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仙台地方裁判所 平成23年(ワ)214号 判決 2012年3月28日

仙台市<以下省略>

原告

上記訴訟代理人弁護士

千葉晃平

福岡県<以下省略>

被告

Y1

福島県<以下省略>

被告

Y2

東京都<以下省略>

被告

Y3

仙台市<以下省略>

被告

Y4

仙台市<以下省略>

被告

Y5

上記被告ら訴訟代理人弁護士

土橋正

富永康彦

主文

1  被告Y1及び被告Y2は,原告に対し,連帯して,1410万1529円及びこれに対する平成22年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は,原告に生じた費用の5分の2と被告Y1及び被告Y2に生じた費用を被告Y1及び被告Y2の連帯負担とし,原告に生じたその余の費用と被告Y3,被告Y4及び被告Y5に生じた費用を原告の負担とする。

4  本判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1原告の請求

1  被告らは,原告に対し,連帯して,3181万円及びこれに対する平成22年10月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言

第2事案の概要

1  本件は,平成23年2月8日現在85歳の原告が,株式会社ワールドゲートカンパニー(破産手続中。以下「ワールドゲート」という。)との間で,平成22年2月26日から同年10月27日までの約8か月の間に複数回オプションCFD取引(以下,「本件各取引」という。)を行って合計2701万円を投資したが,本件各取引は違法な取引でありそのような取引を行っていたことは不法行為に当たる,又は,原告を本件各取引に勧誘したワールドゲート従業員であった被告Y4(以下「被告Y4」という。)及び被告Y5(以下「被告Y5」という。)の勧誘行為に違法があったから,ワールドゲートが原告に本件各取引をさせた行為は不法行為に当たるとして,上記各被告らに対して民法709条に基づき,当時同社の代表取締役である被告Y1(以下「被告Y1」という。),同社の元取締役であり会長であった被告Y2(以下「被告Y2」という。)及び同社の元取締役であり管理部部長であった被告Y3(以下「被告Y3」という。)に対して民法719条1項,2項又は会社法429条,430条に基づき,投資した2701万円,慰謝料200万円,弁護士費用280万円の合計3181万円の損害賠償金の連帯支払を求めた事案である。

2  前提となる事実(争いのない事実及び末尾掲記の証拠により認められる事実)

(1)ア  原告は,大正14年○月○日生まれの女性である(平成23年2月8日現在85歳)。

イ  ワールドゲートは,平成20年6月に設立されたオプション市場での売買及び仲介業等を主たる目的とする株式会社である。

ウ  エー・シー・イー・インターナショナル株式会社(以下「ACE」という。)は,オプション取引を扱う株式会社である。

エ  被告Y2は,浄水器販売,イベント業務等を行う株式会社大倉(以下「大倉」という。)の経営者であり,平成17年からACEの外部顧問としてACEのセミナーの会場設営やタレントを呼ぶなどの業務を担っていた(被告Y2本人調書2頁)。後に,被告Y2は,平成20年6月,被告Y1と共にワールドゲートを設立し,取締役に就任し,従業員からは会長と呼ばれていた(被告Y5本人調書18,19頁)。

オ  被告Y1は,大倉の元従業員であり,被告Y2の薦めで同社を退社してACEに入社した者である(被告Y1本人調書1,2頁)。被告Y1は,平成20年6月,被告Y2と共にワールドゲートを設立し,代表取締役に就任した。

カ  被告Y3は,平成8年から平成20年7月15日までACEの従業員であったが,被告Y2の誘いを受けて,同年8月からワールドゲートの従業員になり,同社管理部長となった。被告Y3は,平成22年7月5日に同社の取締役に就任したが同年9月10日に退任した(被告Y3本人調書3,9頁)。

キ  被告Y5は,平成11年ないし13年2月ころから平成20年7月までACEの従業員であったが,被告Y3の誘いを受けて,同年8月にワールドゲートの従業員になり,同社仙台支店営業部1課長となった(被告Y5本人調書5頁)。

ク  被告Y4は,先物取引業者である日本ユニコムの従業員などを経て,平成21年9月にワールドゲートに入社し,平成22年2月当時,ワールドゲート仙台支店営業部1課従業員であった(被告Y4本人調書1,11頁,弁論の全趣旨)。

(2)  被告Y2及び被告Y1は,平成20年6月,ワールドゲートを設立した。ワールドゲートは,仙台支店及び福岡支店を開店した。

(3)  被告Y2及び被告Y1は,ワールドゲートにおいて,オプションCFD取引のみを取扱うこととした。

ア オプションCFD取引の意味

オプションとは商品を一定の時点(限月)に購入又は売却等する権利のことであり,CFDとは「Contract for Difference」の略で,現物の受け渡しを伴わないお金の授受による取引(差金決済取引)をいう。つまり,オプションCFD取引とは,商品を一定時点(限月)に購入又は売却等する権利を,現物の授受を伴わない差金で決済する取引である(甲4,弁論の全趣旨)。

イ 証拠金取引

CFD取引は,顧客が証拠金を拠出し,業者が当該証拠金を数十倍にして運用する(レバレッジ(てこの原理)を利かせる)という証拠金取引である。このような取引において,バイヤー(買主・顧客と同義)のリスクは拠出した証拠金(プレミアム代金)に限定されるが,グランター(売主・業者と同義)は,当該証拠金(プレミアム代金)を用いて数十倍にして運用するためリスクは無限大であり,当該運用によって得た利益は全てバイヤー(買主・顧客)に支払われるため,バイヤー(買主・顧客)の利益可能性は無限大であるのに対し,グランター(売主・業者)のリスクは当初バイヤー(買主・顧客)が支払った証拠金(プレミアム代金)に限定されるというシステムになっている(被告Y3本人調書35頁,乙6,7)。

もっとも,ワールドゲートは,別会社であるカルジャパンとの間で,ワールドゲートが顧客から受けた注文と同内容の注文を別会社であるカルジャパンにそのまま発注する旨の契約を締結していたことから,プレミアム代金の運用を行うのはワールドゲートではなくカルジャパン(又はカルジャパンの取引先)であるため,ワールドゲートに運用リスクはないことになる。また,ワールドゲートは,顧客から支払のあった証拠金(プレミアム代金)を全額カルジャパンとの取引代金として支払うため証拠金(プレミアム代金)はワールドゲートの収入にはならず,同社が得られる収入は顧客の支払う手数料となる(被告Y3本人調書36ないし38頁)。

ウ 相対取引

オプションCFD取引は,取引所で行われる取引ではなく金融商品取扱業者と顧客との間で行われる相対取引である(甲4,70)。取引所取引であれば取引所が取引価格を定めるが,相対取引の場合は,金融商品取扱業者がインターバンク市場におけるレート等を参照して取引価格を定めるのが通常である。インターバンク市場は,実在する取引所のように一元的に管理された市場ではなく,多数の参加者が電話や電子端末などいくつかの方法によって相対形式で取引を行う市場であるため,ある一定時点においても複数のレートが成立しているのが常態である。このため,マスメディア等を通じて報道される為替レートとインターバンク市場を参照として金融商品取扱業者が提示する為替レートとが常に同一であるとは限らない(甲70,71,弁論の全趣旨)。

(4)ア  原告は,平成22年2月26日,ワールドゲート仙台支店営業部1課の被告Y4の勧誘を受けて,ワールドゲートとの間で,オプションCFD取引契約(以下「本件契約」という。)を締結した(甲2,4)。

イ  本件取引1

原告は,同日,ワールドゲートに対し,普通預金の中から預り金200万円を交付し,同社から砂糖を平成22年7月(納会日同年6月15日)に40セントで買う権利16枚,砂糖を同日に13セントで売る権利16枚を合計30万7896円で購入し,ワールドゲートに対して168万円の手数料を支払った(甲8)。

ウ  本件取引2

(ア) 原告は,同年3月ころ,被告Y4及び被告Y5の話を聞いた上,同年4月2日,●●●銀行との間の国債の契約を解約した返戻金等を用いて,ワールドゲートに対し,預り金350万円を交付した(甲7,9,原告本人調書15,22,23頁)。

(イ) 原告は,同月5日から同月8日までの間に,上記預り金を用いてワールドゲートとの間で取引を行い,原告の預り金残高は同月8日までに20万1459円(292万0032円+28万1427円-300万円)となった(甲10)。

エ  原告は,●●●に預金してあった定期預金1500万円の満期がきた際に,自動更新をせずに普通預金とし,これを用いてワールドゲートと取引することにした(原告本人調書23頁)。

オ  本件取引3

(ア) 原告は,同年4月9日,ワールドゲートに対し,預り金300万円を交付し,同社から砂糖を平成22年7月(納会日同年6月15日)に17.5セントで買う権利6枚,砂糖を同年10月(納会日同年9月15日)に29.5セントで買う権利10枚,砂糖を同年7月(納会日同年6月15日)に15.25セントで売る権利6枚,砂糖を同年10月(納会日9月15日)に11セントで売る権利10枚を合計124万0032円で購入し,ワールドゲートに対して168万円の手数料を支払い,預り金残金は28万1427円となった(甲10)。

(イ) 原告は,同月13日,ワールドゲートから砂糖を平成22年7月(納会日同年6月15日)に18セントで買う権利1枚を購入した(甲15)。

(ウ) 原告は,同年4月30日,ワールドゲートに対し,預り金350万円を交付し,同社から砂糖を平成22年7月(納会日同年6月15日)に16セントで買う権利9枚,砂糖を同年10月(納会日同年9月15日)に13.5セントで売る権利9枚を合計114万9967円で購入し,ワールドゲートに対して94万5000円の手数料を支払い,預り金残金は146万7977円となった(甲11)。

(ウ) 原告は,同年5月10日,ワールドゲートに対し,預り金100万円を交付し,同社から砂糖を平成22年10月(納会日同年9月15日)に16.75セントで買う権利4枚,砂糖を同日に12セントで売る権利4枚を合計48万9356円で購入し,ワールドゲートに対して42万円の手数料を支払い,預り金残金は44万3064円となった(甲12)。

(エ) 原告は,同年5月12日,ワールドゲートに対し,預り金60万円を交付し,同社から砂糖を平成22年10月(納会日同年9月15日)に12.75セントで売る権利2枚を合計12万3993円で購入し,ワールドゲートに対して10万5000円の手数料を支払い,預り金残金は46万1651円となった(甲13)。

カ  被告Y5は,原告に対し,砂糖が不足して値段が上がる傾向にあったため,砂糖を作る農家が増え,そのためにとうもろこしや小麦の作付面積が減少することが予想される旨話した(被告Y5本人調書23頁)。

キ  本件取引4

(ア) 原告は,同月20日,ワールドゲートに対し,預り金150万円を交付し,同社からとうもろこしを平成22年9月(納会日同年8月27日)に400セントで買う権利5枚,とうもろこしを同限月(同納会日)に350セントで売る権利5枚を合計73万1351円で購入し,ワールドゲートに対して52万5000円の手数料を支払い,預り金残金は28万1986円となった(甲14)。

(イ) 原告は,同月26日,本件取引3で購入した権利のうち,砂糖を平成22年7月(納会日同年6月15日)に17.5セントで買う権利6枚,砂糖を平成22年7月(納会日同年6月15日)に18セントで買う権利1枚,砂糖を平成22年7月(納会日同年6月15日)に16セントで買う権利9枚を,限月を待たずに転売して45万2464円の利益を確定させ,ワールドゲートに対し,16万8000円の手数料を支払った(甲15)。

(ウ) 原告は,同年5月26日,ワールドゲートに対し,預り金600万円を交付し,同社からとうもろこしを平成22年9月(納会日同年8月27日)に400セントで買う権利2枚,とうもろこしを同年12月に(納会日同年11月26日)に600セントで売る権利39枚,とうもろこしを同年9月(納会日同年8月27日)に350セントで売る権利2枚,とうもろこしを同年12月(納会日同年11月26日)に290セントで売る権利39枚を合計153万1824円で購入し,ワールドゲートに対して430万5000円の手数料を支払い,預り金残金は46万5892円となった(甲15)。

ク  本件取引1の損失の確定

原告が本件取引1を行った同年2月26日から同取引において購入した権利の納会日である同年6月15日までに,砂糖の価格はほぼ横ばいであった。原告は,同年7月に,本件取引1で購入した全ての権利を放棄し,購入代金30万7896円及び本件取引1で被告ワールドゲートに支払った手数料168万円の合計198万7896円の投資金が本件取引1においては回収できないことが確定した(被告Y4本人調書42頁)。

ケ  本件取引5

原告は,同年7月30日,ワールドゲートから砂糖を平成23年3月(納会日同年2月15日)に16.25セントで売る権利4枚を購入した(甲51)。

コ  納会日平成22年8月27日の権利の利益および損失の確定

同日までになされた本件各取引のうち,同日を納会日とする権利について,同日,損失及び利益が確定し,損失が出る取引については権利放棄し,利益が出る取引については権利行使して損益を確定させた。

サ  ワールドゲートにおいては,同年9月ころ,全顧客に対して,契約の締結を勧誘した行為は顧客にとって不愉快又は不都合ではなく取引を開始又は継続する旨の「海外商品市場先物オプション取引,取引開始・継続意思確認に関する通知書」(甲6。以下「意思確認に関する通知書」という。)を送付することにした(被告Y4本人調書26,27頁)。ワールドゲートは,原告にも意思確認に関する通知書を送ったが,原告からは署名捺印したものが返送されてこなかった(被告Y4本人調書27頁)。

シ  本件取引6

(ア) 原告は,同年9月16日,ワールドゲートに対し,預り金96万円を交付し,同社から小麦を平成22年12月(納会日同年11月26日)に920セントで買う権利5枚,小麦を平成23年3月(納会日同年2月18日)に590セントで売る権利5枚を合計46万5583円で購入し,ワールドゲートに対して52万5000円の手数料を支払い,預り金残金は1万8452円となった(甲16)。

(イ) 原告は,平成22年9月17日,ワールドゲートに対し,預り金70万円を交付し,同社から小麦を平成23年3月(納会日同年2月18日)に590セントで売る権利3枚を合計13万0275円で購入し,ワールドゲートに対して15万7500円の手数料を支払い,預り金残金は43万0677円となった(甲17)。

(ウ) 原告は,同年9月22日,ワールドゲートに対し,預り金55万円を交付し,同社から小麦を平成22年12月(納会日同年11月26日)に910セントで買う権利3枚,小麦を平成23年3月(納会日同年2月18日)に580セントで売る権利3枚を合計27万6866円で購入し,ワールドゲートに対して31万5000円の手数料を支払い,預り金残金は1055円となった(甲18)。

(エ) 原告は,同年10月21日,ワールドゲートに対し更に250万円を預り金として交付し(甲25),同社からとうもろこしを平成23年3月(納会日同年2月18日)に700セントで買う権利10枚,とうもろこしを同日,490セントで売る権利10枚を,合計137万5845円で購入し,ワールドゲートに対して105万円の手数料を支払い,預り金残金は7万7018円となった(甲19)。

