仙台地方裁判所 平成3年(ワ)1059号 判決 1998年10月22日
原告
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
舟木友比古
被告
国
右代表者法務大臣
中村正三郎
右指定代理人
伊藤繁
外一三名
主文
一 被告は、原告に対して、金五万円及びこれに対する平成三年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告の、その余を被告の各負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金三〇〇万円及びこれに対する平成三年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が徳島刑務所及び宮城刑務所において受刑中、種々の違法行為を受けたとして、国家賠償法に基づく損害賠償請求を行った事案である。
第三 当事者の主張
一 請求原因
1 原告
原告は、昭和六二年三月から平成二年五月まで、徳島刑務所において(ただし、昭和六二年九月から翌六三年一月までの間、鼻中隔弯曲症の手術、治療のため八王子医療刑務所に移監されていた。)、その後の平成二年五月、宮城刑務所に移監され、刑の執行を受けていた者である。
2 徳島刑務所における違法行為
(一) 休息、休憩時間のはく奪、短縮
(1) 徳島刑務所においては、午前、午後各一回一五分ずつの休息時間と、四〇分の昼食・休憩時間(以下「休息時間等」という。)が定められているが、運動及び入浴の一部を休息時間等に実施している。
(2) さらに、徳島刑務所における実際の各休息時間は、約五分に過ぎず、加えて、その五分においてすら、用便の待機のために直立不動の姿勢を強制されていた。
また、その昼食・休憩時間についても、実際にはせいぜい二〇分しか与えられていなかった。そして、受刑者の数に比して便器の数が少ないため、その二〇分のうち、用便の順番待ちにかなりの時間を要した。
このような休息時間等の短縮は、作業時間確保のために受刑者の健康を犠牲にするものであるから、現在の社会通念、監獄法、労働基準法及び国際法規、殊に被拘禁者処遇最低基準規則(以下「最低基準規則」という。)に照らしても合理性がなく、違法である。
(二) 鼻炎手術の拒否
(1) 原告は、徳島刑務所入所の際、肥厚性鼻炎と診断され、治療薬プリビナの投与を受けていたが、改善しなかったため、昭和六二年五月に徳島大学医学部附属病院で診察を受けたところ、鼻中隔弯曲症による肥厚性鼻炎であり、保存的治療による症状の軽減は望まれないため、鼻中隔矯正術が望ましいとの診断がなされた。そこで、原告は、八王子医療刑務所に移監され、同年一二月、右下甲介切除術がなされた。しかしながら、その後も原告の症状は一向に改善されなかったため、徳島刑務所への移監後、原告は、再度の手術の施行を申出、平成元年四月一三日、徳島大学医学部附属病院で診察を受けた。
(2) ところが、原告を右病院へ連行した係官は、特定の医師を指名した上、同医師において、原告の鼻の奥をピンセットで突き、原告がくしゃみをしたところ、他の検査を行うことなく、即座にアレルギー性鼻炎であると診断した。
右行為は、原告の再度の手術の希望を断念させるため、徳島刑務所が、右医師と通謀して、本来なされるべき抗原検査等を行わずに、右昭和六二年五月における同病院の診断とは異なる虚偽の診断を行わせたものであり、これにより、原告は、正当な理由なく肥厚性鼻炎の苦痛を受け続けることになった。
(三) 看守の暴行
(1) 原告は、平成元年一一月一〇日午後三時ころ、徳島刑務所第三工場において、受刑者であり、ともに作業に従事していたAと喧嘩となり、さらに他の受刑者三人がAに加勢し、原告ともみ合いになったが、間もなく看守によって制圧された。
(2) その後、原告は、約二〇名の看守によって制圧されたのであるが、看守から腕をねじり上げられ首筋を押さえられて顔が床に付くような、刑務所関係者が「飛行機」と称する姿勢のまま、数メートル突き飛ばされて作業台に頭を打った。その上、原告は、看守から靴と膝で腰部、臀部、胸部等を蹴り上げられた。
さらに、その後、原告は、右工場から保安課に連行されたが、その途中においても、看守から蹴られ続けた。
3 宮城刑務所における違法行為
(一) 黙想の強制
宮城刑務所においては、受刑者は、各自の部屋を出ると、作業、運動、歩行等を行っていない時には、ほとんど黙想するよう強制されていた。また、工場内において、監督者巡回の際に看守が報告を行う時、受刑者が規律違反などにより連行され他の受刑者とすれ違う時にも、黙想を強制されていた。
しかしながら、黙想は本来敬虔な宗教的行為であり、その強制について、法律上の根拠は見当たらず、何らの合理性もないのであるから、受刑者の目の開閉まで強制するのは、被告の施設管理権限を逸脱した違法行為である。
(二) 異常動作の強要
宮城刑務所においては、受刑者は、行進の際、腕及び指先を肩の高さまでまっすぐに伸ばし、足を腰の高さまで上げて歩行するいわゆる軍隊行進をするよう訓練強制されていて、その訓練が他の刑務所に比べ異常である上、右態様の歩行を、休息時間等においてすら強要していた。
右訓練には何らの合理性がない上、刑務所における管理の目的は受刑者の改善更生にあるところ、右訓練は、通常人とは異なる歩行方法を強制するものであり、右更生目的に反しかえってそれを阻害するものであるから、右訓練強制は違法である。
(三) 休息、休憩時間のはく奪、短縮
宮城刑務所においては、徳島刑務所と同様に、午前、午後各一回一五分ずつの休息時間と、四〇分の昼食・休憩時間が定められているが、これは運動及び入浴に要する時間を含めたものであり、さらに、これらの休息時間等は常に削られており、その短縮に合理性がなく、違法である。
(四) 発信の制限
(1) 宮城刑務所においては、受刑者の外部への発信について、発信受付日を設けている。
(2) 同刑務所は、右のような制限を設けているほか、例外的に発信を許可する場合にも、その手続が煩雑である。
受刑者には外部交通権が存在するのに、このような制限を行う合理性がない。
(五) カーボン紙の使用制限
(1) 原告は、新宿警察署宛に押収品の還付請求申立書を提出した際、複写用のカーボン紙の購入を願い出たところ、宮城刑務所長は、平成二年八月一五日、その購入を許可しなかった。
(2) しかし、右カーボン紙の使用制限を行う合理性はない一方、受刑者には外部交通権が存在する上、原告が右願い出をしたのは、右請求書の控えを保管しておくためとの正当な理由があった。
(六) 領置金送金の制限
(1) 原告は、平成二年一〇月ころ、自己の領置金から一〇万円を海渡弁護士に対して送金したい旨願い出たところ、宮城刑務所長は、これを許可しなかった。
(2) 右領置金送金の制限については合理性がない一方で、受刑者には、外部交通権が存在する上、原告が右願い出をしたのは、自己の財産保全について法律相談を依頼するためとの正当な理由があった。
(七) 用便の禁止
宮城刑務所は、次のとおり、本来制限されるべきでない生理現象について不当な制限を行い、さらに、原告がこれに反したとして不利益処分をしているものであって、違法である。
(1) 原告は、平成二年ころの午後九時半ころに用便したところ、用便禁止時間帯の指示に違反したとして、テレビ、映画鑑賞停止一か月の処分を受けた。
(2) 原告は、平成三年一月二六日、講堂でのビデオ鑑賞に参加した際、尿意をもよおし、耐えられなくなったため看守に対し用便させてくれるよう求めたが、看守は、これを認めなかった。その後、原告の尿が漏れ始めたため、看守は、原告をその部屋まで連行して用便をさせ、その後保安課に連行して取調べを行った。
(八) 懲罰権の濫用
(1) 節水指示違反
原告は、平成三年二月一〇日、コップを使わずに水道水を口に含みうがいをしたことを理由として、懲罰(作業賞与金五〇〇円減削)に処された。
(2) 残飯投棄
原告は、同月二三日、残飯投棄をしたことを理由として、懲罰(軽屏禁七日、閲読禁止処分)に処された。
(3) 作業中のよそ見
原告は、同年一二月四日、作業中よそ見をしたことを理由として、懲罰(叱責)に処された。
これらの違反事由は、いずれも極めて軽微なものであって、右懲罰権の行使は、均衡を失し、濫用である。殊に、右(2)の残飯投棄に対し、軽屏禁七日、閲読禁止処分というのはあまりにも重く、違法である。
(九) 連行態様の逸脱
宮城刑務所においては、その必要性がないのに、再三、二名の看守が、原告を取調べのため保安課に連行し、原告の両腕を制圧するなどの暴行を加えていた。
(一〇) 昼夜独居拘禁
原告は、平成三年一〇月九日、よそ見をしたとして取調べを受けたが、証拠不十分として不処分になった。
その際、原告は、あらぬ嫌疑をかけられたとして立腹したところ、その態度を理由として、同月一八日、昼夜独居拘禁(いわゆる厳正独居)処分に付されたが、右処分は、単に受刑者と場所的に分離されるのみならず、作業内容、余暇活動、累進級及び仮出獄において不当に冷遇されるものであるから、原告を右処分に付したことそれ自体が違法である。
(一一) 独居拘禁の際の違法処遇
(1) 原告は、右(一〇)の昼夜独居拘禁に付されてからは、独居拘禁者専用の運動場(以下「本件運動場」という。)で戸外運動をした。
(2) 右運動場は、ほとんど日照がないため、原告は、日照権を侵害されるとともに、視力の低下など、著しい健康上の被害が生じた。
独居拘禁に付された場合、一般受刑者と戸外運動の方法や態様まで差別されるべき合理的理由はなく、明らかに違法である。
(一二) 訴訟妨害
(1) 宮城刑務所においては、訴訟書類を作成する場合に、書類ごとに「認書願」という特別の願箋を提出しなければならず、その作成期間についても期限を設けている。
