仙台地方裁判所 昭和39年(ワ)448号 判決 1973年4月25日
昭和三九年(ワ)第四四八号、第四五〇号、昭和四六年(ワ)第二八号事件原告 大友春雄
昭和三九年(ワ)第四五〇号、第五二五号、昭和四六年(ワ)第二八号事件原告 高橋利蔵
昭和三九年(ワ)第四五〇号事件原告 鈎取開拓農業協同組合
右代表者理事 佐藤太二
補助参加人 国
右代表者法務大臣 田中伊三次
右四名訴訟代理人弁護士 逸見惣作
補助参加人指定代理人(昭和四六年(ワ)第二八号について) 村重慶一
同(昭和三九年(ワ)第四四八号、第四五〇号、第五二五号、昭和四六年(ワ)第二八号について) 大槻喜三郎
同(同) 若林勇
同(昭和三九年(ワ)第四四八号、第四五〇号、第五二五号について) 竹越四郎
同(同) 福島昭夫
昭和三九年(ワ)第四四八号、第四五〇号、第五二五号事件被告 佐藤信雄
右訴訟代理人弁護士 門間春吉
昭和四六年(ワ)第二八号事件被告 関伝治
<ほか三名>
昭和三九年(ワ)第四五〇号事件被告 加藤静子
<ほか一〇名>
被告関伝治を除くその余の被告訴訟代理人弁護士 八島喜久夫
主文
一、被告佐藤信雄は、原告大友春雄に対し金三、九九万三、七五四円およびこれに対する昭和四〇年一一月一二日から完済まで年五分の割合の金員を、原告高橋利蔵に対し金一、四四万〇、四〇一円およびこれに対する昭和四〇年一一月一二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
二、1 原告大友春雄と、
イ 被告佐藤信雄との間で別紙物件目録記載5ないし7、11、16、19ないし23、25、26の各土地が、
ロ 被告加藤静子との間で別紙物件目録記載7、11、19ないし23、25、26の各土地が、
ハ 被告加藤甚助との間で別紙物件目録記載6の土地が、
ニ 被告板垣嘉弘との間で別紙物件目録記載14の土地が、
ホ 被告野田重一との間で別紙物件目録記載15の土地が、
ヘ 被告高橋幸二との間で別紙物件目録記載16の土地が、
ト 被告遠藤平三郎、同遠藤慎之助および遠藤謙一との間で別紙物件目録記載17の土地が、
チ 被告安部きよしとの間で別紙物件目録記載18の土地が、
リ 被告関伝治、同吉井久太郎、同遠藤教彦および同板橋軍次郎との間で別紙物件目録記載1、3、10の各土地が、
それぞれ同原告の所有であることを確認する。
2 原告大友春雄に対し、
イ 被告佐藤信雄は別紙物件目録記載5、6の各土地について仙台法務局昭和三五年一二月二二日受付第三五、二〇八号および別紙物件目録記載7、11、14ないし23、25、26の各土地について仙台法務局昭和三六年七月五日受付第一九、八二八号をもってした各所有権移転登記の、
ロ 被告加藤静子は別紙物件目録記載7、11、19ないし23、25、26の各土地について仙台法務局昭和三六年七月二〇日受付第二一、五九二号をもってした所有権移転請求権保全仮登記の、
ハ 被告加藤甚助は別紙物件目録記載6の土地について仙台法務局昭和三七年九月四日受付第二六、二〇六号をもってした所有権移転請求権保全仮登記の、
ニ 被告板垣嘉弘は別紙物件目録記載14の土地について仙台法務局昭和三六年九月五日受付第二六、八〇六号をもってした所有権移転登記の、
ホ 被告野田重一は別紙物件目録記載15の土地について仙台法務局昭和三六年九月五日受付第二六、八〇七号をもってした所有権移転請求権保全仮登記の、
ヘ 被告高橋幸二は別紙物件目録記載16の土地について仙台法務局昭和三六年九月五日受付第二六、八〇八号をもってした所有権移転請求権保全仮登記の、
ト 被告遠藤平三郎、同遠藤慎之助および同遠藤謙一は別紙物件目録記載17の土地について仙台法務局昭和三六年九月一八日受付第二八、四一〇号をもってした持分各三分の一ずつの所有権移転登記の、