(オ) 原告は,同年10月22日,ワールドゲートに対し更に20万円を預り金として交付し(甲26),同社から平成23年3月(納会日同年2月18日)に660セントで買う権利1枚,とうもろこしを同日490セントで売る権利1枚を合計15万7817円で購入し,ワールドゲートに対して10万5000円の手数料を支払い,預り金残金は1万4201円となった(甲20)。

ス  ワールドゲート仙台支店においては,冬季は暖房のために灯油の需要が増すこと,イランの当時の大統領アハマディネジャドは元テロリストであるとか,イランのホルムズ海峡を通過しないと原油が供給されないなどのリスク要因があって原油の価格が高騰する旨の情報があることについて会議を行い,資料を作成し,顧客に灯油を勧める方針を決めた(被告Y5本人調書23頁)。

セ  本件取引7

(ア) 原告は,同年10月27日,ワールドゲートに対し更に100万円を預り金として交付し(甲27),同社から灯油を平成23年1月(納会日平成22年12月27日)に256セントで買う権利3枚,灯油を同日200セントで売る権利3枚を合計67万9882円で購入し,ワールドゲートに対し手数料31万5000円を支払い,預り金残金は1万9319円となった(甲21)。

(イ) 原告は,同年11月30日までに,納会日を平成23年2月に設定した権利のうち,買う権利(とうもろこし合計11枚,灯油3枚)のみを手仕舞いし,売る権利は保有することにした(甲51)。

ソ  納会日平成22年11月26日の権利の利益および損失の確定

同日までになされた本件各取引のうち,同日を納会日とする権利について,同日,損失及び利益が確定し,損失が出る取引については権利放棄し,利益が出る取引については権利行使して損益を確定させた。

タ  ワールドゲートは,同年5月ないし12月までの間に,原告に対して,本件各取引において生じた利益として合計234万7622円を9回に分けて支払ったが(原告本人調書10頁,甲38),このうち同月に,本件各取引において生じた利益として振り込まれた額は,573円ないし575円であった(原告本人調書10頁)。原告は,これを受けて,もう駄目だと感じた(原告本人調書10頁)。

チ  警察は,平成23年1月6日,ワールドゲートに対する特定商取引法違反(不実告知)の容疑で,同社本社,各支店及び同社幹部職員の自宅において捜索差押えを実施して営業用動産を一式押収した(甲29)。ワールドゲートは,同日以降,一切の営業ができない状態となった(被告Y5本人調書7頁)。

これにより,本件各取引のうち平成23年2月18日を納会日とする権利については,その利益,損失の額は不明である。

ツ  ACEは,平成23年4月28日午後5時,東京地方裁判所の破産開始決定を受けた(甲63)。

テ  ワールドゲートは,平成23年5月10日午後4時,福岡地方裁判所の破産開始決定を受け,弁護士C(以下「ワールドゲート破産管財人」という。)が管財人に選任された(甲28)。

3  争点

(1)  本件各取引が賭博に当たる違法な取引といえるか(争点1)

(2)  本件各取引が暴利行為に当たる違法な取引といえるか(争点2)

(3)  本件各取引のうち両建てを行った取引が違法な取引といえるか(争点3)

(4)  本件各取引が総合的な要因により違法な取引といえるか(争点4)

(5)  ワールドゲートが原告に本件各取引をさせたことが不法行為に当たるか(争点5)

(6)  被告Y1の法的責任の有無(争点6)

(7)  被告Y2の法的責任の有無(争点7)

(8)  被告Y3の法的責任の有無(争点8)

(9)  被告Y5の法的責任の有無(争点9)

(10)  被告Y4の法的責任の有無(争点10)

第3当事者の主張

1  争点1(本件各取引が賭博に当たる違法な取引といえるか)

(原告)

(1) 本件各取引が賭博に該当するか

賭博とは,偶然の輸贏に関し,財物をもって博戯または賭事をすることをいい,偶然の輸贏とは,勝敗が偶然の事情にかかっていることをいい(大判昭和10年3月28日・刑集14.346),健全な経済的生活の風習すなわち勤労によって生計を維持するという経済・勤労生活等の風習を堕落させることから刑罰をもって禁ぜられるものである(刑法185条。最高裁判決昭和25年11月22日・刑集4.11.2380)。

投機性が高いと言われる商品先物取引が賭博に該当するか否かは古くから論じられてきたものであるが,「①法の定める取引所取引以外の,②現物の授受を予定しない差金授受契約」が賭博に該当することは明らかである(大正判決大正12年11月27日刑集2.866。甲41の38頁下段)。

本件各取引は,①米国先物オプション市場を参照市場とする,取引所取引ではなく,委託者と受託者が取引相手となる相対取引での決済であり,②証券や商品取引,又はそれらを基に派生した金融商品などの取引における差金決済取引であるから,賭博に該当する。その他,本件各取引が,原告が交付した2701万円がわずか8か月程度の間に全て失われる射倖性の高いものであることも賭博該当性に寄与する事情である。

(2) 違法性が阻却されるか

賭博に該当する商品先物取引であっても,商社・大企業にとっての保険効用等という社会的意義を有するなどの社会的相当性が認められる場合には違法性が阻却される場合もある。本件で問題となっているCFD取引にも,金融商品取引業登録業者により,取引市場へつながるようにしてなされる取引やカバー取引(金融商品取扱業者が顧客からの注文と同一の注文を第三者的業者に発し,金融商品取扱業者が使用者的立場になることによって顧客との取引の利益相反性等を防止するものであり,それぞれの注文の同一性が確保されているもの)を併せて行う場合には違法な取引とはいえない。しかし,本件各取引は取引市場につながっておらず,かつカバー取引が行われていないのであるから,違法性は阻却されない。

金融商品取引を積極的に肯定する立場の者からは,違法性が阻却されるか否かは,①当該取引の目的の相当性,②当該取引自体の相当性の二つの要素が重要であるとの見解が示されているところ,かかる見解に立ったとしても,本件各取引には,何らの社会的相当性がない。

ワールドゲートは金融商品取引業登録をしておらず,非常に複雑難解な内容の取引を85歳の高齢な女性である原告に行わせたものであるから,社会的不合理性は明らかであり,違法性が阻却される余地はない。

(被告ら)

(1) 本件各取引が賭博に該当するか

原告は,本件各取引が相対取引であること,差金決済取引であることを理由に賭博に該当するなどと主張する。

しかし,取引所で取引されていない商品については相対取引すなわち店頭取引であることは当然である。大阪証券取引所のJASDAQ市場で上場されている銘柄の一部は2004年までは証券会社の店頭で行われていたもので,相対取引であったが,同年からは取引所有価証券市場に業態転換している(乙9)。相対取引であるからという理由で賭博に当たるなどという主張は聞いたことがない。原告が指摘する東京地裁判決平成22年11月4日判決(甲66)は,このような基本的理解を欠く不当な判決である。

相対取引であり,かつ差金決済取引であるCFD取引は既に社会的に認知されている取引であり(乙6,7),商品CFD取引についても既に投資商品として紹介されている。たとえば,サクソバンクの子会社であるサクソバンクFX証券ではCFDによる貴金属オプション取引も行われている(乙8の2)。このように社会的に認知され,第一種金融商品取引業者として登録されている業者(乙6)がインターネットで公表し,口座開設を勧めているオプションCFD取引について公序良俗違反であるとか,賭博行為であるというような主張が失当であることはいうまでもない。

(2) 違法性が阻却されるか

原告は,本件各取引においてカバー取引がなされていないと主張して違法性が阻却されないと主張する。

しかし,ワールドゲートは,本件各取引について,カルジャパン,岡藤商事又はGKGOH社にほぼ99%以上つないでおり(被告Y3本人調書16頁),カバー取引をしていたのであるから,原告の主張は前提を欠く。仮に,カバー取引を行っていなかったとしても,相対で取引する金融商品取扱業者がリスクを転換するためにカバー取引をするか,転換の必要性なしと判断してカバー取引をしないかは金融商品取扱業者のリスク判断にすぎず,カバー取引をしていないからといって違法ということにはならない。

2  争点2(本件各取引が暴利行為に当たる違法な取引といえるか)

(原告)

取引において手数料を受領する場合,交付金額の10%が合理性維持の上限とされている。

ところが,ワールドゲートは,本件各取引において極めて高額の手数料を得ている。たとえば,原告は,本件各取引のうち平成22年2月26日に行われた初回の取引(以下「本件取引1」という。)において,ワールドゲートに対し,30万7896円の金融商品の売買をするのに,168万円の手数料を徴収されている。原告が,本件取引1で利益を上げるためには,30万7896円で購入した商品が委託手数料を含めた約200万円を超える値上がりをしなければならないことになり,そのような値上がりは実現不可能である。原告とワールドゲート間の本件各取引全体をみると,原告の交付金額は合計2701万円であり,ワールドゲートがこれによって得た手数料額は1212万7500円であるから,被告が交付金額の44.9パーセントに当たる手数料を得たことになる。

他方,ワールドゲートは,顧客の注文をほぼそのまま市場につないでおり,自らは仲介をしているにすぎないため,値上がり,値下がりによるリスクを負うことなく,上記のような多額の手数料を入手しているものであり,その悪性は高いといえる。

よって,本件各取引は暴利取引である。

(被告ら)

原告は,本件各取引について,手数料が高過ぎると主張する。しかしながら,被告Y4は原告に対して,具体的な手数料額を示し,原告は,これを了解した上で本件各取引を行っているものである。

3  争点3(本件各取引のうち両建てを行った取引が違法な取引といえるか)

(原告)

両建ては,実質的にはその時点で手仕舞いをしたのと同様であるが,手仕舞いと異なり,受託者に対する委託手数料が発生する上,取引を継続できるというメリットがあるため,受託者が手数料取得目的又は取引継続目的で勧誘することが多い取引態様として問題とされてきた。商品先物取引法214条8号は,同一枚数・同一限月の両建てを勧誘する行為を禁止して,同法214条9号,省令103条は,同一枚数・同一限月でない両建てについて取引を理解していない顧客から取引を受注することを禁止している。主務省である農林水産省及び通商産業省は,「委託者保護に関する研究会のとりまとめ」において「『委託者の商品先物取引からの離脱を防ぎ,手数料を稼ぐ』ためにその勧誘が行われていることから」と記載している。

以上から,本件各取引のうち両建てを行っているものについては違法である。

(被告ら)

原告は,平成24年3月8日付けの最終準備書面において,それまで一切主張していなかった両建てについて主張している。このような主張は時機に後れた攻撃防御方法であって許されない。

4  争点4(本件各取引が総合的な要因により違法な取引といえるか)

(原告)

(1) 本件各取引の内容が客観的に不合理であるといえるか

契約当事者の一方にのみ専門的情報ないし知識等が存している場合には,他方当事者は,その契約内容について適切な説明を受けない限り契約を締結すべきか否かさえ,合理的に判断することができないのが通常である。そのような契約の締結が,知識を有する一方当事者からの一方的提案でなされた場合には,その契約内容が社会経済上の観点において客観的に正当で,合理的判断下においても同旨の契約がなされたであろうと認められるものでない限り,それによって成立した契約は,社会経済的に不公正であるばかりでなく,法的にも不公正であるというべきである。(福岡高裁判決平成23年4月27日)。

本件各取引は,契約当事者の一方であるワールドゲートのみに専門的知識が存しており,かつ,本件各取引は,賭博に該当するものであり,手数料が高いなど,その内容が客観的にみて不当である。

(2) 本件各取引が原告とワールドゲートの利益が相反する取引であったといえるか

ア(ア) 本件各取引は,ワールドゲートと原告が売主・買主の立場に立ち,直接に取引する相対取引で,かつ,いわゆるカバー取引が行われていなかったから,ワールドゲートの利益と原告の損失が直結するものである。

(イ) 被告らは,ワールドゲートにおいては顧客の損失をもとに会社が利益を得ることがないように可能な限りカバー取引を行っていた旨主張し,被告Y3はこれに沿う供述をする。

しかしながら,被告Y4は「(市場・取引所に)つなぐ必要はないんです」と述べ(被告Y4調書16頁),被告Y1は「(ワールドゲートが発注していたカルジャパンが)市場につないでいるかどうか」について「それは分かりません」と述べるなど(被告Y1調書17頁),被告らの供述は統一されていない。また,そのような取引をしていたことを裏付ける客観的証拠は提出されていない。

被告らは,捜査機関によって資料が押収されたために資料が手元にないなどと主張するが,捜査機関は法令に基づく照会には可能な範囲で対応し,また,本件においてはワールドゲートは破産しているから破産管財人に対する事実照会等によっても資料入手は可能であるところ,被告らにおいてかかる手段において資料収集をしていない事実はそのような取引を行っていなかったことの証左である。

イ 仮に,上記被告らが主張する取引がなされていたとしても,ワールドゲートと原告との間の相対性を喪失させるためには①原告とワールドゲートとの取引に直接対応・対当する取引が,②取引所につながる形で行われていなければならないところ,「ワールドゲートにおいては顧客の損失をもとに会社が利益を得ることがないように可能な限り同一の取引をしている」という程度では利益相反性は阻却されない。

(3) 本件各取引は,取引内容,条件,価格をワールドゲートが一方的に定める取引であったといえるか

本件各取引は,取引の一方当事者であるワールドゲートが,その内容,条件,価格等を一方的に決定する取引である。

(4) その他

ア ワールドゲートは本件各取引におけるオプションCFD取引が唯一の取扱商品であったにもかかわらず,ワールドゲートの取締役又は従業員であった被告らは,本件各取引についてその内容を正しく理解していなかったのであるから,顧客である原告に対して,適切な説明がなされ得る状態ではなかった。

イ ワールドゲートは,原告に対して,本件各取引について「米国先物オプション市場を参照市場とする…取引」と説明し,その旨契約書に記載している(甲4)。ところが,本件各取引は米国先物オプション市場を参照としていなかった。被告らは,本件各取引が米国先物オプション市場を参照とする取引であるかのように欺罔して勧誘していたものであり,詐欺に当たり得る行為である。

(被告ら)

原告の主張は争う。原告は,正しい説明を受けていれば合理的通常人であれば本件各取引にわずか8か月の間に2701万円もの老後資金を拠出することはあり得ない旨主張する。しかしながら,本件は老後資金として7000万円もの預貯金があった原告が投資信託で目減りした資金を増やそうと思って取引を始めたものであって,期間や投資の額をもって本件各取引が違法であったと主張することは失当である。

5  争点5(ワールドゲートが原告に本件各取引をさせたことが不法行為に当たるか)

(1)  適合性原則違反の有無

(原告)

ア 金融商品の勧誘・販売にあたっては,顧客の知識,経験,財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不当と認められる勧誘を行って投資者の保護に欠けることとなっており,又は欠けるおそれがあることがないように業務を行わなければならない(金融商品取引法40条1号)。かかる適合性原則違反は,金融商品取扱業者が顧客の知識,経験,財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的を調査検討する義務を負うことを当然の前提としていることから,金融商品取扱業者がそのような調査検討をしているかも検討されるべきである。

