大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

仙台地方裁判所 昭和50年(ワ)683号 判決 2003年3月31日

主文

1  被告A,被告B及び被告Cは,原告に対し,連帯して金4万5337円及びこれに対する昭和47年8月24日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  被告C,被告E及び被告Fは,原告に対し,連帯して金3283円及びこれに対する昭和48年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告A,被告B,被告C及び被告Eは,原告に対し,連帯して金2万5000円及びこれに対する昭和48年4月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被告A,被告B及び被告Cは,原告に対し,連帯して金297万4574円及びこれに対する昭和48年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5  被告A,被告C及び被告Dは,原告に対し,連帯して金146万2536円及びこれに対する昭和49年7月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

6  原告の被告A,被告B,被告C及び被告Dに対するその余の請求をいずれも棄却する。

7  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  主文第1,3項と同旨

2  被告A,被告B,被告C,被告E及び被告Fは,原告に対し,連帯して金3283円及びこれに対する昭和48年1月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  被告A,被告B及び被告Cは,原告に対し,連帯して金331万9394円及びこれに対する昭和48年12月17日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4  被告A,被告C及び被告Dは,原告に対し,連帯して金149万5536円及びこれに対する昭和49年7月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は,原告が,その従業員であり日本労働組合総評議会(以下「総評」という。)G労働組合H地方本部I支部(以下「I支部」という。)の組合員であった被告らにより行われた違法な争議行為によって損害を被ったと主張して,被告らに対し,不法行為に基づく損害賠償を請求する事案である。

1  基礎となる事実(証拠を掲げたもののほかは当事者間に争いがない。)

(1)  原告は,各種バルブの製造販売等を目的とする株式会社である。

(2)  被告らは,原告の従業員であり(ただし,被告Dについては昭和46年3月,被告Fについては同47年11月にそれぞれ解雇されている。甲52,115),I支部の組合員であった者である。なお,I支部は,原告の従業員及び元従業員のうち,総評G労働組合中央本部(以下「G中央本部」という。)に所属する者をもって構成する労働組合である。また,G中央本部は,全国の金属産業に従事する労働者の一部をもって構成する単一の労働組合であり,総評G労働組合H地方本部(以下「H地本」という。)は,宮城県内のG中央本部所属の労働者をもって構成する労働組合である。

(3)  被告Aは,昭和46年8月7日からI支部の副委員長,被告Bは,昭和46年8月7日から同47年9月1日まで副委員長,同月2日から昭和48年12月24日まで書記次長,被告Cは,昭和46年8月7日から同47年9月1日まで書記長,同月2日から副委員長,被告Dは昭和48年12月25日から書記次長の役職にそれぞれあった。

2  争点

(1)  不法行為の成否

ア 原告の主張

(ア) I支部組合員約150名及び支援労組員ら約800名は,昭和47年8月24日午後4時30分ころ,原告の会社正門付近に結集し,集会を開催しようとしたが,その際,支援労組員ら約150名は会社の業務にかかわりない者の立入りを禁止する旨の標示及び警告を無視して会社構内への立入りを強行し,更に多数の支援労組員も構内に侵入しようとする勢いであったため,原告は,午後5時5分ころ,正門の門扉を閉鎖した。その後,I支部組合員らは,支援労組員らの構内への立入りを要求し続けたが,原告がこれを拒絶したところ,午後5時44分ころ,実力による構内侵入を図り,集団で正門の鉄製門扉に手をかけ,前後に揺さぶるなどして門扉を押し開き,会社構内に侵入して構内での集会を強行した。この行為により,正門の鉄製門扉のかんぬき2本,蝶番2枚等が損壊された。

(イ) 被告E及び被告FらI支部組合員約20名並びに支援労組員ら約20名は,昭和48年1月25日午後1時ころから2時10分ころまでの間,原告の会社正門前の道路上において,社用で外出しようとしたK経理課長が運転し,同課のL経理課員が同乗する原告所有の小型乗用自動車(宮abcdef)を取り囲み,両名に対し罵声を浴びせ,車のボディ・ガラス等を手でたたいたり足で蹴ったりするなどにより威圧を加え,車の通行を実力で阻止して,両名の業務を妨害し,また,車の左右のバックミラーを激しく揺さぶり,外側に曲げるなどしてバックミラー2個を損壊した。

(ウ) 被告EらI支部組合員約88名は,同年4月13日午前8時15分ころ,原告の会社正門前道路上に結集し,原告による標示,警告及び警察による警告を無視して,原告の会社正門の突破を企て,集団で正門の鉄製門扉に手をかけ,激しく揺さぶり押すなどして,門扉を損壊した。

(エ) I支部組合員及び支援労組員ら約1000名は,同年8月22日午前6時40分ころから,原告の会社正門,南門及び北門に分散してスクラムを組んで各門を封鎖し,原告の従業員の出勤を実力で妨害し,更に午前8時5分ころから,全員正門前道路上に結集して集会を開き,出入荷車両の通行を妨害したが,午前8時55分ころ,全員南門,北門に回り,北門において,鉄製門扉及びその周辺のフェンスに体当たりをし,揺さぶり,押すなどして門扉及びフェンスを損壊した。

(オ) 被告A,被告B,被告CらI支部組合員及び支援労組員ら約500名は,同年10月25日午前6時ころから午後3時40分ころまで,原告の会社正門,南門及び北門に分散してスクラムを組んで各門を封鎖し,原告の従業員の出勤を実力で妨害した上,午前7時ころから,正門においては,鉄製門扉に集団で体当たりをし,揺さぶり,引くなどして門扉及び防石ネット等を損壊し,更に原告が正門の内側に設置した有刺鉄線を張ったバリケードをペンチ,鋸,竹竿等を用いて切断するなどして損壊し,南門においては,鉄製門扉を引っ張るなどして損壊した。

