仙台地方裁判所 平成21年(行ウ)33号 判決 2012年2月29日
主文
1 処分行政庁が,平成20年3月21日付けで原告に対してした次の各処分をいずれも取り消す。
(1) 原告の平成12年5月1日から平成13年4月30日までの事業年度以後の法人税に係る青色申告の承認の取消処分
(2) 原告の平成12年5月1日から平成13年4月30日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち,所得金額290万5367円,納付すべき税額53万9900円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分
(3) 原告の平成13年5月1日から平成14年4月30日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち,所得金額1207万2156円,納付すべき税額292万8500円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分
(4) 原告の平成14年5月1日から平成15年4月30日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち,所得金額563万7902円,納付すべき税額121万9800円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分
(5) 原告の平成15年5月1日から平成16年4月30日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち,所得金額130万6713円,納付すべき税額27万1800円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分
(6) 原告の平成16年5月1日から平成17年4月30日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち,所得金額70万7631円,納付すべき税額13万9900円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分
(7) 原告の平成17年5月1日から平成18年4月30日までの事業年度の法人税に係る更正処分のうち,所得金額146万6113円,納付すべき税額30万3800円を超える部分及び重加算税の賦課決定処分
(8) 原告の平成12年5月1日から平成13年4月30日までの課税期間の消費税及び地方消費税についての更正処分のうち,課税標準額37億8640万円,納付すべき消費税額5952万1100円及び納付すべき地方消費税額1488万0200円を超える部分並びに重加算税の賦課決定処分
(9) 原告の平成13年5月1日から平成14年4月30日までの課税期間の消費税及び地方消費税についての更正処分のうち,課税標準額37億1830万8000円,納付すべき消費税額6631万3200円及び納付すべき地方消費税額1663万1100円を超える部分並びに重加算税の賦課決定処分
(10) 原告の平成14年5月1日から平成15年4月30日までの課税期間の消費税及び地方消費税についての更正処分のうち,課税標準額34億5069万7000円,納付すべき消費税額6314万3500円及び納付すべき地方消費税額1578万5800円を超える部分並びに重加算税の賦課決定処分
(11) 原告の平成15年5月1日から平成16年4月30日までの課税期間の消費税及び地方消費税についての更正処分のうち,課税標準額33億8718万円,納付すべき消費税額6287万0500円及び納付すべき地方消費税額1571万7600円を超える部分並びに重加算税の賦課決定処分
(12) 原告の平成16年5月1日から平成17年4月30日までの課税期間の消費税及び地方消費税についての更正処分のうち,課税標準額33億6707万1000円,納付すべき消費税額6089万1000円及び納付すべき地方消費税額1522万2700円を超える部分並びに重加算税の賦課決定処分
(13) 原告の平成17年5月1日から平成18年4月30日までの課税期間の消費税及び地方消費税についての更正処分のうち,課税標準額32億8452万3000円,納付すべき消費税額6091万2400円及び納付すべき地方消費税額1522万8100円を超える部分並びに重加算税の賦課決定処分
