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仙台地方裁判所 昭和27年(行)16号 判決 1955年7月20日

原告 熊谷徳次郎

被告 仙台市長

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告が原告に対し昭和二十七年六月二十七日附通知をもつて為した仙台市定禅寺通三番の五宅地三十五坪七合の換地予定地の指定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、

その請求の原因として、

被告は、その施行にかかる仙台市特別都市計画区劃整理のため昭和二十七年六月二十七日附通知をもつて、原告に対し原告所有の請求の趣旨記載の宅地一筆に対する換地予定地として第五十四ブロツク第五十六ロツト約三十坪、別紙図面表示の(イ)点から(ロ)、(ハ)、(ニ)各点を経て(イ)点に復する線で囲まれた部分を指定し、原告はその頃その通知書を受領した。

右換地予定地指定処分は、次のような違法がある。

元来特別都市計画法に基いてなされる区劃整理については耕地整理法の規定が準用されるのであるから、その換地予定地指定の基準は耕地整理法第三十条第一項、仙台市特別都市計画事業復興土地区劃整理施行規程第七条により、従前の土地の位置、地目、地積、等位、評定価格、利用状況等を標準として等価値を有する土地に換地予定地を指定すべきところ、

(一)、原告はその所有にかかる前記宅地実測面積四十坪八合三勺に店舖兼居宅(建坪三十四坪六合二勺)を構え、飲食店及び酒類販売業を営み日増しに繁昌して来たものであるが、かかる営業をなす者にとつての土地の価値は交通量等により著しい差等を生ずるから、交通量の頻繁な街路に面していることを必須条件として、該街路を遠ざかるごとに格段の減収をみ営業の立ち行かぬ状態に陥ることは営業者間の常識である。而して原告所有の右宅地は、仙台市の繁華街である東一番丁通の北端突き当りに位置し、錦町、勾当台通、宮城県庁、仙台市役所等を連結する交通の要衝にして、交通量最も頻繁な所で、原告の右営業には最適な場所であつた。

原告は被告の区劃整理施行を知るや、前記法令の精神に鑑み、原地附近の第五十四ブロツク第六十ロツト南端附近をその換地として指定されるよう、被告に対し十数回にわたり之が陳情、請願をなしたにかかわらず、右法令並びに原告の希望を全く無視して前記換地予定地の指定をなすに至つたのである。

右換地予定地は、東一番丁通を遠く離れ、交通量は従前の土地の半分にも達せず、そのうえに右指定地は間口狭く奥行長いため到底現在の営業を維持し得ないものであり、従前の土地と比較してその位置、価格、利用価値等著しく劣等の土地であることは万人の認めるところである。

従つて右換地予定地のの指定は、前記法令に反する違法の処分である。

(二)、原告に対しかかる違法な換地予定地の指定をなすに至つたのは、同一地域において割烹店「みうら」を経営する訴外大谷三光独りの利益をはかり、同人に対する不当に有利な換地予定地の指定がなされた為である。即ち、同人は仙台市会議員、都市区劃整理委員を兼ね、勾当台通一番宅地二百九十三坪八合三勺、同番の五宅地八坪二合六勺、定禅寺通三番の一宅地百四十坪、同番の十四宅地六坪二合を所有しているが、そのうち定禅寺通三番の一、同番の十四及び訴外三浦利一郎(同人は仙台市原町小田原十文字二十五番地に居住し第五十四ブロツク内には何等営業所等もない不在地主である。)所有の同番の十三宅地四十四坪六合四勺は公路に通じない所謂袋地であつて、大谷三光等の各所有地はいずれも原告所有の従前の土地に較べ相当劣位の土地であつた。

ところが前記区劃整理の施行により、原告所有の前記土地の外訴外木村義身所有の定禅寺通三番の四十五坪五合八勺、同残間正男所有の同三番の十五宅地四十二坪一合八勺はその全部が道路敷に供され、同石川タケヨ所有の同三番の八宅地四十二坪二勺、同若月光次所有の同三番の十六宅地三十坪、同佐藤完爾所有の同三番の十七宅地三十坪、同船山清五郎所有の同三番の十八宅地五十三坪六合八勺、同鈴木俊次所有の同三番の十九宅地三十坪の各々が約三分の二ないしはその全部が道路敷に供された。勿論大谷三光の所有地である前記一番、同番五、三浦利一郎所有の勾当台通一番の三宅地七十三坪九合五勺、同一番の四宅地十坪も約三分の二宛ないしはそれ以上が道路敷に供されたけれども、その部分は僅か一部が勾当台通、定禅寺通の街路に面するのみで、かくて形成された第五十四ブロツク第五十九ロツト百一坪、第六十ロツト三百二十四坪にはさしたる寄与もなかつたのである。而して大谷三光、三浦利一郎以外の多数の犠牲によつて形成された右ロツトは、東南西の三方面が勾当台通、定祥寺通の各街路並びに仙台市役所南側広場と東一番丁通を直結する新設道路に面し、北方は右広場に直結する枢要な地点となり、交通量も頻繁にして、飲食店、割烹店経営等には最適の場所となつたのである。

