仙台地方裁判所 昭和23年(ワ)154号 判決
原告 千葉善雄
被告 大泉寛壽郎
一、主 文
被告が昭和二十三年八月二十八日仙台地方裁判所昭和二十三年(ヨ)第七五号仮処分申請事件の仮処分決定に基き仙台市元寺小路四十二番地赤倉稔方に於て爲した別紙目録<省略>記載の物件に対する仮処分の執行は之を許さない。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、被告は昭和二十三年八月二十八日訴外赤倉稔に対する主文掲記の仮処分決定に基き仙台市元寺小路四十二番地赤倉稔方において別紙目録記載物件につき仮処分の執行をした。
しかしながら、原告は昭和二十二年十二月二十七日赤倉から右物件を代金十万円で買い受け、その引渡を受けたのであるから被告の爲した右仮処分の執行は第三者のものについてなされた違法がある、よつて本訴によりその執行の排除を求める。
仮に右物件が元被告のものであつたとしても原告は右賣買の際全くその事実を知らず、平穏且公然に右物件の引渡を受けたから、即時にその所有権を取得した。右引渡が被告の主張する通り占有の改定によつて爲されたことは認めると述べた。<立証省略>
被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として、被告が原告主張の仮処分命令に基き原告主張の物件について仮処分の執行をしたことは認める、けれども、右物件は元來原告の所有で、昭和二十二年六月十五日訴外佐藤清五郎に対し、訴外赤倉稔に轉貸する諒解の下に賃貸し、佐藤が之を赤倉に賃貸中のものであつた。
赤倉が之を原告に譲渡したとすれば、同人は之を横領処分したものである。仮にそうでなかつたとしても、原告は本件物件を赤倉から引渡を受けた時、現実に物件の移動を行わず、其の儘之を原告から赤倉に賃貸することゝし、赤倉は爾後右物件を原告の爲にも占有するという、いわゆる占有改定による引渡を爲したのであつて、かように占有の移轉が横領罪を構成し、或は占有改定による場合には民法第百九十二條の適用がない。いずれにしても原告は右物件の所有権を取得しなかつたのであるから、そのことを前提とする原告の本訴は理由がないと述べた。<立証省略>
三、理 由
被告が訴外赤倉稔に対する原告主張の仮処分命令により、別紙目録記載の物件について、仮処分の執行を爲したことは当事者間に爭がなく、乙第一号証は、成立に爭がない乙第七号証により、又、乙第二号証は成立に爭がない乙第四号証により、何れもその成立を認めることができる。原告は乙第一、二号証は何れもその日附後に作成せられたものである、というけれども之を認めるに足る証拠がない。そこで乙第一、二号証及び成立に爭がない乙第四乃至第七、第十一号証によれば別紙目録記載のコンバイト型三馬力用冷凍機一台は、原告が約二十年前に購入し、昭和二十年七月十日の戰災の際燒損したもので、昭和二十二年六月初旬訴外佐藤清五郎が、原告方の支配人田上博に交渉して、訴外赤倉稔に貸與することの諒解の下に期間を同年六月十五日から同年十月十五日迄と定めて借受けたものであることが明かである。
しかしながら、成立に爭がない甲第二、第三、第八、第九号証、第八号証により成立を認めうる同第四、五号証によれば、これより先、訴外赤倉稔は、原告の紹介で、昭和二十二年三月十五日、当時各種冷凍機械の販賣、修理据付を業としていた前記佐藤清五郎との間に、冷凍機の賣買契約を締結し、履行期の同年四月中旬を過ぎ再三請求した結果、同年六月二十日頃漸く佐藤から右賣買契約の履行として、前記冷凍機の引渡を受けるに至つたことを認めることができる。
被告は、右は事実に反し、赤倉はその当時右機械を佐藤から轉借中であつたと主張する、けれども、乙第四乃至第七号証(何れも成立に爭がない)中この点に干する部分は採用できないし、他に之を認めるに足る証拠がない。
次に、成立に爭がない甲第一、第八、第九、第十二号証によれば、原告は前記赤倉稔に対し、営業資金として、昭和二十二年五月十八日金五万円、同年九月十四日金五万円、合計金十万円を貸付けていたが、同年十二月二十七日赤倉は右金十万円の借金を決済するため、前記冷凍機一台を、別紙目録記載の他の物件と共に、金十万円と評價して、原告に賣却することゝし、その賣買代金に右金十万円の借金を充当し、その引渡を了したことを認めることができる。
而して以上のような事情の下に原告が右機械の引渡を受けたのであるとすれば、原告は、特段の事情のない限り、その引渡を受けた当時、それが赤倉の所有に属すると信じていたと認めるべきであり、又それ故に原告がかように信じたことについて過失がなかつたと認めるべきであつて、この認定を覆すに足る証拠はない。
尤も原告が右物件を赤倉から買い受けた際即時にそれを赤倉に賃貸することゝし、その引渡はいわゆる占有改定の方法を以て爲し、現実に物件の移動をしなかつたことは当事者間に爭がない。けれども民法の即時取得に干する規定は、相手方の占有を信用して取引したものを保護する趣旨の規定であつて、民法第百九十二條の文字の上からいつても、特に除外例を設けてないから、占有改定による占有権の移轉の場合にもその適用があると解釈すべきである。又その占有の移轉が仮りに横領罪を構成する場合でも解釈を異にするものではない。
以上の通りであるから、原告は前記賣買により、右冷凍機の所有権を取得するに至つたと認めるべきである。別紙目録記載の物件中その他の物件が原告の所有に属することについては、被告において明かに爭わないからこれを自白したものとみなす。
從つて、本件仮処分の執行は第三者たる原告の所有物について爲された違法があると認められるからその執行の排除を求める原告の本訴請求は理由がある。よつて之を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條第九十五條本文を適用し、主文の通り判決する次第である。
(裁判官 松尾巖)