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仙台地方裁判所 昭和52年(ワ)525号 1978年3月27日

原告

横山和道

右訴訟代理人弁護士

加藤朔郎

右同

山田忠行

右同

小野寺照東

被告

ユオ時計株式会社

右代表者代表取締役

湯尾富雄

右訴訟代理人弁護士

小林宏也

右同

本多藤男

右同

長谷川武弘

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた裁判

一  原告

1  原告が被告に対し、被告を雇主、原告をその従業員とする雇傭契約上の地位を有することを確認する。

2  被告は原告に対し、三二六万二〇五六円及びこれに対する昭和五二年五月二六日から完済まで年五分の割合による金員並びに同年六月から雇傭契約終了に至るまで毎月二五日限り七万七六六八円を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決並びに二項につき仮執行の宣言を求める。

二  被告

主文と同旨の判決を求める。

第二当事者双方の主張

一  請求の原因

1  当事者

被告は、肩書住所(略)に本社を、大阪・名古屋・仙台等全国八か所に営業所を置いて、時計の卸販売を業としていたものであり、原告は、昭和四八年九月二日被告仙台営業所で採用試験を受け、翌三日採用され、同月一三日より同仙台営業所で被告従業員として就労してきたものである。

2  本件労働契約の性質

被告の就業規則によれば、「新たに採用された従業員については、本店・支店・営業所の何れに勤務する場合にも一律に原則として三か月以内の試用期間をおく。」(一章一条、二章三条)とされているから、原告はいわゆる試用期間中の労働者である。そこで、被告における試用期間の意義を検討すると、次のとおりである。

(一) 同規則中には、試用期間中に採用を取消す理由は全く定められていない。

(二) また、同規則二章四条によれば、「試用期間を終えて引続き採用されるときは、試用開始の日から採用されたものとして勤続年数に通算される。」と規定され、同章五条には、「試用期間中も社会保険有資格者として取扱う。」と規定されている。

(三) 原告は、採用されるに当り被告の求めに応じて被告に対し戸籍抄本、健康診断書、身元保証書、保証人の印鑑証明書などを提出している(同章二条)。

(四) 原告の賃金は、試用期間満了後の者(本採用後の従業員)と同じく月給制であり、前月二一日より当月二〇日迄の分を毎月二五日に支給されていた。ところで、原告の賃金は昭和四八年一一月分が七万七六六八円であり、セールス手当は同年一〇月まで三、〇〇〇円、同年一一月以降六、〇〇〇円であった。

(五) 原告の仕事の内容も本採用の従業員と同じく時計小売店へのセールスであった。

以上の事実よりすれば、原告と被告との間には、当初より期間の定めのない労働契約が成立し、ただ試用期間中は原告が被告の従業員としての適格性を欠くと認められる時に被告がそれを理由として右契約を解約できる旨の解約権留保の特約があったものとみるべきである。

3  被告による採用取消(解雇)の意思表示

被告は、昭和四八年一二月一日原告に対し口頭で、「君は会社の気風に合わないから採用を取消す。」と通告し、さらに同月七日原告に対し同月一日付文書をもって採用取消通知を行なった。

4  本件採用取消の無効事由

(一) 本件採用取消は原告の思想・信条・組合活動歴等を理由としてなされた差別的取扱いであるから、労働基準法三条、憲法一九条に違反し無効である。

(1) 原告は、昭和四〇年四月東北学院大学経済学部に入学し、同年一二月頃日本民主青年同盟に加入し、それ以来昭和四四年三月に同大学を卒業するまで右同盟の活動や同大学の学生運動に参加していた。

そして、原告は、同大学卒業後、東北大学生活協同組合に入り、同時に宮城一般労働組合に加入し、同組合東北大学支部に所属することとなり、同年五月より同支部の職場委員となり、同年七月には副支部長に、その後生協労連宮城県協議会副議長に各選任され、昭和四七年六月までの間、生活協同組合で働く労働者の生活向上のための活動を積極的に行なってきた。

(2) 被告は、原告の右のような活動歴を左記事情で知った。

(イ) 原告は、被告の採用試験日前である昭和四八年八月下旬、酒田時計貿易株式会社仙台営業所の採用試験を受けたが、面接の際、同仙台営業所所長坂井功より生活協同組合、労働組合活動や支持政党について質問され、同人に対し、生活協同組合の目的、性格などを説明し、組合役員を経験したことや社会党等を支持していることを正直に答えた。

(ロ) ところで、右会社は、舶来時計の輸入元であって被告と密接な取引関係があり、同会社仙台営業所長は、毎日のように被告仙台営業所に商品を持ってきたり、取引の打合せを行なっており、来所の際、原告と顔を合せていた。

