仙台地方裁判所 昭和43年(行ウ)12号 判決 1975年9月10日
宮城県気仙沼市魚町二丁目三番一号
原告
高山春雄
右訴訟代理人弁護士
青木正芳
同
小野寺照東
右訴訟復代理人弁護士
加藤朔郎
同県同市古町三丁目四番五号
被告
気仙沼税務署長
高橋一郎
右訴訟代理人弁護士
伊藤俊郎
右指定代理人仙台法務局訟務部訟務専門職
久下幸男
同
民事係長
佐々木寛
同
仙台国税局大蔵事務官
鍋島正幸
同
和泉昭一
同
高橋秀夫
同
気仙沼税務署大蔵事務官
藤島貞
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一、原告
1 被告が原告の
(一) 昭和四〇年分所得税につき昭和四二年九月二一日付でなした別表第一記載の更正処分のうち、課税所得金額六三三、五〇〇円、所得税額八九、〇〇〇円をそれぞれ超える部分
(二) 昭和四一年分所得税につき、前同日付でなした別表第二記載の再更正処分のうち、課税所得金額二、三三五、七〇〇円、所得税額五四九、〇六〇円をそれぞれ超える部分はいずれも取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二、被告
主文同旨の判決。
第二当事者の主張
一、原告の請求原因
1 原告は肩書住所地において県公安委員会の許可を得て、風俗営業(パチンコ店)を経営しているものである。
2 本件各処分の経緯
(一) 原告は昭和四〇年分所得税について法定申告期限内の昭和四一年三月八日被告に対し、課税所得金額六三三、五〇〇円、税金額八九、〇〇〇円とする適式の確定申告書を提出したが、被告は右確定申告につき、昭和四二年九月二一日別表第一記載の更正処分(以下本件更正処分という。)をなし、「昭和四〇年分所得税更正、加算税の賦課決定通知書」をもつてその旨原告に通知してきた。
右更正処分に対し原告は同年一〇月五日異議申立をしたが、被告は同年一二月二六日付でこれを棄却する決定をなし、原告はさらに昭和四三年一月二五日仙台国税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は同年七月一三日右審査請求を棄却する裁決をなし、原告に通知してきた。
(二) 原告は昭和四一年分所得税について法定申告期限内の昭和四二年三月一一日被告に対し、課税所得金額二、三三五、七〇〇円、税金額五四九、〇六〇円とする適式の確定申告書を提出したが、被告は同年六月六日原告の課税所得金額を四、三八七、〇〇〇円、その税金額を一、三六一、七二〇円とする更正処分をなし、「昭和四一年分所得税更正、加算税の賦課決定書」をもつてその旨原告に通知してきた。右更正処分に対し原告は同年七月二日付で異議申立をしたが被告は同年九月一九日付でこれを棄却する決定をなすとともに、さらに同年同月二一日付で別表第二記載の再更正処分(以下本件再更正処分という。)をなし、「再更正処分および加算税の賦課決定書」をもつて原告に通知してきた。
原告は同年一〇月五日右の再更正処分に対し異議申立をするとともに同年同月一四日には、同年九月一九日付の前記異議申立棄却決定につき仙台国税局長に対し審査請求を行つたところ、同局長は再更正処分に対する異議申立を審査請求とみなしたうえで昭和四三年七月一三日審査請求を棄却する裁決をなし、原告に通知してきた。
3 しかしながら本件更正処分および再更正処分は、いずれも以下の理由により違法であるから取消さるべきである。
(一) 本件更正処分および再更正処分はいずれも事前の事実調査などが全然行なわれないまま全く突然になされたものであつたが、国税通則法二四条の趣旨によれば、課税庁が全く調査をしないで恣意的になした更正処分は違法であり取消されなければならない。
被告は昭和四〇年度分について、調査の結果原告の預金があることが判明したとしているが、右預金に対する原告の説明などは一切聞かず、なんらの調査もしないでこれを原告の所得と判断しているのである。また被告は昭和四二年六月二一日になした原告の昭和四一年分所得税の更正処分については、いつどのような調査により、何がどのようになつた結果このような処分をするに至つたのか何ら明確な主張立証をしていない。その後に本件再更正処分をしていることはなによりも調査による更正処分でなかつたことを物語るものである。
(二) 被告は、原告の昭和四一年分所得税の更正処分に対する異議申立の過程で昭和四〇年分所得税についても疑義が出てきたとしながら、原告の説明など一切聞くことなく、なんら調査することもなく、昭和四〇年分についても更正処分をなしたものであるが、右処分は原告が昭和四一年分所得税の更正処分に対し異議申立をしたことに対する報復としてなされたものである。かかる違法目的のためになされた本件更正処分は取消されなければならない。
(三) ところで更正処分の通知書には調査に基づくものであるときはその旨を附記することにより、その処分の公正さと責任の所在等を明らかにし、また処分の理由を附記して処分の具体的根拠を明らかにしなければならないのに、本件更正処分および再更正処分の各通知書には調査によるものであるかどうかの附記もなく、処分の理由にいたつては一言も記載されていない。かかる通知書に基づく本件各処分は違法なものとして取消を免れない。
なお前記異議申立に対する各棄却決定および審査請求に対する各棄却の裁決についても、いずれも法が予定しているような理由らしい理由は記載されておらず、このことからしても本件各処分がいかにずさんなものであつたかが窺われる。
(四) 本件更正処分および再更正処分はいずれも合意的、合理的推計課税がなされていないから取消さるべきである。
所得課税の理想は実額課税であつて、推計課税は収入金額および必要経費等を明らかにすべき営業上の帳簿書類等がなく納税者の協力も得られないなど、実額を算定することができない場合にやむを得ず行われる例外的方法であるから、これを原則的に運用することは厳しくつつしまなければならないことはいうまでもなく、推計の方法も最も実額に近似すると推定される方法によるべきである。すなわち具体的事例に即して最も合理的と認められる方式を択び、推計の基礎たる数値の正確度を吟味し、さらに事例によつては一般的推計方式で考慮されていない不確定要素を勘案して推計結果の修正を行うなどにより実額近似の向上を期すべきである。
ところが被告は本件各処分について右のような合理的推計、合憲的推計による課税を行つたとの主張、立証は全くしていない。そもそも原告は本件各処分を受けるまで調査を受けたこともなく、まして関係書類の提出やら調査協力を求められたことがないのであるから、推計課税の許される条件は充たされていなかつたものというべきである。のみならず原告の所得を推計するためには仕入の実態が把握されていたのであるから、その他店舗の諸条件を吟味し、類似する店舗の差益率、一般経費等を検討し、総合的に判断して推計がすすめられなければならないはずであつたのに、被告においてはこのような合理的推計のための作業を一切行つていないのである。
(五) 以上のほか、そもそも本件各処分はいずれも課税対象となる所得が存しないにもかかわらずなされた処分であるから違法である。
