仙台地方裁判所 平成23年(ワ)1518号 判決 2013年10月02日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
千葉晃平
同
佐藤由麻
同訴訟復代理人弁護士
宮腰英洋
被告
株式会社山形銀行
同代表者代表取締役
A
被告
Y1
上記2名訴訟代理人弁護士
浜田敏
同
伊藤陽介
被告
三井住友海上プライマリー生命保険株式会社
同代表者代表取締役
B
同訴訟代理人弁護士
中原健夫
同
岡本大毅
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告株式会社山形銀行及び被告Y1は、原告に対し、連帯して1000万円及びこれに対する平成23年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社山形銀行、被告三井住友海上プライマリー生命保険株式会社及び被告Y1は、原告に対し、連帯して161万8499円及びこれに対する平成23年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 被告株式会社山形銀行、被告三井住友海上プライマリー生命保険株式会社及び被告Y1は、原告に対し、連帯して、350万円及びこれに対する平成23年3月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
本件は、原告が、被告山形銀行(以下「被告銀行」という。)の行員である被告Y1(以下「被告Y1」という。)の勧誘により、預金とは異なる商品であることを理解しないまま、投資信託及び個人年金保険の取引をして損害を被ったとして、(1)投資信託の購入に関して、①被告銀行に対し、錯誤無効を主張して、不当利得返還請求権に基づき、②被告銀行及び被告Y1に対し、勧誘行為の違法を主張して、債務不履行・不法行為に基づき、③被告銀行に対し、預金契約上の義務(預金取引において入手した情報の目的外利用の禁止)違反があると主張して、債務不履行に基づき、原告が投資信託購入費用として支払った1000万円の連帯支払を求め、(2)被告三井住友海上プライマリー生命保険株式会社(以下「被告保険会社」という。)を引受保険会社とする保険契約に関して、①被告保険会社に対し、錯誤無効・クーリングオフ解除を主張して、不当利得返還請求権に基づき、②被告銀行、被告Y1及び被告保険会社に対し、被告銀行及び被告Y1の勧誘行為の違法を主張して、不法行為に基づき、③被告銀行に対し、預金契約上の義務(預金取引において入手した情報の目的外利用の禁止)違反を主張して、債務不履行に基づき、原告が保険料として支払った額から受領した保険金額を控除した161万8499円の連帯支払、(3)被告らに対し、上記の各不法行為及び債務不履行により、原告の慰謝料150万円及び弁護士費用200万円の損害が生じたと主張して、合計350万円の連帯支払、(4)これらに対する催告通知の翌日である平成23年3月2日以降民法所定年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めた事案である。
1 前提事実(末尾に証拠等の引用がない事実は、当事者間に争いがない。)
(1) 原告は、昭和12年○月生まれで無職の女性であり、平成19年7月当時69歳であり、平成15年10月に夫Cを亡くし、娘であるDと2人暮らしであり、被告銀行に複数の預金口座を保有していた。
被告銀行は、預金又は定期積金の受入等を目的とする株式会社である。
被告Y1は、平成18年4月に被告銀行に入行してa支店に配属になり、平成19年4月から渉外担当で主に資産運用を担当し、同年7月から原告を担当していた(乙64)。
被告保険会社(平成19年当時の商号は三井住友海上メットライフ生命保険株式会社)は、生命保険業等を目的とする株式会社である。
(2) 原告は、被告銀行に対し、平成19年7月20日、被告Y1の勧誘により、ピクテ・インカム・コレクション・ファンド(毎月分配型)(以下「インカム・コレクション」という。)の購入申込をし(以下「本件ファンド」ということがある。)、同月25日、上記購入代金として1000万円を交付した(契約成立は翌26日)(乙19、21、弁論の全趣旨)。
(3) 原告は、同年9月21日、被告Y1を生命保険募集人とし、被告保険会社を引受保険会社とする通貨選択型個人年金保険(モンターニュ)の申込をし(以下「本件保険契約」という。)、被告保険会社に対し、一時払保険料として850万円を支払った(弁論の全趣旨)。
原告は、年金の受取方法として円貨による年金原資の一括受取を選択し、平成24年9月21日、被告保険会社から688万1501円を受領した(丙8、15、弁論の全趣旨)。
(4) 本件ファンドの運用先である訴外ピクテ投信投資顧問株式会社(以下「ピクテ社」という。)は、平成19年7月11日、金融庁より、新規公開株式の恣意的な配分(忠実義務違反)の事実があったとして、業務停止命令(期間は同月18日から同年8月17日)及び業務改善命令(業務改善計画提出の期限は同月10日)を受けた。
2 争点及び当事者の主張の要旨
別紙のとおり。
第3当裁判所の判断
1 本件ファンド購入等に関する事実(争点1、争点2関連)
前記前提事実のほか、文中に記載の証拠及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
(1) 従前取引
ア 被告銀行a支店は、支店開設当初から原告の夫Cと取引を行っており、主に行員が原告宅に赴いて取引を行っていた。
原告は、平成14年10月30日、Cが申込手続を行って、350万円の国債(利付国債・固定利率5年)を購入した(以上につき、甲17、18、乙3、4、原告本人、証人D(以下「証人D」という。))。
