仙台地方裁判所 昭和30年(行モ)1号 決定 1955年11月08日
申請人 松巖寺
被申請人 宮城県知事
主文
申請人の申請は却下する。
理由
申請人代理人は、申請の趣旨として、本案判決確定に至るまで、被申請人が昭和三十年十月十日なした宗教法人松巖寺規則の認証の効力を停止する、との決定を求め、
その理由として、
申請外松山岩王は宗教法人曹洞宗松巖寺主管者にして昭和二十九年四月二十一日右主管者を罷免されたものであるが、同人は松巖寺を被包括寺院宗教法人曹洞宗から離脱させ単立寺院とすべく、宗教法人松巖寺規則を作成のうえ、被申請人に対し昭和二十七年十月二日右規則の認証を申請し、昭和二十九年四月一日右申請を却下され、同月二十五日再審査の請求をなしたところ同年十二月十日これも却下された。同人は更に文部大臣に対し同年十二月十八日訴願を提起し、昭和三十年九月二十九日右認証を容認すべき旨の裁決を得、被申請人は同年十月十日右規則を認証した。
右認証手続には次のような違法がある。
即ち、寺院規則の認証を申請するに際しては、先ず被包括寺院である宗教法人曹洞宗からの離脱及び単立寺院設立につき信者その他利害関係人の同意並びに右曹洞宗に対し被包括関係廃止の通知をなさなければならないのに、松山岩王は右手続を履践せず、松巖寺の一部信者及び他の寺院信者等と共謀して、右手続を履践したものの如く書類を作成し、しかもその申請手続は宗教法人法施行の日から一年六ケ月内即ち昭和二十七年十月三日までに該規則を添附した認証申請書を提出してこれが認証を受くべきであるのに、松山岩王は期間内に右規則を添附しない認証申請書のみを提出し、昭和二十九年四月三日に至り初めて右規則を提出したものである。従つて本件認証申請手続は宗教法人法第十二条第三項、第十三条、同法附則第十四項、第十五項に違反し、しかもその違法は法律上重大且つ明白な瑕疵あるものとしてその取消を免れない。
そこで申請人は被申請人を相手方として当庁に対し寺院規則認証取消請求事件(当庁昭和三十年(行)第一九号)を提起したが、右認証の効力を現状のまま放置するときは、後日申請人が本案の訴訟で勝訴の判決を受けても、次のような償うことのできない損害を蒙るおそれがある。
即ち、松巖寺は創立以来数百年を経、檀家約三百戸を擁する県下有数の寺院にして、その信者の約九十九パーセントは松巖寺が従前のまま継続することを要望し、単立寺院たることを拒否しているものであるが、前示認証の執行力に基き新宗教法人の設立登記手続がなされると、その結果申請人の登記簿は閉鎖、解散される運命に陥り、その財産は一切新松巖寺に帰属し、多くの檀徒は放逐されその墳墓を失うことになる。また松山岩王は前記主管者当時から寺有財産を同人の個人所有名義に変更する等の非行を重ね、信者の不信任を受け放逐された者にして、かかる者による布教は信者の信仰生活を根底より破壊し、信仰の喪失、前示申請人の解散、墳墓の喪失等による精神上の打撃は想像に絶するものがある。以上の如き損害は被申請人の前示処分の執行により生ずる償うことのできない損害というべく、これを避けるため緊急の必要がある。よつてその執行停止を求めるため本申請に及んだ、というにある。
そこで按ずるに、申請人の主張並びにその提出にかかる疏明書類をもつてしても未だ本件認証「処分の執行に因り生ずべき償うことのできない損害を避けるため緊急の必要がある」特段の事情があるとは認め難い。
よつて、その他の諸点についての主張の当否はしばらくおき、申請人の申請は停止の必要性を欠く点において相当でないと認め、主文のとおり決定する。
(裁判官 新妻太郎 桝田文郎 金子仙太郎)