(2) そして、原告は、本件訴訟を提起し種々の訴訟書類を作成する際、一つ書類を作成する度に「領置願」を提出し、罫紙、カーボン紙を取り上げられ、次の書類を作成する際には、再び「認書許可願」、「下付願」を提出し、許可を得た上で書類作成を続行することになった。現に、原告は、本件訴訟継続中、既に七〇枚の「願」を提出している。
これは、原告の訴訟活動に対する違法な制限である。
4 損害
以上の被告の一連の違法行為により、原告は、別紙請求金額一覧表記載のとおり合計三〇〇万円の損害を被った。
5 結論
よって、原告は、被告に対し、国家賠償法一条一項に基づき、右損害合計額三〇〇万円及びこれに対する不法行為以後の日であり、訴状送達の日の翌日である平成三年一一月三〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(原告)は、認める。
2(一) 同2(徳島刑務所における違法行為)(一)(休息、休憩時間のはく奪、短縮)のうち、(1)は認め、(2)は争う。
刑務作業中の休息時間等については、在監者の作業時間を定める訓令(昭和六一年三月二〇日付け法務省矯作訓第五三四号)により、一日の作業時間を八時間とし、作業時間の中間に置く給食等のための時間(休憩時間)として、一日につき四〇分、休息時間として、作業の性質上適当と認める場合には、作業中に、一日につき合計三〇分以内に限り認めることと定められ、この範囲内で具体的な休息時間等をどのように配分するかについては、各施設の長の裁量に委ねられている。
そして、休息時間等は、就業の疲労回復、作業能率の増進及び作業災害の防止を目的としているところ、運動及び入浴はこれらの目的と合致することから、休息時間等の一部を運動及び入浴に充てることは当然許される。
また、徳島刑務所においては、休息時間には受刑者を食堂内のいすに座らせ、湯茶を給与し、談話をさせ、順番に用便に行かせている。なお、用便のため便所で順番を待つ者については、その順番で受刑者間に争いが生じることを防止し、かつ、少数の看守で戒護する必要から、整然と整列させているが、直立不動の姿勢で待機させていることはない。
さらに、懲役作業に労働基準法の適用はない。
(二) 同(二)(鼻炎手術の拒否)のうち、(1)は認め、(2)は争う。
原告は、平成元年四月一三日の徳島大学医学部附属病院での診断では、「鼻中隔弯曲症・アレルギー性鼻炎」と診断され、「鼻中隔は右に弯曲しているが、左鼻腔通気度は良好、現在急いで鼻中隔の手術をする必要性は認められない。」との診断結果が得られ、それに基づいて投薬等適切な処置がなされるとともに、経過観察が行われたものであり、徳島刑務所において、虚偽の診断を働きかけたような事実はない。
(三) 同(三)(看守の暴行)のうち、(1)は認め、(2)は争う。
原告とAのもみ合いに際し、受刑者であるB及びCがAに加勢して原告を殴打し、さらにもみ合う形となったことから、看守らは、A、B及びCを制圧し、原告も制圧したところ、同じく受刑者であるDが原告の腹部を蹴ったため、看守がDを制圧したが、原告は、Dに腹部を蹴られた半身を乗せて動きを制し、金属手錠を両手後ろ手に使用した。作業台を利用して原告を制圧したことは、合理的で必要最小限の方法であり、何ら違法、不当ではない。
また、この間、看守が原告を作業台に向けて突き飛ばしたり、原告の腰部、臀部、胸部等を足蹴りにしたことはないし、その後、原告を保安課に連行する際にも、看守が原告を蹴ったことはない。
3(一) 同3(宮城刑務所における違法行為)(一)(黙想の強制)は争う。
黙想は、処遇場面における諸動作要領の一つとして、点検時、作業時及び作業中の各動作場面において、待機姿勢を取らせる際の方法として実施しているところ、宮城刑務所のように、全国の長期受刑者の内でも最も処遇困難な者を収容し処遇している施設においては、規律及び秩序の維持並びに管理の上からは特に必要なものというべきである。それゆえ、宮城刑務所においては、受刑者に、朝夕二回の点検の際(三、四分程度)、移動時の点検の際(一分程度)、工場監督者等の巡回時に工場勤務看守が監督者等に対して当該工場の異常の有無等について報告する際(一〇ないし二〇秒程度)及び連行時に他の者とすれ違う際(一分未満)に黙想をさせている。
そして、これら黙想をさせている時間は、いずれの場合も極めて短時間のものであり、格別の身体的、精神的苦痛を伴うものではなく、自由の制限の態様、程度としては極めて軽微であり、何ら違法ではない。
(二) 同(二)(異常動作の強要)は争う。
行刑施設においては、各種の矯正教育を実施する場合などに、集団としてまとまって行動する場合が多く、しかも少数の看守が管理することになるので、短時間のうちに整然と行う必要があり、また、施設内の規律及び秩序を維持し、受刑者の規律違反行為の発生を未然に防止する必要もあることから、宮城刑務所においても、集団行動の一環として、受刑者を移動させる際には、腕を振らせて効率的かつ規律正しく行進させるよう指導している。さらに、右指導は、災害発生時に集団としての安全を確保しつつ避難等の諸動作を整然と行うため、集団として安全に身柄を移動させる訓練の一環としての意味を持っている。
右腕振りの指導に当たっての基準としては「肩の高さまで」としているが、右基準は決して不自然なものではなく、異常な行動や動作を身につけさせているものでは全くない。
(三) 同(三)(休息、休憩時間のはく奪、短縮)は争う。
宮城刑務所においても、午前、午後各一回一五分ずつの休息時間と、四〇分の昼食・休憩時間が定められており、運動及び入浴の一部を休息時間等に実施していることは認めるが、これが許されることは、徳島刑務所について述べたところと同様である。
(四) 同(四)(発信の制限)のうち、(1)は認め、(2)は争う。
発信については、検閲事務処理能力等の管理運営上の要請から、工場別等のグループ分けにより曜日ごとに発信受付日を定めて実施しているが、これは行刑累進処遇令六三条に定める信書の発信回数を充たすものであり、かつ、必要がある場合には、願い出により、指定発信受付日以外でも発信を許可する取扱いとしている。かかる取扱いは、信書の発信に対する制約として必要性及び合理性が十分に認められ、監獄法五〇条及び同法施行規則一三〇条が当然許容するところであって、違法ではない。
(五) 同(五)(カーボン紙の使用制限)のうち、(1)は認め、(2)は争う。
監獄法上、監獄内での私物の所持は原則として禁止され、その許可は、刑務所長の裁量に委ねられ、カーボン紙については、行刑累進処遇令七三条に基づいて、特に必要と認められる場合にその所持が認められているところ、原告主張の還付請求に際しては、その文書の性質上、カーボン紙をもって同一の控えを作成する必要性が認められなかったことから、カーボン紙の購入は不許可としたものであって、右宮城刑務所長の判断に裁量権の逸脱はない。
(六) 同(六)(領置金送金の制限)のうち、(1)は認め、(2)は争う。
受刑者が自己の領置金を監獄外に送付することは、監獄法五二条に基づき、正当な用途に充てる場合に許可されるものであるところ、原告が、相談料と称して領置金一〇万円の送付を申出た名宛人は、弁護士ではあるが、原告の刑事事件における弁護人ではなく、単に以前民事事件について弁護を依頼したことがあるに過ぎなかった。その上、単に相談料というだけで、具体的な依頼案件もなく、送金の理由も不明確で、送金すべき必要性も認められなかったため、これらを疎明するよう指導したが、原告から何らの疎明もなかったため、許可するに至らなかったものであり、右不許可は、何ら違法ではない。
(七) 同(七)(用便の禁止)のうち、原告が、平成三年一月二六日、講堂でのビデオ鑑賞に参加した際、用便の願い出をし、看守が、原告をその部屋まで連行して用便をさせ、その後保安課に連行して取調べを行ったことは認め、その余は争う。
なお、同(1)については、宮城刑務所では、就寝時刻が午後九時であるところ、就寝直後の静謐を保ち、他の受刑者の睡眠の妨げとならないようにすること及びそれ以降の受刑者の動静を少数の看守によって把握することの困難さなどのため、できるだけ就寝前に用便を済ませるよう指導しているに過ぎず、用便を不許可にしたことはなく、懲罰に処したこともない。
また、同(2)については、講堂で実施される行事においては、多数の受刑者を少数の看守で戒護することになるが、その際に、離席や用便を無制限に認めたのでは、規律及び秩序の維持が困難となる。現に、宮城刑務所では、以前に用便のための離席を無制限に認めていたが、用便と称して席を立って他の受刑者と喧嘩をしたり、集団で暴行を加えるなどの事犯が発生していた。そこで、宮城刑務所では、受刑者に対し、行事中に用便のため途中退席することのないよう、事前に便を済ませておくよう指導しており、同時に、出室までにこれに必要な時間を設けるよう配慮している。
なお、行事中、用便の申出があれば、その者を単独で保安課に連行し、同課の便所で用便をさせるとともに、今後行事中は用便をしないで済むよう配慮することを求める指導もしている。
原告主張のビデオ鑑賞の際には、経験の浅い看守が、保安課ではなく原告の部屋へ連行して用便をさせた点で通常の取扱いと異なっているが、原告の用便の願い出自体を認めなかったわけではなく、その後、保安課において、原告に対して指導を行ったが、このことに関し、原告を取調べに付したり、懲罰などの不利益処分を行った事実はない。
(八) 同(八)(懲罰権の濫用)の(1)ないし(3)は認め、その主張は争う。
なお、同(1)については、宮城刑務所では、うがいをする際にはコップに必要量の水を汲んで行うよう担当看守から指示していたところ、原告の行為は、受刑者遵守事項四一条の「法令、生活上の心得又は日課実施上の必要に基づく看守の指示に対し、抗弁、無視その他の方法で反抗してはならない。」との規定に違反した疑いがあったことから、原告に対して取調べを行い、平成三年二月一八日、懲罰委員会を開催した。原告は、右席上、事実関係を認め、コップを準備しないまま歯磨きをした自分に責任があると申し立てた。宮城刑務所長は、同月一九日、原告の行為は規律違反行為を構成することが明白であったことから、「作業賞与金計算高金五〇〇円減削」の懲罰に処すこととしたものである。