イ 被告銀行の行員であるE(以下「E」という。)は、平成16年6月18日、原告から「債券購入申込書・国債定期口座申込書兼確認書」(乙5)の記載を受けて、500万円の国債(個人国債・変動10年)を販売した。
原告は、同書面の「債券の購入にあたり、市場金利や発行者の信用状況の変化に伴う価格の変動や、元本欠損の恐れがあることについて説明を受けたことを確認しました。」とする確認事項欄に、署名、押印をした(以上につき、乙5、60、証人E、原告本人)。
ウ Eは、平成17年5月6日、原告から「投資信託募集・購入申込書(兼確認書)」(乙7)の記載を受けて、三菱外国債券オープン(以下「外債オープン」という。)100万円を販売した(約定日は同月9日)。原告は、上記書面の「1投資信託は預金商品ではないこと。また、預金保険制度の対象ではないこと。」「4投資信託は値動きのある証券に投資するため、元本及び分配金が保証される商品ではないこと。」等を確認したとする欄(以下「投資信託確認事項欄」という。)に署名、押印をした。
Eは、同月6日付けで、「証券商品勧誘時におけるチェックリスト」(乙6)を作成した。
被告銀行は、外債オープンの購入に関する取引報告書(乙8)を原告に送付した上、以後定期的に取引残高報告書を送付していた(以上につき、乙47、49の1ないし25、60、証人E)。
(2) ピクテ・インカム・コレクション・ファンド
インカム・コレクションは、商品分類を追加型株式投資信託/ファンド・オブ・ファンズ、信託報酬(税込み)を年率1.2075%、申込手数料(税込み)を3.15%、運用会社をピクテ社とする商品であり、主に先進国の高配当資産株に投資するファンド・主に新興国の高配当株式に投資するファンド・主に先進国のソブリン債券に投資するファンド・主に新興国のソブリン債券に投資するファンドを主な投資対象としている(乙12)。
被告銀行の「「投資商品」ご提案マトリクス表」(乙33)では、投資の方針を、①元本割れは避けたい、②元本の安全性を重視したい、③元本の安全性に加え、収益性(値上がり)とのバランスを重視したい、④投資対象・投資手法は限定せず、積極的運用を考えたい(収益性重視)と4段階に分けたうち、インカム・コレクションを上記③に分類していた。
(3) 本件ファンド購入における勧誘・申込
ア 被告Y1は、他行から1000万円の振込の情報を得たことから、運用について原告の意向を確認するため、平成19年7月20日午後1時30分ころ、原告宅を訪問した。
原告は、振り込まれる1000万円は当面使う予定がないと述べた上、現在保有している外債オープンが好調であったことから、投資信託に興味をもっている様子であり、被告Y1が「投資信託ラインナップ」(乙11)等を用いて被告銀行取扱の商品を一通り説明したところ、株式のように値動きの激しいものは好まない、分配金が出るものがいい、との意向を示したことから、被告Y1は、インカム・コレクションについて、「販売用資料」(乙59)を用いて、主な投資先、収益分配金、手数料、リスク、解約に関する説明、ピクテ社の会社の概要、ピクテ社の行政処分等について、合計約40分程度の説明を行った。原告は、夫が以前にb社に勤務していたこともあり、公益企業に投資している点を気に入った様子であった(以上につき、乙64、66、原告本人、被告Y1)。
上記「投資信託ラインナップ」(乙11)には、投資信託は預金ではなく、元本を保証する商品ではないこと、投資信託の基準価格は、投資元本を下回ることがあること等が注意点として記載されている。
また、上記「販売用資料」(乙59)には、同商品の特徴(世界(先進国・新興国)の高配当資産株・ソブリン債券に分散投資すること、毎月の分配金を支払うこと等)のほか、基準価額が変動する主な要因として、株式・公社債の価格変動リスク、為替に関するリスク、新興国のリスク(カントリーリスク)、その他を挙げて、投資元本が保証されているものではないことを説明する記載がある。
イ 原告は、「投資信託募集・購入申込書(兼確認書)」(乙19)の申込金額以外のおところ、おなまえ、生年月日、銘柄名(インカム・コレクション)等を記入し、投資信託確認事項欄に署名押印をし、併せて、振込依頼書(乙19)、入金票(乙20)も自ら記入して作成した(乙64、原告本人、被告Y1)。
ウ 被告Y1は、同日、「証券商品勧誘チェックリスト」(乙18)を作成し、内部管理責任者の押印を受けた。また、「訪問記録」に勧誘、購入の経過を記載した(乙66)。
エ 被告Y1は、原告に対し、同月25日、「投資信託ラインナップ」(乙11)、インカム・コレクションの「販売用資料」(乙59)・「交付目論見書」(乙13)、「投資信託募集・購入申込書(兼確認書)お客様控え」(乙19)等をファイルに綴って原告に交付した(甲19)。なお、被告Y1は、ピクテ社作成の顧客宛の文書「弊社に対する金融庁による行政処分について」(乙15)も交付している旨供述するが(乙64、被告E)、原告が受領したとするファイル(甲19)には綴られておらず、これを交付したとは認めるに足りない。
上記「交付目論見書」(乙13)には、「投資リスク」として、株式・公社債の価格変動リスク、為替に関するリスク、カントリーリスク他を挙げてリスク等について十分に留意するよう記載がある。
オ 被告銀行は、原告に対し、本件投資信託契約に関する取引報告書を送付した(乙21)。
(4) 被告銀行におけるコンプライアンス、事務基準等
被告銀行は、投資信託取扱事務基準(乙14)において、募集・購入手続の注意事項、使用帳票、フローチャート、処理方法について定め、申込書の記入や受付、適合性の判断に関しチェックリストの作成と内部管理責任者(以下「内管」という。)による適合性の判断等について定めている。