(ハ) 原告は、被告受験の際、被告側より組合活動歴や支持政党について全く質問されず、従ってこのようなことを被告側に話さなかった。

(ニ) 原告が、同会社仙台営業所長と顔を合せたのち他所に出張中、興信所の調査員が原告方に調査にきた。

(ホ) 原告は、前記採用取消通知を受けたとき、被告の営業本部次長湯尾栄一に対し、採用取消の理由明示を求めたところ、同次長より「メーカーから不都合な人間だからと言われた。」と言明されたので、「メーカーとはどこですか。」と問うと、同次長より「メーカーと言うよりも輸入元と言った方が正しいな。君はそう言われればすぐに判る筈だ。」と言われた。

(3) 右の事実を総合すると、被告は、原告を採用したのち、同会社仙台営業所長より、原告が東北大学生活協同組合に勤務中、組合活動を積極的に行なった経験を有していたことを知らされ、興信所に依頼して原告の過去の経歴を調査して、原告の組合活動への参加、さらには学生時代の民主的青年運動、学生運動への参加を知り、これを理由として原告の採用取消(解雇)を決定したものと判断される。

しかしながら、このような採用取消は決して許されるものではなく、前記理由により無効というべきである。

(二) 本件採用取消は、次のとおり本件就業規則に違反して無効であり、かつ、採用取消権の濫用として無効である。

(1) 原告は、「会社の気風に合わない。」との理由で採用を取消されているが、この理由は、同規則二章一四条所定の「精神もしくは身体の故障、勤務成績不良、やむを得ない事業上の都合、懲戒解雇」等の事由に該当しないことが明らかであるから、本件採用取消は同規則に違反して無効である。

(2) また、採用期間中における解約権(採用取消権)の行使は、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が存在し、社会通念上相当として是認される場合にのみ許されるものと解せられるところ、本件採用取消は到底このような場合に当らないから、権利の濫用として無効というべきである。

5  未払賃料

原告の本件採用取消当時の平均賃金は、一か月七万七六六八円であり、毎月二五日に支給されていたが、被告は昭和四八年一二月分以降の賃金を支払わなかった。

6  よって、原告は、被告を雇主、原告をその従業員とする雇傭契約上の地位を有することの確認を求めるとともに、被告に対し、すでに発生している昭和四八年一二月分から昭和五二年五月分までの賃金合計額である三二六万二〇五六円及びこれに対する右金員の全てについて支払期日の到来した日の翌日である同年五月二六日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金並びに同年六月から本件雇傭契約終了に至るまで賃金支払日である毎月二五日限り七万七六六八円の支払いを求める。

二  被告の答弁及び主張

1  答弁

(一) 請求原因1の事実は認める。ただし、被告の業績不振のため、奈良、静岡、仙台の各営業所はすでに閉鎖している。

(二) 同2の事実中、冒頭、(一)ないし(四)の事実は認めるが、(五)の事実は否認する。

(三) 同3の事実は認める。ただし、原告主張の「会社の気風に合わない。」との理由は、採用取消事由の一つに過ぎない。

(四) 同4(一)の事実中、(1)の事実は知らない。(2)冒頭の事実は否認する。(2)(イ)の事実は知らない。(2)(ロ)の事実中、原告が前記坂井所長と顔を合せたことは知らない。同所長が毎日のように被告仙台営業所にきたことは否認する。その余の事実及び(ハ)(ホ)の事実は認める。(ニ)の事実中、被告が興信所に原告の調査を依頼したことは認めるが、その余の事実は知らない。同(3)の事実は否認する。

(五) 同4(二)(1)(2)の事実は否認する。

(六) 同5の事実は認める。

(七) 同6は争う。

2  主張

被告が原告の採用を取消したのは、左記のとおり、原告が被告の従業員としての適格性を欠いていたからであって、原告がその主張のような組合活動等をしていたからではない。以下右採用取消に至るまでの経緯について述べる。

(一) 被告仙台営業所の開設、組織、業務について

(1) 被告は、内・外国の時計販売を業とするものであるところ、昭和四八年九月業績の向上を図るため、これまで本社の担当区域であった東北六県を営業区域とする仙台営業所を開設し、その所長に被告苫小牧営業所の所長岩本章を、営業担当者に本社の従業員鈴木長仁を配置するとともに、新たに原告ほか五名(うち女子二名)を試用採用し、かつ、仙台営業所が軌道に乗るまで同営業地域に本社の営業担当員を引継配置し、その営業を遂行させてきたものである。

(2) 右試用採用後、原告らに対し、被告の関口営業本部長、湯尾同次長、岩本仙台営業所長から被告の従業員として具備すべき必要な事項と心構えについて訓示・注意等がなされ、守るべき基本的事項として身嗜み、言葉遣い、礼儀に注意すること、会社の内外にわたって人の和が大切であること、互に協力し合い、チーム・ワークを保つことが必要であること、以上の点が守れない者は不適格者であるから辞めて貰う旨訓示し、原告ら全員にこれを守る旨誓約させ、また、日常業務についても、一般的に或いはその都度前記次長、所長、先輩営業担当員が指導し注意してきたものである。