また,最高裁は,証券会社の担当者によるオプションの売り取引の勧誘が適合性の原則から著しく逸脱していることを理由とする不法行為の成否に関し,顧客の適合性を判断するに当たっては,単にオプションの売り取引という取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく,当該オプションの基礎商品が何か,当該オプションは上場商品とされているかどうかなどの具体的な商品特性を踏まえて,これと相関関係において,顧客の投資経験,証券取引の知識,投資意向,財産状態等の諸要素を総合的に考慮する必要がある旨判示している(最高裁平成17年7月14日判決)。

イ 本件において,原告は,本件各取引に関する知識を有しない仙台市在住の,85歳の,無職の年金生活者である。原告は,本件各取引開始当時,投機的取引を行う意思も客観的必要性もなかった。ワールドゲートにおいては,当時,80歳以上は原則取引禁止とする社内規程があったにもかかわらず,被告Y4は,かかる社内規程の存在を知らずに原告を勧誘したものである(被告Y4調書28頁)。被告Y3は,適合性原則が問題となる顧客については契約書を郵送で本社に送らせた上,本社で適合性をチェックする旨述べるが(被告Y3・5頁,19頁)本件においては,契約書が作成された平成22年2月26日に,原告から金員が交付されていることから,ワールドゲートが原告に対し,かかるチェックを行った事実は認めることができず,ワールドゲートが本件各取引を開始するに当たって原告の適合性を検討した形跡は認められない。また,本件各取引の対象商品の価格はワールドゲートから交付・提示される「プレミアム表」からしか把握できないものであったから,原告が自ら商品情報を入手して投資判断を行うことはできない状況であった。このように,被告Y4及び被告Y5は,適合性原則に関する社内規程すら認識せずに社内規則に反する高齢者たる原告を勧誘し,わずか8か月の間に2701万円もの老後の生活資金を拠出させているのであるから,適合性原則違反が認められることは明らかである。

原告を勧誘した被告Y5自身,「原告は,適合性という点では,今思えば,なかったんじゃなんですか。」との問いに対し,「その時点では,当然,ないという判断にはなりますよね。」(被告Y5調書15頁)と述べ,適合性原則違反を認めている。ワールドゲートの破産管財人も,「破産管財人の認識として,破産会社の取引方法は,手数料が極めて高額であるだけでなく,高度の金融知識を必要とする海外商品のオプション取引について十分な説明をすることなく高齢者等に販売しているので適合性違反・説明義務違反があると考えられ」ると述べていること(甲38)からも明らかである。

(被告ら)

ア 以下,原告が金融商品取引法40条1号に定める「知識」「経験」,「財産」及び「禁輸商品取引を締結する目的」を有していたか否かにつき述べる。

イ 知識

被告Y4は,本件契約締結以前に,原告に対して,本件商品について説明し,原告は,被告Y4の説明だけでなく自ら書籍を購入したり,知人からもらった書籍を読んで勉強し,書籍を読んでもよく分からない点については何度も質問し,ワールドゲート本社にも説明を求めている事実が認められる(原告本人調書15ないし16頁)。また,原告は,外国為替証拠金取引(FX取引)については知識がないからやったことがない旨述べており(原告本人調書15頁),原告は,知識がない取引はしないという強い意志を有しているものと認められる。また,原告は,本人尋問においてプットとコール両方持つと保険になるから安心だという被告Y4の説明を理解していた旨証言している(原告本人調書20頁)。

以上から,原告が本件各取引について知識を有していたことは明らかである。

ウ 経験

原告は,本件各取引においてオプションCFD取引を初めて行ったものであるから,本件各取引以前にオプションCFD取引の経験はなかった。もっとも,当該取引が初めてであればすべて適合性原則違反ということはあり得ない。原告は,平成22年2月26日に本件各取引をしてから,同年4月9日まで取引をしておらず(甲8,10),未経験者への対応としては相当な注意が払われていたといえる。

エ 財産

原告には7000万円ほどの預金がある。85歳の原告が,7000万円の資産のうち本件各取引によって2701万円の損失を出したとしても,その後の生活に支障を生じないことは明らかである。

オ 金融商品取引契約を締結する目的

原告が差金決済による利益獲得を目的として(もうけようとして)本件各取引をしたことは,原告本人尋問の結果から明らかである。

カ なお,原告の適合性については,ワールドゲートの本社管理部が電話で直接調査している。この電話を録音した審査記録は警察の捜査により資料が全て押収されているため提出することはできないが,当該資料があれば,適合性について適切な審査がなされていることは明らかである。

(2)  断定的利益判断の提供の有無

(原告)

金融商品は複雑難解であるがゆえ,顧客が金融商品市場における相場の推移及びその判断材料を予測ないし入手して判断することは困難であるから,専門業者又はその従業員が断定的利益判断の提供をすることは,それが相当な根拠をもつものと誤信して盲従する危険性が極めて高く,顧客が甘言に乗せられ誘導されて次々に金員を出して多額の損失を被る危険性が高い。そのため断定的利益判断の提供は禁止されている(金融商品取引法38条第2号,商品先物取引214条1号・2号)。そして,断定的利益判断の提供の有無は,「必ず」「確実」「絶対」といった文言に限定されるものではなく,顧客に「確実であると誤信させるおそれ」のある文言を用いたか否かによって判断されるべきであり,顧客の属性,おかれた状況等に照らして判断されるべきものである。

本件において,被告Y4は,平成22年2月26日午前10時ころ,原告に電話して,「今すぐもうかるよい商品がある」「今砂糖の値段が上がっている」「気候不順のため品薄になっている」「砂糖の値上がりは間違いない」「砂糖を買えば必ず上がる」「砂糖を1枚20万円で買えるなんて今しかない」「損はしない」「絶対にもうかる」などと述べ,さらに,その後,被告Y4及びワールドゲート仙台支店営業部1課長である被告Y5は,原告に対し,「砂糖でさらに利益がとれる」「とうもろこしも品不足となっている」「必ずもうかる」「1000万円出せば2000万円になる」などと述べた。また,そのほか,被告Y4は,原告に対し,「砂糖の値上がりチャンスです」「今買わないと損だよ」(原告本人調書2頁),「先日話した砂糖の件,非常に今買いどきですよ,今日がチャンスですよ」,「今やはり気象の関係で,砂糖が非常に高値を呼ぶときなので,今がやはりチャンスだ」(原告本人調書3頁,被告Y4本人調書3頁),「当たれば値段は上がる可能性は十分にあります」(被告Y4本人調書22頁),「(当時の認識として)お客さんに,値上がりの可能性は非常に高いと。ええ。」(同22頁),「まぁ,値上がりしそうだということですね。値上がりしそうだというお話し。」(同23頁),「コールとプットと,コールというのは値上がりした場合に利益になりますし,プットというのは値下がりした際に利益になりますので,それを両方もっていただく取引を。」(同23頁),「コールとプットを持っていただくことによって,その価格の変動が利益に変わるということになります。」(同24頁),「オプション取引の場合は,出した資金以上の損失はバイヤーのお取引の場合は発生しませんので,権利放棄することによって,そこから生まれるマイナスの部分というのは払わなくてもいい取引になりますので,ですから,両方持っていても,どちらかに大きく変動すれば利益が生じる取引です。」(同24頁)「取引を,例えば,利益が出ているものを,また,期限が長いものに移行されたりすれば,将来的にはしっかりと運用益は上がってくるというふううに思っていますけれども。」(同35頁)と述べている。被告Y4及び被告Y5は,原告に対し,「いわゆるオプション取引というのは,今までのあれと違って,プットとコール,そういうものを両方持てば,利益と損が総合して,そんなに大きな損にもならない」(原告本人調書4頁)と述べている。被告Y5は,原告に対し「被告Y5本人調書22から23頁の発言」を述べている。被告Y4及び被告Y5が原告に対し,断定的利益判断の提供をしたことは明らかである。

(被告ら)

原告は,絶対もうかると言われて初回の取引をしたが,損をしてだまされたと思ったにもかかわらず,被告Y4に,大丈夫,ずれただけだからこの次また買いましょうとと言われて,また取引をした旨述べる(原告本人調書17ないし18頁)。しかしながら,だまされたと思ったのであれば,大丈夫,また次に買いましょうと言われただけで取引を継続するというのはあり得ないのであって,原告の供述は信用できない。

被告Y4は,値上がりしそうだという話はした,しかし,いつまでに値段が上がるとか断定できるものではない旨供述し(被告Y4本人調書23頁),被告Y5も相場観を示したにすぎない旨述べている(被告Y5本人調書22,23頁)。

原告は,プットとコールの組合せで取引をしているところ,プットは相場が安くなれば利益がでるものであり,コールは相場が高くなれば利益がでるものである。被告Y4及び被告Y5が断定的判断を提供して原告に取引をさせたというのであれば,プットあるいはコールの一方だけを勧めたはずである。しかしながら,被告Y4及び被告Y5がプットとコールの組み合わせを勧めたのであるから,このことは,相場の見通しについて確信を有していなかったことを示すものである。そのような被告Y4及び被告Y5が断定的判断を提供することはあり得ない。

(3)  説明義務違反の有無

(原告)

金融商品は複雑難解であるがゆえ,顧客が金融商品市場における相場の推移及びその判断材料を予測ないし入手し判断することすら困難である上,そもそも,金融商品は建物,自動車,テレビ等の有体物と本質的に異なり,対象商品そのものが目に見えないものであり,専門家たる金融商品取扱業者,担当者の言葉たる説明によりその内実を把握するほかないものであるから,金融商品取扱業者の説明義務は,かかる金融商品の本質から当然に導かれるものであり,かつ,金融商品取引の基礎をなす極めて重要な義務である。

なお,説明義務は,形式的な書面交付等は当然の前提とした上で要求されるものであるから,書面交付等すら行われていない場合には説明義務違反は明白であり,同義務違反を治癒する余地は存しない。

本件においては,被告Y4及び被告Y5は,本件各取引において,原告に対し,「こちらの手続に必要な書類です。」「何枚かありますが記入押印だけをしてください。」と述べ,適切な説明をしていない。また,被告Y4及びY5は,本件各取引について出したお金が戻ってこないリスクや,平成22年2月26日に拠出した200万円のうち160万円が手数料であるという説明をしていない(原告本人調書4頁,6頁)。また,被告Y4は,本件各取引の対象商品について商品内容すら正しく把握しておらず,原告に商品内容について適切に説明することは不可能であった。

被告Y4は,尋問において「グランター」「オプション」などの説明を行ったかのように発言するが(被告Y4本人調書31頁),被告Y4作成の陳述書(乙1)にはそのような記載がされておらず,被告Y4がそのような説明をしたとは認められない。

(被告ら)

原告は,ワールドゲートから送付された「オプションCFD買付/転売及び計算報告書」(甲8ないし21)について,見ていない,息子に内緒で本件各取引をしていたため,上記各書面は洋服ダンスの奥の奥にしまうことばかり考えていた旨供述する。しかしながら,上記各書面には,書込みがなされており(甲8の「預り金本日残高」の下,甲8,10及び11の「選択価格」欄,甲16ないし18の「限月」,「納会日」の欄),上記各書面を見ていない旨の原告の供述は信用できない。原告は,上記各書面を見て本件各取引について理解していたものというべきである。

原告が十分な説明を受けていたかどうかは,原告の理解度によるところ,原告は本件各取引の内容を理解していたのであるから,説明義務違反もない。仮に,十分な説明がなくても原告が理解していたのであれば,説明義務違反と損害との間に相当因果関係がないことになる。

(4)  虚偽説明

(原告)

被告Y4は,平成22年2月26日,原告に対し,「銀行は銀行自身が取引をして利益を上げたうちほんの僅かな部分を利子にしている」「銀行に預けても利子だけである」と述べ,被告Y4及び被告Y5は,その後,原告に対し,「プットとコール両方持てば保険になり安心だ」と述べており,虚偽的説明を行っている。

なお,被告Y4及び被告Y5が,本件金融商品の説明を行っていたとしても,説明義務の対象は金融商品の内容のみならず,当該商品のかかる具体的リスク要因(いかなる市場のいかなる価格変動要因が存在するか,為替の変動要因,かかる要因の相当期間の実績値とこれに基づく今後の具体的予想,これらの要因の具体的入手先)も当然に含むものである(金融商品販売法3条,5から7条)。被告らは,原告に対し,かかる具体的要因を何ら説明していないから,説明義務違反があることに変わりない。

(被告ら)

争う。

(4)  誠実・公正義務,善管注意義務違反の有無

(原告)

金融商品取引業者の役員及び使用人は,顧客に対して誠実かつ公正に,その業務を遂行しなければならず(金融商品取引法36条),有価証券の売買及びデリバティブ取引に関する顧客の注文について,政令で定めるところにより,最良の取引条件で執行するための方針及び方法を定めなければならない(同法40条の2)。

本件において,被告Y4及び被告Y5は,原告の生活資金である金員を次々と交付させ,2701万円もの金員を支出させたものであり,何ら原告の財産保全等に配慮を行っていない。ワールドゲートは「意思確認に関する通知書」を作成し,これが提出されなければ顧客の保護のために取引継続はできないとの規則を定めたにもかかわらず,被告Y4及び被告Y5は,原告がこれを提出しなかったにもかかわらず取引を継続していた。したがって,被告Y4及び被告Y5に誠実・公正,善管注意義務違反があることは明白である。

(被告ら)

原告は,一般論を主張するのみで,具体的主張は「原告の財産保全等に配慮していない」というのみである。かかる主張に対しては,そのような事実がない旨の主張で十分である。

原告は,被告らが「意思確認に関する通知書」(甲6)を原告に送付したことを前提に原告がこれを返送していないのに取引を継続させたと主張する。しかしながら,原告は,上記通知書を受領しておらず見たこともないと述べている(原告本人調書4,5頁)。上記通知書がなぜ書証として提出されているのか不明である。原告の主張は前提事実を欠く。

6  争点6(被告Y1の法的責任の有無)

(原告)

(1) 共同不法行為責任(幇助を含む)の有無

被告Y1は,ワールドゲートの代表取締役として,本件商品を販売して事業展開を行うこと,及び手数料の額を決定し(被告Y1本人調書12頁,18頁),ワールドゲートにおいて月1回開催される役員会議で経営方針を決定し(被告Y1本人調書23頁),その実現のために,被告ワールドゲート従業員であるY4及び被告Y5を利用し,かつ,被告ワールドゲートの名称を積極的に利用させ,被告Y4及び被告Y5をして原告に対する違法勧誘等を実行せしめ,もって原告をして2701万円もの金員を交付せしめたものであるから,被告Y4及び被告Y5と共に共同不法行為責任を負う(民法719条1項)。