また、同(2)については、原告の行為は、右遵守事項四〇条の「故意に残飯…を投棄…してはならない。」との規定に違反した疑いがあったことから、原告に対して取調べを行い、同月二八日、懲罰委員会を開催した。原告は、右席上、事実関係を認めた上、窓の外の鳩が食べる物がなくてかわいそうだと思って豚肉一切れを餌としてやるために投げ捨てた旨申し立てた。宮城刑務所長は、同年三月一日、原告の弁解は正当な理由とは認められず、原告の行為は規律違反行為を構成することが明白であったことから、「軽屏禁七日及び同期間の文書図画閲読禁止を併科」の懲罰に処すこととしたものである。
さらに、同(3)については、宮城刑務所では、担当看守により、作業中はよそ見をしてはならない旨指示していたところ、原告の行為は、右遵守事項四一条に違反した疑いがあったことから、原告に対して取調べを行い、同年一二月五日、懲罰委員会を開催した。原告は、事実関係を認めた上、廊下から話し声が聞こえ、自分を呼んだような気がしたので顔を右に向け廊下を見たと申し立てた。宮城刑務所長は、同月六日、原告の弁解は正当な理由とは認められず、原告の行為は規律違反行為を構成することが明白であったことから、「叱責」の懲罰に処すこととしたものである。
(九) 同(九)(連行態様の逸脱)は争う。
原告は、宮城刑務所に入所以来四件の規律違反容疑行為を起こし、その際、保安課に連行されている。宮城刑務所においては、受刑者の規律違反行為を摘発した場合、取調べのため保安課に連行しているが、その場合、他の受刑者と出会った際に証拠隠滅を図ったり、衝突を起こすなどの不測の事態の発生が予想され、また、連行される受刑者が興奮して粗暴な行動に出ることも考えられることから、これらを防ぐために、二名の看守が、その受刑者の両側からひじ等を押さえて同行することとしている。原告についても、右の規律違反容疑行為に際し、同様の連行をしたことはあるが、これは合理的な範囲内の措置で、暴行ではなく、違法性はない。
(一〇) 同(一〇)(昼夜独居拘禁)は争う。
監獄法一五条は、在監者は、心身の状況により不適当と認める者を除くほか、これを独居拘禁に付することを得ると定め、同法施行規則四七条は、戒護のため隔離の必要のある者は、独居拘禁に付することができると定めている。
しかるに、原告は、よそ見をしたとの容疑について、平成三年一〇月一七日に懲罰委員会が開催された席上、宮城刑務所の規律を緩和するため闘争するとの姿勢を示した上、これを全受刑者に訴えるなどとした。そこで、宮城刑務所長は、右行為は、他の受刑者を扇動し、規律及び秩序を害するおそれが十分認められ、集団処遇には適当ではないと判断したことから、昼夜独居拘禁に付することとしたものである。
そして、このような独居拘禁は、あくまで処遇の方法に過ぎず、懲罰とは性質を異にしている。
また、独居拘禁に付すことと、累進級及び仮出獄の審査は、別個の独立した判断であり、独居拘禁者は、累進級審査の対象外にもなっていないし、仮出獄審査の対象外でもない。
(一一) 同(一一)(独居拘禁の際の違法処遇)のうち、(1)は認め、(2)は争う。
本件運動場は、陽が当たらない場所ではない。なお、監獄法施行規則一〇六条一項前段は、戸外運動の実施を規定しているが、これは、受刑者の健康を確保するに相当な運動の機会を保障したに止まり、常に日照の確保された場所での運動まで保障したものではない。
(一二) 同(一二)(訴訟妨害)のうち、(1)は認め、(2)は争う。
認書とは、受刑者が施設の処遇に対して不服申立てに関する書面を作成する場合など、通常の一般的な信書の範ちゅうに属さない特別な文書を作成する場合を指すところ、「認書願」を提出すべきものとされているのは、認書を行うためには、通常所持することを許可されていない特別な文書類及び図書、文書を購入、所持させなければならないことや、作成する文書の性質上、他の受刑者との雑居は相当ではないため、独居房への転房が必要であること、認書を実施する受刑者は、その精神状態が不安定であることが多く、動静について注意を払う必要があることといった施設管理運営上の理由及び作成者の意思を明確にさせるための理由からであり、訴願権行使そのものについての許否判定を目的としたものではない。
また、宮城刑務所は、同時に複数の書面の作成を出願された場合には、原則として一件ごとに許可する取扱いとしているが、原告の書類作成を不当に制限したことはない。
4 同4(損害)は争う。
第四 当裁判所の判断
一 当事者
当事者間に争いがない事実に、証拠(乙三九号証)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
1 原告は、昭和六二年三月から平成二年五月まで、徳島刑務所において(ただし、昭和六二年九月から翌六三年一月までの間、鼻中隔弯曲症の手術、治療のため八王子医療刑務所に移監されていた。)、その後の平成二年五月、宮城刑務所に移監され、刑の執行を受けていた者である。
2 徳島刑務所は、原告の受刑当時、無期懲役、刑期八年以上の長期受刑者や暴力団関係者、累犯受刑者等処遇の困難な者を含む約六二〇名前後を収容し、また、宮城刑務所は、右同様の長期受刑者等処遇の困難な者のほか、暴力団抗争など、他管区の施設に収容すれば、規律及び秩序維持上他の者に重大な影響を及ぼすおそれのある受刑者及び他の施設では種々の問題発生が予想されるため、収容不可能ないわゆる保安上移送受刑者を全国から多数収容し、これら収容人員の総数が約八五〇名に上る重警備施設である。
二 徳島刑務所における違法行為について
1 休息、休憩時間のはく奪、短縮について
(一) 当事者間に争いがない事実に、証拠(乙一五号証、二一、二二号証、四〇号証、証人吉田司及び同森宗義の各証言(以下「吉田及び森証言」のようにいう。)によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 徳島刑務所においては、午前、午後各一回一五分ずつの休息時間と、四〇分の昼の休憩時間が定められている。そして、運動が実施される日においては、運動時間を四〇分とし、これを昼の休憩時間から二〇分、午前及び午後の休息時間から二〇分を捻出することとし、そのため後者については、運動時間が設けられる時間に応じ、午前及び午後の休息時間を〇ないし一〇分とすることがある。また、入浴が実施される日においては、入浴時間を三〇分とし、これを右同様、昼の休憩時間から一〇分、午前及び午後の休息時間から二〇分を捻出している。
(2) 右の時間配分は、受刑者間に不平等が生じないようにとの配慮の下になされているものであるが、同時に、仮に休息時間等を維持するため、作業終了後に運動及び入浴を行うとすると、職員の通常の勤務時間外にこれらを行わせることになるばかりか、時間によっては周囲が暗くなるなどして、受刑者に対する戒護が困難になるとの事情も考慮されている。
(3) そして、運動時間においては、受刑者全員に同一の運動を行わせるものではなく、湯茶を供与したり、新聞購読、談話等一定の範囲での自由な行動を行わせている。
(4) なお、徳島刑務所における休息時間等における用便の順番待ちの際には、多数の受刑者を少数の看守で戒護し、用便の順番を待つ際の受刑者間における不正行為を防止するため、受刑者に足を開き、手を体側に付けさせるよう指導をしていた。
また、作業中に受刑者から用便の願い出があれば、これを許可する取扱いとしており、休息時間等においては、原告が所属していた第三工場では、約三五名の受刑者を二班に分け、班ごとに用便させていたが、大便器が二個、小便器が五個あり、同じく原告が別の時期に所属していた第二工場では、約八〇名の受刑者を四班に分け、大便器二個、小便器七個を使用させていて、いずれにおいても順番待ちにさほどの時間を要しなかった。
(二) 監獄法は、作業時間及び休息時間等についての定めを置いておらず、同法施行規則五八条一項は、在監者の作業時間は法務大臣が別に定めるとし、法務大臣は、これを受けて、在監者の作業時間を定める訓令(昭和六一年三月二〇日付け法務省矯作訓第五三四号)により、一日の作業時間を八時間とし、作業時間の中間に置く給食等のための時間(休憩時間)として、一日につき四〇分、休息時間として、作業の性質上適当と認める場合には、作業中に、一日につき三〇分以内に限り認めることと定めている。
そして、このような定めは、受刑者の疲労回復、生理的要求の充足、作業能率の増進及び災害防止の観点から設けられたものであるとされているところ、運動及び入浴はこれらの目的に寄与するものであること、右(一)(3)のとおり、運動時間においても、喫茶や新聞購読、談話等一定の範囲での自由な行動が可能であること並びに同(2)のとおり、職員の勤務態勢及び戒護の必要性から、運動及び入浴を作業時間終了後に行うことが困難であること等を考慮すると、同(1)の措置が、社会通念や監獄法に反するともいえない。
なお、同規則五八条四項は、運動等に要する時間は、これを作業時間に通算することができる旨定めているが、運動時間を休息時間等の中に設けることは、もとより右規定に反するものではなく、違法ではない。
(三) 原告は、徳島刑務所の右(一)(1)の措置が労働基準法及び最低基準規則等の国際法規に違反するとも主張する。
しかし、労働基準法は、刑務作業をその規制対象から除外していることから、同法違反を前提に右措置の違法を主張すること自体失当である。また、最低基準規則は、我が国において直接に国内法としての効力を有しないばかりか、その第七五の(1)において、「受刑者の一日及び一週の最高作業時間は、自由労働者の雇傭に関する地方的な規則及び慣行を参酌して、法律又は行政規則により定めなければならない。」とするのみで、最低休息時間等については何ら具体的な規定を置いておらず、右(二)でみたような事情を考慮すれば、右措置は、右規定の趣旨にも反するところがないというべきである。