(3) 被告は、試用採用した原告ほか三名の男子を営業担当要員とすべく、その適性判断と業務習得のため一応営業部門に配属して稼働させ、原告らは仙台営業所或いは本社所属の右営業担当員に伴われて新・旧得意先を廻るとともに、他の新規採用者と一緒に或いは単独で仙台市内の古い得意先をはじめとする東北各地の得意先に商品を配達し、得意先から注文を受けたり、集金するなどの業務を担当していた。

(4) 右仙台営業所は、時計業界の不況とそれに伴う被告の業績不振のため、奈良、静岡の各営業所に次いで昭和五二年三月閉鎖し、人員整理と配置転換のやむなきに至った。

(二) 原告の試用採用と採用取消

(1) 被告は、昭和四八年九月仙台営業所の開設に伴い、従業員を募集し、原告主張のとおり、同月二日面接試験を実施し、同月三日原告を将来本採用の場合には営業担当の要員とすべく試用期間を三か月と定めて採用し、同月一三日より同営業所の営業部門に配属して稼働させてきたが、原告が後記のとおり被告の従業員として明らかに不適格であると認められたので、同年一二月一日原告に対し口頭をもって採用取消(本採用拒否)の通知をし、さらに、同月七日再確認のため書面をもって採用取消の通知をしたものである。

(2) 被告は、原告に対し、右試用採用を取消す旨の意思表示をした際、その取消理由として、社風に合わないこと、被告のような販売会社には適しないこと、内外にわたり人間関係が悪かったことなどを挙げただけで、それ以上具体的な事実を一つ一つ挙げなかったが、その理由は、経営者としての立場上、辞めて貰う人に対し、従業員として不適格である理由を個々具体的に挙げて説明することは常識的ではなく、原告の名誉のうえからしても妥当でなかったこと、及び原告が具体的な説明を受けて自信を失なうことがないように配慮したことなどによるものである。

(3) 原告の不適格性について

(イ) 所長の命令・指示に対する無視

被告仙台営業所長岩本章は、同営業所の開設に伴いその人望と労務、営業両面にわたる練達した手腕と経歴を買われて所長の地位に就いたものである。ところが、原告は、昭和四八年一〇月初め頃朝礼が終って全従業員が仕事に就こうとしたところ、その前で、声高に「所長の言うことを信用して良いのか悪いのか分らない。こんな所長ではどうしようもない。」と放言する仕末であった。この日は、原告が稼働を始めてから約五〇日しか経過しておらず、当時、原告は同所長の指示に矛盾があるなどと言えるような知識も経験も全く有していなかったのである。

次に、同所長は、そのころ、原告以外の二人の従業員より、昼休みに車(被告所有)で食事に行きたいので、これを使用させて欲しい旨の申入れを受けたが、昼休みであるし、食堂も近いので歩いて行ったらどうかと言ったところ、これと全く関係のない原告が割込んできて、同所長に「所長だって会社の帰りに会社の車を使うのではないか。それと全く同じだ。」「従業員が使うのが何故悪い。」と言った。そこで、同所長は、原告に「私の車の使用は、帰り道に得意先を廻ることもあって仕事上必要なので、会社から許可を受けている。」と説明して車の使用を中止させようとしたところ、原告は、敢えて同所長を無視して、その二人の従業員に「構わんから乗って行け。」とけしかけて同所長に反抗した。しかも、当時、原告は、被告では原則として被告所有の車の私的使用が禁止されていたことを熟知していたのである。さらに、原告は、当時、同所長と話をする場合同所長の机に肘をついて話すなど横柄・非常識な態度をとった。また、原告は、かねて同所長が従業員に対し互いに仲良く助け合って仕事をするよう指示・命令していたのに、他の従業員から仕事を依頼されてもこれに応じないなど反抗的な態度をとった。

(ロ) 発言の仕方・態度の劣悪さ

(A) 原告は、同所長と応対するとき、殆んどポケットに手を入れたままで話をしたり、机に肘をついて話をしたり、或いはタバコをくわえながら話をしたり、横向きになって話をしたりするなどセールスマンとしてはもとより人間としても非常識な態度をとり、その言葉遣いも横柄で、同所長を馬鹿にしたような態度を示した。

(B) 原告は、得意先である小売店の店主など顧客に接する際、左記のとおり、横柄な節度を欠く話し方などをしたため、被告は、得意先から屡々苦情を受けた。

(a) 被告は、かねてより青森県八戸市の葛巻時計店と取引をしていたが、原告は、昭和四八年一一月中旬頃同店で、時計の返品をめぐって同店々主と口論になったけれども、その際の同店主に対する話し方が横柄で、言葉遣いも悪かったため、同店主を怒らせた。そして、同店主は、まもなく被告に対し、原告のような人間を寄越すなら同年一二月から被告との取引を停止する旨申入れた。そこで、岩本所長は、まず電話で同店主に謝罪し、次いで、そのころ同店を訪れて謝罪し、ようやく取引を継続することができた。

