得費用1億5687万4536円が含まれていたとして,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づき,宮城県の長である被告に対し,国に対する上記敷地取得費用相当額の不当利得返還請求権を行使するよう求め,国が被告に補助参加した事案である。

1  前提事実(認定根拠を示すほかは,当事者間に争いがないか,又は,明らかに争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告は,地方行財政の不正を監視,是正すること等を目的として,仙台市民により結成された権利能力なき社団である(弁論の全趣旨)。

イ 被告は,宮城県の長である。

(2)  宮城県による負担金の支出

宮城県は,平成20年9月1日から平成21年3月31日までの間に,平成20年度国直轄道路事業負担金として合計93億3418万0830円を,同年度国直轄河川事業負担金として合計64億5457万0550円を,それぞれ国に納付した。

上記の国直轄事業負担金には,仙台河川国道事務所の敷地(仙台市あすと長町土地区画整理事業施行地内12街区①-1及び①-2画地。画地面積①-1画地1753.06平方メートル,①-2画地2340.00平方メートル。以下「本件敷地」という。)の取得費用9億4140万3800円(①-1画地4億0320万3800円,①-2画地5億3820万円。なお,平成20年度の支出額は,5億3820万円である。)のうち,1億5687万4536円が含まれていた(乙1,丙9の1及び2,弁論の全趣旨)。

本件敷地の取得費用における宮城県負担額の算出方法は,別紙1(枝番号を含む。以下同じ。)のとおりである(弁論の全趣旨)。

(3)  住民監査請求及び本訴の提起

ア 原告は,平成21年4月30日,宮城県監査委員に対し,被告において国に対し本件敷地の取得費用の支払を請求するなど適切な措置を執るよう求める住民監査請求をしたが,同委員は,同年6月26日付けで,これを棄却した。

イ 原告は,平成21年7月22日,本訴を提起した(顕著な事実)。

(4)  仙台河川国道事務所について

仙台河川国道事務所は,国土交通省所轄の東北地方整備局の所掌事務を分掌するために国土交通大臣によって設置された国の機関であって,その法定所掌事務は,別紙2の1のとおりであり(国土交通省設置法30条,同法32条,地方整備局組織規則140条,同規則別表第4),平成20年度当時の仙台河川国道事務所内の組織及び各組織の業務内容は,別紙2の2のとおりであった(丙12)。

2  関係法令の規定

(1)  地方財政法

地方財政法12条1項は,地方公共団体が処理する権限を有しない事務を行うために要する経費について,法律又は政令で定めるものを除く外,国は,地方公共団体に対し,その経費を負担させるような措置をしてはならない旨規定し,同条2項は,同条1項に該当する経費として,国の機関の設置,維持及び運営に要する経費等を規定する。

また,地方財政法4条の5は,国が地方公共団体に対し,直接であると間接であるとを問わず,寄付金及びこれに相当する物品等を割り当てて強制的に徴収(これに相当する行為を含む。)するようなことはしてはならない旨規定する。

(2)  道路法等(平成20年度国直轄事業負担金納付時のもの。以下,法令につき同じ。)

道路法49条は,道路の管理に関する費用につき,法律に特別の定めがある場合を除くほか,当該道路の道路管理者の負担とする旨規定した上で,同法50条,電線共同溝の整備等に関する特別措置法及び同法施行令,交通安全施設等整備事業の推進に関する法律及び同法施行令並びに道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律及び同法施行令(以下,道路法を除くこれら法律及びそれぞれに関する政令を総称して「道路法関連法令」という。)が,道路法49条の特例として,特定の管理に要する費用につき,国と地方公共団体の負担割合を定めるが,その詳細は以下のとおりである。

