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仙台地方裁判所 昭和41年(ワ)29号 判決 1967年9月29日

原告 佐藤武夫

被告 佐藤正直 外一名

主文

被告佐藤正行は原告に対し金一、六五〇、三七三円及び内金四七一、九一八円に対する昭和四一年一月二二日以降、内金六九六、〇五五円に対する昭和四二年七月一一日以降、内金六九六、〇五五円に対する昭和四二年七月一一日以降、内金四八二、四〇〇円に対する昭和四二年一〇月六日以降いずれも支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告の同被告に対するその余の請求及び被告佐藤正直に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告と被告佐藤正直との間で生じた部分は原告の負担とし爾余は被告佐藤正行の負担とする。

この判決は第一項に限り原告において担保として金一〇〇、〇〇〇円を供託するときは仮に執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は被告両名は原告に対し各自金一、六五六、四二八円およびうち金九五四、三一八円に対する昭和四一年一月二二日から、うち金七〇二、一一〇円に対する昭和四二年七月一一日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。との判決ならびに仮執行の宣言を求め、請求の原因として、

(一)  被告両名は父子であつて父被告正直の肩書住所で佐藤工業所と称し共同で土建業を営むものであり、原告は昭和四〇年四月八日から被告らに雇われ、自動車運転の業務に従事し日給六〇〇円の支給を受けていたものであるが同年五月三日右工業所庭において被告ら所有のジユピター三・五屯四輪貨物自動車の前輪左スプリング折損のための取換作業に従業中ジヤツキがはずれ右自動車の下敷になつて、脊椎圧迫骨折兼脱臼による下半身神経麻痺の傷害を負つた。

(二)  そのため、原告は医療費として同日から昭和四一年三月一四日まで名取郡岩沼町石垣病院に入院加療を受けて金二五六、三〇〇円、同日から仙台市荒巻東北労災病院に入院加療を受けて、同四二年五月三一日現在まで金二八三、九八八円の支出を余儀なくされ、又前記負傷以来下半身麻痺し、褥創があり、起居不能、大小便失禁のため付添看護人を必須としこの看護料は一人一日少くとも金五〇〇円を要するので同日まで七五九日分金三七九、五〇〇円、それに併せて卵、牛乳等毎日の栄養補給のため、少なくとも一日平均一〇〇円の補食費を必要としこの代金が同日まで七五九日分金七五、九〇〇円となり取敢えず右同日現在まで合計金九九五、六八八円の療養費を要するところうち金四六、三〇〇円を被告らが支払つたので、残額金九四九、三八八円を療養補償として受けるべき権利がある。

(三)  原告は、右負傷療養のため労働することができず、賃金の支払いを受けなかつたので、受傷の日から昭和四二年五月三一日現在まで七五九日分の休業補償として一か月二五日の稼働により計算し日給六〇〇円の六割に対する六二四日分金二二四、六四〇円を受けるべき権利がある。

(四)  原告は、前記負傷のため略第一二胸髄神経以下知覚運動完全脱出し将来も機能改善の見込なく、両下肢切断以上の廃疾となつたので、日給六〇〇円の六割の一三四〇日分金四八二、〇〇〇円の障害補償を受けるべき権利がある。

(五)  よつて被告らに対し、以上合計金一、六五六、四二八円およびうち金九五四、三一八円に対する訴状送達の翌日である昭和四一年一月二二日から、残額金七〇二、一一〇円に対する履行期の経過した後である同四二年七月一一日から各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求めるため本訴請求に及んだ。

と述べ、被告らの答弁に対し被告両名が佐藤工業所名をもつて共同して土建を営んでいる事実は被告正行が岩沼町に別居しておりながら被告正直方を事務所とし共同出資によつて営業している事実からして明らかであり、又被告正行は本件事故前日電話で原告を解雇したと主張するけれども電話など本人のみならず家族の何人に対してもなかつたばかりでなく、事故当日も原告は同僚の訴外猪股弘司と共に被告等のため稼働していたのである。その他原告の主張に反する被告等の抗弁事実を否認すると述べ立証として甲第一ないし第五号証を提出し証人大久貞雄、同佐藤きくい、同猪股弘司、同佐藤善治の各証言を援用し、乙第四号証の成立を認め、その余の乙号証の成立については知らないと述べた。