(b) 被告は、日本総代理店である平和堂貿易株式会社から腕時計テクノスを購入し、同社より紹介された数軒の小売店にこれを販売してきたが、同社仙台営業所長二瓶伸吾より、その数軒の得意先から原告の店主に対する応対の態度が悪く、口のきき方が乱暴なために、このようなセールスマンを寄越しては困るとか、取引を中止するとかの苦情や抗議が持ち込まれ、多大の迷惑を被っているので、速やかに適切な措置をとるようにという厳重な抗議を受けた。同所長が小売店から聞いた苦情と抗議について二、三例示すれば以下のとおりである。

<1> 原告は、小売店を訪問したとき、セールスマンとしてはもとより、通常人として当然なすべき挨拶がよく言えなかったこと、物を売る業界では、訪問先において同店の顧客が来た場合には、その客に対して挨拶をするのが慣習となっているのに、原告はこの挨拶がよく言えず、また、得意先の人や客と話すとき、ズボンのポケットに手を入れたまま話すことが多かったことである。

<2> 原告は、同年一〇月中旬頃、仙台市内の藤山時計店を訪問した際、同店の人に対し、ポケットに手を入れたまま同僚と話すような口振りで馴々しく話しかけるなどセールスマン、または通常人として当然必要な言葉遣いや礼儀を欠いていたため、被告は、同店からこのようなセールスマンを寄越しては困るという苦情を持ち込まれた。

<3> 原告は、同年一〇月下旬頃、同市内の小野時計店を訪問した際、たまたま仕入担当の専務が不在で、同店社長より専務不在のため改めて来て欲しいと言われたところ、帰りがけに「ちぇっ、今日はついていない。」というような捨てぜりふを残して帰った。そのため、被告は、同店社長より、「あんなセールスマンが来るんではとても取引はできない。」と言われ、同店との取引を完全に停止された。

(C) 原告は、同年一〇月二〇日頃、同市内の菊地時計店を訪問した際、サングラスをかけ、かつ、ポケットに手を入れたまま同店に入ったので、同店主はヤクザかゴロツキが来たのかと思ったと述べている。また、そのために、得意先の中には、原告と話もしたくないし、進んで時計を買う気持にはなれないというところもあって、被告は偶々居合せた平和堂貿易株式会社の人からその旨の注意を受けた。

(D) 原告は、同年一一月中旬、得意先である下北半島の小林時計店を訪問した際、ポケットに手を入れて馴々しく同僚と話すような言葉遣い・態度をとっていたので、被告は、同店主から言葉遣い、態度が悪い、あのようなセールスマンを寄越していたら得意先を失う旨の注意を受けた。

(E) さらに、青森市のオカダ時計店、むつ市の吉田時計店、十和田市の高橋時計店らから、原告は態度、言葉遣いが横柄で、セールスマンとしての身嗜みに欠け、大変不潔なセールスマンであるという苦言が被告に寄せられていた。

(ハ) 非協調的態度

被告仙台営業所は、所長以下八名という小さな営業所で、しかも全員一室で仕事をしている関係上、従業員の協調性が強く要請されるところ、原告は、全く協調性を欠き、そのため従業員の一人が辞めるなど業務の円滑な運営に著しい支障をきたしていたものである。その数例をあげれば次のとおりである。

(A) 原告は、他の従業員が多忙であっても原告には関係がないという態度をとって傍観し、また、他の従業員から仕事を依頼されても、「お前達に指示される必要はない。」と言ってこれを拒否した。さらに、原告は、他の従業員の担当区域である得意先の人から電話がくると、これに対して、直接関係がないということで、粗末な言葉・態度をもって接し、また、他の従業員に対しても、日頃その感情を害するような言葉を平然と口にしたため、他の従業員との間でいさかいが絶えなかった。

(B) 右のような次第で、従業員の一人である中楯紀捷は、原告のような者とは一緒に仕事ができないと言って被告を辞め、その他の従業員も被告に対し、「横山と一緒に仕事ができないので、なんとかして欲しい。」と言って善処方を求めた。

以上のとおり、原告は、上司の指示・命令を無視して行動し、かつ、上司や得意先に対する発言、応接の仕方が横柄、非常識、劣悪であって、得意先から苦情と抗議を受け、さらに、他の従業員と折り合いが悪く、協調性を欠いていたものである。もちろん、この間、被告営業本部長、同次長、同仙台営業所長らは、原告を試用採用したのち、原告に対し、セールスマンないし社会人として守るべき事項を指導・注意し、さらに、得意先や他の従業員との間に右のようなトラブルが発生した場合にはその都度このようなことが発生しないように注意してきた。しかるに、原告は、これにつき全く反省する様子がみられなかった。そのため、被告は得意先を失ない、或いは失なう危険にさらされ、被告仙台営業所の秩序と従業員間の協調性を保持し得なくなったので、やむなく、原告の採用取消を決断したものである。