被告Y1は,被告Y4及び被告Y5が使用した名刺や資料(甲2ないし27)を作成して,上記各被告らに利用させたものであるところ,かかる行為は,上記各被告らの原告に対する不法行為を容易にしたものであり,幇助による不法行為にも当たる(民法719条2項)。

(2) 代表取締役としての任務懈怠責任の有無

被告Y1は,ワールドゲートの代表取締役として同社従業員の勧誘行為が違法に及ばないよう注意すべき義務を負っていた。

そして,被告Y1は,ワールドゲートを設立して約半年を過ぎたあたりから訴訟を提起されたり弁護士間で話し合って和解をしたりというようなトラブルが増加し,トラブルの額も数百万円,1000万円,2000万円とだんだん増加してきたことを認識し(被告Y1本人調書5頁,8頁),ワールドゲート従業員の勧誘行為に問題がある旨聞いていた(被告Y1本人調書24頁)にもかかわらず,トラブルに関与した担当者にどういった問題行為があったのかの確認を行わず,事案の内容も把握せず(被告Y1本人調書24,25頁),管理部の被告Y3に対してお客様とのトラブルを未然に防ぐために注意しなさいと抽象的に口頭で述べることしかしていない(同6頁)。

被告Y1は,このように,その注意義務に違反して,被告Y4及び被告Y5の不法行為を漫然と実行させ,原告に対する違法勧誘行為を行わせたことにより原告に多額の損害を被らせたものである。

(被告ら)

(1) 共同不法行為責任(幇助を含む)の有無

被告Y4及び被告Y5の行為に不法行為が成立しない以上,被告Y1が不法行為責任を負うことはあり得ない。

(2) 代表取締役としての任務懈怠責任の有無

被告Y1は,確かにワールドゲートの代表取締役であったが,その役割は経理,財務,内勤職の管理であって,営業に関しては支店長が,管理に関しては被告Y3が担当していたものである。そして,被告Y1は,トラブルの発生状況に関して被告Y3に指示し,支店長や被告Y3に改善を指示していたのであって,被告Y1に取締役(又は代表取締役)としての任務懈怠はない。

6  争点7(被告Y2の法的責任の有無)

(原告)

(1) 不法行為責任の有無

被告Y2は,ワールドゲートの実質的資金提供者であり,経営の中枢に関与してきた者である。被告Y2は,ワールドゲートにおいて,会社設立当初から関与してその資金を提供して全株式を保有し,被告Y1及び被告Y3を誘ってワールドゲートに参加させており,被告Y3に対してはトラブルがないように営業ではなく管理を中心にやるように指示し,同社の取引業者であるカルジャパンを手配したり,不動産を用意して賃貸借契約の連帯保証人をしたりしていること,設立後も,会長として経営の中枢に関わり,月1回実施される支店長会議(経営会議)に出席しており同会議はワールドゲートにおける実質的な取締役会議であったこと,仙台支店にも月2ないし3回程度訪れていたこと,被告Y1や被告Y3の報酬を決定するほどの権限を有していたこと,ワールドゲートの収支を全面的に把握し,経理や帳簿の付け方を指導していること,コンサルタント料名目で,ワールドゲートから被告Y2が経営する株式会社大倉に対して年間1億円程度の報酬を支払わせていたことが認められる(被告Y2本人調書7,10,13,16頁,被告Y5本人調書18頁,被告Y3本人調書3頁)。そうすると,被告Y2は,ワールドゲート従業員が違法な勧誘行為を個なわないよう指導監督する義務があったにもかかわらず,これを怠った過失があるというべきである。

(2) 共同不法行為責任(幇助を含む),取締役としての任務懈怠責任の有無

被告Y2は,平成20年6月16日から平成21年10月31日までワールドゲートの取締役であった。この間,被告Y2は,取締役としてワールドゲートの意思決定に関与しており,同社の従業員の勧誘行為が違法に及ばないよう注意すべき義務,同社の代表取締役である被告Y1をして同社従業員が違法な勧誘行為をしないよう監督させる義務を負っていたにもかかわらず,上記各注意義務に違反して漫然とワールドゲート従業員である被告Y4及び被告Y5をして違法な勧誘行為をさせ,被告Y1をしてそのような行為の監督をしない状態を是認していたものである。したがって,被告Y2は,被告Y4,被告Y5及び被告Y1と共同不法行為責任を負う(民法719条1項,2項,会社法429条1項,430条)。

なお,被告Y2は退任取締役であるが,前記(1)のとおりワールドゲートの加入・販売システムの構築に積極的に関与してきたものであるから,その責任を免れるいわれはない。

(被告ら)

(1) 不法行為責任の有無

原告は,口頭弁論終結日以前においては,平成23年9月12日付け準備書面において被告Y2の取締役としての責任を主張したのみであって,他の責任原因は主張していない。口頭弁論終結日において責任原因を広げることは許されない。

(2) 共同不法行為責任(幇助を含む)の有無

被告Y4及び被告Y5の行為に不法行為が成立しない以上,被告Y2が不法行為責任を負うことはあり得ない。

原告は,口頭弁論終結日以前においては,平成23年9月12日付け準備書面において被告Y2の取締役としての責任を主張したのみであって,他の責任原因は主張していない。口頭弁論終結日において責任原因を広げる事は許されない

(2) 取締役としての任務懈怠責任の有無

被告Y2はコンサルタント契約に基づいてワールドゲート立上げの際の物件選び等,財務,経理の指導をしていた者であって本件各取引又は本件各取引のスキーム構築に取締役として一切関わっていない。

被告Y2は,本件取引1が行われた平成22年2月26日には,取締役ではなかった。被告Y2は同日以前の平成21年10月31日には取締役を退任している。また,被告Y2,リース契約をするために取締役の肩書きが必要であったという理由で取締役に就任したものであり,このような被告Y2の取締役としての責任を云々することは失当である。

8  争点8(被告Y3の法的責任の有無)

(原告)

(1) 不法行為責任

被告Y3は,ワールドゲートにおいて,会社設立当初から関与してその手数料を決定し,前勤務先のエーシーイーにおいて80歳以上の顧客に対する勧誘が全面的に禁止されていたにもかかわわらずワールドゲートにおいてはこれを原則禁止に緩和させるなどの規則を決定し,設立後も,コンプライアンス部門のトップとしてコンプライアンスの指導,教育,顧問弁護士とのやりとり,紛争処理の業務を担い,各支店から郵送されてきた契約書を見て適合性審査等を行い,リスク確認を行い,取引継続の意思確認を行い,月1回実施される支店長会議(経営会議)に出席しており同会議はワールドゲートにおける実質的な取締役会議であったこと,支店長人事を決めるほどの権限を有していたこと,個々の取引において過大な手数料収受が発覚した場合には所属長に指導する立場にあったこと,代表取締役である被告Y1と同額の月100万円の報酬を得ていたことが認められる(被告Y3本人調書3,4,5,8,18,19,24,25,30,38頁,被告Y1本人調書6頁以下,被告Y2本人調書13頁,甲6)。そうすると,被告Y3は,本件商品の販売体制を構築,管理していたもので,被告Y4及び被告Y5と共に原告に対する勧誘行為を実行していたというべきである。

仮に,勧誘の実行行為が認められない場合であっても,被告Y3の上記ワールドゲートにおける立場においては,ワールドゲート従業員が違法な勧誘行為を個なわないよう指導監督する義務があったにもかかわらず,これを怠った過失があるというべきである。

(2) 共同不法行為責任(幇助を含む),取締役としての任務懈怠責任の有無

(原告)

被告Y3は,平成22年7月5日から同年9月10日まで,ワールドゲートの取締役であった。この間,被告Y3は,取締役としてワールドゲートの意思決定に関与しており,同社の従業員の勧誘行為が違法に及ばないよう注意すべき義務,同社の代表取締役である被告Y1をして同社従業員が違法な勧誘行為をしないよう監督させる義務を負っていたにもかかわらず,上記各注意義務に違反して漫然とワールドゲート従業員である被告Y4及び被告Y5をして違法な勧誘行為をさせ,被告Y1をしてそのような行為の監督をしない状態を是認していたものである。したがって,被告Y3は,被告Y4,被告Y5及び被告Y1と共同不法行為責任を負う(民法719条1項,2項,会社法429条1項,430条)。

なお,被告Y3は退任取締役であるが,前記(1)のとおりワールドゲートの加入・販売システムの構築に積極的に関与してきたものであるから,その責任を免れるいわれはない。

(被告ら)

(1) 不法行為責任の有無

原告は,口頭弁論終結日以前においては,平成23年9月12日付け準備書面において被告Y3の取締役としての責任を主張したのみであって,他の責任原因は主張していない。口頭弁論終結日において責任原因を広げる事は許されない。

(2) 共同不法行為責任(幇助を含む)の有無

被告Y4及び被告Y5の行為に不法行為が成立しない以上,被告Y3が不法行為責任を負うことはあり得ない。

原告は,口頭弁論終結日以前においては,平成23年9月12日付け準備書面において被告Y3の取締役としての責任を主張したのみであって,他の責任原因は主張していない。口頭弁論終結日において責任原因を広げる事は許されない。

(3) 取締役としての任務懈怠責任の有無

被告Y3はワールドゲートの管理をしていた者であり,その管理状況は乙4及び被告Y3本人調書8頁が示すとおりであり,何らの違法行為はない。また,被告Y3は本件取引1が行われた平成22年2月26日は,被告Y3は取締役ではなかった。被告Y3が取締役であった期間は平成22年7月5日から同年9月10日であって,HSBCに口座を開設するために取締役の肩書きが必要であったという理由で就任したものであり,このような被告Y3の取締役としての責任を云々することは失当である。

9  争点9(被告Y5の法的責任の有無)

(原告)

被告Y5は,原告に対し,違法な勧誘行為を実行した者らの一人であり,不法行為責任は免れない。被告会社の従業員に就職する前は,エーシーイーインターナショナル株式会社の従業員として金融商品の勧誘行為を行ってきた者である。ACEは,全国的に多数の被害を出している会社であり,かかる会社の営業行為をしていた被告Y4及び被告Y5が「何もしらずに会社の指示に従った」などということはない(甲52ないし57,被告Y5本人調書13頁)。

(被告ら)

争う。

10  争点10(被告Y4の法的責任の有無)

(原告)

被告Y4は,原告に対し,違法な勧誘行為を実行した者らの一人であり,不法行為責任は免れない。被告Y4は,ワールドゲートの従業員となる以前にユニコムホールディングスという商品先物取引業者で働いており,同業務に関して訴訟上の証人になったこともある(被告Y4本人調書1頁,10頁)。

(被告ら)

争う。

第4当裁判所の判断

1  争点5(ワールドゲートが原告に本件各取引をさせたことが不法行為に当たるか)

(1)  証拠(甲4,6,8,15,28,29,30,50,51,被告Y4,被告Y5,被告Y3,原告各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア ワールドゲート仙台支店においては,営業1課と2課が存在し,各課の人数は,課長を含めて5名程度であった。

ワールドゲート仙台支店においては,毎朝課ごとにミーティングを行い,同日時点で顧客に勧める銘柄,枚数,選択価格(ストライクプライス,ポジションはこれと同義。被告Y3本人調書39頁)について意思統一を図り,各課の営業職員は,同ミーティングにおいて決定された銘柄,枚数,選択価格を顧客に勧めていた(被告Y4本人調書19ないし21頁,被告Y3本人調書31頁)。同ミーティングにおいては,商品は予想に反して価格が変動することがあるから,コールとプット両方取得しておけば,予想に反した方向に価格が変動しても利益を得ることができる旨説明が行われており,従業員は当該方針に従って顧客に説明していた(被告Y4本人調書24,25頁)。

イ ワールドゲートにおいては,全顧客について,顧客と契約を締結した場合,支店長がこれをチェックした後契約書を本社に書留で郵送し,その後,本社管理部が契約を締結した顧客に電話して,投下資金がゼロになる可能性があることを承知しているか,顧客自身の判断で契約を締結したかどうか,クーリングオフで8日間以内であればいつでも契約を無効にできることを承知しているかを確認した上で取引を開始するシステムにしていた(被告Y3本人調書6,7頁)。

ウ ワールドゲート仙台支店の平成22年2月ころの顧客数は約50名程度で,このうち80歳を超える顧客は2ないし3名,70歳代の顧客は20名程度,60歳代が10名程度,その余が30ないし50歳代であった(被告Y5本人調書27頁)。

エ ワールドゲートは,音声案内による電話アンケートを実施していたところ,原告は,当該アンケートに応答するなどしたことから,ワールドゲートは原告の氏名,電話番号等をリストに記載した(被告Y4本人調書2頁)。

オ 被告Y4は,平成22年2月中旬ころ,当該リストの記載を見て,原告に電話して,資産運用の方法として,オプションCFD取引という商品がある旨話した(被告Y4本人調書2ないし3頁)。原告は,被告Y4に対し,以前保険会社に勤務した経験があり,営業からの電話はよく聞いていること,投資信託や外貨預金の投資経験があること,預貯金については,株式会社●●●銀行」(以下「●●●銀行」という。)との付合いが一番深いが,定期預金は分散していることを話した。被告Y4は,ワールドゲートの会社案内を送りますと述べて電話を終了した(被告Y4本人調書3頁)。被告Y4は,原告宛にワールドゲートの会社案内を送付した。

カ 被告Y4は,会社案内を送付してから3日ほど経過したころ,原告に対して会社案内の送付確認を兼ねて電話した(被告Y4本人調書4頁)。原告と被告Y4は,被告会社の所在地が仙台駅前であること,原告も仙台駅前にはよく行くことなどを話し,翌26日に仙台駅前にあるショッピングビル○○内の喫茶店スターバックスコーヒーにおいて会う約束をした。原告と被告Y4は,同日,同喫茶店において直接会って会話し,原告は戦国時代からの資産家であること,原告は所有不動産に関して費用がかかるので資産運用は分散していること,などを話した(被告Y4本人調書4頁)。原告は,被告Y4は,自分に余裕があるかどうか確認するためにいろいろなことを聞いているようだと感じた(原告本人調書2頁)。

被告Y4は,資料を用いて,先物取引,現物株取引,本件商品の違いについて説明し,本件商品と先物取引はレバレッジを利用した取引であること,いずれも期限(限月)があること,値動きが予想どおりになれば利益となるが予想に反した場合,先物取引では追加証拠金が必要となり,オプションCFD取引においてはプレミアム代金分だけが損失となること,本件商品は権利(オプション,選択権)の売買であり,買う権利のコールと売る権利のプットがあることなどを話した(被告Y4本人尋問調書4ないし5頁,乙1)。原告は,被告Y4の話を聞いて,プットとコールを両方持てば利益と損が総合してそんなに大きな損にはならないと考えるようになったが,同日は取引を開始することはなかった(原告本人調書4頁)。