(カ) 被告A,被告B,被告CらI支部組合員及び支援労組員ら約750名は,同年12月17日午前5時30分ころから午後零時50分ころまで,原告の会社正門,南門及び北門に分散してスクラムを組んで各門を封鎖し,原告の従業員の出勤を実力で妨害した上,北門において,鉄製門扉及びフェンスに集団で体当たりをし,押す,引く又はペンチ,ニッパー,鉄パイプ等を用いて切断するなどして門扉及びフェンスを損壊し,更に鉄パイプ,丸太等を所持して構内に侵入し,警備に当たっていた管理職や従業員らに殴りかかるなどの暴行を加えて35名に傷害を与え,午後零時35分ころ,原告所有のM寮をめがけて投石し,窓ガラス24枚を損壊した。

(キ) 被告A,被告C,被告DらI支部組合員及び支援労組員ら約800名は,昭和49年7月29日午前7時5分ころから午後1時ころまで,原告の会社正門,南門及び北門に分散してスクラムを組んで各門を封鎖し,原告の従業員の出勤を実力で妨害した上,正門においては,鉄製門扉を旗竿,鉄パイプ等で突き,ロープをかけて引っ張る等して門扉及び門柱並びに門柱に設置された柱灯を損壊し,南門においても,同様の方法で鉄製門扉を損壊し,更に南門付近に積んである梱包用木箱を門扉に投げつけるなどして木箱31個を損壊したほか,南門付近に所在する原告所有の社宅板塀を押し倒して損壊した。また,前記組合員らは,会社構内において警備に当たっていた管理職や従業員らに対し,旗竿で突く,角材,石を投げるなどの暴行を加えて16名に傷害を与えたばかりでなく,投石によりN設計二課長が所持していた原告所有のカメラ(フジカシングル8)を損壊した。

イ 被告らの主張

(ア) 原告の主張する事実は,いずれも否認する。

(イ) 原告は,前記ア(ウ)記載の行為の行われた日につき,当初,昭和48年4月3日と主張していたが,平成14年7月15日付け準備書面において,これを昭和48年4月13日と変更した。この変更は訴えの変更に当たるところ,新たな訴訟物については,既に不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間を満了していることは明らかである。

被告らは,平成14年9月24日の本件弁論準備手続期日において時効援用の意思表示をした。

(2)  被告らの責任

ア 原告の主張

(ア) 組合役員としての責任

I支部は,昭和46年ころ以降,その規約において,執行委員長1名,副委員長2名,書記長1名,執行委員若干名等の役員を置くと定めていたが,書記長の補佐役として書記次長を置いていた時期もあった。そして,組合役員をもって構成される執行委員会において,闘争方針,闘争戦略を含む同支部の運営全般について審議,決定していた。

また,原告が,昭和47年12月18日,I支部に対し,ロックアウトを行った直後に,同支部は,執行委員長,副委員長,書記長及び書記次長をもって構成する闘争委員会を設置し,それ以降は,闘争方針,闘争戦略を含む同支部の争議行為に関する事項全般を同委員会において審議,決定していた。

被告A,被告B,被告C及び被告Dは,昭和47年8月24日から同49年7月29日までの間,I支部において前記1(3)記載の役職に就き,前記(1)ア(ア)ないし(キ)(ただし,被告Bは同(キ),被告Dは同(ア)ないし(カ)を除く。)記載の各不法行為を企画,指導して同支部組合員に対し行わせたばかりでなく,同支部組合員がこれらの各不法行為を連続的に行っていることを知りながら,同支部役員としての統制力をもってこれを中止させることなく,かえって扇動した。

(イ) 実行行為者としての責任

被告A及び被告Cは前記(1)ア(ア)ないし(キ)記載の各行為を,被告Bは同(ア)ないし(カ)記載の各行為を,被告Dは同(キ)記載の行為を,被告Eは同(イ)及び(ウ)記載の各行為を,被告Fは同(イ)記載の行為をそれぞれ実行した。

イ 被告らの主張

(ア) 原告の主張はいずれも争う。

(イ) 前記(1)ア(イ)記載の出来事は,門前で給与を支給するというのでI支部の組合員が待機していた際に発生したものであって,組合役員が組織行動として企画,指導,扇動した事実は全くない。また,前記(1)ア(ア),(エ)ないし(キ)記載の各出来事は,いずれも数百名規模の集会及び抗議行動の際に発生したものであるが,門扉その他の損壊を企画し,目的としていたものではない。

(ウ) 争議行為の結果として受忍限度を超える被害が生じたとしても,争議行為の主体である組合(G中央本部,H地本及びI支部)が第一次的に責任を負うべきであるところ,本件では,原告は,中央労働委員会において,これらの3組合の責任を免除する趣旨の和解を成立させ,3組合を被告とする訴えを取り下げたのであって,組合の責任を免除しながら,その構成員に対してのみ責任を追及することは,権利の濫用として許されない。

(3)  損害

ア 原告の主張

(ア) 原告は,(1)ア(ア)記載の行為により,門扉のかんぬき等の修理代金4万5337円の損害を被った。

(イ) 原告は,(1)ア(イ)記載の行為により,K経理課長及びL経理課員が業務を行い得なかった1時間10分の賃金相当額1283円及びサイドミラーの修理代金2000円の合計3283円の損害を被った。