被告ら訴訟代理人は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、

原告の主張中(一)項の事実は被告両名が共同して土建業を営んでいることは否認する、佐藤工業所は被告正行の単独経営によるもので同被告が昭和四〇年四月八日原告を運転手として雇入れ日給六〇〇円を支給していたものである、原告主張の自動車が被告正行の所有であること及び原告が昭和四〇年五月三日負傷したことは認める、然し同日には原告との雇傭契約関係はなかつた、(二)項の事実は原告が入院したということは認めるがその余の事実は否認する、(三)項以下の事実は全部否認する。即ち被告正行は、昭和三八年一一月ころ、トラツク一台を買入れて土砂運搬業を始め、その後、トラツク一台、ブルドーザー一台を買い加えて事業を手広くしその間、他人と共同経営したこともあつたが、被告正直と共同して事業を遂行した事実は全然ないのであるから同被告は被告正行の父であるが本件について一切責任はない。被告正行は前述のとおり原告を雇入れたのであるが原告は、昭和四〇年四月中に、自己の運転するトラツクを転覆させる事故一回、他車との衝突事故二回を起こし、被告正行に合計約六三、〇〇〇円相当の損害を与えたので、被告正行は大事故を起こされることを危惧し、解雇しようと考えていた折柄、同年五月二日、無断欠勤して亘理町逢隅上の町バス停留所附近で遊んでいる現場を被告正行に見とがめられた原告が同日午前一〇時ころこれから出勤するからと電話をかけて来たので被告正行はもう来なくてもよい。解雇する。と即時解雇を申し渡したのである。したがつて、原告の負傷は、原告が、解雇された後、被告正行不在中事業所に自分勝手に出向いて引起こしたものであるから同被告にも責任がない。

と述べた。(立証省略)

理由

被告正行が被告正直の肩書住所で佐藤工業所と称して土建業を営んでおることは被告正行の認めるところである。原告は右事業は被告両名の共同事業である旨主張するけれどもこれにやや副う証人大久貞雄、同佐藤きくいの各証言は後記認定の各証拠に照らしたやすく信を措き難く、被告両名が父子であり、右事業所が父正直の住所地である事実は当事者間に争いないけれどもこの事実をもつて直に原告の主張を肯認する資料に供することはできず、他にこれを認めるに足る証拠はなく、却つて証人遊佐正彦の供述により成立を認めうる乙第一号証の記載に同供述並に証人佐藤匡、同近田宏史、同猪股弘司及び被告佐藤正行本人の各供述を総合すれば被告正行は昭和三八年一一月頃東北菱和自動車株式会社からジユピター三、五屯中型トラツクを、又昭和三九年七月頃株式会社小松製作所東北支社からブルドーザー一台をそれぞれ買受けるに当つて被告正直の保証もなく単独名義で買受けておるばかりでなくそれに小型普通トラツク等を所有してその頃から右事業を経営しておるもので、被告正直は右事業には無関係であることを認定することができ他に右認定を覆すに足る証拠はない。

被告正行が昭和四〇年四月八日自動車の運転手として原告を雇入れ、日給六〇〇円を支給していたことは同被告の認めるところである。

同被告はその主張のような経緯から本件事故発生の前日である同年五月二日原告を解雇した旨主張するけれどもこれに副う被告佐藤正行本人の供述部分は証人猪股弘司、同大久貞雄、同佐藤きくいの各証言に照らし信を措き難く他にこれを認めるに足る証拠はない。