キ 原告は,被告Y4と会った後,書店で本を購入して研究したが,分かる部分とよく分からない部分があると感じた(原告本人調書4,15頁)。また,原告は友人から別な本を借りて読んだが,読んでいる途中に息子が来たために読むのを中断したことがあった(原告本人調書16,17頁)。

ク 被告Y4は,原告と会った日から4日ほど経過したころ,原告に再び電話した。原告と被告Y4は,翌日再会する約束をした(被告Y4本人調書5頁)。

ケ ワールドゲート仙台支店では,このころ,朝のミーティングにおいて,砂糖の産地であるブラジルが異常気象になっており,砂糖が不作のため,砂糖は将来的に値上がり方向で価格変動の見込みがあるとして,顧客に砂糖を勧める方針を決定していた(被告Y4本人調書19,20頁)。被告Y4は,砂糖の価格が当時約15ないし16セント程度であったが(被告Y4本人調書39頁),経済新聞等に砂糖が市場最高値である60セントを再更新する見込みである旨の記事が記載されていたことなどから,砂糖は値上がりする見込みが高いと考えており,上記ミーティングの情報はそのとおりであると感じた(被告Y4本人調書21,38,39頁)。ただし,いつごろ砂糖が値上がりするかという情報は経済新聞等に記載されていなかった(同21,40頁)。

コ 原告と被告Y4は,翌日,上記と同じ喫茶店で再会した。被告Y4は,原告に対し,本件商品の仕組み,リスク及びリターンについて説明し気象の関係で砂糖が値上がりしそうだとして取引銘柄として砂糖を勧めた。

原告は,本を読んで分からないと感じた部分を質問し,被告Y4が言っていたあまり損のないやり方だという趣旨の説明が少し違うのではないかと,被告Y4に説明を求めた。原告は,被告Y4の説明が曖昧で納得できないと感じた。

原告は,上記の疑問点を解消するために,ワールドゲート本社に電話した。原告は,ワールドゲート本社はきちんと返答してくれないと感じたが,仙台支店に営業の従業員がいるのに本社に聞くのは間違っているかもしれないと感じて,電話を終了した(原告本人調書2,3,15,16頁,被告Y4本人調書5頁)。

サ 原告は,平成22年2月当時,約7000万円程度の預金を有していたところ,普通預金の範囲内でならワールドゲートと取引することを考えてもよいか,と考えるようになった(原告本人調書2,6頁)。

もっとも,原告は,息子に対し,「預金が7000万円以上ある,うち2000万円くらいはあなたに分けてあげる,私が死んだら全額あなたのものだ」という趣旨の話をしていたこと,息子は投資を嫌っており投資をすることは息子には話さないつもりであったことから,投資に預金を使って残額が減った場合に息子にうそを言ったと思われるのは嫌だと考えていた(原告本人調書7,14頁)。

シ 原告は,同日,ワールドゲート仙台支店に電話して被告Y4を呼び出したが,被告Y4は,不在であった。被告Y4は,同日中にワールドゲート仙台支店に戻り,伝言を聞いて原告に電話した。原告は,被告Y4に対し,●●●銀行●●●支店に200ないし300万円はあるので,その範囲内で一度取引したい旨述べた(被告Y4本人調書5ないし6頁,原告本人調書2頁)。原告と被告Y4は,翌日である同月26日に,再び会うことにしたが,同日は地下鉄に乗車して●●●駅近くにある施設で行われる社交ダンスのイベントに行く予定があったため,その前に地下鉄●●●の駅前において会う約束をした(被告Y4本人調書5ないし6頁,原告本人調書3頁)。

ス 原告は,同日,●●●銀行●●●支店において200万円を引き出し,これを持参して地下鉄●●●駅付近の蕎麦居酒屋aで,被告Y4と会った(被告Y4本人調書5ないし6頁,原告本人調書2頁,弁論の全趣旨)。原告は,被告Y4から交付された「取引印鑑・取引口座・住所届出書・兼変更届」(甲50)に必要事項を記入した。被告Y4は,原告に対し,特定商取引に関する法律に基づく書面を示して手数料が取引時に5万2500円,転売時に1万0500円かかること(原告本人調書13頁),クーリングオフができる取引であること,リスク開示告知書を示しその項目に沿って,本件取引がレバレッジ取引であること,両建てしてもリスクはあることなどを説明し,リスクマネジメントと題する書面を示してコールとプットそれぞれについて選択価格(ストライクプライス)や手数料などを具体的な数字を書き込んで説明し,リスクマネジメントと題する書面を複写したものを原告に交付した。原告は特定商取引に関する法律に基づく書面及びリスク開示告知書に署名・押印した。

セ 被告Y4は,その場でワールドゲート本社管理部に電話し,同部担当者本社管理部次長A(以下「A」という。)がこれに対応した。被告Y4は,原告に電話を替わった。Aは,プレミアム代金がゼロになることを承知しているか,本人の判断でやっているか,クーリングオフが適用されることを知っているかの3点(被告Y3本人調書6,7,36,37頁)を確認して電話を切り,原告について審査を実施した。ワールドゲート本社では,原告が80歳を超えていて,原則として取引をしない年齢であったが,本を読んで勉強したりしているなどの情報を基に原告の取引に対する姿勢に鑑みて例外的に取引をする旨判断した(被告Y3本人調書19頁)。Aは,ワールドゲート仙台支店に電話で原告が審査を通った旨伝え,仙台支店支店長Bが被告Y4に電話してその旨伝えた。

ソ 被告Y4は,その後,原告に,オプションCFD取引契約と題する契約書(甲4。以下「本件契約書」という。)を渡した。原告はこれに署名押印して,ワールドゲートとの間で本件契約を締結した(被告Y4本人調書8,36,37頁)。

本件契約書には,次の記載がある(甲4)。

(ア) 私は,オプションCFD取引に関する「リスク開示告知書」ならびに「特定商取引法に基づく事前交付書面」の交付説明を受け,この取引に伴う危険性を理解した上で,下記の条項を遵守して,次にあげる商品の売買取引を行うことを委託します。

(イ) 商品名 オプションCFD取引(米国先物オプション市場を参照市場とする)

CFD取引とはContract for Diffcrenceの略で,証券や商品取引,またはそれらを基に派生した金融商品などの取引における差金決済取引の総称です。CFD取引は取引所取引ではなく,委託者と受託者が取引相手となるOTC取引(相対取引)での決済となり,いわゆる「店頭決済取引」となります。

(ウ) 委託手数料

受託者は委託を受けたオプション売買注文が成立した際に,下記の金額にて委託手数料を預託金より徴収する。

a オプション買付時 全銘柄一律 金5万2500円(消費税込み)

b オプション転売時 全銘柄一律 金10,500円(消費税込み)

タ 原告が,同日に本件契約を締結する以前に,被告Y4と面会した回数,電話で会話した回数について,原告は,同日より前に電話が1度あり,直接会ったのは1度である旨供述し,同年2月26日に被告Y4と会うことになったきっかけは,同日朝,被告Y4が原告に電話して会いたい旨述べたからである旨供述する。しかしながら,原告は,陳述書(甲1)においては,同年2月26日より前に被告Y4に直接会ったことや電話を受けたことはなく,同日に初めて電話を受けてその日のうちに本件契約を締結して200万円を交付したなどと記載しておりその供述内容を変遷させていること,原告は,同日,被告Y4に会う前に一人で銀行に行って200万円を引き出して持参していることなどから原告の上記供述は信用することができず,これに対し,被告Y4の供述は具体的で信用することができる。

チ 原告は,被告Y4からの説明を受けて,前記前提事実記載の本件取引1(以下,「本件取引1」等という場合は,いずれも前記前提事実記載のものをいう。)のとおりの取引を行うことにした。

本件取引の限月をいつに設定するかについて,原告は,被告Y4に対して何度も質問し,説明を記載した書面を受領したがこれを丁寧に読むことはしなかった。原告は,いつを限月にすればよいかはよく分からなかった。原告は,場合によっては損をすることもあるかもしれないが(ただし,当時,2700万円余りの多額の損をするとは思っていなかった。),金がうまく運用されて戻ってくる金が少しでも多いならいいだろうと考え,被告Y4の助言どおりに限月を設定することにした(原告本人調書24,25頁)。

被告Y4は,原告に「発注一覧表」と題する書面(甲5)を交付し,ご注文内容を同書面に記載すると時系列で把握できるので便利ですと説明した(被告Y4本人調書33,34頁)。しかし,原告は,同書面に発注内容をメモせずに,別に自分で用意した用紙に発注内容一覧を記載していた(被告Y5本人調書21頁)。

原告は,被告Y4に対して,預り金として200万円を交付した(弁論の全趣旨,被告Y4本人調書8頁)。

ツ 原告の上記注文内容は,同年6月15日に砂糖を40セントで買う権利16枚を1792ドルで買う内容と,同年6月15日に砂糖を13セントで売る権利16枚を1612ドルで買う内容であった。

同年1月ころ,砂糖が市場最高値である60セントを更新する見込みであることが経済新聞等で報道され,同月に砂糖の値段は上がったが,その後は値上がり傾向は落ち着いてきており,同月当時の砂糖の市場価格は15ないし16セントであった。(被告Y4本人調書39,42)。本件取引のうち上記取引においては,砂糖の値段が同年6月15日までに48セントまで上昇すれば,原告は,同日,砂糖を売る権利を行使することによって約200万円を回収でき,反面,砂糖を買う権利を放棄することによって当該権利購入代金額約15万円(上記購入代金1792ドルに1612ドルを加えた合計額を円に換算した30万7896円の約半額)の損失を被る計算であった。砂糖の値段が同日までに56セントまで上昇すれば,原告は,同日,砂糖を売る権利を行使することによって約215万円を回収することができ,反面,砂糖を買う権利を放棄することによって当該権利購入代金額約15万円の損失を被る計算となり,損益合計で手数料を含めた投資金額約200万円を回収できる見込みであった(被告Y4本人調書38ないし40頁)。

テ 上記のとおり,原告は被告Y4と対面している際に,上記注文内容を決めたものの,上記各権利の購入代金は,砂糖の取引市場であるアイ・シー・インターコンチネンタル・エクスチェンジが集計した結果に基づいて決定されるプレミアム価格によって決まるところ(被告Y5本人調書26頁),プレミアム価格はアメリカのオプション市場が開いている時間帯は時々刻々と変動するため,被告Y4がワールドゲート仙台支店事務所にいるときに,原告から電話をかけてもらい,被告Y4が,インターネット上で配信される本件プレミアム表をリアルタイムで確認しながら,上記各権利の購入代金が1円でも安いときに発注するという方法がとられた。上記電話の会話内容は,磁気媒体に録音された(被告Y5本人調書10頁)。

ト 原告は,同日,社交ダンスが終了した後,ワールドゲート仙台支店に電話して,本件取引1の内容を注文した。ワールドゲートは,原告の預り金200万円から上記代金を精算レート90.43円で換算した30万7896円及び手数料168万円(5万2500円×32枚)を控除し,原告の預り金残高は1万2104円となった(甲5,8,被告Y4本人調書33頁)。被告Y4は,翌日付けで,上記取引内容を記載した報告書を,原告に送付した(甲8)。

ナ 被告Y4は,同日から,毎日,原告に電話して市場の状況を伝えた(被告Y4本人調書8頁)。

ニ 原告は,ワールドゲートとの取引を普通預金の範囲内で行おうと考えていたが,本件取引1において普通預金はほぼ使用し,あとは国債信託金と定期預金が残っている状態であった。そこで,原告は,●●●に預けている定期預金を解約して本件取引の投資資金を用意しようと考え●●●を訪れたところ,同社従業員から,定期ではなく目減りしている国債(原告が●●●を仲介として平成20年頃に300万円で購入した国債が約220万円に目減りしていた。(原告本人調書14,15,19頁))を解約してはどうかと勧められた(原告本人調書15,22,23頁)。

ヌ 原告は,平成22年3月当時は,上記国債をユーロ建ての投資信託であると誤解していたため(原告本人調書19頁),同月初め頃,被告Y4に対し,ユーロ建ての投資信託が目減りした旨話し,原告と被告Y4はその相談を兼ねて会う約束をした。被告Y4は,仙台支店営業部1課長であった被告Y5を同行して,○○内の喫茶店で原告に会った。被告Y5は,原告に対し,ユーロ建ての投資信託について自らの意見を述べ,証券市場,現物市場,先物市場,オプション市場,金融市場等の市場の中で,現在は商品市場に世界の投資資金が集まる傾向にあるなどの説明をした(被告Y5本人調書4頁)。被告Y5は,本件取引1において,現時点では手数料を含めた投資金に対してはマイナスであること,手数料を除いた購入代金のみを考えれば砂糖の値上がりによりプラスになっていること,ブラジルや南米では高価な油ではなく安くて自国で生産できる砂糖を利用して車を走らせている者が7ないし8割を占めていること,農林水産省のホームページを示しながら砂糖が不作であることなど,当時の現状を説明した。(被告Y4本人調書8ないし9頁,被告Y5本人調書1,2,22頁)。

原告は,●●●との間の国債に関する契約を解約し,その返戻金をワールドゲートとの取引に充てることにした。

ネ 被告Y5は,その後,被告Y4が原告に市況報告の電話をできないときは被告Y4に代わって原告に電話したり,原告から金銭を受領するときは被告Y4に同行したりして,被告Y4の業務をフォローする形で,本件取引に関与した(被告Y5本人調書3頁)。

ノ 原告は,同年4月2日,被告Y4を介して,ワールドゲートに対し,預り金350万円を交付し,本件取引2を行った。

ハ 被告Y5は,原告に対し,砂糖が不足して値段が上がる傾向にあったため,砂糖を作る農家が増え,そのためにとうもろこしや小麦の作付面積が減少することが予想される旨話した(被告Y5本人調書23頁)。

ヒ 原告は,●●●に預金してあった定期預金1500万円の満期が来た際に,自動更新をせずに普通預金とし,その一部を本件取引に投資することにした(原告本人調書23頁)。

フ 原告は,ワールドゲートに対し,同月20日に150万円,同年5月26日に600万円の預り金を各交付して,本件取引4,同5を行った。

ヘ 原告は,本件取引1を行った同年2月26日から同年6月15日までに,砂糖の価格がほぼ横ばいであったことから,同年7月に,本件取引1で購入した全ての権利を放棄し,購入代金30万7896円及び本件取引1で被告ワールドゲートに支払った手数料160万円の合計198万7896円の投資金が本件取引1においては回収できないことが確定した(被告Y4本人調書42頁)。

ホ 原告は,被告Y4及び被告Y5に対し,話が違うのではないかと話したが,被告Y4及び被告Y5は,原告に対し,砂糖の値上がりの時期がずれたが,未だ値上がりする見込みは変わっていない,もう少し期間を延ばして購入すれば利益が出る見込みがある旨話した(原告本人調書18,20,21頁)。

