仙台地方裁判所 平成27年(ワ)999号 判決 2017年3月30日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
北見淑之
被告
Y社
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
西迪雄
同
向井千杉
同
富田美栄子
同
渡邉和之
同
小池正浩
主文
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告は、原告に対し、99万5974円及びこれに対する平成27年7月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告に対し、50万円及びこれに対する平成27年7月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は、被告において、期間の定めのない雇用契約を締結している社員(以下「マネージ社員」という。)と1年以内の期間の定めのある雇用契約を締結している社員(以下「キャリア社員」という。)が存在するところ、キャリア社員である原告が、被告に対し、マネージ社員とキャリア社員との間で、賞与の算定方法が異なる不合理な差別があり、原告の個人成果査定が不当に低いことが労働契約法20条に反する不法行為に当たるとして、平成25年7月支給、同年12月支給、平成26年7月支給、同年12月支給の各賞与につき、マネージ社員との不合理な差別等がなかったならば支給されたはずの賞与と原告が実際に得た賞与の差額99万5974円及びこれに対する労働審判申立書送達の日の翌日である平成27年7月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、原告は、午後7時に出勤することが認められていたにもかかわらず、午後7時出勤は認められないとして1時間後に出勤するよう強いる警告書を交付したことが被告の原告に対するパワーハラスメント・嫌がらせであり不法行為に当たるとして、慰謝料50万円及びこれに対する労働審判申立書送達の日の翌日である平成27年7月9日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるものである。
1 前提事実(認定根拠を示すほかは、当事者間に争いがないか、又は、明らかに争いがない。)
(1) 当事者
被告は、宅急便を中心とした一般消費者・企業向け小口貨物輸送サービス事業を行う株式会社である。
原告は、被告に期間を定めたうえで雇用され、乗務員として被告のa店において稼働している労働者(キャリア社員)である。
(2) 原告と被告との間の労働契約
原告は、平成13年3月1日に被告に入社し、以来1年ごとの有期労働契約が更新されている。
(3) 原告の業務及びa店の構成
原告は、a店において運行業務に従事しているところ、a店は、地域の荷物が集約されるターミナルで、地域の宅急便センターから集めた荷物を行先ベース別に仕分けて、他の地域のベース店に輸送したり、他の地域から輸送された荷物を地域の宅急便センター別に仕分けて各宅急便センターに輸送したりする業務を行っている(書証<省略>)。ベース長、副ベース長、係長、運行乗務グループ長はマネージ社員であり、平成26年12月当時、運行乗務職は34名、うちキャリア社員は7名であった(書証<省略>)。
(4) 被告におけるマネージ社員とキャリア社員
被告においては、期間の定めのない雇用契約を締結しているマネージ社員と1年以内の期間の定めのある雇用契約を締結しているキャリア社員が存在する。
マネージ社員には、他の社員をとりまとめ、管理ができる社員としての役割が期待され、職務内容の変更や役職者に昇進する可能性があり、また、業務上の必要により、転勤を命ぜられることがあり、転居を伴う職場異動は原則として行わないものの、役職配置上や経営上特に必要とする場合にはこの限りでないとされ、担当変更、転勤、役職・役割変更があり得るとされている。これに対し、キャリア社員には、与えられた役割の中で、個人の能力を最大限発揮して個人や店の業績に応じて1年毎に処遇・契約される社員としての役割が期待され、転勤はなく、職務内容の変更や役職者への昇進もないとされている(書証<省略>)。
格付、等級、号俸、業務区分が同じ場合、マネージ社員とキャリア社員の給与(基本給の時間単価)は同じであり、キャリア社員の月間労働時間数が長いため基本給はキャリア社員の方が高くなる。業務インセンティブ、リーダー手当、地域手当、扶養手当、通勤手当などの各種手当の支給基準については、マネージ社員とキャリア社員とで同じ内容が定められている。
2 争点
(1) 被告におけるマネージ社員とキャリア社員の賞与の支給方法の差異が労働契約法20条に反するか(争点1)。
(2) 原告に対する賞与の個人査定が不当に低すぎるか(争点2)
(3) 原告に対する被告のパワーハラスメントなどによる不法行為の成否(争点3)
(4) 原告の損害及びその額(争点4)
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点1(被告におけるマネージ社員とキャリア社員の賞与の支給方法の差異が労働契約法20条に反するか)について
(原告の主張)
ア 被告において、賞与の支給基準が就業規則に明定されていなくとも、長年、マネージ社員は、基本給×マネージ社員用支給月数×成果査定、キャリア社員は、基本給×キャリア社員用支給月数×成果査定(0.4~1.2)で支給されてきており、労使慣行として労働契約の内容として定められているといえる。
イ 有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の相違が不合理であるかどうかは、個々の労働条件ごとに判断される。本件において、マネージ社員とキャリア社員の業務内容は共通し、その業務に伴う責任の程度も変わらない。基本給の時間単価は同じであり、各種手当の支給基準も同一とされている。また、マネージ社員に転勤、昇進の可能性があるとはいえるものの、現実には転居を伴う職場異動は原則として行わないとされ、昇進についても本人が手を挙げて登用されていくのであり、昇進及びそれに伴う転勤は、業務区分の変化に伴い、適用される俸給表が変わることによって考慮されていくべき問題である。賞与は計算期間の会社の営業成績に応じてマネージ社員用とキャリア社員用のそれぞれの支給月数が決まり、その計算期間の成果査定を行ったうえで算定されるから、計算期間の勤務に対応する賃金の後払いであるといえる。賞与についてもマネージ社員とキャリア社員の支給基準を同一としなければならない。