(四) また、休憩時間等においても直立不動の姿勢を強要され、用便の順番待ちにかなりの時間を要したとの原告の主張については、前記(一)(4)のとおりの事実は認定できるものの、原告主張のような事実を認めることはできず、この点をもってしても違法とはいえない。
(五) よって、この点について、徳島刑務所に違法な行為があったとすることはできない。
2 鼻炎手術の拒否について
(一) 当事者間に争いのない事実に、証拠(甲一一号証、乙四一ないし四三号証、原告本人尋問の結果(以下「原告本人」という。)のうちその一部)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告は、昭和六二年三月二〇日、高松刑務所から徳島刑務所に移監されたが、その際の健康診断で肥厚性鼻炎と診断され、同日から医師の処方に基づき点鼻用局所血管収縮剤プリビナを投与されていた。
(2) その後も投薬を継続したが、原告の症状は軽快しなかったことから、同年五月一四日に、原告を徳島大学医学部附属病院耳鼻咽喉科で受診させたところ、同科医師より「鼻中隔弯曲症・肥厚性鼻炎」であり、「保存的治療による症状の軽減は望まれないため、鼻中隔矯正術が望ましい。」との診断がなされた。
(3) このため、徳島刑務所は、同年九月一日、原告を八王子医療刑務所へ移監し、同年一二月一〇日、同所において右下甲介切除術等の治療を行った。
そして、昭和六三年一月二〇日、原告は、右疾病が軽快したとして、徳島刑務所に移監されたが、その後も鼻閉による不快感を訴えたことから、徳島刑務所では、プリビナ等を継続して投与していた。
(4) しかしながら、原告において、なおも鼻閉が続き、再度手術を行って欲しいとの申出があったことから、平成元年四月一三日、原告を徳島大学医学部附属病院耳鼻咽喉科において受診させたところ、同科兼竹医師より「鼻中隔弯曲症・アレルギー性鼻炎」、「鼻中隔は右に弯曲しているが、左鼻腔通気度は良好、現在急いで鼻中隔の手術をする必要性は認められない。」との診断がなされたため、徳島刑務所では、原告に対し、点鼻用抗炎症・血管収縮剤であるコールタイジンスプレー及び持続性アレルギー剤であるタベジールを投与して、経過を観察していた。
(二) 以上によれば、徳島刑務所は、八王子医療刑務所での手術後も鼻閉による不快感を訴える原告を、徳島大学医学部附属病院耳鼻咽喉科で受診させ、同科医師は、原告について、鼻中隔弯曲症・アレルギー性鼻炎であり、急いで鼻中隔の手術をする必要性は認められないとの診断をしたことが認められ、右診断は専門の医師によるものとして肯定することができる。これに対し、原告は、右兼竹医師が、原告の鼻の奥をピンセットで突き、原告がくしゃみをしたところ、即座にアレルギー性鼻炎であると診断した旨供述するが、当時の徳島刑務所医療係長の陳述書(乙四一号証)においては右のような経過はなかったとしていることと対比して、にわかには信用することができない。
また、原告は、徳島刑務所が、その画策によって、原告の再度の手術の希望を断念させるため、本来なされるべき抗原検査等を行わずに、右昭和六二年五月一四日における同病院の診断とは異なる虚偽の診断を行わせたものであり、これにより、原告は、正当な理由なく肥厚性鼻炎の苦痛を受け続けることになったと主張するが、徳島刑務所が右のような画策を行ったり、同病院の医師と通謀したと認めるに足りる証拠はなく、右主張は採用できない。
(三) したがって、この点についても、徳島刑務所に違法な行為があったとすることはできない。
3 看守の暴行について
(一) 当事者間に争いのない事実に、証拠(甲七ないし一〇号証、一五号証、乙一七ないし二〇号証、二三ないし三一号証、森、岡田茂樹及びFの各証言(一部)、原告本人(一部)並びに弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(1) 原告は、平成元年一一月一〇日午後三時二〇分ころ、徳島刑務所第三工場の中央通路付近(別紙見取図①付近、以下「見取図①」のようにいう。)において、ともに作業に従事していたAと作業上の行き違いなどから口論となり、Aの顔面を手拳で殴打した。すると、Aは、後方によろけてしりもちをついたが、すぐに立ち上がって原告の胸ぐらをつかみ、両者はもみ合いとなって、見取図③を経てから同②付近に移動した。
(2) 当時、右工場では看守森宗義(以下「森」という。)が単独で作業監督の職務についていた。
森は、Aの怒号などにより喧嘩の発生に気付き、非常通報ボタンを押して保安課職員の応援を求めたが、時を同じくして、右喧嘩の様子を見ていた同じく受刑者のB及びCがAに加勢し、見取図②付近において、Bが原告の顔面を、Cが原告の左目付近等を、いずれも手拳で数回殴打する暴行を加えた。
(3) そこで、森は、原告とB及びCとの間に割って入り、喧嘩を制止しようとしたところへ、右通報により応援の看守約三〇名が順次右工場に駆け付け、A、B及びCを制圧した。
そして、森も、原告の胸を引っ張るようにして応援の看守に引き渡し、原告は、二名の看守によって、見取図②付近で制圧された。
(4) ところが、その直後、Aと親しかった受刑者Dが看守の間をすり抜けるようにして原告に駆け寄り、原告の腹部を一回足蹴りした。これに対し、看守らは、直ちにDを制圧したが、原告は、激しく憤り、上体を前に突き出して激しく揺さぶり、制圧している看守を振り切ってDに殴りかかる気勢を示したため、冨永看守長は、原告に金属手錠を使用するよう指示した。そこで、二名の看守が、原告のそれぞれの腕を後ろから抱え込む、いわゆる矯正護身術の腕がらみの状態で、約二メートル離れた見取図左上方の作業台まで連行し、原告の上体を右作業台の上に乗せるようにしてその動きを制し、両手を後ろ手にして金属手錠を使用した。
(5) 原告は、その後、三名の看守によって右工場から約一〇〇メートル離れた保安課へ連行されたが、依然興奮状態にあり、大声で喚きながら、制圧されている両腕を振りほどこうとして全身を揺さぶり続けるなど、これら看守に対する暴行のおそれも認められたため、原告に対し、右金属手錠に代えて革手錠を使用することとした。さらに、徳島刑務所においては、原告について、右のような暴行のおそれに加え、看守の制止に従わず、喧嘩行為を繰り返していることから、一般居房での拘禁は不適当と認められるとして、保護房拘禁に付することとした。
(6) 原告は、前記Bらの暴行によって全治三日間の顔面打撲傷等を負ったが、頭部やその他の部分の負傷はなかった。また、Aは、原告の暴行によって、全治約七日間の上口唇裂傷等を負った。
(二) これに対し、原告本人及び証人Fの証言(以下「F証言」という。)は、原告の主張に沿い、右原告の制圧及び保安課への連行に際して、徳島刑務所の看守が、原告に暴行を加えた旨の供述もしくは証言をするので、検討する。
(1)① まず、原告本人の供述についてみるに、右工場内での暴行について、当初は、看守に背後から力を受けて五メートルほど離れた作業台へ突っ込んだとして、あたかも看守に突き飛ばされたかのような供述をなし、これについて、原告代理人が「言ってみればあなたの体が吹っ飛んでいったと、こういうわけですか。」と確認すると、「正確に言うと、看守が私の後ろを、ねじ上げた手を持っていますから、私が単独で吹っ飛んだわけじゃないんですよね。ただ、私は手を後ろにねじ上げられて制圧されていましたからね。」、「その右手を看守が持っていたわけですよ。そしたらその持っていた看守が、ダンと、なんて言うかな、突くのと、自分も一緒にバッと走るというか。だから、頭を下げたまま、手をねじ上げられていたから、この状態でつまり向こうへ吹っ飛んだわけです。」として、先の供述とは異なる内容の供述をなし、しかも、後者の供述内容は、看守の行動としてはかなり不自然なものとなっている。そして、さらに、これに続けて、制圧している看守にすね蹴りを食ったとし、次に、右工場から保安課へ連行される途中、面白半分じゃないかという感じで、ずっと蹴り続けられた旨も供述する。
② しかしながら、原告は、自らが作成した訴状においては、宮城刑務所における処遇の違法性を主張するのみで、徳島刑務所の看守による暴行の事実には全く触れておらず、平成三年一一月一八日付け補正書において初めて右暴行の件について触れているところ、これにおいては、「腰部や大腿部を二〇回以上も足で蹴られた。」とするのみで、この暴行が右工場内のことなのか、あるいは保安課へ連行される際のことなのか不明確である上、作業台に体を飛ばされたとの事実には、全く触れられていない。そして、平成四年二月二四日付け準備書面では、「原告が刑務所の保安課に連行されている途中に、原告の手を背中上部に向けてねじりあげている看守と原告の後ろから歩いてきていた看守から蹴るなどの暴行を加えられた」としていたが、さらに、同年七月二一日付け準備書面に至り、今度は、原告がDから蹴られた直後、「原告の背中側で原告の手を後ろ手にねじ上げていた看守が『この野郎〜ッ』と叫ぶと同時に、原告をドーンッと後ろから前に突き飛ばしました。原告は、原告を制圧している看守がまさか突然突き飛ばすとは夢にも予想せず、ぼんやり立っていたために、ダダダダーッと、五メートル先の作業台(高さ約八〇センチ)に向けて、水泳のダイビングのように頭からつんのめって行ってドーンッとぶち当たりました。それと同時に、看守も原告の体と同じくらいの速さで駆け寄って、原告を後ろから作業台に押しつけるようにしながらスネ蹴りで五回くらい蹴り上げ、原告の腕を更に力を入れて後ろ手にねじり上げました。」とし、さらに保安課に連行される際、「原告を後ろから制圧している看守と、もう一人後ろから歩いていた看守に、二〇回近く、臀部を蹴り上げられたのであります。まるで、面白がって蹴っている感じでした。」として、かなり具体的な主張をしている。