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文と同旨
第2事案の概要
本件は,処分行政庁が,原告に対し,平成12年5月1日から平成18年4月30日までの6年間にわたる各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の間に,原告の従業員らが関係業者からいわゆるリベートとして受領していた手数料合計9786万3000円(以下「本件手数料」という。)に関し,そのうち平成12年5月1日から平成13年4月30日までの事業年度(以下「平成13年4月期」という。)に受領した手数料609万9000円を総勘定元帳の雑収入科目に計上しなかったとして,主文第1項(1)の青色申告の承認の取消処分(以下「本件取消処分」という。)を行うとともに,本件手数料(以下,所得を構成する収益としての意味で使用する場合には,「本件手数料に係る収益」という。)につき,本件各事業年度(なお,平成13年4月期より後,各年の5月1日から翌年4月30日までの事業年度を,以下,それぞれ「平成14年4月期」ないし「平成18年4月期」という。)の益金の額に算入せずに法人税を申告し,また,本件各事業年度に対応する各課税期間(以下「本件各課税期間」といい,各事業年度に対応する課税期間をそれぞれ,「平成13年4月課税期間」ないし「平成18年4月課税期間」という。)の課税資産の譲渡の対価の額に算入せずに消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)を申告した上,本件手数料に係る収益を益金の額に算入せず,原告に属する手数料を費消して横領した従業員に対する損害賠償請求権の額を課税資産の譲渡等の対価の額に算入せずに隠ぺい又は仮装を行ったとして,主文第1項(2)ないし(13)記載の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び各重加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい,本件取消処分及び本件各更正処分と併せて「本件各処分」という。)を行ったのに対し,原告が,本件手数料に係る収益は従業員ら個人に帰属するものであって原告には帰属せず,隠ぺい又は仮装を行った事実もない旨主張して,本件各処分(ただし,本件各更正処分については,主文第1項(2)ないし(13)記載の部分(以下,同部分を「本件各更正処分(係争部分)」という。))の取消しを求める事案である。
1 前提事実(争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨等により容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告は,旅館業及び飲食業などを目的として昭和35年に設立され,その肩書所在地において,旅館「ホテル松島大観荘」(以下「大観荘」という。)を経営してきた会社で,平成13年4月期以前から,青色申告の承認をされていた内国法人である(争いがない事実)。
イ 訴外Aは,平成8年10月1日に原告に入社した後,平成12年3月21日付けで和食,洋食及び中華料理部門の総責任者である調理部調理課長(和食調理長兼務)に就任し,その後,平成14年1月に調理部副支配人,平成15年5月21日に総料理長兼調理部支配人を経て,平成17年9月21日には副総支配人(料飲部・調理部所管,調理部支配人等兼務),平成18年9月21日には副総支配人(営業部,料飲部担当,料飲部支配人,料飲課長等兼務)に就任するとともに,調理部支配人の職を解かれ,その後,平成19年12月20日付けで原告を退職した者である(証人A2頁,弁論の全趣旨)。
ウ 訴外B(訴外Aと総称して「訴外Aら」という。)は,平成16年11月4日に原告に入社した後,平成17年2月21日付けで訴外Aの後任として調理部和食調理課長に,平成18年9月21日付けで同じく和食調理部支配人(和食調理課長兼務)に就任し,平成19年8月21日付けで総料理長(和食調理長兼務)に就任した者である(弁論の全趣旨)。
エ 有限会社春日商事(以下「訴外会社」という。)は,加工食品の製造販売等を目的とする法人であり,有限会社クラフトマンルームを通じて,本件各事業年度において原告にお膳料理用等の食材(以下「本件食材」という。)を納入していた株式会社サトー商会に本件食材を納入していたものである(乙30,弁論の全趣旨)。