(ウ) 原告は,(1)ア(ウ)記載の行為により,門扉の修理代金2万5000円の損害を被った。

(エ) 原告は,(1)ア(エ)記載の行為により,門扉及びフェンスの修理代金18万5380円の損害を被った。

(オ) 原告は,(1)ア(オ)記載の破壊行為を阻止するため,管理職及び従業員を警備に当たらせざるを得なくなり,終日操業を停止せざるを得なくなったが,これによる損害は,少なくとも原告が支払った1日分の賃金相当額186万2509円を下らない。また,原告は,門扉等(ただし,防石ネット,バリケード等は含まない。)の修理代金4万8000円の損害を被った。これらの損害額の合計は191万0509円となる。

(カ) 原告は,(1)ア(カ)記載の暴力行為を阻止するため,管理職及び従業員を警備に当たらせざるを得なくなり,午前8時15分から正午まで3時間45分間にわたり操業を停止せざるを得なくなったが,これによる損害は,少なくとも原告が支払った前記時間に対する賃金相当額90万9195円を下らない。また,原告は,門扉の修理代金29万1880円の損害及びM寮の窓ガラスの修理代金2万2430円の損害を被った。これらの損害額の合計は122万3505円となる。

(キ) 原告は,(1)ア(キ)記載の暴力行為を阻止するため,管理職及び従業員を警備に当たらせざるを得なくなり,午前8時15分から正午まで3時間45分間にわたり操業を停止せざるを得なくなったが,これによる損害は,少なくとも原告が支払った前記時間に対する賃金相当額121万6586円を下らない。また,原告は,正門門扉,門柱,柱灯の修理代金11万8000円の損害及び南門門扉の修理代金3万6000円の損害,木箱の損壊による5万6950円の損害,社宅板塀の修理代金3万5000円の損害及びカメラの損壊による3万3000円の損害を被った。これらの損害額の合計は149万5536円となる。

(ク) なお,被告らは前記(オ)ないし(キ)記載の賃金相当額の損害について被告らの争議行為と直接の因果関係がない旨主張する。しかしながら,門扉等の破壊行為が行われているにもかかわらず,警察が民事不介入という名目で何ら制止しようとしなかったことに照らせば,原告が管理職や従業員によってI支部組合員や支援労組員等の構内乱入を阻止せざるを得なかったのは明らかである。

イ 被告らの主張

(ア) 原告主張の損害はいずれも否認する。

(イ) なお,原告は,前記ア(オ)ないし(キ)において,管理職及び従業員を警備に当たらせたとして,その賃金相当額の損害を主張する。しかしながら,被告らによる争議行為は原告の操業停止を目的とするものではなく,原告が管理職や従業員を警備に当たらせたとしても,これは原告の判断による無用のものにすぎず,被告らによる争議行為と直接の因果関係があるものではない。およそ争議行為があれば,会社側は何らかの対応のために労力を割くことになるが,これは争議行為に伴う通常の経費であり,受忍すべきことである。また,原告が,当該日において,どの範囲でどの程度の警備を動員したのか,警備員による警備や警察官の待機を超えて,管理職や従業員による警備をしなければより大きな損害が生じたおそれがあったのかなどは明らかではない。

第3当裁判所の判断

1  争点(1)(不法行為の成否)について

(1)  昭和47年8月24日の行為について

ア 証拠(甲53の2,72,76ないし81,112,乙1)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

昭和47年8月24日,O支援共闘会議の主催により,外部から多数の支援労組員を動員して抗議集会が開催された。外部からの支援労組員らは,午後4時半ころから原告の会社正門付近に結集し始め,そのうち約150名は構内にあるI支部の組合事務所付近に入り込んだため,原告は,社内スピーカーを通じて構内への部外者の立入りを禁止している旨警告をした。ところが,支援労組員らはこの警告を無視する動きを見せたため,原告は,午後5時5分ころ,正門を閉鎖した。その後,更に支援労組員らが正門付近に詰めかけたため,正門付近は約800名の支援労組員で騒然となり,駐車中の宣伝カーのスピーカーを通じて,H地本のP書記長らが「門を開けろ」などと要求していた。そして,支援労組員らのうち数十名が,午後5時44分ころ,正門を押し壊し,約150名が構内に乱入したが,その際,正門の鉄製のかんぬき2本が「へ」の字型に曲げられ,蝶番2枚も破損した。集会は,午後5時55分ころからI支部組合員約150名も参加して会社正門前で始まり,前記のP書記長らが演説し,I支部のQ執行委員長が決意表明を行い,午後6時30分過ぎに終了の宣言がされた。

イ 以上の認定事実によれば,昭和47年8月24日の行為により門扉の一部が損壊されたのであるから,これが不法行為を構成することは明らかである。

(2)  昭和48年1月25日の行為について

ア 証拠(甲82の1・2,83ないし85,乙2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

原告のK経理課長とL経理課員は,昭和48年1月25日午後1時ころ,取引銀行から呼ばれ,原告所有の小型乗用自動車(宮ghijkl)を運転して外出しようとしたが,会社正門を出てすぐのところにあるR通用口付近において,たまたま同所に居合わせた被告E,被告F及び被告CらI支部組合員約20名並びに支援労組員ら約20名に進路を妨げられ,前と左右を取り囲まれた。自動車を運転していたK課長がクラクションを鳴らすと,被告Eはハンドマイクを使い,他の者は口々に罵声を浴びせながら,自動車のボディーや窓ガラスを手足などでたたいたり,蹴るなどした。被告Fは,午後1時20分ころ,自動車の右バックミラーを両手で激しく揺さぶり,外側に曲げるなどし,そのころ左のバックミラーも曲げられた。その後,午後2時3分ころ,機動隊が出動し,午後2時10分ころ自動車を脱出させた。