マ ワールドゲートにおいては,同年9月ころ,全顧客に対して,契約の締結を勧誘した行為は不愉快または不都合ではなく取引を開始又は継続する旨の「意思確認に関する通知書」(甲6)を送付することにした(被告Y4本人調書26,27頁)。ワールドゲートは,原告にも同書面を送ったが,原告からは同書面に署名捺印したものが返送されてこなかった(被告Y4本人調書27頁)。

ワールドゲート仙台支店においては,支店長,被告Y4,被告Y5等で,原告から上記書面が返送されていないことについて話し合い,被告Y5は,被告Y4に対し,原告に対して,上記通知書の返送がない場合は原告が保有している権利を全て強制的に転売して取引を中止してもらう旨話すよう指示し,被告Y4は,原告に対してその旨話したが,原告から同書面が返送されることはなかった(被告Y5本人調書19,20頁)。

この点について,原告は,上記通知書を受領した記憶はない旨述べる(原告本人調書5頁)。しかしながら,上記通知書が原告から書証として提出されていることから原告の供述は信用することができない。

ミ 原告は,ワールドゲートに対し,同月16日に96万円,同月17日に70万円,同月22日に55万円,同年10月21日に250万円同月22日に20万円の各預り金を交付し,本件取引6を行った。

ム ワールドゲート仙台支店においては,冬季は暖房のために灯油の需要が増すこと,イランの当時の大統領アハマディネジャドは元テロリストで,イランのホルムズ海峡を通過しないと原油が供給されないなどのリスク要因があって原油の価格が高騰する旨の情報があることについて会議を行い,資料を作成し,顧客に灯油を勧める方針を決めた(被告Y5本人調書23頁)。

メ 原告は,ワールドゲートに対し,同月27日に100万円の預り金を交付して本件取引7を行った。

モ 原告は,上記一連の取引の間に,被告仙台支店を2ないし3度訪れて,市場状況の確認,取引経緯の確認のために訪れた。ワールドゲート仙台支店では,被告Y4が在籍しているときは被告Y4が,不在の時は他の従業員がこれに対応した(被告Y4本人9頁)。

ヤ 同年11月26日までになされた取引のうち,同日を納会日とする権利について,同日,損失および利益が確定し,原告は,損失が出る取引については権利放棄し,利益が出る取引については損益を確定させた。

ユ ワールドゲートは,同年12月1日付けで,原告に対し,同年11月30日現在の原告の預り金と未決済建玉の明細を記載した「オプション取引残高照会書」を送付した。同書面によれば,同日時点の原告の預り金は0円,評価損益金額は-135万6492円,転売評価総額は61万5607円であった(甲51)。同書面には,「上記の内容に御不明,相違点がございましたら(092-<省略>)までご連絡下さい。」と記載されている(甲51)。

ヨ ワールドゲートは,同年5月ないし12月までの間に,原告に対して,本件取引において生じた利益として合計234万7622円を9回に分けて支払ったが(原告本人調書10頁,甲38),このうち同月に,本件取引において生じた利益として振り込まれた額は,573円ないし575円であった(原告本人調書10頁)。原告は,これを受けて,もう駄目だと感じた(原告本人調書10頁)。

ラ 原告は,本件取引に約2700万円を使用したが,そのことを息子に知らせていなかった。原告は,このことが息子に知れたらどうなるだろう,死ぬまでに息子に対して何と言えばいいのだろうと思い悩んだ(原告本人調書7頁)。

リ 警察は,平成23年1月6日,ワールドゲートに対する特定商取引法違反(不実告知)の容疑で,同社本社,各支店及び同社幹部職員の自宅において捜索差押えを実施して営業用動産を一式押収した(甲29)。ワールドゲートは,同日以降,一切の営業ができない状態となった(被告Y5本人調書7頁)。

これにより,本件各取引のうち平成23年2月18日を納会日とする権利については,その利益,損失の額は不明である。

ル ワールドゲートは,平成23年5月10日午後4時,福岡地方裁判所の破産開始決定を受け,弁護士Cが管財人に選任された(甲28)。

ワールドゲート破産管財人は,同年6月1日付けで,原告に対し,「破産管財人からのご連絡」と題する書面を送った。同書面には,次のような記載がある(甲38)。

「現段階での破産管財人の認識として,破産会社の取引方法は,手数料が極めて高額であるだけでなく,高度の金融知識を必要とする海外商品のオプション取引について,十分な説明をすることなく高齢者等に販売しているので適合性違反・説明義務違反があると考えられ,取引をしていたお客様には損害賠償請求権が発生していると考えています。」

「破産会社への支払総額から破産会社から受け取った金額を差し引いた残額を…『損害賠償請求権』としてご記入下さい。」

「差引残額2466万2378円」

(2)  平成23年法律第49号による改正前の金融商品取引法(以下「旧証券取引法」という。)には,次の規定がある。

ア 40条1号

金融商品取引業者等は,業務の運営の状況が次の各号のいずれかに該当することのないように,その業務を行わなければならない。

一 金融商品取引行為について,顧客の知識,経験,財産の状況及び金融商品取引契約を締結する目的に照らして不適当と認められる勧誘を行つて投資者の保護に欠けることとなつており,又は欠けることとなるおそれがあること

イ 2条8項

この法律において「金融商品取引業」とは,次に掲げる行為…のいずれかを業として行うことをいう。

一 有価証券の売買…

二 有価証券の売買,…取次ぎ…又は代理…

ウ 2条

(ア) 1項 この法律において「有価証券」とは,次に掲げるものをいう。

十九 …外国金融商品市場によらないで行う第二十二項第三号若しくは第四号に掲げる取引に係る権利(以下「オプション」という。)を表示する証券又は証書

(イ) 22項

三 当事者の一方の意思表示により当事者間において次に掲げる取引を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し,当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引又はこれに類似する取引

イ 金融商品の売買(第一号に掲げる取引を除く。)

ロ 前二号及び第五号から第七号までに掲げる取引

四 当事者の一方の意思表示により当事者間において当該意思表示を行う場合の金融指標としてあらかじめ約定する数値と現に当該意思表示を行つた時期における現実の当該金融指標の数値の差に基づいて算出される金銭を授受することとなる取引を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し,当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引又はこれに類似する取引

(3)ア  本件においてワールドゲートが顧客との間で行っていた取引において売買の目的物となる権利が証券又は証書に化体されていたかどうか明らかでないことから,当該目的物が旧証券取引法2条1項19号の有価証券に当たるかどうか不明であり,したがって,ワールドゲートが同法2条8項の定める金融商品取引業者等に該当するかどうかも不明である。もっとも,旧証券取引法が直接適用されるか否かにかかわらず,ワールドゲートが扱っていたオプションCFD取引は,旧証券取引法2条1項19号の定める有価証券の取引と同様に適合性原則が適用されるべき取引であるといえる。

また,旧証券取引法40条1号が定める適合性原則は,直接には,公法上の業務規制という位置付けのものであるが,金融商品取引業者等が,顧客の意向と実情に反して,明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘するなど,適合性の原則から著しく逸脱した取引の勧誘をしてこれを行わせたときは,当該行為は不法行為法上も違法となると解するのが相当である(最高裁第一小法廷平成17年7月14日判決と同旨)。

そして,金融商品取引業者等の担当者によるオプションの売り取引の勧誘が適合性の原則から著しく逸脱していることを理由とする不法行為の成否に関し,顧客の適合性を判断するに当たっては,単にオプションCFD取引という取引類型における一般的抽象的なリスクのみを考慮するのではなく,当該オプションの対象商品が何かなどの具体的な商品特性を踏まえて,これとの相関関係において,顧客の財産状況,投資意向,投資経験及び知識等の諸要素を総合的に考慮する必要があるというべきである。

イ  これを本件についてみると,オプションCFD取引は抽象的な権利の売買であって,その仕組みを理解することは必ずしも容易とはいえない取引であるが,他方で,損失がプレミアム価格(証拠金)に限定される取引であって,損失が無限大又はそれに近いものとなる可能性があるその他の金融商品取引に比べてリスクが限定的な取引類型であり,本件各取引のオプションの対象商品である銘柄(砂糖,とうもろこし,小麦,灯油等)の値動き等は,経済紙等にも掲載され,一般投資家にも情報提供されており,投資者の保護のための一定の情報環境が整備されているものといえる。もっとも,オプションCFD取引においては,限月を設定する必要があり,経済紙等の情報があったとしても,個々の銘柄が,どの時期にどの程度値上がり又は値下がりするかを適切に予想することは容易とはいえない。

次に,原告の投資経験,知識,財産状況,投資意向について検討すると,原告は,本件各取引開始当時84歳の高齢者であった。原告は,本件各取引開始前,●●●の課長に満期を迎えた定期預金を普通預金にしておくよりも私に任せてもらいたい旨言われて運用させたことがあるほか(原告本人調書21頁),●●●において300万円で国債を購入したことがあるのみであった。もっとも,原告は,国債の購入についてユーロ建ての投資をしたものと誤解していたため,被告Y4及び被告Y5には,ユーロ建ての投資をしている旨話していた。原告は,被告Y4と知り合った当初は,オプションCFD取引について知らなかったが,本件各取引を開始するまでに,書籍を購入するなどして研究し,書籍に書いてあることで分からないことは被告Y4に質問し,それでも納得できないことはワールドゲート本社に電話するなどしてオプションCFD取引についてある程度知識を獲得した。原告は,本件各取引開始当時,年金収入を得ながら生活していたものの,約7000万円の資産を有しており,このうち2000万円は息子に生前贈与し,その余の約5000万円については息子にいずれ相続されることを見込んでいた。被告Y4の証言によれば,原告は,ワールドゲートが実施した電話アンケートに回答したことにより同社の電話リストに掲載されたことが認められるが,証拠上認定される事実からは,原告が投資により資産を増加させる積極的な意向を有していたとまでは認められず,むしろ,息子に7000万円ほど資産があると話しており,息子は投資を嫌っていたことから,投資によってこれが減少して息子に責められることを恐れており,普通預金の範囲内でのみ投資を行う意向であったことが認められる。これを前提に,以下,本件各取引についてさらに検討する。

(ア) 本件取引2ないし4について

前記のとおり,原告は普通預金の範囲内でのみ投資を行う意向であったところ,原告は,普通預金の範囲内で本件取引1をした後,その結果が未だ不明の時点において,国債の契約を解約して本件取引2,3を行い,さらに,満期を迎えた定期預金1500万円を自動更新をしないことによって資金を捻出して本件取引4を行い,合計で1910万円の預り金を交付し,残金46万5892円になるまで投資している。このうち,本件取引4においては,あと約20日が経過すれば本件取引1の納会日であり,その結果が明確になる時期である平成22年5月26日に,600万円を預り金として交付してこのうち583万6824円を使用してとうもろこしを売り買いする権利を購入している。上記各取引は,いずれも,ワールドゲート仙台支店営業部1課が朝のミーティングで意思統一した銘柄,枚数,選択価格での取引と認められ,限月についても,原告はいつにすべきかよく分からず,被告Y4又は被告Y5のいうとおりの限月を設定していたと認められる。上記各取引において購入された権利の銘柄は,砂糖,とうもろこしであり,両銘柄の値動き予想はいずれも砂糖の不作を主な理由としていたところ,平成22年1月ころは砂糖の不作による値上がりが報道されて砂糖の価格が上昇したものの,その後は少なくとも同年7月ころまでは横ばいで推移したというのであるから,そのような客観的な状況において,投資によって積極的に資金を増やす意向を有しておらず,普通預金の範囲内で取引する意向であった原告が,本件取引1の結果を待たずに,国債を解約し,定期預金の自動更新を断って合計で1910万円の預り金を交付し,残金46万5892円になるまで投資しているものであるから,上記各取引においては,被告Y4又は被告Y5が取引について積極的な情報に偏った情報提供をしていたものと言わざるを得ない。以上の事情に加えて,原告が上記各取引当時,84歳の高齢であったことを考えると,オプションCFD取引が拠出した証拠金を超えて損失が発生しない取引であること,原告の資産には余裕があり,上記投資金額を失ったとしても生活に困窮する状況ではなかったこと,銘柄の値動き動向に関する情報が経済紙等に掲載されていること,原告が本件各取引開始前に書籍を読んでオプションCFD取引について研究し,被告Y4やワールドゲート本社に積極的に質問していたことなどを考慮しても,被告Y4及び被告Y5は,原告の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものと言うべきである。

(イ) 本件取引5ないし7について

原告は,本件取引1の投下資金が全て損失になったと判明した後に,本件取引5ないし7を行っている。また,本件取引7においては,砂糖の不作とは関係しない銘柄である灯油を銘柄として選択した取引も行われている。しかしながら,本件取引5ないし7において投資された金員も原告が定期預金の自動更新を拒んで捻出した金員であると認められることや,前記(ア)記載の事情を考慮すれば,本件取引5ないし7も,原告が適正な情報に基づいて自らリスク判断をして行ったものとは考えられず,被告Y4又は被告Y5が取引について積極的な情報に偏った情報提供をして,原告の意向と実情に反して明らかに過大な危険を伴う取引を積極的に勧誘したものというべきである。

(ウ) 本件取引1について

原告は,オプションCFD取引のリスクが限定されるという点について,書籍の記載や被告Y4及びワールドゲート本社からの説明を聞いても納得できない点が残っていたものの,普通預金の範囲内であれば損が出たとしても投資した資金のうち幾らかでも戻ってくればよいと考えて本件取引1を行ったことが認められる。

本件取引1は,砂糖を平成22年7月(納会日同年6月15日)に40セントで買う権利16枚,砂糖を同日に13セントで売る権利16枚を合計30万7896円で購入し,ワールドゲートに対し,手数料160万円を支払うという内容である。これは,当時15ないし16セントであった砂糖の値段が同年6月15日までに48セントまで上昇すれば,コールの投下資金が回収でき,砂糖の値段が56セントまで上昇すればコールとプットを合わせた投下資金が回収できるという内容であり,原告が本件取引1によって利益を得るためには,砂糖の値段が平成22年6月26日までに56セントを超えて上昇する必要があった。同年1月ころ,砂糖が不作により市場最高値である60セントを更新する見込みであることが経済新聞等で報道され,同月に砂糖の値段は上がったが,その後は値上がり傾向は落ち着いてきており,同年2月当時の砂糖の市場価格は15ないし16セントであったことが認められる。そうすると,平成22年2月26日当時は,既に砂糖の不作による値上がり報道がなされて値上がりが発生し,これが収束しつつあった状況であると認められ,他に,新たな値上がり要因も認められないのであるから,同年7月までにこれが56セントを超えて値上がりする確率は相当低いものであったと言わざるを得ない。そして,前記認定事実によれば,本件取引1の銘柄,枚数,選択価格はワールドゲート仙台支店営業部1課のミーティングで決定されたものであり,限月は被告Y4の提案に従って定められたものと認められる。