ア 道路法50条

(ア) 国道の新設又は改築に要する費用(道路法50条1項)

a 国土交通大臣が新設又は改築を行う場合

国が3分の2を,都道府県が3分の1を負担する。

b 都道府県が新設又は改築を行う場合

国及び当該都道府県がそれぞれ2分の1を負担する。

(イ) 国道の維持,修繕その他の管理に要する費用(道路法50条2項)

a 道路法13条1項にいう指定区間(以下「指定区間」という。)内の国道に係るもの

国が10分の5.5を,都道府県が10分の4.5を負担する。

b 指定区間外の国道に係るもの

都道府県の負担とする。

c 道路法13条2項による指定区間内の国道の維持,修繕及び災害復旧以外の管理に要する費用

当該都道府県又は地方自治法252条の19第1項にいう指定市の負担とする。

イ 電線共同溝の整備等に関する特別措置法及び同法施行令

電線共同溝の整備等に関する特別措置法22条1項は,指定区間内の一般国道に付属する電線共同溝の建設,改築,維持,修繕,災害復旧その他の管理に要する費用に関する国の負担割合につき,原則として2分の1とし,道の区域内の指定区間内の一般国道に係る国の負担割合につき,政令で,2分の1を超える特別の負担割合を定めることができる旨規定し,これを受けて,同法施行令11条は,その負担割合につき,3分の2とする旨定める。

ウ 交通安全施設等整備事業の推進に関する法律及び同法施行令

交通安全施設等整備事業の推進に関する法律6条1項は,道路管理者が指定区間内の一般国道について実施する道路標識,さく,街灯等の道路の附属物で安全な交通を確保するためのもの又は区画線の設置に関する事業に要する費用につき,国の負担割合を2分の1とし,道の区域内の指定区間内の一般国道に係る国の負担割合につき,政令で,2分の1を超える特別の負担割合を定めることができる旨規定し,これを受けて,同法施行令2条の2は,その負担割合につき,3分の2とする旨定める。

エ 道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律及び同法施行令

道路整備事業に係る国の財政上の特別措置に関する法律4条は,地方公共団体に対する道路の舗装その他の改築に関する国の負担につき,道路法の規定にかかわらず,10分の7の範囲内で政令で定める旨規定し,これを受けて,同法施行令2条は,高速自動車国道と一体となって全国的な自動車交通網を構成する自動車専用道路として国土交通大臣が指定する一般国道の改築で国土交通大臣が行うものに要する費用につき,国の負担割合を原則として10分の7とする旨定める。

(3)  河川法

河川法59条は,河川の管理に要する費用につき,法律に特別の定めがある場合を除き,一級河川に係るものにあっては国,二級河川に係るものにあっては当該二級河川の存する都道府県の負担とする旨規定した上で,同法60条1項が特例として一級河川の管理に要する費用(指定区間内における管理で同法9条2項の規定により都道府県知事が行うものとされたものに係る費用を除く。)につき国と一級河川の存する都道府県の負担割合を定めるが,その詳細は以下のとおりである。

ア 改良工事のうち政令で定める大規模な工事に要する費用

国が10分の7を,都道府県が10分の3を負担する。

イ ア以外の改良工事に要する費用

国が3分の2を,都道府県が3分の1を負担する。

ウ 維持及び修繕に要する費用

国が10分の5.5を,都道府県が10分の4.5を負担する。

エ 上記アないしウ以外の管理に要する費用

国及び都道府県がそれぞれ2分の1を負担する。

3  争点及びこれに対する当事者等の主張

本件の争点は,宮城県が国直轄事業負担金として本件敷地取得費用を負担したこと(以下「本件負担」という。)が地方財政法12条1項等に反して,違法無効となるかであるが,争点に関する当事者(補助参加人を含む。)の主張は次のとおりである。

(1)  原告

ア 国が所管する事業については,国がその費用と責任で行うべきであり,その事業遂行のために必要な機関の設置,維持及び運営に関する費用も当然国が負担すべきであり,そうでなければ,地方公共団体は自らが責任を負えない事柄につき予期せぬ費用負担を受けることとなり,地方自治が成り立たなくなってしまう。

