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仙台地方裁判所 平成23年(ワ)561号 判決 2013年2月14日

主文

1  被告は,原告に対し,374万8328円及びこれに対する平成22年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを10分し,その9を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

被告は,原告に対し,405万7780円及びこれに対する平成22年5月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

本件は,原告が,胸痛による呼吸困難のため,被告の管理,運営に係るa病院(以下「被告病院」という。)に救急搬送された後,右鼠蹊部からの大腿動脈穿刺による採血処置(以下「本件採血」という。)を受けたところ,本件採血を担当したb医師(以下「被告担当医」という。)が,採血時において丹念に触診して大腿神経を損傷しないように大腿動脈を穿刺すべき注意義務があるのにこれに違反した旨主張し,同注意義務違反(過失)によって神経損傷に伴う後遺障害(右大腿のしびれ,長距離の歩行困難)が残存したとして,不法行為ないし債務不履行に基づく損害賠償として405万7780円及びこれに対する本件採血日である平成22年5月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求する事案である。

1  前提事実(後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者

原告は昭和50年4月26日生まれの男性であり,本件採血当時の年齢は35歳,身長は167cm,体重は89kgであった(乙A1)。

被告は,地方公営企業法2条3項,地方公営企業法施行令1条1項の規定に基づき,c市病院事業の一つとして,被告病院を設置,管理,運営する地方公共団体である(弁論の全趣旨)。

(2)  本件患者の診療経過

ア 採血に至る経緯

原告は,平成22年5月30日午後8時35分,胸痛による呼吸困難のため,被告病院に救急搬送された後,当直医として勤務していた被告担当医から,血液ガスの酸素濃度測定のために,右鼠蹊部からの大腿動脈穿刺による採血処置(本件採血)を受け,血液ガス分析の検査所見等から胸痛の原因は不整脈である可能性を指摘され,翌日に被告病院内科を受診するよう指示された(乙A1・3頁,弁論の全趣旨)。

イ 採血後の経緯

原告は,同月31日,妻とともに被告病院内科を受診し,胸痛は落ち着いているものの,歩行も困難なほど穿刺部が痛い,圧痛がある旨述べた上,痛みの原因は昨晩の穿刺(本件採血)であると考えていることなどを訴えた(乙A1・4頁,5頁,弁論の全趣旨)。

その後,原告は,同日中に被告病院整形外科を受診し,採血時はものすごく痛かったが,こんなものだろうということで我慢していた旨,及び,その後に穿刺部周辺の痛みが生じ,長く歩くと右下肢全体がしびれて苦しくなる旨を訴えた。これに対し,同科のd医師は,断定はできないものの針先で大腿神経をかすった可能性はあるが,少なくとも神経損傷,断裂ではないのではないかとの意見をカルテに記載し,「右下肢末梢神経障害」と診断した。なお,同日実施されたMRI検査では,穿刺後の仮性動脈瘤や血腫の形成は認められなかった(以上につき,乙A1・12頁ないし17頁)。

ウ 後医による診療経過

(ア) 原告は,同年6月3日,e整形外科を受診し,針刺入時の足先への放散痛と刺入部のTinel like sign(ティネル様徴候。障害された末梢神経幹を圧迫ないし叩打すると,神経が支配する皮膚領域にビリビリ感が瞬間的に放散する現象のことをいう。)が認められることから,右大腿神経損傷であると思われる旨の診断を受けた(乙A2,弁論の全趣旨)。

(イ) 原告は,同年8月7日,e整形外科から,治癒の状態に至ったこと,後遺障害(右鼠蹊部痛,右下腿しびれ)が残存する見込みがあることを内容とする診断を受け,同病院における原告の治療は終了となった(乙A3,弁論の全趣旨)。

(ウ) 原告は,その後も引き続き痛みやしびれが残存していたことから,同年9月16日,f整形外科病院を受診し,「右股関節部刺傷」との診断を受けて更に治療を開始し,同年11月10日,後遺障害(右大腿のしびれ,長距離の歩行困難)が残存する見込みがあるとして,症状固定の診断を受け,治療が中止された(乙A4,弁論の全趣旨)。

2  争点及び争点に関する当事者の主張

本件の争点は,①本件採血における被告担当医の手技上の注意義務違反(過失)の有無(争点1),②原告が被った損害(大腿神経損傷による後遺障害)の有無及びその損害額(争点2)であり,この点に関する当事者の主張は,後記第3で特に摘示するもののほかは別紙に記載したとおりである。