しかしながら、これらは、それまでの主張内容及び原告本人の前記供述とは明らかに異なっている。
そして、右F証言及び原告本人の尋問の後の原告代理人作成の平成九年一一月二七日付け準備書面によって、これら供述及び証言に沿う形で請求原因事実が整理されているが、それでもなお、看守が原告を突き飛ばしたとする状況やその後に看守から蹴られた状況についての原告の供述内容との間には齟齬がある。
このように原告の主張ないし供述内容には、重要な部分において変遷があって、一貫性がないこと、前示のとおり、Aらとの喧嘩に際し、Bらの暴行により顔面に打撲傷を負ったものの、看守に暴行を受けたとする腰部、臀部、胸部等には何らの傷害も負ってはいないこと、さらに、右原告のAに対する傷害事件における司法巡査たる徳島刑務所の看守部長による取調べ(乙二四号証)においても、さらには、検察官による取調べにおいても、「Aや刑務所の人達に迷惑をかけたことを反省しております。」とはするものの、徳島刑務所看守の暴行については全く触れるところはないこと(甲一〇号証)、そして、実際に原告の制圧に当たった徳島刑務所看守である証人森及び同岡田が、かかる暴行は一切なかった旨明確に証言していることに照らして、右原告本人の供述は、にわかには信用し難いものというべきである。
(2) 次に、F証言について検討するに、同証人は、原告とAとの喧嘩の際、これらの状況を見ることのできる位置にいたところ、原告は、既に徳島刑務所看守により制圧されていたにもかかわらず、さらにいわゆる飛行機状態にされた上、作業台側面に強引に投げ捨てられるというような状態にされたこと及び、右看守が原告をこのような状態にするのであれば、同時に制圧の対象となったBらに対しても、同様の行為をすべきであったのに、それをしていないのは公平を欠くとして、特に憤り、右看守による暴行の態様については、「甲野さんの飛行機にした状態で腰の回りとかあばらの辺やと思うんですけど、看守さんが覆いている安全靴、固い靴で蹴飛ばしたり膝で蹴り上げたりしたり、それはひどいものです。全然無抵抗の人間をね。」とし、さらに、原告が、飛行機状態で突き飛ばされた際には、激しい勢いで頭を打ったとして、かなりの程度の暴行行為があったもののようにいう。
しかし、同時に、右証言は、原告を飛行機状態にして制圧したことに対し、そこまですることはなく、許せないとの感情が中心的な内容となっており、他方、右看守のそれ以外の具体的な暴行の内容に関しては、「三、四回蹴っていたやろね。」との程度に止まるとし、また、その具体的な態様についても明確ではない。さらに、原告本人の供述においてさえも、原告が飛行機状態で突き飛ばされた際に、作業台に激しい勢いで頭を打ったとの部分は全くないことなどに照らして、かなりの誇張があるものというべきである。これらに加えて、森証言によれば、同人は、作業台上で原告を制圧して金属手錠を使用したとしており、この点については、原告自身も右証言内容を前提とする尋問を同証人に対して行っているのに対し、F証言は、右作業台上には機械が置かれているので、原告の上半身をその上に乗せることは不可能であるとして、森証言や原告本人の供述内容とも矛盾する証言をしていることなどに照らせば、F証言もにわかには信用し難いものというべきである。
(3) そして、他に、原告が主張するような看守による暴行の事実を認めるに足りる証拠はない。
(4) なお、前示のとおり、確かに、原告を制圧する際、二名の看守が原告の両腕をいわゆる腕がらみの状態で作業台まで連行し、原告の上体を作業台の上に乗せるようにしてその動きを制し、両手を後ろ手にして金属手錠を使用したとの事実は認められるものの、これは、当時の原告の興奮状態の下においては、同人を制する手段として、やむを得ないものというべきであり、これをもって、違法であるとすることはできない。
(三) よって、看守の暴行を理由とする原告の主張は、理由がない。
三 宮城刑務所における違法行為について
1 黙想の強制について
(一) 証拠(吉田証言)によれば、以下の事実が認められる。
(1) 宮城刑務所においては、次のような場合に受刑者に黙想を行うよう指示していた。
① 朝夕の点検時、三、四分
② 朝、出役をして舎房から工場へ向かう時の整列、工場における朝と午後の就業始めの人員点呼、休息時間が始まる時や昼食時に食堂に入る前の整列時等、受刑者が一定の行動から次の行動へ移行する場合の点呼、整列の際、三〇秒から一分程度
③ 工場内で監督者が巡回してきた際の担当看守の報告時に、離席を許可されて動いている受刑者について、五秒から一〇秒程度
なお、本来の作業を行っている受刑者については、黙想は行わせていない。
④ 連行時に他の者とすれ違う際、一方の受刑者について、相手方が通り過ぎるまで
(2) 宮城刑務所において、受刑者に黙想を行うよう指示している理由は、同刑務所が処遇困難とされる受刑者を多数収容しているため、特に規律を維持する必要があるからであり、また、それぞれ次のとおりの具体的な理由による。
① 朝夕の点検時は、点検の際に、静寂にして待機をさせる必要から。
② 点呼、整列の際は、受刑者による勝手な行動を防止し、点呼、整列を整然と行うため。
③ 工場内の巡回時の報告の際は、工場においては、多数の受刑者を一人の看守で監視しているところ、報告時には、離席している受刑者に対する注意が行き届かなくなるため。
④ 連行時のすれ違いの際は、受刑者同士がすれ違うときに目配せをするなどして不正な連絡をしたり、逆に反目する者同士の目が合って紛争に発展するのを防ぐため。
(二) 刑務所においては、一名ないし少数の看守が多数の受刑者を戒護しなければならない場面が多いことから、右(一)(1)のとおり、黙想を行わせる必要性が認められるところ、これが宗教的な行為ということはできないことはもとより、その態様においても、時間が短時間に限られる以上は、特段の身体的、精神的苦痛を伴うものではないから、合理性を有するものであり、違法とはいえないものというべきである。
(三) 宮城刑務所において、受刑者に黙想を指示する場合及びその時間は、前記(一)(1)のとおりと認められるところ、この点、証人Gの証言(以下「G証言」」という。)によれば、休めといわれた場合にも、それと同時に後ろに腕を組んで黙想することを強制され、工場における作業中に材料がなくなった場合などにも、挙手をして看守が気付いてくれなければ、看守が気付いてくれるまで挙手をやめて二〇分でも三〇分でもその位置で黙想しなければならないとし、原告本人は、移動、作業、運動等の動作時以外は黙想をさせられ、個々の黙想の時間は短い場合には二、三秒であるが、長くて一五分くらいであり、かつ、その回数が一日のうちに数十回、多いときでは三〇分の間に二〇回くらいはさせられる旨供述する。
しかしながら、吉田証言と対比すると、G証言及び原告本人の供述は、明らかに誇張されているきらいがあって採用し難く、他に、宮城刑務所において、不必要な場合又は不合理な態様において黙想が強制されたと認めるに足りる証拠はなく、この点について、違法な行為があったとは認められない。
2 異常動作の強要について
(一) 証拠(吉田証言)によれば、宮城刑務所においては、受刑者の歩行移動時において、腕を振る際、肘をまっすぐにし、腕を前習えした程度の高さに上げて、ぞうりを擦らさないよう足を上げて歩くよう指導していること、注意をしても従わない者に対しては手本を示して特別に指導していること、これらの指導をしているのは、宮城刑務所においては処遇困難とされる受刑者を多数収容しているため、特に規律を維持する必要性が高く、移動時の事故を防ぐためにも必要と考えているからであることが認められる。
(二) これに対して、原告本人は、異常な動作をたたき込まれるため、社会復帰をしてから刑務所出身であることがすぐに分かってしまい、社会復帰の妨げになる、宮城刑務所における指導は全国の刑務所の中でも異常であり、犯罪者を製造するに等しいという趣旨の供述をし、G証言もこれに沿う。
しかしながら、刑務所における規律維持及び移動時の事故防止の点から、右(一)のように歩行移動時の動作を指導する必要性は否定できないし、その指導の内容も、証拠(乙四号証)によれば、文部省の作成している体育科における集団行動指導の手引で指摘されている行進の方法及び指導上の要点に類似したものであることが認められるのであって、格別不合理な態様ではないというべきである。そして、本件全証拠を総合しても、宮城刑務所において、その他特に異常な動作を強要していたとは認められないし、右の程度の指導が社会復帰の妨げになるとも考えられず、原告本人の右供述部分及びG証言は採用できない。
(三) 以上から、この点においても、違法な行為があったとは認められない。
3 休息、休憩時間のはく奪、短縮について
(一) 当事者間に争いのない事実に、証拠(乙三号証、吉田証言)によれば、宮城刑務所においても、午前、午後各一回一五分ずつの休息時間と、四〇分の昼の休憩時間が定められており、その中から運動時間及び入浴時間を捻出していること、その時間配分は、受刑者間に不平等が生じないようにとの配慮の下になされているものであり、同時に、仮に休息時間等を維持するため、作業終了後に運動及び入浴を行うとすると、職員の通常の勤務時間外にこれらを行わせることになるばかりか、時間によっては周囲が暗くなるなどして、受刑者に対する戒護が困難になるとの事情も考慮されていること、そして、運動時間においては、受刑者全員に同一の運動を行わせるものではなく、湯茶を供与したり、新聞購読、談話等一定の範囲での自由な行動を行わせていることが認められる。