また,国の機関の設置によって地方公共団体が利益を受けることが見込まれるとしても,それは国と地方公共団体との役割分担が当然に予定したことであるから,受益者負担の原則の見地から,例外的に国がある事業のために要した費用の一部を地方公共団体に負担させることが認められる場合であっても,それはこれら事業のために直接必要な経費(例えば,国道の新設又は改築に要する費用については,工事業者への支払のほか,工事管理のための現場事務所設置費用,宿泊費用等)に限定されなければならず,換言すれば,負担金は,あくまでも事業によって直接に受ける利益に応じた負担に限定されるべきもので,事業内容等と無関係な人件費,施設費等を対象とすることはできない。このように解さず,何らかの受益があることを理由として負担金の対象とすることが許容されるのであれば,国土交通省庁舎の建設費すら地方公共団体に負担を求めることができることとなる。

このほか,国が地方公共団体に対し交付する補助金においては,個別工事に際して設置される現場事務所の設置費用のみが会計費目にいう工事費中の営繕費として対象に含まれるが,土木事務所のように恒常的に設置される地方公共団体の庁舎の建設費等は対象に含まれておらず,補助金と負担金とで取扱いを異にすることは許されない。

なお,仙台河川国道事務所の敷地を新たに購入する必要はなく既存の庁舎を増改築をすれば足りるといった新規購入の必要性に関する判断が受益者負担の概念とは無関係に国の一存でされるものであることも,本件負担の不当性を表すものである。

結局,道路法等が規定する負担金の対象は,これらの条文が規定する事業を行うために直接必要な経費に限定されるのであって,個別工事等の事業と直接関係のない本件敷地の取得費用のような恒常的に設置される庁舎の建設費等を含むものではないところ,他に国の機関の設置に要する経費につき地方公共団体の負担割合を定めた法令は存在しないから,国の恒常的機関として設置された仙台河川国道事務所に係る本件負担は,地方財政法12条1項に反する。

イ また,被告及び補助参加人が主張する別紙1の本件敷地の取得費用における宮城県負担額の算出方法は,道路事業分と河川事業分を区分するに際して事業費割合のみに基づいて算出しているわけではなく,仙台河川国道事務所の平成20年度実施事業における各事業に要する費用に対して本件敷地の取得費用を割り付ける方法で計算されたものではないなど,本件負担の適法性を裏付けるものではないだけでなく,事業実施に関する地方の受益に応じた負担という負担金の概念に反するが,そのような計算方法になるのは,本件敷地の取得費用が事業実施に要する費用ではなく事業主体の維持運営に要する費用であるからにほかならない。

ウ このほか,本件負担は,本件敷地が国有地としての財産的価値を保持したまま残っていくものであり(この点で国道用地とは異なる。),損失がないのに支払を求めるものであることからすると,実質的には寄付の強要にほかならず,地方財政法4条の5にも反する。

(2)  被告及び補助参加人

道路法49条が規定する「管理」に関する費用とは,管理権の作用として行われる一切の行為に要する費用をいい,条文上,直接経費に限定されているわけではないところ,本件敷地の取得費用についても,道路を管理等するには具体的な人的物的手段が不可欠である以上,道路法所定の事業に要する費用に含まれるのであって,この点は,河川法等の各法令においても,同様に解されるから,これら法令は,地方財政法12条1項所定の「法律又は政令」に当たり,結局,本件負担は,同条項に反するものではない。

なお,特別会計に関する法律は,社会資本整備事業特別会計として,道路法50条等に基づいて拠出された負担金を道路整備勘定等の繰入金として業務勘定の歳入に充てた上で,当該歳入を業務勘定の歳出として「道路整備事業,道路関係附帯工事及び道路関係受託工事の業務取扱いに関する諸費」に充てることを規定する(201条2項1号ロ,同項2号ハ,同条5項1号ロ,同項2号ロ)ところ,「道路整備事業,道路関係附帯工事及び道路関係受託工事に要する費用(これらの事業又は工事の業務取扱いに関する諸費及び社会資本整備に関する横断的な調査に要する費用を除く。)」が道路整備勘定の歳出とされている(同条2項2号イ)ことからすると,前記「道路整備事業,道路関係附帯工事及び道路関係受託工事の業務取扱いに関する諸費」とは,各工事費用のうち道路整備勘定の歳出から除かれた業務取扱費一般のことであり,営繕宿舎費のほか,職員人件費等の諸費用が含まれることが明らかであり,このことは,本件負担の正当性を裏付けている。