よつて原告は被告に対し本件更正処分および再更正処分の取消を求める。
二、請求原因に対する被告の認否
1 第1項の事実は認める。
なお原告はパチンコ店のほか昭和四〇年一二月三一日まで気仙沼市魚町二丁目二番九号においてバーも経営していた。
2 第2項の事実は認める。
3 第3項の事実は否認する。
三、被告の主張
1 本件各課税処分の経過は次のとおりである。
(一) 昭和四〇年分について
(1) 原告は昭和四〇年分所得税についてパチンコおよびバー経営(ただしバーは昭和四〇年一二月三一日廃業)による事業所得金額(総所得金額)を一、〇五〇、〇〇〇円、申告納税額を八九、〇〇〇円とする確定申告書を昭和四一年三月八日に、被告に提出した。
(2) 被告はその調査に基づいて事業所得金額(総所得金額)を五、九八七、〇〇〇円、申告納税額を一、九五二、二〇〇円とする更正処分および重加算税を五五八、九〇〇円とする賦課決定処分をなし、昭和四二年九月二一日付をもつて原告に通知した。
(3) 原告は右の更正および賦課決定処分を不服として異議申立書を提出したが、審理の結果更正処分を上回る所得金額となつたので被告は棄却決定を行ない、昭和四二年一二月二六日付で原告に通知した。
(4) さらに原告は右の異議決定を不服として、仙台国税局長に審査請求書を提出したが、審理の結果原処分を上回る所得金額となるので、同局長は棄却の裁決を行ない、昭和四三年七月一三日付で原告に通知した。
以上の経過を一覧表で示せば別表第三記載のとおりである。
(二) 昭和四一年分について
(1) 原告は昭和四一年分所得税についてパチンコ経営による事業所得金額(総所得金額)を二、六八七、二三九円、申告納税額を五四九、〇六〇円とする確定申告書を昭和四二年三月一一日被告へ提出した。
(2) 被告はその調査に基づいて総所得金額を四、七三九、〇〇〇円(事業所得四、六九一、〇〇〇円、不動産所得四八、〇〇〇円)、申告納税額を一、三六一、七〇〇円とする更正処分および過少申告加算税を四〇、六〇〇円とする賦課決定処分をなし、昭和四二年六月六日付をもつて原告に通知した。
(3) 原告は右の更正および賦課決定処分を不服として、異議申立書を提出したが、審理の結果更正処分を上回る所得金額となつたので、被告は棄却の決定を行ない、昭和四二年九月一九日付で原告に通知するとともに、総所得金額を一一、三九九、八五五円(事業所得一一、五二〇、三八〇円、不動産所得四八、〇〇〇円、譲渡所得△一六八、五二五円)、申告納税額を四、六六三、九〇〇円とする再更正処分および過少申告加算税四〇、六〇〇円、重加算税九九〇、六〇〇円の賦課決定処分をなし、昭和四二年九月二一日付をもつて原告に通知した。
(4) 原告は右の再更正および加算税賦課決定処分を不服として異議申立てをし、また前記(3)の異議申立棄却決定に対しては仙台国税局長に審査請求をなした。
(5) 被告は右の不服申立のうち異議申立てを国税通則法八一条二項三項に基づき、仙台国税局長に対する審査請求とみなし、同局長に異議申立書を送付するとともに原告にその旨通知し、同局長は前記(4)の審査請求と併合して審理した結果、原処分を相当として棄却の裁決を行ない、昭和四三年七月一三日付で原告に通知した。
以上の経過を一覧表で示せば別表第四記載のとおりである。
2 処分の理由
原告には本件各課税処分の対象となる所得として、昭和四〇年分につき金七、三七九、三一六円、昭和四一年分につき金一三、〇一九、六三〇円(いずれも原処分を上回る金額)が存したものである。
(一) 昭和四〇年分について
原告の昭和四〇年分所得の収支計算内訳(審査の裁決を経た後の金額)は別表第五記載のとおりであり、その計算根拠は次のとおりである。
(1) 番号1「収入金額」について
被告所属の職員は原告から昭和四〇年分所得税の更正に対する異議申立てがあつたので原告方に赴いて調査した。右調査に際し、当時原告は入院中で不在であつたが、立会入である原告の妻訴外高山キミエに帳簿書類の提出を求めたところ、同訴外人は、「保存していた帳簿のうち同年分のパチンコ関係の売上金額およびバー関係の収入支出金額を記帳したノートは紛失して見当らない。」と申立て、右帳簿書類の提示はなされなかつた。しかし右訴外人は、「パチンコの売上金額から小口の諸経費を現金支払した分を除いた金員は東北銀行気仙沼支店の原告名義の普通預金口座番号<集>四五に預金しており、またバー関係の売上金額についても同支店の高山キミエ名義の普通預金口座番号<集>五に預金している。」と申立て、入院中の原告に電話連絡し、その了解を得たうえ右預金通帳を提示した。そこで被告は右預金通帳によりその預け入れ金額を計算するとともに、右銀行を調査した結果、原告は右預金以外に架空の鈴木詔子名義で普通預金口座番号<集>一〇四を設定し、これに収入の一部を預金している事実を把握したので次のとおり原告の収入金額を認定した。
<1> パチンコ関係
(イ) 東北銀行気仙沼支店の原告名義普通預金口座番号<集>四五に昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの間に預け入れられた金額は二二、九九〇、一一四円であるがこの金額には預金利息ならびにバー関係、一味食堂の電話料、電気料、水道料等の立替金の入金六三七、四六九円が含まれていると前記訴外高山キミエの申立てがあつたので、これを除いた二二、三五二、六四五円がパチンコ営業の収入から預金されたものと認定した。
(ロ) 右銀行の鈴木詔子名義(架空名義)の普通預金口座番号<集>一〇四に、昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの間に預け入れられた金額は六、四八一、一九二円であるが、この金額には預金利息一一、一九二円が含まれているのでこれを除いた六、四七〇、〇〇〇円はその預け入れ状況から判断してパチンコ営業の収入金額から預金されたものと認定した。
(ハ) 右訴外人の申立てからパチンコ営業の諸経費として支払われた金額は右預金に含まれていないことが判明しているので、その金額三一三、一八五円を収入金額に加算した。
以上によりパチンコ関係の収入金額を二九、一三五、八三〇円と認定した。
<1> パチンコ関係
(イ) 東北銀行気仙沼支店の原告名義預金口座番号<集>四五に昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの間に預け入れられた金額は二二、九九〇、一一四円であるがこの金額には預金利息ならびにバー関係、一味食堂の電話料、電気料、水道料等の立替金の入金六三七、四六九円が含まれていると前記訴外高山キミエの申立てがあつたので、これを除いた二二、三五二、六四五円がパチンコ営業の収入から預金されたものと認定した。
(ロ) 右銀行の鈴木詔子名義(架空名義)の普通預金口座番号<集>一〇四に、昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までの間に預け入れられた金額は六、四八一、一九二円であるが、この金額には預金利息一一、一九二円が含まれているのでこれを除いた六、四七〇、〇〇〇円はその預け入れ状況から判断してパチンコ営業の収入金額から預金されたものと認定した。