(二) そして、このような措置が、社会通念や監獄法に反するともいえず、適法であることは、徳島刑務所の措置について、前記二1において判断したとおりであり、その他、特段に、右休息時間等が不必要に削られていると認めるに足りる証拠はない。
(三) よって、この点について、宮城刑務所においても、違法な行為があったとすることはできない。
4 発信の制限について
(一) 当事者間に争いのない事実に、証拠(乙五号証、吉田証言)によれば、宮城刑務所においては、一日平均一〇〇通前後の発受信数があることから、これについての受付事務等を効率的かつ公平に行うため、受刑者を五つのグループに分け、そのグループごとに週一回(月曜から金曜まで)の割合で発信受付日を設けていること、受刑者は、指定発信受付日以外に発信したい要件がある場合には、その旨を願箋に記して提出すれば、審査により右発信日以外にも発信が許可される制度も設けられていること、右のとおり発信受付日を制限するのは、少数のかつ兼務の職員で検閲を行わなければならないことから、特定の曜日に発信が集中すると検閲がスムーズに行われなくなるという理由であること、発信数の平均化を目的とした制度であるため、発信受付日以外の発信も実務上は多くなされていることが認められる。
(二) 原告は、発信受付日の制限は、合理的な理由がない上、例外的に発信が許可される場合にもその手続が煩雑であり、違法であると主張する。
ところで、監獄法四六条一項は、在監者が信書の発信及び受信(以下「信書の発信等」という。)を行うことができることを定める一方、同条二項において、受刑者が親族関係にない者との間で信書の発信等を行うことを原則として禁止している。また、同法施行規則一二九条一項は、懲役受刑者における発信は原則として一月に一通とする旨定め、行刑累進処遇令六三条においては、受刑者の累進級により信書の発信回数を増加させる旨定めている。
宮城刑務所の右(一)でみたような制度は、右の法令の定めに反するものでないことは明らかであり、かつ、職員の効率的で円滑な事務処理のためという必要性も認められる。また、発信受付日が厳格に運用されているわけでもなく、受刑者において発信の必要性が認められれば、それ以外の発信も許可されていることにも鑑みれば、合理的な範囲内の制限であるというべきである。さらに、指定発信受付日以外の発信について願箋を提出させる等の手続も、自由に発信日以外の発信を求め得るのであれば、発信受付日を設けた意味がなくなることから必要であると解され、かつ、このことが受刑者にとって過度の負担となるとも認め難い。
(三) したがって、この点において違法な行為があったとは認められない。
5 カーボン紙の使用制限について
(一) 当事者間に争いのない事実に、証拠(乙三四ないし三七号証、吉田証言、原告本人)によれば、以下の事実を認めることができる。
(1) 宮城刑務所においては、法務省矯正局長の依命通達に従い、自己用途物品及び自弁又は差入れにかかる物品の取扱いについて、カーボン紙は、特に写しを作成する必要が認められる場合に限り使用を許可していた。
(2) 原告は、平成二年八月一五日、願箋をもって、保安課長に対し、新宿警察署長宛に押収されている日本刀の還付請求申立書を発送したい旨の特別発信願を提出し、右に必要な書類としてカーボン紙及び罫紙の使用許可を副申するとともに、別の願箋をもって、会計課長に対し、罫紙一冊及びカーボン紙三枚の特別購入願いを提出した。
(3) 当時宮城刑務所保安課長であった吉田司(以下「吉田」という。)は、右特別発信願に対して、カーボン紙の必要は認められないとしてその使用を不許可とし、訴訟における書証の作成等の必要性があるのであれば、原告に疎明をさせることとの指示を部下に与えた。なお、会計課長においても、右特別購入願を不許可とした。
(4) 原告は、吉田の指示を受けた職員から、必要性について疎明をするよう求められたが、右特別発信願に記載されたことを繰り返すのみであり、それ以上の説明を行わなかった。
(二) これに対し、原告は、宮城刑務所によるカーボン紙の使用制限は合理的な理由がないと主張する。
そこで検討するに、監獄法五一条一項は、在監者の携有する物は点検してこれを領置するとし、行刑累進処遇令七三条一項は、自己の用途に使用させることができる物品は法務大臣の許可を得たものに限る旨定めており、右(一)(1)の依命通達は、同処遇令の規定を受けたものである。
そして、自己用途物品の取扱いについては、右通達によって統一的な運用が図られているところ、その趣旨は、処遇の平等、保安、規律等にあると解されており、カーボン紙についても、右の観点からの使用制限の必要性が認められ、また、その制限の態様においても、特に写しを作成する必要が認められる場合には、その使用が許可されることとなっていることからすれば、合理的なものということができる。
これに対し、原告本人は、カーボン紙の使用を求めたのは、還付請求書の控えを取っておく必要があったためと供述する。しかし、還付請求自体複雑な手続ではなく、カーボン紙を用いた全く同一の内容の控えを作成しておく必要性はさほどないものと考えられるし、もし原告が、右において考えられる以上の必要性があると思料したのであれば、その疎明を行いさえすれば、これが許可された可能性のあったことは、右(一)(3)(4)のとおりであり、それにもかかわらず、原告は、これを行わなかったものである。
(三) 以上により、カーボン紙の使用を不許可とした点について、違法な行為があったとは認められない。また、カーボン紙の使用を不許可とした点について違法がない以上、それを前提とするカーボン紙購入の不許可の点についても違法とは認められない。
6 領置金送金の制限について
(一) 当事者間に争いのない事実に、証拠(吉田証言、原告本人)によれば、以下の事実を認めることができる。
(1) 原告は、平成二年一〇月ころ、自己の財産の保全をしたいと考え、海渡弁護士に相談料一〇万円を送金したいとして領置金の宅下げを願い出る旨の願箋を提出した。
(2) 宮城刑務所においては、弁護士への具体的な相談の依頼に対する料金の支払ということであれば、正当な用途に充てるものと認め、送金を認める取扱いであったが、右願箋には、右金員の使途につき、弁護士に対する相談料との抽象的な記載があるのみで、それ以上の具体的な記載がなかったことから、吉田は、海渡弁護士が原告から未だ委任を受けていないこと及び同弁護士において右金員の趣旨が分からず、不審を抱く場合もあり得ることをも考慮した結果、にわかにこれを許可せず、具体的に相談の内容を疎明させるよう部下に指示をした。
(3) なお、原告は、その後、宮城刑務所の許可を得て、海渡弁護士に対し、一〇万円を超える送金を行っている。
(二) この点について、原告本人は、当初から自己の財産の保全のためという理由を書いていた旨の供述をするが、右(一)(2)のとおり、宮城刑務所は、弁護士への具体的な相談に関しての送金ということであれば、これを認める取扱いであること、及び原告が現に同(3)のとおり海渡弁護士に対して送金を行っていることに鑑みれば、原告は、吉田からの指示にもかかわらず、送金目的を明確にしなかったため、送金が許可されない結果となったものと推認することができ、原告本人の右供述部分は採用することができない。
(三) なお、監獄法五二条は、在監者が、領置物をもって父母、配偶者又は子の扶助その他正当な用途に充てることを請求したときには、情状によってこれを許すことができる旨定めているところ、宮城刑務所が、前記(一)(2)の措置を取ったのは、原告の願い出の内容が抽象的であったためにそのままでは許可できず、右正当な用途に充てるためであるか否かの判断を行うためであったと解することができ、これは、同条の趣旨に照らして必要な措置であるというべきである。
(四) その他、右送金に関し、原告に対して、嫌がらせその他違法な行為があったと認めるに足りる証拠はない。
7 用便の禁止について
(一) テレビ、映画鑑賞停止処分について
(1) 証拠(乙二号証、吉田証言)によれば、以下の事実を認めることができる。
① 宮城刑務所は、就寝時刻を午後九時と定め、受刑者に対し、右時刻以降に用便することのないよう注意するように指導していた。その理由は、就寝時刻を過ぎて騒音を立てると他の受刑者の安眠妨害になること及び右時間以降は照明を暗くすることもあって、用便に行った者の行動が把握しにくくなることなどからである。
② しかし、右時刻以降でも、受刑者は、看守に申出た上で、静かに行うよう指導はされるが、用便をすることができ、右時刻以降に用便したからといって懲罰等の不利益処分の対象になることはない。
(2) これに対し、原告は、平成二年ころの午後九時半ころに用便したところ、用便禁止時間帯の指示に違反したとして、テレビ、映画鑑賞停止一か月の処分を受けたとし、これは違法である旨主張し、原告本人の供述もこれに沿う。
しかし、右供述部分は、これを裏付けるに足りる証拠はなく、右(一)②の宮城刑務所における実務から大きく逸脱しており、吉田証言が午後九時以降に用便したという理由で不利益処分をしたことは一件もないとしていることにも鑑みて採用できず、したがって、原告のこの点の主張は認めることができない。
(二) 講堂におけるビデオ鑑賞の際の用便不許可について
(1) 当事者間に争いのない事実に、証拠(乙三八号証、吉田証言、原告本人(一部))を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
① 宮城刑務所においては、講堂での行事として、映画鑑賞、慰問の演芸、講話等が行われることがあるが、その際には、七〇〇名にも及ぶ受刑者を約二〇名程度の看守で戒護することになる。そして、かつてはこのような講堂における行事開催中の便所使用を制限なく認めていたが、一名の受刑者が用便に立つと、他の受刑者にも連鎖反応が起こって長蛇の列ができたり、反目関係にある他の受刑者が用便に立ったのを見計らって自己も用便に立ち、便所の中でその者に対して喧嘩をしかける受刑者がいたり、便所内において多数の受刑者が一名の受刑者を標的にして殴る蹴るの暴行を加えたりするなどの事犯が発生したことがあった。
