仙台地方裁判所 昭和31年(ワ)211号 判決 1958年5月21日
原告 国
訴訟代理人 滝田薫 外二名
被告 宮城産業株式会社 外二名
主文
一、被告宮城産業株式会社は、原告に対し、別紙目録記載の土地建物を明け渡せ。
二、被告江口進は、原告に対し、別紙目録記載土地のうち、別紙図面表示の同地所在旧多賀城海軍工廠電力路線電柱番号 第三十三の六から方位角二百八十九度、距離三十四・二メートルの地点を(イ)点とし、同図面表示のとおり(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(イ)の各点を順次直線で結んだ線で囲まれる範囲の土地(五百六十三坪三合六勺)を明け渡せ。
三、被告本郷清一は、原告に対し、別紙目録記載土地のうち、別紙図面表示(リ)(チ)(ト)(ヌ)(ル)(オ)(ワ)(カ)(ヨ)(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(リ)の各点を順次直線で結んだ線で囲まれる範囲の土地(二百五坪六合一勺)を、その地上に存する家屋番号多賀城町第二二八番木造瓦葺平家建居宅一棟建坪十三坪二合を収去して明け渡せ。
四、被告宮城産業株式会社は、原告に対し、金九十三万六千九十三円及びこれに対する昭和三十一年一月十一日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
五、訴訟費用は、被告等の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一ないし第四項同旨並びに「訴訟費用は、被告等の連帯負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、
「(一) 別紙目録記載の土地建物は、もと海軍省所管の旧国有財産法上の公用財産であつたが、終戦後、大蔵省に引き継がれ普通財産となつた。
(二) 原告は、昭和二十五年六月十日被告会社(当時日本畜産株式会社と称していたが昭和二十九年九月十五日、宮城産業株式会社と商号を変更した。)に対し、別紙目録記載の土地建物を同地上の木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫一棟建坪六十坪並びに右土地に隣接する原告所有地一万一千五百九十八坪と共に、貸付の始期を同年四月一日に遡らせ、終期を同年七月三十一日とし、賃料は、大蔵省において会計年度(毎年四月一日に始まり翌年三月三十一日に終る。)毎に賃貸物件の時価を基準として定める額、用途は、家畜の飼育用地及び畜産物農産物の加工業並びにこれに附帯する一切の事業に供することと定めて一時使用の目的で賃貸し、この際被告会社において右土地建物を右所定の用途に供せず、又は原告に無断で転貸したときは、原告において右契約を何時でも解除できる旨特約した。
同年八月八日、原告は、被告会社に対し、更に右土地建物を、右隣接地上の木造瓦葺平家建倉庫一棟建坪二百十坪とともに、貸付の始期を同月一日に遡らせ、終期を同年十月三十一日と定め、その余は前同一と約定して一時使用の目的で賃貸し、昭和二十六年三月二十二日には、更に貸付の始期を昭和二十五年十一月一日に遡らせ、終期を昭和二十六年三月三十一日とし、賃料は、土地につき金六万三千五百二十六円、建物につき金一万一千二百九十五円と定め、その余は前同一の約定で一時使用の目的で賃貸した。
右賃貸期間満了の際、被告会社は、右賃貸物件中、別紙目録記載土地上の木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建倉庫一棟六十坪及び同地の隣接地並びにその地上の倉庫一棟二百十坪を返還したのみで、別紙目録記載の土地建物は、昭和二十六年四月一日以降も以然として使用を継続している。
そして、原告はこの使用の継続に対し、何等異議を述べなかつたので、賃貸借は、昭和二十六年四月一日以降も、前同一の約定の下に、更新されて存続していたものである。
(三) ところが、被告会社は別紙土地建物を賃借し始めて以来、経営状態が思わしくなく、右土地建物を所定の用途に使用することなく、且つ、原告に無断で、右土地のうち、同地所在旧多賀城海軍工廠電力路線電柱番号第三十三の六から方位角二百八十九度、距離三十四、二メートルの地点を(イ)点として、別紙図面表示のとおり、(イ)(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)(チ)(リ)(イ)の各点を順次直線で結んだ線で囲まれる範囲の土地五百六十三坪三合六勺(以下甲地域と称す)を被告江口に、同図面表示(リ)(チ)(ト)(ヌ)(ル)(オ)(ワ)(カ)(ヨ)(タ)(レ)(ソ)(ツ)(ネ)(リ)の各点を順次直線で結んだ線で囲まれる範囲の土地二百五坪六合一勺(以下乙地域と称す)を被告本郷にそれぞれ転貸している。
