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仙台地方裁判所 昭和24年(行)21号 判決

原告 桜井武麿

被告 宮城県農業委員会

一、主  文

被告が昭和二十四年三月一日原告の訴願に対し為した裁決の原告の訴願を棄却した部分中別紙目録記載(二)の宅地の内三十四坪に関する部分はこれを取消す。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を原告のその余を被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十四年三月一日原告の訴願に対し為した裁決の原告の訴願を棄却した部分中別紙目録記載(一)の宅地建物及び(二)の宅地の内三十四坪に関する部分はこれを取消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として、訴外矢本町農地委員会は昭和二十三年六月十一日訴外岩淵卯吉の申請により原告所有の別紙目録記載(一)の宅地建物について、更に訴外木村養治の申請により同(二)の宅地建物について、何れも自作農創設特別措置法第十五条による買収計画を定め、同月十二日これを公告したので、原告は同月二十一日異議の申立をしたところ、七月九日却下され更に同月二十日被告に訴願したが、昭和二十四年三月一日右(二)の建物及びその敷地たる宅地中三十坪を買収計画より除外し、その他の部分については訴願を棄却するという裁決があり、その裁決書は同月八日原告に送達された。しかしながら右買収計画は次の点において全部違法である。すなわち、

(一)の宅地、建物については、原告はこれを訴外岩淵惣吉に賃貸してきたのであつて前記岩淵卯吉に賃貸したことはないのであるから右卯吉には買収を申請する資格がない。

(二)の宅地、建物については、原告は申請人木村養治に対してはその建物のみを無償で使用させていたのであつて、右宅地中買収計画から除外された部分三十坪も、除外されなかつた部分三十四坪(以下(二)の係争宅地と略称する)も共に同人に賃貸したことのないのは勿論、使用貸借による使用をもさせたことがない。それのみならず右係争宅地は同人の農業経営には全然関係のない土地である。

以上の通りであるから前記裁決中買収計画を支持した部分の取消を求めるため本訴請求に及ぶと述べ、被告主張事実のうち、木村養治が前記(二)の係争宅地上に鶏舎、木小屋等を建築し之を所有していることは認めるが、これは原告に無断で設置したものであると答えた。(立証省略)

被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする」という判決を求め、答弁として原告主張事実のうち冒頭記載の事実すなわち、原告所有の別紙目録記載(一)(二)の宅地建物について買収計画が定められてから訴願に対する裁決書送達までの経過が原告主張の通りであることは認める。しかしながら右(一)の宅地建物は昭和二十三年一月以来岩淵卯吉が原告から賃借していたものである。仮りに、右賃借人が初め岩淵惣吉であつたとしても、右卯吉は岩淵惣吉の長男で事実上の世帯主であり右買収計画の定められた当時、原告は暗黙のうちに右卯吉をその賃貸借の相手方として認めていたものである。(二)の宅地建物は木村養治が原告から賃借していたものである。その賃料は右宅地に接続する原告所有の竹林を監守することを目的とする労務であつた。同人は右係争宅地上に鶏舎厩、木小屋等を建築してこれを使用しておるから、右宅地はその農業経営上必要な土地であると述べた。(立証省略)

三、理  由

原告所有の別紙目録記載(一)(二)の宅地、建物について買収計画が定められてから訴願の裁決書送達までの経過が原告主張の通りであることは当事者間に争がない。よつて、被告のなした右裁決には原告の主張するような違法があるかどうかについて判断する。

一、証人国賀時之助の証言により成立を認めうる甲第四号証の一、二及び証人国賀時之助、桜井きく、岩淵卯吉(下記認定に反する部分を除く)、岩淵惣吉(同)の証言並びに原告本人訊間の結果を綜合すれば、右(一)の宅地建物は初め岩淵惣吉の先代岩淵卯之衛門が原告から無償で借り受けたもので、昭和十四年八月十四日同人の死亡により岩淵惣吉がその家督相続を為したが昭和二十三年一月以降は原告と岩淵惣吉との合意により、右使用関係を賃貸借に改めたことを認めることができる。証人岩淵卯吉、岩淵惣吉の各証言中右認定に反する部分は信用できない。他には右認定を左右するに足る証拠はない。

けれども、改正前の自作農創設特別措置法第十五条第一項第二号により宅地建物の賃借人が右宅地建物の買収の申請を為すことができるのは、当該宅地建物について為された私法上の賃貸契約の効力として右契約に直接由来するのではなく、むしろ経済的にかような利用関係を有するものに対し特に買収の申請を為す機会を与えその農業経営の自立化をはかろうとする趣旨であると解すべきであるから、家族的農業経営が為されている場合にその宅地、建物の契約上の賃借人の同居の親族若くはその配偶者の一人が農業経営の中心となり、農業経営という経済的な面から見れば宅地、建物の主たる利用者の立場にあつて、契約当事者である賃借人が右の者のかような地位を認容し、同人が右宅地、建物の買収の申請を為すことについて異議がないときには右の者は契約上の賃借人でなくても、内部関係においては宛も転借人のような地位にあるから、かようなものは前記法条にいう賃借人に包含されると解するのが相当である。