イ 以上の認定事実によれば,I支部組合員らは,K課長らが自動車で外出しようとしているところを,言論による説得活動を超えて1時間10分にわたり自動車の走行を阻止したことが認められ,これは違法な行為であるといわざるを得ない。また,自動車のバックミラーを損壊した点においても,I支部組合員らの行為が不法行為を構成することは明らかである。

(3)  昭和48年4月13日の行為について

ア 証拠(甲87の1ないし3,88,89)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

被告EらI支部組合員約88名は,昭和48年4月13日午前8時ころ,原告の会社正門前に結集し,蛇行,渦巻き等のデモ行進を開始し,午前8時15分ころから,ロックアウトにより立入りが禁止されていた会社構内へ侵入しようとし,正門の門扉に人垣を作って,激しく門扉を揺さぶり,その結果,鉄製門扉数か所に亀裂を生じさせ,かんぬきを屈曲させるなどの損傷を与えた。

イ ところで,被告らは,原告が,アの行為の行われた日につき,当初,昭和48年4月3日と主張していたのを,平成14年7月15日付け準備書面において昭和48年4月13日と変更したことについて,訴えの変更に当たるとし,新たな訴訟物については,既に不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効が完成している旨主張する。

しかしながら,不法行為の行われた日は,不法行為を構成する要素そのものではなく,単に不法行為を特定するために主張されるものにすぎないから,不法行為の行われた日に関する主張を変更することは,変更前の日と変更後の日において同一内容の不法行為が行われ,日の特定なしには不法行為の特定ができない場合を除き,単なる誤記の訂正であって訴えの変更には当たらないというべきである。そして,証拠(甲118,144,146,乙3)によれば,昭和48年4月3日午前8時55分ころ,被告Bがビラを貼るために原告の会社正門から構内へ入った際,正門の外にいたI支部組合員約60名が入構を要求して正門のかんぬきを外したり,門扉を揺さぶったりし,これを阻止しようとする原告の管理職との間でもみ合いが生じ,結局,かんぬきが外され正門が開かれて,組合員が構内に侵入したことが認められるが,その際,門扉に亀裂が生じるなど門扉が損壊されたことを認めるに足りる証拠はない。そうすると,この行為は,同月13日の不法行為と行為態様において類似性が認められるものの,行為の主体,行為の結果生じた損害の内容が明らかに異なっているから,同月13日の不法行為は,その日が明らかにならないと行為を特定することができないわけではない。したがって,原告が不法行為の日に関する主張を変更したことは訴えの変更に当たらないというべきであるから,被告らの主張は理由がない。

ウ 前記アの認定事実によれば,昭和48年4月13日の行為により門扉の一部が損壊されたのであるから,これが不法行為を構成することは明らかである。

(4)  昭和48年8月22日の行為について

ア 証拠(甲49,90,91,92の1・2,93の1ないし3,112,118,127の13,156の5,169,213の1)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

総評は,昭和48年8月22日,G中央本部及びI支部とともに,原告の会社正門前において総決起集会を開催し,全国から多数の支援組合員らを動員し,I支部組合員と支援労組員,過激派学生ら約1000名が集会に参加した。集会は,午前8時5分ころから50分ころまで行われたが,被告Cは,集会開始前の午前7時10分ころからI支部組合員約30名を指揮して会社南門に至る道路を封鎖し,警察官に排除されるまでこれを続行した。また,I支部組合員は,集会終了後の午前9時ころ,Q委員長を先頭に会社北門前に結集し,その後に支援労組員らが続き,Q委員長のアジ演説に呼応して,門扉に体当たりしたりフェンスを揺さぶるとともに,門の内側にいる原告の管理職をめがけて投石するなどして騒いでいたが,そのうちS大学反帝学評系学生らがフェンスを約5メートルにわたり外側へ引き倒した。さらに,被告Aが指揮するI支部組合員約100名は,午前9時3分ころ,会社南門において,約30名の支援労組員らとともに,会社構内の管理職をめがけて投石をするなどした。

イ 以上の認定事実によれば,昭和48年8月22日の行為により北門のフェンス等が損壊されたのであるから,これが不法行為を構成することは明らかである。

(5)  昭和48年10月25日の行為について

ア 証拠(甲42,94の1・2,95,105,118,127の1の18ないし20,127の13,165,168の2,215)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

I支部は,昭和48年10月25日,10月決戦と称して,構内突入,職場占拠を図り,ヘルメット,青竹等を準備するとともに,宮城県内のほか東京からも新左翼グループ等を動員した。

I支部組合員及び支援労組員,学生らは,同日午前6時ころから,原告の会社正門付近に結集し,午前7時ころには約200名となった。I支部のQ委員長や被告Cがマイクで「今日は徹底的にやれ。」などと指揮するのに呼応して,白ヘルメットをかぶりタオル等で覆面したI支部組合員らが正門門扉によじ登り,防石ネットを破壊し,門扉に体当たりしたり両手で格子を引っ張るなどして,午前7時15分ころ,門扉を破壊した。原告の管理職らが,I支部組合員らの構内突入を防止するため,あらかじめ準備しておいた有刺鉄線を張ったバリケード4基を設置したが,組合員らは,被告Cの指揮により,ペンチなどで有刺鉄線を切り,バリケードを破壊した。

