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仙台地方裁判所 平成3年(行ウ)4号 判決 1992年3月25日

原告

安本一郎

被告

仙台労働基準監督署長

右指定代理人

中島勝

齋藤信一

斎藤秀夫

瀧口亨

土田富男

今野隆三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が原告に対し昭和六二年二月一〇日付けでなした労働者災害補償保険法による休業補償給付を支給しない旨の処分を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、概略別紙のとおり、さく岩機を使用する業務に従事していたところ、昭和六一年五月二七日から同年九月三〇日まで振動病のため療養し、右期間中労働することができなかったとして、昭和六一年一一月二一日会津労働基準監督署長に対し同年一〇月一七日付けで同年五月二七日から同年九月三〇日までの間の休業補償給付請求書を提出した。

同署長が原告のさく岩機使用歴を調査したところ、さく岩機を使用した最後の事業場は、福島県耶麻郡熱塩加納村地内地蔵沢橋下部工事、元請負は三菱建設株式会社仙台支店であることが判明し、同支店が加入する労働保険は仙台労働基準監督署の管轄であるところから、昭和六二年一月九日付けで休業補償給付支給請求書関係書類を被告に送付し、被告は同年一月一二日これを受理した。

2  被告は原告に対し、原告の疾病は業務上の疾病とは認められないとして、昭和六二年二月一〇日付けで休業補償給付を支給しない旨の処分(以下「本件処分」という。)を行い、同日付けで不支給決定通知書を原告に送付した。

3  原告は本件処分を不服として宮城労働災害補償保険審査会に対し審査請求をしたが、昭和六三年一〇月一七日付けで棄却され、右決定を不服として同月二八日労働保険審査会に対し再審査請求を行ったが、平成三年二月一四日付けでこれを棄却する旨の裁決がなされ、裁決書は同月二八日原告に送達された。

4  しかるに、被告の原告に対してなした本件処分は違法であるから、本件処分の取消を求める。

二  請求の原因に対する認否

請求原因事実1の前段は否認し、後段は認め、同2及び3は認め、同4は争う。

三  抗弁

1  本件処分の適法性

(一) 原告は、昭和三〇年頃から昭和六〇年一〇月頃まで各建設工事現場等において、長時間にわたりさく岩機を使用する業務に従事したため振動病が発症したと主張するが、右主張が認められるためには、原告のいう振動病が業務上の疾病であること、すなわち業務起因性、換言すれば、業務と振動病との間に相当因果関係がなければならない。しかるに、原告の疾病は以下のとおり振動障害とは異なる疾病であって、振動業務と原告の疾病との間に相当因果関係があるとはいえない。

(二) 振動業務歴の状況について

原告は、休業補償給付の支給請求に際し、自己の振動業務従事歴につき発破作業従事職歴及び関係事業場の証明書を提出した。これによれば、原告の振動業務の従事歴は通算一一年六ケ月であり、この間におけるさく岩機使用歴についての一部関係事業場の証明によると、従事期間は年間あたり、短くて四ケ月から長くて一一ケ月に及んでおり、全従事期間を通じた平均で三ケ月ないし六ケ月程度の断続的従事となっている。

また、昭和五二年六月ないし一〇月の第二沼沢沼発電所道路拡張工事におけるさく岩機使用状況について、渡辺組は一日平均六時間としているのに、原告は一日二ないし三時間使用したと供述しているところからみても、関係事業場の証明も必ずしも正確なものとは認められず、原告の振動業務従事歴の正確性については疑問がある。

(三) 治療経過等の状況について

原告は、昭和六一年一二月三日、被告係官の事情聴取に対し、昭和三八年頃只見川中発破工事、昭和三九年頃国道七号線バイパス工事及び昭和五三年頃国道拡張工事に従事中、それぞれ両手指のしびれ、肩こりがあったと供述している。また、昭和五三年一二月から昭和五七年六月までの三年七ケ月間及び昭和五七年一一月から昭和六〇年一〇月までの三年間私病のため治療を受け、そのうち入院は通算すると約五七日間であるが、その間両手指のしびれ、肩こり等の治療は一切行っていない。したがって、右事実からは原告の症状の程度は、治療を必要とする自覚症状まで至っていない。