第3当裁判所の判断

当裁判所は,本件負担につき,地方財政法12条1項等に反して違法無効になるとはいい難いと判断するが,その理由は,以下のとおりである。

1(1)  まず,道路法49条が規定する「管理」に関する費用について,被告及び補助参加人は,直接経費,間接経費を区別することなく,これに要する一切の費用を指すことを前提にするものである旨主張するのに対し,原告は,これら費用は,道路法等が規定する事業を行うために直接必要な経費に限定されるべきである旨主張する。

(2)  そこで,検討するに,地方財政法12条1項は,国が処理する事務に要する経費は国が全額負担すべきであるという負担区分の原則を前提として,地方公共団体が処理する権限を有しない事務を行うために要する経費につき,国が地方公共団体に対して法令上の根拠なしにその経費の全部又は一部を負担させることを原則として禁止した上で,法律又は政令において,その例外を認めているが,その趣旨は,地方公共団体が処理する権限を有しない事務であっても,当該事務の遂行の結果が当該地方公共団体の住民の利益を増進するものについては,法令上の根拠をもって地方公共団体に負担させることにあると解される。

そして,道路法49条は,道路の管理者が費用の負担者であることを原則とし,同法50条及び道路法関連法令が,国道の管理費用につき,主に受益者負担の見地にたって,その住民が国道の管理によって生じる利益を受けることができる国道沿線の地方公共団体も一定割合を負担することが相当であるとの趣旨から,国と地方公共団体の負担割合を定めるものと解される。

このように,道路法50条及び道路法関連法令所定の負担割合は地方財政法12条1項の趣旨を受けて規定されたものと解されるところ,道路法49条にいう「管理」とは,およそ道路管理権の作用として行われる一切の行為をいい,具体的には,道路の新設,改築,維持,修繕,災害復旧,占用許可等の行政処分,道路台帳の調整等をいうものと解されるが,これら事務のうち,例えば,占用許可等の行政処分及び道路台帳の調整に関しては,申請の受付,検討,決裁,書類の管理等の日常的な事務そのものであって,河川国道事務所等の人的物的結合体の活動自体が管理に該当するともいい得ることからすれば,庁舎及び人員の整備自体に要する費用はこれら事務の遂行に直接要する経費ということができ,新設,改築,維持,修繕及び災害復旧に関しても,単発的な工事の発注だけではなく,その前提として日常的かつ継続的に調査及び情報収集を行った上で分析,企画,立案等の事務を行うことが当然に予定され,特に改築,維持及び修繕については,日常的かつ継続的に国道の交通状況に関する情報等を収集したり国道の状態を観察したりすることが不可欠であって,庁舎及び人員の整備に要する費用は,やはり,新設,改築,維持,修繕及び災害復旧の不可分な一部であるこれら日常的かつ継続的な事務に直接要する費用ということもできるから,こうした道路法所定の「管理」の意義に照らすと,原告のいう国道の「管理」に直接必要な経費は,極めて相対的な概念であって,国直轄道路事業負担金としての負担の可否を決する概念としては機能し難い面があるといわざるを得ない。

(3)  また,河川法も,地方財政法12条1項を受けて,河川法59条において,一級河川の管理費用につき,原則として国の負担とした上で,同法60条において,一級河川の管理費用につき,主に受益者負担の見地にたって,河川の管理によって生じる利益を直接に受けることができる一級河川流域の都道府県も一定割合を負担することが相当であるとして,国と地方公共団体の負担割合を定めるものと解されるところ,河川法59条にいう「管理」とは,河川管理者が河川の管理権の作用として行う一切の行為をいい,具体的には,河川工事,河川の維持修繕,河川台帳の調整,河川使用の許可,河川に関する規制等の行政管理,河川区域,河川保全区域,河川予定地,河川立体区域,河川保全立体区域,河川予定立体区域の指定等をいうものと解され,こうした河川法所定の「管理」の意義に照らすと,やはり,原告のいう一級河川の「管理」に直接必要な経費は,国道の場合と同様に,極めて相対的な概念であって,国直轄河川事業負担金としての負担の可否を決する概念としては機能し難い面があるといわざるを得ない。