而して右五十九、六十各ロツト附近には、原告の外前記犠牲者等に対しても換地予定地を指定し得る余地があるにもかかわらず、原告の従前の土地に比すれば相当劣位の土地にある大谷三光、三浦利一郎の土地に対し之が換地予定地として、大谷三光とは全く別人である三浦利一郎の分も含め、大谷三光に対し第五十九、六十各ロツトを一括指定したのである。元来同人の前記営業は第六十ロツトの約半分の地積があれば十分であり、又同人は東四番丁十六番地にも所有地を有するから、かく多数の犠牲において大谷三光独りにのみ広大な第五十九、六十各ロツトを独占させる理由はない。被告がかく大谷三光の為にのみ計つた換地予定地の指定をなしたことは、先に同人に対し東一番丁通の定祥寺通の交叉する南角の一区劃を仮指定し、利害関係人の猛烈な反対によつて之を変更したこと、又換地交付の計画案を審議するに当り、被告は正当な意見を封殺すべく会議の延長を禁じ、多数決をもつて原案を可決したこと等によつても右事実は明らかである。

以上の如く、原告に対する換地予定地の指定は、前記法令に違反し、原告の権利を侵害するものであるから、その取消を求めるため本訴に及ぶ、と述べ、

被告の主張に対し、仮に大谷三光、三浦利一郎両名に対し各別に換地予定地の指定をなしたとしても、三浦利一郎は前記の如く原地不在の地主であるから、多数の犠牲によつて格段に価格の高騰した第五十九ロツトを同人にのみ独占させる合理的な理由はない。と述べた。

(立証省略)

被告訴訟代理人は、主文と同趣旨の判決を求め、

答弁として、

被告が原告の所有地仙台市定禅寺通三番の五宅地三十七坪七合に対し昭和二十七年六月二十七日附をもつて原告主張の如き換地予定地の指定をなし、その頃右通知書が原告に送達されたこと、原告が右従前の土地内に主張の如き建物を有し、飲食店及び酒類販売業を営んでいたこと、かかる営業は交通量の多少により著しい収益を差を来たすから、交通量の頻繁な街路に面していることを必須条件とするところ、原告の従前の土地が主張の如き交通の要衝に当り、右営業をなすに最適の土地であつたこと、第五十四ブロツク第五十九、六十各ロツトが主張の如き土地を道路敷として形成され、同ロツトの周囲がその主張の如く街路、広場によつて囲繞されていること、原告が換地予定地の指定につき十数回にわたつて陳情、請願したこと、大谷三光が割烹店「みうら」を経営し、市会議員、区劃整理委員を兼ね、東四番丁十六番地にも土地を所有すること、三浦利一郎がその主張の場所に居住し第五十四ブロツク内には不在であることはいずれも之を認める。

右第五十九、六十各ロツトが交通頻繁にして飲食店、割烹店経営等に最適な枢要の場所となつたことは不知。

その余の事実はすべて争う、と述べ、

原告は本件換地予定地の指定は、原告の不利益においてなされた旨主張するけれども、原告所有の定禅寺通三番の五宅地三十七坪七合につき、仙台復興土地区劃整理設計書に基く二割四分七厘を減歩すると指定坪数は二十八坪三合八勺になるが、本都市計画に於いては三十坪を最小指定坪数として居り、これに満たないから原告に対しては本来なら換地を交付しなくともよいのであるが、被告は逆に之を増歩し三十坪として右指定をなしたものであるから、被告は原告に対しこの点においても相当有利な取扱をしたのであつて、原告主張のような不当な処分をしたものではない。原告は大谷三光、三浦利一郎に対する換地予定地の指定を云々するが、第五十九、六十各ロツトが原告主張のような土地になつたのは区劃整理による当然の結果であり、右両名に対する換地予定地の指定はその主張の如き法律の精神に基き諸般の事情を誠実に考慮した結果、第五十九ロツトは三浦利一郎所有にかかる勾当台通一番の三、四、定禅寺通三番の十三、同番の十四に対する換地予定地として、第六十ロツトは大谷三光所有の勾当台通一番、同番の五、定禅寺通三番の一、同番の七に対する換地予定地として各別に指定したもので、何等違法の点はない、と述べた。