チ 被告安部きよしは別紙物件目録記載18の土地について仙台法務局昭和三六年九月一四日受付第二七、九〇九号をもってした所有権移転登記の、
各抹消登記手続をせよ。
三、1 原告鈎取開拓農業協同組合と、
イ 被告佐藤信雄との間で別紙物件目録記載4、13の各土地が、
ロ 被告山崎英男との間で別紙物件目録記載12の土地が、
ハ 被告佐藤昭との間で別紙物件目録記載13の土地が、
それぞれ同原告の所有であることを確認する。
2 原告鈎取開拓農業協同組合に対し、
イ 被告佐藤信雄は別紙物件目録記載4、12および13の各土地について仙台法務局昭和三五年一二月二二日受付第三五、二〇九号をもってした所有権移転登記の、
ロ 被告山崎英男は別紙物件目録記載12の土地について仙台法務局昭和三六年八月一日受付第二二、八三四号をもってした所有権移転登記の、
ハ 被告佐藤昭は別紙物件目録記載13の土地について仙台法務局昭和三六年八月一日受付第二二、八三一号をもってした所有権移転請求権保全仮登記の、各抹消登記手続をせよ。
四、1 原告高橋利蔵と、
イ 被告佐藤信雄および同加藤静子との間で別紙物件目録記載2、8および24の各土地が、
ロ 被告遠藤教彦および同板橋軍次郎との間で別紙物件目録記載2、8、9および24の各土地が、
ハ 被告関伝治との間で別紙物件目録記載8および9の各土地が、
ニ 被告吉井久太郎との間で別紙物件目録記載9の土地が、
それぞれ同原告の所有であることを確認する。
2 原告高橋利蔵に対し、
イ 被告佐藤信雄は別紙物件目録記載2および24の各土地について仙台法務局昭和三六年九月一六日受付第二八、二三七号をもってした持分移転登記の別紙物件目録記載8の土地について仙台法務局昭和三六年九月一六日受付第二八、二三八号、第二八、二三九号をもってした各持分移転登記の、
ロ 被告加藤静子は別紙物件目録記載2、8および24の各土地について仙台法務局昭和三六年九月一六日受付第二八、二四〇号をもって共有者佐藤信雄持分に対してなした所有権移転請求権保全仮登記の、
各抹消手続をせよ。
五、訴訟費用は被告らの負担とする。
六、この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
第一、当事者双方の求めた裁判
一、原告ら
主文と同旨の判決
二、被告ら
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決ならびに主文第一項につき仮執行免脱の宣言。
≪以下事実省略≫
理由
第一、被告関伝治を除くその余の被告らに対する抹消登記手続、所有権確認請求について、
一、本案前の抗弁について
被告らは国と被買収者との関係は公法関係に基づくものであるから売渡を受けた原告らが国に代位して本件所有権移転登記等の抹消登記手続を請求しえない、と主張するが、未墾地の買収および売渡における所有権の移転についても民法第一七七条の適用があり、国において自創法に基づく買収処分をした場合には自作農創設特別措置登記令(昭和二二年勅令第七九号)第三条以下による職権による所有権移転登記手続をなすことができるものであり国において本件土地について所有権移転登記の嘱託をなしたうえで原告らに対する売渡処分の履行としての所有権移転登記手続をなすには、被告らの各登記の存在が障害となることは明らかであるから国において被告らに対しその抹消登記請求をなしうる場合であるか否かはともかくとして、原告らは国に代位して右請求をなしうるものというべく、被告らの右主張は理由がない。
二、本案の請求について
(一)1 請求原因第(一)項の各事実は当事者間に争いがない。