(ハ) 右訴外人からの申立てからパチンコ営業の諸経費として支払われた金額は右預金に含まれていないことが判明しているので、その金額三一三、一八五円を収入金額に加算した。
以上によりパチンコ関係の収入金額を二九、一三五、八三〇円と認定した。
<2> バー関係
東北銀行気仙沼支店の高山キミエ名義の普通預金口座番号<集>五に昭和四〇年一月一日から同年一二月三一日までに預け入れられた金額は一、四五六、六四〇円であるが、この金額には預金利息四、〇六六円が含まれているのでこれを除いた一、四五二、五七四円をバー関係の収入金額と認定した。
(2) 番号2「売上原価」について
売上原価については期首、期末たな卸金額が不明であつたので、当年中の仕入金額を売上原価としたものであつて、その仕入先別明細は次のとおりである。
(イ) 気仙沼遊技業組合 八、七三三、二九四円
(ロ) 松山商店 六、三九二、六三〇円
(ハ) 株式会社磯屋商店 八五九、〇七二円
(ニ) 舞川屋商店 八四六、七八九円
(ホ) その他(ジユース) 八、六四〇円
計 一六、八四〇、四二五円
(3) 番号16「算出所得金額」について
<1> パチンコ経営による所得金額については別表第五の番号16欄記載のとおりである。
<2> バーの所得金額の計算に適用した平均算出所得率四八%は、気仙沼税務署管内の同業者のほか隣接署である石巻および釜石税務署管内の青色申告である同業者の所得率の平均によつたものでその算定根拠は別表第六記載のとおりである。
(4) 番号24「収入金額」について
右金五〇、五〇〇円は原告が昭和四〇年中に譲渡したパチンコ器の収入金である。すなわち前記高山キミエが「原告は昭和四〇年中パチンコ器一〇一台を入れ替えており、不要となつた旧パチンコ器は一台五〇〇円で譲渡した。」と申立てたので、被告は別表第七記載のとおりその収入金額を認定した。
(5) 番号25「売上原価」について
右金額は前記(4)のパチンコ器の売上原価で取得価額から譲渡時までの減価償却額を控除した未償却残高をもつて売上原価と認定したもので、その内訳は別表第八記載のとおりである。
(二) 昭和四一年分について
原告の昭和四一年分所得の収支計算内訳(審査の裁決を経た後の金額)は別表第九記載のとおりであり、その計算根拠は次のとおりである。
(1) 番号1「収入金額」について
原告は昭和四一年分の収入金額を四〇、四五一、四一三円として異議申立書を被告に提出した。しかし被告が調査した結果原告はパチンコ営業の収入金額の一部を東北銀行気仙沼支店の昭和四一年以前に設定した架空人である鈴木詔子名義普通預金口座番号<集>一〇四に昭和四一年二月五日まで預け入れていたが、同日右預金口座を解約して新規に架空の鈴木政美名義普通預金口座番号<集>一三七を設定し、引き続き収入金額の一部を預け入れていた事実を把握した。そこで被告は、原告が提出した異議申立書添付の収支計算書の売上金額四〇、四五一、四一三円に、右預金のうち次の計算によりパチンコの収入金額と認定した一一、五九五、三〇〇円を加算した五二、〇四六、七一三円を収入金額と認定したものである。
(イ) 前記鈴木詔子名義普通預金口座番号<集>一〇四に昭和四一年一月一日から、当該預金を解約した同年二月五日までの間に預け入れられた三三五、七三五円のうち、預金利息五、七三五円を除いた三三〇、〇〇〇円がパチンコ営業の収入から預金されたものと認定した。
(ロ) 昭和四一年二月五日新規に取引契約をした前記鈴木政美名義普通預金口座番号<集>一三七に、同年二月五日から同年一二月三一日までの間に預け入れられた金額は一三、三三〇、九〇六円であるが、右金額には預金利息等パチンコ営業以外の収入から預金された一、九六五、六〇六円が含まれているので、これを除いた一一、二六五、三〇〇円がパチンコ営業の収入から預金されたものと認定した。
(2) 番号2「売上原価」について
売上原価は昭和四〇年分(前記(一)の(2))と同様、当年中の仕入金額をもつて売上原価と認定したものであり、その仕入先別明細は次のとおりである。
(イ) 気仙沼遊技業組合 一七、四四八、九六二円
(ロ) 松山商店 一三、一七四、二〇〇円
(ハ) 株式会社磯屋商店 一、〇一三、二三二円
(ニ) 舞川屋商店 九一九、〇九一円
(ホ) 株式会社<九>河内屋商店 一一七、一二〇円
計 三二、六七二、六〇五円
(3) 番号4ないし11「一般経費」15ないし19「特別経費」について
原告は別表第九の必要経費の金額についても争つているが被告は別表第一〇記載のとおり、原告が審査請求書に添付した収支計算書に記載した金額と同額か、これを超えた金額を必要経費として認めており、特に番号16「建物減価償却費」および番号18「支払利息」については右収支計算書には記載のなかつたものであるが、被告において積極的に必要経費に認めたものである。なお番号11の「減価償却費」について、原告は昭和四一年一〇月一〇日に取得したパチンコ器五〇台の取得価額三七五、〇〇〇円をその年分の必要経費に算入したものであるが、パチンコ器は、所得税法において業務の性質上基本的に重要な資産で減価償却資産に該当するからその取得金額を基礎として減価償却の方法により必要経費に算入すべきものである。
(4) 番号27「収入金額」について
右金額は原告が昭和四一年中に譲渡したパチンコ器の収入金である。すなわち前記高山キミエは、「原告は昭和四一年中にパチンコ器一五一台を入れ替えており、不要となつた旧パチンコ器について昭和四〇年二月取得の六〇台のうち五〇台は廃棄処分し、残り一〇台および同年七月取得の四一台は一台当り五〇〇円で、昭和四一年一月取得の五〇台は一台当り一、〇〇〇円でそれぞれ譲渡した。」と申立てたので被告は別表第一一記載のとおり、その収入金額を認定した。
(5) 番号28「売上原価」について
右金額は前記(一)の(5)と同様、右(4)の旧パチンコ器の未償却残高をもつて売上原価と認定したもので、その内訳は別表第一二記載のとおりである。
なお原告は番号29の譲渡損失金額について、前記確定申告、異議申立、審査請求においてなんら申告していなかつたが被告において積極的に右譲渡損失金額を認定し、総所得金額を算出したものである。
3 本件各処分の適法性について原告の主張に対する反論
(一) 原告は本件各更正処分が調査に基づく適正なものでない旨主張するが、本件各処分は、被告所属の職員が原告方および各取引先に赴いて調査をし、その結果に基づいてなされたものである。
(二) 原告は昭和四〇年分所得税の更正処分は、原告が昭和四一年分所得税の更正処分に異議申立てをしたことに対する報復として違法目的のためになされたものであると主張する。
しかし、国民の権利、利益の救済を図るために設けられた行政処分に対する不服申立てがあつた場合、当該行政庁が何のためにこれを嫌悪し、報復することになるのか、原告の主張は常識の枠を超えた独断というべきか、さもなくば理由のない言いがかりにすぎない。
(三) 原告は、更正通知書には調査に基づくものであるときはその旨を附記しなければならないのに、その附記がない旨主張するが、国税通則法および所得税法は税務署長が更正通知書を送達して更正する場合に、その通知書に更正が調査に基づくものであることを附記すべきことを要求していない。