ウ しかし、被告においては、成果査定を、マネージ社員は常に加算する方向で考慮しているのに対し、キャリア社員は直接基本給等に120%から40%の乗率を掛け合わせることにより加算される場合も削減される場合もあり、その相違を合理的に説明することは不可能である。また、賞与を支給する際の支給月数もキャリア社員がマネージ社員よりも常に少なく設定されている。
これは、不合理な労働条件の相違を禁止した労働契約法20条に反し、不法行為を構成する。
(被告の主張)
ア 賞与は、功労報償的意味のみならず、生活補填的意味及び将来の労働への意欲向上策としての意味が込められているものであるから、被告は、賞与支給方式について、マネージ社員とキャリア社員とが期待される役割、業務内容、責任範囲、転勤の有無等が異なることその他諸般の事情を総合的に考慮して決定したものであり、不合理であるといわれる理由はない。
イ マネージ社員とキャリア社員の処遇のうち、その主要部分である同一職種・格付等の場合の時間単価及び各種手当は同一である。マネージ社員とキャリア社員の基本給は、時間給が同一であるが、所定労働時間をマネージ社員165時間、キャリア社員173時間として設計したため、格付、等級、号俸、業務区分が同一である場合は、キャリア社員の方が高い基本給を得ることになる。業務インセンティブについてはキャリア社員とマネージ社員は同一の計算方法が適用されており、その他の手当も同等の内容が定められている。
ウ わずか賞与についてのみ差異が存するところ、賞与は、本来的に使用者に支払義務があるものではなく、支給するか否か、支給するとしてその支給方式をいかに定めるか等の賞与制度の設計は基本的に使用者の裁量に委ねられている。
マネージ社員は給与規定27条により、「会社は営業成績に応じて賞与を支給することがある」とされ、支給方式については「労使協議の上、別に定める」とされている。キャリア社員はキャリア社員就業規則により「会社は営業成績に応じて賞与を支給することがある」とされ、その支給方式については、何ら定めがない。賞与支給の可否、支給方式については、都度決定しており、当期における被告の実績等に応じて、支給方式において用いる支給月数及び配分率を変動させ、社員ごとに成果査定を行い、個別具体的な支給金額を決定しているのであるから、被告がキャリア社員に対して同一基準により一定の賞与を支給する労使慣行は存在しない。
エ 被告において、マネージ社員は、被告に勤務する他の社員(キャリア、パート、アルバイト、委託、パートナーなどを含)をとりまとめ、管理することが求められ、キャリアアップすることが想定されているが、キャリア社員は、与えられた役割(支店等)の中で、個人の能力を最大限に発揮することが求められているにすぎない。
マネージ社員の業務内容は多種多様であり、マネージ社員は、被告の本社、支社、その他の事業所において経営に関与する役割(経営役職者、業務役職者)を行うことがあるが、キャリア社員が当該業務を担当することはない。また、a店での業務内容を比較しても、マネージ社員は、キャリア社員を含む運行乗務職の労務管理、勤務交番表の作成、新入社員等に対する添乗指導、不測の事態が発生したときの業務指示等を行っているが、キャリア社員はそのような業務は行わない。マネージ社員とキャリア社員の業務内容及び業務に伴う責任の程度は異なる。
マネージ社員は、就業規則第17条により「会社は、業務上の必要により、転勤を命ずることがある。なお、転居をともなう職場異動は原則として行わない。ただし、役職配置上ならびに経営上特に必要とする場合はこの限りではない。」と定められ、業務命令により転勤することがあるが、キャリア社員は、個別契約により勤務地が限定されているため、業務命令により全国各地の事業所に転勤することはない。
マネージ社員は、就業規則第17条により「会社は、業務上の必要により、社員に担当変更、役職・役割の任免及び変更を命ずることがある。」と定められ、また、人事運用規程第4条3号により「社員(マネージ社員に限る)を組織の必要性に応じ、役職に任命する。」と定められており、職務内容の変更、業務役職者及び経営役職者への昇進があり得ることとされているが、キャリア社員は、個別契約により職務が限定されているため、同一職務内における担務変更があり得るにすぎず、業務命令により職務内容の変更、業務役職者及び経営役職者への昇進はない。
オ 被告は、マネージ社員とキャリア社員の各賞与支給方式については、b労働組合との間において協議の上決定している。平成26年12月支給の賞与に係る賞与支給方式は、さらに、原告の加入するc労働組合との団体交渉において意見を聴取し、その合意のもとに決定した。
カ 賞与支給方式における支給月数の差異は、賞与計算の基礎額が基本給×支給月数であるため、労使交渉を経て、マネージ社員とキャリア社員が同額になるよう調整しているにすぎず、最終的な賞与額の算定に実質的な影響を生じさせるものではない。また、成果査定の取扱いは、マネージ社員が加算要素、キャリア社員は加算要素、減額要素いずれにもなり得るが、職種及び格付等が同じで最高評価を得たマネージ社員よりキャリア社員の方が高額になるのであるから、キャリア社員に不利益を与えるものではない。
(2) 争点2(原告に対する賞与の個人査定が不当に低すぎるか)について
(原告の主張)
被告において、賞与の際の成果査定は、評価基準や評価項目も何ら明確化されたものは存在せず、労働者への査定結果の還元も全くなく、査定権者が単に総合的に判断しているというにとどまる杜撰なものであっておよそ合理的であるとはいえない。
