仙台地方裁判所 昭和44年(行ウ)5号 判決 1970年12月14日
東京都文京区千駄木五丁目四一番三号
原告
吉田雅
右訴訟代理人弁護士
古川太三郎
同
平林良章
同
佐藤充宏
仙台市北一番丁一一七番地
被告
仙台税務省長
渡辺誠夫
右指定代理人
家藤信正
同
長谷川政司
同
西稔丸
同
高梨子清重
同
石川正敏
同
鈴木昭平
同
管原孝夫
右当事者間の所得税更正決定処分取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告
1 被告が亡大泉まつに対して、昭和四三年一〇月一一日付でなした同人の昭和四二年分の所得税について、総所得金額金七、一四五、七六一円、所得税額二、五二九、八〇〇円とする再更正処分および過少申告加算税を金四九、四〇〇円とする賦課決定処分を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二、被告
主文同旨
第二、当事者の主張
一、請求原因
1 原告は亡大泉まつ(以下旧原告とよぶ)の唯一の相続人で、同人の本件に関する権利を承継したものであるか、旧原告は、被告に対し、昭和四三年三月一五日同人の昭和四二年分の所得税について、総所得金額金五、〇五二、八一一円申告納税額一、五一〇、三〇〇円として確定申告をした。
2 被告は、同年五月二八日付で、寡婦控除金七〇、〇〇〇円を否認し、所得税額金一、五四一、八〇〇円とする更正および過少申告加算税額金一、五〇〇円とする賦課決定(以下第一次更正処分とよぶ)をし、同日旧原告に対して通知し更に同年一〇月一一日付で総所得金額金七、一四五、七六一円、所得税額金二、五二九、八〇〇円とする再更正および過少申告加算税額金四九、四〇〇円とする賦課決定(以下第二次更正処分とよぶ)をなし、同日旧原告に対して通知した。
3 旧原告は右第二次更正処分につき同年一一月六日被告に対し、確定申告額を超える部分の所得金額の取消しを求める異議申立をなしたところ、被告は昭和四四年一月二七日付で棄却の決定をなし、同日その旨通知をなし、
旧原告は、更にこれに対し、同年二月二六日仙台国税局長に対し審査請求をなし、同局長は同年六月二五日付で右審査請求を棄却する裁決をし、同月二八日その旨旧原告に通知した。
4 しかしながら、被告のなした第二次更正処分は
二、請求原因に対する認否
請求原因一、二の事実は認める。
三、抗弁
旧原告は、確定申告において譲渡所得金額を金四、九七三、〇一一円と申告したが、右譲渡所得の計算のうち取得費金八五、九〇〇円が過大であり、譲渡に要した費用金四、一〇〇、〇〇〇円は譲渡経費に該当しないのでこれを否認し、譲渡所得金額を金七、〇六五、九六一円としたものである。
旧原告の昭和四二年分の総所得金額、諸控除額、所得税額、過少申告加算税額はそれぞれ次のとおりである。
1 総所得金額
(一) 不動産所得 金七九、八〇〇円
(二) 譲渡所得 金七、〇六五、九六一円
譲渡所得の計算内容は次のとおりである。
(1) 譲渡収入金 金一五、二〇〇、〇〇〇円
右は、旧原告が所有していた仙台市長町二ツ沢三番地外三筆の田(現況畑)および畑(実測合計一、九〇〇坪)(以下本件農地とよぶ。)を訴外横山正に譲渡したことによる収入である。
(2) 取得費 金一七七、三〇〇円
本件農地は、旧原告か昭和二七年一二月三一日以前から引続き所有していたものであるので、被告は、その取得費を所得税法第六一条第二項同法施行令第一七二条第一項の定めるところにより、同二八年一月一日における相続税および贈与税の課税標準の計算に用いるべきものとして、国税庁長官が初めて公表した方法によつて計算したものである。
