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仙台地方裁判所 昭和24年(ワ)133号 判決

原告 日本電気産業労働組合東北地方本部

被告 佐々木養一郎 外二名

一、主  文

被告吉川は原告に対し、別紙目録<省略>記載の建物について仙台法務局昭和二十四年四月二十五日受附第二千七百八十三号売買による所有権移転登記の抹消登記手締を為すべし。

被告山岸は原告に対し、同建物について同法務局同月七日受附第二千二百三十号売買による所有権移転登記の抹消登記手続を為すべし。

被告佐々木は同建物が原告の所有であることを確認し、右建物について同法務局昭和二十三年十月二十五日受附第七千三百四十九号所有権保存登記の抹消登記手続を為すべし。

訴訟費用は被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として、別紙目録記載の建物は原告が昭和二十二年七月訴外株式会社振北組に対しその建築を注文し、同年十月同組において之を完成し、原告はその引渡を受けたものである。しかるに、被告佐々木は偶々右建築について建築許可申請が同被告名義で為されていたため、原告に無断で昭和二十三年十月二十五日仙台司法事務局に対し自己のため所有権保存登記申請を為し、次で、昭和二十四年四月七日同司法事務局に対し、被告山岸のため売買による所有権移転登記を申請し、被告山岸は、同月二十五日更に同司法事務局に対し被告吉川のため売買による所有権移転登記を申請した結果主文掲記のような登記がなされるに至つた。それで原告は被告佐々木に対し右建物の所有権確認を求めると同時に被告等に対し夫々前記各登記の抹消を求めるため本訴請求に及ぶ旨陳述し、被告山岸訴訟代理人の主張に対し、原告は被告佐々木と合意の下に昭和二十二年九月二日宮城県知事に対し表見上同被告名義の建築許可申請をなし同人名義の許可をえて本件建物の建築を完成し、その竣功届をなしたものであるが右竣功届によつて自動的に家屋台帳に本件建物が右被告の所有として記載されたので、同被告は之を奇貨として原告所有の本件建物を恣に自己の所有として保存登記をしたものであるから、右登記は実体にそわない無効の登記である。原告が被告佐々木名義の建築許可申請をなしたのは戦災者である同被告名義を以てすることが建築許可をうる上に便宜であつた為であり、被告佐々木と通謀の上第三者に本件建物が同被告の所有なることを表示したのではない。建築許可申請及び竣功届はもと行政上の取締の必要上為されるものであり之が私法上の権利変動に関係のないことは勿論右は申請又は届出人と行政庁との内部関係に止まるものであつてこの場合被告山岸が民法第九十四条第二項の善意の第三者に該当するものでない。又家屋台帳に所有者として登録されることも元来課税の目的からであつて権利の推定を受けるのは従である故利害関係人は常に真実の権利の所在を以つて之を争いうるものである。各登録に対抗力又は公信力ありとは言いえない。と答え、被告吉川訴訟代理人の主張は時機におくれて為された違法があるから却下せらるべきである。仮に却下せらるべきでなかつたとしても原告は民事訴訟法第四十六条の適用を受ける団体であるから当事者として訴を遂行する能力があると答えた。<立証省略>

被告佐々木並に被告山岸訴訟代理人及び被告吉川訴訟代理人は何れも請求棄却の判決を求め、答弁として、

被告佐々木は原告主張の事実は全て之を認めると述べ、

被告山岸訴訟代理人は原告主張の事実中別紙目録記載の建物について原告主張の登記が為されたことは認めるけれどもその他の事実は之を否認する。仮に右建物の所有権が原告に属していたとしても、