また原告は更正の理由にいたつてはまつたく記載されていないから本件更正処分は違法であると主張するが、更正の一般的手続を規定している国税通則法二八条は、更正通知書に理由を附記することを更正の要件とはしていない。ただ所得税の更正に際しての特例として、所得税法一五五条二項は青色申告書にかかる年分の総所得金額を更正する際は、更正通知書に更正の理由を附記しなければならないとしているが、原告のように青色申告者でないいわゆる白色申告書の場合には同条項の適用はなく、したがつて更正の理由附記の要はないのである。本件各更正処分通知書の「処分の理由」記載欄に理由の附記がないのは当然である。
(四) 原告は、被告が行なつた本件各年分の更正処分等は合理的推計課税ではないから取消さなければならないと主張するが、本件各年分の更正処分等に先だつて行なわれた調査において、原告の事業所得金額は原告が記載し、備付けまたは保存している帳簿書類に基づいて計算できない状態にあつたので、かかる場合は推計による所得金額の認定が許容されるのであり、その方法も合理的なものであつた。
なお被告は本訴において、原告の正当な事業所得金額につき、更正および再更正処分時と異なる金額を主張しているのであるが、まず原告のパチンコ営業にかかる本件各年分の事業所得金額の認定は実額計算の方法によったものであり、同業者の平均率の適用または出玉率による推計に比し、より合理性のある認定方法である。また原告のバー経営にかかる昭和四〇年分の事業所得金額の認定は、売上金額についてはパチンコ遊技場経営分と同様、売上金額が預け入れられた銀行預金から認定し、所得金額算出過程のうち、売上原価および一般経費については同業者の平均所得率を適用推計し、特別経費については個別実額認定の方法によつたものであり、右推計方法は、帳簿の備付けも原始記録の備付けも一切ない原告のバー経営にかかる所得金額の計算方法としては、同業者の平均率による推計を売上原価と一般経費の部分にとどめた合理的なものである。
(五) 本件各課税処分の対象となつた原告の所得が存在することは前項において主張したとおりである。
四、被告主張の処分理由に対する原告の認否
(一) 昭和四〇年分について
別表第五記載の収支計算内訳のうち、番号4ないし15、同17ないし22の各欄の記載内容は認める。その余の番号欄の記載内容は否認する。
(二) 昭和四一年分について
別表第九記載の収支計算内訳のうち番号1317192224ないし26の各欄の記載内容は認める。その余の番号欄の記載内容は否認する。
第三証拠
一、原告
1 甲第一ないし第五号証、第六、七号証の各一、二、第九、一〇号証の各一、二、第一一号証の一ないし五、第一二号証の一ないし六を提出。
2 証人高山キミエ(第一、二回)、尾坪末博、裴福東の各証言、原告本人尋問の結果、調査嘱託の結果を援用。
3 乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、第五、六号証、第七ないし第九号証の各一、二、第一〇ないし第一三号証、第一五号証の一ないし三、第一六号証、第一九ないし第二五号証、第二六、二七号証の各一、二、第二八ないし第四一号証、第四七ないし第四九号証、第七七、七八号証の成立(第二一ないし第四一号証、第四九号証、第七八号証は原本の存在とその成立)を認める。その他の乙号各証の成立(第五二、五三号証、第五四号証の一、二、第五五、五六号証、第五七号証の一、二、第五八、五九号証、第六〇号証の一、二、第六一ないし第七六号証、第七九ないし第一一五号証については原本の存在とその成立)は不知。
二、被告
1 乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証、第四号証の一、二、第五、六号証、第七ないし第九号証の各一、二、第一〇ないし第一四号証、第一五号証の一ないし三、第一六ないし第二五号証、第二六、二七号証の各一、二、第二八ないし第五三号証、第五四号証の一、二、第五五、五六号証、第五七号証の一、二、第五八、五九号証、第六〇号証の一、二、第六一ないし第一一五号証(第二一ないし第四一号証、第四九号証、第五二、五三号証、第五四号証の一、二、第五五、五六号証、第五七号証の一、二、第五八、五九号証、第六〇号証の一、二、第六一ないし第七六号証、第七八ないし第一一五号証は写)を提出。
2 証人菊地敏夫、富士昭二、門間仙吉、鈴木洋一、堀内正雄の各証言を援用。
3 甲号各証の成立を認める。
理由
一、原告が肩書住所地において、県公安委員会の許可を得て風俗営業(パチンコ店)を経営していることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第六号証および原告本人尋間の結果によれば、原告は気仙沼市において昭和三三年五月から昭和四〇年までバーを経営しており、昭和三六年末からパチンコ店の経営をも始めたものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。
二、本件各処分の経緯
請求原因第二項の事実は当事者間に争いがなく、右事実および前出乙第六号証、成立に争いのない甲第一号証、第三、四号証、乙第一号証、第九号証の一、二によれば次の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
(一) 昭和四〇年分について
原告は昭和四一年三月八日、昭和四〇年分所得税について、パチンコおよびバー経営による事業所得金額(総所得金額)を一、〇五五、〇〇〇円、課税所得金額を六三三、五〇〇円、申告納税額を八九、〇〇〇円とする確定申告書を被告に提出したが、被告は昭和四二年九月二一日付をもつて、事業所得金額(総所得金額)を五、九八七、〇〇〇円、課税所得金額を五、五六五、〇〇〇円、申告納税額を一、九五二、二〇〇円とする本件更正処分および重加算税を五五八、九〇〇円とする賦課決定処分をなし、原告に通知した。原告は右の更正処分および賦課決定処分を不服として同年一〇月五日異議申立書を提出したが、同年一二月二六日付で棄却されたため、さらに原告は昭和四三年一月二五日仙台国税局長に、審査請求書を提出したが、同局長は同年六月二七日付で棄却の裁決を行い、同年七月一三日付で原告に通知した。
以上の経過を一覧表で示せば、別表第三記載のとおりである。
(二) 昭和四一年分について