2 被告らはこの点につき本件買収および売渡処分は本件土地以外の土地を対象とするものであるか、または大字名の誤記という重大な瑕疵があり無効である旨主張するので判断する。まず宮城県農地委員会の未墾地買収計画および宮城県知事の買収令書における買収土地の表示が「仙台市大字芦の口字西の平二番の一」と表示されており、売渡通知書における表示が「仙台市大字富沢字西の平八番」「同所六番の一、二」「同所一〇番の一、二」とされており、本件土地の正確な表示が「仙台市長町字西の平二番の一」であることは当事者間に争いがなく、また宮城県知事が昭和三三年七月七日右買収および売渡処分における大字名の表示を「長町」と訂正したことは前記のとおりである。しかし、≪証拠省略≫によれば、仙台市には「芦の口」なる大字は実在せず、また「大字富沢」なる地名があってそれが「大字西の平」の近くに所在するところ、鈎取地区には種々の大字名があり、本件土地の所在する地域は一般に「仙台市芦の口字西の平」と称されているために地名を誤って大字名を「芦の口」として買収計画および買収が行なわれ、またその売渡に際しては大字名を付近の大字名と間違えられて「富沢」として新地番により売渡されたことが認められるから前記買収令書および売渡通知書の記載は各大字名を誤記したものというべく、また右のように単なる土地の名称の誤記にすぎないものにつき、これをもって重大な瑕疵ということはできないから無効とはいえず、後日右誤記を訂正した宮城県知事の措置は相当である。従って本件土地は適法かつ有効に国に買収されたうえそれぞれ原告らに売り渡されたものというべきであって、被告らのこの点についての主張は理由がない。
(二)1 次に請求原因第(二)、第(三)項の各事実は当事者間に争いがない。
2 そして被告らは補助参加人国および原告らは未だ本件土地につき所有権取得登記を経ていないから同土地について持分権の譲渡をうけその登記を経た被告板橋軍次郎、同関伝治、同吉井久太郎、同遠藤教彦および同被告らから本件土地についてその後に権利を取得したその余の被告らに対し右買収および売渡処分にもとずく所有権の取得を対抗しえないと主張するので判断する。
(1) 本件土地の所有者であった訴外亡板橋百之助が昭和二七年六月四日死亡し、その妻訴外うめことうの、その子軍寿、たるの、芳夫、半治郎、八十二、岩蔵、喜之助の八名が相続人であること、被告軍次郎が右相続人らのために右うのの代理名義で本件土地につき仙台法務局昭和三一年一二月二四日受付第四、一二二号をもって相続を原因とする各持分(うのについては持分二一分の七、その余の者については持分各二一分の二)移転登記手続をなしたこと、訴外うの、軍寿、たるの、芳夫、半次郎、岩蔵および喜之助から昭和三一年一二月二四日付売買により各自の全持分のうち被告伝治、同久太郎に対し各持分一二六分の一九、被告教彦、同軍次郎に対し各持分一二六分の三八につき売買を原因として仙台法務局同月二八日受付第四、二八九号をもって持分移転登記手続をし八十二から被告軍次郎へ昭和三二年一月二四日付売買を原因として同法務局同月二五日受付第二一一号をもって持分二一分の二の移転登記手続がなされていること、八十二は同年六月二三日死亡し、その妻訴外とみゑ、その子訴外佳子、みつ子、よね子が相続人となったこと、そして原告らが右相続人らを相手方として、右相続、売買の各登記の後である昭和三二年九月一九日仙台地方裁判所に提起した本件土地についての右各登記の抹消登記手続請求訴訟において、右相続人らが応訴していること、そして被告軍次郎、同伝治、同久太郎、同教彦において請求原因第(三)項記載のとおり、本件土地につき分筆および地目変更の登記手続をし、その余の被告らが右被告らから本件土地について権利を取得したこと、以上の各事実については当事者間に争いがない。