然して同年五月三日原告が右工業所庭において負傷したことは原告と被告正行との間では争いがなく、成立に争いない甲第一号証の記載に証人猪股弘司の供述を総合すれば原告の同僚で同じく自動車運転手として被告正行に雇われていた訴外猪股弘司は自己が運転乗務していた被告正行所有のジユピター三、五屯四輪貨物自動車の前輪左スプリングが折損していたため、同日雨降りで仕事もなかつたところから、その取替え作業を始めたところ、原告が手伝うこととなり二人でジヤツキを入れて車体を持上げた後原告は中腰になつて後側を、猪股弘司は前側のスプリングを操作していた際ジヤツキが倒れてその瞬間原告は車体の下敷きとなり脊椎圧迫骨折兼脱臼による下半身麻痺の傷害を被つた事実を認定することができ他に右認定を覆すに足る証拠はない。

然らば労働基準法第八条所定の事業を営む被告正行は原告の右業務上負傷に対し同法所定の災害補償をなすべき義務あるものといわなければならない。

そこで先づ療養補償について考察する。

成立に争いない甲第一号証、同第三乃至五号証の各記載に証人佐藤きくい(前記措信しない部分を除く)同佐藤善治の各証言を総合すれば原告は前記傷害による脊髄損傷のため略第一二胸髄神経以下知覚運動完全脱出し、大小便失禁し、両下肢切断以上の廃疾となり事故当日より昭和四二年五月三一日現在も尚引続き寝たきりの状態で入院加療を受けているものであるところ、事故当日の昭和四〇年五月三日から昭和四一年三月一四日まで名取郡岩沼町の石垣病院に入院してその間の加療費金二五六、二九三円を要し、引続き同日から仙台市荒巻台の原東北労災病院に入院して昭和四二年五月三一日現在まで加療費金二八三、九八八円を要し、その間原告の病状は付添看護を絶対に必要とするため原告の母が受傷以来右同日現在も尚付添つてその看護に当つており、その費用は若し付添人を雇つたとすれば一日の日当は少くとも金五〇〇円を下るものでなく同日現在まで七五九日分合計金三七九、五〇〇円を要すること(労働基準法施行規則第三六条第五号に看護料が療養の範囲として規定されている趣旨に鑑みるとき原告は現実にその費用を支出しないで事足つて来たのではあるが前記証拠によればそれは原告方においてこれを支払う資力がなかつたので已むなく原告の母が看護に当つて来たことが明らかに認められるので、かゝる場合原告は付添人を雇つたとすれば当然に支払われるべき前記金額を看護料として請求しうるものと解するのが相当である)、尚病状が重篤で治療上長期に亘つて体力を維持するための栄養補給と補食を必須とし、この費用は平均して一日に金一〇〇円を下らず右同日現在まで合計金七五、九〇〇円を要したことをそれぞれ認定することができ他に右認定を覆すに足る証拠はない。だとすると療養補償の額は右同日現在で以上合計金九九五、六八一円を下るものでないことが明らかであるところ、成立に争いない乙第四号証の記載に被告佐藤正行の一部供述(前記措信しない部分を除く)及び当事者弁論の全趣旨を総合すればこのうち原告は金四六、三〇〇円の医療費を被告正行から受取つていることが認められるので、これを差引き同被告が右同日現在で原告に対し支払うべき療養補償の額は合計金九四九、三八一円となることが明らかである。

次に休業補償について考察する。

原告は事故当日より昭和四二年五月三一日現在も尚引続き寝たきりの状態であることは前記説示のとおりでありその間原告が賃金を受取つていないことは当事者弁論の全趣旨から明らかであるから、原告は他に特段の事由の主張立証のない本件において被告正行よりその間の休業補償を受けるべき権利があること勿論である。然して原告は昭和四〇年四月八日より同年五月三日まで稼働し、事故当時の日給が金六〇〇円であつたことは前記のとおりであり、被告佐藤正行本人の供述(前記措信しない部分を除く)によれば一か月の稼働日数はおゝよそ二五日であつたことを認めることができるので原告の事故当日までの二五日間における実働日数の明確でない本件においてはこれを三〇分の二五の割合で算出した二〇日と認めるのが、相当であるところ、以上の各事実を基礎として労働基準法第一二条第一項第六項に則り平均賃金を算定すれば原告の場合一日金四八〇円とするのが相当であるから昭和四二年五月三一日現在までの休業補償の額は同法第七六条に従い計算すれば合計金二一八、五九二円となることが明らかである。