原告は被告佐々木と合意の上右建物の建築許可申請及び竣功届を同被告名義でなし、その結果家屋台帳が右被告名義となり、同被告名義で所有権保存登記が為されたのであるから、右建物が原告の所有に属することは民法第九十四条第二項により善意の第三者である被告山岸には対抗出来ない。即ち本件建物は原告が建築したものであるのに拘らず原告と被告佐々木が通謀して右被告名義で建築許可申請及び竣功届をすることとし、且つ之等をしたのであるから右は原告と被告佐々木間においては無効であつても善意の第三者である宮城県知事に対しては之を対抗できないし、之を基礎として被告佐々木所有として家屋台帳に記載され登記簿に登記された関係に付ては仙台北税務署並に被告山岸は右建物が原告の所有に属することを否認できる関係にある。要するに右建物は被告佐々木が勝手に原告の所有建物について保存登記を為したような一般の場合と異り、その発端は原告の意思によつて被告佐々木名義で建築許可申請及び竣功届を出したことが本件建物について同被告名義に保存登記がなされた原因であつたのだから善意の第三者である被告山岸に対しては右保存登記が真実に反することを主張しえない。

原告は被告佐々木を建築主であるとして建築許可申請を為したのであつてこの意味において、原告が本件建物が原告の所有であることは禁反言の法理上主張できないと述べた。

被告吉川訴訟代理人は本案前の主張として原告組合は法人でないから当事者能力を欠く、従つて本訴は不適法として却下せらるべきであると述べ、本案の答弁として、原告主張の事実中別紙目録記載の建物について原告主張の登記がなされたことは認めるけれどもその他の事実は之を否認する。

仮に本件建物が原告の所有であつたとしてもその建築許可申請及び竣功届はいずれも被告佐々木名義でなしており、又右建物の新築及びその他の課税は被告佐々木名義で賦課させその納入も又同人名義で行つている。以上の関係から原告と被告佐々木の内部関係について善意の第三者である被告吉川は右建物を被告佐々木の所有と信ずるのが正当である。右理由により原告が被告佐々木との間になした内部契約について自己の所有権を主張することは信義に反する。従つて仮にその所有権が原告のものであつたとしても原告はその権利をかような第三者に主張することはできないと述べた。<立証省略>

三、理  由

原告の当事者能力について、

被告吉川は原告の当事者能力を争うのに対し、原告は右は時機に遅れた主張であるから却下せらるべきであると主張するけれども、訴訟の当事者能力は職権調査事項に属し、相手方が指摘して之を争うと否とに拘わらず裁判所が職権を以て調査しなければならないのであるから、他の職権調査事項に属しない攻撃防禦の方法と異り相手方がその欠陥を指摘するについては何等の制限を受けず、民事訴訟法第百三十九条はその適用がないと解すべきである。

而して証人佐々木良治郎の証言により成立を認める甲第二号証、証人柴田健蔵の証言により成立を認めうる甲第三号証、第四号証の一乃至六、第五ないし第八号証、本件口頭弁論の全趣旨により成立を認めうる甲第九号証、原告代表者磯部登の本人訊問の結果(二回)により成立を認めうる甲第十ないし第十三号証、成立に争がない甲第十四号証、証人柴田健蔵、佐々木良治郎、春日辰夫の各証言、被告佐々木養一郎及び原告代表者磯部登(二回)の各本人訊問の結果によれば、原告にはその上位にある組織として日本電気産業労働組合があり、それが中央本部と称せられ、中央本部の規約にはその構成として中央本部を東京都におき地方本部を東北等九地方におくと定めてあつて原告はその名称からいつて独自の存在をもたず中央本部の一部分にすぎないように思われるけれども、その実中央本部とは別個独立の目的をも有し、東北地方の電気産業労働者の団体であつて決議機関、執行機関を有し、執行委員長が団体を代表し、その名において、

(イ)  昭和二十三年七月訴外株式会社振北組との間に本件建物について請負契約を為し、同年七月九日以降同年十月二十八日迄の間その工事代金の支払を為し、

(ロ)  昭和二十二年七月一日被告佐々木との間に水産食品加工場経営に関する契約を締結し、昭和二十三年七月一日同被告との右契約を解除し、本件建物の賃貸借を含む右と同一名称の契約を締結し、