また、「証券窓販における「適合性の判断」のガイドライン」(乙9)において、年齢や職業・収入によって勧誘の可否や内管や役付の承認の要否を定め、適合性の判断については、資金の性格及び購入金額、投資経験・知識の有無、リスク許容度等についての基準を設けている。
さらに、被告銀行は、各種研修においてコンプライアンスに関する講義を実施しており、被告Y1は、平成18年12月に新任営業担当者研修(窓口コース)、平成19年5月に同研修(渉外・融資窓口コース)を受講していた(乙45の1~3、46)。
(5) 原告の生活状況、資産等
原告は、平成14年7月、心房中隔欠損、心房細動からくるうっ血性心不全と診断された。また、平成15年6月2日から4日、平成16年6月14日から16日、内視鏡的結腸ポリープ切除術のため入院し、平成17年11月には左右の白内障手術を受けているが、平成19年当時、自己の資産や生活費の管理は、第三者の援助を受けることなく自ら行っていた。
原告の自宅は持ち家であり、年金収入があり、平成19年7月19日当時の原告の被告銀行における預金は、普通預金(3口)合計約300万円、定期預金合計3口(合計約550万円)の合計約880万円であった(以上につき、甲2の1~4、3の1~2、4の3・4、乙2の1、34、証人D、弁論の全趣旨)。
(6) 一部解約
被告銀行行員であるF(以下「F」という。)は、投資保有者に対するアフターフォローを目的として、平成22年6月15日、原告宅を訪問して原告と面談し、本件ファンドが大きく評価損を抱えているとしてリバランスの提案を行い、原告は、これを受けて、約200万円に相当する本件ファンドを一部解約し(乙44)、「重要事項確認証書」(乙37、38)、「投資信託募集・購入申込書」(乙39、40)にそれぞれ記入、署名・押印等を行って、豪ドル毎月分配型150万円及び三菱UFJ外国債券オープン50万円を購入した。
原告は、同日、「ご投資に関するアンケート(意向確認書)」(乙36)において、投資の目的は「余裕資金の運用」であり、投資期間を「3年~5年」、投資に関する方針として「元本の安全性に加え、収益性(値上がり)とのバランスを重視したい」とする各欄にチェックをした上で署名している。
Fは同日、「投資商品交渉履歴記録表(兼チェックシート)」を作成した(乙41ないし43)。
同日の帰店後、FはDから電話を受け、なぜ円高なのに豪ドルを勧めるのか、七十七銀行から人気があると聞いているピムコを勧めないのかという点について不満を述べたため、経過を説明し、時間外受付のため翌日購入になる旨説明して了承を得た。
さらに、Fは、同年6月25日、G次長と共に、原告方を訪問し、D、原告と面談をした(以上につき、乙62、証人F)。
2 本件ファンド購入の錯誤無効の有無(争点1)について
原告は、本件ファンド購入以前にも、国債や外債オープンを購入した経験があり、各申込時に作成された書面において元本欠損の恐れがあることや、預金商品ではないことを確認したとして署名押印をし、外債オープン購入後は、定期的に取引残高報告書を受領していたこと(前記1(1))、本件ファンド購入の申込時においても、預金とは明らかに異なる銘柄名(インカム・コレクション)を自ら記載し、預金ではなく、元本及び分配金が保証される商品ではないこと等についての確認欄に署名押印をしていること(前記1(3))、原告に交付されたファイルの表には「投資信託」と記載され、原告に対する説明に用いられた書面にも、投資信託が預金とは異なる商品でありリスクが伴う商品であることが記載されていたこと(前記1(3))からすれば、原告に対しては、重ねて本件ファンドが預金や預金同様に元本の保証された取引ではないことが提示され説明されていたといえる。そして、原告は通院歴や白内障の手術歴があるとはいえ、他人の援助を受けることなく自らの資産や家計を管理していたのであって(前記1(5))、本件ファンド購入時に殊更に判断能力が劣っていた事実もうかがわれない。これらの事実によれば、原告は、本件ファンドを預金あるいは預金同様に元本の保証される取引であると誤認していたとは認められない。
この点、原告は、預金ではないとの説明は受けていないし、定期預金のようなつもりだった等と供述するが(甲18、原告本人)、一方で、被告に対し、何十万円の手数料を提示されて、なぜこんなに手数料が高いのかと発書した旨供述していることに照らせば、原告の上記主張・供述は採用できない。また、原告は、白内障の手術後は書類の字も読めるが、本件ファンド購入当時は書類の字が読めなかった旨の供述をするが(原告本人)、原告が、白内障の手術を受けたのは、本件ファンド購入以前の平成17年11月であるから(前記1(5))、上記供述は客観的事実に反し採用できない。また、原告は、平成22年5月ころに、窓口でインカム・コレクションが元本割れをしていることを指摘され、初めて預金ではなかったことに気付いたと供述しているが(甲17、原告本人)、そうであれば、預金と投資信託が異なることを認識した事後は安易に投資信託取引を行わないはずであるにも関わらず、その後にも三菱UFJ外国債券オープンや豪ドル毎月分配型ファンドを購入している(前記1(6))事実と符合せず、上記原告の供述は採用できない。
以上によれば、本件ファンド購入に錯誤は認められない。
3 本件ファンド購入にあたり被告銀行及び被告Y1が行った勧誘行為の違法性の有無(争点2)について
(1) 預金誤認防止義務違反、断定的利益判断の提供、説明義務違反、誠実・公正義務違反、善管注意義務違反について
ア 金融機関の担当者は、金融商品のリスクの重要部分について、顧客の知識、経験、財産の状況等に照らし、当該顧客に理解されるために必要な方法及び程度による説明を行う義務を負い(平成18年6月14日法律第66号(平成19年9月30日施行)による改正後の金融商品の販売等に関する法律(以下「新金融商品販売法」という。)3条、5条、消費者契約法4条参照)、かかる説明を行わずに、当該リスクを理解していない顧客に対して当該金融商品の取引を勧誘してこれを販売したときは、当該勧誘行為は違法となるというべきである。
