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仙台地方裁判所 平成9年(行ウ)6号 判決 1999年2月15日

仙台市青葉区宮町四丁目五番三七―一〇一号

原告

日本都市開発株式会社

右代表者代表取締役

黒田正義

右訴訟代理人弁護士

佐々木洋一

仙台市青葉区上杉一丁目一番一号

被告

仙台北税務署長 岡本善吾

右指定代理人

大塚隆治

粟野金順

佐藤富士夫

阿部修

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対し、原告の平成元年六月一日から平成二年五月三一日までの事業年度の法人税について、平成六年七月八日付でした更正のうち所得金額五六一九万二七六六円及び納付すべき税額一八七六万八四〇〇円をそれぞれ超える部分並びに重加算税の賦課決定処分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、被告が、原告に対し、原告の平成元年六月一日から平成二年五月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、平成六年七月八日付けで更正処分及び重加算税賦課決定処分(以下それぞれ「本件更正処分」、「本件重加算税賦課決定処分」といい、双方を合わせて「本件各処分」という。)を行ったところ、原告が、本件各処分は請求の限度で違法であると主張して、その取消しを求めた事案である。

二  争いがない事実

1  本件各処分及び本訴に至る経緯は、別表「課税の経緯一覧表」記載のとおりである。

(一) すなわち、原告は、阿部利明(以下「阿部」という。)に対し、平成元年九月二一日、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)及び複写機等の什器備品等(以下「本件什器備品」といい、本件不動産と合わせて「本件不動産等」という。)を代金三億円で譲渡したとして、本件事業年度の法人税について、法定申告期限内の平成二年七月三一日、次のとおり確定申告した(別表<1>参照)。

所得金額 一七二五万二一七二円

納付すべき税額 三一九万二四〇〇円

(二) 原告は、平成四年八月三日、本件事業年度の法人税について、次のとおり修正申告した(別表<2>参照)。

所得金額 五六一九万二七六六円

納付すべき税額 一八七六万八四〇〇円

(三) 被告は、原告に対し、同月二四日、本件事業年度以後の青色申告の承認の取消処分をし(別表<3>参照)、さらに、翌二五日、本件事業年度の法人税の申告について、次のとおり更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした(別表<4>参照)。

所得金額 一億八一三五万四六六三円

納付すべき税額 六八八三万三二〇〇円

過少申告加算税 四七万九〇〇〇円

重加算税 二一四七万九五〇〇円

(四) 原告は、被告に対し、同年一〇月二三日、右各処分を不服として異議申立てをした(別表<5>参照)。

被告は、平成五年一月一九日、原告の右異議申立てをいずれも棄却するとの決定をした(別表<6>参照)。

(五) 原告は、国税不服審判所長に対し、同年二月一九日、異議決定を経た後の更正処分等を不服として審査請求をした(別表<7>参照)。

国税不服審判所長は、原告の右審査請求について、平成六年四月二二日、青色申告の承認の取消処分を取り消し、更正処分については棄却し、賦課決定処分については次のとおり一部を取り消すとの裁決をした(別表<8>参照)。

過少申告加算税 二六七万一五〇〇円

重加算税 一六〇三万三五〇〇円

(六) 被告は、右裁決を受けて、同年六月二八日、次のとおり前記平成四年八月二五日付けの更正処分等を取り消した(別表<9>参照)。

(1) 取り消した金額

所得金額 一億二五一六万一八九七円

納付すべき税額 五〇〇六万四八〇〇円

過少申告加算税 四七万九〇〇〇円

重加算税 一六〇三万三五〇〇円

(2) 取り消した後の金額

所得金額 五六一九万二七六六円

納付すべき税額 一八七六万八四〇〇円

過少申告加算税 二一九万二五〇〇円

重加算税 〇円

(七) 被告は、原告に対し、同年七月八日、本件事業年度の法人税の申告について、改めて次のとおり本件各処分をした(別表<10>参照)。

所得金額 一億七〇八六万七七一一円

納付すべき税額 六四六三万八四〇〇円

重加算税 一六〇五万四五〇〇円

(八) 原告は、被告に対し、同年九月九日、本件各処分を不服として異議申立てをした(別表<11>参照)。

被告は、同年一二月五日、原告の右異議申立てをいずれも棄却するとの決定をした(別表<12>参照)。

(九) 原告は、国税不服審判所長に対し、同月二九日、異議決定を経た後の本件各処分を不服として審査請求した(別表<13>参照)。

国税不服審判所長は、平成八年一二月四日、原告の右審査請求をいずれも棄却するとの裁決をした(別表<14>参照)。

2  被告の本件各処分の理由は、以下のとおりである。

(一) 株式会社大成(以下「大成」という。)は、原告に対し、昭和六一年九月三〇日、本件不動産を代金二億八〇〇〇万円で売った。

原告は、平成元年九月二一日付けで、阿部に対して本件不動産等を代金三億円で売る旨の契約書(以下「甲契約書」という。)を作成した。

阿部は、同一二月八日付けで、有限会社佐々木商事(以下「佐々木商事」という。)に対して本件不動産等を四億三〇〇〇万円で売る旨の契約書(以下「乙契約書」という。)を作成した。