(2) 原告による確定申告
原告は,処分行政庁に対し,本件各事業年度の法人税について,青色申告により別表1「本件各処分等経緯一覧表」(以下「本件一覧表」という。)の「(1) 法人税」の「納付すべき法人税額」欄の「①確定申告」記載の金額により法定申告期限までに確定申告書を提出し,本件各課税期間の消費税等については,本件一覧表の「(2) 消費税等」の「納付すべき消費税額」欄ないし「納付すべき地方消費税額」欄の各「①確定申告」記載の金額により法定申告期限までに確定申告書を提出した(争いがない事実)。
(3) 本件各処分の経緯等
ア 塩釜税務署の所部係官は,平成19年9月ないし12月ころ,原告の帳簿書類を調査するとともに(法人税法130条1項参照),本件手数料に関し,訴外Aら及び訴外会社の代表取締役である訴外Cから事情を聴取し,訴外会社が,訴外Aに対し,本件食材納入時に訴外Aからの指示に基づいていわゆるリベート分を上乗せした価格で取引を行い,納入後の代金からリベート分を訴外Aに渡すという形で本件手数料を支払っていた事実を報告した。また,本件手数料の額は,平成13年4月期につき609万9000円,平成14年4月期につき1211万4000円,平成15年4月期につき1507万3000円,平成16年4月期につき2109万3000円(以上につき,全て訴外Aの受領分),平成17年4月期につき2226万6000円(このうち訴外Aの受領分が1982万7000円,訴外Bの受領分が243万9000円),平成18年4月期につき2121万8000円(このうち訴外Aの受領分が526万円,訴外Bの受領分が1595万8000円)であるとの事実が報告された。なお,本件手数料に係る収益の額については,再調査の結果,本件各処分後にそれぞれ増額補正されている(以上につき,乙20,22,27,28,38,弁論の全趣旨)。
イ 処分行政庁は,平成20年3月21日付けで,下記の理由により,原告の平成13年4月期以降の法人税に係る青色申告の承認の取消処分(本件取消処分)を行い,通知書により通知した(甲1,弁論の全趣旨)。
記
平成13年4月期において,大観荘の料理素材の製造元である訴外会社から,大観荘の料理長である訴外Aに対して現金で支払われた手数料609万9000円を原告の総勘定元帳の雑収入科目に計上しないで,これによって得た資金を訴外Aが個人的に消費していたこと
ウ 処分行政庁は,同日付けで,原告に対し,本件各事業年度の法人税については,それぞれ本件一覧表の「(1) 法人税」の「納付すべき法人税額」欄及び「重加算税」欄の各「②更正処分等」記載の金額により,更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分を行い,本件各課税期間の消費税等のうち平成13年4月課税期間ないし平成16年4月課税期間に係る消費税等については,それぞれ本件一覧表の「(2) 消費税等」の「納付すべき消費税額」欄,「納付すべき地方消費税額」欄及び「重加算税」欄の各「②更正処分等」記載の金額により,平成17年4月課税期間の消費税等については,上記各欄の「④更正処分等」記載の金額により,平成18年4月課税期間の消費税等については,上記各欄の「③更正処分等」記載の金額により,それぞれ更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」という。)及び重加算税の賦課決定処分を行い,それぞれ通知書により通知した。なお,本件各更正処分については,更正通知書に更正の理由(法人税につき法人税法130条2項参照)が附記されていない(以上につき,争いがない事実,甲2の1ないし6,甲3の1ないし6)。
(4) 原告は,平成20年7月3日,本件各更正処分に基づく法人税及び消費税等として合計2852万1600円を納付した(争いがない事実)。
(5) 行政不服審査請求等及び本件訴訟の提起
原告が,本件各処分,すなわち本件取消処分,本件各更正処分(係争部分)及び本件各賦課決定処分を不服として,平成20年5月7日付けで異議申立てを行ったところ,異議審理庁である塩釜税務署長は,同年7月9日付けでこれを棄却する旨の決定を行った。これを受けて,原告が,同年8月5日に審査請求をしたところ,国税不服審判所長が,平成21年6月26日付けで,同審査請求を棄却する旨の裁決を行った(以上につき,乙16ないし19,弁論の全趣旨)。
原告は,以上の経緯を経て,同年12月2日,本件訴訟を提起したものである(顕著な事実)。
