仙台地方裁判所 平成22年(ワ)503号 判決 2011年8月30日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金20万円及びこれに対する平成21年10月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は,被告の設置する仙台市立A保育所に子を入所させていた母である原告が,被告に対し,仙台市長が定める日をもって同保育所を廃止する内容の条例を被告が制定したことは違法であると主張して,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金20万円及びその遅延損害金の支払を求めた事案である。
2 前提事実
以下の事実は,かっこ書きで摘示した証拠等により認めることができるか又は当事者間に争いがない。
(1) 当事者
ア 原告は,児童であるBの親権者であり,同児童について,被告から委任された仙台市太白福祉事務所長によりA保育所への入所承諾等の決定を受け,現に同保育所へ入所させていた者である。
なお,同児童は,本件条例によりA保育所が廃止されたことに伴い,平成21年10月1日にC保育園に移動し,平成22年3月に同保育園を卒園した。
イ 被告は,児童福祉法35条2項に基づき,仙台市児童福祉施設条例(昭和43年仙台市条例第17号)を制定し,A保育所を設定して,平成21年9月30日までの間,同保育所において児童の保育を実施していた。
(2) A保育所廃止に至る経緯等
ア 被告は,平成19年6月,「今後の保育施策推進のための保育所の役割について(方針案)」を策定し,同年6月28日から同年7月27日までの間,市民からの意見公募を実施した。
イ 被告は,平成19年8月,「今後の保育施策推進のための保育所の役割について(方針)-子育て支援の充実とより良い保育環境の実現に向けて-」(以下「本件方針」という。)を作成するとともに(甲2,乙3),「公立保育所の建替え等に関するガイドライン」(以下「ガイドライン」という。乙4)を作成し,A保育所について「A保育所建替え整備計画について」(乙6。以下「本件整備計画」という。)との整備計画を作成し,公表した。
ウ 被告は,平成20年3月,「公立保育所民間移管に伴う私立保育所設置及び運営主体の募集,選定について」(以下「本件募集大綱」という。乙7)を,同年5月28日,「平成20年度 公立保育所施設建替えに伴う私立認可保育所設置運営法人の募集要項」(以下「本件募集要項」という。乙8)をそれぞれ定めた上,平成20年7月,A保育所の建替えに伴う市立保育所設置運営法人を募集し,同年9月26日,A保育所に係る新保育所の設置運営法人として社会福祉法人Dが選定された。
エ 仙台市長は,平成20年12月3日から開催された被告市議会平成20年第4回定例会において,A保育所,仙台市立E保育所(以下,A保育所と併せて「A保育所等」という。)を廃止することなどを内容とした「仙台市児童福祉施設条例の一部を改正する条例」(第115号議案)(以下「本件条例」という。)を提出した。
オ 本件条例は,平成20年12月18日,仙台市議会において可決され(以下,「本件民営化」という。),その際,A保育所の廃止の施行期日については,市長が定める日とされた(乙2,弁論の全趣旨)。
カ 仙台市長は,平成21年9月30日,A保育所等の廃止に係る施行期日を同年10月1日と定め(仙台市規則第59号),これを公布した(乙68)。
3 争点
(1) A保育所廃止の違法性
(2) 損害
4 争点に関する当事者の主張
(1) 争点(1)について
ア 原告の主張
(ア) 原告の法的利益について
児童福祉法24条(平成20年法律第85号による改正前のもの)は,保護者に対してその監護する児童にどの保育所で保育の実施を受けさせるかを選択する機会を与え,市町村はその選択を可能な限り尊重すべきものとされていることから,保護者には,保育所を選択する権利が保障されている。そして,この保育所選択権には,当該保育所に入所した後,当該保育所において一定期間にわたる継続的な保育の実施を受ける権利ないし法的利益も含まれ,保育所選択権の前提として,保護者には保育所を選択する際の基礎情報の提供を受け,適切な説明を受ける権利が保障される。
(イ) 被告の義務
被告は,保育所選択権を保障する観点から,保護者等の意見を尊重し,保育所の廃止をできるだけ回避する検討をすべき義務(保育所廃止回避義務ないしは回避努力義務)を負っている。
また,被告は,仮に公立保育所の廃止・民営化を行う場合であっても,十分な引継ぎ期間を取り,保育内容,保育の実施に当たる職員に継続性が保たれるような措置を講じた上,保護者に対して,保護者の懸念や不安を少しでも軽減するために説明を十分に尽くすなどの配慮をし,児童の心身に十分配慮した適切な措置を講ずるなどの配慮を行うべき義務(以下,上記内容を総称して「配慮義務」という。)を負っている。
そして,以下に述べる事情に照らせば,被告が上記各注意義務に違反し,A保育所を廃止・民営化したことは明らかであり,原告の保育所選択権を侵害するものとして違法というべきである。
(ウ) 保育所廃止回避義務あるいは保育所廃止回避努力義務違反
被告は,A保育所の廃止・民営化の理由について,保育所施設の老朽化のため,早期の建替えが必要であり,その機会に民間の力を利用して保育所を新設し,民営化により多様な保育ニーズに応えられるようになるなど保育環境の充実を主張するが,被告が主張する内容はA保育所を民営化しなければできないことではなく,公立保育所でも十分実現可能なことであるから,A保育所を廃止・民営化する理由にはならない。
被告は,公立保育所を維持することを何ら検討せず,民営化ありきでA保育所の廃止・民営化を計画・実行しており,「子の最善の利益」のために公立保育所で実現可能なことは,まず公立保育所で実現努力するという被告の責任を放棄している(保育所廃止回避義務ないしは保育所廃止回避努力義務違反である。)。そして,経済的効率性のために公立保育所の廃止・民営化を進めることは不合理であり,児童の安定した発達成長の観点からすれば,入所中の児童を保護者の都合以外の理由で別の保育所に移動させることは行うべきではない。仮に保育所を廃園とする場合であっても,入所中の児童らが卒園するのを待って行うべきである。
(エ) 配慮義務違反について
a 移管先法人の選定について
被告は,A保育所の廃止・民営化に当たって移管先の社会福祉法人であるDを選定しているが,移管先法人の選定手続は不透明であり,どのような基準で移管先法人が選定されたかが明らかではない。
確かに,ガイドラインには選定基準が定められているものの,いずれも抽象的なものであり,移管先法人の選定に当たって具体的に何が議論され,どのような手続がとられたのかが不明である。また,移管先法人の募集がされてから約3か月という短い期間で移管先法人が選定されており,選定を行った「保育施設整備に関する社会福祉法人等選定委員会」(以下「選定委員会」という。)は3回しか開催されていないだけでなく,選定委員会では保育所にとって最も重要な事項である児童の保護養育にふさわしいか,児童の利益になるかといった議論がされておらず,十分な議論を経て選定されたものとはいえない。
また,被告は,移管先に重大な関心を抱いている保護者を選定委員会の委員に加えておらず,保護者に十分な情報を提供せずに移管先福祉法人を選定しており,不合理である。
b 保護者への配慮等について
(a) 被告は,原告に対して保護者説明会を実施してきたが,A保育所の廃止・民営化を決定事項として,形式的に保護者説明会を繰り返しているだけであった。すなわち,市民意見募集の結果によれば,約89.1パーセントの市民が本件民営化に否定的,疑問的な意見を有し,A保育所で実施されたアンケート結果によれば,約7割の保護者が民営化に反対していたにもかかわらず,被告は,保護者の意見に耳を傾け,保護者の理解を得るための努力を何らしていない。
また,被告は,平成21年4月以前は,A保育所が廃止・民営化された場合であっても,A保育所のころの保育と何も変わらず,保育内容を全部引き継ぐ旨説明していたにもかかわらず,平成21年4月以降は,A保育所の理念は引き継ぐが,やり方は違うと突然説明を変えるなど,その態度は極めて不誠実なものである。
(b) A保育所の廃止・民営化に当たっては,三者協議会が開催されていたが,以下のとおり,被告は,三者協議会における保護者との約束を反故にするなど三者協議会は実質的な協議には程遠いもので,名ばかりのものであった。
すなわち,被告は,三者協議会において,平成21年度については,0歳児の増員をしないことを約束したにもかかわらず,移管後,0歳児クラスに3名の子供が編入された。なお,最終的に保護者らは,子供を保育所に入れたくても入れられない親の気持ちを考えて増員を受け入れざるを得なかったが,このことは被告の上記約束違反を否定するものではない。
また,新保育所であるC保育園では選択制で主食提供が行われることとなったが,主食提供を受けない児童と,主食提供を受ける児童との間で差が生じないように配慮することとされていたにもかかわらず,主食提供を受ける児童の献立が「けんちんうどん」,「ミートソーススパゲティ」という献立であるのに対し,主食提供を受けない児童の献立が「けんちん汁」,「じゃがいものミートソースあえ」であるなど,何ら配慮がされていないものであった。原告は,被告に対し,上記状況を説明してDに対する指導を求めたにもかかわらず,被告は他人事のように扱い,何ら指導を行わなかった。
c 引継ぎ・合同保育について
A保育所の廃止・民営化に当たっては,6か月間の引継ぎ・合同保育が行われている。しかし,移管後,C保育園では,保育士が児童の自主性を阻害する対応を行い,児童に対する配慮が行き届いておらず,保護者への報告が希薄であるなど,A保育所のころでは考えられなかったような対応が見受けられ,保育の質が低下した。このことは,A保育所の保育方針,保育方法が,6か月間の引継ぎ・合同保育によってC保育園側に何ら引き継がれていないことを示している。そして,被告は,民営化前の三者協議会において,民営化後も被告がDの指導監督を行うことを約束していたにもかかわらず,移管後,C保育園における保育の質の低下,引継ぎの不履行に対して,何ら実質的な指導を行わない。
また,引継ぎ・合同保育の期間についても,6か月間という期間は不十分である。
さらに,被告は,引継ぎ・合同保育の明確な方針が定められず,引継ぎ・合同保育において様々な問題が起こっていたにもかかわらず,十分な助言・指導を行っておらず,DもA保育所の保育の引継ぎを考えていなかったなど,引継ぎ・合同保育は十分にされていなかった。
d 移管時期について
被告は,移管時期を年度途中の10月としたが,以下に述べるとおり,10月に移管することは極めて弊害が大きく,不合理なものである。
すなわち,児童が心身ともに健やかに成長するためには,保育の安定性,継続性が不可欠であることから,保育の現場では4月からスタートし,1年を周期として保育計画を組み立てる。このような1年周期の保育計画の中では年度途中の10月に保育環境が大きく変化することを全く想定していない。移管時期を10月にすることは,保育計画作成者と保育実施者が分離されることになり,保育の一貫性を否定し,かつ,保育の責任の所在を曖昧にし,ひいては,保育の質の低下を招くことは明らかであって,これが子どもにとって最善の利益になっていないことは明らかであり,保育所保育指針にも反するものである。
また,10月は,通常,児童がクラスに慣れ,保育士との間に厚い信頼関係が構築され,心理的に安定した状態でそれぞれの力を発揮し,個性を伸ばしていく時期である。信頼関係を築いてきた保育士との別れ,保育環境の変化が児童に与える混乱,衝撃は計り知れない。特に,年長児は,民営化後の保育所に移った後,わずか半年で保育所での卒業を迎えるため,年長児に与える影響は深刻である。年長児は,卒業までの半年間を不安と混乱の中で過ごし,保育所生活に児童なりの終止符を打つことができないまま卒業することとなるのであって,児童のその後の成長,周囲の大人たちとの信頼関係の形成に悪影響を与えることは明らかである。そして,保育者においても経験したことのない,年度途中に一斉に大勢の児童を引き受けるという事態が生じるのであり,保育現場が混乱することは明らかであり,保育者に対する負担も甚大である。
さらに,被告が聴取した学識経験者からの意見においても,年度に2回の保育環境の変化が児童に与える負担,1年間の保育の流れが断ち切られることへの不安,保育士と別れることの児童への影響,年長児にとってのデメリットなど,移管時期を10月とすることのデメリットが指摘されていたにもかかわらず,被告は,上記デメリットについて具体的かつ十分な検討をしていない。
加えて,被告は,移管時期を10月とした理由について,合理的な説明をしない。また,被告は,老朽化した木造建物を早期に建て替える必要があり,民間の力を活用し,多様な保育ニーズに応えられるようになるとA保育所の廃止・民営化の理由を説明するが,上記説明からは,移管時期を10月とする必要性,緊急性を見いだすことはできない。
イ 被告の主張
(ア) 原告の法的利益について
保育所選択権は,保育所の廃止を阻止できる絶対的権利ではなく,保育所の廃止については,設置者である市町村の政策的な裁量判断に委ねられているものと解すべきであり,もとより保護者の同意が得られない限りその廃止が違法となると解することはできない。
すなわち,①入園者の現存する児童福祉施設の廃止を容認している法令には廃止の制限に関する規定が置かれておらず,②公の施設は基本的には住民全体の利益に適う有効利用がなされるべきであり,③保育所の利用は長ければ6年間にも及び,当該保育所を取り巻く諸情勢に変化が生じることは避けがたいところであり,④入所時に定める保育期間は入所時における見込期間にすぎないのであるから,保護者は,やむを得ない事由のない限りその選択した特定の保育所において,その監護下にある児童につき保育の実施を受け,将来の保育期間中にわたって当該保育所での保育の実施を受けるという利益を有することはできるものの,その選択に係る保育所において一定の期間保育を実施することを請求することができる権利を有するものではない。
(イ) 被告の義務について
