仙台地方裁判所 昭和26年(行)3号 判決
原告 大槻兵記 外一名
被告 宮城県知事
一、主 文
被告が別紙第一目録記載の農地につき原告大槻兵記に対する売渡処分及び別紙第二目録記載の農地につき原告大槻赳夫に対する売渡処分を取消した処分は無効であることを確認する。
訴訟費用中証人高橋智、成田庸亮、永沼金兵衛に支給した分は原告両名の負担とし、その余を被告の負担とする。
二、事 実
原告両名訴訟代理人は、主文第一項と同旨並に訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、
(一) 訴外大川村農地委員会は昭和二十三年二月十九日別紙第一目録記載の農地につき原告大槻兵記を売渡の相手方とする売渡計画を、同年五月十四日同第二目録記載の農地につき原告大槻赳夫を売渡の相手方とする売渡計画をそれぞれ定め、宮城県農地委員会の承認を経、被告は右売渡計画に基き同年三月二十五日原告兵記に対し、又同年十二月二十四日原告赳夫に対しそれぞれ売渡通知書を交付し、これに因り原告等はそれぞれ本件農地の所有権を取得した。
(二) ところが大川村農地委員会長は昭和二十五年六月二十八日に至り原告両名に対し、「売渡農地の取消について」と題する書面により「標記の件につき六月六日宮城県農地委員会の承認があつたので売渡通知書の訂正を要するため必要につき売渡通知書を返戻相成り度い」旨を通知し来つた。
(三) けれども右通知書には本来売渡処分につき取消権限を有すべき被告において右売渡処分を取消すという趣旨は毫も含まれていないから取消処分として効力を生じない故、この意味において無効というべく、仮に右は被告において取消す趣旨であると解し得るとしても前記売渡処分は何等の瑕疵もない。
即ち、別紙第一目録記載の農地はもと訴外成田庸亮の所有であつて、原告兵記は昭和二十年六月十日右訴外人からこれを買受けたけれどもその所有権移転の登記手続の時機を逸したため昭和二十二年九月一日不在地主成田庸亮所有の小作地として自創法により買収になつたものであるが原告兵記は夙に成田庸亮所有の頃から同人からこれを賃借し、戦時中第一目録(い)(ろ)記載の田のうち各四畝を同原告が自ら耕作し、その余の部分は訴外大槻武四郎外四名の者から同人等の耕地に苗代に適する田がないから一時苗代用として貸与されたい旨の懇請を受けてこれを容れ一時転貸して今日に至つたのに過ぎないのであるから右農地全部を原告兵記に売渡しになつたのは極めて当然のことであり、又別紙第二目録の記載の農地はもと大槻ユキ子の所有であつたが同人は昭和十年五月頃訴外永沼吉蔵に対し買戻約款付で売渡し、右大槻ユキ子を相続した原告赳夫は昭和十九年九月二十日永沼吉蔵からこれを買戻したけれども、所有権移転の登記手続の時機を逸したため昭和二十三年一月十日訴外永沼吉蔵所有の小作地として自創法により買収になつた。而して原告赳夫は訴外永沼から右のように買戻して以来これを同字七十四番田と共に訴外佐々木治右エ門に耕作させていたが、右農地の買収、売渡に先立ち右訴外人との協定により右七十四番田は右訴外人において買受けるが、本件九十八番田は同原告において買受けることゝし、右協定に従いそれぞれ買受の申込をした結果売渡処分が為されたのである。
右のように何等違法とすべき瑕疵のない売渡処分を取消した被告の処分は無効であるからその確認を求めると陳述し、
被告主張の事実中、被告がその主張の如く前記売渡処分を取消す旨の公告を為した事実は争わないと述べた(立証省略)。
被告訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として原告主張の(一)(二)の事実及び(三)の事実中別紙第一目録記載の農地はもと訴外成田庸亮の所有であつたこと、同第二目録記載の農地が大槻ユキ子から訴外永沼吉蔵に売渡されたこと右第一第二目録の記載の農地が原告主張の通り自創法により買収になつたこと、原告兵記が別紙第一目録記載の農地中一畝十歩に限り自ら耕作していたこと、同第二目録記載の農地は訴外佐々木治右エ門が耕作していたこと、以上の事実は何れもこれを認めるが、(三)のうち原告等がその主張の日時それぞれ本件農地を買受けたことは不知。その余の事実は争う。