よって、本件採用取消の意思表示は有効になされたものであるから、原告の本訴請求は失当として棄却されるべきである。

三  被告の主張に対する原告の答弁

1  被告の主張二2冒頭の事実は否認する。

2  同二2(二)(1)の事実中、原告が昭和四八年九月二日被告仙台営業所で採用試験を受け、翌三日採用され、同月一三日より同営業所で被告の従業員として稼働してきたこと、被告は原告に対し、同年一二月一日口頭で採用取消の通知をなし、同月七日書面でその旨の通知をなしたことは認める。

3  同二2(二)(2)の事実中、被告が原告に対し採用を取消す旨の意思表示をした際、取消理由として社風に合わないとの点を挙げていたことは認めるが、その余の事実は否認する。

4  同二2(二)(3)の事実は否認する。まず、被告は、原告が同所長の命令・指示に対し、「所長の言うことを信用して良いのか悪いのか分らない……」と放言したと主張するが、このような事実はなく、ただ、原告は、同所長の従業員に対する指示が従業員或いは時間によって矛盾するので、同所長に対し、「同一内容の仕事に対する所長の指示が人や時間によって全く違うので、仕事がやりにくいからきちんと指示して下さい。」と意見を述べたに過ぎない。また、原告は、同所長と話をする際、机に肘をかけて発言したことはない。次に、車使用の件については、被告主張のような事実はない。すなわち、雪の降っている日に従業員が食事に行くため、同所長に被告所有の車の使用方を申し入れたところ、同所長はしばらく無言で考えていたので、原告は、「今日は雪も降っていて寒いので、特別にお願いします。」「所長さんも帰宅には使用しているのですから、たまには良いでしょう。」と同所長に同意を求めるために発言したのであって、けんか腰に「従業員が使うのがなぜ悪い。」と言ったのではない。次に、被告は、原告が顧客に接する際、サングラスをかけてポケットに手を入れたまま話をしたなどと主張するが、原告はサングラスをかけたことはなく、ただ近視と乱視なので、車を運転したとき、偏光レンズ(光の量により色がつくもの)の眼鏡を使用していたに過ぎない。しかし、この眼鏡は運転時以外は使用したことはなく、もちろん顧客と会うときに使用したことはない。原告は、ポケットに手を入れたまま顧客と接したということなどもない。さらに、被告は、原告が他の従業員との協調性を欠き、そのため従業員中楯紀捷が被告を辞めていったと主張するが、同人が辞めた理由は、原告が原因ではなく、被告が入社したばかりの右中楯に無理な仕事をさせ、しかも、右中楯の出張の際、同人に対し欠かせない商品(見本)を準備してやらなかったためである。

第三証拠関係(略)

理由

一  当事者

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  本件労働契約の成立

請求原因2冒頭及び(一)ないし(四)の各事実は当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、被告は、昭和四八年九月三日原告を将来本採用の場合には営業担当要員とする予定で採用したが、原告の適性判断と業務習得のため、試用期間を三か月と定めて原告を被告仙台営業所の営業部門に配属したこと、そして、原告は、被告の指示に従い、同月一三日より被告本社或いは被告仙台営業所所属の営業担当員らに伴なわれ、注文取りなどのために同営業所の担当区域である東北六県の新・旧得意先(小売店)を廻るとともに、他の新規採用者と一緒に、または単独で仙台市内の得意先を廻って注文を受け、商品を配達し、集金する等の業務に従事していたこと、ところで、被告では、これまで被告に採用された者は、特段の事情がない限り、採用後三か月を経過すると自動的に正規の従業員として取扱われていたこと、被告は、原告の採用に当り、原告に対し、試用期間中は従業員としての適性を審査する旨説明していたことが認められる。

右事実に照らすと、原告と被告との間の試用期間中の雇傭関係は、当初より期間の定めのない労働契約であり、試用期間中は被告において従業員としての適格性を調査し、業務不適格者と認めるときは解雇することができる旨の解雇権が留保されていたものというべきである。

三  被告による採用取消の意思表示

請求原因3の事実は当事者間に争いがない。

四  本件採用取消事由の存否

1  まず、原告は、本件採用取消は原告の思想、信条、組合活動等を理由としてなされたものであるから無効である旨主張するので、この点につき判断するに、前記争いのない事実及び(証拠略)によれば次の事実が認められる。

(一)  原告は、昭和四〇年四月東北学院大学経済学部に入学し、同年一二月頃日本民主青年同盟に加入し、それ以来昭和四四年三月同大学を卒業するまでの間、右同盟の活動や同大学の学生運動に参加していた。そして、原告は、同大学卒業後東北大学生活協同組合に勤務するようになり、すぐに宮城一般労働組合の活動に参加し、同年七月頃から同組合東北大学生活協同組合支部の副支部長として約三年間組合活動を行ない、また、この間生協労連宮城県協議会副議長に選任され、生活協同組合で働く労働者の生活向上のための活動を積極的に行なってきた。