2 関連法令の定め
(1) 納税地を所轄する税務署長は,納税申告書の提出があった場合において,その納税申告書に記載された課税標準等(国税通則法2条6号イないしハに掲げる事項をいう。以下同じ。)又は税額等(同号ニないしヘに掲げる事項をいう。以下同じ。)の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったとき,その他当該課税標準等又は税額等がその調査したところと異なるときは,その調査により,当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する(国税通則法24条)。
(2) 納税地を所轄する税務署長は,青色申告の承認を受けた内国法人につき,その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し又は記録し,その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由がある場合には,当該事業年度まで遡って,青色申告の承認を取り消すことができる。この場合において,その取消しがあったときは,当該事業年度開始の日以後その内国法人が提出したその承認に係る青色申告書(納付すべき義務が同日前に成立した法人税に係るものを除く。)は,青色申告書以外の申告書とみなす(法人税法127条1項)。
(3) 国税通則法65条1項によれば,期限内申告書が提出された場合において,修正申告書の提出又は更正があったときは,当該納税者に対し,その修正申告書の提出又は更正に基づいて過少申告加算税を課するとされているところ,同項の規定に該当する場合(同条5項の規定の適用がある場合を除く。)において,納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし,又は仮装し,その隠ぺいし,又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは,当該納税者に対し,政令で定めるところにより,過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額(その税額の計算の基礎となるべき事実で隠ぺいし,又は仮装されていないものに基づくことが明らかであるものがあるときは,当該隠ぺいし,又は仮装されていない事実に基づく税額として政令で定めるところにより計算した金額を控除した税額)に係る過少申告加算税に代え,当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する(国税通則法68条1項)。
3 争点及び争点に関する当事者の主張
本件各処分のうち,本件各更正処分(係争部分)は,本件手数料に係る収益が原告に帰属することを理由に行われ,本件取消処分及び本件各賦課決定処分は,いずれも本件手数料に係る収益が原告に帰属することを前提に,その事実を原告が隠ぺい又は仮装したことを理由に行われているため,本件各処分の適法性に関しては,①本件手数料に係る収益が原告に帰属するか否か(争点1)及び②本件手数料に係る収益が原告に帰属するとした場合,その額はいくらか(争点2)が共通の争点となり,このほか,本件取消処分及び本件各賦課決定処分の適法性に関しては,③原告による仮装又は隠ぺい行為の有無(争点3)が争点となる。
上記各争点に関する当事者の主張の要旨は以下のとおりである。
(1) 争点1(本件手数料に係る収益が原告に帰属するか否か)について
(被告の主張の要旨)
訴外Aは,平成12年3月に原告の調理部調理課長に就任しているところ,当時から,訴外Aが調理部門の責任者として重要な職責を担っており,拡大役員会議等に出席して食材の原価等について自らの判断で発言していたことや,訴外Aの意向に従って訴外会社の加工品が本件食材に採用された結果,原告における入札制度が機能していなかったことからすれば,訴外Aは,原告における本件食材の納入業者の選定及び購入価格の決定に関して広範かつ包括的な権限を有していたといえる。
そして,訴外会社は,上記のような訴外A及びその後任者である訴外Bの地位,権限を見込んで本件手数料を含むリベートを支払っていたのであって,その額も平成13年4月期から平成18年4月期までで合計約9800万円にのぼるなど,訴外Aら個人が受領する金額としては著しく高額であることからすれば,本件手数料を含むリベートは,訴外会社が原告との間で取引を継続するための対価として原告に支払われたものにほかならないというべきである。