これを本件についてみるに、前記1(2)ないし(5)の事実に照らせば、被告Y1は、原告に対し、本件ファンドが預金商品ではないこと、本件ファンドの商品の特徴、株式・公社債の価格変動リスク、為替に関するリスク、カントリーリスク等のリスクにより変動し、下落する場合があり、投資元本が保証されるものではないことについて、原告が理解可能な方法で具体的な説明が行われたものと認めることができ、原告も前記2説示のとおり預金と誤認していたとは認められないから、被告Y1の勧誘が、預金と誤認することを防止しなかったとはいえず、また、説明義務に反するともいえない。
この点、原告は、インカム・コレクションの投資対象国が不特定多数であることによる複雑性や予測困難性等を挙げて、一般投資家にとっては諸情勢を把握・予測し対処することが極めて困難である等と主張するが、金融機関の担当者は、販売しようとする投資信託商品の詳細な運用スキームや運用対象の把握等が可能な程度までの説明を行うべき義務を負うものとは解し得ず、上記原告の主張は採用できない。
イ 顧客に対し、断定的判断を提供する等して金融商品取引契約の勧誘をする行為を行ってはならないところ(平成18年法律第65号(平成19年9月30日施行)による改正後の金融商品取引法(以下「新金融商品取引法」という。)38条2号、新金融商品販売法4条、5条、消費者契約法4条参照)、原告は、被告Y1が「毎月利息が総合口座に入ります」「楽しみにしてください」「小遣いにもなる」「そのお金で旅行にも行ける」等と発言した旨主張するが、前記認定のとおり、被告Y1が説明に用いた資料や、原告が記入した各種書面には、重ねて投資リスクが存在することや元本欠損のリスクがあること等が記載されている事実に照らせば、これらの記載や被告銀行の取扱事務基準やコンプライアンス指導に反して被告Y1がことさらに利益を得られることを確実であると誤信させるような断定的発言をしたと認めるには足りない。
ウ また、本件ファンド購入当時、行政処分により、ピクテ社は業務改善命令及び業務停止中であったところ(前提事実(4))、上記行政処分はピクテ社の運用部門の配分方針(新規公開株式の配分に関し、公平性を欠く配分を繰り返し行った行為)が法令に反することを理由としてなされたものであり、インカム・コレクションは上記の法令違反の指摘に該当しないファンドであること、ファンドの基準価格は、各ファンドの投資対象となる債券や株式、為替変動の影響を受けて変動するものであって、行政処分によって影響を受けるものではないことからすれば(乙17)、上記行政処分が本件ファンドのリスクの重要部分であるとまではいえず、仮に上記行政処分につき説明がなされなかったり関連する書面が交付されていなかったとしても、説明義務に違反しているとは解し得ない。
エ 以上によれば、被告Y1の勧誘に預金誤認防止義務違反、断定的利益判断の提供、説明義務違反は認められず、したがって、誠実・公正義務違反、善管注意義務違反も認められない。
(2) 適合性原則違反について
金融機関の担当者が、顧客の意向と実情に反して、明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘する等、適合性の原則(新金融商品取引法40条参照)から著しく逸脱した勧誘をしてこれを行わせたときは、当該行為は不法行為上も違法となると解するのが相当である。
これを本件についてみると、原告は、国債及び投資信託の投資経験があり(前記1(1))、被告銀行の預金だけで約880万円を有し、本件ファンド申込当時69歳であり、殊更に判断能力が劣っていたり、書類の判読が困難であったり、説明の理解が困難であることをうかがわせる事情はないこと(前記1(5))、原告は、購入資金は当面使う予定はなく、株式のように値動きの激しいものではないこと、分配金が出るもの、といった一定の資産運用の意向を有していたこと(前記1(3))、本件ファンドは、元本の安全性と収益性とのバランス重視型と位置づけられていること(前記1(2))という事実に照らせば、本件ファンドに係る勧誘が適合性の原則に反し違法であるとはいえない。
(3) 以上によれば、本件ファンド購入にあたり、被告銀行・被告Y1が行った勧誘行為に違法性は認められない。
4 本件保険契約締結に関する事実(争点3、4関連)
前記前提事実、証拠(乙64、丙16、証人H、被告Y1のほか文中に記載のもの)及び弁論の全趣旨によれば次の事実が認められる。
(1) モンターニュ
モンターニュは、被告保険会社を引受保険会社とする通貨選択型個人年金保険であり、日本円、米ドル、豪ドルの中から契約通貨を選択し、積立期間中に契約通貨を予定利率によって運用し、積立期間や、年金受取方法を選択することが可能となっている保険である(丙7、8)。
(2) 平成19年8月9日の訪問
ア 被告Y1は、平成19年9月に償還となる国債350万円の運用について原告の意向を確認するため、被告銀行の行員であり、エリア・ファイナンシャル・アドバイザーであるH(以下「H」という。)と共に、平成19年8月9日に原告方を訪問した。
Hは、原告の350万円の国債について、特に使う予定はない、投資信託を増やすことは考えていない、定期預金や国債は金利が低いとの発言を踏まえ、保険商品を提案することとし、「保険商品のご提案にあたって」(丙1の1・2)を用いてその内容を説明して同意を得た上、保険商品の一覧表を示し、「グッドニュース」という名称の変額個人年金保険の説明をしたが、積立期間が10年以上を要することや投資信託で運用する商品であることに原告が難色を示したため、積立期間を3年から選択できるモンターニュを紹介した。