第3当裁判所の判断

1  争点1(手技上の注意義務違反の有無)について

(1)  本件と関連する医学的知見

後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の医学的知見が認められる。

ア 大腿動脈については,内側に大腿静脈が,外側に大腿神経がそれぞれ走行しており(鼠蹊部の内側から順に大腿静脈,大腿動脈,大腿神経の順に並んでいる。),その採血に当たっては,動脈(の拍動)を2本の指(人差し指と中指)で触知し,脈に触れている両指の間に,注射針を皮膚に対して垂直に刺入することとされている(甲B1,4,乙B1,6)。なお,静脈穿刺に関するものではあるが,採血時の注意点として,穿刺後に血管を探るような動きをしないこと,失敗したらその都度,抜針すること,強い痛みや放散痛,異常感覚を訴えたら直ちに中止すること,針はできるだけゆっくり進めることなどを心得ておくことが肝要であるとの指摘がされている(甲B18,乙B2)。

イ 血液ガス測定のための動脈穿刺では,適する動脈として橈骨動脈,上腕動脈,大腿動脈が挙げられているところ,このうち大腿動脈については,血管が太いため穿刺が容易とされている一方,感染の危険性が高い上,肥満の人に対する実施が困難と指摘されている(甲B3,乙B1)。

ウ 注射による血管穿刺に伴う神経損傷の原因としては,注射針による機械的神経損傷のほか,血管造影後に生じた仮性動脈瘤や血腫による神経障害(圧迫)が挙げられており,このうち,注射針による神経損傷の有無に関する診断に当たっては,注射の際の電撃痛の有無,穿刺直後からの麻痺症状の有無等を問診することとされている(甲B10)。

エ 医学文献上,一般に,動脈採血に関する合併症としては,上腕動脈からの採血については,末梢神経損傷が挙げられている一方,大腿動脈からの採血については,神経損傷は挙げられておらず,仮性動脈瘤や出血が指摘されているにとどまる(甲B2,3)。

オ 注射に伴う神経損傷では,通常と異なる強い疼痛と放散痛が特徴的であり,注射後に支配領域のしびれや痛みが生じるほか,支配領域の感覚鈍麻,過敏の訴えや,穿刺部を叩打した際における支配領域への放散痛(Tinel徴候)が見られることが少なくないとされている(甲B12)。穿刺に伴う痛みの表現としては,電撃痛(電気ショックを受けたような激痛)が一般に用いられているが,その具体的な訴えの内容は「ひびいた」,「しびれた」などとされ,痛みの性質については「びりびり」,「電気が走るような」などと表現されている。こうした鋭い痛みを起こす刺激に対しては疼痛反応(表情の変化や恐怖感,発汗,血圧上昇等の不随意な生体反応)が発生するが,過去の痛み経験などにより修飾されるものとされている(以上につき,甲B12ないし17,乙B2,弁論の全趣旨)。

(2)  認定事実

前記前提事実のほか,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

ア 被告担当医は,原告に対し,注射針を針のほぼ根元まで刺入(以下「第1刺入」という。)したが,血液の流入がなかったため,注射針を皮膚近くまで引き抜き,もう一度垂直に針をほぼ根元まで刺入したところ,血液の流入が見られた(証人b6頁,7頁)。

イ 原告は,穿刺開始時に痛みを感じたほか,上記アのうち,第1刺入の時点で,最も強い痛み(原告の表現によると,「全身に何かミミズが走るようなしびれみたいな感じ」の痛み)を感じたことから,瞬間的に身体が自然に起き上がるとともに,原告のストレッチャーの周りにいれば聞こえる程度の大きさで「痛っ」と訴えた(証人b8頁,原告本人2頁,3頁,18頁ないし20頁,22頁,23頁)。

ウ 原告は,本件採血後,被告担当医に対し,「痛かったが,このくらい痛いものなのか」という趣旨の質問をしたが,被告担当医は,大腿動脈穿刺において通常想定される範囲内の痛みであると判断したため,痛みの予後について特に説明することはしなかった(証人b10頁,11頁,原告本人20頁)。

エ 原告は,本件採血の翌日である平成22年5月31日,被告病院内科及び整形外科において,本件採血時に穿刺部に強い痛みを感じ,歩行も困難な程である旨を訴え,さらに,後医であるe整形外科においても,受診初日である同年6月3日,右鼠蹊部から本件採血をした際に右足先まで痛みがあり,右足が付けない程度である旨を訴えている(前記前提事実(2)イ,ウ(ア),甲A3)。

