仙台地方裁判所 昭和36年(行)3号 判決 1964年1月20日
原告 橋浦一角
被告 名取市長
主文
被告は、原告に対し、金六八万五四一〇円を支払え。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は、「被告は、原告に対し、金一二六万五一〇〇円を支払え。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告訴訟代理人は、原告の請求棄却の判決を求めた。
原告訴訟代理人は 請求原因として
一、被告は、名取市都市計画街路事業町頭築港線街路建設の起業者であるが、昭和二九年五月二一日建設省告示第九五四号により右都市計画事業及び執行年度割の決定を、昭和三三年七月二九日建設省告示第一二六八号及び昭和三五年四月七日建設省告示第八三五号により執行年度割の変更決定を受け、更に昭和三五年八月一七日宮城県告示第四五三号をもつて、宮城県知事の収用土地細目の公告を経由した。
ところが原告所有土地の収用に関し、被告と原告との間に協議が調わなかつたので、被告は、収用土地の面積および収用の時期につき、建設大臣に裁定を申請したところ、同大臣は、昭和三五年一一月一六日建設省城計第二〇九号をもつて、原告所有の名取市閖上字昭和一一番田一反五歩、同所一二番田一反四歩、同所一三番田一反六歩、同所一四番の一田七畝一四歩の土地のうち、右街路敷地に該当する別紙添付図面赤線をもつて囲まれた範囲、即ち前記一一番より一〇四坪、前記一二番より一一〇坪、一三番より一〇二坪、一四番の一より八六坪合計四〇二坪を宮城県収用委員会が右土地の損失補償につき裁決をなした日から起算して七日目に収用する旨裁定した。
次いで被告は、宮城県収用委員会に対し、右土地の損失補償について、土地代を金二三万六三七六円(坪当五八八円)、離作料を金一一万二一五八円合計金三四万八五三四円を相当とする旨の意見を付して、裁決を求めたところ、同委員会は、昭和三六年三月七日、右土地の損失補償金額を、離作料を含めて、坪当金九五〇円合計金三八万一九〇〇円と裁決した。従つて本件土地は、宮城県収用委員会が損失補償の裁決をなした昭和三六年三月七日から起算して七日目の同月一三日に収用された。
二、しかしながら、宮城県収用委員会の裁決した、離作料を含む土地価格坪当金九五〇円は、本件土地近傍の取引価格に比較して、あまりに低廉不当である。即ち、本件土地は、県道増田閖上線に沿い、しかも閖上町市街に接着する地点にあり、公簿面は田であつても近い将来において宅地たるべき土地であり、準宅地と看做され、年々地価高騰し、現在附近の取引価格は、坪当金三五〇〇円内外である。原告は、本件土地上に精麦工場を建築する予定であつたが、本件収用の結果それも不可能となり、他に代替地を求めるとしても、本件収用価格をもつてしては、適地を入手することは極めて困難である。又本件土地収用の結果、残地は三角形の中途半端な土地となり、その利用価値、取引価値が著しく減殺された。
よつて、被告の原告に対する、本件収用に伴う損失補償金額は本件土地の価格として金一四〇万七〇〇〇円(坪当金三五〇〇円)外に離作料として金二四万円合計金一六四万七〇〇〇円が相当である。
三、しかして、原告が前記損失補償金三八万一九〇〇円の受領を拒絶したので、被告は、昭和三六年三月一四日仙台法務局に対し、同局昭和三五年度(金)第二〇六四号をもつて、右金員を供託した。
四、よつて、原告は、被告に対し、その差額金一二六万五一〇〇円の支払を求めるため、本訴請求に及んだ。
と述べた。
被告訴訟代理人は、答弁として、
一、請求原因事実中、第一、第三項の事実は認めるも、第二項の事実は否認する。
二、宮城県収用委員会が裁決した、本件土地の離作料を含めた損失補償金額金三八万一九〇〇円(坪当金九五〇円)は、公平妥当な補償価格である。即ち、被告は、本件都市計画事業用地の買収価格を決定するに当り、対象土地に隣接せる類似地目の時価及び周囲の状況並びに附近における売買実例を参酌し、損失補償価格を昭和三三年度の都市計画事業用地については、土地の価格に離作料を含めて反当金七万七二五〇円(坪当金二五七円五〇銭)、昭和三四年度の都市計画事業用地については、反当金二〇万〇一〇〇円(坪当金六六七円)と定め、これにより円満に用地を取得してきたものであり、独り原告の土地のみを高価に買収しなければならない理由はない。昭和三六年頃の本件土地近傍の小塚原、牛野、高柳地区における農地の売買価格は、反当金一六万円ないし金二二万円程度であり、同年本件計画道路に極近の場所で、宅地にする目的で取引された土地の価格が、七畝歩で金一二万円(反当金一七万六〇〇〇円)であつた実例もあり、又法務局の登録税評価は坪当金一二九円であるから、宮城県収用委員会が裁決した前記補償価格は、右取引価格を上廻る妥当な価格である。
又原告は、本件収用残地が三角形となり、その利用価値並びに取引価値が著しく減殺されたと主張するけれども、右残地は、二つの県道即ち増田閖上港線、荒浜塩釜線と、市道町頭築港線の、何れも幅員一〇米以上の道路にはさまれて将来は宅地化し、更には商店街となることは必須であり、残地の価格は県の収用委員会の裁決価格よりも数倍高騰するものと思われるので、決して不便とか不利になるとは考えられない。
と述べた。
(証拠省略)
理由
一、請求原因第一項の事実については当事者間に争いがない。
二、そこで本件の争点である土地収用による損失補償額について判断する。
証人萱場勘之助、同赤間哲夫、同小畑軍治、同金子幸市の各証言、原告本人尋問の結果、鑑定人伊藤勝寿の鑑定の結果、検証の結果を綜合すると、名取市都市計画事業である町頭築港線の街路敷地として、原告から収用された名取市閖上字昭和一一番田一反五歩中一〇四坪、同所一二番田一反四歩中一一〇坪、同所一三番田一反六歩中一〇二坪、同所一四番の一田七畝一四歩中八六坪合計四〇二坪は、名取市内閖上地区市街地の西端に隣接し、右市街地とその西方に展開する水田地帯との境に位置し、且つ幅員一〇米の県道閖上港線と右都市計画事業によつて新設される市道町頭築港線との交叉点に面する水田であり、その位置環境よりして、将来宅地化する見込の大きい土地であること、右土地の近傍類地の取引実例としては、昭和三五年三月に附近の水田が坪当金二二〇〇円で農協倉庫敷地として売買され、又昭和三八年三月に同じく附近の水田が坪当金五〇〇〇円で綿工場敷地として売買された実例があること、本件収用土地につき、宮城県収用委員会が損失補償の裁決をした時期である、昭和三六年三月七日現在の右土地の損失補償価格は、金一〇六万七三一〇円(坪当金二六五五円)が相当であることを認めるに充分であり、証人高橋茂夫、同洞口正人の証言その他の証拠によつても右認定を左右することができない。
ところで、被告は、原告が前記損失補償金三八万一九〇〇円の受領を拒絶したので、昭和三六年三月一四日、仙台法務局に対し損失補償金として右金員を弁済供託(同局昭和三五年度(金)第二〇六四号)したことは、当事者間に争いがないから、被告は、原告に対し、前記金一〇六万七三一〇円から右金三八万一九〇〇円を控除した金六八万五四一〇円を支払うべき義務がある。
よつて原告の本訴請求は右金額の支払を求める限度で正当であるから認容し、その余の請求は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 新妻太郎 高橋史朗 渡辺剛男)
(別紙)
添付図面<省略>