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仙台地方裁判所 昭和52年(ワ)441号 判決 1979年9月10日

主文

一  原告らの請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告相原徳之助及び原告相原さかしに対し、それぞれ金一〇三一万七七二七円及び右各金員に対する昭和四九年五月一三日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  主文第一、二項同旨

2  仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

訴外亡相原博(以下訴外博という。)は、昭和四八年一〇月二一日午前二時三〇分頃、神奈川県厚木市船子八一八番地先国道(以下本件事故現場という。)を横断中、訴外柴田進(以下訴外柴田という。)運転の車両(以下被告車という。)に衝突され、右肋骨骨折及び血胸頭部打撲などの傷害を受けた。

2  責任原因

訴外柴田は被告の従業員であり、被告は、被告車を保有して、自己のために運行の用に供していた。

3  訴外博の自殺

訴外博は、前記1の傷害により、後頭神経痛腿筋麻痺の後遺症が残つたため、本件事故当時勤務していた会社を退職せざるをえなくなり、再就職もうまくゆかず、労働に従事できないことを悲観して、昭和四九年五月一二日自殺した。本件事故と訴外博の自殺との間には相当因果関係がある。

4  訴外博の損害

訴外博は本件事故に基づく自殺によつて左記損害を被つた。

(一) 逸失利益 一三八三万五四五四円

訴外博は、昭和一一年六月八日生れで、本件事故当時一日平均五一一六円の賃金を得ていた。一年間の稼働日数を三〇〇日、稼働可能年数三〇年、生活費を収入の二分の一として控除して、ホフマン方式で同人の逸失利益を算定すると、右の金員となる。

5116円×300(日)×1/2×18,029=1383万5454円

(二) 慰謝料 五〇〇万円

5  原告相原徳之助、同相原さかしは、訴外博の父母であり、同人の右賠償請求権を各金九四一万七七二七円ずつ相続した。

6  原告ら固有の損害

弁護士費用 各金九〇万円

7  よつて、原告らは、被告に対し、本件事故による損害金として各金一〇三一万七七二七円及び訴外博死亡の日の翌日である昭和四九年五月一三日から右完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち負傷の程度は不知。その余の事実は認める。

2  同2の事実は認める。

3  同3のうち、訴外博の自殺と本件事故との間に相当因果関係があることは否認する。その余の事実は不知。

4  同4の事実は不知。

5  同5のうち、原告らが訴外博の父母であることは認め、その余の事実は不知。

6  同6の事実は不知。

三  抗弁

1  本件事故の状況

本件事故現場は、車道幅員一〇メートルの平坦な直線のアスフアルト舗装道路であり、国道二四六号線上にある。被告車の進行方向に向つて右側には幅員二・二メートルの歩道が、左側には幅員一・二メートルの路側帯がある。

附近には人家も照明設備もなく、本件事故時には、折からの降雨も重なつて真暗であつた。

訴外柴田は、被告車を運転して、時速五〇キロメートルの制限速度で進行して、本件事故現場附近に差しかかつたところ、約四四・五メートル前方の道路左端附近に訴外博の人影を発見したので、アクセルペダルから足を離しブレーキペダルに足を乗せたままの状態で、右人影を注視しつつ二三・五メートル進行した。この間、訴外博はフラフラツと酔つたような足取りで国道上を斜めに横断を始め、一・六メートル程、車道上に出てきたので、訴外柴田は、急制動をかけたが間に合わず、被告車はスリツプして二二・五メートル進んで、前記地点より一・三メートル程車道中央寄りに進んでいた訴外博と衝突し、さらに一〇・一メートル進んで停止した。

2  自賠法三条但書所定の免責の抗弁

前記1のとおり、訴外柴田には、訴外博を発見したこと、発見後採つた措置、訴外博が横断を始めたことを発見したときに採つた措置のいずれにも過失はなかつた。

本件事故は幹線道路である国道二四六号線の照明設備のない本件事故現場を酩酊して(血液一ミリリツトル中アルコール含有量一・二五ミリグラム)、左右の安全を確認しないまま、斜めに横断しようとした訴外博の一方的かつ重大な過失に基づいて発生したものである。

また被告車には構造上の欠陥または機能上の障害はなかつた。

3  過失相殺

仮に訴外柴田に過失があつたとしても、前記1の事故状況、訴外博の過失態様からすれば、訴外博の過失割合は八〇パーセントを下らない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因1のうち、負傷の程度を除いたその余の事実及び請求原因2の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで本件事故の状況について判断する。

請求原因1のうち当事者間に争いのない事実、成立に争いのない乙第一、第二号証、証人柴田進、同相原攻の各証言によれば、次の各事実が認められ、右認定に反する証人相原攻の供述部分は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

本件事故現場は、国道二四六号線(以下国道という。)上の東京、沼津間に所在し、国道は、直線平坦で見通しがよく、車道の幅員は一〇メートルで、センターラインにより片側各一車線(幅員各五メートル)に区分され、沼津方向に向つて右側には幅員二・二メートルの歩道、左側には幅員一・二メートルの路側帯が設けられており、制限速度時速五〇キロメートルのアスフアルト舗装道路である。