即ち、本件譲渡土地の旧賃賃価格金八八円六五銭に二、〇〇〇倍を乗じた金一七七、三〇〇円。
(3) 譲渡に要した費用
弁護士費用 金二〇〇、〇〇〇円
交通費 金一五〇、七七八円
交通費、宿泊代 金一二〇、七七八円
電話自動車その他 金五〇、〇〇〇円
調査謝礼金 金七〇、〇〇〇円
合計 金五九〇、七七八円
(イ) 右の譲渡に要した費用の内弁士費用を二〇〇、〇〇〇円と認定した理由。
旧原告は弁護士古川太二郎に支払つた弁護士費用三〇〇、〇〇〇円を本件譲渡に要した費用であると申告したが、旧原告は右古川太三郎を訴訟代理人として仙台地方裁判所に旧原告の養子大泉仁弥(現在木皿仁弥。以下同じ。)を被告として離縁請求の訴を提起し(同裁判所昭和三九年(タ)第一四号)右訴訟は昭和四〇年一一月一〇日、和解が成立して終了したのであるが、旧原告弁護士古川太三郎に支払つた三〇〇、〇〇〇円の報酬の内二〇〇、〇〇〇円は本件土地の譲渡にかかるものであるが残り一〇〇、〇〇〇円は右離縁請求の報酬である。
(ロ) 大泉仁弥に支払つた金四、〇〇〇、〇〇〇円を譲渡に要した費用として認定しなかつた理由。
旧原告は、自己の養子であつた大泉仁弥に支払つた金四、〇〇〇、〇〇〇円を本件譲渡に要した費用(離作料)であると申告したが、この支払金は前記昭和四〇年一一月一〇日仙台地方裁判所で養子離縁請求事件の和解において旧原告から大泉仁弥に離縁に伴う慰籍料として支払われたものであつて、離作料ではないから譲渡に要した費用としては認めなかつた。
(4) 所得税法第三三条第四項による譲渡所得の特別控除額 金三〇〇、〇〇〇円
(5) 従つて、譲渡所得金額は次のようにして金七、〇六五、九六一円となる。
<省略>
即ち、譲渡益から特別控除額を差引いた金額に対して所得税法第二二条第二項第二号の計算方法を適用して譲渡所得金額は差引金額にを乗じた金額である。
<省略>
(三) 以上により総所得金額は不動産所得に譲渡所得を加えて計算した合計金七、一四五、七六一円である。
2 諸控除額
社会保険料控除 金六、〇〇〇円
老年者控除 金七〇、〇〇〇円
基礎控除 金一四七、五〇〇円
合計 金二二三、五〇〇円
3 所得税額 金二、五二九、八〇〇円
過少申告加算税額 金四九、四〇〇円
従つて被告のなした第二次更生処分には何等違法はない。
四、抗弁に対する認否
1 抗弁1の事実中、譲渡所得が金七、〇六五、九六一円であること、譲渡に要した費用の合計額が金五九〇、七七八円であること総所得金額が金七、一四五、七六一円であることは否認するか、その余の事実は認める。
譲渡に要した費用中弁護士費用は金三〇〇、〇〇〇円、また大泉仁弥に支払つた金四、〇〇〇、〇〇〇円は譲渡に要した費用として訂上されるべきである。
2 抗弁2の事実はすべて認める。
3 抗弁3の事実は否認する。
三、抗弁1の事実のうち譲渡に要した費用についての原告の主張
旧原告が、大泉仁弥の離縁に伴い支出した費用について。
1 旧原告と大泉仁弥とは昭和二三年四月一日養子縁組が事実上成立届出がなされたのは昭和三〇年一月三一日である。自作農創設措置法によれば旧原告が老令であつて耕作の業務が適正でないとしても当該農地を効率的に耕作するに充分な自家労力を有している場合には買収処分を免れることができたのである。従つて旧原告は大泉仁弥を事実上の養子として自家労力を取得したので、農地の買収処分を免れたのである。
したがつて右の事情により旧原告は、大泉仁弥を養子にする際、同人に対し養子になつている限り本件農地の耕作権を付与し、しかも一定期間耕作すれば同人に耕作権を贈与する約束をしたのである。