(二) しかし、本件不動産等の取引の実態は、原告が佐々木商事に対し、本件不動産等を代金四億三〇〇〇万円で直接売ったものである。甲、乙契約書は、原告が佐々木商事との売買契約に中間譲受人が介在したかのように事実を仮装するために作成されたものにすぎない。

(三) したがって、原告の本件事業年度の法人税額は、本件不動産等の取引の実態に基づき、算定すべきである。

三  争点及び争点に関する当事者の主張の骨子

1  争点

本件不動産等の取引の実態は、(一)原告から佐々木商事に直接譲渡されたものが、(二)原告から阿部に譲渡された後、阿部から佐々木商事に譲渡されたものか。

2  被告の主張

(一) 本件不動産等の取引の実態は、原告が佐々木商事に対し、代金四億三〇〇〇万円で、直接譲渡したものである。

(二) 本件更正処分について

原告の本件事業年度の所得金額は、本件不動産等の取引の実態に基づき、次のとおり算定すべきである。

(1) 甲契約書記載の代金として既に申告済みの譲渡代金と、佐々木商事に対して譲渡した際の譲渡代金との差額である一億三〇〇〇万円を益金として加算し、譲渡費用として仲介手数料一二九六万円及び収入印紙代二〇万円を損金として認容する。

(2) 右譲渡益のうち、阿部が大成に対する借入金の返済に充てた九九二五万三四〇〇円は、原告から阿部に対する金銭の贈与に該当し、法人から個人に対する贈与として税法上の寄付金として損金に算入する。

(3) 右寄付金の額を本件事業年度の支出寄付金の額に加算して計算した、寄付金の損金算入限度超過額九七〇八万八三四五円を、損金の額から減算する。

本件更正処分は、こうして算定された所得金額に基づく適法なものである。

(三) 本件重加算税賦課決定処分について

原告は、本件不動産等の取引について、阿部が中間譲受人として介在したかのごとく仮装し、本件不動産等の譲渡益を圧縮し、仮装した取引に基づく法人税の確定申告書を被告に提出した。このような原告の行為は、国税通則法六八条一項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当し、本件重加算税賦課決定処分は適法である。

3  原告の主張

(一) 本件不動産等は、現実に一旦原告から阿部に譲渡された後、阿部から佐々木商事に譲渡されたものであり、甲契約書は実質を伴った真正なものであり、佐々木商事への売主は形式においても実質においても阿部である。

したがって、本件不動産等の取引について原告が阿部の介在を仮装したとの被告の主張は、事実誤認であって、これを前提とする被告の本件各処分はいずれも違法である。

(二) 仮に、本件不動産等の取引の実態が原告と佐々木商事間の直接の売買であり、本件更正処分が適法であるとしても、原告は、単に現実に取った取引形式に従って法人税の確定申告をしたにすぎず、課税要件たる事実につき隠ぺい又は仮装したものではない。したがって、本件重加算税賦課決定処分は違法である。

第三争点に対する判断

一  当事者

証拠(甲第一〇、第一一、第二五、第二六、第三三及び第三七号証並びに証人阿部及び同工藤俊昭(以下「工藤」という。)の各証言)によれば、以下の各事実が認められる。

1  原告は、土地建物の売買、仲介等を業とする株式会社であり、旅館経営、金銭貸付等を業とする大成とともに、西友企業株式会社(現株式会社アルバックスジャパン、以下「西友企業」という。)を統括法人とする西友企業グループに属している。

2  一方阿部は、ネオンサイン、屋外広告物の製作等を業とする東北造型株式会社(以下「東北造型」という。)の代表取締役である。

東北造型は、阿部がかつて代表取締役として経営していた株式会社アーバン・サイン工業(以下「アーバン・サイン」という。)の倒産後、アーバン・サインの債権者であった大成からの援助を得て設立された会社である。大成は、事業の継続による債権の回収を企図して、東北造型に大成のアーバン・サインに対する債務を引き受けさせる一方、阿部に対して設立及び経営の資金を貸し付け、対外的信用の獲得と経営管理のために大成の営業課長である工藤を東北造型の共同代表取締役に就任させている。