(四) 医証について

(1) 原告を診察した各医師は、レイノー現象について、本人による自訴はあるが未確認であるとしていることから、レイノー現象は認められない。

(2) 原告の末梢循環障害、末梢神経障害、運動機能障害の検査結果に対する医師の所見は以下のとおりである。

イ 末梢循環障害については、入澤、大平両医師は認められないとし、中島医師は認められるが著明ではないとしている。

ロ 末梢神経障害については、入澤医師は認められないとしているが、大平、中島両医師は認められるとし、中島医師は右障害について老化現象と合併していると診断する。

ハ 運動機能障害については、入澤、大平医師は認められないとし、中島医師は認められるとする。

ニ 大平医師は総合所見において振動障害を否定し、中島医師も原告の障害は老化現象と合併しているものと思われるとし、レントゲン検査では第五―六、第六―七頸椎に椎間板腔の狭小化と椎間孔の狭小化が認められると診断し、原告の診断名は両肩甲関節周囲炎(又は両肩関節周囲炎)であると認める。

以上のとおり、原告を診察した各医師の所見を総合的に判断すると、末梢循環障害、末梢神経障害は著明なものと認められず、運動障害についても老化現象及び退行性変化等の原因によるものと認められ、振動障害によるものとは考えられない。

2  ところで、労働基準法七五条二項は、補償の対象となる業務上の疾病は命令で定めることとし、同法施行規則は三五条において「法第七十五条第二項の規定による業務上の疾病は、別表第一の二に掲げる疾病とする。」と規定し、同表第一の二は、三号に「身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する次に掲げる疾病3さく岩機、鋲打ち機、チェーンソー等の機械器具の使用により身体に振動を与える業務による手指、前腕等の末梢循環障害、末梢神経障害又は運動器障害」に該当する障害を業務上の疾病としている。

3  そして、労働省は振動障害の認定にあたり、昭和五二年五月二八日付け基発三〇七号労働基準局長通達「振動障害の認定基準について」(以下「認定に関する労働省の運用基準」という。)を定め、認定業務を行っている。

右運用基準では、振動業務従事期間及び検査、診断の具体的な取扱について、次のとおり定めている。

「さく岩機、鋲打機、チェーンソー等の振動工具を取り扱うことにより身体局所に振動ばく露を受ける業務(以下「振動業務」という。)に従事する労働者に発生した疾病であって、次の(一)及び(二)の要件を満たし、療養を要すると認められるものは、労働基準法施行規則別表第一の二第三号3に該当する業務上の疾病として取り扱うこととされている。

(一) 振動業務に相当期間従事した後に発生した疾病であること。

(二) 次に掲げる要件のいずれかに該当する疾病であること。

<1> 手指、前腕等にしびれ、痛み、冷え、こわばり等の自覚症状が持続的又は間けつ的に現われ、かつ、次のイからハまでに掲げる障害のすべてが認められるか、又はそのいずれかが著明に認められる疾病であること。

イ 手指、前腕等の末梢循環障害

ロ 手指、前腕等の末梢神経障害

ハ 手指、前腕等の骨、関節、筋肉、腱等の異常による運動機能障害

<2> レイノー現象の発現が認められた疾病であること。

4  また、右運用基準は、振動業務従事期間及び検査、診断の具体的な取扱について、次のとおり定められている。

(一) 前記1(一)の振動業務の従事歴については、原則としておおむね一年以上又はこれを超える期間をいうものである。

(二)前記1(二)の症状及び障害については、不快感、睡眠障害等の自覚症状が見られること。

(三) 末梢循環障害、末梢神経障害及び運動機能障害の把握は、手指の皮膚温の変化、爪圧迫の回復時間を測定する末梢循環機能検査、手指の痛覚、指先の振動覚についての末梢神経機能検査、握力、維持握力、つまみ力、タッピング数等についての運動機能検査結果の評価による。