公立保育所は,地方自治法244条に定める公の施設に該当し,本件各保育所の廃止は,保育所を取り巻く諸事情を総合的に考慮し,住民を代表する議員によって構成される市議会の議決による条例の改正によって行われているから,公立保育所の廃止は議会に委ねられた政策的な裁量判断に基づく広範な裁量権が認められるものである。
そして,以下の事情に照らせば,被告には原告が主張する保育所廃止回避義務違反及び保育所廃止回避努力義務違反はない。
(ウ) 法的利益の侵害について
a 保育所廃止回避義務あるいは保育所廃止回避努力義務について
A保育所は昭和49年の建築から33年を経過した木造建物であり,老朽化に伴う建替えの必要性があり,富沢駅周辺土地区画整理事業との関係においても移転新築する必要性があったことに加え,大野田小学校,西多賀小学校区内には3歳未満児を中心に平成19年4月時点で26人の待機児童がおり,将来的にも需要が見込まれたことから,整備に当たっては増員を図る必要があった。
そして,被告は,少子化が進行し,児童数の減少が予測される一方で,保育所への入所希望者は増加傾向にあること,民間保育所が,利用者の求める保育ニーズに対応するため多様な保育サービスに努めるとともに,待機児童の解消に寄与してきたこと,公立保育所が,蓄積された経験とノウハウを活かし,保育の質の向上に取り組むとともに,障害者保育や児童虐待の防止等に積極的に取り組んできたこと,保育所の運営に係る経費を公立保育所と民間保育所で比較すると,人件費等の影響により,公立保育所のほうが約3割多くの経費を要していることなどの保育を取り巻く状況等を勘案し,本件方針において,公立保育所の建替え等に当たっては,効率的な運営と柔軟性,機動性をより発揮しうる民間の力を活用して保育所を新設し,当該公立保育所を廃止する民設民営方式を基本とし,A保育所についても,民間の力を活用して保育所を新設して廃止することとしたのである。
b 配慮義務について
被告は,以下に述べるように,A保育所の廃止・民営化を行うに際しては,十分な引継ぎ期間をとり,保育内容,保育の実施に当たる職員に継続性が保たれるような措置を講じた上,保護者に対しても説明を十分に尽くすなどの配慮をし,児童の心身に十分配慮した適切な措置を講じていたのであり,被告に配慮義務違反はない。
(a) 移管先法人の選定について
被告は,A保育所の廃止・民営化に際して,本件募集大綱及び本件募集要項を定めた上,新保育所の運営法人を募集した。そして,被告は,「保育施設設備等に関する選定委員会設置要綱」に基づき,保育施設設備等に関する選定委員会を開催し,応募法人との面接審査及び選定の評価基準に基づく採点結果をもとに検討を加え,複数の応募者の中からC保育園運営法人としてDを選定しているところ,Dは,保育所の運営実績があるだけではなく,社会福祉法人として福祉施設の運営に長年の実績があり,保護者の不安解消について熱意があること,特別な支援を要する児童への対応が配慮されていること,職員の資格取得支援を行うなど人材育成を重視していること,地域のニーズを十分把握し事業展開を考えていること,地域の福祉施設やボランティアとの連携により,地域に開かれた保育所運営が期待できることなど,被告の認可保育所の整備基準及び保育水準を満たすとともに,A保育所での保育サービスを継承し,保育の質を維持・向上していくことができると判断した。
(b) 保護者への配慮について
被告は,平成19年8月25日,A保育所の保護者に対して説明会を実施し,その後,平成21年9月17日まで11回の保護者説明会を開催し,保護者への説明を十分に行っている。
また,被告は,引継ぎ態勢や合同保育の在り方等について意見交換を行うため,父母の会から選出された原告を含むA保育所の保護者,新保育所設置運営法人であるD,被告職員から構成される三者協議会を設置し,三者協議会は,平成20年12月22日に第1回が開催された後,平成22年3月13日まで合計14回開催され,十分な意見交換が行われた。被告は,A保育所について,選定された設置運営者であるDの職員を平成21年4月から同年9月までの間,派遣する方法により引継ぎ及び合同保育を実施することとし,3歳児クラス(うさぎ)と3・4歳児クラス(かば)につき他のクラスとは異なり,法人職員を配置して行う合同保育の実施期間を平成21年7月から同年9月としていたが,保護者からの要望を受けて,上記各クラスとも合同保育の実施時期を平成21年4月から9月に修正するなどし,保護者の意見に配慮し,引継ぎ・合同保育態勢を補正した。そして,三者協議会における意見交換の内容は,三者協議会だよりを通じてすべての保護者に周知している。
さらに,0歳児の増員については,三者協議会で意見を聴取し,保護者の理解を得た上で対応しており,三者協議会だよりを通じて保護者に周知されている。なお,0歳児の増加に伴い増員された保育士については,保護者の要望に基づき,経験者を担当させている。
加えて,主食提供の点について,Dは,給食で主食提供を受けていない児童に対するメニュー上の配慮も行っており,平成22年9月17日の保護者説明会で同年10月の献立表を提示して説明した際も,保護者からは異論がなかった。さらに,保護者の意見を取り入れて,引継ぎ・合同保育の人員態勢等を構築している。
(c) 引継ぎ・合同保育について
本件民営化に際しては,クラスごとにA保育所の保育士とDの保育士による引継ぎ・合同保育が,平成21年4月1日から9月30日までの6か月間実施された。なお,合同保育の期間については,他の政令指定都市の合同保育期間と比較しても不足するところはない。
また,被告は,民営化後の平成22年3月までの6か月間について,移行後支援期間として,定期的に子供たちの状況を確認し,必要に応じ法人の職員に対し適切な助言や指導を行うなど,十分な措置を講じた。
さらに,A保育所における引継ぎ・合同保育は,周到に用意された計画の下,多数回にわたる説明や協議に基づく保護者の意向を反映して行われたものであり,引継ぎ・合同保育の期間・内容については,大半の保護者から積極的な評価を受けている。
(d) 移管時期について
移行時期を10月とすることにより,①環境変化の時期を分散して児童への負担を軽減し,職員が落ち着いて移行の業務に対応して児童に十分目を向けていくことが可能となるとともに,②半年間慣れ親しんだ保育士と共に10月の安定期に移行を迎えることで合同保育の効果も高くなることから,移行時期を10月とすることには十分な合理性がある。
すなわち,4月は,進級によるクラス替え及び新入児童の入所によりもともと環境の変化が大きい時期であることから,4月に民間移行を行うと更に環境の変化が加わることになり,児童への負担が非常に大きくなってしまう。また,保育所にとって4月は,年度の切替え時期であり,年間で最も繁忙な時期となることから,これに移行に関わる業務が加わることで児童に十分目が行き届かなくなることが懸念される。さらに,10月から翌年3月まで半年間合同保育を行ったとしても,4月には必然的にクラス編成等が変わり,合同保育の効果が薄れてしまう。
(2) 争点(2)について
ア 原告
(ア) 慰謝料 10万円
A保育所の廃止は,原告の強い要望に反して進められただけでなく,A保育所廃止手続の中において,原告の意思は軽視され,A保育所廃止後の被告の対応は原告との約束を蔑ろにするものであった。原告は,上記被告の対応等によって,幾度となく深く傷つけられ,長期間にわたって無力感,不全感,怒りを感じ続けることとなったのであり,原告が受けた精神的苦痛は甚大である。そして,上記精神的苦痛に対する慰謝料は10万円を下らない。
(イ) 弁護士費用 10万円
原告は,本件訴訟を提起するために複数の弁護士に依頼をしており,その弁護士費用として10万円を認めるのが相当である。
イ 被告
争う。賠償の対象となり得る損害が発生していない。
第3当裁判所の判断
1 認定事実
前記前提事実,当事者間に争いがない事実,後掲末尾かっこ内の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 本件民営化公表までの経緯等
ア 被告は,平成9年度に「仙台市すこやか子育てプラン」及び「保育所整備五カ年計画」を策定した。
同計画では,老朽化した公立保育所を順次廃園するとともに,新しく私立保育所を設置する法人に対し,被告所有の土地を無償貸与し,同法人が独自に建設する施設建設費のうち95パーセントを被告が補助することとされ,公立保育所の比率を下げることにより,公私の保育所の比率を同程度にするとの方針が示された(争いがない)。
イ 被告は,上記計画に基づき,平成10年3月に公立保育所を1か所廃園して公設民営の保育所を1か所設置し,平成12年3月に公立保育所を1か所廃園して民設民営の保育所を4か所設置し,平成13年3月に公立保育所を1か所廃園して民設民営の保育所を1か所設置した(争いがない)。
ウ 被告は,平成18年4月,「仙台市行財政集中改革計画」を策定し,公立保育所の在り方について,これまで果たしてきた役割や現状の問題点,民間事業者の状況などを改めて検証し,それらを明確にしながら,管理運営の効率化,廃止,統合など,その在り方の見直しに取り組んでいく旨の方針を示した(争いがない)。
エ 仙台市社会福祉審議会児童福祉専門分科会は,平成18年11月,「就学前児童の子育て支援における今後の保育所の役割について」との報告書をまとめた。
同報告書は,公立保育所の建替えに当たっては民間の力を活用して保育所を新設し,当該公立保育所は廃止するという手法を基本的に検討すべきであるとする一方で,中核的保育所,地域ネットワーク型保育所の役割を担うべき公立保育所,公立・民間保育所の適正配置等を勘案した場合,被告の責任において建て替えるべき公立保育所も存在すること,公立保育所の廃止を伴う民間保育所の新設に当たっては,その手続等についての基本的なルールを策定するとともに,保護者等の理解を得ながら進めていくことが重要であるとする内容の報告書となっている(争いがない)。
オ 被告は,平成19年6月,「今後の保育施策推進のための保育所の役割について(方針案)」を策定し,同月28日から同年7月27日までの間,市民からの意見公募を実施した。
意見公募によって寄せられた意見総数386件のうち,公立保育所の建替え等に当たっては当該公立保育所を廃止し民設民営方式を基本とする方針案に対する意見が257件であり,そのうち181件が上記方針案に否定的な立場からの指摘や意見であった(甲1)。
カ 被告は,上記オのパブリックコメントを踏まえ,平成19年8月,子育て支援の充実とより良い保育環境の実現に向けて本件方針を作成した(甲2,乙3)。
本件方針の内容は,概ね以下のとおりである。
(ア) 方針策定の趣旨
少子化の進展,多様化する保育ニーズ,長期的な将来需要等を踏まえ,子育て世代が安心して子供を産み育てる環境を確保するために,これまで以上に充実した保育施策を効率的に実施していくことが重要である。就労形態の多様化,保育ニーズの多様化,社会福祉基礎構造改革など激しい環境変化の中において,効率的で柔軟な民間保育資源を活用することにより行政財政運営の効率化を図りながら,被告の保育施策を総合的に推進するため,今後の保育所の果たすべき役割の方向性を示す。
(イ) 保育を取り巻く状況
少子化が進行し,児童数の減少が予測される一方で,保育所への入所希望者は増加傾向にあり,待機児童解消に向けて保育所整備を推進してきた結果,平成19年4月時点において,認可保育所として66か所の民間保育所が整備されている。
民間保育所は,延長保育,一時保育,休日保育等利用者の求める保育ニーズに対応するため多様な保育サービスに努めてきたこと,施設の新設・増設,定員の弾力化等,その柔軟性・機動性を発揮することにより,待機児童の解消に寄与してきた。他方,公立保育所は,蓄積された経験とノウハウを活かし,保育の質の向上に取り組むとともに,障害者保育や児童虐待の防止等に積極的に取り組んできた。
保育所の運営に係る経費を公立保育所と民間保育所で比較すると,人件費等の影響により,公立保育所のほうが約3割多くの経費を要している。
(ウ) 保育施策推進のための方向性
地域ごとの待機児童の状況を的確に把握し,民間活力による保育所整備や様々な保育資源を活用して待機児童の解消を図るとともに,行政として果たすべき役割を考慮しつつ,保育所機能の充実に努めながら,更なる地域子育て支援の充実,保育の質の向上及び配慮を必要とする児童等への対応の強化に取り組む。
(エ) 公立保育所の建替え等について
築25年以上の木造公立保育所は,耐用年数を経過しており,児童の安全・安心,より良い保育環境を確保していくために,老朽化する公立保育所の建替え等を計画的に実施していく。
公立保育所の建替え等に当たっては,①効率的な運営と柔軟性,機動性をより発揮しうる民間の力を活用して保育所を新設し,当該公立保育所を廃止する民設民営方式を基本とし,②民間保育所では対応できない場合には公設公営方式によるものとし,③耐用年数に至っていない鉄筋コンクリート造や比較的新しい木造の公立保育所については,民間事業者への移管がふさわしいと判断された場合には,既存の施設を民間事業者が運営する譲渡(移管)方式とし,④建替え等に当たっては,どのような手続や手法で進められるべきかという基本的なルール(ガイドライン)を策定するとともに,広く公表し,保護者等の理解を得ながら進める。
キ 被告は,平成19年8月,被告が公立保育所の建替え等を行っていく場合の基本となるルール・基準を示し,対象となる保育所の保護者をはじめ,広く市民の理解を得ながら実施するための基本的な指針としてガイドラインを作成した(乙4)。
ガイドラインの概要は,以下のとおりである。
(ア) ガイドラインの目的
①築25年以上(昭和56年以前建築)の木造の公立保育所,②区画整理事業や都市計画道路事業等により建替え等が必要となる公立保育所の建替え等を行っていく場合の基本となるルールや基準を示す。
公立保育所の建替え等に当たっては,ガイドラインを基本とし,保育環境の変化に伴う児童への影響に十分配慮するため,保護者の意見や要望を伺いながら実施する。
(イ) ガイドラインによる保育所建替え等の手順について