よつて、原告は、昭和二十八年八月二十四日付の書面で、右転貸借を解消し、原状回復するよう請求したが、被告会社はこれに応じなかつたし又被告会社は別紙目録記載の土地建物を契約所定の用途に供しないので、原告は、昭和三十年九月十五日被告会社に対し、右のように別紙目録記載の土地建物を所定の用途に供せず、且つ転貸したことを理由とし、前記特約に基いて被告会社との間の前記賃貸借契約を解除し、右土地建物の返還を求める旨の書面を発し、この書面は、翌十六日被告会社に到達したので、同日をもつて、前記賃貸借契約は解除された。
(四) 被告会社は別紙目録記載の土地建物につき、昭和二十六年四月一日以降昭和三十年九月十六日までの賃料を未だ原告に支払わないのみならず、賃貸借契約解除されたのにも拘らず今も尚右土地建物を原告に返還せずこれによつて原告に賃料相当額の損害を与えている。そして、昭和二十六年四月一日以降の右土地建物の賃料は、前記のとおり、各会計年度毎に大蔵省の定める時価を基準として定める約定であつたが、これによる具体的な額は次のとおりである。
(1) 昭和二十六年四月一日から昭和二十七年三月三十一日までの賃料
土地につき金二万四千三百円、建物につき金十五万七千三百二十円、計金十八万千六百二十円、
(2) 昭和二十七年四月一日から昭和二十八年三月三十一日までの賃料
土地につき金二万四千三百円、建物につき金十六万八百六十三円、計金十八万五千百六十三円、
(3) 昭和二十八年四月一日から昭和二十九年三月三十一日までの賃料
土地につき金四万三千七百四十円、建物につき金十八万二千四百六円、計金二十二万六千百四十六円、
(4) 昭和二十九年四月一日から昭和三十年三月三十一日までの賃料
土地につき金六万七百五十円、建物につき金十六万五千四百九十三円、計金二十二万六千二百四十三円、
(5)(イ) 昭和三十年四月一日から同年九月十六日までの賃料
金九万七千三百三十八円、
(ロ) 同月十七日から同年十月二十日までの賃料相当の損害金 金一万九千五百八十三円、
以上合計金九十三万六千九十三円
原告は、昭和三十年十二月二十七日、被告会社に対し、以上の昭和二十六年四月一日以降昭和三十年十月二十日までの賃料及び損害金、合計金九十三万六千九十三円を昭和三十一年一月十日までに支払うよう催告したが、被告会社はその支払をしない。
(五) 被告江口は、何等正当の権原なく、前記のとおり、甲地域五百六十三坪三合六勺を耕作して占有している。
(六) 被告本郷は、何等正当の権原なく、前記のとおり、乙地域二百五坪六合一勺を占有し、その地上に家屋番号多賀城町第二二八番木造瓦葺平家建居宅一棟建坪十三坪二合を所有している。
(七) よつて原告は、被告会社に対し、別紙目録記載の土地建物の明渡及び前記金九十三万六千九十三円並びにこれに対する前記催告による支払期日の翌日である昭和三十一年一月十一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告江口に対し、その占有する甲地域の明渡を求め、被告本郷に対し、その占有する乙地域の明渡及びその地上の前記居宅の収去を求めるため、本訴に及んだ」と述べ、
被告等の主張に対し、「本件賃貸借が、別紙目録記載の土地建物を将来原告が被告会社に払い下げることを前提として締結されたものであり、この払下までは、賃借契約を更新する約束であつたことは否認する。
仮りに、そのような約束があつたとしても前記特約に基き被告会社の義務違反を理由として右賃貸借を解除することを妨げないのは当然である。」と述べ、
被告等訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、
答弁として、
「原告主張(一)の事実は認める。
原告主張(二)の事実中、賃料を大蔵省の定める額によるとの点は争うが、その余は認める。
原告主張(三)の事実中、被告会社が原告から昭和二十八年八月二十四日付の書面で原告主張のような原状回復の要求を受け、昭和三十年九月十五日付の別紙目録記載の土地建物の明渡を求める旨の書面を翌十六日受けとつたことは認めるがその余は争う。被告江口が甲地域を、被告本郷が乙地域をそれぞれ占有してはいるが被告会社が右被告両名に転貸したものでなく別紙目録記載の土地、建物を管理させる必要上同被告等に甲乙地域を占有せしめているものである。