(二)  その後、原告は、昭和四七年九月東北大学生活協同組合を辞め、同年一一月から共和コテージ株式会社仙台支社に勤務したが、同会社に勤務中の昭和四八年八月下旬頃、外国時計の輸入・販売を業としていた酒田時計貿易株式会社の採用試験を受けた際、同会社仙台営業所長坂井功より、生活協同組合の目的、労働組合活動及び支持政党等について質問を受けたので、右組合の目的を説明し、組合役員の経験があること及び社会党を支持していること等を正直に答えた。右採用試験の結果、原告は不採用になった。

(三)  その後、原告は、同年九月二日被告の採用試験を受けたが、その際、被告の営業本部次長湯尾栄一より、経歴、将来の希望等について聞かれたので、同人に対し、これについてだけ答え、組合運動や学生運動をしていたこと及び支持政党については全く話をしなかった。右採用試験の結果、原告は翌三日被告に採用されたので、そのころ、共和コテージ株式会社を退職した。

(四)  ところで、酒田時計貿易株式会社は、かねてから被告と密接な取引関係にたっており、同会社仙台営業所長坂井は、商用で屡々被告仙台営業所を訪問し、同営業所長岩本章に商品を手渡したり、同人と取引に関する打合せを行なっていた。そして、この間、坂井所長は、偶々原告が同会社仙台営業所に時計の修理品を持ってきたことから、原告が被告に雇傭されていることを知ったが、原告の立場を考え、岩本所長に対し同会社受験の件や原告の組合活動等については全く話さなかった。

(五)  被告は、同年九月中旬頃、原告を含む数名の新規採用者らについて、従業員としての適性判断の参考資料を得るため、株式会社帝国興信所に身元調査方を依頼した。そこで、同興信所の係員は、右調査のため原告方を訪れたところ、原告が留守であったので、原告の母に種々聞いてみた。これに対し、原告の母は、原告が前記のような学生運動や組合活動をしていたことは知っていたが、同係員にこの件を話さなかった。ところで、その調査結果である同興信所係員作成の「調査報告書」(<証拠略>)には、原告がかつて学生運動や組合活動をしていたことは全く記載されておらず、かえって、組合関係欄に「前勤務先には労組の結成はされておらず、本人も組合関係については意識が低かった。」と記載され、また、思想欄に「物の見方、考え方は片寄ったところがみられず、過激性のある団体加入、交流もみられず、思想は穏健とみられる。」と記載されていた。

(六)  被告は、原告を採用してから本件採用取消に至るまでの間、坂井所長を含む他の者より、原告がかつて学生運動や組合活動をしていたことを聞かされたことはなく、みずからもこのことを全く知らなかった。

右事実に照らすと、本件採用取消は原告の思想、信条、組合活動等を理由としてなされたものとは到底認められないから、この点に関する原告の主張はこれを採用することができない。

2  次に、被告は、本件採用取消の意思表示をしたのは原告が被告の従業員としての適格性に欠けていたからである旨主張するので、この点につき判断する。

ところで、被告の本件採用取消の意思表示は、解雇の意思表示にほかならないが、本件就業規則二章一四条には、「……勤務成績が不良で従業員として不適格と認められたとき。」(同条(2)号後段)はその者を解雇する旨規定されている。

しかしながら、試用期間中の従業員に対する解雇権の行使は、その期間の設けられた趣旨に鑑み、通常の解雇の場合に較べてより広い範囲でその自由が認められるとはいえ、使用者の恣意的判断によって勝手になし得るものではなく、前述した解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認される場合にのみ許されるものと解するのが相当である(最高裁判所大法廷昭和四八年一二月一二日判決民集二七巻一一号一五三六頁)。

そこで、このような観点に立って本件事案を考えてみるに、(証拠略)によれば次の事実が認められる。

(一)  被告営業本部長関口敏男、同次長湯尾栄一及び被告仙台営業所長岩本章は、原告採用後まもなく、原告を含む従業員らに対し、被告の経歴、被告仙台営業所の設置目的、商品の取扱方法等について説明するとともに、被告の従業員ことにセールスマンとして遵守すべき基本的事項、たとえば身嗜み、言葉遣い、礼儀等について気をつけること、特に新規採用者の場合は得意先の第一印象が大切であるから得意先に出掛ける前にあらかじめ準備を整えておく必要があること、また、従業員らは互に協力し合って仕事をすることが大切であること、これらの点が守れない者は被告の従業員として不適格であるから被告を辞めて貰うこと等を注意・指導した。そして、それ以来湯尾次長、岩本所長及び先輩営業担当者は、原告らに対し、日常業務(伝票の記入、荷造り、発送、配達等)や得意先との間のトラブルの解決策等についても一般的或いは個々的に注意や指導をしてきた。さらに、被告仙台営業所では、同年九月から同年一一月にかけて酒田時計貿易株式会社仙台営業所長坂井功や平和堂貿易株式会社(外国時計の輸入販売を業とする会社)仙台営業所長二瓶伸吾を招き、原告を含む従業員らに対し、時計の歴史、時計業界の現状、時計の販売要領等について講義をして貰った。