a 被告は,①移行まで1年半以上の期間を確保した保育所建替え等整備計画を公表すること,②建替え等の対象となる保育所の保護者に対して建替え等に至った経緯及び移行までの今後のスケジュール等について説明会を開催し,十分な情報提供に努めること,③建替え等が必要な公立保育所については,民間事業者の参入を促し,保育所を新設した上で当該公立保育所を廃止する「民設民営方式」を基本に整備を進めること,④民間保育所の運営主体は,原則として,認可保育所等の児童福祉施設の運営実績があり,かつ,保育の質の維持・向上が確保できる社会福祉法人とすること,⑤より優良な事業者を確保するために原則として事業者を公募すること,⑥被告の認可保育所の整備基準及び保育基準を満たし,保育の質を維持・向上できる事業者の選定を原則とすること,⑦事業者の選定に当たっては,学識経験者等の専門家を含めた「保育施設整備に関する社会福祉法人等選定委員会」を開催し,さらに「社会福祉法人設立認可及び施設整備補助に関する審査委員会」において審議に当たること,⑧事業者名を公表すること等が定められている。
なお,事業者の選定基準としては,被告の認可保育所の整備基準及び保育水準を満たし,保育の質を維持・向上できる事業者を選定することを原則とし,事業の継続性・安定性等とともに,保育所運営上の内容(保育の質)を中心とした審査を行い,より優良な事業者を選定するとされ,選定に当たっては,公立保育所での保育サービスを継承していくことに加え,これまで以上に保育サービスの拡充を前提に,(a)児童福祉の理念,公共性,公益性を持った事業者であること,(b)子供本来の発達・育ちを重視し,尊重した質の高い保育等を実践していること,(c)職員の年齢や経験年数のバランスを踏まえた質の高い職員が確保されること,(d)職員の人材育成が図られ,保育所運営に職員参加がされていることを重視するとされた。
b また,⑨円滑な引継ぎが行えるようにするため,(a)事業者において,新保育所の施設及び事業の概要を保護者に説明するとともに,引継ぎ態勢や合同保育の実施内容等,円滑な移行に十分な配慮をした移行計画を策定し,保護者及び市と協議したうえで同計画を決定すること,(b)保護者・事業者・被告による「三者協議会」を設置し,引継ぎ態勢や合同保育の在り方等について十分な意見交換を行うこと,(c)移行の際には,保育士等の職員が入れ替わること等による保育環境の変化が児童へ及ぼす影響を最小限にする必要があるため,対象となる保育所に段階的に事業者の職員を配置し,児童が新しい保育士に早く慣れることができるよう市職員と合同で保育に当たる期間を設け,合同保育では継続的な保育が実現できるよう児童に配慮したきめ細やかな引継ぎを行っていくものとし,合同保育の期間については6か月を目安とするものの,対象となる保育所の状況を踏まえて三者協議会で協議のうえ決定していくこと,(d)移行準備期間や合同保育期間において事業者の職員の雇用が無理なくできるよう必要な支援を行うこと,(e)引継ぎが移行計画に従って実施されているか逐次進行管理を行い,問題が生じた場合には必要な改善指導等を行うこと等が定められている。
c さらに,⑩民間移行後の被告の責任として,(a)民間移行後も,引き続き一定期間は必要に応じて三者協議会を開催し,情報の共有とより良い保育環境の確保に努めること,(b)苦情解決の仕組みとして,中立・公正な第三者の立場から助言を行う学識経験者等の専門家による「第三者委員」の設置を民間移行後の新しい保育所に義務づけること,(c)事業者の保育の質の維持・向上のため,補助金・研修・人材育成の面で被告が支援をしていくこと等が定められている。
(ウ) 移行までのモデルスケジュール
移行1年半前において保育所整備計画公表,保護者説明会開始,事業者選定,移行1年前において事業者決定,保護者説明会(事業者の紹介,新保育所概要,移行計画説明等)実施,三者協議会開始,移行半年前において引継ぎ・合同保育開始をそれぞれ実施することが定められている。
(2) 本件民営化公表後,移管先法人選定までの経緯等
ア 被告は,平成19年8月,本件整備計画を策定した(乙6)。
本件整備計画の内容は,概ね以下のとおりである。
(ア) 施設の状況等
A保育所は,昭和49年に建築された築33年を超える木造の公立保育所であり,老朽化に伴う建替えの必要性に加え,富沢駅周辺土地区画整理事業においても移転新築の必要がある。定員は100人であるが,平成19年4月時点では105名の入所児童がいる。
A保育所周辺地域には,平成18年に90人規模の民間保育所を創設したものの,A保育所を含む学区内には3歳未満児を中心に平成19年4月時点で26名の待機児童がおり,将来的にも需要が見込まれるため,整備に当たっては定員数の増員を図る必要がある。
(イ) 建替え等の手法
区画整理事業の中で,現在より南方200メートルの場所に新たな保育所用地(1800平方メートル)を確保しているため,適正な定員規模の民間保育所の創設を条件に事業者を公募し,民間保育所創設後,A保育所を廃止する。
イ 被告は,平成19年11月28日,被告行財政改革推進会議において,今後10年間で20か所程度の公立保育所を廃止する方針を明言しつつ,公立保育所が果たしてきた役割が大きかったことを認め,それを尊重しながら両立を図っていく方針を示した(争いがない)。
ウ 被告は,平成20年3月,A保育所等について,本件募集大綱を定めた(乙7)。
本件募集大綱の概要は,以下のとおりである。
(ア) 移管先法人及び募集
平成21年10月に定員120人規模の保育所を設置及び運営することができる認可保育所等の児童福祉施設運営実績のある社会福祉法人を対象に募集する。
(イ) 応募者の審査方法
法人の応募書類に基づき,保育所の設置運営に対する考え方等についてのヒアリング及び公認会計士による資金計画等の審査を行う。その後,被告職員及び学識経験者による外部委員から構成される選定委員会において,保育所の設置運営を行う法人としての適性,保育所運営内容,施設整備計画,財政力等を審議し,被告と保育所設置へ向けた協議を行う法人を選定する。その後,保育所建設に対する被告からの補助金交付候補者となるため,「社会福祉法人設立認可及び施設整備補助に関する審査委員会」(以下「審査委員会」という。)で審議を行い,最終的に移管先法人に決定する。
(ウ) 引継ぎ,合同保育
新保育所開所に当たり,円滑な引継ぎを行うため,開所前の6か月間を目途に,公立保育所職員と移管先法人職員による合同保育を実施する。実施期間,内容等については,対象保育所の状況,保護者の意見,三者協議会の協議を踏まえて決定する。
(エ) 三者協議会
円滑な引継ぎ等や合同保育の在り方について意見交換を行うための保護者,移管先法人,被告により構成される三者協議会を設定する。移管先法人が決定され次第設立し,引継ぎ・合同保育の内容等について意見交換を行う。移管後も一定期間開催し,より良い保育環境の確保を行う。
(オ) 移管後の運営
移管先法人は,児童福祉法や保育所保育指針等の趣旨に従うとともに,各種法令等を遵守し,優良な保育サービスの提供や保育の質の向上に努める。被告は,三者協議会の開催や研修等を通じて保育環境の確保,向上を図っていき,一般指導監査を定期的に実施し,法令,基準の遵守等について確認し,必要に応じた指導を行う。
(カ) 障害児保育,食物アレルギー症のある児童の受入れ
移管対象公立保育所で実施している障害児保育,食物アレルギー症のある児童の受入れについて,移管先法人に対し,募集の際の実施要件とし,移管後も継続して行う。
エ 被告は,平成20年5月28日,A保育所等の保育所建替え及び保育所運営(平成21年10月開所予定の保育所)の主体となる法人の募集要項として本件募集要項を定めた(乙8)。
本件募集要項の内容は,概ね以下のとおりである。
(ア) 応募資格
A保育所等の建替えに伴い,定員120人規模の認可保育所の設置及び平成21年10月1日からの保育所の運営ができること及び認可保育所等の児童福祉施設の運営実績があり,かつ,保育の質の維持及び向上が確保できる社会福祉法人であること。
(イ) 応募要件
a 保育の基本方針
保育所保育指針(平成20年厚生労働省告示第141号)を基本として,保育課程及び指導計画を作成の上保育を実施し,新保育所設置後は,設置当初の保育内容,職員の資格及び配置等の基準を維持するよう努める。一般指導監査に加え,対象保育所の保育内容が継承されているかについて被告が行う確認,指導等に協力し,指導事項があった場合には,その指導等に従う。
b 保育内容
A保育所等が,現在実施している保育サービス(延長保育の実施,障害児保育の実施,食物アレルギー症のある児童の受入れの実施など),行事,給食,衛生管理,健康管理の内容を引き継ぐとともに,新保育所において新たに保育期間の延長(月曜日から金曜日までの保育時間を12時間以上,土曜日の保育時間を11時間以上とすることが望ましい),給食の主食提供,一時・特定保育及び産休明け保育の実施をすることが望ましい。
c 職員の資格及び配置
職員は,事業者が直接雇用する者を配置する。また,廃止対象保育所に勤務していた臨時職員等が新保育所で就労を希望する場合には,その採用に配慮することとされている。
(a) 施設長に関する要件
保育所において保育士又は栄養士として10年以上勤務した経験を有する者であり,かつ,専任の施設長又は主任保育士として3年以上勤務した経験を有する者。
(b) 主任保育士に関する要件
保育所において常勤の保育士として5年以上勤務した経験を有する者。
(c) 保育士に関する要件
児童福祉施設基準(昭和23年厚生省令第63号)33条2項に規定する保育士数については,常勤の保育士を配置し,かつ,上記常勤の保育士のうち,保育所での保育士経験年数を有する者の割合は,概ね,5年以上の者が3割以上,その者を含め3年以上の者が6割を超えた配置とする。
なお,退職等により保育の仕事に従事していない期間が継続して6年以上ある場合は,復職後からの経験年数で算定する。
(d) フリー保育士(保育所において,組又はグループを専ら担当しない常勤の保育士で,施設長ではない者)に関する要件
常勤の保育士を1名以上配置する。
(e) 栄養士に関する要件
常勤の栄養士を1名以上配置する。
(f) 調理員に関する要件
3名以上配置し,うち2名以上は常勤の調理員とする。
(g) 看護師に関する要件
1名以上配置することが望ましい。
d 保育室等の施設整備
120人定員規模の施設で,入所児童のおよそ3割以上は3歳未満児を入所させることができる構造及び設備を有することとされているほか,乳児室の面積,遊戯室の設置,駐車場の確保等についての要件が定められている。
e 三者協議会の設置・開催
円滑な引継ぎ・合同保育の在り方について意見交換を行うため,保護者,法人及び被告により構成する三者協議会を設置し,新保育所設置後も一定期間,三者協議会を設置し,より良い保育環境の確保や向上を図るための協議を行う。
f 引継ぎ・合同保育の実施
保育内容等を円滑に引き継ぐため,新保育所設置前後において被告が指定する期間(新保育所設置前においては6か月間を目安とする。),三者協議会で協議のうえ,引継ぎ・合同保育等を行う。
(ウ) 審査方法
法人の応募書類に基づき,保育所の設置運営に対する考え方等についてのヒアリング及び公認会計士による資金計画等の審査を行う。
その後,選定委員会において,保育所の設置運営を行う法人としての適性,保育所運営内容,施設整備計画,財政力等を審議し,被告と保育所設置へ向けた協議を行う法人を選定する。
選定委員会において選定された法人は,保育所建設に対する被告からの補助金交付候補者とするため,審査委員会での審議を経て,最終的な設置運営法人を決定する。
オ 本件募集要項に従い,A保育所の廃止及び新保育所の設置に関しては四つの社会福祉法人からの応募があった(乙23の3の1,37の2の1)。
カ 被告は,平成20年8月22日,保育施設整備等に関する選定委員会設置要綱(平成11年5月31日健康福祉局長決裁)に基づき,3名の外部委員を加えた13名の委員からなる選定委員会を開催した(乙23の3の1,36(枝番号を含む),37の1)。
キ Dの資金計画等について,平成20年9月1日,公認会計士による審査の結果が報告された。
同報告の中で,Dの自己資金は応募法人の中で最も多額であり,現在の積立預金で不足する分は運営資金を取り崩すことになることなど更に検討すべき点はあるものの,Dが保育所整備事業計画を実行することについて,特段大きな支障はないとの意見が出された(乙12)。
ク(ア) 被告は,平成20年9月9日,第2回目の選定委員会を開催した。選定委員会は,応募法人の評価方法を,a 面接審査の実施の方法については,①面接審査は1法人概ね15分とすること,②法人からのプレゼンテーションは行わないこと,b 採点の方法については,応募資料の写し,公認会計士意見書,事務局ヒアリング資料,公立保育所の建替えに関する説明会における保護者の意見・質問に関する資料,面接審査で確認した内容を踏まえ「認可保育所整備事業設置運営者選定評価基準」(以下「評価基準」という。乙37の2の1・5枚目以降)に基づき,各委員が採点を行うこと,c 法人の選定の方法として,各委員の採点に基づき討議を行い,委員会としての最終評価を決定すること,最終評価において最高得点の法人を選定すること(ただし,最高得点であっても,最終評価において小項目の評価点が全員0点である項目が一つでもある法人は不選定とする。)とすることとし,上記応募法人の評価方法に基づき,応募法人との面接審査を実施し,評価基準に基づく採点をもとに検討を加えた(乙37の2の1,37の2の2)。
(イ) 評価基準は,大項目(「応募者(法人等)」,「保育所運営」,「保育所用地・施設」,「財務関係」の4項目)・中項目(例えば,「資格要件・法人等の運営態勢」,「法人の実績等」,「動機及び意欲」,「保育内容」,「引継ぎ・合同保育」,「保護者の意見の反映等」など)・小項目(保育所創設に当たり共通して評価すべき項目(例えば,「欠格条項,信用等,法人としての適切さ,理事会等,経営責任者としての適切さ」,「応募動機や保育所運営に係る意欲」など)及び公立保育所建替えに伴って独自に評価すべきとされる項目(例えば,「公立保育所建替え創設への動機や意欲」,「公立保育所から継承する保育サービス及び新保育所サービス」など))として評価すべき項目が挙げられ,「評価項目」,「評価するに当たっての着眼点」として,評価対象,評価に当たって重視すべき点が具体的に定められているものであり,小項目ごとに「4点」,「2点」,「0点」と3段階評価を行うものとされている(ただし,財務関係は「8点」と「0点」の2段階評価。乙37の2の1・5枚目以降)。