二  本件不動産等の取引の実態

前掲当事者間に争いのない事実に、証拠(前掲甲第三三及び第三七号証、証人阿部及び同工藤の各証言、甲第一ないし第九、第三〇、第三一、第三四及び第三九号証、乙第一、第五、第七及び第一七号証の二・三、証人佐々木伊勢夫(以下「伊勢夫」という。)の証言及び原告代表者尋問の結果)を照らしてみれば、本件不動産等の取引の実態は以下のとおりと認められる。

1  本件不動産は、ホテル南の杜とその敷地である。

大成は、昭和六〇年一一月二九日、当時原告の代表取締役であった伊藤恒の勧めに従い、転売して利益を得ようと本件不動産を取得した。

しかし、本件不動産の売却は進まず、大成に取得を勧めた原告が本件不動産を引き受けざるを得なくなった。

そこで、原告は、大成から、昭和六一年九月三〇日、本件不動産を代金二億八〇〇〇万円で買い取った。ただし、ホテル南の杜の営業は、大成名義で取得していたホテルの営業許可を原告が取り直す煩を避け、大成が原告からの委託を受けて引き続き行うこととし、その関係で本件不動産の登記も大成名義のままとされた。

2  原告は、取得当初から、本件不動産を早く売却したいとの意向で買い手を探し、伊藤恒及び当時西友企業の営業部長であった伊勢夫は、阿部に対しても、昭和六一年一〇月ころ、ホテル南の杜のネオン広告塔工事を請け負わせた際に、本件不動産の買い手に心当たりがあれば紹介して欲しい旨依頼した。

阿部が本件不動産の買い手を探したところ、昭和六三年五、六月ころ、東北造型の顧客の一人で、まるはちパチンコを経営している江崎国男から、同人自身、或いはその関係者(以下「江崎側」という。)において本件不動産を買いたいとの申出があったので、阿部は伊藤恒及び伊勢夫に江崎国男を紹介した。

そして、四億円近い金額が江崎側から提示されたものの、結局江崎側で資金を調達することができず、原告と江崎側の間の本件不動産の売買契約は不成立に終わった。

3  その後、平成元年一〇月ころ、佐々木商事から仲介業者である大倉建設株式会社及び有限会社丸文商事(以下それぞれ「大倉建設」、「丸文商事」という。)を通じて、登記名義人である大成に対し、本件不動産を買いたいとの打診がなされた。

本件不動産の所有権は既に大成から原告に移転していたものの、本件不動産が転売できるかどうかは、大成及び原告の属する西友企業グループ全体の利害得失にかかわり、原告とともに西友企業も本件不動産の売却先を探していたこと、当時、大成と西友企業は同じビルの二階、三階にそれぞれの事務所を構えていたこと、大成は主に金融取引を扱っており不動産取引は西友企業が主に取り扱っていたこと等の諸事情により、大成は西友企業の営業部長であった伊勢夫に佐々木商事との接渉を依頼した。

その後の原告、佐々木商事間の交渉は、原告側の仲介業者である丸文商事の萩営業部長と佐々木商事側の仲介業者である大倉建設との間で進められ、各交渉に先立つ丸文商事との打ち合わせは、専ら伊勢夫が原告を代理して行った。

右交渉の中で、佐々木商事から備品及びリース物件の各目録を作成するようにとの依頼がなされ、伊勢夫は、平成元年一二月一日時点で存在していた備品及びリース物件について各目録を作成した。

原告と佐々木商事は、丸文商事と大倉建設をそれぞれの仲介業者として、同月八日、本件不動産等を代金四億三〇〇〇万円で売買する旨の契約を締結した。

4  佐々木商事は、原告に対し、右同日、売買代金四億三〇〇〇万円を支払った。

原告は、株式会社アポロリース(以下「アポロリース」という。)に対する債務を担保するために、本件不動産に根抵当権を設定していたところ、右同日、右代金からアポロリースに対して被担保債権額一億七〇八七万一七一七円を支払って、根抵当権設定登記の抹消を受けるとともに、丸文商事に仲介手数料として一二九六万円を支払った。

さらに、原告は、同月一三日、東北造型の経費として阿部が大成から借り入れている債務のうち、九九二五万三四〇〇円を阿部に代わって弁済した。

三  甲契約書にかかる取引の仮装

以上の認定に対し、原告は、甲契約書の記載のとおり、阿部との間で平成元年九月二一日、本件不動産等について、引渡日を同年一二月一五日、代金三億円のうち契約日に手付金として二〇〇〇万円、引渡日に原告から一件書類の引渡しを受けた後、残代金二億八〇〇〇万円を支払うことを内容とする契約を締結し、これに基づく手付金及び残代金の支払がなされたと主張し、甲第一二ないし第一四、第二一、第二三、第三三、第三七、第三八、第四一号証、乙第二及び第七号証の末尾に添附された甲契約書、乙第四号証、証人阿部、同工藤及び同奥武彦(以下「奥」という。)の各供述中にはこれに沿う部分がある。