(四) レイノー現象の確認は、医師が視認又は客観的な資料によってその発現の有無について判断したところによる。

5  原告の症状は、認定に関する労働省の運用基準はもとより、原告の振動業務従事歴、治療経過、医師の所見等に照らすと、施行規則別表第一の二第三号3に規定する障害には該当せず、被告が原告にした本件処分は適法である。

第三証拠

本件書証目録記載のとおりであるからこれを引用する(略)。

理由

一  請求原因事実1の後段、同2及び3については当事者間に争いがない。

二  そこで抗弁(本件処分の適法性)について判断する。

方式及び趣旨により成立を認める(証拠略)の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

1  原告のさく岩機使用業務従事歴

原告のさく岩機を使用する業務の従事歴は、概略別紙(略)(ただし、二行目(川崎市)を(秩父市)に、一三行目「一日平均六時間」を「一日平均八時間」に改める、)のとおりと認められる。そうすると、原告の振動業務への従事歴は通算約一一年六ケ月となるが、昭和五三年以降の削岩機の使用は四ケ月程度となる。

2  原告の症状の発生経緯について

原告(大正九年九月一二日生)は、(一)昭和三八年頃会津若松市の只見川中発破工事に従事中、両手指がしびれ、肩こりを感じたが、水中の作業のためであろうと思いさく岩機の使用を続けたこと、(二)昭和三九年五月から一一月にかけての村上市の国道七号線バイパス工事のためさく岩機を使用し山を削る作業に従事したが、右只見川の工事のときほどではないが両手指にしびれ感があり、肩こりがあったこと、(三)昭和五二年六月から一〇月頃まで、第二沼沢発電所道路工事現場でさく岩機を使用したこと、その際手のしびれと肩こりがあったこと、(四)昭和五三年六月から一一月頃まで下郷町国道拡張工事でさく岩機を使用したこと、右工事現場は岩盤が悪く腕が痛く、手のしびれもあったこと、この頃まで、両手のしびれ、肩こりの症状は只見川の工事の時とほぼ同じ症状が続いたこと、(五)昭和五七年七月から一〇月に栃木県の川俣ダム床堀工事のためさく岩機を使用し、川の中の岩を削る業務に従事していた時肩の痛みと手のしびれが激しくなったこと、この時から手指先が白くなるようになったことが自覚症状としてあった。

3  原告の診断結果について

(一)  原告は昭和六一年六月二五日福島県会津若松市財団法人武田総合病院医師中島俊則の診察を受け、振動病と診断されたとして、本件給付請求をし、被告は昭和六二年一月二九日付けで原告に対し労災保険法四七条の二に基づき受診命令を行い、同年二月二日福島県喜多方市所在の医療法人社団日新会入澤病院医師入澤柏氏の診察がなされ、さらに労働保険審査官から東北労災病院に鑑定の依頼がなされたため、昭和六三年四月二七日同病院医師大平信広の診察が行われた。

(二)  財団法人竹田綜合病院医師中島俊則の診断

(1) 原告は、自覚症状として、レイノー現象軽度異常、手指前腕のしびれ・不快感中等度異常、下肢のだるさ、肩こりを訴える。

(2) 視触診等による診断では、爪の変化、指の変形、上肢全体・骨・関節の変形・異常、皮膚異常、上肢の運動機能の異常、運動痛、筋萎縮、筋圧痛・硬結はいずれも認められないが、高血圧、耳鼻科疾患が認められる。

(3) レイノー現象は未確認である。

(4) 末梢循環障害、末梢神経障害及び運動機能障害はいずれも認められる。

(5) 頸椎第五―六、第六―七の椎間板の変性と狭小化がみられ、椎間孔の狭小化も認められる。

(6) エックス線検査では頸椎五―六、六―七に椎間板腔の狭少(ママ)化と椎間孔の狭小化がみられる。

(7) 医師総合所見として、「レイノー症状や循環障害は著明なものではなく、末梢神経や運動機能の障害は頸部脊椎症即ち老化現象と合併して発症しているものと思われる。振動病と頸椎症あるいは加齢のための症状の鑑別は困難である。現症状から見ると振動工具はもちろん重労働は禁止すべきであり療養することが望ましいと考えられる。」

