仙台地方裁判所 昭和27年(行)8号 判決
原告 真壁一郎
被告 宮城県知事
一、主 文
原告の「解約許可処分」を求める訴を却下する。
原告の「解約不許可処分の取消」を求める請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は「被告宮城県知事が昭和二十六年十二月十日附指令第一八一一号を以て原告に対してなした仙台市南小泉桃源院東五十一番ノ一畑一反一畝十五歩の賃貸借契約の解約を許可しない旨の処分を取消し、これを許可する。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、請求の趣旨記載の農地は原告の所有で、原告は昭和十七年中訴外加藤佐兵エに対し養豚経営の目的で期間の定めなく、賃料を一ケ年三十四円九十四銭毎年々末払とし、他に豚肥を全部原告に提供する約束で貸与引き渡したものであるが、同人は昭和二十年十二月二十八日に右農地とその隣接地五十一番ノ二宅地の賃料として金百円を支払つた外は家計困難を理由に全く賃料を支払わず、養豚業を昭和二十年頃から廃止し従つて豚肥の提供をもしないので、原告は昭和二十五年八月十一日被告宮城県知事に対し、右賃貸借契約を解約することの許可を申請したところ、被告知事は請求の趣旨記載の如く不許可処分をなした。しかし加藤は右のように契約を履行しないのみならず、司法書士を業としており、且別に古川市に本宅を有してこれに本妻と子を居住させ、前記五十一番ノ二宅地に仮寓しているにすぎないのであつて、右不許可処分は違法である。よつて本訴に及んだと述べた(立証省略)。
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、原告の主張事実中、その主張の農地が原告の所有で、昭和十七年中訴外加藤佐兵エに養豚経営の目的で賃貸引き渡されたこと(但し賃料の点を除く)、同人が昭和二十四年秋養豚をやめたこと、同人が、同じく原告から借り受けた隣接地桃源院東五十一番ノ二宅地(但し公簿上の地目は畑)上に居住し、司法書士を副業としていること、古川市に妻子があること、及び原告がその主張のように被告知事に対し右賃貸借契約の解約許可申請をなし、被告知事がその主張の通りの処分をしたことはいづれもこれを認めるが、その余の事実は争う。加藤には原告が主張するような債務の不履行はなく、又古川市の妻子とは既に十数年以前から別居していて、右五十一番ノ二は昭和十七年以来同人の生活の本拠となつているものである。而して同人は事実上の妻とその間の子七名をかかえてその家計は苦しく、右農地を喪えば生活に支障を来すに反し、原告は一町八反歩の農地を所有し、うち一町一反歩を自作しているが、その家族は三名で、現在本件農地をさほど必要とするものではないから被告知事の本件不許可処分は適法であると述べた(立証省略)。
三、理 由
賃貸借契約の解約許可を求める訴について、
本訴は、裁判所が行政庁たる被告知事に代つて自ら被告知事の権限に属する行政処分をするに等しい裁判を求めるものである。しかし裁判所は三権分立の建前からこのような裁判をする権限を有しないのであつて、右訴は不適法として却下を免れない。
被告知事がなした賃貸借契約の解約不許可処分の取消請求について、
仙台市南小泉桃源院東五十一番ノ一畑一反一畝十五歩が原告の所有で、同人がこれを昭和十七年中訴外加藤佐兵エに養豚経営の目的で期間の定めなく賃貸引き渡したこと、原告が昭和二十五年八月十一日被告知事に対し右賃貸借契約の解約許可を申請し、被告知事が昭和二十六年十二月十日附指令第一八一一号を以てその頃これを許可しない旨の処分をしたことは当事者間に争がない。原告は加藤に信義に反した行為があつたと主張し、原本の存在と成立に争がない甲第一号証の記載、証人真壁はる、真壁きくよの各証言、原告本人尋問の結果を綜合すると、右農地(その一部は右貸借の当時から豚小舎敷地となつていたが、弁論の全趣旨に徴すると、右土地は全体として農地調整法に所謂農地の状況にあつたと認められる。)の貸借は賃料を一ケ年三十四円九十四銭とし他に豚肥を全部原告に提供する約束でなされたものであるが加藤は昭和二十年頃から養豚業を廃止し、又昭和二十年十二月二十八日に金百円を右農地とその隣接地で同じく原告から借り受けていた同五十一番ノ二(現況宅地)五十坪に対する昭和十九年度までの賃料として支払つた外は昭和二十四年中原告からこれら土地の返還を要求されるまで金員の支払をしなかつた事実を認め得るけれども、右証拠(甲第一号証を除く)と成立に争がない甲第二号証の三、証人加藤佐兵エ、佐藤清一の各証言を併せると、原告家が右賃貸借当時において二町七反歩位の農地を所有し、前記解約許可申請当時においてもなお農地として一町八反歩を所有し、うち一町一反歩を自作していて家族は三名であるのに対し、加藤は古川市に妻子はあるが既に十数年以前からこれと別居し、本件農地と前記宅地を賃借した当時から事実上の妻とその間の多数の子(右解約許可申請当時六名)と共に右宅地上の堀立小舎同然の家屋に居住し来つたが、殊に養豚業を廃止した昭和二十年以後数年の間は右農地を含む二反位の農地による収益と、僅かな恩給及び、当事者間に争のない司法書士の業務によるそれも場所柄極めて僅かな収入によつてかろうじて糊口を凌いでいるに過ぎないことを認め得るのであつて、加藤が右のように養豚業を廃止したことが同人の責むべき事情に基くことの認められない本件においては、本件不許可処分がなされた当時「宥恕すべき事情」がなかつたと云い得ない。而して原告本人尋問の結果中「本件土地は原告の農業経営上是非とも必要なところである」との陳述があるけれども、これは信用しがたく、同尋問の結果中他の部分と証人真壁きくよの証言によればかえつて原告は右解約許可申請後においても漸次自作範囲を縮少してきているのであつて、本件農地を原告が自作するのを相当とするとは認められず、その他前記賃貸借契約の解約を許可すべき事情を認めるに足る証拠はない。従つて被告知事のなした本件不許可処分は違法ではなく、原告の請求は棄却を免れない。
仍つて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 中川毅 野村喜芳 山下顕次)