養子大泉仁弥の耕作権は養子としての身分に付随する権利であつて、この為旧原告が本件土地を売却しようとすれば大泉仁弥が耕作権を主張して離作しないばかりでなく耕作地たる本件土地を無断で売却したり担保権を認定したりしたのである。したがつて大泉仁弥の耕作権を奪うには、同人と離縁することが最も有効な方法であつた
2 旧原告は前記のとおり弁護士古川太三郎を訴訟代理人として仙台地方裁判所に養子大泉仁弥を被告として離縁請求の訴を起し、右事件は昭和四〇年一一月一〇日和解が成立し、旧原告は右訴訟の弁護士報酬として弁護士古川太三郎に金一〇〇、〇〇〇円を支払い、被告大泉仁弥に対し金四、〇〇〇、〇〇〇円を支払つて離縁した。
3 以上のとおりであつて右の旧原告と大泉仁弥との訴訟は離縁請求事件に名をかりた養子大泉仁弥の本件農地の耕作権の剥奪を目的とした農地返還請求事件とみるべきであつて、古川太三郎に支払つた弁護士費用金一〇〇、〇〇〇円は農地返還請求事件に対する報酬、大泉仁弥に支払つた金四、〇〇〇、〇〇〇円は本件農地の離作料であつていずれも本件農地の譲渡費用と認めるべきである。
第三、証拠
一、原告
1 甲第一ないし第四号証の一、二を提出。
2 証人古川太三郎の証言援用。
3 乙第八号証、第九号証、第一一号証の成立については不知、その余の乙号各証の成立は認める。
二、被告
1 乙第一号証の一、二、第二、第三号証、第四号証の一ないし四、第五ないし第一四号証を提出。
2 証人津田孝一、同成田哲の各証言援用。
3 甲号各証の成立を認める。
理由
一、請求原因一、二の事実はすべて当事者間に争いがない。
二、そこで、抗弁事実について判断する。
(一) 譲渡所得の計算内容について。
被告は、旧原告か譲渡に要した費用として確定申告した金四、一〇〇、〇〇〇円
即ち、旧原告が大泉仁弥に支払つた金四、〇〇〇、〇〇〇円および弁護士古川太三郎に支払つた弁護士費用金三〇〇、〇〇〇円のうち金一〇〇、〇〇〇円は譲渡に要した費用とは認められないと主張するから判断する。
(1) 旧原告は、弁護士古川太三郎を訴訟代理人として仙台地方裁判所に旧原告の養子大泉仁弥を被告として離縁請求の訴(同裁判所昭和三九年(タ)第一四号)を提起し、右訴訟は昭和四〇年一一月一〇日和解が成立して終了したこと、旧原告は、右訴訟の弁護士報酬として弁護士古川太三郎に金一〇〇、〇〇〇円を支払い、さらに和解条項にしたがつて大泉仁弥に金四、〇〇〇、〇〇〇円を支払つて離縁したことは当事者間に争いがなく、この事実に成立に争いない甲第一号証、同乙第一号証の一、二同乙第二、第三号証、同乙第四号証の一乃至四、同乙第五乃至第七号証、同第一〇号証、同乙第一二乃至第一四号証、証人成田哲の供述により成立を認めうる乙第八、第一一号証に同供述、証人津田孝一の供述により成立を認めうる乙第九号証に同供述を総合すると、旧原告が大泉仁弥に支出した金四、〇〇〇、〇〇〇円及び右訴訟に際して弁護士に支払われた金二〇〇、〇〇〇円のうち金一〇〇、〇〇〇円はいずれも本件農地の譲渡に関して支出されたものではなく、前者は離縁に伴う慰籍料、後者は右訴訟の報酬としてそれぞれ支払われたものである事実を認定するに十分である。
(2) 原告は、その主張の如き、旧原告と大泉仁弥間の養子縁組並にその離縁に至る経過からして右訴訟は離縁請求事件に名をかりた大泉仁弥の本件農地に対する耕作権剥奪を目的とした農地返還請求事件であり、弁護士に支払つた費用中金一〇〇、〇〇〇円は右返還請求事件に対する報酬、大泉仁 