② そこで、宮城刑務所は、右のような事態を排除し、少人数の看守の戒護の下でも講堂内の行事を平穏かつ円滑に実施できるようにする趣旨で、行事に参加する受刑者に対して、事前に用便を済ませておくように指導し、そのための時間も設けるなどの配慮を行うとともに、行事中は講堂内の便所を使用禁止とし、講堂で受刑者から用便したい旨の申出があった場合には、当該受刑者を保安課まで連行した上で用便させることとしている。
また、行事中に用便に立った受刑者に対しては、行事終了後、行事中用便に立つと他の受刑者の迷惑になるので事前に用便を済ませ、行事中用便に立つことは控えるようにすること等の注意、指導を行っている。しかし、行事中用便に立った受刑者に対して懲罰等の不利益処分をしたことはない。
③ 平成三年一月二六日に講堂において行われた行事の際には、原告が用便したい旨申出たため、行事立会監督者の目黒憲一看守部長が清水孝看守に対して、原告を保安課に連行して用便させるように指示をした。
清水孝看守は、本来であれば原告を保安課に連行して用便させるべきところ、誤って原告の居室に連行して用便させ、再度講堂へ戻った。
その後、目黒憲一看守部長らは、行事中に用便を申出た原告を含め数名の受刑者に対して、行事中の用便について指導したが、原告が納得しなかったことから、他の受刑者は帰し、原告に対して引き続き指導を続け、行事当日は水分の摂取は控えめにすべきであることなどの注意をした。
(2) これに対し、原告本人は、看守が原告の用便したい旨の申出を許可せず、原告の尿が漏れ出して初めて用便をさせ、その後保安課に連行して取調べを行ったと供述するが、これを裏付けるに足りる証拠はなく、右(1)②の宮城刑務所における実務から大きく逸脱していることからして、原告本人の右供述部分は採用することができない。
(3) そして、宮城刑務所が、前記(1)②のとおり、行事中はなるべく用便に立つことのないよう指導し、行事中に用便に立った受刑者に対し、行事終了後に注意や指導を行うことは、同①の点から必要性を認め得るところであり、かつ、申出があれば行事中の用便も許可されること、その後の注意、指導も特段受刑者らに不利益な処分を課すものではないことなどからして、合理的な範囲における措置であるというべきであり、この点において違法な行為があったとは認められない。
8 懲罰権の濫用について
(一) 当事者間に争いのない事実に、証拠(乙六ないし九号証、吉田証言、原告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(1) 節水指示違反について
① 宮城刑務所では、日ごろから担当看守が受刑者に対し、節水をするよう指導し、うがいをする際には、コップに必要量の水を汲んで行うよう指示していた。
② 原告は、平成三年二月一〇日午前七時二〇分を少し過ぎたころ、その居室内において、歯磨きの際にコップが手元になかったため、右居室の洗面所の水道を水を出し放しにしたまま、コップを使わずに蛇口に口を近づけて水を口に入れてうがいをして右指示に違反したところを、担当看守に現認され、右行為は、受刑者遵守事項四一条の「法令、生活上の心得又は日課実施上の必要に基づく看守の指示に対し、抗弁、無視その他の方法で反抗してはならない。」との規定に違反した疑いがあるとして摘発された。
③ 右行為により、原告は、取調べに付され、同月一三日、供述調書が作成された。右供述調書において、原告は、節水指示の違反事実を認め、歯磨きをしていたところ、喉の奥に泡が入り、本来ならコップに水を汲んでうがいをすべきだったが、手元にコップがなかったので水を出し放しにして直接口をあててうがいをした旨供述している。
④ 宮城刑務所は、幹部職員で構成される懲罰委員会を開催し、原告本人の弁明を聴き、その上で、宮城刑務所長は、同月一九日、原告を作業賞与金計算高金五〇〇円減削の懲罰に処した。
(2) 残飯投棄について
① 原告は、平成三年二月二三日午後四時一七分ころ、残飯であった豚肉一切れを、原告の居室南側窓から舎外に投げ捨てたところを、看守に現認され、右行為は、受刑者遵守事項四〇条の「故意に残飯又はごみを投棄し、たん、つばを吐き散らし、花壇を荒らすなどして環境又は設備の保全を害する行為をしてはならない。」との規定に違反した疑いがあるとして摘発された。
② 右行為により、原告は、取調べに付され、同月二五日、供述調書が作成された。右供述調書において、原告は、右投棄の事実を認め、居室南側窓から見える外塀の上に鳩が一羽とまっており、大雪のために餌がなく、飢えていてかわいそうに見えたので、餌をやろうと思い、残飯であった豚肉一切れを外へ投げた旨供述している。
③ 宮城刑務所は、懲罰委員会を開催し、原告本人の弁明を聴き、その上で、宮城刑務所長は、同年三月一日、原告を軽屏禁七日及び同期日の文書図画閲読禁止併科の懲罰に処した。
(3) 作業中のよそ見について
① 宮城刑務所は、担当看守から受刑者に対し、作業中の事故防止や規律維持等の観点から、作業中はわき見をしないよう指示していた。
② 原告は、平成三年一二月四日午前九時五八、九分ころ、その居室内において紙袋を折る作業をしていた際、顔を右に向けて廊下にいた看守をしばし注視して右指示に違反したところを、担当看守に現認され、右行為は、前記受刑者遵守事項四一条に違反した疑いがあるとして摘発された。
③ 右行為により、原告は、取調べに付され、同日、供述調書が作成された。右供述調書において、原告は、廊下から話し声が聞こえ、自分を呼んだような気がしたので、右②の行為に及んだ旨供述した。
④ 宮城刑務所は、懲罰委員会を開催し、原告本人の弁明を聴き、その上で、宮城刑務所長は、同月六日、原告を叱責の懲罰に処した。
(二)(1) 監獄法五九条は、在監者が紀律に反したときは懲罰に処するとし、同法六〇条一項は、その種類として、一号に叱責、二号に賞遇の三月以内の停止、四号に文書図画閲読の三月以内の禁止、九号に作業賞与金計算高の一部又は全部減削、一一号に二月以内の軽屏禁、一二号に七日以内の重屏禁を、概ね軽重の順に列挙しているところ、重屏禁については、行刑上、実際には行われておらず、現在においては、軽屏禁が最も重い懲罰とされている。
そして、原告は、節水指示違反及び作業中のよそ見については、摘発されたとおり、いずれも自己が担当看守の指示ないし受刑者遵守事項に違反している事実を認めており、また、その違反行為に及んだ理由についての供述も、いずれも右違反を正当化するものと認めることはできない。さらに、前者について、作業賞与金計算高金五〇〇円減削及び後者について叱責の各懲罰に処したことについては、右各違反行為の内容及び右各懲罰の軽重の程度に鑑みれば、さほど重い処分ということはできず、裁量権を逸脱したとまでは認め難い。
(2) ただ、残飯投棄に関しては、確かに、受刑者遵守事項四〇条に形式的には違反し、原告も、右違反の事実を認めており、また、その違反行為に及んだ理由についての供述も、右違反を正当化するものとまでは認め難い。
しかしながら、吉田証言によれば、受刑者遵守事項が設けられた趣旨は、投棄した残飯等にダニや虫などが寄ってきて衛生上好ましくないとの環境保全上の理由によるとするところ、原告が豚肉一切れを投棄することによって、直ちに宮城刑務所の衛生環境が害されることになるとは到底認め難い上、その動機について、これが必ずしも合理性があるかどうかはともかく、理解しうる余地もないわけではない。
他方、これに対して科された軽屏禁とは、受刑者を厳格な隔離によって謹慎させ、精神的孤独の痛苦により改悛を促すことを趣旨とするものとされ、吉田証言によれば、その方法は、居房の中央に安座又は正座せしめるものであり、この懲罰は、前示のとおり、実際上最も重い処罰である。
そうであれば、原告の右違反行為に対し、七日間の軽屏禁に処した上、同期間の文書図画閲読禁止をも併科した懲罰の内容は、右行為の違反の程度と著しく均衡を失し、裁量権を逸脱した違法があるというべきである。
(3) そして、右に判示した諸般の事情を総合考慮すると、原告が右違法行為によって被った精神的損害を慰謝するには、五万円をもってするのが相当である。
9 連行態様の逸脱について
(一) 証拠(吉田証言)によれば、次の事実を認めることができる。
(1) 宮城刑務所においては、規律違反行為の疑いがある受刑者については、まず、事情を調べて取調べに付す必要があるか否かについて判断するため、保安課へ連行するが、その連行の方法は、二人の看守が両脇から当該受刑者の腕を取って連行するというものである。
(2) 右のような連行態様を取る理由は、連行中の受刑者の心理状況は、摘発による連行という状況を考えれば不穏であることが推認され、連行中に看守に対して暴行したり、逃走したりするなどの事故が発生することも予想されるからである。
(3) 原告は、前記8の三回の規律違反行為及び後記10(一)(2)の際に、保安課へ連行されているが、それらの際の連行態様も、前記(1)と同様であった。
(二) 受刑者に規律違反行為の疑いがあった場合には、その場において取調べに付すか否かを決定することは適当ではなく、保安課等事実関係の確認に適した別の場所へ当該受刑者の身柄を移動させることには合理性があると解されるところ、右(一)(2)のとおり、当該受刑者が特殊な心理状況に陥るおそれが強いことから、移動に際しては、不測の事態に備えて、ある程度安全を確保する態様を取る必要性が認められる。そして、宮城刑務所が原告に対して取っていた連行の方法は、同(1)及び(3)のとおり、二人の看守が両脇から原告の腕を取って連行するというに止っており、右安全確保のためには最低限の措置と解されるところから、その態様においても、合理性を認めることができる。
