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仙台地方裁判所 平成25年(ワ)663号 判決 2014年12月19日

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告X1に対し、別紙物件目録<省略>記載一の土地及び同記載二の建物の各持分五一七三万七一一五分の四三一万一四二六について、平成二四年六月二七日遺留分減殺請求を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

二  被告は、原告X2に対し、別紙物件目録<省略>記載一の土地及び同記載二の建物の各持分五一七三万七一一五分の二〇七万四三一一について、平成二四年六月二七日遺留分減殺請求を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

三  被告は、原告X3に対し、別紙物件目録<省略>記載一の土地及び同記載二の建物の各持分五一七三万七一一五分の四三一万一四二六について、平成二四年六月二七日遺留分減殺請求を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

四  被告は、原告X4に対し、別紙物件目録<省略>記載一の土地及び同記載二の建物の各持分五一七三万七一一五分の四三一万一四二六について、平成二四年七月一九日遺留分減殺請求を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

第二事案の概要

本件は、Aの子で相続人である原告らが、Aの孫で受遺者である被告に対し、Aが被告に遺贈した不動産について、遺留分減殺をしたとして、所有権の一部移転登記手続を求めている事案であり、被告は、遺留分減殺請求はAの死後一〇年より後にされ除斥期間が経過した後であるなどとして、原告らの請求を争っている事案である。

一  争いのない事実等

(1)  当事者等

ア 原告らは、A(以下「A」という。)及びその配偶者であるB(以下「B」という。)の子である。

イ 被告は、Aの子であるC(以下「C」という。)の子である。

(2)  遺言

Aは、平成七年七月二二日、別紙物件目録<省略>記載一の土地及び同記載二の建物(以下「本件土地建物」という。)を、被告に遺贈するとの自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。

(3)  Aの死亡

Aは、平成一〇年一月五日死亡したところ、相続人は、妻B並びに子であるC、D及び原告らである。

(4)  Bの死亡

Bは、平成二一年一〇月三一日死亡したところ、相続人は子であるC、D及び原告らである。

(5)  遺言の検認

Cは、仙台家庭裁判所に対し、本件遺言の検認を申し立て、平成二四年二月九日、本件遺言の検認がされた。

(6)  遺留分減殺請求

原告X1、原告X2及び原告X3は、被告に対し、平成二四年六月二七日、被告への遺贈について遺留分減殺請求するとの意思表示をした。

原告X4は、被告に対し、平成二四年七月一九日、被告への遺贈について遺留分減殺請求するとの意思表示をした。

(7)  消滅時効の援用

被告は、原告らに対し、平成二五年七月一七日の本件第一回口頭弁論期日において、原告らは遅くとも平成一五年一一月八日には本件遺言の内容を知っていたとして、一年の消滅時効を援用するとの意思表示をした。

二  争点

(1)  遺留分減殺請求権の除斥期間経過等による消滅の有無

(2)  原告らの遺留分侵害額

三  争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1)(遺留分減殺請求権の除斥期間経過等による消滅の有無)

(被告の主張)

ア 原告らの遺留分減殺請求は、A死亡後一四年余を経てからされているところ、原告らは本件遺言の存在及び内容を知っており、本件遺言が隠匿されたなどの特別の事情のない本件においては、A死亡から除斥期間の一〇年を経過した平成二〇年一月五日に遺留分減殺請求権は消滅している。

原告らがより早く遺留分減殺請求をしていれば、被告はAの預貯金の履歴を取得し、原告らも別の財産を相続し、生前贈与を受け、特別受益があったなどの主張ができたはずであるのに、後れて遺留分減殺請求をしたために被告はこれらの主張ができなくなったのであるから、衡平の理念から、被告が一〇年の除斥期間を主張できるのは当然である。

イ Bは、本件遺言を知った後、遺留分減殺請求をせずに一年を経過させ、遺留分減殺請求権を消滅させたのであるから、原告らはBの遺留分減殺請求権を承継していない。

また、原告らは、遅くとも平成一五年一一月八日には、Cが主催したAの七回忌において、本件遺言の遺言書を見せられ、その内容を知ったのに、一年以内に遺留分減殺請求をしておらず、被告は消滅時効を援用するとの意思表示をしたから、原告らの遺留分減殺請求権は時効消滅した。

(原告らの主張)

ア 原告らは、Bの有していたAの相続財産について四分の一の遺留分減殺請求権を各六分の一の割合で相続して各二四分の一の遺留分減殺請求権を有しており、また、原告ら固有の各二四分の一の遺留分減殺請求権を有しているから、各一二分の一の遺留分減殺請求権を有する。

Cは、A死亡後、本件遺言の存在を示しつつも無効であると明言して遺産分割協議をしてきたのに、平成二四年一月になって突然本件遺言の検認申立てをしたのであって、原告らはこのとき初めて本件遺言の内容を知ったのであるから、このような場合に一〇年の除斥期間で遺留分減殺請求権が消滅していると解するのは相当でない。また、被告は、原告らから遺留分減殺請求を受け、いったんはこれに応じようとしていたことからすると、除斥期間の主張をすることは権利の濫用として許されない。

イ Bを含めたAの全ての相続人は、本件遺言が無効であるとのCの宣言に異を唱えなかったのであるから、本件遺言の内容を受け入れておらず、Bの遺留分減殺請求権は存続しており、原告らはこれを相続した。

また、原告らは、平成一五年一一月八日、本件遺言そのものは見せられておらず、Cが本件遺言は無効であるとして遺産分割協議を進めようとしたことから、本件遺言の内容について知ろうともしていないのであって、この時点において減殺すべき遺贈があったことは知らず、原告らの遺留分減殺請求権は時効消滅していない。