原告は昭和四二年三月一一日、昭和四一年分所得税についてパチンコ経営による事業所得金額(総所得金額)を二、六八七、二三九円、課税所得金額を二、三三五、七〇〇円、申告納税額を五四九、〇六〇円とする確定申告書を被告に提出したが、被告は昭和四二年六月六日付をもつて総所得金額を四、七三九、〇〇〇円(事業所得四、六九一、〇〇〇円、不動産所得四八、〇〇〇円)、課税所得金額を四、三八七、〇〇〇円、申告納税額を一、三六一、七〇〇円とする更正処分および過少申告加算税を四〇、六〇〇円とする賦課決定処分をなし、原告に通知した。原告は右の更正処分および賦課決定処分を不服として同年七月五日異議申立書を提出したが、被告は棄却の決定を行い、同年九月一九日付で原告に通知するとともに、総所得金額を一一、三九九、八五五円(事業所得一一、五二〇、三八〇円、不動産所得四八、〇〇〇円、譲渡所得△一六八、五二五円)課税所得金額を一一、〇四八、〇〇〇円、申告納税額を四、六六三、九〇〇円とする本件再更正処分および過少申告加算税四〇、六〇〇円、重加算税九九〇、六〇〇円の賦課決定処分をなし、同年同月二一日付をもつて原告に通知した。原告は右の再更正処分および加算税の賦課決定処分を不服として、同年一〇月五日異議申立をし、また四一年更正処分に対する異議申立棄却決定については同年同月一四日仙台国税局長に審査請求をした。被告は原告の本件再更正処分に対する異議申立を改正前の国税通則法八一条二項三項(現行法によれば九〇条一項)に基づき、仙台国税局長に対する審査請求とみなし、同局長に異議申立書を送付したが、同局長は原処分を相当として棄却の裁決を行い、昭和四三年七月一三日付で原告に通知した。
以上の経過を一覧表で示せば別表第四記載のとおりである。
三、本件各処分の適法性について
(一) 原告は本件更正処分および再更正処分は調査に基づかず恣意的になされたものであるから違法であると主張する。
証人門間仙吉の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一八号証、証人菊地敏夫、門間仙吉、高山キミエ(第一回)の各証言によれば、気仙沼税務署直税課所得税係の訴外門間仙吉は原告の昭和四一年分所得につき実態調査をするため昭和四二年一月半ば頃原告宅を訪ね、原告の妻訴外高山キミエと面接し、原告のパチンコ営業に関する収入、経費、仕入れ等の記入されている大学ノート、売上メモ、経費の領収書、仕入商品の仕切書の提示を受け、さらに借入関係、預金関係等について右訴外人に質問するなどしたところ、原告がパチンコ店を新装再開した昭和四一年六月頃より売上メモが存しないことから右大学ノートに記載されている同月以降の収入金額には疑問を持つたが、仕入金額等経費関係については領収書が存在し信用するに足るものであつたのでメモを作成してきたこと、被告は右調査結果に基づきその後原告から提出のあつた同年分の確定申告に対し更正処分を行つたこと、右更正処分に対し昭和四二年七月三日原告から異議申立があつたので、同署直税課所得税係の訴外菊地敏夫は原告宅に赴き、前記高山キミエに面接したところ、帳簿書類等の提出は得られなかつたが、同女は、パチンコやバーの売上は東北銀行気仙沼支店に預金している旨申立て、原告名義の預金通帳を提示したこと、しかし右通帳の預金の出し入れ状況からすると、売上げ金の一部が他にも預金されている疑いが持たれたので、前記菊地敏夫がさらに右銀行に赴いて調査したところ、後記認定のとおり、原告はパチンコ営業による収入金額の一部を同銀行気仙沼支店に架空の鈴木詔子および鈴木政美名義で預金しており、原告の昭和四一年分所得は同年分の前記更正処分の額を上回るばかりか、昭和四〇年分についても、原告の申告を上回る所得の存することが判明し、その結果、被告は原告の右異議申立を棄却するとともに昭和四一年分につき本件再更正処分を行い、同時に昭和四〇年分についても本件更正処分を行つたものであること、なお原告は昭和四二年七月から約一年間高血圧による眼底出血のため気仙沼市内の病院に入院していたので右菊地は直接原告に面接し預金関係について質問するなどの調査はできなかつたことなどの事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
右認定の事実によれば、被告は調査に基づいて本件更正処分および再更正処分を行つたものであることが認められ、調査が不存在であることを理由とする原告主張の違法はないものと言わなければならない。
(二) 原告は四〇年分の本件更正処分は原告が昭和四一年分更正処分に異議申立をしたことに対する報復としてなされたものであるから違法であると主張するが、本件更正処分は調査の結果原告に確定申告を上回る所得の存することが判明したためになされたものであることは前認定のとおりであつて、原告の主張事実を認めるに足りる証拠はない。
(三) 原告は本件各処分はその更正通知書に調査による旨の附記がなく、また処分の理由が記載されていないから違法であると主張する。
国税通則法二八条二項は、更正が同法二七条の国税庁または国税局の職員の調査に基づくものである場合にはその旨更正通知書に附記しなければならないことを規定しているが、右以外の場合には更正通知書に調査に基づくものである旨の附記は要しないものと解すべきところ、前認定の事実によれば本件各処分はいずれも同法二七条の国税庁または国税局の職員の調査に基づくものでないことは明らかであるからその更正通知書に調査に基づくものである旨の附記がないのは当然のことで、この点に関する原告の主張は理由がない。
また所得税法一五五条二項は青色申告書に係る年分の総所得金額等を更正する場合には更正通知書に更正の理由を附記しなければならないと規定しているが、それ以外のいわゆる白色申告の場合にはかかる規定は存しないから更正通知書には国税通則法二八条二項に規定する事項が記載されておれば足り、それ以上に資料を摘示する等して処分の具体的根拠まで明らかにする要はないものと解すべきところ、前出甲第三、四号証、乙第一号証、第六号証および証人高山キミエ(第一回)の証言によれば、本件各処分に係る年分の原告の確定申告はいずれも白色申告であつて青色申告ではなく、また本件各更正通知書には国税通則法二八条二項に規定する事項はすべて記載されていることが認められるから、本件各処分につき原告主張の処分理由不記載の違法はないものといわなければならない。
(四) 原告は、本件各処分は推計によりなされたものであるが、推計課税をなし得る要件を具備しておらず、またその方法も合理性に欠けるから違法であると主張する。
(1) 所得税法一五六条は、「税務署長は、居住者に係る所得税につき更正又は決定をする場合には、その者の財産若しくは債務の増減の状況、収入若しくは支出の状況又は生産量、販売量その他の取扱量、従業員数その他事業の規模によりその者の各年分の各種所得の金額又は損失の金額を推計してこれをすることができる。」と規定し、推計による更正を認めているが、元来課税標準額等の決定は帳簿書類に基づく実額調査によるのが本則であつて、右規定の適用は、帳簿書類が存在しないとか、あるいは存在しても記載内容が不備、不正確であるなど実額計算によることができない場合にはじめて許されるものと解すべきである。