そして亡百之助の相続人である訴外うの、軍寿、たるの、芳夫、半治郎、亡八十二、岩蔵、喜之助が本件土地について亡百之助からの相続を原因とする持分移転登記手続および右相続人らから被告伝治、同久太郎、同教彦、同軍次郎の四名に対する持分の売買およびそれを原因とする持分移転登記手続をなす代理権を被告軍次郎に与えたことについては本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。しかしながら、前記のとおり原告らから右相続人ら(亡八十二についてはさらにその相続人である訴外とみゑ、佳子、みつ子、よね子)を相手方として提起した本件土地についての相続および売買を原因とする各持分移転登記の抹消登記手続請求訴訟において、右相続人らは応訴しているから、これにより右相続人らは黙示に右被告軍次郎が無権限でなした相続を原因とする登記手続および同被告と被告伝治、同久太郎、同教彦に対する持分の売買およびこれを原因とする登記手続を追認する意思を表示したものというべきであり、被告信雄が右被告四名から、その余の被告らが被告信雄からそれぞれ本件土地につき権利を取得し、その旨登記をなしたことは前記のとおりである。
(2) これに対し原告らは被告らが民法第一七七条によって原告らの登記の欠缺を主張する正当な利益を有する第三者ではない旨主張するのでまずこの点について判断する。
当事者間に争いのない右事実と前記認定の事実と≪証拠省略≫を総合すると次の各事実を認めることができる。
亡百之助の長男軍寿の二男である被告軍次郎は既に本件土地の売渡を受けた原告らが、それを開墾のうえ畑および採草放牧地として使用していたことを知っていたが、昭和三一年六月ころ本件土地について国の買収処分による所有権移転登記および原告らへの売渡処分による所有権移転登記がいまだなされておらずまた本件土地は「仙台市長町字西の平二番の一」であるのに買収令書に「仙台市芦の口字西の平二番の一」と売渡通知書に「仙台市富沢字西の平六番の一、二」「同所八番」「同所一〇番の一、二」とそれぞれ誤記されているのに気付き、右の瑕疵を理由に本件土地を原告らから取り戻したいと考えて、そのころ同被告の義兄である被告教彦とも相談のうえ、そのころ不動産取引業を営む被告伝治と同被告の義兄で宅地建物取引業を営む被告久太郎に右事情を申し向けて相談したところ、前記のとおり買収令書の大字名の記載が誤っているから、本件買収および売渡の各処分は無効であり、またその旨の登記も未了であるから、亡百之助の相続人らに対し相続を原因とする本件土地の所有権移転登記を得させたうえ、右相続人らから右被告ら四名が買い受けたこととして所有権移転登記をなしたうえで、本件土地の売渡を受けた原告らと交渉すれば本件土地の全部、少くとも半分位は取り戻せるはずであるとしてまずその登記手続を進めることとし、右登記手続に必要な亡百之助の相続人らからの委任状および印鑑証明書等の必要書類は被告軍次郎が集めること、その際右の事情を秘して単に相続のために必要だという口実でなすこと、そしてその費用は被告伝治が負担することとしてその代りに本件土地を原告らから取戻したときには同被告においてその三分の一を貰い受けることとする旨相談がまとまった。そこで被告軍次郎は右約定に従い、そのころ、まず父軍寿の印鑑を使用して軍寿名義の委任状を作成して印鑑証明書の交付を受け、さらにその余の相続人らから右の情を秘して西の平に亡百之助の土地が残っていて軍寿が相続するのに必要である旨申し向けてその旨誤信した右相続人らから委任状および印鑑証明書の交付を受けた。そして被告軍次郎、同教彦同伝治、同久太郎の四名は司法書士の訴外大和田新一郎に依頼して前記のとおり本件土地について亡百之助からの相続を原因とする相続人らに対する持分移転登記手続および相続人らから右被告らに対する売買を原因とする持分移転登記手続をなした。