また,原告の代表取締役であるD(以下「原告代表者」という。)は,原告において過去にリベート問題が存在し,リベート授受の慣行を認識していながら,リベートを禁止する具体的な防止策を講じず,訴外Aらのリベート受領を示唆する告発文書に対しても表面的な調査にとどめ,訴外Aのリベート受領発覚後も訴外Aを就業規則に従って解雇することはせずに,依願退職させるにとどめているほか,訴外Aらに対し「おまえらも何か悪いことをやってんだろう。」などとリベート受領を黙認するかのような発言をしているのであって,これらの事実からすれば,原告代表者は,訴外Aらが本件手数料を含むリベートを受領することを黙認していたというべきであるから,本件手数料に係る収益は原告に帰属するというべきである。加えて,訴外Aらは,本件手数料を含むリベート全体の3割程度を原告の備品購入等に使用していたのであるから,このことからも本件手数料に係る収益は原告に帰属するというべきである。
そして,このように原告に帰属した本件手数料を訴外Aらが費消して横領したことにより,原告は,本件手数料相当額の損失を被ると同時に,訴外Aらに対し,不法行為に基づいて同額の損害賠償請求権を取得することになるから,本件手数料相当額を,訴外Aらによる横領があったときに対応する本件各事業年度の益金及び本件各課税期間の課税資産の譲渡等の対価の額(以下,益金及び課税資産の譲渡等の対価を総称して「益金等」という。)にそれぞれ算入すべきである。
(原告の主張の要旨)
①原告が,平成10年ころ,当時の和食調理長が取引業者からリベートを受け取っていたことが発覚したことを受けて,リベート受領を禁止する旨を会社の内外に周知徹底した上,就業規則にも会社の許可なく職務上の地位を利用して外部の者から金品等のもてなしを不当に受けたときは解雇する旨規定していたこと,②訴外Aらがリベート受領の禁止を明確に認識した上で,原告に隠れて本件手数料を受領していたこと,③原告における食材購入に関しては,指名納入業者による入札制度を実施し,食材納入業者の選定権限は原告代表者及び原告常務取締役Eに与えられている上,食材購入の代理権も,訴外Aらの所属していた調理部調理課ではなく,総務部仕入課仕入係に与えられていたこと,④訴外Aら及び訴外会社も上記③の事実を認識していたこと,⑤原告は平成8年ころから実質的に甚大な経営上の損失を出し,資金繰りが極めて困難な状況となったことから,役員や従業員の報酬カットを含め,大幅な経費削減をしており,合計約9800万円にのぼる本件手数料を訴外Aらに与えられるような財政状況ではなかったことからすれば,訴外Aらが本件食材の購入に関して本件手数料を受領したからといって,本件手数料に係る収益が原告に帰属することはないというべきである。
(2) 争点2(本件手数料に係る収益が原告に帰属するとした場合,その額はいくらか)について
(被告の主張の要旨)
本件手数料の額については,訴外Cの供述によって認定されたものであるところ,同供述は,平成17年12月分ないし平成18年4月分については現存する明細書の記載を基にされたものであり,平成12年5月分ないし平成17年11月分については,現存明細書が存在しないものの,訴外Cが訴外Aらとの打合せ時に使用していた手帳や自らの記憶を基に作成した復元明細書の記載を基にされたものであって,いずれも客観的な証拠に基づいて詳細かつ具体的に供述されたものであるから極めて信用性が高いといえるので,本件手数料の額の認定は適正なものである。そして,上記のとおり適正に認定した本件手数料額を基に,処分行政庁は,原告の法人税及び消費税等について,それぞれ別表2-1ないし別表2-6及び別表3-1ないし別表3-6のとおり,納付すべき税額を算出したものであるから,本件各更正処分(係争部分)は適法である。
また,本件手数料額のうち,復元明細書によって額が算出された平成12年5月分から平成17年11月分のうち,上記手帳等による裏付けを欠き,訴外Cの記憶や供述のみに基づいて算出された部分については,仮に,訴外Cの記憶や供述が信用できないため実額算定ができないとしても,同部分につき各種の間接的資料を用いて手数料額を推計する必要性が肯定されるというべきであり,推計に当たっては,本件手数料のうち,現存明細書や復元明細書により算定された手数料額が納入額に占める割合を算出し,それにより得られた参考比率を上記部分に係る納入額に乗じることにより上記部分に係る手数料額を推計しているので,推計の合理性も認められるというべきである(なお,本件各更正処分(係争部分)のうち,本件法人税各更正処分については法人税法131条に基づき推計課税を行うものであるが,本件消費税等各更正処分については,明文の規定がないものの,課税庁に認められた租税実体法上の行為規範として,当然に推計課税が認められるというべきである。)。