(立証省略)

理由

原告が仙台市定禅寺通三番の五宅地三十七坪七合を所有し、被告が原告主張の日時に原告に対し仙台市特別都市計画による土地区劃整理のため、右土地に対する換地予定地として原告主張の箇所を指定する旨通知し、その頃右通知書が原告に送達されたこと。原告は従前の土地において建坪三十四坪六合二勺の店舖兼居宅を構え、飲食店及び酒類販売業を営んでいたこと。かかる営業が交通量の頻繁な街路に面していることを必須条件とするところ、原告の右従前の土地が仙台市の繁華街東一番丁通の北端突き当り稍東寄り(この点は成立に争のない乙第一号証により之を認める)に位置し、原告主張の如き地点を連結する交通の要衝にして、原告主張の如き営業には最適の箇所であること。第五十四ブロツク第五十九、六十各ロツトは原告主張の如き土地を道路敷として形成されたもので、右ロツトが原告主張の如き道路、広場により囲繞されていること。大谷三光が原告主張の如き営業をなし、仙台市会議員、都市区劃整理委員を兼ねていること。三浦利一郎が原告主張の場所に居住し原地不在地主であることはいずれも当事者間に争がない。

原告は被告が原告に対し昭和二十七年六月二十七日附でなした換地予定地の指定が耕地整理法第三十条第一項、仙台市特別都市計画事業復興土地区劃整理施行規程第七条に違反する違法のものである旨主張するから按ずるに、特別都市計画法に基く区劃整理について換地予定地の指定をなすには耕地整理法第三十条第一項、前記施行規程第七条の法意に従い、換地予定地は従前の土地と等価値の土地に指定することを要請されるが、同法第三十条第一項但書、特別都市計画法第十六条、右施行規程第十六条、特別都市計画法施行令第三十六条第一項に於いて換地ということの技術的困難からして右要請は現実には満たされず或る程度の不均衡の生ずることを予想し、ある程度の不均衡は已むを得ざるものとして認容し、その不均衡については金銭をもつて清算すべきことを規定している法意からみて、換地予定地が従前の土地に比較して差等があるとの一事を以て直ちに当該換地予定地の指定を違法と断定すべきでないことは明らかであり、該指定が違法となるのは、整理施行者が区劃整理施行に当つて、合理的な理由もないのに特定の者に対し故意に不利益な処分をした場合とか、当該処分が特定の者にとつてのみ著しく不利益なものである場合でなければならない。

そこで被告のなした換地予定地の指定が原告に対し故意に不利益な処分をした場合に当るかどうか判断するに、成立に争のない甲第一、六号証、同第八号証の一、二、乙第一号証ないし第三号証、同第五号証、証人佐藤芳太郎、八巻芳夫、遊佐広太の各証言によれば、定禅寺通、勾当台通の各街路は別紙図面表示の如く拡張され、仙台市役所南側に広場を新設、之と東一番丁通を直結するため右図面表示の如く巾二十米の道路を新設する等公共施設の設計により宅地の総面積は極度に減少されたので、已むなく換地予定地用として第五十九ロツト約百一坪、第六十ロツト約三百二十四坪の小区劃を設置したこと、被告は右ロツトを誰に指定するかにつき原告、木村義身、残間正男並びに同一地域居住の大谷三光は全く同様の立場にあること、三浦利一郎は原地不在の地主ではあるが、大谷三光がその所有地に三浦利一郎所有地を併せ一団地として利用して来たこと、各宅地の面積、利用状況等諸般の事情を勘案したうえ、大谷三光に対し同人所有の勾当台通一番宅地二百九十三坪八合三勺、同番の五宅地八坪二合六勺、定禅寺通三番の一宅地百四十坪三合六勺、同番の七宅地二十坪四合四勺に対する換地予定地として原地上の第六十ロツトを、三浦利一郎に対し同人所有の勾当台通一番の三宅地七十三坪九合五勺、同番の四宅地十坪、定禅寺通三番の十三宅地四十四坪六合三勺、同番の十四宅地六坪二合に対する換地予定地として原地上の第五十九ロツトを各指定したこと、その結果第五十九、六十各ロツトには空地がなくなつたので、木村義身、残間正男は原告と全く同一条件にあつたので、右三名に対しては従前の土地の位置、地積、利用状況並びに宅地利用の観点から間口三間半以上の土地を撰択し、昭和二十六年一月一日現在の賃貸価格がほぼ同等である第五十六ロツトを原告に、第五十七、五十八ロツトをそれぞれ木村義身、残間正男に指定するに至つたもので、換地予定地として交付し得る土地は右土地以外に適当な箇所はなかつたこと、右予定地は繁華街東一番丁通と広場を直結する新設道路と定禅寺通の交叉する角から約八間定禅寺通を西に入つた所で、定禅寺通の街路に面していることが認められる。