次に障害補償について考察する。

成立に争いない甲第一号証、同第五号証の各記載によれば原告の脊髄損傷による前記両下肢切断以上の廃疾の状況は将来に亘り機能改善の見込みなく、昭和四二年七月六日現在における診断の結果によつても両側下肢運動完全麻痺及び知覚脱失、歩行不能の状態は依然として変らず入院以来他人の介護を必要とし、退院の見込みはないことが明らかであり、他に右認定を覆すに足る証拠はないから、これによれば原告の症状は昭和四二年七月六日現在において引続き治療を続けても機能障害は回復の見込みなく、症状の好転は望めない状態に至つておることが明らかであるというべく、従つてかゝる事態を確定的に発生せしめた現在被告正行に障害補償責任が発生していることも亦明らかであるといわなければならない。そして前記認定の原告の身体障害の程度は労働基準法施行規則別表二の身体障害等級表第一級九、両下肢の用を全廃したものに該当するものと認められるので、同法第七七条に則りその額を算定すれば金六四三、二〇〇円となることが明らかである。ところで同法施行規則第四七条第一項によれば使用者は障害の等級が決定した日から七日以内に障害補償を行うべき旨を定めているのであるが、裁判上これを訴求するときは右にいう「決定の日」は障害等級決定の重大性と困難性並に事柄の性質上これを客観的に確定する必要があることに鑑み判決宣告の日と解するのが相当である。だとするとこの部分は将来の給付を訴求することとなるのであるが被告正行に履行の意思が認められない本件においては民事訴訟法第二二六条の要件を満すものとして右請求も亦これを許容すべきであると考える。

以上これを要するに原告の請求する災害補償の額は昭和四二年五月三一日現在において

(一)  療養補償費について 金九四九、三八一円

(二)  休業補償費について 金二一八、五九二円

(三)  障害補償費について 金六四三、二〇〇円

の限度でそれぞれこれを認容すべきところ原告は(三)について金四八二、四〇〇円を請求しているのでその額をこの限度に減縮し、尚右(一)(二)の履行期については労働基準法施行規則第三九条により使用者は毎月一回以上補償を行うべき旨規定されているから右両補償債務は少くとも当該期間の属する月の末日の経過と共に遅滞に陥るものと解すべく右(一)(二)の合計額金一、一六七、九七三円のうち原告は訴状において昭和四〇年一二月二〇日現在の右(一)(二)の補償請求額として金四七一、九一八円を訴求しており前記(一)(二)の合計額のうち訴状請求の右金額の限度では右訴状が被告正行に送達された日の翌日であること記録上明らかな昭和四一年一月二二日には遅滞に陥いることが明らかであり、これを差引いた残金六九六、〇五五円については昭和四二年七月七日第八回口頭弁論期日において訴変更申立書に基き陳述した日以降であること記録上明らかな同年七月一一日には遅滞に陥つていたことが明らかである。(三)の障害補償費については判決宣告の日であること明らかな昭和四二年九月二九日より七日を経過した同年一〇月六日以降遅滞に陥るのであるが被告正行において履行の意思の認められない本件において同日以降の遅延損害金を予め請求することも亦これを許容すべきものと解する。

よつて原告の本訴請求は被告正行に対し以上(一)、(二)、(三)(但し(三)は金四八二、四〇〇円)合計金一、六五〇、三七三円及び内金四七一、九一八円に対する昭和四一年一月二二日以降、内金六九六、〇五五円に対する昭和四二年七月一一日以降、内金四八二、四〇〇円に対する昭和四二年一〇月六日以降いずれも支払済みまで法定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でこれを相当として認容し爾余を失当として排斥し、被告正直に対する本訴請求は理由がないのでこれを棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九二条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦克己)

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