ケ 選定委員会は,平成20年9月10日,上記クでした各委員の評価を基に意見交換を行った。その結果,保育所の運営実績があること,社会福祉法人として福祉施設等の運営に長年の実績があること,保護者の不安解消について熱意が見られること,特別な支援を要する児童への対応が配慮されていることなどから,A保育所にかかる新保育所の運営法人としてDを選定した。(乙37の3)。
なお,被告は,同月25日,Dに対し,A保育所に係る新保育所の運営法人としてDが選定された旨通知し,同年11月28日,Dに対し,平成20年度仙台市私立保育所施設整備費補助金として6089万4000円の交付を予定している旨を通知した(乙13,14)。
(3) 移管先法人選定後の状況等
ア 被告は,平成20年11月,三者協議会設置のため,「三者協議会について(予定)」を作成した(乙16,弁論の前趣旨)。
具体的内容は,概要以下のとおりである。なお,三者協議会の協議内容については,保護者に対し,その都度,文書でお知らせをし,進捗に応じて保護者説明会を開催し,協議の状況を報告する。
(ア) 構成委員
父母の会から選出された保護者3名程度,新保育所設置運営法人から3名程度,被告から3名程度(及び事務局職員一,二名)により構成する。
(イ) 設置期間
平成20年11月から平成22年3月までの間設置する。
(ウ) 開催頻度
月1回程度(ただし,状況に応じ,回数の増減あり)開催する。
(エ) 協議内容
① 引継ぎ準備期間中(平成20年10月から平成21年3月まで)
平成21年4月から9月までに実施する引継ぎ・合同保育の法人職員配置態勢や実施内容等
② 引継ぎ・合同保育実施期間(平成21年4月から同年9月まで)
引継ぎ・合同保育の進捗状況の報告・確認,課題等に関し,解決に向けた協議
③ 移行後支援期間(平成21年10月から平成22年3月まで)
移行後の保育所運営の状況,児童の状況等報告・確認,課題等に関し,解決に向けた協議を行う。
イ(ア) Dは,平成21年3月,「仙台市A保育所から(仮称)C保育園への移行計画(案)」(乙34の2,39の2,41の1)を基に三者協議会での協議を経て「仙台市A保育所から(仮称)C保育園への移行計画」(以下「本件移行計画」という。乙43・4枚目以降)を作成した。同計画では,A保育所で行われているサービスに加え,例えば,①保育時間の延長,②食育の推進,③一時・特定保育の充実,④未満児保育の充実,⑤地域事業の充実,⑥子育て機能の地域開放の新サービスを付加し,更なる保育サービスの質の向上に努力することとされ,平成21年4月から同年9月までの間,引継ぎ・合同保育を行うこととした(乙43,弁論の全趣旨)。
(イ) 引継ぎ・合同保育実施態勢及び内容の概要は以下のとおりである(乙43)。
a 所長(1名,週2回(月,水))
(a) 平成21年4月から同年5月まで
公立所長から運営状況,児童の状況など新保育所運営のために必要な情報の伝達を受け,日々の保育の流れ,個々の児童やクラスの状況,保護者・関係機関・地域との連携などの情報を受けて把握に努める。合同保育における法人側総括責任者として,公立保育所長と協力し,合同保育の進行管理,職員への助言・指導を行う。
(b) 平成21年6月から同年7月まで
日々の保育の流れ,個々の児童やクラスの状況,保護者・関係機関・地域との連携についてより深く理解,把握するとともに,保育所行事等を通じて保護者との信頼関係を深める。合同保育の進捗状況を確認し,進行管理の調整・変更を行う。また,法人保育士との面談を実施し,助言・指導を個別に行い,職員個々の進行管理を確実に行う。
(c) 平成21年8月から同年9月まで
公立保育所長と協力しながら,公立保育士,法人保育士と共に「ひっこし」に向けて協調し,円滑に進めることができるよう助言・指導を行う。また,より不安の強い保護者,児童との個別面談を行い,不安解消を図るとともにより深い信頼関係を構築する。合同保育の進捗状況を最終評価し,調整・変更・確認を行うとともに,公立保育所長と協働し,保育所運営全体を広く見渡して,引越しに向けた準備に遺漏がないか最終確認を行う。
b 主任保育士(1名,週2回(火,木))
(a) 平成21年4月から同年5月まで
公立主任から運営状況,児童の状況など新保育所運営のために必要な情報の伝達を受け,日々の保育の流れ,個々の児童やクラスの状況,保護者・関係機関・地域との連携などの情報を受けて把握に努める。各クラス・障害児・フリー・給食・延長保育の現場を経験するとともに,所長を補佐し,合同保育の進行管理,職員への助言・指導を行う。
(b) 平成21年6月から同年7月まで
日々の保育の流れ,個々の児童やクラスの状況,保護者・関係機関・地域との連携についてより深く理解,把握するとともに,クラス懇談を通じて保護者との信頼関係を深める。各クラス・障害児・フリー・給食・延長保育の現場実践を通して,合同引継ぎ保育の進捗状況を確認するとともに,職員との日常的な面接を通して助言・指導を行う。
(c) 平成21年8月から同年9月まで
運動会の運営を通して児童,保護者との関わりを深め,信頼関係を強めるとともに,公立保育所主任と協力しながら,公立保育士,法人保育士に対し「ひっこし」に向けて協調し,円滑に進めることができるよう,助言・指導を行う。移行に向けた最終確認を行い,各クラスの保育状況の把握を通し,全クラスの引越しに向けた準備に遺漏がないか確認を行う。
c 保育士(ひよこ組(0歳児)1名,あひる組(1歳児)1名,はと組(1歳児)1名,りす組(2歳児)1名,うさぎ組(3歳児)1名,かば組(3・4歳児)1名,きりん組(4・5歳児)1名,障害児担当(うさぎ組)1名,障害児担当(きりん組)1名,週4回(月,火,水,木))
(a) 平成21年4月から同年5月まで
① 合同保育の達成目標
ⅰ)担任する児童や保護者と顔なじみになり,コミュニケーションを円滑にとることができる,ⅱ)担任する児童の個性や発達の特性,配慮を要する事項などが確実に把握できる。
② 実施内容
配属されたクラスの1日の流れを実践を通して把握する。公立保育士から,当該クラスの運営状況,児童の状況について,必要な情報伝達を受ける。保護者の送迎場面を中心に,コミュニケーションの機会を持つ。
(b) 平成21年6月から同年7月まで
① 合同保育の達成目標
ⅰ)担任する児童や保護者との信頼関係を構築できる,ⅱ)担任する児童の個性や発達の特性,配慮を要する事項等に「対応した保育」が実践できる。
② 実施内容
クラス懇談会を通して保護者との面談の機会を持ち,保護者との信頼関係を構築する。通常の保育場面にて児童,保護者との信頼関係を深めるのと併せ,夏の行事を活用して児童,保護者との一体感を深める。
(c) 平成21年8月から同年9月まで
① 合同保育の達成目標
ⅰ)公立保育士の補助を得て,法人職員が主体的に保育をし,クラス運営ができる,ⅱ)児童,保護者と法人職員が主体的にかかわり,より深い信頼関係を構築できる。
② 実施内容
運動会に向けた取組を通し児童,保護者との主体的関わりを強める。日々の保育実践の中心が法人保育士となり,公立保育士は意図的にサポート役に回る。「ひっこし」に向けて,お散歩,見学会などを活用するとともに児童と保護者の参画を頂いて保育を実施し,皆で協力できるよう働きかける。クラス単位で引越し準備に遺漏がないか確認を行う。
d 引継ぎ・合同保育に参加する職員以外の公立保育所実習計画
合同保育に参加しない職員については,その時点の勤務状態に配慮の上,平成21年8月から同年9月を中心に数日,A保育所の合同保育に参加する。大きな行事には可能な限り参加を促す。
e 研修(被告主催の研修・法人主催の研修)
基本研修,専門研修への参加,法人研修(2か月に1回)に参加する。
ウ 被告は,平成21年4月,三者委員会における協議を経て,公立保育所から新保育所への移行期間の概要として,引継ぎ・合同保育実施要領(以下「本件実施要領」という。)を作成した(乙15,28の1,125,弁論の全趣旨)。
本件実施要領の概要は,以下のとおりである。
(ア) 移行期間の概要
a 平成20年10月から平成21年3月まで(引継ぎ準備期間)
(a) 引継ぎ・合同保育の実施に向け,保育所ごとの移行計画(合同保育への法人職員配置計画,実施内容等に関する計画)を作成するなど準備を行う。
(b) 具体的には,三者協議会において移行計画の作成に向けた協議,園長及び主任保育士予定者等による公立保育所訪問及び行事等視察,民間への移行を踏まえた平成21年度年間指導計画(案)の作成(公立保育所・園長予定者との協議)を行う。
(c) 三者協議会を月1回程度開催し,引継ぎ・合同保育の態勢・実施内容等について協議することとし,協議の進捗状況に応じて保護者説明会を開催して三者協議会での協議状況を報告する。
b 平成21年4月から同年9月まで(引継ぎ・合同保育実施期間)
(a) 新保育所職員は,「移行計画」に基づき,公立保育所における合同保育を中心とした業務を行い,公立保育所の保育サービスを把握し,児童や保護者との信頼関係を形成する。被告は,法人職員向け研修を実施するとともに,引継ぎ・合同保育の進行管理を行い,必要に応じて調整・助言指導を行う。
(b) 具体的には,新保育所職員は,①事務の引継ぎ・実地における業務の把握(事務書類・マニュアル類等について書面・口頭による引継ぎ,保育や給食の場における実践,行事への参加等による業務の実施状況等の把握),②合同保育(公立保育所の各クラスにおいて公立保育所保育士と連携・協力しながら日々の保育を実施),③会議・研修(被告が主催する研修・公立保育所会議への参加,合同保育の進捗状況確認のための会議を定期的に開催)といった業務を行う。
(c) 三者協議会を月1回程度開催し,引継ぎ・合同保育の進捗状況報告・確認を行うとともに,課題等に関して解決に向けた協議を行う。また,協議の進捗状況に応じて保護者説明会を開催して三者協議会での協議状況を報告する。
c 平成21年10月から平成22年3月まで(移行後支援期間)
(a) 旧公立保育所の職員が定期的に新保育所を訪問し,助言・指導を行うことにより,移行前の保育内容の継承と一層の保育の質の向上を図る。
(b) 具体的には,旧公立保育所長・主任保育士による定期的な新保育所の訪問,被告保育課・保育指導課による移行後の状況確認を行う。
(c) 三者協議会を月1回程度開催し,移行後の保育所運営状況,児童の状況等報告・確認等を行うとともに,課題等に関して解決に向けた協議を行う。
(イ) 引継ぎ・合同保育の基本的な実施態勢と内容
a 所長(1名,4月から9月,週2回(月・水))
(a) 所長事務引継ぎ等(公立所長から当該公立保育所の運営状況,児童の状況等に関し,新保育所運営のために必要な情報の伝達を受けるなど)
(b) 合同保育マネジメント
b 主任保育士(1名,4月から9日,週2回(火・木))
(a) 主任事務引継ぎ等(公立主任から当該公立保育所の運営状況,児童の状況等に関し,新保育所運営のために必要な情報の伝達を受けるなど)
(b) 合同保育マネジメント
c 保育士(各クラス主担当,障害児担当保育士,4月から9月,週4回(月,火,水,木))
合同保育の実施(新保育所で担当となる予定の各クラスにおいて,公立保育所保育士と連携・協力し保育を行うなど)
(ウ) 具体的な引継ぎ内容
a 公立保育所での保育に関すること
(a) 保育の理念・被告の保育
保育の基本,保育目標,保育士の姿勢と保育方法
(b) 保育の計画
保育計画,安全保育計画,食育計画,保育指導計画,保育の記録
(c) 保育の実際
乳児保育,障害児保育,延長保育,アレルギー疾患のある子供の保育,外国籍の子供の保育,発達に応じた食事,食育への取組,食事における衛生,子供の健康,安全保育と事故への取組,防災・防犯への取組,虐待への対応
b 当該公立保育所の入所児童に関すること
(a) 児童個々の状況
1人1人の発達の様子や子供の特性(特徴,体質,配慮を要する事項),障害児への個別配慮事項,アレルギー児童への個別配慮事項
(b) 家庭状況等
保育をする上で必要な家庭状況等
c 当該公立保育所における保育所運営に関すること
(a) 保育計画等,保育指導計画(年間指導計画・月指導計画・週指導計画・日指導計画・評価反省)
保育指導計画(年間指導計画・月指導計画・週指導計画・日指導計画)の作成及びこれらの評価反省
(b) 保育所及びクラス運営
日々の保育の流れ,各クラスにおける取組の実際,延長保育・土曜保育時の留意事項
(c) 保護者対応
連絡帳,保護者会,送迎時の対応,保育参観,クラス懇談,個人懇談,保育所だより,各種掲示,苦情解決制度等
(d) 行事
入所式,遠足,七夕まつり,運動会,発表会,退所式,取組の実際,実施上の注意事項等,その他の月例行事等
(e) 給食
献立,おやつ,個別配慮事項等,食育への取組(関係する各種マニュアル等の引継ぎを含む)
(f) 衛生管理・健康管理等
健康診断,嘱託医との連携,薬の取扱い,衛生管理,感染症対策,安全管理,防災,事故防止対策等(関係する各種マニュアル等の引継ぎを含む)
(g) 保育所地域活動事業
子育て支援(園庭開放,図書貸出し,育児相談等),卒園児,地域団体,近隣施設との交流等
(エ) 引継ぎ・合同保育における公立保育所職員の役割と引継ぎ事項
a 公立所長
(a) 役割
合同保育の現場での統括責任者として,新保育所長と協力し,合同保育のマネジメントを行う。引継ぎ時間を設定し,新保育所延長に対し,引継ぎを行う。
(b) 引継ぎ事項
公立保育所での保育について,児童の個々の状況及び家庭状況について,保育計画等についてなど
b 公立主任保育士
(a) 役割
合同保育のマネジメントにおいて所長を補佐する。引継ぎ時間を設定し,新保育所主任に対し引継ぎを行う。
(b) 引継ぎ事項
所長と同様
c 公立保育士
(a) 役割
合同保育に参加する新保育所保育士と連携協力し,日々の保育を行う。新保育所保育士が合同保育に参加する当初において,設備や備品の使い方等,基本的な情報を教示する。新保育所保育士と共に保育を行う中で,児童の状況やクラス運営等に関し必要な情報を伝達する。月指導計画・週指導計画を作成する際には,新保育所保育士との連携を図る。
(b) 引継ぎ事項
日々の合同保育の中で,新保育所保育士に対して必要な情報の伝達をする。
エ 平成21年4月1日から,本件実施要領及び本件移行計画に基づき,引継ぎ・合同保育が開始され,A保育所は,同年6月8日,Dは同月5日,それぞれ同年4月から同年5月までの引継ぎ・合同保育の実施状況に関する報告書を作成し,引継ぎ・合同保育の状況について報告した(乙60の1,60の2)。