被告が主張する成果査定の内容をみても、不適正かつ不公正であり、全く合理性を欠いているといわざるを得ない。被告の説明内容は事実に反するものや年休取得に関して損害のてん補を求める労働基準法136条に反するものにすぎない。
原告については、個人の成果査定が何ら合理的な理由なく下限か下限に近い乗率40%ないし50%と、不当に低くされているといわざるを得ない。
(被告の主張)
被告は、各評価対象期間における原告の業務遂行状況、勤務態度、その他諸般の事情を総合的に考慮して、原告の賞与に係る成果査定を決定したのであって、これが不合理で不法行為に当たるとの理由はない。
平成25年7月支給賞与の査定期間である平成24年10月1日から平成25年3月31日までの間、原告は、被告及び他の従業員に非協力的態度に終始し、積み込む荷物の仕分けが遅れていてもこれを手伝わなかったり、他の運行乗務職が行っている集配用車両から運搬用BOXへの荷物の積込み等を手伝わなかったりした。原告の所属グループ長が事故を起こしたとき、再発防止のために同僚らと意見交換すべきであるのに、同グループ長を執拗に非難した。
平成25年12月支給賞与の査定期間である平成25年4月1日から同年9月30日までの間、原告は、前記同様仕分けを手伝わなかった上、大型運行車両に乗務中に安全確認の実施という乗務における基本かつ重要な事項を怠り、他の車両を破損させる事故を起こした。原告に当面乗務を担当させることができず、荷物仕分作業を担当させた上、運行乗務復帰のための安全教育を施したが、真摯に取り組まず、平成25年5月22日ころ、仕分作業中に腰を痛めて欠勤した。
平成26年7月支給賞与の査定期間である平成25年10月1日から平成26年3月31日まで間、原告は、上記腰痛のためほとんどの期間欠勤し、出勤するようになった平成26年1月下旬以降も、大型運行車両の乗務に就くための復帰訓練を行っていたが、業務成果は上げていなかった。また、上司から訓練のための乗務を業務指示されてもこれに従わず、乗務できないのであれば仕分作業を行ってもらうこともあると説明されたことに対し、これを断り、非協力な対応をした。
平成26年12月支給賞与の査定期間である平成26年4月1日から平成26年9月30日までの間、原告は、特段評価されるべき取組みを行わず、従前どおり非協力な対応に終始し、交番勤務確定後に複数回欠勤し、被告において傭車手配をしなければならなくなり、被告に27万600円の損害を生じさせた。また、原告は、平成26年8月ころ、複数回業務が最も多忙な時間に業務の中心人物を時間的に拘束し、その業務に支障を生じさせ、同年9月17日頃、勤務交番に従わない姿勢を示し、職場規律を乱そうとした。
(3) 争点3(原告に対する被告のパワーハラスメントなどによる不法行為の成否)
(原告の主張)
被告は、これまでの経緯から、原告が被告の不正に敏感で、その不正を糺すための被告とのやり取りに過度なストレスを感じるとその精神的な影響から乗務にも支障が出ることを十分に知悉しながら、原告が被告の年休の計画的付与に関する誤りを指摘し、午後7時出勤を続けたことへの報復から、一旦は午後7時に出勤することを認めたのにこれを反故にし、原告に対し、1時間後に出勤することを強いる警告書を交付したもので、これは明らかにパワーハラスメント・嫌がらせによる不法行為に該当する。
(被告の主張)
被告は、指定された交番勤務を正当な理由なく拒否した原告に対し、雇用契約に基づく出勤命令を行うとともに、これに従わない場合の措置について予め警告したにすぎず、パワーハラスメントなどといわれるべき不法行為は存在しない。
(4) 争点4(原告の損害及びその額)
(原告の主張)
ア 賞与についての不法行為
(ア) 原告が申し立てた当庁平成25年(労)第33号労働審判事件(以下「先行事件」という。)において調停が成立しているが、同調停は、原告と被告の労働契約が存続することを前提とするものであるから、労働者の賃金請求権を除外したものであることは明らかである。したがって、労使慣行により請求権の認められる賞与に係る賃金請求権やそれを被告が侵害したことによる損害賠償請求権まで清算したものではない。
(イ) 本件提訴前の直近2年間に、原告に支給された賞与とその算出方法は以下のとおりである。
a 平成25年7月支給賞与 19万5310円
基本給14万5320円(時給840円×173時間)×支給月数2.688×成果査定0.5
b 平成25年12月支給賞与 19万4730円
基本給14万5320円×支給月数3.350×成果査定0.4
c 平成26年7月支給賞与 19万1100円
基本給14万5320円×支給月数2.630×成果査定0.5
d 平成26年12月支給賞与 23万6160円
基本給14万6960円(キャリア社員基本給表中の中級2等級2号俸D)×支給月数3.214×成果査定0.5
(ウ) 支給月数がマネージ社員と同一であるとした場合に支給されたであろう賞与は以下のとおりである(成果査定は100%=1.0とする。)。
a 平成25年7月支給賞与 40万9657円
基本給14万5320円×支給月数2.819
b 平成25年12月支給賞与 51万0509円
基本給14万5320円×支給月数3.513
c 平成26年7月支給賞与 40万0792円
基本給14万5320円×支給月数2.758
d 平成26年12月支給賞与 49万2316円
基本給14万6960円×支給月数3.350
(エ) 前記(イ)と(ウ)の差額である99万5974円が原告の損害となる。
(オ) なお、損害として、キャリア社員の賞与の算定方法において、原告の成果査定が100%であるとした場合に支給されたであろう賞与と原告に支給された賞与との差額は以下のとおりであり、その合計は91万4662円である。
a 平成25年7月支給賞与 19万5310円
基本給14万5320円×支給月数2.688×(成果査定1.0-0.5)
b 平成25年12月支給賞与 29万2093円
基本給14万5320円×支給月数3.350×(成果査定1.0-0.4)
c 平成26年7月支給賞与 19万1095円
基本給14万5320円×支給月数2.630×(成果査定1.0-0.5)
d 平成26年12月支給賞与 23万6164円