本件取引1は,取引の一方当事者であるワールドゲートにのみ専門的情報ないし知識等が存するものであり,他方当事者である原告は当該一方当事者から当該取引について適切な説明を受けない限り当該取引を行うかどうかを適切に判断することができないものであるから,ワールドゲートは原告に対して,信義則上,適切な情報を提供する義務があるというべきであるところ,被告Y4が砂糖の値動きに関する上記情報を原告に的確に伝えていたとは認められず,そのような義務に違反して,原告に,ワールドゲートに160万円の手数料収入が得られる内容の本件取引1をさせることは不法行為に当たるというべきである。原告が,本件取引1当時84歳の高齢であったことをも考慮すれば,原告が普通預金の範囲内であれば損が出たとしても投資した資金のうち幾らかでも戻ってくればよいと考えて本件取引1を行ったものであることを考慮しても上記結論が相当である。

ウ  以上によれば,ワールドゲートが原告に本件各取引をさせた行為はいずれも不法行為に当たる。

2  争点6(被告Y1の法的責任の有無),争点7(被告Y2の法的責任の有無)及び争点8(被告Y3の責任の有無)

(1)  証拠(甲52,54,55,57,60,61,被告Y2,被告Y3,被告Y1各本人尋問の結果)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。

ア ACEについて

ACEは,顧客との間で金融商品取引を行っていたところ,平成元年11月から平成14年2月13日までの13年間に,顧客に対して不法行為に基づき損害の賠償を命じる判決が,約65件言い渡された(甲52)。

ACEは,平成15年5月9日付けで,社団法人金融先物取引業協会(以下「先物取引業協会」という。)から,従業員等に対する指導,監督が不十分であるとして譴責の処分を受け(甲54),同月24日付けで,過怠金200万円の賦課処分を受けた(甲55)。

金融庁は,平成16年9月22日,ACEについて金融先物取引業の許可取消しの行政処分を行った(甲57)。

イ 被告Y2は,平成17年からACEの外部顧問をしていたところ,ACEが月に3億円,4億円の利益を上げているのをみて,金融業界というのはそういうものだという認識をもった(被告Y2本人調書17頁)。

ウ 被告Y2は,平成19年ころ,ACEから,ACE福岡支店の経営を任された。被告Y2は,被告Y1を大倉からACEに出向させて商品先物取引を短期間経験させた。被告Y1はACE福岡支店の店長に就任した。しかし,ACEと被告Y2との間で,同店舗の利益の取り分について意見の対立が生じ,被告Y2及び被告Y1は,同支店の経営から外れ,平成20年6月,被告Y3,被告Y5等の元ACE従業員を引き抜くなどしてワールドゲートを設立した(被告Y1が1000万円を出資して代表取締役に就任し,被告Y2は大倉所有の事務用品を提供したり,ワールドゲートの賃貸借契約,リース契約等の連帯保証人になるなどの支援をした。)。

エ ワールドゲートの収入構造の決定

(ア) 被告Y2及び被告Y1は,ワールドゲートの設立に当たって,業務内容について,取次業又は仲介業を行うことを考え,被告Y2の知人の紹介でカルジャパンを取次先とすることで同社と交渉した(被告Y2本人調書22頁)。カルジャパンは,当時,アジアやヨーロッパを中心に新しい金融取引であるオプションCFD取引が一気に伸びてきているとして,被告Y2及び被告Y1に対し,オプションCFD取引を取り扱うことを提案した(被告Y3本人調書12頁,被告Y1本人調書12頁)。

(イ) CFD取引は,顧客が証拠金を拠出し,金融商品取扱業者が当該証拠金を数十倍にして運用する(レバレッジ(てこの原理)を利かせる)という証拠金取引である。このような取引において,バイヤー(買主・顧客と同義)のリスクは拠出した証拠金(プレミアム代金)に限定されるが,グランター(売主・業者と同義)は,当該証拠金(プレミアム代金)を用いて数十倍にして運用するためリスクは無限大であり,当該運用によって得た利益は全てバイヤー(買主・顧客)に支払われるため,バイヤー(買主・顧客)の利益可能性は無限大であるのに対し,グランター(売主・業者)のリスクは当初バイヤー(買主・顧客)が支払った証拠金(プレミアム代金)に限定されるというシステムになっている(被告Y3本人調書35頁)。

(ウ) もっとも,ワールドゲートは,顧客から受けた注文と同内容の注文をカルジャパンにそのまま発注することを予定していたことから,プレミアム代金の運用を行うのはワールドゲートではなくカルジャパン(又はカルジャパンの取引先)であるため,ワールドゲートに運用リスクはないことになる。また,ワールドゲートは,顧客から支払のあった証拠金(プレミアム代金)を全額カルジャパンとの取引代金として支払うため証拠金(プレミアム代金)はワールドゲートの収入にはならず,同社が得られる収入は顧客の支払う手数料となる(被告Y3本人調書36ないし38頁)。

(エ) 被告Y2及び被告Y1はカルジャパンの上記提案を受けることにした(被告Y2本人調書7頁)。被告Y2及び被告Y1は,ワールドゲートとカルジャパンとの間で,ワールドゲートが顧客から注文を受けた場合には,当該注文と同内容のコール・オプション,プット・オプションを当該注文と同内容の選択価格でカルジャパンに注文を出すこと,ワールドゲートがカルジャパンに対して手数料を支払うことを内容とする契約を締結することにした。これにより,ワールドゲートとしては,顧客から得た手数料からカルジャパンに対する手数料を差し引いた差額を収入として得ることになった(被告Y3本人調書14,22,40頁,被告Y2本人調書7頁,被告Y1本人調書16,17頁)。

(オ) 被告Y2,被告Y1及び被告Y3は,ACEが1枚7万円の手数料であったことから,これより2万円下げた1枚5万円をワールドゲートの手数料にすることにした(被告Y3本人調書38頁,被告Y1本人調書15頁)。

(カ) ワールドゲートは,営業を開始した後,取次先業者としてカルジャパンより手数料が安い岡藤商事や,GKGOH社にも顧客の注文内容と同一の注文をするようになった(被告Y2本人調書29頁)。

オ ワールドゲートの主な支出項目の決定

(ア) 大倉へのコンサルタント料

被告Y2及び被告Y1は,ワールドゲートと被告Y2が経営する大倉との間でコンサルタント契約を締結し,大倉に対して年間1億円程度のコンサルタント料を支払うことにした(被告Y1本人調書27頁)。

被告Y2は,ワールドゲートの設立に当たって,大倉の所有する事務机等の備品合計約700ないし800万円程度をワールドゲートに提供し,同社の経営面,財務面,経理面をサポートしたり不動産を賃借するための連帯保証人になるなどした(被告Y2本人調書6,9,12頁,被告Y3本人調書4頁)。

(イ) 被告Y1の報酬

被告Y2及び被告Y1は,ワールドゲートから被告Y1に対し,役員報酬として月100万円を支払うことにした。被告Y3の給与も,平成22年ころから被告Y1と同額の月100万円とされた(被告Y2本人調書10,12頁)。

(ウ) その他経費

事務所賃料,従業員給与等を合計すると,3店舗合計で毎月約1億円程度の経費を要していた(被告Y2本人調書10,12,16頁)。

カ ワールドゲートの営業管理等

(ア) 被告Y2と被告Y3は,ACEは顧客とのトラブルが余りにも多すぎたことから,新しく作る会社はそういうことがないような会社にしたいと話し合い,被告Y3は,営業ではなくコンプライアンス指導,教育,弁護士とのやり取り,トラブル処理といった営業管理を担当することになった(被告Y3本人調書3頁)。ワールドゲートにおいては,被告Y3,Aを中心とする本店の管理部において,本社及び各支店の営業を管理する体制であった(被告Y3本人調書4頁)。

(イ) もっとも,ACEは,70歳以上の高齢者で投資経験のない者及び一人暮らしの者への勧誘及び80歳以上の高齢者への勧誘を禁止すること,顧客の投資資金総額が当該顧客の流動資産の3割を超えないように留意して取引限度額を設定することを社内規程として定めていた(甲60,61)のに対し,ワールドゲートにおいては,80歳以上の高齢者への勧誘を原則として禁止するにとどまり,80歳以上の高齢者であっても,勧誘し,審査に通れば取引することとしており(被告Y3本人調書),資産についての限度規程を設けていた事実も認められない。

(ウ) ワールドゲートにおいては,各支店の営業の課毎に毎朝ミーティングを行い,同日時点で顧客に勧める銘柄,枚数,選択価格(ストライクプライス,ポジションはこれと同義。被告Y3本人調書39頁)について意思統一を図り,各課の営業職員は,同ミーティングにおいて決定された銘柄,枚数,選択価格を顧客に勧めていた(被告Y4本人調書19ないし21頁,被告Y3本人調書31頁)。同ミーティングにおいては,商品は予想に反して価格が変動することがあるからコールとプット両方取得しておけば,予想に反した方向に価格が変動しても利益を得ることができる旨説明が行われており,従業員は当該方針に従って顧客に説明していた(被告Y4本人調書24,25頁)。

また,ワールドゲートにおいては,従業員研修において,本件取引は相対取引であり,ワールドゲートはグランター(売主),顧客はバイヤー(買主)である旨の説明をしており,営業の従業員はそのように認識して営業に当たっていた(被告Y4本人調書15ないし17頁)。

(エ) ワールドゲートにおいては,顧客と契約を締結した場合,支店長がこれをチェックした後契約書を本社に書留で郵送し,その後,本社管理部が契約を締結した顧客に電話して,投下資金がゼロになる可能性があることを承知しているか,顧客自身の判断で契約を締結したかどうか,クーリングオフで8日間以内であればいつでも契約を無効にできることを承知しているかを確認した上で取引を開始するシステムにしていた(被告Y3本人調書6,7頁)。

(オ) ワールドゲートにおいては,被告Y2,被告Y1,被告Y3,各支店長,Aが,月に1回程度集まって支店長会議を開催し,収支報告,新規設備投資等の話し合いをしていた(被告Y3本人調書24頁)。

(カ) ワールドゲートは,顧客との間にトラブルが生じた際,これを解決するために和解金額を支払うことがあった。被告Y2及び被告Y1は,顧客は利益が出れば黙っているが損失が出たときは騒ぐものだ,投資の世界では利益が出ることもあれば損をすることもあるのが当たり前だから顧客からトラブルの言葉が出てくるのは必然である旨の認識で対応していた(被告Y2本人調書14頁,被告Y1本人調書24頁)。もっとも,ワールドゲート設立後半年を経過した平成20年12月ころから,顧客との間のトラブルを解決するために支払う和解金等の額が,月に数百万円,1000万円,2000万円,3000万円,5000万円とだんだん増えていった(被告Y1本人調書6,8頁)。被告Y1は,顧客に対して支払う金員がこれ以上増加すると経営を圧迫しかねないとして,被告Y3に,トラブルの支払をするために会社を経営しているわけではない旨述べ,顧客に対して少しでも利益をもたらして長く続けてもらう方向でトラブルを未然に防止するよう指示し,月に1回開催される支店長会議において,各支店長と被告Y3にトラブルを防ぐよう指導した(被告Y3本人調書6,8,28,29頁)。

(キ) ワールドゲート本社管理部は,平成22年9月ころ,全顧客に対して,契約の締結を勧誘した行為は不愉快又は不都合ではなく取引を開始又は継続する旨の「意思確認に関する通知書」(甲6)を送付し,返送のない顧客との取引は継続しない方針を決めた(被告Y4本人調書26,27頁)。

(2)  被告Y1の責任

ア 被告Y1は,金融商品取引を業とするワールドゲートの代表取締役である。金融商品取引においては,金融商品取扱業者等の従業員が顧客に対して行う情報提供や勧誘方法の適否は不法行為として問題となりやすい事項であって金融商品取扱業者等の取締役においてはコンプライアンスとして最大の関心を寄せるべき事項であるといえる。金融商品取引業者等の取締役には,会社の業務において従業員が顧客に対し,不適切な情報提供,勧誘行為をしないよう指導,監督する注意義務がある。

ところが,被告Y1は,顧客との間のトラブルが生じた際,ワールドゲートが当該トラブルについて責任があるか否かをさほど気にすることなく顧客に対して和解金を支払ってきており,和解金の金額が増え始めて経営に支障が生じる程度になった際には,被告Y3にトラブルを未然に防止するよう指示し,支店長会議においても各支店長と被告Y3にトラブルを防ぐよう指導したことが認められるものの,トラブルについて投資で損をした顧客の苦情程度の認識であり,自らは代表取締役であるにもかかわらず経理,財務及び内勤職の管理が自らの役割であると認識し,営業や管理は各支店の支店長及び被告Y3に任せていたと認められる(被告Y1本人調書5,24頁)。

以上によれば,被告Y1は,ワールドゲートの代表取締役の職務を行うについて,従業員が顧客に対し,不適切な情報提供,勧誘行為をしないよう指導,監督する注意義務を怠ったものというべきであり,当該注意義務の重大な注意義務であるにもかかわらず被告Y1はこれを自らの役割ではないと考えて各支店の支店長及び被告Y3に任せていたのであるから,重大な過失があったというべきである。

(3)  被告Y3の責任

ア 被告Y3は,ワールドゲートにおいて本社管理部部長として同社のコンプライアンスを担当していた。ワールドゲートにおいては,当初カルジャパンとの間で委託契約を締結していたが,平成22年ころ,シンガポールの大手先物会社であるGKGOH社との間で委託契約を締結するために交渉していた。同社と契約締結過程においてシンガポールのHSBC銀行と法人契約を締結する必要が生じたところ,同銀行と法人契約を締結するためには取締役が2名以上登記されている必要があった。被告Y3は,シンガポールにおいて上記GKGHO社及びHSBC銀行との交渉を担当していたが,同銀行と法人契約を締結するため,日本に帰国して同年7月5日付けで自らがワールドゲートの取締役に就任したものとして登記をし,HSBC社との交渉が終了した同年9月10日付けで自らがワールドゲートの取締役を辞任したものとして登記した(被告Y3本人調書9頁,弁論の全趣旨)。被告Y3は,この間,形式的に取締役になったに過ぎず,ワールドゲートの取締役として活動することはなかった(被告Y3本人調書9頁,弁論の全趣旨)。

イ 被告Y3は,平成22年7月5日から同年9月10日までの間,ワールドゲートの取締役であったが,ワールドゲートとHSBC社との間で法人契約を締結するために名目的に取締役に就任したにすぎないことから,被告Y3が取締役としての責任を負うか否かにつき検討する。

株式会社の取締役は,会社に対し,取締役会に上程された事項についてのみならず,代表取締役の業務執行の全般についてこれを監視し,必要があれば代表取締役に対し取締役会を招集することを求め,又は自らそれを招集し,取諦役会を通じて業務の執行が適正に行われるようにするべき職責を有するものである(最高裁昭和46年(オ)第673号同48年5月22日第三小法廷判決・民集27巻5号655頁)が,このことは,名目的に就任した取締役についても同様であると解するのが相当である(最高裁第三小法廷昭和55年3月18日判決と同旨)。