オ A保育所は,平成21年8月7日,Dは同月10日,それぞれ同年6月から同年7月までの引継ぎ・合同保育の実施状況に関する報告書を作成し,引継ぎ・合同保育の状況について報告した(乙103,104)。
カ 被告は,平成21年7月7日,引継ぎ・合同保育等に関する保護者アンケートを実施し,同年9月4日,引継ぎ・合同保育等に関する保護者からの意見(意見袋を含む)に対する対応を示した。
上記対応の中で被告の対応として,①延長保育について,A保育所の朝の延長保育の担当保育士がC保育園でも朝の延長保育を担当し,夕方の延長保育の担当保育士1名がC保育園でクラスを担当すること,夕方の延長保育担当は新しい保育士となるが,そのうち1名を平成21年9月16日から合同保育に参加させること,②移行スケジュールについて,新保育所の施設見学会を平成21年9月17日から19日,26日に開催し,開園説明会を同月17日に開催すること,同月28日から同月30日についても,随時,施設見学が可能であること,③移行後の支援について,C保育園には,6か月間の引継ぎ・合同保育に参加した所長以下11名の保育士とA保育所の臨時職員など6名の保育士が子供たちと共に移り,保育に当たること,移行直後の支援として,平成21年10月1日・2日にA保育所のほとんどの職員が朝夕に新保育所で子供たちの状況を確認すること,移行後半年間,A保育所の所長,主任保育士及び年長組担当保育士の3名が,新保育所を訪問し,子供たちの状況を確認するとともに保護者の相談に応じ,発表会や卒園式にも参加すること,上記所長等以外の職員についても,必要に応じて新保育所を訪問するとともに,発表会や卒園式に参加できるよう配慮すること,④C保育園の運営について,職員態勢は,常勤保育士19名中,5年以上の経験者が10名(約5割),その者を含め3年以上の経験者が15名(約8割)となっており,応募要件を大きく超える職員配置となっていること,新設の0歳児クラスは「かに組」とし,そのほかのクラスはA保育所のクラス名を引き継ぐことなどが示された(乙62,78)。
キ A保育所は,平成21年10月9日,Dは同年12月24日,それぞれ同年8月から同年9月までの引継ぎ・合同保育の実施状況に関する報告書を作成し,引継ぎ・合同保育の状況について報告した(乙105,106)。
ク 被告は,平成22年6月,A保育所等の民間移行化事業の達成状況の確認,課題・問題点の抽出・整理等を行い,今後の事業計画に活かすために「公立保育所民間移行 実施状況報告書(平成21年10月移行保育所分)」を作成した(乙123)。
(4) 保護者説明会の開催状況等
被告は,平成19年8月25日から平成21年9月17日までの間,A保育所の建替え等について合計11回の保護者説明会を開催した。具体的な開催状況等は以下のとおりである。
ア 本件民営化公表後,移管先法人選定前まで
(ア) 第1回保護者説明会(甲3の1,乙17の2)
被告は,平成19年8月25日,第1回A保育所保護者説明会を開催し,本件方針,ガイドライン及びA保育所建替え整備計画について,被告職員から説明があり,質疑応答,個別相談が行われた。
(イ) 第2回保護者説明会(甲4,乙18の2)
被告は,平成19年10月14日,第2回保護者説明会を開催し,本件方針,ガイドライン,A保育所建替え整備計画並びに第1回保護者説明会及びその後の意見・質問等に関する被告の考え方について,被告職員から説明がされ,質疑応答,個別相談が行われた。
(ウ) 第3回保護者説明会(甲5,乙19の2,乙19の3(枝番号を含む))
被告は,平成20年3月8日,第3回保護者説明会を開催した。説明会では,冒頭に保護者からの意見表明として,過去2回の説明会で不安や疑問が解消されていないにもかかわらず,今回の説明会で移管先法人の公募の要件の説明となることには納得がいかず,誠意が感じられない,子供の目線に立っていない民営化に反対するなどの意見が述べられた。
その後,被告から,本件方針及びガイドラインの概要,障害児保育事業等(乙19の3の1),運営主体の募集・選定(乙19の3の2),今後のスケジュール等(乙19の3の3・2枚目)及びこれまでの保護者説明会等での意見・質問に関する被告の考え方(乙19の3の4)について説明がされ,質疑応答が行われた。
(エ) 第4回保護者説明会(甲6,乙20の2,乙20の3(枝番号を含む))。
被告は,平成20年4月12日,第4回保護者説明会を開催した。説明会では,保育所にかかる運営経費(乙20の3の1),事業者の公募(乙20の3の2),今後のスケジュール(乙20の3の3・2枚目)及びこれまでの保護者説明会等での意見・質問に対する被告の考え方(乙20の3の4)について被告から説明があり,その後,質疑応答が行われた。
(オ) 第5回保護者説明会(甲7の1,乙21の2,乙21の3(枝番号を含む))。
被告は,平成20年5月17日,第5回保護者説明会を開催した。説明会では,被告から保育所設置運営法人の応募要件(乙21の3の1),今後のスケジュール(乙21の3の2・2枚目)及びこれまでの保護者説明会等での意見・質問に関する被告の考え方(乙21の3の3)について,被告職員から説明がされ,質疑応答が行われた。
(カ) 第6回保護者説明会(甲8,乙22の2)
被告は,平成20年7月24日,第6回保護者説明会を開催した。説明会では,事業者の応募要件,応募状況(乙22の3の1)及び今後のスケジュール(乙22の3の2・4枚目)並びに区画整理事業による移転補償費について,被告職員から説明がされ,質疑応答が行われた。
(キ) 第7回保護者説明会(甲9,乙23の2)
被告は,平成20年10月29日,第7回保護者説明会を開催した。説明会では,新保育所設置運営法人の決定(乙23の3の1),これまでの経過及び今後のスケジュール(乙23の3の2・3枚目),公立保育所から新保育所への移行(乙23の3の3),三者協議会(乙23の3の4)について,被告から説明がされ,新保育所設置運営法人であるDから挨拶がされた後,質疑応答が行われた。
イ 移管法人選定以降
(ア) 第8回保護者説明会(乙32,33)
a 被告は,平成21年1月31日,第8回保護者説明会を開催した。説明会では,三者協議会の開催状況,引継ぎ・合同保育の基本的な実施態勢,学識経験者の意見を踏まえた10月移行の考え方について,被告職員から説明され,Dから新保育所の概要が説明され,質疑応答がされた。
b 被告から説明があった10月移行の考え方の内容は,概要,以下のとおりである。
4月移行によるデメリットの軽減(10月移行のメリット)として,①環境変化の時期を分散させることによる負担軽減(年度途中の移行とすることで,4月当初のクラス編成を変えない対応が可能となり,建物の変化を10月にすることにより,子供たちに与える環境変化の負担を分散させることができ,4月からの積み重ねで形成される集団としてのまとまりにより,10月における環境の変化を友達と一緒に乗り越えていくことが可能となる。),②保育士の負担軽減(年度当初の忙しさや負担を避けることで,落ち着いて移行業務に対応でき,職員が子供たちに十分目を向けていくことが可能となる。),③保育の流れからみた合同保育の効果(4月から9月の合同保育期間の中で,新しい保育士と子供たちが日々の保育の中で経験と共感を積み重ね信頼関係を築き,半年間で慣れ親しんだ保育士と共に10月の安定期に移行を迎えることで,合同保育の効果が高くなる。)の3点が挙げられる。
また,10月移行のデメリット(保護者の不安)への対応策として,
①移行計画を作成し,きめ細やかな引継ぎ・合同保育を実施すること,②法人保育士に嘱託発令をし市職員の身分を与えて合同保育を行う,A保育所の臨時職員を法人職員として雇用するなど法人保育士との信頼関係を形成し,できるだけ顔の変わらない対応を行うこと,③10月以降もA保育所長・主任保育士を他の保育所に異動させず,新保育所を訪問するなど新保育所開所後の公立保育所職員のサポート態勢を構築すること,④年間指導計画の公立保育所と新保育所共通の計画として作成することなどの工夫を行うこととする。
(イ) 第9回保護者説明会(乙43,45)
被告は,平成21年3月19日,第9回保護者説明会を開催した。同説明会では,三者協議会の開催状況,引継ぎ・合同保育の開始及びC保育園における保育サービスについて,被告職員及びDから説明がされ,質疑応答が行われた(乙43,45)。
(ウ) 第10回保護者説明会(乙67の1,75)
被告は,平成21年7月31日,第10回保護者説明会を開催した。同説明会では,保護者アンケートの集計概要,移行に伴う今後のスケジュールについて,被告職員から説明がされ,(仮称)C保育園への移行に当たってのお知らせ,新規保育事業等の利用希望調査票について,Dから説明がされ,質疑応答が行われた。
(エ) 第11回保護者説明会(乙76,77)
被告は,平成21年9月17日,第11回保護者説明会を開催した。同説明会はC保育園の開園説明会として開催され,Dから引越しの方法,園舎の利用方法,1日の生活の流れ等について説明がされ,質疑応答がされた。
(5) 三者協議会の開催状況等
平成20年12月22日から平成22年6月19日までの間,合計15回の三者協議会が開催された。三者協議会の委員は,保護者代表(各クラス代表である原告ら7名からその都度3名が出席する。),D職員3名,被告子供未来局職員3名(訴外保育課長,訴外保育指導課主幹,訴外A保育所長)で構成された(乙25の3の1,証人F)。
被告は,三者協議会が開催されるごとに,A保育所の保護者に対し,三者協議会における協議内容の概要を記載した「三者協議会だより」を配布した(乙28の2,30の1,38の2,43,46の2,48の2,52の2,56の2,73,84,92,95,112,118,128,弁論の全趣旨)。
三者協議会の具体的な開催状況等は,以下のとおりである。
ア C保育園移行(平成21年10月)まで
(ア) 第1回三者協議会(乙25の2から25の3の2,28の2)
平成20年12月22日,第1回三者協議会が開催され,三者協議会の進め方,引継ぎ・合同保育の実施態勢(想定案)について協議が行われた。
具体的には,協議内容として,①平成21年3月までは,引継ぎ・合同保育の人員態勢・実施内容や進行管理の方法等について定める「移行計画」の作成に向けた協議,移行後の保育の質の維持・向上に関する確認方法について,②平成21年4月から同年9月まで(引継ぎ・合同保育実施期間)は,引継ぎ・合同保育の実施状況等を確認し,問題点の解決に向けた協議,③平成21年10月移行は,移行後の保育所運営状況等を確認し,問題点の解決に向けた協議をそれぞれ行うものとされた。
また,「引継ぎ・合同保育の実施態勢<想定案>A」(乙25の3の2)では,引継ぎ・合同保育に参加する法人保育職員態勢(想定)は,全クラス1名ずつ参加とされていたものの,3歳児クラスの「うさぎ組」,3・4歳児クラスの「かば組」について,引継ぎ・合同保育の実施が平成21年7月から同年9月までの3か月間とされていたことから,保護者から合同保育期間が「うさぎ組」及び「かば組」のみ平成21年7月から3か月となっているが,すべてのクラスで同年4月からの半年間にしてほしいとの意見が述べられ,被告において検討することとされた。
(イ) 第2回三者協議会(乙28の1,30の1)
平成21年1月17日,第2回三者協議会が開催され,引継ぎ・合同保育の実施態勢,移行計画の策定,移行後支援の在り方について協議が行われ,被告から移行計画の策定等(乙28の1・3枚目以降)について説明が行われた。
具体的には,被告から引継ぎ・合同保育の実施態勢については,第1回三者協議会で出された保護者の意見を踏まえ,3歳児クラス,3・4歳児クラスを含めた全クラスについて合同保育期間を平成21年4月から同年9月までの6か月行うものとするとした修正案(乙28の1・2枚目)が示され,今後,上記修正案をもとに,具体的な人員の配置を協議していくこととされた。
また,保護者から移行後支援の在り方について,公立保育所長・主任保育士が訪問する支援態勢をとるとされているが,クラス担当の保育士についても一定程度訪問する支援態勢をとってほしいとの意見が出され,被告から短期的に集中してということであれば検討は可能であり,元の公立保育士が時々訪問を行うというアフターフォローの方法もあるなどと回答され,Dからは,6か月間の合同保育を最大限活かし,移行後のサポートの有無にかかわらず十分対応できる態勢を準備していきたいとの意見が出された。
(ウ) 第3回三者協議会(乙34の2,38の2)
平成21年2月14日,第3回三者協議会が開催され,Dから平成21年2月14日付け「仙台市A保育所から(仮称)C保育園への移行計画(案)」(乙34の2)について説明がされた。その際,被告から,引継ぎ・合同保育の基本的な実施態勢について,合同保育に入る法人保育士数を8名としていたが,障害児担当が1名増えることとなったため,合同保育に入る法人保育士数が9名となった旨説明がされた。
新保育所でのサービス等について協議が行われ,保護者から10月移行に反対であること,子供に不安のない移行をしてほしいこと,クラス名は変更しないでほしいことなどの意見が寄せられているとの報告がされた。
(エ) 第4回三者協議会(乙39の2,40の2,43)
平成21年2月28日,第4回三者協議会が開催され,Dから平成21年2月28日付け「仙台市A保育所から(仮称)C保育園への移行計画(案)」(第3回三者協議会で説明がされたものから行事等に関してA保育所と調整がされたもの。乙39の2)について説明がされ,次回の三者協議会で保護者等からの要望等を出してもらった上で,決定することとされた。
C保育園において行われる新サービスである①布団リース,②3歳児以上の主食提供,③クラス名について協議が行われ,①については,選択制のサービスとして,新保育所で布団リースを導入することとし,希望者は平成21年4月からA保育所でも利用できることとすること,②については,選択制のサービスとして,平成21年10月から新保育所で実施すること,③については,基本的には3歳以上児のクラス名については変更せず,3歳未満児のクラス名については新しいクラス名にするかどうか更に検討することとされた。
(オ) 第5回三者協議会(乙41の1,46の1,46の2)
