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仙台地方裁判所 昭和25年(行)29号 判決

原告 高橋寿三郎

被告 宮城県知事

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十五年一月八日別紙目録第一記載の農地につき訴外布施正雄に対し、同目録第二記載の農地につき同斉藤俊介に対し各売渡通知書を交付してなした売渡処分は、いずれも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、別紙目録第一、第二記載の農地はもと訴外大内成久の所有であつたところ、昭和二十四年六月八日蛇田村農地委員会は自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に該当する小作地として買収計画を定め、翌九日これを公告し、被告は右買収計画に基き右訴外人に対し買収の時期を同年七月二日とする買収令書を交付し、また同村農地委員会は昭和二十四年九月二日右農地中別紙目録第一記載の分の耕作者は訴外布施正雄、同第二記載の分のそれは同斉藤俊介であると認定して同人等をそれぞれ売渡の相手方として売渡計画を樹立して、翌三日これを公告し、被告は右売渡計画に基き昭和二十五年一月八日右両名に売渡通知書を交付して売渡処分をした。原告は昭和二十四年九月二十四日右村農地委員会に対し右農地の買受の申し込みをしたが、被告が右の売渡処分をした事実は、右処分の当時これを知つた。しかしながら被告のなした売渡処分は次に述べる重大な瑕疵があるから無効である。即ち、

(一)  原告は、本件農地を大内成久から過去四十数年間賃借して耕作を続けてきた。然るに昭和十九年九月二十六日長男慶一が大東亜戦争に応召したうえ、原告自身も眼病、筋肉炎等の病にかゝり労力の不足を来したので右地主の承諾を得て、昭和二十年度の耕作期から別紙目録第一記載の農地を布施正雄に、同第二記載の農地を斉藤俊介にそれぞれ賃貸したが、終戦後娘に婿を迎え、原告の健康も回復したので右布施、斉藤両名に対し右農地の返還を求めたところ、昭和二十二年四月ごろ右両名とも快くこれを承諾し昭和二十三年度収穫季節後返還することを約し、ここに合意解約が成立したのであるから、右両名は前記買収の時期において右農地につき耕作の業務を営む小作農ではなく、その売渡を受けるべき適格がないのに、被告はこれ等の者に売り渡した。

(二)  仮に右解約の事実がないとしても、原告が右布施、斉藤両名に対し本件農地を転貸した事情は、前記の如く、それまで同居していた長男の応召、原告自身の疾病により、自ら耕作することができなくなつたので、止むなく一時転貸したのであるが、その後原告の健康の回復、娘に婿を迎える等により稼働力が充実したのであるから自作農創設特別措置法施行令第十七条第一項第五号にいう「一時転貸した者が近く耕作するものと認め……それを相当と認め」るべき場合に該当する。故に被告は須く同条項に基き原告に本件農地を売渡すべきであるのに、転借人たる右訴外人両名に売渡した。

(三)  また仮に右主張が理由ないとしても、そもそも本件農地の所有者大内成久は当初右農地所在の蛇田村に在村する地主であつたのであるが、昭和二十四年四月一日蛇田村の一部である同人の居住地々帯は石巻市に分村合併したため、同人は形の上では右小作地に関し不在地主となつたのではあるけれども、かような場合に不在地主所有の小作地として買収することは許されないものと解すべきである。したがつて被告のなした本件農地の買収処分は当然無効というべく、無効な買収に基く本件売渡処分もまた当然無効といわなければならない。

よつて、右売渡処分の無効であることの確認を求めるため本訴請求におよぶと述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、本件農地がもと大内成久の所有であつたこと、右農地につき買収、売渡計画が立てられ、被告が買収、売渡処分をした経過、原告がその主張のころ本件売渡処分のあつたことを知つた事実、原告主張の日時、主張の蛇田村の一部が石巻市に分村合併したことはいずれもこれを認める。原告がその主張の時期から本件農地を大内から賃借したかどうか、原告主張の如く同人の長男が応召し、原告が主張のような病に侵されたかどうかはわからない。その余の主張事実はすべて争う。訴外布施、斉藤両名は昭和二十年ごろ原告から原告主張の各農地の賃借権を譲り受け、右小作地の買収の時期である昭和二十四年七月二日当時における耕作者であるから、被告が同人等に本件農地を売り渡したのは適法であると述べた。(立証省略)

三、理  由

別紙目録第一、第二記載の農地はもと訴外大内成久の所有であつたこと、右農地につき、蛇田村農地委員会は自作農創設特別措置法第三条第一項第一号に当る小作地と認定して買収計画を定め、翌九日これを公告し、被告は右買収計画に基き、その買収の時期を同年七月二日とする買収令書を右訴外人に交付して買収処分をなし、村農地委員会は昭和二十四年九月二日右農地の売渡計画を立て、翌三日これを公告し、被告は右売渡計画に基き訴外布施正雄、斉藤俊介両名をそれぞれ原告主張の農地の耕作者と認め、昭和二十五年一月八日同人等に売渡通知書を交付して売渡処分をしたこと、原告がその当時右売渡処分のあつたことを知つた事実は当事者間に争いがない。