(事実認定の補足説明)

上記イの原告が本件採血の第1刺入時に強い痛みを訴えた点に関し,原告は,痛みを訴えた際の感覚につき,「全身に何かミミズが走るようなしびれみたいな感じ」と供述しており,その表現は特異ではあるが,かえって作為が感じられず,電撃的な強いしびれを自分なりの表現を用いて具体的に供述したものと理解することができる。原告は,採血に関する一連の経過のうち,最も強い痛みを感じた時点についても,一番奥まで刺入した時点であると明確に述べているのであって,その内容は全体として具体的かつ自然であり,格別不合理な点は見当たらない。さらに,供述内容等の変遷の有無を見ると,原告は,本件採血時に痛みを感じた状況について,本件採血の翌日には,被告病院内科及び整形外科においてそれぞれ,採血時に強い痛みを感じ,それ以後,右足がしびれている旨説明している上,その後も,後医の受診時を含め,同様の説明をしており,その供述の態度及び内容(被告代理人の反対尋問によっても供述内容は変わらず,維持されている。)は一貫しているといえる。

加えて,原告は,本件採血後に生じた障害により現にそれまで勤務していた会社を解雇され,従前より低い水準の給与しか受けられない勤務先への転職を余儀なくされており(原告本人8頁ないし10頁,弁論の全趣旨),原告が,実際には神経を損傷していないにもかかわらず虚偽の供述をしてまで上記解雇等を甘受する理由があるとは認め難いことからしても,原告の上記供述の信用性は高いといえる。

以上によれば,原告の上記供述を採用して上記イの事実を認定するのが相当である。

(3)  上記(1),(2)の検討結果を踏まえた判断

ア 一般に,注射により大腿神経を損傷した場合には損傷時に通常とは異なる強い疼痛(電撃痛)が生じ,注射後に支配領域のしびれや痛みが生じるとされていること(前記(1)オ)からすると,採血の手技時に強い疼痛があり,その後に支配領域のしびれや痛みがある場合には,原則として大腿神経損傷が生じたと推認される。そして,この場合には,他に神経損傷の原因が認められない限り,神経損傷の原因は大腿動脈からの採血にあると推認するのが相当である。

そこで,大腿動脈からの採血の手技と大腿神経損傷との関係について見るに,大腿動脈からの採血は,拍動を感じた部分に対し,注射針を皮膚に対して垂直に刺入することとされている(上記1(1)ア)上,大腿動脈からの採血では,血管が太いため,穿刺が容易とされていること(同イ),医学文献において,一般に,大腿動脈からの採血については,上腕動脈からの採血の場合と異なり,神経損傷が合併症として挙げられていないこと(同エ)からすると,大腿動脈からの採血においては,拍動を感じた部分に対して注射針を皮膚に対して垂直に刺入するという手技を適切に行えば,大腿神経を損傷することはほとんどないことが前提とされているものと考えられる。

そうであるとすれば,大腿動脈からの採血が原因で神経損傷を生じた場合には,適切な手技によっても不可避的に神経損傷が生じたなどの特段の事情がない限り,採血の手技を担当した医師において,大腿動脈の拍動を正確に触知し,注射針を皮膚に対して垂直に刺入すべき注意義務に違反したものと認めるのが相当である(なお,肥満の人に対しては,大腿動脈からの採血が困難とされていること(同イ)を踏まえると,肥満の人に対する大腿動脈からの採血に当たっては,大腿動脈の拍動の確認や注射針の垂直な刺入につき,より慎重な手技が要求されるというべきである。)。

イ これを本件について見るに,本件採血において,原告は,被告担当医が注射針を一番奥まで刺入(第1刺入)した時点で,強い痛みを感じて痛みを訴えており(上記(2)ア,イ),その痛みは,原告の表現によれば「全身に何かミミズが走るようなしびれみたいな感じ」で,瞬間的に身体が起き上がるようなものであった(同イ)ところ,医学文献上,一般に,注射に伴う神経損傷に見られる電撃痛の訴えの内容については,「ひびいた」,「しびれた」などとされ,痛みの性質については,「びりびり」,「電気が走るような」などとされ,いずれも一定の例示はあるものの,特定の表現に限定されてはいない上,疼痛反応も個人の過去の経験によって修飾されるとされていること(上記(1)オ)からすると,注射による神経損傷の際に感じる痛みの表現にも個人差があると考えられるので,原告が本件採血時に感じた痛みは,いわゆる電撃痛の性質を有するものであったということができる。加えて,本件採血の翌日から,原告の右足には痛みやしびれ等の症状が残存し,後医において穿刺による右大腿神経損傷と診断されていること(前記前提事実(2)ウ)に鑑みれば,被告担当医は,本件採血により原告の右大腿神経を損傷したものと推認することができる。