Hは、引受保険会社の格付けや、選択する通貨と積立期間の組み合わせで金利が確定すること、外貨建ての年金保険であるため、為替リスクがあること等について説明し、設計書の見本や過去6年間の為替レートのチャート図を示しながら、損益分岐点等についても説明を行ったところ、原告は、積立期間を5年、米ドルを選択した。Hは、さらに、モンターニュのパンフレット(丙2)を用いて、商品内容、年金受取方法、途中解約、相続税対策効果が期待できること、為替リスク等のリスクがあること、預金との違い、クーリングオフ制度等について説明した。
イ 原告は、国債500万円については途中解約によっても元本割れはしないとの説明を受けて、これを中途解約して本件保険契約の費用に充てることとした。
(3) 国債の解約
被告Y1は、平成19年9月18日、原告方を訪問し、国債500万円の債権売却の申込を受け付けた(乙27)。
(4) 平成19年9月21日の訪問
ア 被告Y1とHは、平成19年9月21日、再度原告方を訪問し、Hが事前に作成した「個人年金保険保険設計書」(丙6)、「特に重要なお知らせ(注意喚起情報等)/ご契約のしおり・約款」(丙8)(以下「特に重要なお知らせ」という。)を用いて為替相場の変動によるリスク、クーリングオフ制度、預金との違い等について説明をした。
イ 原告は、「通貨選択型個人年金保険契約申込書」(丙9)、「意向確認書」(丙10)に記入をするとともに、「保険商品のご提案にあたって」の同意・確認欄に署名した(丙1の1・2)。
上記の申込書(丙9)には、「商品のしくみ・リスク等について説明を受け、その内容を確認しました。「商品のしくみと特徴(契約概要)」「特に重要なお知らせ(注意喚起情報等)」「ご契約のしおり・約款」を確かに受領しました。」と記載された欄があり、原告は、確認印を押印している。
上記「意向確認書」(丙10)の「特にご確認いただきたい事項について」には、「この保険は配当金のない無配当保険であること、また、年金、死亡保険金等を契約通貨以外に換算して受け取る際には、為替相場の変動(為替リスク)による影響を受けることをご理解いただきましたか。」「この保険には、借入金等を一時払い保険料に充当することを前提としてお申込みすることができません。よって、為替リスクのある投資性商品に充当するための自己資金のご用意のある場合にご加入いただけることをご理解いただきましたか。」とする項目があり、原告はいずれも「はい」とする回答欄にチェックしている。
上記「保険商品のご提案にあたって」(丙1の1・2)には、「預金等とのちがい」として、「保険商品は預金等ではありませんので、利息はつきません。また、元本の保証はありません。保険商品は預金保険の支払対象となりません。保険契約はお客さまと引受保険会社とのお取引となります。」と記載されている。
ウ 被告Y1は、原告に対し、モンターニュのパンフレット(丙2)、「特に重要なお知らせ」(丙8)、「商品のしくみと特徴(契約概要)」(丙7)、「個人年金保険保険設計書」(丙6)、「保険商品のご提案にあたって」の控え(丙1の2)、「意向確認書」(丙10)を封筒(丙11)にまとめ、渡した(丙16)。
エ 被告Y1は、「保険窓販コンプライアンスチェックリスト(生命保険)」を作成した(乙28)。
オ 原告は、パンフレットや資料を示されて詳しく説明を受けた記憶はない旨陳述するが(甲18)、原告も5年と10年のどちらにするか聞かれて5年を選択したと述べていること(原告本人)、前記のとおり、各種書面に自署していること、原告の意識等ははっきりしていて、受け答え等にも支障はなく、署名もしっかり行っていた様子であること(乙64)等の事実に反し採用できない。
また、Dは、被告Y1とHとが来訪しているのを1、2回確認し、両名から「グッドニュース」という商品の勧誘を受けたことがあること、原告から「まとめた方がいいと銀行の人が言ってるからいいよね」と確認され、「いいんじゃない」と答えたことを認める供述をしていること(甲17、証人D)に照らせば、Dも、原告が保険契約の勧誘を受けていることについては認識していたことがうかがわれ、これを全くわからなかったとするDの供述や、Dには秘密にしており、Dが在宅したことはなかったとする原告の供述は採用できない。
(5) 被告銀行におけるコンプライアンス、事務基準等
被告銀行は、平成14年10月に「生命保険販売におけるコンプライアンスマニュアル」(乙22)、平成15年12月に同追補版(乙23)、個人年金保険取扱事務基準(乙24)を作成し、募集・説明に当たっての留意事項等を定めて法令やコンプライアンスを遵守した適正な保険募集、事務取扱を行うよう指示していた。
(6) 平成19年9月20日の原告の被告銀行における預金は、合計約1232万円(普通預金合計約682万円、定期預金合計約550万円)であった(乙2の3)。
(7) モンターニュ販売後、平成21年3月までの間に、被告Y1は15回、原告方を訪問していたが、その際に、本件ファンド購入や、本件保険契約締結について、原告が苦情を述べたことはなかった(乙71の1~15)。
5 本件保険契約の錯誤無効の有無、クーリングオフ解除の可否(争点4)について
(1) 錯誤無効について
モンターニュが個人年金保険であり、その名称からすれば、保険であって預金ではないことが明らかであること、原告が、その内容を確認したとして署名を行っている「保険商品のご提案にあたって」や「意向確認書」、原告に交付されたと認められる「特に重要なお知らせ」等には、預金と異なることや、元本の保証がないこと等が記載されており(前記4(1)、(2)、(4))、原告には、重ねて預金とは異なることが提示・説明されているといえること、原告自身、生命保険みたいなものかと思っていた、預金とは思わなかったかもしれないと供述していることによれば、原告がモンターニュを預金あるいは預金と同様の元本確保型と誤認していたとは認められず、他に原告の錯誤を認めるに足りる証拠はない。