よつて原告主張の(一)の点について判断する。原告は後記認定の如く別紙目録第一記載の農地を訴外布施正雄に、同第二記載の農地を訴外斉藤俊介に転貸したが、これを原告主張のころ合意解約したとの点について証人大内成久(第一、二回)、同斉藤俊介、同斉藤三太郎の各証言並びに原告本人尋問の結果(第一、二回)中右主張に副う部分は証人布施正雄、同斉藤俊介の各証言に対比し未だ措信するに足らず、右布施証人の証言により成立を認め得る甲第一号証によつても原告主張の時期に合意解約がなされたものとは認められないし、他には原告が右農地の買収時期である前記昭和二十四年七月二日以前に、適法に、右転貸借を解約したことを認めるに足る証拠はない。故に原告の右主張は理由がない。

よつて原告主張の(二)について案ずるに、前記甲第一号証に証人斉藤三太郎、同宍戸隼人、同大内成久(第一、二回)の各証言並びに原告本人尋問の結果(第一、二回)を綜合すると、原告方においては原告の父高橋万七が今から四十数年前本件農地を大内成久から賃借し、爾来原告の代までに亘り引き続き耕作してきたのであるが、昭和十九年九月二十六日原告の長男亡高橋慶一が大東亜戦争に応召し、次いで同人方雇人二名も順次応召し加えて原告は眼病、筋肉炎等の病に侵され、残されたものは原告の妻および長女(当時高等女学校在学中)の二人で極度の労力の不足を来したので、原告は地主の承諾を得て、同年十一月下旬ごろ布施正雄、斉藤俊介両名に対し、右慶一の復員、その他により原告が自ら耕作を営むことができるようになるまでの間暫次布施正雄に対しては別紙目録第一記載の農地を、斉藤俊介に対しては同第二記載の農地を転貸(賃貸)したことが認められ、右認定と異なる証人布施正雄、同斉藤俊介の各証言は信用し難く、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。右認定事実によれば、右転貸借は自作農創設特別措置法第十六条、同法施行令第十七条第一項第五号にいう一時転貸借とみるのが相当である。それに証人布施正雄、同斉藤俊介の各証言により、布施正雄はその妻と二人で本件農地を含めて田一町一反五畝、畑一反五畝を自作し、斉藤俊介はその妻および娘夫婦並びに子供二人の六人家族で本件農地を含めて田一町五反七畝、畑三反を自作していることが認められ、これに対し原告本人尋問の結果(第一回)によると、原告は同人の妻および娘夫婦とともに田一町七反、畑三反を耕作しているが、うち自作地は右畑の全部と田のうち七反歩であることが認められるので、被告は右農地を一時の転貸人たる原告に売り渡すべきであつたというべきである。故にこれを右訴外人両名に売り渡した被告の処分は、その相手方を誤つた違法の処分という外はない。けれども斯かる程度の売渡処分の瑕疵は未だ以て該処分の当然無効を来すべき場合には当らないから、原告が該処分のあつたことを覚知した日であることの当事者間に争のない昭和二十五年一月八日から法定の期間内にその取消を求める訴を提起しない限り、もはやその効力を争うことはできない。原告の右主張もまたその理由がない。

よつて更に原告の(三)の主張について判断する。本件土地は、もと在村地主大内成久の所有であつたが、前記買収計画樹立の直前である昭和二十四年四月一日右地主の居住地附近が石巻市に分村合併したことにより、買収計画が定められたころには不在地主所有の小作地に該当することになつたことは当事者間に争がない。

けれども右のような行政区画の変更により小作地の属性に変動を来したというだけでは、その農地がいわゆる不在地主の小作地でないとはいえないし、本件の場合そのことだけで、直ちに自作農創設特別措置法第三条第一項第一号所定の準地区の指定をなすべき場合であるというには足りない。そして仮に右指定をなすべき場合であつて、本件農地がいわゆる不在地主所有の小作地として買収すべからざるものであつたとしても、本件口頭弁論の全趣旨により、前記買収計画に対し何人からも異議の申立がなく、また前記買収処分に対しても法定の期間内に、その取消を求める訴の提起がなかつたことを認定するに足りるから、いまや右買収処分の効力は争い得なくなつたものというべく、したがつて右買収を基礎として本件売渡処分をしたからとて、それが無効となるものではない。原告の右主張も到底採ることができない。

よつて原告の本訴請求はその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾巖 飯沢源助 金子仙太郎)

(目録省略)

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