そして,被告担当医は,注射針を一番奥まで刺入したが血液の流入がなかったため(完全に針を抜くことはせずに)皮膚近くまで針を戻した上で,微調整をしてもう一度,注射針を垂直に刺入したところ,血液の流入が認められた(上記(2)ア)というのであって,このように刺入箇所を変更することなく垂直に刺入し直した結果,採血に成功したという経過に加え,原告が本件採血時において身長167cm,体重89kgという肥満体型であったこと(前記前提事実(1))を考慮すると,被告担当医は,第1刺入時において,大腿動脈の拍動部分を正確に触知せず,あるいは注射針を皮膚に対して垂直に刺入しなかったと見るのが相当であるから,被告担当医は,本件採血における手技上の注意義務に違反したというべきである。

(4)  被告の主張に対する検討

これに対し,被告は,被告担当医の証言内容等を基に,原告が第1刺入の時点で訴えた痛みは動脈血採血時にしばしば見られる程度のものにとどまっていたので,原告の痛みの訴えをもって,被告担当医が本件採血の手技を誤ったということはできない旨主張する。

しかしながら,被告は,当初,原告が本件採血時に一切痛みを訴えたことはなかった旨主張し,第1回弁論準備手続期日(平成24年3月29日)に尋問予定者である被告担当医及び被告病院の看護師らの陳述書の提出及び人証申出を行う旨約した後,第2回弁論準備手続期日(同年5月11日)において,最も客観的に事情を把握している証人であるとの理由から,g看護師(なお,同人の陳述書(乙A5)によると,原告が本件採血時に痛みを訴えた記憶は全くないとのことであった。)の人証申出のみを行い,被告担当医の陳述書を提出せず,人証申出もしなかったものであるところ,g看護師が尋問期日に出頭しなかったことに伴い,原告が本件採血時に痛みを訴えてはいたが,通常見られる程度のものであったことを内容とする被告担当医の陳述書(乙A6)を提出するとともに,主張内容も原告が痛みを訴えていたことを内容とするものに変遷させているのであって(顕著な事実),このような経過からすれば,被告担当医及び被告病院の看護師らが,本件採血時の状況について正確に把握し,記憶していたとは認め難い(なお,被告病院の看護師ら自身,各陳述書において,本件採血時の穿刺の状況を見ていたわけではない旨述べるとともに,本件採血は何事もなく終わったという記憶で,印象には全く残っていない旨述べており,この点からしても,被告病院の看護師らが本件採血時の状況について正確に把握し,記憶していたとは認め難い。)。そうすると,この点に関する被告担当医の証言は信用できず,被告の上記主張は採用できない。

また,被告は,仮に本件採血により原告の神経に損傷が生じたのであれば,採血後の圧迫止血や胸部レントゲン検査,静脈血採血等を何事もなく受けたことになり,経験則に反する旨主張するが,そもそも,先に述べたとおり,被告担当医や看護師らがこの間の原告の様子について明確に記憶しているとは認め難い上,神経損傷後の症状としては,しびれ等が挙げられている(甲B10)ものの,穿刺時の電撃痛と同程度の痛みが穿刺後も継続して生じると認めるに足りる証拠はなく,かえって,穿刺した部位の触覚が鈍くなるとの指摘もあること(乙B2)や,原告自身,看護師らの説明を受けて痛みを我慢していた旨述べていること(原告本人3頁,15頁,16頁,19頁,20頁)に照らすと,被告の上記経験則違反の主張は採用できない。

このほか,被告は,大腿動脈からの採血では,穿刺部位を決定した後は盲目的に注射針を操作しなければならないので,特段の事情がない限り,過失があったとはいえない旨主張するが,そもそも大腿動脈からの採血では,拍動の触知により穿刺部位を決定した後は,皮膚に対して垂直に注射針を進めることで採血が可能である旨指摘されている(上記(1)ア)上,合併症としても神経損傷が指摘されていないこと(同エ)からすれば,少なくとも大腿動脈からの採血においては,その手技が盲目的な操作になることが不可避であるとは認め難いので,被告の上記主張は採用できず,他に被告が縷々主張するところも上記(2),(3)の認定,判断を左右しない。