(ハ)  訴外広部友義から(所有者は訴外渡辺まさである)本件建物の敷地である仙台市大町五丁目の宅地を賃借し、

(ニ)  昭和二十二年十月九日訴外日産火災海上保険株式会社との間に又、同月十五日訴外大阪住友海上火災保険株式会社との間に本件建物及び同建物内の機械、器具、什器等について火災保険契約を締結し、

(ホ)  昭和二十二年五月三十日以降訴外株式会社仙台支店との間に預金取引を為し、

(ヘ)  電話加入権を取得し、

(ト)  税金について指示団体となり、

(チ)  事務員を雇傭し、

(リ)  消耗品を購入する等、

団体の名において他と取引関係を有し、固有財産を有する連続的な組織体であることが明かで、原告の代表者として本訴を提起した磯部登がその委員長であることも認めることができるから、原告は民事訴訟法第四十六条にいわゆる代表者の定ある社団で、民事訴訟における当事者能力を有するものということができる。

本案について、

一、(い) 被告佐々木の関係

原告がその請求原因として主張した事実は全部被告の自由とするところである。

(ろ) 被告山岸と吉川との関係

前認定の通り本件建物は昭和二十二年七月頃原告が訴外株式会社振北組に注文して建築せしめ代金の支払を完了したものであることを認めることができる。

尤も、右建物の建築に当り原告がその建築許可申請、竣功届等はすべて被告佐々木名義で為し、その結果家屋台帳も亦同被告名義となつたことについては当事者間に争がないけれども、証人柴田健蔵、春日辰夫の各証言、被告佐々木本人訊問の結果によれば、右は本件建物建築当時は戦災者は建築許可を受けるについて優先的に取扱われていたほか、家屋の建築について諸種の便宜があつたこと、被告佐々木は戦災者であつたこと、そのために原告は同被告の諒解をえて同被告名義で前記許可申請及び竣功届を為したものであることを認めることができる。

しかるに右建物について原告主張の通り被告佐々木のため、所有権保存登記が、次で同被告から被告山岸に、更に被告山岸から被告吉川に夫々売買による所有権移転登記がなされたことについては当事者間に争がなく、証人山岸友吉の証言及び被告佐々木本人訊問の結果によれば、被告佐々木は原告に無断で右建物について自己のため所有権保存登記を為した上被告山岸から金借し、その担保の目的で弁済期にその支払を為す事ができない場合には右建物の所有権を同被告に移転する約定を為し、所有権移転登記の申請に要する白紙委任状を交付しておつたが、期日に右借入金の支払をしなかつたので、被告山岸は右建物を自己名義に所有権移転登記をなし、次いで之を訴外渡辺東太郎に売渡し、同人は更に之を被告吉川に売渡したが、被告山岸、吉川及び訴外渡辺間で中間登記を省略して直接被告山岸から被告吉川に所有権移転登記をしたのであることがわかる。

二、被告山岸の主張について、

(い)  原告と被告佐々木とが合意の上被告名義で建築許可申請及び竣功届を為すこととし、且つその合意に基いて同被告がその名義で右届をしたのであるから、右許可申請又は竣功届についての合意に関する限りその履行が完了しておるのであつて、通謀虚偽表示の観念を容れる余地がなく、右合意がそれ丈で直に本件建物の所有権をその建築の初めから又は建築の後被告佐々木のものとする趣旨の表示行為であるとは解しられないし、又右許可願及び竣功届を為したことが後に至り、家屋台帳において被告佐々木が右建物の所有名義人と為される動機となつたとしても之がため右合意をもつて後に被告佐々木名義で保存登記をなさしめる趣旨迄含んでいたとは解しえられない。

(ろ)  原告が右許可申請及び竣功届を被告佐々木名義でなしたことのために家屋台帳が同被告名義となり同被告が自己名義で登記をなす端緒となつたとしても、これ等のためにその効果として、右建物の所有権が当然に被告佐々木のものとなり又は原告が右建物の所有権を第三者に対抗することができなくなるという法文上の根拠はない。