右認定事実に反する証人米竹海三、昆野武郷の各証言並びに原告本人尋問の結果は措信し難い。右事実によれば、繁華になるべく近く、できるだけ原告の利益を慮つたものと思料される。

尤も原告は、第五十九、六十各ロツト内には原告その他の者に対しても換地予定地を指定し得る余地がある旨主張し、之に沿う証人昆野武郷の証言があるけれども、右証言は措信し難く、却つて前示乙第一号証、証人佐藤芳太郎、八巻芳夫の各証言を綜合すれば、原告、木村義身、残間正男等の従前の土地から考え、右ロツトの一部を原告のみに指定することは公平を失するから、木村、残間に対して同様の指定をしなければならない関係にあるのであるが、もし右三名に大谷三光を加えこの四人に対し第五十九、六十各ロツト内に換地を指定するときは右ロツトの地積から、大谷三光に対しては従来一団地として利用して来た土地に対し、之を分割し一部は飛換地をせざるを得なくなること、第六十ロツトの南側は間口十三間一分であり、之に右四名を配分すると大谷三光は間口六間、その余の原告外二名は各二間三分宛位の間口に細分され、各種営業の立地条件として著しくその利用価値が削減され、区劃整理の目的である宅地利用の調整に反し且つ技術的にも困難を伴うことが認められる。右事実によれば、もし原告に対し第五十九、第六十ロツト内に換地を指定するときは土地の細分化、大谷三光に対する使用宅地の分散を来たし区劃整理の目的に反する結果となるものと謂わなければならない。

以上の事実によれば、原告に対する本件換地予定地は区劃整理の地区全般の均衡を図るために採られた措置であつて、被告が故意に原告に不利益を与えんとしてなしたものであるとは言えない。

次に原告に対する右換地予定地の指定が他のものに比較し著しく不利益な取扱に当るかどうかにつき判断するに、前示甲第六号証、乙第一号証ないし第三号証、同第五号証によれば、原告と同一地域に居住する木村義身所有の定禅寺通三番の四宅番地四十五坪五合八勺は約三十四坪に減歩されたうえ第五十七ロツトに、残間正男所有の同三番の十五宅地四十二坪一合八勺は約三十一坪に減歩されたうえ第五十八ロツトに各指定されたことが認められる。之に大谷三光、三浦利一郎に対する前記各所有地に対する換地予定地の指定等と比較検討すれば、原告に対する地積の減歩率は同一地域居住の右四名に比し相当有利なものであると言える。尤も原告は、定禅寺通三番の五は実測面積四十坪八合三勺ある旨主張するが、前記施行規程第三条によれば、換地交付の地積は、昭和二十二年二月十七日現在の土地台帳地積に基くから、右主張は理由がない。

而して、第五十九、六十各ロツトには原告主張の如き空地は全くなく、他に原告の換地を求めるとすれば、原告、木村義身、残間正男等の従前の土地と比較衡量して、現地以外にはその適地がなかつたこと前記認定の通りである。

尤も原告の営業である飲食店及び酒類販売業を営むうえからみれば、換地予定地が従前の土地に比し不利益な土地であることは証人米竹海三、後藤江陽、昆野武郷の各証言、原告本人尋問の結果、鑑定人畠山正、同高橋利平の鑑定の各結果により、之を認めることができるけども、戦災都市を復興して公共の福祉を増進するためになされる都市計画事業によつて、私人が多少の不利益、不便を蒙ることは已むを得ざるものであり、原告の原地附近における換地を求めるとすれば本件指定地以外にその適地がなかつたこと、原告及び同一地域居住者の前記諸般の事情を考慮すれば右指定が原告のみに対し殊に不利益な取扱をしたものとはいえない。

原告は、被告は原告の不利益において、大谷三光、三浦利一郎に対し不当に有利な換地予定地の指定をなした違法がある旨主張するけれども、右両人に対する換地予定地と原告に対するそれとの間には優劣の差があるとしても、或る程度の優劣の差の生ずることは区劃整理の結果避けけることはできないところであり、被告に於いて特に右両名の利益を計るため殊更原告に対し不利な換地を指定することを認めるに足る証拠がないから原告の右主張は採用することができない。

以上の如く、原告の本件換地予定地指定の違法を主張し、その取消を求める本訴請求はすべて理由がなく、排斥を免れない。

よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。

(裁判官 新妻太郎 飯沢源助 金子仙太郎)

(図面省略)

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