に支払つた金四、〇〇〇、〇〇〇円は本件農地の離作料である旨抗争するけれども、これに副う証人古川太三郎の供述は(イ)前記甲第一号証によつて認められる右金四、〇〇〇、〇〇〇円のうち昭和四〇年一二月末日金二、〇〇〇、〇〇〇円の授受と同時に協議離縁届出をし本件農地含む一三筆を明渡すこと、昭和四二年一月末日残金二、〇〇〇、〇〇〇円の授受と同時に家屋を明渡すこと等を和解条項としているが、離作料という文言は全く使用されておらない事実、(ロ)前顕乙第一号証の一、二、同第二第三号証、同第四号証の一乃至四、同第七号証によつて認められる旧原告と大泉仁弥が協議離縁届出を了したのは昭和四〇年一二月二一日であり、旧原告が訴外横山正外二名に本件農地を売却処分したのは昭和四一年一一月八日農地法第五条の規定による許可は昭和四二年二月二七日になされており、右土地の売買については同弁護士は何等の接衝関与もしておらず同弁護士自身麹町北税務署長の調査に対し金三〇〇、〇〇〇円のうち金一〇〇、〇〇〇円は前記訴訟の報酬でないと述べている事実、(ハ)前顕乙第八、第九号証によつて認められる旧原告の異議申立に基く仙台国税局協議官の調査に対し大泉仁弥は右金四、〇〇〇、〇〇〇円は離作料でなく慰籍料であつたと述べている事実、(ニ)前顕乙第一二、第一三号証によつて認められる仙台市農業委負会の調査回答によれば、本件農地は昭和三五年一月一日以降昭和四一年一二月九日までの間において賃借権、使用借権の存在がなかつた事実、以上の各事実に照らしたやすく信を措き難く、他に原告の主張を認めて、前記認定を覆すに足る証拠はない。
譲渡所得の計算内容のうち譲渡収入金が金一五、二〇〇、〇〇〇円であること、右譲渡収入の原因となつた仙台市長町二ツ沢三番地外三筆の田(現況畑)および畑の取得費が金一七七、三〇〇円であることは当事者間に争いがなく旧原告が大泉仁弥に支払つた金四、〇〇〇、〇〇〇円および弁護士古川太三郎に支払つた金一〇〇、〇〇〇円を譲渡に要した費用と認めないとすれば譲渡に要した費用の項目は被告の主張するとおりであつて、その合計額が金五九〇、七七八円であることは双方弁護の全趣旨からして明かである。
だとすれば譲渡所得金額は譲渡益(譲渡収入金額から取得費を差し引いた残額)から所得税法第三三条第四項による譲渡所得の特別控除額金三〇〇、〇〇〇円を差し引いた金額に対して所得税法第二一条第二項第二号の計算方法を適用して譲渡所得金額は金七、〇六五、九六一円となる。
譲渡所得金額、諸控除額、所得税額、過少申告加算税額。
以上によると旧原告の昭和四二年分の譲渡所得金額は金七、〇六五、九六一円となりその他に不動産所得が金七九、八〇〇円あつたことは当事者間に争いがないから、同年分の所得金額を計算すると金七、一四五、七六一円となり、これより当事者間に争いのない各種所得控除合計金二二三、五〇〇円を控除したうえ国税通則法第九〇条第一項により一、〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金六、九二二、二〇〇円が課税標準たる所得金額となる。右の課税標準たる所得金額から所得税法の各規程にしたがつて算出される算出税額が旧原告については金二、五二九、八〇〇円であることは当事者間に争いがなく、過少申告加算税は国税通則法第六五条第一項、第九〇条第三項により右所得税額から当事者間に争いのない第一次更正処分によつて算出された所得税額金一、五四一、八〇〇円を控除したうえ一、〇〇〇円未満の端数を切り捨てた金額に基づいて計算すると金四九、四〇〇円となる。
三、結論
以上の次第で、旧原告の昭和四二年分所得税について譲渡所得について、大泉仁弥に支払つた金四、〇〇〇、〇〇〇円および弁護士古川太三郎に支払つた金一〇〇、〇〇〇円が譲渡に要した費用と認められない以上、被告の第二次更正処分には何等の違法もないことが明かである。
したがつて原告の被告に対する本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 三浦克己 裁判官 佐藤貞二 裁判官 正木勝彦)