本件において被告の主張する収支計算内訳によれば、本件各年分の総所得金額の認定は推計の方式によりなされたものといわなければならないが、ところで前認定の事実および成立に争いのない甲第六、七号証の各一、二、証人高山キミエ(第一回)の証言によれば、原告の備付け帳簿としては妻の訴外高山キミエが大学ノートに記入していたものが存在し、それによると昭和四一年分については毎日の売上金額、小口現金支出および売上金額から小口現金支出を差引いた残額、さらに各月別の各種経費と仕入金額が記載されているが、昭和四〇年分については各月別の小口現金支出と各種経費が記載されているだけであること、その他の資料としては昭和四一年分につき売上メモ、仕入れの仕切書、経費の領収書、給料の支給明細書が存在したが、なお売上メモは同年五月までのものしか存在しなかつたことなどの事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はなく、これらの事実や前記のとおり昭和四〇年分についての本件更正処分及び昭和四一年分についての本件再更正処分をなす前の昭和四一年分の異議申立に係る調査の段階において原告には本件各年分につきいずれも簿外売上げの存することが確認されたことなどの事実によれば、原告については帳簿の記載内容が不備、不正確なため本件各年分の所得額を認定するに実額計算をなし得なかつたものと認められるから、被告において推計の方式によりこれを認定し得る要件を具備していたものというべく、推計課税の方法によつたことが不適法であるとの原告の主張は理由がない。
(2) なお推計課税が是認されるためには、その推計方法が合理的なものでなければならず、推計の結果が真実の所得金額に合致する蓋然性が存しなければならない。ところで本件更正処分および再更正処分における総所得金額の計算上、推計にかかる部分は原告のパチンコ店およびバー営業による収入金額とバーの算出所得金額である。すなわち被告はパチンコ営業について昭和四〇年分は、東北銀行気仙沼支店の原告名義および鈴木詔子名義の普通預金口座の入金額(ただし、預金利息その他明らかに事業収入と認められないものの金額を控除した金額。)に、預け入れ前、直接売上金から諸経費等の支払に当てられた金額を加えた金額をもつて総売上金額と推計し、昭和四一年分は、原告の提出した異議申立書添付の収支計算書の収入金額に、同銀行の鈴木詔子、鈴木政美名義の各普通預金口座の入金額を加えた金額をもつて総売上金額と推計し、バー営業(昭和四〇年分のみ)については原告の妻高山キミエ名義の普通預金口座の入金額をもつて収入金額と推計し、これに管内および隣接署の同業者の平均所得率を乗じて所得金額を算定している。
<1> そこで右の計算関係のうち、まず昭和四〇年分の収入金額を算定するのに、前記原告名義の普通預金口座の入金額合計をパチンコ営業の収入金額と認定し、妻名義の普通預金口座の入金額合計をバー営業の収入金額と認定したことの合理性をみるに、成立に争いのない乙第一〇号証、第一三号証、証人菊地敏夫、冨士昭二、高山キミエ(第一回)の各証言によれば、昭和四〇年当時原告方における売上金の管理は妻の高山キミエがしていたものであるが、同女は毎日その日の売上げを自宅に持ち帰り、翌日東北銀行気仙沼支店から来る集金人に渡して同銀行に預金していたこと、パチンコ営業の売上金は同銀行の原告名義の普通預金口座にバー営業の売上金は妻の高山キミエ名義の普通預金口座にそれぞれ預金されていたこと、右高山キミエはパチンコ店の売上金の一部をもつて諸経費等の支払に当てていたので、これら小口の現金支出を除いた分が預金されていたこと、原告名義の普通預金口座にはパチンコ営業の売上金のほか、原告が立替払いしていた娘夫婦の経営する一味食堂の公共料金につき同夫婦から支払のあつた分も入金されていたが、その金額はいずれも二万円に満たない小額のものであつたことなどの事実が認められ、右認定を覆えすに足る証拠はなく、右事実によれば原告名義および高山キミエ名義の各普通預金口座の入金額のうち、明らかに売上金でないものを除いた合計金額に預け入れ前、使用あるいは控除した金額を加算した金額をもつてそれぞれパチンコあるいはバー営業の売上金と認定するについては合理的事情が存したものというべきである。
<2> 次に昭和四〇、四一年分の収入金額を算定するのに、前記鈴木詔子、鈴木政美名義の各普通預金口座の入金額をもつて原告のパチンコ営業の売上金と認定したことの合理性を検討するに、前出乙第一〇号証、成立に争いのない乙第一一、一二号証、第二一ないし第二五号証、第二六、二七号証の各一、二、第二八ないし第四一号証、第四七、四八号証、原本の存在とその成立に争いのない乙第四九号証、証人菊地敏夫の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第五一号証、証人鈴木洋一の証言によつて原本の存在とその成立を認めうる乙第六九ないし第七六号証、証人堀内正雄の証言によつて原本の存在とその成立を認めうる乙第七九ないし第八九号証、第九三ないし第一〇二号証、第一〇五ないし第一〇七号証、第一一〇号証、証人菊地敏夫、冨士昭二、尾坪末博(後記措信しない部分を除く)の各証言および調査嘱託の結果によれば、東北銀行気仙沼支店の鈴木詔子および鈴木政美名義の各普通預金口座はいずれも架空名義の預金口座であるが、鈴木詔子名義の預金口座は昭和三九年二月二四日取引を開始し、昭和四一年二月五日に解約され、その預金残高が引継がれて同日新たに鈴木政美名義の預金口座が設定されているものであること、鈴木詔子名義の預金口座から原告名義の当座預金ないし定期預金や原告の妻高山キミエ、長男の高山光一、次男の高山雄一名義の各定期預金にそれぞれ振替え入金されていること、鈴木政美名義の預金口座から口座相違であるとして原告名義の普通預金口座に振替入金されているものもあること、原告は銀行からの担保付手形貸付金を鈴木政美名義の預金口座から払戻して弁済していること、これら架空名義の預金口座には、原告が自己名義の預金口座に毎日のパチンコ店の売上金を入金しているのと同様日々恒常的に入金されており、しかも原告名義とこれら架空名義の預金口座とでは同一の日に同一回数の入金が為されるなど入金状況に並行関係もみられ、また原告は昭和四一年五月一二日から同年六月一〇日までパチンコ営業を休止していたが、これに対応して同年五月一三日から同年六月一二日までの間、原告名義の預金口座にも鈴木政美名義の預金口座にも入金が為されていないこと、原告名義の預金通帳の入金額が訂正されたその日に、訂正された額と同一金額が鈴木政美名義の預金口座に入金されていること、当時原告にはパチンコ営業以外の収入としては前認定のとおり昭和四〇年中、妻名義の預金口座に入金されていたバー営業の売上金が存しただけでほかに右のように恒常的に現金を預金できるような収入源は存在しなかつたことなどの事実が認められ、右事実によれば鈴木詔子、鈴木政美名義の各預金口座はいずれも原告のものであり、その入金は原告のパチンコ営業による売上金を預金したものであることが明らかであつて、右認定に反する証人尾坪末博、高山キミエ(第一回)の各証言および原告本人尋問の結果は前記各証拠に照らして措信できず、ほかに右認定を覆えすに足りる証拠はない。
してみれば被告において鈴木詔子、鈴木政美名義の各預金口座の入金額を原告のパチンコ営業による売上金と認定し、昭和四〇年分につき原告名義の普通預金口座の入金額にこれを加算して原告のパチンコ営業に係る収入金額を算定したことになんら合理性に欠けるところはないし、また昭和四一年分についても、前出乙第四九号証、成立に争いのない乙第二号証の二、証人菊地敏夫の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第五〇号証によれば、原告が昭和四一年分の所得税更正処分に対する異議申立書添付の収支計算書に記載した収入金額は原告がノートに記帳していた売上金の合計金額であり、これより小口の現金支出を差引いた残金が原告名義の普通預金口座に預金されていたことが認められるから、被告において右収支計算書の収入金額に前記各架空名義の預金口座の入金額のうち昭和四一年中の合計額を加算して原告の収入金額を算定したことに、なんら不合理な点はないものといわなければならない。