本件事故現場附近は、非市街地であり、国道の両側には人家はなく(畑及び空地である。)、照明設備もないため、夜間は真暗である。本件事故当時は降雨のため路面はぬれていた。

訴外柴田は、リンゴ五五〇箱(一箱一八ないし二〇キログラム)を山形から名古屋に運搬するため、東京都八王子市で同乗運転手と交代して、大型貨物自動車(最大積載量一一トン)である被告車を運転して、時速約五〇キロメートルで、本件事故現場附近に差しかかつた。その時、午前二時三〇分頃で、交通量は少なかつたが、訴外柴田は、前照灯を下向きにして進行していたところ、前方約四五メートルの車道左側の路側帯線上附近に、訴外博がややふらつきながら立つている(以下地点という。)のを発見した(以下<1>地点という。)ため、アクセルペダルからブレーキペダルに足を移し、しかしブレーキをかけずに、また警笛を鳴らさずに進行した。この時被告車は車道(幅員五メートル)の真中より少し中央線寄りを進行しており、博以外に歩行者はいなかつた。被告車が更に約二三・五メートル進行したとき、訴外柴田は、訴外博が車道左端から約一・六メートルのところ(以下地点という。)を車道を斜めに横断しているのを発見し(以下<2>地点という。)、直ちに急制動の措置を採つたが間に合わず、<2>地点より約二二・五メートル前進した地点で、地点から中央線寄りに約一・三メートル進んでいた訴外博に、被告車前部を衝突せしめ、さらに約一〇メートル前進して停止した。訴外博は、停止した被告車の左斜め前方の路側帯上に転倒していた。

本件事故当時、訴外博は飲酒しており、血液一ミリリツトル中のアルコール分は一・二五ミリグラムであつた。

三  右認定の各事実から訴外柴田、訴外博の各過失の有無を判断する。

柴田が博を発見した時(前方約四五メートル)、柴田はブレーキをかけず、警笛も鳴らしていない。ところで、本件事故現場附近は車道片側の幅員五メートルで、その外側に幅員一・二メートルの路側帯があり、博以外に歩行者はなく、被告車は車道片側の真中より少し中央線寄りを進行していたから、大型貨物自動車である被告車の幅員を考慮して、被告車は博に対し、同人の無謀な車道進入がなければ、少くとも一・五メートルの間隔をおいて博の側方を安全に通過しえたはずである。また、自動車運転者が前方左側の路側帯上に歩行者(子供ではない場合)を発見したとき、右運転者は右歩行者が路側帯上を歩き、車道上に進入してこないものと信頼して自動車を運転してよいものである(ただし、歩行者に対し安全な間隔を保たなければならず、その間隔は自動車の速度によつて異なる。時速五〇キロメートルの場合、一・五メートルの間隔で安全であると認められる。)。本件の場合、歩行者たる博が少しふらついていたと認められたけれども、それは少しのふらつきであり、大幅なふらつきではないから、前記車道及び路側帯の幅員並びに博及び被告車の位置関係からみて、右博のふらつきは自動車運転者にとつてブレーキ又は警笛を必要とする危険な状況とは認め難い。

したがつて、柴田が博を発見した時点でブレーキをかけず、警笛も鳴らさなかつたことは何ら過失ではない。

次に、柴田は、<2>地点で地点の博を発見し、直ちに急ブレーキをかけたが間に合わず、博に被告車を衝突させたのであるが、この場合、距離関係からして衝突の回避は不可能であつたと認められるから、この点において柴田に過失はないといわなければならない。問題は、<2>地点より前に柴田は博の車道進入を発見しえなかつたかの点であるが、運転者が進路前方に歩行者を発見した場合、運転者は前方注視の必要があるから、右歩行者の動静について引続き注意を集中しているわけにいかず、右歩行者は車道に出てこないとの信頼を前提として、自車の進路に対する前方注視の義務を尽くさなければならない。まして、本件の場合、深夜でかつ照明設備のない場所であり、前照灯を下向きにした場合の照明距離は四〇ないし五〇メートル位と認められるから、特に前方注視が必要とされる。柴田は、<1>地点で地点の博を発見した後、<2>地点で地点の博を認めるまでの間(その間は被告車の速度から考えて、一・五秒位と認められる。)、博の動静に注意を集中していなかつたと認められるが、前示の理由により、右の点について柴田に過失はないものといわなければならない。

以上のように、柴田には過失はないと認められる。

博は、被告車の前照灯の照明により、被告車の接近を知つたはずである。しかるに、初め路側帯上にあつたのに、被告車が至近距離に接近した時に、無謀にも車道上に進入したものであつて、かかる博の行為は重大な過失である。

以上のように、本件事故について柴田に過失はなく、本件事故は博の一方的な重過失によつて生じたものといわなければならない。

四  前掲乙第一号証、証人柴田進の証言によれば、被告車は、被告整備担当者により日常整備点検を受けており、操行装置、制動装置には異常はなかつたことが認められ、右認定の事実及び前記二認定の被告車の状況からすれば、被告車には構造上の欠陥または機能上の障害はなかつたことが認められる。

五  よつて、被告の自賠法三条但書所定の免責の抗弁は理由があるから、原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなく失当としてこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 石川良雄 今井理基夫 藤村眞知子)