しかし、以下に掲記する各証拠によれば、次の事実が認められる。

1  証拠(前掲甲第一〇、第一一、第三三、第三七号証、証人阿部及び同工藤の各証言)によれば、東北造型の売上げは大成の当初の目論見に反して伸び悩み、阿部を通じた大成からの借入金は平成元年九月二一日の時点で既に一億円余りに達していたこと、本件不動産にはなかなか買い手がつかず、江崎側との契約も成立に至らず、原告はその売却先に苦慮していたこと、以上の事実を東北造型の共同代表取締役である阿部及び工藤も熟知していたことが認められる。

そして、弁論の全趣旨によっても、阿部又は工藤が、甲契約に先立ち、本件不動産の転売先を見つけていた事情は何ら窺われない。

しかるに、既に大成に対して多額の借金を抱え、自己が代表者を務める東北造型も苦しい経営状態にある阿部が、転売が困難であることを承知している本件不動産について、転売先の目途すら立たないまま、約三か月後には多額の残代金の支払を余儀なくされる売買契約を締結するというのは、経営判断の常識からして極めて不合理である。

2  証拠(前掲甲第一〇及び第一一号証)及び弁論の全趣旨によれば、阿部には東北造型からの給与以外に見るべき資産はなく、大成からの借入金も概して増加傾向にあること、アーバン・サイン当時の阿部の人脈を信用して、阿部を通じて東北造型に対する融資を続けてきた大成ですら、一度に一〇〇〇万円を超える金額を融資したことはないことが認められ、これらの事実に、東北造型の経営状態及び阿部の大成からの借入金額について先に設定した事実を合わせて考慮すれば、そもそも二〇〇〇万円もの手付金について、これを支払う能力が阿部にあったとは考え難い。

これに対して、証人阿部は、友人である川村勝夫(以下「川村」という。)から一五〇〇万円、工藤から五〇〇万円をそれぞれ借り入れて手付金を調達したと供述し、甲第三三、第三七号証(阿部及び工藤の各陳情書)及び証人工藤の供述にはこれに沿う部分がある。

しかし、阿部は被告の調査段階を通じて手付金の調達先を秘匿しており、右主張は本訴に至って初めてなされたものであること、川村及び工藤に対する借用書が証拠として提出されていないこと、弁済期も明らかに定めず、担保を取ることもないまま一五〇〇万円もの大金を貸し付けることは通常ありえず、阿部が供述するように川村が暴力団関係者であり上層部から借入れをして阿部に貸し付けたものであるとすればなおさらであること、この点、東北造型の苦しい経営状況及び阿部自身の資力を熟知している工藤についても同様の疑問がもたれること、以上の諸事実に照らしてみれば、手付金の調達先に関する証人阿部及び同工藤の供述等はにわかに採用できない。

3(一)  証拠(甲第一二、第四七ないし第五〇号証、乙第一五号証の一ないし九、第一六号証、原告代表者尋問の結果)によれば、原告の会計処理は企業グループの統括法人である西友企業によってコンピューター処理されており、原告が振替伝票を作成し、これに起票者及び決裁者が押印した後、西友企業に持ち込み、西友企業が仕訳伝票という形でコンピューター入力すると、各種会計帳簿に自動的に転記されるという手順を経て処理されること、しかるに、阿部から原告に支払われたとされる手付金に関する振替伝票(甲一二、乙一五の六)には他と異なり起票者及び決裁者による押印がないこと、手付金受領日の翌日である平成元年九月二二日には手付金と同額の二〇〇〇万円が大久保純孝(以下「大久保」という。)に不動産購入資金として仮払いされた旨の振替伝票(乙一五の七)が作成されているが、この振替伝票にも起票者及び決裁者による押印がないこと、大久保が実際に不動産を購入し、その資金に右仮払金が充てられたかどうかも明らかでないまま、右仮払金は、佐々木商事から売買契約の代金決裁がなされた後の同年一二月一九日に大久保から返戻されていること(乙一六)、以上の事実が認められる。

右によれば、阿部からの手付金の収支に限って通常の振替伝票とは異なる体裁の伝票が作成され、しかも手付金は受領日の翌日には費消されていて、佐々木商事から売買代金の支払がなされる後まで、手付金相当額は原告のもとに存在しなかったということができ、この事実も甲契約書記載の手付金が現実には交付されていないことを推認させる。