基本給14万6960円×支給月数3.214×(成果査定1.0-0.5)
イ パワーハラスメントなどによる損害
被告のパワーハラスメントにより、原告は甚大な精神的苦痛を被り、自殺まで考えるに至ったものであり、その甚大な精神的苦痛を慰謝するにあたっては少なく見積もっても50万円を下らない。
(被告の主張)
ア 原告と被告との間における平成25年12月17日までの事情は、先行事件の調停の清算条項により清算されており、平成25年7月支給賞与及び同年12月支給賞与の差額についての損害賠償は支払う必要がない。
イ 原告の主張する損害はいずれも争う。
第3当裁判所の判断
1 争点1(被告におけるマネージ社員とキャリア社員の賞与の支給方法の差異が労働契約法20条に反するか)について
(1) 前記第2の1の前提事実、証拠(証拠<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 被告において、マネージ社員は、「Y社に勤務する他の社員(キャリア、パート、アルバイト、委託、パートナーなどを含)をとりまとめ、管理」する(人事運用規程第3条)ことが求められ、「永年の功労に対して審査を行い、参事職に任命し、職務給への格付を行」い、「組織の必要性に応じ、役職に任命する」とされている(同第4条、書証<省略>)。
マネージ社員は、就業規則第17条により「会社は、業務上の必要により、転勤を命ずることがある。なお、転居をともなう職場異動は原則として行わない。ただし、役職配置上ならびに経営上特に必要とする場合はこの限りではない」とされ、業務命令により転勤することがある(書証<省略>)。平成25年から平成27年の宮城主管支店内において転勤があったマネージ社員は318名であり、a店でもマネージ社員は異動があった(証拠<省略>)。
マネージ社員は、就業規則第17条により「会社は、業務上の必要により、社員に担当変更、役職・役割の任免および変更を命ずることがある。」とされ、また、人事運用規程第4条3号により「社員(マネージ社員に限る)を組織の必要性に応じ、役職に任命する。」とされており、職務内容の変更、業務役職者及び経営役職者への昇進があり得る(書証<省略>)。平成25年度から平成27年度において、宮城主管支店所属のマネージ社員である運行乗務員は数名程度(宮城主管支所所属のマネージ社員は36名)が被告の業務命令により職務内容が事務職に変更され、240名が役割者以上に任命された(証拠<省略>)。
a店においても、マネージ社員は、大型運行車両の乗務に関し、自車で運行しなければならない路線を中心に担当し、キャリア社員を含む運行乗務職の労務管理、勤務交番表の作成、新入社員等の添乗指導、不測の事態が発生したときの乗務指示等を行っている(証拠<省略>)。
イ 被告において、キャリア社員は、キャリア社員雇用契約書により1年以内の期間を定めた雇用契約を締結し、雇い入れられた社員をいい、Y社(サービス業)の社員として社会的規範、企業理念にてらし、担当業務に対する自主的・自立的な行動ができ、業務遂行責任を担える社員であり、与えられた役割(エリア)のなかで個人の能力を最大限に発揮して個人や店の業績に応じて1年毎に処遇・契約される社員をいう(キャリア社員就業規則第2条、人事運用規程第3条、書証<省略>)。
キャリア社員の賃金は、(1)基本給、(2)業務インセンティブ、(3)その他手当(リーダー手当・地域手当・扶養手当・通勤手当・時間外労働手当およびその他の手当)であり(キャリア社員就業規則第48条、書証<省略>)、業務インセンティブについては、キャリア社員就業規則第49条により「業務インセンティブについては、日給月給項目とし、その計算基準についてはマネージ社員給与規程第15条に準ずる。」とされている(書証<省略>)。
キャリア社員の賞与は、「会社は営業成績に応じて賞与を支給することがある。この場合、受給資格者は賞与計算期間中の在籍者で、なおかつ、支給日在籍者とする。」とされているが、具体的な支給基準は定められていない(キャリア社員就業規則第56条、書証<省略>)。なお、マネージ社員の賞与も「会社は営業成績に応じて賞与を支給することがある」とされ、支給基準として、計算期間と受給資格者が定められているが、計算方法は労使協議の上、別に定めるとされている(給与規程第27条、書証<省略>)。
キャリア社員は、個別契約により勤務地及び職務が限定されているため、業務命令により全国各地の事業所に転勤することはなく、同一職務内における担当変更がありうるにすぎず、業務命令による職務内容の変更、業務役職者及び経営役職者への昇進はないとされている。これまで、a店における実績もない(証拠<省略>)。
ウ マネージ社員とキャリア社員の給与(基本給の時間単価)は同じであり、業務インセンティブ、リーダー手当、地域手当、扶養手当、通勤手当などの各種手当の支給基準も同一である(書証<省略>)。
エ 被告の人事総務部長から支社長に宛てた平成25年度中元賞与、同年度年末賞与、平成26年度中元賞与、同年度年末賞与の各査定依頼の件(書証<省略>)によれば、マネージ社員の業務役職者(支社マネージャー職)は支社長、副支社長が、業務役職者(ベース長・支店長・副ベース長・主管課長職)及び参事は主管支店長が、一般社員は所属長(業務役職者)が、キャリア社員は所属長(業務役職者)が賞与の査定者となる。マネージ社員の査定方法は、①1人あたり5万円を原資とし、ポイントによる加点評価する(1ポイント1000円)、②成果加算の70%を主管支店業績評価とし、30%を特別評価とするものとし、特別評価は、所属長が社員個々の期中重点実施項目(営業成果、サービス品質、効果的な集配等)を中心として多面評価し、5ポイントから55ポイントの間で個人毎の成果に基づき、店所の査定ポイントの範囲内(査定ポイント:15ポイント×在籍人数)で評価する、査定者(役職者)は、日常業務の管理監督を行っている役職者(センター長など)の意見を取り入れ評価を決定する、評価ポイントは必ず整数とし、個人毎の評価ポイントの合計は、所属人員(マネージ一般)×15ポイントの支店(管理店)合計に一致させるとされている。キャリア社員の査定方法はS1からB3までの評語にて査定するとされ、120%から40%までの乗率が定められ、成果に応じた絶対査定とするとされている。