本件においては成立に争のない乙第一ないし第六号証及び証人岩淵惣吉、岩淵卯吉、桜井働三郎の証言を綜合すれば右惣吉は左官職の傍ら農業に従事していたものであるが、漸く老令に向い(同人は明治二十六年三月二十八日生)加えて昭和二十三年初頭頃より著しく健康を害したために農耕その他の仕事に従事することができなくなり、その後において同人の同居の長男岩淵卯吉が自己の名義において自作農創設特別措置法により小作地の売渡を受け、自作農として一町余の農地を経営し一家の中心として実質上諸般の家事を処理しておつたことを認めることができる。而して右認定を覆すに足りる証拠はない。

而して又以上の認定事実に証人岩淵惣吉、岩淵卯吉の各証言を綜合して判断すると岩淵惣吉は岩淵卯吉がその利用の主体という意味において実質上前記宅地、建物の賃借人たる地位にあることを認容し、同人が右宅地建物について買収の申請を為すことについて些も異議を存しなかつたことが明かであるから、矢本町農地委員会が私法上の契約関係に拘らず右岩淵卯吉を前記宅地建物の賃借人と認めその買収の申請に基ずき買収計画を定めたことは何らの違法もない。

二、証人桜井きく、木村養治、相沢じん、桜井茂平、桜井卯兵衛、の各証言及び原告本人訊問の結果並びに検証の結果を綜合すると、原告家は酒、味噌等の醸造を業とするもので、樽桶その他醸造用具に使用する竹材を得る目的で前記(二)の宅地の東側に隣接して約二反歩(以前は約四反歩だつた)の竹林を所有し、その管理育成につとめて来た。そして右宅地中買収計画から除外されなかつた部分(以下単に係争部分と称する)は原告において右竹林に施す肥料の置場伐採竹材の置場或は竹林えの通路として使用されていた土地であり又前記(二)の建物は従来から右竹林の監視人を雇入れ之に無償で使用させていたもので、昭和十九年七月頃木村養治が右竹林の監視人となり監視の便宜上従来居住していた原告所有の貸家から此処に移転して居住することになつたものであるが、右監視人は右のように家屋を無償で使用すると共に本件宅地の係争部分中右建物の周辺は建物の使用に附随して、その他は原告方で使用しない期間は竹林管理に差支えのない限りこれを一時的に使用することが許されていたのであるが、偶々木村が監守となつたのは今次戦争の激しさが漸く増した頃で自然右竹林の管理、育成も等閑に附され、原告方で右宅地中の係争部分を使用することも無かつたので、木村は原告に無断で此処に木小屋、厩、その他を建築し使用するに至つたことを認めることができる。而して、右認定を覆すに足る証拠はない。

以上認定の事実によると原告と木村との関係は、木村は原告の必要により同人に対し右建物に居住して前記竹林の監視を為す労務を提供する義務を負担し、原告は之に附随し木村をして右監視の便宜の為右建物及びその敷地たる前記宅地を使用する利益を無償で享有せしめる義務を負担するという契約関係であるから、一種の双務契約であつて、雇傭契約と賃貸借との混同したものであるが、寧ろ雇傭契約に近く、かような使用関係は自創法第十五条第一項第二号にいう賃貸借には該当しないと解すべきである。又木村養治の前記宅地に対する使用はその一部は前記建物の使用関係に附随し、之に包含せられ一体を為すもので、これと独立して別個に存在するものとは考えられないし他の部分は原告の使用に支障のない時に限り使用を許すという一時的性質のものであるからかような使用関係は同法条の使用貸借に包含されないと解するのが相当であるよつて他の点は措くとも既にこの点において本件買収計画は違法といわねばならない。

以上の通りであつて被告のなした本件裁決の中別紙記載(一)の宅地建物について定められた買収計画を支持し原告の訴願を棄却した部分は正当であるから原告の本訴請求中その取消を求める部分は理由がないのでこれを棄却し、別紙記載(二)の係争宅地について定められた買収計画を支持し原告の訴願を棄却した部分は違法であるからこれを取消すべきものとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九十二条本文を適用して主文の通り判決する次第である。

(裁判官 松尾巖 上野正秋 片桐英才)

(目録省略)

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