そしてその後昭和三二年九月一九日原告らが右相続人らおよび被告軍次郎ら四名を相手方として右各登記の抹消登記手続請求訴訟(仙台地方裁判所昭和三二年(ワ)第四六一号)を提起するに至ったため被告軍次郎は相続人らに右各登記をなしたことを説明したが、右相続人らは八島喜久夫弁護士に右訴訟の処理を委任して応訴することにより、被告軍次郎の右行為を追認する旨の黙示の意思表示をなした。そして右訴訟の第一審では昭和三五年七月一三日原告ら勝訴の判決がなされて相続人らおよび被告軍次郎らは控訴したが、右訴訟係属中の昭和三四年六月一二日と昭和三五年一一月二八日、被告軍次郎、同教彦、同伝治、同久太郎は請求原因第(三)項1に記載のとおり本件土地を分筆および地目変更登記をなしそのころ右の経緯を被告信雄に告げたうえ、同被告において本件土地を買い受けてその後の処理をするよう申し入れ、同被告は右の申し入れを承諾してそのころ、前同項1の(4)(5)に記載のとおり本件土地を、その当時本件土地の一坪当りの時価は金三、〇〇〇円ないし金四、〇〇〇円であったものを、一坪当り金一、〇〇〇円の価格で買い受けた。そして被告信雄は本件各土地を右被告四名から買い受けた後、その余の各被告に対し本件土地についての紛争について説明し本件土地は既に原告らにおいて畑および採草地として使用しているが、被告信雄においてこれを整地して宅地としたうえ分筆および宅地に地目変更して売り渡したいこと、そしてもし本件土地の紛争が被告軍次郎らの敗訴に終り、本件土地所有権が被告信雄に帰属しない最悪の場合には同被告の他の所有土地の中から同価値の土地を代りに提供することを条件に売渡を申し込み、各被告においてもこれを承諾したので被告信雄は前同項2に記載のとおり、本件土地をさらに分筆および宅地に地目変更登記をしたうえ、各被告に売り渡しまたはその予約をしてそれぞれその旨の登記手続をなした。
以上の各事実を認めることができ(る。)≪証拠判断省略≫
右事実によれば、被告軍次郎、同教彦、同伝治、同久太郎は本件土地について原告らが国から売渡を受けた後、これを開墾して畑および採草地として使用していることを知悉しながら、本件土地についての買収、売渡各処分による所有権移転登記がいまだなされていないことおよび買収令書と売渡通知書に大字名の誤記という瑕疵があるのを奇貨として、本件土地を原告らから取戻すべく本件土地について自らが亡百之助の相続人らから持分の売り渡しを受けてその旨登記を経由することにより原告らから本件土地所有権の対抗要件を失なわせることにより本件土地を原告らから取り戻す際に有利な地位に立つべく、後に亡百之助の相続人らから追認を受けたとはいえ、これらの者から登記申請に必要な委任状、印鑑証明書等の書類を騙取したうえで自ら亡百之助の相続人らからの持分売買を原因とする移転登記をなして原告らの対抗要件の取得を妨げたものといわざるを得ないのであって、原告らの登記の欠缺を主張しうる正当な第三者ということはできず、また同被告らから本件土地を買い受けまたはその予約をなしたその余の被告らにおいても右の経緯を知悉したうえ同被告らの得た有利な地位を利用する意思で本件土地につき権利を取得したものであるから同被告らと同様原告らの登記の欠缺を主張しうる正当な第三者ということはできず、この点についての原告らの主張は理由がある。
(三) 被告らは自創法による買収処分は公権力の一方的行為であって、被買収者との関係は私法上の権利承継ではないから、被買収者(その相続人を含む)は登記義務者ではなく、従って被買収者から転々本件土地を譲り受けた被告らもまた同様であって原告らは被告らに対し抹消登記手続を求め得ないと主張するが先記認定のとおり原告らは被告らに対し本件土地の所有権を登記なくして主張しうるのであり、右所有権に基づき、原告らの所有権を登記名義を有することにより妨害している被告らに対し、右妨害を排除する手段として各登記の抹消登記手続を求めているのであるから、被告らの主張は前提を異にしており採るを得ない。