その他、本件全証拠を総合しても、宮城刑務所が、原告に対し、理由がなく又は不必要に連行を行ったと認めることはできない。
(三) したがって、この点において違法な行為があったとは認められない。
10 昼夜独居拘禁について
(一) 証拠(乙一〇、一一号証、一三号証、吉田証言、G証言、原告本人)を総合すると、以下の事実を認めることができる。
(1) 原告は、前記二3のとおり、徳島刑務所において傷害事件を起こし、その後、事件関係者からの報復を防ぐため宮城刑務所に移監されたが、宮城刑務所においては、入所時の分類調査をした上、原告が右傷害事件を起こし、協調性に乏しい性格であったこと及び原告が勉強をしたいと述べていたことなどを踏まえ、原告を、昼間雑居、夜間独居の処遇とし、昼間は、工場で他の受刑者とともに作業に従事させていた。
(2) 原告は、平成三年一〇月九日午後一時三〇分ころ、宮城刑務所工場内の自己の作業席において、ワードプロセッサーの入力作業中、同工場交代勤務中の看守をしばしば注視する「作業中のよそ見」の規律違反行為をしたとの疑いで、保安課取調室において事情聴取を受け、取調べに付されたところ、目が疲れたことから眼鏡を外して目と目の間の部分をもんだに過ぎず、よそ見はしていない旨供述した。原告は、同月一七日の懲罰委員会においても右違法行為を否認し、右事実について原告に対して懲罰処分は行われなかった。
(3) 原告は、右懲罰委員会の席上、「よそ見くらいで連行したり、黙想等の動作規制が多過ぎる。当所の規律は厳し過ぎ、非人間的な扱いをしているので、これを緩和するよう全受刑者のために訴える。訴訟提起して闘わなくてはいけない。」等と申し立てた。
(4) これに対し、宮城刑務所長は、原告が心理的に不安定であり、原告の性格を併せて考えると、他人を扇動したり、巻き込んだり、トラブルを起こすなどして、刑務所内の規律及び秩序を害するおそれが十分認められ、かつ、原告自身、他の受刑者から保護しなければならない事態もあり得ると考えられたことから、動静観察を行う必要があり、集団処遇は適当でないと判断し、同月一八日から、原告を処遇上昼夜独居拘禁に付した。
(5) その後、右から六か月後及びその後三か月に一度の割合で、原告の出所まで、主任矯正処遇官が原告と面接して健康状態等を聴いた上で、処遇審査会の検討を経て、原告に対する昼夜独居拘禁を継続する旨の決定がされてきた。
(二) 監獄法一五条は、在監者は、心身の状況によって不適当と認める者を除くほか独居拘禁に付すことができると定め、同法施行規則二三条は、独居拘禁に付された者は、他の在監者との交通を遮断し、召喚、運動、入浴、接見、教誨、診療又はやむを得ない場合を除くほか、常に一房の内に独居させるとし、同規則二六条は、在監者の精神又は身体に害があると認めるときは在監者を独居拘禁に付すことができないとし、同規則二七条は、独居拘禁の期間は六月を超えることができないが、特に継続の必要がある場合においてはその後三か月ごとにその期間を更新できると定めている。
ただし、行刑累進処遇令二九条が、第四級及び第三級の受刑者は原則として雑居拘禁に付すものとし、同処遇令三〇条が、第二級以上の受刑者は原則として昼間は雑居させ、夜間は独居拘禁に付すこととしていることなどに鑑みれば、法の趣旨は、監獄法一五条の定めにかかわらず、独居拘禁が原則であるという立場とは解されないが、いずれにしても、独居拘禁それ自体は、懲罰ではなく、個別処遇が相当であるとされる場合に取られる処遇方法の一つであり、したがって、ある受刑者を独居拘禁に付すか否か及びその期間を更新するか否かについては、刑務所長が、法令の定めに従って、当該受刑者の処遇上の階級、心身の状況、性格、集団生活への適応の可否、施設の状況等諸般の事情を総合勘案し、その合理的裁量によって決すべき事項であると解される。
本件においては、原告が右(一)(3)のとおりの言動に及んでいること及び協調性に乏しい者であることから、宮城刑務所長が、同(4)のとおり、集団処遇は適当でないと判断したことには合理的な理由があり、原告を処遇上昼夜独居拘禁に付した点において裁量権の逸脱は認められない。
また、同(5)のとおり、原告に対する主任矯正処遇官の面接を経た上で、三か月ごとに昼夜独居拘禁の継続の可否について検討がされており、この点からも裁量権の逸脱があったとは認められない。
(三) 原告は、昼夜独居拘禁は、作業内容、余暇活動、累進級及び仮出獄において原告を不当に冷遇するものであり違法であると主張する。
しかし、まず、他の在監者との交通を遮断する昼夜独居拘禁の性格上、原告の作業内容及び余暇活動において、他の受刑者と異なる取扱いがなされなければならないことは否定できず、それは法の予定するところであると解される。本件においては、全証拠を総合しても、右の処遇上の差異に応じた取扱い以上に、作業内容及び余暇活動の点において、原告に対して不当に差別的な処遇を行ったと認めるに足りる証拠はない。
さらに、累進級及び仮出獄の審査に当たって、独居拘禁という処遇上の措置を考慮することは法令においても予定されておらず、また、本件全証拠を総合しても、宮城刑務所において、原告の累進級及び仮出獄の審査に当たり、独居拘禁に付されたことが考慮されたとは認められない。
(四) 以上から、この点において、違法な行為があったとは認められない。
11 独居拘禁の際の違法処遇について
(一) 当事者間に争いのない事実に、証拠(甲第一号証、乙第三三号証、吉田証言、G証言、原告本人)を総合すれば、以下の事実を認めることができる。
(1) 昼夜独居拘禁に付された受刑者の運動は本件運動場で行われている。そして、右運動場は、昼夜独居拘禁に付されている受刑者に対し、他の受刑者と接することなく戸外運動を行わせるために設けられたもので、宮城刑務所第四舎の北側、すなわち独居舎房から近く、連行距離が短い場所に位置し、個々の運動スペースは、幅1.75メートル、奥行き7.95メートルで、高さ二メートルの塀で囲まれている。
(2) 本件運動場は、周りに建物等があるため、季節及び時間帯によっては陽が当たらないこともある。
(二) そこで、季節及び時間帯によっては日照のない状態で戸外運動を行わせている点の適法性について検討する。
監獄法三八条は、在監者にはその健康を保つのに必要な運動を行わせるとし、同法施行規則一〇六条は、作業の種類その他の事由で運動の必要なしと認める者以外の在監者には、雨天のほか毎日三〇分(独居拘禁に付された者に限って一時間以内に伸長することができる。)以内、戸外において運動をさせるものと定めている。
運動を行わせる目的は、監獄法三八条から明らかなように、受刑者の健康を保つためであり、同法施行規則一〇六条が戸外での運動について言及している趣旨は、日光に触れる機会が与えられることが右健康の維持にとって望ましいからであると解される。しかしながら、右各規定は、運動は必ず日光に触れ得る条件下で行わなければならないという趣旨ではなく、このことは、雨天の場合においては、戸外運動を行わなくともよいとされていることからも明らかであり、同時に、当該刑務所の設置状況等から、常に陽の当たる運動場を確保することが、物理的あるいは予算的に困難な場合も、当然に予想されるからである。
このようなことからすれば、昼夜独居拘禁に付された者を季節及び時間帯によっては必ずしも日照が十分とは言い難い本件運動場で運動させることがあったとしても、それだけでは直ちに違法とすることはできず、個別具体的に受刑者の健康に悪影響が生じたかどうか、あるいは、生じ得ることが予見される状況下で、他の措置が取られるべきところ、これがなされなかった場合に初めて、右各規定の趣旨に反する違法の問題が生じるものと解するのが相当である。
本件において、原告は、日照権を侵害されたために、視力低下等著しい健康上の被害が生じた旨主張するが、右のとおり、本件運動場は、必ずしも陽が当たらない場所であるということはできないこと、右視力低下等の事実及び程度並びに日照不足との因果関係については、これらを認めるに足りる証拠はないこと、宮城刑務所長が、前記10(一)(5)のとおり、独居拘禁に付してから六か月後及びその後三か月ごとに、主任矯正処遇官が原告に面接して健康状態等を聴いた上で、原告に対する昼夜独居拘禁を継続する旨の決定がなされてきた経過にも鑑みれば、この点についても、違法な行為があったとは認められない。
12 訴訟妨害について
この点について、原告は訴訟書類の作成について、一通ごとに煩雑な手続を要するのは、原告の訴訟活動に対する違法な制限である旨主張する。
しかしながら、被告の主張する「認書願」を提出しなければならないとする取扱いの理由、すなわち、通常所持することを許可されていない文具等を購入、所持させなければならないこと、特別の物品を所持させるため、かつ、作成する文書の性質上、独居房への転房が必要であること、認書を実施する受刑者は、その精神状態が不安定であることが多く、動静について注意を払う必要があること、並びに作成者の意思を明確にさせる必要があることといった理由には合理性が認められ、それらの判断は、文書の性質等によっても異なる可能性があるから、許可も一通ごとに行うことを原則とする取扱いにも必要性が認められる。
また、証拠(原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告の認書願は不許可になったことがないことが認められ、その他、宮城刑務所が原告の訴訟活動を不当に妨害したことを認めるに足りる証拠もない。
したがって、この点において違法な行為があったとは認められない。
四 結論
以上によれば、原告の被告に対する請求は、前示三8の宮城刑務所における被告の違法行為を原因とする損害として金五万円及びこれに対する平成三年一一月三〇日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官梅津和宏 裁判官細田啓介 裁判官常盤紀之)
別紙<省略>