(8) また、同医師が昭和六三年二月一七日宮城労働者災害補償保険審査官に提出した意見書の中では、以下のとおり述べる。

傷病名を「両肩関節周囲炎」とし、「主訴及び自覚症 両手指のしびれ感、両肩周囲の疼痛、下肢のだるさ、両前腕にもしびれ感は軽度にあり、両手の示指、中指、環指、小指の近位指関節以下には常にしびれ感がある。両手指の振顫、依頼事項にかかる意見として、ア主訴及び自覚症からはS1(認定に関する労働省の運用基準別添振動障害の治療指針記載の自覚症状・身体所見及び検査成績の症度区分表(以下「症度区分」という。)には、「S1はレイノー現象が時々出現する又は手指の冷え、しびれ等の症状が間欠的にある。」ことをいう。)又はS2(「症度区分」には、「S2はレイノー現象が頻発する又は手指の冷え、しびれ等の症状が一定期間持続的にある。」ことをいう。)に相当すると思われるが、レイノー現象は確認していない。常温下皮膚温と爪圧迫は正常だが、冷水負荷での皮膚温と爪圧迫は中等度の異常があり、L1(「症度区分」には、「L1は常温下皮膚温・爪圧迫、冷水負荷皮膚温・爪圧迫軽度異常」)又はL2(「症度区分」には、「常温下皮膚温・爪圧迫、冷水負荷皮膚温・爪圧迫中等度異常」)に相当する。

末梢神経障害についてみると、主訴自覚症状からみると季節にかかわらず、しびれが続いているとのことで、S3(「症度区分」には、「知覚鈍麻が高度にある又は手指前腕のしびれ、痛み等の症状が常にある。」ことをいう。)に相当し、常温下痛覚・振動覚及び冷水負荷での痛覚振動覚ともに中等度に障害されており、L2(「症度区分」には、常温下痛覚・振動覚、冷水負荷痛覚・振動覚中等度異常」)と判定される。したがって、総合するとS1―L2、S3―L2となり、末梢循環障害と末梢神経障害があると思われる。」

(9) さらに、同医師は原告の傷病名を休業補償給付支給請求書では「振動病」としているのに対し、右意見書では「両肩関節周囲炎」としたことについて、審査官の照会に対し、次のように述べて、当初の傷病名は誤りであったとして、「振動病」を否定している。

「振動病としての診断はいまだ確立している訳ではないので、現在のところは両肩関節周囲炎ないしは変形性頸椎症としての治療を行っており、六一年一〇月の診断書に振動病となっているならば、それは明らかに誤りである。現在の治療の診断名は両肩関節周囲炎(又は両肩関節周囲炎)とすべきである。」

(三)  医療法人社団日新会入澤病院医師入澤柏氏の診断

(1) 自覚症状として、レイノー現象、手指前腕のしびれ、不快感、痛み及び冷えは軽度異常を認める。

(2) 視触診等として、上肢の運動機能の運動痛及び筋圧痛・硬結に軽度異常を認める。

(3) レイノー現象は自訴があるが未確認である。

(4) 末梢循環障害、末梢神経障害及び運動機能障害はいずれも認められない。

(5) エックス線検査で変形性頸椎症(椎体辺縁に骨棘形成をみる)

(6) また、同医師が昭和六二年二月九日に被告に提出した意見書には、以下のとおりの記載がある。

諸検査の結果、患者の感覚を通しての検査(触覚痛覚)及び手指のしびれ等には末梢神経領域に一致しない異常を認める。又関節には圧痛及び運動痛を訴える腫張や変形なく関節可動域の制限もない。且尺骨神経の肥厚、脱臼も認められない。

皮膚温検査にては、皮膚温の低下もなく、爪圧迫テストも異常がない。冷却負荷試験でも特記すべき所見なく皮膚温、及び爪圧迫テスト、振動覚等でそれぞれの回復にも異常はみられない。

脉波検査にても負荷前負荷後共にその平低化もなく又異常波形も認められない。

エックス線にては、手指及び手根骨にも骨萎縮や褒胞形成の所見もない。肘間節では両橈骨小頭及び上腕橈側顆部に骨棘形成及び外側の副靭帯に一致した部分的骨化像を認めるも骨萎縮の所見はみられない。肩関節には特記すべき所見なし。