<3> 最後に被告が原告のバー営業の所得金額を算定するのに管内および隣接署の同業者の平均所得率を適用したことの合理性を検討するに、証人冨士昭二の証言および同証言により真正に成立したものと認められる乙第四二ないし第四六号証によれば、被告において選定した比準者は被告所轄の管内から一、隣接の石巻税務署管内から三、釜石税務署管内から一の計五名であるが、いずれも青色申告者でありその業種目は飲食業が三、カフエーが二であること、また右比準者の経営規模をみると売上金額はそれぞれ別表第六の「売上金額」欄記載のとおりであり、同表番号2の者には雇人費はないがその他の者には番号1.3.4.5の順にそれぞれ三七二、〇五〇円、一九九、八五〇円、五一三、九九八円、一、四八一、五五〇円の雇人費が存すること、これら比準者の選定にあたり、気仙沼税務署職員の訴外冨士昭二はできる限り原告と業種、業態、規模等の類似した者を収入、支出の明らかな青色申告者の中から選ぼうとしたが、被告所轄の管内には該当者が一名しかおらなかつたため、隣接署に原告と業種、業態等の類似したバー営業について照会し回答を得たものであることなどの事実が認められ右認定に反する証拠はない。
ところで比準者の選定にあたつてはそれらの者から求められる平均値ができる限り真実に近いものであることが要求されるから、恣意的な選定が許されないことはもちろんのこと、なるべく同業者で収入、支出が明確であり、しかも経営の規模、形態が類似する者を選定する必要があるといわなければならないが、後記認定のとおり原告のバー営業にかかる売上金額は一、四五二、五七四円でありまた雇人費は三二八、八〇〇円であるところ、前認定の比準者の業種、経営規模およびその選定の経緯等の事実を総合勘案すると、被告においては収支関係の明確な青色申告者の中から一応原告に類似する比準者を選定したものと認められ、右認定に反する証拠はないから、原告のバー営業にかかる所得金額の算定について、これらの平均所得率に近似した所得率により計算した被告の推計方式に合理性に欠けるところがあるものとは言い難い。
(3) なお原告は、所得推計の方法について被告は原告の仕入れの実態を把握していたのであるから、店舗その他諸条件を吟味して類似する店舗の差益率、一般経費率等を検討し、総合的に判断すれば、被告のように預金からする推計方法よりもより合理的な推計ができたはずであると主張する。
なるほど推計方法はより合理性の高いものがあればこれによるべきであることはいうまでもないが、一般に所得金額算出の過程で推計部分はできるだけ少ない程合理性は高いのであつて、本件において被告が仕入金額を把握したのは後記のとおりパチンコ営業に関する分についてであるが、そのパチンコ営業の分について、前認定のとおり売上金が預金されたと認められる前記各普通預金口座の入金額から収入金額のみを推計し、これから諸経費額を控除して所得金額を算出するのと、原告が主張するように仕入金額に同業者の差益率および経費率あるいは所得率を適用して所得金額を算出する方法とでは、明らかに前者の方が推計部分は少なくなるからより合理性が高いものと言わなければならない。
(五) 以上認定した事実に従い本件各年分の原告の総所得金額を算定すると、昭和四〇年分については別表第一三記載のとおり金七、四二一、二七〇円となり、昭和四一年分については別表第九記載のとおり金一三、〇一九、六三〇円となる。その計算根拠は次のとおりである。
(1) 昭和四〇年分(別表第一三)について
<1> 番号4ないし15、17ないし22の各欄の記載内容はいずれも当事者間に争いがない。
<2> 番号1「収入金額」について
(イ) パチンコ関係
前認定の事実および前出甲第七号証の二、乙第一〇、一一号証、証人冨士昭二の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一四号証によれば、東北銀行気仙沼支店の原告名義の普通預金口座に昭和四〇年中預け入れられた金額は金二二、九九〇、一一四円(その月別内訳は別表第一四記載のとおりである。)であるが、右金額には預金利息ならびに立替金からの入金六三七、四六九円(その内訳は別表第一五記載のとおりである。)が含まれているのでこれを除いた金二二、三五二、六四五円がパチンコ営業による売上金から預金されたものであること、同銀行の鈴木詔子名義の普通預金口座に昭和四〇年中預け入れられた金額は金六、四八一、一九二円(その月別内訳は別表第一四記載のとおりである。)であるが、この金額には預金利息一一、一九二円が含まれているのでこれを除いた金六、四七〇、〇〇〇円がパチンコ営業による売上金から預金されたものであること、ほかにパチンコ営業による売上収入として、預金する前に直接売上金から諸経費の支払に当てられたものがありその金額は三〇六、八六三円(その月別内訳は別表第一六記載のとおりである。)となることなどの事実が認められ、右認定に反する証人尾坪末博、高山キミエ(第一回)の各証言および原告本人尋問の結果は前認定の事実に照らして措信できず、ほかに右認定に反する証拠はない。
右事実によれば、原告の昭和四〇年分のパチンコ営業による収入金額は右の金二二、三五二、六四五円と金六、四七〇、〇〇〇円と金三〇六、八六三円の合計である金二九、一二九、五〇八円となる。
(ロ) バー関係
前認定の事実と前出乙第一三号証によれば、東北銀行気仙沼支店の高山キミコ名義の普通預金口座に昭和四〇年中預け入れられた金額は一、五五六、六四〇円(その月別内訳は別表第一七記載のとおりである。)であるが、右金額には預金利息四、〇六六円が含まれているのでこれを除いた金一、五五二、五七四円が原告のバー営業による収入金額と認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
<3> 番号2「売上原価」について
成立に争いのない乙第一五号証の一ないし三、および証人冨士昭二の証言により真正に成立したものと認められる乙第一七号証によれば、原告の昭和四〇年中のパチンコ営業に係る売上原価(仕入金額)は金一六、八四〇、四二五円であつて、その内訳(仕入別明細)は次のとおりであることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(イ) 気仙沼遊技業組合 八、七三三、二九四円
(ロ) 松山商店 六、三九二、六三〇円
(ハ) 株式会社磯屋商店 八五九、〇七二円
(ニ) 舞川屋商店 八四六、七八九円
(ホ) その他(ジユース) 八、六四〇円
<4> 番号16「算出所得金額」について
(イ) パチンコ営業による所得金額については別表第一三、番号16の「計算根基」欄記載のとおりである。
