仙台地方裁判所 昭和54年(ワ)270号 判決 1980年7月10日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 申立
(原告)仙台地方裁判所昭和五二年(ケ)第八六号不動産競売事件につき同裁判所が作成した別紙記載の交付表中、被告に交付すべき金一〇九〇万六〇〇〇円(元金七七九万円、損害金三一一万六〇〇〇円)の部分を削除し、右金一〇九〇万六〇〇〇円を原告に交付するべく、右交付表を更正する。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
(被告)主文と同旨の判決を求める。
第二 請求原因
一 昭和五二年当時原告は訴外債務者新栄観光開発株式会社の所有する別紙目録(一)記載の建物(以下本件建物という)および物上保証人たる訴外大塚得男の所有する別紙目録(二)記載の土地(以下本件土地という)ならびにほか数筆の不動産を共同抵当の目的とする極度額一億五五〇〇万円の順位一番の根抵当権を有していた。
二 被告は大塚得男ほか二名を連帯債務者として昭和三九年一二月二四日金七七九万円を利息年一割、弁済期昭和四九年一二月二四日、損害金年二割の約で貸付け、右債権の担保として昭和五二年頃大塚所有の本件土地に順位二番の抵当権を有していた。
三 原告はさらに本件土地建物等につき極度額二億七〇〇〇万円の根抵当権の設定をうけ、その後また極度額三億二五〇〇万円の別個な根抵当権の設定をうけた。
その結果昭和五二年当時本件建物については原告が順位一番二番三番の根抵当権を有し、本件土地については原告が一番の根抵当権を、次いで被告が二番の抵当権を、さらに原告が三番四番の根抵当権を有していたことになる。
四 昭和五二年六月二三日原告は第一項の根抵当権にもとづいて仙台地方裁判所に任意競売の申立をなし、本件土地に関する事件が同裁判所昭和五二年(ケ)第八五号事件として、また本件建物に関する事件が同年(ケ)第八六号事件として各係属した。
五 先ず第八五号事件の競落許可決定が確定し、本件土地等の代金一八四五万円の納付があつたので昭和五三年一二月二〇日の配当期日に原告は同日現在の債権元本七億一九八六万〇八二八円、遅延損害金四億一五〇三万〇八七一円(一番抵当権の極度額は一億五五〇〇万円)のうち元本一四七〇万三三八〇円、損害金三一一万六〇〇〇円の配当をうけた。
六 次いで第八六号事件において本件建物等が代金六億円で競落され、昭和五四年一月二六日右代金が納付された。
右事件において債権計算書提出期限が昭和五四年二月二八日、配当期日が同年三月一九日と指定されたので原告は同年二月二七日に前記三個の根抵当権の各極度額を合計した七億五〇〇〇万円から前記第八五号事件で配当をうけた金額を控除した元利合計七億三二一八万〇六二〇円につき計算書を提出した。
七 被告は債権計算書提出期限後である同年三月一四日に仙台地方裁判所に対し右第八六号事件の債権計算書として左記の書面を提出した。
記
(一) 金七七九万円
但し債権者佐々木行樹が昭和三九年一二月二四日大塚得男外二名を連帯債務者として弁済期を昭和四九年一二月二四日として貸付けた金員の元本
(二) 金三一一万六〇〇〇円
但し右の元本に対する昭和五二年三月二〇日以降昭和五四年三月一九日までの年二割の割合による遅延損害金
被告は右債権の担保として本件土地の上に二番抵当権を有するので、本件土地が第八五号事件で競売されたことにより大塚得男が物上保証人として債務者新栄観光開発に対して有する求償権担保のため本件建物上の原告の一番抵当権に代位したことにより第八六号事件において大塚得男が交付をうけるべき金員の内金一〇九〇万六〇〇〇円を民法三七二条三〇四条の物上代位権にもとづいてその交付要求をしたものである。
八 仙台地方裁判所は原被告の提出した右各債権計算書にもとづき別紙記載の交付表を作成した。
九 しかし、右交付表において原告が本件建物につき有する順位二番三番の根抵当権が被告の債権に劣後するものとして扱われており、この点において右交付表は誤りである。
原告の異議理由は次のとおりである。
(一) 大塚得男は新栄観光開発の物上保証人として原告に対し本件土地を担保提供し前記の各根抵当権設定契約をしたが、右契約の際大塚は原告に対し「大塚が弁済等により原告から代位によつて取得した権利は原告の新栄観光開発に対する債権が存在する限り、原告の同意がなければこれを行使しないものとする」旨を約していた。
従つて被告は原告に優先してその権利を行使することができない。
(二) 最高裁判所昭和五三年七月四日第三小法廷判決(以下五三年判例という)において、債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とが共有抵当の目的とされ、物上保証人所有の不動産が先に競売されたときは物上保証人は債務者に対して求償権を取得するとともに、代位により債務者所有の不動産に対する一番抵当権を取得するが、後順位抵当権者は物上保証人に移転した右抵当権から優先弁済をうけることができるものとされており、右の後順位抵当権者とは本件においては、原告を指すと解すべきであるから被告が原告の債権に優先するいわれはない。
(三) また物上保証人大塚が代位によつて一番抵当権を取得したとしても同人は民法五〇一条但書一号による附記登記を経由していないから大塚の取得した代位権にもとづく被告の権利もこれをもつて原告に対抗することはできない。
(四) また大塚が代位によつて前記一番抵当権の一部を取得したとしても、同人は民法五〇二条一項によりその権利を原告とその債権額に応じて行使しうるにすぎないから被告が債権全額の配当をうける理由はない。
(五) 被告は前記のように債権計算書提出期限後に交付要求をしたのであるから右交付要求は不適法である。
(六) 被告は大塚が代位によつて取得した権利を差押えた上で交付要求をしているが移付命令をえたものではないから原告の債権が被告のそれに劣後するいわれはない。
一〇 原告は昭和五四年三月一九日第八六号事件の配当期日において前項記載の理由で交付表に異議を述べたが被告は右異議を認めなかつた。
よつて原告は右交付表の更正を求める。
第三 請求原因に対する認否
請求原因第一、二項の事実は認める。
同第三項の事実は不知。
同第四ないし第八項の事実は認める。
同第九項の主張はすべて争う。
同第一〇項は認める。
交付表
<省略>
目録(一)
仙台市鉄砲町一二二番地
家屋番号 一二二番の二
一 鉄筋コンクリート造陸屋根地下一階付八階建旅館
床面積 一階 三七八・八六平方メートル
二階 五一九・四〇平方メートル
三階 五一七・六〇平方メートル
四階 四六〇・三四平方メートル
五階 一九九・三七平方メートル
六階 一七二・九七平方メートル
七階 七二・六〇平方メートル
八階 七二・六〇平方メートル
地下一階 二二四・四〇平方メートル
目録(二)
仙台市本町一丁目一〇番二六
一 宅地 八五・一五平方メートル