平成21年3月14日,第5回三者協議会が開始された。同協議会では,新保育所への移行計画について,平成21年3月付けの「仙台市A保育所から(仮称)C保育園への移行計画(案)」(乙41の1)のとおりとすることとされ,新保育所での保育サービス等として,①布団リース,②3歳以上児の主食提供について協議された。
また,被告から10月からの定員増加について,基本的には集団を変えないものの,少しずつ児童が増えていくことがあるとの説明がされ,Dから,0歳児の部屋が1室空いていることから,その部屋には受入れを行いたいこと,10月までの集団は変えないが,事情のある方もいることから,クラスに1名ずつぐらいは増やしていくことができれば,新しい保護者は助かると思うとの説明がされた。これに対して,保護者からは,10月に突然30人増える,というやり方をするのではなく,あくまでも集団を維持していくという考え方であれば,困っている人もいることから理解する旨の発言がされた。
さらに,新保育所移行後の公立保育所の支援態勢について,被告から,A保育所長及び主任保育士を保育課付として移行後の支援を行うこと,5歳児クラス担当保育士1名を保育指導課付とし,10月から半年間,週に1回程度の新保育所訪問,卒園式への出席が可能となるよう対応したいこと,その他の保育士についても,月1から2回程度は新保育所を訪問できるようにしていきたいとの説明がされ,保護者からは,3・4歳児クラスの保育士についても同様にできないかとの要望が出された。
加えて,被告から,平成21年10月の引越しの進め方として,同年9月26日の運動会後,子供たちがおもちゃを持って新保育所に行くなど引越しを意識付けること,机や食器はA保育所のものを新保育所に譲ること,平成21年10月1日から3日はA保育所の保育士が新保育所に行って子供たちの様子を見ることができるようにしたいことなどが説明された。
(カ) 第6回三者協議会(乙47,48の1,48の2)
平成21年4月25日,第6回三者協議会が開催された。同協議会では,被告職員から,平成21年9月まで月1回程度三者協議会を開催し,合同保育等の実施状況を把握していくとともに,引越しの方法や保育サービス,10月以降の支援態勢について協議していくことなど引継ぎ・合同保育等に関する今後のスケジュールが説明された。
また,これまでの引継ぎ・合同保育について,保護者から,まだ新職員の顔と名前が一致せず,挨拶などコミュニケーションが足りないように思うなどの感想が述べられ,A保育所から,今後,課題を修正しながら焦らず取り組んでいきたいとの話がされた。
さらに,移行後の支援について,保護者から,5歳児クラスのクラス担当1名が,移行後支援を行うこととされているが,障害児担当のもう1名のクラス担当もいることから,2名とも支援を行えるようにしてほしいとの要望が出され,被告から,移行後支援は合同保育の進み方によっても必要度が変わってくると考えられることから,その進捗状況等も踏まえて,三者協議会で話し合っていきたいとの回答がされた。
(キ) 第7回三者協議会(乙51から52の2)
平成21年5月30日,第7回三者協議会が開催された。同協議会では,引継ぎ・合同保育等に関する保護者アンケートのアンケート項目について,意見交換がされ,次回決定することとされた。
また,これまでの引継ぎ・合同保育について,A保育所から,子供たちもDの保育士に慣れてきており,担任としての存在に位置付けられつつあるとの話などがされた。
(ク) 第8回三者協議会(乙55,56の1,56の2)
平成21年6月27日,第8回三者協議会が開催された。同協議会では,これまでの引継ぎ・合同保育について,A保育所から,平成21年6月から週の3分の1をDの保育士が,3分の2をA保育所の保育士が保育を担当するようにしており,7月以降は,週の3分の2をDの保育士が,3分の1をA保育所の保育士が担当するなど,Dの保育士が子供たちや保護者と関わりを深めていけるようにしたいなどの話がされた。
また,C保育園のクラス名について,保護者から,クラス名については変更する必要はない,子供たちに前のクラス名の記憶が残っている間は変えないほうがいいなどの意見が出され,Dから,クラス名についてはすぐに変更することはなく,10月以降,保護者懇談会等の機会を捉え,保護者の理解を得た上でゆっくり時間をかけて決めていきたいとの回答がされた。
さらに,保護者からA保育所の屋根から子供たち全員の集合写真を撮影して配布することはできるかとの要望が出され,被告から可能と思われるので検討するとの回答がされた。そして,被告からA保育所にある桜の木を1本,新保育所に移植可能性があるなどの話がされた。
そのほか引継ぎ・合同保育等に関する保護者アンケートについて協議等がされた。
(ケ) 第9回三者協議会(乙64,72,73)
平成21年7月25日,第9回三者協議会が開催された。同協議会では,移行後支援計画につき,平成21年10月1日,2日にはA保育所の所長,主任保育士,保育士などが新保育所で子供たちの状況を確認すること,A保育所の所長,主任保育士,年長組担当保育士の3名がそれぞれ訪問日を変えて,平成21年10月には週1回(計12日間),同年11月には2週に1回(計6日間)など新保育所を訪問し,子供たちの状況を確認するとともに,保護者からの相談を受けることなどが協議され,今後の合同保育の進捗状況を見ながら次回の三者協議会で更に協議することとされた。
また,C保育園の入所児童見込みについて,被告から,現在のクラスに影響が出ないように配慮しながら,新保育所周辺で平成21年10月に見込まれる入所希望者については,その緊急度に応じ,月々1名から3名の入所児童を受け入れていきたいこと,かに組(0歳児クラス)については,新しいクラスであり,保育士も新たに配置することから10月から入所させたいなどの説明がされ,保護者から待機児童を減らしたいのは分かるが,今いる子供たちを最優先で考えてほしいとの意見が出された。
そのほか,これまでの引継ぎ・合同保育の内容等について報告,引継ぎ・合同保育等に関する保護者アンケート集計概要についての説明等がされた。
(コ) 第10回三者協議会(乙82から84)
平成21年9月12日,第10回三者協議会が開催された。同協議会では,C保育園の入所児童見込みについて,平成21年10月から新たに増える「かに組」に9人,「あひる組」に2人,「かば組」に1人の入所を協議したところ,保護者から概ね理解を得られた。
また,移行後支援計画について,被告から①移行直後の支援(平成21年10月1日,2日には,A保育所のほとんどの職員が朝夕に新保育所での子供たちの状況を確認し,新保育所の職員に適切な助言等を行うなど),②訪問相談及び助言・指導による支援その1(A保育所の所長,主任保育士,年長組担当保育士の3名が,平成21年10月は週1回,同年11月は2週に1回,同年12月は月1回程度,訪問日を変えて新保育所を訪問し,子供たちの状況を確認する,保護者の相談に応じられるよう朝夕の送迎時間にも訪問するなど),③訪問相談及び助言・指導による支援その2(年少組の保育士についても,必要に応じて新保育所を訪問するとともに,発表会や卒園式に参加できるように配慮する),④電話相談での支援(A保育所の所長,主任が保護者から電話相談に応ずるとともに,新保育所からの運営に関する相談等にも対応する)との説明がされた。
そのほかC保育園の職員名簿(乙82・2枚目)が提示された。
イ C保育園移行後(平成21年10月移行)
(ア) 第11回三者協議会(乙90から92)
平成21年10月31日,第11回三者協議会が開催された。同協議会では,A保育所の所長及び主任保育士から,訪問相談日程表のとおり3名で計13日間訪問したこと,10月当初は子供たちもクラスに慣れていない様子であったが,現在ではそのような様子も少なくなったことなどについて報告がされた。
また,主食提供について,保護者から,全員が主食提供を受けられるまでパンか御飯のみにするなどの配慮が必要なのではないかなどの意見が出され,Dからパンや御飯のみが主食ではなく,食育の観点からも多彩なメニューにしたいと考えているが,今後,栄養士と相談しながら主食提供を受けていない子供に配慮していきたいとの回答がされた。
そのほか平成21年11月移行の入所児童の見込みなどについて協議がされた。
(イ) 第12回三者協議会(乙93から95)
平成21年12月12日,第12回三者協議会が開催された。同協議会では,移行後支援の実施状況について,A保育所の所長及び主任保育士から,訪問相談日程表のとおり3名で合計6日間訪問したこと,最近は子供たちも職員全員の顔や仕事内容を理解し,食事のとき緊張なく気持ちを伝えられるようになっているなどの報告がされた。また,C保育園の園長からも移行後の保育園の状況等について報告がされた。
また,主食提供について,保護者から平成21年12月の献立表において,主食提供を受けていない子供への配慮が必要な日が3回から5回に増えているがどういうことか,バラエティー豊かに提供してもらいありがたいと思っている保護者もいるなどの意見が述べられ,Dからは,麺類の日をなくすのではなく,行事食という形で全員に同じ主食を提供できるよう,平成22年1月以降の献立を考えていきたいなどと回答がされた。
そのほか公立保育所の民間移行に関する保護者アンケート案などについて協議がされた。
(ウ) 第13回三者協議会(乙110から112)
平成22年2月13日,第13回三者協議会が開催された。同協議会では,移行後支援の実施状況について,A保育所の所長及び主任保育士から,訪問相談日程表のとおり3名で合計3日間訪問したこと,子供たちが大分慣れた様子であることなどが報告され,C保育園の園長からも報告がされた。
そのほか公立保育所の民間移行に関する保護者アンケートの集計概要について説明がされるなどした。
(エ) 第14回三者協議会(乙116から118)
平成22年3月13日,第14回三者協議会が開催された。同協議会では,移行後の状況として,A保育所の所長及び主任保育士から,保護者アンケートで朝夕の延長保育にも訪問してほしいという要望があったことから,時間をずらして訪問したこと,平成22年3月20日の卒園式にはA保育所の職員も参加する予定であることなどが報告され,C保育園の園長からも保育園の状況等について報告がされた。
被告から,公立保育所の民間移行に関する保護者アンケート集計結果に基づき,保護者の意見や要望に対する現時点でのDや被告の対応・考え方について説明がされた。
(オ) 第15回三者協議会(乙126から128)
平成22年6月19日,第15回三者協議会が開催された。同協議会では,移行後の状況について,C保育園の園長から保育園の状況等について説明がされ,被告から,保護者のアンケートなどの結果を踏まえて,公立保育所民間移行実施報告書を作成しているところであるなどの説明がされた。
2 争点(1)について
(1) 原告の法的利益の性質等
ア 市町村は,保護者の労働又は疾病等の事由により,その監護すべき児童の保育に欠けるところがある場合において,その児童の保護者から申込みがあったときは,その児童を保育所において保育しなければならないとされ,保育所における保育の実施を希望する保護者が,入所を希望する保育所等を記載した申込書を提出して申込みをしたときは,同申込書に係る児童すべてが入所すると適切な保育の実施が困難になるなどのやむを得ない事由がある場合に入所児童を選考することができること等を除けば,その児童を当該保育所において保育しなければならないとされていること(児童福祉法24条1項から3項)に照らすと,その保育所の受入れ能力がある限り,希望どおりの入所を図らなければならないこととして,保護者による保育所の選択を制度上保障したものと解される。そして,入所時における保育所の選択は,入所後の一定期間にわたる継続的な保育の実施を当然の前提とするものであり,入所後に自由に退園等を求め得るとするのでは,保護者の上記保育所選択の利益の保障を無意義なものとすることになるから,児童福祉法は,入所時における保育所の選択の利益を保障するとともに,入所後における継続的な保育の実施を要請するものと解するのが相当である。
以上によれば,児童福祉法は,保護者による保育所の選択を制度上保障し,特定の保育所で保育の実施を受ける利益を尊重すべきものとしていると解するのが相当である。
イ もっとも,公立保育所は,被告が設置し,運営している保育所であるから,地方自治法244条にいう「住民の福祉を増進する目的をもってその利用に供するための施設」,すなわち「公の施設」に該当するところ,公の施設の廃止は普通地方公共団体の長の担当事務とされ(地方自治法149条6号),公の施設の廃止については同法244条の2がその手続を規定しているほかは同法上に特段の制限規定は設けられていない。また,児童福祉法35条6項は,市町村が,保育所を含む児童福祉施設を廃止しようとするときは,その廃止の1か月前までに,厚生労働省令で定める事項を都道府県知事に届け出なければならないとし,児童福祉施設が廃止され得ることを前提としており,児童福祉法35条6項の規定を受けた児童福祉法施行規則38条1項は,「法35条6項に規定する命令で定める事項」について,同項2号において,「入所させている者の処置」を挙げており,現に入所者がいる児童福祉施設の廃止を前提とした規定となっていることに照らせば,児童福祉法は,入所者がいる児童福祉施設の廃止を予定しているものと解される。これに加えて,公立保育所も公の施設であるから,住民全体の利益に適う有効利用がされるべきであり,保育所の利用は長ければ6年間にも及び,当該保育所を取り巻く諸情勢に変化が生じることは避け難く,もともと入所時に定める保育期間も入所時における見込期間という性質を有するものである。そして,市町村の有する限られた資産等を有効利用する必要性があることを考慮すると,保護者が有する上記法的利益について,保育所の廃止を許さない絶対無制約のものと解することはできず,市町村が設置する保育所の廃止は,基本的には設置者の合理的な裁量判断に委ねられているものと解するのが相当である。
(2) 保育所廃止回避義務(保育所廃止回避努力義務)について
ア 原告は,経済的効率性のために公立保育所を廃止することは許されず,「子の最善の利益」のためには,公立保育所で実現可能なことはまず公立保育所で実現努力すべきであり,そのような検討・努力をせずに民営化を進めることは不合理であって被告の責任を放棄するものである旨主張する。