(2) クーリングオフ解除について
前記4で認定したとおり、被告Y1は、平成19年9月21日、クーリングオフについて記載されている「特に重要なお知らせ」を交付した上、同日、原告は本件保険契約の申込を行っているから、クーリングオフ期間は、同日から起算して8日間であるところ(保険業法309条1項1号)、同期間内に原告が書面により本件保険契約の解約等を行ったと認めるに足りる証拠はない。
この点、原告は、本件保険契約に関し書面を受領していないと主張するが、原告は、「特に重要なお知らせ(注意喚起情報等)」を確かに受領したと記載された欄に確認印を押印していること(前記4(4))、被告Y1やHが、被告銀行の個人年金保険取扱事務基準(上記書面や契約申込書の交付について定めている。乙24)に反する手続を行ったことをうかがわせる事情も見あたらないことからすれば、上記原告の主張は採用できない。
よって、クーリングオフ解除の事実は認められない。
6 本件保険契約締結にあたり被告銀行及び被告Y1が行った勧誘行為の違法性の有無(争点3)について
(1) 預金誤認防止義務違反、断定的利益判断の提供、説明義務違反、誠実・公正義務違反、善管注意義務違反について
前記4で認定したとおり、モンターニュの勧誘において、被告Y1は、ファイナンシャル・アドバイザーであるHを同行して、2日(2回)にわたり説明を行っている。そして、上記説明において、原告に対し、各種書面が交付され、これらの書面には、預金との違い、元本欠損のリスク、為替リスク等について、重ねて説明が記載され、原告に対してその具体的な内容について説明がなされた事実が認められる。また、被告山形銀行は、個人年金保険取扱事務基準や、生命保険販売におけるコンプライアンスマニュアル、同追補版、個人年金保険取扱事務基準について定め、上記事務基準に沿った書類作成がなされているところ、被告Y1やHがそろって上記の規定等に反した勧誘を行ったことをうかがわせる事情は認められない。また、原告が殊更に判断能力に劣っていたり、判断を妨げる事情があったとも認められない。
また、原告は、被告Y1が、銀行の利息が付く、5年間おいておけば必ず出したお金以上になって戻ってくる等の発言をした旨主張するが、被告はこれを否認しているところ、原告の供述(甲18、原告本人)によっても、被告Y1が上記の具体的な発言をしたと認められないこと、上記の被告Y1及びHにおいて行った説明の経過及び内容に照らせば、被告Y1が、被告銀行の取扱事務基準やコンプライアンス指導に反して殊更に利益を得られることを確実であると誤信させるような断定的発言をしたと認めるには足りない。
以上によれば、被告Y1及びHの勧誘に、預金誤認防止義務違反、断定的利益判断の提供、説明義務違反は認められず、誠実・公正義務違反や善管注意義務違反も認められない。
(2) 適合性原則違反
前記3(2)で説示の事情に加え、本件保険契約の原資となった資金は、原告がいずれも国債として保有していたものであり、余裕資金であったことが窺われること、原告は、投資信託ではなく、国債や定期預金よりも利息の高いもの、という運用の意向を持っていたと認められること、モンターニュは、被告銀行の投資商品の分類において、「元本の安全性に加え、収益性(値上がり)とのバランスを重視したい」に位置づけられていること(乙33)からすれば、本件保険契約締結に係る勧誘が適合性原則に反し違法であるとはいえない。
7 被告銀行が預金取引で入手した情報を利用した行為の違法性の有無(争点5)について
被告銀行は、プライバシーポリシー(乙58)において、お客様の個人情報を利用する業務内容として、投信販売業務、保険販売業務及びこれらに付随する業務を挙げ、利用目的として、各種金融商品の口座開設等、金融商品やサービスの申込の受付のため、適合性の原則等に照らした判断等、金融商品やサービスの提供にかかる妥当性の判断のため、ダイレクトメールの発送等、金融商品やサービスに関する各種ご提案のため、提携会社等の商品サービスの各種ご提案のため、その他、お客さまとのお取引を適切かつ円滑に履行するためを挙げており、本件の各取引にあたり被告銀行が預金取引等で入手した情報を利用したことは、上記プライバシーポリシーに反するものではない上、そもそも、被告銀行は、預金取引上の義務として、同取引に基づき入手した情報につき、預金取引目的外利用を行ってはならない契約上の義務を負っているものと認めるに足りる証拠はない。さらに、モンターニュの購入に係る勧誘においては、原告は、「お客さまへ保険商品のご提案を行うにあたり、当行とお客さまの取引に関する情報(預金・為替・融資等の情報)について、お客さまのコンサルティング上、必要な範囲において利用させていただく場合があります。」と記載された「保険商品のご提案にあたって」(丙1の1・2)について予め口頭で合意をしているから、本件保険契約の勧誘等において原告の預金取引上の情報を利用することに義務違反は生じない。
したがって、被告銀行が、預金取引で入手した情報を利用した行為に契約上の義務違反は認められない。
8 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 小川理佳)
(別紙)争点及び当事者の主張の要旨
1 本件ファンド購入の錯誤無効の有無(争点1)
(原告の主張)
原告は、本件ファンドは、原告が従前被告銀行と行ってきた預金取引同様の元本確保型取引であると誤信した。本件ファンド購入は錯誤により無効である。
(被告銀行の主張)
否認ないし争う。
