仙台地方裁判所 昭和49年(わ)114号 判決 1975年1月14日
国籍
韓国慶尚南道昌寧郡霊山面東里二二
住居
仙台市春日町七の七 三栄産業第二ビル三〇三号
貸金業
松山明市こと
李明珠
一九三三年一月五日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は検察官津田賛平出席のうえ審理し、つぎのとおり判決する。
主文
被告人を懲役八月および罰金五〇〇万円に処する。
但し本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、右執行猶予の期間中被告人を保護観察に付する。
右罰金を完納することができないときは金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
(罪となるべき事実)
被告人は仙台市木町通一丁目三-四二、三幸マンション二〇三号室(昭和四七年九月以前は仙台市大町二丁目八番一七号大町ビル内)において、サンヨー商事の名称で貸金業を営んでいたものであるが、所得税を免れる目的で公表帳簿を備付けないで金員を貸付けそれによつて得た受取利息及び受取手数料等を自己及び従業員名義で銀行預金をするなどしてその所得を秘匿する不正な方法により
第一 昭和四六年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度において、被告人の実際の所得金額が二、二六一万四、五一〇円で、これに対する所得税額が九九〇万〇、三〇〇円であつたのに、申告期限である昭和四七年三月一五日までに仙台市中央四丁目五番二号所在所轄仙台中税務署に対して所得税確定申告書を提出せず、もつて当該事業年度の所得税額九九〇万〇、三〇〇円を納入期限に納付しないで逋脱し
第二 昭和四七年一月一日より同年一二月三一日までの事業年度において、被告人の実際の所得金額が三、七〇二万八、七八八円でこれに対する所得税額が一、八四三万六、六〇〇円であつたのに、申告期限である昭和四八年三月一五日までに仙台市上杉一丁目一番一号所在所轄仙台北税務署に対して所得税確定申告書を提出せず、もつて当該事業年度の所得税額一、八四三万六、六〇〇円を納入期限に納付しないで逋脱したものである。
〔証拠の標目〕
判示各事実について
一、被告人の当公判廷における供述
一、被告人の検察官に対する供述調書二通および同人の収税官吏に対する質問てん末書二二通
一、猪浦美枝子(四通)、中島晃の収税官吏に対する各供述調書
一、収税官吏作成の昭和四八年一二月一三日付銀行調査書綴二冊(記録二、三冊目)
一、収税官吏作成の昭和四八年一〇月三日付調査表
一、収税官吏作成の昭和四六年分および昭和四七年度分の「脱税額計算書説明資料」と題する書面
各勘定科目別に逋税額を確定し、これを最終的に修正貸借対照表および修正損益計算書にまとめ逋税総所得額を算出したもの
一、収税官吏作成の「脱税額計算書計算内容の説明書」と題する書面
昭和四六年度および昭和四七年度の各事業所得から法定控除額を差引き、所得税法等の各関係法令を適用のうえ最終逋脱額を算出したもの(記録一一冊目)
(法令の適用)
被告人の判示第一および第二の各所為は所得税法第二三八条第一項にそれぞれ該当するので、所定刑のうち懲役刑と罰金刑を併科することとし、判示各罪は刑法第四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法第四七条本文第一〇条により犯情最も重いと認める判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法第四八条第二項により各罪の罰金合算額の範囲内において処断することとするが、情状につき考察するに、本件は法定の公表帳簿を作成しないで、契約書等を控えとし、貸付を行なつて受取つた利息等を自己および他人名義で預金し、しかも所得申告を全く行なわないという完全逋税行為を行なつているものであり、納税ならびに遵法意識に欠けるもの大なるものがあり、しかも以前にも出資の受入、預り金及び金利等の取締等に関する法律違反により懲役に処せられ執行猶予に付されているにもかかわらず、その猶予期間の経過をまたずに本件第一の所為に着手していることも認められ、情状悪質な面があるのであるが、しかしながら税法違反の犯罪は本件が最初であり、本件を契機として従前の逋税税額および重加算税等約七、〇〇〇万円あまりを納付し、今後の経理内容についても経理士の指導をうけていることも認められ、本件についても捜査ならびに公判の審理を通じて率直にその非を認めて改悛しているなど斟酌すべき情状も認められるので、以上の点を考慮のうえ被告人を懲役八月および罰金五〇〇万円に処し、同法第二五条第一項により本裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、再犯防止のための更生保護の措置をとるを相当と認めるので同法第二五条ノ二第一項前段により右執行猶予の期間中被告人を保護観察に付し、同法第一八条により右罰金を完納することができないときは金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとする。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 佐々木一雄)