そして,前記のように金融商品取引においては,金融商品取扱業者等の従業員の顧客に対する情報提供や勧誘方法の適否は不法行為として問題となりやすい事項であって金融商品取扱業者等の取締役においてはコンプライアンスとして最大の関心を寄せるべき事項であるといえる。金融商品取引業者等の取締役には,会社の業務において従業員が顧客に対し,不適切な情報提供,勧誘行為をしないよう指導,監督する注意義務があるのみならず,代表取締役がかかる注意義務を怠っていないかどうか監視し,必要があれば代表取締役に対し取締役会を招集することを求め,又は自らそれを招集し,取諦役会を通じて業務の執行が適正に行われるようにするべき注意義務を負う。

ところが,被告Y3は,ワールドゲートの従業員管理部部長としてコンプライアンスを担当していたものの,代表取締役である被告Y1が上記注意義務を怠っていないか監視し,怠っている場合にはこれを是正すべき注意義務を果たしていたとはいえない。そして,当該注意義務の重大な注意義務であるにもかかわらず被告Y3は自らは名目上の取締役であるとの認識で当該義務を怠っていたのであるから,重大な過失があったというべきである。

ウ もっとも,被告Y3の過失行為は,平成22年7月5日から同年9月10日までの間になされたのみであり,原告は,同期間に本件各取引を行っていないから,原告が本件各取引によって被った損害と被告Y3の任務懈怠行為との間には相当因果関係が認められない。

エ 原告は,被告Y3について,取締役としての責任のみならず,不法行為責任を負う旨主張する。

確かに,被告Y3はワールドゲート管理部部長であったが,取締役に就任していた期間を除いて,同社の顧客に対して取締役と同内容の責任を負うものではない。被告Y3は,管理部部長として,全顧客の契約について本社が審査を行う態勢を整え,平成22年9月には,全顧客に対して,契約の締結を勧誘した行為は不愉快又は不都合ではなく取引を開始又は継続する旨の「意思確認に関する通知書」(甲6)を送付するなど,ワールドゲートの営業管理についてそれなりの義務を果たしていたといえる。また,前記(1)ウ(カ)記載のとおり,ワールドゲートの代表取締役である被告Y1及び同社の会長と呼称されていた被告Y2は,金融商品取扱業において顧客との間でトラブルが生じるのは必然であるという認識を有しており,被告Y3は同人らの管理の下ワールドゲートの職務を遂行していたことに鑑みれば,被告Y3は,本件各取引について不法行為責任を負わないというべきである。

(3)  被告Y2の責任

被告Y2は,ワールドゲート設立時から平成21年10月31日まで同社の取締役であったが,同日退任している。

もっとも,被告Y2は,大倉の従業員であった被告Y1をACEに出向させてACE福岡支店の支店長とした上,自らは肩書きを付さないまま同支店の経営に関わっていた。そして,ACEと被告Y2の関係が悪化した後は,被告Y2と被告Y1が,共にワールドゲートを設立し,被告Y1を代表取締役,被告Y2を取締役とした。被告Y2と被告Y1は,ワールドゲート設立後,ワールドゲートと被告Y2が経営する大倉との間にワールドゲートが大倉に対して,代表取締役である被告Y1の報酬額(月100万円)をはるかに超える年間約1億円のコンサルタント料を支払う旨のコンサルタント契約を締結させている(被告Y2本人調書10頁)。被告Y2は,ワールドゲート従業員から会長と呼ばれ,月1回開催される支店長会議に出席し,同会議の日程は被告Y2の日程に合わせて決められていた(被告Y2本人調書12頁)。

被告Y2が,平成21年10月31日に同社の取締役を辞任した後も,大倉に対するコンサルタント料の支払が中止された事実は認められず,平成22年に被告Y1が被告Y3の報酬を100万円に増額したいと考えた際には,被告Y2に相談してその了承を得てから増額し,ワールドゲートの委託業者をカルジャパンから岡藤商事やGKGOHに変更するについても報告を受けている事実が認められる(被告Y2本人調書13,29頁)。

そうすると,被告Y2は,ワールドゲートの取締役を退任した後においても,対内的にも対外的にも重要事項の決定権を有する実質的経営者であったというべきであり,退任後においても会社法429条1項の責任を負うと解するのが相当である。

そして,金融商品取引においては,金融商品取扱業者等の従業員の顧客に対する情報提供や勧誘方法の適否は不法行為として問題となりやすい事項であって金融商品取扱業者等の実質的経営者としては,コンプライアンスとして最大の関心を寄せるべき事項であるといえる。金融商品取引業者等の実質的な経営者には,会社の業務において従業員が顧客に対し,不適切な情報提供,勧誘行為をしないよう指導,監督する注意義務がある。

ところが被告Y2は,ワールドゲートの従業員は,元ACEの従業員が多くて金融商品取引業には詳しいことなどから,営業に関して従業員に指導することはしておらず,当該従業員がACEの従業員であったころに顧客から訴えられたことがあることは知っていたが金融商品取扱業における顧客は損をしたときは騒ぐのは当たり前であるという認識でいたことが認められる(被告Y2本人調書13,14,21,26頁)。

以上によれば,被告Y2は,ワールドゲートの代表取締役の職務を行うについて,従業員が顧客に対し,不適切な情報提供,勧誘行為をしないよう指導,監督する注意義務を怠ったものというべきであり,当該注意義務の重大な注意義務であるにもかかわらず被告Y2は当該義務を果たすための行動を全くしていないのであるから,重大な過失があったというべきである。

(4)  会社法430条により,被告Y1と被告Y2は原告に対して連帯して損害賠償責任を負う。

3  争点9(被告Y5の法的責任の有無)及び争点10(被告Y4の法的責任の有無)

(1)  前記前提事実,前記1(1)記載の認定事実及び以下に摘示する各証拠によれば,次の事実が認められる。

ア 原告は,ワールドゲートにおいて原則として勧誘が禁止されている80歳以上の高齢者であったが,ワールドゲートは,原告を電話勧誘のリストに掲載して被告Y4に交付した。

イ その後,被告Y4の勧誘により原告がオプションCFD取引に興味を持ったが,被告Y4の説明が曖昧で納得できないとしてワールドゲート本社に電話をしたが,ワールドゲート本社からも明確な説明を受けることができなかった。

ウ 原告は,当初普通預金の範囲内でワールドゲートと取引をしようと考えていたところ,原告が国債の契約を解約するかどうか判断を迫られた時期及び,定期預金の自動更新を断るかどうか判断を迫られた時期に,被告Y4だけでなく,被告Y4の上司である被告Y5が,原告と被告Y4の面会に同席して原告を勧誘した。

エ 本件各取引の銘柄,枚数,選択価格は,いずれもワールドゲート仙台支店において決定された内容であった。

オ 原告は,平成22年2月26日から同年5月26日までの約3か月間に2110万円を預り金として交付し,これを用いて本件取引1ないし本件取引4を行い,ワールドゲートに対して,手数料として少なくとも974万8000円(証拠上明らかに認められる額である。その他,手数料額が不明な取引も複数存在するので,実際の額はこれを超えている。)を支払った。

カ ワールドゲートにおいては,毎月1回,被告Y1,被告Y2,被告Y3,A及び各支店長が集まって支店長会議を開催し,各支店の収支等の報告を行っていた。

キ ワールドゲート本社管理部は,平成22年9月ころ,全顧客に対して,契約の締結を勧誘した行為は不愉快又は不都合ではなく取引を開始又は継続する旨の「意思確認に関する通知書」(甲6)を送付し,返送のない顧客との取引は継続しない方針を決めた。ワールドゲート本社管理部は,原告にも同書面を送付したが,原告からは返送されてこなかった。

なお,この点について,原告は,上記通知書を受領した記憶はない旨述べる(原告本人調書5頁)。しかしながら,上記通知書が原告から書証として提出されていることから原告の供述は信用することができない。

ク ワールドゲート仙台支店においては,支店長,被告Y4,被告Y5等で,原告から上記書面が返送されていないことについて話し合い,被告Y5は,被告Y4に対し,原告に対して,上記通知書の返送がない場合は原告が保有している権利を全て強制的に転売して取引を中止してもらう旨話すよう指示し,被告Y4は,原告に対してその旨話すと述べていたが,原告から上記書面が返送されることはなかった(被告Y5本人調書19,20頁)。

(2)  以上の認定事実に前記8(1)ウ(キ)記載のとおり,ワールドゲートの代表取締役である被告Y1及び同社の実質的経営者である被告Y2は,金融商品取扱業において顧客との間でトラブルが生じるのは必然であるという認識を有していたことに鑑みれば,被告Y4及び被告Y5による原告に対する情報提供行為,勧誘行為は,ワールドゲートにおいて組織的になされたものというべきであり,本件各取引はワールドゲート仙台支店における営業部1課の方針決定に基づいて取引内容が定められており,被告Y5及び被告Y4は本件各取引をワールドゲートの業務として行っていたものといえること,被告Y5及び被告Y4が本件各取引により何らかの経済的利益を得ていたことも認められないことから,被告Y4及び被告Y5は,本件各取引について不法行為責任を負わないと解するのが相当である。

4  争点1(本件各取引が賭博に当たる違法な取引といえるか)

賭博とは,偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為と解されるところ,オプションCFD取引は,権利の対象となる商品の値動き予想の勝敗という偶然の事由により金銭の得喪を争う行為といえるから,賭博に当たると解される。しかしながら,金融商品取引の多くは賭博の構成要件に該当するものの,伝統的に,商品の製造業者や流通業者などが商品価格の変動による損失を避けるという効用を有する正当な行為として認められてきており,オプションCFD取引は,前記1(3)イ記載のとおり,損失がプレミアム価格(証拠金)に限定される取引であって,損失が無限大又はそれに近いものとなる可能性があるその他の金融商品取引に比べてリスクが限定的な取引類型であり,本件各取引のオプションの対象商品である銘柄(砂糖,とうもろこし,小麦,灯油等)の値動き等は,経済紙等にも掲載され,一般投資家にも情報提供されており,投資者の保護のための一定の情報環境が整備されている取引である。そして,乙6,7によれば,オプションCFD取引は,平成19年ころから取引が行われており,甲70,71によれば,平成24年2月には,広く取引が行われいたものと認められる。そうすると,平成22年当時において,オプションCFD取引についても,社会的正当行為として違法性が阻却されると解するのが相当である。

原告は,ワールドゲートは顧客の注文をカルジャパン等の業者につないでいたが,カルジャパン等がこれを市場につないでいなかったとして,商品の製造業者や流通業者などが商品価格の変動による損失を避けるという効用は認められない旨主張する。しかし,被告Y2本人調書22頁によれば,カルジャパンはもともと金融商品に関する取引を市場につなぐ業務を行っていた会社であると認められ,甲72によれば岡藤商事も同様であると認められ,その他,カルジャパン等がワールドゲートとの間の取引に関してのみ市場につないでいなかったことをうかがわせる事実は認められないから,原告の主張は採用できない。

5  争点2(本件各取引が暴利行為に当たる違法な取引といえるか)

甲4によれば,ワールドゲートは,本件各取引において,原告から,オプション買付け時に1枚5万2500円の手数料を得ていたことが認められるが,前記6(1)エ(エ)記載のとおり,同社は,原告からの注文と同内容の注文をカルジャパン,岡藤商事,GKGOH社等の別業社に発注し,これらの業者に対して手数料等を支払っていた事実が認められ,ワールドゲートの利益は,上記5万2500円と上記各別業社に支払う手数料の差額であると認められるところ,当該差額は明らかでない。本件各取引が暴利行為に当たるということはできない。

6  争点3(本件各取引のうち両建てを行った取引が違法な取引といえるか)

原告は,両建てが手仕舞いをしたのと同様の結果になることを前提に本件各取引のうち両建てを行った取引が違法である旨主張する。しかしながら,本件各取引は,コールとプットを両建てしたとしてもコールとプットの各選択価格によって利益と損失が異なってくるものであり,両建てしたとしても手仕舞いをしたのと同様の結果になるとは解されないから,原告の主張は採用できない。

7  争点4(本件各取引が総合的な要因により違法な取引といえるか)

原告が争点4において主張する事項のうち,本件各取引が原告とワールドゲートの利益相反取引であるという点については,ワールドゲートが原告の注文と同内容の取引をカルジャパン,岡藤商事又はGKGOH社に発注している事実が認められるから当たらない。

本件各取引の取引条件,価格をワールドゲートが一方的に決める取引であったという点については,オプションCFD取引がそのような性質のものであるという主張であれば前記第2,2(4)ウ,第4,1(1)テ記載のとおりであり,当たらない。

原告との間の本件取引における事情については,争点5において判断した。

8  損害の額

原告は,本件各取引によりワールドゲートに対し合計2701万円を預り金として交付し,うち1万9319円が預り金残金であるから(甲21),残金を控除した2699万0681円を投資したものであり,被告Y2及び被告Y1の任務懈怠行為により同額の損害を被ったといえる。もっとも,原告は,本件各取引により,合計234万7622円の利益を得ているから(甲38),同額を原告の損害から控除した2464万3059円を損害とするのが相当である。

原告は,被告Y2及び被告Y1の任務懈怠行為により,本件各取引で使用した2464万3059円を失ったことにより精神的苦痛を被っており,その損害を金銭で評価すると100万円が相当である。

9  過失相殺

以上のとおり,被告Y1及び被告Y2は,本件各取引について,原告に対し損害賠償責任を負うが,前記1(1)テ,(3)イ記載のとおり,原告は,オプションCFD取引のリスクが限定されるという点について,書籍の記載や被告Y4及びワールドゲート本社からの説明を聞いても納得できない点が残っていたものの,普通預金の範囲内であれば損が出たとしても投資した資金のうちいくらかでも戻ってくればよいと考えて本件取引1を行っていること,本件各取引のオプションの対象商品である銘柄(砂糖,とうもろこし,小麦,灯油等)の値動き等は,経済紙等にも掲載され,一般投資家にも情報提供されており,投資者の保護のための一定の情報環境が整備されているにもかかわらず,経済紙等を自ら調査して判断することをしていないことなどの事情が認められるから,損害の公平な分担という見地から,前記8において認めた損害金2564万3059円の5割について過失相殺をすることが相当である。

10  以上によれば,原告は,被告Y2及び被告Y1に対し,1282万1529円(2564万3059円×0.5)の損害賠償を請求できるところ,原告は弁護士費用を支出して本件訴えを提起しており,その約1割に相当する128万円が本件における任務懈怠行為と相当因果関係のある損害と認められる。そうすると,被告Y2及び被告Y1の任務懈怠行為と相当因果関係のある原告の損害の合計額は,1282万1529円に128万円を加えた1410万1529円であると認められる。

第5結論

以上によれば,原告の請求は,会社法429条1項,同430条に基づき,被告Y1及び被告Y2に対して1410万1529円及びこれに対する本件各取引の最終日である平成22年10月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める限度で理由があるからこれを任用することとし,原告のその余の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 吉川泉)

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