(二)  これに対し、原告代表者は、手付金の授受は西友企業の階下にある大成の事務所で行われて直接西友企業に納入され、その会計処理上、振替伝票は西友企業側で作成されたため原告側の押印がないにすぎないと供述し、これに沿う内容の手付金の授受に関する仕訳伝票(甲一三)、会計日記帳(甲一四)、総勘定元帳(甲二一)、補助簿(甲二三)、領収証(甲四一)及び証人阿部、同工藤、同奥の各供述が存在する。

(三)  しかし、原告代表者は当時、原告の取締役として営業を担当しており、本件不動産等の交渉の現場に立ち会ったことがなく、手付金に関する振替伝票の処理についての同人の供述は推測にすぎないこと、原告の営業課長として阿部との売買家やに立ち会ったとする証人奥によれば、原告は手付金額及びこれが現金で支払われることを予め知っていたというのであり、そうだとすれば振替伝票を原告側で起票して持参することも可能であったこと、大久保への仮払いの原資が手付金であるなら、既に西友企業に持ち込まれた手付金を引き出すとの会計処理に、他と異なるところはないにもかかわらず、その振替伝票にも原告側の押印がないことについて原告から合理的な説明がなされていないこと等に照らしてみれば、手付金の収支に関する前記原告代表者の供述、仕訳伝票及び各種会計帳簿はいずれも採用できない。

また、手付金二〇〇〇万円の受け渡し状況、とりわけ原告から領収証が実際に交付されたかについて、証人工藤はあいまいな供述に終始していること、証人阿部及び同工藤の尋問を通じて繰り返し領収証の存否が問題となっていたにもかかわらず、これに関する原告の領収証(甲四一)は口頭弁論終結日間際に至って初めて提出されたものであること、本訴に先立つ税務調査の際も常に手付金の授受が問題視されていたのであるから、実際に領収証を交付したのであれば、原告にとって最も確実な証拠となり、原告が保管していてしかるべき領収証の控や、阿部の協力を得て入手することが容易な領収証の写しをまず提出することが考えられるのにこれらの書類を提出しておらず、その後なされた賦課決定処分に対する異議申立においてもこれらを添付することはもちろん、その存在に言及すらしていないこと等に照らしてみれば、右甲第四一号証、証人阿部、同工藤及び同奥の各供述もまた採用の限りでない。

4  さらに、平成元年九月二一日付の甲契約書(乙第二及び第七号証の末尾に添附)には、同年一二月八日付の乙契約書(乙第五号証の末尾に添附)に添付されている同月一日付「南の杜備品」、「備品等」とそれぞれ題する書面(以下「備品目録」という。)と同一の備品目録が添付されているところ、右各書類の作成日付からみると、甲契約書が実際に作成されたのは右備品目録の作成日付である平成元年一二月一日以降であると推認される。

これに対して、原告は、乙第二及び第七号証の末尾に添附されている甲契約書は、乙契約を締結するにあたり佐々木商事側から備品目録の作成要求を受けて作成し直したものであり、当初の甲契約書には備品目録が添付されていなかったと主張し、阿部の陳述書(甲第三三号証)、工藤の質問てん末書(乙第七号証)、証人阿部、同工藤及び同奥の各供述中にこれに沿う部分がある。

しかし、弁論の全趣旨によればそもそも当初の甲契約書は現存していないことが認められ、また、佐々木商事側には甲契約書を作成するメリットは何もないから、佐々木商事がが右契約書を作成し直すことを要求するとは考え難い。のみならず、伊勢夫の陳述書(甲三九)によれば備品及びリース物件の内訳には変動があるというのであって、乙契約書に添附する備品目録と同一のものを添付した甲契約書を作成し直したところで何の意味もない。したがって、原告の右主張は採用できない。

5  さらに原告は、阿部が甲契約に先立ち本件不動産等の売却権限を取得していたと主張し、江崎側との交渉には専ら阿部があたったこと、本件不動産には昭和六三年六月二〇日の売買予約を登記原因とする阿部名義の所有権移転請求権仮登記(甲二ないし六)がなされたこと、この仮登記は江崎側からの要請を受けて、本件不動産が阿部の所有に帰することを示すために具備されたこと等をその事情として挙げる。

しかし、江崎側との交渉は契約成立予定日が決められるまでに進んでいたにもかかわらず、証人工藤のみならず同阿部もが、江崎側の買い主の氏名を知らず、代金額についてもあいまいな供述に終始していること、江崎側との交渉の前には常に西友企業の事務所で打ち合わせがなされていること(阿部の手帳(甲三四)の七月五日、同一四日の各欄参照)に照らしてみれば、江崎側との交渉にも阿部が当事者として関与していたとの原告の主張は到底採用できない。