また,I支部組合員約50名は,同日午前6時58分ころ,被告Bの指揮により支援労組員約70名とともに会社南門に押し掛け,構内突入を阻止しようとする原告の管理職らともみ合いになった。管理職らは,午前7時32分ころ,南門の内側に入り,門扉を閉じたが,会社北門の方から被告Aらが指揮するI支部組合員約50名と支援労組員,新左翼グループの学生ら約50名が南門前に合流し,南門前は騒然となった。被告Bは,午前7時54分ころから,就労要求書を読み上げ,支援団体代表に演説させた。その後,組合員らは,シュプレヒコールを行ったりデモを行うなどしていたが,被告Bらは,午前9時15分ころ,門扉の錠前を引きちぎり,門扉を外側へこじ開け,投石をするなどして,構内突入の態勢になったが,原告の管理職らがこれを阻止した。被告Bは,午前10時35分までの間,「我々は会社構内に侵入するぞ。」などと気勢を上げたのに対し,警備中の警察から「会社構内に侵入すれば直ちに逮捕する。」などと警告が発せられた。I支部組合員らは,被告Bの指揮によりデモを繰り返し行っていたが,午前11時3分ころ,全員南門前から姿を消した。

原告は,協力工場や資材入荷予定の業者に対し電話等により入出門が不可能である旨の連絡を行う一方,I支部組合員らの構内突入を阻止するため,その余の全従業員を動員して,正門,南門及び北門の警戒に当たらせた。そのため,I支部組合員らによる集会がすべて終了した午後3時半ころまで,原告は操業をすることができなかった(甲165の審問調書69頁)。なお,この日の行為を理由として,被告Cほか5名のI支部組合員及び支援労組員1名が逮捕された。

イ 以上の認定事実によれば,昭和48年10月25日の行為により,正門及び南門の門扉が損壊されるととともに,午後3時半ころまで原告の操業が妨げられたのであるから,これらは不法行為を構成するというべきである。

(6)  昭和48年12月17日の行為について

ア 証拠(甲42,96ないし99,100の1ないし3,101の1ないし3,102,103の1・2,118,127の1の18,146,153の1ないし4,154,161の1ないし6,165,168の2,213の6の1・2,215)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

I支部は,昭和48年12月17日,12月決戦闘争と称して,構内突入,職場占拠を図るとともに,宮城県内のほか東京等からも新左翼グループ等を動員し,前日にはI支部組合員宅に県外からの支援者を分宿させるなどした。

白ヘルメットに覆面をしたI支部組合員約50名と赤,黒,青などのヘルメットに覆面をした支援労組員及び学生ら約200名は,同日午前6時30分ころ,I支部組合員を先頭にして隊列を組んで原告の会社北門前に結集した。被告Aの指揮により,「職場奪還」「二組粉砕」などの掛け声をかけながら,南門との間をデモ行進するとともに,南門付近で構内突入阻止のため警戒に当たっていた原告の管理職及び全日本労働総同盟T労働組合同盟U労働組合に所属する従業員らに対し,旗竿で突きかかり投石するなどして,34名の者に重軽傷を与えるとともに,ペンチ,鉄パイプ等を使用してフェンスの金網を破り,門扉を門柱ごと引き抜いたりして完全に破壊した。午前8時30分ころ,黒ヘルメットの集団らが構内に突入したところ,待機していた機動隊員がこれを阻止したが,I支部組合員らは午後零時20分ころまで投石を繰り返した。そして,午後零時35分ころ,北門から引き揚げるに際し,通路に面して建つ原告所有の職員寮であるM寮をめがけて投石し,窓ガラス24枚を損傷した。

また,I支部組合員ら約200名は,同日午前6時30分ころから午前11時ころまでの間,原告の会社南門前に結集し,構内突入阻止のため警戒に当たっていた原告の管理職及び従業員に対し,旗竿で突きかかり投石するなどした。

さらに,I支部組合員ら約300名は,同日午前5時30分ころから午前10時30分ころまでの間,原告の会社正門前に結集し,構内突入阻止のため警戒に当たっていた原告の管理職及び従業員に対し旗竿で突きかかり投石するなどし,また,門扉に体当たりし,よじ登って防石ネットを破るなどした。

原告は,I支部組合員らの構内突入を阻止するため,その余の全従業員を動員して,正門,南門及び北門の警戒に当たらせた。そのため,I支部組合員らによる集会がすべて終了した午後零時50分ころまで,原告は操業をすることができなかった。なお,この日の行為を理由として,支援労組員1名が逮捕された。

イ 以上の認定事実によれば,昭和48年12月17日の行為により,北門の門扉及びフェンス並びにM寮の窓ガラスが損壊されるととともに,午後零時50分ころまで原告の操業が妨げられたのであるから,これらは不法行為を構成するというべきである。

(7)  昭和49年7月29日の行為について

ア 証拠(甲104,105,106の1ないし9,107ないし111,118,119の1,127の1の18,131,132,164,165,214,215)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

I支部は,昭和49年6月ころから,それまでの闘争における上部団体からの締め付けによる枠を越えて,門扉やバリケードを打ち破って職場を実力で占拠することを企て,門扉破壊用のロープを購入するとともに,全国から新左翼グループらを動員し,同年7月29日,原職就労要求集会と称して,これを実行した。集会参加者の多くは,前日夜,V会館において交流集会に参加したが,その際,三門(正門,南門及び北門)から一斉にバリケードを撤去し,構内に入り,職場を占拠すること,正門は被告D,南門は被告A,北門は被告Cを責任者とすることなどの方針が発表された。

I支部組合員,支援労組員及び学生ら約300名は,翌29日午前7時5分ころから,被告Dの指揮により,原告の会社正門において,門扉を旗竿,鉄パイプ等で突き,ロープを使用するなどして,門扉及び門柱灯を破壊し,また,構内突入を阻止しようとした原告の管理職その他の従業員に対し,投石し,旗竿で突くなどの暴行を加え,傷害を与えた。