イ(ア) しかし,上述したとおり,保護者の保育所選択等の利益は尊重されるべきものではあるものの,絶対無制約なものではなく,市町村が設置する保育所の廃止は,基本的には設置者の合理的な裁量判断に委ねられているものと解されることに照らせば,原告が主張するように,保育所の設置者である普通地方公共団体が保育所を廃止するか否かの判断に当たり,公立保育所で実現可能なことはまず公立保育所で実現努力するという保育所廃止回避義務あるいは保育所廃止回避努力義務があるとはいえない。もっとも,保育所の廃止に係る上記設置者の裁量権はもとより無制約に許容されるわけではなく,普通地方公共団体が,公立保育所を廃止・民営化するか否かの判断に当たっては,当該地方公共団体における財政状況,保育環境等を合理的に考慮したものである必要があると解される。
(イ) 本件についてみるに,前記前提事実,上記1に認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件民営化に当たり,本件方針及びガイドライン(以下「本件方針等」という。)を策定し,本件方針等に基づき,本件民営化を進めているところ,本件方針等は,被告の歳入が前年度割れするなど厳しい財政状況が続く中において,今後も増加する待機児童対策としての新保育所増設,子育て支援サービスの充実を図っていく要請がますます高まり,保育所関係予算の増加が今後も継続していくことが予想されること,被告における待機児童問題が相当に深刻なものであること,被告では民間保育所が多様化する保育ニーズに対応し,施設の新設・増設,定員の弾力化等の柔軟性・機動性により待機児童解消に寄与してきた実績があること,人件費・新園舎建設等の被告の負担額の節減を図ることができること(保育所運営費は,民間保育所に比して,公立保育所が人件費等のため約3割高額であり,社会福祉法人による保育所建設の場合には国から補助金が出される。),上記節減により生じた予算を待機児童の解消,子育て支援等の充実のために充てることができることなどを勘案し,老朽化等に伴う公立保育所建替えに際して,基本的には民設民営とすることとしたものと認められる。そして,行政は健全な財政状況の下で的確な行政施策を実施し,地域住民のより良い生活を実現すべき責任を負い,保育行政も限られた資源の中で行うことが求められるものである以上,経済的効率性という観点を完全に排除することはできず,保育所運営は,必ず公立で行わなければならない性質のものではなく,民間によっても可能であるものであること(もっとも,公立による保育所運営が要請される場合があることは当然である。)を併せ考慮すれば,本件方針等が,公立保育所の建替えについて基本的に民設民営方式によるとしたことが合理性を欠くとはいえない。
(ウ) そうすると,被告は,被告を取り巻く保育の状況,予算の効率的配分,被告全体の保育行政の充実等を勘案し,A保育所を廃止・民営化することとしたのであり,A保育所を廃止・民営化すること自体については合理性を欠くとはいえず,被告がA保育所を廃止・民営化したこと自体をもって国家賠償法上違法と評価されるものではないというべきであるから,原告の上記主張は採用することができず,そのほか本件記録を精査しても,ほかに原告の上記主張を認めるに足りる証拠はない。
ウ よって,A保育所を廃止・民営化したこと自体を理由とする原告の国家賠償法上の違法性の主張は理由がない。
(3) 配慮義務違反について
ア 公立保育所を廃止・民営化する場合,当該保育所に入所している児童の保護者の保育所選択等の利益を侵害することになるだけでなく,上記児童を取り巻く環境にも少なからぬ影響を及ぼすことが不可避であるから,公立保育所の廃止・民営化に当たっては,適切な移管先法人を選定し,同法人に対して円滑な引継ぎを行い,児童に対する適切な保育を実施できるような措置を講じ,児童の心身に十分配慮した適切な措置を講ずるなどの配慮を行うとともに,保護者の懸念・不安を軽減する配慮を行うべき義務を負っているというべきであり,この義務に違反した場合には,国家賠償法1条1項の適用上違法となると解すべきである。そこで,以下,個別に移管の過程を検討する。
イ 移管先法人の選定について
(ア) 前記前提事実,上記1に認定した事実,証拠(乙23の3の1)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,移管先法人の選定に当たり,①ガイドラインにおいて,(a)運営主体は,原則として,認可保育所等の児童福祉施設の運営実績があり,かつ,保育の質の維持・向上が確保できる社会福祉法人であること,(b)事業者を公募すること,(c)被告の認可保育所の整備基準及び保育基準を満たすこと,(d)事業者を選定委員会により選定すること,(e)事業者名を公表することとし,保育の質を維持・向上させることができるような質の高い法人を選定できるよう方針を示し,②移管先法人の募集に当たり,審査方法として,保育所の設置運営に対する考え方等についてのヒアリング,公認会計士による資金計画等の審査を経た上,選定委員会の審査による選定することなどを定めた本件募集大綱を作成し,保護者説明会において保護者に本件募集大綱の説明をするとともに,保護者から意見を聴取し,③保護者から聴取した意見を考慮し,保育所に勤務させる施設長,主任保育士,保育士などの経験年数等について具体的な要件を設定した本件募集要項を作成し,④本件募集要項に基づき,移管先法人を公募した上,応募法人の資金計画等の審査を行い,⑤選定委員会が,評価基準に基づき,保育の専門家の専門的視点も取り入れた上で,移管先法人としてDを選定し,⑥法人選定後,応募した法人,選定の理由等について,保護者説明会に説明をして結果報告を行っていること(乙23の3の1),以上の事実が認められる。
上記諸事情に照らせば,被告は,移管先法人の選定に当たり,保育の質を維持・向上させ,児童に対して適切な保育を行うことのできる法人を選定するため,保護者の意見等を取り入れ,専門家を選定委員会の委員に加え,保護者に情報提供を行うなどしていたということができる。そして,本件証拠上,上記移管先法人の選定について,その選定手続及び移管先法人として選定されたDに特段の問題があったと認めることはできない。
(イ)a この点,原告は,①移管先法人の選定手続・選定基準等が不明確であり,移管先法人の選定に当たって,工事費用,経営面の議論が目立つなど児童の利益になるかが十分議論されていない,②移管先に重大な関心を抱いている保護者が選定委員会の委員に加えられていないなど,移管先法人の選定に当たって,保護者への配慮が欠けている旨主張する。
b しかし,上記①の点について,前記前提事実,上記1に認定の事実,証拠(乙23の3の1,37の2の1,37の3)及び弁論の全趣旨によれば,(a)移管先法人の選定は,評価基準が定められた上で,評価基準に基づいて応募法人の審査がされ,(b)選定手続は,本件募集大綱・本件募集要項において審査方法が示され,保護者にも説明がされた上,同審査方法により選定のための審査が進められ,法人選定後は,応募した法人,選定の理由等について,保護者説明会において説明され,結果報告が行われるなど,手続の透明性を確保するための措置が講じられており,(c)評価基準には保育内容や保護者との関係についての項目,保育所における人材の配置・育成等に係る項目が含まれ(乙37の2の1),選定委員から保育内容の充実に関する意見が述べられているなど(乙37の3),保育内容等を含めた実質的な審査・議論がされたことがうかがわれるのであるから,移管先法人の選定に係る原告の上記①の主張をたやすく採用することはできない。
c また,上記②の点について,確かに,原告が主張するとおり,移管先法人がどのような法人となるのかは,子供を預ける保護者にとって非常に強い関心事であり,保護者がより良い法人を選定してほしいと考えるのは当然であり,保護者を選定委員会の委員に加えてほしいとの気持ちは理解し得るものの,移管先法人の選定は,中立的な立場から多角的視点に立って選定する必要性があることも否定できないのであるから,選定委員会の委員に保護者を必ず加えなければならないということはできない。そして,上記1に認定した事実,証拠(乙23の3の1)及び弁論の全趣旨によれば,本件では,(a)上記(ア)のとおり,本件募集要項を作成するに当たり,保護者の意見が取り入れられていること,(b)選定委員会の各委員に公立保育所の建替えに関する説明会における保護者の意見・質問に関する資料も配布され,評価の基礎資料とされていたこと,(c)法人選定後,応募した法人,選定の理由等について,保護者説明会において説明がされ,保護者に結果報告が行われていること(乙23の3の1)が認められるのであり,移管先法人の選定に当たり,保護者に一定の配慮がされていたということができ,原告の上記②の主張は採用することができない。
ウ 引継ぎ・合同保育等について
(ア) 引継ぎ・合同保育の実施態勢・内容等
a 前記前提事実,上記1に認定した事実及び弁論の全趣旨によれば,被告は,①ガイドラインにおいて,事業者が新保育所の施設等を保護者に説明し,保護者及び被告と協議したうえで上記移行計画を決定することなど,移管先法人が円滑な引継ぎをするための方針を示し,②引継ぎ・合同保育等について協議を行う場として平成20年12月22日から平成22年6月19日まで合計15回にわたって三者協議会を開催し,③本件実施要領及び本件移行計画について,三者協議会における協議を行い,保護者の意見等も踏まえた上で(例えば,引継ぎ・合同保育の期間が3か月とされていた「うさぎ組」,「かば組」について,保護者からの意見により6か月に変更している。),本件実施要領及び本件移行計画に基づいて引継ぎ・合同保育を実施すること(C保育園の園長,主任保育士をはじめ,各クラスの担任となる予定の保育士9名が参加し,子供たちとの信頼関係の構築に努め,A保育所における保育内容等の引継ぎ等を行うことなど)とし,④引継ぎ・合同保育の実施状況については,A保育所及びDが報告書を作成し,報告を行うとともに,三者協議会で引継ぎ・合同保育の状況の報告を行い,引継ぎ・合同保育の内容として,⑤平成21年9月中旬ころから,延長保育担当の保育士も引継ぎ・合同保育に参加させるなど,移管先法人であるDが円滑に引継ぎを行うことができるようにするとともに,引継ぎ・合同保育の状況について,保護者に情報提供を行いつつ,保護者の意見を取り入れるなど,保護者にも配慮した引継ぎ・合同保育を行うことができる措置を講じていたということができる。
b(a) この点,引継ぎ・合同保育に関して,原告は,①移管後,C保育園の保育士が児童の自主性を阻害する対応を行い,児童に対する配慮が行き届いていないなど保育の質が低下している,②引継ぎ・合同保育の期間について,6か月間という期間は不十分である,③引継ぎ・合同保育の明確な方針が定められず,引継ぎ・合同保育において様々な問題が起こっていたにもかかわらず,被告が十分な助言・指導を行っていない,④DがA保育所の保育の引継ぎを考えていなかったなど,引継ぎ・合同保育は十分にされていなかった旨主張し,これに沿う証拠(①につき,甲39,原告本人,③につき,乙60の1,103から106,④につき,証人F)もある。
(b) 上記①の点について,証拠(甲39,原告本人)によれば,原告が主張するように遊具を片付けようとしたら保育士が片付けてしまったことや,児童が隣の児童とけんかとなり,泣きながらお菓子を食べていたにもかかわらず,保育士が気付かず,声を掛けてくれなかったことなどの出来事があったことがうかがわれる。
しかし,上記のような個別の出来事から直ちにC保育園の質がA保育所に比べて低下したという事実を認めることはできないというべきである。かえって,A保育所の民間移行に関する保護者アンケート(乙118)によれば,引継ぎ・合同保育の内容については82.5%の保護者が「十分である」あるいは「概ね十分である」であると回答し,新保育園での保育内容全般については,96.6%の保護者が「満足している」あるいは「概ね満足している」と回答しているなど,多数の保護者が引継ぎ・合同保育の内容,C保育園における保育内容について,肯定的な評価をしていることに照らせば,C保育園に移行したことによって原告主張のように保育の質が下がったと認めることはできない。
(c) 上記②の点につき,引継ぎ・合同保育においては,6か月間あれば,その期間中に児童と引継ぎ・合同保育に参加しているDの保育士との間の信頼関係が相当程度構築されると想定されるから,その期間が引継ぎ・合同保育期間として合理性を欠くということはできない。そして,実際にも,A保育所の民間移行に関する保護者アンケート(乙118)において,引継ぎ・合同保育の内容について多くの保護者が肯定的な評価がされていることに加え,移行前後における児童の様子の比較において,73.3%の保護者が「新しい園に行くことを楽しみながら移行できた」あるいは「特に変わりなく,概ね落ち着いて移行できた」と回答していることなどに照らせば,6か月間の引継ぎ・合同保育期間において,児童及び保護者とDの保育士との間に一定の信頼関係を形成することができていたことがうかがわれるのであり,上記諸事情に照らせば,本件民営化に際して,6か月という引継ぎ・合同保育の期間が短期にすぎて不充分であったということはできない。
(d) さらに,上記③の点につき,引継ぎ・合同保育について,従事者アンケートの意見として「やり方についてはっきりしない部分が多すぎて,戸惑うことばかり,精神的負担が大きかった。スタートする前の話し合いや法人側との方向性を一致させることなど,しっかりと行ってほしかった。」との意見が出され(乙123・8頁),平成21年4月から5月の引継ぎ・合同保育実施状況報告書において,「4月当初は引継ぎの方法が定まっていなかったため,保育士も児童もとまどいが多かったが,話し合いを持つ中で,少しずつ問題が解決されてきている。」と報告されているなど(乙60の2),引継ぎ・合同保育において保育現場が混乱し,問題が生じていた場面も一部であったことがうかがわれる。