また、原告と阿部の間で本件不動産について売買予約がなされたことを示す合意書等が存在せず、阿部の手帳(甲三四)にも売買予約及び仮登記手続に関する記載がないことは、原告の主張する仮登記が取引の実体を反映していないことを窺わせる。

さらに、昭和六三年六月二〇日から契約予定日である同年七月一五日までの間に、阿部が仮登記を具備したことを江崎側に報告し、又は江崎側でこれを確認したとの事情を窺わせる証拠はなく、江崎側から本件不動産に関する阿部の権限を明らかにするように要請されたとの原告の主張も採用の限りではない。

6  加えて、阿部の一九八九年(平成元年)版の手帳である乙第一四号証には、原告が甲契約書の調印日と主張する九月二一日及びその前後の欄に、契約締結の予定や関係者との会合の予定等、これに関する記載がない。

これについて、証人阿部はすべての予定を手帳に記載しているわけではなく、記載には粗密があると供述する。

しかし、乙第一四号証と阿部の一九八八年(昭和六三年)版の手帳である甲第三四号証を照らしてみれば、阿部は、一日に数か所の現場をまわって工事を行ったり、得意先との打ち合わせに出掛けることが多いこともあってか、比較的細かくその日の予定を手帳に書き記していることが認められる。

そして、本件不動産等の取引に関しても、江崎側との交渉の経緯は、昭和六三年五月一六日現地案内、同年六月三日江崎国男からの買受け申出と大成への報告、同月二九日及び同年七月五日打ち合せ、同月八日江崎国男らの来社、同月一五日契約締結予定による待機、同月一七、一八日契約不成立後の江崎国男らの来社等と事細かな記載があり、また、佐々木商事との売買契約についても、平成元年一二月八日欄に打ち合せ及び契約締結の予定が記され、翌九日にも打ち合せの記載がある。

しかるに、甲契約書にかかる取引は、阿部自身が買受人と代金支払義務を負う点で江崎側との交渉の仲介や佐々木商事への売買契約とは異なる重要性をもつ事項であり、甲契約書の調印にあたっては、これに先立ち、原告との間で代金及び手付金の各金額、支払時期及び支払方法について打ち合わせを行い、資金の借入先を見つけ、借入先との間で借り入れ条件、返済方法等について打ち合わせを行うことが不可欠であると思われるのに、手帳には契約締結日のみならずこれら事前の準備に関する予定も含めてこの点に関する記載は一切なく、極めて不自然と言わざるを得ない。

これらの事実に照らしてみれば、甲契約にかかる取引について単なる記載漏れであるとの証人阿部の供述は採用できず、これに関する記載が一切ないことは、右取引の存在自体を疑わせるものである。

7  さらに、阿部の被告に対する確認書である乙第三号証によれば、阿部は被告の調査の当初、甲契約書及び乙契約書にかかる取引の経過、契約書の作成、代金決済の一部については知らず、大成に対する借金が減額されると聞いて、伊勢夫が準備したと思われる契約書、領収証等の書類に単に署名、押印したにすぎないと述べていることが認められる。

これに対し、証人阿部は、右確認書(乙三)は初めて税務署に呼ばれて、被告職員に囲まれた異様な雰囲気の中で、被告に言われるがままに書いた文章にすぎず、本件不動産等の取引に関する内容は阿部の認識と異なるものであったことから、後日、確認書(乙四)を書き直して被告に提出した旨供述し、これには本件不動産等の取引について原告の主張に沿う詳細な記載がある。

しかし、阿部は、乙第四号証の確認書は税務署に呼ばれたことを工藤に報告した後に作成したと供述しているところ、原告の主張に沿うその記載内容には、前記認定のとおり不自然、不合理な点が多く、にわかに採用し難い。

そして、阿部が甲契約書に添付された備品目録の内容、添附に至る経緯及びその作成時期についていずれも記憶が明らかでないと証言していることも考慮すると、乙第三号証の方が事実に則するもので、阿部は当事者として本件不動産等の取引に実質的に関与したことはなく、形式的に甲契約書の作成に協力して署名押印したにすぎないことが認められる。

8  以上に認定してきた事実を総合すれば、甲契約書は本件不動産等の取引の実体に反して、あたかも阿部が本件不動産等を買い受けたように仮装するために作成された書面であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  乙契約書にかかる取引の仮装