別のI支部組合員,支援労組員及び学生ら約300名は,同日午前7時25分ころから,被告Aの指揮により,原告の会社南門において,門扉の金網を旗竿で突き,破った金網の穴から門扉にロープをかけて引っ張り,これを阻止しようとする原告の管理職その他の従業員に対し投石し,旗竿で突くなどした。また,別のI支部組合員,支援労組員及び学生ら約200名は,同日午前7時5分ころから,被告Cの指揮により,原告の会社北門において,門扉を旗竿で突き,投石するなどして破壊しようと企てたが,北門の門扉は特に頑強に補強されていたためこれを果たせず,午前7時55分ころ,断念して南門に回り,被告Aらの集団に加勢した。午前9時ころには,新たに門扉2か所にロープが結びつけられ,数十名がロープを引っ張り始めたため,門扉の蝶番がゆがみ,鉄格子も曲がり始めた。その時点で機動隊が前進してきて集団を規制し始めたため,もみ合いになり,いったん集団は排除された。その後,集団は南門の外にあるグラウンドで集会を行うなどしていたが,午前10時35分ころから再び南門に近づき,旗竿で構内の従業員を突きまくり,投石をした。その際,付近に積んであった原告の製品を梱包するための木箱31個を門扉越しに投げつけるなどして損壊するとともに,被告Aの指揮により,門扉2か所に結びつけたロープを引っ張り破壊し始めたが,機動隊によって排除された。また,I支部組合員らは,原告所有の社宅板塀を押し倒して損壊させた。

原告は,I支部組合員らの構内突入を阻止するため,その余の全従業員を動員して,正門,南門及び北門の警戒に当たらせた。そのため,I支部組合員らによる集会がすべて終了した午後1時ころまで,原告は操業をすることができなかった。なお,この日の行為を理由として,支援労組員ら7名が逮捕された。

イ 以上の認定事実によれば,昭和49年7月29日の行為により,正門の門扉及び門柱灯並びに南門の門扉,金網等が損壊され,また,原告所有の木箱31個及び社宅板塀が損壊されるととともに,午後1時ころまで原告の操業が妨げられたのであるから,これらは不法行為を構成するというべきである。

2  争点(2)(被告らの責任)について

(1)  組合役員としての責任

ア 証拠(甲127の12,211の1ないし4,212の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

I支部には,組合役員として執行委員長,副委員長,書記長,会計,会計監査,執行委員及び査問委員が置かれており,昭和47年9月からはこれに加えて書記次長が置かれた。組合の執行機関としては執行委員会があり,執行委員長,副委員長,書記長,書記次長,執行委員によって構成されていた。原告が,昭和47年12月18日,I支部組合員に対しロックアウトを通告してからは,闘争委員会が組織され,その中核として執行委員長,副委員長,書記長及び書記次長のいわゆる4役からなる闘争本部が構成され,闘争体制が確立された。

イ 以上の認定事実によれば,I支部が組合として主体的に行った争議行為については,闘争委員会が組織される前は執行委員会が争議行為の企画,指導をしており,闘争委員会が組織されてからはその中核にある闘争本部が企画,指導をしていたことが認められ,執行委員会ないし闘争本部を構成する組合4役の役員は,特段の事情のない限り,争議行為を企画,指導した者として,違法な争議行為に基づく責任を負うものというべきである。

ウ これを本件についてみるに,前記1(2)に認定した事実によれば,昭和48年1月25日の行為については,たまたま正門前に居合わせたI支部組合員らによる偶発的な出来事であって,I支部が組合として主体的に行ったものではないことが認められる。したがって,当該行為を現実に実行した者を除き,組合役員がその行為の責任を負うものではないというべきである。これに対し,前記1(1),(3)ないし(7)に認定した事実によれば,その余の日の行為については,いずれもI支部が組合として主体的に行った争議行為であることが認められ(他の団体が主催した集会もあるが,これらについてもI支部が組合として主体的に参加した争議行為であることには変わりない。),組合4役の役員は,違法な争議行為に基づく責任を負うものというべきである。

エ もっとも,被告らは,昭和47年8月24日,同48年8月22日,同年10月25日,同年12月17日,昭和49年7月29日の各行為について,いずれも数百名規模の集会及び抗議行動の際に発生したものであるが,門扉その他の損壊を企画し,目的としていたものではない旨主張する。

なるほど昭和47年8月24日の行為については,実行行為者は外部の支援労組員であり,集会の始まる前に起きた出来事であることは前記1(1)に認定したとおりであるが,この集会には支援労組員ら約800名のほか,I支部組合員約150名も参加しており,I支部のQ委員長が決意表明を行ったことは前示のとおりであるから,I支部が組合として主体的にこの集会に参加していたことは明らかであり,このような大規模な集会を原告の会社正門前のそれほど広くない場所で行う場合には,集会に伴って門扉の破壊等の不法行為に発展する可能性があることは十分予見可能であったものといわざるを得ない。そして,I支部の組合役員らが,このような不法行為が行われないよう十分に配慮していたことを認めるに足りる証拠はないことからすれば,不法行為について責任を負うものというべきである。

また,昭和48年8月22日,同年10月25日,同年12月17日,昭和49年7月29日の各行為については,I支部の組合役員4役が自ら行動の指揮を執っていたことは前示のとおりであり,証拠(甲127の1の19,214)によれば,I支部は,当時,原告の生産体制に打撃を与える闘争を貫徹しなければならないとし,ピケッティング,集会,デモ,構内突入を含めた門前での実力闘争を闘い抜くとの基本的な方針を有しており,特に,昭和49年7月29日の行為の際に南門における不法行為を指揮した被告Aは,南門の闘争について構内突入路線であるなどと述べていることが認められる。そうすると,I支部の組合役員らが,上記の各行為の際に集団で不法行為を行うことになることを認識していたことが認められ,不法行為に基づく責任を負うことは明らかである。