頸椎では変形性頸椎症の所見のみで椎間孔の狭少化もない。

さらに、両上肢の徒手筋力テストではおのおのすべて正常の力を有し、特に筋力の減退は認められず、以上の所見から握力減弱の原因を証明することはできない。

以上の結果より、手指の疼痛及び知覚違和感は頸椎の変形性病変に起因するものと思われ特に振動機使用との相関は証明しがたい。」

(四)  東北労災病院医師大平信広の診断

(1) 自覚症状としてレイノー現象、手指前腕のしびれ・不快感に軽度異常を認め、両肘関節痛、両肩関節痛を認める。

(2) 視触診等は、爪の変化、指の変形、皮膚異常、筋萎縮、筋圧痛・硬結はいずれも認められず、上肢全体・骨・関節の変形・異常、上肢の運動機能の異常、上肢の運動機能の運動痛も認められない。

(3) レイノー現象は自訴があるが未確認である。

(4) 肘関節の運動制限があり、可動域左一〇度から一二〇度(一〇度屈曲拘縮)、右一五度から一二〇度

(5) エックス線検査

両側肘関節には骨棘形成、関節裂隙、狭小化がある。特に右側は高度である。頸椎五―六、六―七椎間板の狭小化、頸椎六―七椎間孔の狭小化を認める。

(6) 末梢循環障害、末梢神経障害はいずれも認められず、運動機能障害は認められる。両肘関節の異常を認める。

振動障害以外の疾病、既往症のうち特記すべきものがあると考えられる場合の所見として、両側肘関節には骨棘形成、関節裂隙狭小化などがあり、運動域の制限もある。頸椎五―六、六―七椎間板狭小による手指神経症状がある。

(7) 医師総合所見として、振動障害ではない。しかし長期間の労働による両側の肘関節の痛みには業務との関連も多少考えられるが、退行性変化によるものが大と考えられる。頸部に由来する症状は退行性変化によるものと考えられる。

(五)  以上(二)ないし(四)を総合すると、(1)原告のレイノー現象は、自訴のみで医師により確認されていない、(2)振動障害に関する各種検査結果をみると、中島医師は末梢循環、末梢神経、運動機能の各障害がいずれも認められるとするが、「循環障害は著明なものではなく、末梢神経や運動機能の障害は老化現象と合併して発症しているものと思われる。」とし、(3)大平医師は原告の傷病名を肘部関節症とし、末梢循環、末梢神経の各障害は認められないが運動機能障害のみ認められるとし、原告の両手指症状には頸椎由来のものであり、退行変性によるものと考えられる、両側肘関節のレントゲンでは関節裂隙間狭小化が著明であり退行性変化と考えるが、労務にも多少関連した変化と考えられ、退行性変化によるものが大と考えられる、としていることが認められる。

入澤、大平両医師は原告の病名を振動病ではないとし、大平医師は原告の傷病名を肘部関節症と診断し、本件休業補償給付支給請求書に振動病と記載した中島医師も現行に傷病名を「両肩関節周囲炎」と現在は変更していることが認められる。

4  以上の事実に照らすと、(1)原告の業務従事歴も一部不明確なところがあり、昭和五三年以降は原告の申告によっても四ケ月程度しか振動業務に従事していないこと、(2)原告は、昭和三八年以降、手指のしびれ等の自覚症状を訴えているが、診療を受けていないこと、(3)原告の症状は原告を診断した医師の診療結果によると、振動障害とはみとめることはできず、労務にも多少関連した変化と考えられるが、加齢による退行性変化が大であると考えられること、(4)振動業務の負荷により原告の症状の程度が著しく増悪されたと認めるに足る証拠は存在しないことから、原告の症状と原告が従事した振動業務との間に相当因果関係を認めることはできず、右事実を覆すに足る証拠はない。したがって、被告が原告に対し行った本件処分は適法であるから、原告の請求は理由がない。

よって、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 宮村素之 裁判官 片瀬敏寿 裁判官 青山智子)

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