原告は、甲契約書のとおり本件不動産を買い受けた阿部が売主となり、佐々木商事との間で、それぞれ丸文商事と大倉建設を仲介業者として、平成元年一二月八日、本件不動産等を代金四億三〇〇〇万円で売買する旨の乙契約書記載の契約を締結し、同日、右代金から、原告に甲契約の残金として二億八〇〇〇万円(このうち一億七〇八七万一七一七円は、原告のアポロリースに対する債務の弁済に充てられた。)、丸文商事に仲介手数料として一二九六万円が支払われた後、同月一三日、阿部の大成に対する債務のうち九九二五万三四〇〇円が支払われ、残余は阿部が取得して他の債権者への返済や遊興費として費消したと主張し、甲第一〇、第一一、第三三、第三七、第三九号証及び乙第一三号証、甲第一五ないし第二〇、第二二、第二四、第四二ないし第四六号証、乙第一七号証の二・三、証人阿部、同工藤及び同伊勢夫の各供述中にはこれに沿う部分がある。

しかし、以下に掲記する各証拠によれば、次の事実が認められる。

1  証拠(前掲甲第三九号証、乙第五及び第一四号証並びに証人阿部の証言)によれば、阿部は、乙契約書調印の日に立ち会った外には、佐々木商事の代表取締役佐々木恵美子と双方の仲介業者を現地に案内したことがある程度で、佐々木商事やその仲介業者である大倉商事と直接交渉したことも、売主側の仲介業者である丸文商事と契約条件等について打ち合せたこともなかったことが認められる。

これに対して証人伊勢夫は、丸文商事から本件不動産の登記名義人であった大成に対して本件不動産の売買の申入れがなされたこと、西友企業の事務所が大成の事務所と同じビルに入居していたこともあって、伊勢夫は大成から丸文商事の応対に立ち会ってくれるよう依頼され、丸文商事から事情を聞いたこと、その後伊勢夫は、阿部の了解を得て、阿部の代理人として佐々木商事との売買契約の交渉にあたったこと、交渉の経緯は阿部にその都度報告していることを供述する。

しかし、前記三の6で見たとおり、詳細な予定が記載されている阿部の手帳(乙一四)には、契約当日まで阿部が伊勢夫と打ち合せを行ったことを窺わせる記載が見当たらず、証人伊勢夫の右供述は採用できない。

2  かえって、売主側の仲介人である丸文商事が、登記名義人であった大成に対して、本件不動産の所有者を確認するにとどまらず、売買の申し入れまで行い、その後伊勢夫の代理権を確認することもなく売買交渉を進めていることは、丸文商事としても、本件不動産の所有権は阿部ではなく、大成であると認識していたことを窺わせる。

3  さらに、佐々木商事の七十七銀行二日町支店の普通預金に係る預金通帳(乙第五号証末尾添附のコピー参照)の平成元年一二月八日の支払金額四億三〇〇〇万円の箇所には「西友」との添書きがあり、佐々木商事としても、売主を原告ではなく、西友企業ないし原告や大成が所属する西友企業グループとして認識していたことが窺われる。

これに対して証人伊勢夫は、佐々木商事の代表取締役佐々木恵美子から説明を受けたところとして、本件什器備品のうちリース物件については、佐々木商事に売却後も原告または西友企業の担当者が、佐々木商事に赴きリース料金を集金していたため、佐々木商事の従業員が勘違いしたものであろうと供述する。

しかし、乙第五号証によれば、佐々木恵美子は被告の聴取に対し、通帳への書き込みは、従業員が本件不動産等の代金を支払う相手は西友と取引している人であると聞いて記載したものであろうと供述していること、そもそも通帳に支払先を書き込むのは備忘のためであろうから、記帳の都度なされたと考えられるところ、本件不動産等の売買代金の支払相手をその後に集金されるリース料金の支払相手と混同して記載したとは考えがたいこと等に照らして、この点についての証人伊勢夫の供述は採用できない。

4(一)  証拠(甲第一五、第一七、第一九及び第四四号証、乙第一七号証の二・三、証人阿部の証言)によれば、平成元年一二月八日、佐々木商事から支払われた本件不動産等の代金四億三〇〇〇万円のうち、一億七〇八七万一七一七円は、七十七銀行二日町支店から阿部を送金依頼人として太陽神戸銀行仙台支店のアポロリース名義の普通預金口座へ振込送金されていること、残金二億五九一二万八二八三円は七十七銀行二日町支店の別段預金口座へ入金された後、発行依頼人を佐々木商事として額面一二九六万円と二億四六一六万八二八三円の自己宛小切手二通が発行されていること、うち一二九六万円の自己宛小切手は仲介手数料として丸文商事に支払われ、二億四六一六万八二八三円の自己宛小切手については、大成が阿部名義で開設した仙台信用金庫一番町支店の預金口座に預け入れられた後、同月一三日に右口座は、大成によって解約されて全額払い戻されていることが認められる。