2 本件ファンド購入にあたり被告銀行及び被告Y1が行った勧誘行為の違法性の有無(争点2)
(原告の主張)
被告銀行及び被告Y1の勧誘行為には、以下のとおり違法性があり、被告銀行は不法行為責任(被告銀行自身の不法行為及び使用者責任)又は契約締結上の信義則違反による債務不履行責任を、被告Y1は不法行為責任を負う。
(1) 銀行は、金融商品の勧誘において、預金との誤認防止措置を採るべき義務を負い、特に、訪問販売的勧誘の場合には、店頭勧誘以上に高度の同義務を負うというべきところ、被告銀行は、預金誤認防止措置を怠った(預金誤認防止義務違反)。
(2) 原告は、当時69歳と高齢で、日中は仕事をしている娘と2人暮らしであり、平成14年以降様々な体の不調があり入退院を繰り返していた。原告は、金融取引や金融商品に関する知識は全くなく、元本が保全されリスクのない資産管理を望んでおり、当時、被告の預貯金は約880万円であり、1000万円が入金されることを知らずにいたのであるから、本件ファンドは不適合である(適合性原則違反)。
(3) 被告Y1は、原告に対し、「今度1000万円が入ります」「こちらにお預けください」「こちらでお預かりしておきます」「入金後の手続のためこちらだけ記入しておいてください」「毎月利息が総合口座に入ります」「楽しみにしてください」「小遣いにもなる」「そのお金で旅行にも行ける」等と申し向け、不確実な事項について、必ず毎月利息が入り、利益が出るかのように断定した(断定的利益判断の提供)。
(4) 本件ファンドは、投資対象国が不特定多数でありかつ新興国が多く含まれていることによる複雑性・予測困難性を有し、為替変動リスクや元本が取り崩されて分配されるリスクがあり、信託報酬が高いといった商品特性を有するところ、高齢で投資経験のない原告に対し、投資の適否について適格な判断をなし得るに足りる情報の提供あるいは自らそのような情報を収集すべき必要があることを自覚するに足る注意喚起のために必要十分な説明がなされていない。特に投資信託においては、運用会社こそが決定的に重要な存在であるところ、ピクテ社は業務停止中であったが、その説明はなされていない(説明義務違反)。
(5) 被告らは、原告の無知や経験のなさと、被告銀行に対する信頼に乗じ、顧客にとって極めて不利益な状況にある本件ファンドを勧誘・販売し、一方で多額の手数料報酬を得ているのであり、誠実・公正義務、善管注意義務に違反する(誠実・公正義務、善管注意義務違反)。
(6) 原告には、本件ファンド購入代金額である1000万円の損害が生じた。
(被告銀行及び被告Y1の主張)
否認ないし争う。
(1) 預金誤認防止義務違反、断定的利益判断の提供、説明義務違反について
被告Y1が他行から振込予定の1000万円の今後の運用についての原告の意向を確認したところ、原告は、保有している外債オープンの運用が好調であることから、他の投資信託商品にも興味を持ち、被告Y1が被告銀行の取扱商品を一通り説明したところ、本件ファンドを選択した。被告Y1は、途中からDも同席して、30ないし40分程度をかけて説明資料を用いて本件ファンドの説明を行い、その際に、預金とは異なり元本が保証されるものではないこと、利益が確実なものではなく損失が発生する可能性があること、リスク(経済情勢等による価額の変動、多数の通貨を扱っているための為替リスクが発生する、新興国にも投資を行っており先進国と比較すると価額変動が大きいこと等)、手数料等必要経費について説明した。また、ピクテ社作成の顧客向け書面を用いて同社の行政処分の内容を説明したのであり、原告の投資経験、資産、投資目的、思惑、金融商品の属性等からして原告に対して充分な説明をしている。
被告Y1は、利益が出るのが確実であると誤認させる説明はしていないし、利息が発生する旨の説明はしていない。
(2) 適合性原則違反について
原告は、個人向け国債と外債オープン購入の投資経験があり、振込金は当面使う予定もないと回答していた。原告の保有金融資金は約3000万円であり、リスク性資産の割合は総資産の3割程度であり、原告の判断能力にも問題はなかった。
(3) 誠実・公正義務、善管注意義務違反について
被告Y1は、原告の投資経験や資産運用目的を把握し、原告の理解を得た上で申込を受けたのであり、誠実・公正義務、善管注意義務違反はない。
3 本件保険契約締結にあたり被告銀行及び被告Y1が行った勧誘行為の違法性の有無(争点3)
(原告の主張)
被告銀行及び被告Y1の勧誘行為には、以下のとおり違法性があり、被告銀行は不法行為責任(被告銀行自身の不法行為及び使用者責任)又は契約締結上の信義則違反による債務不履行責任を、被告Y1は不法行為責任を負う。被告保険会社は、被告Y1及び被告銀行を使者・代理人・履行補助者として上記勧誘を行ったのであるから、不法行為責任を負う。また、被告保険会社は、消費者契約法5条1項の類推適用あるいは信義則上(民法1条2項)本件保険契約の締結過程における被告銀行及び被告Y1らの違法勧誘行為の帰属を否定できない。
(1) 預金誤認防止義務違反 前記2(原告の主張)(1)と同じ。
(2) 適合性原則違反
原告は、高齢でいくつもの疾病を抱えて不安定な生活状況にあり、判断能力も減退しており、金融取引についての知識や経験もなく、財産を現状で残すことを希望していた。本件保険契約締結は、本件ファンド購入からわずか2か月後であり、契約締結によりリスク性商品の合計額が原告の資産の7割近くに達していた。また、モンターニュは、複雑な為替変動のリスクを伴う通貨選択型の商品であり、高齢の原告にとっては、積立期間を長期にしない限り外貨での契約を免れず、為替リスクが生じるものであること、購入資金は、国債と定期預金を解約することによっており、必要性がないことからすれば、原告の知識、経験、取引目的等に照らし不適合である。