(4)  さらに,具体的な仙台河川国道事務所の事業内容をみても,別紙2の2のとおり,仙台河川国道事務所は,宮城県の地勢,気象状況,過去の災害における被災状況,人口推移,広域圏別人口割合の推移,年齢別人口割合の推移,人口増減率,就業人口割合等の情報を収集,調査,分析した上で,災害対策,福祉サービス機能の向上,交通問題対策,地域経済発展,地域住民の安全な生活の確保等の観点から,各業務分野に対応した課を設け,まちづくり支援,広報等各種の活動を通して地域住民とのコミュニケーションを図って地域のニーズを把握しながら,別紙2の1のとおり,広範な業務を所掌しているのであって,これら事業に要した費用について,仙台河川国道事務所の法定所掌事務に直接必要なものであるか否かによって,国直轄事業負担金としての負担の可否を決することには,困難な面があるといわざるを得ない。

(5)  そうすると,仙台河川国道事務所が道路法及び道路法関連法令並びに河川法所定の事業に要した費用に関し,原告が主張するような区分で国直轄事業負担金としての負担の可否を決することは,抽象的かつ理念的には,特に外部発注工事を伴う単発的な新設事業又は改築事業を念頭におくと,地方分権に配慮した分かりやすい基準であるということはできるものの,道路法及び河川法各所定の「管理」全般を視野に入れると,実際には,本件負担の適否を決する基準としては機能し難い面があるといわなければならず,道路法等の解釈として,当然に直接経費,間接経費を区別した取扱いが導かれるとはいい難い。

(6)  この点に関し,原告は,何らかの受益があることを理由として負担金の対象とすることが許容されるのであれば,国土交通省庁舎の建設費すら地方公共団体に負担を求めることができることとなる旨主張する。

しかし,国土交通省庁舎と仙台河川国道事務所との区別については,法定所掌事務に着目してその内容が地方公共団体の住民に利益をもたらすものか否か等の観点から合理的にこれを行うことが可能であり,この点に関連して,原告が,地方整備局組織規則140条2項及び同条3項によれば仙台河川国道事務所が一定の場合に別紙2の1の法定所掌事務以外の事務を行うことがあり,また,仙台河川国道事務所が独自に組織自体の広報活動を行っている旨指摘するところについても,前者は,同条2項及び同条3項は,形式的な管轄規定によって生じ得る不都合を回避するための規定と解され,後者は,地域の特徴に応じた事業を行う上で広報活動等も付随的事務として必要であるといい得るのであって,原告の指摘する点によって仙台河川国道事務所の法定所掌事務が不明確であるとか,専ら特定の地方公共団体以外の利益となるものを含むなどとはいい難いから,原告の主張を採用することはできない。

(7)  また,原告は,国が地方公共団体に対し交付する補助金においては,土木事務所のように恒常的に設置される地方公共団体の庁舎の建設費等は対象に含まれておらず,補助金と負担金とで取扱いを異にすることは許されない旨主張する。

確かに,国が地方公共団体に対し交付する補助金に関しては原告指摘の実情が認められる(乙8)けれども,道路法上,補助金と負担金とでは対象を異にする部分があること(同法50条1項,2項によれば,地方公共団体が補助金を受けて行うことが予定されているのは新設又は改築のみである。),土木事務所と仙台河川国道事務所がその所掌事務等につき異なっていること(弁論の全趣旨),補助金ないし負担金の負担割合については,受益者負担という観点のほか,実施事業の性格,税収入の配分,国家財政及び地方財政の状態等をも踏まえて各々政策的に判断されるものであり,現に,国道の新設又は改築に要する費用につき,道路法50条1項は,国が事業を実施した場合の地方公共団体の負担割合と,地方公共団体が事業を実施した場合の地方公共団体の負担割合とに,差異を設けていることにかんがみると,補助金と負担金とで同一の取扱いをすべきことを前提とする原告の主張は採用できない。