原告主張(四)の事実中、被告会社が、原告から、昭和三十一年一月十日までに賃料並びに損害金金九十三万六千九十三円を支払うように催告した昭和三十年十二月二十七日付の書面を受けとつたことは認めるが、その余は争う。
昭和二十六年四月一日以降は、従前と同一の条件で賃貸借契約が更新されていたのであるから、賃料も、昭和二十五年四月一日から昭和二十六年三月三十一日までの賃料と同額であるべきである。又、従前の契約では別紙目録記載の建物につき登記簿上の坪数によつて賃料を定めていたのであるから、仮りに、賃料を原告主張のように大蔵省の定める基準によるものとしても、額の算定に当つては、実測坪数ではなく、登記簿上の坪数によつて計算すべきである。
原告主張(五)につき、被告江口の占有が正当の権原のないものである点は争うが、その余の事実は認める。
原告主張(六)につき、被告本郷の占有が正当の権原のないものである点は争うが、その余の事実は認める。」と述べ「別紙目録記載の土地建物は将来原告から被告会社に払い下げられることになつており、払下までの間、被告会社に使用を許す約束であつた。そして一応一時使用目的の賃貸借契約を結ぶこととはしたが、これは、右払下のあるまで更新を繰り返し賃貸借を継続してゆく特約であつた。しかるに、未だ被告会社は払下を受けていないのであるから、本件賃貸借は、今尚継続している。」と述べた。
立証<省略>
理由
一、別紙目録記載の土地建物は、もと海軍省所管の旧国有財産法上の公用財産であつたが、終戦後大蔵省所管の普通財産となつたもので、原告の所有に属すること、原告が、昭和二十五年六月十日被告会社(当時日本畜産株式会社と称していたが、昭和二十九年九月十五日、商号を変更して宮城産業株式会社となつた。)に対し、別紙目録記載の土地建物をその他の土地建物とともに、賃貸の期間を同年四月一日から七月三十一日まで、用途は、家畜の飼育用地及び畜産物農産物の加工業並びにこれに附帯する一切の事業に供することとし、被告会社において、右土地建物を所定の用途に供せず、又は原告に無断で転貸したときは、原告は何時でも契約を解除できることと特約して賃貸したこと、原告が同年八月八日、被告会社に対し、更に別紙目録記載の土地建物を他の土地建物とともに、賃貸期間を同月一日から同年十月三十一日までとし、その余は従前と同一の特約で賃貸し更に、昭和二十六年三月二十二日被告会社に対し、賃貸期間を昭和二十五年十一月一日から昭和二十六年三月三十一日までとし、従前と同一の土地建物を、従前同様の約定で、賃貸したことは当事者間争いがない。
成立に争いない甲第一号証、甲第四号証、乙第四号証の一の一、二、同号証の二、三、証人高橋康雄、早川淳二の証言を綜合すると、普通財産の貸付の際の貸付料は、会計年度毎に、大蔵省の貸付料算定基準によつて定められること、従つて、普通財産を長期間貸し付けて使用させる場合でも、このように貸付料を会計年度毎に定める関係から、貸付の契約も一年毎の契約として更新すること、貸付の契約締結の際、貸付料額について相手方の了承を求めるけれども、前記基準によつて算定された貸付料の額はこれを増減することはできないもので、貸し付ける以上は、必ずこの額によらねばならないこと、本件の場合もこのような事情を被告会社に説明し、大蔵省所定の貸付料算定基準によつて賃料を定めることの特約のもとに、前記賃貸借契約が結ばれたものであること、右各賃貸借契約の使用料金額は右算定基準によつて算定されたものであることを認めるに足りる。
昭和二十六年三月三十一日をもつて前記賃貸借の期間が満了した際、被告会社は、別紙目録記載の土地建物を除く土地建物を原告に返還したが、別紙目録記載の土地建物は返還せず、依然、同年四月一日以降もその使用を継続していること、原告はこの使用の継続に対し、何等異議を述べなかつたので、別紙目録記載の土地建物についての賃貸借は、更新されたことは当事者間争いがない。
二、別紙目録記載土地のうち、甲地域五百六十三坪三合六勺を被告江口が耕作して占有しており、乙地域二百五坪六合一勺を被告本郷が占有し、その地上に家屋番号多賀城第二二八番木造瓦葺平家建居宅一棟建坪十三坪二合を所有していることは当事者間争いない。