(ロ) バー営業による所得金額についても同様であるが、同欄記載の平均算出所得率四八%は前記のとおり気仙沼税務署管内および隣接署である石巻、釜石税務署管内の同業者の所得率の平均値であり、前出乙第四二ないし第四六号証によれば、別表第六記載のとおり右平均値は四八%となることが認められ、右認定に反する証拠はない。
<5> 番号24ないし26「譲渡所得」について
証人冨士昭二の証言によれば、原告は昭和四〇年中に別表第七記載のとおりパチンコ器を代金五〇、五〇〇円で譲渡したが、その売上原価(取得価額から譲渡時までの減価償却額を控除した未償却残高)は別表第八記載のとおり金四二二、六四〇円となり、結局差引譲渡所得はマイナス三七三、一四〇円となることが認められ、右認定に反する証拠はない。
(2) 昭和四一年分(別表第九)について
<1> 番号13.17.19.22.24ないし26の各欄の記載内容は当事者間に争いがない。
<2> 番号1「収入金額」について
前認定の事実および前出乙第二号証の二、第一一、一二号証、証人鈴木洋一の証言によつて原本の存在とその成立を認めうる乙第六七、六八号証によれば、前記鈴木詔子名義の普通預金口座に昭和四一年一月一日から、右預金の解約された同年二月五日までの間に預け入れられた金三三五、七三五円(その月別内訳は別表第一八記載のとおりである。)より、預金利息五、七三五円を差引いた金三三〇、〇〇〇円がパチンコ営業による売上金から預金された金額であること、前記鈴木政美名義の普通預金口座に同年二月五日から同年一二月三一日までの間に預け入れられた金額は一三、二三〇、九〇六円(その月別内訳は別表第一八記載のとおりである。)であるが、右金額には預金利息および借入金から預金された金一、九六五、六〇六円(その内訳は別表第一九記載のとおりである。)が含まれているのでこれを除いた一一、二六五、三〇〇円がパチンコ営業の売上金から預金された金額であること、従つて原告が昭和四一年分更正処分に対する異議申立書に添付した収支計算書の売上金額四〇、四五一、四一三円に右各架空名義の預金口座に入金された右金三三〇、〇〇〇円および金一一、二六五、三〇〇円を加算した金五二、〇四六、七一三円が原告の昭和四一年分の収入金額となることなどの事実が認められ、右認定に反する尾坪末博、高山キミエ(第一回)の各証言および原告本人尋問の結果は前認定の事実に照らして措信できず、ほかに右認定を覆えすに足る証拠はない。
<3> 番号2「売上原価」について
前出乙第一五号証の一ないし三、第一六号証、成立に争いのない乙第一九号証、証人門間仙吉の証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一八号証によれば、原告の昭和四一年中のパチンコ営業に係る売上原価(仕入金額)は金三二、六七二、六〇五円であつて、その内訳(仕入先別明細)は次のとおりであることが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
(イ) 気仙沼遊技業組合 一七、四四八、九六二円
(ロ) 松山商店 一三、一七四、二〇〇円
(ハ) 株式会社磯屋商店 一、〇一三、二三二円
(ニ) 舞川屋商店 九一九、〇九一円
(ホ) 株式会社<九>河内屋商店 一一七、一二〇円
<4> 番号4ないし12「一般経費」、15ないし20「特別経費」について
前記当事者間に争いがない事実と前出乙第二号証の二、証人菊地敏夫の証言によれば、原告は四一年分の事業所得に係る必要経費として別表第九の番号4ないし11のとおり合計金二、〇六〇、九六〇円、特別経費として同表の番号15ないし19のとおり合計金三、六〇五、三二九円を支出したことが認められ、右認定を覆えすに足る証拠はない。
<5> 番号27ないし29「譲渡所得」について
証人菊地敏夫の証言によれば、原告は昭和四一年中に別表第一一記載のとおりパチンコ器を代金七五、五〇〇円で譲渡したが、その売上原価(取得価額から譲渡時までの減価償却額を控除した未償却残高)は別表第一二記載のとおり金七五一、六八九円となり、差引譲渡所得はマイナス六七六、一八五円となることが認められ、右認定に反する証拠はない。
(3) 右のとおりであつて、原告には本件各年分につき被告が本件更正処分および再更正処分において認定した所得金額を上回る所得の存したことが明らかであるから、課税対象となる所得が不存在であることを理由とする原告主張の違法も認められない。
なお原告は本件更正処分および再更正処分の各段階において被告の認定した所得金額がどのような根拠に基くものであるかについて被告は本訴において何ら立証していないと主張するが、本件のごとく課税庁の認定した課税標準または税額等が実際のそれを上回つているか否かを争点とする課税処分取消訴訟では被告課税庁において一切の証拠資料に基づき原処分で認定した金額を上回る所得の存することを立証すれば足りるものと解すべきである。
四、以上の次第で、本件更正処分および再更正処分になんら違法の点は認められないから、原告の本訴請求は理由がないものとして棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤和男 裁判官 後藤一男 裁判官小圷真史は転任のため署名押印することができない。裁判長裁判官 伊藤和男)
別表第一 昭和四〇年分所得税の更正処分
<省略>
別表第二 昭和四一年分所得税の再更正処分
<省略>
別表第三 課税の経緯(昭和四〇年分)
<省略>
別表第四 課税の経緯(昭和四一年分)
<省略>
別表第五 収支計算内訳(昭和四〇年分)
<省略>
別表第六 同業者の平均算出所得率(別表第五の番号16)
<省略>
別表第七 譲渡収入金額の計算(別表第五の番号24)
<省略>
別表第八 売上原価の計算(別表第五の番号25)
<省略>
別表第九 収支計算内訳(昭和四一年分)
<省略>
別表第一〇 必要経費についての双方の主張の対比
<省略>
別表第一一 譲渡収入金額の計算(別表第九の番号27)
<省略>
別表第一二 売上原価の計算(別表第九の番号28)
<省略>
別表第一三 収支計算内訳(昭和四〇年分)
<省略>
別表第一四 パチンコ営業による売上収入推計の基礎とした預金口座の月別入金額(昭和四〇年分)
<省略>
別表第一五 原告名義普通預金口座のパチンコ営業による売上金以外からの入金内訳(昭和四〇年分)
<省略>
<省略>
別表第一六 原告記帳による小口現金支出の月別金額(昭和四〇年分)
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別表第一七 バー営業による売上収入推計の基礎とした高山キミエ名義普通預金口座の月別入金額(昭和四〇年分)
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別表第一八 パチンコ営業による売上収入推計の基礎とした預金口座の月別入金額(昭和四一年分)
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別表第一九 鈴木政美名義普通預金口座のパチンコ営業による売上収入以外からの入金内訳(昭和四一年分)
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