(3) 断定的利益判断の提供
被告Y1は、「それなら増やしてあげたらよい」「5年間はおろせないが利息がつく」「当行のすすめる年金ですから安心です」等と申し向け、さらに、原告の通帳を見せてもらうと、「他の国債もまとめて850万円分にすればいい」「それだけたくさんDさんに残してあげられる」「5年間おいておけば必ず出したお金以上になって戻ってくる」等と申し向け、不確実な事項について必ず利益が出て、出したお金以上のお金が返ってくるかのように断定した。
(4) 説明義務違反
モンターニュは、為替変動や予定利率変動のリスクを有し、一般投資家には困難な契約通貨の選択を要する商品であり、積立期間を5年とする場合には外貨を選択せざるをえない商品であったが、モンターニュのリスク、商品特性等について原告が充分に理解できるような説明はなされていない。原告は、書面の呈示や交付を受けた事実はないし、仮に呈示交付されていたとしても、それだけでは複雑難解な金融商品の説明として到底足りない。
(5) 誠実・公正、善管注意義務違反
被告らは、モンターニュの内容、リスクを理解していない原告に対し、原告の意向と異なる商品を勧誘し、本件ファンドに引き続きわずか2か月の間に総資産の6割以上にあたる1850万円をリスク性商品に支出させたのであり、誠実・公正、善管注意義務に違反する。
(6) 原告が保険料として支払った850万円のうち返還未了の161万8499円の損害が生じた。
(被告らの主張)
否認し争う。
(1) 被告Y1らは原告が主張するような説明を行っていない。
被告Y1とファイナンシャル・アドバイザーであるHは、①平成19年8月9日午後1時50分から午後3時10分ころまで(原告の長女であるDも同席)、②同年9月21日午前10時50分ころから午後12時10分ころまでの2回にわたり、原告宅において、パンフレット、設計書見本、為替チャート図等を用い、預金等との違い、為替リスク、元本保証がないこと等商品内容とリスクを説明し、原告の意向を確認したところ、原告が申込を希望した。原告は、保険契約申込書に記入・押印をし、さらに、意向確認書を一つずつ読み上げて説明をした上で、「はい」にチェックを記入した上で保険契約者欄に記入をした。
本件保険契約申込前日の被告銀行が把握している原告の資産保有状況は、国債500万円、預金1232万円、投資信託1100万円であり、他にも郵便局等に預金等があったものと推測され、本件保険契約の保険料にはすべて余裕資金が充てられている。
(2) 被告銀行や被告Y1は、保険契約締結の媒介(保険業法2条26項)を行う者であり、被告保険会社の代理人でもなければ使者でもなく、履行補助者にも該当しない。
4 本件保険契約の錯誤無効の有無、クーリングオフ解除の可否(争点4)
(原告の主張)
(1) 錯誤無効
原告は、被告銀行及び被告Y1の勧誘行為により、本件保険契約に係る取引は、原告が従前被告銀行と行ってきた預金取引同様の元本確保型取引と誤信したものであるから、本件保険契約は、錯誤により無効となる。
(2) クーリングオフ
原告は、本件保険契約についてクーリングオフ解除をした。
(3) 本件保険契約の錯誤無効又はクーリングオフ解除により、被告保険会社は、原告が本件保険契約に基づき交付した850万円のうち返還未了の161万8499円を法律上の原因なく利得している。
(被告保険会社の主張)
否認ないし争う。
(1) 錯誤無効について
被告Y1らは、原告が主張するような説明を行っておらず、原告がモンターニュを預金同様の取扱がなされるものと誤信した等ということはあり得ない。
仮に原告に誤信があったとしても、原告には重過失がある。
(2) クーリングオフについて
被告Y1らは、パンフレット及び「特に重要なお知らせ(注意喚起情報等)」により説明を行い、これらを原告に対し交付済みであるところ、既に本件保険契約の申込日又は上記書面の交付日(いずれも平成19年9月21日)から起算したクーリングオフ行使期間を経過している。また、原告が当該行使期間内に書面による申込の撤回又は解除をしたとの主張すらない。
5 被告銀行が預金取引で入手した情報を利用した行為の違法性の有無(争点5)
(原告の主張)
被告銀行は、預金取引上の義務として、同取引に基づき入手した情報につき、預金取引目的外利用を行ってはならない契約上の義務を負うところ、被告銀行が、原告との間の預金取引で入手した情報を元に、原告に本件ファンド購入や本件保険契約を締結させた行為は上記の義務にそれぞれ反する。
(被告銀行の主張)
否認ないし争う。
被告銀行では、プライバシーポリシー(個人情報保護宣言)において、顧客の個人情報を利用する業務内容として、投信販売業務、保険販売業務等を明記するとともに、利用目的として、継続的な取引における管理、金融商品やサービスに関する各種ご提案のため、顧客との取引を適正かつ円滑に履行するため等と明記している。また、被告銀行の「預金取引規定集」において、預金取引情報の預金取引目的外利用を禁止する条項はないから、預金取引に基づいて入手した情報について預金取引目的外利用を行ってはならないとの契約上の義務は存在しない。
また、本件保険契約の初回説明時、商品説明に先立ち、「保険商品のご提案にあたって」を用いて、預金取引に係る情報等、銀行取引を通じて知り得た顧客に関する情報を保険募集に利用することについて説明し、原告の同意を得ている。
6 その他の原告の損害(争点6)
(原告の主張)
(1) 慰謝料 150万円
原告は、医療費等の負担の不安を抱えながら今後の生活の蓄えや娘へ残したいと考えていた財産を違法な勧誘により交付させられ、更に、被告らの不誠実な応訴態度により著しい精神的苦痛を被ったのであり、その慰謝料額は150万円を下らない。
(2) 弁護士費用 200万円
(被告らの主張)
否認ないし争う。