オ 賞与の支給について
(ア) 平成25年度中元賞与支給について(書証<省略>)によれば、平成25年7月支給の賞与は、組合員一人平均56万3000円であり、支給月数は2.819ヶ月、支給方式は、①一般社員(基本給×2.819ヶ月)×配分率+(リーダー手当A×1ヶ月)+地域手当+成果加算、②参事(職務給×2.819ヶ月)+(参事手当×1ヶ月)+地域手当+成果査定、③業務役職(職務給×2.819ヶ月)+(役職手当×1ヶ月)+地域手当+成果査定とし、配分率はマネージ社員入社年月日を基本として、勤続2年未満の者に60%から90%の配分率を適用し、地域手当は、居住地区分に応じてⅠからⅦまでの地域手当を適用する。受給資格者は、賞与計算期間に在籍があり、かつ、賞与支給日に在籍の者で、賞与計算期間は、平成24年11月16日から平成25年5月15日までとする。一般社員の成果加算は一人当たり5万円を査定原資とし、加点評価する。成果加算の70%を主管支店業績評価とし、30%を特別評価とする。
キャリア社員の支給方式は、(基本給×支給月数)×配分率×成果査定+(リーダー手当A×1ヶ月)+地域手当であり、基本給は時給×173とし、支給月数は2.688ヶ月、配分率はキャリア社員入社年月日を基本として勤続3年未満の者について40%から90%の配分率を適用する。成果査定はS1からB3までの評語にて査定するとされ120%から40%までの乗率が定められている。地域手当はマネージ社員に準ずるとされる。
(イ) 平成25年度年末賞与支給について(書証<省略>)によれば、平成25年12月支給の賞与は、組合員一人平均68万円であり、支給月数は3.513ヶ月、支給方式は、①一般社員(基本給×3.513ヶ月)×配分率+(リーダー手当A×1ヶ月)+地域手当+成果加算、②参事(職務給×3.513ヶ月)+(参事手当×1ヶ月)+地域手当+成果査定、③業務役職(職務給×3.513ヶ月)+(役職手当×1ヶ月)+地域手当+成果査定とし、配分率はマネージ社員入社年月日を基本として、勤続2年未満の者に60%から90%の配分率を適用し、地域手当は、居住地区分に応じてⅠからⅦまでの地域手当を適用する。受給資格者は、賞与計算期間に在籍があり、かつ、賞与支給日に在籍の者で、賞与計算期間は、平成25年5月16日から平成25年11月15日までとする。一般社員の成果加算は従前どおりである。
キャリア社員の支給方式は、(基本給×支給月数)×配分率×成果査定+(リーダー手当A×1ヶ月)+地域手当であり、基本給は、時給×173、支給月数は2.688ヶ月、配分率はキャリア社員入社年月日を基本として勤続3年未満の者について40%から90%の配分率を適用する。成果査定はS1からB3までの評語にて査定するとされ120%から40%までの乗率が定められている。地域手当はマネージ社員に準ずるとされる。
(ウ) 平成26年度中元賞与支給について(書証<省略>)によれば、平成26年7月支給の賞与は、組合員一人平均56万円であり、支給月数は2.758ヶ月、支給方式は、①一般社員(基本給×2.758ヶ月)×配分率+(リーダー手当A×1ヶ月)+地域手当+成果加算、②参事(職務給×2.758ヶ月)+(参事手当×1ヶ月)+地域手当+成果査定、③業務役職(職務給×2.758ヶ月)+(役職手当×1ヶ月)+地域手当+成果査定とし、配分率はマネージ社員入社年月日を基本として、勤続2年未満の者に60%から90%の配分率を適用し、地域手当は、居住地区分に応じてⅠからⅦまでの地域手当を適用する。受給資格者は、賞与計算期間に在籍があり、かつ、賞与支給日に在籍の者で、賞与計算期間は、平成25年11月16日から平成26年5月15日までとする。一般社員の成果加算は従前どおりである。
キャリア社員の支給方式は、(基本給×支給月数)×配分率×成果査定+(リーダー手当A×1ヶ月)+地域手当であり、基本給は時給×173、支給月数は2.630ヶ月、配分率はキャリア社員入社年月日を基本として勤続3年未満の者について40%から90%の配分率を適用する。成果査定はS1からB3までの評語にて審査するとされ120%から40%までの乗率が定められている。地域手当はマネージ社員に準ずるとされる。
(エ) 平成26年度年末賞与支給について(書証<省略>)によれば、平成26年12月支給の賞与は、組合員一人平均66万円であり、支給月数は3.350ヶ月、支給方式は、①一般社員(基本給×3.350ヶ月)×配分率+(リーダー手当A×1ヶ月)+地域手当+成果加算、②参事(職務給×3.350ヶ月)+(参事手当×1ヶ月)+地域手当+成果査定、③業務役職(職務給×3.350ヶ月)+(役職手当×1ヶ月)+地域手当+成果査定とし、配分率はマネージ社員入社年月日を基本として、勤続2年未満の者に60%から90%の配分率を適用し、地域手当は、居住地区分に応じてⅠからⅦまでの地域手当を適用する。受給資格者は、賞与計算期間に在籍があり、かつ、賞与支給日に在籍の者で、賞与計算期間は、平成26年5月16日から平成26年11月15日までとする。一般社員の成果加算は従前どおりである。
キャリア社員の支給方式は、(基本給×支給月数)×配分率×成果査定+(リーダー手当A×1ヶ月)+地域手当であり、支給月数は3.214ヶ月、配分率はキャリア社員入社年月日を基本として勤続3年未満の者について40%から90%の配分率を適用する。成果査定はS1からB3までの評語にて審査するとされ120%から40%までの乗率が定められている。地域手当はマネージ社員に準ずるとされる。
(2) 検討
ア マネージ社員とキャリア社員は、格付、等級、号俸、業務区分が同じ場合、基本給(時間単価)、業務インセンティブ、各種手当は同一であるが、賞与の支給方法に違いがあるところ、原告は、これは労働契約法20条に反する不合理な労働条件の相違であると主張する。