(2)  争点(2)(原告らの遺留分侵害額)

(原告らの主張)

Aは、相続開始時において被告に遺贈された本件土地建物以外の財産を有していなかったところ、本件土地建物の評価額は四九五〇万円である。また、Aは、原告X2に対し、昭和三九年、五〇万円を生前贈与したところ、平成一〇年一月五日時点の貨幣価値に換算すると二二三万七一一五円である。

したがって、原告X2は、本件土地建物の五一七三万七一一五分(四九五〇万+二二三万七一一五)分の二〇七万四三一一(五一七三万七一一五×一/一二-二二三万七一一五)につき遺留分減殺請求をすることができ、その余の原告は、本件土地建物の五一七三万七一一五(四九五〇万+二二三万七一一五)分の四三一万一四二六(五一七三万七一一五×一/一二)につき遺留分減殺請求をすることができる。

(被告の主張)

本件土地建物の評価額は、四七五一万九五〇〇円である。Aが、原告X2に対して贈与した五〇万円を二二三万七一一五円と換算するのは争わない。

上記に加え、BはAから少なくとも一二五二万七〇〇七円の預貯金と評価額六〇〇万円の宮城県宮城郡<以下省略>所在の未登記建物(倉庫)を相続したから、Aの遺産総額は六八二八万三六二二円となり、Bは、遺留分であるその四分の一を超える財産を相続しており、遺留分減殺請求権を有さない。

原告らの遺留分侵害額も上記に従い算定すべきである。

第三争点に対する判断

一  争点(1)(遺留分減殺請求権の除斥期間等による消滅の有無)

(1)  前記第二、一のとおり、Aは平成一〇年一月五日に死亡したところ、原告らは被告に対して平成二四年六月又は同年七月に遺留分減殺請求しているから、民法一〇四二条後段に定める一〇年の除斥期間経過後にされたものである。

(2)  原告らは、Cが本件遺言の存在を示しつつも無効であると明言して遺産分割協議をしてきたのであり、検認申立てのされた平成二四年一月になって初めて本件遺言の内容を知ったのであるから、一〇年の除斥期間で遺留分減殺請求が消滅していると解するのは相当ではないと主張する。

原告X3本人は、原告らを含む相続人で四回にわたり遺産分割の話合いをしてきたところ、平成一一年六月一五日の第一回協議の際には、Cは本件遺言は無効と言っており、Cが持っていた封筒内に入った状態の本件遺言は見たが中身を開いて見せられてはいないし、平成一五年一一月八日の第二回協議の際にも、Cは本件遺言は無効と繰り返しており、C作成の遺産内容と題する遺産と本件遺言の内容の書かれたメモと遺産分割(案)のメモを見せられたが、本件遺言は見せられておらず、平成二二年一〇月三〇日の第三回協議になって初めて本件遺言を開いた状態にして見せられたと陳述ないし供述している。

第一回協議についてした録音によると、Cは、本件遺言を持ちつつ、本件遺言は開いていたから遺言としては認められないが、本件土地建物を被告に贈りたいとの内容であると話していたことが認められるから、仮に証人Cが証言するとおり、その際本件遺言を開いて出席者に見せたとまでは認められなくても、出席者において、本件遺言の内容は伝えられており、本件遺言が無効であるとする根拠や本件遺言の文面自体も、要求すれば開示を受けられる状態にあったということができる。

また、第二回協議で示されたというメモにも、本件遺言が無効であるとする前提での遺産分割案が示されているが、Aの遺産内容と本件遺言によると各遺産を誰が相続するかも記載されていることが認められるから、出席者において、本件遺言の内容は伝えられており、本件遺言の文面自体も、要求すれば開示を受けられる状態にあったということができる。

以上のとおり、A死亡から一〇年を経過するまでの間に行われた遺産分割協議において、原告らは、Cから本件遺言は無効であるとしつつも、その内容を伝えられており、要求すれば本件遺言自体の開示も受けられる状態にあったことからすれば、原告らに遺留分保全の機会が全くなかったということはできず、除斥期間の規定の適用を排除すべきとはいえない。

(3)  また、原告は、被告がいったんは遺留分減殺請求に応じようとしていたことからすると、除斥期間の主張をすることは、権利の濫用であり許されないと主張する。

前記第二、一(5)及び証拠<省略>によれば、被告は、平成二四年七月、原告らからの遺留分減殺請求を受けて、いったんはこれに応じようとしたことが認められる。

しかしながら、民法一〇四二条後段の規定は、除斥期間を定めたものであり、遺留分減殺請求が除斥期間の経過後にされた場合には、裁判所は、当事者の主張がなくても、除斥期間の経過により同請求権が消滅したものと判断すべきである上、被相続人の死亡から一〇年経過すると、被相続人の有した財産についての証拠も散逸し、本件土地建物以外の財産の存否やその承継が不明となって、正確に遺留分侵害額を算定し難くなることにも鑑みれば、被告による除斥期間の主張が権利の濫用に当たるともいえないから、裁判所が除斥期間の経過により遺留分減殺請求権が消滅したと判断することは妨げられない。

(4)  以上検討のとおり、原告らによる遺留分減殺請求は、民法一〇四二条後段の除斥期間経過後にされたものであるから、その効力を有しない。

二  したがって、その余の争点について判断するまでもなく原告らの請求は理由がないから、これらを棄却することとして主文のとおり判決する。

(裁判官 荒谷謙介)

別紙 物件目録<省略>

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