証人小島忠夫、宮沢清治、鈴木孝之亟の証言、被告江口、被告本郷各本人尋問の結果を綜合すると、被告江口は、昭和二十八年に、甲地域が荒れたままになつていたのを被告会社から無償で借り受け、以来、右土地を耕作して作物を収穫していること、同被告は、昭和二十七年七月頃まで被告会社の取締役であつたことがあるが、それは全く名目的なもので、会社の業務には全くたずさわらなかつたこと、被告本郷は、昭和二十五年十一月頃から、被告会社の承諾の下に、乙地域に塀を設け建坪十三坪二合の前記居宅を建築し、乙地域をその敷地として利用していること、同被告は、右居宅建築当時、被告会社の役員ではなく、又、会社の業務とは全く関係がなかつたこと、被告会社が右地域を被告江口及び被告本郷に使用させることについて全く原告の承諾を得ていないことを認めることができる。
以上認定したところによれば、被告会社は原告に無断で甲乙地域を被告江口及び被告本郷に転貸したものであり、被告会社主張のように単なる被告会社の占有補助者として本件土地の管理を委託したものでないことが明らかである。証人宮沢清治、鈴木孝之亟の証言、被告江口及び被告本郷各本人尋問の結果によつても右認定を左右するに足りない。
原告が昭和二十八年八月二十四日付の書面で被告会社に対し被告会社が、別紙目録記載の土地の一部を原告に無断で転貸していることを指摘し原状回復を要求し、更に、昭和三十年九月十五日付書面で別紙目録記載の土地建物の明渡を求め、その書面が、翌十六日被告会社に到達したことは当事者間争いない。
従つて、無断転貸を理由とした原告の昭和三十年九月十五日付の解除の意思表示により、同月十六日前記特約に基き本件賃貸借契約は消滅したものといわなければならない。
よつて、被告会社は賃貸借契約終了による原状回復の義務の履行として原告に対し、別紙目録記載の土地建物を明け渡すべき債務がある。
又、被告江口及び被告本郷は甲又は乙地域を占有するについて、原告に対抗し得べき何等の権原のないことが明らかであるから、原告に対し、被告江口は甲地域を明け渡すべく、被告本郷は乙地域をその地上の右各地を前記居宅を収去の上明け渡すべき義務があるものといわなければならない。
三、被告会社が別紙目録記載の土地建物を原告に未だ明け渡していないことは弁論の全趣旨からみて当事者間争ないところであり、特別の事情の認むるべきもののない本件においては被告会社は原状回復の債務不履行により、原告に対し昭和三十年九月十七日以降別紙目録記載土地建物の賃料相当額の損害を与えているものと云わなければならない。
そして前記甲第四号証、証人高橋康雄、早川淳二の証言によると前記約定の各会計年度における大蔵省所定の基準による賃料は次のとおりであることが認められる。
(1) 昭和二十六年度(同年四月一日から翌年三月三十一日まで。以下これに準ずる。)の賃料
土地につき金二万四千三百円、建物につき金十五万七千三百二十円、合計金十八万千六百二十円、
(2) 昭和二十七年度の賃料
土地につき金二万四千三百円、建物につき金十六万八百六十三円、合計金十八万五千百六十三円、
(3) 昭和二十八年度の賃料
土地につき金四万三千七百四十円、建物につき金十八万二千四百六円、合計金二十二万六千百四十六円、
(4) 昭和二十九年度の賃料
土地につき金六万七百五十円、建物につき金十六万五千四百九十三円、合計金二十二万六千二百四十三円、
(5)(イ) 昭和三十年四月一日から同年九月十六日までの賃料土地につき金三万一千百三十三円、建物につき金六万六千二百五円、合計金九万七千三百三十八円、
(ロ) 同年九月十七日から同年十月二十日までの賃料相当額の損害金、
土地につき金六千二百六十四円、建物につき金一万三千三百十九円、合計金一万九千五百八十三円、
以上合計金九十三万六千九十三円
右のとおり認められる。
原告が、昭和三十年十二月二十七日、被告会社に対し、昭和二十六年四月一日以降昭和三十年十月二十日までの賃料及び損害金、合計金九十三万六千九十三円を昭和三十一年一月十日までに支払うように催告したことは当事者間争いない。
従つて、被告会社は、原告に対し別紙目録記載土地建物の昭和二十六年四月一日から昭和三十年九月十六日までの賃料及び同月十七日から、同年十月二十日までの賃料相当の損害金、合計金九十三万六千九十三円並びにこれに対する右催告に定められた支払期日の翌日である昭和三十一年一月十一日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による損害金を支払う義務がある。
四、よつて、原告の請求は全部正当としてこれを認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条、第九十三条に従い主文のとおり判決する。
(裁判官 新妻太郎 平川浩子 菊池信男)
目録等<省略>