しかし,個々の具体的な保育の内容について意見や考え方が異なることがあることは当然であるし,A保育所及びDの保育士にとっても初めての経験であったのであるから,実際に引継ぎ・合同保育を行うに当たり何ら問題が発生しないということは考えられないのであり,問題発生に備えての引継ぎ・合同保育である以上,引継ぎ・合同保育を行うに当たり問題が生じたり,課題として残った部分があったとしても,それを解決する努力が行われている限り,引継ぎ・合同保育の目的が達成できなかったということはできない。また,事前にすべてを予測して対応策を立てておくことも不可能であるし,引継ぎ・合同保育に実施に当たっては,本件実施要領及び本件移行計画が定められ,これらに基づき,引継ぎ・合同保育が行われていたのであり,引継ぎ・合同保育の方針が定められていなかったということもできないし,前述した移管後の保護者アンケートの結果からすると,引継ぎ・合同保育中に生じた混乱・問題については,話合いを重ねることにより解決あるいは対応することができたものが相当数あったことがうかがわれるのであり,上記のような混乱や問題が発生していたことをもって,被告の助言・指導が不十分であったということもできない。
(e) 加えて,上記④の点について,原告は,Dの理事長である証人Fの証言から,DがA保育所の保育の引継ぎを考えていなかった旨主張する。しかし,Dでは理事同士で分業の形で各保育園の運営に当たっており,FはG保育園の運営に関わり,C保育園の運営はH理事が担当していたことから,C保育園に係る事項につき,詳細な証言ができなかったものと認められ,上記証言のみをもって,DがA保育所の保育の引継ぎを考えていなかったと認めることはできない。
(イ) 移管時期について
a 原告は,被告がA保育所の移管時期を年度途中の10月としているが,10月移管は,保育の一貫性を否定するものであるだけでなく,子供に対して2度にわたる保育環境の大きな変化を与えるものであり,子供に対して与える影響も大きいだけでなく,極めて弊害が大きく,不合理なものである旨主張し,これに沿う意見書等(甲22,26,30,31)並びに原告の供述及び供述記載部分(甲25,32,39)がある。
b(a) 公立保育所を廃止・民営化する時期については,上記(1)で述べたとおり,児童福祉施設の廃止について,児童福祉法が特段の規定を設けていないことなどに照らせば,基本的には設置者である普通地方公共団体の裁量に委ねられているものと解される。
もっとも,原告が主張するように,年度途中である10月移管は,児童に与える影響も少なくなく,保育の継続性が阻害される面もあるから,移管時期や方法を決めるに当たっては,児童に与える悪影響を少なくする措置を講じるとともに,保育の継続性の観点についても配慮をする必要がある。
(b) 前記前提事実,上記1に認定した事実,後掲かっこ内の証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,10月移管に当たって,①平成21年度の指導計画について,移行を踏まえ,A保育所長と新保育所長との協議により共同して作成することとし,一貫した保育を行うことができるようにするとともに,月指導計画・週指導計画については,公立保育士とDの保育士が連携して作成することとされ,保育計画作成者と保育実践者が分離しないよう配慮し,②A保育所での行事は,C保育園に引き継ぐこととし,③平成21年4月から同年9月までの6か月間の引継ぎ・合同保育実施期間は,C保育園において,各クラスを担任する保育士を参加させて子供たちとの信頼関係を構築することができるように努め,同年9月中旬からは延長保育担当の保育士も合同保育に参加させ,④保育環境の変化を少なくするように,平成21年4月にはクラス担任の変更をせず(証人I・47頁,弁論の全趣旨),⑤平成21年度における保育所におけるテーマを「ひっこし」と設定する(原告本人)など,子供たちに引越しを少しずつ意識させる工夫を行い,移管直前の平成21年9月26日以降には,子供たちとおもちゃを持ってC保育園の園舎に行くなどして引越しの意識付けをし,⑥机や食器についてはA保育所で使用していたものをC保育園でそのまま使用できるように同保育園へ譲渡し,⑦A保育所の臨時職員がそのままC保育園の保育士として勤務できるよう努力し,実際に臨時職員など6名の保育士が,C保育園に勤務することとなるなど(乙76),職員態勢に配慮し,⑧平成21年10月にC保育園に移行した後も,A保育所の所長,主任保育士,年長組の担任保育士の計3名が,定期的にC保育園を訪問して児童らの様子を見に行くこととし,⑨A保育所にあった桜の木を1本,C保育園に移植することとするなど,10月移管によって児童に生じる悪影響を最小限にとどめようとする様々な配慮を行うとともに,保育の継続性という観点にも配慮をしていたことが認められる。
(c) また,被告は,10月移管とした理由として,4月移行によるデメリットの軽減として,①環境変化の時期を分散させることによる負担軽減(年度途中の移行とすることで,4月当初のクラス編成を変えない対応が可能となり,建物の変化を10月にすることにより,子供たちに与える環境変化の負担を分散させることができること,4月からの積み重ねで形成される集団としてのまとまりにより,10月における環境の変化を友達と一緒に乗り越えていくことが可能となる。),②保育士の負担軽減(年度当初の忙しさや負担を避けることで,落ち着いて移行業務に対応でき,職員が子供たちに十分目を向けていくことが可能となる。),③保育の流れからみた合同保育の効果(4月から9月の合同保育期間の中で,新しい保育士と子供たちが日々の保育の中で経験と共感を積み重ね信頼関係を築き,半年間で慣れ親しんだ保育士と共に10月の安定期に移行を迎えることで,合同保育の効果が高くなる。)と説明をしていた(乙32)ところ,上記説明内容は,上記(b)で述べた様々な配慮と併せ考慮すると,一定の合理性があるものということができる。
(d) 以上によれば,A保育所の廃止・民営化の時期を10月としたことについて,被告に合理的な配慮が欠けていたということはできない。
エ 保護者に対する配慮等について
(ア) 被告は,上記イ及びウで述べたように,移管先法人の選定,引継ぎ・合同保育の内容,10月移管に伴う児童への影響を減少させるための配慮を行っていたところ,上記1に認定した事実,後掲かっこ内の証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,A保育所の民営化に当たり,平成19年8月25日から平成21年9月17日までの間に,合計11回の保護者説明会を開催し,引継ぎ・合同保育の在り方等についての協議の場として,平成20年12月22日から平成22年6月19日までの間,合計15回の三者協議会を開催し,上記移管先法人の選定,引継ぎ・合同保育の内容等について,保護者から意見を聴取し,あるいは保護者との協議を行うとともに,保護者説明会の議事録(甲3の1,4,5,6,7の1,8,9,乙33,45,75,77)及び三者協議会だより(乙28の2,30の1,38の2,46の2,48の2,52の2,56の2,73,84,92,95,112,118,128)を保護者に送付したり,三者協議会における協議内容について,保護者説明会においても説明を行うことにより(乙33,45),保護者説明会や三者協議会に出席していた保護者だけでなく,出席していない保護者に対しても保護者説明会や三者協議会の内容が了知できるように情報提供を行っていた。そして,保護者説明会の実施に当たっては,説明会の開催日時について保護者の意見を聴取し(甲4),保護者に対して実施した保護者説明会の議事録を送付し,保護者説明会後に個別相談を行い(甲4,原告本人),保護者説明会の場以外においても質問・意見を受け付け,その旨周知し(甲6,7の1,8,9,乙33,45),各クラスに意見袋を設置するとともに(乙67の1,弁論の全趣旨),保護者アンケートや意見袋に寄せられた保護者の意見への対応を示す(乙62,78)など,保護者から広く意見を聴取し,相談に応じることができるようにしていたことが認められる。
以上の諸事情に照らせば,被告は,保護者の懸念・不安を軽減する配慮を行っていたということができる。
(イ)a この点,原告は,①保護者説明会を開催していたが,民営化をすることが前提であり,保護者の意見に耳を傾けることがなかった,②保護者説明会において,A保育所のころの保育内容を全部引き継ぐと述べていた(甲6)にもかかわらず,その後,理念は引き継ぐが,やり方は異なるなどと説明を変えた,③三者協議会における約束である,ⅰ)平成21年度中には0歳児の増員をしないこと,ⅱ)主食提供を受ける児童と主食提供を受けない児童で差が生じないように配慮することを反故にしており,三者協議会は実質的な協議には程遠いものであったなど主張する。
b 上記①の点について,上記1に認定した事実,証拠(甲3の1,4,5,6,7の1,8)及び弁論の全趣旨によれば,保護者説明会において,保護者から何度となく,A保育所について民営化を撤回し,公立で継続してほしいとの意見が出されていたにもかかわらず,被告からは,民営化については決定事項であることを前提とした回答が繰り返されていたことが認められ,このような被告の対応が,一部の保護者に対し,被告には保護者の意見に耳を傾ける姿勢がなく,誠実な対応をしていないという印象を与えた可能性がある。
しかし,前述したとおり,児童福祉法上,保育所の廃止については特段の規定が設けられていないことなどに照らせば,保護者との関係でどのような措置を講じるかについては,普通地方公共団体の裁量に委ねられているものと解されるのであって,民営化は決定事項であると被告が説明していたことのみをもって,直ちに保護者に対する合理的な配慮が欠けていたということはできない。そして,本件民営化自体について合理性があることは上記(2)で述べたとおりであり,被告が移管先法人の募集要項に保護者の意見を反映し,3か月とされていた「うさぎ組」,「かば組」の引継ぎ・合同保育の期間について,保護者からの意見を受けていずれも6か月に変更していることなどからすれば,保護者からの合理的かつ実現可能なものについては取り入れる努力をしていたということができ,本件民営化に当たり,被告が保護者の意見に何ら耳を傾けることがなかったということはできない。
c 上記②の点について,上記1に認定した事実,証拠(甲3の1)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,第1回保護者説明会において,A保育所の保育方針はそのまま引き継がれるのかとの保護者の質問に対し,新しい法人となることから,方針自体は新しくなると思われるが,三者協議会の中でなるべく保育方針を継承していくよう十分話合いをしたいと説明し(甲3の1),本件民営化により,保育所の運営主体,保育士等も替わることが予定されていたのであり,全く何も変わらないということは考えられず,被告が完全に引き継ぐとの説明をしていたとしても,これを文字どおり受け取ることはできないのであり,被告が上記②のような説明をしたことをもって,被告が保護者に対する配慮に欠けたと評価するのは相当ではない。
d(a) 上記③のⅰの点について,上記1に認定した事実,証拠(乙83)及び弁論の全趣旨によれば,第5回三者協議会において,Dから,新保育所の0歳児の部屋が一つ空いていることから,その部屋には受入れをしたいとの意見が述べられた際,保護者から理解する旨の発言がされたこと,第9回三者協議会においても,新設の0歳児クラスである「かに組」に6名を新たに入所させる旨の説明があったが,保護者から反対意見は述べられていないこと,第10回三者協議会において,上記「かに組」に9名が入る旨の話がされた際,保護者から「かに組」の増員については仕方がない旨の発言があり(むしろ,「かに組」ですでに1歳児となっている子を「あひる組」に移すことについて不安を述べる意見が出されている。乙83),最終的には保護者委員からも理解が得られていることが認められ,これらの事実に照らせば,0歳時クラスの増員については,三者協議会において保護者の理解を得た上で行われたものであるといえるのであり,0歳児増員の約束反故にかかる原告の主張を採用することはできない。
(b) 上記③のⅱの点について,上記1に認定した事実,証拠(乙91,92,94,108)及び弁論の全趣旨によれば,三者協議会において,3歳児以上の主食提供については,選択制のサービスであることから,主食提供を受ける児童と主食提供を受けない児童とで差が出ないような配慮を行うこととされていたところ,C保育園の平成21年10月の献立において,主食として「混ぜ御飯」,「けんちんうどん」,「スパゲッティミートソース」を提供し,「御飯」と「パン」以外の主食を提供しているときがあるが,そのような場合には,主食提供を受けていない児童用のメニューとして「炒り鶏」,「けんちん汁」,「じゃがいものミートソース」を加えており,一定程度,主食提供を受けない児童に対して配慮したメニューであるということができる(公立保育所において主食提供がされている場合,基本的には選択制であり(乙91,92),上記C保育園のメニューは公立保育所におけるメニューと比較した場合でも大きく差があるとはいえない(乙108)。)。また,被告は,Dから電話相談を受け,三者協議会の場でも公立保育所における主食提供の考え方について説明をするなどD及び保護者の調整を行い,Dからは行事食として対応できるか検討して,平成22年1月の献立を考えたい旨の発言がされ(乙94),実際,平成22年1月の献立によれば,麺類を提供する日については「お楽しみメニュー」として,児童全員が同じ食事を食べることができるように配慮がされている(乙108)。
上記諸事情に照らせば,主食提供の点について,主食提供を受けていない児童に対して全く配慮が欠けていたということはできず,被告が何ら指導・助言をしていなかったということもできない。
オ 以上によれば,被告は,本件民営化に当たり,適切な移管先法人を選定し,同法人に対して円滑な引継ぎを行い,児童に対する適切な保育を実施できるような措置を講じ,児童の心身に十分配慮した適切な措置を講ずるなどの合理的な配慮をするとともに,保護者の懸念・不安を軽減する合理的な配慮をしていたと認められるのであり,配慮義務違反に係る原告の主張は採用することができない。そのほか本件記録を精査しても配慮義務違反に係る原告の主張を認めるに足りる証拠はない。
よって,配慮義務違反を理由とする原告の国家賠償法上の違法性の主張も理由がない。
第4結論
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,原告の被告に対する請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 齊木教朗 裁判官 大谷太 裁判官 市野井哲也)