2  争点2(原告らが被った損害の有無及びその額)について

(1)  前記前提事実(2)ウによれば,原告は,本件採血に係る上記1で認定した被告担当医の注意義務違反により,右大腿のしびれ,長距離の歩行困難を内容とする後遺障害を負ったものと認められるところ,後掲証拠及び弁論の全趣旨によれば,原告には以下のとおりの損害(損害額合計374万8328円)が生じたことが認められる。

ア 治療費等(甲C2の1ないし83)   合計5万9650円

file_3.jpge整形外科への通院

同年6月   8回通院(治療費,薬代合計1万1130円)

同年7月   15回通院(治療費,薬代合計1万2300円)

同年8月   16回通院(治療費,薬代合計8090円)

同年9月   6回通院(治療費,薬代合計3180円)

file_4.jpgf整形外科病院への通院

同月   8回通院(治療費,薬代,検査代合計1万2490円)

同年10月   16回通院(治療費,薬代,検査代合計9140円)

同年11月   5回通院(治療費,薬代合計3320円)

なお,原告は,以上のほかに通院交通費として合計7万4178円の損害が発生した旨主張するが,原告のe整形外科及びf整形外科病院への通院によって,原告主張に係る通院交通費が生じたと認めるに足りる事実及び証拠はない(なお,原告が,公共交通機関ではなく自家用車を使用しなければならない必要性についても何ら立証がない。)。

イ 文書作成料(甲C2の84ないし86)   合計3万3600円

ウ 装具代(甲C2の87及び88)   1190円

エ 休業損害   108万2441円

(計算式)

休業期間 平成22年5月31日から同年11月10日(164日間)

事故前の年収(平成21年度。甲C1) 240万9092円

2409092(円)×164/365(日)≒108万2441(円)

なお,原告は,休業期間を6か月として,合計120万4545円の休業損害が生じた旨主張するが,原告の休業期間は平成22年5月31日から同年11月10日までの合計5か月と11日間であるから,休業損害は上記の限度にとどまるというべきであり,原告の上記主張は採用できない。

オ 通院慰謝料(約5か月)   105万円

なお,原告は,通院期間を6か月として合計116万円の通院慰謝料が生じた旨主張するが,上記エで見たとおり,原告の通院期間は5か月と11日にとどまるので,原告の上記主張は採用できない。

カ 後遺症慰謝料(14級9号に該当)   100万円

キ 逸失利益   52万1447円

(計算式)

2409092(円)×0.05×4.329(5年ライプニッツ係数)

(2)  被告の主張に対する検討

これに対し,被告は,原告には大腿神経損傷が生じておらず,後遺障害も残存していない旨主張するが,原告に大腿神経損傷が生じたことについては,e整形外科及びf整形外科病院の2つの病院において,その存在を証する診断書が作成されており,各病院における診断の信用性を疑わせる具体的な根拠も見当たらない。

また,被告は,仮に神経損傷を来したとしても,長期かつ重度の神経損傷を来すことはあり得ない旨主張するが,その指摘は,一般的抽象的な内容にとどまり,これを裏付けるに足りる客観的な医学文献等の証拠もないから,被告の上記主張も採用できない。

さらに,被告は,e整形外科及びf整形外科病院における通院治療費については,その額がほとんど一律数百円程度にとどまっているものであるから,その間,原告の症状には特段の変化がなかった旨主張するが,証拠(甲C2の1ないし83)によれば,原告に対しては,診察のほか,必要な処置や薬の処方,検査が定期的に実施され,その治療内容によって1日当たりの治療費は数百円程度から数千円程度まで幅のある形で変動していることが認められるところ,被告主張に係る治療費の額の推移のみをもって,原告の症状に特段の変化がなかったということはできず,また,原告の後遺障害につき治療の必要がないということもできないから,被告の上記主張は採用できない。

その他,被告が縷々主張するところも上記(1)の認定を左右しない。

第4結論

以上の検討によれば,原告の請求は,被告に対し,374万8328円及びこれに対する本件採血日である平成22年5月30日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからその限度で認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法64条本文,61条を適用して,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 関口剛弘 裁判官 工藤哲郎 裁判官 吉賀朝哉)

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