大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

仙台地方裁判所 平成3年(モ)1496号 決定 1991年12月16日

申立人(被告) 株式会社 七十七録行

右代表者代表取締役 村松巖

右訴訟代理人弁護士 三島卓郎

相手方(原告) 甲野太郎

主文

相手方は、この決定の送達の日から一四日以内に担保として五七五万八五〇〇円を供託しなければならない。

理由

第一申立ての要旨

相手方は、申立人に対し、平成三年六月二七日に開催された申立人の第一〇七回定時株主総会における第二号議案の定款一部変更の件のうち、

「(相談役)第二一条 当銀行は、取締役会の決議により、相談役若干名を置くことができる。」との規定を新設する決議の取消しを求める訴えを提起したが、相手方の右訴えは、右決議に瑕疵が存在しないにもかかわらず、相手方が申立人を害するため悪意をもって提起したものであるから、申立人は、右訴えの提起によって申立人が被る損害を担保するための十分な担保を一定期日までに供託するよう命じる裁判を求める。

第二当裁判所の判断

一  相手方の悪意

記録(申立人の提出した疎明資料等を含む。)によると、以下の事実を一応認めることができる。

1  当事者

(1) 申立人は、資本金二四三億二五六三万五九三六円、発行済株式の総数三億八二六三万五八八一株の銀行である。

(2) 相手方は、申立人の単位株未満(一単位の株式の数一〇〇〇株)の株主であったところ、平成二年九月一四日に申立人の株式二〇〇〇株について名義書換えをした申立人の株主である。

2  相手方が本件訴えで主張する決議取消事由

相手方は、平成三年八月九日、平成三年六月二七日に開催された申立人の第一〇七回定時株主総会における第二号議案「定款一部変更の件」のうち、「(相談役)第二一条 当銀行は、取締役会の決議により、相談役若干名を置くことができる。」旨の規定を新設することを承認する決議の取消しを求める訴えを当裁判所に提起したが、相手方の挙げる決議取消事由は次のとおりである。

(1) 議長が株主の発言、質疑を不当に制限したもとで行われたものであり、著しく不公正な議事運営をした結果得られたものである。

(2) 株主に対する取締役の説明義務を怠ったまま決議されたものである。

(3) 本総会の議長は、定款の定めるところにより、頭取である佐藤智義雄がこれに当たったが、議案提出者でもあり、説明者でもあることから、議長として期待される公正な議事運営をすることなく、その恣意甚だしく議事の運営を図ったものである。

(4) 決議の内容である、相談役の設置が、取締役の中から置かれるのであれば、明らかに役付取締役であり、定款にある「(役付取締役)第二〇条 当銀行に取締役会の決議をもって会長、頭取、副頭取各一名、専務取締役、常務取締役各若干名を置くことができる。」とする規定の中にも表示されるべきであるのにこれを欠き、また、その職務権限についても、取締役との関係を定款に明示すべきであるのに、何らこれを示していない。このことは、決議の内容が定款に違反する結果となっていることを示している。

3  本件訴え提起に至る経緯

(1) 相手方は、申立人銀行に昭和二二年三月に入行し、昭和五八年八月に依願退職したが、昭和五〇年三月から退職するまでの八年六か月は、庶務部(管財課)に在籍していた。

(2) 相手方は、申立人銀行庶務部在籍中の昭和五一年三月と五八年六月の二回にわたり、自己の処遇に対する不満から、取締役頭取又は取締役会会長であった氏家榮一現取締役相談役あてに投書し、経営陣に対する不穏当な誹謗、中傷を繰り返した。

(3) 相手方は、昭和五八年八月三一日、右投書に対する注意と同年九月一日付の気仙沼支店への転勤命令を不服として申立人銀行を退社した。

(4) 相手方は、申立人銀行退職後に不動産業を始め、平成元年五月ころから申立人の湊支店隣接地を申立人に買い取らそうとしたが条件が折り合ず、平成三年八月八日には不動産会社社長を通じて申立人に右物件の買取りの要請をしたため、申立人が相手方に適正な価格の再提示を求めたところ、相手方は、その翌日に本件訴えを提起した。

右の相手方の主張する決議取消事由と本件訴え提起に至る経緯とを合わせ考慮すると、相手方の本件訴え提起の目的は、株主の正当な利益を保護するための権利行使ではなく、申立人を困惑させて在職中の処遇に対する不満や、土地取引をめぐる相手方の態度に対する不満を晴らすことにあったことが推認できる。したがって、本件訴えの提起は、商法二四九条二項において準用する同法一〇六条二項の「悪意」に出たものであると認められる。

二  申立人の損害

申立人提出の疎明資料によると、本件訴えの提起により申立人に次の損害が生ずるものと一応認めることができる。

1  公告費用 四五万八五〇〇円

申立人は、相手方が本件訴えを提起した結果、商法二四七条二項において準用する同法一〇五条四項の規定による公告をし、その費用として四五万八五〇〇円を支出したことを認めることができる。

2  弁護士費用 五〇〇万円

申立人は、本件訴えに応訴するため、弁護士三島卓郎に対し訴訟代理を委任しているが、事案に照らし、弁護士報酬は、五〇〇万円と見込まれる。

3  訴訟追行のための雑費 三〇万円

本件事案の性質からすると、申立人は、訴訟の進行に伴って発生する文書の作成費用、交通費等の雑費として、少なくとも三〇万円の支出をしなければならないものと認められる。

(裁判官 六車明)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例