(二)  これに対して原告は、大成によって払い戻された二億四六一六万八二八三円のうち九九二五万三四〇〇円は阿部の大成に対する債務の返済に充てられ、その余は阿部が取得し、そのうち一億〇九一二万八二八三円は甲契約の残金として原告に支払われ、残金の三七七八万六六〇〇円は阿部が取得して他の債権への返済や遊興費として費消したと主張する。

(三)  しかし、証拠(前掲甲第一〇、第一一号証及び乙第七、第一三号証)によれば、平成元年一二月一三日現在、阿部の大成に対する残債務は一億〇四〇一万六八〇〇円であったのに対し、同日返済されたのは九九二五万三四〇〇円にすぎず、返済後もなお四七六万三四〇〇円が残っていると、右残高は阿部が代表取締役を務める東北造型名義の口座に引き継がれていることが認められる。

そして、大成に対する債務を全て清算できるだけの転売利益がありながら、敢えて若干の債務を残し、これを阿部自身が経営する東北造型の債務に振り替える理由が阿部にはなく、むしろ大成の阿部に対する債権が帳簿上全額回収されたように処理されることによる利益は大成もしくは大成が属する西友企業グループにあることを考え併せると、阿部には転売利益の帰趨を決する権限がなかったことを推認することができ、阿部の大成に対する債務が弁済された事実は弁済相当額の転売利益が阿部に帰属していたとの原告の主張を裏付けるものたり得ない。

(四)  また、証拠(乙第一七号証の二・三及び証人阿部の証言)によれば、仙台信用金庫一番町支店の預金口座は、佐々木商事から振り出された小切手を現金化するために新たに開設され、名義こそ阿部となっているものの、実際に開設手続したのは大成であり、阿部は右信用金庫を訪れることも、届出印を保管することもないまま、開設五日後には大成によって解約されたことが認められ、これらの事実によれば、右口座に振り込まれた二億四六一六万八二八三円の帰趨は専ら大成もしくは大成の属する西友企業グループの一存によって決められたことを認めることができる。

(五)  そして、払い戻された二億四六一六万八二八三円から大成及び原告に帰属した金額を差し引いた残余の三七七八万六六〇〇円の使途について、原告は阿部の手残り金と主張し、証人阿部も、乙契約書に調印した翌日、甲契約書にかかる取引の手付金の借入先である川村及び工藤へ、それぞれ一八〇〇万円、三〇〇万円ずつ返済したと供述し、証人工藤もこれに沿う供述をする。

しかし、証人阿部及び同工藤の供述は、前記認定のとおり甲契約書にかかる取引及び手付金の交付自体が認められないことはともかくとしても、二億四六一六万八二八三円が払い戻されたのは平成元年一二月一三日であり、乙契約を締結した翌日である同月九日時点では未だ佐々木商事から振り出された小切手は現金化されていないことと矛盾しているので、いずれも採用できず、他に右残余の三七七八万六六〇〇円が阿部に帰属したことを認めるに足りる証拠はない。

5  以上に認定してきた事実に甲契約書が仮装の取引にかかるものであるとの先に認定した事実を総合すれば、甲契約書を前提とする乙契約書もまた、本件不動産取引の実体に反する取引を仮装するために作成されたものにすぎないことを認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

五  前記二ないし四のとおり、本件不動産等の取引の実態は、原告の佐々木商事に対する代金四億三〇〇〇万円での直接譲渡であり、阿部を中間譲受人として介在させた甲、乙契約書は、いずれも、阿部が本件不動産等を取得した事実がないのに、あたかもこれがあるかのように仮装するため意図的に作成され、原告はこれに基づき納税申告書を提出したことが認められ、これを前提とした被告の本件更正処分及び本件重加算税賦課決定処分はいずれも適法である。

六  結語

以上判示したところによれば、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 阿部則之 裁判官 瀨戸口壯夫 裁判官 上田賀代)

別紙

物件目録

一 仙台市太白区茂庭字人来田山四七番地二

宅地 四一九・八三平方メートル

二 仙台市太白区茂庭字人来田山四七番地二三

山林 九・九九平方メートル

三 仙台市太白区茂庭字人来田山四七番地二四

山林 五一五平方メートル

四 仙台市太白区茂庭字人来田山四七番地三二

山林 二九平方メートル

五 仙台市太白区茂庭字人来田山四七番地二、四七番地二四

家屋番号 四七番二

鉄筋コンクリート造陸屋根五階建 ホテル

床面積 一階 一六五・六七平方メートル

二階 二一七・一二平方メートル

三階 二一七・一二平方メートル

四階 二一七・一二平方メートル

五階 二二・二〇平方メートル

別表

課税の経緯一覧表

<省略>

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