仙台地方裁判所 昭和32年(行)15号 判決 1958年10月27日
柴田郡村田町大字村田字町百二十二番地
原告 石田義左エ門
右訴訟代理人弁護士 高橋万五郎
柴田郡村田町
被告 村田町長 大平良治
右訴訟代理人弁護士 片山昇
右訴訟復代理人弁護士 引地寅治郎
右当事者間の昭和三十二年(行)第一五号解職取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
被告が、昭和三十二年四月一日原告を解職した処分を取り消す。
被告は、原告に対し金一万五千五百円を支払わなければならない。
訴訟費用は、被告の負担とする。
この判決は、右第二項に限り仮りにこれを執行することができる。
事実
一、原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求めた。
二、原告の請求原因
原告は、昭和十五年十一月二十一日、村田町吏員に任命され、昭和三十二年三月三十一日当時村田町書記として同役場経済課に勤務していたものであるが、昭和三十二年四月一日被告から、「町長と職員間の申合事項により職を解く」との辞令により解職処分に付された。しかし、原告は、被告と何等の申合をしたこともないし、村田町吏員全員と被告との間にも何の申合をした事実もない。原告を解職処分にする正当の事由がないのに、原告の意に反して原告を解職した右処分は違法である。
原告は、右解職当時、本俸月額金一万三千百円、家族手当月額金二千四百円(妻および十八才未満の第一子について各金六百円、母及び右以外の子二人につき各金四百円)の給与を得ていたが、昭和三十二年四月分の給与の支払を受けていない。
原告は、昭和三十二年四月六日村田町公平委員会に対し、右解職処分の審査を請求したが、右審査は未だに結了していない。
よつて、原告は、右解職処分の取消と、右昭和三十三年四月分の給与の支払を求めるため、本訴請求に及んだ。
三、請求原因に対する被告の答弁
原告が昭和三十一年三月三十一日当時、村田町書記として、同役場経済課に勤務していたこと、被告が、昭和三十二年四月一日原告に対し原告主張のような辞令により原告を解職したこと、右解職当時原告がその主張のような給与を受けていたこと、原告が昭和三十二年四月六日村田町公平委員会に対し、その主張のように審査を請求したが、右審査は未だ結了していないことはいずれも認めるが、その他の原告主張事実は否認する。
原告が村田町吏員に任命されたのは、昭和十八年九月一日である。
四、解職の事由についての被告の主張
原、被告及びその他の村田町全職員は昭和三十年九月二十九日村田町役場会議室に集合し、職員は満五十五才に達した場合には退職すること、その場合には原則として任命権者はその職員について円満退職できる方法を講ずること、町政運営に是非とも必要にして直ちにその後任者を決定するに困難と認められる職員の場合、主として家庭の事情により直ちに退職することが困難と認められる職員の場合及び直ちに退職することが客観的に不適当と認められる職員の場合には前項の原則によらないことができることを全員異議なく賛成し、これを被告と村田町吏員全員とし申合事項とした。そして右申合事項は、「村田町職員の臨時待命に関する条例」「村田町職員の臨時待命を命ずる場合の手続等に関する規則」の有効期限の経過により失効した昭和三十一年四月一日からその効力を生じた。
原告は明治三十五年三月二十一日生であり、昭和三十二年三月二十一日を以て五十五才に達したので、被告は、右申合事項に基いて解職処分をしたものである。従つて本件解職処分は、原告の意に反してなされたものではないのであるから適法である。
五、被告の主張に対する原告の答弁
被告の右主張事実中原告の生年月日が被告主張の通りであることは認める。その余の事実を否認する。
仮りに、被告主張のような申合事項が成立したとしても、発令当時における地方公務員の意に反して免職することは、地方公務員法第二十七条に違反するから、右申合事項は無効である。又右申合事項は昭和三十年四月二十日施行された町村合併の結果生ずる過剰史員を整理するため「村田町職員の臨時待命に関する条例」及び「村田町職員の臨時待命を命ずる場合の手続等に関する規則」に基いて定められたものであり、右条例及び規則の有効期限である昭和三十一年三月三十一日までに剰員の整理が完了し、右条例及び規則は翌四月一日を以て失効したから、右申合事項も同時にその効力を失つた。
六、証拠
原告訴訟代理人は、甲第一ないし第七号証を提出し、証人吉田善蔵、大沼宗市、阿部末吉、吉村伍郎、大沼耕治の各証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙第二ないし第十号証の成立を認め、第一号証の一、二の成立を否認し、その余の乙第十一号証の成立は不知と述べ、
被告訴訟代理人は、乙第一号証の一、二、第二ないし第十一号証を提出し、証人高橋虎之助、村上義衛、吉田善蔵、大沼彦一郎、佐藤明の各証言、被告本人尋問の結果を援用し、甲号各証の成立を認めた。
理由
原告が昭和三十二年三月当時村田町書記として村田町役場経済課に勤務していたこと、被告が同年四月一日「町長と職員間の申合事項により職を解く」の辞令で原告を解職したことは当事者間に争いがない。
証人大沼彦一郎の証言により成立を認める乙第一号証の一、証人吉田善蔵、村上義衛、大沼彦一郎の各証言、原、被告各本人尋問の結果を総合すれば、被告は、村田町議会から村田町職員の停年制を設けるよう要請を受けていたので、村田町役場総務課長大沼彦一郎に命じて昭和三十年九月二十九日村田町職員を同役場二階会議室に招集させた。その際町職員の大部分が出席したが一部のものは欠席した。被告及び大沼彦一郎は同会議室に参集した職員に対し、満五十五年に達した場合には円満退職することを町長と職員との間において申合をすることをはかつたところ異議を称えるものがなかつた。
一、職員が満五十五才に達し退職する場合においては原則として任命権者はその職員について円満退職できる方途を講ずること。
二、次に掲げる場合においては前項の原則によらないことができる。
(1)町政運営に是非とも必要にして直ちにその後任者を決定するに困難と認められる職員の場合
(2)主として家庭の事情により直ちに退職することが困難と認められる職員の場合
(3)その他任命権者においてこの取扱いを適用することが客観的に不適当と認められる職員の場合
以上のことを申し合せ、前記の箇条を「職員が満五十五才をこえて退職する場合における町長と職員間の申合事項」として書面に作成し、これに大沼彦一郎は職員代表として被告と共に署名捺印したこと(乙第一号証の一)、右申合の趣旨は町職員が満五十五年に達したときは自発的に退職の申出をすることを道義的に申し合せたのに過ぎないものであり、任命権者である町長に対し満五十五年に達した職員をその意に反して退職処分に付する権限を与えたものでないことを認めるに充分である。
原告並び被告本人尋問の結果によれば、原告は退職する意思はなく、したがつて自発的に被告に対し退職を願い出たことがなかつたのに、同年四月四日冒頭認定の解職辞令の郵送を受けたことが認められる。
してみると、被告が原告に対してなした本件解職処分は、原告の意に反し、しかも地方公務員法に定める事由による場合でないのになされたもので、同法第二十七条に違反する処分であつて取り消すべきである。又、原告が、本件解職処分当時、本俸月額一万三千百円、家族手当月額金二千四百円の給与を受けていたことは当事者間に争いのない事実であるので、被告は原告に対し右昭和三十二年四月分として金一万五千五百円を給与する義務がある。
よつて被告が昭和三十二年四月一日原告を解職した処分の取消と、右金一万五千五百円の支払を求める原告の本訴請求はこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を夫々適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 新妻太郎 裁判官 平川浩子 裁判官 磯部喬)