別紙第一目録記載の農地は原告兵記が約一畝十歩を耕作する外は訴外浮津貞雄外八名の耕作地であるに拘らず被告は前の売渡処分において全部これを右原告に売渡した違法があり、同第二目録記載の農地は訴外佐々木治右エ門がこれを耕作していたのに拘らず、被告はその売渡処分に当り原告赳夫がその耕作者であると誤認して同人に売渡した違法があつたのでこれ等の過誤を是正するため被告において原告等に対する右売渡処分を取消したのであり、右取消処分を原告等に告知するにあたり仮に原告等主張の如く被告において取消す趣旨が明示されていないとしても、被告は昭和二十五年九月八日宮城県公報紙上に右取消の趣旨を掲載してこれを公告した。故に被告の為した右取消処分も亦何等の瑕疵もないと述べた(立証省略)。
三、理 由
本件農地につき訴外大川村農地委員会が売渡計画を定め宮城県農地委員会の承認を得、被告がこれに基き原告等に対し売渡処分を為した経過及び訴外大川村農地委員会長が昭和二十五年六月二十八日原告両名各自に対し、本件農地の売渡処分に関し、書面を以て原告主張のような通知をしたことは当事者間に争がない。
然し乍ら行政行為の取消はその権限ある行政庁のみが之をなしうるのであつて、その取消が本件のように職権により為される場合においては、右権限は当該行政行為を為した行政庁又は法律の規定に基ずき監督者たる行政庁に専属すると解すべきであるに拘わらず、本件において、前記当事者間に争なき事実関係によつては勿論、何れも成立に争のない甲第六、七号証によつても、右農地委員会長の為した通知は到底前記各売渡処分の取消につき権限を有すべき被告その他その職権を有する者によつて為された取消の処分であることを認めることができない。故にこれらのみを以てしては前記売渡処分が有効に取消されたものとは認め難い。
被告は右通知の外なお昭和二十五年九月八日宮城県公報紙上に右売渡処分を取消す旨を掲載して公告したと主張し、該事実は原告等のこれを認めるところである。
けれども自創法上売渡処分の取消処分の告知方法につき特にこれを規定するところはないが、凡そ行政処分が相手方ある意思表示によつて成る場合には右処分の告知(意思表示)が相手方に到達することによつて初めて成立するのであるから、相手方に告知する方法として公告によりこれを為し得るのは或は相手方が多数である場合における行政行為の迅速画一的な効果の発生を期するための例外的方法として(例自創法第六条第五項第十八条第四項)或は他の告知方法に対する補充的方法として(例自創法第九条第一項)その他特に法令の明文の規定を以て是認された場合に限らるべきである。何となれば公告は他の方法による告知に比べて事実上被告知者がこれを了知し得る機会を少からしめこの意味において不完全な方法であることを否めないのに況んや一定の行政処分はこれを公告するという法令による予告のないところにこの方法を認めるときは益々被告知者の了知する機会を奪うことゝなり、そして事の次第によつては被告知者が事実上これを了知し得ないことのために回復し難い重大な不利益を蒙る場合が考えられるからである。
斯様な見地からすると、自作農創設特別措置法による農地の売渡処分の取消処分が当該売渡通知書の交付を受けたものを相手方とする意思表示であると解すべきことについては疑を容れる余地がないから、被告が何等法令の根拠なくして為した前記のような公告は前記取消処分の告知としてその効力を生ずるに由ないものというべく、又右公告と前認定の大川村農地委員会長の為した通知と相俟つて取消の効力を生ずると為すこともできない。
そうして見ると被告がこれを為したとする取消処分はその効力発生の要件を具えないものというべく、この意味において右処分の無効確認を求める原告等の本訴請求は他の争点につき判断を加えるまでもなく理由があるからこれを認容すべきである。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十条第九十三条第一項本文を適用し主文の通り判決する次第である。
(裁判官 松尾巖 飯沢源助 伊藤和男)
(目録省略)