イ 労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨の規定であるところ、有期契約労働者と無期契約労働者との間の労働条件の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、労働契約法20条に列挙されている要素を考慮して「期間の定めがあること」を理由とした不合理な労働条件の相違と認められる場合を禁止するものであると解される。そして、不合理な労働条件の相違と認められるかどうかについて、同条は「職務の内容」即ち「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」及び「職務の内容及び配置の変更の範囲」と「その他の事情」を考慮要素とする旨規定している。
ウ 前記(1)のとおり、マネージ社員は、被告に勤務するキャリア社員等の他の社員をとりまとめ、管理することが求められ、永年の功労に対して審査を行い、参事職に任命し、職務給への格付を行い、組織の必要性に応じ、役職に任命するとされているのに対し、キャリア社員は、与えられた役割(支店等)の中で、個人の能力を最大限に発揮することが求められている。
マネージ社員は、経営に関与する役職(経営役職者、業務役職者)に就くことがあり得、a店においても、大型運行車両の乗務に関し、自車で運行しなければならない路線を中心に担当し、キャリア社員を含む運行乗務職の労務管理、勤務交番表の作成、新入社員等の添乗指導、不測の事態が発生したときの乗務指示等を行っている(証拠<省略>)。
エ 前記(1)のとおり、マネージ社員は、業務命令により転勤することがあるが、キャリア社員は、個別契約により勤務地が限定されているため、業務命令により全国各地の事業所に転勤することはないとされている。
また、前記(1)のとおり、マネージ社員は、業務上の必要により、社員に担当変更、役職・役割の任免及び変更を命ずることがあると定められ、組織の必要性に応じ、役職に任命すると定められており、職務内容の変更、業務役職者及び経営役職者への昇進があり得ることとされているが、キャリア社員は、個別契約により職務が限定されているため、同一職務内における担務変更があり得るにすぎず、業務命令による職務内容の変更、業務役職者及び経営役職者への昇進はないとされている。
上記のとおり、マネージ社員とキャリア社員との間には、ともに運行乗務業務に従事している場合、その内容及び当該業務に伴う責任の程度は同一といえる(ただし、前記(1)のとおり、大型運行車両の乗務に関し、自車で運行しなければならない路線を中心に担当し、キャリア社員を含む運行乗務職の労務管理、勤務交番表の作成、新入社員等の添乗指導、不測の事態が発生したときの乗務指示等を行うマネージ社員もいる。)が、マネージ社員に期待される役割、職務遂行能力の評価や教育訓練等を通じた人材の育成等による等級・役職への格付等を踏まえた転勤、職務内容の変更、昇進、人材登用の可能性といった人材活用の仕組みの有無に基づく相違があり、職務の内容及び配置の変更の範囲には違いがあり、その違いは小さいものとはいえない。
そして、被告のマネージ社員とキャリア社員の賞与の支給方法の違いは、支給月数と成果査定の仕方にあるところ、支給月数の差はマネージ社員より基本給が高いキャリア社員の所定労働時間比率を乗じることによって、格付、等級、号俸、業務区分が同じ場合のマネージ社員とキャリア社員の基本給と支給月数を乗じた賞与算定の基礎金額を同一にしようとしたものであり、またその支給月数の差も格別大きいとはいえないことからすれば、そのことだけで不合理な差異であるということはできない。また、前記のとおり、査定方法のマネージ社員とキャリア社員の職務の内容及び配置の変更の範囲、具体的には転勤、昇進の有無や期待される役割の違いに鑑みれば、長期的に見て、今後現在のエリアにとどまらず組織の必要性に応じ、役職に任命され、職務内容の変更があり得るマネージ社員の一般社員について成果加算(参事、業務役職は成果査定)をすることで、賞与に将来に向けての動機づけや奨励(インセンティブ)の意味合いを持たせることとしていると考えられるのに対し、与えられた役割(支店等)において個人の能力を最大限に発揮することを期待されているキャリア社員については、絶対査定としその査定の裁量の幅を40%から120%と広いものとすることによって、その個人の成果に応じてより評価をし易くすることができるようにした査定の方法の違いが不合理であるともいえない。
オ さらに、各期の賞与は、その支給方式も含め、b労働組合との協議のうえ定められている(書証<省略>、弁論の全趣旨)。平成26年度12月賞与については、原告が加入する労働組合からも意見を聞き、支給月数及び配分率について合意している(書証<省略>)。
カ 以上によれば、被告におけるマネージ社員とキャリア社員の賞与の支給方法の差異は、労働契約法20条に反する不合理な労働条件の相違であるとは認められない。
2 争点2(原告に対する賞与の個人査定が不当に低すぎるか)について
(1) 前記第2の1の認定事実、証拠(証拠<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。
ア 原告と被告との間で、遅くとも平成13年3月1日に本件労働契約が締結され、その後1年毎に更新されている。
キャリア社員雇用契約書兼労働条件通知書(書証<省略>)には、契約期間は1年間とされ、就業の場所はa店、従事業務内容は乗務、勤務時間は年間所定2076時間、始終業時刻については、1ヶ月単位の変形労働時間制とし、次の勤務時間(標準)をもとに、勤務交番表により定める、とされ、基本賃金、業務インセンティブ、その他手当のほか、賞与は営業成績、契約内容により支給することがあると定められている。
賞与の査定者は所属長であり、a店においては、ベース長であるBが、各グループ長の意見を聞いている副ベース長の意見を聞いて査定をしていた(証拠<省略>)。
イ 原告は、a店において運行乗務に従事していたところ、a店においては、運行乗務職が乗務するコースは23コースあり、それぞれのコースを、日勤グループ、関東内回りグループ、関東外回りグループ、東北グループが担当し、東北グループの運行コースは、①山形トライ、②福島トライ、③岩手1、④岩手2、⑤岩手3、⑥新潟差替え、⑦栃木差替え、⑧ミッドナイト便の8コースがあった(書証<省略>)。