(8)  このほか,原告は,仙台河川国道事務所の敷地を新たに購入する必要はなく既存の庁舎を増改築をすれば足りるといった新規購入の必要性に関する判断が受益者負担の概念とは無関係に国の一存でされるものであること等を指摘して,地方財政法12条1項違反を主張するが,そのような必要性の判断は,典型的な国道の新設,改築等に際してもされるものである上,庁舎が永続性のあるものでない以上,庁舎を新築するか増改築するかという問題は当然起こり得るものであるから,国道の管理等の事業を実施する上で不可欠な庁舎の存続に関する判断が受益者負担の概念と全く無関係にされるとはいうことはできず,その他原告が種々主張する点を考慮しても,本件負担を地方財政法12条1項に反して違法無効ということは困難である。

(9)  なお,被告及び補助参加人が援用する特別会計に関する法律は,単に道路法50条等により地方公共団体から納付された負担金を営繕宿舎費等に支出することを許容するのみであり,直ちに負担金の算出方法の在り方を規定するものではなく,積極的に本件負担の正当性を基礎付けるものとはいい難いが,本件負担と営繕宿舎費等も基礎として算出した負担金を営繕宿舎費等にも充て得ることとは体系的に整合性が高いということができる。

(10)  結局,道路法49条が規定する「管理」に関する費用について,直接経費,間接経費を区別することなく,形式的な文理のとおり,これに要する一切の費用を指すことを前提にしたことをもって,本件負担を違法無効であるということはできない。

2(1)  つぎに,原告は,別紙1の本件敷地の取得費用における宮城県負担額の算出方法につき,道路事業分と河川事業分を区分するに際して事業費割合のみに基づいて算出しているわけではないこと,仙台河川国道事務所の平成20年度実施事業における各事業に要する費用に対して本件敷地の取得費用を割り付ける方法で計算されたものではないこと等を指摘し,事業実施に関する地方の受益に応じた負担という負担金の概念に反する計算方法であり,そのような計算方法になるのは,本件敷地の取得費用が事業実施に要する費用ではなく事業主体の維持運営に要する費用であるからにほかならない旨主張する。

(2)  しかし,上記1のとおり,本件敷地の取得費用が道路法等所定の「管理」に要する費用に該当すると解することをもって直ちに違法であるとはいい難いところ,そこでみた国道及び一級河川の「管理」の意義等に照らせば,単に平成20年度に実施した事業に要したとされる予算額のみならず,各事業に従事する職員数及び各事業で等分に負担すべき要素を考慮するなど別紙1のような計算方法をとることは,道路法等の受益者負担の趣旨に即した一つの負担金の算出方法ということができるから,原告が主張する点をもって,本件負担が道路法等の受益者負担の趣旨に反するということはできない。

3  さらに,原告は,本件負担につき,国道用地と異なり本件敷地の所有権がそのままの財産的価値を保持したまま国に帰属するなどとして実質的には寄付の強要にほかならず,地方財政法4条の5に反する旨主張するが,本件敷地と国道用地は,公用財産と公共用財産の違いはあれ,いずれも行政財産であって,法的に有意な財産的価値の相違を見出すことはできない上,上記のとおり,本件負担は,地方財政法12条1項の例外を定める法律又は政令に従ってされたものであるといい得る以上,強制的な徴収とはいえないから,同法4条の5に反するものではない。

4  なお,証拠(甲1ないし4)及び弁論の全趣旨によれば,国は,全国知事会の要望等を踏まえ,平成25年度までに国直轄事業負担金を段階的に廃止する方針の下,請求が遅れていた平成21年度の国直轄事業負担金については,退職手当及び営繕宿舎費を対象から除外して地方公共団体に請求することとした事実がうかがわれるが,これは,その経過,内容等に照らし,国直轄事業負担金全廃に至る過程における世論の動向等に配慮した謙抑的な方向での解釈の変更という政策的判断に基づくものと理解することができるから,このことをもって,本件負担を違法無効ということはできない。

第4結論

以上によれば,原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畑一郎 裁判官 廣瀬孝 裁判官 雨宮隆介)

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