(二)  原告は、本件採用後、前記のとおり被告仙台営業所の営業部門に配置されて稼働してきたが、その勤務態度は悪く、対内的には、原告の岩本所長に対する発言・応対が横柄・非常識であって、上司や先輩からこの点につき注意を受けても反省せず、また、同僚との協調性にも乏しく、対外的には、原告の得意先に対する言動が節度を欠いて非常識であったため、被告の得意先に対する信用が低下した。以下この点に関する具体的事例を挙げると左記のとおりである。

(1) 所長の命令・指示に対する無視

(イ) 原告は、昭和四八年一一月上旬頃、岩本所長より、商売用の時計を入れて持ち運ぶ物として、新品でない中古の鞄を渡されたが、これに不満を持ち、まもなく、朝礼が終った頃、他の従業員らの面前で、岩本所長に対し、悔辱するような調子で、「所長の言うことは信用して良いのか悪いのか分らない。そんな所長ではどうしようもない。」と声高に放言した。また、当時、原告は、同所長より伝票の記入や配達の仕事をするよう指示されても、必ず同所長に一言文句をつけ、これを気持よくしようとはしなかった。

(ロ) 岩本所長は、同年一一月中旬頃、原告以外の他の従業員らより、「昼休みに車で食事に行きたいので、会社の車を貸して欲しい。」旨の申込みを受けたが、当時、被告では被告所有の車を私的に使用することを原則として禁止していたので、右従業員らに「それは私用だから駄目だ。」と言ってその使用を断ったところ、突然、原告が横から割込んできて、同所長に「所長だって家に帰るとき会社の車を使用しているではないか。それと同じだから会社の車を使ってもよいのではないか。」と口をはさんだ。そこで、同所長は、原告らに対し「私が会社の車を使用しているのは、家に帰る途中に得意先を廻ることがあり、仕事上必要なので会社の許可を得て使用している。」と答え、右従業員らに被告の車の使用を止めさせようとした。ところが、原告は、敢えて同所長の意向を無視して右従業員らに対し「いいから乗っていけ、乗っていけ。」とけしかけるように言って同所長に反抗した。

(2) 発言の仕方・態度の劣悪さ

(イ) 原告は、岩本所長と応対するとき、ポケットに手を入れ、机に肘をつき、或いは横向きになって話をすることが多く、同所長に対する言葉遣いも非常識、横柄であった。

(ロ) 原告は、得意先を訪問してそこの主人と商売の話をする際、ポケットに手を入れたまま同僚と話すような態度で馴々しく話をするなどセールスマンとして必要とされる言葉遣いや礼儀作法を欠いていたため、次のとおり得意先の感情を害し、被告は得意先より、今後も原告のような非常識な人間を寄越すなら時計を買わないなどと言われて取引を停止され、或いは停止されそうになった。

(a) 原告は、同年一一月中旬頃、八戸市の葛巻時計店を訪ねた際、商店々主と時計の返品をめぐって口論となったが、その時の商店主に対する原告の応対の仕方が横柄で、言葉遣いも良くなかったため、商店主を憤激させた。その後まもなくこの件を伝え聞いた岩本所長は、謝罪のため同店を訪れたところ、同店主より、「ユオさん、あのセールスマンをうちの方へ廻してくるんだったら、うちは取引きを止めるよ。」と言われたけれども、同店主に謝罪して漸く取引を停止されないで済ますことができた。

(b) 原告は、同年一一月中旬頃、下北半島の小林時計店を訪問した際、同店々主に対し、ポケットに手を入れたまま馴々しく話し掛け、横柄な態度を示したため、同店主の感情を損ねてしまった。その後岩本所長は、同店主より「今度きたセールスマンは、言葉遣いや態度が悪い。普通商品を買って貰う場合は、一歩引き下って応対すべきなのに、今度きたセールスマンにはそういうことが全くない。ポケットに手を突っ込んで馴々しい言葉で同僚と話すような態度で話し掛ける。ああいうセールスマンを寄越していたら、ユオさん、お得意さんはどんどんなくなっていきますよ。」との注意を受けた。そこで、早速岩本所長は、この件で原告に注意したが、原告は横を向いたままこれを無視するような態度を示した。

(c) 原告の上司である営業担当員塚田孝は、そのころ、青森市のオカダ時計店、むつ市の吉田時計店、十和田市の高橋時計店より、原告の言葉遣いや態度が横柄で、セールスマンとしての身嗜みに欠け、大変不潔なセールスマンであるという苦言を受けた。

(d) 被告は、かねてから取引関係にあった平和堂貿易株式会社の紹介により、数軒の小売店に時計を販売してきたが、同社仙台営業所長二瓶伸吾より、左記事情で、右小売店から原告に関して苦情や抗議が持ち込まれ、多大の迷惑を被っているので、速やかに適切な措置をとって欲しい旨の厳重な抗議を受けた。