ウ 原告は、グループ長のCに下げ荷の手伝いをするなと言われたことがあり、以来、下げ荷の手伝いを断るようになった(書証<省略>)。
原告は、トラックの積込みである揚げの作業は行っていたが、仕分け作業の応援をしていなかった(証拠<省略>)。
原告は、平成25年2月に事故を起こしたグループ長を責めることがあった(証拠<省略>)。
エ 原告は、平成25年4月22日から23日の乗務中、駐車させようとして左側ミラー、バックモニターをよく確認しなかったため、運転車両の左後部を駐車車両の右前部に接触させるという物損事故を発生させ、降車処分となった(書証<省略>)。
原告は、運行乗務復帰のための安全教育期間とされ、荷物の仕分作業を担当させられたが、同年5月22日、作業中に腰を痛めたとして欠勤し、平成26年1月20日まで公傷期間となった(書証<省略>)。
オ 原告は、平成25年8月12日、被告に対し、原告の降車処分による減収分及び慰謝料を求めて先行事件である労働審判を申し立て、次のとおり調停が成立した(書証<省略>)。
(ア) 被告は、原告が診断書を添えて腰痛の完治を申し出たときは、原告と面談し、乗務中における集中力の欠如等の問題が解消されたことを確認したうえ、必要な教育等適正な手続をとり、乗務の適否を判断するものとし、その安全が確認された場合は、原告を乗務させる。なお、上記教育等の手続に要する期間は1.5か月を目途とし、原告の健康状態等の事情により、その期間が短縮又は伸張されることがある(第1項)。
(イ) 被告は、原告に対し、原告が本申立をしたこと及び今後正当な組合活動を行う場合において、それらを理由として、不利益な取扱いをしない(第2項)。
(ウ) 原告は、その余の本件申立に係る請求を放棄する(第4項)。
(エ) 原告と被告は、原告と被告との間には、本調停条項に定めるもののほかに何らの債権債務がないことを相互に確認する(第5項)。
カ 原告は、平成26年1月27日に復帰訓練が開始されたが、同年2月13日、整備不良車での運行指示であり、翌14日は運行できる精神状態でないとして年休を取得した(証拠<省略>)。また、同月13日、係長が原告に対し、荷物仕分作業の指示をしたところ、原告は作業を拒否した(書証<省略>)。
キ 原告は、平成26年2月26日以降考えごとがあって眠れないとして、同年3月10日から復帰訓練として乗務するようになるまでの間、乗車業務に就かないことがあった(証拠<省略>)。
ク 原告は、Dから、平成26年3月13日、夜間勤務の復帰が許可され、就業規則等を遵守する、従業員としての品格、人品の向上に努める、会社に損害を与えたときには規定に準じた賠償責任を負う、職場環境の改善に取り組むことのほか悩みがあって運行に集中できない場合には運行管理者に申し出て運行しない旨の誓約書を記載した。同月17日からツーマンでの運行乗務を開始し、同月20日から完全に復帰した(書証<省略>)。
ケ 原告は、乗車復帰後も、荷物仕分作業に協力しなかった(証拠<省略>)。
グループ長が原告の乗務する車両にメール便の仮置きをしたところ、原告は、同人に対し、最も業務が繁忙な時間帯に執拗にクレームを言った。また、同様に、車両の不具合が修理されていないと、繁忙な時間帯に副ベース長にクレームを言った(証拠<省略>)。
また、原告は、同年5月27日、7月30日、9月12日、19日、24日に突発的に有給休暇を取得した。この際の代車傭車費用は約26万円であった(証拠<省略>)。
原告は、Bに対し、同年7月度交番から新潟便だけを運行しており、自分にはトライアングル便を含めないでほしいと申し向けていたところ、Bが、平成26年10月の交番で、午後5時30分に出勤して山形トライアングル便に乗務することを命じたところ、これを拒んだ(書証<省略>)。
(2) 検討
ア 賞与における成果査定については、使用者がその経営方針に基づき諸般の事情を総合考慮して行うものであり、使用者に広範な人事裁量権が認められるところ、査定が事実誤認に基づくものであるとか、恣意的なものであるなど人事裁量権の範囲を逸脱し、これを濫用したと認められる場合に限って違法となるものといえる。
そして、査定は当該労働者の勤務状況や勤務態度のみならず自発性、協調性等を含めてなされるものであって、どの要素を重視するか、どのような手続で査定を行うかについても使用者は広範な裁量を有していると解することができる。
イ 被告において、運行乗務員として評価される内容は、安全面(無事故を継続すること等)、品質面(積荷破損事故を減少させること等)、コスト面(大型運行車両の維持費を減少させること等)、宅急便センターへの支援及び指導(大型運行車両出社時刻の厳守に関する支援・指導等)、その他自主的に取り組んだ事項等である原告の評価の基礎とする事実であり(証拠<省略>)、ベース長であるBは、原告の業務遂行状況、勤務態度及び店所の収支状況等を総合的に判断して査定していたところ、各賞与の査定において、斟酌した事情及び個人査定の乗率は以下のとおりである。
(ア) 平成25年7月賞与について
査定期間は平成24年10月1日から平成25年3月31日までである(書証<省略>)。
前記(1)のとおり、原告は、トラックの積込みである揚げの作業は行っていたが、仕分け作業の応援をせず、センター支援を行わなかった。
原告は、事故を起こしたグループ長を執拗に責め、同僚の安全運行支援とは反対の行動をとった。
原告の賞与の成果査定における乗率は50%(B2)となった。
(イ) 平成25年12月賞与について
査定期間は、平成25年4月1日から同年9月30日までである(書証<省略>)。
前記(1)のとおり、原告は、平成25年4月22日から23日の運行乗務中、物損事故を発生させて降車処分となり、安全教育期間に担当させられた荷物の仕分作業中に腰を痛め、査定期間中欠勤した。
原告の賞与の成果査定における乗率は40%(B3)となった。
(ウ) 平成26年7月賞与について
査定期間は、平成25年10月1日から平成26年3月31日までである(書証<省略>)。
原告は、腰痛のため平成26年1月26日まで欠勤した。