(原告の主張の要旨)
本件手数料を含むリベートの額の認定は,いずれも認定の根拠となった資料に何らの信用性もないので,認定額は適正ではない。
また,本件手数料の額の認定根拠となった手帳や訴外Cの記憶には何ら信用性がなく,これらを間接的資料として行った被告の推計課税には合理性がないので,本件において推計課税は許されないというべきである。
(3) 争点3(原告による仮装又は隠ぺい行為の有無)について
(被告の主張の要旨)
ア 本件各賦課決定処分について
国税通則法68条1項にいう「事実の隠ぺい」とは,売上除外,証拠書類の廃棄等,課税要件に該当する事実の全部又は一部を隠すことをいい,納税者が故意に課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し,その隠ぺい又は仮装行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば,納税者が過少申告を行うことの認識を有している必要はないと解されているので,従業員を自己の手足として経済活動を行っている法人においては,代表者の知らない間に従業員によって隠ぺい又は仮装行為が行われたとしても,原則として,法人自身が隠ぺい又は仮装行為を行ったものとして重加算税を賦課することができるというべきである。本件では,訴外Aらが約7年もの長期にわたり,食材の取引を実質的に入札制度の対象から外して本件手数料を受領していたにもかかわらず,原告がこれを放置した結果,本件各事業年度の収益として本件手数料を帳簿書類に記録せず除外するという事態を生じさせたのであるから,原告による「事実の隠ぺい」があったことは明らかであり,本件各賦課決定処分は適法である。
イ 本件取消処分について
国税通則法68条1項及び法人税法127条1項3号の文言を比較すると,両規定の適用対象となる行為については,隠ぺい又は仮装という同一の要件を掲げているため同義に解されているものの,隠ぺい又は仮装行為の主体については,前者では「納税者」と明記されているのに対し,後者では明記されていない。そうだとすれば,法人税法127条1項3号にいう隠ぺい又は仮装行為が認められる場合には,隠ぺい又は仮装行為の主体が納税者以外の者(例えば,帳簿作成権限を有しない従業員)であっても,同号の要件を充足するというべきであるから,訴外Aらが本件手数料を受領し,そのことを経理担当職員や原告代表者に報告していなかったことにより,本件手数料に係る収益が本件各事業年度の収益等として帳簿書類に記載ないし記録されていなかった以上,同号の「隠ぺい」があったといえるので,本件取消処分は適法である。
(原告の主張の要旨)
国税通則法68条1項及び法人税法127条1項3号にいう「隠ぺい」は同義であるところ,原告は,取締役会を設置する株式会社であって,代表取締役が対外的代表権を有するものであるから,原則として代表取締役の行為のみが原告に帰属するというべきであって,従業員の行為については,原告の指揮監督を受け,又は代理権を授与されて行った行為のみが原告に帰属するというべきである(なお,ここでは民法上の表見代理の法理は妥当しない。)。本件では,上記(1)(原告の主張の要旨)記載の①ないし③の各事実からすれば,訴外Aらが原告の指揮監督下において本件手数料を受領し,これを秘匿したものではなく,原告が訴外Aらに本件手数料の受領に係る代理権を授与したこともないといえるので,訴外Aらが,本件手数料を受領した事実を原告に報告せず,その結果,本件手数料に係る収益が原告の帳簿書類に記載されなかったとしても,原告が同号の「隠ぺい」を行ったということはできない。
第3当裁判所の判断
1 争点1(本件手数料に係る収益が原告に帰属するか否か)について
(1) 本件各処分は,前記第2の3で見たように,本件手数料に係る収益が原告に帰属することを前提に,訴外Aらが本件手数料を横領したことを理由にしているものであるから,本件手数料に係る収益が原告に帰属したといえない場合には,訴外Aらによる横領はその前提を欠くこととなり,原告の訴外Aらに対する損害賠償請求権も発生しなくなる結果,原告には本件手数料相当額の益金等が生じないこととなる。