(は)  英米両国の判例法上の原則である禁反言の法理がそのまゝ法規として、現在の日本国の裁判所を拘束し又は日本国内の社会における事実関係に適用されるべきか否かの問題は別としても、被告山岸は本件において具体的に英米国のいかなる判例にあらわれた原則を本件に援用しようとしているのか、又抽象的に、どのような法理を禁反言といつているのか明かでないが、仮に、特定の第三者又は一般第三者に対し一定の事項について或る表示を為したものは、その第三者又は一般第三者中の或る者がその表示を信頼して、或る行為を為したため右表示を為したものが右表示と異る主張を為すと、右行為を為した第三者が不利益を被る場合には、右表示者は右表示に拘束され、之と異る主張を為しえないという原則をいうのであるとすれば、本件において建築許可申請又は竣功届はその所管庁たる宮城県知事に対する表示行為にすぎず、登記、公告その他一般第三者に対する公示方法と異るから、その場合右法理適用の余地がなく、右許可申請又は竣功届を知つた第三者がその記載を信頼して或る行為を為し右記載と異る主張を為されるとその行為者が損害を被る場合でも、右許可申請又は竣功届を為したものは必ずしも之等に記載した事項に拘束されるものではないといわなければならない。右のような場合には原告が右許可申請又は竣功届に記載した事項に拘束されるという趣旨の禁反言の法理のあることについては之を認めるに足る証拠がない。

三、被告吉川の主張について、

前に認定した通り本件建物について建築許可申請及び竣功届等が被告佐々木名義で為され、成立に争がない乙第一号証の三によれば本件建物の所有者が家屋台帳の上で同被告名義になつていることが明かであり、本件口頭弁論の全趣旨に照し、同被告名義で新築税其の他の課税が為され、原告が同被告名義でその納入をしていたことがわかるけれども、家屋台帳法第十四条によれば家屋を新築したときは家屋の所有者から一月以内にその申告をしなければならないことになつているのにかゝわらず、本件においては、右乙第一号証の三によれば原告は右申告を為さなかつたのに職権で右建物が家屋台帳に登載されたことが明かであるし、前記の通り原告は自己の名義で本件建物の敷地を賃借し、本件建物の建築のための請負契約を為し、その代金の支払をなし、本件建物の所有者として、訴外日産火災海上保険株式会社及び大阪住友海上火災保険株式会社との間に火災保険契約を締結し、右建物を被告佐々木に賃貸しているのであつて、原告は一貫して本件建物を被告佐々木の所有として一切を処理しているというのではないから、偶々建築許可申請及び竣功届を被告佐々木名義でなしその結果家屋台帳も同被告名義となつたことを利用し同被告が無断で、右建物について自己の為に保存登記を為し、之を被告山岸に売却し、同被告が更にこれを被告吉川に対し売却し、順次にその所有権移転登記が為された場合において、前記許可申請、竣功届及び家屋台帳は一応の証明方法とはなりえても、一般に対する所有権の公示方法ではないのであるから、仮に被告等が之を信頼して右取引を為したとしても、之がため原告が右被告等に対し、かような錯誤を生ぜしめたことについて過失の責任があるとして損害賠償の一部を負担せしめられることがあつたとしても、原告が右建物について自己の所有権を主張し右売買の無効を主張することが、右被告等に対する関係において、信義に反するということはできない。

以上の通りであつて、被告佐々木は本件建物の所有権者ということはできないし、他の被告等も亦その所有権を取得したということができないから、本件各登記は実体上の権利関係にそわないものであるといわなければならない。従つて、その名義人である被告等は所有者である原告の請求に応じ各右登記の抹消登記手続を為すべき義務があるというべきである。

よつて、原告の本訴請求は理由があるから之を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条第一項本文を適用し主文の通り判決する次第である。

(裁判官 松尾巖)

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