原告は、同年1月27日に復帰訓練が開始されたが、同年2月14日整備不良車での運行指示であるとして運行業務に就かなかった。同年2月26日以降考えごとがあって眠れないとして、乗車業務に就かなかった。係長からの作業指示に対し、運行課の仕事でないとして仕分作業を拒否した。
査定期間中のa店の店所業績は、目標値を約1200万円下回り、個人業績も振るわなかった(書証<省略>)
原告の賞与における成果査定の乗率は50%(B2)となった。
(エ) 平成26年12月賞与について
査定期間は、平成26年4月1日から同年9月30日までである(書証<省略>)。
原告は、大型車両の運転以外行わず、荷物仕分作業にも協力しなかった。
最も業務が繁忙な時間に執拗にクレームを言ってグループ長や副ベース長の時間を拘束した。
同年5月27日、7月30日、9月12日、19日、24日に突発的な欠勤があり、代車傭車費用約26万円を生じさせた。
原告は、勤務を命ぜられた山形トライアングル便の乗務を拒んだ。
査定期間中のa店の店所業績は、目標値を約8000万円下回り、賞与原資が十分確保できない状況であった(書証<省略>)
原告の賞与における成果査定の乗率は50%(B2)となった。
ウ 原告は、キャリア社員の賞与について評価基準や評価項目も何ら明確化されたものは存在せず、乗務しているかどうか事故を起こしているかどうかにかかわらず低いことの説明もつかないと主張する。
被告におけるキャリア社員の賞与における個人査定の方法は、総合的なものであり、マネージ社員の査定のように主管支店業績評価と特別評価の区別や期中重点実施項目を中心とした多面評価とする査定ポイントによる成果評価が定められていたものではないが、前記のとおり、使用者である被告には、賞与の査定において広範な裁量が認められていることからすれば、被告が、仕分け作業等他業務への応援やセンターに対する支援といった協調性を査定において重視すること自体は不合理であるとはいえない上、その基礎となる事実に誤認があるとはいえず、業務に就けない期間を含んでいても労災事故による公傷期間であることを斟酌して査定をしたとすれば、そのような査定の結果が必ずしも恣意的で不合理であったとまではいえない。また、マネージ社員とキャリア社員の賞与支給方法の差異が不合理であるとはいえないことについては前記1のとおりであるが、前記イ(ウ)(エ)のとおり、a店において、Bがベース長であった間、店所業績が目標値を下回るなど業績がよくない期があり、運行業務のキャリア社員の査定の乗率は100%を超えている者はおらず、平均すると60%ないし70%であり、40%ないし50%の者も1人か2人程度はいたこと(証拠<省略>)からすれば、原告の評価・査定が低すぎて不当であるとも認められない。
これらの事情からすれば、被告における原告に対する査定が人事裁量権を逸脱し、これを濫用したものであるとまでは認められない。
3 争点3(原告に対する被告のパワーハラスメントなどによる不法行為の成否)について
(1) 証拠(証拠<省略>)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
ア 原告は、午後7時(19時)出勤から午前5時30分退勤の10.5時間拘束、休憩1時間の9.5時間勤務を申し出たが、午後5時30分(17時30分)出勤設定の運行コース(岩手、山形トライアングル、郡山トライアングル)を午後7時(19時)出勤で運行させることは業務に支障を来すためできないとのことであったため、平成26年7月度交番から午後7時(19時)出勤で新潟便を運行していた。同年8月度と9月度には福島トライアングル便、山形トライアングル便にも乗車したが、トライアングル便は含めないでほしいとの申し入れをしていた(証拠<省略>)。
原告は、平成26年10月度の交番表を渡されたところ、同交番表で山形トライアングル便の乗務が7日間予定されていたため、これを拒絶した(証拠<省略>)。
イ 原告の所属するc労働組合の執行委員長は、平成26年9月17日付けで被告代表者及びD宛に緊急団体交渉申し入れ書を交付した(書証<省略>)。
ウ Dは、これまでの経過から、原告が同月18日の山形トライアングル便に乗車しないことが予測できたため、顧問弁護士に相談の上、警告書(書証<省略>)を作成した。Dは、同月18日、原告宅を訪問し、午後4時30分ころ、原告の妻に同警告書を預けた(書証<省略>)。
原告は、同日午後6時30分頃出勤し、山形トライアングル便に乗車した。
(2) 原告は、Bが午後7時(19時)出勤を許可したにもかかわらず、被告が突然警告書を原告に交付したことが不法行為に該当すると主張する。しかしながら、前記(1)認定事実によれば、原告の所属労働組合が、原告の労働時間及びルートを変更したスケジュール表を交付したことについて団体交渉の申入れをしており、原告に午後7時(19時)出勤及び新潟便の担当が許可されていたとは認められないし、原告は、新潟便だけを運行しており、Bにトライアングル便を混ぜないでほしいと申し入れたと陳述する(書証<省略>)一方、トライアングル便の運行を拒否したのではなく、出勤時間を午後7時(19時)にしてほしいと言っただけであると述べる(人証<省略>)とともに、交番表では平成26年9月18日は山形トライアングル便を運行することになっているが、自分は午後7時に出勤して新潟線に乗るつもりであったとも述べており(人証<省略>)、その供述は変遷している上不合理で、他の証拠とも整合せず、信用できない。したがって、Bが原告に午後7時(19時)出勤を許可していたという原告の主張は採用できない。
原告は、交番表どおりの山形トライアングル便の乗務を拒否していたことが認められ、山形トライアングル便の運行及びそれに伴う午後5時30分(17時30分)出勤を命ずる業務命令に従わない原告に対し警告書を交付する行為について不法行為が成立するとは認められない。
4 以上によれば、被告の賞与支給における不合理な差別及び不当な個人査定による不法行為及び原告に対し警告書を交付したことについてパワーハラスメントなどによる不法行為はいずれも認められない。
第4結論
以上のとおり、原告の請求は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 髙取真理子)