そして,収益の帰属について,法人税法11条が,法律上収益が帰属する者が単なる名義人であって,それ以外の者が実質的に収益を享受する場合に,その者を収益の帰属主体とする旨を定め,消費税法13条も同様の規定を設けている趣旨(実質所得者課税の原則)に鑑みれば,本件手数料に係る収益が原告に帰属するか否かの判断に当たっては,本件手数料を受領した訴外Aらの法律上の地位,権限について検討するとともに,訴外Aらを単なる名義人として実質的には原告が本件手数料を受領していると見ることができるか否かを検討することが相当である。
そこで,以下,このような見地から検討する。
(2) 後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 本件手数料は,訴外Cが,訴外Aらの指示に従って商品原価にリベート額を上乗せした額で本件食材を納入し,納入後に訴外会社が受領した代金からリベート相当額を訴外Aらに支払う形で交付されていた(証人A7頁,証人C6頁及び7頁)。
イ 原告においては,本件食材の仕入れに関して入札制度を採用し,総務部仕入課仕入係が発注業務を担当しているため,調理場から直接納入業者に発注をすることは禁止されており,調理部調理課に所属する訴外Aらに仕入業者の選定権限や仕入金額の決定権限は付与されていなかった。なお,本件食材の仕入れに係る入札制度は,訴外会社以外の業者が入札しなくなったため,事実上行われなくなった(以上につき,甲4,5の1ないし3,甲9,証人A14頁及び15頁,証人C2頁及び3頁,証人B10頁,原告代表者11頁)。
ウ 原告においては,就業規則上,「会社の許可なく,職務上の地位を利用して,外部の者から金品等のもてなしを不当に受けた時」は解雇する旨の規定があるほか,訴外Aらを含む従業員にもリベートの受領が禁止されている旨が周知されていた(甲11,証人A21頁及び22頁,証人B9頁,原告代表者5頁ないし7頁)。
エ 訴外Aらは,訴外Cからリベートを受領するに際し,塩竈市や利府町等,大観荘の建物からは離れた所在地にある飲食店の,あまり人目につかないような場所で授受を行っていた(証人C20頁,26頁)。
オ 訴外Aらは,受領した本件手数料を部下との食事会やコンペ等に費消していたほか,原告の指示なく,自らの判断で大観荘における備品等の購入に充てていた(証人A16頁及び17頁,証人B8頁,9頁,14頁及び15頁)。
カ 原告は,大観荘の建物新築後の平成8年ころから本件各事業年度までに,売上げ減少が続く一方,金融機関に対する借入金返済の増加等もあって,経営成績が悪化し,損失を累積させて,資金繰りも困難な状況となったことから,金融機関との取引関係維持のために,役員報酬等のカットを含む大幅な経費削減を行いつつ,減価償却費の計上を一部にとどめるなどして対応してきた(甲9,原告代表者2頁ないし5頁,弁論の全趣旨)。
(3) 上記(2)の認定事実を基に検討するに,本件手数料は,原告における本件食材の仕入れに関して授受されていたものであるところ(上記(2)ア),原告における本件食材の仕入れに関しては入札制度が設けられていることや,仕入課仕入係に発注権限が存在しており,調理課に所属する訴外Aらには本件食材の発注権限がないこと(同イ)からすれば,訴外Aらが,本件食材の仕入れに関する決定権限を原告から与えられていたとは認められない。これらの事実に加え,原告においては,就業規則上もリベートの受領が禁止されており,訴外Aらを含む従業員にその旨周知されていたこと(同ウ),訴外Aらは,訴外Cからリベートを受領する際,塩竈市や利府町等,大観荘の建物からは離れた所在地にある飲食店の,あまり人目につかないような場所で授受を行っていたこと(同エ)などを併せ考えると,訴外Aらが,本件食材の仕入れに関して授受されていた本件手数料について,原告から法的な受領権限を与えられていたと認めることはできない。
そうすると,訴外Aらは,個人としての法的地位に基づき訴外Cから本件手数料を自ら受け取ったものと認められるところ,自己の判断により,受領した本件手数料を費消していたというのであるから(同オ),訴外Aらが単なる名義人として本件手数料を受領していたとは認め難い。
したがって,本件手数料に係る収益は原告に帰属するものとは認められない。