<1> 原告は、同年一〇月中旬頃、仙台市の藤山時計店を訪問した際、同店々主に対し、セールスマンとして必要とされる言葉遣いや礼儀作法をわきまえず、ポケットに手を入れたまま馴々しく話すなど応接の態度が悪かった。そのため、同店主は、二瓶所長に「今後このようなセールスマンを寄越してもらっては困る。」と言って苦情を持ち込んだ。

<2> 原告は、同年一〇月下旬頃、同市の小野時計店を訪問したが、「毎度有難うございます。」といったような挨拶ができず、また、同店々主より、「仕入担当の専務がいないので、後日改めて集金にきて欲しい。」と言われたため、帰りがけに「ちぇっ、今日はついていないなア。」と捨てぜりふを吐き、同人の感情を害した。その後まもなく、原告は、集金のため、再度同店を訪れたが、その際、同店主が来客と応対中であったのに、同店主に対し、「金を貰わないうちは帰らない。」と言って頑張ったため、同店主を怒らせた。そこで、同店主は、直ちに二瓶所長に対し、「あのセールスマンは非常識だ。セールスマンとしての基本がなっていない。あの人が来るのでは今後取引はできない。」と言って苦情を持ち込み、まもなく被告との取引を約三か月間停止してしまった。

(3) 非協調的態度

被告仙台営業所は、当時、岩本所長以下八名という小さな営業所で、しかもほとんど全員がビルの一室で仕事をしていたので、仕事の円滑化・能率化のためには従業員らが協力し合っていくことが必要とされていたが、原告は協調性に欠けていたため他の従業員らとの間で感情的葛藤が絶えなかった。たとえば、原告は、同年一〇月上旬頃、同僚の田中豊宏とともに得意先である古川市のエビスヤ時計店に行き、同店に多数の時計を売却したが、その際、右田中より、多数の納入伝票を一人で記入するのは手間と時間が掛るので、これを手伝って欲しいと依頼されたけれども、「お前に命令される覚えはない。」「自分の担当する店ではないから伝票を記入する必要はない。」と言ってこれを断った。また、原告は、同月末頃同僚の粟野弘より、荷造りの手伝いを依頼されたときも、「こんなのは俺の仕事ではない。お前がやればいいんだ。」と言ってこれを拒否した。そこで、同人からこれを聞いた岩本所長は、直ちに原告に対し、「小人数で仕事をやっているのだから、協力し合ってやって貰わないと困る。」と言って注意したが、原告はこれを聞いているのか聞いていないのか分らない態度で、ポケットに手を突っ込んでそっぽを向いていた。さらに、そのころ、原告は、他の従業員が担当していた地区の顧客より、商品の配達方依頼の電話を受けた際、その客に対し、つっけんどんの返答をしたため、その客がわざわざ被告仙台営業所にその商品を受取りにきたことがあった。そのほか、原告は、先輩や同僚に対し見下げるような態度をもって接したため、これらの者との間にいさかいが絶えなかった。そして、従業員の一人である中楯紀捷は、被告での仕事に嫌気がさしたことのほか、原告とは協調して仕事ができないことを理由として、同年一一月七日被告を辞めていった。

(三)  以上のようなことから、岩本所長は、原告の右言動が被告仙台営業所の内外に悪影響を及ぼし、業務の遂行に支障をきたし、得意先を失なってしまう危険を感じたので、同年一一月下旬頃原告の取扱いにつき被告営業本部長及び同次長に相談した結果、被告は、原告に関する右のような事情を調査したうえ、原告が被告の従業員として不適格であると判断し、原告に対し本件採用取消の意思表示をするに至った。

(四)  なお、被告は、本件採用取消の意思表示をした際、原告に対し、「君は会社の気風に合わないから辞めて貰う。」と言っただけで、これ以外の採用取消事由を具体的・個別的に明示しなかったけれども、これは、使用者としての立場上これから辞めて貰う人に不適格とする事由を詳細に明示することは原告の名誉のうえからしても妥当ではなく、また、原告が他の仕事に対して今後自信を喪失することがないように配慮したことによるものであった。

五  以上認定にかかる原告の言動、ことに、上司の指示・命令に対する無視的態度、上司や得意先に対する言葉遣いや態度の劣悪さ、同僚らとの間の協調性の欠如、これに関する上司からの注意にもかかわらず容易にこれを改めようとしない性格・態度及びこれらの行為に基因する営業上の支障の発生(取引停止等)等諸般の事情を総合的に判断すると、原告の一連の右行為は、正に本件就業規則二章一四条(2)号後段所定の事由に該当するものであることが明らかである。そして、これを理由とする被告の本件採用取消の意思表示は、客観的・合理的な事由に基づいてなされたものであって、社会通念上相当なものとして是認し得るものといわなければならない。

してみると、本件採用取消の意思表示は有効であるから、その無効を前提とする原告の本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当としてこれを棄却すべく、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石川良雄 裁判官 松本朝光 裁判官 栗栖勲)

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