(四) 以上のとおりその余の争点について判断をするまでもなく、原告らからその所有権に基づき、被告伝治を除くその余の被告らに対し所有権の確認およびその得た各登記の抹消登記手続を求める本訴請求はすべてその理由がある。
第二、被告関伝治に対する請求について
同被告は昭和四六年六月九日の第三九回口頭弁論期日に出頭したが弁論をなさないから、民事訴訟法第一四〇条第一項により原告ら主張事実を自白したものとみなすべく右事実によれば原告大友、同高橋の同被告に対する本訴請求は正当と認められるからこれを認容することとする。
第三、原告大友、同高橋の被告佐藤信雄に対する損害賠償の請求について
原告大友、同高橋が昭和二四年一一月一日西の平二番の一のうち、原告大友は新地番六番の一、二に含まれる一町四反六畝三歩を、原告高橋は同一〇番の一、二に含まれる九反二畝一五歩の部分について補助参加人国から自創法第四一条の規定により売渡を受けてその所有権を取得し、しかもその所有権の取得を登記なくして被告信雄に対抗しうることは前記認定のとおりであり、≪証拠省略≫によれば、原告両名は右売渡をうけて本件土地の引渡を受けて以来、右各土地を開墾して昭和三〇年三月ころまでは畑地となし、原告大友は後記被告に整地された部分に昭和三二年ころ堆肥舎、物置小屋基礎工事をなしていたほか、大根、白菜、大豆、小豆などの穀物、蔬菜類を栽培し、りんご、栗などの果樹類合計一九四本を所有しており、また原告高橋は後記被告に整地された部分に梨柿、りんご等の果樹類合せて三〇本を所有し、なたね、陸稲などの穀物、蔬菜類を栽培してそれぞれ右各土地の占有を継続してきたことが認められる。
そして被告信雄が、昭和三六年九月二四日ころ原告大友耕作中の部分のうち、右堆肥舎、物置基礎工事の部分、果樹類が存し穀物、蔬菜類の栽培されている部分一町四反歩について、原告高橋耕作中の右穀物、蔬菜類が栽培され、果樹類が植栽されている部分九反八畝歩についてブルドーザー等を使用して原告らの果樹、蔬菜類等の農作物を伐倒、押潰すなどしてこれを損壊し、また右土地の表土を削りとって平担に整地して、原告大友の右堆肥舎、物置基礎工事を損壊したことについては当事者間に争いがない。そして被告信雄が本件土地についてその所有権取得を原告らに対抗し得ないことは前記認定のとおりであり、また同被告においてそのことを未必的にせよ認識していたことは前記認定の事実関係に照らし明らかであって同被告が右の行為をなすにつきその他に正当の権原を有していたことについては何ら主張も立証もないから、右行為は原告ら所有の本件土地に対する不法行為を構成するものと断ぜざるを得ず、被告信雄は右不法行為によって同原告らに与えた損害を賠償すべき義務がある。そして前記各証拠によれば、原告大友の蒙った損害が請求原因第(四)項3の各項目記載のとおりであり、原告高橋の蒙った損害が同項4の各項目記載のとおりであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はないから、被告信雄は原告大友に対し金三、九九万三、七五四円、原告高橋に対し金一、四四万〇、四〇一円および右各金員に対する右各損害発生の後である昭和四〇年一一月一二日から完済まで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
第四、結論
以上の次第で原告らの請求はいずれもその理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 手島徹 裁判長裁判官佐藤幸太郎、裁判官若林昌俊は転補のため署名押印できない。裁判官 手島徹)
<以下省略>