(4) これに対し,被告は,原告における本件食材に係る入札制度は機能しておらず,訴外Aらが本件食材の納入業者の選定及び購入価格の決定に関して広範かつ包括的な権限を有していたとして,本件手数料に係る収益が原告に帰属する旨主張する。しかしながら,上記(2)イの認定事実によれば,本件食材の仕入れに係る入札制度は,当時,他の業者が入札しなくなったとの理由により事実上機能しなくなっていたものの,このことによって本件食材の仕入れに関する決定権限が原告の仕入課仕入係から訴外Aらに移ったと見ることはできないから,被告の主張は採用できない。
このほかに,被告は,訴外Aらの食材の仕入れに関する決定権限を根拠付ける事実として,訴外Aらが拡大役員会議等に出席していたことを主張するが,その主張に係る事実から,訴外Aらが,食材の仕入れに関し,意見の具申の範囲を超えて,決定権まで認められていたと見ることはできないから,被告の上記主張も採用できない。
また,被告は,訴外会社が訴外Aらの地位や権限を見込んで本件手数料を支払っていることや,本件手数料の額が個人の受領する金額としては著しく高額であることから,本件手数料に係る収益が原告に帰属する旨主張する。しかし,その主張に係る訴外Aらの地位,権限については,外部業者の推測の域を超えて,これを裏付ける客観的証拠があるわけではなく,かえって,上記(2)イ,ウの認定事実によれば,訴外Aらは,客観的に見て,本件食材の仕入れに関する決定権限や本件手数料の受領権限を有していたとは認め難いから,訴外会社に,被告が主張するような意図があったとしても,そのことから,上記権限に関する認定が左右されるものではない。本件手数料が高額であるとの指摘について見ても,本件各事業年度当時,原告の経営成績は著しく悪化していて,金融機関との取引上も,経費を過大に計上するような余裕はなく,むしろ減価償却費の計上を一部にとどめていたこと(前記(2)カ)に照らせば,原告が,自社に帰属すべき高額の手数料収入について,訴外Aら個人による費消を認めるとは考え難いから,本件手数料が高額であることが,上記結論を左右するものとはいい難い。
被告は,原告代表者による本件手数料受領に関する対応策が不十分であることや,原告代表者の訴外Aらに対する発言などを根拠に,原告代表者が,訴外Aらによる本件手数料の受領を黙認していた旨主張するが,訴外Aらが,自らのリベート受領については,原告代表者に知られていなかったと思う旨供述し(証人A24頁,証人B3頁),原告代表者も,原告の業務の詳細を直接把握していたわけではなく,訴外Aらが上記リベートを受領していたことを知らなかった旨供述していること(原告代表者11頁,21頁)に加え,先に見たとおり,本件各事業年度当時,原告は,経営成績悪化の状態にあったことから,リベートの金額の分だけ食材の仕入れ額(費用)を過大に計上するような必要も余裕もなかったと見られること,原告における懲戒の種類及び程度については,就業規則上も懲戒解雇のほかに諭旨退職などが規定されており,情状に応じた対応が認められていること(甲11),訴外Bに対する処分は現在も留保されている状態であること(証人B6頁,原告代表者16頁及び17頁)に照らせば,被告が指摘する事実を踏まえても,原告代表者が訴外Aらによる本件手数料の受領を知って,これを黙認していたと認めるには足りないというべきである。
さらに,被告は,訴外Aらが本件手数料の一部を原告の備品等の購入に充てていた事実があるとして,本件手数料に係る収益が原告に帰属する旨主張するが,上記購入行為が原告の指示なく行われていたものである以上,上記備品等の購入は,訴外Aらが自らに帰属した本件手数料の使途を自己の判断に基づき決定したことによるものであって,結果的に原告の利益になった部分があったとしても,そのことから,訴外Aらが単なる名義人として,訴外会社から本件手数料を受領したものということはできないから,被告の上記主張も採用できない。
他に,前記認定を覆すに足りる事実及び証拠はない。
2 以上より,本件手数料に係る収益が原告に帰属するとは認められず,原告が訴外Aらに対して損害賠償請求権を有しない結果,原告については,本件手数料相当額の益金等が存在しないことになるから,本件各処分には取消事由となる違法があるというべきである。
第4結論
よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由があるからこれらを認容することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 関口剛弘 裁判官 渡辺力 裁判官 吉賀朝哉)