オ 以上によれば,I支部の組合役員4役は,昭和48年1月25日の行為を除く各行為について,不法行為に基づく責任を負うことになる。そして,前記第2の1(3)の事実によれば,本件被告らのうち,組合役員4役に就任していたのは,昭和49年7月29日以外の行為の日においては被告A,被告B及び被告Cであり,昭和49年7月29日においては被告A,被告C及び被告Dであるから,被告A,被告Cは昭和48年1月25日の行為を除く各行為について,被告Bは昭和48年1月25日及び同49年7月29日の行為を除く各行為について,被告Dは同49年7月29の行為について,それぞれ責任を負うというべきである。

(2)  実行行為者としての責任

前記1において認定した事実によれば,被告Cは昭和48年1月25日の行為について実行行為者としての責任を免れないほか,被告らのうち,前記(1)の組合役員としての責任を負わない者についても,被告E及び被告Fが同日の行為について,被告Eが昭和48年4月13日の行為について,それぞれ実行行為者としての責任を負うことが認められる。

(3)  権利濫用の主張について

被告らは,争議行為の結果として受忍限度を超える被害が生じたとしても,争議行為の主体である組合(G中央本部,H地本及びI支部)が第一次的に責任を負うべきであるところ,本件では,原告は,中央労働委員会において,これらの3組合の責任を免除する趣旨の和解を成立させ,3組合を被告とする訴えを取り下げたのであって,組合の責任を免除しながら,その構成員に対してのみ責任を追及することは,権利の濫用として許されない旨主張する。

しかしながら,違法な争議行為が行われた場合において,これに参画した組合員の行為は,一面において組合の行為であるとともに,他方において組合員個人の行為としての側面も有するものであるから,組合が不法行為責任を負う場合であっても,組合員個人はこれとは別個に不法行為責任を負うものであって,組合と組合員個人の損害賠償債務は,いわゆる不真正連帯債務の関係に立つと解される。そして,不真正連帯債務者の一部に対する債務の免除は,他の不真正連帯債務者の債務には影響しないのであるから,本件においても,3組合に対する債務が免除されたとしても,これをもって被告らの債務が消滅すると解することはできないし,組合の責任が第一次的であり,組合員の責任が第二次的であると解すべき根拠もない。

また,証拠(甲206ないし209,213の4・5)及び弁論の全趣旨によれば,I支部では,昭和49年ころから内部で対立が生じ,被告らは,昭和54年にはH地本から相次いで除名処分を受けるに至り,その後は中央労働委員会の和解にも加わっておらず,他のI支部組合員が応じた和解条件では和解に応ずる意思もなかったことが認められる。そして,原告が3組合に対する債務を実質的に免除したのは,中央労働委員会において和解が成立したためであるところ,被告らは自らの意思に基づき原告との和解に応じなかったのであるから,原告が被告らに対し責任を追及することをもって何ら権利濫用に当たるとはいえない。

したがって,被告らの権利濫用の主張は理由がない。

3  争点(3)(損害)について

(1)  昭和47年8月24日の行為について

昭和47年8月24日の行為により,原告の会社正門の門扉の一部が損壊されたことは前示のとおりであるところ,証拠(甲112)によれば,その修理代は4万5337円であることが認められる。

(2)  昭和48年1月25日の行為について

昭和48年1月25日の行為により,原告の従業員であるK課長とL課員の業務が1時間10分にわたり阻害されたこと,原告所有の小型乗用自動車のバックミラー2個が損壊されたことは前示のとおりであるところ,証拠(甲82の2,86)によれば,K課長及びL課員の1時間10分の賃金相当額はそれぞれ745円及び538円であること,バックミラーの修理代は2000円であることが認められる。そうすると,同日の行為によって原告に生じた損害額の合計は3283円となる。

(3)  昭和48年4月13日の行為について

昭和48年4月13日の行為により,原告の会社正門の門扉の一部が損壊されたことは前示のとおりであるところ,証拠(甲87の2)によれば,その修理代は2万5000円であることが認められる。

(4)  昭和48年8月22日の行為について

昭和48年8月22日の行為により,原告の会社北門のフェンス等が損壊されたことは前示のとおりであるところ,証拠(甲112)によれば,その修理代は18万5380円であることが認められる。

(5)  昭和48年10月25日の行為について

ア 昭和48年10月25日の行為により,原告の会社正門及び南門の門扉が損壊されるととともに,午後3時半ころまで原告の操業が妨げられたことは前示のとおりであるところ,証拠(甲95)によれば,正門と南門の門扉修理代は4万8000円であることが認められる。また,証拠(甲39,113,215)によれば,原告の操業時間は,午前は8時15分から正午まで,午後は1時からであり,午後3時半まで操業を停止した場合には,操業停止時間は6時間15分であること,同月の全従業員(I支部組合員を除く。)の平均稼働時間は169.313時間,その基準内賃金合計は4111万4342円であることが認められ,操業停止時間に相当する賃金合計は151万7689円となる。

〔計算式〕4111万4342円×6.25時間÷169.313時間=151万7689円

そうすると,同日の行為によって原告に生じた損害額の合計は156万5689円となる。

イ 被告らは,被告らによる争議行為が原告の操業停止を目的とするものではなく,原告が管理職や従業員を警備に当たらせたとしても,これは原告の判断による無用のものにすぎず,被告らによる争議行為と直接の因果関係があるものではないとし,原告が争議行為に対し何らかの対応のために割いた労力は争議行為に伴う通常の経費であって受忍すべきことである旨主張する。

しかしながら,昭和48年10月25日の行為は,I支部が10月決戦と称して構内突入,職場占拠を図り,ヘルメット,青竹等を準備するとともに,宮城県内のほか東京からも新左翼グループ等を動員したものであったこと,正門付近に約200名,南門付近に約220名のI支部組合員及び支援労組員,学生らが結集し,門扉,バリケード等を破壊するとともに,「我々は会社構内に侵入するぞ。」などと気勢を上げたことは前記1(5)アに認定したとおりである。このようなI支部により企画,実行された違法行為の規模,程度を踏まえるならば,構内突入を許せば,原告の工場等を占拠破壊される危険性が高かったというべきであり,原告が,構内突入を阻止するための対策として,すべての管理職や従業員による厳重な警備態勢を採ったことは決して無用のものとはいえない。したがって,これに要した費用は被告らによる争議行為と因果関係があり,その負担を原告が受忍すべきものとはいえないというべきである。

また,被告らは,原告が,どの範囲でどの程度の警備を動員したのか,警備員による警備や警察官の待機を超えて,管理職や従業員による警備をしなければより大きな損害が生じたおそれがあったのかなどは明らかではない旨主張する。

しかしながら,I支部による違法行為に加わった者の数が400名を超えることに照らせば,すべての管理職や従業員をもって警備に当たったからといって過剰なものであったとはいえない。また,警察官が待機して警備を行い,構内に侵入すれば逮捕する旨警告したこともあって,結果的に,I支部組合員らが会社構内に突入して工場等を占拠することはなかったのであるが,これをもって原告の採った警備態勢が無用のものであったとはいえない。

よって,被告らの主張はいずれも理由がない。

(6)  昭和48年12月17日の行為について

ア 昭和48年12月17日の行為により,原告の会社北門の門扉及びフェンス並びにM寮の窓ガラスが損壊されるととともに,午後零時50分ころまで原告の操業が妨げられたことは前示のとおりであるところ,証拠(甲98,99)によれば,北門の門扉及びフェンスの修理代は29万1880円であること,M寮の窓ガラスの修理代は2万2430円であることが認められる。また,証拠(甲113,215)によれば,原告は昼休みを除くと正午までの3時間45分にわたり操業停止を余儀なくされたこと,同月の全従業員(I支部組合員を除く。)の平均稼働時間は169.313時間,その基準内賃金合計は4105万0282円であることが認められ,操業停止時間に相当する賃金合計は90万9195円となる。

〔計算式〕4105万0282円×3.75時間÷169.313時間=90万9195円

そうすると,同日の行為によって原告に生じた損害額の合計は122万3505円となる。

イ 被告らは,原告による警備が無用のものであって,被告らによる争議行為と直接の因果関係があるものではなく,警備に要した費用は受忍すべきであること,原告が,どの範囲でどの程度の警備を動員したのか,警備員による警備や警察官の待機を超えて,管理職や従業員による警備をしなければより大きな損害が生じたおそれがあったのかなどは明らかではないことを主張する。しかしながら,この主張に理由がないことは前記(5)イと同様である。

(7)  昭和49年7月29日の行為について

ア 昭和49年7月29日の行為により,原告の会社正門の門扉及び門柱灯並びに南門の門扉,金網等が損壊され,また,原告所有の木箱31個及び社宅の板塀が損壊されるとともに,午後1時ころまで原告の操業が妨げられたことは前示のとおりであるところ,証拠(甲108ないし111)によれば,正門の門扉及び門柱灯並びに南門の門扉,金網等の修理代は15万4000円であること,木箱31個の価格は5万6950円であること,社宅の板塀の修理代は3万5000円であることが認められる。また,証拠(甲113,215)によれば,原告は昼休みを除くと正午までの3時間45分にわたり操業停止を余儀なくされたこと,同月の全従業員(I支部組合員を除く。)の平均稼働時間は166.993時間,その基準内賃金合計は5417万6382円であることが認められ,操業停止時間に相当する賃金合計は121万6586円となる。

〔計算式〕5417万6382円×3.75時間÷166.993時間=121万6586円

なお,原告は,カメラの損壊により3万3000円の損害が生じた旨主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。

そうすると,同日の行為によって原告に生じた損害額の合計は146万2536円となる。

イ 被告らは,原告による警備が無用のものであって,被告らによる争議行為と直接の因果関係があるものではなく,警備に要した費用は受忍すべきであること,原告が,どの範囲でどの程度の警備を動員したのか,警備員による警備や警察官の待機を超えて,管理職や従業員による警備をしなければより大きな損害が生じたおそれがあったのかなどは明らかではないことを主張する。しかしながら,この主張に理由がないことは前記(5)イと同様である。

第4結論

以上によれば,原告の請求は,被告A,被告B及び被告Cに対し,連帯して金4万5337円及びこれに対する不法行為の日である昭和47年8月24日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,被告C,被告E及び被告Fに対し,連帯して金3283円及びこれに対する不法行為の日である昭和48年1月25日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,被告A,被告B,被告C及び被告Eに対し,連帯して金2万5000円及びこれに対する不法行為の日である昭和48年4月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,被告A,被告B及び被告Cに対し,連帯して金297万4574円及びこれに対する不法行為の日以後である昭和48年12月17日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金,被告A,被告C及び被告Dに対し,連帯して金146万2536円及びこれに対する不法行為の日である昭和49年7月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,被告A,被告B,被告C及び被告Dに対するその余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条ただし書,65条1項本文を適用し,仮執行宣言については,相当でないからその申立てを却下することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 信濃孝一 裁判官 岡崎克彦 裁判官 寺田利彦)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例